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糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討

2025年9月30日 火曜日

《第30回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科42(9):1179.1184,2025c糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討城光映*1,2澁谷文枝*1金子唯*1下村さやか*1野崎実穂*1*1名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科・レーザー治療センター*2名古屋市立大学医学部附属東部医療センター看護部CTimingofReferralfromInternalMedicinetoOphthalmologyinDiabeticPatients:ARetrospectiveStudyMitsueJo1,2)C,FumieShibuya1),YuiKaneko1),SayakaShimomura1)andMihoNozaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,2)NursingDepartment,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:患者が眼科へ紹介された時期と糖尿病網膜症(DR)の状態を検討した.対象と方法:2022年C1月.2023年7月に当科を受診した糖尿病患者のうち,当院内分泌・糖尿病内科からの紹介で,DRの評価を初めて眼科で受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について,当院内科初診日から眼科受診までの期間,DRの状態,糖尿病罹病期間,内科受診歴,HbA1c値について検討した.結果:平均年齢はC57.1C±11.5歳,HbA1c値は平均C10.6C±2.5(5.3-16.5)%であった.DRを有していた患者はC58例(63.0%)で,その内訳は,単純CDR(SDR)28例(30.4%),前増殖糖尿病網膜症(PPDR)19例(20.6%),増殖糖尿病網膜症(PDR)11例(12.0%)であった.当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月であった.糖尿病罹病期間は平均C6.1C±7.8年で,DRあり群はCDRなし群と比べ,有意に罹病期間が長かった(p=0.02).結論:当院内科から眼科へは速やかに紹介されていたが,糖尿病罹病から眼科受診までにはC6年かかっており,さらなる病診連携と糖尿病患者への教育が重要と考えられた.CPurpose:Toevaluatethetimingandstatusofdiabeticretinopathy(DR)patientsreferredfrominternalmedi-cineCtoCophthalmologyCforCtreatment.CMethods:ThisCstudyCincludedC92CDRpatients(82Cmales,C10females)whoCwerereferredfromtheendocrinologyanddiabetesdepartmenttotheophthalmologydepartmentforinitialevalua-tionbetweenJanuary2022andJuly2023.Theperiodfromtheinitialinternalmedicinevisitsatourhospitaltothe.rstCophthalmologyCvisit,CtheCstatusCofCDR,CtheCdurationCofCdiabetes,CmedicalChistoryCinCinternalCmedicine,CandCHbA1cClevelsCwereCanalyzed.CResults:MeanCpatientCageCwasC57.1±11.5Cyears,CandCtheCmeanCHbA1cClevelCwasC10.6±2.5%(range:5.3-16.5%)C.Ofthe92cases,DRwasobservedin58(63.0%)C,including28(30.4%)simpleDRcases,19(20.6%)pre-proliferativeDRcases,and11(12.0%)proliferativeDRcases.Meantimefrominitialinter-nalmedicinepresentationto.rstophthalmologyvisitwas1.8±6.2months,andmeandurationofdiabeteswas6.1C±7.8Cyears.CPatientsCwithCDRChadCaCsigni.cantlyClongerCdurationCofCdiabetesCcomparedCtoCthoseCwithoutDR(p=0.02)C.CConclusions:AlthoughCreferralsCfromCtheCinternalCmedicineCtoCophthalmologyCdepartmentsCwereCmadeCpromptly,themeandurationfromtheonsetofdiabetestothe.rstophthalmologyvisitwas6years.Strengtheningcollaborationbetweenhospitalsandclinicsandenhancingdiabeteseducationforpatientsareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1179.1184,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,眼底検査,内分泌・糖尿病内科,眼科.diabeticretinopathy,fundusexamination,in-ternalmedicine,ophthalmology.Cはじめに併症として糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)があ糖尿病患者においては,糖尿病と診断された際に速やかにげられるという報告もある1).しかし,日本における糖尿病眼科を受診し,定期的な眼科検査を受けることの重要性が広患者の眼底検査受診率は,2015年度およびC2017年度の調く啓発されている.また,糖尿病患者がもっとも懸念する合査においていずれもC50%未満にとどまり2,3),適切な眼科受〔別刷請求先〕野崎実穂:〒464-8547愛知県名古屋市千種区若水一丁目C2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenter.1-2-23Wakamizu,Chikusa-ku,Nagoya464-8547,JAPANC表1患者背景症例92例眼科受診時の年齢C57.1±11.5歳(C27.C81歳)性別男性C82/女性C10内科初診日から眼科受診までの期間糖尿病罹病期間(n=79)CHbA1c値C1.8±6.2月(0.C60月)C6.1±7.8年(0.C34年)10.6±2.5%(C5.3.C16.5%)内科受診歴近医通院中9(C9.8%)内科治療を自己中断24(C26.1%)糖尿病を放置25(C27.2%)未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)34(C36.9%)診が行われていない患者が依然として多い現状が明らかとなっている.実際に,眼科を受診する糖尿病患者のなかには,糖尿病と診断されてから長期間が経過しているにもかかわらず,一度も眼科を受診していない例が少なくなく,受診時にはすでにDRが進行している場合がしばしば見受けられる.そこで本研究では,糖尿病患者が初めて眼科へ紹介された時期と,その時点におけるCDRの重症度を検討したので報告する.CI対象と方法対象は,2022年C1月.2023年C7月に名古屋市立大学医学部付属東部医療センター眼科(以下,当院)を受診した糖尿病患者のうち,当院内科からの紹介でCDRの評価を初めて受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について検討を行った.検討項目は,当院内科初診から眼科受診までにかかった期間,糖尿病罹病期間,HbA1c値,DRの重症度,内科受診歴とした.DRは,超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia)によるカラー眼底写真をもとに,Davis分類を用いて判定した.DRあり・なしでC2群に分け,患者背景を比較した.年齢,性別,罹病期間,HbA1c値はCMann-WhitneyU検定,内科継続の有無についてはC|2検定で統計解析を行った.DR重症度と糖尿病罹病期間の比較はCKruskal-Wallis検定を行った.p<0.05で有意差ありと判定した.なお,本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号C60-24-015).CII結果眼科受診時の平均年齢は,57.1C±11.5歳(27.81歳),当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月(最大C60カ月).糖尿病罹病期間は,糖尿病発症時期が判明図1DR重症度の内訳したC79例で検討を行い,平均C6.1C±7.8年(最大C34年)であった.HbA1c値は,平均C10.6C±2.5%(5.3.16.5)であった(表1).内科受診歴は,近医通院中で糖尿病治療を継続できていた患者はC9例(9.8%),内科治療を自己中断した患者は24例(26.1%),糖尿病を放置していた患者はC25例(27.2%),未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)患者はC34例(36.9%)であった(表1).今回の検討で,DRがなかった患者はC34例(37%),網膜症を有した患者はC58例(63%)であった.そのうち,単純DR(simplediabeticretinopathy:SDR)28例(30.4%),前増殖CDR(preproliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)19例(20.6%),増殖CDR(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)11例(12.0%)であった(図1).DRの有無と糖尿病罹病期間について,罹病期間が判明したC79例で検討を行った.未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例は罹病期間C0とした.DR重症度別の罹病期間は,DRのない患者(32例)ではC3.6C±5.3年,SDR(24例)ではC7.0C±7.8年,PPDR(15例)はC8.3C±9.8年,PDR(8例)ではC9.5C±10.0年で,網膜症の重症度が増すにつれ,糖尿病罹病期間も長くなる傾向にあったが,統計学的に有意な相関は認めなかった(表2).さらに,罹病期間が判明したC79例についてCDRの有無と患者背景を比較した.年齢,性別,HbA1c値,内科継続の有無では,DRなし群とCDRあり群間で有意な差は認めなかったが,DRなし群(32例)の罹病期間C3.1C±5.3年,DRあり群(47例)の罹病期間C7.9C±8.7年(p=0.02)と,DRあり群で有意に罹病期間が長かった(表3).つぎに,代表症例を示す.表2DR重症度と糖尿病罹病期間DR重症度平均罹病期間(年)DRなし(n=32)C3.6±5.3年SDR(n=24)C7.0±7.8年PPDR(n=15)C8.3±9.8年PDR(n=8)C9.5±10.0年表3DRなし群とDRあり群の比較網膜症なし(n=32)網膜症あり(n=47)p値年齢C57.6±12.1歳C57.4±11.6歳C*0.94性別男性C26/女性C6男性C43/女性C4C**0.17罹病期間C3.6±5.3年C7.9±8.7年C*0.02HbA1c値C10.7±2.7%C10.5±2.7%C*0.79内科継続の有無※C1/15C5/28C**0.6※未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)を除く*Mann-WhitneyU検定**|2検定[症例]患者:50代,男性.既往歴:30代後半で糖尿病を指摘されるが放置していた.201X年鎖骨骨折のため当院整形外科で手術予定となり,術前採血でCHbA1c10.9%が判明し,血糖コントロールのため,当院内分泌・糖尿病内科に紹介された.栄養指導をうけ,骨折手術後退院,退院後の内科通院歴は不明である.現病歴:201X+5年C2月,下肢に浮腫が出現し近医を受診し,HbA1c13.6%と高値を指摘され,当院内分泌・糖尿病内科へ紹介され,201X+5年C3月に内科から眼科へ紹介された.経過:視力は両眼とも矯正C1.2,両眼に網膜点状─斑状出血および軟性白斑を多数認め(図2a),両眼CPPDRと診断し,蛍光眼底造影検査で,無灌流領域がC3象限に認められたため(図2b),両眼汎網膜光凝固術を施行した.そのC4カ月後,当院内科・眼科とも外来受診しなくなった.201X+6年2月再び下肢に浮腫が出現し,近医受診し当院内科へ紹介された.HbA1c5.9%であった.また両眼視力低下を自覚し,C201X+6年C12月に近医眼科から当科へ紹介.視力は両眼とも矯正C0.6,両眼糖尿病黄斑浮腫を認め(図3),抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療を開始した.現在は,定期的に内科・眼科受診を継続している.CIII考按本研究では,糖尿病患者が初めて眼科に紹介された時期と,その時点でのCDRの状態を検討した.内科初診から眼科受診までの期間は平均C1.8C±6.2カ月と比較的速やかであったが,糖尿病と診断されてから初めて眼底検査を受けるまでには平均C6.1C±7.8年(最大C34年)を要していた.TheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)は,糖尿病罹病期間がC5年以上経過するとCDR発症リスクが有意に高まると報告しており4),日本人C2型糖尿病患者におけるCDRの発症・進行の決定因子を検討した後ろ向き研究でも,罹病期間が唯一の決定因子であったとされている5).本研究でも,DRのある群が有意に長い糖尿病罹病期間であり,この結果はこれらの先行研究と一致している.一方で,糖尿病罹病期間が長いほどCDRが重症化する傾向は認められたものの,統計学的有意差は得られなかった.本研究では,未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例を罹病期間C0とカウントしていること,それ以外に罹病期間が判明した症例がC45例と限られていたことから,統計解析の検出能力が十分ではなかった可能性がある.今後は症例数を増加させ,より高い検出能力をもつ解析を行うことで,糖尿病罹病期間とCDRの重症度との関連性についても,さらに詳細に検討したいと考える.本研究において,眼科受診までもっとも長期間を要した症例は,受診後も通院を自己中断していた.この患者は,通院中断の理由として外来の待ち時間が長いことをあげており,他施設の報告でも「多忙」や「待ち時間の長さ」が糖尿病患者の通院中断の要因として指摘されている6).現在,当院では「DRスクリーニング外来」を設置し,待ab図2代表症例(50代,男性)①a:初診時カラー眼底写真.b:初診時フルオレセイン蛍光造影.ち時間の短縮を図るため,眼科の診察枠を効率的に運用している.いる.具体的には,内分泌・糖尿病内科の医師が診察予約を今回の検討では,内科から眼科への紹介が比較的速やかに管理し,眼科外来で無散瞳での超広角走査型レーザー検眼鏡行われている一方で,糖尿病発症から眼底検査までに平均C6による撮影を実施して7),眼科医がCDRの有無をチェックす年かかっている現状が明らかになった.また,内科通院を自るしくみを採用している.これにより,眼科受診のハードル己中断した患者,あるいは糖尿病を指摘されていたが放置しを下げ,患者が気軽に眼底検査を受けられる環境を整備してていた患者が半数以上を占めていた.この結果を踏まえ,今ab図3代表症例(50代,男性)②a:再初診時カラー超広角走査型レーザー検眼鏡所見.b:再初診時光干渉断層計所見.後は地域の医療機関とのさらなる病診連携の強化と,糖尿病患者に対する教育が一層重要であると考えられた.本論文の要旨は第C30回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StrainCWD,CCosCX,CHirstCMCetal:TimeCtoCdomore:CaddressingCclinicalCinertiaCinCtheCmanagementCofCtypeC2CdiabetesCmellitus.CDiabetesCResCClinCPractC105:302-312,C20142)TanakaH,SugiyamaT,Ihana-SugiyamaNetal:Chang-esCinCtheCqualityCofCdiabetesCcareCinCJapanCbetweenC2007CandC2015:ACrepeatedCcross-sectionalCstudyCusingCclaimsCdata.DiabetesResClinPractC149:188-199,C20193)Ihana-SugiyamaCN,CSugiyamaCT,CHiranoCTCetal:PatientCreferral.owbetweenphysicianandophthalmologistvisitsforCdiabeticCretinopathyCscreeningCamongCJapaneseCpatientsCwithdiabetes:ACretrospectiveCcross-sectionalCcohortCstudyCusingCtheCNationalCDatabase.CJCDiabetesCInvestigC14:883-892,C20234)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20115)NakayamaCY,CYamaguchiCS,CShinzatoCYCetal:Retrospec-tiveCexploratoryCanalysesConCgenderCdi.erencesCinCdeter-minantsforincidenceandprogressionofdiabeticretinop-athyCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCmellitus.CEndocrJC68:655-669,C20216)山田幸男,高澤哲也,鈴木正司ほか:dropCoutが原因で透析・失明に至った患者の実態と予防策.プラクティスC10:C426-431,C19937)野崎実穂:糖尿病診療における合併症の管理糖尿病網膜症.診断と治療110:325-330,C2022***

金沢市における緑内障検診

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1523.1530,2014c金沢市における緑内障検診宮内修*1柳田隆*1川北聖子*1狩野宏成*1中川寛忠*1藤村和昌*1大久保真司*2杉山和久*2*1金沢市医師会*2金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学GlaucomaScreeninginKanazawaOsamuMiyauchi1),TakashiYanagida1),SeikoKawakita1),KouseiKarino1),HirotadaNakagawa1),KazumasaFujimura1),ShinjiOhkubo2)andKazuhisaSugiyama2)1)KanazawaMedicalAssociation,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告する.対象および方法:50,55,60歳の検診対象者に対し,問診・細隙灯顕微鏡検査・眼圧測定・眼底検査を行い,要精検と判断された場合は視野検査などの精密検査受診を勧奨し,症例検討会を経て最終的な緑内障診断を決定した.結果:平成20.24年度の累積データでは,対象者は53,768人,検診受診者数4,553人で受診率8.5%,要精検者数478人で要精検率10.5%,精検受診者数407人で精検受診率85.1%であった.最終診断の内訳は,狭義の原発開放隅角緑内障が検診受診者の0.2%,正常眼圧緑内障1.5%,緑内障疑い2.3%,原発閉塞隅角緑内障0.1%,原発閉塞隅角症0.1%,高眼圧症1.1%,緑内障以外の疾患0.5%.緑内障の検出率は1.9%であった.結論:発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.Purpose:ToreporttheresultsofglaucomascreeninginKanazawacity.SubjectsandMethods:Examineesunderwentmedicalinterview,slit-lampexamination,intraocularpressuremeasurementandfundusexamination.Aditionalexaminations,suchasvisualfieldtests,wereencouragedforthosewhohadabnormalfindings,andwedeterminedthefinaldiagnosisofglaucomaafteracaseconference.Results:Ofthe4,553personswhovisiteddoctorsforscreening,478peoplewererequiredfurtherexaminationsandwhom407ultimatelyunderwentthoroughexamination.Atfinaldiagnosis,0.2%ofscreeningparticipantswithprimaryopen-angleglaucoma,1.5%withnor-mal-tensionglaucoma,2.3%withsuspectedglaucoma,0.1%withprimaryangle-closureglaucoma,0.1%withprimaryangleclosure,1.1%withocularhypertension,0.5%withdiseasesotherthanglaucoma.Theglaucomadetectionratebythisscreeningwas1.9%.Conclusions:Themajorityoftheglaucomainthisscreeningisnormaltensionglaucoma.Thisresultsuggeststhatclosefundusexaminationbyanophthalmologistisessentialforearlydetectionofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1523.1530,2014〕Keywords:緑内障,検診,金沢市,眼科専門医,眼底検査.glaucoma,screening,Kanazawacity,ophthalmologist,fundusexamination.はじめに日本眼科医会の報告1)では,2007年現在の視覚障害者数は約164万人(矯正視力0.1超0.5未満の「ロービジョン者」が144万9,000人,失明者を含む矯正視力0.1以下の者が18万8,000人の計163万7,000人)に上り,高齢化がさらに進む2030年には202万人とピークに達し,医療費に加え,家族の負担,低雇用率やQOL(生活の質)の低下などを金額に換算した視覚障害のコストは11兆円に膨らむと試算されている.この視覚障害の原因疾患内訳は,上位より緑内障24%,糖尿病網膜症21%,変性近視12%,加齢黄斑変性症11%,白内障7%の順であり,上位5疾患で視覚障害全体の3/4を占める.これらの原因疾患は加齢により進行し,初期〔別刷請求先〕宮内修:〒920-0348金沢市松村4丁目305番地みやうち眼科Reprintrequests:OsamuMiyauchi,M.D.,MiyauchiEyeClinic,Matsumura4-305,Kanazawa-shi,Ishikawa-ken920-0348,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(101)1523 には自覚症状が現れにくいものばかりである.この報告のなかで日本眼科医会は,緑内障,糖尿病網膜症など原因疾患の予防・早期診断に対する国民意識の向上およびより積極的な治療が必要であるとしている.このような視覚障害による疾病負担を減らすために最も効果のあるものが,早期診断・早期治療のための公的な成人の目の健診プログラムであり,しかも早期発見がその後の視機能予後を最も大きく左右するのが緑内障であると考えられる.金沢市では,従来から基本健診の他に各種のがん検診などが行われてきたが,平成18年度より金沢市医師会に委託する形で緑内障検診を開始した2).平成18年度の検診開始から2年間は40,45,50歳を対象としたが,3年目の平成20年度からは50,55,60歳を対象としている.今回筆者らは,平成20年度から平成24年度までの累積データの解析結果について検討し報告する.I対象および方法図1に緑内障検診フローチャートを示す.平成20年度から50,55,60歳を対象として,金沢市が発行する受診券を持参した方に対して毎年度5月1日.10月31日に緑内障検診を行った(金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者の家族などを対象に受診券は送付され,協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外である).検診の目的を緑内障の早期発見のためとあらかじめ明記し,すでに緑内障で受療中である場合には,今回の解析対象から除外した.また,受診券には,受診結果データ(過去の受診結果も含めて)を金沢市医師会で実施する医療・健康に関する各種調査・分析に活用し,個人が特定される情報が開示されることがない旨もあわせて記載されている.図2に金沢市緑内障検診で使用している検診票を示す.検診施設の条件として,①圧平眼圧計あるいは非接触式眼圧計を所有していること,②前置レンズ,三面鏡あるいは双眼倒像鏡による視神経乳頭の立体観察が可能であること,③眼底カメラ,あるいは細隙灯顕微鏡下で眼底撮影ができ,ポラロイド写真あるいはプリントしたものを必要に応じて結果報告に添付できることとした.検診医は検診票の項目に従い,問診・前眼部検査・眼圧検査・眼底検査を行い,精密検査(以下,精検)が必要と判断された人に対して,視野検査などの精検受診勧奨を行った.問診では,本検診の受診歴とその結果・眼疾患や内眼手術の有無などの既往歴・全身疾患(糖尿病,高血圧,高脂血症)の合併症の有無・緑内障の家族歴をチェックした.細隙灯顕微鏡による前眼部検査では,浅前房・落屑・虹彩後癒着・その他の異常所見の有無と,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下かどうかもチェックした.眼圧検査では実測値と圧平眼圧計/非接触式眼圧計のどちらで眼圧測定したかを記入した.眼底検査では,視神経乳頭の陥凹拡大(垂直C/D>0.7)・陥凹の左右差・乳頭辺縁部の菲薄化・乳頭辺縁部ノッチ形成・乳頭辺縁部出血・網膜神経線維層欠損・眼底透見困難の有無をチェックした.要精検の判定基準は,①眼圧が20mmHg以上,②vanHerick⑤検診②受診⑨要精検者結果通知精検受診⑥検診結果報告・請求緑内障検診受診・問診・細隙灯顕微鏡検査・視神経乳頭検査・眼圧測定要精検者精検受診・視野検査など受託医療機関⑦検診料金支払い金沢市①受診券送付受診者金沢市医師会③検診票・眼底写真提出検診委員会④結果通知・眼底写真返却⑧検診料金支払い症例検討会⑩精検結果報告精度管理委員会(視野検査添付)図1緑内障検診フローチャート1524あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(102) 図2金沢市緑内障検診で使用している検診票図3金沢市緑内障検診で使用している精密検査票表1精密検査の最終診断基準最終診断の病型判定基準緑内障以下の1もしくは2のいわゆる緑内障性視神経症を認める1.信頼性のある視野検査結果で視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野異常が存在する場合:垂直C/D比が0.7以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,あるいは網膜神経線維層欠損が存在する2.乳頭所見のみから緑内障と診断してよい場合:垂直C/D比が0.9以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.05以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.3以上緑内障疑い①垂直C/D比が0.7以上であるが0.9より小さい②上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下であるが0.05より大きい③両眼の垂直C/D比の差が0.2以上であるが0.3より小さい④網膜神経線維層欠損が存在する,が単独もしくは複数存在しながら,視野検査の信頼性が低い,あるいは視野結果を参照できない,あるいは,視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野欠損が示されない原発閉塞隅角症原発性の隅角閉塞があり,眼圧上昇または器質的な周辺虹彩癒着を生じているが上記緑内障性視神経症を認めない高眼圧症眼圧22mmHg以上であるものの,上記緑内障性視神経症や閉塞隅角を認めない※C/D比:視神経乳頭陥凹乳頭径比(cup-to-discratio),R/D比:リム乳頭径比.法による判定で,前房深度が角膜厚の1/4以下で隅角閉塞目のいずれかを選び,緑内障以外の眼疾患が疑われる場合はが疑われる,③緑内障性視神経障害が疑われる,の3条件の想定される疾患を検診票のコメント欄に記入し,金沢市医師うち1つ以上が存在する場合と規定した.検診判定として,会に提出した.要精検と判定された場合には精検受診勧奨を異常なし・要精検・緑内障以外の眼疾患が疑われる,の3項行い,自院で実施・未精検・他施設に紹介の区別も検診票の(103)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141525 最後に記入することとした.図3に金沢市緑内障検診で使用している精密検査票を示す.精密検査の最終診断基準は表1のとおりで,病型分類は,平成20.22年度検診では緑内障診療ガイドライン初版3)に準拠したが,平成23年度より緑内障診療ガイドライン第2版4)に準拠し,最終診断に原発閉塞隅角症を追加した.精検担当医は,各精検受診者を,1.原発開放隅角緑内障,2.正常眼圧緑内障,3.原発閉塞隅角緑内障,4.続発緑内障(原因を記入),5.原発閉塞隅角症,6.高眼圧症,7.緑内障疑い,8.緑内障以外の眼疾患,9.異常なしのいずれかに分類診断し,その結果を眼底写真および視野検査結果とともに,金沢市医師会に提出した.金沢市医師会に集積した検診票・精密検査票・眼底写真・視野などの検診結果・精密検査結果をもとに,検診精度向上のため,検診期間終了後に症例検討会を開催し,この会への出席を検診受託医療機関に義務付けた.症例検討会では,精検にて緑内障と診断された症例や緑内障の疑いとされた症例を中心に,金沢大学眼科の緑内障専門医が最終診断する形式をとった.こうして得られた結果をもとに,緑内障検診の受診率,精検率,検出率などを算出し,最終診断結果を解析した.II結果表2に金沢市緑内障検診結果の概要を示す.平成20年度から平成24年度までの累積データ(5年間)では,対象者数53,768人(男19,313人/女34,455人)のうち,検診受診者数4,553人(男621人/女3,932人)で,受診率は8.5%(男3.2%/女11.4%)であった.検診受診者全体の平均年齢は55.9±4.2(平均±標準偏差)歳であった.年齢別男女構成は50歳1,247人(男137人/女1,110人),55歳1,240人(男148人/女1,092人),60歳2,066人(男336人/女1,730人)で,各年代とも女性が多く,50・55歳に比して60歳の受診が多かった.要精検者数478人で,要精検率は総検診受診者の10.5%,精検受診者数407人で精検受診率は要精検者の85.1%,緑内障の最終診断を受けたのは84人で緑内障検出率は総検診受診者の1.8%であった.また,精検を受けた人のなかで緑内障の診断を受けた割合(以後,精検陽性率)は20.6%であった.表3に要精検とした理由を示す.平成20年度からの5年間においては,各判定項目の重複があるが,眼圧20mmHg以上が91人(要精検となった人の18.7%),隅角閉塞の疑いが41人(同8.4%),緑内障性視神経障害の疑いが355人(同72.9%)であった.測定された眼圧値は正規分布を示し,平均値は左右とも14.0±2.8mmHg(平均±標準偏差,以下同様)で左右差はなく(Studentのt検定,p=0.08),左右の眼圧値はよく相関した(単回帰分析による相関係数|R|=0.83).また,検診に1526あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014使用された眼圧計は圧平眼圧計2,289人/非接触式眼圧計2,229人(測定した眼圧計不明35人)で,測定された眼圧値は,圧平眼圧計(右眼14.6±2.8mmHg/左眼14.5±2.7mmHg)のほうが非接触式眼圧計(右眼13.4±2.8mmHg/左眼13.5±2.7mmHg)より,左右とも有意に高い値を示した(Studentのt検定,p<0.0001).表4に平成20年度からの5年間の最終診断の内訳を示す.平成23年度より採用された原発閉塞隅角症は要精検者中の0.1%であった.緑内障と診断された人の内訳では,いずれの年度も正常眼圧緑内障が最も多く,5年間の通算で70人(緑内障と診断された人の83.3%),原発開放隅角緑内障が11人(同11.9%),原発閉塞隅角緑内障が4人(同4.8%)であった.また,提出された資料での判定では,「緑内障疑い」に留まるものも106人と,検診受診者の2.3%(全精検受診者の26.0%)にあった.さらに,緑内障以外の疾患も検診受診者の0.5%にあった.非緑内障,つまり緑内障が認められなかった検診受診者(n=4,320,平均年齢55.9±4.2歳,男586人,女3,734人)の眼圧は圧平眼圧計2,178人で右眼14.4±2.6mmHg/左眼14.3±2.6mmHg,非接触式眼圧計2,142人で右眼13.3±2.7mmHg/左眼13.5±2.6mmHgであり,一方,原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者(n=80,平均年齢56.1±4.2歳,男11人,女69人)の眼圧は圧平眼圧計46人で右眼16.0±2.8mmHg/左眼16.2±3.4mmHg,非接触式眼圧計34人で右眼14.2±3.3mmHg/左眼14.5±3.9mmHgと,非緑内障と比べ有意に高かったが(左右眼とも,Studentのt検定,p<0.0001),原発開放隅角緑内障(広義)と非緑内障との間に男女差はなく(c2検定,p=0.95),年齢差もなかった(Studentのt検定,p=0.55).眼圧に影響する因子として性別・年齢・測定する眼圧計の違い(圧平眼圧計/非接触式眼圧計)・緑内障の有無(原発開放隅角緑内障〔広義〕/非緑内障)を設定した多変量解析においても,眼圧計の違い・緑内障の有無がそれぞれ独立して有意に眼圧に影響しており(一元配置分散分析,それぞれ左右眼ともp<0.0001),性別(右眼p=0.841,左眼p=0.617)や年齢(右眼p=0.147,左眼p=0.167)の影響はなかった.vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例の最終結果は,原発閉塞隅角緑内障4例(41例中の10%)・原発閉塞隅角症4例(同10%)・原発閉塞隅角症の疑い7例(同17%)であった.緑内障と最終診断された84例の視野障害程度を分類した結果(簡便にHumphrey視野にて,平均偏差>.6dBを初期・.6dB≧平均偏差≧.12dBを中期・.12dB>平均偏差を後期とした),初期60例(84例中の71.4%)・中期11例(同13.1%)・後期1例(同1.2%),固視不良・視野測定(104) 表2金沢市緑内障検診結果の概要平成20.24年度平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積対象年齢(歳)50,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,60対象者数1227311520106209655970053768受診者数9769359118478844553受診者数(男/女)141/835129/806134/777111/736106/778621/3932受診率8.0%8.1%8.6%8.8%9.1%8.5%要精検者数949410481105478要精検率9.6%10.1%11.4%9.6%11.9%10.5%精検受診者数7676887196407精検受診率80.9%80.9%84.6%87.7%91.4%85.1%緑内障191818121784緑内障検出率1.9%1.9%2.0%1.4%1.9%1.8%精検陽性率25.0%23.7%20.5%16.9%17.7%20.6%表3要精検とした理由平成20.24年度要精検者内要精検と判定した理由平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合眼圧20mmHg以上19291413169118.7%隅角閉塞の疑い5712710418.4%緑内障性視神経障害の疑い705882628335572.9%合計949410882109487※精検理由には若干の重複例あり表4緑内障最終診断の内訳平成20.24年度検診受診者内精検受診者内緑内障の診断を精密検査後の診断平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合の割合受けた内の割合全緑内障1918181217841.8%20.7%原発開放隅角緑内障51310100.2%2.5%11.9%正常眼圧緑内障1314151117701.5%17.2%83.3%原発閉塞隅角緑内障1300040.1%1.0%4.8%続発緑内障0000000.0%0.0%0.0%原発閉塞隅角症0003140.1%1.0%高眼圧症1117669491.1%12.0%緑内障疑い20152924181062.3%26.0%緑内障以外の疾患42845230.5%5.7%異常なし22242722461413.1%34.6%合計7676887196407不能などで正確な視野評価負不能例が12例(同14.3%)であった.III考按緑内障スクリーニングの観点から,疫学調査である多治見スタディ5,6)と7地区共同緑内障疫学調査7),自治体における住民検診2,8.15),人間ドック16.22)の公表されている過去のデータを基に,金沢市緑内障検診の結果を比較検討した.本検診における例年の受診者数は平均910.6人であり,5年間の(105)累積で4,533人にのぼる.本検診では50,55,60歳を対象にしているが,過去疫学調査のデータはおもに40歳以上について解析されており,他の住民検診も老人保健法による基本健診を基軸にしてデザインされるケースが多いため,本検診のように5歳おきに受診させる形式2,8)や40歳以上のすべての住民を対象にする形式をとるなどさまざまであり,高齢化に伴い有病率が上がる緑内障のスクリーニング結果比較においては解析対象の年齢構成やスクリーニング方法の違いを十分に考慮する必要がある.住民検診では50歳代中盤からあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141527 60歳代が検診の中心であり,人間ドックでは住民検診より平均年齢がやや低い50歳前後に検診受診者が集まる傾向にある.各データの比較は年齢などの補正が必要とされる.住民基本台帳に基づく平成24年12月現在の金沢市の50.64歳人口は男42,734人/女45,216人であり,1歳ごとに区分した男女比も若干女性が多い程度である.このなかに今回の検診対象者の大部分が含まれると思われるが,本検診では毎回女性受診者(3,932人)のほうが男性受診者(621人)より明らかに多く,女性が総受診者の約86%を占める.本検診の対象者は,金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者本人の家族などであり,男性の占める割合の多い協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外であることから,必然的に女性対象者が多いことの一因になっていると考えられる.本検診では,最近5年間の受診率は8.9%,要精検率は約10%,精検受診率は80.90%であった.疫学調査である多治見スタディでこそ50.59歳の受診率も75.8%と高率であるが,他の住民検診8.15)でも受診率は0.21.27.3%,要精検率は5.6.25.2%,精検受診率は35.0.84.8%であり,緑内障の精密検査までたどり着く数が少なく,より多くの緑内障を発見しようとする検診本来の目的が十分達成されていないのが現状である.本検診では,各年度とも要精検理由として最も多かったのは,「緑内障性視神経障害の疑い」であり,平成20年度以降の検診で発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障(83.3%)であった.緑内障の病型別データが公表されている他の住民検診8.10,12,13)においても,正常眼圧緑内障の検出率は他の緑内障に比べて2.6.4.4%と高く,全緑内障に占める正常眼圧緑内障の割合は62.9.93.3%である.換言すれば,大部分の緑内障が眼底所見を基に診断されたものであり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底検査がいかに重要であるかを示している.以前の緑内障検診に関する報告14,15)は眼圧を中心としたスクリーニングであり,眼圧20mmHg以上であることなどの高眼圧であることが要精検理由の80.90%を占めていたが,近年の疫学調査などでは,わが国においては正常眼圧緑内障の割合が諸外国に比して高いことが判明していることを反映してか,眼底所見を重視した結果となっており,緑内障性視神経障害の疑いが要精検理由の66.7.77.0%を占めるに至っている2,5,6).本検診で測定された眼圧値(平均±標準偏差)は,圧平眼圧計で右眼圧14.6±2.8mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHgと,同じく圧平眼圧計が用いられた多治見スタディにおいて報告された眼圧(右眼圧14.6±2.7mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHg)とほとんど同値であり,また,非接触式眼圧計で右眼圧13.4±2.8/左眼圧13.5±2.7mmHgと,同じく非接触式眼圧計が用いられた7地区共同疫学調査8)において報告された眼圧(13.4±3.1mmHg)とほとんど同値であ1528あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014った.そして本検診においては,圧平眼圧計測定群のほうが非接触式眼圧計測定群より左右眼とも有意に高い値を示したが,これは同一検診対象に圧平眼圧計と非接触式眼圧計の両方で測定した報告13)(圧平眼圧計測定群15.5±2.6mmHg/非接触式眼圧計測定群15.0±2.9mmHg)でも同様であった.原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者の眼圧は,緑内障が認められなかった検診受診者の眼圧より有意に高かったものの,その平均の差はわずか1.4.1.6mmHg程度にすぎず,眼圧値を主体に緑内障スクリーニングを行うことの困難さは多治見スタディ6,7)の報告でも述べられているとおりである.ただし,本検診でも左右どちらかの眼圧が25mmHg以上の場合は50%以上の確率で開放隅角緑内障(狭義)と診断されており,これに続発緑内障や原発閉塞隅角緑内障までも考慮すると,緑内障スクリーニングを行ううえで,高眼圧を見逃さないよう十分な注意が必要なことは,万が一高眼圧を見逃して緑内障を進行させてしまうリスクを考えれば明らかである.このことは隅角検査でも同様であり,緑内障検診を,閉塞隅角を発見することにより緑内障発作や閉塞隅角緑内障の重症化を未然に防ぐ大きなチャンスととらえることが肝要である.平成20.24年度の検診おいて,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例中15例(37%)に原発閉塞隅角緑内障・原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角症の疑いの診断がなされ,緑内障検診におけるvanHerick法による閉塞隅角の検出力にも一定の効力があるものと考えられた.以上より,①高眼圧かどうか,②隅角閉塞が疑われるかどうか,③緑内障性視神経障害が疑われるかどうか,は緑内障スクリーニングの3本柱として認識すべきである.加齢とともに眼圧が下降傾向を示したとする報告8)もあるが,眼圧に影響する因子の多変量解析において,測定する眼圧計の違いや緑内障の有無が危険因子となった一方,年齢が危険因子とならなかった理由としては,今回の検診対象の年齢幅が50,55,60歳と限定されていることが影響していると考えられる.緑内障と診断された例の視野検査結果の程度分類では,初期例が70%以上を占めたが,中期・末期例も15%程検出され,早期に緑内障を発見し治療を開始する必要性が確認された.検診の精度を測るうえで,精検を受けたものが実際緑内障である割合を示す精検陽性率が重要であるが,他の住民検診のデータ7.15)では12.8%.28.6%であり,本検診の20.6%と同様であった.緑内障検出率は,40歳代を対象とした平成18・19年は約1%2),50歳代を対象とした平成20年以降は2%弱であったが,対象年齢を10歳高くしたことに伴う検出率の上昇は,多治見スタディ5,6)でも示されたごとく,高齢化に伴い緑内(106) 障の有病率が上昇することに起因する可能性が高いと推察される.本検診における50,55,60歳の平均緑内障検出率1.8%は,多治見スタディで示された50.59歳での緑内障有病率2.9%より低く,過去の住民検診14,15)や人間ドックのデータ16,20.22)の中には0.15.1.48%と比較的低い検出率のものも多いが,対象年齢構成や検診方法などの違いから単純な比較は困難であることを考慮しても,疫学調査と比しても遜色のない検出率(2.4.5.3%)を誇るデータ8,10,13,16,17)も散見される.本検診で緑内障と最終診断されたものの検診受診者に占める割合は,原発開放隅角緑内障0.2%,正常眼圧緑内障1.5%で広義の開放隅角緑内障としては1.7%であり,多治見スタディにおける50.59歳での広義の開放隅角緑内障の有病率2.7%と比すると低値であるが,原発閉塞隅角緑内障0.2%(多治見スタディの50.59歳のデータ0.2%),高眼圧症1.1%(多治見スタディの全体データ0.8%)は同様の値であった.本検診における緑内障全体の検出率が低値であった原因として考えられるのは,①すでに緑内障と診断され治療を受けている人は,この検診の対象外であること,②受診率が低く,検診受診者に偏りがある可能性があること,③精検受診勧奨した人の精検受診率が平均で85.1%であり,精検を受けなかった人のなかに緑内障の人が存在する可能性があり,精検未受診のなかに同様の比率で緑内障が存在すると仮定した補正検出率は1.8%×100/85.1=2.1%であること,④最終診断で緑内障と診断された割合は精密検査受診者の20.6%に留まっており,検診の精度という面においては課題が残っていて,検診での見逃しやデータ漏れを厳しく検証するシステムがまだ確立していないこと,⑤最終診断で「緑内障疑い」とされた106例(開放隅角緑内障〔広義〕の疑い101例,閉塞隅角緑内障5例)は,検診受診者の2.3%,精検受診者の26.0%にも上り,実際に緑内障と診断されるより大きい割合を占めるが,そのなかには,眼底写真が不鮮明,視野検査の信頼度が低いなどのさまざまな理由で緑内障と診断決定できないものの本当は緑内障である例や,近視性の眼底変化により緑内障性視神経障害が判定しにくい例が含まれていること,⑥実際に今回の検診で検出された開放隅角緑内障(広義)の検診受診者に対する割合は1.7%であるが,開放隅角緑内障(広義)の疑い2.2%と合わせて3.9%となり,多治見スタディでの疑いも含めた広義の開放隅角緑内障の有病率(50.59歳)が4.5%であることと遜色ない結果である,などが挙げられる.今回筆者らは,平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告した.発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.公的眼科成人検診の礎となるべく,検診受診年齢枠の拡大や受診率アップ,検診精度のよりいっそ(107)うの向上が望まれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)金沢市医師会緑内障検診委員会:狩野宏成,中川寛忠,藤村和昌ほか:金沢市緑内障検診.日本の眼科78:929-932,20073)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-156,20034)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20046)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:theTajimiStudyreport2.TheprevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20057)塩瀬芳彦,北澤克明,塚原重雄ほか:日本における緑内障疫学共同調査.あたらしい眼科7(Suppl1):7-13,19908)関保,濱畑和男,下村直樹ほか:東京都大田区における緑内障検診について.日本の眼科83:1049-1051,20129)石川誠:緑内障検診(1).あたらしい眼科27:207-208,201010)OhkuboS,TakedaH,HigashideTetal:Apilotstudytodetectglaucomawithconfocalscanninglaserophthalmoscopycomparedwithnonmydriaticstereoscopicphotographyinacommunityhealthscreening.JGlaucoma16:531-538,200711)鈴木万里子,安間哲史:愛知県眼科医会第2回「緑内障無料検診」事業について.日本の眼科78:1467-1470,200712)向井聖:緑内障集団検診の有用性について.厚生連尾道総合病院医報15:45-47,200513)勝島晴美,曽根聡,竹田明ほか:眼圧測定法の違いが緑内障検診結果に及ぼす影響.日眼会誌106:143-148,200214)弓削経夫,浅山孝彦,飯田洋子ほか:京都市伏見区の緑内障検診.日本の眼科63:631-635,199215)中村二郎,横井さち代,角屋博孝ほか:滋賀県湖北地区における緑内障検診システムとその問題点.臨眼45:919923,199116)冨岡敏也,原雅文,菊池英弥ほか:当院の人間ドックにおける緑内障スクリーニングの検討.眼臨101:5-6,200717)野田康子:当院人間ドックにおける緑内障検診の検討.弘前市立病院医誌13:52-55,200418)須網政浩,青島真一:浜松赤十字病院健診センターにおける緑内障検診の検討.浜松赤十字病院医学雑誌4:86-90,2003あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141529 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