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選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)835《原著》あたらしい眼科27(6):835.838,2010cはじめに1979年にWiseらは,隅角全周の線維柱帯色素帯にアルゴンレーザーを照射するレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)によって,眼圧下降が得られることを報告した1).しかし,その後の報告で術後,周辺虹彩前癒着(PAS)が生じたり,線維柱帯の器質的変化が生じ眼圧が上昇するなどの問題点が指摘された2,3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は線維柱帯の有色素細胞を選択的に破砕し,線維柱帯細胞を活性化して房水流出を改善し,眼圧を下降させる方法4)で,照射するエネルギーが少なく,反復照射可能で合併症も少ないことから薬物療法と観血的手術治療の中間の治療として期待されている5,6).SLTを全周照射した治療成績の文献は散見される7.12)が,観察期間が1.3カ月間と短期間のものが多く,国内では菅野らの報告10)の6カ月間が最長であるが,症例数が10例と少ない.そこで今回井上眼科病院においてSLTを施行し,3カ月間以上経過観察ができた39例47眼の治療成績をレトロスペクティブに検討した.〔別刷請求先〕菅原道孝:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3医療法人社団済安堂井上眼科病院Reprintrequests:MichitakaSugahara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績菅原道孝*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院EfficacyofSelectiveLaserTrabeculoplastyMichitakaSugahara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:当院における選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を検討した.対象および方法:2006年11月から2008年2月までにSLTが施行され,3カ月以上経過観察ができた39例47眼を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,続発緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.平均年齢は68.3歳,平均経過観察期間は10.9カ月間,術前平均投薬数は3.7剤であった.結果:SLT術前の眼圧は22.1±5.6mmHg,術6カ月後の眼圧は17.2±4.6mmHgで,有意に下降した(p<0.0001).術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降したものは62.9%,同様に20%以上眼圧が下降したものは48.6%であった.重篤な副作用の出現はなかった.結論:SLTは安全で眼圧下降効果が強力で,短期的には有用性が高かったが長期に経過をみる必要がある.Purpose:Weinvestigatedtheeffectivenessofselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Methods:FromNovember2006toFebruary2008,weinvestigated47eyesof39patientsinwhomSLTwasappliedto360degreesofthetrabecularmeshwork,withfollow-upformorethan3months.Theseriescomprised33eyeswithprimaryopen-angleglaucoma,12eyeswithexfoliationglaucoma,1eyewithsecondaryglaucomaand1eyewithocularhypertension.Results:Meanpatientagewas68.3yearsandmeanfollow-upperiodwas10.9months;theaveragenumberofanti-glaucomatouseyedropstakenbeforeSLTwas3.7.IOPdecreasedsignificantlyinalleyes,fromapreoperativemeanof22.1±5.6mmHgtoameanof17.2±4.6mmHgat6monthspostoperatively.After6months,IOPreduction≧3mmHgwasseenin62.9%ofeyes,andIOPreductionrate>20%wasseenin48.6%ofeyes.Noseriouscomplicationsoccurredinanyeyes.Conclusion:SLTisasafeandeffectivealternativeforreducingIOPforashorttime.Long-termoutcomesofSLTshouldalsobeevaluated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):835.838,2010〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.836あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(122)I対象および方法対象は39例47眼(男性20例24眼,女性19例23眼),年齢は68.3±10.5歳(平均±標準偏差)(40.86歳),観察期間は最低3カ月以上とし,10.9±4.7カ月(3.20カ月)であった.術前投薬数3.7±1.2剤で,内訳は点眼薬・内服未使用が2眼,1剤が1眼,2剤が2眼,3剤が13眼,4剤が17眼,5剤が12眼であった.異なる日に計測した連続する術前2回もしくは3回の眼圧の平均値は22.1±5.6mmHg(12.44mmHg)であった.手術既往は線維柱帯切除術が4眼,線維柱帯切開術が3眼,ALTが4眼,白内障手術が6眼であった.緑内障の病型分類は,原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,ステロイド緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.SLTの適応は点眼・内服治療を行っている,もしくは点眼・内服治療にアレルギーがあり使用できない患者で,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が必要な症例とした.患者にはインフォームド・コンセントをとり,文書にて同意を得た.SLTのレーザー装置は,ルミナス社製SelectduetRを使用した.照射条件は0.4mJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとした.全例隅角全周に照射した.術前眼圧と術1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧を比較した(対応のあるt検定).レーザー照射後眼圧が3mmHg以上下降,または眼圧下降率が20%以上を有効例とした.また,眼圧下降率とSLTの治療成績に影響を与える因子(術前眼圧,術前投薬数,総照射エネルギー)とに相関があるか回帰分析で検討した.SLT後に投薬数を増加,緑内障観血的手術施行,SLTを再度施行,あるいは眼圧下降率10%未満が3回続いた場合を死亡と定義し,生存率を検討した.II結果1照射エネルギーは0.78±0.14mJ(0.4.1.0mJ),照射数は103.1±14.1発(75.135発),平均総エネルギーは80.5±17.2mJ(36.4.112mJ)であった.術後眼圧の推移を図1に示す.術前眼圧は22.1±5.6mmHgから1カ月後には18.7±6.5mmHg,3カ月後には16.6±3.1mmHg,6カ月後には17.2±4.6mmHgと眼圧は術前と比較し,どの時期においても有意に下降していた(p<0.0001,t検定).眼圧下降率の推移を図2に示す.眼圧下降率は1カ月後14.6±18.7%,3カ月後17.6±16.6%,6カ月後15.4±19.2%で差がなかった.SLT後の有効率を図3に示す.レーザー照射1カ月後に*:p<0.0001***051015202530術前眼圧(n=47)1カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧(mmHg)観察期間図1術後平均眼圧の推移術前と比較し,どの時期においても眼圧は有意に下降していた.-10-505101520253035401カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧下降率(%)経過観察期間図2眼圧下降率の推移010203040506070有効率(%)観察期間:3mmHg下降:20%下降55.364.162.942.653.848.61カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)図3SLT後の有効率術前と比較し3mmHg以上下降したものは6カ月で62.9%,眼圧下降率20%以上のものは6カ月で48.6%であった.00.20.40.60.811.2術前n=47n=39n=39n=351カ月後2カ月後3カ月後6カ月後:累積生存率:発生例図4生存曲線Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月で0.83,6カ月で0.74であった.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.6,20108373mmHg以上下降した症例は55.3%,3カ月後は64.1%,6カ月後は62.9%であった.下降率20%以上の症例は1カ月後42.6%,3カ月後は53.8%,6カ月後は48.6%であった.術前眼圧と眼圧下降率(r=0.045,p=0.77),術前投薬数と眼圧下降率(r=0.04,p=0.788),総照射エネルギー量と眼圧下降率(r=0.045,p=0.764)ともに,相関はなかった.SLT6カ月後の転帰は,薬物療法追加3眼,SLT追加が4眼,線維柱帯切除術施行が5眼,ニードリング施行が1眼であった.Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月後で0.83,6カ月後で0.74であった(図4).47眼中12眼でSLT後軽度の虹彩炎を認めたが,術1週間後には全例で消失しており,重篤な合併症はなかった.III考按ALTでは半周照射が一般的であったことからSLTも半周照射で当初は行われていた.最近は全周照射のほうが眼圧下降効果が高いこと10,11)から当院では全例全周照射を行っている.過去の報告からSLTを全周照射したものを抜粋し,眼数,観察期間,術前投薬数,術前眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率をまとめた7.12)(表1).海外の2報告7,8)は眼圧下降率が30%以上である.Lanzettaら7)は術前投薬2.1剤でSLTを全周に照射した6例8眼で6週間後に眼圧は平均10.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均39.9%と報告した.Laiら8)は29例の中国人の術前点眼なしの症例で,同一症例の片眼にSLTの全周照射を施行し,僚眼にラタノプロストを使用した.眼圧はSLT眼で平均8.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均32.1%で,僚眼との比較で有意差はなかった.これらの報告は,経過観察期間が短いが,SLT半周照射で長期経過をみたものにJuzychらの報告13)がある.術前投薬平均2.5剤でSLTを半周照射した41眼の成績をみたところ5年後の眼圧下降率は27.1%と報告した.人種差も眼圧下降効果に関与していると考えた.一方,国内の報告は成績がばらばらであるが,眼圧下降率は10%台後半から30%台が多い.最も眼圧下降率が低い田中らの報告9)では隅角半周照射33眼と全周照射34眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.7剤,全周照射群は平均3.0剤であった.眼圧下降率は,半周照射群は平均16.1%,全周照射群は11.2%で両者に差はなかった.ただ術前平均眼圧が半周群17.4mmHg,全周群16.1mmHgで他の文献に比べ低いことも関与していると考え,術前眼圧18mmHg以上の症例で検討したところ両者に差はなかった.最も眼圧下降率が高い菅野らの報告10)では隅角半周照射10眼と全周照射10眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.2剤,全周照射群は平均1.8剤であった.6カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均7.9%,全周照射群は31.9%であった.森藤らの報告11)では半周照射44眼と全周照射45眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.5剤,全周照射群は平均2.3剤であった.1カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均10.9%,全周照射群は18.3%であった.眼圧下降率20%以上の症例は半周群18.2%,全周群40.0%と全周群が有意に多かった.Kaplan-Meier生存分析による1年生存率は半周群57.4%,全周群82.2%,2年生存率は半周群44.0%,全周群58.0%と全周群が高かった.山崎らの報告12)では全周照射した20眼の成績を検討している.術前投薬数は2.6剤で,眼圧下降率は平均15.1%であった.本報告でのSLTの眼圧下降率は15.4%と他の文献よりやや低いと思われるが,その理由として術前投薬数が3.7剤と多いため,眼圧下降効果が弱まったのではないかと考えた.実際術前投薬数と眼圧下降率に相関はなかったが,今後は術前投薬数が2剤もしくは3剤の段階でSLTを施行し眼圧の変動をみるとともに,SLTの有効性を推測する予測因子を検討する必要があると考えた.SLTは点眼・内服でコントロール不良の症例に行うことが多いと思うが,点眼で2剤もしくは3剤使用後でまだ眼圧コントロール不良例に使用する頻度が高い塩酸ブナゾシン点眼薬と今回の筆者らの症例とを比較検討してみた.花輪ら14)はプロスタグランジン関連薬およびb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を投与している緑内障患者39例59眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加し,6カ月後の成績を検討した.塩酸ブナゾシン点眼24週後の平均眼圧下降値は4.3mmHgで有意(p<0.01)に眼圧下降を示した.全体の約70%の症例で眼圧下降を認めた.岩切ら15)はプロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している原発開放隅角緑内障25眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加投与したところ12週後で平均2.0mmHgと有意に眼圧が下降し,また治療前眼圧に比し,2mmHg以上下降した割合は12週後で塩酸ブナゾシン点眼薬投与群は60%であった.徳田ら16)は原発開放隅角緑内障患者で点眼中の患者に塩酸ブナゾシン点眼薬追加投与による眼圧下降効果を検討しており,3剤併表1SLT全周照射の成績著者眼数観察期間(月)術前投薬数術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)Lanzettaら7)81.52.126.610.638.0Laiら8)2960026.88.632.1田中ら9)3413.016.11.911.2菅野ら10)1061.822.67.631.9森藤ら11)4512.319.13.718.3山崎ら12)2032.621.23.215.1本報告4763.722.13.415.4838あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(124)用症例は平均約0.8mmHgの下降にとどまった.館野ら17)は塩酸ブナゾシン点眼薬を併用した緑内障患者の併用薬剤数と眼圧下降効果について検討したところ,点眼開始6カ月後の眼圧下降率は併用前3剤使用の患者で7.8%であった.以上の結果よりSLTは塩酸ブナゾシン点眼薬に比し,多剤併用時は同等もしくはそれ以上の眼圧下降を有するものと考えた.また,SLTの合併症は軽度の虹彩炎以外認めなかった.森藤らは2眼に一過性眼圧上昇,1眼に隅角出血がみられたが虹彩前癒着などの器質的な変化を生じたものは認めなかった.他の文献でも軽度の虹彩炎,軽微な眼圧上昇は認めたが,重篤な合併症はなかったことから,SLTは薬物治療で十分な眼圧下降が得られない症例に対し,観血的治療の前段階の治療として効果も安全性も期待できる治療と考えた.今回SLTを全周照射した47眼について治療成績を検討した.術前の眼圧は22.1±5.6mmHgで,術後6カ月で17.2±4.6mmHgと有意に眼圧は下降していた.また,術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降した症例は62.9%,同様に20%以上眼圧が下降した症例は48.6%であった.経過中重篤な副作用の発現もみられなかった.SLTは安全で眼圧下降効果が強力であり,6カ月間という短期的には有用性が高かったが,今後はさらに長期に経過をみる必要がある.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma:Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)HoskinsHDJr,HetheringtonJJr,MincklerDSetal:Complicationsoflasertrabeculoplasty.Ophthalmology90:796-799,19833)LeveneR:Majorearlycomplicationsoflasertrabeculoplasty.OphthalmicSurg14:947-953,19834)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoflasermeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthalmology108:773-779,20016)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19987)LanzettaP,MenchiniU,VirgiliG:Immediateintraocularpressureresponsetoselectivelasertrabeculoplasty.BrJOphthalmol83:29-32,19998)LaiJS,ChuaJK,ThamCCetal:Five-yearfollowupofselectivelasertrabeculoplastyinChineseeyes.ClinExpOphthalmol32:368-372,20049)田中祥恵,今野伸介,大黒浩:選択的レーザー線維柱帯形成術における180°照射と360°照射の比較.あたらしい眼科24:527-530,200710)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,200711)森藤寛子,狩野廉,桑山泰明ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲による治療成績の違い.眼臨紀1:573-577,200812)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200713)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglaucoma.Ophthalmology111:1853-1859,200414)花輪宏美,佐藤由紀,末野利治ほか:抗緑内障点眼薬多剤併用患者に対する塩酸ブナゾシン点眼薬の効果.あたらしい眼科22:525-528,200515)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:359-362,200416)徳田直人,井上順,青山裕美子:塩酸ブナゾシンの降圧効果と角膜に及ぼす影響.PharmaMedica22:129-134,200417)館野泰,柏木賢治:塩酸ブナゾシン点眼薬の併用眼圧下降効果.あたらしい眼科25:99-101,2008***

円蓋部基底トラベクレクトミー術後におけるレーザー切糸術のタイミングと眼圧

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(123)695《原著》あたらしい眼科27(5):695.698,2010cはじめに保存的療法では十分な眼圧下降が得られない緑内障症例に対する観血的治療の一つとしてトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)が選択されるが,TLEの術後早期合併症1,2)として術後の低眼圧,浅前房に伴う脈絡膜.離,低眼圧黄斑症などがある.近年,これらの合併症を防止する目的で,強膜弁をタイトに縫合し適当な時期に縫合糸をレーザーで切糸することにより眼圧調整を行う方法が広く用いられている4.7).また,TLEの際の結膜弁作製方法も従来の輪部基底から円蓋部基底へと変化してきているため,レーザー切糸の順序やタイミングもそれに合わせて変化してきていると思われる.今回,京都府立医科大学附属病院(以下,当施設)で行った円蓋部基底トラベクレクトミー術後のレーザー切糸術(lasersuturelysis:LSL)のタイミングと眼圧経過について調査し,LSLの有効性を左右する要因の有無についても検討した.〔別刷請求先〕南泰明:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:YasuakiMinami,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN円蓋部基底トラベクレクトミー術後におけるレーザー切糸術のタイミングと眼圧南泰明池田陽子森和彦成瀬繁太今井浩二郎小林ルミ木村健一木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学EvaluationofLaserSuturelysisafterFornix-basedTrabeculectomyYasuakiMinami,YokoIkeda,KazuhikoMori,ShigetaNaruse,KojiroImai,LumiKobayashi,KenichiKimuraandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine京都府立医科大学附属病院において2007年1月からの6カ月間に円蓋部基底トラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)を施行した50例60眼(男性27例33眼,女性23例27眼,平均年齢65.9±14.5歳)を対象とし,術後早期に施行されたレーザー切糸術(lasersuturelysis:LSL)のタイミングと眼圧変化ならびにLSLの有効性を左右する要因についてレトロスペクティブに検討した.LSLは39眼(65%)で施行しており,平均施行回数は1.4±1.2回,眼圧下降値と下降率はそれぞれ,初回1.5±6.5mmHg,3.0±33.8%,2回目(30眼)7.6±8.2mmHg,31.1±37.7%(うち2眼は転院などで2回目のLSL後眼圧が不明のため28眼での値),3回目(10眼)6.1±12.8mmHg,20.0±29.1%であった.年齢,性別,術式,糖尿病の有無はLSLのタイミングや回数には影響を与えなかった.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-reductioneffectsof,andclinicalfactorsassociatedwith,lasersuturelysis(LSL)intheearlypostoperativephaseoffornix-basedtrabeculectomy(f-TLE).Subjectscomprised50glaucomapatients(60eyes,meanage65.9±14.5yrs.)whounderwentf-TLEatKyotoPrefecturalUniversityofMedicinefromJanuarytoJuly2007.LSLwasperformedin39eyes(65.0%);secondandthirdLSLwereperformedin30eyes(50.0%)and10eyes(16.7%),respectively.IOPreductionratesforfirst,secondandthirdLSLwere3.0±33.8%,31.1±37.7%,and20.0±29.1%,respectively.LSLwasperformedameanof1.4±1.2times.Asclinicalfactors,age,gender,surgerytype(TLEwithorwithoutcataractoperation),anddiabetesmellituswerenotsignificantlyassociatedwiththeIOPreductionrateornumberofLSLprocedures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):695.698,2010〕Keywords:レーザー切糸,トラベクレクトミー,緑内障,強膜弁.trabeculectomy,lasersuturelysis,glaucoma,scleralflap.696あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(124)I対象および方法対象は2007年1月1日から6月30日までの6カ月間に当施設においてマイトマイシンC(MMC)併用円蓋部基底トラベクレクトミーを施行された50例60眼(男性27例33眼,女性23例27眼,平均年齢65.9±14.5歳)である.術式は全例とも耳上側もしくは鼻上側の結膜輪部切開,3×3mmの二重強膜弁を1層目は強膜の1/2層,2層目は強膜の4/5層を目処に作製し,内方弁ごと線維柱帯を切除,周辺虹彩切除後,10-0ナイロン糸で5針縫合した(縫合糸の位置を図1に示す).結膜縫合は2本のテンションをかけた輪部端々縫合,子午線切開部位の強膜結膜端々縫合,輪部の水平マットレス縫合を行った.術後の強膜弁縫合糸のLSLは,アルゴンレーザーでBlumenthalレンズを用い,50μm,0.2秒,100mWの条件で行った.濾過胞形状,目標眼圧と眼圧経過,眼球マッサージ時の反応から術者が必要と判断した時点で,図1に示す順に行った.術後早期(3週間以内)に行ったLSLに関して,切糸時期,LSL前後の眼圧変化,合併症の有無についてレトロスペクティブに検討した.また,術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果をみるために,15mmHg未満とそれ以上のそれぞれ2群に分けて検討した.なお,術後早期の眼圧は複数回測定したものの平均から算出(平均術後72.9±43.6日)し,両群間で初回LSLまでの日数と総LSL回数の有意差を調べた.なお,統計学的検討は条件に応じて,Spearman順位検定,Mann-WhitneyU検定,Studentt検定,Kruskal-Wallis検定を用いて行った.II結果緑内障病型の内訳は原発緑内障(閉塞隅角緑内障5例5眼を含む)が35例43眼,続発緑内障が13例14眼,発達緑内障が2例3眼であった.術式の内訳は白内障同時手術が23例29眼,TLE単独手術が27例31眼であった.全60眼中39眼(65%)に少なくとも1回以上のLSLが施行され,そのうち2回以上のLSLを要したものは30眼(初回LSL施行群のうち77%)であり,さらに3回目のLSLを要したものは10眼(2回目LSL施行群のうち33%)であった.全症例の平均LSLの施行回数は1.4±1.2回であった.初回LSLは術後5.2±4.1日に施行され,眼圧下降値は1.5±6.5mmHg(施行前21.4±9.5mmHg:8.50mmHg,施行後19.9±9.9mmHg:8.56mmHg),眼圧下降率は3.0±33.8%であった.2回目LSLは術後平均10.3±7.8日で施行され,眼圧下降値は7.6±8.2mmHg(施行前23.3±10.0mmHg:14.62mmHg,施行後16.1±11.1mmHg:3.57mmHg),眼圧下降率は31.1±37.7%,3回目LSLは術後9.7±2.8日で施行され,眼圧下降値は6.1±12.8mmHg(施行前17.4±8.3mmHg:10.57mmHg,施行後13.2±8.1mmHg:8.32mmHg),眼圧下降率は20.0±29.1%であった(図2).各回のLSLによる眼圧下降率の比較では,2回目のLSLの眼圧下降率が最大であった.LSL後に過剰濾過から低眼圧をきたした症LSLの順番数字の順に切糸①②③④⑤①②④③⑤図1強膜弁縫合とLSLの順序LSLを施行する際には,できるだけ後方への房水流出を促すため,図の数字の順に切糸を行っている.全TLE60眼LSL未施行群21眼35%術後平均:5.2±4.1日眼圧下降値:1.5±6.5mmHg眼圧下降率:3.0±33.8%合併症:なし23%術後平均:10.3±7.8日眼圧下降値:7.6±8.2mmHg眼圧下降率:31.1±37.7%合併症:なし67%平均総LSL回数1.4±1.2回術後平均:9.7±2.8日眼圧下降値:6.1±12.8mmHg眼圧下降率:20.0±29.1%合併症:なし初回LSL施行群39眼総LSL回数1回群10眼総LSL回数2回群19眼2回目LSL施行群30眼3回目LSL施行群10眼65%77%33%図2全症例におけるLSL施行の流れ(125)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010697例はなく,LSLに伴う合併症はみられなかった.つぎにLSL施行回数に影響を与えた要因に関する結果を表1に示す.初回LSLの施行時期ならびに総LSL回数に関しては年齢,性別,術式,緑内障病型,術者,糖尿病の有無,眼軸の違いといった要因によっては有意な差はみられなかった.また,初回LSLが早期に施行されても最終的なLSL回数が少ないわけではなかった.術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果の検討では,15mmHg未満とそれ以上のいずれにおいても,初回LSLまでの日数と総LSL回数において有意差を認めなかった(表2).III考按TLE術後のLSLに関してはこれまでにも多数の報告がある5,8.10)が,その内容については必ずしも一致しているとはいえない.Ralliらの報告ではPOAG(原発開放隅角緑内障)に対する初回TLE(MMC使用)全146眼中95眼(65.1%)にLSLが必要であったとしており8),Morinelliらは手術から初回LSLまでの期間が2日から65日(平均17.9±14.9日)であったとしている9).一方,Fontanaらは偽水晶体眼の開放隅角緑内障を対象としたTLE(MMC使用)術後において89眼中30眼(33.7%)に10),MelamedらはTLE術後30眼の22眼(73.3%)にLSLを要し,眼圧下降値は6.6±7.0mmHgであったと報告している5).今回の結果では65%の症例にLSLを要した.従来の報告においてもLSLを要した症例の割合に大きく差があることから,LSLの要否に関しては結膜切開部位,結膜縫合法,強膜弁の形状や縫合糸数,縫合強度などの術式の微妙な差が影響している可能性が高いと考えられた.すなわち,実際には医療施設ごとにトラベクレクトミーの術式に異なる点があることから,LSLの要否ならびに成績にも差が生じているものと思われる.TLEの術式としては結膜の切開部位の差から輪部基底結膜弁と円蓋部基底結膜弁の2法に大別される.輪部基底結膜弁では強膜弁より離れた円蓋部結膜を切開するため房水漏出の危険性は少ない.一方,当施設で採用している円蓋部基底結膜弁では強膜弁近傍の輪部において結膜切開を行うため,術後早期に眼球マッサージやLSLを行うと輪部結膜縫合部からの房水漏出の危険性が高い.当施設ではハの字型のタイ表2術後早期における眼圧コントロール状態に対するLSLの効果の検討15mmHg未満群15mmHg以上群p値初回LSLまでの日数(日)4.7±1.9(n=24)7.3±4.3(n=9)0.17LSL総回数(回)1.3±1.0(n=37)1.9±0.8(n=10)0.09(Mann-Whitney検定順位補正後)表1LSLの時期・回数と各種要因との関連性初回LSLまでの日数LSL総回数年齢相関なしp=0.18(Spearman順位検定順位補正後)相関なしp=0.79(Spearman順位検定順位補正後)性別男性(22眼):4.5±2.9日女性(17眼):6.1±5.4日有意差なしp=0.24(Mann-Whitney検定順位補正後)男性(33眼):1.4±1.2回女性(27眼):1.4±1.2回有意差なしp=0.98(Studentt検定)白内障同時手術の有無同時(21眼):4.6±2.0日単独(18眼):5.9±5.6日有意差なしp=0.82(Mann-Whitney検定順位補正後)施行(29眼):1.5±1.1回単独(31眼):1.2±1.3回有意差なしp=0.35(Studentt検定)白内障手術同時/既/未施行同時(21眼):4.6±2.0日既施行(12眼):6.2±6.5日未施行(6眼):5.3±3.4日有意差なしp=0.98(Kruskal-Wallis検定順位補正後)同時(29眼):1.5±1.1回既施行(18眼):1.5±1.3回未施行(13眼):0.9±1.1回有意差なしp=0.22(一元配置分散分析法)緑内障病型原発(28眼):5.4±4.5日続発(9眼):4.1±2.2日有意差なしp=0.43(Studentt検定)原発(43眼):1.4±1.2回続発(14眼):1.2±1.3回有意差なしp=0.51(Studentt検定)術者術者A(32眼):4.9±2.3日術者B(3眼):11.0±13.0日術者C(4眼):3.3±1.0日有意差なしp=0.25(Kruskal-Wallis検定順位補正後)術者A(46眼):1.4±1.2回術者B(10眼):0.7±1.2回術者C(4眼):2.3±1.0回有意差なしp=0.06(Kruskal-Wallis検定)糖尿病有無あり(8眼):4.4±1.6日なし(31眼):5.4±4.5日有意差なしp=0.74(Mann-Whitney検定順位補正後)あり(13眼):1.5±1.6回なし(47眼):1.3±1.1回有意差なしp=0.57(Studentt検定)眼軸長相関なしp=0.41(Spearman順位検定順位補正後)相関なしp=0.46(Spearman順位検定順位補正後)初回LSLまでの日数初回LSLまでのTLE術後日数(LSL施行39眼):5.2±4.1日相関なしp=0.12(Spearman順位検定順位補正後)698あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(126)トな結膜輪部端々縫合と水平マットレス縫合を置くことで房水漏出を抑制しており,輪部基底結膜弁の際と同様,術後早期から眼球マッサージやLSLを行うことが可能となっている.さらに強膜弁の形状もLSLのタイミングや切糸順序に影響を及ぼす要因である.当施設では二重強膜弁の内層弁ごと線維柱帯を切除することで,トンネルを作製し後方への房水流出を促す方法を採用している.すなわち,結膜切開方法や強膜弁の種類,さらに房水の流出方向の違いにより,LSLを行う際の強膜弁縫合糸の切糸順序が異なっており,輪部に沿った方向に房水を流す輪部基底結膜弁では図1の④や⑤の糸をまず切るのに対して,より後方へ房水を流すことを意図した二重強膜弁併用円蓋部基底結膜弁では図1の①から⑤の順に切糸を行っている.当施設での初回LSLは従来の報告と比べて比較的早期に施行している傾向にあったが,これは術後の低眼圧による合併症を予防する目的で強膜創を強めに縫合し,早期にLSLを施行することで眼圧コントロールを行っていく方針を取っていることによるものと思われた.今回,TLE施行例の6割以上の症例において平均術後5日程度で初回LSLが施行されたことから,当施設で用いている術式ではTLE術後には早期から常にLSLの必要性を意識しながら経過観察を行うべきであると思われた.一方,術者間,白内障同時手術の有無などの術式間,患者側要因によってLSLの時期や回数に一定の傾向が認められなかった.また,術後早期の眼圧コントロール状態の良好群と不良群の間には,LSLの時期や回数に差が認められなかった.すなわちLSLのタイミングや切糸数については,あらかじめ予想できるような定型的なパターンが存在するわけではなく,各症例の濾過胞形状や眼圧経過に応じた緻密な術後管理が重要であることがわかった.IV結論LSL後には重篤な合併症なく眼圧下降させることができたことから,TLE術後管理としてLSLは安全に眼圧をコントロールしてゆくための有効な手段と考えられた.LSLのタイミングや切糸数については症例に応じた緻密な術後経過観察のもとに行う必要がある.文献1)ShiratoS,KitazawaY,MishimaS:Acriticalanalysisofthetrabeculectomyresultsbyaprospectivefollow-updesign.JpnJOphthalmol26:468-480,19822)YamashitaH,EguchiS,YamamotoTetal:Trabeculectomy:aprospectivestudyofcomplicationsandresultsoflong-termfollow-up.JpnJOphthalmol29:250-262,19853)SavageJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19884)PappaKS,DerickRJ,WeberPAetal:LateargonlasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology100:1268-1271,19935)MelamedS,AshkenaziI,GlovinskiJetal:Tightscleralflaptrabeculectomywithpostoperativelasersuturelysis.AmJOphthalmol109:303-309,19906)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:TheoutcomeofmitomycinCtrabeculectomyandlasersuturelysisdependsonpostoperativemanagement.JpnJOphthalmology50:455-459,20067)KapetanskyFM:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.JGlaucoma12:316-320,20038)RalliM,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:OutcomesoflasersuturelysisafterinitialtrabeculectomywithadjunctivemitomycinC.JGlaucoma15:60-67,20069)MorinelliEN,SidotiPA,HeuerDKetal:LasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology103:306-314,199610)FontanaH,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:TrabeculectomywithmitomycinCinpseudophakicpatientswithopenangleglaucoma:outcomesandriskfactorsforfailure.AmJOphthalmol141:652-659,2006***

日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)687《原著》あたらしい眼科27(5):687.690,2010cはじめにプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,プロスト系薬剤)は現在眼圧下降治療薬のなかで最大の眼圧下降効果を有し,終日にわたる眼圧下降作用と眼圧変動幅抑制効果の点でも優れている.さらに,1回点眼であることと局所のみの副作用により,良いアドヒアランスが見込まれ,第一選択薬としての地位を確立している.すでに4種類のプロスト系薬剤が発売されているが,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは海外での臨床データが蓄積し,最近のメタアナリシス解析でもほぼ同様な25.30%の眼圧下降効果を有することが判明している1).日本で発売されて10年になるラタノプロストは,日本人正常眼圧緑内障(NTG)を対象〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果大谷伸一郎*1湖.淳*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*1相原一*5*1宮田眼科病院*2湖崎眼科*3うのき眼科*4竹内眼科医院*5東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学IntraocularPressure-ReductionEffectofSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinJapaneseNormal-TensionGlaucomaPatientsShin-ichiroOtani1),JunKozaki2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4),KazunoriMiyata1)andMakotoAihara5)1)MiyataEyeHospital,2)KozakiEyeClinic,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine日本人正常眼圧緑内障(NTG)眼におけるトラボプロスト0.004%(トラバタンズR)点眼による眼圧下降効果をラタノプロスト0.005%(キサラタンR)点眼液からの前向き切り替え試験で検討した.4施設において日本人NTG眼57例57眼をエントリーし前向きに眼圧,視力,充血,角膜上皮障害を,切り替え後1,3カ月後に評価し,エントリー時と比較検討した.3カ月間持続点眼できた38例のエントリー時,1,3カ月の眼圧はそれぞれ13.4±2.3,12.8±2.0,12.7±1.8mmHg(平均±標準偏差)であり有意な眼圧下降効果が得られた(paired-ttest,p<0.05).視力,充血には変化がなかったが,角膜上皮障害は1カ月で著明に改善し,その後3カ月間悪化しなかった.トラボプロスト点眼液は,日本人正常眼圧緑内障眼に対してラタノプロストと同様な眼圧下降効果が期待でき,また角膜上皮障害を惹起しにくいことが示された.Theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectoftravoprost0.004%inJapanesenormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasprospectivelyassessedbyreplacinglatanoprost0.005%withtravoprostat4eyecenters.Inthe57NTGpatientsenrolled,IOP,visualacuity,hyperemiaandocularsurfacedamagewereevaluatedat1and3months.In38patientsthatcompletedtheprotocol,IOPatentry,1and3monthswas13.4±2.3mmHg,12.8±2.0mmHgand12.7±1.8mmHg,respectively.IOPat1and3monthswassignificantlyreducedcomparedtothevalueatentry(p<0.05).Therewasnosignificantdifferenceinvisualacuityorhyperemiaamongthe3timepoints,whereascornealepitheliopathywassignificantlyimprovedat1monthandwasnotworsenedat3months.TravoprosthasanIOP-loweringeffectsimilartothatoflatanoprostinJapaneseNTGpatients,andhaslessdetrimentaleffectonthecornealsurfacethandoeslatanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):687.690,2010〕Keywords:緑内障,眼圧,ラタノプロスト,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,latanoprost,travoprost,benzalkoniumchloride.688あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(116)とした研究においても,約10.20%の眼圧下降効果を示し,さらにベースライン眼圧が15mmHg以下の場合でも1mmHg以上の有意な眼圧下降効果が得られており2.5),特に低眼圧で眼圧下降効果が得られにくい患者には,確実な眼圧下降効果を示しアドヒアランスを向上させるために重要な薬物である.しかし,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者を対象に治験が行われており,純粋にNTGを対象とした治験や報告はない.一方,国内開発のタフルプロストは臨床開発治験において原発開放隅角緑内障(OAG)を対象にラタノプロストに対して非劣勢の眼圧下降効果を示し,またNTG眼を対象に4週間で.4mmHgの有意な眼圧下降を有していることが第三相試験で判明している(タフルプロストインタビューフォーム).しかし,NTGを対象にラタノプロストと比較した報告はなく,長期使用における眼圧下降効果も不明である.プロスト系関連薬トラボプロストのトラバタンズR0.004%点眼液は,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)を含有せず,SofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入している.日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,臨床治験では,BAC含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いたNTGを含むOAGを対象にしていたため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人NTGにおける眼圧下降効果の報告はない.BACは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BACの有無は薬効に影響することが懸念される.そこで,日本人NTG患者におけるキサラタンRからの切り替えによる眼圧下降効果を多施設で前向きに3カ月にわたり検討した.I対象および方法1.対象参加4施設(宮田眼科病院,うのき眼科,湖崎眼科,竹内眼科医院)に2008年1月から2月にかけて通院中の患者のうち,すでにNTGと診断された患者で,3カ月以上ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液を単剤投与されている57例57眼を対象にした.評価対象眼は両眼NTGの場合は眼圧が高いほうもしくは同じ場合は右眼とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則し,共同設置の倫理委員会の承認を経て,患者からの同意を得たうえで実施された.2.方法エントリー時にラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に切り替え,変更前および変更後1および3カ月の午前もしくは午後の同一時間帯に受診後,視力を測定,結膜充血の観察,さらにフルオレセイン染色による角膜病変をコバルトブルーフィルターもしくはブルーフリーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察,眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.主要評価項目は眼圧であり,変更前エントリー時の眼圧測定値と,変更後1および3カ月の測定値とをpairedt-testにて比較した.副次的評価項目である角膜病変は点状表層角膜症(SPK)をAD分類6)を用いて評価し,結膜充血は4施設共通の標準写真を用いて,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階に分類した.II結果試験期間中の1カ月以内に14例脱落があった.内訳は,充血6例,眼圧上昇2例(16から17mmHg,16から19mmHg),他は表1のとおりであり,少なくとも主剤に関係ある重大な副作用は認められなかった.さらに3カ月までに5例の脱落があり,その内訳は,理由不明の中止例が3例,来院しなかった2例であった.最終的に38例38眼(エントリー中67.2%)が3カ月間持続点眼可能であった.38例は男性8例,女性30例,平均年齢68.2±10.7歳(34.82歳)であった.エントリー時,変更後1,3カ月の視力は,logMAR視力で0.89,0.86,0.84と有意差がなかった.眼圧は図1のとおり,エントリー時13.4±2.3mmHgに対し,変更後1カ月で12.8±2.0mmHg,3カ月で12.7±1.8mmHgと有意に切り替え眼圧(mmHg)20151050*p=0.02*p=0.03エントリー時(ラタノプロスト)トラボプロスト変更1カ月後継続期間(月)トラボプロスト変更3カ月後13.4±2.312.8±2.012.7±1.8図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧の推移n=38,paired-ttest,p=0.01(1カ月),p=0.03(3カ月).表13カ月経過観察中の脱落理由1カ月以内脱落理由充血異物感不快感頭痛,めまい眼圧上昇眼圧変化がないため6例131213カ月以内脱落理由原因不明通院せず32(117)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010689下降した(paired-ttest,p=0.02,0.03).SPKのAD分類の変化を表2に示す.エントリー時にSPKを認めた症例は38例中18例(47.4%)であった.A1D1が13例(34.2%),A1D2が1例(2.6%),A2D1が3例(7.9%),A2D2が1例(2.6%)であったが,変更後1,3カ月でA1D1が2例(5.3%)ずつと著明に改善した(c2検定,p<0.01).結膜充血はエントリー時に軽度充血が5例,変更後1カ月で8例,3カ月で0例であった.III考按今回の検討は,同系統のプロスト系薬剤であるラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる日本人NTG眼に対する長期眼圧下降効果であるが,BAC含有ラタノプロストから,BAC非含有トラボプロストに切り替えたことにより,BACによるオキュラーサーフェスへの影響と主剤のプロスト系の効果とがともに影響した結果であり,単純に主剤の効果を比較検討したものではない.過去のBAC含有点眼液トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告7)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAC含有点眼液であり,最近わが国で発売されたBAC非含有,SofZiaR含有点眼液での報告ではない.筆者らはすでに,BAC非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,前日同時刻と比較することにより日内変動の影響を抑えた評価方法により評価した.その結果,BAC非含有トラボプロスト点眼は,正常眼に点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈した8).したがって,防腐剤が代わりBAC非含有となっても,眼圧下降には影響しないと考えられた.さらに,海外欧米人におけるOAGおよび高眼圧症(OH)を対象とした,BAC含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており9),日本人緑内障患者においてもBACの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できると考え,今回日本人NTG対象にBAC含有キサラタンR単独投与症例に対して切り替え試験により前向き研究を行った.海外のラタノプロストからトラボプロスト(ともにBAC含有)切り替え試験では,眼圧はより下降もしくは同等であったと報告されている10.12).今回は日本人NTGを対象として3カ月でキサラタンRと比較し,約1mmHgの眼圧下降効果が有意に得られたことは,海外のNTGを含む早期緑内障を対象にした大規模試験であるEarlyManifestTrialでも示されているように1mmHgの眼圧下降は進行のリスクを約10%軽減させる13)ということからも,十分意義あるものと考える.今回のスタディではNTGと診断された症例ですでに3カ月ラタノプロストを投与された症例を対象にしたが,ベースライン眼圧の測定が必ずしも同一施設でなされていないため,純粋にNTGに対する眼圧下降効果を測定できていないが,ラタノプロストと同等以上の効果を有する結果となり,過去の切り替え試験での有効症例の存在に関する報告10)も合わせて考えれば,NTGを対象にしてもある種類のプロスト系薬剤に低反応性であれば切り替える意義は十分あることを裏付けている.ただし,今回はラタノプロスト点眼時の眼圧をエントリー時1回で評価している点が眼圧下降評価研究計画上の問題である.結果として切り替えにより有意差が得られたものの,この点を考慮して少なくともラタノプロストからトラボプロストへの切り替え試験により同等な結果,眼圧下降効果を有すると結論づけた.また,ベースライン眼圧が不明であるため,本対象症例のなかでラタノプロストに対する反応性とトラボプロストに対する反応性の相関を比較できなかった.今後は無治療NTGを対象に無作為平行群間比較試験かつ薬剤のクロスオーバーを行って,個々の症例でのプロスト系薬剤への反応性の相違を検討すべきであると考える.今回眼圧が切り替えにより平均で有意に下降した理由は,主剤自体の特徴と対象眼の感受性の問題が第一にあると考えられる.トラボプロストはラタノプロストに比べ,末端フェニル基にフッ素が付き化学構造を安定化させることにより効果を持続させている可能性があり,他のプロスト系薬剤と比べ細胞内シグナルのイノシトール代謝物を最大限惹起できること14)や,最終点眼後の眼圧下降持続効果が高いこと15)が報告されている.また,作用点であるFP受容体の遺伝的多型や発現分布なども薬理効果の相違につながると考えられるが確証は得られておらず,今後の課題である.第二の理由として,切り替えによるアドヒアランスの改善が考えられる.今回は初回エントリー57症例中1カ月で14例,3カ月で5例の症例が脱落した(表1).脱落理由に眼圧下降不良が2例あるが1回の測定による軽微な変化であり持続的変化であるかは判定していない.切り替え試験も含め眼圧下降作用を確表2AD分類によるSPKの推移A0A1A2A3D020→36→36D113→2→23→0→00D21→0→001→0→0D3000数字はエントリー時→1カ月後→3カ月後の症例数を示す.690あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(118)認する研究では,脱落例が生じることは否めず,脱落例に眼圧上昇例が多く含まれていれば結果に影響するが,今回19例の脱落中,眼圧下降不良という理由であった例はわずか2例であり,16から17mmHg,16から19mmHgへ上昇した例であった.残り17例は眼圧上昇以外の理由であり表1に示したとおりで,眼圧も変化がなかったか下降した例であるため,これら脱落例を含めても少なくとも今回の切り替え試験により眼圧が悪化したことにはならないと考える.むしろ主剤そのものに対して眼圧下降反応が低いというよりも,表1にあるような,持続的に起こる充血やしみるといった製剤の特徴により,脱落することが多いことがわかる.たとえば充血を理由にした脱落は6例(10%)存在する.また,不快感や異物感に関連するオキュラーサーフェスへの影響も重要なアドヒアランス良否に関わる因子である.今回3カ月継続可能であった38例の角膜障害は1カ月後著明に改善し,さらに3カ月までその改善効果が持続した.これは,すでに筆者らが報告したOAG,OH患者114例を対象にラタノプロストからトラボプロストに切り替えた試験と同様,有意な角膜上皮障害改善を示す結果であった16).したがってBAC非含有製剤であるトラバタンズRはオキュラーサーフェスへの影響が少ないことが示唆された.このような主剤の効果以外のアドヒアランスの影響を考えると,今回3カ月持続点眼可能であった症例は,実はアドヒアランスが不良であったが,トラバタンズRへの切り替えにより角膜障害が改善して,点眼アドヒアランスが良好となり,眼圧がより下降した可能性がある.患者によって副作用はかなり異なるが,少なくとも個々の患者にとってアドヒアランスが良い点眼,すなわち副作用が少なく,差し心地が良い点眼は,主剤の眼圧下降効果以上に重要な因子であると考える.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況にあり,点眼に対するアドヒアランスが眼圧下降効果に大きく影響すると考えられる.したがって,眼圧のみにとらわれず,患者の生活環境や性格と眼表面への副作用,点眼時の印象も加味して治療効果を評価する姿勢が重要である.その点でトラバタンズR点眼液のように主剤としてNTGを対象にしても十分な眼圧下降効果が得られ,かつ防腐剤を改良したオキュラーサーフェスに優しい点眼液は,今後の点眼治療薬としての理想的な方向性を示している.今回は3カ月間の経過を追った研究であるが緑内障の長期管理は年単位であり,今後はさらに1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20033)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20034)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,20035)緒方博子,庄司信行,清水公也ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト単剤変更1年後の眼圧,視野,視神経乳頭形状の検討.臨眼59:943-947,20056)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20037)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20058)大島博美,新卓也,相原一ほか:日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科26:966-968,20099)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200112)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,200313)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)SharifNA,KellyCR,CriderJY:Humantrabecularmeshworkcellresponsesinducedbybimatoprost,travoprost,unoprostone,andotherFPprostaglandinreceptoragonistanalogues.InvestOphthalmolVisSci44:715-721,200315)SitAJ,WeinrebRN,CrowstonJGetal:Sustainedeffectoftravoprostondiurnalandnocturnalintraocularpressure.AmJOphthalmol141:1131-1133,200616)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,2009

ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(123)4010910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):401410,2010c〔別刷請求先〕北澤克明:〒145-0071東京都大田区田園調布4-37-19Reprintrequests:YoshiakiKitazawa,M.D.,Ph.D.,4-37-19Denenchofu,Ohta-ku,Tokyo145-0071,JAPANビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験北澤克明*1米虫節夫*2*1赤坂北澤眼科*2大阪市立大学大学院工学研究科Single-Masked,Randomized,Parallel-GroupComparisonofBimatoprostOphthalmicSolutionandLatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYoshiakiKitazawa1)andSadaoKomemushi2)1)AkasakaKitazawaEyeClinic,2)GraduateSchoolofEngineering,OsakaCityUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤(0.03%)を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤(LAT)と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤(0.01%)と0.03%を比較し,本剤の至適濃度を確認した.治療期終了時の投与開始日からの眼圧変化値を主要評価として比較した結果,LATに対する0.03%の非劣性が検証された.0.03%の眼圧変化値はすべての時点でLATより大きく,投与2週間後においては両群間に有意な差が認められた.また,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率の比較により,0.03%の眼圧下降効果はLATよりも高いことが確認できた.0.03%の副作用発現率はLATより高いものの臨床的に問題となるものではなかったことから,0.03%はLATに劣らず臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%の眼圧下降効果は0.01%より強く,同程度の安全性を有することから,0.03%が至適用量であることが確認できた.Intermsofecacyandsafety,0.03%bimatoprostophthalmicsolution(0.03%)wascomparedwith0.005%latanoprostophthalmicsolution(LAT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH),afteronce-dailyinstillationfor12weeksinasingle-masked,randomized,parallel-groupcomparisonstudy.Ecacyandsafetywerealsocomparedbetween0.01%and0.03%bimatoprost,inordertoconrmtheoptimalconcentration.Thenon-inferiorityof0.03%toLATwasdemonstratedwithregardtointraocularpressure(IOP)-loweringecacyasaprimaryendpoint.TheIOPreductionfrombaselinewith0.03%wasgreaterthanthatwithLATandthedierencewasstatisticallysignicantbetween0.03%andLATat2weeks;moreover,0.03%wasmorepotentthanLATintermsofIOPvalue,%reductionofIOPand%ofpatientsreachingtargetIOP.Althoughtheadversedrugreaction(ADR)incidenceratewashigherwith0.03%thanwithLAT,noneoftheADRswith0.03%wereclinicallyproblematic.Theseresultsshowthat0.03%isclinicallyusefulinthetherapyforpatientswithPOAGandOHandhasaprolethatisnotinferiortoLAT.TheIOP-loweringecacyof0.01%waslessthanthatof0.03%,buttheincidencerateofADRwith0.01%wasthesameasthatwith0.03%.Theoptimalconcentrationofbimatoprostwasthereforeconrmedtobe0.03%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):401410,2010〕Keywords:ビマトプロスト,ラタノプロスト,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,latanoprost,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.———————————————————————-Page2402あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(124)はじめに現在,日本国内の眼科一般臨床で最も汎用されている緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬の0.005%ラタノプロスト点眼剤(キサラタンR,以下,ラタノプロスト点眼剤)である.ラタノプロスト点眼剤は,結膜充血,睫毛の成長,眼瞼や虹彩の色素沈着などの美容上の副作用が発現するものの,その強力な眼圧下降効果により最も汎用されている1,2).しかしながら,一方でラタノプロスト点眼剤のノンレスポンダーが1040%存在することが報告37)されており,すべての患者に有効な治療薬とはなりえていない.近年販売開始となったトラボプロスト点眼剤(トラバタンズR)やタフルプロスト点眼剤(タプロスR)はラタノプロスト同様プロスタノイドFP受容体(以下,FP受容体)のアゴニストであり,ラタノプロストと同程度あるいはそれ以上の眼圧下降効果を有すると報告されている8,9).ビマトプロスト(図1)は,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬である.ビマトプロストは,内因性の生理活性物質であるプロスタマイドF2aと類似した構造を有する.このプロスタマイドF2aは,内因性カンナビノイドの一つであるアナンダマイドよりシクロオキシゲナーゼ2を介して生成されることが知られている10,11).また,プロスタマイドF2aは既存のプロスタグランジン関連薬のターゲットであるFP受容体をはじめ既知のプロスタノイド受容体には作用しないことが明らかとなっている12).近年FP受容体バリアント複合体が同定され,ビマトプロストはFP受容体に作用せずFP受容体バリアント複合体,すなわちプロスタマイド受容体に作用すること,また,眼圧下降効果を発揮するまでのシグナル伝達経路の一部も違いがあることが明らかとなった13,14).この新規の作用機序により,海外の臨床試験においてラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して,ビマトプロスト点眼剤が有意な眼圧下降効果を示したと報告されている1517).緑内障の治療において,眼圧を下降させる薬物療法は欠かせないものであるが,国内の眼科一般臨床で使用されている緑内障治療薬にはそれぞれに問題点があり,さらには現時点では既存のプロスタグランジン関連薬と同程度あるいはそれ以上の効力を有し,作用機序の異なる薬剤は国内の臨床現場には存在しない.これらのことから,既存のプロスタグランジン関連薬で目標眼圧に達しない場合,薬理作用の異なる薬剤に変更するか,併用療法を選択することを余儀なくされており,このような背景から,新規の作用機序を有し,強力な眼圧下降効果をもつ緑内障治療薬の開発が望まれている.当該試験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者における0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの眼圧下降効果が0.005%ラタノプロスト点眼剤と比べ劣らないことを,無作為化単盲検群間比較試験により検証し,このときの安全性を検討した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果を比較し,本剤の至適濃度を確認した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項及び第80条の2に規定する基準並びに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2005年7月から2006年6月までに,表1に示した54施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,点眼薬による治療のみで眼圧のコントロールが可能であり,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価対象眼の眼圧が22mmHg以上,かつ満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意思による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)有効性評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術および線維柱帯切開術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)治験薬の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の者または妊娠している可能性のある者および妊娠を希望している者8)高度の視野障害がある者9)投与開始日から治療期間中を通じて併用禁止薬を使用する予定がある者HOHOHHHHHHNOHCH3O図1ビマトプロストの構造———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010403(125)10)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者11)同意取得時から過去3カ月内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者および他の治験に参加する予定の者12)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法被験薬は1ml中にビマトプロストとして0.1mgまたは0.3mgを含むビマトプロスト点眼剤を,対照薬として1ml中にラタノプロストとして0.05mgを含むラタノプロスト点眼剤(ファイザー株式会社提供)を用いた.治験薬は1日1回午後8時10時の間に,片眼または両眼に1滴ずつ12週間点眼した.4.盲検性の維持および薬剤の割付本治験は,治験依頼者,治験責任医師および治験分担医師に対する盲検化により実施した.被験薬および対照薬は識別が可能であるが,点眼瓶を1本ずつ同一のラベルが表示された小箱(外観からは識別不能)に厳封し,そのまま被験者に処方した.治験薬はコントローラー(米虫節夫)により,小箱での外観上の識別不能性を確認した後,3症例分(0.01%および0.03%ビマトプロスト点眼剤:各1例,ラタノプロスト点眼剤:1例)を1組として無作為割付を行った.5.Washout眼圧下降薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,ステロイ表1治験実施医療機関医療機関治験責任医師*医療機関治験責任医師*花川眼科田辺裕子大阪府立急性期・総合医療センター内堀恭孝石丸眼科石丸裕晃労働者健康福祉機構大阪労災病院恵美和幸秋田大学医学部附属病院吉冨健志神戸大学医学部附属病院中村誠山形大学医学部附属病院山下英俊広島大学病院三嶋弘,塚本秀利,草薙聖新潟大学医歯学総合病院福地健郎さいたま赤十字病院川島秀俊広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀東京大学医学部附属病院相原一宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎東京都老人医療センター大橋正明広田眼科広田篤東京逓信病院松元俊愛媛県立中央病院立松良之,松田久美子済安堂お茶の水・井上眼科クリニック(旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック)井上賢治旦龍会町田病院卜部公章久留米大学病院山川良治聖愛会中込眼科中込豊平成紫川会社会保険小倉記念病院小林博湘南谷野会谷野医院谷野富彦佐賀大学医学部附属病院沖波聡山梨大学医学部附属病院柏木賢治熊本大学医学部附属病院稲谷大むらまつ眼科医院村松知幸明和会宮田眼科病院宮田和典富士青陵会中島眼科クリニック中島徹陽幸会うのき眼科鵜木一彦杉浦眼科杉浦毅琉球大学医学部附属病院澤口昭一金沢大学医学部附属病院杉山和久オリンピア会オリンピア眼科病院井上洋一労働者健康福祉機構中部労災病院丹羽英康京都府立医科大学附属病院森和彦碧樹会山林眼科山林茂樹近畿大学医学部附属病院松本長太岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀,近藤雄司全国社会保険協会連合会星ヶ丘厚生年金病院坂上憲史京都大学医学部附属病院田辺晶代,板谷正紀神戸市立中央市民病院栗本康夫北川眼科医院北川厚子山口大学医学部附属病院相良健千照会千原眼科医院千原悦夫北海道大学病院陳進輝大阪医科大学附属病院杉山哲也春日部市立病院水木健二大阪大学医学部附属病院大島安正日本大学医学部附属板橋病院山崎芳夫市立池田病院張國中自警会東京警察病院安田典子大阪厚生年金病院狩野廉多治見市民病院岩瀬愛子*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2Washout期間薬剤および処置Washout期間眼圧下降薬副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上その他抗ヒスタミン作用を有する点眼薬1週間以上ステロイド薬(全身投与,結膜下投与,眼軟膏を含む点眼投与,眼瞼への塗布).ただし,皮膚局所投与は可とする.1週間以上コンタクトレンズ装用1週間以上———————————————————————-Page4404あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(126)ド薬およびコンタクトレンズを使用している被験者に対しては,表2に示したWashout期間を設定した.6.検査・観察項目投与2,4,8および12週間後に,眼圧検査および細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,虹彩,水晶体および前房)を行った.眼圧は午前8時11時の間に測定した.投与開始日,4および12週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.また,スクリーニング時および投与12週間後に視力,眼底および視野検査を行った.7.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始4週間以上前から用法用量が変更されていない,または治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,緑内障手術およびその他の内眼手術,コンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす療法(除外基準に該当する手術などを含む)を禁止とした.8.評価方法および統計手法本治験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.有効性の評価は治験実施計画書に適合した解析対象集団をおもに用い,安全性の評価は安全性解析対象集団を用いた.a.有効性解析対象集団1)最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)登録されたすべての被験者から,治験薬による治療を一度も受けていない被験者,選択基準を満たしていない被験者,除外基準に抵触する被験者,初診時以降の再来院がない被験者などを除外した集団.2)治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)重大なGCP違反症例,治験薬をまったく投与しなかった症例,選択および除外基準違反症例,診断名が対象外の症例,併用禁止薬を使用した症例,Washout期間設定の違反症例,治療期間を通じて点眼状況が75%未満または101%以上の症例を除く集団.b.安全性解析対象集団治験薬による治療を一度でも受けた被験者から,初診時以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団.治療期終了時における眼圧変化値を有効性の主要評価とし,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証を,PPSを用いて行った.非劣性の検証は,治療期終了時における投与開始日からの眼圧変化値の薬剤群間の差について95%両側信頼区間を算出し,その上限が1.5mmHgを超えなければ0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らないこととした.副次評価として,眼圧値,投与開始日からの各観察時の眼圧変化値および眼圧変化率を用いて,1標本t検定により各群の投与前後の比較を,また,2標本t検定により薬剤群間の比較を行った.治療期の各観察時において,20%または30%以上の眼圧変化率を達成した症例の割合(目標眼圧達成率;眼圧変化率)を求め,c2検定により薬剤群間の比較を行った.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率について経時的分散分析を行い,2群ごとの最小二乗平均による薬剤群間の比較を行った.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度,発現率を比較した.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.なお,安全性の評価は両眼を対象とした.II結果1.症例の構成表3に症例の構成を示した.無作為化された222例のうち,未投与の2例を除く220例が治験薬を投与された.投与された220例のうち,不適格8例,中止11例および逸脱3例を除く198例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した220例はすべて安全性解析に用いられた.表4に有効性解析対象症例198例の患者背景を示す.各項目について,薬剤群間の分布の均衡性を検討した結果,性別および合併症(眼局所)において不均衡が認められた.2.有効性a.主要評価:ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証(治療期終了時)0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の治表3症例の構成0.03%BIM0.01%BIMLAT組み入れ症例777273未投与症例020投与症例777073不適格症例224中止症例344逸脱症例102有効性解析対象症例716463BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010405(127)療期終了時における眼圧変化値はそれぞれ8.0±2.7mmHgおよび7.4±2.8mmHgであった.眼圧変化値の差の95%信頼区間は1.50.3で,上限値はΔ(=1.5)を下回ることから0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.なお,薬剤群間で性別および合併症(眼局所)に不均衡が認められたため,それらの不均衡を調整したところ,調整前と同様に非劣性が検証された.以上の結果から,治療期終了時の眼圧変化値に対する性別および合併症(眼局所)の影響はないと考えられた.b.副次評価治療期の各観察時における眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較を表5および図2に,眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較を表6に,眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較を表7に示した.すべての薬剤群で投与開始日と比較して各観察時点において有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロ表4患者背景(有効性解析対象症例;PPS)項目分類0.03%BIM0.01%BIMLAT検定性別男性女性353640242637p1=0.0535*年齢(歳)20293039404950596069702511181817235152118124202610p2=0.32816465452636284122平均年齢(歳)58.661.560.1緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障高眼圧症274421432340─合併症(眼局所)無有314025391746p1=0.1234*合併症(眼局所以外)無有234818461845p1=0.8354既往歴(眼局所)無有656568558─治療前投薬歴無有8639551251p1=0.4400治験薬投与前に行った処置無有710631630p3=0.6414BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.1:c2検定,2:Kruskal-Wallis検定,3:FisherExact検定.*:p<0.15.表5眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)7.4±2.8#(61)6.5±2.6#(62)6.0±2.7#1.30.90.5p=0.0061*p=0.0663p=0.34214週間後(70)7.8±3.2#(61)7.1±2.7#(63)7.0±2.6#0.80.70.1p=0.1134p=0.1663p=0.86178週間後(69)7.9±2.9#(62)7.2±2.7#(62)7.0±2.8#0.80.70.2p=0.1017p=0.1817p=0.730612週間後(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(62)7.5±2.7#0.50.60.1p=0.2862p=0.2003p=0.8469治療期終了時(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(63)7.4±2.8#0.60.60.0p=0.2192p=0.2003p=0.9766BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.#:投与前後の比較(1標本t検定),p<0.05,*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page6406あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(128)スト点眼剤の2群間で比較した結果,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点でラタノプロスト点眼剤よりも0.51.3mmHg大きく,2週間後において両群間に有意な差が認められた(p=0.0061).眼圧値および眼圧変化率に関しても2週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.図3に目標眼圧達成率(目標眼圧変化率を達成した症例の割合)の薬剤群間比較を示した.2週間後の眼圧変化率20%および30%を達成した症例の割合において,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた(p=0.0266,p=0.0135).また,12週間後の眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤で70.4%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤では50.0%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった(p=0.0160).さらに,眼圧の経時的な変化と薬剤との関係を評価するために眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率のそれぞれについて,経時分散分析および最小二乗平均により薬剤群間比較を行った.その結果,いずれの眼圧評価においても0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に対して有意な差が認められた(p<0.05).続いて0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤,0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の眼圧下降効果についても同様に比較した.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して群間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロ02*48観察日(週)眼圧変化値(mmHg)12:0.03%ビマトプロスト点眼剤:0.01%ビマトプロスト点眼剤:ラタノプロスト点眼剤0-2-4-6-8-10-12図2眼圧変化値の推移*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,2標本t検定).表6眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT投与開始日(71)24.2±2.4(64)23.8±2.0(63)24.1±2.60.10.40.3p=0.7919p=0.2787p=0.46532週間後(68)16.9±2.2(61)17.3±2.7(62)18.0±2.51.10.30.8p=0.0074*p=0.4447p=0.09114週間後(70)16.4±2.5(61)16.7±2.4(63)17.1±2.90.70.30.4p=0.1388p=0.4873p=0.41668週間後(69)16.3±2.0(62)16.6±2.4(62)17.1±2.70.80.30.5p=0.0635p=0.4173p=0.306712週間後(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(62)16.5±2.60.30.20.1p=0.4775p=0.6595p=0.7921治療期終了時(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(63)16.7±2.90.50.20.3p=0.2988p=0.6595p=0.5502BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.表7眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化率(%)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)30.0±9.4(61)27.2±10.5(62)24.8±9.85.22.82.4p=0.0023*p=0.1110p=0.18464週間後(70)31.8±10.8(61)29.5±10.2(63)28.9±10.12.92.30.6p=0.1195p=0.2228p=0.74738週間後(69)32.1±9.6(62)30.0±10.2(62)28.9±10.63.22.01.1p=0.0747p=0.2385p=0.547912週間後(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(62)30.9±10.21.81.90.1p=0.2925p=0.2690p=0.9661治療期終了時(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(63)30.6±10.52.11.90.3p=0.2125p=0.2690p=0.8797BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010407(129)スト点眼剤よりも0.60.9mmHg大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合では,12週間後で0.01%ビマトプロスト点眼剤に比べ0.03%ビマトプロスト点眼剤が有意に高かった(p<0.05).0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率はほぼ同程度で群間に有意な差は認められなかった.なお,FASを対象とした場合においても,PPSと同じく非劣性が検証され,副次評価の各項目の結果も大きな違いはなかった.3.安全性有害事象および副作用の発現例数および発現率を表8に,比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象を表9に示した.†2週間後86.877.171.088.685.377.888.482.380.785.984.485.548.544.327.455.750.847.659.450.046.870.453.150.0***4週間後8週間後目標眼圧変化率:-20%12週間後1008060402001008060402002週間後4週間後8週間後12週間後目標眼圧変化率:-30%■:0.03%ビマトプロスト点眼剤■:0.01%ビマトプロスト点眼剤■:ラタノプロスト点眼剤目標眼圧達成率(%)図3目標眼圧達成率(眼圧変化率)の薬剤群間比較各観察時において20%(左図)または30%(右図)以下の眼圧変化率を達成した症例の割合を示す.*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,c2検定).†p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.0.01%ビマトプロスト点眼剤,c2検定).表8有害事象および副作用の発現例数および発現率0.03%BIM0.01%BIMLAT安全性解析対象症例数777073有害事象発現例数(発現率)58(75.3%)52(74.3%)48(65.8%)副作用発現例数(発現率)51(66.2%)46(65.7%)36(49.3%)BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.表9比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象薬剤との関連有害事象名#0.03%BIM0.01%BIMLAT関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計<眼障害>結膜充血31(40.3%)1(1.3%)3229(41.4%)1(1.4%)3014(19.2%)1(1.4%)15睫毛の成長24(31.2%)02419(27.1%)01912(16.4%)012眼瞼色素沈着8(10.4%)089(12.9%)094(5.5%)04眼の異常感4(5.2%)043(4.3%)1(1.4%)401(1.4%)1アレルギー性結膜炎0001(1.4%)011(1.4%)4(5.5%)5結膜浮腫4(5.2%)043(4.3%)03000<全身障害および投与局所様態>滴下投与部位そう痒感6(7.8%)064(5.7%)2(2.9%)64(5.5%)04<感染症および寄生虫症>鼻咽頭炎011(14.3%)11010(14.3%)1002(2.7%)2<皮膚および皮下組織障害>多毛症3(3.9%)032(2.9%)025(6.8%)05BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.[%:発現例数/安全性解析対象症例数(0.03%群:77例,0.01%群:70例,ラタノプロスト群:73例)×100]*関連が否定できない:明らかに関連あり,多分関連あり,関連あるかもしれない.#:MedDRA(Ver.9.0)PT(基本語),SOC(器官別大分類).———————————————————————-Page8408あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010治験薬を投与した220例について,本治験薬の安全性を検討した結果,有害事象は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中58例(75.3%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中52例(74.3%),ラタノプロスト点眼剤で73例中48例(65.8%)発現した.このうち,副作用は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中51例(66.2%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中46例(65.7%),ラタノプロスト点眼剤で73例中36例(49.3%)であった.0.03%および0.01%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率はラタノプロスト点眼剤よりも高かったが,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では副作用の発現率は同程度であった.最も高頻度で発現した副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%,0.01%ビマトプロスト点眼剤で41.4%に発現したのに対して,ラタノプロスト点眼剤では19.2%であり,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では差は認められなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.その他,高頻度で発現した副作用は,睫毛の成長および眼瞼色素沈着であり,結膜充血と同様にビマトプロスト点眼剤の濃度間では発現率に差はなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.なお,発現した副作用のほとんどは軽度であった.ラタノプロスト点眼剤で2例の重篤な有害事象(糖尿病,てんかん)が発現した.いずれの事象も薬剤との因果関係は否定され,回復が確認された.なお,本治験では死亡に至る有害事象は発現しなかった.副作用による中止例は0.03%ビマトプロスト点眼剤で3例,0.01%ビマトプロスト点眼剤で3例,ラタノプロスト点眼剤で1例であり,薬剤群間に差はなかった.0.03%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの2例(眼瞼色素沈着,浮動性めまい),医学的な理由によるもの1例(眼瞼紅斑,滴下投与部位刺激感,結膜充血),0.01%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの1例(眼瞼色素沈着),医学的な理由によるもの2例〔結膜充血:1例,眼刺激(ひりひり感,熱感)・結膜充血・滴下投与部位そう痒感:1例〕,ならびにラタノプロスト点眼剤における1例の中止理由は,医学的な理由によるもの(水晶体障害)であった.III考按本治験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤を比較し,至適濃度を確認した.有効性の主要評価項目である治療期終了時の眼圧変化値において,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての観察時点でラタノプロスト点眼剤よりも大きく,2週間後には両薬剤間で有意な差が認められた.同様に眼圧値,眼圧変化率に関しても2週間後にラタノプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.さらに,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率を用いた経時的分散分析および最小二乗平均による解析で,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められ,0.03%ビマトプロスト点眼剤がラタノプロスト点眼剤を上回る眼圧下降を示すことが確認された.海外で実施された無作為化比較試験であるEarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)では,眼圧が1mmHg下降すると視野障害の進行リスクを約10%減少することが証明され,少しでも眼圧を下降させることで視野障害の進行を抑制できることが明らかとなっている18).また,各種の無作為化比較試験1921)において,無治療時眼圧から20%および30%眼圧を下降させることで緑内障性の視野障害の進行リスクが減少することが証明されており,それらの結果を基に,緑内障診療ガイドライン22)では無治療時眼圧からの眼圧下降率20%および30%を目標の一つとして設定することが推奨されている.本治験において,12週間後の眼圧変化率20%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤およびラタノプロスト点眼剤で約86%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らない結果であった.一方,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤では2週間後で約50%,12週間後で約70%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤ではそれぞれ約27%,約50%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった.当該結果は,ラタノプロスト点眼剤と比べて0.03%ビマトプロスト点眼剤では,推奨される眼圧変化率を達成できる症例が多いことを示している.0.03%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率は66.2%であり,ラタノプロスト点眼剤の発現率49.3%に比べ高いことが確認されたが,重篤なものは認められなかった.また,副作用のほとんどが軽度で眼局所のものであり,全身への影響は少ないことが確認された.最も高頻度で認められた副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%にみられたが,いずれも点眼を継続しても悪化するものではなく,炎症を伴うものではなかった.そのほか,高頻度に発現した副作用は睫毛の成長であり,点眼の中止(終了)により,ほとんどの症例で軽快した.睫毛の異常や眼瞼色素沈着などの副作用は眼周囲に点眼剤がこぼれることにより発現すると考えられるが,これら(130)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010409の副作用は点眼後濡れタオルの使用または洗顔などにより発現率が下がることが報告されており23),点眼剤使用時に処置を施すことにより発現を回避できると考えられる.結膜充血,睫毛の成長および眼瞼色素沈着などの副作用はいずれも美容的なものであり,視機能に影響を及ぼすような重大なものではなく,疾患の重要性,治療方針や副作用について十分な説明を行うことにより,治療コンプライアンスに及ぼす影響を低減させうると考えられる.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロスト点眼剤よりも大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は12週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高く,0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果は,0.03%用量に比べて弱いことが示された.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の安全性プロファイルに大きな違いは認められなかった.これらのことから,0.03%用量がビマトプロスト点眼剤の至適用量であることが確認された.本治験により,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤よりも早期に眼圧を下降させ,すべての時点で0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが眼圧変化値が大きく,眼圧変化率30%を達成できる症例の割合も高いことが示された.また,副作用は臨床使用上大きな問題となるものではなかったことから,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,現在第一選択薬として臨床使用されているラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して効果を示したとの報告1517)があり,また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤と0.5%チモロールゲル製剤との併用療法による眼圧下降効果と同程度であったとの報告24)もあることから,単剤による治療範囲が広がる可能性が期待できる有用な薬剤であると考えられた.文献1)塚本秀利:薬物治療の進めかた.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p248-251,文光堂,20062)金本尚志:プロスタグランジン関連薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p254-256,文光堂,20063)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,20024)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20035)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,20056)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,20067)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,20068)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:ThetravoprostStudyGroup:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20019)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,200810)YuM,IvesD,RameshaCS:SynthesisofprostaglandinE2ethanolamidefromanandamidebycyclooxygenase-2.JBiolChem272:21181-21186,199711)KozakKR,CrewsBC,MorrowJDetal:Metabolismoftheendocannabinoids,2-arachidonylglycerolandanand-amide,intoprostaglandin,thromboxane,andprostacyclinglycerolestersandethanolamides.JBiolChem277:44877-44885,200212)WoodwardDF,LiangY,KraussAH:Prostamides(prosta-glandin-ethanolamides)andtheirpharmacology.BrJPharmacol153:410-419,200813)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdenticationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:Comparisonofprosta-glandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200315)WilliamsRD:Ecacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200216)GandolSA,CiminoL:Eectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200317)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:Long-termIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglau-comapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200818)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:TheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup:Factorsforglaucomaprogressionandtheeectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200319)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-(131)———————————————————————-Page10410あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010coma.ArchOphthalmol120:701-713;discussion829-830,200220)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sures.AmJOphthalmol126:487-497,199821)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199822)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,200623)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─5年後の成績─.眼紀56:342-348,200524)ManniG,CentofantiM,ParravanoMetal:A6-monthrandomizedclinicaltrialofbimatoprost0.03%versustheassociationinglaucomatouspatients.GraefesArchClinExpOphthalmol242:767-770,2004(132)***

Humphrey 視野計のVisual Field Index の有用性

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(93)3710910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):371374,2010c〔別刷請求先〕郷右近博康:〒228-8555相模原市北里1丁目15番地1号北里大学病院眼科Reprintrequests:HiroyasuGoukon,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Sagamihara-shi,Kanagawa228-8555,JAPANHumphrey視野計のVisualFieldIndexの有用性郷右近博康*1田中久美*1庄司信行*1,2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学UsefulnessofVisualFieldIndexinHumphreyFieldAnalyzerHiroyasuGoukon1),KumiTanaka1),NobuyukiShoji1,2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity目的:Humphrey視野計に内蔵された新しい視機能評価の指標であるvisualeldindex(VFI)とmeandeviation(MD)の関連を検討する.対象および方法:対象は100例200眼(男性57名,女性43名),年齢2383歳(平均62.0±15.0歳)であり,Humphrey視野計を用いて中心視野障害の有無,視野障害の病期別に分け,VFIとMDの相関をそれぞれ比較検討した.結果:VFIとMDは有意に相関した(p<0.0001).MDが同程度でも,中心10°以内に視野障害が存在すると,存在しない場合に比べてVFIはより悪く算出された.病期別にみると,初期に比べ,中期の回帰直線の傾きが大きくなった.中心10°以内に視野障害がある症例での病期別検討では,初期,中期とも有意に相関した(p<0.0001,p<0.001)が,全症例での回帰直線に比べて,初期では傾きがやや急に,中期ではやや緩やかになった.中心10°以内に視野障害がない症例での病期別検討では,初期においては有意に相関した(p<0.0001)が,中期では有意な相関を示さなかった(p=0.0595).回帰直線の傾きも,中心10°に視野障害が及んでいる群と比べると緩やかな結果となった.結論:全症例,各病期ともVFIとMDの間には高い相関が認められたが,病期が進んだ症例ほど,また中心視野障害が存在する症例ほどVFIの変化は大きかった.VFIは新しい視機能評価の方法として,特に進行例で有用である可能性が示唆された.Weinvestigatedtherelationshipbetweenvisualeldindex(VFI)andmeandeviation(MD)inHumphreyeldanalyzerinpatientswithglaucoma.Enrolledinthisstudywere100patients(200eyes;57male,43female).Meanagewas62.0±15.0years(range:23to83years).Thepatientsweredividedintotwogroupsbasedonthepres-enceorabsenceofvisualelddefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld,oraccordingtoglaucomastage.TherelationshipbetweenVFIandMDwasinvestigatedineachgroup;signicantcorrelationwasfound(p<0.0001).Whenthevisualelddefectwaswithinthecentral10degreeofthevisualeld,VFIwasworsethanincaseswithoutcentralelddefect,eveniftheMDwassimilar.Theslopeoflinearregressioninmiddle-stageglau-comaissteeperthanintheearlystage.SignicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMDinearlyandmid-dle-stageglaucomawithdefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld(p<0.0001,p<0.001).However,theslopeoflinearregressionofVFIwasslightlysteepinearlystageglaucomaandslightlymildmiddle-stageglaucoma,incomparisonwithallpatients.Inthegroupwithnodefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld,signicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMDinearlystageglaucoma(p<0.0001);however,nosignicantcorrelationwasfoundinthemiddle-stagegroup.Theslopeoflinearregressioninthegroupwithoutcentralvisualelddefectwasmildcomparedwiththatinthegroupwithcentralvisualelddefect.StatisticallysignicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMD;however,theworsetheglaucomastage-andincaseswithdefectwithin10degreesofthecentralvisualeld-thegreaterthechangeintheVFI.TheseresultssuggestthattheVFIisusefulinassessingnewvisualfunction,especiallyinprogressivecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):371374,2010〕Keywords:視機能率,平均網膜感度,緑内障,Humphrey視野計.visualeldindex(VFI),meandeviation(MD),glaucoma,Humphreyeldanalyzer.———————————————————————-Page2372あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(94)はじめに緑内障診療において視野進行の評価は治療方針を決定するうえで最も重要な要素といえる14).現在,視野障害進行の評価方法は,トレンド解析とイベント解析に大きく分けられている2,46).トレンド解析は経過中の検査結果を時系列に並べてパラメータの,回帰直線の傾きに注目するもので,おもに平均偏差(meandeviation:MD)やパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)を用いるMDslope5),PSDslope7)がある.イベント解析は設定したベースライン視野と選択したフォローアップ視野とを比較するもので,2004年からHumphrey視野計に搭載されたGlaucomaPro-gressionAnalysis(GPA)が一般化されつつある1,2,4,810).GPAはSITAプログラムを用い,パターン偏差を基にした視野変化解析プログラムであり,2008年GuidedProgres-sionAnalysis(GPA2)としてバージョンアップされ,SITAと全点閾値が混在していても解析ができるようになった11).このGPA2において,visualeldindex(VFI)とよばれる新しい視野指標が提唱された1).VFIは,Humphrey視野計のプログラムSITAを使用し,パターン偏差確率プロットによる感度から残存視機能を算出し,正常視野を100%,視野消失で0%となるように%表示され,視機能率ともよばれる.臨床上最も重要な視野中心部に重みづけを加えている1,12).しかし,従来から視機能評価に用いられてきたMDとどのような関連があるか,あるいは違いがあるかに関しては,まだあまり調べられていない.そこで今回筆者らは,緑内障患者において,新しいパラメータであるVFIとMDの相関を,病期や視野障害部位の違いに分けて検討した.I対象および方法対象は北里大学病院眼科緑内障外来にて経過観察中の緑内障患者100名200眼(男性57名,女性43名),年齢2383歳(平均62.0±15.0歳),屈折値11.00D+2.00D(平均2.00±2.91D)であり,中心10°以内の視野欠損の有無と病期で分けた眼数,平均年齢,平均屈折度の内訳を表1に示す.視野測定にはHumphrey視野計(カール・ツァイス社)の中心30-2または24-2の2つのプログラムを用い,SITA-Standardまたは全点閾値のどちらかのストラテジーを用い,視野測定2回目以降の信頼性の高い結果,すなわち固視不良20%未満,偽陽性33%未満(SITAでは15%未満),偽陰性33%未満の結果を検討に用いた.検討においては,全症例,中心視野障害別,視野障害の病期別に分けVFIとMDの相関をそれぞれ比較した.今回,中心視野障害の定義は視野の最中心4点(中心より上下左右それぞれ3°離れた点)に1点でもトータル偏差確率プロットの5%未満のシンボルマークが存在するものを中心視野10°以内に視野障害ありとした.また視野障害の病期については,病期分類にAnderson-Patellaの基準13,14)に準じ,初期をMD値6dBより良好なもの,中期を6dBより悪く,12dBより良いもの,後期を12dBより悪いものに分けた.両者の相関にはSpearman’srankcorrelationcoecientを用い,有意水準5%未満を有意な相関ありと判断した.II結果まず,全症例におけるVFIとMDは高い相関を示し(r2=0.886p<0.0001),MDの悪化に伴ってVFIは悪く評価される結果となった(図1).中心10°以内の視野障害の有無で分けた場合も,ともに高い相関を示した(r2=0.894p<0.0001,r2=0.826p<0.0001)が,中心10°以内に視野障害がある群のほうがない群よりも,回帰直線の傾きが急峻であった(図2).緑内障の病期別においては,今回症例数の関係から,初期49眼と中期24眼についてのみ検討した(図3).各病期とも高い相関が認められた(r2=0.442p<0.0001,r2=0.283p<0.0001)が,初期の傾きに比べ,中期の回帰直線の傾きが大きく,中期には,初期に比べてMDの変化に対するVFIの変化が大きいという結果となった.中心10°以内に視野障害がある症例に限った病期別検討では,各病期とも高い相関が認められた(r2=0.500p<0.0001,r2=0.283p<0.001)が,図3の全症例での検討結果3に比べて,初期では傾きがやや急に,中期ではやや緩やかになるという結果表1対象緑内障病期Anderson-Patellaの基準改変初期(MD>6dB)中期(6dB≧MD≧12dB)後期(12dB>MD)中心10°以内視野欠損あり眼数(眼)平均年齢(歳)平均屈折度(D)4967.1±11.92.00±2.442465.7±12.81.80±2.802857.6±15.93.67±3.02中心10°以内視野欠損なし眼数(眼)平均年齢(歳)平均屈折度(D)8258.9±15.11.54±2.781267.6±9.681.82±3.50558.0±15.63.78±4.86———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010373(95)となった(図4).中心10°以内に視野障害がない症例に限った病期別検討では,初期においては有意な相関が認められた(r2=0.459p<0.0001)が,中期では有意な相関を示さなかった(r2=0.485p=0.0595).回帰直線の傾きも,中心10°に視野障害が及んでいる群と比べると緩やかな結果となった(図5).III考按VFIは従来用いられてきたMDと同様に視野障害の程度を表すパラメータであるが,VFIとMDの間には表2に示すような単位,中心加重のかけ方,算出式による違いなどがある.特に,MDはTD値から算出されるため中間透光体の混濁の影響を受けるが,VFIではPD確率プロットから算出しているため影響が少ないと報告されている12).以上のよう表2VFIとMDの相違点VFIMD指標意義残存視機能の指標視野のびまん性障害を表す指標単位%dB中心加重各ポイントごと中心から5°ずつ同心円状算出式= 100〔(totaldeviation/age-correctednormalthreshold)×100〕実測値年齢補正した正常平均閾値測定点の数1009080706050403020100-21-18-15-12-9-6-303VFI(%)6n=200y=2.8157x+101.4r2=0.8858MD(dB)図1VFIとMDの相関(全症例での検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=132y=1.6148x+99.222r2=0.4415○:中期n=35y=3.7842x+111.94r2=0.4019図3VFIとMDの相関(病期別検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=82y=0.9854x+99.641r2=0.4585○:中期n=12***NS図5VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害のない症例による病期別検討)NS:notsignicantly.p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-21-18-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:中心視野障害ありn=101y=2.8895x+100.14r2=0.8943○:中心視野障害なしn=99y=2.1539x+101.16r2=0.8257図2VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害の有無による検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=49y=2.1032x+98.13r2=0.4998○:中期n=24y=2.8945x+101.87r2=0.2833*****図4VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害のある症例による病期別検討)**p<0.001,***p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.———————————————————————-Page4374あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(96)な違いがあるものの,VFIが臨床的にMDと異なる意味をもつのか,それともほとんど同じように変化し,特別な意味合いをもたないのかなどに関しては,いまだ明らかにされていない.今回の筆者らの結果から,両者の間には有意な相関を認め,VFIはMDとほとんど同様の変化を示したことから,VFIを新たに用いる特別な意味はないようにみえるが,病期別に分類した場合,病期によってVFIの変化が異なる結果が得られ,MDと異なった解釈が必要ではないかと考えられる.たとえば,視野進行の判定基準の一つとして,MD値が3dB減少したら悪化と考えるイベントタイプの判定基準を用いることがあるが,今回の結果では,MDが同じだけ変化したとしてもVFIでは病期の進行した例ほど変化(悪化)しやすく,中心10°以内に視野障害が存在する症例ほど変化(悪化)しやすいため,こうした症例ほど,VFIに注目して経過を観察すると,より鋭敏に悪化を検出できる可能性が考えられる.病期によって進行の判定基準を変える必要があるのかもしれないが,VFIで何%の変化が生じた場合に悪化とするかなどの基準に関しては,今後の検討が必要と考える.国松は,緑内障性視野障害の進行を評価するということは,患者のqualityoflife(QOL)を維持することにもつながると指摘している15).藤田らは,緑内障患者において中心3°以内の2象限以上に絶対暗点が連続した場合に読書困難がみられると報告している16).このように,患者の日常生活上の視機能障害を評価するうえで,中心視野障害を評価することは,今後大きな課題になると考えられる.今回検討したVFIは,このような中心視野障害を評価するうえで重要な新たなパラメータになる可能性があるが,臨床的に中心視野障害の評価に適した指標かどうかは,今後,後期視野障害例での検討や患者の不自由度との対応を調べる必要があると考えられる.文献1)松本長太:緑内障の視野検査研究の最新情報はあたらしい眼科25(臨増):194-196,20082)中野匡:GlaucomaProgressionAnalysis(GPA)による視野進行判定.日眼会誌110(臨増):262,20063)松本行弘,原浩昭,白柏基宏ほか:ハンフリー視野計による正常眼圧緑内障の長期臨床経過.臨眼53:1679-1685,19994)国松志保:どのような視標をもって視野障害が進行したと考えてよいですかFrontiGlaucoma5:254,20045)高田園子:MDslope.日眼会誌110(臨増):261,20066)阿部春樹,奥山幸子,岩瀬愛子ほか:視野検査とその評価.FrontiGlaucoma7:133-142,20067)岩見千丈,妹尾佳平:機種変更に伴うハンフリー視野(30-2)のMD値の変化.眼臨紀1:1121,20088)高橋現一郎:視野進行判定法の展望.FrontiGlaucoma7:210,20069)松本行弘,筑田眞:GlaucomaProgressionAnalysis(緑内障視野進行解析).眼科手術18:59-61,200510)富所敦男:緑内障進行解析(GPA).眼科プラクティス15,視野(根木昭編),p153-157,文光堂,200711)松本行弘:緑内障視野進行解析(GuidedProgressionAnal-ysis:GPA2).眼科手術21:467-470,200812)BengtssonB,HeijlA:Avisualeldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,200813)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199914)KatzJ,SommerA,GasterlandDEetal:Comparisonofanalyticalgorithmsfordetectingglaucomatousvisualeldloss.ArchOphthalmol109:1684-1689,199115)国松志保:視野進行の評価にあたって,注意すべきことは何ですかFrontiGlaucoma5:255,200416)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障患者による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,2006***

甲状腺眼症に併発した緑内障に対しTrabeculotomyを施行した2例

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(117)8410910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):841844,2009cはじめに甲状腺眼症(thyroid-associatedophthalmopachy:TAO)に伴う緑内障では,眼窩内圧上昇に基づく上強膜静脈圧上昇に起因して眼圧上昇がもたらされると考えられている1).一般的には本症例に対する降圧手術としては眼窩減圧術2)や濾過手術3)が有用と考えられているものの,文献的に調べた限りでは眼窩減圧術に関する論文3件のみ46)である.今回筆者らはTAOに伴う緑内障患者2名に対し,初回手術でtrabeculotomy(LOT)を施行し,1例は良好な眼圧低下が得られたものの,もう1例は眼圧下降にtrabeculecto-my(LEC)の追加手術を要した症例を経験し,本症に対する緑内障手術の効果について若干の考察を加えて報告する.I症例〔症例1〕29歳,女性.TAOの精査加療目的に近医より2002年5月10日当科紹介初診.2002年ステロイドパルス療法(1クール;ソルメドロールR1,000mg×3日間)を3クール行い,2004年にはステロイドの内服が終了し,外来定期通院をしていた.ステロイドパルスおよび内服中に眼圧上昇は認められなかった.ス〔別刷請求先〕渡部恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MegumiWatanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedcine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN甲状腺眼症に併発した緑内障に対しTrabeculotomyを施行した2例渡部恵鶴田みどり松尾祥代稲富周一郎田中祥恵大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座TwoCasesofGlaucomaAssociatedwithThyroid-AssociatedOphthalmopathyInitiallyTreatedbyTrabeculotomyMegumiWatanabe,MidoriTsuruta,SachiyoMatsuo,ShuichiroInatomi,SachieTanaka,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:甲状腺眼症に伴う緑内障に対してtrabeculotomyを施行した2症例の報告.症例:症例1;29歳,女性.甲状腺眼症でステロイドパルス療法3年経過後から眼圧上昇,緑内障性視神経障害が進行し,trabeculotomyを施行後は右眼は43mmHgから15mmHgへ,左眼は24mmHgから15mmHgへ眼圧下降した.症例2;32歳,女性.Base-dow病の診断で9年後から眼圧コントロール不良のため,trabeculotomyを施行したが,約3カ月後に眼圧再上昇し,trabeculectomyを行った.結論:甲状腺眼症に伴う緑内障に対して,trabeculotomyが有効な症例があり,初回手術として選択肢となると思われた.Purpose:Wereporttwocasesofglaucomaassociatedwiththyroid-associatedophthalmopathy(TAO)thatwereinitiallytreatedbytrabeculotomy.Cases1,a29-year-oldfemale,hadreceivedsteroidtherapyforTAO.Threeyearslater,glaucomatousopticneuropathydeveloped.Herintraocularpressure(IOP)wassuccessfullycon-trolledbytrabeculotomy.InCase2,a32-year-oldfemalewithglaucomaassociatedwithTAO,glaucomatousopticneuropathyhadworsenedoveraperiodof9years.ToachievesuitableIOPcontrol,initialtrabeculotomywasinsaggingandtrabeculectomywasrequired.Trabeculotomymaybeasuitableinitialsurgeryforglaucomaassociat-edwiththyroidassociatedophthalmopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):841844,2009〕Keywords:甲状腺眼症,緑内障,トラベクロトミー,トラベクレクトミー.thyroid-associatedophthalmopathy,glaucoma,trabeculotomy,trabeculectomy.———————————————————————-Page2842あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(118)テロイド治療終了後も眼圧上昇がなかった.2005年より眼圧上昇,緑内障性視神経障害が進行し,点眼3剤でも眼圧コントロールが不良となり,手術目的で2006年10月10日入院した.当院緑内障専門外来初診時視力は右眼(0.8×8.0D(cyl1.0DAx5°),左眼(0.8×7.0D(cyl2.25DAx180°),眼圧はラタノプロスト,1%ドルゾラミドの点眼下で右眼43mmHg,左眼24mmHgであった.眼球突出は右眼21mm,左眼19mm,眼球運動も正常でTAOの活動性はなかった.前眼部および水晶体に異常はなく,隅角所見は両眼Shaer4,眼底は右眼C/D比(陥凹乳頭比)0.8,左眼C/D比0.7であった.視野はAulhorn分類Grave変法で右眼stageIII,左眼stageIIであった(図1).治療経過を図2に示す.2006年10月13日に右眼LOT,10月30日に左眼LOTを施行した.退院時は両眼とも2%ピロカルピン点眼下で15mmHgであった.術後6カ月目頃より右眼の眼圧上昇傾向が認められたため,チモロールおよびラタノプロストを追加し,術後1年半経過した時点で眼圧は両眼とも15mmHg前後と安定しており,視野進行も認められていない.〔症例2〕32歳,女性.1995年よりBasedow病の診断を受けていたが,Basedow病に対する治療は特にされていなかった.2004年近医眼科初診で眼圧は右眼30mmHg,左眼38mmHgでチモロール,1%ドルゾラミド,ラタノプロストが処方されたが,薬剤抵抗性で眼圧上昇,緑内障性視神経障害が進行したため,手術目的で2007年10月30日当科紹介初診となった.当科初診時では,視力は右眼(0.4×11.0D(cyl1.0DAx120°),左眼(0.1×12.0D),眼圧はラタノプロスト,ブリンゾラミド,チモロール,ブナゾシンの点眼下で右眼22mmHg,左眼25mmHgであった.眼球突出は右眼21mm,左眼21mm,眼球運動は正常で前眼部および水晶体も異常を認めなかった.隅角所見は両眼Shaer4で,眼底は右眼C/D比0.8,左眼C/D比0.9,視野はAulhorn分類Grave変法で右眼stageII,左眼stageVであった(図3).治療経過を図4に示す.同年12月3日に左眼,12月10日に右眼のLOTを施行した.退院時の眼圧はチモロール,1%ドルゾラミド,2%ピロカルピン点眼およびアセタゾラミド(250mg)1錠内服下で両眼19mmHgであった.術後2図1症例1のHumphrey視野(302)Aulhorn分類Grave変法で右眼(左図)はstageIII,左眼(右図)はstageIIであった.05101520253035404550眼圧(mmHg):右眼:左眼チモロールラタノプロスト18カ月15カ月12カ月9カ月6カ月3カ月1カ月退院時手術後初診時図2症例2の眼圧経過右眼43mmHg,左眼24mmHgから,LOT施行後の退院時では両眼とも15mmHgへ下降,術後6カ月頃より眼圧上昇傾向が認められたので,右眼のみチモロールを術後7カ月目,ラタノプロストを8カ月目に追加している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009843(119)カ月後頃より眼圧上昇傾向を認め,fullmedicationでも眼圧が右眼16mmHg,左眼32mmHgとコントロール不良であったため,再入院し,2008年3月26日に左眼,4月16日に右眼のLEC(マイトマイシンC併用)を行った.退院時眼圧は2%ピロカルピン点眼下で右眼5mmHg,左眼6mmHgであり,LEC術後半年経過した時点でnomedicationで5mmHg程度を維持している.II考按TAOの緑内障合併率はKalmannらの0.8%という海外の報告7)に対し,わが国では6.5%と一般人口の緑内障有病率よりも高いという報告8)とがあり,わが国におけるTAOでは臨床的に緑内障の合併に注意しなくてはならない.本報告ではTAOの後に緑内障を発症した2例を提示したが,緑内障の原因として,①直接TAOに起因する可能性,②TAOの治療に用いたステロイドによる可能性,および③偶然緑内障を併発した可能性が考えられる.これらの可能性のなかで2例ともTAOの治療中に眼圧上昇,緑内障視神経変化,および発達緑内障でみられる隅角所見がなく,TAOの治療終了後にステロイドの使用もない時点で眼圧上昇および種々の緑内障性視神経変化,視野障害がみられたことから本症例はTAOに併発した緑内障と考えた.現在までに考えられているTAOに併発した高眼圧の機序は,1)外眼筋肥大および癒着による眼球圧迫による機械的要因9)に加え,2)球後軟部組織の炎症が起こることで眼窩内圧が上昇し,眼窩静脈を圧迫,上強膜静脈圧の上昇を起こす1)場合や,3)炎症によって産生されるglycosaminoglycan(GAG)の前房隅角沈着10)によるなど諸説がある.したがってTAO合併の緑内障に対する降圧手術としては,高眼圧機序が1),2)による場合には原因がSchlemm管より後方の房水流出抵抗が存在するため,眼窩減圧術や濾過手術が有効と考えられるが,筆者らが調査した限りでは眼窩減圧術の3例46)のみであり,濾過手術の効果に関しては明確ではない.一方,高眼圧の機序が3)の場合にはLOTが有効と考えられるもののまったく報告例はない.TAOに伴う緑内障の場合の濾過手術では,上強膜静脈圧が亢進している可能性があるので,術中および術後に著明な脈絡膜離や脈絡膜出血,駆逐性出血のリスクが通常の濾過手術よりも高い可能性があ図3症例2のHumphrey視野(302)Aulhorn分類Grave変法で右眼(左図)はstageII,左眼(右図)はstageVである.05101520253035眼圧(mmHg):右眼:左眼6カ月5カ月4カ月3カ月2カ月1カ月手術後初診時TrabeculotomyTrabeculectomy図4症例2の眼圧経過初診時は右眼22mmHg,左眼21mmHgであったが,LOT施行後は両眼とも19mmHg,術後2カ月頃より眼圧上昇傾向を認め,右眼16mmHg,左眼32mmHg,LEC施行後は5mmHgを維持している.———————————————————————-Page4844あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(120)る11).また,眼球突出を伴っている場合には結膜が露出しており,濾過胞感染から眼内炎を起こす危険が高いことも予想される12).LOTは単独手術で眼圧が16mmHg程度と眼圧降下作用は濾過手術に劣るものの,濾過手術に比べ術後併発症が少なく安全性が高い.今回の症例では年齢が30歳前後と若年であったこと,目標眼圧を16mmHg以下としたこと,および初回手術であったことから術後合併症の少ない流出路手術であるLOTを初回手術として選択した.その結果1例でLOTにより眼圧下降が得られた.LOTは濾過手術に比べて術後管理が比較的容易で術後感染の危険も少ないなど利点が多く,甲状腺眼症に伴う緑内障においても初回手術としてLOTが選択肢となりうると思われた.文献1)JorgensenJS,GuthoR:DieRolledesEpiscleralenVenendrucksbeiderEntstehungvonSekundar-glauko-men.KlinMonatsblAugenheilkd193:471-475,19882)山崎斉,井上洋一:甲状腺眼症に伴う緑内障.眼科44:1674-1672,20023)吉冨健志:上強膜静脈圧に伴う高眼圧.緑内障診療のトラブルシューティング,眼科診療プラクティス98,p110,文光堂,20034)CrespiJ,RodriguezF,BuilJA:Intraocularpressureaftertreatmentforthyroid-associatedophthalmopathy.ArchSocEspOftalmol82:691-696,20075)DevS,DamjiKF,DeBackerCMetal:Decreaseinintraocularpressureafterorbitaldecompressionforthy-roid.Orbitopathy.CanJOphthalmol33:314-319,19986)AlgvereP,AlmqvistS,BacklundEO:PterionalorbitaldecompressioninprogressiveophthalmopathyofGraves’disease.ActaOphthalmol51:461-474,19737)KalmannR,MouritisMP:PrevalenceandmanagementofelevatedintraocularpressureinpatientswithGraves’orb-itopathy.BrJOphthalmol82:754-757,19988)OhtsukaK,NakamuraY:Open-angleglaucomaassociat-edwithGravesdisease.AmJOphthalmol129:613-617,20009)BraleyAE:Malignantexophthalmols.AmJOphthalmol36:1286-1290,195610)ManorRS,KurzO,LewitusZ:Intraocularpressureinendocrinologicalpatientswithexophthalmos.Ophthalmo-logica168:241-252,197411)BellousAR,ChylackLTJr:Choroidaleusionduringglaucomasurgeryinpatienswithprominentepiscleralvessels.ArchOphthalmol97:493-497,197912)一色佳彦,横山光伸:悪性眼球突出に合併した緑内障に対する一手術例.眼紀56:997-1001,2005***

強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(115)14430910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14431446,2008cはじめに弘前大学眼科(以下,当科)では改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)の変法として強膜弁を無縫合で終了し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)を独自に行っている.本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlaser-suturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案された.以前,筆者らは本術式の短期間の手術成績を報告した1).しかし,術後平均観察期間は約5カ月と短かったので,今回は,本法を用い最低12カ月以上(平均観察期間24カ月)経過が観察できた症例をad-Nと比較検討して報告する.I対象および方法1.対象対象は2002年4月から2007年3月までにad-Nまたはad-Nを施行された緑内障患者48例75眼で,その内訳はad-N群が30例46眼(男性15例女性15例,平均年齢67.1±10.4歳),ad-N群が18例29眼(男性8例,女性10例,平均年齢67.6±8.45歳)である.なお,この期間中2005年4月以降はほぼ全症例をad-Nではなくad-Nで行ってい〔別刷請求先〕盛泰子:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:TaikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine,5Zaifu-cho,Hirosaki036-8562,JAPAN強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績盛泰子石川太山崎仁志伊藤忠竹内侯雄木村智美中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座SurgicalResultofFree-FlapAdvancedNon-PenetratingTrabeculectomyTaikoMori,FutoshiIshikawa,HitoshiYamazaki,TadashiIto,KimioTakeuchi,SatomiKimuraandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine弘前大学眼科で独自に行っている強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)と従来の改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)の手術成績を比較検討した.対象は2002年4月から2007年3月までに当院でad-Nまたはad-Nを施行され,術後12カ月以上観察された48例75眼である.術前眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で18.2±4.1mmHg,17.5±4.3mmHg,最終眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で13.6±2.6mmHg,13.6±2.2mmHgであった.術後合併症は両群とも一過性の脈絡膜離をきたした症例が1眼ずつあったが,その他重篤な合併症はなかった.以上の結果からad-Nは従来のad-Nと同等の手術成績を有すると考えられた.Toevaluatetheoutcomesofnon-penetratingtrabeculectomiesperformedatHirosakiUniversityHospitalfromApril2002toMarch2007,werecordedintraocularpressure(IOP)andcomplicationsforatleast12monthsaftersurgeryin75eyesof48patientswhounderwentfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N)oradvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N).ThemeanpreoperativeIOPwas18.2±4.1mmHginthead-Ngroupand17.5±4.3mmHginthead-Ngroup.ThemeanpostoperativeIOPwas13.6±2.6mmHgand13.6±2.2mmHg,respectively.Therewasonecaseofchoroidaldetachmentineachgroup,buttherewerenoothersignicantcomplications.Theseresultssuggestthatad-Nseemstoachievealmostthesamesurgicalresultsasad-N.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14431446,2008〕Keywords:非穿孔トラベクレクトミー,改良非穿孔トラベクレクトミー,強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー,手術成績,緑内障.non-penetratingtrabeculectomy,advancednon-penetratingtrabeculectomy,free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy,surgicaloutcome,glaucoma.———————————————————————-Page21444あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(116)る.両群とも観察期間は最低12カ月以上で角膜切開白内障手術を併施した症例を対象とし,後ろ向き研究を行った.これらの患者背景を表1にまとめる.両群間の年齢に有意差はなかった(p<0.05,t検定).2.手術手技今回の検討対象となった2つの術式を表2にまとめる.両術式は表のごとく手技⑨以外は共通手技である.当科で独自に行っているad-Nの特徴はサイヌソトミー非併施かつ強膜外方弁を無縫合のまま結膜縫合することにある.また,両術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.3.検討項目各群の術前平均眼圧,術後1,3,6,12,24カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後1,3,6,12,24カ月での薬剤スコア,術中,術後合併症,術後処置,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前3回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外とした.術前および術後各時点での眼圧値の比較はWilcoxon符号付き順位検定で評価した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.また,眼圧はすべてGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは抗緑内障点眼薬を1剤1点,内服薬を2点とした.薬剤スコアの術前後の比較はSpearman順位相関係数検定で行った.再手術は術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)術前眼圧はad-N群が18.2±4.1mmHg,ad-N群が17.5±4.3mmHgで,両群間に統計学的有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).術後眼圧は術後1,3,6,12,24カ月の順にad-N群で13.2±3.1mmHg,12.6±3.7mmHg,13.0±2.7mmHg,13.7±1.8mmHg,13.6±2.5mmHgであり,ad-N群では13.7±2.9mmHg,13.8±2.9mmHg,14.0±2.9mmHg,13.9±2.7mmHg,13.4±1.9mmHgであった.術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していた(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定)が,両群間には統計学的な有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).両群の眼圧経過を図表2手術手技adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合後半円形切除2カ所⑩結膜縫合adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合せず整復⑩結膜縫合⑨以外は共通手技である.表1患者背景ad-Nad-N性差(男:女)眼25:2111:18年齢(歳・平均±標準偏差)67.1±10.467.6±8.45病型:開放隅角緑内障4125性緑内障32発達緑内障10閉塞隅角緑内障12合計(眼)4629術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)17.5±4.318.2±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)2.7±0.92.6±0.8ad-N:advancednon-penetratingtrabeculectomy,ad-N:free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月2520151050眼圧(mmHg):ad-N:ad-N図1平均眼圧経過各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Wilcoxon符号付き順位検定p<0.05).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081445(117)1に示す.2.眼圧下降率ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は8眼(27.6%),20%以上30%未満の症例は6眼(20.7%),0%以上20%未満の症例は13眼(44.8%)であった.ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は13眼(28.3%),20%以上30%未満の症例は8眼(17.4%),0%以上20%未満の症例は17眼(40.0%)であった.ad-N群とad-N群の眼圧下降率散布図を図2に示す.3.薬剤スコア(平均±標準偏差)術前の薬剤スコアはad-N群で2.6±0.8点,ad-N群で2.7±0.9点,最終受診時の薬剤スコアはad-N群で1.2±0.9点,ad-N群で1.0±0.9点であり,両群ともに術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman順位相関係数検定).両群間差は術前,術後ともになかった(p<0.05,Spear-man順位相関係数検定).ad-N群とad-N群の薬剤スコアの経過を図3に示す.4.術後処置Lasersuturelysisはad-N群で0眼(0%),ad-N群で13眼(28.2%),lasergoniopunctureはad-N群で18眼(62.0%),ad-N群で25眼(54.3%),lasergonioplastyが14眼(48.2%),ad-N群で19眼(41.3%),needlingがad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で2眼(6.9%)行われていた.5.合併症術後に一過性の脈絡膜離がad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で1眼(2.2%)みられたが,その他重篤な合併症は両群ともになかった.6.再手術術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)みられた.III考按緑内障における外科的眼圧降下法には種々の方法がある.進行期緑内障では,緑内障治療で唯一エビデンスが得られている治療が眼圧下降であるため,眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い.濾過手術の中でもトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)は主流の術式であるが,その強い眼圧下降効果の一方で,過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,ひいては低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多い術式であることも知られている24).その反省から前房に穿孔しない,いわゆる非穿孔トラベクレクトミー(non-penetratingtrabeculectomy:NPT)が考案された5,6).NPTにおいては過剰濾過に伴う合併症は少なくなったものの,逆に眼圧下降の面が不十分になるという新たな問題が生じた.そのためNPTの眼圧下降効果を補うため改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)がその後さらに考案された7).当科ではこのad-Nの変法として強膜弁を無縫合で終了35302520151050術後眼圧(mmHg)15105020術前眼圧(mmHg)25303520下降30下降35302520151050術後眼圧(mmHg)05101520253035術前眼圧(mmHg)20下降30下降ad-N?ad-N図2眼圧下降率左:ad-N群,右:ad-N群.両群ともに平均眼圧下降率は19.6%.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月4.03.02.01.00.0薬剤スコア:ad-N:ad-N図3平均薬剤スコア各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Spearman順位相関係数検定p<0.05).———————————————————————-Page41446あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(118)し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtra-beculectomy:ad-N)を独自に行っている1).本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlasersuturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案した術式である.また,無縫合かつサイヌソトミーを行わないことで強膜弁の欠損は生じえず,眼圧下降が不十分な場合,同一創からのTLEでの再手術が可能であるという利点を併せもっている.今回の検討では,術後最終眼圧平均(平均±標準偏差)は術前眼圧平均(平均±標準偏差)に比較して両群ともに有意に低下していた.また,術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間には統計学的な有意差はなかった.眼圧下降率も両群間に有意差はなかった.最終受診時の薬剤スコア(平均±標準偏差)は術前の薬剤スコア(平均±標準偏差)と比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間差は術前,術後ともにみられなかった.眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)であった.以上の結果はすなわちad-Nは眼圧下降効果,眼圧下降率,術後薬剤スコア,再手術の頻度においてad-Nと同等の成績であることを示し,強膜弁を無縫合にすることによって濾過量を増加させるという試みはさほど効果がなかったと考えられた.合併症の面では両群ともに術後に一過性の脈絡膜離が1眼みられたのみで,その他重篤な合併症はなかった.ad-Nでは強膜弁無縫合にすることによる特別な合併症もみられなかった.この点においてもad-Nはad-Nと同等の成績といえる.ad-Nとad-Nは眼圧下降,合併症などの手術成績は同等であるが,ad-Nにはサイヌソトミー非併施,強膜外方弁無縫合と若干の手術手技簡略化という利点があると思われた.術後処置については,ad-N群においてlasersuturelysisが0眼(0%)なのは強膜弁無縫合であるから当然であり,この点に関しては術後処置の簡略化に成功したと考えてよい.ad-N群,ad-N群ともに濾過胞の維持,眼圧下降のために必要に応じてlasergoniopuncture,lasergonioplasty,nee-dling施行が必要であり,この術後管理は術後の眼圧下降効果維持のために非常に重要であったと思われる.両術式ともに結膜輪部切開での施行であること,濾過量がTLEよりも少ないことから濾過胞は扁平になる傾向があり,当科では術後2週間をめどに積極的にlasergoniopuncture,lasergonioplasty,needlingを施行している.したがってこれらの処置は施行率が高い傾向にあったと思われる.今回の検討では濾過胞の維持率は検討していない.後ろ向き研究であるので濾過胞の生存を客観的に,厳密に判断することがむずかしいと考えたためである.この点については光学的干渉断層計などの前眼部解析装置を用いての厳密な検討を今後,考慮する必要があると思われる.また,両術式は眼圧下降効果,合併症の面で同等の手術成績であるという結果が得られた.しかしad-Nでは手術手技,術後処置の面でad-Nに比較して若干の簡略化があり,その点に関しては有用と思われた.文献1)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁非縫合非穿孔トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20062)JongsareejitB,TomidokoroA,MimuraTetal:EcacyandcomplicationsaftertrabeculectomywithmitomycinCinnormal-tentionglaucoma.JpnJOphthalmol49:223-227,20053)大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科20:821-824,20034)八鍬のぞみ,丸山幾代,清水美穂ほか:札幌医科大学眼科における0.04%マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績.あたらしい眼科17:263-266,20005)Gonzalez-BouchonJ,Gonzalez-MathiesenI,Gonzalez-GalvezMetal:NonpenetratingdeeptrabeculectomytreatedwithmitomycinCwithoutimplant.Aprospectiveevaluationof55cases.JFrOphtalmol27:907-911,20046)ShyongMP,ChouJC,LiuCJetal:Non-penetratingtrab-eculectomyforopenangleglaucoma.ZhonghuaYiXueZaZhi(Taipei)64:408-413,20017)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,2000***

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(111)14390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14391442,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は半波長Qスイッチ:Nd-YAGレーザー(波長532nm)を用いて,線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させることで眼圧を下降させると考えられているレーザー治療である1).アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculo-plasty:ALT)は線維柱帯構造全体に作用するが,SLTは周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響しないことが明らかになっており2),線維柱帯への侵襲が少ない.また,ALTは熱凝固組織損傷の合併症である術後一過性の眼圧上昇,周辺部虹彩癒着などを認めることがあるのに対し,SLTはそれらの合併症を認めることが少なく,くり返し治療が可能で,手術治療に影響を与えないため,薬物治療と手術治療の中間的な役割を果たすものとして位置づけられている3).SLTはALT同等の眼圧下降が得られ,その有効性については多くの報告があり4,6,8),狩野ら4),Hodgeら5)は,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)と落屑緑内障(EXG)の2病型において,SLTの眼圧下降効果に有意差を認めなかったと報告している.しかし,最大耐用薬物療法下でのSLT6)や色素緑内障に対するSLT7)には限界があることが示唆されており,患者背景因子を検討することが必要である.また,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手〔別刷請求先〕上野豊広:〒669-5392豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターReprintrequests:ToyohiroUeno,M.D.,EyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital,81Iwanaka,Hidaka-cho,Toyooka-shi,Hyogo-ken669-5392,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績上野豊広岩脇卓司湯才勇矢坂幸枝港一美倉員敏明公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターClinicalResultsofSelectiveLaserTrabeculoplastyToyohiroUeno,TakujiIwawaki,SaiyuuYu,YukieYasaka,KazumiMinatoandToshiakiKurakazuEyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital筆者らは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の眼圧下降効果を緑内障手術の既往の有無や病型別で比較検討を行った.対象は,当院でSLT施行後3カ月以上観察可能であった44例49眼,年齢は65.59±11.02歳,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)が42眼,落屑緑内障(EXG)が7眼であった.今回検討した全症例の眼圧は術前18.36±2.60mmHg,術後3カ月16.37±2.82mmHgで,有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無の検討では,緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往がある群は有意な眼圧下降がなく,病型別の検討では,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.患者背景因子について検討し施行すれば,SLTは有効な眼圧下降を得る一つの方法になると考えた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringecacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inrela-tiontothehistoryofpriorglaucomasurgeryanddierenttypesofglaucoma.Subjectscomprised49eyesof44patientswhowerefollowedupfor3monthsormoreafterSLT.Meanpatientagewas65.59±11.02years(mean±standarddeviation);42eyeshadprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and7hadexfoliationglaucoma(EXG).IOPdecreasedsignicantly,from18.36±2.60mmHgto16.37±2.82mmHgat3monthsafterSLT,decreasingsignicantlyineyesthathadnotundergoneglaucomasurgerybeforeSLT,butnotdecreasingsignicantlyineyesthathadundergoneglaucomasurgerybeforeSLT.IOPdecreasedsignicantlyineyeswithPOAG,butnotineyeswithEXG.SLTappearstobeaneectivemethodfortreatingglaucoma,consideringpatienthistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14391442,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧下降,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty(SLT),intra-ocularpressurereduction,glaucoma.———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(112)術の既往の有無についてはいまだ報告されていない.今回筆者らは,緑内障手術の既往の有無と緑内障の病型別にて,SLTの眼圧下降効果に関して比較検討を行った.I対象および方法対象は,公立豊岡病院組合眼科でSLTを施行し,3カ月以上観察可能であった,44例49眼とした.内訳は男性24眼,女性25眼,年齢は65.59±11.02(4986)歳であった.全症例とも,術前にALTの既往,術前後での点眼治療に変化はなく,隅角色素はScheie分類でⅡ以下であった.緑内障手術に関しては,SLT施行前に既往がある症例は9眼,既往がない症例は40眼であり,その内訳は,線維柱帯切除術,非穿孔性線維柱帯切除術と線維柱帯切開術であり,濾過手術と流出路再建術に分けて検討を行った.表1に示すように,年齢,性別,病型,Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDプログラム(HumphreyeldanalyzerⅡ:HFA)の平均偏差(meandeviation:MD)値は緑内障手術既往の有無で有意差はなかった.また,病型別の検討に関しては,POAGが42眼,EXGが7眼であった.表2に示すように,年齢,性別,緑内障手術の既往,HFAのMD値も病型間で有意差はなかった.SLTは施行前に十分な説明をし,患者から同意を得たうえで,緑内障専門外来の熟練した術者2人が行った.SLTには,ellex社製タンゴオフサルミックレーザーを用いた.SLTの照射条件は,スポットサイズが400μm,照射時間が3ns,出力が0.61.5mJ,照射は半周(下方180°)に施行し,照射数は4960発であった.術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行った.眼圧測定は術前,術後翌日,1週,1カ月,その後は1カ月ごとにGold-mannapplanationtonometerで測定した.術前眼圧は術前3回の平均を用い,それぞれの術後眼圧と比較した.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無や緑内障の病型別の検討では術前眼圧と術後3カ月の眼圧と比較検討した.なお,術前と術後1週,1カ月,2カ月,3カ月の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)法および多重比較(Bonferroni/Dunn法),術前眼圧と術後3カ月の眼圧の比較にはMann-Whitney’sUtest,緑内障手術既往の有無と病型の患者背景の比較にはMann-Whitney’sUtestおよびFisher’sexactprobabilitytestを用いた.統計学的有意差は5%未満の危険率をもって有意とした.統計解析にはStat-View5.0(SASInstitute社)を用いた.値の表示はすべて平均値±標準偏差とした.II結果全症例の術前平均眼圧が18.36±2.60mmHg,術後1週の眼圧は16.60±3.67mmHg(p<0.05),術後1カ月の眼圧は16.98±3.24mmHg(p<0.05),術後2カ月の眼圧は16.67±3.40mmHg(p<0.05),術後3カ月の眼圧は16.37±2.82mmHg(p<0.05)であった.術後1週から3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.図1に示す.SLT施行前に緑内障手術の既往がない群は40眼,術前平均眼圧が18.35±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は15.88±2.33mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,SLT施行前に緑内障手術の既往がある群は9眼,術前平均眼圧が18.40±3.44mmHg,術後3カ月の眼圧は18.56±3.81mmHg(p=0.81)であり有意な眼圧下降がなかった.図2に示す.濾過手術群は男性4眼,女性1眼,POAG4眼,EXG1眼,術前平均眼圧が18.86±2.66mmHg,術後3カ月の眼圧は18.60±3.13mmHg(p=0.81)であった.流出路再建術群は男性2眼,女性2眼,POAG2眼,EXG2眼,表1緑内障手術の既往別の患者背景緑内障手術の既往がない群緑内障手術の既往がある群p値年齢(歳)65.80±11.35(4986)65.22±10.02(5078)0.85*性別男性18眼女性22眼男性6眼女性3眼0.29**病型POAG36眼EXG4眼POAG6眼EXG3眼0.11**MD値(dB)9.46±8.7411.66±9.020.82**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.表2病型別の患者背景POAG群EXG群p値年齢(歳)64.83±11.15(4986)70.86±9.23(5379)0.11*性別男性19眼女性23眼男性5眼女性2眼0.25**緑内障手術の既往あり6眼(14.3%)あり3眼(42.9%)0.11**MD値(dB)9.36±8.9112.56±9.110.51**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.2520151050眼圧(mmHg)術前1週1カ月2カ月3カ月術後経過日数****図1全症例におけるSLTの眼圧経過眼圧は術後1週から術後3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunn法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081441(113)術前平均眼圧が17.83±4.62mmHg,術後3カ月の眼圧は18.50±5.07mmHg(p=0.32)であり,両群とも有意な眼圧下降を認めなかった.POAG群(42眼)は術前平均眼圧が18.16±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は16.02±2.47mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,EXG群(7眼)は術前平均眼圧が19.54±3.46mmHg,術後3カ月の眼圧は18.42±3.99mmHg(p=0.34)であり有意な眼圧下降がなかった.図3に示す.SLTに伴う合併症は眼圧上昇のみで,経過中に術前より眼圧の上昇した症例は21眼で,全体の42.9%であった.そのうち5mmHg以上の高度の眼圧上昇が生じた症例は2眼で,全体の4.1%であった.虹彩炎は全例軽微であり,加療を必要とする重篤な炎症所見はなかった.また,前房出血など,他の重篤な合併症はなかった.III考按本研究では,POAGとEXGの2病型に対して,点眼治療,緑内障手術の既往の有無にかかわらず,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が望ましいと思われる患者に対しSLTを施行し,検討を行った.過去の報告によるとSLTの予後因子として,年齢,性別,病型,ALTの既往の有無,隅角色素,術前眼圧,手術の既往,術前投薬数,術後一過性眼圧上昇などさまざまな因子が過去に検討されている49).まず,手術の既往に関する過去の報告では,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手術の既往の有無についていまだ報告されていないため,筆者らは緑内障手術の既往の有無とSLTによる眼圧下降効果に関して比較検討を行った.SLT施行前に緑内障手術の既往のない群は術後3カ月で,有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往のある群は術前と術後3カ月の眼圧に変化を認めず,SLTの効果がなかった可能性がある.現在のところ,緑内障手術後の線維柱帯組織にSLTがどのような影響を及ぼすかは不明であり,今後組織学的検討が必要であると考えた.また,今回症例数が少ないので,今後症例数を増加し,術式別にも引き続きさらなる検討を要すると考える.また,緑内障の病型別に関する過去の報告4,10)では,ALT,SLTにおいてもPOAGとEXGの2病型には有効性に差を認めず,両群ともに有効であったとされている.しかし,色素緑内障にはSLT後に追加手術が必要となり7),SLTの限界を指摘されている.今回,筆者らの研究において,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は眼圧下降があったものの有意な眼圧下降ではなく,POAG群と比較しSLTの効果に差を認める結果となった.EXG眼では,線維柱帯への色素沈着だけでなく,傍Schlemm管結合組織などの水晶体偽落屑の沈着による房水通過抵抗の高まりが眼圧上昇に影響を及ぼしており11),線維柱帯に対するSLTの効果が少なくEXG群がPOAG群に比べて,眼圧下降効果が弱かった可能性がある.合併症については,これまでの他施設でのSLTの報告ではそれぞれに基準が異なるものの,19.433%4)に一過性の眼圧上昇がみられている.しかしながら,今回の症例では4.1%にみられたのみであり,眼圧上昇がきわめて少なかった理由として,術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行ったことが考えられた.SLTは,線維柱帯に対して侵襲が少ないので,降圧手段の一つとして積極的に試みてよい方法であり,点眼数の減少や手術に至るまでの期間の延長が期待される.しかし,緑内障手術の既往の有無,緑内障の病型によって眼圧下降効果が減弱する可能性があるため,施行前に患者背景因子について検討を重ねたうえで施行する必要があることが示唆された.SLTの効果についてはいまだ一定した見解が得られていないこともあり,今後症例数の増加および術後の経過観察期間を延長し,引き続き検討を行っていく予定である.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:SLT施行前に緑内障手術の既往がない群:SLT施行前に緑内障手術の既往がある群*図2緑内障手術の既往の有無によるSLTの効果緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,既往がある群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.図3緑内障の病型別によるSLTの効果POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:POAG:EXG*———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(114)文献1)LatinaMA,ParkC:SelectivetargetingoftrabecularmeshworkcellsinvitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-372,19952)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthal-mology108:773-779,20013)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertra-beculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospectiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,19994)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19995)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomizedclinicaltraial.BrJOphthalmol89:1157-1160,20056)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassociatedwith180degreesselectivelasertrabeculo-plasty.JGlaucoma14:400-408,20059)WernerM,SmithMF,DoyleJW:Selectivelasertrabecu-loplastyinphakicandpseudophakiceyes.OphthalmicSurgLasersImaging38:182-188,200710)安達京,白土城照,蕪城俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティの10年の成績.日眼会誌98:374-378,199411)Schlozer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.OcularmanifestationofasystemicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,1992***

薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)12850910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12851289,2008cはじめに緑内障の薬物療法では,眼圧を下げる目的でプロスタグランジン製剤,b遮断薬(マレイン酸チモロールなど)が第一選択薬としておもに使用され1),これらの薬剤が不十分な場合に,炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)などが併用薬として使用されている.市販されている炭酸脱水酵素阻害薬のドルゾラミド点眼液とブリンゾラミド点眼液の効果を比較した報告では,眼圧降下作用に有意差がないこと2)や,有効成分の物理化学的特性,製剤学的特徴から使用感が異なることが知られている3,4).しかし,これらの報告にみられる使用感調査は医師によって外来診療中に行われている.一般に,外来診療中の調査では患者から十分な時間をかけた聞き取り調査はむずかしいことが多い.さらに,データは限られた診療施設から収集されるために,精度の高い解析に必要なデータ数を確保するには長期間〔別刷請求先〕高橋現一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:Gen-ichiroTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査高橋現一郎*1山村重雄*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2城西国際大学薬学部ResearchonObjectiveSymptomsafterGlaucomaEyedropAdministration,UsingDataObtainedbyPharmacistsatPharmaciesGen-ichiroTakahashi1)andShigeoYamamura2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeikaiUniversity,AotoHospital,2)FacultyofPharmaceuticalSciences,JosaiInternationalUniversity緑内障治療薬として用いられる2種の炭酸脱水酵素阻害薬(塩酸ドルゾラミド,ブリンゾラミド)の使用感について薬局店頭での薬剤師による聞き取り調査を行った.調査対象は単剤投与あるいは両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬またはマレイン酸チモロールの併用患者とした.調査の結果,気になる症状として,塩酸ドルゾラミド投与患者では刺激感を,ブリンゾラミド投与患者では霧視を指摘する人が多かった.年齢的には,70歳以下の患者で刺激感を気にする人が多かった.また,気になる症状を医師へ相談するかどうかを尋ねたところ,女性で刺激感,掻痒感がある場合に相談する可能性が高いことが示された.これらの結果は,医師による診療時,薬剤師による薬剤投与の際には,製剤の特徴,年齢層,性別などを考慮した説明が重要であることを示している.Weinvestigatedtheworrisomeobjectivesymptomsofpatientswhoadministeredcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)(dorzolamidehydrochlorideorbrinzolamide)fortreatmentofglaucoma.Whenpharmacistslledthepre-scriptions,theyaskedthepatientswhethertheyhadexperiencedworrisomesymptoms(blurredvision,foreignbodysensation,itchingparaesthesia,feelingofstimulation)afteradministratingCAIeyedrops.Afeelingofstimula-tionandblurredvisionwerecitedasworrisomesymptomsby25.9%ofpatientstakingdorzolamidehydrochlorideand30.8%ofpatientstakingbrinzolamide.Patientsaged70yearsoryoungertendedtoexperienceafeelingofstimulation.Femalepatientswhoexperiencedafeelingofstimulationoritchingparaesthesiaexpressedthedesiretoconsulttheirdoctorregardingthesymptom.Becausethesesymptomsareknownnottoinuencethepharmaco-logicaleectsofCIA,doctorsandpharmacistsshouldcrediblyexplainthemedicationtopatients,takingintoaccountCAIproductproperties,aswellaspatientageandsex.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12851289,2008〕Keywords:炭酸脱水酵素阻害薬,緑内障,点眼液,使用感,薬局.carbonicanhydraseinhibitor,glaucoma,eyedrops,objectivesymptom,pharmacy.———————————————————————-Page21286あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(98)を要することになる.これらの問題点を解決するために,調剤薬局の薬剤師による服薬指導の際に,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している緑内障患者へのインタビューを通じて使用感を聞き取り調査した.得られた結果から,患者が医師へ相談する背景を探索し,患者個別の適切な指導方法への応用を考察した.I対象および方法平成18年11月12日から12月15日までに,49の薬局で緑内障治療のために塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)またはブリンゾラミド(エイゾプトR懸濁性点眼液1%)を含む処方せんが調剤された患者のうち,初回処方以外の患者(318名)を対象とした.緑内障患者では複数の点眼液が処方されていることが多いので,調査対象の両剤の使用感に影響が少ないと考えられるプロスタグランジン関連点眼薬(キサラタンR点眼液)またはマレイン酸チモロール(チモプトールR点眼液)の2つの製剤に関してはどちらかの併用を認め,これら以外の点眼薬を併用している患者および3剤以上の点眼液を使用している患者は除外した.最終的な調査対象者は,ドルゾラミド投与群85名,ブリンゾラミド投与群78名の計163名であった.併用の有無は,単独投与36名,チモプトールRまたはキサラタンRのいずれか1剤の併用が120名であった.調査は,薬局で薬剤師による服薬指導の一環として行われ,調査目的を口頭で説明し,同意が得られた患者から以下の質問項目に対して口頭で回答を得た.質問内容は,1)年代,性別,2)使用薬剤および併用薬剤,3)初回処方からの経過期間,4)目薬をさした直後に気になる症状(「眼がかすむ」(霧視),「眼がごろごろする,目やにがでる」(異物感),かゆい(掻痒感),しみる(刺激感)の4つのなかから1つを選択),5)これら使用感について医師への相談の有無.統計解析はJMP6.0.3(SASInstituteJapan,Tokyo)を用いた.比率の検定はc2検定,“医師への相談”に関連する因子の探索はロジスティック回帰分析で行った.II結果患者背景を表1にまとめた.患者背景の一部に欠測がみられたが,本調査の主目的が使用感を比較することにあるので,“気になる症状”の有無のデータが聴取できた患者データはすべて解析対象症例とした.ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群間で,性別,年齢層,併用薬の有無,処方期間に患者背景として差はみられなかった.全体として,60歳以上の年齢層の患者で,処方期間は3カ月以上である患者が多くみられた.“気になる症状”があると回答した患者は,ドルゾラミド投与群では85名中44名(51.7%),ブリンゾラミド投与群では78名中45名(57.7%)であり,半数以上の患者が点眼に伴ってなんらかの気になる症状がある表1患者背景背景合計ドルゾラミド投与群ブリンゾラミド投与群p値1)組み入れ患者数1638578性別2)男性/女性64/6337/3127/320.3309年齢層2)20歳代1100.497830歳代10140歳代106450歳代169760歳代1911870歳代50222880歳代以上301911併用薬の有無3)あり/なし120/3663/2257/140.3628処方期間4)3カ月以上14673730.375213カ月10551カ月未満220気になる症状の有無あり/なし89/7444/4145/330.44771)c2検定.2)ドルゾラミド投与群17名,ブリンゾラミド投与群19名のデータが不明.3)ブリンゾラミド投与群7名のデータが不明.4)ドルゾラミド投与群5名のデータ不明.ただし,初回処方ではない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081287(99)と答えた.しかし,その割合は両群で有意差はみられなかった(p=0.4477,c2検定).図1にドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”として4つの項目のいずれかを選択した人の割合と人数をまとめた.「異物感」,「掻痒感」は,両群で差はみられなかったが,ドルゾラミド投与群では「刺激感」を指摘する患者が多く(p=0.0360,c2検定),ブリンゾラミド投与群では「霧視」を指摘する患者が多かった(p=0.0498,c2検定)が,症状はいずれも軽度であった.気になる症状があると回答した患者のうち,医師に相談した経験がない患者の割合は両群とも8割以上であった.また,両製剤の使用方法の違いとして1日の点眼回数があげられるが,緑内障患者は複数の点眼薬を併用していることが多く,投与回数が多くなりがちであり,ドルゾラミド投与患者においても,58/76名(76.3%)は1日3回の投与回数は気にならないと回答した.図2に,患者の年齢(70歳以上と70歳以下)による気になる症状の違いをまとめた.70歳以下の患者で「刺激感」を“気になる症状”としてあげている割合が高いことが認められた(p=0.0079,c2検定).図3に,性別による“気になる症状”の違いをまとめた.男女間で“気になる症状”に違いはなかったが,女性のほうが症状を医師に相談する割合が高い傾向が認められた(p=0.0682,c2検定).“医師へ相談する”因子を解析した結果を表2に示した.年代はリスク因子とならなかったので説明変数から除き,“気になる症状”をすべて説明変数とし,どの症状が気になったときに医師に相談するかをロジスティック回帰分析で解表2症状を医師に相談するリスク因子因子オッズ比95%信頼区間p値性別[女]3.84921.009019.28470.0484霧視3.23470.569817.16080.1738異物感3.85740.475623.92620.1842掻痒感19.86401.9185199.62520.0149刺激感7.73661.674941.56570.0092ロジスティック回帰分析.オッズ比は,相談するオッズ/相談しないオッズ.35302520151050(%)霧視異物感掻痒感刺激感p=0.0498p=0.4879p=0.9008p=0.03601524810442210:ドルゾラミド:ブリンゾラミド図1ドルゾラミド投与群とブリンゾラミド投与群の“気になる症状”としてあげた人の割合と人数ドルゾラミド投与群85人,ブリンゾラミド投与群78人.カラム内の数値は人数,p値はc2検定.80706050403020100p=0.0010p=0.2040p=0.0981p=0.8485p=0.0079p=0.2944333212138624151047:70歳以下*:70歳以上**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図2年代による“気になる症状”の違い*70歳以下群47人,**70歳以上群80人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(70歳以下33人中,70歳以上32人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.6050403020100p=0.6587p=0.2040p=0.9751p=0.9842p=0.7894p=0.0682313414117733121338:男性*:女性**症状全体霧視異物感掻痒感刺激感症状を医師に相談する***(%)図3性別による“気になる症状”の違い*男性群64人,**女性群63人,***気になる症状を医師に相談すると回答した患者(男性34人中,女性31人中).カラム内の数値は人数.p値はc2検定.———————————————————————-Page41288あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(100)析し,“医師に相談する”リスクをオッズ比と95%信頼区間で示した.その結果,「性別」(オッズ比で3.8倍,p=0.0484),「掻痒感」(オッズ比で19.9倍,p=0.0179),「刺激感」(オッズ比で7.7倍,p=0.0092)が有意となり,女性であり,「掻痒感」や「刺激感」が“気になる症状”となった場合にして,患者は医師へ相談する傾向があることが示された.III考察ドルゾラミド投与群,ブリンゾラミド投与群いずれにおいても“気になる症状”があると回答した患者は,約半数であり,その割合に差はみられなかった.2つの点眼薬臨床試験で報告された副作用は,ドルゾラミドで23.4%(145例中34例)5,6),ブリンゾラミドで2025%である7).今回の調査の結果,実際に副作用で報告されている割合の約2倍の患者が,“気になる症状”をあげている.副作用と“気になる症状”は必ずしも同一ではないが,すでに報告されている副作用の割合以上に患者が気になる症状を認識している実態が明らかになった.“気になる症状”として指摘された項目を比較すると,ドルゾラミド投与群で「刺激感」,ブリンゾラミド投与群では「霧視」が多かった.ドルゾラミド点眼液のpHは5.55.9と涙液に比べて低く,これが刺激性の原因と考えられている5,6).一方,ブリンゾラミド点眼液は白色の懸濁製剤であることから,視界が白く曇り霧視が多くみられるものと考えられる7,8).ドルゾラミド投与群で刺激感,ブリンゾラミド投与群では霧視が副作用として指摘されることはこれまでにも報告されており,今回の調査はその結果を裏付けるものとなった3).このことから,炭酸脱水酵素阻害薬を初回処方する際には,それぞれの使用感の特徴を,患者にあらかじめよく伝えておく必要があると思われる.それ以外の症状については指摘される頻度も低く,異物感,掻痒感に関しては,両剤とも差はないと考えられる.70歳以下の患者で,刺激感を“気になる症状”としてあげる割合が高かったが,高齢の患者では,刺激を感じる閾値が上昇しており,さらに,刺激感は連続点眼で軽減するためと考えられる.この結果は,70歳以下の患者に投与を開始する際には「刺激感」に対する指導がなされる必要があることを示している.“気になる症状”の内容に性差はみられなかったが,女性のほうが“症状を医師に相談する”傾向がみられた.これは女性のほうが,“気になる症状”に対する不安感を示しているものと考えられる.特に,女性に対して“気になる症状”の不安感を取り除くような服薬説明が必要であることを示している.“症状を医師へ相談する”リスク因子を探索したところ,「性別」,“気になる症状”として「掻痒感」と「刺激感」の3つの因子が選択された(表2).図3に示したとおり,女性は“気になる症状”に対して不安感をもっていると思われる.したがって,これらの製剤の処方時や服薬指導時にはあらかじめ点眼液の特徴を説明して,不安を取り除く十分な説明が必要となるであろう.また,投与回数に関しては,高齢者,または罹患期間が長い,症状が重篤であるなどの背景をもつ緑内障患者では,点眼回数が多い治療を容認することが報告されており9),年齢や重症度を考慮した説明が必要であると考えられる.一般の外来診療において,点眼薬が初めて処方されたときに,その薬剤の特徴などが説明され,使用感に関して最初のうちは確認されると思われるが,その後は,使用感よりも効果(眼圧下降)や角膜などへの副作用に注意が向かうと思われる.限られた診療時間内では,病状,検査結果などの説明に時間を取られた場合や,同じ処方が続いた場合などは,患者サイドからの申し出がないと使用感は確認されない可能性もある.また,年齢,性別によっては,第三者には言えても医師の前では自分の感想,意見を言えない人もいることが推察される.今回の結果は,患者の年齢,性別,点眼液の特徴などを考慮することによって,患者に不安を与えず,コンプライアンスを向上させるための説明が可能となることを示している.今回の薬局での緑内障治療のための点眼液の使用感調査は,組み入れた患者数が両群で163名であり,これまでに日本で行われた炭酸脱水酵素阻害薬の点眼液の使用調査の例数を大きく上回っている24).今回の,調査期間がほぼ1カ月間と短期間であったことを考え合わせると,点眼液の使用感の調査は,外来診療時に行うよりも薬局で調剤時に行ったほうが効率的に行うことができることを示している.さらに,薬剤師は服薬指導時に患者と比較的時間をかけて話をすることができるので,より正確な使用感の調査ができると期待できる.ただしこの場合,薬局での調査結果が的確に医師側にフィードバックされることが重要であり,処方決定の際の情報として提供することができれば,医師と薬剤師の信頼関係も築くことができ,新たな医師-薬剤師の連携のモデルになると期待される.文献1)緑内障診療ガイドライン(第2版):日眼会誌110:777-814,20062)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較.臨眼58:205-209,20043)添田祐,塚本秀利,野間英孝ほか:日本人における1%ブリンゾラミド点眼薬と1%ドルゾラミド点眼薬の使用感の比較.あたらしい眼科21:389-392,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081289(101)4)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20055)北澤克明,塚原重雄,岩田和雄:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-507,0.5%点眼液の長期投与試験.眼紀46:202-210,19946)TheMK-507ClinicalStudyGroup:Long-termglaucomatreatmentwithMK-507,Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor.JGlaucoma4:6-10,19957)SilverLH,theBrinzolamideComfortStudyGroup:Ocu-larcomfortofbrinzolamide1.0%ophthalmicsuspensioncomparedwithdorzolamide2.0%ophthalmicsolution:resultsfromtwomulticentercomfortstudies.SurvOph-thalmol44(Suppl2):S141-S145,20008)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬に伴う「霧視」について.日眼会誌110:689-692,20069)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,2003***

白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page11148あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(00)原著あたらしい眼科25(8):11481152,2008cはじめに白内障手術を併用した線維柱帯切開術は,単独手術に比べ,眼圧下降効果が優れていると報告されている1).しかし,濾過手術に比べれば眼圧下降効果は劣り2,3),将来に濾過手術が必要となる可能性があるため上方結膜を広範囲に温存することが望ましいと考えられる.また線維柱帯切開術は濾過手術ではなく術後感染の危険性が少ないため下方からのアプローチが可能である46)が,下方からのアプローチからの線維柱帯切開術と白内障同時手術成績の報告は少ない7).今回,筆者らは白内障手術を併用した線維柱帯切開術を上方からのアプローチ(以下,上方群)と下方からのアプローチ(以下,下方群)による手術成績を比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕浦野哲:〒830-0011久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToruUrano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPAN白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討浦野哲*1三好和*2山本佳乃*1鶴丸修士*1原善太郎*1山川良治*1*1久留米大学医学部眼科学教室*2社会保険田川病院眼科ComparisonbetweenSuperiorly-approachedandInferiorly-approachedTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryToruUrano1),MutsubuMiyoshi2),YoshinoYamamoto1),NaoshiTsurumaru1),ZentaroHara1)andRyojiYamakawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceTagawaHospital白内障手術を併用したサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の上方(上方群)および下方からのアプローチ(下方群)について検討した.対象は,上方群は,落屑緑内障41眼と原発開放隅角緑内障15眼の計56眼,平均年齢77歳,経過観察期間17.5カ月.下方群は,落屑緑内障12眼と原発開放隅角緑内障11眼の計23眼,平均年齢69歳,経過観察期間9.4カ月.上方群は12時方向で,下方群は8時方向から行った.眼圧(手術前→最終)は上方群22.4±5.4→14.3±3.4mmHg,下方群21.9±5.9→13.6±2.6mmHg,薬剤スコアは上方群3.3±1.1→0.8±1.1,下方群3.4±1.3→1.0±1.4と有意に低下した.一過性眼圧上昇は上方群11眼(19.6%),下方群5眼(21.7%)とみられたが有意差はなかった.下方群は上方群と同等な成績であり,将来濾過手術をするスペースを確保できる有用な手術法である.Wecomparedsuperior-approachtrabeculotomy(SUP)withinferior-approachtrabeculotomy(INF)incom-binedcataract-glaucomasurgery.TheSUPgroupcomprised56eyes〔exfoliationglaucoma:41eyes;primaryopen-angleglaucoma(POAG):15eyes〕withameanageof77yearsandameanfollow-upperiodof17.5months.TheINFgroupcomprised23eyes(exfoliationglaucoma:12eyes;POAG:11eyes)withameanageof69yearsandameanfollow-upperiodof9.4months.Trabeculotomycombinedwithsinusotomywasperformedatthe12-o’clockpositioninSUPandatthe8-o’clockpositioninINF.Intraocularpressuresignicantlydecreasedto14.3±3.4mmHgfrom22.4±5.4mmHginSUPandto13.6±2.6mmHgfrom21.9±5.9mmHginINF.Transientelevationinintraocularpressurewasobservedin11SUPeyes(19.6%)and5INFeyes(21.7%),buttherewasnosignicantdierencebetweenthetwogroups.INFhadsurgicalresultsequivalenttothoseofSUP,andisusefulinpreservingsuperiorkeratoconjunctivalareasforpossiblelteringsurgeryinfuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11481152,2008〕Keywords:緑内障,トラベクロトミー,同時手術,超音波水晶体乳化吸引術,眼圧.glaucoma,trabeculotomy,combinedsurgery,phacoemulsication,intraocularpressure.1148(102)0910-1810/08/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081149(103)検討項目は,眼圧,薬剤スコア,視力,合併症,湖崎分類での視野とした.岩田8)の提唱した目標眼圧に基づき,術前のGoldmann視野で,I期(Goldmann視野では正常),Ⅱ期(孤立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ),Ⅲ期(視野欠損1/4以上)に分類し,個々の症例の最終眼圧値がそれぞれ19,16,14mmHg以下であった割合を達成率とし,その目標眼圧と視野進行について検討した.なお,Kaplan-Meier生命表法を用いた眼圧のコントロール率の検討では,規定眼圧値を2回連続して超えた時点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を追加また内眼手術を追加した時点をエンドポイントとした.II結果術前の眼圧は,上方群は22.4±5.4mmHg(n=56),下方群は21.9±5.6mmHg(n=23)で,術後1カ月から12カ月まで,両群間ともに13mmHg前後で推移し,18カ月で上方群は14.6±3.7mmHg(n=31),下方群は18.2±10.1mmHg(n=5)であった.両群ともに術前眼圧に比較して有意に下降(p<0.001)し,両群間に有意差はなかった(図1).薬剤スコアは術前において上方群が3.3±1.1点,下方群が3.4±1.3点と両群とも3点以上あったが,術後3カ月は1点以下に減少した.その後,下方群は徐々に増加する傾向がみられた.術後9,12カ月においては下方群が上方群に比べて有意に増加(p<0.05)していた.しかし,最終的に術後18カ月で上方群が0.5±1.1点,下方群が1.5±1.4点で術前の薬剤スコアを上回ることはなかった(図2).Kaplan-Meier生命表を用いた眼圧コントロール率は,20mmHg以下へは,術後2年で,上方群84.0%,下方群87.0%と両群間に有意差はみられなかった(図3).同様に,眼圧14mmHg以下へは,術後2年で,上方群40.2%,下方群39.4%と有意差はみられなかった(図4).視野狭窄にあわせた目標眼圧の達成率は,I期では両群ともに100%達成しており,Ⅱ期では,上方群77%,下方群80%であった.I対象および方法対象は,2003年1月から2006年2月までに,久留米大学病院眼科,社会保険田川病院眼科において,初回手術として,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を併用した線維柱帯切開術+サイヌソトミー(以下,LOT)を行い,術後3カ月以上経過観察が可能であった症例66例79眼で,男性41例48眼,女性25例31眼である.内訳は上方群が落屑緑内障41眼,原発開放隅角緑内障15眼の計56眼.下方群が落屑緑内障12眼,原発開放隅角緑内障11眼の計23眼であった.平均術前眼圧(平均値±標準偏差)は,上方群22.4±5.4mmHg,下方群21.9±5.6mmHgで,平均薬剤スコアは,点眼1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服2点とすると,上方群は3.3±1.1点,下方群は3.4±1.3点で有意差はなかった.平均年齢は上方群が76.6±1.5歳,下方群が68.9±8.3歳で,上方群に比べて下方群は有意に若かった(p<0.01:Mann-WhitneyのU検定).術後平均観察期間は,上方群は17.5±4.2カ月,下方群は9.4±6.9カ月と有意に下方群が短期間であった(p<0.01:Mann-WhitneyのU検定).手術は,球結膜を円蓋部基底で切開後,輪部基底で4×4mmの3分の1層の強膜外方弁を作製し,さらに同じように輪部基底で,その内方に強膜内方弁を作製,Schlemm管を同定した.その後,前切開し,Schlemm管にロトームを挿入,回転して,PEA+IOLを施行した.その後,強膜内方弁を切除し,外方弁は10-0ナイロン糸4カ所で縫合した.Schlemm管直上の強膜弁両断端を切除してサイヌソトミーを施行した.なお,上方群は,LOTをPEA+IOLと同一創で12時方向から,下方群は,LOTを8時方向から施行し,PEA+IOLは耳側角膜切開で施行した.術後は,前房内に逆流した血液がSchlemm管内壁切開部を覆い,前房流出障害を起こさないように,就寝まではできるだけ左側臥位をとらせた.図1眼圧の経過上方群下方群*********眼圧()()***図2薬剤スコア*の()**上方群下方群スコア()———————————————————————-Page31150あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(104)術後最終視力は術前と比較して2段階以上悪くなった症例は,上方群4眼(7.1%),下方群2眼(8.7%)の計6眼みられた.その原因は視野進行2眼,末期緑内障(湖崎ⅣVb)2眼,後発白内障1眼であった(図7).術後合併症は,術後7日以内に30mmHg以上の一過性眼Ⅲ期では,上方群59%,下方群100%であり,Ⅲ期に対してのみ下方群のコントロールが有意に良好であった(p<0.05).しかし全体では,上方群70%,下方群91%で両群間に有意差はなかった(表1).術前,術後最終の視野を図5に上方群,図6に下方群を示した.視野進行は,上方群3眼(5.4%),下方群3眼(13.0%)の計6眼にみられた.この6眼の視野進行はすべて1段階の進行であり,落屑緑内障,原発開放隅角緑内障の各3眼あった.このうち3眼(50%)は目標眼圧以下にコントロールされていた.表1目標眼圧と達成率時期:目標眼圧上方群眼数(%)下方群眼数(%)p値Ⅰ期:19mmHg以下3/3(100%)3/3(100%)NSⅡ期:16mmHg以下20/26(77%)8/10(80%)NSⅢ期:14mmHg以下16/27(59%)10/10(100%)p<0.05計39/56(70%)21/23(91%)NSNS:notsignicant.(Fisherexactprobabilitytest)図3KaplanMeier生命表でのコントロール率(20mmHg以下)上方群下方群コントロール率()()()の以上は図4KaplanMeier生命表でのコントロール率(14mmHg以下)上方群下方群コントロール率()()()の以上は図5視野の経過(上方群)ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb術前視野ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb:目標眼圧達成眼:目標眼圧非達成眼最終視野図6視野の経過(下方群)ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb術前視野ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb:目標眼圧達成眼:目標眼圧非達成眼最終視野図7視力の経過1.50.010.11.00.010.11.01.5HMFCFC入院時視力:上方群:下方群HM最終最視———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081151(105)下方群91%と同等であった.症例数の違いはあるが視野障害が進行した症例には線維柱帯切除術を施行する前に下方からのLOTを施行することも選択肢として考えてよい可能性がある.視野進行した6眼は上方群,下方群の各3眼であった.このうち目標眼圧に達しなかったものは上方群2眼,下方群1眼の計3眼にみられ,下方群の1眼は上方より線維柱帯切除術を追加したが特に問題なく施行できた.術後の一過性眼圧上昇は,著しく視神経萎縮が進行した症例では中心視野が消失する危険性がある.30mmHg以上の一過性の眼圧上昇について発生頻度は,下方群での報告は有水晶体眼で30.8%2)と10.5%5),偽水晶体眼においては20.0%6)であった.白内障同時手術の場合は45.5%7)であり,今回は21.7%であった.白内障手術の付加そのものが眼圧上昇の割合を大きくする要素との報告7)があり,サイヌソトミーを併用すること10)や強膜外方弁の縫合糸を5糸から2糸へと減数したことが一過性眼圧上昇の予防に寄与しているとの報告5)がある.今回はサイヌソトミーを併用していたが,縫合糸は5から4糸へと減少することで一過性眼圧上昇が予防され,2糸までを減少させることでさらに予防できる可能性がある.下方からのLOTを施行する場合の白内障同時手術は耳側角膜切開という組み合わせになる11).しかし白内障手術にて角膜切開は強角膜切開に比べ術後眼内炎の頻度が高率であるとの報告12)があり,そのため白内障同時手術を下方強膜弁同一創から行うほうがよいという考えがある7).久留米大学病院眼科では緑内障・白内障同時手術においてバイマニュアルの極小切開白内障手術(micro-incisioncataractsurgery:MICS)を導入している13).2カ所の19ゲージのVランスを用いた切開とIOLを下方強膜弁からインジェクターを用いて挿入を行えば,通常の耳側角膜切開より感染の危険性は少ないのではないかと考えられる.また術中術者の移動もなく安定して手術することが可能である.上方,下方からのアプローチについて検討したが,眼圧経過,視野経過ともに,有意差は認めなかった.LOT単独手術と同様,白内障手術を併用したLOTを行う場合,将来濾過手術をするスペースを確保するため下方で行うのはよい選択肢であると思われた.本稿の要旨は第17回日本緑内障学会で発表した.文献1)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsicationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalamicSurgLasers28:810-817,1997圧上昇を示した症例は上方群11眼(19.6%),下方群5眼(21.7%)にみられ,術後7日以上続く4mmHg以下の低眼圧は上方群にのみ2眼(3.6%)にみられた.フィブリン析出は上方群において1眼(1.8%)みられたが,数日後に消失する軽度なものであった.全例においてbloodreuxを認め,1週間以上遷延した症例はなかった.また,処置の必要なDescemet膜離や浅前房を生じた症例はなく,術後合併症の発生に有意差はみられなかった.サイヌソトミーによる濾過効果のために丈の低い平坦な濾過胞が生じるがほとんど短期間に消失して,残存している症例はなかった.なお,術中合併症はみられなかった.III考按松原ら9)の報告によれば,上方アプローチによるLOTと同一創白内障同時手術の術後成績は,視力低下につながる重篤な合併症の少ない安全な術式であり,20mmHg以下への眼圧コントロールは術後3年で94%,5年で86.8%,眼圧下降効果においても長期的に1415mmHgにコントロールされるとしている.下方からの報告は,LOTの単独手術の成績5),偽水晶体眼に対しの成績6),同一創からのLOTと白内障手術の成績7)があり,どれも上方アプローチと同様な眼圧効果の結果となっている.今回の検討においてもまず上方群は術後24カ月の眼圧は14.1±4.1mmHg(n=16),眼圧コントロール率が20mmHg以下へは84.0%,14mmHg以下へは40.2%と過去の報告と同等の手術成績であった.下方群は術後18カ月の眼圧は16.2±3.6mmHg(n=5),眼圧コントロール率が20mmHg以下へは87.0%,14mmHg以下へは39.4%という結果であり,上方群と比較して,今回の成績は過去の報告とも同等の成績であった.薬剤スコアにおいては,術前と比較して術後は両群ともに有意に減少していたが,全体的に薬剤スコアは下方群と上方群を比較して下方群の薬剤スコアが高かった.下方群は徐々に増加傾向がみられ,術後9,12カ月後では上方群と比較して下方群が有意に高かった.術後18カ月では1点前後に落ち着いて両群間に有意差はなかった.今回は白内障同時手術を施行しておりLOT単独より眼内の炎症が強く起こっている可能性がある.また落屑緑内障も多く含まれておりこれらのことがこの時期に下方隅角の線維柱帯に影響を与え下方群は薬剤スコアが高い可能性も否定はできない.しかし,下方群のほうが症例も少なく経過観察期間が短いため,今後のさらなる経過観察を待つ必要がある.視野狭窄の程度に基づいた目標眼圧の達成率は,Ⅰ期とⅡ期においては上方群と下方群は同等の結果であった.Ⅲ期(目標眼圧14mmHg以下)においては上方群59%,下方群100%と有意差がみられた(p<0.05).合計では上方群70%,———————————————————————-Page51152あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(106)らしい眼科23:673-676,20068)岩田和雄:低眼圧緑内障および開放隅角緑内障の病態と視機能障害.日眼会誌96:1501-1531,19929)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,200210)熊谷英治,寺内博夫,永田誠:TrabeculotomyとSinuso-tomy併用手術の眼圧.臨眼46:1007-1011,199211)溝口尚則:トラベクロトミー・白内障同時手術.永田誠(監):眼科マイクロサージェリー,p474-482,エルゼビア・ジャパン,200512)CooperBA,HolekampNM,BohigianGetal:Case-con-trolstudyofendophthalmitisaftercataractsurgerycom-paringscleraltunnelandclearcornealwounds.AmJOphthalmol136:300-305,200313)山川良治,原善太郎,鶴丸修士ほか:極小切開白内障手術と緑内障同時手術.臨眼60:1379-1383,20062)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:TrabeculotomyPro-spectiveStudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20003)堀暢英,山本哲也,北澤克明:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績─眼圧コントロールと視機能─.眼科手術12:15-19,19994)寺内博夫,永田誠,黒田真一郎ほか:緑内障の術後成績(Trabeculectomy+MMC・Trabeculotomy・Trabeculoto-my+Sinusotomy).眼科手術8:153-156,19955)南部裕之,尾辻剛,桑原敦子ほか:下方から行ったトラベクロトミー+サイヌストミーの成績.眼科手術15:389-391,20026)鶴丸修士,三好和,新井三樹ほか:偽水晶体眼緑内障に行った下方からの線維柱帯切開術の成績.眼臨100:859-862,20067)石井正宏,目加田篤,岡田明ほか:下方同一創からのトラベクロトミーと白内障同時手術の術後早期経過.あた***