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下鼻側および下耳側からのTrabeculotomyの術後成績

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)1499《原著》あたらしい眼科28(10):1499?1502,2011cはじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)の初回手術では,将来の濾過手術の可能性を考慮して上方結膜を温存するのが望ましいと考えられている1).これまでLOTにおいて切開部位による眼圧下降の差は上方からのアプローチおよび下方からのアプローチでは差がないという報告が散見される2?4).LOTの初回手術における下方アプローチとして耳側からのアプローチと鼻側からのアプローチの2つがあるが,解剖学的にSchlemm管に開口しているコレクターチャネルの数は耳側より鼻側のほうが多いと報告されている5)ことから下鼻側アプローチと下耳側アプローチとで術後の眼圧に差が生じる可能性が考えられるものの詳細な報告は少ない.そこで,今回筆者らは初回LOTにおける下鼻側からのアプローチと下耳側からのアプローチで術後の眼圧下降に差があるかを検討する目的で,同一術者が同一患者に対して片眼は下耳側アプローチ,僚眼は下鼻側アプローチのLOTを施行し術後成績を比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕渡部恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MegumiWatanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN下鼻側および下耳側からのTrabeculotomyの術後成績渡部恵*1稲富周一郎*1近藤みどり*2田中祥恵*3片井麻貴*4大黒幾代*1大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2千歳市民病院眼科*3JR札幌病院眼科*4札幌逓信病院眼科ComparisonofTrabeculotomyviaInferonasalandInferotemporalApproachesMegumiWatanabe1),ShuichiroInatomi1),MidoriKondo2),SachieTanaka3),MakiKatai4),IkuyoOhguro1)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,ChitoseCityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JRSapporoHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SapporoTeishinHospitalTrabeculotomy(LOT)の術後成績を切開部位で比較した.対象は両眼にLOTを施行し,術後3カ月以上経過観察できた22例44眼で,年齢は60.0±12.6歳,病型は原発開放隅角緑内障16例,落屑緑内障1例,発達緑内障4例,ステロイド緑内障1例.術後経過観察期間は3?21カ月(平均9.5カ月)であった.強膜弁は同一患者に片眼は下鼻側に,僚眼は下耳側に作製した.術前および術後12カ月における眼圧は下鼻側群で18.2±5.2mmHg,14.9±3.8mmHg,下耳側群で17.5±4.2mmHg,14.9±2.4mmHgと両群ともに術前より有意に下降したが,2群間での差は認められなかった.最終観察時での16mmHg以下へのコントロール率は下鼻側群で42.5%,下耳側群で30.7%であったが,2群間に有意差はなかった.LOTにおける下鼻側切開と下耳側切開では術後成績に差はみられなかった.Wecomparedsurgicaloutcomesoftrabeculotomy(LOT)viainferonasalandinferotemporalapproaches.Thegroupcomprised44eyes:32withprimaryopen-angleglaucoma,2withexfoliationglaucoma,8withdevelopmentalglaucomaand2withsteroidglaucoma.Meanpatientagewas60.0±12.6yearsandmeanfollow-upperiodwas9.5months.LOTwasperfomedviatheinferonasalsideinthelefteyeandviatheinferotemporalsideintherighteyeofthesamepatient.Intraocularpressure(IOP)significantlydecreasedto14.9±3.8mmHgfrombaselineintheinferonasal-approacheyesand14.9±2.4mmHgfrombaselineintheinferotemporal-approacheyesat12monthspostoperatively.ThesuccessrateofIOPreaching16mmHgatfinalobservationwas42.5%intheinferonasalapproacheyesand30.7%intheinferotemporal-approacheyes.ThisstudyrevealednosignificantadvantageinIOPreductionbetweentheinferonasalapproachandtheinferotemporalapproach.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1499?1502,2011〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,手術成績.glaucoma,trabeculotomy,surgicaloutcome.1500あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(132)I対象および方法対象は2008年1月から2010年4月までに札幌医科大学附属病院眼科でLOTを施行した169眼のうち片眼を下耳側に,僚眼を下鼻側アプローチとし,術後3カ月以上経過が観察できた22例44眼(うち14眼に白内障同時手術)をレトロスペクティブに選択した.内訳は男性9例18眼,女性13例26眼であった.年齢は60.0±12.6歳(平均±標準偏差),病型は原発開放隅角緑内障16例,落屑緑内障1例,発達緑内障4例,ステロイド緑内障1例,術後経過観察期間は3?21カ月(平均9.5カ月)であった.術式は結膜を円蓋部基底にて切開後,輪部基底で4×4mmの強膜一枚弁(3角弁:4例8眼,4角弁:18例36眼)を作製,部位は同一患者に片眼は下鼻側に(右眼:1眼,左眼:21眼),僚眼は下耳側(右眼:21眼,左眼:1眼)に作製した.Schlemm管を同定後にトラベクロトームを挿入し内壁を切開した.強膜弁を10-0ナイロン糸にて1?2針縫合,結膜を8-0バイクリルRで縫合した.同一患者は原則的に同一術者が手術を施行した.術後は全例,前房出血が創部に貯留しないように,前房出血が引けるまで術創と反対の側臥位をとらせた.下鼻側アプトーチ群と下耳側アプローチ群で術前後における眼圧,薬剤スコア,術後合併症について検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,術前,術後1,3,6,9,12カ月に測定した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,アセダゾラミド内服を2点とした.眼圧コントロール率はKaplan-Meier生命表法により検討し,エンドポイントは2回連続して18mmHgと16mmHgを超えた最初の時点,またはアセタゾラミドの内服,追加の緑内障手術を行った時点とした.統計学的検討は平均眼圧の比較および薬剤スコアの群内比較にはWilcoxsonsigned-ranktestを用い,群間比較にはWilcoxsonranksumtestを用い,眼圧コントロール率の比較にはlog-ranktestを,術後合併症にはFisher’sexacttestをそれぞれ用いた.II結果1.眼圧経過術前後の眼圧経過を表1と図1に示す.術前の眼圧は下鼻側アプローチ群と下耳側アプローチ群で差がなかった.下鼻側群では術前18.2±5.2mmHgが術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月および12カ月でそれぞれ15.6±3.6mmHg,15.4mmHg±2.8mmHg,14.3mmHg,14.3±2.2mmHg,14.7±3.6mmHgであった.下耳側群では術前17.5±4.2mmHg,術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月および12カ月でそれぞれ15.1±4.4mmHg,14.4±2.3mmHg,14.1±2.0mmHg,14.2±2.3mmHg,14.9±2.4mmHgであった.両群とも術前に比べ術後いずれの時点においても有意な眼圧下降を示した(p<0.01).しかし,下鼻側群と下耳側群の群間での比較はいずれの時点においても有意差はなかった.術後は緑内障点眼薬は基本的に中止とし,眼圧下降が得られない場合にのみ緑内障点眼薬を適宜追加した.緑内障点眼薬に関してはスコア化したものを後述する.2.眼圧コントロール率眼圧コントロール率を図2,3に示す.最終観察時において18mmHg以下へのコントロール率は下鼻側群で69.7%,下耳側群で73.9%,16mmHg以下への眼圧コントロール率は下鼻側群で42.5%,下耳側群で30.7%でいずれも2群間に有意差は認められなかった.表1術前後の眼圧(mmHg)術前1カ月3カ月6カ月9カ月12カ月下鼻側群18.2±5.2(n=22)15.6±3.6*(n=22)15.4±2.8*(n=22)14.3±2.5*(n=16)14.3±2.2*(n=11)14.7±3.6*(n=10)下耳側群17.5±4.2(n=22)15.0±4.3*(n=22)14.4±2.3*(n=22)14.1±2.0*(n=16)14.2±2.3*(n=11)14.6±2.4*(n=10)Wilcoxonsigned-ranktest:*p<0.01.両群ともに術前よりも術後は有意に眼圧下降した.下鼻側群と下耳側群の比較においては,差は認められなかった.0510152025術前術後136912眼圧(mmHg)経過観察期間(月):下鼻側群:下耳側群**********図1眼圧の経過Wilcoxonsigned-ranktest:*p<0.01.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.10,201115013.薬剤スコア薬剤スコアを表2に示す.点眼数は,両群とも術前に3.0±0.7点であったが,術後に1.3±0.1点と術前より有意に減少した(p<0.01).2群間には差が認められなかった.4.術後併発症術後併発症を表3に示す.軽度の浅前房を下耳側群の2眼に認めたが,経過観察で数日のうちに改善した.下耳側群の1眼にSeidel陽性を認めたが,ヒアルロン酸製剤の点眼で数日で改善した.重篤な合併症を生じたものはいなかった.2群間に有意差は認められなかった.緑内障の追加手術となったのが,下鼻側群で1眼,下耳側群で2眼であったが,いずれも術後6カ月以上経過して追加手術を行った.III考按LOTは房水流出抵抗が高いとされている内皮網を切開することで流出抵抗を減少させ眼圧下降をはかる流出路再建術である.房水は毛様体筋で産生され,線維柱帯,Schlemm管を通り上強膜静脈へと流れる.Schlemm管が正常眼と緑内障眼では内腔の広さに差があり,正常眼のほうが広く,内腔が広いほうが房水流出能が高いという報告がある6).これは内壁の抵抗が高いために生ずるもので,LOTで内壁を切開することで眼圧が下降するのはこのためである.部位による差としては,Kagemannら7)がSchlemm管内腔に開口しているコレクターチャネルがある部位のほうが内腔が広く,鼻側と耳側で比較すると鼻側のほうが面積が広かったと報告している.他に組織学的にコレクターチャネルは耳側よりも鼻側に多く分布されているとの報告もあった5).したがって,正常な房水流出路を再建するLOTではSchlemm管から後方の流出抵抗が術後成績に大きく関与すると予想されるため,集合管の分布に差がある下鼻側アプローチと下耳側アプローチでは術後成績が違う可能性が考えられた.LOTにおける鼻側および耳側アプローチの比較報告は,筆者らの知る限りは見受けられなかったものの,上方および下方の比較では眼圧下降や薬剤スコアなどの術後成績は差がないとする報告であった.今回の検討では鼻側および耳側アプローチにおいて術後の眼圧下降や薬剤スコア,眼圧コントロール率,合併症で両群間での差が認められなかったことから,LOTは上下に加えて鼻側,耳側いずれの方向から行っても基本的に安定した眼圧下降が得られる術式であることが示された.12カ月まで追跡できた症例は10例と少なかったため,今後症例を増やしてさらなる検討をする必要があると思われた.本稿の要旨は第34回日本眼科手術学会で発表した.文献1)黒田真一郎:トラベクトロミー初回は上からか下からか.月刊眼科診療プラクティス98巻,緑内障診療のトラブルシューティング(根木昭編),p150,文光堂,20032)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1149-1152,20083)南部裕之,尾辻剛,桑原敦子ほか:下方から行ったトラベクロトミー+サイヌストミーの成績.眼科手術15:389-391,2002表2薬剤スコア(点)下鼻側群下耳側群術前3±0.73±0.7術後1.3±1.1*1.3±1.1*Wilcoxonsigned-ranktest:*p<0.01.両群ともに術後の緑内障治療薬数は有意に減少した.2群間に有意差は認められなかった.表3術後併発症全体下鼻側群下耳側群浅前房2(4.5%)02Seidel陽性1(2.3%)01重篤な合併症を生じたものはいなかった.2群間で有意差は認められなかった.00.10.20.30.40.50.60.70.80.910510152025累積生存率(%)経過観察期間(月):下鼻側69.7%:下耳側73.9%図2眼圧コントロール率(18mmHg以下)00.10.20.30.40.50.60.70.80.910510152025累積生存率(%)経過観察期間(月):下鼻側42.5%:下耳側30.7%図3眼圧コントロール率(16mmHg以下)1502あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(134)4)鶴丸修士,三好和,新井三樹ほか:偽水晶体眼緑内障に行った下方からの線維柱帯切開術の成績.臨眼100:859-862,20065)MichaelJH,JorgeAA,JoanEetal:Theexternalcollectorchannels.HistologyoftheHumanEye,p145-154,Saunders,Philadelphia,19716)AllinghamRR,deKaterAW,EthierCRetal:Schlemm’scanalandprimaryopenangleglaucoma:CorrelationbetweenSchlemm’scanaldimensionsandoutflowfacility.ExpEyeRes62:101-109,19967)KagemannL,WollsteinG,IshikawaHetal:IdentificationandassessmentofSchlemm’scanalbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmlVisSci51:4054-4059,2010***

緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1491《原著》あたらしい眼科28(10):1491?1494,2011cはじめに緑内障治療ではアドヒアランスの向上が重要である1).アドヒアランスに影響を及ぼす要因として医師と患者のコミュニケーション,点眼する目的を理解すること2),点眼薬剤数3),点眼回数41)などが知られている.最近では特に点眼容器の形状改良による扱いやすさが有効であるという報告5)もある.また,治療効果を上げるための有意義なシステムとして,緑内障教育入院の有用性も報告されている6).しかし,これらの要因が眼圧にどのように影響するかに関しての検討は十分にされていない.そこで本研究では,緑内障患者に対して患者教育を行うことにより眼圧にどのような影響があるかを調べた.I対象および方法1.対象広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.選択基準は,〔別刷請求先〕植田俊彦:〒142-0088東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshihikoUeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShowaUniversity,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-0088,JAPAN緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果植田俊彦*1,2笹元威宏*1平松類*1,2南條美智子*2大石玲児*3*1昭和大学医学部眼科学教室*2三友堂病院眼科*3三友堂病院薬剤部EffectofPatientEducationontheDecreaseinIntraocularPressureandIt’sDurationinGlaucomaPatientsToshihikoUeda1,2),TakehiroSasamoto1),RuiHiramatsu1,2),MichikoNanjyo2)andReijiOhishi3)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SanyudoHospital,3)PharmaceuticalDepartment,SanyudoHospital目的:緑内障患者を対象とし患者教育(点眼指導と疾患説明)による眼圧下降効果を調べること.対象および方法:2年以上緑内障点眼治療を受け少なくとも6カ月以上点眼の変更がなく,かつ視野に変化のない緑内障患者を対象とした.眼圧測定者を盲検化した2群間(A群:n=30とB群:n=27)比較,前向き臨床試験を行った.介入開始から3カ月間,1回/月,両群に対して医師による小冊子を用いた緑内障の点眼方法と疾患啓発に関する説明を行う.さらにB群にのみ看護師による点眼実技指導を追加する.眼圧測定は介入前と9カ月間行った.結果:眼圧はベースラインと比べ3カ月後でA群では1.2±1.8mmHg,B群では2.0±1.9mmHg(p<0.05)下降した.教育終了後にも両群では眼圧下降効果は持続したが,B群のほうが3,5カ月後で有意に下降した(p<0.05).結論:患者教育には眼圧下降効果がある.特に点眼実技指導には眼圧下降効果がある.Thisstudysoughttofindtheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectofglaucomapatienteducationcomprisingpatientinstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,inglaucomapatients.Aprospectiveclinicalinterventionstudywasperformed.Onceamonth,on3occasions,thephysicianlecturedthepatientsinbothAgroup(n=30)andBgroup(n=27)regardinginstructionforeyedropsanddiseaseexplanation,withatextbook.ForBgrouppatients,eyedropsperformancewasinstructedbyanurse.IOPwasmeasuredbeforeintervention(baseline)andfor9monthsafterintervention.After3months,IOPhaddecreased1.2±1.8mmHginAgroupand2.0±1.9mmHg(p<0.05)inBgroup.Aftertheeducationperiod,theIOP-loweringeffectcontinuedinbothgroups,andsignificantIOPdecreasesobservedat3and5monthsinBgroup,ascomparedtoAgroup.IOPwasdecreasedbypatienteducation,andadditionalpracticalinstructionforeyedropsperformancewasmoreeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1491?1494,2011〕Keywords:緑内障,アドヒアランス,コンプライアンス,点眼指導,眼圧.glaucoma,adherence,compliance,educationofeyedropprocedure,intraocularpressure.1492あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(124)1)緑内障点眼薬の治療を2年以上継続していること,2)過去6カ月以内で点眼薬に変更がないこと,3)過去6カ月間で視野に変化がないこと,4)過去6カ月の眼圧が2mmHg以内の変動であること,5)緑内障以外に眼圧に影響する疾患のないこと,6)同意能力のあること,7)眼圧が目標眼圧7)に達していないこと,とした.年齢,性別,点眼薬剤数は不問とした.また,1)緑内障点眼薬を変更した場合,2)眼の手術をした場合,3)3カ月間観察できなかった場合には対象から除外した.2.介入方法患者教育(疾患教育,点眼説明,点眼実技指導)を行った.試験参加者全員に医師がGlaucomaOphthalmologistCircus企画による緑内障患者教育用小冊子(図1)を見せながら約10分間,疾患教育と点眼説明指導を行った.次いでB群にのみ看護師が約30分間点眼実技指導を行った.これらの患者教育は介入開始日,1カ月後,2カ月後の合計3回行った.疾患教育では,1)眼圧とは何か,2)視野とは何か,3)緑内障では視野がどう変化するか,4)視野と眼圧の関係,の4項目について行った.点眼の説明では,1)何のために点眼するのか,2)涙?部圧迫の方法,3)点眼後閉瞼の方法,4)涙?部圧迫・点眼後閉瞼を2分間行うこと,の4項目について小冊子の図を示しながら行った.また,2種類以上点眼する場合にはその間隔を5分以上開けること,点眼順序はゲル化剤を最後にすること,保管場所は添付書通り定められた場所に保存することなどを説明した.B群にのみ看護師が点眼実技指導として別室(図2)で,1)忘れずに点眼すること,2)眼に確実に滴下すること,3)点眼効果を高めること,の3項目について実技指導した.1)忘れずに点眼するために点眼薬すべてに目立つシールを貼り,点眼時間割表のそれぞれ点眼すべき時間に同じシールを貼り配布した.2)眼に確実に滴下するためにまず看護師が行う点眼行為を患者に観察させる.つぎに,患者に点眼させ,手順どおり点眼しているかどうかを看護師が観察する.各患者に応じたそれぞれの点眼行為の問題点を解決するため,たとえば片手で下眼瞼を押し下げながら点眼する方法,または仰臥位になって上から滴下する方法など説明し練習させた.3)点眼効果を高めるために点眼直後に眼瞼に流出した涙液を拭き取らず,まず閉瞼しながら涙?部を2分間圧迫するように説明し練習させた.3.評価方法割り付けを盲検化された1名の医師がapplanationtonometoryにより午前中で同一時間帯(初回測定時間±1時間)に眼圧を測定した.眼圧測定は介入前と介入後1,2,3カ月と患者教育終了したその後も5,7,9カ月後に測定した.測定者は測定時には診療録上過去の眼圧値を見ないで測定した.4.試験デザイン試験デザインは前向きランダム化,評価者を盲検化した群間比較試験とした.第三者により割り付けられた表に従いランダムに2群(A群とB群)に分け,看護師が割り付け表に従いB群にのみ点眼実技指導を行った.評価者(眼圧測定医師)には盲検化した.三友堂病院倫理委員会の承認を受けた.臨床試験登録番号UMIN000001180.5.データの解析両群各々の介入前を基準とした経時的な眼圧変化には対応のあるt検定を,両群間眼圧変化量比較には介入前眼圧値を考慮し共分散分析法を用いた.有意水準は5%以下とした.図1緑内障に対する説明用冊子全部で6冊ある.医師が試験参加者全員に冊子を提示しながら,約10分間,疾患指導と点眼指導をした.図2点眼実技指導のための個室医師診察室とは別室で点眼実技指導が行われた.どの症例が実技指導を受けているかは医師には盲検化されている.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111493統計ソフトにはSASver9.1を用いた.II結果1.対象試験登録症例数はA群30例57眼とB群30例58眼であった.しかし,B群で3例6眼が患者自己都合によって受診を中断したため脱落し,研究を完了できた症例数はA群30例57眼,B群27例52眼であった.点眼治療を変更した症例,手術をした症例はなかった.背景因子としてA群では女性が多かった.使用している点眼薬剤数,罹病期間,病期にA・B群間で有意差はなかった.平均年齢はそれぞれA群71.8±9.4歳,B群で72.6±8.9歳,点眼薬の種類は1種類がA群28例,B群22例,2種類がA群17例,B群27例,3種類がA群12例,B群3例であった.平均罹病期間はそれぞれ5.9±4.0年と5.2±3.3年であった(表1).2.眼圧値の変化両群とも介入1カ月後から眼圧が下降し,3回の患者教育後の3カ月後の眼圧はA群ではベースライン17.1±2.5から15.9±2.2mmHg(p=5.02×10?6)へ,B群では16.8±2.3から14.8±2.0mmHg(p=1.56×10?9)へ下降した(図3).その後もA群では5カ月後15.6±2.2,7カ月後15.8±1.9,9カ月16.0±1.9mmHgと下降を続け,B群でも5カ月後14.8±2.5,7カ月後14.8±2.4,9カ月後15.7±2.4mmHgでありベースラインと比べ有意に眼圧下降が持続していた.しかしB群では最も下降した3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した(p=0.0027).眼圧変化量を両群間で比較すると始めの2カ月間では有意差はなかったが,B群のほうが3カ月後(p=0.0043)と5カ月後(p=0.0334)と有意に眼圧が下降したが,7カ月後と9カ月後では再び両群間に差がなくなった(表2).III考按症状に乏しく,長期間の投薬が必要である緑内障のような慢性疾患の治療では,患者自身のアドヒアランスが重要性であると報告8)されている.GlaucomaAdherencePersistencyStudy(GAPS)では,眼圧下降薬の最も高い継続率は,6カ月と報告されている9).また,薬効を高めるために経口する内服薬の場合と比べて点眼薬の場合では,点眼行為それ自体に高いアドヒアランス遵守が求められる.今回の試験では月に1回,3カ月間の疾患教育・点眼説明により眼圧が下降し,さらに点眼実技指導を加えたB群では約2mmHg眼圧下降が得られた.今回の対象症例はまったく緑内障の知識がない症例ではなく平均5年間,外来診療を通じてインフォームド・コンセントを行ってきた症例である.それでも改めて教育指導,特に点眼実技指導することには眼圧下降効果が得られるという結果となった.しかし両群とも眼圧が下がったことから眼圧測定評価者が試験期間中に意図的に低めに測定したというバイアスも考えられるが,各測定時点で前回の値を知らずに眼圧測定していること,評価者を盲検化し点眼実技指導を追加したB群で有意に眼圧下降が得られたことより,このようなバイアスは表1背景因子A群B群年齢(歳)71.8±9.472.6±8.9性別男性(例)女性(例)8221413点眼種類(眼)1種類2種類3種類28171222273罹病期間(年)5.9±4.05.2±3.3表2眼圧ベースラインと比べた変化量の両群間比較123579(カ月)A群?1.26±1.65?1.58±1.73?1.21±1.81?1.23±1.93?1.59±2.13?1.07±2.03B群?1.19±1.67?1.81±1.92?1.98±1.95?1.92±2.10?1.92±2.36?1.04±2.41〔共分散分析〕*p=0.0043,**p=0.0334.***201816140眼圧(mmHg)前123579観察期間(月数):A群:B群図3眼圧の経時変化患者教育は介入開始時,1と2カ月まで行われている.眼圧の経過ではベースラインがA群では17.1±2.5mmHgで,B群では16.8±2.3mmHgであった.試験開始1カ月後から両群ともに下降した.3カ月以降は患者教育を行わずに経過観察している.ベースラインと比較しA・B群ともに各時点で有意に眼圧が下降した(p<0.05).B群では3カ月後の眼圧を基準にすると9カ月後では有意に眼圧が上昇した.1494あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(126)今回の試験に影響ないと考えられる.しかし,今回の両群の背景因子として男女比に有意差があった.男性のほうがノンコンプライアンスの確率が高いといわれている10).このことが本試験の結果に影響する可能性も否定できない.また,今回の選択基準は,過去6カ月の眼圧変動を2mmHg以内としたために,介入後にもその変動が影響する可能性がある.介入前と介入後平均値の差でみればB群では2mmHgの下降であったが,共分散分析で統計学的に解析すると有意差はあった.またこの2mmHgの下降は,1mmHgの眼圧下降が視野悪化リスクを10%低下させるというEarlyManifestGlaucomaTrialGroup(EMGT)によるEMGTstudy11)の観点から考えても臨床的にも意味のある下降であると考えられる.今回は緑内障治療に関与すると考えられる教育内容で行った.点眼液が鼻涙管を経由して鼻粘膜からも吸収され全身の合併症をきたすといわれているので,涙?部圧迫や閉瞼には副作用軽減効果のみならず眼球への移行を高める効果があるとされている12).また,点眼目的の理解が点眼し忘れを予防する効果があるといわれている13).しかし,このような個々の因子が,どの程度の割合で眼圧下降に寄与したのかは検討していない.月に1回の指導とはいえ,医師と看護師が合わせて約40分の指導時間は日常の外来診療のなかでは必ずしも実行できない.今後さらにどんな指導項目が最も有効なのかを詳しく検討する必要があると考えられる.B群では患者教育終了2カ月(介入開始から5カ月)後,4カ月(介入開始から7カ月)後では眼圧下降が維持されていたが,6カ月(介入開始から9カ月)経過すると最も眼圧が下降した介入3カ月後と比べて有意に眼圧が上昇し,それに対してA群では介入6カ月後でも眼圧に変化なく,むしろ両群の差がなくなった.このことより患者教育効果は半年の持続があるものの特に点眼実技指導効果は4カ月程度しか持続していないと推測される.患者が緑内障に関する知識や点眼手順を獲得できても,持続はある一定期間なので定期的な患者教育または学習できるツールを用意する必要があるのかもしれない.実際,試験対象者から「これらの指導効果を継続するのはむずかしい」,「来院ごとに指導を受けているが指導期間が過ぎれば忘れてしまいそうだ」との訴えもあった.緑内障治療に関する知識は一度獲得されると長続きするが,特に点眼実技法の持続はよりむずかしく,くり返して指導する必要があるかもしれない.今回の研究では点眼種類数の違い,点眼し忘れの回数,涙?部圧迫時間,圧迫方法,閉瞼時間などが眼圧下降にどの程度関与しているかなどの項目の有効性を統計的に検討するには症例数が少なかった.しかし,緑内障患者にとって患者教育(疾患指導・点眼指導・点眼実技指導)を行うことは眼圧下降効果があるかもしれず,将来,多施設でより多数症例での臨床研究を行うための基礎研究として本研究は役立つであろう.文献1)植田俊彦:緑内障患者のアドヒアランスとコンプライアンスレベルの上昇が眼圧下降に及ぼす影響.眼薬理23:38-40,20092)吉川啓司:コンプライアンスを高める患者説明.臨床と薬物治療19:1106-1108,20003)MacKeanJM,ElkingtonAR:Compliancewithtreatmentofpatientswithchronicopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol67:46-49,19834)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20076)古沢千昌,安田典子,中元兼二ほか:緑内障教育入院の実際と効果.あたらしい眼科23:651-653,20067)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌107:777-814,20068)GrayTA,OrtonLC,HensonDetal:Interventionsforimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSysRev15:CD006132,20099)NordstormBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200510)KonstasAG,MaskalerisG,GratsonidisSetal:ComplianceandviewpointofglaucomapatientsinGreece.Eye14:752-756,200011)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,200312)ZimmermanTJ,SharirM,NardinGFetal:Therapeuticindexofpilocarpine,carbachol,andtimololwithnasolacrimalocclusion.AmJOphthalmol114:1-7,199213)ChangJSJr,LeeDA,PeturssonGetal:Theeffectofaglaucomamedicationremindercaponpatientcomplicanceandintraocularpressure.JOculPharmacol7:117-124,1991***

原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(149)1209《原著》あたらしい眼科28(8):1209?1215,2011cはじめにビマトプロストは,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬(プロスタマイド誘導体)である.これまで,おもに米国において有効性および安全性を検討するための種々の臨床試験が実施されており,それらの臨床試験成績から,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,1日1回点眼で0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤に比べて有意に優れた眼圧下降効果を示し1~3),また,0.005%ラタノプロスト点眼剤(ラ〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験新家眞*1北澤克明*2*1公立学校共済組合関東中央病院*2赤坂北澤眼科Long-TermEfficacyandSafetyof0.03%BimatoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1)andYoshiakiKitazawa2)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)AkasakaKitazawaEyeClinic原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.投与前の眼圧値の平均値は21.8mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?6.3~?7.2mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.また,診断名別の層別解析の結果,正常眼圧緑内障に関しては,投与前の眼圧値の平均値は18.5mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?4.7~?6.1mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.副作用は136例中125例(91.9%)に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも全身的に高い安全性を有することが示唆された.副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期投与においても投与期間を通して安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.Theefficacyandsafetyof0.03%bimatoprostophthalmicsolution(bimatoprost)wereevaluatedinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma:NTG)orocularhypertensionafterinstillationfor52weeks.Thebaselineintraocularpressure(IOP)was21.8mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?6.3mmHgto?7.2mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.InthepatientswithNTG,thebaselineIOPwas18.5mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?4.7mmHgto?6.1mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.Theadversedrugreaction(ADR)incidenceratewithbimatoprostwas91.9%(125of136subjects);however,noseriousADRsoccurredandmostoftheeventsweremildinseverity.FewsystemicADRswerereported,indicatingthatthisdrughadlittlesystemiceffects.AlthoughthetreatmentwasdiscontinuedduetoADRsin11subjects(8.1%),bimatoprostcausednosignificanteventenoughtoaffectvisualfunction.Insummary,theIOP-loweringeffectof0.03%bimatoprostophthalmicsolutionwasstableduring52-weeklong-termadministration,andtheADRswerewelltolerated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1209?1215,2011〕Keywords:ビマトプロスト,長期投与,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,long-term,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.1210あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(150)タノプロスト点眼剤)に比べても同程度以上の眼圧下降効果を有することが確認されている4~7).長期にわたる投与においても安定した眼圧下降が認められ,結膜充血,睫毛の成長,眼そう痒症,眼瞼色素沈着などの眼局所における副作用が発現したものの,大部分は軽度から中等度であり,安全性について特に問題のないことが示された3).これらの成績により,米国では2001年3月に0.03%ビマトプロスト点眼剤(1日1回点眼)が開放隅角緑内障または高眼圧症を適応症として承認され,その後現在までに多くの国と地域で市販承認されている.わが国においては,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性が無作為化単盲検群間比較試験によりラタノプロスト点眼剤と比較されており,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であることが示されている8).海外で実施された臨床試験3)により,0.03%ビマトプロスト点眼剤の52週間点眼時の安全性は確認されているが,わが国においても長期点眼における安全性の検討が必要であると考え,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした長期投与試験(52週間)を実施した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項および80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2004年10月から2006年3月までに,表1に示した24施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価の対象眼の眼圧が16mmHg以上(高眼圧症は22mmHg以上)の満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意志による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術および濾過手術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内にいずれかの眼に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)を受けた者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)本剤の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の患者または妊娠している可能性のある者あるいは妊娠を希望している者8)Aulhorn分類Greve変法に基づく視野欠損の程度が,いずれかの眼でStage5または6と判定された者9)投与開始日の細隙灯顕微鏡検査において,いずれかの眼に中等度以上の結膜充血が認められた者10)同意取得時から治験薬の投与終了までに併用禁止薬剤を使用する可能性がある者11)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者12)同意取得時から過去3カ月以内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者,本治験中に他の治験に参加する予定の者13)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法治験薬として,1mL中にビマトプロスト0.3mgを含む点表1治験実施施設医療機関治験責任医師花川眼科田辺裕子能戸眼科医院小竹聡石丸眼科石丸裕晃レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院武井歩東京都老人医療センター沼賀二郎済安堂お茶の水・井上眼科クリニック*井上賢治ルチア会みやざき眼科宮崎明子むらまつ眼科医院村松知幸富士青陵会中島眼科クリニック中島徹杉浦眼科杉浦毅労働者健康福祉機構中部労災病院鈴木聡,古田祐子,丹羽英康湘山会眼科三宅病院三宅謙作碧樹会山林眼科山林茂樹こうさか眼科高坂昌志遠谷眼科遠谷茂新見眼科新見浩司越智眼科越智利行広田眼科広田篤宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎幸友会幸塚眼科岡本茂樹朔夏会さっか眼科医院属佑二大成会福岡記念病院新井三樹,熊野けい子研英会林眼科病院林研医療法人陽幸会うのき眼科鵜木一彦*旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック.(151)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111211眼剤を用いた.治験薬は1日1回午後8時~10時の間に,両眼に1滴ずつ,52週間点眼した.4.Washout眼圧下降薬を使用している患者に対しては,表2に示したwashout期間を設定した.5.検査・観察項目投与開始後4週間ごとに,眼圧検査(Goldmann圧平眼圧計),細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,水晶体,前房,睫毛および虹彩)および生理学的検査(血圧,脈拍数)を行った.なお,他覚所見に関しては,眼瞼紅斑(発赤の範囲),眼瞼浮腫(腫脹の範囲),結膜充血(充血の程度),結膜浮腫(腫脹の範囲),角膜浮腫(浮腫の範囲),角膜びらん(フルオレセイン染色の範囲),角膜内皮への色素沈着(程度),角膜変性(滴状角膜の程度),水晶体混濁(核の色調,混濁の範囲),前房細胞数(細胞数),前房フレア(散乱光の程度),虹彩前癒着(癒着の範囲),虹彩後癒着(癒着の範囲)について0~3点の4段階の採点基準を設けたが,それ以外の事象に関しては基準を設けなかった(括弧内は,判定内容).眼圧は午前8時~11時の間に測定した.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.スクリーニング時(臨床検査は投与開始日),投与28週間後および52週間後に眼底検査,視野検査および臨床検査(血液学的検査・血液生化学的検査・尿検査)を行った.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に視力検査を行った.6.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始の1カ月以上前から用法用量が変更されていない,かつ治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,眼に対する内眼手術,濾過手術および点眼1週間前からのコンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす処置は禁止とした.7.評価方法および統計手法投与開始日と投与後の各観察日における眼圧値の間で,1標本t検定を実施した(有意水準両側5%).また,投与開始日から投与後の各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を求めた.さらに,28週間後および52週間後における眼圧変化率が?10%に達しなかった症例数とその割合(ノンレスポンダー率)を求め,95%両側信頼区間を求めた.原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障に層別した集団に対しても,上記と同様に解析を実施した.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度および発現頻度を求めた.視力,視野,眼底所見,生理学的検査値,臨床検査値および他覚所見の投与前後の比較を行った.安全性の評価は両眼を対象とした.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.II結果1.症例の構成本剤を投与した136例のうち,不適格8例,中止14例表2Washout期間薬剤Washout期間副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上表3患者背景(有効性解析対象症例)項目分類症例数性別男性女性4763年齢(歳)20~2930~3940~4950~5960~6970~1416214523~6465~6941平均年齢(歳)60.2緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障高眼圧症404030合併症(眼局所)無有2783合併症(眼局所以外)無有3080既往歴(眼局所)無有9515治療前投薬歴無有1199治験薬投与前に行った処置無有10821212あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(152)(評価データ不足)および逸脱4例を除く110例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した136例はすべて安全性解析に用いた.表3に有効性解析対象症例110例の患者背景を示した.2.有効性各観察日における眼圧値の推移を図1に,眼圧変化値の推移を表4に,眼圧変化率の推移を表5に示した.投与開始日(投与前)の眼圧値は21.8±3.3mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(p<0.0001,1標本t検定).点眼開始後の最初の観察日である4週間後の眼圧変化値は?6.4±2.5mmHgであり,52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果がみられた.眼圧変化率についても,投与期間を通じて?28.6~?32.7%の範囲で安定した推移を示した.眼圧変化率が?10%に達しなかった症例をノンレスポンダーと定義したところ,28週間後および52週間後ともに1例のノンレスポンダーが認められたのみであり,ほとんどの症例に対して本剤が有効であった(表6).当該試験では,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象としていたため,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障と診断別に層別し,それぞれの眼圧下降効果について検討した.投与開始日の眼圧値は,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で23.7±2.5mmHg,正常眼圧緑内障で18.5±1.7mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(図2,p<0.0001,1標本t検定).投与期間中の眼圧変化値は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?7.0~?表4眼圧変化値の推移観察日例数眼圧変化値4週間後101?6.4±2.58週間後107?6.7±2.512週間後106?6.9±2.516週間後99?7.1±2.720週間後104?7.1±2.424週間後104?7.0±2.528週間後106?7.0±2.332週間後108?7.2±2.336週間後105?6.9±2.540週間後104?7.0±2.544週間後101?6.7±2.648週間後103?6.3±2.752週間後102?6.5±2.2平均値±標準偏差(mmHg).表5眼圧変化率の推移観察日例数眼圧変化率4週間後101?29.0±9.38週間後107?30.4±9.512週間後106?31.5±9.516週間後99?32.1±10.220週間後104?32.1±9.324週間後104?31.7±10.228週間後106?32.2±8.732週間後108?32.7±8.336週間後105?31.3±9.540週間後104?32.1±9.344週間後101?30.4±9.648週間後103?28.6±10.552週間後102?29.8±8.4平均値±標準偏差(%).*************28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)図1眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).図2診断名別の眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)**************************:原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症:正常眼圧緑内障表6ノンレスポンダー率観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間28週間後1(0.9)1051060.0~2.852週間後1(1.0)1011020.0~2.9()内は%.(153)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201112138.0mmHg,正常眼圧緑内障で?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果がみられた(表7).投与期間中の眼圧変化率は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障で?25.1~?32.9%の範囲で推移した(表8).28週間後および52週間後に認められたノンレスポンダーは,正常眼圧緑内障で1例のみであった(表9).3.安全性有害事象は136例中131例(96.3%)に発現した.このうち,副作用は125例91.9%であった.比較的頻度の高かった副作用を表10に示した.最も高頻度で発現した副作用は睫毛の成長であり,90例66.2%に発現した.その他,高頻度で発現した副作用は結膜充血,眼瞼色素沈着および虹彩色素沈着であり,それぞれ61例44.9%,42例30.9%および29例21.3%に発現した.重症度に関しては,重度の副作用は認められず,中等度の事象が19例26件(結膜充血7件,眼瞼色素沈着6件,睫毛の成長3件,虹彩色素沈着,および眼瞼紅斑がそれぞれ2件,結膜出血,アレルギー性結膜炎,虹彩炎,結膜炎,眼瞼炎および眼圧上昇が各1件)認められたが,それ以外は軽度であった.いずれも投与部位である眼部または眼周囲部の局所に発現するものであり,治験薬の点眼を継続しても程度が悪化するものではなかった.また,点眼の中止(終了)により約8割の事象が追跡調査期間中に回復または軽快した(回復:点眼開始前の状態に回復,軽快:問題ないレベルまでに達した状態).重篤な有害事象が4例(心臓神経症,膀胱瘤および眼内炎,表7診断名別の眼圧変化値の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化値例数眼圧変化値4週間後63?7.0±2.538?5.4±2.08週間後67?7.5±2.640?5.4±1.812週間後68?7.5±2.538?5.8±1.916週間後65?8.0±2.534?5.5±2.220週間後66?7.9±2.338?5.6±1.924週間後67?7.7±2.537?5.6±2.128週間後66?7.8±2.340?5.8±1.832週間後68?7.8±2.440?6.1±1.836週間後66?7.7±2.439?5.5±2.040週間後66?7.8±2.538?5.7±1.744週間後62?7.7±2.439?5.1±1.948週間後63?7.4±2.640?4.7±2.152週間後64?7.3±2.138?5.2±1.7平均値±標準偏差(mmHg).表8診断名別の眼圧変化率の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化率例数眼圧変化率4週間後63?29.1±8.638?29.0±10.48週間後67?31.5±9.640?28.7±9.012週間後68?31.6±9.538?31.3±9.716週間後65?33.4±9.334?29.5±11.620週間後66?33.1±8.538?30.2±10.424週間後67?32.5±9.737?30.2±11.228週間後66?32.9±8.740?31.0±8.632週間後68?32.5±8.440?32.9±8.236週間後66?32.3±9.339?29.6±9.740週間後66?32.8±9.738?30.9±8.744週間後62?32.3±9.139?27.2±9.648週間後63?30.8±9.740?25.1±10.952週間後64?30.7±7.738?28.1±9.4平均値±標準偏差(%).表10比較的頻度の高かった(5%以上)副作用事象名MedDRA(Ver.9.0)PT発現例数(頻度)眼障害睫毛の成長90(66.2%)結膜充血61(44.9%)眼瞼色素沈着42(30.9%)虹彩色素沈着29(21.3%)睫毛剛毛化8(5.9%)アレルギー性結膜炎7(5.1%)くぼんだ眼7(5.1%)全身障害および投与局所様態滴下投与部位そう痒感10(7.4%)皮膚および皮下組織障害多毛症9(6.6%)発現頻度:発現例数/安全性解析対象症例数(136例)×100.表9診断名別のノンレスポンダー率診断名観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症28週間後0(0.0)66660.0~0.052週間後0(0.0)64640.0~0.0正常眼圧緑内障28週間後1(2.5)39400.0~7.352週間後1(2.6)37380.0~7.7()内は%.1214あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011副鼻腔炎,喉頭蓋炎)に認められたが,すべて治験薬との因果関係は否定された.また,本試験において死亡例はなかった.副作用による中止は11例(8.1%)14件であった.これらの中止理由は,患者からの申し出によるもの5例(眼痛:1例,虹彩色素沈着・睫毛の成長・眼瞼色素沈着:2例,睫毛の成長:2例),医学的な理由によるもの6例(虹彩炎・眼圧上昇:1例,眼瞼炎:1例,結膜充血:1例,眼瞼色素沈着:1例,結膜炎:1例,アレルギー性結膜炎:1例)であった.その他,臨床検査では,異常変動「有」と判定された症例が33例43件みられ,このうち2例3件が副作用と判定されたが,いずれも追跡調査にて基準範囲内に回復あるいは回復傾向を示した.生理学的検査では,血圧が投与開始前に比べ下降が認められたものの,変動幅は小さく,臨床上問題となるものではなかった.また,これらの検査項目以外で,特記すべきものはなかった.III考按原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象として0.03%ビマトプロスト点眼剤を点眼し,有効性解析対象集団110例,安全性解析対象集団136例について,52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症において,眼圧変化値は52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.また,診断名別では,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症では?7.0~?8.0mmHg,正常眼圧緑内障では?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,両疾患群とも投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.投与期間中の眼圧変化率に関しては原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障では?25.1~?32.9%の範囲で推移し,正常眼圧緑内障に対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は強力で,安定した眼圧下降効果を示すことが確認された.0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダーは28週間後に0.9%および52週間後に1.0%の割合で認められた.国内で第一選択薬のラタノプロスト点眼剤は患者の10~40%にノンレスポンダーが存在することが報告されており9~13),当該試験での0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダー率はラタノプロストと比べて低かった.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤はプロスタマイドアナログ製剤であり,ラタノプロスト点眼剤とは異なる作用機序を有している14,15)ことから,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対して有効であることが海外の臨床試験で明らかとなっている16~18).したがって,0.03%ビマトプロスト点眼剤が無効となる症例は少なく,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は有効な治療手段になりうると考えられる.副作用は136例中125例91.9%に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも0.03%ビマトプロスト点眼剤は全身的に高い安全性を有することが示唆された.原発開放隅角緑内障の有病率は高齢者に多いことが知られており,高齢者では循環器系,呼吸器系疾患の合併率が高くなることから,全身への影響の少ない0.03%ビマトプロスト点眼剤は緑内障の治療に有用であると考えられる.局所的な副作用のうち,睫毛の成長(66.2%)および結膜充血(44.9%)はこれまでに海外および国内で実施された臨床試験においても高頻度の発現が確認されている副作用であった.また,眼瞼色素沈着(30.9%)および虹彩色素沈着(21.3%)も高頻度で認められたが,これらの副作用もこれまでに発現が確認されているものであった.以上のような副作用が高頻度で発現したが,そのほとんどが軽度なものであった.その他,特徴的な副作用として,くぼんだ眼が7例5.1%発現した.近年,海外においてビマトプロスト点眼剤で同様な事象が報告されてきている19~21).その発現のメカニズムとして,眼瞼挙筋の開裂やコラーゲン線維の減少,脂肪分解などが関与している可能性が示唆されているが,まだ明確にはなっていない.また,類薬であるトラボプロスト点眼剤においても,同様に報告されている22)ことから,プロスタグランジン関連薬において誘発される副作用である可能性がある.今後,他の薬剤も含め,詳細に検討していく必要があると考えられる.なお,当該事象は回復性のある事象と報告されており,当該試験で発現した7例においても,全例回復あるいは軽快した.52週間の点眼期間中で副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期点眼においても安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal;BimatoprostStudyGroup:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP:a3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomised,doublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,(154)あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011121520033)HigginbothamEJ,SchumanJS,GoldbergIetal;BimatoprostStudyGroups1and2:One-year,randomizedstudycomparingbimatoprostandtimololinglaucomaandocularhypertension.ArchOphthalmol120:1286-1293,20024)GandolfiS,SimmonsST,SturmRetal;BimatoprostStudyGroup3:Three-monthcomparisonofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithglaucomaandocularhypertension.AdvTher18:110-121,20015)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)ChoplinN,BernsteinP,BatoosinghALetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Arandomized,investigator-maskedcomparisonofdiurnalresponderrateswithbimatoprostandlatanoprostintheloweringofintraocularpressure.SurvOphthalmol49(Suppl1):S19-25,20047)SimmonsST,DirksMS,NoeckerRJ:Bimatoprostversuslatanoprostinloweringintraocularpressureinglaucomaandocularhypertension:resultsfromparallel-groupcomparisontrials.AdvTher21:247-262,20048)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20109)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,200210)木村英也,野﨑実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,200311)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200512)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,200613)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,200614)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200815)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:ComparisonofprostaglandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200316)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200217)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200318)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200819)PeplinskiLS,AlbianiSK:Deepingoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,200420)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200921)AydinS,I?ikligilI,Tek?enYAetal:Recoveryoforbitalfatpadprolapsusanddeepeningofthelidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy:2casereportsandreviewoftheliterature.CutanOculToxicol29:212-216,201022)YangHK,ParkKH,KimTWetal:Deepeningofeyelidsuperiorsulcusduringtopicaltravoprosttreatment.JpnJOphthalmol53:176-179,2009(155)***

Visual Field Index とStandard Automated Perimetry およびShort-Wavelength Automated Perimetry の中心視野との関連

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1175《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1175?1178,2011c〔別刷請求先〕佐藤香:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:KaoriSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KoshigayaHospital,DokkyoMedicalUniversity,MedicalSchool,2-1-50Minami-Koshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPANVisualFieldIndexとStandardAutomatedPerimetryおよびShort-WavelengthAutomatedPerimetryの中心視野との関連佐藤香宇田川さち子忍田栄紀松本行弘獨協医科大学越谷病院眼科RelationshipbetweenVisualFieldIndexandStandardAutomatedPerimetryandShort-WavelengthAutomatedPerimetryCentralVisualFieldsKaoriSato,SachikoUdagawa,EikiOshidaandYukihiroMatsumotoDepartmentofOphthalmology,KoshigayaHospital,DokkyoMedicalUniversity,MedicalSchool目的:原発開放隅角緑内障眼におけるstandardautomatedperimetry(SAP)とshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)の中心視野およびvisualfieldindex(VFI)との関連の検討.方法:対象は信頼性のあるHumphreyfieldanalizer(HFA)の24-2Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-standard,SITA-SWAPを測定していた50例50眼で,検討項目はVFIとSAPおよびSWAPの中心4点のpatterndeviation(PD)平均値,PD確率プロット1%以下の測定点(異常点)の総数である.結果:VFIとSAPおよびSWAPのPD平均値は各々有意な正の相関があり(r=0.65,r=0.70,ともにp<0.001),PD平均値はSWAPが有意に不良であった(p<0.01).VFIとSAPおよびSWAPの異常点の総数は各々有意な負の相関があり(r=?0.54,r=?0.67,ともにp<0.001),異常点の数に有意差はなかった(p=0.70).結論:SWAPおよびSAPの中心4点とVFIは中心視野の評価に有用であることが示唆された.Objective:Toevaluatetherelationshipbetweenvisualfieldindex(VFI)andcentralvisualfieldsasdeterminedbystandardautomatedperimetry(SAP)andshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)ineyeswithprimaryopen-angleglaucoma.Method:Thesubjectsofthisstudycomprised50eyesof50casesthathadundergonereliableHumphreyfieldanalizer(HFA)24-2Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-standardandSITA-SWAPtesting.ItemsofevaluationincludedVFI,averagepatterndeviation(PD)ofthecentral4testpointsonSAPandSWAP,andtotalnumberofpointswithalevelofp≦1%onthepatterndeviationprobabilityplot(abnormalpoints).Results:SignificantpositivecorrelationwasseenbetweenVFIandaveragePDonbothSAPandSWAP(r=0.65andr=0.70,respectively,p<0.001);theaveragePDwassignificantlypooreronSWAP(p<0.01).SignificantnegativecorrelationwasobservedbetweenVFIandthetotalnumberofabnormalpointsonbothSAPandSWAP(r=?0.54andr=?0.67,respectively,p<0.001).Nosignificantdifferencewasnotedinthenumberofabnormalpoints(p=0.70).Conclusion:Itissuggestedthatthecentral4testpointsonSAP,SWAPandVFIareusefulforcomprehensivelyevaluatingthecentralvisualfield.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1175?1178,2011〕Keywords:緑内障,中心視野,visualfieldindex(VFI),短波長自動視野測定,標準的自動視野測定.glaucoma,centralvisualfield,visualfieldindex,short-wavelengthautomatedperimetry,standardautomatedperimetry.1176あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(116)はじめに近年,さまざまな眼疾患におけるqualityofvision(QOV)やqualityoflife(QOL)の評価方法が検討されている1)が,緑内障眼においても中心視野障害がQOVやQOLに影響を与えることが知られている2).緑内障では中心視野は後期まで残存することが多く,中心視野の詳細な評価は不可欠である.早期の緑内障性視野変化の検出方法として,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),frequencydoublingtechnology,flicker視野などがあげられる3).なかでも,SWAPは網膜神経節細胞のうち余剰性の少ないKoniocellular系を選択的に測定することで,緑内障性視野異常を早期に検出可能なことが報告4)されている.また,standardautomatedperimetry(SAP)のうちHumphreyfieldanalyzer(HFA,Carl-ZeissMeditec,Dublin,米国)では,guidedprogressionanalysis(GPA2)の導入に伴い,visualfieldindex(VFI)の算出が可能となった.VFIは,パターン偏差確率プロットによる感度から残存視機能をパーセント表示で算出するもので,大脳皮質拡大率や網膜神経節細胞の分布を考慮して,中心の測定点の比率配分を重く設定し,中心視野の重要度を加味している5).このことから,VFIはGPA2による視野進行のトレンド解析に用いられるとともに,QOVの指標として注目されている.今回,SAPおよびSwedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-SWAPの中心視野とVFIの関連についてretrospectiveに検討した.I対象および方法対象は,獨協医科大学越谷病院眼科の緑内障外来に通院中で,3カ月以内に信頼性のあるHFAのSITA-standard24-2,SITA-SWAP24-2を測定していた原発開放隅角緑内障50例50眼〔男性16例,女性34例,平均年齢58.0±9.4歳(35~74歳)〕である.原発開放隅角緑内障の診断は,緑内障診療ガイドライン6)に従った.視力に影響を及ぼすと思われる中間透光体の混濁および緑内障以外の眼底疾患や,視機能に影響を及ぼす視覚路疾患,内眼手術既往がない症例を対象とした.HFAの信頼性は,固視不良が20%未満,偽陽性が15%未満,偽陰性が33%未満のすべてを満たす場合を対象とした.対象例のSAPとSITA-SWAPの平均MDは各々?6.8±5.6(?19.4~1.31)dB,?8.0±5.7(?19.7~3.12)dBであった.小数視力測定後に換算したlogMAR値では,?0.06±0.1(?0.18~0.10)で,全例が小数視力は0.8以上であった.対象例の背景を表1に示す.検討項目はVFIとSAP中心4点のpatterndeviation(PD)平均値の関係,VFIとSITA-SWAP中心4点のPD平均値の関係,PD確率プロット1%以下の測定点を異常点とし,VFIと中心4点の異常点総数との関係についてSAPとSITA-SWAPで各々検討した.統計学的検討にはSpearmanの順位相関係数,Mann-WhitneyのU検定,c2検定を使用し,危険率5%未満を有意とした.II結果全対象のVFI平均値は79.2±15.1%(44~98%),SAPの中心4点PD平均値は?6.5±5.6dB(?18.5~2.25dB)で,VFIとSAPの中心4点PD平均値の間には有意な正の相関関係があった(r=0.65,p<0.001,Spearmanの順位相関係数).SITA-SWAPの中心4点平均値は?8.0±4.9dB(?21.0~?0.75dB)で,VFIとSITA-SWAPの中心4点平均値の間には,有意な正の相関関係があった(r=0.70,p<0.001,Spearmanの順位相関係数).SAPの中心4点PD平均値に比して,SITA-SWAPの中心4点PD平均値は有意に不良であった(p<0.01,Mann-WhitneyのU検定).中心4点のPDを部位別に検討すると,SAPでは上耳側が?13.9±13.8dB(?36~?1.0dB),上鼻側が?6.4±10.8dB(?35~?2.0dB),下耳側が?4.5±9.7dB(?37~2.0dB),下鼻側が?4.5±1.8dB(?5.0~3.0dB)で上耳側が他に比べて有意にPDが不良であった(各々p<0.001).上鼻側と下鼻側では上鼻側が有意にPDは不良であった(p<0.05)が,上鼻側と下耳側および下鼻側と下耳側ではPDに有意差はなかった.SWAPでは,上耳側が?15.1±11.8dB(?33.0~0dB),上鼻側が?7.0±7.4dB(?31~2.0dB),下耳側が?6.6±8.3dB(?34~1.0dB),下鼻側が?2.7±3.0dB(?12~3.0dB)であった.上耳側は他の部位に比して有意にPD値は不良であった(各々p<0.01).下耳側に比して上鼻側が有意にPD値は不良で(p<0.05)あったが,上鼻側と下耳側お表1対象例の背景対象例50例50眼年齢58.0±9.4(35~74)歳性別男性16例,女性34例視力(logMAR)?0.06±0.1(0.1~?0.18)屈折(等価球面度数:D)?2.3±3.2(?9.9~+3.0)眼圧(mmHg)15.8±2.7SAPMD(dB)?6.8±5.6(?19.4~1.3)SAPVFI(%)79.2±15.1(44~98)SAPPSD(dB)9.4±4.5(1.8~17.0)SITA-SWAPMD(dB)?8.0±5.7(?19.7~3.1)SITA-SWAPPSD(dB)8.5±3.4(2.2~14.2)平均値±標準偏差(最小値~最大値)で示す.logMAR:小数視力を測定後にlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)値に換算.SITA-SWAP:Swedishinteractivethresholdingalgorithm-shortwavelengthautomatedperimetry,SAP:standardautomatedperimetry,VFI:visualfieldindex,MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で測定.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111177よび下鼻側と下耳側では有意差はなかった.SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数は,SAPでは異常点が,50眼中34眼にみられ,1点が21眼,2点が10眼,3点が3眼,4点は0眼であった.VFI値とSAP異常点総数には有意な負の相関関係があった(r=?0.54,p<0.001).SITA-SWAPでは異常点が,50眼中34眼にみられ,1点が16眼,2点が14眼,3点が1眼で,4点は3眼であった.SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数に有意差はなかった(p=0.70,Mann-WhitneyのU検定).VFI値とSWAP異常点総数の間には有意な負の相関関係があった(r=?0.67,p<0.001).さらに,SAPとSWAPで異常点の分布に有意差はなかった(p=0.25,c2検定).SWAPで異常点が3点以上みられた4眼はSAPでは異常点は各々1点,2点,3点であり,一定ではなく,視力はいずれも小数視力1.0以上であった.III考按HFAで算出されるパラメータのうち,VFIは算出過程で中心から6°ずつ順に,3.29,1.28,0.79,0.57,0.45倍とより中心の測定点の比率配分を重く設定5)されている.さらに,本検討ではSAPの中心4点PD平均値のみではなく,VFIと測定条件の異なるSITA-SWAPの中心4点PD平均値とも有意な正の相関を示した.中心視野は,日本人には多いとされている近視眼の緑内障や正常眼圧緑内障では特に障害される可能性が高く8),QOLと視野障害の関係2)からも視野の評価において重要度は高いが,VFI値は視野全体の評価と同時に中心視野も評価できる可能性が示唆された.高眼圧症において5年以内に緑内障と診断されるうえでのSWAPの感度は100%,特異度は94%と報告12)され,SWAPはSAPよりも緑内障性視野障害を早期に検出可能な測定方法の一つとしての有用性はよく知られている.本検討でも,SAPの中心4点PD平均値に対してSITA-SWAPの中心4点PD平均値は有意に不良であった.SAP,SITASWAPともに4点の部位別の検討では,上耳側PD値が有意に不良であった.これは,緑内障では下半部黄斑と乳頭部の視野が保たれると考えられていることとも一致する13).本検討の対象例は全例矯正視力が0.8以上であり,中心4点のうち上耳側にp<0.1の異常点が検出された段階では,視力への影響は少ない可能性が示唆された.さらに,SWAPで異常点が3点以上みられた4眼はSAPでは異常点は各々1点,2点,3点であり,一定ではなく,視力はいずれも1.0以上であった.すなわち,SAPで異常点が1点のみであってもSWAPではすでに3点異常点が検出される例が存在した.このことから,視力に影響が及ぶ前から,SWAPでもHFAの結果の中心4点に注目し,視野検査を評価することが必要と考えられた.SWAPは,白内障などの中間透光体の混濁が検査結果に影響を及ぼすこと,加齢による青錐体系反応の低下10),閾値算出方法として以前から用いられてきた全点閾値測定法やFASTPACプログラムが,測定時間が長いため患者の負担や測定結果の変動が大きいことなどが問題点として認識されてきた9).そして現在,測定時間を短縮したSITAプログラムが導入され,その実用性が評価されつつあるとともに9),青錐体が網膜中心3°の部位に集中して存在することを考慮したSWAPの黄斑プログラムの有用性の報告もみられる11).本検討では,SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数に有意差はなかったが,これは対象例の中心視野の障害程度が多様であることや視力良好例が多いことによるのかもしれない.そして,早期視野異常検出の目的のみではなく,長期経過観察中における視野進行予測の観点14)からのさらなる検討も望ましいと考える.結論として,VFIは中心視野の評価に有用である可能性が示唆されるとともに,SWAPの適応判断や結果評価には今後もさらなる取り組みを要するが,SAPとSITA-SWAPの中心4点に着目し,視野進行のイベント解析の効果・観点から評価することが必要であると考えた.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),Japaneseversion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20033)松本長太:緑内障の視野検査研究の最新情報は?あたらしい眼科25:194-196,20084)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wavelengthautomatedperimetryandmotionautomatedperimetryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19975)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,20086)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日本緑内障学会,20067)AndersonDR,PattellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)新井麻里子,新家眞,鈴木康之ほか:正常眼圧緑内障における近視度と中心視野障害の関係.日眼会誌98:1121-1125,19949)BengtssonB,HeijlA,OlssonJ:Evaluationofanewthresholdvisualfieldstrategy,SITA,innormalsubjects.SwedishInteractiveThresholdingAlgorithm.ActaOphthalmolScand76:165-169,199810)前田秀高,田中佳秋,杉浦寅男ほか:高眼圧症におけるBlueonYellow視野計での網膜感度分布.日眼会誌102:1178あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(118)111-116,199811)辻典明,山崎芳夫:緑内障眼における短波長感度錐体視野と視神経乳頭陥凹との相関.臨眼53:667-670,199912)JohnsonCA,AdamsAJ,CassonEJetal:Blue-on-yellowperimetrycanpredictthedevelopmentofglaucomatousvisualfieldloss.ArchOphthalmol111:645-650,199313)SuzukiY,AraieM,OhashiY:Sectorizationofcentral30degreesvisualfieldinglaucoma.Ophthalmology100:69-75,199314)GirkinCA,EmdadiA,SamplePAetal:Short-wavelengthautomatedperimetryandstandardperimetryinthedetectionofprogressiveopticdisccupping.ArchOphthalmol118:1231-1236,2000***

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”

2011年8月31日 水曜日

1166(10あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1166?1171,2011cはじめに慢性疾患である緑内障治療において,点眼の継続性すなわちアドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1,2).一方,自覚症状に乏しく,長期的な点眼使用を余儀なくされる緑内障において良好なアドヒアランスを確保するには,医療側からの積極的対応が求められる.医療側からの対応はしかし,客観性に基づく必要があり,その第一段階としてアドヒアランスに関わる要因のデータ調査と収集が位置づけられる.アドヒアランスに関わるデータは,主としてインタビューやアンケートなどにより調査,収集されている3~9).一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し回答を記録するインタビューは,質の高い調査を行うことができる利点があり,調査対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:FirstReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)andKeijiYoshikawa6)1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因について調査するために,緑内障点眼治療開始後3カ月以上を経過した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,2010年3月から5カ月間に5施設でアンケートを実施した.同時に,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.男性106例,女性130例,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳が対象となった.202例(85.6%)が最近の眼圧を認知し,185例(78.4%)がほとんど指示通りに点眼できていると回答した.指示通りの点眼に関わる因子について検討したところ,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028),指示通りの点眼ができていなかった.また,65歳以上の男性は,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼を行っていた(p=0.0081).Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,overaperiodoffivemonthsfromMarch2010weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Responsesindicatedthat202(85.6%)patientswereawareoftheirrecentIOP,andthat185(78.4%)patientsinstilledtheireyedropsinaccordancewithmostinstructions.Whenweexaminedfactorsrelatingtoeyedropinstillationinaccordancewithinstructions,malesmorethanfemales(p=0.0101),andpatientsofyoungerage(p=0.0028),couldnotadheretotheirregimen.Moreover,malesoverage65adheredbetterwhentheywereawareoftheirIOP(p=0.0081).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1166?1171,2011〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス,眼圧.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence,intraocularpressure.(107)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111167や回答率,回収率の向上が期待できる10~13).反面,調査者の恣意的な回答の誘導や,その対応の回答への影響もありうる10,12,13).特に,アドヒアランス調査は医師やスタッフとの対面調査となるため,自己防衛反応から実質的な回答の引き出しが叶わない可能性が否定できない3,10).それに対し,アンケートに自己記入で回答を求める方法は,回答漏れや誤記入,回収率の低下が危惧されるものの,回答における自己開示度は高い12,13).インタビューやアンケートは,その信頼性や実行性から単独施設で施行されることが多い.筆者らもすでに,点眼容器の形状とアドヒアランスとの関連についてインタビュー調査を行い,点眼容器の形状がそのハンドリングを通じて使用性に関わり,アドヒアランスに影響する可能性があることを報告した9).しかし,単独施設における症例収集では偏りなく多数例を収集するのは困難である.そこで,今回,筆者らは緑内障点眼薬使用のアドヒアランスに関連する要因について多施設共同でアンケート調査を行いその結果を解析した.本報では,病状認知度とアドヒアランスの関連を中心に述べ,次報以後では薬剤数や視野障害との関連などについて報告する予定である.I対象および方法2010年3月から5カ月間に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設の外来を受診した広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過し,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象とした.一方,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は除外した.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで実施した.アンケートはあらかじめ原案を作成したうえで,調査参加表1アンケート内容質問1)ご自分の最近の眼圧をご存じですか?(○は1つ)1.知っている2.聞いたが具体的な値は忘れた3.眼圧値は聞いていないと思う質問2)全部で何種類の目薬(メグスリ)をお使いですか?眼科で処方されたもの以外も含めた数を教えてください.(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問3)緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?(○は1つ)1.1種類2.2種類3.3種類4.4種類以上質問4)〔緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2剤以上ご使用される方〕(一度に1剤のみご使用の方は質問4はとばしてください)緑内障の目薬(メグスリ)を一度に2種類以上点眼する時の間隔を教えてください.(○は1つ)1.すぐつける2.1分程度あける3.3分程度あける4.5分以上あける質問5)緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?(○は1つ)1.ほとんどない2.時々ある3.しばしばある質問6)今の緑内障の目薬(メグスリ)の回数にご負担を感じますか?(○は1つ)1.負担を感じる2.どちらともいえない3.負担は感じない質問7)緑内障の目薬(メグスリ)を使っている印象を教えてください.(○は1つ)1.点眼には慣れた2.治療なので仕方ない3.目を守るために頑張っている質問8)緑内障の目薬(メグスリ)をさすのを忘れたことはありませんか?(○は1つ)1.忘れたことはない2.忘れたことがある忘れたことがある方質問8?付問)どの程度忘れられましたか?(○は1つ)1.3日に1度程度2.1週間に1度程度3.2週間に1度程度4.1か月に1度程度質問9)緑内障の目薬(メグスリ)をさす時刻がずれやすいのはどの時間帯でしょうか?(○はいくつでも)1.時刻がずれることはない2.朝3.昼4.夜5.寝る前6.その他()7.さす時刻は決めていない(だいたい夜とか,だいたい寝る前にさすなど)質問9?付問)目薬(メグスリ)をさす時刻がずれる理由を教えてください.(○はいくつでも)1.仕事2.外出3.家事の都合4.休日5.旅行6.外食・飲酒など7.その他質問10)今後,緑内障の目薬(メグスリ)を続けていくことについてどのように思われますか?(○は1つ)1.頑張ろうと思う2.仕方ないと思う3.特になんとも思わない4.その他質問11)もし,緑内障の目薬(メグスリ)が1剤増えるとすれば,これまでの目薬(メグスリ)と一緒に続けられますか?(○は1つ)1.大丈夫2.多分大丈夫3.ちょっと心配4.多分無理だと思う1168あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(108)全施設の担当者とともに質問・回答項目の設定およびアンケートの体裁について十分に検討し,内容を決定した.なお,回答方法は多肢選択法とし,該当する選択肢の番号を○で囲む方式とした.アンケート用紙(表1)は診察終了後に配布,無記名式で行い,回収は回収箱を使用した.原則的に,患者本人が記入する自記式としたが,視力不良により記入困難な場合は,付き添いの家族にアンケートへの記入を求めた.アンケート用紙にはあらかじめ番号を付けて配布し,年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(meandeviation:MD)などの背景因子は,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,MDはアンケート調査日6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITAStandardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例(230例)の結果を調査データとした.回収されたアンケート用紙は各施設において確認し,記載内容に不備がある症例を除外したうえで,あらかじめ作成し各施設に配布されたデータ入力用のエクセルシートに,その結果を各施設において入力した.なお,質問ごとの回答内容が無回答のものは欠損値として扱った.入力結果は独立して収集し,JMP8.0(SAS東京)を用い,t検定,c2検定,Fisherの正確検定により解析した(YK).有意水準は5%未満とした.II結果1.対象および背景因子アンケートを施行し,回収し得たのは237例(回収率100%)だった.アンケート記載は237例中235例(99.2%)が自己記載,家族による記載は2例(0.8%)だった.一方,237例中1例(0.4%)は,後半分の回答欄が空白となっていたためアンケートは無効と判断され,236例の結果が解析対象となった(有効回答率:99.6%).解析対象の性別は男性106例,女性130例で,平均年齢65.1±13.0(22~90)歳だった.緑内障病型は正常眼圧緑内障115例(48.7%),原発開放隅角緑内障109例(46.2%),高眼圧症12例(5.1%)だった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0~23.0)mmHg,平均緑内障点眼薬数1.7±0.8(1~4)剤,平均通院頻度8.4±3.5(2~20)回/年で,緑内障点眼治療歴は1年未満7.2%,2年以上3年未満20.3%,4年以上5年未満16.9%,5年以上55.5%だった.2.アンケート回答結果全設問の回答結果を表2に示す.表2アンケート回答結果質問1)回答数236例(回答率100%)1.202例(85.6%)2.25例(10.6%)3.9例(3.8%)質問2)回答数236例(回答率100%)1.72例(30.5%)2.77例(32.6%)3.65例(27.5%)4.22例(9.3%)質問3)回答数236例(回答率100%)1.124例(52.5%)2.56例(23.7%)3.50例(21.2%)4.6例(2.5%)質問4)回答数92例(回答率39.0%)1.4例(4.3%)2.8例(8.7%)3.16例(17.4%)4.64例(69.6%)質問5)回答数236例(回答率100%)1.185例(78.4%)2.47例(19.9%)3.4例(1.7%)質問6)回答数236例(回答率100%)1.12例(5.1%)2.28例(11.9%)3.196例(83.1%)質問7)回答数236例(回答率100%)1.96例(40.7%)2.31例(13.1%)3.109例(46.2%)質問8)回答数233例(回答率98.7%)1.127例(54.5%)2.106例(45.5%)質問8?付問)回答対象者106例中,回答数106例(回答率100%)1.8例(7.5%)2.22例(20.8%)3.26例(24.5%)4.50例(47.2%)質問9)回答数209例(回答率88.6%)1.72例(34.4%)2.16例(7.7%)3.6例(2.9%)4.50例(23.9%)5.35例(16.7%)6.3例(1.4%)7.28例(13.4%)質問9─付問)回答対象者137例中,回答数121例(回答率88.3%)1.14例(11.6%)2.23例(19.0%)3.27例(22.3%)4.6例(5.0%)5.11例(9.1%)6.14例(11.6%)7.29例(24.0%)質問10)回答数236例(回答率100%)1.142例(60.2%)2.58例(24.6%)3.35例(14.8%)4.1例(0.4%)質問11)回答数236例(回答率100%)1.112例(47.5%)2.96例(40.7%)3.27例(11.4%)4.1例(0.4%)(109)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111169質問1)「ご自分の最近の眼圧をご存じですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち202例(85.6%)が「知っている」と回答した.一方,「聞いたが具体的な値は忘れた」25例(10.6%),「眼圧値は聞いていないと思う」9例(3.8%)を合わせた34例(14.4%)が眼圧値を認知していなかった(図1).質問3)「緑内障の目薬(メグスリ)は何種類お使いですか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,このうちカルテより調査した緑内障点眼薬数と一致したのは224例(94.9%)だった.質問5)「緑内障の目薬(メグスリ)を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対し,回答が得られたのは236例中236例(回答率100%)で,そのうち185例(78.4%)が「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」47例(19.9%),「しばしばある」4例(1.7%)を合わせた51例(21.6%)が指示通りに点眼できていなかった(図2).3.指示通りの点眼の有無と背景因子の関連質問5)において,指示通りに点眼できないことが「ほとんどない」と回答した群を「ほとんど指示通りに点眼できている」群,「時々ある」あるいは「しばしばある」と回答した群を「指示通りに点眼できないことがある」群とし,背景因子を比較した(表3).この結果,女性より男性(p=0.0101),年齢が若いほど(p=0.0028)指示通りの点眼ができていなかった.眼圧,MD,緑内障点眼薬数,通院頻度については,両群間に有意差はなかった.4.眼圧の認知と指示通りの点眼の関連質問1)において,自分の最近の眼圧を「知っている」と回答した群を「眼圧値を認知している」群,「聞いたが具体的な値は忘れた」あるいは「眼圧値は聞いていないと思う」と回答した群を「眼圧値を認知していない」群とし,指示通りの点眼との関連について検討したところ,統計学的に明らかな関連はなかったが,眼圧を認知している症例ほど指示通りの点眼を行っている可能性(p=0.0625)が推察された(図3a).さらに,性別・年齢層別に検討を行った結果,65歳以上の男性は眼圧を認知している症例ほど有意に(p=0.0081)指示通りの点眼を行っていた.一方,65歳未満の男性および女性では有意な関連は認めなかった(図3b).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスの良否に関連する要因について,多施設でアンケート調査を行った.アンケート内容が多岐にわたるため,今回は病状認知度のアドヒアランスへの影響について検討した.アドヒアランスの評価方法としては,インタビュー,アン表3指示通りの点眼の有無と背景因子の関連背景因子ほとんど指示通りに点眼できている指示通りに点眼できないことがあるp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD?10.16±8.14dB?9.80±8.86dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.眼圧値を知らない14.4%眼圧値は聞いていないと思う3.8%聞いたが具体的な値は忘れた10.6%眼圧値を知っている85.6%知っている85.6%図1質問1)回答結果時々ある19.9%ほとんど指示通りに点眼できている78.4%指示通りに点眼できないことがある21.6%ほとんどない78.4%しばしばある1.7%図2質問5)回答結果1170あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011ケートにより患者から直接的に使用状況を調査する方法と,点眼モニター,血中・尿中薬剤濃度測定,薬剤使用量・残量調査,薬剤入手率調査などにより客観的に評価する方法がある.点眼モニターによる評価は信頼性が高い14~17)が,装置の大きさや費用,煩雑さなどの点があり調査対象が限定される.このため,主観的評価に留まるものの,インタビューやアンケート法が頻用されている3~7).同一施設のなかで,インタビューあるいはアンケートと点眼モニターの2種類の方法で点眼遵守率を調査した報告によると,Kassら16)はインタビュー97.1%,点眼モニター76.0%,Okekeら17)はアンケート95%,点眼モニター71%と,調査方法により結果にかなり差があることが示されている.今回,主観的評価による影響を最少化するため,調査方法やアンケート内容について事前に検討した.まず,単独施設での症例収集はデータの普遍化・標準化が達成しにくいと考え,多施設共同研究を選択した.また,調査方法は多施設研究においても調査者によるバイアスが生じない自記式アンケート法を採用した.自記式とすることで医師やスタッフの関与をできるだけ排除し,さらに,無記名式として少しでも薬剤使用状況の実態を引き出せるよう企図した.アンケートを○×の二者択一式で回答するclosedquestionで行った場合,その実態を引き出すことがむずかしく,他方,freequestionは自記式においては回答者の負担が大きく,多数例の解析を行ううえでも実行性に問題が残る.そこで,今回は短時間で少ない負担での回答が可能なように,網羅的に回答選択肢を設けた多肢選択法とし,原則的に該当する番号を○で囲んで回答する方式を採用した.これに加えて,アンケート項目の絞り込みと簡潔化にも努めた.質問内容および質問項目数は,回答率,回収率に大きく影響する10,13)からである.たとえば,病状認知は最近の眼圧を認知しているか否かに代表させ,また,点眼がされているか否かの質問もわかりやすさを重視して,今回は「指示通り」の言葉を使用した.この際,質問の言い回し(wording)にも注意した.回答者は一般に質問に対して,潜在的に「はい(Yes)」と答える傾向(yes-tendency)や,調査者の意向を推測し,無意識のうちにその方向に答えようとする傾向がある10,11).このため,「指示通りに点眼できていますか?」と質問するよりも,「指示通りに点眼できないことがありますか?」としたほうが,点眼ができていない場合でも円滑な回答が得られやすいと考えた.さらに,質問文は理解しやすいように要点に下線を引き,選択肢は分離して枠で囲みわかりやすくした.文字の大きさや用紙サイズ,余白の取り方などレイアウトにも配慮し,調査への協力が得られるよう工夫した.また,質問数も11問に絞り込んだ.アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数あるが3~9,18~21),疾患理解度,病状認知度もその重要な要因の一つと考えられる.今回の調査では,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけ,これと指示通りの点眼の関連について検討した.その結果,指示通りの点眼については236例中236例から回答が得られ(回答率100%),そのうち21.6%が時々あるいはしばしば指示通りに点眼できないことがあると回答した.ここで,指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,女性より男性,年齢が若いほど指示通りの点眼の実施率が低く,年齢,性別がアドヒアランスに影響する可能性が示された.このため,病状認知度と指示通りの点眼の関連については,性別,年齢層別に分けて検討を行った.なお,年齢は高齢者の公的定義22)を参考に,65歳を境とした2群に分けた.この結果,女性は眼圧の認知にかかわらず,約85%が指示通りの点眼を行っていたのに対し,男性のうち65歳未満では指示通りの点眼実施率は約60%に留まった.一方,65歳以上の男性においては,眼圧を認知している症例では指示通りの点眼の実施率が有意に高く,病状認知度が指示通りの点眼に影響を及ぼす可能性が示唆さ(110)図3眼圧の認知と指示通りの点眼質問5)「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」に対する回答■:ほとんどない■:時々ある■:しばしばあるa:全症例80.2%61.7%60.0%男性65歳未満眼圧値を知っている(n=202)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知らない(n=2)眼圧値を知らない(n=14)87.8%*53.8%38.3%40.0%12.2%14.6%2.1%12.1%1.5%*p=0.0081(Fisherの正確検定)15.4%30.8%男性65歳以上眼圧値を知っている(n=41)83.3%100%女性65歳未満眼圧値を知っている(n=48)86.4%78.6%21.4%女性65歳以上眼圧値を知っている(n=66)18.8%眼圧値を知らない67.6%(n=34)26.5%5.9%1.0%b:性別・年齢層別解析あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111171れた.今回,眼圧の認知を病状把握の指標として位置づけたが,年齢が若いほど眼圧値を知っていると回答した症例が多く,眼圧の認知が必ずしも病状認知を反映していない可能性も考えられた.しかし,65歳以上の男性で眼圧の認知と指示通りの点眼に有意な関連が認められたことは,少なくとも高齢者においては病状認知をある程度反映しており,眼圧の認知の有無が病状把握の程度を知るうえで一つの指標となりうると考えた.一方,65歳未満の男性は眼圧を認知していても指示通りの点眼実施率が低く,点眼治療継続の妨げとなる要因についてのさらなる検討が必要と思われた.アンケート調査結果の評価・解釈においては,バイアスの影響を十分考慮しておく必要がある.回収率が低い調査や,無回答者が多い質問では,質問に対する回答者と無回答者の傾向が異なることによって発生する無回答バイアスが生じ,アンケート調査の結果が真実を反映しない可能性がある13).このため,回収率,回答率を高めるべく調査方法やアンケート内容を工夫し,今回は高い回収率,回答率を得た.しかし,同意の得られた症例をアンケート調査対象としたことで,抽出バイアスが生じた可能性があり,結果の評価にも限界があることは否定できない.次報以後に予定している他要因の解析の際にも,バイアスによる影響を留意したうえでの評価を考慮したい.一方,今回の調査の第一段階で病状認知がアドヒアランスに関連することが示唆されたことは興味深い.自覚症状に乏しい慢性疾患である緑内障治療において,アドヒアランスは治療成功の鍵を握る要因である.今回の結果は眼圧の認知をはじめとする病状認知度を高めることが,アドヒアランス向上の第一歩として重要であることを示唆したため報告した.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)阿部春樹:薬物療法─コンプライアンスを良くするには─.あたらしい眼科16:907-912,19994)平山容子,岩崎直樹,尾上晋吾ほか:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20005)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,20036)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20037)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌110:497-503,20068)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20079)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:1107-1111,201010)大谷信介,木下栄二,後藤範章ほか:社会調査へのアプローチ?論理と方法.p.89-119,ミネルヴァ書房,200511)盛山和夫:社会調査法入門.p.88-89,有斐閣,200812)鈴木淳子:調査的面接の技法.p.42-44,ナカニシヤ出版,200913)谷川琢海:第5回調査研究方法論~アンケート調査の実施方法~.日放技学誌66:1357-1361,201014)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:1097-1105,200915)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198616)KassMA,MeltzerDW,GordonMetal:Compliancewithtopicalpilocarpinetreatment.AmJOphthalmol101:515-523,198617)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200519)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200620)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200721)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200922)伊藤雅治,曽我紘一,河原和夫ほか:国民衛生の動向.厚生の指標57:37-40,2010(111)***

赤外線画像を用いた強膜弁の観察

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)879《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):879.882,2011cはじめに人間が視覚化することのできる電磁波は,紫外線より長く赤外線より短い0.4.0.75μmの間の波長域である.波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波を赤外線という.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長をもっている.可視光線に近い特性をもつため,人間には感知できない光として,赤外線カメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用した赤外線カメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5~8).緑内障領域で赤外線を利用した研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9)が,赤外線画像を利用して,強膜弁の位置を確認しよう〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN赤外線画像を用いた強膜弁の観察野村英一*1伊藤典彦*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1遠藤要子*2杉田美由紀*3水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜労災病院眼科*3蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofScleralFlapsafterGlaucomaSurgeriesEiichiNomura1),NorihikoItoh1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),YokoEndo2),MiyukiSugita3)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)YokohamaRosaiHospital,3)MaitaEyeClinic目的:濾過胞再建術の前に,以前の緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは有用であるが,可視光の所見では確認が困難なことがある.赤外線画像(IR画像)を用いて強膜弁の位置の確認を試みたので報告する.対象および方法:濾過胞機能不全もしくは漏出濾過胞の10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に後ろ向きに検討した.可視光画像(眼底カメラによるカラー前眼部撮影)とIR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalmoscope:SLO画像)で,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを比較した.結果:可視光画像では1.26±0.26(standarderrorofmean:SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).結論:IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.MaterialsandMethods:Nineteen(19)scleralflapsfrom10eyesafterglaucomasurgery(10cases,averageage64±16years)wereobservedretrospectively,basedonmedicalrecords.Thenumberofquadrangularscleralflapsidesthatwerevisibleusinginfraredray(IR)imageswascomparedwiththenumbervisibleusingvisiblerayimages.IRimagesofscleralflapsweremadeusingascanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis);visiblerayimagesweremadeusingafunduscamera(KOWA,Vx-10i)incolorphotographingmodefortheanteriorsegmentoftheeyeball.Results:1.26±0.26(SEM)sidesofaquadrangularscleralflapweredetectedusingvisiblerayimages,and2.21±0.26(SEM)sidesweredetectedusingIRimages.ThenumberofscleralflapsidesvisibleusingIRimageswassignificantlyhigherthanthenumbervisibleusingvisiblerayimages(p<0.005Wilcoxonsignedranktest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):879.882,2011〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,強膜弁,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,scleralflap,imaging.880あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(128)とした試みはない.強膜弁は,通常は結膜に覆われているため,細隙灯顕微鏡などによる可視光で正確に確認するのはむずかしいことが多いが,濾過胞再建術の術前に,以前に行われた緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは,手術の方法を考えるうえで有用である.今回筆者らは,赤外線画像(IR画像)を用いることで,近赤外線の組織深達性により,緑内障手術の強膜弁の位置を知ることができないか検討したので報告する.I対象および方法濾過手術後に眼圧上昇により点眼,あるいは内服の追加治療が必要となった濾過胞機能不全,もしくは漏出濾過胞で,2009年6月から2010年8月に当科において濾過胞のカラーの可視光画像とIR画像の撮影が行われた,10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討した.対象の緑内障の病型の内訳は,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)3例,原発開放隅角緑内障(POAG)2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,血管新生緑内障(NVG)2例,先天緑内障1例であった.また,カラー画像取得の方法は眼底カメラによるもの19カ所であった.IR画像取得の方法はハイデルベルグ社のスペクトラリスの走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)によるIR画像によるもの19カ所であった.観察した強膜弁の各部位における最終の術式の内訳は,線維柱帯切除術8カ所,濾過胞再建術2カ所,不明9カ所であった.診療録より手術日が確定した強膜弁は9カ所あり,手術から撮影日までの期間は平均32.0±12.3(SEM)カ月であった(表1).なお,濾過手術を対象としているが,同一眼に含まれる強膜弁に濾過手術以外のものを含んでいた場合は調査対象とした.カラーの可視光画像の取得にあたっては,眼底カメラ(KOWA,Vx-10i)による前眼部撮影を用いた.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLOによるIR画像(光源は波長820nmのダイオードレーザー)を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.また,この19カ所の強膜弁を対象に可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係について検討した.II結果可視光画像よりもIR画像で強膜弁が良好に透見できた典型例を図1に示した.AB図1ハイデルベルグ製スペクトラリスのIR画像で良好に強膜弁が観察できた1例10時方向の強膜弁は,眼底カメラの可視光画像(A)では0辺,ハイデルベルグのIR画像(B)で3辺(白矢印)が確認できた.表1可視光画像とIR画像の比較検討の対象とした症例の内訳.10例10眼男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳の強膜弁19カ所.CACG3例,POAG2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,NVG2例,先天緑内障1例.カラー画像取得の方法眼底カメラ19カ所.IR画像取得の方法スペクトラリス19カ所.術式の内訳線維柱帯切除術8カ所濾過胞再建術2カ所不明9カ所.撮影までの期間平均32.0±12.3カ月(129)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011881図1の症例は70歳,男性.2007年3月,右眼の虹彩毛様体炎,虹彩に新生血管がみられ,眼圧38mmHg,眼底のCoats病様の血管病変にて当科初診.血管病変の強いぶどう膜炎による血管新生緑内障と診断された.2007年11月ベバシズマブの硝子体注射,2008年2月から汎網膜光凝固術を施行された.2008年4月,10時方向に円蓋部基底で線維柱帯切除術を施行された.2010年5月,緑内障点眼薬併用下に,右眼眼圧は14mmHgとなった.強膜弁は眼底カメラの可視光画像(図1A)では0辺,ハイデルベルグ社のIR画像(図1B)で3辺(白矢印)が確認できた.強膜弁の辺が確認できたのは,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定)(図2).可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数には,正の相関関係がみられ有意であった(n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定)(図3).III考察可視光画像で確認できる強膜弁の辺の数より,IR画像で確認できる辺の数は有意に増加していた.近赤外光は可視光よりも組織深達性があるため,結膜下の強膜弁の位置を知ることができたと考えられる.可視光で検出できる辺の数と赤外線で検出できる辺の数に正の相関がみられたのは,近赤外光が可視光に近い波長特性があるため,結膜の厚みや結膜下組織の影響を同様に受けることを示唆していると考えられた.可視光でも確認できる強膜弁の辺は,IR画像では確認できる辺の数自体の増加はないが,より強膜弁の状態を詳細に確認できた.しかし,可視光でもIR画像でも検知できない強膜弁も一部にみられた.結膜の厚みや,強膜弁の隙間の治癒の程度などにより描出状態が影響を受けると考えられた.線維柱帯切除術と線維柱帯切開術で,ハイデルベルグ社のスペクトラリスを用いたIR画像による強膜弁の描出態度を比較してみた.線維柱帯切除術8カ所,線維柱帯切開術2カ所を対象とした.本研究が濾過手術を対象としていたため,同時期に撮影された線維柱帯切開術と比べた限定的な結果であるが,線維柱帯切除術では1.75±0.52(SEM)辺,線維柱帯切開術では3.00±0.00(SEM)辺がみられ,有意差はみられなかった(Mann-Whitney’sU検定).線維柱帯切開術の結膜は平滑であるため,強膜面の焦点は合いやすいのに対して,線維柱帯切除後の結膜は厚みがあることが多く,強膜面の焦点は合いにくかった.また,線維柱帯切除術の結膜には,網状の模様がみられることがあった.これは,線維柱帯切除後は,結膜表面が不整であること,結膜下組織の増生があること,内部に小さなcyst様構造があること,濾過胞内の水分が存在することなどの影響が考えられた.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)のように,近赤外光で断層像を作成する機器が登場している10).今回,すでに普及している機器を利用しても二次元的な像ではあるが強膜弁の位置が確認できた.赤外線による強膜弁の観察は,濾過胞再建術の術前検査に役立つ可能性が示唆された.IV結論IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.3210可視光IR確認できた辺の数(辺)*図2可視光画像とIR画像によって確認できた強膜弁の辺の数の比較対象画像をカラーの可視光画像を眼底カメラの前眼部撮影画像,IR画像をハイデルベルグのIR画像とした場合,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(n=19,p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).311124124y=0.6311x+1.4133R2=0.407401230123IRで確認できた辺の数(辺)可視光で確認できた辺の数(辺)図3可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定,可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数は正の相関があり有意であった.なお,バブル内中央の数字は,強膜弁の数を表している.882あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(130)文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:ICG蛍光眼底造影─読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(清水弘一監修),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)LeungCK,YickDW,KwongYYetal:AnalysisofblebmorphologyaftertrabeculectomywithVisanteanteriorsegmentopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:340-344,2007***

プロスタグランジン関連眼圧下降薬で惹起された前部ぶどう膜炎

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)571《原著》あたらしい眼科28(4):571.575,2011cはじめに緑内障に対する唯一のエビデンスのある治療は眼圧下降である1,2).プロスタグランジン関連眼圧下降薬(以下,PGA点眼薬)は,プロスタグランジンF2a誘導体の刺激により,ぶどう膜強膜経路を介して房水流出を促し,1日1回で優れた眼圧下降効果を示し,ファーストラインの抗緑内障治療薬としての地位を固めている3,4).現在,国内では,イソプロピルウノプロストン,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストに加えて,2009年10月よりビマトプロスト点眼薬が臨床上使用可能な点眼薬となり,計5種類のPGA点眼薬が使用されている.PGA点眼薬の副作用は,体内代謝が速く血中半減期が短いため,全身的には少ないとされる.眼局所の副作用としては,結膜充血,眼瞼・虹彩色素沈着,多毛,角膜上皮障害などがよく知られている5).また,低頻度ではあるが,深刻な副作用としてぶどう膜炎,.胞様黄斑浮腫などが報告されている6,7).近年,ぶどう膜炎の既往がないにもかかわらず,PGA点眼薬により,前部ぶどう膜炎を生じたとする症例の〔別刷請求先〕山本聡一郎:〒849-8501佐賀市鍋島5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SoichiroYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANプロスタグランジン関連眼圧下降薬で惹起された前部ぶどう膜炎山本聡一郎岩尾圭一郎平田憲沖波聡佐賀大学医学部眼科学講座AnteriorUveitisAssociatedwithProstaglandinAnalogsSoichiroYamamoto,KeiichiroIwao,AkiraHirataandSatoshiOkinamiDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineぶどう膜炎の既往のない患者において,プロスタグランジン関連眼圧下降薬(以下,PGA点眼薬)で惹起された前部ぶどう膜炎の臨床的特徴について検討した.佐賀大学眼科で経験した症例5例6眼に,過去に症例報告されている21例28眼を加え,そのぶどう膜炎の特徴について検討した.ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストで前部ぶどう膜炎を発症した.炎症惹起までの期間は1~1,851日(平均149.4±338.8日)であった.前房炎症の程度は大多数の症例ではごく軽度で,炎症惹起前後での眼圧較差は.10~14mmHg(平均.0.78±5.3mmHg)であった.治療は全症例でPGA点眼薬の中止がなされ,22眼(64.7%)ではステロイド点眼治療が施行され,平均18.4±14.8日で消炎された.緑内障診療にあたり,PGA点眼薬の使用で炎症が惹起される可能性を常に念頭に置く必要がある.Weevaluatedtheclinicalcharacteristicsofanterioruveitiscausedbytheinstillationofprostaglandinanalogs(PGA)inpatientswithnopreviousmedicalhistoryofuveitis.Weretrospectivelyinvestigatedtheclinicalrecordsof5patients(6eyes)whohadconsultedourdepartment,andreviewed21reportedpatients(28eyes).Theanterioruveitiswastriggeredbylatanoprost,travoprostandbimatoprost,andoccurredwithin1-1,851days(average,149.4±338.8days).PGA-relateduveitisshowedmildinflammationsintheanteriorchamberinmostcases,andtheintraocularpressurechangesafterinflammationbeing.10to14mmHg(average,.0.78±5.3mmHg).Fortreatment,PGAwaswithheldinallcasesandtopicalcorticosteroidswereinstilledin22eyes(64.7%).ThePGA-relateduveitisimprovedin18.4±14.8days.OurfindingsindicatethatinflammationmustbecarefullymonitoredaftertheadministrationofanyPGA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):571.575,2011〕Keywords:眼炎症,眼圧上昇,緑内障,抗緑内障点眼薬.intraocularinflammation,intraocularpressure,glaucoma,antiglaucomaeyedrop.572あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(116)報告が散見される8~17).しかしながら,いずれの報告も少数の症例報告に留まっており,その臨床的特徴などに関しての詳細は不明である.そこで筆者らは,当院で経験した症例と過去に症例報告されているPGA点眼薬により惹起された前部ぶどう膜炎の臨床的特徴について検討した.I対象および方法対象は佐賀大学医学部附属病院眼科において,1999年5月から2009年5月の期間に,ぶどう膜炎の既往のない緑内障症例のうち,PGA点眼薬開始後に前部ぶどう膜炎を発症した症例について,カルテ記載に基づきレトロスペクティブに調査した.調査項目として,性別,年齢,緑内障病型,手術歴,術後経過期間,PGA点眼以外の点眼数,発症までの期間について調査した.発症時の診察所見として,炎症前後での眼圧変化,角膜浮腫・角膜後面沈着物・前房炎症・虹彩結節・.胞様黄斑浮腫の有無,治療方法,消炎までの期間について調査し,炎症の形態を評価した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計を用いて計測し,前房炎症はaqueouscellulargradingscale18)により評価した.また,過去に論文報告されているPGA点眼薬に起因する前部ぶどう膜炎症例について,PubMedを用いてprostaglandin,latanoprost,travoprost,bimatoprost,tafluprost,uveitisでキーワード検索を行い,該当する文献検索を行った.上記と同じ項目について調査し,当院症例と合わせて前部ぶどう膜炎の臨床的特徴についてさらに検討した.II結果当院での症例は5例6眼であり,その内訳は男性4眼,女性2眼,年齢は52~86歳(平均74.3±11.7歳)であった(表1).全身性ぶどう膜炎との鑑別に必要と考えられる採血など一般的な全身検索において,異常所見は認めなかった.緑内障病型は,原発開放隅角緑内障3眼,落屑緑内障2眼,発達緑内障1眼であった.手術の既往歴のない症例は2眼であり,2眼で緑内障手術のみ,2眼で緑内障手術および白内障手術が施行されており,すべての症例で手術後半年以上(8.3~38.0カ月)経過していた.PGA点眼薬の種類はすべての症例でラタノプロスト点眼を使用しており,ラタノプロスト点眼以外の併用されていた抗緑内障点眼数は,1~3剤(平均1.7±0.81剤)であった.ぶどう膜炎発症までの期間は138~表1患者背景症例AB-RB-LCDE平均±標準偏差年齢(歳)79757579865274.3±11.7性別男性女性女性男性男性男性緑内障病型POAGPOAGPOAGEGEGDEV緑内障手術既往─LOTLOT─VISCOLOT+SINTLE白内障手術既往─IOLIOL───術後経過期間(月)─8.322.0─32.638.0PGA以外の抗緑内障点眼(剤)2113121.7±0.81発症までの期間(日)2192281381,851312837597.5±663.5EG:落屑緑内障,DEV:発達緑内障,IOL:超音波白内障手術+眼内レンズ挿入術,LOT:線維柱帯切開術,PGA:PGA点眼薬,POAG:原発開放隅角緑内障,SIN:サイヌソトミー,TLE:線維柱帯切除術,VISCO:ピスコカナロストミー.表2診察所見と治療AB-RB-LCDE平均±標準偏差炎症前の眼圧(mmHg)16131421133618.8±14.5炎症時の眼圧(mmHg)18121221155021.3±14.5炎症前後の眼圧較差(mmHg)2.1.202142.5±5.9角膜浮腫──────前房炎症*1+2+2+1+1+1+角膜後面沈着物─+────隅角結節・虹彩結節─++───眼底:.胞様黄斑浮腫──────消炎期間(日)54141108718.7±17.4ステロイド点眼治療+++──+*:aqueouscellulargradingscaleにより分類18).(117)あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115731,851日(平均597.5±663.5日)であった.ぶどう膜炎発症前の眼圧は13~36mmHg(平均18.8±14.5mmHg),炎症時の眼圧は12~50mmHg(平均21.3±14.5mmHg)であり,炎症惹起前後での眼圧較差では.2~14mmHg(平均2.5±5.9mmHg)で,うち1眼では14mmHgの著明な眼圧上昇を認めた(表2).前房炎症はaqueouscellulargradingscale18)2+が2眼,1+が4眼で,角膜後面沈着物を生じた症例は1眼であった.すべての症例で前部硝子体に炎症細胞を認めず,また.胞様黄斑浮腫など眼底異常所見も認めず,前眼部に限局した炎症であった.治療は,全症例ともラタノプロスト点眼が中止され,4眼でステロイド点眼薬で抗炎症加療が施行された.ステロイド点眼薬の内訳は0.1%リン酸ベタメタゾンが2眼,0.1%フルオロメトロン点眼後に0.1%リン酸ベタメタゾンに変更したのが2眼,2眼はラタノプロスト点眼中止のみで消炎がみられた.消炎までの平均期間は5~41日(平均18.7±17.4日)であった.PGA点眼中止後の眼圧コントロールに使用した抗緑内障薬の内訳は,マレイン酸チモロール,ブリンゾラミド,ジピベフリン塩酸塩,塩酸ブナゾシンでもともと併用していた点眼を続行し,消炎後の眼圧コントロールはおおむね良好であった.しかし,炎症惹起前より眼圧ベースラインが20mmHgを越えていた症例Eは,消炎後も眼圧高値のため,最終的にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した.つぎにPubMedを用いて文献検索し,PGA点眼薬で前部ぶどう膜炎を惹起した過去の論文報告を10報抽出した.この既報症例21例28眼に当院症例を加えて,計26例34眼でさらに検討を加えた.既報のPGA点眼薬の内訳は,ラタノプロスト点眼の症例が計16例20眼8~12),トラボプロスト点眼の症例が計4例6眼13~16),ビマトプロスト点眼の症例が1例2眼17)であった.26例34眼の内訳は,男性13眼,女性21眼,年齢は46~86歳(平均71.7±8.2歳)であった(表3).緑内障病型は原発開放隅角緑内障19眼,落屑緑内障6眼,発達緑内障1眼,病型不詳8眼であった.手術の既往歴は,7眼で緑内障手術,15眼で白内障手術が施行されていた.PGA点眼薬以外の併用抗緑内障点眼数は0~3剤(平均0.97±0.90剤)であった.ぶどう膜炎発症までの平均期間は1~1,851日(平均149.4±338.8日)で,そのうち点眼開始後14日以内では12眼(35.3%),60日以内では21眼(61.8%)の発症がみられた.炎症惹起前後での眼圧較差は.10~14mmHg(平均.0.78±5.3mmHg)で,5mmHg以上の眼圧上昇を認めた症例は3眼(8.8%)のみであった(表4).前房炎症はaqueouscellulargradingscale18)1+以下のものが22眼(64.7%)で,角膜後面沈着物を生じた症例は5眼(14.7%)であった..胞様黄斑浮腫など眼底異常所見を認める症例はみられなかった.治療は,全症例でPGA点眼薬を中止し,22眼(64.7%)でステロイド点眼薬で抗炎症治療が施行された.消炎までの期間は,5~56日(平均18.4±14.8日)であった.表3患者背景(当院症例および既報)平均±標準偏差性別(眼)男性13(38.0%),女性21(62.0%)発症年齢(歳)46~8671.7±8.2緑内障病型(眼)POAG19EG6DEV1病型不詳8手術既往(眼)緑内障手術7白内障手術15PGA以外の眼圧下降点眼数(剤)0~30.97±0.90発症までの期間(日)1~1,851149.4±338.8EG:落屑緑内障,DEV:発達緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障.表4診察所見と治療(当院症例および既報)発症前眼圧(mmHg)21.3±5.9発症時眼圧(mmHg)20.7±8.5炎症前後の眼圧較差(mmHg).0.78±5.3角膜浮腫(眼)3(8.8%)前房炎症*(眼)3+2+1+trace2(5.9%)10(29.4%)10(29.4%)12(35.3%)角膜後面沈着物(眼)5(14.7%.豚脂様2,詳細不明3)隅角・虹彩結節(眼)2(5.9%).胞様黄斑浮腫(眼)0ステロイド点眼(眼)22(64.7%)消炎までの期間(日)18.4±14.8*aqueouscellulargradingscaleにより分類18).574あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(118)III考按PGA点眼薬は,眼炎症を惹起する可能性があり,特にぶどう膜炎症例における使用の際には慎重投与が必要とされている19).過去の報告では1990年代後半に,炎症の既往のない緑内障眼に対するPGA点眼薬で惹起された前部ぶどう膜炎の報告があり,その発症頻度は,Warwarら8)はラタノプロスト点眼で163眼中4.9%に,Smithら9)はラタノプロスト点眼で505例中1%と報告しており低頻度である.そのためいずれの報告も少数の症例報告に留まっており,その臨床的特徴などに関しての詳細は不明である.そこで今回,筆者らはこれまでにPGA点眼薬で前部ぶどう膜炎を惹起した報告を集め,その臨床的特徴について検討した.プロスタグランジン(PG)が眼炎症のメディエータとしての役割を担うことはよく知られている.発症のメカニズムは思索的ではあるが,PGF2aにより虹彩毛様体においてPGE2が放出され20),ホスホリパーゼA2の活性化によって細胞膜のリン脂質からアラキドン酸の放出が刺激され21),結果的にアラキドン酸が炎症誘発性エイコサノイドの産生を増加することにより,眼炎症をひき起こすと考えられている.動物実験においても,高濃度のPGにより眼血液房水関門が破綻し,眼炎症が惹起される22).臨床においては,健常眼で眼炎症のリスクのない28人のボランティアに対しラタノプロストの1日4回2週間点眼を施行し,そのうち15人で軽度の前房細胞の上昇を認めたとする報告23)や,60人の慢性開放隅角緑内障患者におけるラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト点眼による6カ月間のフレアセルメータで,点眼開始前と比較しラタノプロスト群では60.4%,トラボプロスト群では45.5%,ビマトプロスト群では38.5%の前房細胞フレア値が増加したとする報告もある24).今回の検討における臨床所見の特徴として,前房炎症の程度はaqueouscellulargradingscale18)1+以下のものが22眼(64.7%)で,角膜後面沈着物を生じたのは5眼(14.7%)と,炎症の程度は軽度なものが多いと考えられた.炎症惹起前後での眼圧較差は,.10~14mmHg(平均.0.78±5.3mmHg)と,多くの症例では炎症惹起後での眼圧上昇を認めなかった.治療としては,PGA点眼薬中止のみで消炎がみられたものが12眼(35.3%)で,22眼(64.7%)でステロイド点眼薬が施行されており,消炎までの平均期間は,18.4±14.8日といずれも比較的速やかに消炎がみられていた.発症頻度は低いものと考えられるが,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト点眼において前部ぶどう膜炎の発症を認める.PGA点眼薬によりぶどう膜炎が惹起される症例報告があるなか,その優れた眼圧下降作用から,ぶどう膜炎続発緑内障においても炎症がコントロールされている症例に関しては,注意深い経過観察のもと使用するという報告も,2000年代後半から徐々に認められている25~27).しかし,炎症の既往がないにもかかわらずPGA点眼薬により炎症を惹起する症例が少なからず存在することは確かなことであり,使用の際にはやはり注意深い経過観察が必要である.今後の検討課題としては,いまだ報告のないタフルプロスト点眼に起因するぶどう膜炎症例に関してや,ぶどう膜炎眼でのPGA点眼薬使用に際しての炎症・眼圧応答に関する検討があげられる.治療に関しても,PGA点眼薬中止のみで軽快するものもあり,ステロイド点眼加療まで必要かどうかについては,今後さらなる検証が必要と考える.以上,眼炎症の既往がないにもかかわらずPGA点眼薬で惹起された前部ぶどう膜炎の特徴について検討した.炎症の程度や眼圧上昇は軽度なものが多く,PGA点眼薬中止とステロイド点眼加療により比較的容易に消炎できるという特徴を認めた.PGA点眼薬使用の際には,前部ぶどう膜炎の発症についても念頭に置いて,緑内障診療にあたる必要がある.文献1)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudy-Group:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20063)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19964)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20055)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20086)SchumerRA,CamrasCB,MandahlAK:Putativesideeffectsofprostaglandinanalogs.SurvOphthalmol47:219-230,20027)AlmA,GriersonI,ShieldsMB:Sideeffectsassociatedwithprostaglandinanalogtherapy.SurvOphthalmol53:93-105,20088)WarwarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19989)SmithSL,PruittCA,SineCSetal:Latanoprost0.005%andanteriorsegmentuveitis.ActaOphthalmolScand77:668-672,199910)FechtnerRD,KhouriAS,ZimmermanTJetal:Anterioruveitisassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol126:37-41,199811)WaheedK,LaganowskiH:Bilateralpoliosisandgranu(119)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011575lomatousanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuseandapparenthypotrichosisonitswithdrawal.Eye15:347-349,200112)OrnekK,OnaranZ,TurgutY:Anterioruveitisassociatedwithfixed-combinationlatanoprostandtimolol.CanJOphthalmol43:727-728,200813)FaulknerWJ,BurkSE:Acuteanterioruveitisandcornealedemaassociatedwithtravoprost.ArchOphthalmol121:1054-1055,200314)SuominenS,ValimakiJ:Bilateralanterioruveitisassociatedwithtravoprost.ActaOphthalmolScand84:275-276,200615)AydinS,OzcuraF:Cornealoedemaandacuteanterioruveitisaftertwodosesoftravoprost.ActaOphthalmolScand85:693-694,200716)KumarasamyM,DesaiSP:Anterioruveitisisassociatedwithtravoprost.BMJ329:205,200417)PackerM,FineIH,HoffmanRS:Bilateralnongranulomatousanterioruveitisassociatedwithbimatoprost.JCataractRefractSurg29:2242-2243,200318)NussenblattRB,WhitcupSM,PalestineAG:Uveitis:FundamentalandClinicalPractice,2nded,p58-68,Mosby,St.Louis,199619)沖波聡:ぶどう膜炎.眼科44:1632-1638,200220)YousufzaiSY,Abdel-LatifAA:ProstaglandinF2alphaanditsanalogsinducereleaseofendogenousprostaglandinsinirisandciliarymusclesisolatedfromcatandothermammalianspecies.ExpEyeRes63:305-310,199621)KozawaO,TokudaH,MiwaMetal:MechanismofprostaglandinE2-inducedarachidonicacidreleaseinosteoblast-likecells:independence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チモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)559《原著》あたらしい眼科28(4):559.562,2011cはじめに抗緑内障点眼薬は長期にわたって使用するため,慢性的な副作用が問題となることが多い.bブロッカー点眼による眼表面への悪影響の報告は,角膜知覚の低下1),涙液層の不安定化2~5),涙液の産生低下2,4),結膜の杯細胞数の減少4)などさまざまなものがある.これらの変化は,点眼薬に含まれる防腐剤によってもひき起こされうるが,bブロッカーそのものによる変化との区別ははっきりしない.先に筆者らは,bブロッカーであるチモロール点眼の防腐剤を含むものと含まないものを比較し,防腐剤含有群で角膜上皮障害がみられたことを報告した7)が,今回症例数を増やし,防腐剤の有無によるbブロッカー点眼の眼表面と涙液に対する影響をプロスペクティブに検討したので報告する.I方法対象は,東京歯科大学市川総合病院眼科外来および両国眼科クリニックにて,高眼圧症,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障の診断を受け,抗緑内障点眼薬の初回投与をうける〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPANチモロール点眼の防腐剤有無による眼表面と涙液機能への影響石岡みさき*1,2,4島.潤*2,3八木幸子*2坪田一男*2,3*1みさき眼科クリニック*2東京歯科大学市川総合病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4両国眼科クリニックProspectiveComparisonofTimololEyedropswithandwithoutPreservatives:EffectonOcularSurfaceandTearDynamicsMisakiIshioka1,2,4),JunShimazaki2,3),YukikoYagi2)andKazuoTsubota2,3)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)RyogokuEyeClinic抗緑内障点眼薬の初回投与を受ける39名を,防腐剤(塩化ベンザルコニウム)含有チモロール点眼を使用する群と,防腐剤非含有のチモロール点眼を使用する群に無作為に割り付け,眼表面と涙液機能への影響を前向きに3カ月にわたり観察した.両群とも点眼開始1カ月後より有意に眼圧の低下を認めた.涙液機能,角膜知覚は点眼前後と治療群間に差を認めなかった.角膜のフルオレセイン染色は,防腐剤含有群に増加傾向を認め,涙液層破壊時間は防腐剤含有群にて有意に短縮し,非含有群にて有意に延長していた.今回の結果より,チモロール点眼使用にあたっては,眼表面や涙液への防腐剤の影響を考慮する必要があると考えられた.Weconductedarandomized,prospectivecomparativestudyof39patientswhousedantiglaucomamedicationforthefirsttimeduringaperiodof3months.Patientswererandomlyassignedeither0.5%timololeyedropswithbenzalkoniumchlorideaspreservative(TIM+BAK)or0.5%timololwithoutpreservative(TIM-BAK).Intraocularpressurereducedsignificantlyinbothgroupsateveryexaminationpoint.Nodifferenceswerenotedincornealsensitivityorteardynamicsbetweenpre-andpost-treatmentineithergroup.Eyesusingtimololwithpreservativesshowedslightlyhighercornealfluoresceinscoresthandideyesusingtimololwithoutpreservative.Tearbreak-uptimedecreasedintheeyeswithtimololwithpreservativeandincreasedintheeyeswithtimololwithoutpreservative.Whencornealcytotoxicityisobservedinpatientsundertopicalmedication,theadverseeffectsofpreservativesshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):559.562,2011〕Keywords:チモロール,点眼,塩化ベンザルコニウム,防腐剤,緑内障.timololmaleate,eyedrops,benzalkoniumchloride,presservatives,glaucoma.560あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(104)患者とし,すでに抗緑内障点眼薬を使用している者,人工涙液以外の点眼を使用している者,コンタクトレンズを使用している者は対象から除外した.試験実施に先立ち,東京歯科大学市川総合病院倫理委員会,および両国眼科クリニック治験審査委員会において,試験の倫理的および科学的妥当性が審査され承認を得た.すべての被験者に対して試験開始前に試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し理解を得たうえで,文書による同意を取得した.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い実施された.防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAC)を含む0.5%チモロール(チモプトールR,参天製薬,万有製薬)〔以下,BAC(+)〕と防腐剤を含まない0.5%チモロール(チマバックR,日本点眼薬研究所,現在製造中止)〔以下,BAC(.)〕のいずれかを封筒法にて無作為に割り付け,検査は表1のスケジュールに従い行った.チマバックRはミリポアフィルターRつきの点眼であり,チモプトールRとは防腐剤の有無の点のみ異なり,他の添加物,pH,浸透圧などは同じである.眼圧測定は非接触型眼圧計を用いた.視野検査はGoldmann視野計,あるいはHumphrey視野計を用い,投与前と3カ月後の検査には同種器械を使用した.視野の評価は,Goldmann視野計においては暗点の出現あるいは拡大により判定し,Humphrey視野計ではMD(平均偏差)値の変化により判定した.生体染色は1%フルオレセイン2μlを結膜.に滴下し,角膜を上部,中央,下部の3カ所をそれぞれ0から3点と評価し,その合計をスコアとした(最低0点,最高9点).涙液層破壊時間(tearbreak-uptime:BUT)は3回測った平均をとり,Schirmerテストは5%フルオレセインを1μl結膜.に滴下した5分後に麻酔なしで施行した.涙液クリアランステストはSchirmer試験後の試験紙のフルオレセイン濃度で判定し8),Schirmer値に涙液クリアランステストのlog値をかけた値tearfunctionindex9)も評価の対象とした.角膜知覚はCochetBonnet角膜知覚計にて角膜中央部を測定し,換算表にてg/mm2に換算し比較した.投与前のSchirmerテスト値が多い片眼を評価対象とし,3カ月の観察期間を終了した39名(男性17名,女性22名,平均年齢59.7±11.5)について解析を行った.内訳を表2に示す.結果は平均値(±標準偏差)で表した.統計学的検定は,眼圧,BUTのグループ間,グループ内の比較にはANOVA(analysisofvariance),フルオレセイン染色スコアについては群間比較にWilcoxon’sranksumtestを,群内比較にはWilcoxon’smatchedpairessingned-rankstestを用いた.Schirmerテスト,クリアランステスト,tearfunctionindex,角膜知覚の群間,群内比較はStudentt-testを用いた.II結果眼圧はBAC(+)群では18.1±4.7mmHg(投与前),15.5±3.4mmHg(1カ月),15.3±2.9mmHg(2カ月),15.4±3.7mmHg(3カ月)と有意に低下し(p<0.001,p<0.01,p<0.001),同様にBAC(.)群でも17.6±3.9mmHg(投与前),13.7±2.6mmHg(1カ月),14.6±2.8mmHg(2カ月),15.0±3.1mmHg(3カ月)と有意に低下した(p<0.001,p<0.001,p<0.01).両群間に差は認められなかった(図1).投与前後で視力,C/D(陥凹乳頭)比,視野の変化はみら表1検査スケジュール開始前1カ月2カ月3カ月視力○○眼圧○○○○眼底検査○○視野検査○○Schirmerテスト○○涙液クリアランステスト○○フルオレセイン染色○○○○Tearbreak-uptime○○○○角膜知覚○○表2症例の内訳BAC(+)(n=19)BAC(.)(n=20)平均年齢(標準偏差)62.9(9.5)56.7(12.7)性別(男性:女性)4:1513:7原疾患高眼圧症30正常眼圧緑内障1217開放隅角緑内障430123投与期間(カ月)眼圧(mmHg)**********4035302520151050:BAC(+):BAC(-)図1治療前後の眼圧の変化両群とも治療開始前より眼圧は有意に低下した(*:p<0.01,**:p<0.001).両群間に差はみられなかった.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011561れなかった.涙液検査(Schirmerテスト,クリアランステスト,tearfunctionindex),角膜知覚検査は投与3カ月後において両治療群間に差を認めず,また各治療群の治療前後での差も認めなかった(表3).フルオレセインスコアはBAC(.)群では0.30±0.73(投与前),0.45±0.94(1カ月),0.21±0.42(2カ月),0.30±0.66(3カ月)と変化を認めなかった.BAC(+)群では0.53±0.96(投与前),0.79±1.13(1カ月),0.95±0.91(2カ月),1.11±1.45(3カ月)と,やや増加傾向がみられたが有意差は認められなかった.また,両群間に有意差は認められなかった(図2).投与3カ月後の時点でスコアが2以上,あるいは3以上の症例数を両群間で比較したが,差は認められなかった.BUTはBAC(.)群では6.4±3.8秒(投与前),7.4±4.1秒(1カ月),7.3±3.3秒(2カ月),8.7±3.0秒(3カ月)と延長がみられ,3カ月の時点で有意差を認めた(p<0.01).BAC(+)群では,5.6±2.7秒(投与前),3.9±2.3秒(1カ月),3.8±2.1秒(2カ月),4.5±2.7秒(3カ月)と短縮傾向にあり,投与開始1,2カ月の時点で有意差を認めた(p<0.01,p<0.01).治療群間においては,1,2,3カ月のそれぞれの時点で有意差を認めた(p<0.01,p<0.001,p<0.001)(図3).III考察前回の筆者らの報告7)では,投与3カ月後にBAC(+)群において角膜のフルオレセインスコアがBAC(.)群より増加し,BUTは投与1カ月後より3カ月後までBAC(.)群がBAC(+)群に比べ有意に延長していた.今回有意差はなかったが,BAC(+)群で角膜上皮障害が出やすい傾向が同様にみられ,BUTはBAC(+)群で短縮,BAC(.)群で延長という前回の報告と同じ結果となった.これまでbブロッカー点眼を使用すると,角膜知覚が低下することにより瞬目回数の減少と涙液分泌減少が生じ,その結果角膜上皮障害が起きると考えられてきた1,2,4)が,今回の報告では防腐剤の有無にかかわらず角膜知覚,涙液分泌量ともに投与前後で変化していなかった.角膜知覚に関してはいろいろな報告があるが,Weissmanらは綿花ではなく角膜知覚計を用いれば年齢が高いグループにおいてbブロッカー点眼使用後に知覚が低下すると報告している1).彼らの報告では平均年齢49歳のグループで知覚低下がみられているが,今回の筆者らの報告は平均年齢が60歳近いが知覚低下はみられていない.Weissmanの報告は点眼10分後の調査であり,bブロッカー点眼による角膜知覚低下は一過性である可能性もある.涙液分泌に関しては,今回は点眼開始前に涙液分泌量がSchirmer値で平均10mm以上という涙液分泌が多いグループのため,点眼による涙液分泌減少がみられなかったとも考えられるが,涙液分泌が十分にあり点眼による減少が起きなくとも,また角膜知覚が低下しなくても,BACによりBUT短縮は起きるという結果になった.表3涙液検査,角膜知覚検査月BAC(+)BAC(.)p値Schirmerテスト(mm/5分)013.7(11.2)14.9(12.2)0.76313.1(12.7)17.1(10.6)0.29涙液クリアランステスト(log2)05.1(1.7)5.0(1.5)0.8435.2(1.6)4.9(1.4)0.67Tearfunctionindex074.9(73.7)78.1(69.8)0.89375.5(81.2)89.0(66.9)0.58角膜知覚(g/mm2)00.48(0.15)0.59(0.57)0.4330.46(0.15)0.49(0.24)0.690123投与期間(カ月)涙液層破壊時間(秒):BAC(+):BAC(-)151050***♯♯♯♯♯図3治療前後のtearbreak.uptime(BUT)の変化BAC(+)群では治療開始1,2カ月においてBUTの短縮がみられ,BAC(.)群では治療開始3カ月においてBUTの延長がみられた(*:p<0.01).治療開始1,2,3カ月の時点で両群間に差を認めた(#:p<0.01,##:p<0.001).01投与期間(カ月)フルオレセインスコア2332.521.510.50-0.5-1:BAC(+):BAC(-)図2治療前後のフルオレセインスコアの変化両群内での治療前後,両群間でのスコアに有意差は認められなかった.562あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(106)BACによる細胞障害は以前より知られ10),BUTの短縮,涙液層の不安定化,角膜上皮バリアの破壊はBACが界面活性剤として作用し,涙液層の脂質を変化させるためと考えられている3,5).これらの変化は1回の点眼によっても起きると報告されている3,5).BACによって生じたBUTの短縮は,BACを含まない点眼に変更しても戻りにくいという報告がある6).今回は,3カ月という比較的短期間の投与であり,しかもチモロール単剤投与であったため,防腐剤の有無による差異が明確に出なかった可能性もある.実際の臨床でしばしばみられる,長期間にわたる点眼薬の使用時,点眼の多剤併用時,そしてもともと角膜上皮障害やドライアイがある症例には,点眼剤に含まれる防腐剤による悪影響に留意すべきと考えられる.今回もBAC(.)群でBUT延長がみられた.角膜上皮障害の有無によりBUTのデータに影響が出る可能性も考えたが関連は認められず,その原因は不明である.今回防腐剤を含まないチモロール点眼を使用しても眼表面への悪影響は認めなかった.投与期間が3カ月と短期間であるため,チモロール点眼剤そのものの角膜上皮や涙液層への悪影響はないと断定はできないが,今回の結果から,防腐剤含有のbブロッカー点眼使用中に角膜上皮障害を認めた場合には,防腐剤の影響も考えたほうがよいことが示唆された.文献1)WeissmanSS,AsbellPA:Effectsoftopicaltimolol(0.5%)andbetaxolol(0.5%)oncornealsensitivity.BrJOphthalmol74:409-412,19902)ShimazakiJ,HanadaK,YagiYetal:Changesinocularsurfacecausedbyantiglaucomatouseyedrops:prospective,randomisedstudyforthecomparisonof0.5%timololv0.12%unoprostone.BrJOphthalmol84:1250-1254,20003)IshibashiT,YokoiN,KinoshitaS:Comparisonoftheshort-termeffectsonthehumancornealsurfaceoftopicaltimololmaleatewithandwithoutbenzalkoniumchloride.JGlaucoma12:486-490,20034)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19925)BaudouinC,deLunardoC:Shorttermcomparativestudyoftopical2%carteololwithandwithoutbenzalkoniumchlorideinhealthyvolunteers.BrJOphthalmol82:39-42,19986)KuppensEVMJ,deJongCA,StolwijkTRetal:Effectoftimololwithandwithoutpreservativeonthebasaltearturnoveringlaucoma.BrJOphthalmol79:339-342,19957)石岡みさき,島崎潤,八木幸子ほか:bブロッカー点眼と防腐剤が涙液・眼表面に及ぼす影響.臨眼58:1437-1440,20048)小野真史,坪田一男,吉野健一ほか:涙液のクリアランステスト.臨眼45:1143-1149,19919)XuKP,YagiY,TodaIetal:Tearfunctionindex:Anewmeasureofdryeye.ArchOphthalmol113:84-88,199510)BursteinNL:Cornealcytotoxiciyoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,1980***

前眼部光干渉断層計(RTVue-100®)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)435《原著》あたらしい眼科28(3):435.439,2011cはじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,おもに眼底観察,特に黄斑疾患の観察や,その病態評価での有用性が認められ著しく発展した.最近は,前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)により前眼部観察にも適応が拡大され,角膜,結膜,前房,隅角の定量的,客観的解析が可能となり,さまざまな前眼部疾患の病態解明に貢献している.また,前眼部OCTは従来から前眼部観察に用いられてきた超音波生体顕微鏡とは異なり,眼組織に接触せず非侵襲的に前眼部断層像を取得できるという特徴がある.RTVue-100R(Optovue社製)は眼底観察用として開発されたスペクトラルドメインOCTであり,おもに網膜疾患や緑内障の病態評価に用いられているが,前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部〔別刷請求先〕清水恒輔:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学講座Reprintrequests:KosukeShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1-1Midorigaokahigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計(RTVue-100R)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察清水恒輔*1川井基史*1花田一臣*2坪井尚子*1山口亨*1阿部綾子*1吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学講座*2同医工連携総研講座EvaluationofTrabeculectomyBlebsUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography(RTVue-100R)KosukeShimizu1),MotofumiKawai1),KazuomiHanada2),NaokoTsuboi1),ToruYamaguchi1),AyakoAbe1),andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)をRTVue-100R(Optovue社製)に前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して観察した.RTVue-100Rは波長840nmの眼底観察用光源を使用しているため,波長1,310nmの光源を使用する前眼部光干渉断層計と比較して組織深達度は低いが,解像度が高いという特徴がある.本装置を用いて房水漏出のある術後早期濾過胞を観察すると,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部との離開が観察できた.また,縫合閉鎖により房水漏出が消失すると,同部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われる所見が得られた.RTVue-100Rを用いると,濾過胞結膜上皮と角膜上皮が描出でき,濾過胞表層における組織構造の観察が可能であった.WeimagedtrabeculectomyblebsusingtheRTVue-100R(Optovue,Inc.,Fremont,CA)withthecornealanteriormodule.Becausethisopticalcoherencetomography(OCT)instrument,whichwasdevelopedforfundusimaging,employsan840-nmwavelengthlightsource,tissuepenetrationislessthanthatofotheranterior-segment(AS)-OCTinstrumentsemployinga1,310-nmwavelengthlightsource.However,imagesofhigheraxialresolutionmaybeobtainedusingtheRTVue-100R.Inacaseofleakingbleb,theconjunctivawasseparatedfromthecorneallimbusatthesiteoftheblebleakintheearlypostoperativeperiod.Aftertheblebleakwasresolvedbysuturerepair,weobtainedanimageofthesite,coveredbyconjunctivalandcornealepithelium.UsingthisAS-OCTinstrument,weobtainedimagesoftheblebandcornealepitheliumandhistologicimagesofsuperficialfeaturesinthebleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):435.439,2011〕Keywords:緑内障,前眼部光干渉断層計,線維柱帯切除術,濾過胞.glaucoma,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,trabeculectomy,bleb.436あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(128)OCTとしても使用可能である.本装置は波長840nmの眼底観察用光源を使用しているが,これは前眼部に特化した他の前眼部OCT(波長1,310nm)と比較して短波長である.前眼部は眼底とは異なり組織表面の凹凸が多く,さらに強膜や結膜,虹彩といった不透明組織を含んでいる.したがって,短波長光源を使用する本装置を用いて前眼部を撮影した場合,組織深達度が不足するため十分な観察を行えない可能性がある.しかし一方で,本装置は解像度が高いという特徴があり,花田ら1)は本装置を用いて糖尿病角膜症での上皮の治癒過程を詳細に観察した.近年,前眼部OCTを用いて細隙灯顕微鏡では観察に限界のある線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)の内部構造を非侵襲的に評価できることが報告2,3)されているが,本装置を用いて濾過胞を観察した報告はない.今回筆者らは,RTVue-100Rを前眼部OCTとして用い,濾過胞の観察を行ったので報告する.I対象および方法対象は,円蓋部基底結膜弁を用いて線維柱帯切除術を施行後,房水漏出が認められず良好な眼圧が長期間維持されている濾過胞(機能性濾過胞)を有する1例(症例1)と,術後早期濾過胞を有する2例である(症例2,3).濾過胞の観察には,細隙灯顕微鏡とRTVue-100RにCAMを装着した前眼部OCT(図1)を用いた.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で測定した.II症例〔症例1〕68歳,女性.続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後64日目の所見である.眼圧は8mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞形状はびまん性であった(図2a).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図2b),広い強膜弁上腔と濾過胞壁内のマイクロシストが観察された.また,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図2c).〔症例2〕71歳,男性.全層角膜移植術後に発症した続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後10日目の所見である.眼圧は9mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はびまん性であった(図3a).Seidel試験は陰性であった(図3b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図3c),症例1と同様に,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図3d).〔症例3〕74歳,男性.原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後9日目の所見である.眼圧は4mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はやや縮小していた*SS250μmabc図2症例1(機能性濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).c:広い強膜弁上腔,マイクロシスト(矢頭)が観察できる.濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.図1前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着したRTVue-100R(Optovue社製)の外観(129)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011437abcd*SS250μm図3症例2(房水漏出のない術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:Seidel試験.房水漏出は認められない.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.abcdefSSSSSS250μm250μm250μm図4症例3(房水漏出のある術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はやや縮小している.b:Seidel試験.房水漏出を認める.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部は離開している(矢印).e:房水漏出部位を縫合閉鎖後翌日の所見.縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全である(矢印).f:縫合閉鎖後9日目の所見.縫合部位は再生した上皮で覆われている(矢印).SS:強膜弁上腔.438あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(130)(図4a).Seidel試験は陽性であった(図4b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図4c),症例1,2とは異なり,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離開していた(図4d).その後,同部位からの房水漏出が遷延したため10-0ナイロン糸で縫合閉鎖したところ,翌日のSeidel試験は陰性となり,眼圧は15mmHgに上昇した.このときの画像所見では,縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の描出は不鮮明であった(図4e)が,縫合閉鎖9日後の所見では,同部位における上皮の存在が確認できた(図4f).Seidel試験は陰性を維持しており,眼圧は18mmHgであった.III考按RTVue-100Rを前眼部OCTとして用いた報告には,角膜厚4),涙液メニスカス5,6)を対象としたものがあるが,濾過胞を対象とした報告はない.前眼部OCTを用いた濾過胞観察では,Singhら2)はプロトタイプの前眼部OCT(CarlZeiss社製)を用いて,機能性濾過胞では濾過胞壁が厚く,機能不全の濾過胞では濾過胞の丈が低く,強膜窓が閉塞していたと報告した.またMullerら3)は,スリットランプに接続した前眼部OCT(Heidelberg社製)を用いて濾過胞を観察し,機能性濾過胞では低信号で,マイクロシスト,粗な内部構造が観察されたと報告した.今回筆者らは,RTVue-100Rを用いて濾過胞を観察したところ,濾過胞深部の描出は不鮮明であったが,濾過胞壁とその内部に存在するマイクロシスト,強膜弁上腔の描出が可能であった.さらに,本装置を用いて得られた画像所見で特徴的であったのは,濾過胞結膜上皮と角膜上皮を描出でき,それらの経時変化を観察できたことである.OCTには1,310nmと840nmの波長を採用する様式がある.波長1,310nmのOCTは解像度が25μm以下と低いが,組織深達度は7mmと高く,おもに前眼部観察用に使用されている.一方,波長840nmのOCTは,組織深達度が2~2.3mmと低いが解像度は5μmと高いため鮮明な画像が得られるという特徴があり7),おもに眼底観察用として使用されている.Singhら8)は,前眼部OCTである波長840nmのCirrusHD-OCTR(CarlZeiss社製)と,波長1,310nmのVisanteOCTR(CarlZeiss社製)を用いて得られた濾過胞所見を比較したところ,前者では濾過胞内腔,強膜弁,強膜弁下腔,強膜窓など濾過胞深部の検出力は劣っていたが,濾過胞壁内部構造の検出には優れていたと報告しており,短波長光源を使用する前眼部OCTは濾過胞壁の観察に有用であると考えられる.今回,筆者らが用いたRTVue-100RはSinghらが使用した前眼部OCTと同じ波長840nmの光源を使用している.したがって,長波長光源を使用する前眼部OCTでは検出困難な濾過胞表層の組織構造が観察できたと考えられた.また,本装置はスペクトラルドメインOCTであるためタイムドメインOCTと比較して撮影時間が0.01~0.15秒と短く,被験者の眼球運動に左右されにくいという特徴もある.そこで,濾過胞結膜上皮と角膜上皮の所見について着目すると,症例1,2に示した機能性濾過胞と房水漏出のない術後早期濾過胞では,結膜切開部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われている様子が観察できた.このような所見を認める場合,症例2のように術後早期であっても房水漏出が生じにくく,良好な濾過胞が維持されることが示唆された.一方,症例3に示した房水漏出のある術後早期濾過胞では,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離解していた.本症例では保存的に経過観察を行ったが,同部位からの房水漏出が遷延したため,10-0ナイロン糸で縫合閉鎖した.翌日の所見では縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全であったが,9日後には再生した上皮で覆われていた.その後も房水漏出は再発せずに良好な濾過胞が維持された.本症例では,房水漏出部位の縫合閉鎖により房水漏出が減少または消失すると,同部位において濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生が促進される様子を観察できたと考えられた.このように,RTVue-100Rを前眼部OCTとして使用すると,濾過胞表層の組織構造を観察することが可能であった.しかし先にも述べたとおり,眼底観察用に開発された本装置を用いて濾過胞深部を観察するのには限界があり,本装置を濾過胞観察に適応する際には観察部位を限定する必要があると思われる.以上,RTVue-100Rを用いて濾過胞観察,特に濾過胞表層の組織構造を観察できることが確認できた.今後症例を積み重ね,本装置を線維柱帯切除術後早期管理の補助装置として活用できるか否かを検討していきたい.本稿の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)花田一臣,五十嵐羊羽,石子智士ほか:前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症.あたらしい眼科26:247-253,20092)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrabeculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:47-53,20073)MullerM,HoeraufH,GeerlingGetal:Filteringblebevaluationwithslit-lamp-adapted1310-nmopticalcoherencetomography.CurrEyeRes31:909-915,20064)IshibazawaA,IgarashiS,HanadaKetal:CentralCornealThicknessMeasurementswithFourier-DomainOpticalCoherenceTomographyversusUltrasonicPachymetry(131)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011439andRotatingScheimpflugCamera.Cornea,inpress5)WangY,ZhuangH,XuJetal:Dynamicchangesinthelowertearmeniscusafterinstillationofartificialtears.Cornea29:404-408,20106)KeechA,FlanaganJ,SimpsonTetal:TearmeniscusheightdeterminationusingtheOCT2andtheRTVue-100.OptomVisSci86:1154-1159,20097)川名啓介,大鹿哲郎:前眼部OCT検査の機器機器一覧.あたらしい眼科25:623-629,20088)SinghM,SeeJL,AquinoMCetal:High-definitionimagingoftrabeculectomyblebsusingspectraldomainopticalcoherencetomographyadaptedfortheanteriorsegment.ClinExperimentOphthalmol37:345-351,2009***

診断に苦慮したLeber 遺伝性視神経症の1 例

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)139《原著》あたらしい眼科28(1):139.143,2011cはじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropathy)は1871年にLeberによってはじめて報告された遺伝性視神経疾患である1).おもに10歳代から30歳代にかけての男性に多く,両眼性の急性または亜急性の視力低下で発症し,左右発症時期の差はあっても最終的には両眼の視神経萎縮へと進行する2).以前は臨床所見と家族歴によって診断され,確定診断は容易ではなかったが,1988年Wallaceら3)によりNADH(ジハイドロニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)デヒドロゲナーゼのサブユニット4領域にあるミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列11778番目に位置するグアニンのアデニンへの変換(以下,11778番変異)〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN診断に苦慮したLeber遺伝性視神経症の1例南野桂三*1安藤彰*1竹内正光*2髙橋寛二*3小池直子*1小林かおる*1秋岡真砂子*1河合江実*1白紙靖之*4森秀夫*5西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2竹内眼科医院*3関西医科大学附属枚方病院眼科*4しらかみ眼科*5大阪市立総合医療センター眼科AnAtypicalCaseofLeber’sHereditaryOpticNeuropathyKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasamitsuTakeuchi2),KanjiTakahashi3),NaokoKoike1),KaoruKobayashi1),MasakoAkioka1),EmiKawai1),YasuyukiShirakami4),HideoMori5)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)TakeuchiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital,4)ShirakamiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospitalLeber遺伝性視神経症はミトコンドリアDNAの異常により発症する遺伝性視神経疾患で,若年男性に多く最終的に両眼の視神経萎縮に至る.筆者らは56歳の男性で家族歴がなく副鼻腔炎の手術既往があるため鑑別に苦慮したが,最終的に遺伝子検査によってLeber遺伝性視神経症と判明した1例を経験した.本症例は両眼の緑内障で治療を受けるも比較的急速に視野障害が進行し,視神経炎を疑われて紹介された.診断に苦慮した原因として,56歳とLeber遺伝性視神経症の好発年齢よりも高齢であったこと,8人兄弟であるが本人のみ異母兄弟であることが後ほど判明したこと,緑内障性視神経萎縮のため乳頭発赤などLeber遺伝性視神経症の初期変化が明瞭に認められなかったことなどが考えられた.視神経炎症状を呈し,診断がつかない症例ではLeber遺伝性視神経症を考慮する必要がある.A56-year-oldmalewasreferredtoourhospitalforsuspectedopticneuritis.Hehadbeentreatedforglaucoma,withnohistoryofsinusitisorfamilyhistory.Best-correctedvisualacuity(BCVA)was0.02and0.08inhisrightandlefteye,respectively.Visualfieldexaminationdisclosedcentralscotomaintherighteyeandsuperonasalvisualfielddefectintheleft.MitochondrialDNAanalysisrevealedpointmutationat11778,leadingtoadiagnosisofLeber’shereditaryopticneuropathy(LHON).Thepresentcasewasdifficulttodiagnosebecauseoftheelderlyage(56years)ascomparedtothepredominantonsetageofLHON,ahalf-brotherin8brothers,andthefactthathyperemiaoftheopticdisc,acharacteristicinitialchangeofLHON,hadnotbeenobservedduetoglaucomatousopticatrophy.LeftBCVArecoveredto0.5morethanoneyearlater,perhapsasaresultofcomparativeconservationofthemacularnervefibers.Whenapatientwithblurredvisionofuncertainetiologyisexamined,itisimportanttoruleoutLHONregardlessofpatientageandhyperemiaoftheopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):139.143,2011〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,緑内障,遺伝子診断,視力回復,黄斑線維束.Leber’shereditaryopticneuropathy,glaucoma,analysisofmitochondrialDNA,recoveryofbestcorrectedvisualacuity,macularnervefivers.140あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(140)がLeber遺伝性視神経症と特異的に関連する事例が報告され診断に応用されるようになった.現在までに11778番塩基変異以外にもLeber遺伝性視神経症の発症に強く関与する,いわゆるprimarymutationはmtDNAの6カ所以上報告されている4~6).そのうちの3460番変異,11778番変異,14484番変異の3つの変異でLeber遺伝性視神経症の90%近くを占め7,8),わが国では90%が11778番変異を有する9).今回筆者らは56歳の男性で,初診時に他院で両眼の緑内障の診断がついており家族歴がないことや副鼻腔炎の手術の既往があることから臨床診断に苦慮したが,最終的に遺伝子検査で11778番変異がみられLeber遺伝性視神経症と診断した1例を経験した.I症例患者:56歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:平成20年6月頃から両眼の視力低下を自覚して近医(内科)を受診,視野欠損を疑われ,平成20年6月6日に総合病院眼科を紹介となる.そこでの初診時視力は両眼とも矯正視力1.0以上あり,初診時眼圧は両眼とも24mmHgであった.眼底所見では両眼とも視神経乳頭の高度な陥凹拡大(両眼ともC/D比〔陥凹乳頭比〕0.8~0.9)と右眼に黄斑部を含む神経線維層欠損(NFLD),左眼に上下のNFLDを認めた.視野検査では両眼ともNFLDに一致した視野欠損を認めたことから,両眼原発開放隅角緑内障と診断され,緑内障点眼(ラタノプロスト点眼を両眼に1回/日)を処方され,6月24日の再診時に眼圧が右眼16mmHg,左眼15mmHgであった.十分に眼圧下降が得られたと判断され,定期的な経過観察のため近医を紹介された.この近医で平成20年の7月に2回定期診察されたが,両眼とも矯正視力は1.0以上あり,眼圧も右眼は17~19mmHg,左眼は16mmHgであった.しかし,視力低下の自覚が強くなり,患者本人が別の近医を平成20年8月1日に受診した.その近医での初診時視力は右眼矯正0.1,左眼矯正0.9,眼圧は前医の緑内障点眼使用下で右眼17mmHg,左眼16mmHgであった.ここでも両眼の視神経乳頭の陥凹拡大(両眼ともC/D比0.9)とNFLD以外の異常所見は認められず,両眼原発開放隅角緑内障と診断された.以後経過観察中に緑内障点眼を追加された(ブリンゾラミド点眼を両眼に2回/日)が,さらに自覚症状が悪化し(視力は9月3日では右眼矯正0.08,左眼矯正0.6,10月24日では右眼矯正0.02,左眼矯正0.2,10月31日では右眼矯正0.03,左眼矯正0.06),急速な視野の進行と視力低下を認めたため11月1日に関西医科大学附属滝井病院を紹介受診となる.既往歴:19歳時に副鼻腔炎に対して手術加療.生活歴:喫煙歴,飲酒歴なし.嗜好に特記すべきことなし.家族歴:両親,8人兄弟(男性3人,女性5人)に眼科疾患なし.初診時所見:視力はVD=0.02(0.02×sph+1.0D(cyl.2.0DAx80°),VS=0.08(0.08×sph.0.5D(cyl.0.5DAx90°),眼圧はラタノプロスト点眼およびブリンゾラミド点眼を両眼に使用して右眼14mmHg,左眼12mmHgであった.中心フリッカー値は右眼10.6Hz,左眼17.8Hzと低下していたが,瞳孔反応は正常で相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)はみられなかった.両眼とも前眼部および中間透光体に異常なく隅角はShaffer分類Grade3~4であった.眼底は両眼とも視神経に高度な視神経乳頭の陥凹拡大(両眼ab図1初診時眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも高度な視神経乳頭陥凹拡大と右眼には黄斑線維束を含むNFLD,左眼には上下にNFLDがみられる.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011141ともC/D比0.9)とNFLDが認められた(図1).視野検査で右眼の中心暗点と左眼の鼻上側の視野欠損が認められた(図2).経過:頭部コンピュータ断層撮影(CT)では占拠性の頭蓋内病変や副鼻腔炎所見はみられず,磁気共鳴画像(MRI)〔STIR(shortinversiontimeinversion-recovery)法〕では視神経の高信号は認められなかった.視覚誘発反応画像システム(VERIS)では右眼に軽度の感度低下を認めたが,急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)やoccultmaculardystrophyなどを疑う所見は認められなかった(図3).血液検査では白血球8,000/μl,赤血球417×104/μl,赤沈13mm/hr,C反応性蛋白(CRP)0.02mg/dl,抗核抗体陰性,リウマチ因子3IU/ml,TP(トレポネマ・パリズム)抗体陰性,ACE(アンギオテンシン変換酵素)19.9IU/l,ビタミンB14.5μg/dl,ビタミンB212.7μg/dl,ビタミンB12590pg/mlと正常で炎症性疾患や栄養障害性視神経症は否定的であった.フルオレセイン蛍光眼底造影所見では,両眼とも血流障害や視神経の過蛍光などの所見は認められなかった(図4).臨床経過ab図3VERIS(平成20年11月6日)a:右眼,正常.b:左眼,軽度の感度低下.ab図2Goldmann視野(初診時)a:左眼.上下のビエルム領域の暗点がつながり,内部イソプターが穿破したために生じたような鼻上側の視野欠損がみられる.b:右眼.中心暗点がみられる.142あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(142)や臨床所見から球後視神経炎が示唆されたため,11月27日に入院のうえステロイドパルス療法を施行したが効果は認められなかった.入院中に再度家族歴を問診しなおしたところ,8人兄弟であるが本症例のみ異母兄弟であることが判明したため,ミトコンドリア遺伝子検査を行い,mtDNA11778番塩基対に点突然変異が認められLeber病と診断した.コエンザイムQ10とビタミンB12の内服およびラタノプロスト点眼とブリンゾラミド点眼を続け,平成21年12月8日の視力は右眼矯正0.05,左眼矯正0.2,平成22年2月9日の視力は右眼矯正0.05,左眼矯正0.5,平成22年5月11日の視力は右眼矯正0.09,左眼矯正0.8,平成22年7月6日の視力は右眼矯正0.06,左眼矯正1.0と左眼視力は経時的に回復した.II考按Leber遺伝性視神経症はおもに10歳代から30歳代にかけての男性に両眼性に急性または亜急性の視力低下で発症する2)が,今回筆者らは56歳で発症した1例を経験した.本症例では当初視神経炎,虚血性視神経症,遺伝性視神経症,中毒性視神経症,栄養障害性視神経症,鼻性視神経症,AZOORなどを疑ったが生活歴や家族歴から遺伝性視神経症,中毒性視神経症は考えづらく,虚血性視神経症,栄養障害性視神経症,鼻性視神経症,AZOORなどの鑑別のためにCT,MRI,VERIS,血液検査,フルオレセイン蛍光造影(FA)を施行したが確定診断には至らなかった.最終的に遺伝子検査により診断が確定したが,好発年齢から外れていることや,視神経乳頭陥凹拡大が高度でLeber遺伝性視神経症で特徴的とされる視神経乳頭発赤と乳頭周囲の毛細血管拡張などの所見が検眼所見やFA所見でも明らかではなく,8人兄弟で本人が異母兄弟であることがわからなかったため診断に苦慮した.総合病院眼科初診時では視力は両眼とも矯正1.0,眼圧は右眼24mmHg,左眼24mmHgと高く視神経乳頭陥凹拡大もC/D比0.8~0.9と高度で,視野も右眼中心暗点と左眼鼻上側の視野欠損がみられ,両眼ともNFLDの部位と一致することから緑内障があったことは間違いないと思われる.このためLeber遺伝性視神経症の初期変化を捉えられなかった可能性が高い.自覚症状がでてからすぐに眼科を受診してacbd図4フルオレセイン蛍光眼底造影写真(初診時)a:右眼早期(50秒),b:左眼早期(56秒),c:右眼後期(5分57秒),d:左眼後期(5分50秒).両眼とも視神経乳頭からの蛍光漏出や網膜血管,網膜に異常を認めない.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011143視力が良好であったことからも眼科初診時がLeber遺伝性視神経症の萎縮期であった可能性は低い.現在までにわが国でのLeber遺伝性視神経症を伴うmtDNAの点変異と緑内障の相関を調べた報告では両疾患が合併する可能性はまれであり10),本症例は緑内障にmtDNAの点変異を伴い,Leber遺伝性視神経症を発祥していることから疫学的にまれな症例と思われる.しかしLeber遺伝性視神経症の萎縮期には視神経乳頭の陥凹が認められHeidelbergretinaltomography(HRT)の緑内障判定プログラムで73%が緑内障と判断されるという報告があり11),本症例のように緑内障にLeber遺伝性視神経症が合併している場合は慎重な判断が必要である.Leber遺伝性視神経症の特徴として黄斑線維束のNFLDがあげられるが,本症例では右眼には黄斑線維束を含む高度なNFLDが存在し,左眼には視神経乳頭の上下の高度なNFLDが存在するが黄斑線維束には明らかなNFLDは認められなかった.Leber遺伝性視神経症における視力回復は,Mariotte盲点につながる傍中心暗点の一部に感度のよい領域が出現して,ごく狭い限られた部分で感度が回復する.このような中心暗点はfenestratedcentralscotomaとよばれている12).本症例では,確定診断後に1年以上経過してから左眼の視力が矯正1.0まで改善している.これは左眼には黄斑線維束に高度なNFLDが存在しないことから,黄斑部の神経線維層が比較的保たれ,左右でNFLDの部位と程度に差があり視力予後に影響したと考えられた.11778番変異に伴うLeber遺伝性視神経症の視力回復はきわめてまれであり9),本症例は予後良好であったといえる.今回,現病歴,既往歴,生活歴,家族歴,臨床所見から鑑別診断が困難であった11778番変異によるLeber遺伝性視神経症の症例を経験した.Leber遺伝性視神経症の好発年齢は若年であるが,Mashimaらはわが国におけるLeber遺伝性視神経症について11778番変異である69人の年齢分布では4~50歳(平均24.6歳)であったと報告している9).本症例のように56歳のLeber遺伝性視神経症発症はまれなものと考えられるが,視神経炎症状を呈し確定診断がつかない場合はLeber遺伝性視神経症を考慮する必要があると思われた.文献1)LeberT:Ueberhereditareundcongenital-angelegteSehnervenleiden.GraefesArchClinExpOpthalmol2:249-291,18712)HottaY,FujikiK,HayakawaMetal:ClinicalfeaturesofJapaneseLeber’shereditaryopticneuropathywith11778mutationofmitochondrialDNA.JpnJOphthalmol39:96-108,19953)WallaceDC,SinghG,LottMTetal:MitochondrialDNAmutationassociatedwithLeber’shereditaryopticneuropathy.Science242:1427-1430,19884)BrownMD,WallaceDC:SpecutrumofmitochondrialDNAmutationsinLeber’shereditaryopticneuropathy.ClinNeurosci2:138-145,19945)LamminenT,MajanderA,JuvonenVetal:Amitochondrialmutationat9101intheATPsynthase6geneassociatedwithdeficientoxidativephosphorylationinafamilywithLeberhereditaryopticneuropathy.AmJHumGenet56:1238-1240,19956)DeVriesDD,WentLN,BruynGWetal:GeneticandbiochemicalimpairmentofmitochondrialcomplexIactivityinafamilywithLeberhereditaryopticneuropathyandhereditaryspasticdystonia.AmJHumGenet58:703-711,19967)HowellN:PrimaryLHONmutations:Tryingtoseparate“fruyt”from“chaf”.ClinNeurosci2:130-137,19948)MackeyDA,OostraRJ,RosenbergTetal:PrimarypathogenicmtDNAmutationsinmultigenerationpedigreswithLeberhereditaryopticneuropathy.AmJHumGenet59:481-485,19969)MashimaY,YamadaK,WakakuraMetal:SpectrumofpathogenicmitochondrialDNAmutationsandclinicalfeaturesinJapanesefamilieswithLeber’shereditaryopticneuropathy.CurrEyeRes17:403-408,199810)InagakiY,MashimaY,FuseNetal:MitochondrialDNAmutationswithLeber’shereditaryopticneuropathyinJapanesepatientswithopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol50:128-134,200611)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber’shereditaryopyicneuropathy:comparisonwithnormaltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol241:75-80,200312)StoneEM,NewmanNJ,MillerNRetal:VisualrecoveryinpatientswithLeber’shereditaryopticneuropathyandthe11778mutation.JClinNeuro-opthalmol12:10-14,1992***