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糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携に関するアンケート調査 ─眼科医と内科医の比較

2026年5月31日 日曜日

《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):570.577,2026c糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携に関するアンケート調査─眼科医と内科医の比較大野敦*1,2,7小谷英太郎*3,7大島淳*4,7寺師聖吾*5,7宮川高一*6,7*1東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科*2八王子糖尿病内科クリニック*3日本医科大学多摩永山病院循環器内科*4市立青梅総合医療センター内分泌糖尿病内科*5立川相互病院糖尿病・代謝内科*6多摩センタークリニックみらい*7糖尿病治療多摩懇話会CQuestionnaireSurveyontheControlofDiabeticRetinopathyandtheCooperationbetweenInternistsandOphthalmologists-ComparisonofResultsforOphthalmologistsandInternistsAtsushiOhno1,2,7),EitaroKodani3,7),AtsushiOshima4,7),SeigoTerashi5,7)andTakaichiMiyakawa6,7)1)DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,2)HachiojiDiabetesClinic,3)DepartmentofCardiovascularMedicine,NipponMedicalSchoolTamaNagayamaHospital,4)CEndocrinologyandDiabetology,OmeMedicalCenter,5)CDepartmentofDepartmentofDiabetologyandMetabolism,TachikawaSougoHospital,6)Tama-centerMiraiClinic,7)TamaRound-TableConferenceonTreatmentofDiabetesMellitusC目的:多摩地域の眼科医と内科医を対象に,糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査を施行した.方法:眼科医C49名,内科医C53名に対し各々C14項目のアンケート調査を施行し,九つの共通項目の結果を比較し,両群間で有意差を認めるか検討した.結果:9項目中下記のC5項目で両群間に有意差を認めた.1)失明・重度の視力障害糖尿病患者を診ている眼科医は内科医より多い.2)HbA1cがC8%未満の糖尿病患者における眼底検査の間隔は眼科医が内科医より短い.3)早期からの眼科介入による失明防止の可否は,眼科医はほぼ完全に防止でき,内科医は半分くらい防止できるがもっとも多い.4)単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明は「改善することもある」が両群もっとも多いが,眼科医では「それほど心配なし」もC25%認めた.5)内科と眼科の連携状況は「ある程度とれている」が両群もっとも多いが,内科医で回答のばらつきが大きい.結論:今回の調査において,眼科医と内科医の間で比較的多くの項目で有意差を認めており,診療連携の際には配慮が必要である.CPurpose:ToCconductCaCquestionnaireCsurveyConCtheCcontrolCofCdiabeticCretinopathyCbyCophthalmologistsCandCinternistsintheTamaregionofTokyo,Japan.Methods:Aquestionnairesurveyof14itemswasadministeredto49CophthalmologistsCandC53Cinternists,CandCtheCresultsCofCnineCcommonCitemsCwereCthenCcomparedCtoCexamineCwhethersignificantdifferenceswereobservedbetweenthetwogroups.Results:Ofthenineitems,significantdif-ferenceswerefoundbetweenthetwogroupsinthefollowingfive.1)Moreophthalmologiststhaninterniststreat-eddiabeticpatientswithblindnessorseverevisualimpairment.2)TheintervalsbetweenophthalmicfundoscopyexaminationsCforCdiabeticCpatientsCwithCHbA1cClevelsCbelowC8%CwereCshorterCforCophthalmologistsCthanCforCinter-nists.3)Whenaskedwhetherearlyophthalmologictreatmentcanpreventvisionloss,ophthalmologistsmostcom-monlyansweredthatitcanbepreventedalmostcompletely,whileinternistsmostcommonlyansweredthatitcanbepreventedabouthalfway.4)Althoughexplanationstopatientswithfundushemorrhagecausedbysimpledia-beticretinopathycansometimesbeimproved(whichwasthemostcommonresponseinbothgroups),25%ofoph-thalmologistsCindicatedCthatCtheyCwereCnotCparticularlyCconcerned.5)ACcertainCdegreeCofCcooperationCexistsCbetweeninternistsandophthalmologists(whichwasthemostcommonresponseinbothgroups),yettherewasalargevariationinresponsesamonginternists.Conclusions:Oursurveyresultsshoweddifferencesinarelativelylargenumberofitemsbetweenophthalmologistsandinternists,whichmustbetakenintoconsiderationwhencoor-dinatingmedicalcooperation.C〔別刷請求先〕大野敦:〒C193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(98)〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):570.577,C2026〕Keywords:糖尿病網膜症,内科・眼科連携,アンケート調査,眼底検査の間隔.diabeticretinopathy,cooperationbetweenCinternistCandCophthalmologist,CquestionnaireCsurvey,CintervalCbetweenCophthalmicCfunduscopyCexamina-tions.はじめに糖尿病網膜症の発症や進行を予防し失明を防止するためには,眼科と内科が連携し糖尿病を管理することが重要である.しかし,眼科医と内科医の間で糖尿病網膜症の管理に対する認識の差を認めることは少なくない.そこで多摩地域において,糖尿病患者の診療連携をテーマに糖尿病診療の向上をめざし活動を展開している糖尿病治療多摩懇話会1)では,2024年C4月に第C48回例会を「糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携」のテーマで開催した際,事前にこの地域の糖尿病診療に関心をもつ眼科医ならびに内科医を対象にテーマに関するアンケート調査を施行した.本稿では,眼科医と内科医の間で糖尿病網膜症の管理に対する認識にどの程度の差があるのかを明らかにすることを目的として,眼科医と内科医のアンケートの共通項目について,その結果を比較検討した.CI対象および方法アンケートの対象は多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医と内科医で,アンケート調査は眼科医C2024年C1月,内科医C2024年C3月に実施した.眼科医にはアンケートを郵送で送付後にCGoogleformsまたはCFAXで回収し,内科医にはアンケートを郵送配布,世話人の勤務先での直接配布,または一般社団法人臨床糖尿病支援ネットワークの医師会員へメールで送付後にCGoogleformsまたはCFAXで回収した.また,アンケート用紙の冒頭に「アンケート結果は,学会発表・論文などで公表を予定しておりますのでご了承頂ければ幸いです.アンケートの回答をもってご同意頂いたものと致します」という文章を記載し,集計結果の学会発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケートの回答者は眼科医C49名,内科医C53名で,回答者の年齢は両群ともC50歳代がもっとも多かったが,内科医で年代のばらつきが大きく,両群間に有意差を認めた(Fisher検定,p=0.030).性別は両群とも男性の比率が高かった(図1).勤務施設は,眼科医が診療所C87.8%,200床以上の病院C12.2%,内科医が診療所C41.5%,200床未満の病院C9.4%,200床以上の病院C49.0%で,眼科医の診療所勤務者が内科医のC2倍以上を占め,両群間に有意差を認めた(Fisher検定,p<0.001).また,内科医C53名のうち日本糖尿病学会員のC36名を含めてC37名が糖尿病を専門にしてお(%)60眼科医57.150眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.0304034.03022.620.818.42014.39.410.2105.75.71.9000020歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代図1アンケート回答者のプロフィール:年齢・性別り,非専門のC16名においてもC15名が糖尿病に関心があると回答されていた.眼科医と内科医に対するC14項目のアンケート調査のなかで,本稿で検討するC9の共通項目を下記に示す.なお,同じ内容でのアンケート調査をC2001年から施行しており,経年変化を検討する目的で項目の説明文はC2001年から変えずに継続している.1.糖尿病のために失明あるいは重度の視力障害をきたした患者さんを診察されていますか,貴施設では糖尿病のために失明あるいは重度の視力障害をきたした患者さんの数の動向はいかがでしょうか2.眼底検査は仮にCHbA1cが8%未満の患者さんの場合どの位の間隔で行えばよいと思いますか①網膜症なし,②単純網膜症,③増殖前網膜症,④増殖網膜症3.糖尿病による失明は血糖がほどほどにコントロールされていれば,早期からの眼底検査や眼科的治療により防止できると思いますか4.失明後のリハビリセンターをご存じですか5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者さんへの病状説明において先生のご説明内容にもっとも近いものはどれですか6.増殖傾向がある網膜症患者さんの場合,低血糖あるいは急激な血糖コントロールの改善が網膜症を悪化させる(%)精密眼底検査の目安:1年に1回(%)精密眼底検査の目安:6カ月に1回100眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.011008080眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.016062.36057.154.749.046.9404037.736.728.3202017.06.12.02.0000000毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回(%)③増殖前網膜症精密眼底検査の目安:2カ月に1回(%)精密眼底検査の目安:1カ月に1回100眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.01100808079.66060.460眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.02558.54040.857.14028.320.418.9202015.17.55.75.72.000000毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回図2HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔場合があると思われますか7.「糖尿病治療多摩懇話会」が作成した「糖尿病診療情報提供書」を利用されていますか8.日本糖尿病眼学会が作成した「糖尿病眼手帳」を(眼科医)発行されていますか,(内科医)御覧になることがありますか9.内科と眼科の間での診療連携はうまくとれていると思われますか上記の項目C1.C9に関するアンケート調査結果を比較検討した.両群の回答結果の比較において度数がC5未満のセルが多いため,統計ソフトCEZRver1.61を用いてCFisherの正確確率検定を行い,統計学的有意水準は5%とした.CII結果1.失明・重度の視力障害糖尿病患者の有無と患者数の動向失明・重度の視力障害糖尿病患者を診ている眼科医は91.8%,内科医はC64.2%で,両群間に有意差を認めた(Fish-er検定,p<0.001).一方で,その患者数の動向は,眼科医で「減っている」55.1%,「変化なし」36.7%,「増えている」0%,「わからない」8.2%,内科医で「減っている」37.7%,「変化なし」39.6%,「増えている」0%,「わからない」22.6%の回答結果で,眼科医は「減っている」,内科医は「変化なし」の回答がもっとも多く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.079).C2.HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔①網膜症なしの場合は,眼科医はC6カ月にC1回,内科医は1年にC1回の回答がもっとも多く,②単純網膜症の場合は,眼科医はC2.C3カ月にC1回,内科医はC6カ月にC1回の回答がもっとも多く,③増殖前網膜症の場合は,両群ともC2.3カ月にC1回の回答がもっとも多かったが,眼科医では毎月C1回の回答もC41%認め,④増殖網膜症の場合は,両群とも毎月1回の回答がもっとも多かったが回答率の差をC21%認め,いずれも内科医より眼科医で間隔が短く両群間に有意差を認めた(図2,①.③はCp<0.01,④はCp=0.025).(%)100806056.640.8眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.0304024.522.418.92012.213.25.75.700失明しますもっとそれほど改善するその他ひどく心配こともなりますいりませんあります図3単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現3.早期からの眼科介入による失明防止の可否眼科医は「ほぼ完全に防止できる」49.0%,「半分くらいは防止できる」51.0%,「困難である」0%,内科医は「ほぼ完全に防止できる」66.0%,「半分くらいは防止できる」30.2%,「困難である」3.8%の回答結果で,眼科医は「半分くらいは防止できる」,内科医は「ほぼ完全に防止できる」の回答がそれぞれもっとも多く両群間に有意差を認めた(p=0.046).C4.失明後のリハビリセンターの認知度失明後のリハビリセンターを眼科医は「利用している」10.2%,「聞いたことはあるが利用したことはない」67.3%,「知らない」22.4%,内科医は「利用している」3.8%,「聞いたことはあるが利用したことはない」54.7%,「知らない」41.5%の回答結果で,「知らない」との回答が内科医は眼科医のC2倍近く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.071).C5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現両群とも「改善することもあります」の回答がもっとも多かったが,眼科医では「それほど心配いりません」の回答も24.5%認め,両群間に有意差を認めた(図3,p=0.030).C6.低血糖・急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性「増殖傾向がある網膜症の場合,低血糖あるいは急激な血糖値の改善が網膜症を悪化させることがあると思いますか?」という設問に対して,眼科医は,「はい」91.8%,「いいえ」2.0%,「何とも言えない」6.1%,内科医は,「はい」90.6%,「いいえ」0%,「何とも言えない」9.4%の回答結果で,両群とも「網膜症を悪化させることがある」との回答が図4糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書両科の情報をC1枚に併記(上半分が内科医,下半分が眼科医の記入する部分)し,いずれの科でも発信元になれ,両科で診療情報提供料を保険請求することができる.使いやすさを考え,情報項目は必要最小限にとどめ,社交辞令も省略した.3枚複写になっており,記載後はC3枚目(青色の紙)を発信元の控えに,上のC2枚を紹介状として患者に渡す.着信側は記載後C1枚を控えとし,他のC1枚を返書として患者に渡す.《3枚複写の理由》3枚複写にして自科のデータ記入後C1枚を手元に残しておけば,仮に返事が戻ってこない場合でも提供書を発行した事実を残すことができる.9割以上を占め,両群に有意差は認めなかった.7.糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況図4に示す糖尿病診療情報提供書を,眼科医は「ほぼ全面的に利用している」10.2%,「ときどき利用している・利用したことがある」14.3%,「利用したことはない」75.5%,内科医は「ほぼ全面的に利用している」3.8%,「ときどき利用している・利用したことがある」32.1%,「利用したことはない」64.2%の回答結果で,利用率は内科医のほうがやや高く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.057).(%)10080眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.766049.045.34036.735.82014.315.13.80眼科医よく発行しているときどき発行している発行したことはない《内科のみの設問》内科医よくみるときどきみるみたことがない自分で発行することもある図5日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況眼科医-発行状況,内科医-みる頻度.C8.日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況糖尿病眼手帳の利用状況を,眼科医は発行状況,内科医はみる頻度で評価した.「よく」ならびに「ときどき」をあわせてC85.7%の眼科医は発行し,81.1%の内科医はみたことがあると回答し,その頻度に両群間で有意差は認めなかった(図5).C9.内科と眼科の連携状況両科の連携について,眼科医は「十分とれている」6.1%,「ある程度とれている」87.8%,「あまりとれていない」6.1%,内科医は「十分とれている」20.8%,「ある程度とれている」64.2%,「あまりとれていない」15.1%の回答結果で,「ある程度とれている」の回答が両群とももっとも多かったが,内科医で回答のばらつきが大きく,両群間に有意差を認めた(p=0.022).C10.アンケート結果のまとめa.眼科医と内科医の結果に有意差(p<0.05)を認める項目1)糖尿病のために失明・重度の視力障害をきたした患者の有無(アンケート項目C1の前段)2)HbA1cがC8%未満の患者における眼底検査の間隔(アンケート項目C2の①.④)3)早期からの眼科介入による失明防止の可否(アンケート項目3)4)単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現(アンケート項目5)5)内科と眼科の連携状況の評価(アンケート項目9)b.眼科医と内科医の結果に有意ではないが傾向(0.05≦p<0.1)を認める項目1)糖尿病のために失明・重度の視力障害をきたした患者数の動向(アンケート項目C1の後段)2)失明後のリハビリセンターの認知度(アンケート項目4)3)糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況(アンケート項目7)Cc.眼科医と内科医の結果に有意差を認めない(p≧0.1)項目1)低血糖や急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性(アンケート項目6)2)「糖尿病眼手帳」眼科医:発行状況,内科医:みる頻度(アンケート項目8)CIII考按1.失明・重度の視力障害糖尿病患者の有無と患者数の動向今回のアンケートでは失明・重度の視力障害の定義には言及していないが,2001年から同じ項目で継続的に施行しており,あまりに細かい条件をつけた設問はアンケート用紙の紙面上の制約もあり作成しにくいため,この表現で各回答者が日常診療で感じている状況で回答してもらう形式を今回も継続した.重度の視力障害患者を内科でもC64%の医師が診ていたが,内科医C53名のうちC37名が糖尿病を専門とし,非専門でも15名が糖尿病に関心がありと回答されていることより,糖尿病診療に比較的熱心な内科医における回答結果といえる.患者数の動向では,「減っている」との回答が眼科医でC55%と,内科医よりC17%多かった.視覚身体障害者認定の実態疫学調査2)において,従来の調査結果(2007.2009年)と比べ,緑内障(28.6%)と網膜色素変性(14.0%)の割合が増加し,糖尿病網膜症(12.8%)の割合が低下したと報告されており,今回の眼科医の回答結果を支持する.C2.HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔精密眼底検査の間隔については,「糖尿病眼手帳」の第C4版で「推奨される眼科受診間隔」としてC1ページの下段に記載されている.日常臨床においては,個々の患者の血糖コントロール状態や罹病期間により検査の間隔は調整が必要になるため,今回はCHbA1c8%未満の条件をつけて回答してもらった.いずれの病期においても内科医が推奨される眼科受診間隔に準じた回答が多かったのに対し,眼科医では間隔が有意に短かった.眼科医は,糖尿病網膜症以外の眼科併発疾患も同時に診ているため,日常診療では診療間隔が短くなるケースも多いことを反映した結果と思われる.また,眼科医と内科医の回答結果の差が勤務施設の差の可能性も考慮する必要があるが,内科医で診療所勤務のC41.5%と病院勤務のC58.5%で回答結果を比較したところ,いずれの病期においても有意差を認めていないことから,勤務施設の影響は考慮しなくてもよいと思われる.糖尿病網膜症の最適なスクリーニング間隔については,香港で糖尿病罹病期間,グリコヘモグロビン,収縮期血圧,慢性腎臓病の有無,糖尿病治療薬,年齢を用いたリスクアルゴリズムの開発と検証が行われ,リスクに基づくスクリーニング間隔を用いることで,高リスク者に受診を多く割り当て低リスク者の頻度を減らすことができることから3),眼底検査間隔の個別化も期待できる.3.早期からの眼科介入による失明防止の可否今回の結果では,早期から眼科が介入することにより失明はほぼ完全もしくは半分くらい防止できるとの回答が両群ともC95%以上を占めたことより,早期から眼科に定期受診することの必要性を患者へ啓発することがもっとも重要である.つくば市でのレセプト・質問票リンクデータを用いた横断研究において,眼科受診推奨を認識した参加者(47.6%)はスクリーニングの頻度に関する知識がより高く(93.4%Cvs49.6%),眼底検査を受ける可能性も高かった(72.9%Cvs30.1%)との結果4)も啓発活動の重要性を支持している.「糖尿病による失明は,血糖がほどほどにコントロールされていれば,早期からの眼底検査や眼科的治療により防止できると思いますか」という設問は科学的表現ではないとの指摘もあり,今後は「糖尿病による失明は,HbA1cがC8%未満にコントロールされていれば,糖尿病発症の早期からの眼底検査や網膜症発症の早期からの眼科的治療により防止できると思いますか」と,より具体的な表現に変えていきたい.4.失明後のリハビリセンターの認知度眼科医において失明後のリハビリセンターの利用率はC10%にとどまり,「聞いたことはあるが利用したことはない」がC67%であったこと,また,糖尿病診療に比較的熱心な内科医においても「知らない」がC42%を占めたことは,この分野への関心度の低さを示している.一方で,視覚障害者のアンケート調査において,視覚障害リハビリ外来や音声パソコン教室が視覚障害者の自立に大いに役立っているとの報告5)があることから,今後は日本糖尿病眼学会が中心になって医療者におけるリハビリセンターの認知度アップのための啓発活動が必要と思われる.2001年から経年変化を検討する目的で項目の説明文は変えずに継続しているが,現在はより多くのロービジョンケアを行っている施設があるので,今後は設問にロービジョン外来の併記を考慮していきたい.5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現2006年に同様のアンケート調査6)を施行した際には,「改善することもあります」との回答が眼科医C50.9%,内科医25.7%であり,内科医は今回C2倍以上に増えている.一方,「もっとひどくなります」との回答がC2006年は眼科医C23.6%,内科医C28.7%であり,今回はほぼ半減している.単純網膜症の段階では内科的治療が中心であり,HbA1cがC7%未満の合併症予防のための目標値をキープできれば,単純網膜症の改善が期待できる.最近のC2型糖尿病の薬物療法においてはアルゴリズムが提唱されて,安全な血糖管理達成のための糖尿病薬の血糖降下作用・低血糖リスク・体重への影響・禁忌・服薬継続率・コストなどがまとめられている7).これらを参考にしながら薬物療法を選択していけば,低血糖を回避しながらCHbA1cのC7%未満もめざせることから,とくに内科医で「改善することもあります」の回答が激増したと思われる.C6.低血糖・急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性増殖傾向がある網膜症の場合,低血糖や急激な血糖値の改善により網膜症を悪化させることがあるとの回答が眼科医91.8%,内科医C90.6%を占めていたが,2006年の調査4)では眼科医C98.1%,内科医C88.8%であったことより,眼科医ではC6%ほどの差を認めた.増殖傾向がある網膜症を認める糖尿病患者を担当した内科主治医が,低血糖リスクのある経口薬を用いずにゆっくり血糖値の改善に心がければ,網膜症の悪化を経験する眼科主治医は減少するため,日常診療における実感として今回の眼科医の結果につながった可能性が考えられる.一方で,食事療法のみで緩やかな血糖管理に努めても予想以上に早い改善を示す症例もみられ,その結果低血糖がなくても,急激な血糖コントロールにより網膜症の悪化を認める症例がある8)ことから,眼科医と内科医の密なる連携は引き続き重要である.7.糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書(以下,提供書)」を作成し,地域での普及を図った1).眼科医における提供書の利用率は,2001年の調査1)でC22.2%,2006年の調査6)ではC56.6%とC2.5倍に増えていたが,今回はC24.5%まで減少していた.この背景にはC2010年に登場した糖尿病連携手帳の存在が考えられ,糖尿病通院患者が糖尿病連携手帳とお薬手帳を持参すれば,提供書から得られる情報の多くは取得できるため,利用率が低下したと思われる.内科医における提供書の利用率は,2006年の調査6)におけるC22.4%からC35.8%まで増加しているが,ほぼ全面的に利用している内科医はC13.3%6)からC3.8%まで減少し,過去に利用したことがある内科医が増えている.筆者もその一人であるが,その背景には糖尿病眼手帳の普及が考えられる.提供書の情報量の豊富さを考慮すれば,初診時や病状の変動時には十分に情報交換の可能な提供書を利用すべき9)と考えて利用してきたが,2008年に内科と眼科の顔の見える連携のために「糖尿病患者の眼科と内科の診療連携を考える会」を設立10,11)し,八王子市内の眼科医と糖尿病網膜症の診療連携や糖尿病眼手帳の普及をテーマに年C2回の例会を実施するとともに,初診時から糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用での連携システムを始めたため,提供書の利用が激減した.また,電子カルテの普及により診療情報提供書の手書きの習慣がなくなったことも,提供書の利用の低下につながった可能性が考えられる.一方で,まだ一部提供書を利用している医師も残っており,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用では保険請求できない診療情報提供料を請求できるので,選択肢としては残しておいてもよいと考えている.現在提供書の新規作製・有料販売は終了し,利用希望者には無償で提供している.内科医C100名対象のオンラインアンケート調査における網膜症スクリーニングの紹介基準として,罹患期間C5年未満(n=0),5.10年(n=60),10年以上(n=10),罹患期間にかかわらず(n=30)の報告がある12)が,網膜症以外の眼疾患のスクリーニングも考慮するならば罹患期間にかかわらず初診時に眼科に紹介することが望ましく,その際には上記の連携ツールの利用も考慮し,時間的負担の少ない方式を選んでもらいたい.C8.日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況眼科医におけるC2002年発行の糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行率は,2006年の調査6)ではC68.5%で,2003年C6月の全国調査13)における活用率のC60.5%よりC8%高かった.その後の多摩地域の眼科医における眼手帳の利用状況の調査14)において,「積極的配布」と「時々配布」をあわせて,発行7,10,18年目はC60%,13年目はC70%を超え,20年目は前者がC40%を超えていた.今回の調査は発行C22年目にあたるが,85.7%まで発行率は上昇していた.一方で,内科医におけるC2006年の調査6)では,眼手帳を「よくみる」13.4%,「時々みる」40.2%であわせてC53.6%で,今回のC81.1%はそれよりもC27.5%上昇していた.両者を比較すると内科医の上昇率のほうが高く,少なくとも糖尿病診療に比較的熱心な内科医においては,眼手帳がかなり広まっていると思われる.9.内科と眼科の連携状況2006年の調査6)では,両科の連携について眼科医は「十分とれている」5.6%,「ある程度とれている」79.6%,内科医は「十分とれている」20.4%,「ある程度とれている」57.1%の回答結果で,単純に比較はできないが今回の結果のほうが高い可能性がある.先の提供書ならびに糖尿病連携手帳と眼手帳を,個々の医療機関の状況にあわせて併用することにより,外来での時間的負担は軽減したうえで,より細やかな連携が可能となることを提唱してきたが15),そのようなシステムの利用によって徐々に両科の連携状況は改善していると思われる.謝辞:今回のアンケート調査にご協力いただきました多摩地域の眼科医師ならびに内科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌C7:139-143,C20022)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentinCJapan:theCfirstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcertifiedCvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmolC63:26-33,C20193)LianCJ,CSoCC,CMcGheeCSMCetal:ToCdetermineCtheCrisk-basedscreeningintervalfordiabeticretinopathy:develop-mentandvalidationofriskalgorithmfromaretrospectivecohortstudy.DiabetesMetabJC49:286-297,C20254)YamamotoK,Ihana-SugiyamaN,SugiyamaTetal:Rec-ognitionofophthalmologyconsultationandfundusexami-nationamongindividualswithdiabetesinJapan:across-sectionalCstudyCusingCclaims-questionnaireClinkedCdata.CDiabetesObesMetabC27:1762-1772,C20255)山田幸男,平沢由行,大石正夫ほか:視覚障害者の自立を目指して─とくに「視覚障害リハビリ外来」と「音声パソコン教室」について─.眼紀55:265-269,C20046)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査─眼科医と内科医の調査結果の比較─.眼紀58:616-621,C20077)日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会:2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第C2版)C.糖尿病66:715-733,C20238)斉藤喜博,石本一郎,田野保雄ほか:血糖コントロール改善速度の違いにより異なった網膜変化を示した若年発症NIDDM症例.眼紀46:1238-1241,C19959)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C200210)大野敦:特集:糖尿病網膜症の診断と治療C7.眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病7:53-60,C201511)大野敦:糖尿病網膜症の治療中断を防ぐ内科・眼科連携の取り組み.内分泌・糖尿病・代謝内科C48:351-357,C201912)MoudgilT,BainsBK,BandhuSetal:PreferredpracticepatternCofCphysiciansCregardingCdiabeticCretinopathyCinCdiabetesmellituspatients.IndianJOphthalmolC69:3139-43,C202113)船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀C56:242-246,C200514)大野敦,粟根尚子,佐分利益生ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査─発行半年.20年目の推移─.あたらしい眼科41:458-464,C202415)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C2003***

糖尿病患者に対するロービジョンケアの最適化への試み

2026年5月31日 日曜日

《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):559.564,2026c糖尿病患者に対するロービジョンケアの最適化への試み松井千洋杉原友佳髙村佳弘山田雄貴目黒灯香八田拓也冨田梨生南谷由美子稲谷大福井大学医学部眼科学教室COptimizingLowVisionCareforPatientswithDiabetesChihiroMatsui,YukaSugihara,YoshihiroTakamura,YutakaYamada,ToukaMeguro,TakuyaHatta,RikiTomita,YumikoMinamidaniandMasaruInataniCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukuiC目的:ロービジョンケアにおいては,詳細な問診表に沿って一つずつ視覚支援機器を試すが,限られた時間内ではむずかしい場合もある.そこで本研究では,比較的若年で急激に視覚障害に陥る可能性がある糖尿病患者のロービジョンケアに着目し,スムーズに適切な視覚支援機器の選定ができるよう最適化されたフローチャートの作成を試みた.対象と方法:福井大学医学部付属病院において糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定された患者に対し,日常生活で困っていることを聴取した.相談内容に対応できる支援機器,アイテムを選択し,フローチャートを作成した.結果:糖尿病網膜症(DR)によって視覚障害となった患者に対しては,完全矯正眼鏡および遮光眼鏡の処方を行ったうえで,視覚補助機器も並行して導入する.患者のニーズを「読字・書字」「移動」「日常生活」のC3カテゴリーに分類し,それぞれに対応した支援機器を整理することで,ニーズに即した支援を的確に選定することが可能となった.結論:ロービジョンケアの効率化をはかるうえでフローチャートの作成,導入は有効であると考えられる.CPurpose:InClowCvisionCcare,CvisualCassistiveCdevicesCareCtypicallyCselectedCthroughCaCstep-by-stepCtrialCpro-cessCbasedConCdetailedCinterviews.CHowever,CthisCapproachCcanCbeCchallengingCwithinClimitedCtimeCconstraints.CInCthisstudy,wefocusedonlowvisioncareforpatientswithdiabetes,apopulationatriskofrapidandseverevisualimpairmentCatCaCrelativelyCyoungCage,CandCaimedCtoCdevelopCanCoptimizedC.owchartCtoCfacilitateCtheCsmoothCandCappropriateCselectionCofCassistiveCdevices.CSubjectsandMethods:AtCtheCUniversityCofCFukuiCHospital,CweCinter-vieweddiabetespatientswhowerecerti.edasvisuallyimpairedduetodiabetes,askingaboutthedi.cultiestheyfaceindailylife.Basedontheirconcerns,weselectedsuitablevisualassistivedevicesanditemsanddevelopedacorrespondingC.owchart.CResults:ForCpatientsCwithCvisualCimpairmentCcausedCbyCdiabeticCretinopathy,CweCpre-scribedCfullyCcorrectedCglassesCandCmedicalCtintedClenses,CandCsimultaneouslyCintroducedCvisualCassistiveCdevices.CPatientCneedsCwereCclassi.edCintoCthreecategories:readingCandCwriting,Cmobility,CandCdailyCliving.CByCorganizingCdevicesCtoCcorrespondCwithCeachCcategory,CitCbecameCpossibleCtoCmoreCaccuratelyCselectCsupportCtoolsCtailoredCtoCeachpatient’sspeci.cneeds.Conclusion:Thedevelopmentandimplementationofa.owchartmaybeane.ectivestrategytoimprovethee.ciencyoflowvisioncare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):559.564,C2026〕Keywords:ロービジョンケア,糖尿病網膜症,フローチャート.lowvisioncare,diabeticretinopathy,.owchart.Cはじめに糖尿病患者数は世界中で増加をみせており,国際糖尿病連合(InternationalCDiabetesFederation:IDF)による報告では,2000年にC1億C5,100万人であった糖尿病患者数がC2019年にはC4億C6,300万人に達しており,今後もさらに増加することが予想されている1).日本では,糖尿病が強く疑われる者,糖尿病の可能性を否定できない者の合計が,2019年時点でC2,000万人を超えるとされており,今後さらなる増加が予想される2).糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は,網膜の血〔別刷請求先〕松井千洋:〒C910-1193福井県吉田郡松岡町下合月C23-3福井大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChihiroMatsui,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukui,23-3Matsuoka-shimoaizuki,Eiheiji-cho,Yoshida-gun,Fukui910-1193,JAPANC表1日常生活で困っていることを聴取した糖尿病を有するロービジョン患者25名の背景年齢(平均±標準偏差)C51.2C±C13.6男性:女性19:61級4名視覚障害者手帳の等級2級15名4級2名5級2名手動弁1名0.1以下12名よいほうの眼の矯正視力0.15以上C0.3未満5名0.3以上C0.5未満5名0.5以上2名管透過性亢進,虚血変化,増殖膜形成など多様な病態を示し,進行すれば失明に至るリスクがある.糖尿病の増加に伴い,三大合併症であるCDRの増加も見込まれ,現在では日本の中途失明原因の第C3位とされている3).また,糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定された患者を対象とした全国多施設調査では,そのC7割がC70歳未満のまだ若く働き盛りの年代に多かったことが明らかとなった4).さらに,高度医療機関に紹介されてからC1.2年の短期間のうちに急激な視覚障害に陥り,1,2級の取得となったケースが多いことも示された.糖尿病患者においては,こうした生活の変化,治療による経済負担の心労や働けないことによる将来への不安などでうつ病の発症リスクが増加すると報告されている5).不可逆的な視覚障害に至った糖尿病患者に対しては,ロービジョンケアを並行して行うことで生活の質(qualityoflife:QOL)の維持に努めることが重要である.視覚障害の状況が同程度であっても,それぞれの患者が抱える悩みやニーズは生活環境や趣味などによって異なるため,個々に合わせた視覚支援機器の選定が求められる.日常臨床においては,問診票により新聞の読みやすさ,歩行時の状況,羞明の有無など患者の抱えるニーズを聴取することができる6).しかし,限られた時間内に機器の選定を終えられないことも経験する.より効率よく視覚支援機器の選定を行うため,患者のニーズに応じて最適化されたフローチャートの作成を試みた.CI対象と方法福井大学医学部付属病院(以下,当院)において糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定され,当院ロービジョン外来を受診した患者C25名に対し,日常生活で困っていることを聴取した.相談内容に対応できる支援機器・アイテムを選択し,フローチャートを作成した.ロービジョンケアにおける患者ニーズの聴取は,当院のロービジョン外来において必須項目であるが,聴取した内容をフローチャートの作成に用いることに関してはオプトアウトにて研究参加への拒否の機会を与えた.本研究は,福井大学倫理審査委員会により承認された(承認番号:20220216,登録日:2023年3月15日).CII結果日常生活で困っていることを聴取したロービジョン患者25名の背景を表1に示す.ロービジョンケアの基本として,矯正眼鏡もしくは遮光眼鏡の必要性の検討をまず行った(図1a).そのあとにロービジョン患者から聴取したニーズをまとめ,読み書き,移動,日常生活のC3点に分類した(図1b).日常生活においては,さらに食事,健康管理,時間の確認,趣味のC4点にニーズを絞った.ただし,多様なニーズに対応する以前に,見たい距離にあわせた屈折矯正や,羞明に対応した遮光眼鏡の選定を行うことを基本とした.まず,読み書きについてであるが,文字を見やすくしたいという要望に対し,室内と屋外の場合に分け,さらに多様なニーズに合わせて支援機器の選定を行い,フローチャートを作成した(図2).拡大読書器は室内では据え置き型,屋外ではポータブルな携帯型が有効とした.読書の際にはタイポスコープ,ルーペなどを推奨し,両手をあけたいときにはメガネ型ルーペを勧めた.読むのに時間がかかる,という要望には読み上げ機能付きの機器を紹介した.歩行による移動が困難である,という悩みに対しては,単独での歩行が可能と判断したときには外来に歩行訓練士を招いて白杖訓練を行った.また,介助が必要と考えられた場合には同行援護の利用,将来的な盲導犬の貸与を提案した.また,電子機器の使用が可能な場合には音声サポートアプリの利用の説明も行った.移動に関するフローチャートを図3に示す.日常生活のニーズへの対応におけるフローチャートを図4に示す.食事に関しては,料理の位置がわからない,という悩みに対しては,クロックポジションを用いることで,自分を中心として何時の方向に何の食器や料理が置かれているかを把握する方法を紹介した.ご飯を食べ残してしまうという悩みには,黒いお椀を使用してもらうことで,茶碗に残った白米を見つけやすくできることを説明した.お茶を注ぐことが困難,という声には,液体の注量と色がわかるスマートクリップの「みずいろクリップ」(RaisetheFlag.社)を紹介した.さまざまな容器に取り付けることができ,実際に使用してみるとその便利さを実感することができる.健康管理においては,血圧,体重,体温の測定には音声によるサポートを可能とした測定器を実際に使用してもらっab多様なニーズ屈折異常屈折矯正(遠見・近見)読み書き羞明遮光眼鏡(屋内・屋外)移動日常生活図1問診による患者ニーズの分類a:ロービジョンケアの基本として,矯正眼鏡もしくは遮光眼鏡の必要性の検討を行った.Cb:ロービジョン患者の多様なニーズを読み書き,移動,日常生活のC3カテゴリーに分類した.据え置き型拡大読書器屋内本・新聞・手紙タブレット両手を空けたい文字を読みやすく読み上げしたい読むのに時間が機能付きかかる拡大読書器携帯型拡大読書器屋外標識・看板・電光掲示板・黒板図2読み書きに関するフローチャート自立して白杖訓練歩きたい(歩行訓練士による指導)介助してほしい同行援護の利用移動できることを音声サポートアプリの増やしたい利用生活全般のサポート盲導犬の貸与図3移動に関するフローチャート日常生活のニーズ食事●料理の位置がわからないクロックポジション●ご飯を食べ残す黒いお椀の使用●お茶が注げないみずいろクリップ健康管理●インスリンの単位確認かけ眼鏡式ルーペ●血圧管理音声血圧計●体重管理音声体重計●体温測定音声体温計時間の確認音声時計趣味・買い物コインホーム・糸通し器図4日常生活におけるケアのフローチャートた.インスリンの目盛りが見えない,という悩みもあったが,両手で作業できるように,近用眼鏡や拡大鏡の装着を紹介した(図5).実際に,フローチャートを用いて対応した症例を提示する.d図5ロービジョングッズを用いたインスリン注射器の目盛りの見え方a:ルーペ.b:近用眼鏡.c:携帯型拡大読書器.d:インスリン注射器専用ルーぺ.e:掛け眼鏡式ルーぺ.f:据え置き型拡大読書器C.C[症例1]43歳,男性.両眼において増殖糖尿病網膜症(proliferativeDR:PDR)に血管新生緑内障を併発し,中心10°以内の求心性視野狭窄,視力は右眼がC30cm手動弁,左眼は矯正視力C0.1であった.ロービジョン外来受診時の問診からニーズをまとめると,足元がわからず移動が怖い,日の光がまぶしく感じる,の二点があげられた.このニーズをフローチャートにあてはめ,視覚支援機器の選定を行った.足元が見えにくく移動が困難である,というニーズに対して,視力,視野ともに障害があるため,同行援護の利用や白杖歩行訓練から開始することを勧めた.白杖による歩行訓練は家族の協力のもと,歩行訓練士と連携して行われた.室内,室外ともに羞明を感じていたため,それぞれにあわせて遮光眼鏡を選定した.室外に関してはとくに強い羞明を感じていたため,透過率の低い緑系レンズを選定した.室内はパソコン作業にて眩しさを感じることからモニターを見てもらいながら選定を行い,透過率C76%の黒系レンズで決定した.室内ではパソコン作業以外で遮光を必要としないため前掛け式(跳ね上げ式)で意見書に記載された.[症例2]75歳,女性.両眼ともにCPDRおよび血管新生緑内障と診断された.矯正視力は右眼が-3.0Dの近視でC0.4,左眼は光覚なしであった.裸眼や矯正眼鏡では手元が見えにくく,より見やすい状態にできないか,と相談された.持参された眼鏡,近方における度数を調整して見え方を確認したが,さらに細かい字を読みたい,とのことであった.フローチャートにあてはめ,読み書きのフローチャートに沿って室内で本などを見るためのルーペを選定した.2.5倍でさまざまな倍率を試したところ,LED付きのC2倍のルーペを使用したことで見え方に満足し,購入に至った.また,このルーペを用いることで,インスリン注射器の単位を確認することが簡便になったと喜ばれた.CIII考按今回筆者らは,矯正眼鏡や遮光眼鏡を処方したうえで,患者のニーズをもとに読字書字,移動,日常生活のC3カテゴリーに分類し(図1),それぞれに応じて有効な支援機器をまとめた.読字や書字を補助する機器の種類として,拡大鏡(ルーペ),ハイパワープラス眼鏡(近用眼鏡),拡大読書器,単眼鏡があげられる.単純に文字を拡大することでより読みやすくする点では共通であるが,それぞれにメリット・デメリットがあり,患者の見たい対象物や年齢,使用頻度に応じて選定を行う必要がある.ルーペには手持ち式やかけ眼鏡式のもの,デスクに置くタイプとバリエーションが豊かであり,用途に合わせて選定をしていく.手持ち式は焦点距離の関係で拡大率が変化するため,距離感について理解してもらう必要がある.度数によっては安価であり,100円ショップでも販売している.ルーペの度数が大きくなるにつれて構造上レンズの直径が小さくなるため,高倍率の場合には接眼距離を近づけるなどの工夫が必要になる.また,片手が塞がるため,併用して字を書くためには練習が必要であり,持ちながら使うことによる疲労感がある.ハイパワーレンズは眼鏡として装用できるため,両手の自由が利くが,度数が大きくなるにしたがって焦点距離が近くなる.また,両眼を使用する場合には輻湊角をプリズムで補正する必要が生じ,レンズの厚みが増す分だけ重さも増加する.拡大読書器には据え置き型と携帯型がある.文字を拡大させることはもちろん,白黒反転やマスキングの機能もあり,読字・書字の助けとなる.これについては据え置き型と携帯型で大きく差はない.据え置き型は大きくスペースをとり重量もあるため,使用する場所が固定される.その一方で手元のスペースが広く,読字・書字だけでなく,手元の作業で使用することもできる.携帯型は読みたい文字に対して機械を添わせるため,手元のスペースが少なくなる.手元を開けるためのアタッチメントがアクセサリーとして販売されている機種もある.また,機種によっては遠方にピントを合わせる機能もあり,単眼鏡のように遠方を拡大することができる.室内と屋外で使用する状況に応じた機器の説明を行うことが望ましい.単眼鏡は,使用するために練習が必要になるが,遠方の拡大において利用可能である.最近では遠方の拡大にスマートフォンのカメラ機能を使うこともある.タイポスコープは,読む範囲を限定することを目的とした黒い定規のようなアイテムである.コントラストがはっきりし,読みたい部分の明確化,同じ箇所を読むことの防止,どこに書けばいいかの目印となる.タイポスコープ自体は黒い画用紙などで自分の使いたい大きさにあわせて自作することも可能である.移動に関しては視野の影響が大きく,視力の値だけでは困難に気づきにくいこともあるため,生活環境などの問診が重要である.周辺の視野は歩行に重要であり,糖尿病患者に合併した血管新生緑内障や高度な網膜虚血により重度の視野欠損に至ると,歩行の困難をはじめとするCQOLの低下がみられるようになる7,8).糖尿病患者では,血管新生緑内障の合併や網膜萎縮により,視力低下に加え,高度の視野狭窄に至る場合が少なくない.移動に困難を抱えている場合は,同行援護サービスの利用や白杖訓練の開始など,社会福祉サービスや歩行訓練士との連携を提案することも選択肢となる.インスリン自己注射をする必要がある糖尿病患者は,自分で必要単位分の目盛りを合わせる際に困るケースが多い.単位数を間違えれば低血糖状態に陥り命にかかわるため9),目盛りを正確に読み取れるように工夫しなければならない.近用眼鏡を処方すると,ルーペと異なり両手があくため,数字を拡大して単位数を確認しつつインスリン注射器のダイヤルを回すことができる.他の工夫としては,注射器を回した際のクリック音の回数で必要単位数合わせる方法や,視覚障害者用に大きめのダイヤルがついている機器もあるため,近用眼鏡の処方と並行して個々にあった注射器の選択をすることも重要である10).内科に通院する糖尿病患者においては,眼科に通院しておらず,目盛りが見えずに困っているケースは潜在的に多いと考えられる.ロービジョンケアを早期から導入できるよう,内科と眼科との連携の強化が求められている.日常生活において,食事や健康管理におけるケアアイテムの使用は重要である.今回,フローチャートに組み込んだクロックポジションやみずいろクリップなどは意外と知られていない.また,爪切りやお金の支払いなど,ロービジョンケア用品が役立つ場面は多い.ロービジョンケアアイテムも多様となり,充実してきているが,それぞれの特性を理解していないと選定に迷うことになる.フローチャートをあらかじめ設定することで,機種選択の効率が向上し,よりよいサポートの提供につながると考えられる.それは,患者と眼科医,視能訓練士などのメディカルスタッフとの信頼関係の構築にも寄与するだろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InternationalCDiabetesFederation:IDFCDiabetesCAtlasC11thEdition-2025.https://diabetesatlas.org/media/Cuploads/sites/3/2025/04/IDF_Atlas_11th_Edition_2025-1.pdf(2025年C05月C23日閲覧)2)厚生労働省:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果C.https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html.(2025年3月23日閲覧)3)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20234)SugiharaCY,CTakamuraCY,YamadaCYCetal:Characteriza-tionCofCtheCvisuallyCimpairedCpatientsCwithCdiabetesCmelli-tusinJapan.JDiabetesInvestigC15:882-891,2024.5)GoldenCSH,CLazoCM,CCarnethonCMCetal:ExaminingCaCbidirectionalCassociationCbetweenCdepressiveCsymptomsCanddiabetes.JAMAC299:2751-2759,C20086)井手浩一,亀井久典,山中雅恵:熊本大学眼科におけるロービジョンケア―現況とCLow-Vision初期評価表の有用性―.日視能訓練士協誌C33:127-134,C20047)MihailovicA,SwenorBK,FriedmanDSetal:Gaitimpli-cationsCofCvisualC.eldCdamageCfromCglaucoma.CTranslCVisCSciTechnolC6:23,C20178)QiuCM,CWangCSY,CSinghCKCetal:AssociationCbetweenCvisual.elddefectsandqualityoflifeintheUnitedStates.OphthalmologyC121:733-740,C20139)TsaiCLH,CHsiehCHP,CChenPS:RelationshipCbetweenCrefractiveCcorrection,CvisualCsymptoms,CandCopticalCdeviceCselectionforlow-visionpatientsinTaiwan.JOptomC13:C249-256,C201910)藤井夕香,磯和勅子,平松万由子:外来通院をしている高齢糖尿病患者のインスリン自己注射主義に影響を及ぼす要因.日看科会誌C36:179-188,C2016***

糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討

2025年9月30日 火曜日

《第30回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科42(9):1179.1184,2025c糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討城光映*1,2澁谷文枝*1金子唯*1下村さやか*1野崎実穂*1*1名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科・レーザー治療センター*2名古屋市立大学医学部附属東部医療センター看護部CTimingofReferralfromInternalMedicinetoOphthalmologyinDiabeticPatients:ARetrospectiveStudyMitsueJo1,2)C,FumieShibuya1),YuiKaneko1),SayakaShimomura1)andMihoNozaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,2)NursingDepartment,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:患者が眼科へ紹介された時期と糖尿病網膜症(DR)の状態を検討した.対象と方法:2022年C1月.2023年7月に当科を受診した糖尿病患者のうち,当院内分泌・糖尿病内科からの紹介で,DRの評価を初めて眼科で受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について,当院内科初診日から眼科受診までの期間,DRの状態,糖尿病罹病期間,内科受診歴,HbA1c値について検討した.結果:平均年齢はC57.1C±11.5歳,HbA1c値は平均C10.6C±2.5(5.3-16.5)%であった.DRを有していた患者はC58例(63.0%)で,その内訳は,単純CDR(SDR)28例(30.4%),前増殖糖尿病網膜症(PPDR)19例(20.6%),増殖糖尿病網膜症(PDR)11例(12.0%)であった.当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月であった.糖尿病罹病期間は平均C6.1C±7.8年で,DRあり群はCDRなし群と比べ,有意に罹病期間が長かった(p=0.02).結論:当院内科から眼科へは速やかに紹介されていたが,糖尿病罹病から眼科受診までにはC6年かかっており,さらなる病診連携と糖尿病患者への教育が重要と考えられた.CPurpose:Toevaluatethetimingandstatusofdiabeticretinopathy(DR)patientsreferredfrominternalmedi-cineCtoCophthalmologyCforCtreatment.CMethods:ThisCstudyCincludedC92CDRpatients(82Cmales,C10females)whoCwerereferredfromtheendocrinologyanddiabetesdepartmenttotheophthalmologydepartmentforinitialevalua-tionbetweenJanuary2022andJuly2023.Theperiodfromtheinitialinternalmedicinevisitsatourhospitaltothe.rstCophthalmologyCvisit,CtheCstatusCofCDR,CtheCdurationCofCdiabetes,CmedicalChistoryCinCinternalCmedicine,CandCHbA1cClevelsCwereCanalyzed.CResults:MeanCpatientCageCwasC57.1±11.5Cyears,CandCtheCmeanCHbA1cClevelCwasC10.6±2.5%(range:5.3-16.5%)C.Ofthe92cases,DRwasobservedin58(63.0%)C,including28(30.4%)simpleDRcases,19(20.6%)pre-proliferativeDRcases,and11(12.0%)proliferativeDRcases.Meantimefrominitialinter-nalmedicinepresentationto.rstophthalmologyvisitwas1.8±6.2months,andmeandurationofdiabeteswas6.1C±7.8Cyears.CPatientsCwithCDRChadCaCsigni.cantlyClongerCdurationCofCdiabetesCcomparedCtoCthoseCwithoutDR(p=0.02)C.CConclusions:AlthoughCreferralsCfromCtheCinternalCmedicineCtoCophthalmologyCdepartmentsCwereCmadeCpromptly,themeandurationfromtheonsetofdiabetestothe.rstophthalmologyvisitwas6years.Strengtheningcollaborationbetweenhospitalsandclinicsandenhancingdiabeteseducationforpatientsareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1179.1184,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,眼底検査,内分泌・糖尿病内科,眼科.diabeticretinopathy,fundusexamination,in-ternalmedicine,ophthalmology.Cはじめに併症として糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)があ糖尿病患者においては,糖尿病と診断された際に速やかにげられるという報告もある1).しかし,日本における糖尿病眼科を受診し,定期的な眼科検査を受けることの重要性が広患者の眼底検査受診率は,2015年度およびC2017年度の調く啓発されている.また,糖尿病患者がもっとも懸念する合査においていずれもC50%未満にとどまり2,3),適切な眼科受〔別刷請求先〕野崎実穂:〒464-8547愛知県名古屋市千種区若水一丁目C2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenter.1-2-23Wakamizu,Chikusa-ku,Nagoya464-8547,JAPANC表1患者背景症例92例眼科受診時の年齢C57.1±11.5歳(C27.C81歳)性別男性C82/女性C10内科初診日から眼科受診までの期間糖尿病罹病期間(n=79)CHbA1c値C1.8±6.2月(0.C60月)C6.1±7.8年(0.C34年)10.6±2.5%(C5.3.C16.5%)内科受診歴近医通院中9(C9.8%)内科治療を自己中断24(C26.1%)糖尿病を放置25(C27.2%)未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)34(C36.9%)診が行われていない患者が依然として多い現状が明らかとなっている.実際に,眼科を受診する糖尿病患者のなかには,糖尿病と診断されてから長期間が経過しているにもかかわらず,一度も眼科を受診していない例が少なくなく,受診時にはすでにDRが進行している場合がしばしば見受けられる.そこで本研究では,糖尿病患者が初めて眼科へ紹介された時期と,その時点におけるCDRの重症度を検討したので報告する.CI対象と方法対象は,2022年C1月.2023年C7月に名古屋市立大学医学部付属東部医療センター眼科(以下,当院)を受診した糖尿病患者のうち,当院内科からの紹介でCDRの評価を初めて受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について検討を行った.検討項目は,当院内科初診から眼科受診までにかかった期間,糖尿病罹病期間,HbA1c値,DRの重症度,内科受診歴とした.DRは,超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia)によるカラー眼底写真をもとに,Davis分類を用いて判定した.DRあり・なしでC2群に分け,患者背景を比較した.年齢,性別,罹病期間,HbA1c値はCMann-WhitneyU検定,内科継続の有無についてはC|2検定で統計解析を行った.DR重症度と糖尿病罹病期間の比較はCKruskal-Wallis検定を行った.p<0.05で有意差ありと判定した.なお,本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号C60-24-015).CII結果眼科受診時の平均年齢は,57.1C±11.5歳(27.81歳),当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月(最大C60カ月).糖尿病罹病期間は,糖尿病発症時期が判明図1DR重症度の内訳したC79例で検討を行い,平均C6.1C±7.8年(最大C34年)であった.HbA1c値は,平均C10.6C±2.5%(5.3.16.5)であった(表1).内科受診歴は,近医通院中で糖尿病治療を継続できていた患者はC9例(9.8%),内科治療を自己中断した患者は24例(26.1%),糖尿病を放置していた患者はC25例(27.2%),未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)患者はC34例(36.9%)であった(表1).今回の検討で,DRがなかった患者はC34例(37%),網膜症を有した患者はC58例(63%)であった.そのうち,単純DR(simplediabeticretinopathy:SDR)28例(30.4%),前増殖CDR(preproliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)19例(20.6%),増殖CDR(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)11例(12.0%)であった(図1).DRの有無と糖尿病罹病期間について,罹病期間が判明したC79例で検討を行った.未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例は罹病期間C0とした.DR重症度別の罹病期間は,DRのない患者(32例)ではC3.6C±5.3年,SDR(24例)ではC7.0C±7.8年,PPDR(15例)はC8.3C±9.8年,PDR(8例)ではC9.5C±10.0年で,網膜症の重症度が増すにつれ,糖尿病罹病期間も長くなる傾向にあったが,統計学的に有意な相関は認めなかった(表2).さらに,罹病期間が判明したC79例についてCDRの有無と患者背景を比較した.年齢,性別,HbA1c値,内科継続の有無では,DRなし群とCDRあり群間で有意な差は認めなかったが,DRなし群(32例)の罹病期間C3.1C±5.3年,DRあり群(47例)の罹病期間C7.9C±8.7年(p=0.02)と,DRあり群で有意に罹病期間が長かった(表3).つぎに,代表症例を示す.表2DR重症度と糖尿病罹病期間DR重症度平均罹病期間(年)DRなし(n=32)C3.6±5.3年SDR(n=24)C7.0±7.8年PPDR(n=15)C8.3±9.8年PDR(n=8)C9.5±10.0年表3DRなし群とDRあり群の比較網膜症なし(n=32)網膜症あり(n=47)p値年齢C57.6±12.1歳C57.4±11.6歳C*0.94性別男性C26/女性C6男性C43/女性C4C**0.17罹病期間C3.6±5.3年C7.9±8.7年C*0.02HbA1c値C10.7±2.7%C10.5±2.7%C*0.79内科継続の有無※C1/15C5/28C**0.6※未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)を除く*Mann-WhitneyU検定**|2検定[症例]患者:50代,男性.既往歴:30代後半で糖尿病を指摘されるが放置していた.201X年鎖骨骨折のため当院整形外科で手術予定となり,術前採血でCHbA1c10.9%が判明し,血糖コントロールのため,当院内分泌・糖尿病内科に紹介された.栄養指導をうけ,骨折手術後退院,退院後の内科通院歴は不明である.現病歴:201X+5年C2月,下肢に浮腫が出現し近医を受診し,HbA1c13.6%と高値を指摘され,当院内分泌・糖尿病内科へ紹介され,201X+5年C3月に内科から眼科へ紹介された.経過:視力は両眼とも矯正C1.2,両眼に網膜点状─斑状出血および軟性白斑を多数認め(図2a),両眼CPPDRと診断し,蛍光眼底造影検査で,無灌流領域がC3象限に認められたため(図2b),両眼汎網膜光凝固術を施行した.そのC4カ月後,当院内科・眼科とも外来受診しなくなった.201X+6年2月再び下肢に浮腫が出現し,近医受診し当院内科へ紹介された.HbA1c5.9%であった.また両眼視力低下を自覚し,C201X+6年C12月に近医眼科から当科へ紹介.視力は両眼とも矯正C0.6,両眼糖尿病黄斑浮腫を認め(図3),抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療を開始した.現在は,定期的に内科・眼科受診を継続している.CIII考按本研究では,糖尿病患者が初めて眼科に紹介された時期と,その時点でのCDRの状態を検討した.内科初診から眼科受診までの期間は平均C1.8C±6.2カ月と比較的速やかであったが,糖尿病と診断されてから初めて眼底検査を受けるまでには平均C6.1C±7.8年(最大C34年)を要していた.TheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)は,糖尿病罹病期間がC5年以上経過するとCDR発症リスクが有意に高まると報告しており4),日本人C2型糖尿病患者におけるCDRの発症・進行の決定因子を検討した後ろ向き研究でも,罹病期間が唯一の決定因子であったとされている5).本研究でも,DRのある群が有意に長い糖尿病罹病期間であり,この結果はこれらの先行研究と一致している.一方で,糖尿病罹病期間が長いほどCDRが重症化する傾向は認められたものの,統計学的有意差は得られなかった.本研究では,未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例を罹病期間C0とカウントしていること,それ以外に罹病期間が判明した症例がC45例と限られていたことから,統計解析の検出能力が十分ではなかった可能性がある.今後は症例数を増加させ,より高い検出能力をもつ解析を行うことで,糖尿病罹病期間とCDRの重症度との関連性についても,さらに詳細に検討したいと考える.本研究において,眼科受診までもっとも長期間を要した症例は,受診後も通院を自己中断していた.この患者は,通院中断の理由として外来の待ち時間が長いことをあげており,他施設の報告でも「多忙」や「待ち時間の長さ」が糖尿病患者の通院中断の要因として指摘されている6).現在,当院では「DRスクリーニング外来」を設置し,待ab図2代表症例(50代,男性)①a:初診時カラー眼底写真.b:初診時フルオレセイン蛍光造影.ち時間の短縮を図るため,眼科の診察枠を効率的に運用している.いる.具体的には,内分泌・糖尿病内科の医師が診察予約を今回の検討では,内科から眼科への紹介が比較的速やかに管理し,眼科外来で無散瞳での超広角走査型レーザー検眼鏡行われている一方で,糖尿病発症から眼底検査までに平均C6による撮影を実施して7),眼科医がCDRの有無をチェックす年かかっている現状が明らかになった.また,内科通院を自るしくみを採用している.これにより,眼科受診のハードル己中断した患者,あるいは糖尿病を指摘されていたが放置しを下げ,患者が気軽に眼底検査を受けられる環境を整備してていた患者が半数以上を占めていた.この結果を踏まえ,今ab図3代表症例(50代,男性)②a:再初診時カラー超広角走査型レーザー検眼鏡所見.b:再初診時光干渉断層計所見.後は地域の医療機関とのさらなる病診連携の強化と,糖尿病患者に対する教育が一層重要であると考えられた.本論文の要旨は第C30回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StrainCWD,CCosCX,CHirstCMCetal:TimeCtoCdomore:CaddressingCclinicalCinertiaCinCtheCmanagementCofCtypeC2CdiabetesCmellitus.CDiabetesCResCClinCPractC105:302-312,C20142)TanakaH,SugiyamaT,Ihana-SugiyamaNetal:Chang-esCinCtheCqualityCofCdiabetesCcareCinCJapanCbetweenC2007CandC2015:ACrepeatedCcross-sectionalCstudyCusingCclaimsCdata.DiabetesResClinPractC149:188-199,C20193)Ihana-SugiyamaCN,CSugiyamaCT,CHiranoCTCetal:PatientCreferral.owbetweenphysicianandophthalmologistvisitsforCdiabeticCretinopathyCscreeningCamongCJapaneseCpatientsCwithdiabetes:ACretrospectiveCcross-sectionalCcohortCstudyCusingCtheCNationalCDatabase.CJCDiabetesCInvestigC14:883-892,C20234)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20115)NakayamaCY,CYamaguchiCS,CShinzatoCYCetal:Retrospec-tiveCexploratoryCanalysesConCgenderCdi.erencesCinCdeter-minantsforincidenceandprogressionofdiabeticretinop-athyCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCmellitus.CEndocrJC68:655-669,C20216)山田幸男,高澤哲也,鈴木正司ほか:dropCoutが原因で透析・失明に至った患者の実態と予防策.プラクティスC10:C426-431,C19937)野崎実穂:糖尿病診療における合併症の管理糖尿病網膜症.診断と治療110:325-330,C2022***

糖尿病網膜症の経過観察中に網膜細動脈瘤が原因で硝子体出血をきたした1例

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):254.258,2025c糖尿病網膜症の経過観察中に網膜細動脈瘤が原因で硝子体出血をきたした1例岡本紀夫*1濱本亜裕美*2*1おかもと眼科*2淀川キリスト教病院眼科CACaseofVitreousHemorrhageDuetoRetinalArterialMacroaneurysmObservedDuringDiabeticRetinopathyFollow-UpExaminationNorioOkamoto1)andAyumiHamamoto2)1)OkamotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospitalC症例はC67歳,女性.健康診断にて糖尿病網膜症を指摘され当院を受診した.既往歴として高血圧と糖尿病があった.視力は両眼ともC1.0であったが,両眼とも眼底検査で糖尿病網膜症を認めた.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫に対して右眼に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内投与にて経過観察をしていた.初診からC14年後に左眼の霧視を自覚,硝子体出血を認めたので淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.1週間後の受診時には硝子体出血はあるが眼底が透見可能となり,鼻側に網膜細動脈瘤(RAM)を認めた.RAM発症前の眼底写真を見直すと,鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑があるが明らかなCRAMはなかった.CThisstudyinvolveda67-year-oldfemalewhowasreferredtoourhospitalafterbeingdiagnosedwithdiabeticretinopathyduringaphysicalexamination.Hervisualacuitywas1.0inbotheyes,yetfundusexaminationrevealedbilateralCdiabeticCretinopathy.CSheCwasCfollowedCupCwithCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjec-tionsinherrighteyefordiabeticretinopathy-associatedmacularedema.Fourteenyearsaftertheinitialexamina-tion,shebecameawareoffoggyvisioninherlefteye,andvitreoushemorrhagewasobserved,soshewasreferredtotheDepartmentofOphthalmologyatYodogawaChristianHospital.Attheinitialpresentation1-weeklater,thepatientChadCvitreousChemorrhage,CyetCtheCfundusCwasCclear,CandCaCnasalCretinalCarterialCmacroaneurysmCwasCobserved.Thereviewoffundusphotographstakenbeforetheonsetofretinalarterialmacroaneurysmrevealedahardexudatealongthenasalretinalartery,butnoobviousretinalarterialmacroaneurysm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(2):254.258,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜細動脈瘤,発症前,硝子体出血.diabeticretinopathy,retinalarterialmacroaneu-rysm(RAM),beforeonset,vitreoushemorrhage.Cはじめに網膜細動脈瘤(retinalCarterialmacroaneurysm:RAM)はCRobertson1)によって報告されて以来,数多くの報告がある.RAMは網膜動脈の第C3分枝以内で,一部が.状,紡錘状に拡大し,滲出性の変化により視力低下をきたしたり,突然破裂して網膜下出血,網膜内出血を起こすことが知られている.RAMのほとんどが突然発症するため,早期発見は困難である.今回,筆者らは糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,自然吸収後に鼻側にCRAMを認めたC1例を経験し,発症前の眼底写真と比較したので報告する.CI症例患者:67歳,女性.主訴:糖尿病網膜症の精査.初診:2010年C7月.既往歴:高血圧,糖尿病(42歳).現病歴:健診センターの眼底検査にて糖尿病網膜症を認めたので受診した.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312Izui-Cho,Suita,Osaka564-0041,JAPANC254(120)図1初診時眼底写真とOCT(2010年)両眼とも毛細血管瘤と網膜出血,右眼には輪状の硬性白斑を認める.OCTでは右眼に浮腫がある.Cab図2眼底写真a:硝子体出血吸収後.硝子体出血と下鼻側に硬性白斑とCRMAを認める().b:硝子体出血発症C4カ月前.下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑がある.初診時所見:視力はC1.0(1.2).眼圧は正常.両眼とも白内障を認めた.眼底検査では両眼とも毛細血管瘤,点状,斑状出血,硬性白斑を認めた.光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)では右眼の輪状硬性白斑に一致して黄斑浮腫があった(図1).2012年C7月の再診時には右眼の硬性白斑は増加しCOCTで黄斑浮腫の増加と漿液性網膜.離も認めるようになった.その後,硬性白斑は徐々に減少し,漿液性網膜.離も消失し視力も矯正C1.0と良好を維持したので経過観察した.2016年C6月ごろ視力はC0.5と低下したが徐々に黄斑浮腫の増加があったので,2016年C12月に淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.2017年C2月に右眼に局所光凝固したが黄斑浮腫がやや増悪したのでC3月に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内投与を行った.その後,2017年C9.2024年C1月まで計C11回抗CVEGF薬硝子体内投与が施行され,2021年C7月には両眼の白内障手術が施行された.一方,左眼は初診時より黄斑浮腫を認めず経過観察をしていた.2024年C4月末より見えくいことを自覚し,5月初旬に当院を受診した.視力は左眼C0.4(矯正不能)と低下し,眼底検査では硝子体出血により透見不能であった.淀川キリスト教病院をC1週間後に受診したときには透見可能で,下鼻側にCRAMと網膜動脈に沿った硬性白斑を認めた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,.状のCRAMが確認できた(図3).5月中旬のOCTではCRAMに一致して網膜厚がC460Cμmと肥厚し硝子図3フルオレセイン蛍光造影写真38秒(Ca)とC11分(Cb).RMAは.状であることがわかる().新生血管はない.図4MAのOCT像RAM高はC460Cμmで,硝子体側に突出している.Bモード水平断で網膜内に明らかな瘤が確認でき,内腔壁の高反射がある().体側に突出し,網膜内のCRAMの内腔壁の高反射があった(図4).7月に左眼の出血源と思われるCRAM周囲に光凝固(yellowC200μm180mw0.15sec50shots)が施行された(図5).現在,両眼とも矯正視力はC0.9である.2023年C1月のCRAMによる硝子体出血前の眼底写真を見直すと視神経乳頭の下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑を認めるが,明らかなCRAMはなかった(図2b).硝子体出血吸収後の眼底写真と比較すると明らかに硬性白斑が増加していた.なお,経過観察中のCHbA1cは7%前後で推移していた.CII考按RAMは一般的に網膜中心動脈から第C3分枝以内の網膜動脈に生じる血管瘤であると定義されている1).高齢者や女性の割合が高く,高血圧がC75%の患者に認められるとされる2).本症例も高齢者の女性で既往歴に高血圧があった.糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症した場合は,原因として新生血管がまず考えられる.本症例は硝子体出血吸収時に鼻側にCRAMが確認できたので,これが出血源であると判断した.フルオレセイン蛍光造影検査で,.状のRAMは確認されたが,新生血管は確認されていない.糖尿病網膜症に細動脈瘤を認めた報告は丸山ら3)が51例中5例に糖尿病を認め,そのうちのC2例に糖尿病網膜症に伴うRAMであり,2例とも汎網膜光凝固を施行された症例であると報告している.鼻側のCRMAは視力低下をきたしにくいためか報告例は少ない.Tizelら4)はCRAMの発生部位は網膜耳側がC90%,鼻側がC10%であると報告している.自験例5)でも鼻側がC32眼中C5例からも明らかに網膜の耳側が多かった.丸山ら3)の報告でも,鼻側発症はC53眼中C4眼であり,そのうちのC2眼が初発硝子体出血の原因となっていた.耳側発症がC49眼中C4眼に初発硝子体出血の原因となっていることから,鼻側RAMは初発硝子体出血の発生頻度が高いことになるが,耳側と鼻側ともに硝子体出血はC2.8週間で消退し,視力は良好であったと報告している.RAMは動脈硬化による網膜動脈壁の脆弱性に加えて高血圧による動脈圧の上昇が原因として考えられている6).本症例のCRAMについて仮説ではあるが,糖尿病網膜症により脆弱な網膜動脈にCRAMが形成されつつあるときにCVEGFが産生され,RAM形成に先立って網膜動脈に沿った硬性白斑が形成された可能性がある.以前,筆者らが報告したCRAMの症例は,急激が圧力の変化が起きてCRAMが破裂し網膜出血をきたした7).しかし,発症C3カ月前の眼底写真を見直すと本症例のような硬性白斑を認めていない.RAMのCOCTでは,平林ら8)の未破裂CRAMと同様にRAM高がC460Cμmと肥厚し,硝子体側に突出していた.また,水平断CBスキャン像で網膜内に明らかな瘤を確認する図5光凝固施行時下鼻側の硬性白斑とCRMAを含んで広範囲に光凝固を行った.ことができた.RAMは一度破裂すると閉塞することが多いが,硝子体出血吸収後も網膜出血が綿毛のように広がっており,「.u.ysign」を呈していたので予後不良と考え9),また,硬性白斑の増加を認めていたので,その範囲も含めて光凝固を行った.近年では抗CVEGF薬硝子体内投与によってCRAMの閉鎖と滲出性変化の改善が報告されているが,わが国では保険適用外なので使用することはできない10).糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,RAMが原因であるC1例を報告した.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の発症に注意を払っていたが,乳頭周囲の硬性白斑にはあまり注意をしていなかった.平林ら8)の症例(高眼圧症)や自験例7)(中心窩ドルーゼン)に対してCOCTを経時的に撮影していたため,RAM発症前後のCOCTを比較することができたが,本症例ではCOCTは黄斑部の撮影であったため,発症前にCOCTで捉えることができなかった.最近では広範囲に撮影できるCOCTが開発されていることから,RAMの早期発見につながるかもしれない.文献1)RobertsonDM:MacroaneurysmsCofCtheCretinalCarteries.CTransAmAcadOphthalmolOtolaryngolC77:55-67,C19732)阪口沙織:網膜細動脈瘤.あたらしい眼科C39:17-22,C20223)丸山泰弘,山崎伸一:網膜細動脈瘤C53例の視力の転帰.臨眼45:1506-1512,C19914)TezelCT,CGunalpCI,CTezalG:MorphometricalCanalysisCofCretinalCarterialCmacroaneurysms.CDocCOphthalmolC88:C113-125,C1994C5)青松圭一,岡本紀夫,杉岡孝二ほか:網膜細動脈瘤C32例の検討.動脈瘤が明瞭な症例.眼科57:1163-1169,C20156)柳靖雄:OCT・OCTAパーフェクト読影法,Chapter12網膜出血を認めたら.p133-141,羊土社,20237)岡本紀夫,木坊子展生,渡邉敦士ほか:誤嚥後に網膜出血を発症した網膜細動脈瘤のC1例.眼科66:605-609,C20248)平林博,若林真澄,平林一貴:OCTによる経過観察が有用であった網膜細動脈瘤のC1例.臨眼73:595-601,C20199)DoiCS,CKimuraCS,CMorizaneCYCetal:AdverseCe.ectCofCmacularintraretinalhemorrhageontheprognosisofsub-macularChemorrhageCdueCtoCretinalCarterialCmacroaneu-rymrupture.RetinaC40:989-997,C202010)MansourCAM,CFosterCRE,CGallego-PinazoCRCetal:Intra-vitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjectionsCforCexudativeCretinalCarterialCmacroaneurysms.CRetinaC39:1133-1141,C2019***

腎性貧血を伴う増殖糖尿病網膜症が進行したため硝子体手術を施行した1例

2025年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(1):124.128,2025c腎性貧血を伴う増殖糖尿病網膜症が進行したため硝子体手術を施行した1例山本まゆ*1,2大須賀翔*1大里崇之*3児玉昂己*1石郷岡岳*1,4水野博史*1喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2大阪暁明館病院眼科*3高槻病院眼科*4大阪医科薬科大学三島南病院眼科VitrectomyforProgressiveProliferativeDiabeticRetinopathywithRenalAnemia:ACaseReportMayuYamamoto1,2),ShouOosuka1),TakayukiOhsato3),KoukiKodama1),GakuIshigooka1,4),HiroshiMizuno1)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmolgy,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmolgy,OsakaGyoumeikanHospital,3)DepartmentofOphthalmolgy,TakatsukiHospital,4)DepartmentofOphthalmolgy,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversityMishima-MinamiHospitalC目的:腎性貧血を伴う増殖糖尿病網膜症が進行したため,硝子体手術を施行した症例を経験したので報告する.症例:58歳,男性.X年C4月に当院腎臓内科より糖尿病網膜症精査目的に紹介となった.初診時視力(1.0)と良好だが眼底に網膜出血と軟性白斑を認めた.蛍光造影検査では両眼網膜無灌流域があり右眼網膜新生血管を認め,両眼汎網膜光凝固術を開始した.糖尿病腎症C4期で腎性貧血があり,ダルベポエチンを投与し透析が開始された.経過中,右眼網膜前出血(PRH)が出現し,右眼視力(0.03)と低下,急速に増殖性変化が進行したためCX年C7月右眼水晶体再建術・硝子体手術を施行した.術後硝子体出血が遷延し,眼底の視認性改善目的に再度硝子体手術・シリコーンオイル(SO)注入術を施行,3カ月後にCSOを抜去した.X年C11月に左眼(0.1)と低下あり,左眼CPRHを認め,急速に増殖性変化が進行したため,X年C12月左眼水晶体再建術・硝子体手術を施行.術後経過良好で,最終視力は右眼(1.0),左眼(1.2).結論:糖尿病患者では腎性貧血などの全身状態も考慮し糖尿病網膜症の診察を行う必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCprogressiveCproliferativeCdiabeticCretinopathyCwithCrenalCanemiaCthatCrequiredCvitrectomyCsurgery.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC58-year-oldCmaleCwithCstageC4CdiabeticCnephropathyCandCrenalCanemia.Uponinitialexamination,visualacuity(VA)inbotheyeswas(1.0),butretinalhemorrhageandsoftexu-datesCwereCobservedCinCtheCfundusCofCbothCeyes.CFundusC.uoresceinCangiographyCrevealedCextensiveCretinalCnon-perfusionareasinbotheyesandneovascularizationinhisrighteye,sobilateralpanretinalphotocoagulation(PRP)Cwasperformed.DuringthecourseofthePRP,preretinalhemorrhageappearedinbotheyesandtheproliferativechangerapidlyprogressed,soparsplanavitrectomywasperformed.Postsurgery,VAimprovedto(1.0)ODand(1.2)OS.Conclusion:InCdiabeticCpatientsCwithCrenalCanemia,CstrictCfollow-upCisCnecessary,CasCtheCprogressionCofCproliferativediabeticretinopathycanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(1):124.128,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,腎性貧血,硝子体手術,血液透析,糖尿病性腎症.diabeticretinopathy,renalanemia,vitrectomy,hemodialysis,diabeticnephropathy.Cはじめに圧,脂質異常症,急激な血糖コントロール,妊娠などがあげ糖尿病の慢性合併症である糖尿病網膜症は現在わが国の中られている1).一般に網膜症と糖尿病性腎症はCmicroangiop-途失明原因の一つである.網膜症の悪化の原因として,高血athyが原因の主体を占めるため大きく関連がある.糖尿病〔別刷請求先〕山本まゆ:〒554-0012大阪市此花区西九条C5-4-8大阪暁明館病院眼科Reprintrequests:MayuYamamoto,DepartmentofOphthalmolgy,OsakaGyoumeikanHospital,5-4-8,Nishikujo,Konohana-ku,Osaka554-0012,JAPANC124(124)患者では透析導入に至る腎症があれば網膜症も重症であり,5.8割が増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCretinopa-thy:PDR)であると報告されている2).また,手術を要するほどの網膜症であれば腎症もある程度進行しており,貧血をきたす割合も高いと考えられる.貧血が網膜症に及ぼす影響に関してはこれまでにも指摘されている3).腎性貧血を伴うPDRの硝子体手術成績は不良であり,腎性貧血に対する治療を行うことで手術成績が向上する可能性がある4).今回,筆者らは腎性貧血を伴うCPDRが進行したため,硝子体手術を施行した症例を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,男性.初診:X年C4月.主訴:既往歴:高血圧,脂質異常症,高尿酸血症.10年以上前に糖尿病と診断され,インスリン治療中であったが血糖値の変動が大きくCHbA1c10%台で血糖コントロール不良であった.眼科最終通院歴はCX-1年C5月で,単純糖尿病網膜症(simpleCdiabeticretinopathy:SDR),糖尿病黄斑浮腫,右眼動眼神経麻痺と診断されていたが,以後眼科受診は途絶していた.現病歴:X年C3月ごろより両側下腿浮腫を認め,血清クレアチニンC6.59Cmg/dl,eGFR8Cml/分/1.73CmC2と腎機能の低下があり糖尿病性腎症C4期で透析導入を検討されていた.そのときのCHbA1CcはC7.9%であった.透析導入目的にCX年C4月大阪医科薬科大学病院(以下,当院)腎臓内科に入院となった.入院時の血圧はC153/103CmmHg,血液検査にて赤血球C3.35C×106/μl,Hb10.0Cg/dl,ヘマトクリットC30.4%,血小板C1.79万/μlと腎性貧血を呈しており,透析導入が検討されていた.4月C15日に当院腎臓内科より網膜症精査目的に,当院眼科(以下,当科)を紹介受診となった.初診時眼所見:視力は右眼C0.15(1.0C×sph.4.0D),左眼0.1(1.0C×sph.4.0D).眼圧は右眼C11.7mmHg,左眼C11.7mmHg.両眼とも軽度白内障を認め,虹彩隅角新生血管なし.眼底所見で両眼に網膜出血や軟性白斑が散在していた(図1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼ともに黄斑浮腫を認めなかった.そのときの蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)では両眼ともに広範囲な網膜無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)がみられ,右眼には網膜新生血管を認めた(図2).経過:右眼増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCreti-nopathy:PDR),左眼増殖前糖尿病網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR)と診断した.4月C15日の血液検査でCHb9.5Cg/dlと低値であり週C1回ダルベポエチンアルファC20Cμgを投与し透析開始された.4月C16日より両眼に汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)を開始した.経過中,脳梗塞を発症するなど体調不良のため,受診中断もあり,6月には合計右眼C898発,左眼C843発と少なめの照射数であった.PRP施行中,右眼網膜前出血(prereti-nalhemorrhage:PRH)の出現,消退を複数回繰り返した.しかし,X年C7月右眼CPRH再発後,出血は増大し,視力は(0.03)と低下した.また,眼底所見では急速に増殖性変化が進行したため(図3),右眼経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanaCvitrectomy:PPV)および白内障手術を施行した.術中所見では,上方の線維血管増殖膜の癒着が強固で出血も認めたため,ジアテルミーで止血しながら可能な限り増殖膜を切除した.網膜全体に網膜光凝固術(photocoagula-図1初診時眼底写真図2初診時右眼蛍光造影写真図3両眼PRH出現時図4術後眼底写真tion:PC)をC511発を追加し液空気置換ののち,空気によるガスタンポナーデを行い手術終了となった.術後は眼圧上昇を認め,前房出血もあったことから術C3日目に前房穿刺を施行したが,硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)が遷延しており,術C5日目に眼底の視認性改善目的に液空気置換を施行した.その後もCVHの改善がみられないため,術C11日目に再度CPPVを施行した.前房洗浄を行い,上方の網膜新生血管からの出血があり,双手法で可及的に膜処理を行った.最後にシリコーンオイル(siliconeoil:SO)を注入し手術を終了した.その後,右眼はCVHの再発なく経過は良好であった.X年C11月に今度は左眼の視力低下を自覚し再診となった.左眼視力(0.1)と低下,左眼にもCPRHが出現しており,硝子体出血,線維血管増殖膜を認めた(図3).その後,左眼視床出血を発症し,全身状態が安定したのちのCX年C12月,左眼CPPVおよび白内障手術を施行した.右眼同様,線維血管増殖膜を広範に認め,後極部のCVHを除去し,双手法で増殖膜を処理した.上方の新生血管をジアテルミーで焼灼し,周辺部にCPCをC479発追加しタンポナーデなしで手術を終了した.術後経過良好であった.その後CX+1年1月,SO抜去目的に右眼CPPVを施行した.術中所見ではCSOを抜去しブリリアントブルーCGを散布すると網膜血管とepicenterの癒着が強固であった.可能な限り膜を.離し,新生血管をジアテルミーで焼灼し手術終了となった.術後両眼ともに硝子体出血を認めず経過は良好(図4)で,最終矯正視力は右眼(1.0),左眼(1.2)である.X+1年C2月時点のHbA1cはC6.1%と血糖コントロールも良好であり,ダルベポエチン投与後,ヘモグロビンはC10.12Cg/dlで推移している.CII考察糖尿病網膜症の悪化の原因として,高血圧,脂質異常症,急激な血糖コントロール,妊娠,貧血など多数あげられている1).そのうち貧血の影響についてこれまでに多くの報告があり,XinらはC2型糖尿病患者C1,389名を対象とした横断研究において,貧血のみを有する患者では,貧血と腎症のどちらも有しない患者と比べてC3.7倍,貧血と糖尿病腎症の両方を有する患者ではC10倍以上にCPDRのリスクは上昇すると報告している5).EarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyStudy(ETDRS)report#186)においても,ベースラインからC2年以内に高リスクCPDRに至るリスク要因の一つとしてヘマトクリットの低値をあげており,Shorbら7)は,貧血を合併したことにより網膜症が急激に進行しCPDRとなりCPRPと硝子体手術が必要になった症例を報告している.貧血が糖尿病網膜症を悪化させる機序としては,糖尿病による著明な微小循環障害が広範な網膜虚血状態をきたして血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)などの血管新生因子の産生を促進し,新生血管の増悪を引き起こし,その結果,増殖膜形成へとつながり,重症CPDRの発症や進展に関与することがあげられる.さらに貧血により赤血球の産生能力が悪化し赤血球の数が減ることにより血液に酸素運搬能が低下し,網膜が虚血状態になり,より低酸素状態を助長し,その結果虚血の亢進につながっていると考えられる.腎機能の低下のある糖尿病患者では腎性貧血を引き起こしうる.腎性貧血は腎臓の機能低下によりヘモグロビンの低下に見合った十分量の造血ホルモンであるエリスロポエチンが産生されないことによって起こる.日本透析医学会が発表したC2015年版「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」では,腎性貧血治療の開始基準はヘモグロビン10Cg/dl未満とされている8).治療薬としては遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン(recombinantChumanCerythropoie-tin:rHuEPO)製剤や赤血球造血刺激因子製剤(erythropoie-sisstimulatingCagent:ESA)などがあり,近年では血中濃度半減期が長時間にわたる持続性CESAとしてダルベポエチンアルファが広く使用されている.この製剤はエリスロポエチン受容体への結合を介して骨髄中の赤芽球系造血前駆細胞に作用し,赤血球への分化と増殖を促進し腎性貧血を改善させる作用がある.現在,ESA,低酸素誘導因子プロリン水素化酵素(HIF-PH)阻害薬,鉄剤などを中心に用いて慢性腎臓病患者の貧血治療が行われている.糖尿病網膜症に対する硝子体手術の予後は,術前の網膜症の重症度だけでなく,全身的な因子にも影響を受ける.その中でも高度の貧血は網膜神経組織の虚血,低酸素状態をさらに助長すると考えられ,手術予後と相関するとの報告があり9,10),腎性貧血を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績については笹野ら4)はCHb11.0Cg/dl以下,ヘマトクリット値30%未満の症例で視力悪化例が多かったと報告している.高度腎性貧血に対して治療後に硝子体手術を行った患者では,術後視力が比較的安定する患者が多く硝子体手術成績を向上させる可能性が示唆されている11,12).糖尿病網膜症の硝子体手術に際して,周術期の血糖コントロールや人工透析療法を含めた全身管理が重要である.透析による糖尿病網膜症の影響としては,透析導入に至る糖尿病患者では,網膜症も同様に進行し,透析導入時にC37.85%の患者でCPDRを合併し,また視力C0.1以下の高度視力障害はC47.54%の患者でみられるとの報告がある13).透析導入後の網膜症変化としては,吉富ら14)が透析導入後経過を追えたC10例C20眼について,透析導入直後からC6カ月間は網膜症の活動性が高くなりやすく,急速な網膜症の進行例が多いと報告している.また,それ以降も石井ら13)は導入後C1年以内に約C10%の網膜症で悪化がみられC3年以内にさらに約C10%が悪化するとの報告もあるが,全体的には血液透析導入後のCPDRの悪化率は低下するようである.近年では,透析導入前よりレーザー治療や硝子体手術などを施行するなど網膜症に対する治療が進歩したことによると考えられる.透析患者では全身状態の悪化などで通院が不規則になりやすく,治療介入のタイミングが非常にむずかしい患者が多いが,透析導入後に網膜症が悪化する例もあり定期的な眼科受診が重要であると考えられる.本症例は当科初診時に蛍光造影検査で両眼CNPA,右眼に新生血管を認め,すでに右眼CPDR,左眼CPPDRの状態であった.また,糖尿病腎症C4期で腎性貧血を伴っていた.本症例ではCPRPを施行したが,経過中にCPRHなどが出現し,急速に増殖性変化が進行した.この要因として,コントロール不良の糖尿病に加えて腎症による腎性貧血があり,PDRの増殖性変化が急速に進行したと考えられた.眼科初診時C2日目より腎性貧血に対してダルベポエチンの投与を開始し透析導入となった.また,活動性が高い網膜症に対してCPRPの照射数が少なく,PRH出現時に追加凝固ができなかったことも要因になったのではないかと反省している.右眼は網膜症が悪化しやすいと過去に報告されている透析導入直後から6カ月以内の時期に急速に増殖性変化が進んだが,左眼は導入C6カ月以降に網膜症が悪化した.強い増殖性変化に対して両眼硝子体手術を施行したが,術前より透析が導入されており,腎性貧血に対しても治療介入されていた.そのため腎性貧血はダルベポエチン投与後C4カ月でヘモグロビンC10.12g/dl,ヘマトクリット値C32.35%と推移しており,術後経過としては良好であった.糖尿病網膜症は腎性貧血や透析などさまざまな因子が関与しており,血糖値やCHbA1cだけでなく,貧血などの全身状態も考慮したうえで,総合的に経過観察していく必要がある.なお本症例は,第C29回日本糖尿病眼学会で発表した.文献1)別所建夫:網膜症の進行,抑制に関する眼局所状態.眼科診療プラクティスC20,糖尿病眼科診療(田野保雄編),p174-177,文光堂,19952)徳山孝展,池田誠宏,石川浩子ほか:血液透析症例における糖尿病網膜症.あたらしい眼科11:1069-1072,C19943)難波光義:糖尿病眼合併症予防の内科的対策.眼紀C48:C28-31,C19974)笹野久美子,安藤文隆,長坂智子ほか:増殖糖尿病硝子体手術成績と腎性貧血との関連について.眼紀C44:1152-1157,C19935)WangJ,XinX,LuoWetal:AnemiaanddiabetickidneydiseaseChadCjointCe.ectConCdiabeticCretinopathyCamongCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC61:14-25,C20206)DavisMD,FisherMR,GangmnREetal:Riskfactorsforhigh-riskCproliferativediabeticretinopathyCandCsevereCvisualloss:EarlyTreatment.DiabeticRetinopathyStudyReport#18.InvestOphthalmolVisSciC39:233-252,C19987)ShorbSR:AnemiaCandCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-thalmolC100:434-436,C19858)日本透析医学会:2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.透析会誌49:89-158,C20169)笹野久美子,安藤文隆,長坂智子ほか:増殖糖尿病硝子体手術成績と腎性貧血との関連について.眼紀C44:1152-1157,C199310)AndoF,NagasakaT,SasanoKetal:Factorsin.uencingsurgicalresultsinproliferativediabeticretinopathy.GerJOphthalmolC2:155-160,C199311)笹野久美子,安藤文隆,長坂智子ほか:エリスロポイエチンによる高度腎性貧血治療後の糖尿病網膜症硝子体手術成績.あたらしい眼科11:1083-1086,C199412)笹野久美子,安藤文隆,鳥居良彦ほか:増殖糖尿病硝子体手術の視力予後への全身的因子の関与について.眼紀C47:C306-312,C199613)石井晶子,馬場園哲也,春山賢介ほか:糖尿病透析患者における網膜症の年次的変化.糖尿病C45:737-742,C200214)吉富健志,石橋達朗,山名泰生ほか:透析療法中の糖尿病患者の網膜症について.臨眼37:1179-1184,C1983***

糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例

2024年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(8):1031.1035,2024c糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例藤原雅治田片将士横山弘荒木敬士関谷友宏五味文兵庫医科大学眼科学教室CTwoCasesofDiabeticRetinopathyAssociatedNeovascularGlaucomaSuccessfullyTreatedby27-GaugeParsPlanaVitrectomyCombinedwithTrabeculectomyMasaharuFujiwara,MasashiTakata,HiroshiYokoyama,TakashiAraki,TomohiroSekiyaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversityC目的:糖尿病網膜症(DR)による血管新生緑内障(NVG)に対しC27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)併用線維柱帯切除術(TLE)を施行したC2例を報告する.症例:症例C1はC56歳,男性.左眼視力低下を主訴に近医を受診,左眼血管新生緑内障と診断され兵庫医科大学病院(以下,当院)を紹介受診.初診時,左眼矯正視力C0.05,左眼眼圧C24CmmHg.水晶体再建術併用のCPPVとCTLEを同日施行した.術後,矯正視力C0.6,眼圧C15CmmHgとなった.症例C2はC60歳,男性.糖尿病加療中に右眼視力低下と眼痛を主訴に当科を受診.初診時,右眼矯正視力はC50Ccm手動弁,右眼眼圧はC44CmmHg.虹彩ルベオーシスと幅広い範囲に周辺虹彩前癒着を認めた.水晶体再建術併用のCPPVとTLEを同日施行した.術後,PPV併用CTLEにより良好な眼圧コントロールを得た.CPurpose:Toreporttwocasesofdiabeticretinopathyassociatedneovascularglaucomathatweresuccessfullytreatedwith27-gaugeparsplanavitrectomy(PPV)combinedwithtrabeculectomy(TLE)C.Casereports:Case1involvedCaC56-year-oldCmaleCwhoCpresentedCatCaCnearbyChospitalCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inhislefteyeandwassubsequentlyreferredtoourdepartmentafterbeingdiagnosedwithneovascu-larCglaucomaCinCthatCeye.CUponCexamination,CtheCcorrectedCVACandCintraocularpressure(IOP)inCthatCeyeCwereC0.05and24CmmHg,respectively.PPVcombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlens(IOL)implantation,andTLEwasperformedonthesameday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and15CmmHg,respectively.Case2,a60-year-oldmale,visitedourdepartmentwiththeprimarycomplaintofdecreasedVAandpaininhisrighteyeduringtreatmentfordiabetes.Uponexamination,thecorrectedVAandIOPinthateyewashandCmotionCatC50CcmCandC44CmmHg,Crespectively,CandCrubeosisCiridisCandCextensiveCperipheralCanteriorCsynechiaeCwereCobserved.CPPVCcombinedCwithCphacoemulsi.cation,CIOLCimplantation,CandCTLECwasCperformedConCtheCsameCday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and9CmmHg,respectively.Conclusion:IncasesofCneovascularCglaucomaCdueCtoCdiabeticCretinopathy,CgoodCIOPCcontrolCcanCbeCachievedCviaCtheCcombinationCofC27-gaugePPVandTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1031.1035,C2024〕Keywords:27ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術,線維柱帯切除術,血管新生緑内障,糖尿病網膜症.27-guageCparsplanavitrectomy,trabeculectomy,neovascularglaucoma,diabeticretinopathy.Cはじめにanteriorsynechia:PAS)を生じることで房水流出が阻害さ血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は,後眼れ,眼圧上昇が生じる難治性の続発緑内障である.糖尿病網部の虚血や血管閉塞により血管新生因子が放出され,前眼部膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症,眼虚血に新生血管が発生し,器質性の周辺虹彩前癒着(peripheral症候群がC3大原因疾患であるが,慢性ぶどう膜炎などの炎症〔別刷請求先〕藤原雅治:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1C-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasaharuFujiwara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospital,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1前眼部写真a:症例1.虹彩の広い範囲に新生血管を認める.Cb:症例2.虹彩下方に新生血管を認める.性疾患,眼腫瘍などでも発症しうる1).NVGでは点眼や内服では眼圧下降が不十分であることが多く,汎網膜光凝固術(panretinalCphotocoagulation:PRP),血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体の硝子体注射を行い,最終的に線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)などの外科的介入を必要とする1).PRPを最周辺部まで確実に行うことができる経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy:PPV)とCTLEの併用術は酸素需要を低下させ,血管新生因子の放出を抑制することで,眼圧下降が期待できる.今回,DRのCNVGに対し,27ゲージCPPVとCTLEの併用術により最終的に眼圧下降が得られたC2症例を経験したので報告する.CI症例[症例1]56歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは7%台),眼科受診歴は不明であった.1週間前からの左眼視力低下を自覚し同病院眼科にコンサルトされた.左眼視力30Ccm指数弁,左眼眼圧C36CmmHg,左眼虹彩ルベオーシスと高度角膜浮腫を認め,NVGと診断された.左眼にドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合液,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液およびアセタゾラミド250Cmgの内服を開始し,手術加療目的で兵庫医科大学病院眼科(以下,当院)紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.0C×sph.4.00D),左眼0.04(0.05C×sph.3.50D(cyl.1.50DAx180°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C24CmmHgであった.左眼は角膜透明平滑,前房深度は正常であったが,虹彩に広範囲に及ぶルベオーシス(図1a)を認め,隅角鏡検査にてCPASIndexはC50%程度であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeIIの核白内障を認めた.眼底には両眼とも点状出血,硬性白斑が散在していた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,両眼とも広範囲に無灌流領域を認め,右眼は新生血管を認めたが,左眼にはみられず,腕-網膜時間はC25秒と延長を認めた.経過:当科初診日より両眼のCPRPを開始,左眼に抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.右眼はC250.300Cμm/30msec/140.400CmWでC1,540発,左眼はC250Cμm/30Cmsec/340CmWでC1,924発施行した.その後も左眼眼圧はC24.37mmHgで推移していた.初診日よりC26日後に左眼水晶体再建術,PPV,TLEを施行した.水晶体再建術を施行後,3ポートを作製し中心部硝子体切除を行い,トリアムシノロンアセトニドで硝子体を可視化し後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)を作製,強膜圧迫子を使用し周辺部の網膜光凝固術を追加した.硝子体出血,牽引性網膜.離は認めなかった.インフュージョンチューブ灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製し,0.04%マイトマイシンCC(Mito-mycinC:MMC)をC3分間塗布後,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,10-0ナイロン糸で結膜縫合し手術を終了した(図3).術翌日より前房内および硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を左眼C4回からC6回に,リンデロン眼軟膏を左眼C3回追加したところ,次第にフィブリンは軽快した.適宜レーザー切糸(lasersuturelysis:LSL)を施行し,入院中左眼圧はC4.16CmmHgで,術C10日後で退院となった.術後C9週で左眼圧はC14CmmHg,虹彩ルベオーシスが残存していたため,抗CVEGF薬硝子体注射を施行した.術後C23週の時点での左眼視力は(0.4C×sph.3.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC14CmmHg,虹彩ルベオーシスは消失し,濾過胞の状態はCIndianaCBlebCAppearanceCGradingScale(IBAGS)でCH2CE3CV2S0であった.以降左眼眼圧はC10.18CmmHgで推移し,術後C55週にC24CmmHgに上昇したため,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.ab図2後眼部写真a:症例C1.両眼とも点状出血,硬性白斑の散在を認める.Cb:症例C2.左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた.後日右眼にも網膜前出血,軟性白斑を認めた.術後約C1年半が経過した当科最終受診時の左眼視力は(0.6C×sph.3.00D),緑内障点眼を併用し眼圧はC15mmHgであった.[症例2]60歳,男性.主訴:右眼視力低下と眼痛.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは6%台),近医眼科に通院中であったが,1週間前からの右眼視力低下と眼痛を自覚し当科受診となった.既往歴:2型糖尿病,心筋梗塞(冠動脈バイパス手術後).初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.9C×sph.1.75D),眼圧は右眼C44CmmHg,左眼C14CmmHgであった.右眼は前房深度正常であったが,中等度散瞳,角膜上皮浮腫,虹彩ルベオーシス(図1b)を認め,隅角鏡検査ではCPASIndexは100%であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeCIIIの核白内障を認めた.右眼は網膜前出血,軟性白斑を認め,左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた(図2b).経過:受診当日,右眼に抗CVEGF薬硝子体内注射を施行し,20%マンニトール点滴を施行したところ眼圧はC32mmHgに改善した.同日右眼にラタノプロスト,ブリンゾ図3術中写真インフュージョンチューブによる灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製している.ラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.翌日外来にて右眼のCPRPを開始したが,散瞳不良のため十分に施行できなかった.5日後の再診時に眼圧がC42CmmHg,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液の追加投与を行った.翌日には眼圧がC26CmmHgまで低下した.右眼虹彩ルベオーシスは改善したが,保存的治療では眼圧下降が得られなかったことから外科的治療を行うこととなった.水晶体再建術を施行し,3ポート作製後,中心部硝子体切除および周辺部の硝子体切除を施行した.PVDはすでに形成されており,強膜圧迫を行いながらCPRPを完成させた.トロッカーを抜去し,円蓋部基底で結膜切開を行い,角膜輪部の12時方向にC3mm四方の強膜C2枚弁を作製,0.04%CMMCをC3分間塗布し,前房メインテナーによる灌流下で線維柱帯切除を行い,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,結膜をC10-0ナイロン糸にて縫合し手術を終了した.術翌日より硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を右眼C4回からC6回に増量したところ,徐々にフィブリンは消失した.LSLを適宜施行し,術C7日後に退院となった.入院中の右眼眼圧はC3.16CmmHgであった.退院後しばらく右眼眼圧は一桁を推移していた.術後C13週で虹彩ルベオーシスは認めなかったが,硝子体出血と視神経乳頭付近に新生血管を認め,眼圧がC24CmmHgに上昇したため,抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.術後C16週の時点で右眼視力は硝子体出血のため(0.15C×sph+7.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC4CmmHg,濾過胞はCIBAGSでCH2CE3CV2CS0であった.3カ月後より濾過胞に部分的な癒着形成がみられ,眼圧がC35CmmHgまで上昇したため,術後C30週に右眼CNee-dling術を施行した.その後数カ月間,右眼眼圧はC2.8mmHgを推移,術後C1年後の最終受診時の所見は右眼視力(0.6C×sph+2.00D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は緑内障点眼なしでC9CmmHgであった.CII考按NVGは難治であることが知られ,TLEを行っても不成功に終わることが少なくない.後眼部の虚血による低酸素状態で誘導されるCVEGFは,眼内の新生血管発生に大きく関与する2).またCVEGFは,Tenon.線維芽細胞などの非血管系細胞を誘導することで濾過胞の瘢痕形成を促進することが報告されている3).TLE施行後に長期的な眼圧コントロールをめざすには,VEGFのさらなる産生を抑制し,濾過胞を維持することが重要である4).そのための手段として早期のCPRPと適切な抗CVEGF薬の投与が必須となる5).しかし,NVGでは角膜浮腫,散瞳不良,あるいは併発する硝子体出血などで,十分にCPRPができないことも少なくない.PPVを行うことで鋸状縁まで十分な網膜光凝固術を施行でき,とくに硝子体出血や硝子体混濁,眼外からのCPRPが困難な症例でも最周辺部まで確実な網膜光凝固術が可能となるため,同時CPPVはCTLEの成功に寄与する可能性がある.一方で同時にCPPVを行うデメリットもある.Takiharaら6)はCMMC併用CTLEの予後不良因子として,NVGの他に硝子体手術の既往を報告している.NVG発生のメカニズムには虚血によるCVEGFのほか,インターロイキン(interleu-kin:IL)-6,IL-8,monocytechemotacticprotein-1などの炎症性サイトカインの関与が示唆されている7).濾過胞の瘢痕形成にも炎症細胞から放出されるCtransformingCgrowthCfactor-bなどの炎症性サイトカインが関与していることが示されている8).PPVと眼内網膜光凝固術の併施はCTLE単独と比較して侵襲性が高まって術後炎症が増加することで,濾過胞の維持に影響する可能性が考えられる.本症例では,術後に追加の抗CVEGF薬硝子体内注射を要し,また症例C2では濾過胞維持のための追加処置が必要になったが,2例とも術後C1年の時点では良好な眼圧を得ている.Kiuchiら9)はCNVGに対するCPPV併用CTLEに関し,硝子体出血,増殖膜,牽引性網膜.離のある群と,これらを合併していない群とに分けて術後成績を報告している.それによると,増殖膜と牽引性網膜.離を合併している症例では眼圧は優位に低下せず,その他の症例では優位に眼圧下降が得られていた.今回のC2症例ではこれら予後不良因子の合併はなかったため,よい成績が得られたと考えられ,仮にこれらを合併していた場合は,もともと眼内のCVEGF濃度が高いと考えられるうえに手術侵襲が増すことで炎症も増え,術後成績が悪化した可能性がある.なおCTLEとの併用を考えた場合,PPV時のポート作製に伴う結膜損傷は最小限にしておくことが望まれる.家兎眼を対象とした異なるゲージで実施したCPPV後の比較試験では,小口径であるほど硝子体内蛋白濃度が有意に低く,結膜瘢痕化の程度が低いことが報告されている10,11).松本ら12)もNVGを含む続発緑内障に対するC25ゲージCPPVとCMMC併用CTLEの同時手術において,網膜周辺部まで十分な網膜光凝固を追加し,良好な眼圧コントロールと視力を得た症例を報告している.27ゲージシステムを用いた低侵襲硝子体手術(microCincisionCvitrectomysurgery:MIVS)は,従来のゲージシステムよりも結膜の温存と術後炎症反応の軽減に有効であると考えられる.今回経験したC2症例ではC27ゲージシステムを採用し,より低侵襲で手術を行うことができたことも,良好な経過をとった一因になった可能性がある.NVGの眼圧コントロールにおいて,PPVとCTLEのいずれもが重要な役割を果たす.現在のCMIVS時代におけるPPV併用CTLEの有用性を確認するためには,今後,症例数を増やした前向き研究が望まれる.文献1)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19842)CampochiPA:Ocularneovascularization.JMolMedC91:C311-321,C20133)LiCZ,CBergenCVanCT,CVanCdeCVeireCSCetal:InhibitionCofCvascularendothelialgrowthfactorreducesscarformationafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:5217-5225,C20094)BergenVanT,VandewalleE,VeireVandeSetal:TheroleCofCdi.erentCVEGFCisoformsCinCscarCformationCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CExpCEyeCResC93:689-699,C20115)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C20086)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20097)OhiraCS,CInoueCT,CShobayashiCKCetal:SimultaneousCincreaseCinCmultipleCproin.ammatoryCcytokinesCinCtheCaqueoushumorinneovascularglaucomawithandwithoutCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:3541-3548,C20158)SeiboldLK,SherwoodMB,KahookMY:Woundmodu-lationCafterC.ltrationCsurgery.CSurvCOphthalmolC57:530-550,C20129)KiuchiCY,CNakaeCK,CSaitoCYCetal:ParsCplanaCvitrectomyCandCpanretinalCphotocoagulationCcombinedCwithCtrabecu-lectomyforsuccessfultreatmentofneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC244:1627-1632,C200610)InoueCY,CKadonosonoCK,CYamakawaCTCetal:Surgically-inducedin.ammationwith20-,23-,and25-gaugevitrec-tomysystems:anCexperimentalCstudy.CRetinaC29:477-480,C200911)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:602-609,C201712)松本行弘,三浦克洋,筑田眞:続発緑内障に対する硝子体手術と線維柱帯切除術同時施行例の手術成績.眼臨C100:775-780,C2006***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対する アンケート調査−発行半年~20 年目の推移−

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):458.464,2024c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査.発行半年~20年目の推移.大野敦粟根尚子佐分利益生高英嗣田中雅彦谷古宇史芳廣田悠祐小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CQuestionnaireSurveyontheDiabeticEyeNotebookamongOphthalmologistsintheTamaArea.Changesfrom6Monthsto20YearsafterPublication.AtsushiOhno,NaokoAwane,MasuoSaburi,HidetsuguTaka,MasahikoTanaka,FumiyoshiYako,YusukeHirota,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目に計C7回施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか,9)他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果をC7群間で比較した.結果・結論:眼手帳発行後C20年の間に,眼手帳を渡すこと,内科医が渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになった.他院発行の眼手帳を見る機会は増え,眼手帳の広まりを感じ始めてきた.CPurpose:ACquestionnaireCsurveyCofCophthalmologistsConCtheCDiabeticCEyeNotebook(DEN)wasCconductedCsevenCtimesCinCtheCperiodCfromC6CmonthsCtoC20CyearsCafterCpublication,CandCchangesCinCtheCsurveyCresultsCwereCexamined.CMethods:TheCsubjectsCwereCophthalmologistsCinCtheCTamaCarea.CTheCsurveyCitemswere:1)currentCstatusofDENdistribution,2)senseofresistancetosubmittingtheDEN,3)clinicalappropriatenessofthedescrip-tionCof“guidelinesCforCthoroughCfunduscopicCexamination”,4).eldsCinCtheCDENCthatCareCdi.cultCtoCcomplete,5)Citemsthatshouldbeaddedtotheclinical.ndings.eld,6)areainwhichtheDENshouldbedistributed,7)wheth-erCorCnotCtheCDENCcostCnotCcoveredCbyCmedicalCinsuranceCisCanCobstacleCtoCitsCpromotion,8)whetherCorCnotCtheCDENshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheDENissuedbyotherhospitals,and10)promotionoftheDEN.Wecomparedtheresultsamongthesevengroups.ResultsandConclusion:Inthe20yearssincethepublicationoftheDEN,thelevelofresistancetosubmittingtheDENandtotheinternisthand-ingitoverhasdecreased,anditisnowsubmittedearlier.TheopportunitiestoseetheDENissuedbyotherhospi-talshaveincreased,andtheyhavenoticedthespreadoftheDEN.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(4):458.464,C2024〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,糖尿病黄斑症,内科・眼科連携.diabeticCeyeCnote-book,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,diabeticmaculopathy,cooperationbetweeninternistandophthal-mologist.Cはじめに一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントのに設立した糖尿病治療多摩懇話会において,内科と眼科の連〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC458(92)携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し,地域での普及を図った1).この活動をベースに,筆者はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携C.放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC21年が経過し,2020年には第C4版に改訂され,その利用状況についての報告が散見される4.7).多摩地域では,眼手帳に対する眼科医へのアンケート調査を発行半年.20年目までにC7回施行しているが,発行C7年目まで8)と10年目まで9)の比較結果を報告した.本稿ではC20年目までのC7回の調査結果を比較することで,眼手帳に対する眼科医の意識の変化を検討した.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,アンケート調査は,発行半年.13年目は眼手帳の協賛企業である三和化学研究所の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の普及啓発を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうがよいと判断した.発行18年目,20年目は,三和化学研究所の諸事情と倫理的問題を考慮し,アンケート調査は郵送での送付とCFAXを利用した回収で施行し,発行C18年目はC141件,20年目はC146件に郵送を行った.なお,いずれの年もアンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,三和化学研究所の関係者は関与していない.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答を依頼したアンケート項目は,以下のC10項目である.問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問C3.眼手帳のC1ページの「精密眼底検査の目安」【20年目の第C4版は「推奨される眼科受診間隔」】の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問C4.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問C5.眼手帳のC4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問C6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問C7.診療情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいとお考えですか問C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問C10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目以降】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問C1.10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.7群間の回答結果の比較にはC|2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.CII結果回答者のプロフィール(表1)回答者数は,発行半年目C96名,2年目C71名,7年目C68名,10年目54名,13年目50名,18年目42名(回収率:29.8%),20年目C50名(回収率:34.2%)であった.年齢はC7年目まではC40歳代,10年目からはC50歳代がもっとも多く経年的に有意な上昇を認めた(C|2検定:p<0.001).勤務施設は診療所の割合がC10年目まではC70%台であったが,その後C80%以上に増加傾向を認めた(C|2検定:p=0.09).定期受診中の糖尿病患者数は,病院勤務医の割合の変動もあり,経年的に増減傾向を示した(C|2検定:p=0.05).C1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目.20年目で比較した.その結果,「眼手帳を今回はじめて知った」との回答は,2.13年目はC5%未満にとどまり18,20年目は認めず,眼手帳の認知度はC95%以上であった.一方,「積極的配布」と「時々配布」を合わせて,7,10,18年目はC60%,13年目はC70%を超え,20年目は前者がC40%を超え,6群間に有意差を認めた(C|2検定:p=0.03).C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて,2,7,20年目はC80%,10,13,18年目はC90%を超え,7群間で有意差を認めた(C|2検定:p=0.01).C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が,18年目まではC80%を超えていたがC20年目はC70%まで減少し,「目安の記載自体混乱の元なので不必要」や「目安はあったほうがよいが記載内容の修正が必要」の回答が増えていた(|2検定:p=0.15).表1回答者のプロフィール年齢半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)0%(0)0%(0)0%(0)0%(0)30歳代28.1%(C27)21.1%(C15)14.7%(C10)7.4%(4)12.0%(6)2.4%(1)14.0%(7)40歳代33.3%(C32)38.0%(C27)38.2%(C26)31.5%(C17)28.0%(C14)19.0%(8)18.0%(9)50歳代17.7%(C17)16.9%(C12)29.4%(C20)37.0%(C20)42.0%(C21)42.9%(C18)36.0%(C18)60歳代11.5%(C11)9.9%(7)11.8%(8)14.8%(8)12.0%(6)21.4%(9)18.0%(9)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)7.4%(4)6.0%(3)14.3%(6)14.0%(7)未回答3.1%(3)0%(0)0.1%(1)1.9%(1)0%(0)0%(0)0%(0)勤務施設半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)診療所75.0%(C72)71.8%(C51)76.5%(C52)79.6%(C43)84.0%(C42)92.9%(C39)80.0%(C40)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)9.3%(5)2.0%(1)0%(0)8.0%(4)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)11.1%(6)12.0%(6)0%(0)4.0%(2)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)その他C─C─2.9%(2)0%(0)0%(0)2.5%(1)4.0%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)0%(0)2.0%(1)2.5%(1)0%(0)糖尿病患者数半年目(9C6名)2年目(7C1名)7年目(6C8名)10年目(5C4名)13年目(5C0名)18年目(4C2名)20年目(5C0名)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)9.3%(5)6.0%(3)0%(0)6.0%(3)10.C29名31.3%(C30)16.9%(C12)19.1%(C13)16.7%(9)26.0%(C13)21.4%(9)12.0%(6)30.C49名19.8%(C19)19.7%(C14)23.5%(C16)22.2%(C12)34.0%(C17)16.7%(7)18.0%(9)50.C99名14.6%(C14)14.1%(C10)14.7%(C10)9.3%(5)8.0%(4)26.2%(C11)24.0%(C12)100名以上10.4%(C10)29.6%(C21)23.5%(C16)11.1%(6)20.0%(C10)26.2%(C11)28.0%(C14)未回答15.6%(C15)8.5%(6)10.3%(7)31.5%(C17)6.0%(3)9.5%(4)12.0%(6)4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)10年目までは「福田分類」と「糖尿病網膜症の変化」の選択者が多かったが,福田分類削除後のC13年目以降は「糖尿病黄斑症」関連,20年目は「中心窩網膜厚と抗CVEGF療法」関連の選択者が多かった.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図3)追加したい項目は,「特にない」がC7群ともC80%以上を占めて有意差は認めなかった(C|2検定:p=0.15).追加したい項目のある回答者における追加希望項目は,13年目まではHbA1cがもっとも多かったが,18年目以降は他の眼底所見の記入欄,20年目はフリースぺースへの要望を認めた.C6.眼手帳を渡したい範囲(図3)配布の希望範囲は,「全ての糖尿病患者」の比率が経年的に増加してC10年目からは約C60%をキープし,「網膜症が出現してきた患者」の比率は減少し,7群間に有意差を認めた(|2検定:p=0.01).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げに「まったくならない」と「あまりならない」を合わせると,7群ともC60%以上で有意差はなかった(C|2検定:p=0.90).C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(図4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答がC10年目から減少し,「内科医が渡しても良い」と「どちらでも良い」の回答の比率が有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,発行C2年目.20年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,「かなりある」と「多少ある」を合わせて,7年目はC60%台,10,13年目はC70%台,18年目はC80%台,20年目はC90%台を占め,有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).C10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目とC2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目以降は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,「眼手帳はかなり広まる・広まって問1眼手帳の利用状況\2検定p=0.032年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問2眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感\2検定p=0.01半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%問3眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度\2検定p=0.15半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図1問1~3の回答結果積極的に配布している時々配布している必要とは思うが配布していない必要性を感じず配布していない眼手帳を今回はじめて知ったその他の配布状況未回答いる」との回答は,半年目.7年目のC30%未満と比べてC10年目.20年目はC40%前後に有意に増加していた(C|2検定:p<0.001).CIII考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の認知度はC95%以上であったが,船津らにより行われた全国C9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行C1年目の調査5)における認知度はC88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,それ以降全国規模の報告は認めないが当初はほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせてC7年目からはC60%を超えているが,先の発行C1年目5)と6年目7)の調査における活用度C60.5%,71.6%と比べるとやや低かった.必要とは思うが診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答がC10,13年目にC25%を超え,活用度を上げるには「コメディカルによる記入の協力」などより利用しやすい方法を考える必要性を感じていたが,18,20年目にその割合がC10%台まで減少しており,今後その背景を追跡調査していきたい.C2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感眼手帳配布に対する抵抗感は,2年目以降「まったくない」(95)と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えており,外来における時間的余裕と配布,ならびに手帳記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.C3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度目安の記載自体混乱のもとで「不必要」との回答をC18年目までC4.10%台認めている.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医の指示に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を感じていた.20年目は「不必要」がC18%,「修正が必要」がC12%まで増えていたが,20年目のアンケート調査時には眼手帳が第4版に改訂されて,「精密眼底検査の目安」から「推奨される眼科受診間隔」に変更されている.記載された修正コメントのなかには「緑内障等でも通院している患者は網膜症としてはC6カ月後で良いが,緑内障に対してはC1カ月毎の場合に記載の仕方で誤解が生じてしまう」などの記載があり,「糖尿病網膜症管理において推奨される眼科受診間隔」であることを伝える必要性が出てきた.あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C461問4受診の記録の中で記入しにくい項目次回受診予定日糖尿病黄斑症HBA1c糖尿病黄斑症の変化矯正視力糖尿病黄斑浮腫眼圧中心窩網膜厚白内障本日の抗VEGF療法糖尿病網膜症抗VEGF薬総投与回数糖尿病網膜症の変化特になし福田分類その他0%10%20%30%40%50%60%0%10%20%30%40%50%60%図2問4の回答結果問5受診の記録の中で追加したい項目の有無\2検定p=0.15半年目特にない2年目7年目ある10年目13年目18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問6眼手帳を渡したい範囲\2検定p=0.01半年目すべての糖尿病患者2年目網膜症が出現してきた患者7年目10年目正直あまり渡したくない13年目その他18年目未回答20年目0%20%40%60%80%100%問7文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか\2検定p=0.90半年目全くならない2年目あまりならない7年目10年目多少なる13年目かなりなる18年目20年目未回答0%20%40%60%80%100%図3問5~7の回答結果問8眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%\2検定p<0.00180%100%問9内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会2年目7年目10年目13年目18年目20年目\2検定p<0.001眼科医が渡すべき内科医でも良いどちらでも良い未回答かなりある多少あるほとんどない全くない未回答0%20%40%60%80%100%問10眼手帳の広まり\2検定p<0.001半年目2年目7年目10年目13年目18年目20年目0%20%40%60%80%100%図4問8~10の回答結果【半年・2年目】かなり広まると思う【7年.20年目】かなり広まっていると思う【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年.20年目】あまり広まっていないと思うどちらとも言えない未回答4.受診の記録の中で記入しにくい項目10年目までは「福田分類」の選択者がもっとも多かったが,眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また,筆者が以前非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類はもっとも記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため,ぜひ記入して頂きたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,2014年C6月に改訂された眼手帳の第C3版では,受診の記録から福田分類は削除された.一方,福田分類削除後のC13,18年目は眼手帳第C3版の「糖尿病黄斑症の変化」の選択者がもっとも多かったが,改善・悪化の基準が主治医に任されていたことも要因と思われる.20年目は眼手帳第C4版に替わり,「中心窩網膜厚と抗VEGF療法」の選択者が多かった.中心窩網膜厚の記載により黄斑症の変化を評価する必要性はなくなったものの,中心窩網膜厚の記載には光干渉断層計(OCT)撮影が必要であ(97)り,撮影結果を用いて忙しい外来時に黄斑浮腫関連の項目を記載する負担感が影響しているかもしれない.C5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目はとくにないとの回答がC80%以上を占めていたが,追加希望の項目としてはC13年目まではCHbA1cがもっとも多かった.HbAC1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ導入が期待されていたが,眼手帳第C4版では導入された.18年目以降は他の眼底所見の記入欄,フリースぺースへの要望を認めており,今後の改訂時に検討されることを期待したい.C6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目でC27.1%にとどまり,船津らの発行C1年目の調査5)でのC24.8%との回答結果に近似していた.しかし,2年目C40.8%,7年目C45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)でのC31.8%を上回り,10年目からは約C60%をキープしている.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目のC60%がC2年目とC7年目はC40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)でのC39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C463に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).C7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか「普及の妨げにまったく・あまりならない」との回答がC7群ともC60%以上を占めた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望ましい方向性を示している.C8.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目からは前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたる平成C22年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも,眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたために,今回のような回答の変化が生じた可能性が考えられる.C9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会「かなりある」と「多少ある」が増加し,「ほとんどない」と「まったくない」が減少していたが,とくに「かなりある」との回答がC10年目以降C20%を超えた背景には,前項の考察で触れたように,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えたことが考えられる.C10.眼手帳の広まり7年目までの厳しい評価から,10年目から眼手帳の広まりに対する高評価に推移した背景には,眼手帳発行C8年目に「糖尿病連携手帳」が登場し,内科医から眼手帳を同時発行する機会が増えた直接効果のみならず,内科と眼科の連携に対する意識が高まったことも考えられる.謝辞:アンケート調査にご協力いただきました多摩地域の眼科医師の方々,眼手帳発行半年.13年目のアンケート調査時にアンケート用紙の配布・回収にご協力いただきました三和化学研究所東京支店多摩営業所の医薬情報担当者方々に厚く御礼申し上げます.追記:本論文の要旨は,第C28回日本糖尿病眼学会総会と同時開催された第C37回日本糖尿病合併症学会(2022年C10月C22日)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会;船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,C2005***

広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の 各象限ごとの検討

2024年2月29日 木曜日

《第28回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(2):201.205,2024c広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の各象限ごとの検討山本学平山公美子居明香本田聡河野剛也本田茂大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学CInvestigationofEachQuadrantoftheRetinalNonperfusionAreausingWide-FieldOpticCoherenceTomographyAngiographyManabuYamamoto,KumikoHirayama,AkikaKyo,SatoshiHonda,TakeyaKohnoandShigeruHondaCDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:広角フルオレセイン蛍光造影(FA)と広角光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いて糖尿病網膜症(DR)の無灌流領域(NPA)の評価を各象限ごとに比較検討した.対象および方法:2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科で広角CFAと広角COCTAを撮影したC38例C76眼.広角CFAの撮影にはCOptos200Tx(Optos社,撮影画角200°)を,広角OCTAはCOCT-S1(キヤノン)を使用した.NPAの検討は,眼底を上下内外のC4象限に分け,FAを基準にCNPAの一致率を検討した.結果:各象限の所見一致率は上下内外それぞれ,80.6%,96.2%,96.8%,81.8%で下方,内側に高い傾向にあったが有意差はなかった(p=0.076).OCTAでのCNPAの感度はC72.7%,100%,100%,73.3%で有意差を認め(p<0.01),特異度はC100%,87.5%,85.7%,88.9%で有意差はなかった(p=0.737).結論:各象限ごとでCNPAの検出に違いがみられた.OCTAの特性を理解し活用することで,日常診療におけるCFAの機会の減少やより確実なCDRの評価につながると考えた.CPurpose:Tocompareandevaluatenon-perfusionareas(NPA)ofdiabeticretinopathy(DR)usingwide-.eld(WF)fundus.uoresceinangiography(FA)(WF-FA)andWFopticalcoherencetomographyangiography(WF-OCTA)ineachfundusquadrant.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved76eyesof38patientswhounder-wentWF-FAandWF-OCTAimaging.TheOptos200TxUltra-Wide.eldRetinalImagingDevice(OptosPlc)wasusedCforWF-FA(200°CangleCofview)C,CandCtheCXephilioOCT-S1(CanonInc.)wide-.eldCretinal-imagingCdeviceCwasusedforWF-OCTA.ForNPAexamination,thefunduswasdividedintofourquadrants(upper,lower,inner,andouter)C,andtheagreementrateofNPAwasexaminedbasedonFA.Results:Fortheupper,lower,inner,andouterCquadrants,CtheCagreementCratesCwere80.6%,96.2%,96.8%,Cand81.8%,respectively(p=0.076)C,withnosigni.cantdi.erencebetweenthelowerandinnerquadrants.ThesensitivityofNPAinOCTAwas72.7%,100%,100%,and73.3%,respectively,withasigni.cantdi.erence(p<0.01)C,andthespeci.citywas100%,87.5%,85.7%,and88.9%,respectively,withnosigni.cantdi.erences(p=0.737)C.CConclusion:Althoughthereweredi.erencesintheCdetectionCofCNPACinCeachCquadrant,CunderstandingCandCutilizingCtheCcharacteristicsCofCOCTACmayCleadCtoCaCmorereliableevaluationofDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):201.205,C2024〕Keywords:糖尿病網膜症,フルオレセイン蛍光造影,光干渉断層血管撮影.diabeticretinopathy,.uoresceinan-giography,opticcoherencetomographyangiography.CはじめにFA)が広く行われてきた.撮影には眼底カメラ型のものか糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は糖尿病患者ら最近ではレーザー光を使用した広角に撮影できる広角CFAにおける重大な眼合併症であり,その病期分類の評価には従も登場し,その有用性は確立している1.4).しかし,FAは来からフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:造影剤を使用し,アナフィラキシーショックなどの合併症リ〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町C1-4-3大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3,Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANC表1症例の内訳特徴症例数;例(眼)38(76)性別(例)男性C26,女性C12年齢;平均(範囲)60.7(C32.C87)高血圧;例(%)28(74)高脂血症;例(%)11(29)HbA1c(%);Median(Range)7.7(C4.9.C11.6)インスリン使用歴;例(%)15(39%)糖尿病網膜症重症度;眼(%)網膜症なし2(3%)軽症増殖前網膜症11(14%)中等度増殖前網膜症22(29%)重症増殖前網膜症20(26%)増殖網膜症21(28%)スクもあるため,眼底の経過観察のために頻回に行うことは躊躇される5).FAがCDRの詳細な眼底評価検査としてゴールドスタンダードであることは論をまたないが,DRの国際重症度分類では眼底観察所見が主体であり,FA所見が採用されていないことも日常診療での判断に制約を与えているともいえる.近年,眼底の断層像撮影が可能な光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)の,動的シグナルを抽出し眼底の血流を同定する光干渉断層血管撮影(opticcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場し,無侵襲に網膜血流を評価できるようになってきた6).当初COCTAは画角が小さいことが欠点であったが,最近では撮影技術の向上により,広角でCOCTAを撮影できる装置も市販化されてきた.OCTAでの血流シグナルの同定はいまださまざまな問題点もあるが,DRにおいてはCOCTAを活用する報告も多くなってきている7.9).今回筆者らは,DRの活動性評価に重要な所見である無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)について,広角COCTAを用いてCFAと比較評価し,所見の一致率や病期分類の妥当性を検討したので報告する.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大阪公立大学医学系研究等倫理審査委員会の承認のもと,オプトアウトによる後ろ向き観察研究である.対象はC2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科を受診し,広角CFAおよび広角COCTAを同時期に行ったCDR症例C38例C76眼である.表1に症例の内訳を示す.男性C26例,女性C12例,平均年齢は60.7歳(32.87歳)であった.広角CFAの撮影にはCOptos200TX(Optos社,撮影画角約C200°)を,広角COCTAにはOCT-S1(キヤノン,撮影画角約C80°)を用いた.FAとOCTAの撮影時期はC1週間以内のものを採用した.FAの画像には造影後C1分後以降の静脈相のものを使用した.また,OCTAの画像の検出にはCdefaultのCOCTAモード(20C×23mm)で撮像し,denoise処理を行ったCsuper.cialCperiphery(網膜内層用モード)で解析したものを採用した.NPAの検討方法は,眼底を上下内外のC4象限に分け,各象限ごとにCNPAの有無を比較した(図1).NPAは長径がC1乳頭径以上のものをCNPAありとし,二人の専門医(M.Y.,A.K.)でCNPAあり,NPAなし,判定不能のC3段階で評価した.判定不能の基準は,FA,OCTAともに網膜血管の陰影が追えていることを目安とし,各象限ごとの範囲内にC50%以上判定できない領域がある場合を判定不能とした.検討項目は,FAとCOCTAで判定が可能であった割合,FA所見を基準としたCOCTAによるCNPAの検査精度(全体および各象限ごと),NPAの程度のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行うと仮定した場合の一致率(NPAがC1.2象限:局所光凝固,3象限以上:汎網膜光凝固)を検討した.統計学的手法として,各機器の診断可能であった割合にはCMcNemar’stestを,各象限同士のCFAとCOCTAでの判定可能率および所見の一致率にはCChi-squaredtestを,レーザー網膜光凝固術の一致率にはCChi-squaredtestを用いた.統計解析の有意水準はCp=0.05とし,多重比較の補正にはBonferroni法を用いた.統計解析ソフトはCSPSSCver24.0(IBM社)を使用した.CII結果76眼C304カ所の象限中,NPAの判定不能であった箇所を除いた総数は広角CFAではC281カ所(92.4%),広角COCTAではC238カ所(78.3%)で,両者で判定可能であったものは225カ所(全体のC74.0%,広角CFAで判定できたもののうち80.1%)であった.このC225カ所を両機器のCNPA判定比較に採用した.また,広角CFAで判定不能とされたC23カ所では,13カ所(56.5%)が広角COCTAでCNPAの判定が可能であった.各象限ごとの両機器の比較では,全象限で広角CFAのほうが広角COCTAより判定できた割合は高く(p<0.001,CMcNemar’stest),象限ごとの判定可能率は下側で低い傾向はあったが有意差はみられなかった(p=0.18,Chi-squaredtest)(図2).広角CFA所見を基準とした場合のCNPAの検査精度を表2に示す.所見の一致率は下側,鼻側で高く,上側,耳側で低い傾向にあった(p<0.01,Chi-squaredtest).とくに上側では感度は低いが特異度は高く,外側では感度・特異度とも低い傾向にあった.NPAの象限数のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行った場合,広角COCTAで非適応はC10眼(17.9%),局所網膜光凝固術はC18眼(32.1%),汎網膜光凝固術はC28眼図1FAとOCTAでの各象限の区分け黄斑部を中心とし,上側,下側,内側,外側のC4象限に分けて,各象限ごとに無灌流領域を比較した.糖尿病網膜症の診療におけるCFAの役割は,網膜症の病期判定できた割合を判定し,治療適応の可否を決定することが主体である.網膜症の病期ごとに比較した検討では,軽症よりも重症網膜症でCFAの重要性が高いという報告もある.重症であればあるほど頻度は厭わず網膜症を詳細に評価することが望ましくなる一方で,FAでは造影剤を使用するため,頻回な評価は困難である.OCTAでは,非侵襲的に網膜や脈絡膜の循環動態を観察でき,臨床上はCFAより簡便に施行できるのがメリットである7).今回の検討では,広角CFAでの診断可能率がC92.4%,広角COCTAではC78.2%であり,OCTAで割合が劣るものの,非侵襲,頻回の評価が可能なことは使用に足るものと思われる.広角CFA・OCTAで検出率の違いが生じた原因として,検出方法の違いがあげられる.今回使用したCOCTAでは,約1分程度の固視が必要であり,固視が不十分であるとCcomb-ingnoiseといわれる横縞様の水平のずれが生じてしまい,評価が困難となる.今回の検討でも,OCTAで評価不能であったもののほとんどはこのCcombingnoiseによるものであった.一方,FAでは固視不良であっても撮影可能であり,新生児や乳幼児であっても撮影可能との報告もある4,10).これが診断可能な割合の大きな原因となっているが,現行の診断機器ではCOCTAの検出技術上はむずかしい.しかし,さらなる機器の発展により克服できる可能性は十分にある.逆に,FAで評価不能であったもののうち,56.5%でCOCTA評価が可能であった.この理由の一つとして光源波長の違いがある.FAで使用されている波長はC488Cnmであるのに対表2広角FA所見を基準とした広角OCTAによるNPAの一致表3広角OCTAでのNPAの象限数によるレーザー適応判定と率と検査精度広角FAとの一致率一致率86.7%81.4%95.9%94.8%76.3%感度84.8%71.1%97.1%97.8%66.7%特異度90.0%100.0%92.9%84.6%84.4%陽性的中率93.8%100.0%97.1%95.7%78.3%陰性的中率76.6%65.6%92.9%91.7%75.0%偽陽性率10.0%0.0%7.1%15.4%15.6%偽陰性率15.2%28.9%2.9%2.2%33.3%陽性尤度比C8.48C∞C13.60C6.36C4.27陰性尤度比C0.17C0.29C0.03C0.03C0.40では,鼻側から進行しやすく周辺部へと進むものが多いこと,前述のように下側の最周辺部は検出しにくいことから,撮影画角が狭いCOCTAとの一致率は下側・鼻側で高い傾向にあったと考えられる12.14).Zengらの広角COCTAの画角に広角CFAを合わせて検討した研究では,FAとCOCTAで検出できたCNPAの面積には差はみられなかったと報告している15).この研究での画角はC81°C×68°とほぼCOCT-S1と同等のものであり,画角が同一であった場合は両者ともほぼ同一の検出率であるかもしれない.ただし,この報告では全例でCFAとCOCTAの撮影が可能であったとされているので,前述した硝子体出血などの画像構築に支障をきたす病態があると両者に違いが生じる可能性はあり,対象の違いは考慮する必要がある.さらに,富安らは,広角CFAを使用しC7.7%で最周辺部のみにCNPAを認める症例があるとしており,画角が狭いCOCTAではこのような所見を検出できていなかった可能性がある2).OCTAでも,撮影枚数を増やしパノラマ画像を作製することも可能であり,簡便さとのトレードオフになるが,眼底所見で疑わしい場合にはそのような工夫も必要かもしれない.NPAのみを判断基準とした網膜光凝固術の治療適応基準では,OCTAで非適応となったものはCFAでも非適応であり,汎網膜光凝固術が適応となったものはCFAでも適応となっていた.あくまでCNPAに限定した適応基準であり,実臨床では総合的に判断する必要はあるものの,OCTAを活用することでCFAの施行回数を少なくすることはできると考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドラインにも示されているように,NPAの出現を早期に判断して汎網膜光凝固術を行うほうが網膜症の重症化を予防できるとされているため,頻回に検査ができることはCOCTAでの利点である1,16).今回の結果をふまえ,軽症非増殖網膜症以上の進行や前回よりも悪化がみられた場合には,FA施行の前にCOCTAを撮影することで,FAの機会を少なくしつつ網膜光凝固の適応を適切な時期に考慮できると思われる.今後もさらなる症例の蓄積,解析を行い,より精密な評価が必要と考えられる.非適応10(C17.9)C100局所網膜光凝固術18(C32.1)C66.7汎網膜光凝固術28(C50.0)C100C文献1)瓶井資,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20202)富安胤,平原修,野崎実ほか:超広角蛍光眼底造影による糖尿病網膜症の評価.日眼会誌C119:807-811,C20153)FalavarjaniGK,TsuiI,SaddaSR:Ultra-wide-.eldimag-ingCinCdiabeticCretinopathy.CVisionCResC139:187-190,C20174)MagnusdottirCV,CVehmeijerCWB,CEliasdottirCTSCetal:CFundusCimagingCinCnewbornCchildrenCwithCwide-.eldCscanninglaserophthalmoscope.ActaOphthalmolC95:842-844,C20175)大矢佳,中村裕,安藤伸:フルオレセイン蛍光眼底造影における副作用の危険因子と安全対策.日眼会誌C122:95-102,C20186)石羽澤明:OCTアンギオグラフィーのすべて糖尿病網膜症への応用.眼科グラフィックC5:335-339,C20167)HorieS,Ohno-MatsuiK:ProgressofimagingindiabeticretinopathyC─CfromCtheCpastCtoCtheCpresent.CDiagnostics(Basel):12,C1684,C20228)ZhangCQ,CRezaeiCKA,CSarafCSSCetal:Ultra-wideCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCdiabeticCretinopa-thy.QuantImagingMedSurgC8:743-753,C20189)SawadaCO,CIchiyamaCY,CObataCSCetal:ComparisonCbetweenCwide-angleCOCTCangiographyCandCultra-wideC.eldC.uoresceinCangiographyCforCdetectingCnon-perfusionCareasandretinalneovascularizationineyeswithdiabeticretinopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:C1275-1280,C201810)KothariCN,CPinelesCS,CSarrafCDCetal:Clinic-basedCultra-wideC.eldCretinalCimagingCinCaCpediatricCpopulation.CIntJRetinaVitreousC5:21,C201911)CoscasCF,CGlacet-BernardCA,CMiereCACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCretinalCveinCocclu-sion:evaluationCofCsuper.cialCandCdeepCcapillaryCplexa.CAmJOphthalmolC161:160-171Ce161-e162,C201612)JacobaCMP,AshrafM,CavalleranoJDetal:AssociationofmaximizingvisibleretinalareabymanualeyelidliftingwithCgradingCofCdiabeticCretinopathyCseverityCandCdetec-tionCofCpredominantlyCperipheralClesionsCwhenCusingCultra-wide.eldimaging.JAMAOphthalmolC140:421-425,C202213)FluoresceinCangiographicCriskCfactorsCforCprogressionCofCdiabeticCretinopathy.CETDRSCreportCnumberC13.CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchCGroup.COphthalmologyC98:834-840,C199114)JungCEE,CLinCM,CRyuCCCetal:AssociationCofCtheCpatternCofCretinalCcapillaryCnon-perfusionCandCvascularCleakageCthalmolC15:1798-1805,C2022CwithCretinalCneovascularizationCinCproliferativeCdiabetic16)JapaneseCSocietyCofCOphthalmicCDiabetologyCSotSoDRT,Cretinopathy.JCurrOphthalmolC33:56-61,C2021CSatoY,KojimaharaNetal:Multicenterrandomizedclini-15)ZengQZ,LiSY,YaoYOetal:Comparisonof24C×20CmmCcalCtrialCofCretinalCphotocoagulationCforCpreproliferative(2)swept-sourceOCTAand.uoresceinangiographyfordiabeticretinopathy.JpnJOphthalmolC56:52-59,C2012Ctheevaluationoflesionsindiabeticretinopathy.IntJOph-***

全般性不安障害を合併し,短期間に糖尿病網膜症が 進行した若年発症2 型糖尿病の1 例

2023年1月31日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(1):101.105,2023c全般性不安障害を合併し,短期間に糖尿病網膜症が進行した若年発症2型糖尿病の1例山崎光理*1宮本寛知*1木下貴正*1清水美穂*1森潤也*1青木修一郎*1三次有奈*2今泉寛子*1*1市立札幌病院眼科*2市立札幌病院糖尿病内分泌内科CACaseofYoung-OnsetType2DiabeteswithGeneralizedAnxietyDisorderandDiabeticRetinopathythatProgressedOveraShort-TermPeriodHikariYamasaki1),TomohiroMiyamoto1),TakamasaKinoshita1),MihoShimizu1),JunyaMori1),ShuichiroAoki1),ArinaMiyoshi2)andHirokoImaizumi1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,2)DepartmentofDiabetology,SapporoCityGeneralHospitalC不安定な精神状態による不規則な生活や内科治療の中断により,血糖コントロールが不良で短期間に糖尿病網膜症が進行した症例について報告する.患者はC26歳,女性.8歳でC2型糖尿病と診断され,中学生頃からうつ傾向があり,22歳で全般性不安障害と診断された.内科,精神科とも治療は中断しがちで,血糖,精神状態ともに不安定であった.初診時視力右眼(1.2),左眼(1.0),両眼非増殖糖尿病網膜症を認め,HbA1cはC13.3%だった.6カ月後,左眼が増殖糖尿病網膜症に進行し,9カ月後には網膜前出血により視力が低下したため硝子体手術を実施し,並行して内科で血糖コントロールも行った.右眼もC18カ月後に増殖糖尿病網膜症となり硝子体手術を実施し,術後視力は右眼(0.5),左眼(0.6)となり,両眼とも糖尿病網膜症は安定した.眼科,他科ともに通院を継続し,全身状態も安定した.本症例では内科,精神科との連携により,治療を中断しないようなかかわりが重要であった.CPurpose:Toreportacaseofyoung-onsettype2diabeteswithgeneralizedanxietydisorderanddiabeticreti-nopathyCthatCprogressedCoverCaCshort-termCperiod.CCaseReport:ThisCcaseCinvolvedCaC26-year-oldCfemaleCdiag-nosedwithtype2diabetesattheageof8andatendencytobedepressedsinceshewasinjuniorhighschoolwhowasdiagnosedwithgeneralizedanxietydisorderattheageof22.Thepatient’sinternalmedicineandpsychiatrictherapytendedtobeinterrupted,andhergeneralconditionwasunstable.Atinitialpresentation,hervisualacuity(VA)was1.2ODand1.0OS,andbilateralnonproliferativediabeticretinopathy(NPDR)andanHbA1cof13.3%wasobserved.Vitreoussurgerywasperformedinherlefteye6monthslaterandinherrighteye18monthslaterdueCtoCtheCbilateralCNPDRCprogressingCtoCproliferativeCdiabeticCretinopathy,CwithCtreatmentsCinCtheCotherCdepart-mentssimultaneouslystrengthened.Postsurgery,herVAwas0.5ODand0.6OS,andthebinoculardiabeticreti-nopathyandheroverallgeneralconditionwerebothstable.Conclusions:Inthiscase,ocularsurgerywassuccess-fulinclosecollaborationwithinternalmedicineandpsychiatrictherapy,thusillustratingtheimportanceofkeepingarelationshipwithotherdepartmentsandnotinterruptingtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):101.105,C2023〕Keywords:糖尿病網膜症,若年発症C2型糖尿病,全般性不安障害.diabeticretinopathy,young-onsettype2dia-betes,generalizedanxietydisorder.Cはじめに安障害を合併し,初診時に軽症非増殖糖尿病網膜症(nonpro-糖尿病はうつ病1)や不安障害2)などの精神疾患との関連がCliferativeCdiabeticretinopathy:NPDR)からC6カ月後に左報告されている.8歳で発症したC2型糖尿病患者で全般性不眼,19カ月後に右眼が増殖糖尿病網膜症(proliferativedia-〔別刷請求先〕山崎光理:〒060-8640北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:HikariYamasaki,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,13-1-1Kita11-jonishi,ChuoKu,SapporoShi,Hokkaido060-8640,JAPANC図1初診時眼底写真と蛍光造影写真両眼眼底に毛細血管瘤を認め,蛍光造影検査では毛細血管瘤と,周辺部に限局的な無灌流領域を認めた.beticretinopathy:PDR)に進行し,汎網膜光凝固を実施したが両眼硝子体手術に至った症例を経験したため報告する.CI症例患者:26歳,女性.主訴:糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の精査.現病歴:8歳でC2型糖尿病と診断され,小児科や内科で入院加療するも中断あり,21歳時にCHbA1c13.2%の状態で近医内科へ転院となった.糖尿病に対して内服治療(メトホルミン,テネグリプチン)を行っていたが,血糖コントロールは不良でCHbA1c9.12%で経過していた.また,中学生頃からうつ傾向があり,22歳で全般性不安障害と診断され内服治療(ロフラゼプ酸エチル)されていたが,23歳から治療を中断していた.近医眼科でCDRの経過観察を行っていたが,精査のため市立札幌病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:熱性けいれん.家族歴:父親,祖母(父方,母方)が糖尿病,妹は耐糖能異常であった.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.2C×sph.3.75D(cylC00DC.2.cyl(50DC.7.sph×,左眼0.06(1.0180°)C2.25DAx.Ax180°),眼圧は右眼20.3mmHg,左眼22.0mmHg,血糖値はC369Cmg/dl,HbA1c13.3%であった.両眼底には少数の毛細血管瘤が散在し,軽症CNPDRであった.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では黄斑浮腫はみられなかった(図1).蛍光造影検査(.uoresceinCangiog-raphy:FA)では毛細血管瘤に加えて周辺部に限局性の無灌流領域を認めたため,血糖コントロールが重要であることを指導し,引き続き前医で経過観察とした.経過:6カ月後,左眼の後極部全体に網膜出血が増加したため,再度紹介された.HbA1c12.5%,視力は右眼(1.0),左眼(0.8),OCTで左眼に黄斑浮腫を認め,FAでは左眼の乳頭上に新生血管があり,右眼は毛細血管瘤と局所的な無灌流領域が散在していた(図2).左眼の汎網膜光凝固術(pan-retinalphotocoagulation:PRP)を予定し,PRPによる糖尿病黄斑浮腫の悪化を防止するため,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射治療を並施した.初診からC8カ月後,左眼の糖尿病黄斑浮腫は消退した.並行して当院内科へ血糖コントロールを依頼し,2週間の教育入院を行ったが血糖コントロールの改善はなかった.初診からC11カ月後に起床後図2初診6カ月後の蛍光造影写真とOCT画像両眼に網膜出血の増加と左眼黄斑浮腫を認め,蛍光造影検査では左眼の乳頭上下に新生血管を認めたが,無灌流領域は左眼で軽度増加した程度であった.図3初診9カ月後の眼底写真視力は右眼(0.9),左眼(0.09)に低下し,後極部に網膜前出血を認めた.に左眼の視力低下があったため当科を再受診した.左眼視力(0.09)に低下し,後極部に網膜前出血(図3)を認めた.水晶体温存C25ゲージ(G)硝子体手術を施行した.術後左眼視力は(0.6)に改善し,HbA1c9.2%でCDRも安定した.視力は右眼(0.7),左眼(0.8)で経過していたが,初診からC18カ月後に右眼も乳頭上に新生血管が出現し,網膜前出血も伴っており,PRPを開始した.また,内科からの働きかけで精神科への通院を再開した.初診からC34カ月後,右眼の硝子体出血,視神経乳頭から鼻側の牽引性網膜.離(図4)を認め,右眼視力(0.2)に低下したため,水晶体温存C25CG硝子体手術を施行した.術前に当院精神科に入院中の精神状態の評価,内服の管理を依頼し,その後は内科,精神科,眼科と密に連携をとった.初診よりC49カ月で視力は右眼(0.4),左眼(0.5)となり,DRは安定し黄斑浮腫もなく経過した(図5).なお,全経過を通じて両眼とも虹彩ルベオーシスは認めなかった.血糖はCHbA1c9%前後と高めではあったが,内科,精神科についても通院を中断することなく,比較的安定して経過した.図4初診34カ月後の右眼眼底写真とOCT画像右眼の硝子体出血と,視神経乳頭から鼻側の牽引性網膜.離を認めた.図5初診49カ月後の眼底写真両眼底落ち着いた経過をたどった.II考按本症例の特徴として,若年発症のC2型糖尿病であること,精神疾患を合併していること,血糖コントロールが不良で急速にCDRが悪化し手術を要したこと,術後は内科,精神科ともに安定し眼底も落ち着いていることがあげられる.思春期におけるC2型糖尿病の問題点として,思春期にかけてインスリン拮抗ホルモンが増大すること3),成長期であり食欲がもっとも旺盛で,食事療法の順守がむずかしいこと,第二反抗期の時期であり治療に反発しやすいことや,思春期特有の精神的不安定さがあることなどがあげられている4).本症例ではさらに中学からのうつ傾向,全般性不安障害,不眠症を合併しており,そのことが内服治療の中断や血糖コントロールの不良を招きCDRの悪化を助長していたと考えられる.若年者では高齢者と比較して後部硝子体が未.離で,増殖膜は血管が豊富で活動性が高く,急激に増悪することがあり5,6),半年間で正常眼底からCPDRに進展し硝子体手術を要した若年発症の糖尿病の症例報告もある7).JapanCDiabetesCComplicationsCStudy(JDCS)では軽症CNPDRから重症NPDR,PDRへの進行が年間C2.11%8)とされ,国際分類では軽症CNPDRからCPDRに進展する率はC1年後でC0.8%,5年後でC15.5%9)とされており,わが国の診療ガイドラインでも軽症.中等症CNPDRの患者ではC6カ月ごとの診察を目安として推奨している10).しかし,上述した理由から若年者ではより短期間での診察が必要といえる.しかし,本症例では就労のため頻回な通院が困難で,経済的な負担が大きく,精神的な問題も抱えていた.これまで通院も中断しがちであり,通院,治療を強いることで通院自体を中断してしまう恐れがあり,治療につなげるのが困難であった.今回精神科へのコンサルトが遅れたため,より早期から精神科への通院を再開し,精神状態を安定させることで右眼の早期治療につなげられた可能性はあったと考える.また,左眼手術後,右眼視力の悪化がなく,眼底所見も大きな変化がなかったためCFAを実施していなかった.毛細血管閉塞の拡大の把握が遅れた可能性や,重症CNPDRの段階でPRPを実施していれば右眼は手術に至らなかった可能性も否定できない.2型糖尿病,精神疾患,視覚障害は互いにリスクを高める.まずうつ病の患者はC2型糖尿病を発症するリスクが高い1).その原因として,過体重,摂取カロリー高値であること,運動量が少ないこと,喫煙などの好ましくない生活習慣の傾向が考えられる.また,抑うつ症状は視床下部下垂体-副腎および交感神経副腎系の活性化および炎症の増加に関連しており11),炎症マーカーはC2型糖尿病の既知の危険因子である12)ことから,精神疾患自体がC2型糖尿病を発症させうると考える.一方CDRは高血糖,高血圧,腎症,貧血,高コレステロール血症など複数の不良な全身因子の影響を受けている7).DRの重症度およびそれに関連する視力低下の重症度は,心理社会的幸福の低下と有意に相関する13).これは視力低下に起因する日常生活,社会活動の喪失が原因である可能性や,網膜に障害があり光刺激を受けられないことで,睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が不足し睡眠障害を起こしやすくなるためという報告がある14).また,DR患者では視力低下以外に視野異常,色覚とコントラストの異常などもきたすため,これらがメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている可能性も示唆されている13).本症例では内科,精神科へ診療を依頼し,密に連携をとりあったことで病状は安定した.他科との連携を早期よりとりながら診療にあたることが重要である.CIII結論若年発症のC2型糖尿病は重症化しやすく,若年者のCDRでは頻回な診察が必要である.視機能障害,精神疾患,全身因子は双方に影響しあっているため,他科との連携が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GoldenCSH,CLazoCM,CCarnethonCMCetal:ExaminingCaCbidirectionalCassociationCbetweenCdepressiveCsymptomsCanddiabetes.JAMAC299:2751-2759,C20082)SmithKJ,BelandM,ClydeMetal:Associationofdiabe-teswithanxiety:asystematicreviewandmeta-analysis.JPsychosomResC74:89-99,C20133)SaadRJ,DanadianK,LawyVetal:InsulinresistanceofpubertyinAfrican-Americanchildren:lackofacompen-satoryincreaseininsulinsecretion.PediatricDiabetesC3:C49,C20024)内潟安子:若年発症C2型糖尿病の疫学・成因・病態・治療・合併症.東京女子医科大学雑誌81:154-161,C20115)岡野正:増殖糖尿病網膜症に対する後部硝子体.離と牽引の影響.眼紀38:143-152,C19876)臼井亜由美,清川正敏,木村至ほか:若年者の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術治療と術後合併症.日眼会誌C115:516-522,C20117)森秀夫:33歳未満で硝子体手術を要した若年糖尿病網膜症症例.あたらしい眼科30:1034-1038,C20138)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20119)WilkinsonCCP,CFerrisCFL,CKleinCRECetal:ProposedCinter-nationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.OphthalmologyC110:1677-1682,C200310)瓶井資弘,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌124:955-981,C202011)MusselmanCDL,CBetanCE,CLarsenCHCetal:RelationshipCofCdepressiontodiabetestypes1and2:epidemiology,biolo-gy,andtreatment.BiolPsychiatryC54:317-329,C200312)DuncanCBB,CSchmidtCMI,CPankowCJSCetal:Low-gradeCsystemicin.ammationandthedevelopmentoftype2dia-betes:theatherosclerosisriskincommunitiesstudy.Dia-betesC52:1799-1805,C200313)KhooCK,CManCREK,CReesCGCetal:TheCrelationshipCbetweenCdiabeticCretinopathyCandCpsychosocialCfunction-ing:aCsystematicCreview.CQualCLifeCResC28:2017-2039,C201914)安藤伸朗:糖尿病網膜症患者さんの悩みを理解する心療眼科的アプローチ.眼科ケア11:1100-1105,C2009***

網膜分離症を伴う牽引性網膜剝離を認めた 非増殖糖尿病網膜症の1 例

2023年1月31日 火曜日

《第27回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科40(1):91.94,2023c網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を認めた非増殖糖尿病網膜症の1例伊藤駿平野隆雄知久喜明星山健村田敏規信州大学医学部眼科学教室CNon-ProliferativeDiabeticRetinopathywithTractionalRetinalDetachmentandRetinoschisisShunIto,TakaoHirano,YoshiakiChiku,KenHoshiyamaandToshinoriMurataCDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:広角Cswept-source光干渉断層計(SS-OCT)にて周辺部に網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を確認できた非増殖糖尿病網膜症のC1例を経験したので報告する.症例:79歳,男性.遷延する左眼硝子体出血の加療目的にて信州大学附属病院眼科を紹介受診.初診時,矯正視力は右眼C0.7,左眼C10Ccm指数弁.右眼は毛細血管瘤のみを認める非増殖糖尿病網膜症であった.1回の撮影で水平断C23Cmmの範囲を取得可能な広角CSS-OCT(OCT-S1,キャノン)にて,眼底検査で確認困難であった丈の低い網膜.離が耳側周辺部で確認された.より周辺部を広角CSS-OCTで撮影すると網膜分離症と網膜.離が描出された.同部位では強い硝子体牽引を認め,ラスタースキャンでは網膜内層・外層に裂孔を認めなかったため,牽引性網膜.離に伴う網膜分離症と診断した.左眼の硝子体手術後に右眼への外科的手術介入について説明したが,本人が手術を希望しなかったため,病変部周辺に網膜光凝固を施行.2カ月後も網膜.離の進展は認めず,網膜下液の減少を広角CSS-OCTで観察可能であった.結論:非増殖糖尿病網膜症眼において続発性網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を認める症例を経験した.これらの病変の同定,治療後の経過観察に広角CSS-OCTは有用と考えられた.CPurpose:Toreportacaseofnon-proliferativediabeticretinopathy(NPDR)inwhichtractionalretinaldetach-mentCandCretinoschisisCwereCobservedCusingCwide-angleCswept-sourceCopticalCcoherencetomography(SS-OCT)C.CCase:ClinicalCexaminationCofCaC79-year-oldCmaleCwithCtypeC2CdiabetesCmellitusCandCpersistentCvitreousChemor-rhageinthelefteyerevealedNPDRwithmicroaneurysmsintherighteye.Wide-angleSS-OCT(OCT-S1;Can-on)imagingrevealedlowretinaldetachmentandmoreperipheralretinoschisisinthetemporalregion.Thepatientwasdiagnosedwithtractionalretinaldetachmentandsecondaryretinoschisisduetothevitreoustractionobservedatthesite,andtherasterscandidnotshowanytearsintheinnerorouterretinallayers.Afterperformingparsplanavitrectomyinthelefteye,retinalphotocoagulationwasperformedaroundthelesionintherighteyeduetotheCpatientCnotCwishingCtoCundergoCsurgicalCintervention.CTwoCmonthsClater,Cwide-angleCSS-OCTCshowedCnoCpro-gressionCofCretinalCdetachment,CandCsubretinalC.uidCdecreasedCoverCtime.CConclusion:Wide-angleCSS-OCTCwasCfoundusefulfortheevaluationofNPDRwithtractionalretinaldetachmentandsecondaryretinoschisisatbothpreandposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(1):91.94,2023〕Keywords:糖尿病網膜症,牽引性網膜.離,網膜分離症,広角スウェプトソース光干渉断層計.diabeticretinopa-thy,tractionalretinaldetachment,retinoschisis,wide-angleswept-sourceopticalcoherencetomography.Cはじめにの遺伝形式をとる先天性と,中年以降の網膜周辺部に生じる網膜分離症は感覚網膜がC2層に分離する疾患で,若年者の後天性に分類される1).後天性網膜分離症は成因が不明な点黄斑部および網膜周辺部に生じ,多くは伴性劣性(X-linked)が多く,臨床および病理組織学的検討から加齢による網膜周〔別刷請求先〕伊藤駿:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShunIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC図1初診時右眼の広角眼底写真と光干渉断層計(OCT)画像a:広角眼底写真では点状・斑状の網膜出血を認める.カラーマップと比較すると,網膜肥厚部位の色調はやや暗く見える.Cb:黄斑部を通るCSD-OCT(6Cmm)水平断では異常所見を認めない.Cc:黄斑部を通るCSS-OCT(23Cmm)水平断では周辺部耳側に網膜.離(C.)を認める.d:OCTカラーマップでも周辺部耳側に網膜.離の影響と考えられる網膜厚の肥厚所見(.)を認める.図2左眼の広角眼底写真の継時的変化と超音波Bモード画像a:初診時の広角眼底写真.硝子体出血で眼底詳細不明である.Cb:初診時のCBモード.硝子体に絡まる出血を認め,網膜.離を認めない.Cc:硝子体術後C1カ月の広角眼底写真.汎網膜光凝固の瘢痕化を認めた.硝子体出血の誘因と考えられた網膜裂孔はC6時方向の網膜周辺部に認めた(眼底写真の範囲外).最終矯正視力はC0.7であった.辺部の類.胞変性が関与しているとされる.近視性牽引黄斑症や硝子体牽引症候群でみられるほか,増殖糖尿病網膜症や網膜.離に続発することも報告されている2).今回,筆者らは広角Cswept-source光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoherencetomography:SS-OCTであるOCT-S1,キャノン)を用い周辺部網膜の網膜分離症を伴う牽引性網膜.離を同定し,さらには治療後の経過を評価可能であった非増殖糖尿病網膜症のC1例を経験したので報告する.CI症例患者はC79歳,男性.20年来のC2型糖尿病で,直近のHbA1cはC6.2%とコントロール良好であったが定期的な眼科受診歴はなかった.左眼の視力低下を自覚し近医受診したところ,硝子体出血を指摘され,精査加療目的にて信州大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時視力は右眼C0.4(0.7×+3.50D),左眼C10cm指数弁(矯正不能).眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C14CmmHgであり,眼軸長は右眼C22.30Cmm,左眼C22.58Cmmと強度近視眼ではなかった.前眼部中間透光体には両眼ともCEmery-Little分類でCgrade2の白内障を認めるのみであった.右眼には毛細血管瘤が散在していて国際重症度分類で軽度非増殖糖尿病網膜症の状態であった(図1a).左眼は硝子体出血のため眼底透見不良であったが,超音波CBモードで明らかな網膜.離は確認できなかった(図2a,b).1カ月以上遷延する消退不良の硝子体出血に対し,本人の手術希望もあり,同意を得て左眼水晶体再建術,経毛様体扁平部C25ゲージ硝子体手術を施行した.術中,左眼眼底には点状,斑状出血を認めるが増殖性変化を認めず,中等度非増殖糖尿病網膜症であった.6時方向の網膜周辺部に網膜裂孔および破綻した架橋血管が確認され硝子体出血の原因と考えられた(図2c).糖尿病罹病期間がC20年間と長く,将来的に増殖性変化出現の可能性も図3初診時右眼のパノラマ写真と耳側の広角光干渉断層計(OCT)画像a:パノラマ写真では耳側に網膜.離(.)を確認できる.Cb:耳側を撮影したCSS-OCT水平断の拡大写真.牽引性網膜.離(C.)およびその直上,耳側に網膜分離症(C.)を認める.Cc:耳側のCOCTカラーマップでは局所的な網膜厚の肥厚所見()を認める.ラスタースキャンでは裂孔や外層孔,内層孔を認めない.d:23CmmC×20Cmmの広角COCTAで広範囲の無灌流領域や新生血管を認めない.否定できないため,術中,汎網膜光凝固を施行した.一方,後極を狙った広角CSS-OCTのルーチン撮影で,通常の眼底診察およびCspectral-domainOCT(SD-OCT)では検出されなかった丈の低い網膜.離を認めた(図1c,d).さらに耳側網膜を追加撮影したところ,後部硝子体.離は既完であり,耳側と.離部位上に網膜分離症が描出された(図3a,b,c)..離部位をCOCTラスタースキャンで細かく確認したが,内層・外層ともに裂孔は確認できず,牽引性網膜.離と続発性網膜分離症と診断した.なお,光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)では広範囲の無灌流領域や新生血管を認めず,非増殖糖尿病網膜症に矛盾しない所見であった(図3d).本人に病状を説明し,右眼の牽引性網膜.離に対する硝子体手術を提案したが,左眼の手術直後ということもありこの時点での積極的な手術は希望しなかった.初診時からC1カ月後,広角CSS-OCT所見でも右眼の牽引性網膜.離の進行は認められなかったが,硝子体による牽引は継続していた(図4a).牽引性網膜.離に対する治療として再度,硝子体手術,網膜光凝固術を提案したところ,網膜光凝固術を希望したため,.離が進行する場合は緊急で硝子体手術を行うことを詳細に説明し,同意を得たのちに,網膜.離周囲に網膜光凝固術を施行した(図4b).右眼網膜光凝固後C2カ月で網膜.離の進展を認めず,広角CSS-OCT所見では網膜下液の経時的な減少が確認できた(図4c).この時点で左眼視力は(0.7)まで改善を認めた.今後広角CSS-OCTも含め定期的な経過観察を行う予定である.CII考察増殖糖尿病網膜症眼における網膜分離症については多くの報告がなされている.正常眼と比較すると増殖糖尿病網膜症の硝子体液では凝固,補体,キニン-カリクレインシステムなど,癒着に関与する蛋白質が有意に高いこと3)や網膜新生血管を足がかりとして牽引性網膜.離が引き起こされる際に網膜分離症が併発するためと考えられている.一方で本症例.離部後極側中心窩図4右眼の病変部の継時的変化(SS-OCT水平断)a:初診時からC1カ月後.Cb:網膜光凝固直後.網膜.離の進行を認めず,鼻側に凝固斑を確認できる.検眼鏡で網膜分離症の部位にも凝固斑を確認できた.Cc:網膜光凝固C2カ月後.硝子体による牽引は持続しているが,網膜下液は減少しており,網膜.離の進行を認めない.は明らかな増殖性変化を伴わない非増殖糖尿病網膜症眼にもかかわらず,牽引性網膜.離に伴う網膜分離症が確認された.この理由を考察する.本症例では広角CSS-OCTにて病変部での後部硝子体皮質による網膜の牽引が確認できた(図3b).この牽引は網膜光凝固術後C2カ月後にも持続しており(図4c),強い網膜-硝子体の癒着が生じていたと推察する.健常人や網膜症のない糖尿病患者と比較すると,糖尿病網膜症患者では非増殖期においても後部硝子体の厚み,硝子体分離,網膜と硝子体の癒着など網膜硝子体界面の異常の割合が有意に増加することが知られている4).長期間の糖尿病罹患により網膜-硝子体の強い癒着が生じ,後部硝子体.離に伴って牽引性網膜.離および続発性網膜分離症が発生したと推察する.また,増殖糖尿病網膜症の病理組織学的研究報告中の牽引性網膜.離と網膜分離症を同一部位に認めた写真5)と,本症例の広角CSS-OCT画像を比較すると,その構造は非常に類似している.このことはこの考えを支持する.筆者らの調べた限り,非増殖糖尿病網膜症に伴う網膜分離症の報告は確認できなかった.この理由の一つとして,周辺部の限局的な網膜分離症は通常の眼底検査や従来のCOCT検査では描出困難なことが考えられる.本症例でも,初診時の通常の眼底検査や撮像範囲がC6CmmのCSD-OCT検査(図2a,b)では牽引性網膜.離,網膜分離症は同定できなかった.同一光源から発した二つの光の光路差から光干渉現象を利用することで非侵襲的に網脈絡膜の断層画像を取得可能な手法としてC1991年に初めて報告されたCOCTは,網脈絡膜疾患にとどまらず角膜疾患や緑内障疾患など多くの疾患の評価に用いられ,日常診療には欠かせない検査となっている6).しかし,既存のCOCTは撮像範囲が後極部に限定される機器が多く,網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症といった広く眼底に病変をもつ疾患の網膜断層や循環動態を全体的に評価することは困難であった.近年,SD-OCTよりも長波長の光源を用いたCSS-OCTの登場によりこの撮像範囲の問題は解決しつつある7).本症例においては最大撮像範囲の横径がC23Cmmの広角CSS-OCT装置であるCOCT-S1を用いることで,周辺部の限局した網膜.離と網膜分離症を同定することができた.OCT-S1では長波長のCsweptsource光源の特徴を生かし,網膜にとどまらず,脈絡膜から硝子体まで深さ方向に広い範囲の情報を取得できる.本症例でもこの特徴により網膜の状態だけではなく,網膜に対する硝子体の強い牽引も詳細に観察可能であった.今後,広角CSS-OCTによる周辺部の新たな知見の報告が期待される.次に本症例の治療について考察する.後天性網膜分離症の大部分は進行が緩徐であり,経過観察を選択することが多い.治療を考慮するものとして網膜内層孔・外層孔を生じ分離症の拡大,網膜.離への移行の可能性が高い場合があげられ1),広範な網膜.離を伴った場合には網膜光凝固のほかに硝子体手術を施行することが検討される8).本症例では牽引性網膜.離の範囲は限局的で,網膜分離症に内層孔・外層孔を認めなかった.僚眼の硝子体手術直後であり,患者自身が早急な硝子体手術を希望しなかったため,網膜光凝固を選択した.現在,光凝固後C2カ月が経過したが,網膜.離,網膜分離症の進行は認めていない.網膜分離症に対し網膜光凝固術を施行した箇所に裂孔原性網膜.離を発症した例もあり9),光凝固後も定期的な経過観察が必要と考えられた.また,網膜下液の吸収は緩徐で,増殖糖尿病網膜症による牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収には平均C57.5日かかることが報告されている10).本症例では広角CSS-OCTによる観察で網膜光凝固後の網膜下液の継時的な減少を評価することができた.広角CSS-OCTは眼底周辺部の局所的な牽引性網膜.離や続発性の網膜分離症などの網膜硝子体界面異常の同定や治療後の経過観察に有用であることが示唆された.文献1)ByerNE:Clinicalstudyofsenileretinoschisis.ArchOph-thalmolC79:36-44,C19682)BuchCH,CVindingCT,CNielsenNV:PrevalenceCandClong-termCnaturalCcourseCofCretinoschisisCamongCelderlyCindi-viduals:theCCopenhagenCCityCEyeCStudy.COphthalmologyC114:751-755,C20073)BalaiyaS,ZhouZ,ChalamKV:Characterizationofvitre-ousCandCaqueousCproteomeCinChumansCwithCproliferativeCdiabeticretinopathyanditsclinicalcorrelation.ProteomicsInsightsC8:1178641816686078,C20174)AdhiCM,CBadaroCE,CLiuCJJCetal:Three-dimensionalCenhancedimagingofvitreoretinalinterfaceindiabeticret-inopathyCusingCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC162:140-149,Ce1,C20165)FaulbornJ,ArdjomandN:Tractionalretinoschisisinpro-liferativeCdiabeticretinopathy:aChistopathologicalCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC238:40-44,C20006)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCetal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19917)ChikuY,HiranoT,TakahashiYetal:EvaluatingposteC-riorCvitreousCdetachmentCbyCwide.eldC23-mmCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCinChealthyCsubjects.SciRepC11:19754,C20218)GotzaridisEV,GeorgalasI,PetrouPetal:Surgicaltreat-mentCofCretinalCdetachmentCassociatedCwithCdegenerativeCretinoschisis.SeminOphthalmolC29:136-141,C20149)小林英則,白尾裕,浅井宏志ほか:引き抜き血管を伴う後極部外層裂孔による網状変性網膜分離症網膜.離に対する硝子体手術のC1例.あたらしい眼科16:873-877,C199910)貝田真美,池田恒彦,澤浩ほか:糖尿病牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収過程と性状に関する検討.眼紀C49:501-504,C1998***