《第30回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科42(9):1179.1184,2025c糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討城光映*1,2澁谷文枝*1金子唯*1下村さやか*1野崎実穂*1*1名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科・レーザー治療センター*2名古屋市立大学医学部附属東部医療センター看護部CTimingofReferralfromInternalMedicinetoOphthalmologyinDiabeticPatients:ARetrospectiveStudyMitsueJo1,2)C,FumieShibuya1),YuiKaneko1),SayakaShimomura1)andMihoNozaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,2)NursingDepartment,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:患者が眼科へ紹介された時期と糖尿病網膜症(DR)の状態を検討した.対象と方法:2022年C1月.2023年7月に当科を受診した糖尿病患者のうち,当院内分泌・糖尿病内科からの紹介で,DRの評価を初めて眼科で受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について,当院内科初診日から眼科受診までの期間,DRの状態,糖尿病罹病期間,内科受診歴,HbA1c値について検討した.結果:平均年齢はC57.1C±11.5歳,HbA1c値は平均C10.6C±2.5(5.3-16.5)%であった.DRを有していた患者はC58例(63.0%)で,その内訳は,単純CDR(SDR)28例(30.4%),前増殖糖尿病網膜症(PPDR)19例(20.6%),増殖糖尿病網膜症(PDR)11例(12.0%)であった.当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月であった.糖尿病罹病期間は平均C6.1C±7.8年で,DRあり群はCDRなし群と比べ,有意に罹病期間が長かった(p=0.02).結論:当院内科から眼科へは速やかに紹介されていたが,糖尿病罹病から眼科受診までにはC6年かかっており,さらなる病診連携と糖尿病患者への教育が重要と考えられた.CPurpose:Toevaluatethetimingandstatusofdiabeticretinopathy(DR)patientsreferredfrominternalmedi-cineCtoCophthalmologyCforCtreatment.CMethods:ThisCstudyCincludedC92CDRpatients(82Cmales,C10females)whoCwerereferredfromtheendocrinologyanddiabetesdepartmenttotheophthalmologydepartmentforinitialevalua-tionbetweenJanuary2022andJuly2023.Theperiodfromtheinitialinternalmedicinevisitsatourhospitaltothe.rstCophthalmologyCvisit,CtheCstatusCofCDR,CtheCdurationCofCdiabetes,CmedicalChistoryCinCinternalCmedicine,CandCHbA1cClevelsCwereCanalyzed.CResults:MeanCpatientCageCwasC57.1±11.5Cyears,CandCtheCmeanCHbA1cClevelCwasC10.6±2.5%(range:5.3-16.5%)C.Ofthe92cases,DRwasobservedin58(63.0%)C,including28(30.4%)simpleDRcases,19(20.6%)pre-proliferativeDRcases,and11(12.0%)proliferativeDRcases.Meantimefrominitialinter-nalmedicinepresentationto.rstophthalmologyvisitwas1.8±6.2months,andmeandurationofdiabeteswas6.1C±7.8Cyears.CPatientsCwithCDRChadCaCsigni.cantlyClongerCdurationCofCdiabetesCcomparedCtoCthoseCwithoutDR(p=0.02)C.CConclusions:AlthoughCreferralsCfromCtheCinternalCmedicineCtoCophthalmologyCdepartmentsCwereCmadeCpromptly,themeandurationfromtheonsetofdiabetestothe.rstophthalmologyvisitwas6years.Strengtheningcollaborationbetweenhospitalsandclinicsandenhancingdiabeteseducationforpatientsareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1179.1184,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,眼底検査,内分泌・糖尿病内科,眼科.diabeticretinopathy,fundusexamination,in-ternalmedicine,ophthalmology.Cはじめに併症として糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)があ糖尿病患者においては,糖尿病と診断された際に速やかにげられるという報告もある1).しかし,日本における糖尿病眼科を受診し,定期的な眼科検査を受けることの重要性が広患者の眼底検査受診率は,2015年度およびC2017年度の調く啓発されている.また,糖尿病患者がもっとも懸念する合査においていずれもC50%未満にとどまり2,3),適切な眼科受〔別刷請求先〕野崎実穂:〒464-8547愛知県名古屋市千種区若水一丁目C2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenter.1-2-23Wakamizu,Chikusa-ku,Nagoya464-8547,JAPANC表1患者背景症例92例眼科受診時の年齢C57.1±11.5歳(C27.C81歳)性別男性C82/女性C10内科初診日から眼科受診までの期間糖尿病罹病期間(n=79)CHbA1c値C1.8±6.2月(0.C60月)C6.1±7.8年(0.C34年)10.6±2.5%(C5.3.C16.5%)内科受診歴近医通院中9(C9.8%)内科治療を自己中断24(C26.1%)糖尿病を放置25(C27.2%)未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)34(C36.9%)診が行われていない患者が依然として多い現状が明らかとなっている.実際に,眼科を受診する糖尿病患者のなかには,糖尿病と診断されてから長期間が経過しているにもかかわらず,一度も眼科を受診していない例が少なくなく,受診時にはすでにDRが進行している場合がしばしば見受けられる.そこで本研究では,糖尿病患者が初めて眼科へ紹介された時期と,その時点におけるCDRの重症度を検討したので報告する.CI対象と方法対象は,2022年C1月.2023年C7月に名古屋市立大学医学部付属東部医療センター眼科(以下,当院)を受診した糖尿病患者のうち,当院内科からの紹介でCDRの評価を初めて受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について検討を行った.検討項目は,当院内科初診から眼科受診までにかかった期間,糖尿病罹病期間,HbA1c値,DRの重症度,内科受診歴とした.DRは,超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia)によるカラー眼底写真をもとに,Davis分類を用いて判定した.DRあり・なしでC2群に分け,患者背景を比較した.年齢,性別,罹病期間,HbA1c値はCMann-WhitneyU検定,内科継続の有無についてはC|2検定で統計解析を行った.DR重症度と糖尿病罹病期間の比較はCKruskal-Wallis検定を行った.p<0.05で有意差ありと判定した.なお,本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号C60-24-015).CII結果眼科受診時の平均年齢は,57.1C±11.5歳(27.81歳),当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月(最大C60カ月).糖尿病罹病期間は,糖尿病発症時期が判明図1DR重症度の内訳したC79例で検討を行い,平均C6.1C±7.8年(最大C34年)であった.HbA1c値は,平均C10.6C±2.5%(5.3.16.5)であった(表1).内科受診歴は,近医通院中で糖尿病治療を継続できていた患者はC9例(9.8%),内科治療を自己中断した患者は24例(26.1%),糖尿病を放置していた患者はC25例(27.2%),未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)患者はC34例(36.9%)であった(表1).今回の検討で,DRがなかった患者はC34例(37%),網膜症を有した患者はC58例(63%)であった.そのうち,単純DR(simplediabeticretinopathy:SDR)28例(30.4%),前増殖CDR(preproliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)19例(20.6%),増殖CDR(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)11例(12.0%)であった(図1).DRの有無と糖尿病罹病期間について,罹病期間が判明したC79例で検討を行った.未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例は罹病期間C0とした.DR重症度別の罹病期間は,DRのない患者(32例)ではC3.6C±5.3年,SDR(24例)ではC7.0C±7.8年,PPDR(15例)はC8.3C±9.8年,PDR(8例)ではC9.5C±10.0年で,網膜症の重症度が増すにつれ,糖尿病罹病期間も長くなる傾向にあったが,統計学的に有意な相関は認めなかった(表2).さらに,罹病期間が判明したC79例についてCDRの有無と患者背景を比較した.年齢,性別,HbA1c値,内科継続の有無では,DRなし群とCDRあり群間で有意な差は認めなかったが,DRなし群(32例)の罹病期間C3.1C±5.3年,DRあり群(47例)の罹病期間C7.9C±8.7年(p=0.02)と,DRあり群で有意に罹病期間が長かった(表3).つぎに,代表症例を示す.表2DR重症度と糖尿病罹病期間DR重症度平均罹病期間(年)DRなし(n=32)C3.6±5.3年SDR(n=24)C7.0±7.8年PPDR(n=15)C8.3±9.8年PDR(n=8)C9.5±10.0年表3DRなし群とDRあり群の比較網膜症なし(n=32)網膜症あり(n=47)p値年齢C57.6±12.1歳C57.4±11.6歳C*0.94性別男性C26/女性C6男性C43/女性C4C**0.17罹病期間C3.6±5.3年C7.9±8.7年C*0.02HbA1c値C10.7±2.7%C10.5±2.7%C*0.79内科継続の有無※C1/15C5/28C**0.6※未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)を除く*Mann-WhitneyU検定**|2検定[症例]患者:50代,男性.既往歴:30代後半で糖尿病を指摘されるが放置していた.201X年鎖骨骨折のため当院整形外科で手術予定となり,術前採血でCHbA1c10.9%が判明し,血糖コントロールのため,当院内分泌・糖尿病内科に紹介された.栄養指導をうけ,骨折手術後退院,退院後の内科通院歴は不明である.現病歴:201X+5年C2月,下肢に浮腫が出現し近医を受診し,HbA1c13.6%と高値を指摘され,当院内分泌・糖尿病内科へ紹介され,201X+5年C3月に内科から眼科へ紹介された.経過:視力は両眼とも矯正C1.2,両眼に網膜点状─斑状出血および軟性白斑を多数認め(図2a),両眼CPPDRと診断し,蛍光眼底造影検査で,無灌流領域がC3象限に認められたため(図2b),両眼汎網膜光凝固術を施行した.そのC4カ月後,当院内科・眼科とも外来受診しなくなった.201X+6年2月再び下肢に浮腫が出現し,近医受診し当院内科へ紹介された.HbA1c5.9%であった.また両眼視力低下を自覚し,C201X+6年C12月に近医眼科から当科へ紹介.視力は両眼とも矯正C0.6,両眼糖尿病黄斑浮腫を認め(図3),抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療を開始した.現在は,定期的に内科・眼科受診を継続している.CIII考按本研究では,糖尿病患者が初めて眼科に紹介された時期と,その時点でのCDRの状態を検討した.内科初診から眼科受診までの期間は平均C1.8C±6.2カ月と比較的速やかであったが,糖尿病と診断されてから初めて眼底検査を受けるまでには平均C6.1C±7.8年(最大C34年)を要していた.TheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)は,糖尿病罹病期間がC5年以上経過するとCDR発症リスクが有意に高まると報告しており4),日本人C2型糖尿病患者におけるCDRの発症・進行の決定因子を検討した後ろ向き研究でも,罹病期間が唯一の決定因子であったとされている5).本研究でも,DRのある群が有意に長い糖尿病罹病期間であり,この結果はこれらの先行研究と一致している.一方で,糖尿病罹病期間が長いほどCDRが重症化する傾向は認められたものの,統計学的有意差は得られなかった.本研究では,未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例を罹病期間C0とカウントしていること,それ以外に罹病期間が判明した症例がC45例と限られていたことから,統計解析の検出能力が十分ではなかった可能性がある.今後は症例数を増加させ,より高い検出能力をもつ解析を行うことで,糖尿病罹病期間とCDRの重症度との関連性についても,さらに詳細に検討したいと考える.本研究において,眼科受診までもっとも長期間を要した症例は,受診後も通院を自己中断していた.この患者は,通院中断の理由として外来の待ち時間が長いことをあげており,他施設の報告でも「多忙」や「待ち時間の長さ」が糖尿病患者の通院中断の要因として指摘されている6).現在,当院では「DRスクリーニング外来」を設置し,待ab図2代表症例(50代,男性)①a:初診時カラー眼底写真.b:初診時フルオレセイン蛍光造影.ち時間の短縮を図るため,眼科の診察枠を効率的に運用している.いる.具体的には,内分泌・糖尿病内科の医師が診察予約を今回の検討では,内科から眼科への紹介が比較的速やかに管理し,眼科外来で無散瞳での超広角走査型レーザー検眼鏡行われている一方で,糖尿病発症から眼底検査までに平均C6による撮影を実施して7),眼科医がCDRの有無をチェックす年かかっている現状が明らかになった.また,内科通院を自るしくみを採用している.これにより,眼科受診のハードル己中断した患者,あるいは糖尿病を指摘されていたが放置しを下げ,患者が気軽に眼底検査を受けられる環境を整備してていた患者が半数以上を占めていた.この結果を踏まえ,今ab図3代表症例(50代,男性)②a:再初診時カラー超広角走査型レーザー検眼鏡所見.b:再初診時光干渉断層計所見.後は地域の医療機関とのさらなる病診連携の強化と,糖尿病患者に対する教育が一層重要であると考えられた.本論文の要旨は第C30回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StrainCWD,CCosCX,CHirstCMCetal:TimeCtoCdomore:CaddressingCclinicalCinertiaCinCtheCmanagementCofCtypeC2CdiabetesCmellitus.CDiabetesCResCClinCPractC105:302-312,C20142)TanakaH,SugiyamaT,Ihana-SugiyamaNetal:Chang-esCinCtheCqualityCofCdiabetesCcareCinCJapanCbetweenC2007CandC2015:ACrepeatedCcross-sectionalCstudyCusingCclaimsCdata.DiabetesResClinPractC149:188-199,C20193)Ihana-SugiyamaCN,CSugiyamaCT,CHiranoCTCetal:PatientCreferral.owbetweenphysicianandophthalmologistvisitsforCdiabeticCretinopathyCscreeningCamongCJapaneseCpatientsCwithdiabetes:ACretrospectiveCcross-sectionalCcohortCstudyCusingCtheCNationalCDatabase.CJCDiabetesCInvestigC14:883-892,C20234)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20115)NakayamaCY,CYamaguchiCS,CShinzatoCYCetal:Retrospec-tiveCexploratoryCanalysesConCgenderCdi.erencesCinCdeter-minantsforincidenceandprogressionofdiabeticretinop-athyCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCmellitus.CEndocrJC68:655-669,C20216)山田幸男,高澤哲也,鈴木正司ほか:dropCoutが原因で透析・失明に至った患者の実態と予防策.プラクティスC10:C426-431,C19937)野崎実穂:糖尿病診療における合併症の管理糖尿病網膜症.診断と治療110:325-330,C2022***