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ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えによる長期効果

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1727《原著》あたらしい眼科27(12):1727.1730,2010cはじめに現在,プロスト系プロスタグランジン点眼薬は緑内障治療の第一選択薬である.初のプロスト系製剤であるラタノプロスト(キサラタンR,ファイザー)は10年以上の臨床使用経験を有し,効果・安全性が確立されている1).タフルプロスト(タプロスR,参天製薬)は,ラタノプロストよりFP受容体親和性が強く2),ベンザルコニウム塩化物(以下,BAC)濃度が低い.ディンプルボトルR3)によるアドヒアランス向上も期待される.両者は薬理学的に類似しているが,プロスト系プロスタグランジン製剤に対する反応には個人差を含む差異が指摘されている4).眼圧には季節変動5)があるとされるが,ラタノプロストとタフルプロストの長期経過を,季節変動を考慮してprospectiveに観察した報告はほとんどない.今回筆者らは,プロスタグランジン点眼薬単剤治療患者と他〔別刷請求先〕中野聡子:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SatokoNakano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPANラタノプロストからタフルプロストへの切り替えによる長期効果中野聡子*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学講座*2公立おがた総合病院眼科Long-TermEfficacyofTafluprostafterSwitchingfromLatanoprostSatokoNakano1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MunicipalOgataGeneralHospital緑内障・高眼圧症患者71例71眼を対象とした.ラタノプロストを1年間使用後,タフルプロストに切り替え,さらに1年間経過観察し,眼圧下降効果,安全性,使用感をprospectiveに比較した.季節変動を考慮し比較した結果,単剤治療群およびチモロール併用群の両者で,ラタノプロストとタフルプロストの眼圧下降効果は同等で,いずれも1年間にわたり有意に眼圧が下降し,視野も維持されていた.ラタノプロスト単剤治療31眼中,未治療時眼圧からの下降率が20%未満の眼圧下降不良例が11眼あったが,タフルプロスト変更後,眼圧下降不良例の割合が有意に減少した.ラタノプロストとタフルプロストの副作用として軽度の球結膜充血と角膜上皮障害があった.球結膜充血の程度はほぼ同等で,角膜上皮障害はタフルプロストでやや少ない傾向であった.点眼容器の利便性,差し心地に対する患者評価は,ラタノプロストよりタフルプロストが優れていた.Aprospectivestudywasperformedtoevaluatethelong-termefficacyandsafetyoftafluprost(TaprosR)afterswitchingfromlatanoprost(XalatanR).Subjectscomprised71eyesof71patients(21primaryopen-angleglaucoma,46normal-tensionglaucomaand4ocularhypertension)thatwetreatedwithlatanoprostfor1year,thenswichedtotafluprostfor1year.Every3monthsweevaluatedintraocularpressure(IOP),adversereactionsandfacilityofadministeringtheeyedrops.TafluprosthadahypotensiveeffectsimilartothatoflatanoprostandsignficantlydecreasedIOPatalltimepoints,ascomparedtoIOPwithoutmedication.Tafluprostwaseffectiveaswellasinlatanoprostnonresponders(IOPhaddecreasedbylessthan20%).Latanoprostandtafluproststabilizedthevisualfieldfor1year.Adverseeffectsrelatingtolatanoprostandtafluprost,suchasconjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratitis,wereobservedinafewpatients,butthefindingsweremild.Manypatientspreferredtafluprosttolatanoprostbecauseoftheeaseofadministeringtheeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1727.1730,2010〕Keywords:タフルプロスト,緑内障,眼圧,長期経過,前向き研究.tafluprost,glaucoma,intraocularpressure,long-term,prospectivestudy.1728あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(96)剤併用患者について,まずラタノプロストを1年間使用し,季節変動を含めた効果と安全性を検討した後に,タフルプロストに切り替え,さらに1年間観察し両者を比較したので報告する.I対象および方法1.対象対象は,公立おがた総合病院眼科外来にて3カ月以上ラタノプロストを使用し,アドヒアランスが良好で眼圧が安定している緑内障・高眼圧症患者71例71眼である.このうち,ラタノプロスト単剤治療群は38例38眼,チモロール(チモプトールR点眼液0.5%,参天製薬)併用群は28例28眼,チモロールとドルゾラミド(トルソプトR点眼液1%,萬有製薬)併用群は5例5眼であった.除外基準は,3年以内にレーザー治療を含む内眼手術の既往を有する症例,活動性の眼感染症,炎症性眼疾患や,眼乾燥症,角膜ヘルペスを含む角膜疾患を有する症例,コンタクトレンズ装用,角膜屈折矯正手術の既往がある症例,正確な眼圧測定を妨げる疾患を有する症例,視野に影響する他の疾患を有する症例,炭酸脱水酵素阻害薬全身投与,副腎皮質ステロイド薬投与などの眼圧に影響する薬剤使用している症例,使用薬剤にアレルギーがある症例とした.対象眼は,未治療時の眼圧が高い眼とし,同値の場合は右眼とした.試験は公立おがた総合病院の倫理規定に従い行い,対象患者には試験の内容を口頭で十分に説明し同意を得た.2.方法2008年1月に被験者を選定後,まず1年間ラタノプロストを使用し,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後に問診,眼圧測定,細隙灯顕微鏡検査を行った.タフルプロストへの変更を承諾した被験者について,2008年12月にwashout期間なしでタフルプロストに変更し,変更1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後に同様に検査を行った.他剤併用群では,併用薬は継続とした.眼圧は同一検者がGoldmann圧平眼圧計で測定し,測定時刻は午前中,症例ごとに同一時間帯とした.試験開始前とラタノプロスト継続12カ月後,タフルプロスト変更12カ月後に静的視野検査(HumphreyFieldAnalyzer,CarlZeissMeditec)中心30-2プログラムを行った.副作用について,球結膜充血の程度を4段階(なし,軽度,中等度,重度)で評価し,角膜上皮障害の程度をAD(AreaDensity)分類7)で評価した.試験終了時に容器の利便性と差し心地についてアンケート調査を行った.容器の利便性は容易に点眼瓶を把持し滴下できること,差し心地は刺激感がないことを評価基準として,優れている点眼薬を回答させた.3.検討項目単剤治療群とチモロール併用群,チモロール・ドルゾラミド併用群について,それぞれラタノプロスト点眼時の眼圧と,1年後同月のタフルプロスト変更後の眼圧をpaired-ttestで比較した.季節変動について,1カ月後,3カ月後,6カ月後,9カ月後,12カ月後の測定値をSteel-Dwass多重比較で検討した.視野について,試験開始前とラタノプロスト継続12カ月後,タフルプロスト変更12カ月後のmeandeviation(MD)値をSteel-Dwass多重比較法で比較した.続いて,単剤治療群について,平均眼圧下降率が20%未満を眼圧下降不良例8)とし,その割合をFisher’sexacttestで検討した.副作用の頻度をFisher’sexacttestで検討し,球結膜充血と角膜上皮障害の程度をWilcoxonmatched-pairssigned-ranktestで比較した.最後に,容器の利便性と差し心地をFisher’sexacttestで検討した.各統計学的手法は正規検定後に選択し,p<0.05(両側検定)を有意とした.II結果被験者71例のうち,10例が観察期間中に脱落した.脱落理由はタフルプロスト変更の承諾が得られなかったものが4例,受診自己中止が6例であった.すべての試験を完了した61例のうち,単剤治療群31例の内訳は,男性15例,女性16例,年齢74.6±10.9(平均値±標準偏差)歳,原発開放隅角緑内障(POAG)6眼,正常眼圧緑内障(NTG)22眼,高眼圧症(OH)3眼,未治療時3回の平均眼圧は17.4±3.2mmHgであった.チモロール併用群25例の内訳は,男性6例,女性19例,年齢77.0±8.0歳,POAG8眼,NTG16眼,OH1眼,未治療時眼圧は18.3±5.4mmHg,チモロール・ドルゾラミド併用群5例の内訳は,男性4例,女性1例,年齢76.8±6.5歳,POAG3眼,NTG2眼,未治療時眼圧は17.4±4.7mmHgであった.1.眼圧の年間推移a.単剤治療群ラタノプロスト点眼時は13.7±2.6mmHg(2008年1月),13.4±2.7mmHg(3月),13.0±2.5mmHg(6月),13.3±2.9mmHg(9月),13.8±2.6mmHg(12月)で,すべての測定時点で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(p<0.001).タフルプロスト変更後は13.0±2.3mmHg(2009年1月),12.7±2.9mmHg(3月),13.1±2.9mmHg(6月),13.4±2.6mmHg(9月),14.0±2.6mmHg(12月)で,同様に未治療時眼圧から有意に下降していた(p<0.001).両者の同じ月の眼圧を比較すると有意差はなく,眼圧下降効果は同等であった(図1).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.b.チモロール併用群ラタノプロスト点眼時は14.4±3.4mmHg(2008年1月),14.4±4.0mmHg(3月),14.2±4.1mmHg(6月),15.2±4.1mmHg(9月),15.0±4.9mmHg(12月)で,すべての測定(97)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101729時点で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(1,3,6月p<0.001,9,12月p<0.01).タフルプロスト変更後は14.0±3.5mmHg(2009年1月),14.5±3.5mmHg(3月),13.4±3.2mmHg(6月),14.0±3.8mmHg(9月),14.7±3.4mmHg(12月)で,同様に未治療時眼圧から有意に下降していた(p<0.001).両者の同じ月の眼圧を比較すると有意差はなく,眼圧下降効果は同等であった(図2).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.c.チモロール・ドルゾラミド併用群ラタノプロスト点眼時は13.4±3.8mmHg(2008年1月),14.0±2.8mmHg(3月),14.0±4.1mmHg(6月),14.6±3.9mmHg(9月),14.6±3.8mmHg(12月)で,6,9,12月で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(9月p<0.05,6,12月p<0.01).タフルプロスト変更後は12.4±4.3mmHg(2009年1月),12.6±4.3mmHg(3月),11.4±4.3mmHg(6月),13.4±6.3mmHg(9月),11.6±3.4mmHg(12月)で,3,6,12月で未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していた(p<0.05).両者の同じ月の眼圧を比較すると,6月のみタフルプロストで有意に眼圧が低値であった(p<0.01)(図3).ラタノプロスト点眼時,タフルプロスト変更後とも季節変動は有意でなかった.2.視野単剤治療群の試験開始前MD値は.4.79±4.48dB,ラタノプロスト継続12カ月後.5.05±4.69dB,タフルプロスト変更12カ月後.4.39±4.46dBと有意な変化はなかった.同様に,チモロール併用群の試験開始前MD値は.7.93±6.47dB,ラタノプロスト継続12カ月後.7.66±5.94dB,タフルプロスト変更12カ月後.8.35±7.55dB,チモロール・ドルゾラミド併用群の試験開始前MD値は.11.60±10.28dB,ラタノプロスト継続12カ月後.11.42±10.14dB,タフルプロスト変更12カ月後.11.87±10.52dBと有意な変化はなかった.3.ラタノプロスト眼圧下降不良例単剤治療群31眼中,ラタノプロスト眼圧下降不良例は11眼(35.4%)あった.このうち4眼でタフルプロスト変更後20%以上の眼圧下降が得られ,眼圧下降不良例の割合が有意に減少した(p<0.05).逆に,タフルプロスト眼圧下降不良例は8眼(25.8%)あり,このうち1例はラタノプロストのほうが眼圧が低値であった.4.副作用単剤治療群31眼中,球結膜充血の頻度はラタノプロスト8眼(25.8%),タフルプロスト7眼(22.6%),程度はラタノプロスト0.4±0.8点,タフルプロスト0.4±0.7点といずれも有意差はなかった.角膜上皮障害の頻度はラタノプロスト6眼(19.4%),タフルプロスト2眼(6.5%)で,程度は密度・範囲ともラタノプロスト0.2±0.4点,タフルプロスト0.1±0.2点といずれも有意差はなかったが,タフルプロストで軽度の傾向にあった.副作用による投与中止例はなかった.5.使用感全患者61例中,点眼容器の利便性が良いとした点眼はラ2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNSNSNSNS図2眼圧の年間推移(チモロール併用群)(paired-ttestNS:Statisticallynotsignificant,n=25)2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNSNSNSNS図1眼圧の年間推移(単剤治療群)(paired-ttestNS:Statisticallynotsignificant,n=31)2520151050:ラタノプロスト(2008年1月~12月):タフルプロスト(2009年1月~12月)眼圧(mmHg)1月3月6月9月12月NSNS**NSNS図3眼圧の年間推移(チモロール・ドルゾラミド併用群)(paired-ttest**:p<0.01,NS:Statisticallynotsignificant,n=5)1730あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(98)タノプロストが1.6%,タフルプロストが23.0%で,両者を比較するとタフルプロスト選択患者が多かった(p<0.001).差し心地が良いとした点眼はラタノプロストが3.3%,タフルプロストが11.5%で,タフルプロスト選択患者が多かった(p<0.05).他の患者は両者は同等に良いと評価した.III考按点眼薬切り替え試験では,被験者選定でアドヒアランスが向上し,薬効が過大評価されるHawthorne効果6)が生じるとされる.Swichback試験が有用であるが,眼圧の季節変動5)に注意を要する.今回筆者らはこれらを考慮し,被験者を選定後,1年間ラタノプロストを使用し季節変動を含めた経過観察を行った後にタフルプロストに変更し,同様に1年間経過観察を行った.単剤治療群において,ラタノプロストとタフルプロストはいずれも,1年間有意に眼圧が下降し,視野も維持されていたことから,両者は同等の効果をもつ有用な薬剤と考えられる.近年,各種プロスト系プロスタグランジン点眼薬とチモロールとの合剤が発売されている.今回のチモロール2回点眼併用群の検討では,ラタノプロストとタフルプロストいずれとの併用でも効果は同等であった.チモロール・トルソプト併用群では症例数は少ないが,未治療時眼圧から有意に眼圧が下降していない月もあり,3剤併用が必要となる症例では手術を含めた他の治療を考慮する必要があると考えられる.今回の検討では有意な季節変動はなかったが,既報5)と同様,冬季にやや高値となる傾向にあった.ラタノプロスト眼圧下降不良例で,薬理学的に類似するタフルプロスト変更後に眼圧が下降した.これはタフルプロストのFP受容体親和性の強さやディンプルボトルRによるアドヒアランス向上の影響と考えられる.しかし,タフルプロストの球結膜充血は,FP受容体親和性が強いにもかかわらずラタノプロストと同等であった.プロスト系製剤間の切り替え時は充血が目立たないとされるが,眼圧下降不良例への反応と考え合わせると,両者の薬理学的機序に微妙な差がある可能性もある.プロスト系プロスタグランジン(PG)点眼薬はおもにFP受容体を介して作用する9)が,ほかにPGD210)やPGE211)による作用や,matrixmetalloproteinase活性化による房水流出抵抗低下が関与12)する可能性が指摘されており,点眼薬間の反応の差は,各経路に対する反応の複雑なバランスに起因する可能性も考えられる.角膜上皮障害については,有意差はないもののタフルプロストで軽度であった.これはタフルプロストのBACや基剤の濃度が低いことが影響していると考えられる.2010年からタフルプロストのBAC濃度はさらに低減されており,さらなる安全性の向上が期待できる.わが国の緑内障の有病率は高く,ほとんどが慢性に経過することから,使用感の良さはアドヒアランスを向上させる重要な因子である13).対象者に高齢者が多く積極的にいずれかの点眼を選択する症例は少なかったが,選択した患者のなかでは点眼容器の利便性,差し心地のいずれもタフルプロストの評価が高かった.以上から,特にラタノプロスト眼圧下降不良例で,タフルプロスト切り替えを試みる価値があると考えられる.ただし,タフルプロスト眼圧下降不良例の存在には注意を要すると考えられた.文献1)北澤克明,ラタノプロスト共同試験グループ:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20062)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20074)YildirimN,SahinA,GultekinS:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostoncircadianvariationofintraocularpressureinpatientswithopen-angleglaucoma.JGlaucoma17:36-39,20085)KleinBE,KleinR,LintonKL:IntraocularpressureinanAmericancommunity.TheBeaverDamEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci33:2224-2228,19926)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,19787)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19948)DuBinerHB,MrozM,ShapiroAMetal:Acomparisonoftheefficacyandtolerabilityofbrimonidineandlatanoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension:athree-month,multicenter,randomized,doublemasked,parallel-grouptrial.ClinTher23:1969-1983,20019)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,200510)WoodwardDF,HawleySB,WilliamsLSetal:StudiesontheocularpharmacologyofprostaglandinD2.InvestOphthalmolVisSci31:138-146,199011)WangRF,LeePY,MittagTWetal:Effectof8-isoprostaglandinE2onaqueoushumordynamicsinmonkeys.ArchOphthalmol116:1213-1216,199812)OhDJ,MartinJL,WilliamsAJetal:Analysisofexpressionofmatrixmetalloproteinasesandtissueinhibitorsofmetalloproteinasesinhumanciliarybodyafterlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci47:953-963,200613)KosokoO,QuigleyHA,VitaleSetal:Riskfactorsfornoncompliancewithglaucomafollow-upvisitsinaresidents’eyeclinic.Ophthalmology105:2105-2111,1998

2 剤併用投与をタフルプロスト単独投与に変更した場合の眼圧下降効果

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(91)1573《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1573.1575,2010cはじめに2008年12月,緑内障および高眼圧症治療薬剤として新しいプロスタグランジン(PG)F2a誘導体であるタフルプロスト(タプロスR)0.0015%が参天製薬より発売された.タフルプロストはプロスト系PG製剤であり,プロスタノイドFP受容体に高い親和性をもつため強力な眼圧下降効果が期待できる点眼液である.また,他のプロスト系PG製剤と違い,わが国で初めて創製されたプロスト系PG製剤である.既存のPGF2a誘導体1剤とタフルプロストとの眼圧下降効果の比較はなされているが,2剤併用とタフルプロスト1剤単独使用の眼圧下降効果の評価はあまりなされていない.今回,筆者らは既存のプロスト系PG製剤,つまり,ラタノプロスト(キサラタンR:ファイザー社製)もしくはトラボプロスト(トラバタンズR:日本アルコン社製)とブリンゾラミド(エイゾプトR:日本アルコン社製)との2剤併用点眼していた症例をタフルプロストの単独投与に変更した場合の眼圧下降効果を比較検討した.I対象および方法対象は当院において既存のプロスト系PG製剤とブリンゾ〔別刷請求先〕小林茂樹:〒981-0913仙台市青葉区昭和町1-28小林眼科医院Reprintrequests:ShigekiKobayashi,M.D.,KobayashiEyeClinic,1-28Showamachi,Aoba-ku,Sendai981-0913,JAPAN2剤併用投与をタフルプロスト単独投与に変更した場合の眼圧下降効果小林茂樹小林守治小林眼科医院IntraocularPressure-ReducingEffectsofShiftfromProstaglandinFormulation-BrinzolamideCombinationtoTafluprostMonotherapyShigekiKobayashiandMoriharuKobayashiKobayashiEyeClinic目的:既存のプロスタグランジン(PG)製剤と新しく開発されたタフルプロストとの比較はなされているが,2剤併用点眼とタフルプロスト単独点眼との比較検討はあまりなされていない.今回,PG製剤とブリンゾラミドの2剤を併用点眼していた症例をタフルプロストの単独点眼に変更した場合の眼圧下降効果を比較検討した.対象および方法:対象は2剤併用していた広義の開放隅角緑内障および高眼圧症の症例23例42眼.方法は2剤併用点眼時とタフルプロスト単独点眼変更後の眼圧を比較し,解析には受診時眼圧の平均値を用いた.結果:2剤併用点眼時の平均眼圧は10.9mmHg,タフルプロスト単独点眼後の平均眼圧は11.3mmHg(p=0.0013)であった.変更前と比較して眼圧が不変であったのは32眼(76%)であった.結論:タフルプロストの単独投与に変更後も眼圧は維持され,点眼の簡便性においても好評であった.Purpose:Toinvestigatetheintraocularpressure(IOP)-reducingeffectsofshiftingfromprostaglandinformulation-brinzolamidecombination(combinationtherapy)totafluprostmonotherapy.Subjects:Subjectscomprised23patients(42eyes)thathadbeenreceivingthecombinationtherapy.Methods:MeanIOPonreceivingthecombinationtherapywascomparedwiththataftershiftingtotafluprostmonotherapy.Results:IOPdidnotchangein32eyes(76%),demonstratingtheeffectivenessoftafluprostmonotherapy.Conclusions:IOPdidnotchange,andinstillationconveniencewasgood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1573.1575,2010〕Keywords:緑内障,タフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト,ブリンゾラミド.glaucoma,tafluprost,latanoprost,travoprost,brinzolamide.1574あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(92)ラミドの2剤併用した正常眼圧緑内障(NTG)15例28眼,原発開放隅角緑内障(POAG)6例11眼および高眼圧症2例3眼,合計23例42眼(男性13例23眼,女性10例19眼)であり,年齢は76.0±9.7歳であった.3例5眼は当院初診時より人工水晶体眼であったが,その他の対象症例すべてに内眼手術の既往はなく,特に全例において,緑内障手術の既往はなかった.対象である患者には今回,タフルプロスト単独投与に変更することに対する意義を十分に説明し,インフォームド・コンセントを得たが従来の2剤併用点眼治療を要望した症例は対象症例より除外した.方法は外来受診時眼圧をノンコンタクトレンズトノメーターで3回測定し,その平均値を受診時眼圧値とし,解析には,各治療期間中に得られたすべての外来受診時眼圧の平均値を用いた.II結果対象症例のうち1症例2眼がタフルプロスト単独点眼に変更後,眼圧が1カ月で2mmHg以上,上昇した.この症例に関してはブリンゾラミドを追加投与し,経過観察としたため対象症例より除外した.既存のプロスト系PG製剤とブリンゾラミドの2剤併用点眼していた治療期間は1.9±1.0年間(平均値±標準偏差)であり,タフルプロスト単独点眼投与に変更してからの治療期間は4.2±1.2カ月間(平均値±標準偏差)であった.既存のプロスト系PG製剤とブリンゾラミドの2剤の併用点眼時の平均眼圧は10.9mmHg,タフルプロスト単独点眼後の平均眼圧は11.3mmHgと有意に0.4mmHgの上昇を認めた(p=0.0013,Wilcoxon符号付順位検定).しかし,変更前と比較して,変更後1mmHg以内の眼圧変動を臨床的に不変と定義すると,32眼(76%)の変更後の眼圧は不変であり,1mmHgを超えた眼数は10眼(24%)であった(図1).変更前眼圧が12mmHg以上の症例11眼は図1上,変更後,眼圧が下降傾向にあるが,変更前平均眼圧は13.5mmHg,変更後平均眼圧13.7mmHgと有意な差を認めなかった(p>0.62,Wilcoxonの符号付順位検定).眼圧は変更前,変更後において同等と考えられる.III考按プロスト系PG製剤として1999年,ラタノプロスト(キサラタンR)が発売された.ラタノプロストはPGF2aの17位にフェニル基を導入した誘導体を開発することで,PGのプロスタノイドFP受容体への選択性が向上し,房水のぶどう膜強膜流出のみを増加させ眼圧下降を示す1).もともとPGF2aの骨格である15位の水酸基は眼圧下降などのPGF2aの生理活性に必須であると考えられていたため2),その後,開発されたトラボプロスト(トラバタンズR)も基本骨格はラタノプロストと同様であり,17位にフェニル基,15位に水酸基をもつ15位ヒドロキシ型PG誘導体である.今回,開発されたタフルプロストは従来開発されたプロスト系PG製剤と異なり,PGF2aの骨格である15位の水酸基と水素基を2つのフッ素に置換した15位ジフルオロ型PG誘導体であるため,従来のプロスト系PG製剤よりもプロスタノイドFP受容体に対する親和性が高まったと考える3,4)(図2a.d).特に実験的にはプロスタノイドFP受容体に対する親和性はタフルプロストとラタノプロストを比較すると,タフルプロストはラタノプロストの12倍4),トラボプロストとラタノプロストを比較すると,トラボプロストの親和性はラタノプロストの2.8倍であると推定されるため3),現在発売されているプロスト系PG製剤のプロスタノイドFP受容体に対すHOHOOOOFFd:タフルプロストHOHOa:天然型PGF2ab:ラタノプロストc:トラボプロストHOHOOOHH10155120HOOOHOHHOHOCF3OOOHOH図2天然型PGF2aおよび既存のプロスト系製剤とタフルプロストの構造46810121416184681012141618変更後眼圧(mmHg)変更前眼圧(mmHg)a517b図12剤併用時(変更前)とタフルプロスト単独点眼に変更後の眼圧変化a:変更前眼圧と変更後眼圧が同値であるライン.b:変更後1mmHgの眼圧上昇ライン.bの対角線以下の変更後眼圧値を変更前と比較して不変と考えると32眼(76%)の眼圧は不変であり,眼圧値が変更後1mmHgを超えた眼数は10眼(24%)であった.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101575る親和性はタフルプロスト>トラボプロスト>ラタノプロストの順と考えられ5),眼圧下降効果と相関があると思われる.今回,筆者らはこのタフルプロストの強力な眼圧下降効果を期待し,プロスト系PG製剤であるラタノプロストもしくはトラボプロストとブリンゾラミドの2剤併用していた症例をタフルプロスト1剤のみに変更し,眼圧下降効果を比較検討した.その結果,2剤併用時より平均0.4mmHgと有意に眼圧上昇を認めたが,1mmHg以内の眼圧上昇であり,変更前後の眼圧は不変と考えられる.しかし,変更前眼圧測定期間は変更後の眼圧測定期間に比べ長期であり,今後,変更後の眼圧測定を継続することは重要と思われる.これらのタフルプロストの眼圧下降効果の有効性は他のプロスト系PG製剤とは違う物理化学的,薬理学的特性によるものと思われる.つまり,タフルプロストのフッ素導入の効果はプロスタノイドFP受容体以外にほとんど作用しない高い選択性4)により活性が増強され,フッ素の物理化学的特性により生体内でも化学的においても代謝,分解は非常に受けにくく,薬剤としての安定性に優れている.その物理化学的メカニズムは以下の3つの特性によると考えられる6)(図3).1)フッ素(F)原子は立体的に水素(H)原子についで小さい原子である.2)フッ素(F)原子は電気陰性度が最も大きく,次が酸素(O)原子であり,しかも両原子は結合距離がきわめて近い.3)フッ素(F)原子は結合解離エネルギーが最も大きく,炭素,フッ素(C-F)結合は非常に切れにくいが,炭素,酸素(C-O)結合は切れ易い.つまり,切れ易いということは代謝を含め反応を受け易いと考えられる.したがって,フッ素は水素のように作用し,酸素のようにも作用する.前述したようにタフルプロストはPGF2aの骨格である15位の水酸基と水素基を2つのフッ素に置換したことで,タフルプロストが他のプロスト系PG製剤よりも活性,安定性,薬物動態が優れていると推定される.タフルプロスト点眼液は1日1回の点眼投与で十分であるだけでなく室温保存が可能であり,遮光の必要もないことからタフルプロスト単独点眼投与変更後の患者の評価は23症例全例で点眼の簡便性において好評であった.このように点眼遵守(コンプライアンス)や自発的点眼(アドヒアランス)7)においてもタフルプロスト単独点眼投与の有効性が示唆された.IV結論タフルプロストの単独投与に変更後も眼圧は維持され,また,点眼の簡便性においても好評であったことから,タフルプロストは既存のPG製剤とブリンゾラミド併用療法からの変更薬剤として有用であると思われる.なお,当院と参天製薬株式会社との間に利益相反の関係はない.文献1)野村俊治,橋本宗弘:新規緑内障治療薬ラタノプロスト(キサラタンR)の薬理作用.薬理誌115:280-286,20002)ResulB,StjernschantzJ:Structure-activityrelationshipsofprostaglandinanaloguesasocularhypotensiveagents.CurrOpinTherPat82:781-795,19933)SherifNA,KellyCR,CriderJYetal:OcularhypotensiveFPprostaglandin(PG)analogs:PGreceptorsubtypebindingaffinitiesandselectivities,andagonistpotenciesatFPandotherPGreceptorsinculturedcells.JOculPharmacolTher19:501-515,20034)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20045)OtaT,MurataH,SugimotoEetal:Prostaglandinanaloguesandmouseintraocularpressure:Effectsoftafluprost,latanoprost,travoprost,andunoprostone,considering24-hourvariation.InvestOphthalmolVisSci46:2006-2011,20056)熊懐稜丸:フッ素の特性と生理活性.フッ素薬学─基礎と実験─(小林義郎,熊懐稜丸,田口武夫),続医薬品の開発・臨時増刊,p7-11,廣川書店,19937)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,2006***元素(X)HFOC電気陰性度2.24.03.52.5結合距離(CH3-X,Å)1.091.391.431.54v.d.Waals(半径,Å)1.201.351.401.85abc結合解離エネルギー(CH3-X,kcal/mol)991168683図3フッ素の物理化学的特性(文献6より一部改変)a:フッ素(F)は電気陰性度が最も大きく,つぎが酸素(O)であり,結合距離も近い.b:フッ素(F)は立体的には水素(H)についで小さな原子である.c:フッ素(F)は結合解離エネルギーが最も大きく,C-F結合は非常に切れにくいがC-O結合は切れやすい(反応を受け易い).

小乳頭眼における網膜神経線維層厚と視野障害の相関

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1439《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1439.1443,2010cはじめに日本人においては開放隅角緑内障の約90%が正常眼圧緑内障であり1),その早期発見にはこれまでの眼圧測定に代わって視神経乳頭や乳頭周囲網膜を中心とした眼底検査が重要である.しかし小乳頭や視神経乳頭低形成では,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない.一方近年,眼底画像診断装置の発展は著しく,緑内障領域においても視神経乳頭形状や網膜神経線維層の定量的,客観的な測定が可能になってきている.代表的なものとして走査レーザーポラリメーター(LaserDiagnosticTechnologies,SanDiego,CA,USA,以下GDxVCC)や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),共焦点走査レーザー眼底鏡(Heidelbergretinatomography:HRT)などがあり,緑内障診療における有用性が多数報告されている2~4).そこで今回はGDxVCCを用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけ〔別刷請求先〕高橋浩子:〒285-8765佐倉市江原台2-36-2聖隷佐倉市民病院眼科Reprintrequests:HirokoTakahashi,M.D.,SeireiSakuraCitizenHospital,2-36-2Eharadai,Sakura-shi,Chiba285-8765,JAPAN小乳頭眼における網膜神経線維層厚と視野障害の相関高橋浩子*1藤本尚也*2渡辺絵美*1田中梨詠子*1今井哲也*1山本修一*3*1聖隷佐倉市民病院眼科*2井上記念病院眼科*3千葉大学大学院医学研究院眼科学CorrelationbetweenRetinalNerveFiberLayerThicknessandVisualFieldLossinEyeswithSmallOpticDiscHirokoTakahashi1),NaoyaFujimoto2),EmiWatanabe1),RiekoTanaka1),TetsuyaImai1)andShuichiYamamoto3)1)DepartmentofOphthalmology,SeireiSakuraCitizenHospital,DepartmentofOphthalmology,2)InoueMemorialHospital,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine走査レーザーポラリメーター(GDxVCC)を用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけるその有用性を検討した.対象は緑内障精査を施行した小乳頭眼23例23眼.GDxVCCの乳頭周囲リング上のRNFLTの平均(TSNIT平均),その標準偏差(TSNIT標準偏差),nervefiberindicator(NFI)とHumphrey自動視野計中心30-2のmeandeviation(MD)値とpatternstandarddeviation(PSD)値との相関を検討した.またRNFLTの上・下の平均値と下・上半視野平均閾値との相関も解析した.TSNIT平均とMD値(r=0.441,p=0.035),PSD値(r=.0.606,p=0.0021)はそれぞれ有意な相関を示した.NFIとMD値,PSD値,および上・下RNFLT平均値と対応する半視野平均閾値も相関を認めた.23例中8例を原発開放隅角緑内障と診断した.RNFLT測定は眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において緑内障の診断・鑑別に補助的な判断情報となりうることが示唆された.WeusedGDxVCCtoinvestigatethecorrelationbetweenretinalnervefiberlayerthickness(RNFLT)andvisualfieldlossin23patients(23eyes)withsmallopticdisc.ThefollowingRNFLTparametersweremeasuredandevaluated:TSNITaverage,TSNITstandarddeviation,nervefiberindicator(NFI),superioraverageandinferioraverage.UsingPearson’scorrelationcoefficientstest,westudiedthecorrelationbetweenGDxparametersandmeandeviation(MD),andthepatternstandarddeviation(PSD)oftheHumphrey30-2program.Wealsostudiedthecorrelationbetweensuperioraverageandlowervisualfields,andbetweeninferioraverageanduppervisualfields.AllexceptTSNITstandarddeviation,MDandPSDshowedsignificantcorrelation.Ofthe23eyeswithsmallopticdisc,glaucomawasdiagnosedin8eyesbyGDxVCC.RNFLTmeasurementsobtainedbyGDxVCCmightbeusefulfordiagnosingglaucomainpatientswithsmallopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1439.1443,2010〕Keywords:GDxVCC,網膜神経線維層厚,小乳頭,緑内障,診断.GDxVCC,retinalnervefiberlayerthickness(RNFLT),smallopticdisc,glaucoma,diagnosis.1440あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(118)る有用性を検討した.I対象および方法1.対象2006年9月から2009年6月に聖隷佐倉市民病院眼科で緑内障精査を施行した症例のなかで小乳頭を有した23例23眼(男性15例,女性8例)を対象とした.年齢は41~87歳(平均62.7歳),等価球面度数は.12Dから+2.5D(平均.4.8D)であった.視神経乳頭径に対する視神経乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離の比(distancebetweenthecentersofthediscandthemacula/discdiameter:DM/DD比)をとり,DM/DD比が3.0以上を小乳頭と診断した5).DM/DD比の計測は散瞳下眼底撮影で得られた眼底写真をもとに算出した.対象23眼のDM/DD比の平均値は3.69±0.39(3.18~4.57)であった.内眼手術の既往,他の網膜疾患を有するものは除外した.緑内障の診断は緑内障診療ガイドライン6)に準じ,正常開放隅角かつ視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性形態的変化を有し,それに対応した視野異常(Anderson基準)を伴う症例のうち他の疾患や先天異常を認めないものを原発開放隅角緑内障(広義)とした.また本研究ではGDxVCCによる網膜神経線維層厚の菲薄化を網膜神経線維層の障害とみなした.視神経乳頭所見と網膜神経線維層に特徴的な変化を有するものの,それに対応した視野欠損が認められない症例を緑内障疑いとした.上部視神経低形成(SSOH)は,上方乳頭辺縁部の菲薄化および上方網膜神経線維層欠損とそれに対応した下方視野欠損を呈する場合に診断した.鼻側視神経低形成は鼻側乳頭辺縁部および鼻側RNFLTの菲薄化とそれに対応した耳側視野欠損を呈する場合に診断した.傾斜乳頭は,乳頭の耳側および下方に傾斜がみられ,明らかな網膜神経線維層の菲薄化なしに上方に視野異常をきたした場合に診断した.2.方法GDxVCC,Humphrey自動視野計(HFA),散瞳下眼底撮影のすべての検査を6カ月以内に行った.GDxVCCの測定は,2人の検者が無散瞳下に直径3.2mmの乳頭周囲リング部のRNFLTを測定した,付属のソフトウェア(version5.5.0)にて測定スコア7以上のデータを採用し,標準的なパラメータであるTSNITaverage(乳頭周囲リング上のRNFLTの平均:以下TSNIT平均),superioraverage(上側120°象限内のRNFLTの平均),inferioraverage(下側120°象限内のRNFLTの平均),TSNITStd.Dev.(TSNIT平均の標準偏差),nervefiberindicator(NFI)を解析した.視野検査はHFA中心閾値30-2SITA-Standardを行い,視野指標のMD値,PSD値を解析対象とした.固視不良,偽陰性・偽陽性20%未満を採用した.各測定点の閾値を上下に分けてそれぞれの測定ポイントの合計を算出し,その合計値を測定ポイント(上下ともに38ポイント)で割った値をそれぞれ上半視野平均閾値,下半視野平均閾値として解析した.両眼のうち検査結果の信頼性の高いほうを解析対象とした.GDxVCCによるTSNIT平均とHFAのMD値,PSD値とのそれぞれの相関,TSNITStd.Dev.,NFIとHFAのMD,PSDとの相関,GDxVCCでのsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関,GDxVCCのinferioraverageとHFAによる上半視野平均閾値との相関解析をそれぞれ行った.相関解析には,Pearsonの相関係数を求め危険率5%未満を統計学的有意とした.表1GDxVCC測定値とHFA測定値の相関(n=23)rpTSNIT平均vsMD値0.4410.035TSNIT平均vsPSD値.0.6060.0021NFIvsMD値.0.4890.018NFIvsPSD値0.5520.063Superioraveragevs下半視野平均閾値0.5610.0053Inferioraveragevs上半視野平均閾値0.4760.021TSNITStdDevvsMD値0.1370.53TSNITStdDevvsPSD値0.1830.40GDxTSNIT平均(μm)GDxTSNIT平均(μm)MD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520806040200806040200図1GDxTSNIT平均とHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxTSNIT平均とHFAMD値は有意の相関が認められた(r=0.441,p=0.035).b:GDxTSNIT平均とHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=.0.606,p=0.0021).(119)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101441II結果表1および図1~3に示すように,TSNIT平均とMD値の間,TSNIT平均とPSD値との間(図1a,b),NFIとMD値の間,NFIとPSD値の間(図2a,b),superioraverageと下半視野平均閾値の間,inferioraverageと上半視野平均閾値の間(図3a,b)にそれぞれ有意な相関を認めた.TSNITStd.Dev.とMD値,PSD値の間には相関を認めなかった.前述の診断基準に従って23例のうち,8例が開放隅角緑内障(広義)(図4),2例が緑内障疑い,2例がSSOH,1例が鼻側視神経低形成,4例が傾斜乳頭と診断された.その他の6例は高眼圧症1例,明らかな緑内障性視野変化を認めなかった3例,視野異常を認めるものの確定診断には至らなかった2例であった.III考按緑内障眼においては,HFAのMD値,PSD値とGDxVCCのすべてのパラメータで統計学的に有意な相関を示すことがすでに報告されている2,3).今回,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない小乳頭眼を対象に,GDxVCCの各パラメータと視野障害の相関を検討した結果,TSNIT平均およびNFIとHFAのMD値,PSD値の間で緑内障眼と同様に有意な相関が認められた.また徳田ら4)はGDxVCCとspectraldomainOCTによるRNFLTの解析の際に上下視野別の相関についても検討し,GDxVCCにおいてはsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関がinferioraverageと上半視野平均閾値との相関に比べより有意であったとしている.その理由の一つとして乳頭周囲脈絡膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)の存在をあげている.GDxVCCによるRNFLTの測定において,近視型乳頭では乳頭周囲リングがPPAにかかることがあり,この場合非典型的複屈折パターン(atypicalretardationpattern:ARP)が起こり,RNFLTの測定値が不正確になる可能性がある.このPPAは耳側,下耳側に高頻度で観察される7)ためinferioraverageと上半視野平均閾値との相関結果に影響した可能性があるとしている.今回の症例においても23例中7例で乳頭周囲リングがPPAにかかっていたためARPを認め,また上下RNFLTと視野との相関ではsuperioraverageとHFAの下半視野閾値のほうがより高い相関を示した.視神経低形成には,乳頭全体の低形成である小乳頭と部分低形成が知られている.一般に小乳頭は陥凹も小さく緑内障GDxNFIGDxNFIMD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520120100806040200120100806040200図2GDxNFIとHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxNFIとHFAMD値は有意の相関が認められた(r=.0.489,p=0.018).b:GDxNFIとHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=0.552,p=0.0063).GDxSuperioraverage(μm)GDxInferioraverage(μm)HFA下半視野平均閾値(dB)HFA上半視野平均閾値(dB)ab0510152025303505101520253035100806040200100806040200図3半視野における相関(n=23)a:GDxSuperioraverageとHFA下半視野平均閾値の相関(r=0.561,p=0.0053).b:GDxInferioraverageとHFA上半視野平均閾値の相関(r=0.476,p=0.021).1442あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(120)性の特徴的な所見がわかりにくく,乳頭変化が軽度に見えても広範な視野異常を伴っていることも多い.また,部分低形成には上方の視神経の低形成であるSSOHや鼻側視神経低形成などがあるが,これら低形成による視野異常と緑内障との鑑別は必ずしも容易ではなく,診断に苦慮することも多い8).Unokiら9)や高田ら10)は視神経低形成の診断においてOCTによるRNFLTの測定がその診断に非常に有用であったと報告している.今回対象となった小乳頭23例のうち診断を確定できた症例は開放隅角緑内障(広義)が8例,緑内障疑いが2例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例,傾斜乳頭4例であった.これら診断のついた13例のうち,緑内障3例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例の計6例では,乳頭所見が軽微であったり豹紋状眼底で網膜神経線維層欠損がわかりにくいなどで眼底所見とそれに対応する視野検査結果の同定が困難であったが,GDxVCCでは視野障害と一致するRNFLTの菲薄化を認めており,その測定結果が診断に特に有用であったといえる.Mederiosらは緑内障眼における画像解析の精度と乳頭サイズの影響を検討した結果,OCT,GDxVCCは乳頭解析のHRTに比し,小乳頭ほどその精度が向上し初期緑内障異常検出が優れていたとしている11).今回示した症例(図4)でもごく早期の緑内障性視野障害と一致するRNFLTの菲薄化をGDxVCCで認めた.また,今回の対象群では明らかな視野障害を認めない,またはごく軽度な視野障害のみを認める症例も含まれているが,網膜神経線維層と有意な相関を認めており,GDxVCCがRNFLTの軽微な変化を検出しえた可能性も考えられる.今回筆者らはRNFLTの計測にGDxVCCを用いたが,緑内障眼においてOCT,GDxVCC,HRTによるRNFLT測定値とMD値の相関を比較検討した結果,OCT,GDxVCC,HRTの順に有意な相関を示したとした報告もあり3),近年ではOCTによるRNFLTの計測が一般化してきている.しかしながら,何らかの理由でOCTによる測定が困難な環境下においてはGDxVCCによるRNFLTの計測結果も小乳頭眼における緑内障の補助診断の一助になりうると考えられた.以上,小乳頭眼におけるRNFLTと視野障害の相関を検討した結果,緑内障眼と同様にRNFLTと視野は有意に相関した.眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において,緑内障やSSOHなどを含む視神経低形成の診断・鑑別の際,網膜神経線維層厚測定は補助的な判断情報となりうることが示唆された.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpriabdecf図4症例:70歳,男性,右眼DM/DD比が3.3の小乳頭であり(a,d),乳頭陥凹は垂直C/D0.6で乳頭耳側下方の辺縁部の菲薄化がみられる.HFA(b,e)では鼻側に3点以上連続した暗点,GDx(c,f)で下耳側に網膜神経線維層厚の菲薄化がみられ緑内障と診断した.(121)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101443maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)今野伸介,西谷直子,大塚賢二:緑内障眼における視野障害と新しいGDxAccessVCCによる網膜神経線維層厚の関係.眼臨98:276-278,20043)早水扶公子,山崎芳夫,中神尚子ほか:緑内障眼における網膜神経線維層厚測定値と緑内障性視神経障害との相関.あたらしい眼科23:791-795,20064)徳田直人,井上順,上野聰樹:GDxVCCRとCirrusHD-OCTRによる網膜神経線維層厚の解析─上下視野別の相関について─.あたらしい眼科26:961-965,20095)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thediscmaculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmol65:612-617,19876)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)大久保真司:乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)と脈絡膜萎縮の違いと意味は?あたらしい眼科25:84-86,20088)藤本尚也:読影シリーズIVまぎらわしい例その1Discのアノマリーを伴う例.FrontiersinGlaucoma10:59-64,20099)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,200210)高田祥平,新田耕治,棚橋俊郎ほか:Superiorsegmentaloptichypoplasiaを含む視神経低形成の2家系.日眼会誌113:664-672,200911)MedeirosFA,ZangwillLM,BowdCetal:Influenceofdiseaseseverityandopticdiscsizeonthediagnosticperformanceofimaginginstrumentsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci47:1008-1015,2006***

緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)1435《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1435.1438,2010c緑内障患者に対する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼回数が及ぼす眼圧の検討大槻智宏*1森田哲也*1庄司信行*1,2冨岡敏也*3有本あこ*4原直人*4鈴木宏昌*5清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3日立横浜病院眼科*4神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*5社会保険相模野病院眼科IntraocularPressure-loweringEffectsofTopicalCarbonicAnhydraseInhibitorsinGlaucomaTomohiroOtsuki1),TetsuyaMorita1),NobuyukiShoji1,2),ToshiyaTomioka3),AkoArimoto4),NaotoHara4),HiromasaSuzuki5)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences,3)DepartmentofOphthalmology,HitachiYokohamaHopspital,4)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaClinic,5)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)であるブリンゾラミドとドルゾラミドでは推奨される点眼回数が異なるため日中眼圧変動を測定し,眼圧下降効果の維持の違いについて前向き研究を行った.ブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している緑内障患者18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.変更前とドルゾラミド点眼(1日3回)に変更後2カ月目に眼圧を測定した(9時,12時,15時).両点眼とも朝7時に点眼し,ドルゾラミドの昼の点眼は13時とした.そして,各測定時間における眼圧および,12時から15時にかけての眼圧変動を両点眼で比較した.各測定時間において,両点眼薬で眼圧に有意差はなかったが,12時と15時の眼圧の変動幅を比較すると,ブリンゾラミドでは0.7±2.2mmHg上昇したのに対して,ドルゾラミドでは.0.3±1.6mmHgと低下しており,統計学的に有意に眼圧低下を認めた(p=0.02,対応のあるt検定).CAI2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼についてみると,1日3回点眼に変更し昼の点眼を追加したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.CAI患者の日中の眼圧が高い場合は,昼の点眼を追加したほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性が示唆された.Purpose:Tocompareintraocularpressure-loweringeffectbetweentwocarbonicanhydraseinhibitors,brinzolamideanddorzolamide,inpatientswithglaucoma.Patientsandmethods:Subjectsofthisprospectivestudycomprised34eyesof18glaucomapatients(11eyesof6males,23eyesof12females;meanage63±10years).Intraocularpressurewasmeasuredat9,12,and15o’clockduringathree-times-dailyregimenwithtopicalbrinzolamideonly,followedbytwomonthsofathree-times-dailyregimenoftopicaldorzolamideonly.Results:At9,12,and15o’clock,therewasnosignificantdifferencebetweenthetwocarbonicanhydraseinhibitorsintermsofintraocularpressure.Inthecaseofbrinzolamide,however,themeasurementsat15o’clockwerehigherby0.7±2.2mmHgthanthoseat12o’clock,whileinthecaseofdorzolamidethemeasurementsat15o’clockwerelowerby.0.3±1.6mmHgthanthoseat12o’clock.Thedifferenceineffectbetweenthetwodrugsaccordingtothetimeadministeredwasstatisticallysignificant(p=0.02,pairedt-test).Conclusions:Theresultssuggestthatadditionalapplicationatnoonwouldbeeffectiveinpatientswhoseintraocularpressureincreasedindaytimewithtopicalcarbonicanhydraseinhibitorsb.i.d.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1435.1438,2010〕〔別刷請求先〕大槻智宏:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomohiroOtsuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN1436あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(114)はじめに緑内障薬物治療においては,プロスタグランジン製剤,b遮断薬が第一選択薬としておもに使用され1),効果不十分な場合に炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)などが併用薬として使用されている2~4).わが国ではCAI点眼液として1999年5月に0.5%ならびに1%のドルゾラミド点眼薬が,2002年12月に1%ブリンゾラミド点眼薬が承認された.臨床試験により,それぞれの薬剤の点眼回数は1%ドルゾラミド点眼薬では「1回1滴,1日3回点眼」が推奨され,一方,1%ブリンゾラミド点眼薬では「通常1回1滴,1日2回点眼,十分な効果が得られない場合は1日3回点眼する」が推奨されている.筆者らの調べた限り,ブリンゾラミド点眼薬から1%ドルゾラミド点眼薬への変更の報告は3報しかなく,1%ドルゾラミド点眼薬3回点眼にしても眼圧下降効果に変化がなかったという報告5,6)と,有意に眼圧下降したという報告7)がある.切り替えにより眼圧が有意に下降した理由として,眼圧測定時間が症例ごとに異なっていたために薬剤の効果発現時間と測定時間の関係が結果に影響している可能性が示唆されていた.つまり,症例によって点眼効果のピーク値とトラフ値の時間の眼圧が混在していたため有意差が出た可能性がある.そこで今回,筆者らはブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を使用中の緑内障患者を1%ドルゾラミド(1日3回点眼)に変更し,日中の眼圧変動を測定しCAIの点眼回数の違いが日中の眼圧変動に及ぼす影響を検討した.I対象および方法対象はブリンゾラミド1日2回点眼を2カ月以上継続している原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,文書で同意のとれた症例18例34眼(男性6例11眼,女性12例23眼)を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)8眼,正常眼圧緑内障26眼であった.平均年齢は63.9±10.9歳(平均±標準偏差51~81歳)であり,併用薬剤は,b遮断薬(4例7眼),ab遮断薬(4例6眼),プロスタグランジン系薬剤(12例24眼)であった.併用薬剤の点眼時間はCAI変更前後ともに,それぞれの添付文書の使用方法に基づき,1日2回点眼の薬剤は7時,19時に点眼し,プロスタグランジン系薬剤は23時に点眼とした.炎症のある症例や術後早期などの症例は除外した.併用薬剤はそのまま継続した.眼圧測定当日のスケジュールはブリンゾラミド点眼薬1日2回点眼(7時,19時)を2カ月以上継続している患者を対象に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時,15時にGoldmann圧平眼圧計で眼圧を測定し,その後休薬期間なしで1%ドルゾラミド3回点眼(7時,13時,19時)に変更し,2カ月以上継続した後に,朝7時の1回目点眼後,9時,12時に眼圧測定し,13時にドルゾラミド2回目点眼後の15時に再度眼圧を測定した.眼圧の前後の測定は同一検者が行った.CAIブリンゾラミド2回点眼時とCAIドルゾラミド3回点眼時の各時間での眼圧,および眼圧変動幅について検討した.なお,本研究は北里大学病院の倫理委員会の承認を得て行った(北里大学医学部・大学病院倫理委員会承認番号:C倫07-367).II結果18例のうち1例はドルゾラミド点眼薬に変更後2週間で頭痛,動悸を自覚したため中止とし,残り17例32眼での眼圧の検討とした.眼圧はブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧),9時15.4±3.2mmHg,12時15.6±3.7mmHg,15時16.1±3.2mmHgであり,ドルゾラミド3回点眼時9時15.6±3.2mmHg,12時16.1±3.7mmHg,15時15.7±3.5mmHgであった(表1).各時間において変更することによる眼圧下降効果に有意差は認めなかった(9時p=0.60,12時p=0.24,15時p=0.40).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):0000.0000,2010〕Keywords:緑内障,炭酸脱水酵素阻害薬,眼圧,日内変動.glaucoma,carbonicanhydraseinhibitor,intraocularpressure,diurnalvariation.表1結果―各時間での比較9時12時15時CAI2回点眼時(ベースライン眼圧)15.4±3.2mmHg15.6±3.7mmHg16.1±3.2mmHgCAI3回点眼時(切り替え後眼圧)15.6±3.2mmHg16.1±3.7mmHg15.7±3.5mmHgp=0.60p=0.24p=0.40Paired-ttest:各時間で有意差なし.n=32.表2眼圧変動幅9時~12時CAI2回点眼時0.2±2.2mmHgCAI3回点眼時0.5±2.0mmHg有意差なしp=0.54(paired-ttest)12時~15時CAI2回点眼時0.7±2.2mmHgCAI3回点眼時.0.3±1.6mmHg有意差ありp=0.02(paired-ttest)(n=32)(115)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101437つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)で比較したところ2回点眼時0.2±2.2mmHg,3回点眼時0.5±2.0mmHgと両薬剤で有意差はみられなかった(p=0.54)が,12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)では,2回点眼時0.7±2.2mmHg,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり有意差を認めた(p=0.02)(表2).また,2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた8眼は,1日3回したことで,12時よりも15時の眼圧が下がった症例は4眼,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなった(表3).一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった(表3).III考按これまで,1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)をブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)に変更した報告は多数あり,変更後有意に下降した報告8,9)や,変わらなかったとする報告10~13)があることから,両薬剤の眼圧下降作用はほぼ同等と考えられている.しかし,眼圧測定時間が1回であり,同時刻でない報告が多いため,薬剤の眼圧降下作用のピーク値やトラフ値などの持続時間の影響は検討されていないことが結果に影響している可能性がある.今回の結果では,ブリンゾラミド点眼薬(1日2回点眼)を1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回点眼)に変更し,2カ月間投与して眼圧を測定したところ,各測定時間における平均眼圧値は,ブリンゾラミド2回点眼時(ベースライン眼圧)とドルゾラミド3回点眼時で差はみられなかった(表1).このことより,今回の筆者らの結果でも同等の眼圧下降効果と考えられる.つぎに9時と12時の眼圧変動幅(12時の眼圧.9時の眼圧)は2回点眼時も3回点眼時も両薬剤で有意差はみられなかった.9時,12時では眼圧,眼圧変動幅に有意差がないことより,両薬剤の午前中の効果は同等と考えられる.しかし12時と15時の眼圧変動幅(15時の眼圧.12時の眼圧)は2回点眼時0.7±2.2mmHgと眼圧は上昇傾向を示したのに対し,3回点眼時.0.3±1.6mmHgとなり眼圧変動幅は小さくなり,有意な眼圧下降を認めた.今回のCAI2回点眼時と,CAI3回点眼時の違いは12時に眼圧測定後の13時の点眼の有無である.ブリンゾラミド,ドルゾラミドは点眼後約2時間でピーク値を認め,12時間でトラフ値を認めるとされている14).このことより,CAI2回点眼時は朝と夜の2回の12時間おきの点眼になるため,夕方になると薬剤の効果が低下し眼圧が上昇してきてしまう可能性が考えられる.今回,眼圧変動幅に有意差が認められた12時.15時は,ドルゾラミドによる13時の点眼による点眼の効果のピークを再度迎えることにより,日中の眼圧上昇を抑えられたことが考えられる.しかし一方で,アドヒアランスを考えると1日2回点眼のほうが良いと考えられ,はたしてすべての症例で3回点眼する必要があるのかどうかも検討が必要と考えた.そこで今回の症例を3つの群に分けて検討した.まず2回点眼時に12時から15時の眼圧が2mmHg以上上昇していた症例についてみると,1日3回に変更し昼の点眼を追加したことで,4眼は12時よりも15時の眼圧が下がり,残りの4眼も上昇幅が±1mmHg以内に小さくなり,すべての症例で昼の点眼が有効であったことが示された.一方,2回点眼時,12時から15時にかけての変動幅が±1mmHg以内であった不変例18眼では,昼の点眼後2mmHg以上の下降がみられた改善例が4眼,不変のままが13眼であった.最後に2回点眼時に2mmHg以上下降していた6眼においては,昼の点眼を加えてもさらに下降した症例はなかった.以上の結果から,すべての症例を1日3回点眼にするのではなく,昼から夕方にかけての眼圧上昇がみられる症例の場合は昼の点眼を追加し,そうでない症例はあえて昼の点眼を行う必要はないのではないかと考えられる.なお,1例のみドルゾラミド点眼後に頭痛を訴えた症例があった.直接の因果関係ははっきりしないが,同薬剤を中止後に軽減しており,その後とくに後遺障害を残すことはなかった.しかし,同薬剤の臨床試験時の安全性評価症例602例中0.3%にやはり頭痛がみられたと報告されており(薬剤添付文書),使用時には注意が必要である.結論としてCAIはアドヒアランスの面からは点眼回数が少ないほうが有利と考えられるが,昼の点眼を行ったほうが午後の眼圧下降効果に有効な可能性があるので,薬剤選択や点眼回数の決定の際は患者の日中の眼圧変動を測定し,その変動に応じた選択が望ましい.今後の課題として,今回は眼圧変動に左右差があるという報告15)に基づき1例2眼を対象としたが,今後症例数を増やし1例1眼でも同様の結果となるか検討する必要性がある表3昼の点眼の効果2回点眼時,12時.15時の眼圧変動幅による分類①上昇例(2mmHg以上):8眼3回点眼で下降:4眼,上昇幅の減少:4眼→すべての症例で昼の点眼有効②不変例(±1mmHg以内):18眼3回点眼で改善4眼,不変のまま13眼,悪化1眼③下降例(2mmHg以上):6眼3回点眼でさらに下降した症例はなかった→昼の点眼はあまり効果がなかった1438あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(116)と思われる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)ShojiN:Brinzolamide:efficacy.safetyandroleinthemanagementofglaucoma.ExpertReviewofOphthalmology2:695-704,20073)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeffectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,openlabelstudy.CurrMedResOpin21:503-507,20054)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧降下効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20065)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,20056)NakamuraY,IshikawaS,SakaiHetal:24-hourintraocularpressureinglaucomapatientsrandomizedtoreceivedorzolamideorbrinzolamideincombinationwithlatanoprost.ClinOphthalmol3:395-400,20097)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:ブリンゾラミド2回点眼からブリンゾラミド,ドルゾラミド3回点眼への変更による眼圧下降効果.臨眼63:63-67,20098)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20059)秦桂子,田中康一郎,杤久保哲男:1%ドルゾラミドから1%ブリンゾラミドへの切り替えにおける降圧効果.あたらしい眼科23:681-683,200610)TsukamotoH,NomaH,MukaiSetal:Theefficacyandoculardiscomfortofsubstitutingbrinzolamidefordorzolamideincombinationtherapywithlatanoprost,timolol,anddorzolamide.JOculPharmacolTher21:395-399,200511)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用感の比較─切り替え試験.臨眼58:205-209,200412)InoueK,WadaSA,WakakuraMetal:Switchingfromdorzolamidetobrinzolamide:effectonintraocularpressureandpatientcomfort.JpnJOphthalmol50:68-69,200613)久保田みゆき,原岳,久保田俊介ほか:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え試験後の眼圧下降効果の比較.臨眼58:301-303,200414)ValkR,WeberC,SchoutenJetal:Intraocularpressureloweringeffectsofallcommonlyusedglaucoma.DrugsOphthalmol112:1177-1185,200515)TakahashiM,HigashideT,SugiyamaKetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsversusbilateraltreatment:Verificationwithnormalsubjects.Glaucoma17:169-174,2008***

セリシン添加抗緑内障薬がSV40 不死化ヒト角膜上皮細胞増殖作用へ与える影響

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(129)1295《原著》あたらしい眼科27(9):1295.1298,2010cはじめに現在の臨床における治療法としては,抗緑内障点眼薬による薬物療法が第一選択とされている.一方,点状表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所の副作用や,患者からのしみる,かすむ,眼が充血するといった訴えで点眼薬の中止および変更を余儀なくされ,薬剤選択が困難なことや眼圧コントロールが問題視されている.これら抗緑内障薬の角膜傷害には,点眼薬中に含まれる主薬,保存剤だけでなく,角膜知覚,涙液動態および結膜といったオキュラーサーフェス(眼表面)の生理状態が関与することが明らかとされ,臨床と基礎研究の両方面からの観察が抗緑内障薬の低角膜傷害性療法開発には重要である1).カイコ繭は絹糸になるフィブロイン(70~80%)とそれを包むセリシン(20~30%)から構成されている.従来,この〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANセリシン添加抗緑内障薬がSV40不死化ヒト角膜上皮細胞増殖作用へ与える影響長井紀章*1村尾卓俊*1伊藤吉將*1,2岡本紀夫*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3兵庫医科大学眼科学教室SericinAdditiontoAnti-glaucomaEyeDrops:EffectonProliferationofCornealEpithelialCellLineSV40(HCE-T)NoriakiNagai1),TakatoshiMurao1),YoshimasaIto1,2)andNorioOkamoto3)1)FacultyofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine抗緑内障薬は臨床にて多用されているが,長期にわたる使用は角膜傷害をひき起こすことが知られている.本研究ではSV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用い,角膜傷害治癒作用を有するセリシンを抗緑内障薬へ添加することによる角膜上皮細胞増殖抑制作用への影響について検討を行った.抗緑内障薬は市販製剤であるb遮断薬(チモプトールR),プロスタグランジン製剤(レスキュラR,キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(デタントールR),a,b受容体遮断薬(ハイパジールR),副交感神経作動薬(サンピロR)の7種を用いた.本研究の結果,抗緑内障薬へセリシンを添加することにより,角膜上皮細胞増殖抑制作用の強さは各種単剤処理時と比較し軽減した.このセリシンによる軽減効果は,今回用いたすべての点眼薬において認められた.本知見は,低刺激点眼薬開発を目指すうえできわめて有用であると考えられる.Anti-glaucomaeyedropsarefrequentlyusedinclinicaltreatment,anditisknownthattheirlong-termusecancausecornealepithelialcelldamage.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofthesericinadditiontovariousanti-glaucomaeyedropsoncornealepithelialcelllineSV40(HCE-T)proliferation.Usedinthisstudywere7eyedroppreparations:b-blocker(TimoptolR),prostaglandinagent(ResculaR,XalatanR),topicalcarbonicanhydraseinhibitor(TrusoptR),a1-blocker(DetantolR),a,b-blocker(HypadilR)andparasympathomimeticagent(SanpiloR).Withthecombinationofsericinandanti-glaucomaeyedrops,cellproliferationinhibitiondecreasedincomparisonwithuseofasingletypeofconventionalanti-glaucomaeyedrops.Theresultsofcombiningsericinandanti-glaucomaeyedropsprovideusefulinformationfordevelopmentofanti-glaucomaeyedropsthatdonotcausecornealepithelialcellsdamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1295.1298,2010〕Keywords:セリシン,抗緑内障薬,SV40不死化ヒト角膜上皮細胞,緑内障,細胞増殖.sericin,anti-glaucomaeyedrops,humancorneaepithelialcelllineSV40,glaucoma,cellproliferation.1296あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(130)カイコ繭由来の絹蛋白質であるセリシンは,生糸から絹糸への精錬の過程において除去され廃棄物として扱われていた.しかし近年,細胞死抑制作用など生物化学領域においてその活性が認められ注目されている2).筆者らもこれまで,このセリシンに角膜傷害治癒促進効果があることを見出し,眼科領域におけるセリシンの有効利用の可能性を報告してきた3).さらに筆者らは以前に,抗緑内障点眼薬の角膜傷害におけるinvitroスクリーニング試験として,抗緑内障点眼薬の角膜傷害性比較を目的とした基礎(invitro)実験系「ヒト角膜上皮細胞を用いたinvitro角膜傷害試験」を確立し報告してきた4).そこで今回,現在臨床現場で多用されているb遮断薬(チモプトールR),プロスタグランジン製剤(レスキュラR,キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(デタントールR),a,b受容体遮断薬(ハイパジールR),副交感神経作動薬(サンピロR)の異なる抗緑内障点眼薬7種へセリシンを添加することで,角膜傷害性がどのように変化するのかを明らかにすべく,このinvitro角膜傷害試験法4)を用いて検討を行った.I対象および方法1.使用細胞培養細胞は理化学研究所より供与されたSV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)を用い,100IU/mlペニシリン(GIBCO社製),100μg/mlストレプトマイシン(GIBCO社製)および5%ウシ胎児血清(FBS,GIBCO社製)を含むDMEM/F12培地(GIBCO社製)にて培養した.2.使用薬物抗緑内障点眼薬は市販製剤であるb遮断薬(0.5%チモプトールR),プロスタグランジン製剤(0.12%レスキュラR,0.005%キサラタンR),炭酸脱水酵素阻害薬(1%トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(0.01%デタントールR),a,b受容体遮断薬(0.25%ハイパジールR),副交感神経作動薬(1%サンピロR)の7剤を用いた.セリシン(30kDa)はセイレーン株式会社より供与されたものを用いた.3.抗緑内障点眼薬による細胞処理法HCE-T(50×104個)をフラスコ(75cm2)内に播種し,HCE-Tがフラスコ中に80%存在するようになるまで培養した5,6).この細胞を,0.05%トリプシンにて.離し,細胞数を計測後,96穴プレートに100μl(10×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内で24時間培養したものを実験に用いた.表1には今回用いた抗緑内障薬に含まれる添加物を,表2にはセリシンおよび抗緑内障点眼薬の添加量を示す〔抗緑内障薬はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて希釈を行った〕.表2に示した添加量にて24時間培養後,各wellにTetraColorONE(生化学社製)20μlを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理を行い,マイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)にて490nmの吸光度(Abs)を測定することで細胞増殖抑制を表した.各処理とも培地中に含まれるpHインジケーターのフェノールレッドが中性を示すことを確認し,同実験を3.7回くり返した.本研究では,細胞増殖抑制率は下記の計算式により算出した4).細胞増殖抑制率(%)=(Abs未処理.Abs薬剤処理)/Abs未処理×100筆者らはすでに,今回用いた抗緑内障には細胞増殖抑制率の変動が認められ,その細胞増殖抑制率が約50%となる薬剤希釈率はレスキュラR(98)>キサラタンR(70)>チモプトールR(30)>デタントールR(22)>ハイパジールR(22)>トルソプトR(18)>サンピロR(6)であることを報告している.この結果を基に本実験では,細胞増殖抑制率の変動が認められる薬剤希釈率を用いた4).また,セリシン(pH7)は終濃度0.1%となるように設定し行った.II結果図1には,細胞増殖抑制率が約50%となる薬剤希釈率付表1各種抗緑内障点眼薬に含まれる添加物抗緑内障点眼薬添加物チモプトールRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素Na,水酸化Na,リン酸水素NaレスキュラRベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,等張化剤,pH調節剤キサラタンRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素Na,等張化剤,リン酸水素Na,トルソプトRベンザルコニウム塩化物,ヒドロキシエチルセルロース,D-マンニトール,クエン酸Na,塩酸デタントールRベンザルコニウム塩化物,濃グリセリン,ホウ酸,pH調節剤ハイパジールRベンザルコニウム塩化物,リン酸二水素K,リン酸水素Na,塩酸,塩化NaサンピロRパラオキシ安息香酸プロピル,パラオキシ安息香酸メチル,クロロブタノール,酢酸Na,ホウ酸,ホウ砂,pH調節剤表2抗緑内障点眼薬の添加量培地PBS薬剤セリシン未処理50μl50μl0μl0μl単剤処理50μl25μl25μl0μlセリシン添加薬剤処理50μl0μl25μl25μlPBS:リン酸緩衝生理食塩水.(131)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101297近における角膜上皮細胞増殖抑制効果と,これら薬剤処理群にセリシンを添加した際の角膜上皮細胞増殖抑制率の変化を示す.薬剤のみの刺激ではいずれの処理群においても30~80%程度の細胞増殖抑制効果であった.この希釈率における抗緑内障に0.1%セリシンを添加したところ,本実験で用いたすべての抗緑内障点眼薬群において有意な細胞増殖抑制効果の低下が認められた.III考按抗緑内障薬による角膜傷害性の程度を検討するにあたり,その評価法の選択は非常に重要である.角膜上皮は5~6層の細胞層から構成され,基底細胞と表層細胞に大きく分けられる.このうち基底細胞は分裂増殖機能と接着機能を,表層細胞はバリア機能および涙液保持機能を担っている.この4つの機能のどれか1つでも破綻した際角膜上皮傷害が認められるが,なかでも薬剤の影響を特に受けやすいとされているのが分裂機能とバリア機能である7).筆者らは以前に,抗緑内障点眼薬の角膜傷害におけるinvitroスクリーニング試験として,抗緑内障点眼薬の傷害性比較を目的としたinvitro角膜実験を確立し報告してきた4).このHCE-Tによるinvitro角膜実験は,個体差やオキュラーサーフェスの状態の要因をすべて同一条件の状態で評価することが可能なため,薬剤自身が有する角膜上皮細胞分裂機能への影響を検討するのに適している.そこで本研究では,臨床現場で多用されている7種の異なる抗緑内障点眼薬の角膜傷害性が,セリシンと併用することでどのように変化するのかについてこのinvitro角膜実験を用いて検討した.HCE-Tを用いた結果において,抗緑内障点眼薬の細胞増殖抑制作用はレスキュラR>キサラタンR≫チモプトールR>デタントールR>ハイパジールR>トルソプトR≫サンピロRの順であった4).この結果は,実際の臨床現場における抗緑内障点眼薬による角膜上皮傷害の頻度と類似していた.一方,いずれの抗緑内障薬もセリシンを組み合わせることで抗緑内障薬単剤処理と比較し細胞増殖抑制率が有意に軽減された.セリシンは細胞増殖促進作用を有することが知られており,筆者らもまたこのHCE-T細胞へのセリシン処理により細胞増殖が増大することを報告している3).したがって,このセリシンの細胞増殖促進作用が抗緑内障薬による角膜上皮細胞増殖傷害の軽減をもたらすものと示唆された.一方で,点眼薬調製には主薬以外にもさまざまな添加物が用いられている(表1).添加物は点眼薬の種類において異なっており,その濃度も均一ではない.なかでも品質の劣化を防ぐ目的で用いられる保存剤ベンザルコニウム塩化物は細胞増殖抑制をひき起こす主要な要因とされている.今回用いた7種の抗緑内障薬においても細胞傷害性を示すと考えられる添加物であるベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,パラベン類,ホウ酸をはじめ多くの添加物が用いられていた.これら多くの異なる添加物を含む抗緑内障薬7種すべてにおいて,セリシンが有意にその角膜上皮細胞増殖傷害の軽減を示したという結果は,セリシンの角膜上皮細胞増殖促進効果が現在点眼薬調製に用いられている添加物においてほとんど影響を受けないことを意味し,点眼製剤への新規添加物としてセリシンの応用が期待された.現在,筆者らはこのセリシンと抗緑内障薬との合剤が角膜傷害性へ与える影響を明確にすべく角膜上皮.離モデルを用いたinvivo実験において,セリシン含有抗緑内障薬の角膜サンピロR48希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100*チモプトールR希釈倍率細胞増殖抑制率(%)0204060801002832*レスキュラR希釈倍率96100細胞増殖抑制率(%)020406080100*細胞増殖抑制率(%)020406080100キサラタンR6872希釈倍率*トルソプトR1620希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100*2024希釈倍率細胞増殖抑制率(%)020406080100デタントールR**2024希釈倍率ハイパジールR細胞増殖抑制率(%)020406080100**図1セリシン添加抗緑内障薬が角膜上皮細胞増殖抑制率へ与える影響□:単剤処理,■:セリシン添加薬剤処理.平均値±標準誤差.n=3.7*p<0.05vs対応する単剤処理群(Student’st検定).1298あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(132)傷害性について解析を行っているところである.加えて,セリシンを添加することにより,従来の添加剤自身の役割にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることは非常に重要である.したがって,セリシンが保存剤として知られるベンザルコニウム塩化物の保存性作用に対しどのような影響を与えるのかについても検討を行っているところである.以上,本研究では同一条件下において,抗緑内障点眼薬自身が有する細胞増殖抑制作用に対するセリシンの保護効果を明らかとした.これら細胞増殖抑制作用は,臨床においては涙液能低下などの他の作用により相乗的に角膜上皮細胞増殖抑制作用をひき起こすと考えられることから8),今回のinvitroの結果を基盤とした臨床結果のさらなる解析を行うことで,抗緑内障薬による角膜傷害性とセリシンの保護効果がより明確になるものと考えられた.文献1)徳田直人,青山裕美子,井上順ほか:抗緑内障薬が角膜に及ぼす影響:臨床とinvitroでの検討.聖マリアンナ医科大学雑誌32:339-356,20042)寺田聡:セリシンを利用した無血清培地の開発とその応用.生物工学会誌86:387-389,20083)NagaiN,MuraoT,ItoYetal:Enhancingeffectofsericinoncornealwoundhealinginratdebridedcornealepithelium.BiolPharmBul32:933-936,20094)長井紀章,伊藤吉將,岡本紀夫ほか:抗緑内障点眼薬の角膜障害におけるinvitroスクリーニング試験:SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた細胞増殖抑制作用の比較.あたらしい眼科25:553-556,20085)ToropainenE,RantaVP,TalvitieAetal:Culturemodelofhumancornealepitheliumforpredictionofoculardrugabsorption.InvestOphthalmolVisSci42:2942-2948,20016)TalianaL,EvansMD,DimitrijevichSDetal:Theinfluenceofstromalcontractioninawoundmodelsystemoncornealepithelialstratification.InvestOphthalmolVisSci42:81-89,20017)俊野敦子,岡本茂樹,島村一郎ほか:プロスタグランディンF2aイソプロピルウノプロストン点眼液による角膜上皮障害の発症メカニズム.日眼会誌102:101-105,19988)大規勝紀,横井則彦,森和彦ほか:b遮断剤の点眼が眼表面に及ぼす影響.日眼会誌102:149-154,2001***

医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2 例

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1287《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1287.1290,2010cはじめに緑内障は現在の本邦視覚障害原因疾患の首位である.2000年から2001年に日本緑内障学会が実施した大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)によれば,40歳以上の日本人の緑内障の有病率は5.0%であることが報告されている1).緑内障は,無症状のまま病状が進行することが多いという特徴を有し,多治見スタディでも緑内障と診断された人のほとんどは自覚症状がみられなかった1).実際には,自覚症状が現れたときにはかなり病状が進行している症例を経験することも少なくない.近年の緑内障治療の進歩は目覚ましく,治療の第一目標は一生涯の有効な視機能の温存であり,そのためには早期発見,早期治療で眼圧,視野の管理に努めることが一段と推奨,啓発されている.しかし,かなり病状が進行するまでまったく眼科受診をしていなかった症例もある.このような症例は決して少なくはなく,見えにくさを自覚し不便を感じていることが多い.当然,緑内障治療が最優先であるが,症例によっては並行してロービジョンケアを行うことで患者本人が困っている見えに〔別刷請求先〕西田朋美:〒359-8555所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科Reprintrequests:TomomiNishida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,4-1Namiki,Tokorozawa359-8555,JAPAN医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2例西田朋美*1三輪まり枝*1,2山田明子*1,2関口愛*1,2中西勉*2久保明夫*2仲泊聡*1,2*1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科*2国立障害者リハビリテーションセンター病院第三機能回復訓練部TwoCaseswithGlaucomacouldAdvanceLowVisionCarethroughMedicalCooperationTomomiNishida1),MarieMiwa1,2),AkikoYamada1,2),MeguSekiguchi1,2),TsutomuNakanishi2),AkioKubo2)andSatoshiNakadomari1,2)1)DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,2)DepartmentforVisualImpairment,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities緑内障はわが国の視覚障害原因の首位を占め,ロービジョン(LV)ケアが必要となる患者も多い.今回筆者らは緑内障治療を他院で継続中に国立障害者リハビリテーションセンター病院(以下,当院)LVクリニックを紹介受診され,医療連携で治療とLVケアを円滑に進めることができた緑内障患者2例を経験した.2例とも緑内障治療とLVケアを異なる眼科にて行っているが,情報提供書の活用により医療連携で治療と並行したLVケアへの導入が円滑であった.治療とLVケアを行う眼科は同一である必要はなく,医療連携を密に行うことで別々の眼科で担当することも可能であると考えられた.LVケアができる体制がない医療機関であっても,LVケアが必要な緑内障患者にとって医療連携によりLVケアを受けやすくなる可能性が示唆された.今後,より簡便な情報提供書のあり方や情報ネットワークの構築などが望まれる.GlaucomaistheleadingcauseofvisualimpairmentinJapan,andmanyglaucomapatientsrequirelowvisioncare.Twopatientswhoseglaucomawasfollowedupatanotherhospitalwereabletosmoothlyprogresstolowvisioncareatourhospital.Inthesetwocases,themedicalinformationletterwasusefulinthistransition.It’snotnecessarytousethesamehospitalforbothtreatmentandlowvisioncare.Evenifthehospitalisnotpreparedtoprovidelowvisioncare,glaucomapatientsrequiringsuchcarecanreceiveitwithsufficientmedicalcooperationandnetworking.Toadvancelowvisioncaremoresmoothly,greatercooperationandnetworkingsystemsamonghospitalsarerequired.Moreover,moreconvenientmethods,includingmedicalinformationletters,aredesirableforsmootherdevelopmentoflowvisioncare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1287.1290,2010〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,医療機関,連携.glaucoma,lowvisioncare,medicalcooperation,network.1288あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(122)くさを改善することが可能である2).しかし,医療機関によってはロービジョンケアにまで手が回らないという実情に直面しているところも多い3).逆にいまだ少数ではあるが,筆者らの施設(国立障害者リハビリテーションセンター病院;以下当院)のようにロービジョンケアを主なる専門領域とした医療機関も存在する.今回筆者らは,他院と当院との医療連携を利用することで緑内障治療とロービジョンケアを円滑に進めることができた緑内障患者の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕80歳,男性.原発開放隅角緑内障.以前よりT院にて緑内障加療中であったが,1994年7月14日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は,右眼0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°),左眼0.03(0.05×.10.5D)で,視野は両眼ともに湖崎分類IVであった.患者本人の困っていることは,読み書き困難,羞明であり,これらを改善したいということがおもなニーズであった(表2).初診から19年経過した現在,視力は右眼0.01(n.c.),左眼手動弁(n.c.)で,視野は両眼ともに湖崎分類bであった.眼圧コントロールのため,これまで緑内障手術を右眼計1回,左眼計8回,白内障手術を両眼ともに受けていた.現在も点眼と内服加療継続中であった.緑内障の治療は一貫してT院へ継続通院しており,T院と当院との連絡はロービジョンケア内容を含んだ情報提供書を用いていた(表3).この間,検査と評価の結果,3.5倍から7倍の拡大鏡を計3個,遮光眼鏡を計8個,矯正眼鏡を計7個処方した.表2症例1と2の治療とロービジョンケアの経過症例1症例2治療経過観血的・非観血的緑内障手術(右計1回,左計8回)点眼・内服加療継続中点眼・内服加療継続中ニーズ読み書き困難,羞明読み書き困難,階段歩行(下り),買い物LVケア拡大鏡,遮光眼鏡,白杖,歩行近用眼鏡,拡大鏡,タイポスコープLVケア経過.当科初診から計26回LVケア実施.この間,T院には毎月通院加療.現在も年に数回のLVケア実施.当科初診時のLVケアでニーズ改善あり.この間,U院で再経過観察.67歳時に拡大鏡の再評価希望でU院より再紹介.LVケア2回を行い,U院で再経過観察表1症例1と2の視力,視野検査結果症例1:80歳,男性.原発開放隅角緑内障症例2:67歳,男性.正常眼圧緑内障.T院にて継続加療中.61歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診.U院にて継続加療中.64歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診初診時視力RV=0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°)LV=0.03(0.05×.10.5D)RV=0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野初診から19年後初診から2年後視力RV=0.01(n.c.)LV=手動弁(n.c.)RV=0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野(123)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101289〔症例2〕67歳,男性.正常眼圧緑内障.以前よりU院にて緑内障加療中であったが,2005年9月29日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は右眼0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbであった.患者本人は読み書きに最も困っており,その改善がおもなニーズであった(表2).矯正眼鏡とタイポスコープを処方し,ニーズ改善がみられたためいったんロービジョンケア終了とした.その後,U院のみで経過観察をされていたが,ロービジョンケア希望で再度2009年5月28日(67歳時)にU院より当院を紹介され受診した.そのときの視力は,右眼0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbで視野は2年前の初診時と比べて大きな変化はなかった.眼圧コントロールは点眼治療のみを継続されていた.ロービジョンケアでは,すでに自分で持っていた拡大鏡の再評価を行い,その結果をU院に報告し,再度U院での経過観察を継続している.U院と当院との連絡はロービジョン内容を含んだ情報提供書で行った(表3).II考按近年,眼科領域におけるロービジョンケアに対する認識や関心は増加傾向にある3,4).しかし,いまだ十分に普及しているとはいえない.2008年の田淵らの全国の眼科教育機関を対象として行った調査報告によれば,ロービジョン外来開設率は58.7%であった5).2009年に筆者らは,眼科教育機関の長である教授自らのロービジョンケアに対する意識調査を行った.その結果,97%の教授がロービジョンケアへの関心があると回答し,80%の教授がロービジョンケアの教育指導は必要であると感じていた.一方,近年の緑内障治療は飛躍的に進歩し,緑内障患者の一生涯の有効な視機能保存が大きな治療目標となっている.急性期の病院には見え方に不便を感じ始めている緑内障患者も数多く通院していると考えられる.そのような症例のなかには,ロービジョンケアを受けることで少しでも見やすくなる症例が相当数含まれている可能性が高い2).しかし,同じ医療機関内でロービジョンケア対応が不可,あるいは仮に可でもより高い専門性を求められるようなロービジョンケアを要する症例の場合,その症例のロービジョンケアが滞ることも予想される.そのような場合,必ずしも緑内障治療とロービジョンケアを行う医療機関が同一である必要はない.たとえば,見えにくさの状態によっては仕事を継続することが困難で休職している場合がある.それまで従事していた職種によっては,退職前にケースワーカーなどの専門職のロービジョンケア介入によって退職せずに復職可能な場合もある.双方の医療連携を利用することで患者本人が困っていることを改善しながら緑内障治療を継続できる可能性がある.症例1は,緑内障治療はT院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で61歳時にT院より紹介され受診した.治療は一貫してT院に通院され,当院ではロービジョンケアを主目的に19年間,現在に至るまで不定期に通院している.初診時から羞明と読み書き困難の改善が主訴であり,特に羞明に困っていた.その改善のために複数の遮光眼鏡を試し,実際に患者の日常生活上で使用可能かを確認しながら19年間のうち計8個の遮光眼鏡処方を行った.読み書き困難に対しては,3.5倍から7倍の拡大鏡を3個処方し,自覚的な改善が得られた.また,矯正眼鏡として遠用,中間用,近用を合わせて計7個の眼鏡を作製した.各種光学的補助具の用途に応じた使い分けの希望が強く,処方数の多い結果となった.症例2は,緑内障治療はU院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で64歳時にU院より紹介され受診した.読み書き困難が主訴でタイポスコープと近見眼鏡処方で改善し,再びU院へ戻り通院加療を受けていた.その後,再度読み書き困難を自覚し,2009年5月,U院より当科を再紹介され受診した.すでに拡大鏡を持っており,各倍率の拡大鏡を試したが,結局はすでに持っていた近見眼鏡と拡大鏡を組み合わせることで読み書き困難が改善された.現在は再びU院で継続して経過観察を受けている.表3情報提供書………………………………….1290あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(124)一般的にロービジョンケアを進めるなかで,遮光眼鏡,拡大鏡,眼鏡などの処方は高頻度に行われる3,4).実際に,患者本人の日常生活で使用可能か否かを試しながら最終的に処方を行うことが望ましい.症例1のように処方数,種類などが多い場合,患者ニーズ改善に対して選定する補助具を数多くくり返し試す必要がある.このように時間がかかる対応を急性期病院で行うことは現実的には困難な状況であることが多いであろう.症例2では,結果的にはすでに患者本人が所有していたものを組み合わせることで見やすい環境を作ることが可能であったが,それを検証するのに時間が必要であり,症例1と同様に急性期病院で対応することがむずかしいことも想定される.緑内障は継続した治療と経過観察が重要であるが,病状の進行とともに患者のqualityoflife(QOL)が下がることもこれまでの研究で明らかとなっている.緑内障患者を対象にした視覚関連QOL研究において,25-itemNationalEyeInstituteFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25)日本語版を用いた調査で,視力0.7以上の群と比べ,0.6以下,0.3以下とそれぞれ有意にQOLが下がり,視野ではHumphrey自動視野計30-2プログラムのMD(標準偏差)値が.5dB未満になると,.5dB以上の軽度視野障害群に比べて有意にQOLが下がっていた7).今回の2症例とも,視野結果から推測する限り,かなり視覚的に低いQOLであったことが考えられる.緑内障患者におけるQOL低下の原因は,読み書き困難,羞明,歩行困難が代表的である.今回の2症例のニーズも同様であった.緑内障のロービジョンケアでは,眼圧と視野の管理に気を取られてロービジョンケア導入のタイミングを逸してしまいやすいことがある8).見えにくさを患者が訴えたとしても,忙しい眼科臨床の場で,しかも自院でロービジョンケア対応不可であれば,見え方に不自由さを感じている緑内障患者にロービジョンケアを行うのは現実的に困難であることが多いことが予測される.しかし,医療連携を用いてロービジョン対応可能な他の医療機関につなぐことでロービジョンケアを行うことが可能になる.ロービジョンケアはさまざまな施設の複数の職種が医療,福祉,教育などで関わり合うことが大切であり,連携の必要性が以前より謳われている9,10).しかし,その前に今回の2症例のように最初に患者に関わる眼科医として患者の見え方に関心をもち,患者自身が不自由さを自覚しているようであれば,近隣のロービジョンケア対応可能な医療機関へつなぐことが大切なのではないだろうか.特に緑内障患者が見えにくさを訴えた場合には,ロービジョンケア導入の好機を逃がさないためにも重要である.そのためには普段から情報を入手する必要があり,またロービジョンケアを行う側も提供している情報を常にアップデートしながら各医療機関へ情報を提供する体制を整えていくことが必要である.また.今回の2症例は,いずれも情報提供書を用いて医療機関の相互連絡を図ったが,より簡便で的確な方法を今後確立することでお互いに紹介しやすくなり,患者自身もロービジョンケアをより受けやすくなるのではないかと考えられる.ロービジョンケアが眼科臨床に根付きにくい理由として,保険点数化,費やされる時間,人手の問題などがよくあげられる.そのようななかでも,ロービジョンケアに取り組んでいる医療機関は徐々に増加傾向にある.今のロービジョンケア情報ネットワークには課題が多いのも事実であるが,今回の2症例のように緑内障治療を継続しながらであっても,医療連携を利用し治療とロービジョンケアを並行して行うことが可能である.同じ医療機関内で治療とロービジョンケアを行えれば患者にとってなお理想的だと考えられるが,それが困難な場合はロービジョンケアを行わないのではなく,別の医療機関と連携しロービジョンケアを行うことができる.今後,このような方法でも見えにくさで困っている緑内障患者のロービジョンケアをより進めやすくするために,眼科医に対するロービジョンケアの必要性の啓発,さらにはより簡便な手段での情報網整備の検討などが早急に求められ,必要とする患者がどのような形でも確実にロービジョンケアを受けられるような体制作りが望まれる.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)中村秋穂,細野佳津子,石井祐子ほか:井上眼科病院緑内障外来におけるロービジョンケア.あたらしい眼科22:821-825,20053)江口万祐子,中村昌弘,杉谷邦子ほか:獨協医科大学越谷病院におけるロービジョン外来の現状.眼紀56:434-439,20054)川崎知子,国松志保,牧野伸二ほか:自治医科大学附属病院におけるロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌8:173-176,20085)田淵昭雄,藤原篤史:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状.日眼会誌112:1096,20086)鶴岡三惠子,安藤伸朗,白木邦彦ほか:全国の眼科教授におけるロービジョンに対する意識調査.眼臨紀,印刷中7)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,20068)張替涼子:4)緑内障IV.年齢と疾患によるケアの特徴/3.疾患別特徴.眼科プラクティス14巻,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),文光堂,20079)山縣祥隆:ロービジョンケアにおける連携.日本の眼科77:1123,200610)簗島謙次:ロービジョンケアにおけるチームアプローチの重要性.眼紀57:245-250,2006

緑内障患者におけるNEI VFQ-25を用いたQuality of Lifeの評価

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)1145《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1145.1147,2010cはじめに近年,qualityoflife(QOL)の改善を目指した医療が注目されている.特に緑内障では慢性進行性疾患であり,長期予後を推定しながら治療計画を立てる必要があるため,緑内障による視機能がQOLに与える影響を知ることは大変重要である.the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)は眼疾患患者のQOLを測定する尺度として開発され,その信頼性,妥当性が検証され,確立されている1).日本語版VFQ-25を用いて,緑内障患者の視機能の質と視機能障害の程度における関係を検討した.I対象および方法対象は2008年12月から2009年8月までの間に苫小牧市立病院眼科で通院加療していた両眼に緑内障性視野異常がみられる83例(表1).男性41名,女性42名,年齢は30~84歳,平均年齢66.9歳.両眼ともに矯正視力が0.5以上で,過去に白内障手術,緑内障手術以外の内眼手術の既往がない症例を対象とした.病型は正常眼圧緑内障55例,原発開放隅角緑内障28例であった.緑内障以外に視力,視野に影響を及ぼす眼疾患のある患者は対象から除外した.視機能評価〔別刷請求先〕中村聡:〒053-8567苫小牧市清水町1-5-20苫小牧市立病院眼科Reprintrequests:SatoshiNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,1-5-20Shimizu-cho,Tomakomai-shi053-8567,JAPAN緑内障患者におけるNEIVFQ-25を用いたQualityofLifeの評価中村聡*1日景史人*1大黒浩*2田中尚美*1近藤隆徳*1*1苫小牧市立病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座EvaluatingQualityofLifeinGlaucomaPatients,Usingthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaireSatoshiNakamura1),FumihitoHikage1),HiroshiOoguro2),NaomiTanaka1)andTakanoriKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,Tomakomai-City-Hospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine方法:対象は緑内障患者83症例,視機能の質は日本語版the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)を用いて調査した.視力良好眼および不良眼の矯正視力,MD(標準偏差)値良好眼および不良眼のMD値,およびエスターマン(Esterman)による両眼視野のスコアとVFQ-25の各項目の関係について比較検討した.結果:視力不良眼の矯正視力と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」,MD値良好眼と「自立」,MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01).一方,日常視を重視したエスターマン両眼視野によるスコアとVFQ-25スコアの間には相関関係を認めなかった.結論:VFQ-25スコアは視力不良眼の矯正視力およびMD良好眼とMD不良眼のMD値と有意な相関を認めた.Weusedthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(VFQ-25)toevaluatefeaturesofthequalityoflife(QOL)in83glaucomapatients.Questionsstronglyassociatedwithcorrectedvisualacuityinthebettereyerelatedto[generalvision],[mentalhealth],[rolelimitation]and[depend].Themeandeviation(MD)inthebettereyecorrelatedwith[depend]andtheMDintheworseeyecorrelatedwith[mentalhealth]and[depend](p<0.01).TherewaslittlecorrelationbetweenVFQ-25scoreandEstermanbinocularscore,whichwasweightedfordailylife.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1145.1147,2010〕Keywords:緑内障,視覚関連VFQ-25,生活の質,エスターマン両眼視野検査.glaucoma,the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire,qualityoflife,Estermanbinocularvisualfieldtest.1146あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(134)は矯正視力およびHumphrey自動視野計(HFA)中心30-2のプログラムによるMD(標準偏差)値と両眼視野検査であるEstermanvisualfieldtest(以下,エスターマン視野)によるスコア値を用いた.エスターマン視野はHFA内に内蔵されたアルゴリズムを使用し,両眼開放下で矯正レンズを使用せず施行した(合計120カ所の測定点からなり,0~100点で算出される).視機能の質はVFQ-25のアンケート用紙を用いて自己記入式で調査を行った.今回の研究では緑内障に関連があると考えられる7つの下位尺度「全体的見え方」,「近見視力による行動」,「遠見視力による行動」,「見え方による社会生活機能」,「見え方による心の健康」,「見え方による役割制限」,「見え方による自立」を用いた.これらの7つの下位尺度とエスターマンスコア,良いほうの眼の視力(矯正視力良好眼),悪いほうの眼の視力(矯正視力不良眼),良いほうのMD値(MD値良好眼),悪いほうのMD値(MD値不良眼)の相関関係を検討した.相関関係の解析にはPearsoncorrelationtestを用い,p<0.01を有意差ありとした.II結果VFQ-25による平均スコアは「全体的見え方」75.7±23.7,「近見視力による行動」77.3±20.1,「遠見視力による行動」74.4±17.0,「見え方による社会生活機能」71.2±19.2,「見え方による心の健康」70.9±22.6,「見え方による役割制限」69.3±27.5,「見え方による自立」84.7±17.5であった(図1).エスターマンスコアは94.5±9.9(23.3.100)であった.7つの下位尺度とエスターマンスコア,矯正視力良好眼,矯正視力不良眼,MD値良好眼,MD値不良眼の間の関係を表2に示す.エスターマンスコア,矯正視力良好眼とVFQ-25の7つの下位尺度の間には有意な相関関係がなかった.矯正視力不良眼と「見え方」「心の健康」「役割制限」「自立」の間には有意な相関関係がみられた(それぞれp<0.01,p<0.01,p<0.001,p<0.01).また,MD値良好眼と「自立」(p<0.01),MD値不良眼と「心の健康」「自立」の間に相関関係がみられた(p<0.01,p<0.001).III考按Millsら2)は重症な緑内障患者においてVFQ-25とエスターマンスコアの間に中等度の相関関係がみられたと述べている.一方,Jampelら3)の調査ではエスターマンスコアの平均値は89.7±13.4点で,VFQ-25のスコアと有意な相関関係がなかったと述べている.Harrisら4)はエスターマン視野は指標輝度が高いために,ほとんどの症例で80点以上となってしまうことが問題点であり,重症ではない緑内障患者の評価にはあまり適していないと指摘している.本症例でもエスターマンスコアとVFQ-25の各下位尺度には有意な相関関係はみられなかった.その理由として,本研究の対象である矯正視力が0.5以上の緑内障患者でも,エスターマンスコアが高得点に集中してしまい,差がつかなかったことが一つの理由であると考えた.Jampelら5)はこれらの問題点を解決するため指標輝度をより低くした両眼視野検査を考案し,QOLとの関係を調べたが,それでも単眼視野のMD値のほうがQOLとより強く相関していたと結論づけている.またNelson-Quiggら6)は単眼ずつの視野を数学的に重ね合わせて両眼視野を推測する方法を提案し,BINOCULARSUMMATION(左右眼の閾値の二乗和の平方根),BESTLOCA-表2VFQ-25スコアと視機能の相関関係エスターマンスコア矯正視力良好眼矯正視力不良眼MD値良好眼MD値不良眼見え方0.170.140.29*0.180.26近見0.000.140.120.130.09遠見0.000.220.170.130.13社会生活0.020.030.180.210.10心の健康0.160.120.33*0.260.29*役割制限0.090.150.39**0.230.19自立0.200.150.29*0.33*0.37**(Pearsoncorrelationtest*:p<0.01,**:p<0.001)表1患者背景対象:男性41名,女性42名年齢:平均66.9±11.2歳(30~84歳)緑内障病型:原発開放隅角緑内障28例正常眼圧緑内障55例視野MD(dB):MD値良好眼.3.45±5.97(1.9~.27.82)MD値不良眼.8.28±7.58(1.15~.30.18)エスターマンスコア:94.5±9.9(23.3~100)屈折異常:右眼.2.67±3.15D(+4.0~.11.0D)左眼.2.47±2.95D(+3.0~.11.0D)100806040200自立役割制限心の健康社会生活遠見近見見え方スコア図1VFQ-25の各下位尺度の結果(135)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101147TION(左右いずれかの高いほうの閾値をその検査点の閾値として採用)が実際の両眼開放視野によく相関したと報告している.どのような症例にどのような両眼視野が適しているのか,今後のさらなる検討が必要であると考えられた.またViswanathanら7)は緑内障に特異的な質問票を用いたところエスターマンスコアとよく相関したと述べている.VFQ-25は眼疾患関連のQOLを評価する方法として確立されているが,中心視力が保たれて視野障害をもつ緑内障患者に対しての特異的な質問票でないことがエスターマンスコアとVFQ-25が相関しなかった2つ目の理由として考えられた.緑内障患者のQOLは良いほうの眼と悪いほうの眼のどちらがより関係しているかということについて,Magioneら8)は視力良好眼と視力不良眼,MD値良好眼とMD値不良眼とQOLの関係には大きな差がないと述べている.また山岸ら9)は視野の悪い眼が進行しても,視野の良い眼が進行してもその程度に比例してQOLは低下すると述べている.これに対してJampelら5)は緑内障患者のQOLはMD値良好眼より,MD値不良眼と強く相関していたと述べ,Turanoら10)は緑内障患者が障害物をよけて歩く速度は,MD値良好眼よりもMD値不良眼とより強い相関関係がみられたと報告している.浅野ら11)は視力良好眼のMD値が悪化するに従ってVFQ-25スコアが悪化するが,.20dBより悪い視野ではQOLに差がなくなると述べている.今回の筆者らの調査では矯正視力については視力良好眼よりも視力不良眼がQOLと強く相関し,視野については良いほうの視野よりも悪いほうの視野がVFQ-25の1項目だけより多く有意な相関関係がみられた.この結果は緑内障疾患がQOLに与える影響として特徴的であると考えられ,大変興味深い結果であった.VFQ-25の各下位尺度に関して,今回の研究では「近見」「遠見」のVFQ-25スコアと,エスターマンスコア,視力,視野の間に有意な相関関係はなかった.これは矯正視力0.5以上を調査対象としたため,中心視力が比較的良好であるために,「近見」「遠見」が損なわれていないと考えられた.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),JapaneseVersion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)MillsRP:Correlationofqualityoflifewithclinicalsymptomsandsignsatthetimeofglaucomadiagnosis.TransAmOphthalmolSoc96:753-812,19983)JampelHD:Glaucomapatients’assessmentoftheirvisualfunctionandqualityoflife.TransAmOphthalmolSoc99:301-317,20014)HarrisML,JacobsNA:IstheEstermanbinocularfieldsensitiveenough?PerimetryUpdate1995:403-404,19955)JampelHD,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Correlationofthebinocularvisualfieldwithpatientassessmentofvision.InvestOphthalmolVisSci43:1059-1067,20026)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCAetal:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,20007)ViswanathanAC,McNaughtAI,PoinoosawmyD:Severityandstabilityofglaucoma:patientperceptioncomparedwithobjectivemeasurement.ArchOphthalmol117:450-454,19998)MagioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20019)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,200910)TuranoKA,RubinGS,QuigleyHAetal:Mobilityperformanceinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2803-2809,199911)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,2006***

プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)1127《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1127.1132,2010c〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒791-0952松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime791-0952,JAPANプロスタグランジン点眼容器の使用性の比較兵頭涼子*1林康人*1,2,3鎌尾知行*1,2,3溝上志朗*2,3吉川啓司*4大橋裕一*2*1南松山病院眼科*2愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*3愛媛大学視機能再生学(南松山病院)寄附講座*4吉川眼科クリニックEvaluationofProstaglandinAnalogGlaucomaEyedropContainerUsabilityRyokoHyodo1),YasuhitoHayashi1,2,3),TomoyukiKamao1,2,3),ShiroMizoue2,3),KeijiYoshikawa4)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DivisionofVisualFunctionRegeneration,EhimeUniversitySchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic目的:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性を比較すること.対象および方法:南松山病院において,緑内障もしくは緑内障疑い症例として経過観察中の患者のうち,過去に緑内障点眼薬の使用経験がない者を対象とした.プロスタグランジン点眼薬として現在上市され,点眼容器の性状が異なる,キサラタンR(Xa),トラバタンズR(Tr),タプロスR(Tp)を用いた.各薬剤を無作為に割り付けた順で参加者に渡し,眼の上にセットした透明カップ内に3滴くり返し滴下させた.試験終了後,各容器の使用感(開栓操作,持ちやすさ,押しやすさ,および,薬液の落ち方)に関する聞き取り調査を行った.最後に総合的に最も使用感が優れ,将来使用したいと思われた容器を選択させた.結果は65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者に分けて解析した.結果:試験参加者は32人(男性14人,女性18人,平均年齢61.3歳),うち高齢者は18人,非高齢者は14人であった.高齢者において,開栓操作,容器の持ちやすさと押しやすさはTpがTr,Xaに比べて有意(Tukey多重検定,p<0.05)に優れていた.薬液の落ち方は高齢者においては,TpがXaより有意(Tukey多重検定,p<0.05)に高い評価を得たが,非高齢者群では有意差がなかった.最も優れた点眼容器として両群ともTpを選ぶものが有意(適合性のc2検定,p<0.05)に多かった.結論:3種類のプロスタグランジン点眼容器の使用性はそれぞれ異なり,点眼治療におけるアドヒアランスに影響する可能性が示唆された.Purpose:Toevaluatetheusabilityofeyedropcontainersofthreeprostaglandin(PG)analogs.PatientsandMethods:Enrolledinthisstudywerepatients(14malesand18females,averageage61.3±17.2)withglaucomaorsuspectedglaucomaatMinamimatsuyamaHospitalwhowerenotundergoingeyedroptherapy.ThepatientswererandomlyprovidedoneofthreetypesofPGeyedropcontainers〔XalatanR(Xa),TRAVATANZR(Tz),andTaprosR(Tp)〕.Theywerethenaskedtoopenthecapsanddropadropletofthedrugthreetimesontoatransparentplasticcupthatwasheldabovetheireye.Theyweretheninterviewedastothefeelingsofopeningthecaps,handlingthebottles,squeezingthebottlesanddrippingadropletofthedrug.Theythenchosemultipletermsrelatingtoeyedropbottleusability.Finally,theychosethebestofthethreetypesofeyedropbottles.Statisticalanalysiswasperformedontheelderpatientgroup(.65years)andthenon-elderpatientgroup(<65years).Results:The32participantsweredividedintotheelderpatientgroup(18patients)andthenon-elderpatientgroup(14patients).Intheelderpatientgroup,thefeelingofopeningthecap,handlingandsqueezingtheTpbottlewassignificantlybetterthantheresultsforXaandTz(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05).Alsointheelderpatientgroup,thefeelingofdrippingadropletofTpwassignificantlybetter(Tukey’smultiplecomparisontest,p<0.05)thantheresultsforXa,whereasnosignificantdifferencewasobservedbetweenthethreePGeyedropbottlesinthenon-elderpatientgroup.TheTpbottlewaschosenasthebestcontainerbymostmembersinbothgroups(chi-squaretestforgoodnessoffit,p<0.05).Conclusion:UsabilitydifferedamongthethreetypesofPGeyedropcontainers.Thesedifferencesmayaffecteyedroptherapyadhererance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1127.1132,2010〕1128あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(116)はじめにプロスタグランジン関連点眼薬(PG製剤)は眼圧下降作用と安全性により,緑内障治療の第一選択薬となった.一方,緑内障の有病率は加齢に伴い増加するため1~3)高齢者の緑内障点眼薬の使用頻度も必然的に増加する.以前,筆者らが行った調査により,点眼容器の構造や薬液の性状が使用感に深く関わり4),手指の精緻な運動能力に劣ると考えられる高齢者5)においては,長期使用を強いる緑内障点眼薬を不快に感じていることや,点眼薬間における使用感の差が大きいことが明らかとなった.すなわち,緑内障点眼治療のアドヒアランス向上のためには点眼容器のすぐれた使用性も影響し,特に高齢者ではその点に注目する必要性が高いと考えられる.そこで,現時点だけでなく,将来的にも使用頻度が高いと考えられるPG製剤の点眼容器の使用性に対するアンケート調査を行った.I対象および方法1.プロトコールの審査今回の調査にあたり,事前に南松山病院院内臨床研究審査委員会に所定のプロトコールを提出した.2.対象平成21年6月に南松山病院眼科緑内障外来を受診した年齢が20歳以上の緑内障または緑内障疑い患者のうち点眼治療開始前で,自己点眼が可能と判断され,かつ今回の調査に対し書面による承諾が得られたものを調査対象とした.3.点眼薬の準備点眼薬は図1Aに示す3剤〔キサラタンR点眼液0.005%(Xa),トラバタンズR点眼液0.004%(Tz),タプロスR点眼液0.0015%(Tp)〕を購入し,キャップ部分に(シュリンクフィルムなどによる)包装がある場合は,事前に.がしておき,キャップは一度緩めに軽く締め直した.今回の調査に直接参加しない担当者(Y.O.)が3種類の点眼薬をA,B,Cと無作為に記号化し,さらに,直接試験に参加しないもう1人の割付担当者(K.Y.)が試験開始前に無作為にA,B,Cの順番を割り付けした「割付表」に従い,試験担当者が,試験参加者に手渡した.4.点眼容器使用感の調査試験参加者は,渡された点眼容器それぞれを,キャップの開封から模擬的な点眼操作まで順に行い,試験参加者の眼の高さに試験担当者が保持した透明のカップの中に点眼液を3滴滴下した(図1B).そのうえで試験参加者にキャップの開閉,容器の持ちやすさ,押しやすさと薬液の落ち方について1点から5点での評価を求めた.さらに表1に示す筆者らが用意した16の評価項目について試験担当者が質問を行い,その回答を用紙に書き込んだ.5.データの解析各評価項目を点数化(1.5点)し,65歳以上を高齢者群と65歳未満を非高齢者群と定義して分類し,それぞれの群内で分散分析を行いTukey法により多重比較を施行した.使用したい点眼容器は順位1位のみを適合性のc2検定(仮Keywords:点眼容器,ユーザビリティ,プロスタグランジン関連点眼薬,緑内障,高齢者.eyedropcontainer,usability,prostaglandinanalog,glaucoma,elderlypatient.121086420aABCbc5(cm)20.2930.3940.4950.5960.6970.7980.年齢(歳)人数図1研究デザインと対象A:各点眼容器の形状(a:Xa型,b:Tz型,c:Tp型).B:模擬的な点眼操作.試験参加者は透明のカップの中に点眼液を3滴滴下する.C:試験参加者の年齢分布.(117)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101129説:各点眼容器が選択される確率は33.3%)を施行した.p<0.05の場合,有意であると判定した.16の評価項目はJMPVer8.0(SASインスティチュートジャパン社)を用いてコレスポンディング分析を行った.II結果1.対象承諾が得られ試験に参加したのは合計32名(女性18名,男性14名,平均年齢61.3歳)であった(図1C).非高齢者群14名と高齢者群18名の間で疾患〔緑内障と緑内障疑い(表2)〕と性別(表3)に有意差を認めなかった.2.キャップの開閉のしやすさキャップの開閉のしやすさは非高齢者群ではTp(平均4.1±0.9点)がXa(平均2.7±1.4点)に比べ有意に評価が高かったがTz(平均3.4±1.3点)の間に有意差を認めなかった.高齢者群ではTp(平均4.7±0.7点)がXa(平均3.1±1.4点)とTz(平均3.7±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.4±0.8点)がXa(平均2.9±1.4点)とTz(平均3.5±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図2).3.容器の持ちやすさと押しやすさの評価容器の持ちやすさの5段階評価は,非高齢者群はTp(平均4.3±0.9点)とTz(平均3.1±1.2点)の間に有意差を認めた.高齢者群でもTp(平均4.5±0.8点)はXa(平均3.1±1.3点)とTz(平均2.9±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均4.4±0.8点)はXa(平均3.2±1.1点)とTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図3A).容器の押しやすさの5段階評価は,非高齢者群は3種類の点眼容器間で有意差を認めなかった.高齢者群でTp(平均4.4±0.9点)はXa(平均3.5±1.2点)とTz(平均3.1±1.1点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体ではTp(平均4.1±1.1点)はTz(平均3.0±1.2点)に比べ有意に表3試験参加者の性別と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体女性61218男性8614合計141832表1アンケート調査の内容の要旨問1.キャップの開閉のしやすさ;5段階評価(開閉しにくい:1点~開閉しやすい:5点)問2.容器A,B,Cの容器の持ちやすさ;5段階評価(持ちにくい:1点~持ちやすい:5点)問3.容器A,B,Cの容器の押しやすさ;5段階評価(押しにくい:1点~押しやすい:5点)問4.容器A,B,Cの薬液の落ち方;5段階評価(よくない:1点~丁度良い:5点)問5.お使いいただいた各容器について印象を教えて下さい.選択肢に○をつけていただいても結構ですし,自由に記載しても構いません.・キャップが開けやすい・キャップが開けにくい・キャップが大きい・キャップが小さい・硬い・柔らかい・押しやすい・押しにくい・持ちやすい・持ちにくい・液がなかなか落ちない・液がすぐに落ちてしまう・液の切れが悪い・容器が大きすぎる・容器が小さすぎる・何も気にならない・その他(自由記載)問6.ご病気の治療に使用することのできる目薬が複数ある場合で,全てのお薬の費用・効き目・副作用が同じとします.今回のように容器の使用感を試してからお薬を選べるとしたら,選んで使いたいですか?1.はい2.いいえ問7,問6で「はい」と答えた方へ,これからあなたが長期間に渡って継続的に点眼し続けるとしたら,どの容器を使いたいと思いますか?順番をつけてください.順番容器1番ABC2番ABC3番ABC表2試験参加者の疾患と非高齢者,高齢者の群別の人数65歳未満65歳以上全体緑内障疑い71118緑内障7714合計1418321130あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(118)評価点の平均が高値を示した(図3B).4.薬液の落ち方の評価薬液の落ち方は高齢者群でTp(平均4.3±1.0点)はXa(平均2.9±1.4点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した.全体でもTp(平均3.9±1.1点)はXa(平均3.2±1.3点)に比べ有意に評価点の平均が高値を示した(図4).5.コレスポンディング分析各点眼容器について16の評価項目(表1の問5)のうち,「液の切れが悪い」と「容器が大きすぎる」を選択した試験参加者はなく,その結果14項目にはチェックがついた.Xa54321XaABTz全体分散分析*p<0.0001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0001*p=0.0156Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0134多重比較(Tukey法)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0001多重比較(Tukey法)*p=0.0010*p=0.0002Tp54321XaTz全体分散分析*p=0.0031多重比較(Tukey法)*p=0.0020Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.3155(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0026多重比較(Tukey法)*p=0.0420*p=0.0022Tp図3容器の持ちやすさと押しやすさの評価A:容器が持ちにくいの1点から持ちやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.B:容器が押しにくいの1点から押しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.54321XaTz全体分散分析*p<0.001多重比較(Tukey法)*p<0.0001*p<0.0065Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.0133多重比較(Tukey法)*p=0.0097Tp54321XaTz高齢者分散分析*p<0.0003多重比較(Tukey法)*p=0.0002*p<0.0250Tp図2キャップの開閉のしやすさの5段階評価開閉しにくいの1点から開閉しやすいの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.(119)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101131は「キャップが小さい」「容器が柔らかい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多く,Tzは「容器が押しにくい」「液が落ちない」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.Tpでは「容器が持ちやすい」「キャップが大きい」を選択した試験参加者が他2点眼容器より多かった.さらに,これら多項目による分析結果を可視化するため,ポジショニングマップを作成した(図5).6.点眼容器の総合評価点眼薬の費用・効き目・副作用が同じ場合,容器の使用感を試してから選んで使いたいかの質問には全員が「はい」と回答した.そこで長期間継続的に点眼し続けるとした場合,最も使用したい点眼容器をとして選択したのは全体,非高齢者群,高齢者群ともTpが有意に多かった(それぞれp<0.00001,p=0.0021,p=0.0103)(図6).III考按緑内障診療における点眼治療の重要性6)については言を待たないが,その成否にはアドヒアランスが大きな鍵を握っている.以前に筆者らが報告した点眼薬使用感のアンケート調査4)では,点眼薬間で使用感に大きなばらつきがあり,特定の点眼薬で患者が点眼動作を不快に感じていることが示されており,また緑内障点眼容器の押し圧力計測では,1滴を落とすために必要とされる押し圧力が点眼薬により数倍も異なることが報告されている7).一方,わが国における高齢化は顕著であり,緑内障患者に占める高齢者の割合も今後さらに増加することが予想される.その治療には,眼圧下降作用の強さと全身に対する安全性より,PG製剤がこれから先も第一選択薬として処方される可能性が高い.よってPG製剤の使用感を高めるための取り組みは重要である.今回のアンケート調査では,経験に基づく先入観を避けるため,点眼薬の使用経験がない集団を対象として選択したが,使用感を真剣に吟味できる集団として,近日中に点眼薬54321XaTz全体分散分析*p=0.0322多重比較(Tukey法)*p=0.0299Tp54321XaTz非高齢者分散分析*p=0.8865(ns)Tp54321XaTz高齢者分散分析*p=0.0066多重比較(Tukey法)*p=0.0050Tp図4薬液の落ち方の評価薬液の落ち方が良くないの1点から丁度良いの5点までの5段階評価の結果を全体と65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群に分類して統計解析.その点数に評価した人数(度数)を○の数で表示し,エラーバーは平均値±標準偏差を示す.c1XaTzTpキャップが開けにくいキャップが開けやすいキャップが小さいキャップが大きい液が落ちない液が落ちる何も気にならない容器が押しにくい容器が押しやすい容器が硬い容器が持ちにくい容器が持ちやすい容器が柔らかい容器が小さすぎるc2-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0図5コレスポンディング分析によるポジショニングマップ3種類の点眼容器●と筆者らが準備した点眼容器の性状を示す16項目■との距離で表現している.距離が近いほど関係が深い.16項目のうち2項目については選択した試験参加者が存在せず,図には示されていない.全体*p<0.00001Tp*(23)Xa(4)Tz(5)Xa(2)Tz(3)Xa(2)Tz(2)Tp*(13)Tp*(10)高齢者*p=0.0021非高齢者*p=0.0103図6点眼容器の総合評価1132あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(120)治療を開始する予定である患者を調査の対象としたため,多数の参加者は得られなかった.にもかかわらず,今回,高齢者群では3種類のPG製剤間でキャップや容器の使用感について明らかな違いが認められたことは興味深く,高齢者では各容器の構造がその使用性に,より鋭敏に反映されることが窺えた.これは,非高齢者では問題にならない程度であっても,高齢者でみられる指先の力などの衰えが容器の扱いにくさ,すなわち,Xaのキャップの開閉のしにくさや,Tzの容器の持ちにくさ,押しにくさに結びつくものと考えられる.一方,今回の点眼容器の使用性調査で高齢者,非高齢者ともに平均スコアが高値を示し,使用感が良好であると考えられたのはTp型の容器であった.Tp型の容器は他の容器と異なり把持部に凹み(ディンプル12))を有しているため,点眼時の指先の操作がしやすいためと考えた.このような点眼容器の構造上の工夫は,年齢を問わず,その使用感の向上に寄与するが,特に,高齢者ではその影響が大きいものと考えた.点眼薬の円滑な使用にあたっては点眼指導8~10)や点眼補助具の開発11)も必要不可欠である.しかし,今回の結果から高齢者では点眼治療のアドヒアランスの向上のために,患者の要望や意見を反映した点眼容器の作製が求められるべきであることが強く示唆された.使用性の改善をめざした点眼容器のユニバーサルデザイン化が大いに望まれる.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:RiskfactorsforopenangleglaucomainaJapanesepopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20063)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20054)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20075)MathiowetzV,KashumanN,VollandGetal:Gripandpinchstrength:Normativedataforadult.ArchPhysMedRehabil66:69-74,19856)青山裕美子:教育講座緑内障の点眼指導とコメディカルへの期待緑内障と失明の重み.看護学雑誌68:998-1003,20047)兵頭涼子,林康人,溝上志朗ほか:圧力センサーによる緑内障点眼剤の点眼のしやすさの評価.あたらしい眼科27:99-104,20108)吉川啓司:〔緑内障診療のトラブルシューティング〕薬物治療点眼指導の実際.眼科診療プラクティス98:119-120,20039)木下眞美子:自己点眼継続に向けた高齢者への点眼指導後の効果.眼科ケア6:388-392,200410)福本珠貴,渡邊津子,井伊優子ほか:〔患者さんにまつわる小さな「困った」対処法50〕点眼指導で起こりうる小さな「困った」対処法.眼科ケア8:242-248,200611)沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護学雑誌69:366-368,200512)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,2005***

タフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1115《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1115.1118,2010cはじめに今日の緑内障薬物治療において,強力な眼圧下降を有し,全身的な副作用が少ないプロスタグランジン系眼圧下降薬が治療の中心となっている1).タフルプロスト点眼液は,わが国において2008年12月に発売されたプロスタノイドFP受容体に対して高い親和性を示す新しいプロスタグランジン系眼圧下降薬である2).緑内障治療において,眼圧下降が最も重要であることは周知のとおりであるが,眼圧下降が十分であるにもかかわらず,視野障害が進行する症例が存在する.眼圧以外の緑内障性視神経障害進行因子の一つとして眼循環障害が示唆されている.緑内障患者において眼循環が障害されているという報告3,4)や,Ca(カルシウム)拮抗薬であるニルバジピンを投与すると,プラセボ群に比べ,眼循環が有意に改善され,視野のMDスロープが緩やかであったという報告もある5).タフルプロストは強力な眼圧下降作用6,7)に加え,動物において眼循環を増加させることが報告されている8,9).しかしながら,緑内障患者における眼血流動態への影響は明らか〔別刷請求先〕石垣純子:〒462-0825名古屋市北区大曽根三丁目15-68眼科三宅病院Reprintrequests:JunkoIshigaki,M.D.,MiyakeEyeHospital,3-15-68Ozone,Kita-ku,Nagoya-city462-0825,JAPANタフルプロスト点眼液の緑内障患者脈絡膜血流への影響の検討石垣純子*1三宅三平*1張野正誉*2三宅謙作*1*1眼科三宅病院*2淀川キリスト教病院EffectofTafluprostonChoroidalBloodFlowinGlaucomaJunkoIshigaki1),SampeiMiyake1),SeiyoHarino2)andKensakuMiyake1)1)MiyakeEyeHospital,2)YodogawaChristianHospital目的:原発開放隅角緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼液の眼血流への影響をlaserDopplerflowmetry(LDF)により検討した.対象および方法:新規に緑内障治療開始または4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障12例20眼を対象とした.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)であった.タフルプロスト点眼前に,眼圧,血圧,脈拍およびLDFによる黄斑部の脈絡膜血流量を測定した.タフルプロストは1日1回8週間点眼し,点眼前後の眼圧,眼血流,血圧,脈拍および眼灌流圧を比較した.結果:眼圧は点眼前に比べ有意に低下した.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の脈絡膜血流量は,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比べ有意に増加した.結論:タフルプロスト点眼により緑内障患者において脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.Purpose:Weevaluatedtheeffectoftafluprostonocularbloodflowinglaucomapatients,usinglaserDopplerflowmetry(LDF).SubjectsandMethods:Recruitedforthisstudywere20eyesof12primaryopen-angleglaucomapatientsbeingnewlytreatedorhavingbeenuntreatedformorethan4weeks.Agewas53.3±15.0years(mean±SEM).Beforetafluprostinstillation,wemeasuredintraocularpressure(IOP),brachialarterybloodpressureandpulserate.Wealsomeasuredchoroidalmicrocirculationinthefovea,usingLDF.Tafluprostwasinstilledoncedailyfor8weeks.WecomparedIOP,ocularbloodflow,brachialarterybloodpressure,pulserateandocularperfusionpressurebeforeandaftertafluprosttreatment.Results:TreatmentwithtafluprostresultedinasignificantdecreaseinIOP.Choroidalbloodflownormalizedtobaselineshowedsignificantincreaseat4and8weeksaftertreatment(117.8±9.7%and123.5±13.3%,respectively).Conclusion:Tafluprostmayincreasechoroidalmicrocirculationinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1115.1118,2010〕Keywords:タフルプロスト,緑内障,眼血流,脈絡膜,laserDopplerflowmetry(LDF).tafluprost,glaucoma,ocularbloodflow,choroid,laserDopplerflowmetry(LDF).1116あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(104)となっていない.今回筆者らは,緑内障患者を対象として,タフルプロスト点眼前後の中心窩脈絡膜微小循環をlaserDopplerflowmetry(LDF)を用いて検討した.I対象および方法対象は新規に緑内障治療開始,もしくは4週間以上緑内障治療薬未使用であった原発開放隅角緑内障(広義)12例20眼(男性5例10眼,女性7例10眼)である.症例の内訳は,原発開放隅角緑内障(狭義)1例2眼,正常眼圧緑内障11例18眼であった.年齢は53.3±15.0歳(平均±標準偏差)(37~77歳),等価球面度数は.3.9±3.4D(.9.75~+0.25D)であった.喫煙者,眼血流測定が不可能な症例(眼振,固視不良,散瞳不良,高度白内障など),研究開始前6カ月以内に内眼手術,レーザー手術の既往があるもの,研究期間中に血流動態に影響を与える薬剤(降圧薬,利尿薬,抗血小板凝集薬,高脂血症治療薬,血栓溶解剤,心疾患治療薬,動脈硬化治療薬,糖尿病治療薬,末梢循環改善薬など)の追加,変更,中止が必要な症例は除外した.本研究は,医療法人湘山会眼科三宅病院倫理審査委員会の承認を受け,事前に自由意志に基づく文書による同意を得たうえで実施した.検査初日(点眼前)に,眼圧(Goldmann圧平眼圧計),上腕動脈血圧(自動血圧計),脈拍および眼血流を測定した.点眼前,点眼4週後および8週後の検査は午前のほぼ同時刻に実施した.点眼4週後および8週後の各検査は,点眼2~5時間後であった.眼圧測定および眼血流測定は研究期間中を通じ同一検者が実施した.タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%,参天製薬,大阪)は1日1回朝点眼した.眼血流はLDF(OculixSarl,Arbaz,Switzerland)にて測定した.LDFはレーザー光を組織に照射し,組織中を移動する赤血球にあたってランダムに反射してきた光を解析することで毛細血管の相対的組織血流量を測定できる機械であり,その測定の原理,方法は既報のごとくである10,11).0.5%トロピカミド/0.5%フェニレフリン点眼液(ミドリンPR点眼液0.4%,参天製薬,大阪)を用いて散瞳させ,LDFにて670nm,40μWのダイオードレーザーを中心窩150μmの範囲に照射した.組織中を流れる赤血球にあたって反射したレーザー光を光電子倍増管で感知し,血流解析装置を通して得た中心窩脈絡膜毛細血管板のFlow(血流量),Velocity(平均血流速度)およびVolume(組織中を移動する赤血球数)をコンピュータに連続的に記録した.なお,これらのパラメータの間には,Flow=constant(比例定数)×Velocity×Volumeの関係があることが報告されている12).血流測定中の固視はLDFが組み込まれた眼底カメラにて確認し,各パラメータは3回測定分の平均値を採用した.点眼前後の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,眼灌流圧(2/3平均血圧.眼圧),脈拍,血流パラメータについて,反復測定一元配置分散分析(repeatedANOVA)およびDunnett多重比較検定にて検討した.平均血圧は拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)にて算出した.危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,LDFの血流パラメータは相対値であるため,各症例について点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の変化量を算出した.II結果本測定法における中心窩脈絡膜Flow,VelocityおよびVolumeの変動係数は,それぞれ7.3%,8.9%および12.5%であった.点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flowは,117.8±9.7%および123.5±13.3%であり点眼前に比し有意に増加した(p<0.001)(図1,表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVelocityは105.6±10.5%および105.6±14.1%であり,点眼前値と比較し有意な変化はなかった(表1).点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のVolumeは118.1±27.1%および119.4±20.8%と点眼前に比し有意な増加を認めた(p<0.05,p<0.05)(表1).眼圧は点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,16.5±1.9mmHg,14.5±2.1mmHgおよび14.1±2.8mmHgであり,投与前に比べ有意な眼圧下降が認められた(p<0.01)表1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeの推移4週8週Flow(%)117.8±9.7***123.5±13.3***Velocity(%)105.6±10.5105.6±14.1Volume(%)118.1±27.1*119.4±20.8*点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後の中心窩脈絡膜Flow,Velocity,Volumeを算出した.平均±標準偏差.*p<0.05,***p<0.001.901001101201301400週4週8週Flow(眼血流量)(%)******図1タフルプロスト点眼による中心窩脈絡膜Flow(血流量)の推移点眼前の値を100%とした点眼4週後および8週後のFlowは点眼前に比べ有意に増加した(p<0.001).平均±標準偏差.***p<0.001.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101117(図2).点眼4週後および8週後の点眼前からの眼圧変化値はそれぞれ1.9±2.0mmHgおよび2.2±2.3mmHg,眼圧変化率はそれぞれ11.1±11.6%および13.5±13.7%であった.収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍は点眼前後で有意な変化はなかった.眼灌流圧は,点眼前,点眼4週後および8週後はそれぞれ,43.6±7.5mmHg,45.9±7.1mmHgおよび45.8±7.2mmHgであり,点眼前に比べ有意な変化はなかった(表2).III考察本研究においてタフルプロストの点眼により,4週後および8週後において有意なFlowおよびVolumeの増加が認められた.Velocityについては,有意な変化を認めなかった.本研究では,LDFを用い,中心窩の脈絡膜微小循環を検討した.LDFは測定面積が直径150μmと小さいため,固視が最も良好な中心窩での測定を実施した.中心窩には網膜血管がないため,網膜循環の影響を回避してその下の脈絡膜循環を測定できることがわかっている13).緑内障の本質が進行性の視神経障害であることを考えれば,緑内障に関わる眼循環測定の対象として,視神経,視神経乳頭およびその周辺組織が最も重要であると考えられるが,脈絡膜循環においても緑内障患者で障害されているという報告がある14,15)ことから,緑内障患者において脈絡膜微小循環の改善を示唆した本研究は臨床的に意義があると考える.プロスタグランジン系眼圧下降薬の緑内障患者への眼血流への影響については,眼循環が改善した16,17),あるいは不変であった18,19)との報告があり意見の一致はみていない.またLDFでプロスタグランジン系眼圧下降薬の眼血流への影響を評価したものはない.タフルプロスト点眼が眼循環に及ぼす影響については,動物実験による報告がある.Izumiら8)は,ネコにおいて,タフルプロスト点眼後明らかな網膜循環の増加があったと報告している.石田9)は,有色家兎において乳頭微小循環はタフルプロスト点眼28日後,点眼前に比べ明らかに増加したことを報告している.今回の検討結果は,これら過去の報告を支持するものと考えられる.プロスタグランジン系眼圧下降薬が眼循環を増加させる機序については,不明な点も多いものの,プロスタグランジンF2aやラタノプロストがウサギおとがい下静脈を弛緩させる20)という報告や,ラタノプロストがウサギ毛様体動脈を弛緩させるとの報告がある21).また,タフルプロストは容量依存性カルシウムチャネルを通した細胞外カルシウム流入を阻害することにより,ウサギ毛様体動脈平滑筋を弛緩させるとの報告がある22).脈絡膜微小循環について検討した本研究では,FlowおよびVolumeはタフルプロスト点眼前に比べ120%程度顕著に増加したのに対し,Velocityの増加量は105%程度とわずかであった.一方,網膜主幹動脈について検討したIzumiら8)はタフルプロスト点眼後,FlowおよびVelocityは有意に増加し,Diameterには影響がなかったと報告している.以上のことから,タフルプロストの眼血流への作用として,脈絡膜微小循環においては血管を拡張して血流量を増加させ(速度には影響なし),太い血管である網膜主幹動脈においては血流速度を上昇させる(血管径には影響なし)可能性が考えられる.また,全身循環パラメータに顕著な変化が認められないことから,タフルプロストによる眼血流増加は全身血圧の影響を受けたものではないと考えられる.眼血流が増加する機序としては,薬剤の血管拡張作用のほか,眼圧低下による眼灌流圧上昇のための血流量増加があげられる.前者は薬剤の直接作用,後者は間接作用と考えられる.タフルプロスト点眼後,眼灌流圧への作用はないことから,眼血管系への直接作用により眼血流増加を示したものと考えられた.タフルプロストの点眼により,4週後から有意な眼圧下降を示した.4週後および8週後の眼圧下降率はそれぞれ11.1±11.6%,13.5±13.7%であり,桑山らの報告27.6±9.6%7)と比較して低い.一因として,点眼前の平均眼圧が,桑山らの報告が23.8±2.3mmHgであったのに対し,本研究では16.5±1.9mmHgと低値であることが考えられる.対象患者について,桑山らの報告が原発開放隅角緑内障(狭義)または高眼圧症であったのに対し,本研究では対象20眼中,原表2タフルプロスト点眼前後の収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍,眼灌流圧の推移0週4週8週収縮期血圧(mmHg)120.3±12.3120.3±15.0120.1±13.9拡張期血圧(mmHg)74.1±11.774.0±12.772.6±12.9脈拍(回/分)65.3±5.666.0±7.865.3±6.2眼灌流圧(mmHg)43.6±7.545.9±7.145.8±7.2収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍および眼灌流圧いずれも点眼前後で有意な変化はなかった.1012141618200週4週8週眼圧(mmHg)*****図2タフルプロスト点眼による眼圧推移タフルプロストの点眼4週後および8週後において点眼前値からの有意な眼圧下降を示した.平均±標準偏差.**p<0.01,***p<0.001.1118あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(106)発開放隅角緑内障(狭義)2眼,正常眼圧緑内障18眼であった.また本研究の眼圧は,点眼2.5時間後に測定したが,同じプロスタグランジン系眼圧下降薬のラタノプロストの眼圧が最低値(ピーク時眼圧)となるのは点眼8時間後であり23),タフルプロストも同時間帯にピーク時眼圧が得られると考えられることから,眼圧測定時間が変われば,さらなる眼圧下降が得られる可能性はある.今回の検討結果から,タフルプロスト点眼により緑内障患者において眼圧下降とともに脈絡膜微小循環が増加することが示唆された.基剤の関与の有無および測定部位別の詳細な検討を含め,今後多数例を対象とした長期的な検討が必要である.なお,本研究において,筆者らは,タフルプロスト点眼液の製造販売会社などとの間に利害関係はないことを明記する.文献1)相良健:緑内障の治療・薬物治療.あたらしい眼科25(臨増):142-144,20082)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)FlammerJ,OrgulS,CostaVPetal:Theimpactofocularbloodflowinglaucoma.ProgRetinEyeRes21:359-393,20024)遠藤要子,伊藤典彦,榮木尚子ほか:正常眼圧緑内障の傍網膜中心窩毛細血管血流速度.あたらしい眼科25:865-867,20085)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,20086)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF(2alpha)derivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20037)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20088)IzumiN,NagaokaT,SatoEetal:Short-termeffectsoftopicaltafluprostonretinalbloodflowincats.JOculPharmacolTher24:521-526,20089)石田成弘:プロスタグランジン関連薬─基礎─.眼薬理22:27-30,200810)北西久仁子,張野正誉:LaserDopplerFlowmetry.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p60-64,金原出版,200411)RivaCE,CranstounSD,GrunwaldJEetal:Choroidalbloodflowinthefovealregionofthehumanocularfundus.InvestOphthalmolVisSci35:4273-4281,199412)RivaCE:BasicprinciplesoflaserDopplerflowmetryandapplicationtotheocularcirculation.IntOphthalmol23:183-189,200113)吉田晃敏,長岡泰司:Flowmeter─視神経・脈絡膜─.NEWMOOK眼科7,眼循環(吉田晃敏編),p74-77,金原出版,200414)DuijmHF,vandenBergTJ,GreveEL:Choroidalhaemodynamicsinglaucoma.BrJOphthalmol81:735-742,199715)YamazakiS,InoueY,YoshikawaK:Peripapillaryfluoresceinangiographicfindingsinprimaryopenangleglaucoma.BrJOphthalmol80:812-817,199616)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye(Lond)22:363-369,200817)AlagozG,GurelK,BayerAetal:Acomparativestudyofbimatoprostandtravoprost:effectonintraocularpressureandocularcirculationinnewlydiagnosedglaucomapatients.Ophthalmologica222:88-95,200818)KozOG,OzsoyA,YarangumeliAetal:Comparisonoftheeffectsoftravoprost,latanoprostandbimatoprostonocularcirculation:a6-monthclinicaltrial.ActaOphthalmolScand85:838-843,200719)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandomizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,200520)AstinM,StjernschantzJ:MechanismofprostaglandinE2-,F2alpha-andlatanoprostacid-inducedrelaxationofsubmentalveins.EurJPharmacol340:195-201,199721)IshikawaH,YoshitomiT,MashimoKetal:Pharmacologicaleffectsoflatanoprost,prostaglandinE2,andF2alphaonisolatedrabbitciliaryartery.GraefesArchClinExpOphthalmol240:120-125,200222)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitci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点眼容器の形状のハンドリングに対する影響

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)1107《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1107.1111,2010cはじめに眼疾患の治療において点眼薬の役割は大きい.特に緑内障のように自覚症状に乏しく,しかし,進行性の視機能障害を認める疾患では,その治療の成否には点眼薬の継続的使用,すなわちアドヒアランスが大きく関与する1~3).アドヒアランスに影響を及ぼす要因は多数あるが,点眼回数4,5)や点眼薬剤数6~9),点眼容器の使用性10,11)なども関連する要因の一つにあげられている.このうち,点眼容器の使用性には,キャップの開閉や容器の把持,内容液の滴下などのハンドリングも影響する10).しかし,点眼容器の形状とハンドリングに関しての検討は十分にされていない.そこで,今回,緑内障を対象としてすでに臨床使用されている点眼薬を用いた模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状の違いがハンドリングに及ぼす影響についてインタビュー調査した.また,点眼薬の使用が短期間に限られ,かつ明らかな自覚症状を伴う季節性アレルギー性結膜炎についても同様の調査を行い,結果を比較検討したので報告する.I対象および方法2009年5月から1カ月間に岡山大学病院および笠岡第一病院で,点眼治療期間が1年以上にわたる緑内障と,点眼治〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN点眼容器の形状のハンドリングに対する影響高橋真紀子*1,2内藤知子*2大月洋*2溝上志朗*3吉川啓司*4*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4吉川眼科クリニックInfluenceofEyedropBottleShapeonHandlingMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),HiroshiOhtsuki2),ShiroMizoue3)andKeijiYoshikawa4)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)YoshikawaEyeClinic緑内障50例を対象に5種類の点眼薬(リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)の容器を用いて模擬点眼試験を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングに及ぼす影響を調査した.同様に季節性アレルギー性結膜炎50例に対しても調査を行い,その結果を比較した.ハンドリングは,緑内障,季節性アレルギー性結膜炎とも,キャップ,容器の把持する部分が長い点眼容器が高スコアを示した.さらに胴部に凹みがあるタプロスRの点眼容器は,他の容器に比べ有意に高スコアを示した(p<0.05~p<0.0001,Tukey法).また,今後の治療時に使用希望する点眼容器としてタプロスRの点眼容器が有意に第一に選択された(結膜炎:p=0.0001,緑内障:p<0.0001,適合性のc2検定).Thisinstillationtrial,involving50glaucomapatientsand50seasonalallergicconjunctivitispatients,wascarriedoutusing5kindsofeyedropbottles(RizabenR,LivostinR,XalatanR,TRAVATANZRandTaprosR);theinfluenceofeyedropbottleshapeonhandlingwasalsoinvestigated.Inboththeglaucomaandconjunctivitispatients,thebottlewithalongcapandthebottletoholdreceivedhighscoresintermsofhandling.Inaddition,theTaprosRtypebottle,withthedentinthebody,receivedhigherscoresthanalltheotherbottles(p<0.05~p<0.0001,Tukeytest).Inthechoiceofeyedropbottletousefortreatmenthenceforth,theTaprosRtypebottlewasthetopchoicebyasignificantmargin(conjunctivitis:p=0.0001,glaucoma:p<0.0001,chi-squaretestwhereappropriate).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1107.1111,2010〕Keywords:点眼容器,ハンドリング,緑内障,結膜炎.eyedropbottle,handling,glaucoma,conjunctivitis.1108あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(96)療を1カ月以内で終了した季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,模擬点眼操作施行後に,使用した点眼容器のハンドリングについてインタビュー調査した.対象には年齢40~75歳で,かつ,書面での同意が得られた症例を組み入れ,一方,手術や緊急的な処置の必要のある症例,明らかな重篤な眼疾患を有する症例,他の眼疾患に対し本試験で使用する容器と同形状の容器を使用中の症例は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院倫理委員会の承認を得たうえで実施した.点眼容器(図1)には実薬が装.されたプロスタグランジン関連緑内障薬3種類(キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR)およびアレルギー性結膜炎薬2種類(リザベンR,リボスチンR)を用いた.ラテン方格により割り付けた(YK)試験順序に従い,模擬点眼操作(キャップを開栓し,それぞれが最も好ましい高さで把持した点眼容器から,薬液をあらかじめ用意したシャーレに滴下)を施行した.なお,試験に先立ち,1名の眼科専門医(TM)が点眼容器のキャップ部分にシュリンクフィルムなどによる包装がある場合はこれを.離し,さらに,キャップは一度開栓し,再び閉栓した.また,点眼容器は10名の試験が終了した時点で,同様の準備を施行した未使用の容器に交換した.模擬点眼操作後,眼科専門医(TM)が点眼容器のハンドリングを中心としたインタビュー調査を行った.まず,ハンドリングに関しては,1.キャップの開閉のしやすさ,2.容器の持ちやすさ,3.容器の押しやすさ,4.薬液の落ち方の4項目に分けて調べた.それぞれの項目について,大変良い,良い,意識しない,やや悪い,悪い,の5段階での評価を求め,これをスコア化した(大変良い:スコア5,良い:スコア4,意識しない:スコア3,やや悪い:スコア2,悪い:スコア1).つぎに,その薬効,薬価などが同一と仮定した場合,今後の治療時に使用を希望する点眼容器の選択を調べ,さらに,点眼容器への自由意見も聴取した.目標症例数は各疾患50例とし,得られた結果はデータ収集施設とは独立しJMP8.0(SAS東京)を用い,Tukey法,c2検定,Fisherの直接確率により解析(MS)した.有意水準はp<0.05とした.II結果緑内障50例(男性26例,女性24例,平均年齢62.7±9.5歳),結膜炎50例(男性16例,女性34例,平均年齢50.9±10.7歳)が試験に参加し対象となった.1.各点眼容器のキャップ・容器のサイズおよび形状(図1)点眼容器のキャップのサイズ(最長部の横径×縦径)は,タプロスRが最も大型で,キサラタンRが最も小型であった.また,リボスチンR,トラバタンズRはキャップ先端の形状が凸であった.一方,容器のサイズはタプロスRが最も大型で,その胴部は凹んでいた.容器の横径はリザベンRが最も小型で,その胴部は円柱状であり,キサラタンR,トラバタンズRの容器は小型で,胴部は平坦であった.2.点眼容器のハンドリング評価ハンドリングについての5段階スコアを点眼容器間で多重比較(Tukey法)した(図2).キャップの開閉のしやすさ(図2a)の平均スコアは,結膜炎群ではタプロスR(3.9±1.0),リボスチンR(3.9±1.0),リザベンR(3.7±1.1),トラバタンズR(3.5±1.1),キサラタンR(2.8±1.3)の順であり,緑内障群でも同様であった(タプロスR:3.9±1.0,リザベンR:3.7±0.9,リボスチンR:3.2±0.8,トラバタンズR:3.0±0.9,キサラタンR:2.7±1.1).両疾患群ともキサラタンRのスコアが最も低く,特に結膜炎群リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR1.81.82.22.61.91.7(単位:cm)1.72.02.55.42.12.62.52.05.34.95.25.71.12.0キャップのサイズ・形状容器のサイズ・形状図1使用点眼容器のサイズおよび形状(97)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101109においては他の容器に比べ有意に低値を示した(p<0.05~p<0.0001).一方,緑内障群ではリボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRのスコアがタプロスR,リザベンRに比べ有意に低かった(キサラタンRvsタプロスR,リザベンR:p<0.0001,トラバタンズRvsタプロスR:p<0.001,トラバタンズRvsリザベンR,リボスチンRvsタプロスR:p<0.01,リボスチンRvsリザベンR:p<0.05).容器の持ちやすさのスコア(図2b)は,結膜炎群ではタプロスR,リザベンR,リボスチンR,キサラタンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様であった.両疾患群ともタプロスRのスコアが,他の容器に比べ有意に高値を示した(p<0.01~p<0.0001).容器の押しやすさのスコア(図2c)は,結膜炎群ではタプロスR,キサラタンR,リボスチンR,リザベンR,トラバタンズRの順であり,緑内障群でも同様の傾向であった.両疾患群とも,タプロスRのスコアがリザベンR,トラバタンズRに比べ有意に高かった(p<0.05~p<0.001).さらに,緑内障群ではリボスチンRのスコアが,キサラタンR,タプロスRに比べ有意に低値を示した(p<0.0001).図2点眼容器のハンドリング評価:平均値±標準偏差:結膜炎群,:緑内障群.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001:Tukey法.ただし,すべてのTukey法の結果をグラフ内に示すと煩雑になるため,a,cは主要な結果のみグラフ内に示し,他は本文中に結果を示した.Riz:リザベンR,Liv:リボスチンR,Xal:キサラタンR,Tra:トラバタンズR,Tap:タプロスR.(点)RizLivXalTraTap***********54321(点)RizLivXalTraTap54321*************************(点)RizLivXalTraTap54321***********(点)RizLivXalTraTap54321***RizLivXalTraTap結膜炎3.7±1.13.9±1.02.8±1.33.5±1.13.9±1.0緑内障3.7±0.93.2±0.82.7±1.13.0±0.93.9±1.0a:キャップの開閉のしやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.1±1.03.2±1.13.3±1.13.0±1.33.7±1.0緑内障3.2±0.82.7±0.83.6±1.03.1±1.03.9±1.0c:容器の押しやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±0.93.3±0.83.2±1.13.1±1.24.2±0.9緑内障3.4±0.83.0±0.73.5±0.93.3±1.04.1±0.9b:容器の持ちやすさRizLivXalTraTap結膜炎3.4±1.03.4±1.13.2±1.03.5±1.13.7±1.0緑内障3.2±0.82.8±0.73.1±0.93.2±0.83.3±0.8d:薬液の落ち方1110あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(98)薬液の落ち方のスコア(図2d)は,結膜炎群ではタプロスR,トラバタンズR,リボスチンR,リザベンR,キサラタンRの順で,緑内障群ではタプロスR,リザベンR,トラバタンズR,キサラタンR,リボスチンRの順であった.結膜炎群では明らかな容器間の差を認めなかったのに対し,緑内障群はリボスチンRのスコアが,リザベンR,タプロスRに比べ有意に低く(p=0.0387,p=0.0057),容器の違いによる薬液の落ち方の差に鋭敏に反応した.3.今後の治療時に使用を希望する点眼容器今後の治療時に使用を希望する点眼容器(図3)として,結膜炎群ではタプロスR23例(46.0%),リボスチンR10例(20.0%),トラバタンズR8例(16.0%),リザベンR5例(10.0%),キサラタンR4例(8.0%)の順に,緑内障群ではタプロスR22例(44.0%),キサラタンR12例(24.0%),トラバタンズR7例(14.0%),リザベンR7例(14.0%),リボスチンR2例(4.0%)の順に選択された.両疾患群とも,タプロスRの点眼容器が有意に第一選択となった(結膜炎群:p=0.0001,緑内障群:p<0.0001).4.点眼容器への自由意見点眼容器への要望などに対する自由意見では,結膜炎群12例(24.0%),緑内障群21例(42.0%)に回答があり,緑内障群のほうが点眼容器に対する意見を多くもつ傾向がみられた(p=0.0556:c2検定).さらに,緑内障群は意見数が多いだけでなく,回答内容も多彩であり,得られた意見数(結膜炎群:22,緑内障群:52)のうち,ハンドリング関連以外の意見の比率は,緑内障群(18:34.6%)で結膜炎群(2:9.1%)に比べ有意に高頻度であった(p=0.0252:Fisherの直接確率).III考按緑内障および季節性アレルギー性結膜炎(結膜炎)に対し,代表的点眼薬とその容器を用い,点眼容器のハンドリングに関するインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がハンドリングに影響することが示唆された.点眼容器の使用性やハンドリングは点眼薬の継続的な使用に影響する可能性がある10,11).しかし,自覚症状を伴い比較的短期治療が想定され,さらに点眼による治療効果が実感できる疾患ではその影響が少なく,一方,自覚症状に乏しく長期治療が想定される疾患では,ハンドリングの良否が点眼の継続使用の妨げとなることも推測される.そこで,今回,自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障と,掻痒感などの自覚症状が明らかな急性疾患である季節性アレルギー性結膜炎の両者に対し,容器の形状のハンドリングへの影響を調査した.今回,緑内障点眼薬としては,現在の緑内障治療において第一選択であるプロスタグランジン(PG)関連薬のうち,調査時にわが国で使用可能であった3種類を,また結膜炎点眼薬としては,使用割合の多い代表的点眼薬のうち,明らかに302010057***(例)102412872322リザベンRリボスチンRキサラタンRトラバタンズRタプロスR図3今後の治療時に使用希望する点眼容器:結膜炎群,:緑内障群.*p=0.0001,**p<0.0001:適合性のc2検定.キャップの開閉残量の見え方薬液の落ち方容器の押しやすさ色による判別ラベルの.がしやすさ容器の大きさ1.9%キャップが転がるキャップの形キャップの大きさ汚染1.9%キャップの開閉容器の大きさ薬液の落ち方容器の硬さ1.9%容器の形容器の形容器の硬さキャップが転がる容器の持ちやすさ意見数22形による判別1.9%回答12/50例携帯しやすい携帯しやすい1.9%液が早くなくなりそう1.9%容器の持ちやすさ1.9%27.3%18.2%22.7%9.1%9.1%4.5%4.5%4.5%19.2%15.4%9.6%7.7%11.5%5.8%3.8%3.8%5.8%3.8%結膜炎意見数52回答21/50例緑内障図4点眼容器への自由意見:ハンドリング関連の意見,:ハンドリング以外の意見.(99)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101111形状が異なる2種類の点眼容器を,ハンドリングを比較する本調査に適すると考えて選択した.調査法としては模擬点眼操作を採用した.模擬点眼では点眼容器を扱い点眼薬を滴下するが,点眼薬をシャーレに滴下することで,眼表面への点入による刺激感や違和感など点眼容器以外の要因が排除されるため,点眼容器の違いによるハンドリングへの影響がより鋭敏に反映されると考えたためである.また,点眼操作前には,あらかじめ各点眼容器のキャップ部分を覆うラベルなどは.離したうえで開栓し,その後,緩く締め直した容器を準備することにより,点眼容器の使用前に必要となる操作10)の調査結果への影響の最小化を企図した.さらに,実際点眼時の使用感を可能な限り再現するために,容器胴体部分のラベルは.離せず,薬液は実薬を用いた.模擬点眼操作によるハンドリングの印象をよく反映した回答を得るため,点眼操作の直後に,検者が被検者に直接インタビューを行った.さらに,インタビューで得られた5段階評価を5点満点でスコア化し12),疾患群や点眼容器ごとに平均スコアを算出し,これを比較することによりハンドリングを評価した.その結果,結膜炎,緑内障患者ともに,キャップ,容器を把持するのに十分な長さ,太さを有する形状の点眼容器が高スコアを示し,その評価に疾患による明らかな差はなかった.今回は模擬点眼下でインタビューを行ったため,点眼薬を使用する際の点眼容器の形状の違いがハンドリング評価に反映された一方で,病態の違いによる差は検出されにくかったものと推察される.なお,特に,点眼容器を把持する胴部に凹みがある形状の容器は,持ちやすさ,押しやすさにおけるスコアが高値であり,容器の形状がハンドリング,すなわち点眼操作に影響することが強く示唆され,把持部に凹み(ディンプル13))を有した同形状の容器の使用感評価が高いことを示した報告10)と一致する結果と考えた.今後の治療時に使用を希望する容器のインタビューでは,結膜炎群はリボスチンR,緑内障群はキサラタンRと,それぞれの疾患において使用経験の多い点眼容器が比較的多く選択され,容器に対する慣れの影響は大きいと考えた.しかし,最も多く選択されたのが両疾患群ともハンドリング評価で高スコアを示したタプロスRの点眼容器であったことから,今回の模擬点眼操作によるインタビュー調査に,容器の形状のハンドリングへの影響が直接的に反映されたことが改めて評価できた.Open-endedquestionによるフリー回答では,個々の意見や要望をよく引き出すことが期待できる14).この回答内容において,緑内障では結膜炎に比べ点眼容器についての意見数が多いだけでなく,ハンドリング以外の意見も有意に多く聴取することができた.その内容も残量や汚染など日常使用と直接的に関わる点に加え,判別しやすい色や形への要望など,インタビュー調査の評価項目にない多彩な意見を認めた.この結果は,緑内障では結膜炎とは異なり,点眼薬を一時的にではなく長期使用するため,ハンドリングに留まらず容器への関心が高いことを反映したものと考えた.緑内障点眼薬の継続的使用には点眼容器の使用性も影響するが,今回の結果から,点眼容器の形状がハンドリングに影響し,その使用性に関わることが示されたため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20094)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19837)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,20078)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20099)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,200610)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200711)原岳,立石衣津子,原玲子ほか:抗緑内障点眼薬の点眼時刺激と容器の使用感.眼臨紀1:9-12,200812)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-ItemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,200113)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,200514)FriedmanDS,HahnSR,QuigleyHAetal:Doctor-patientcommunicationinglaucomacare.Ophthalmology116:2277-2285,2009