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緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey 視野計の視野指標との相関

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1127.1130,2012c緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey視野計の視野指標との相関加藤紗矢香*1浅川賢*2庄司信行*1,2森田哲也*1永野幸一*1山口純*1清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CorrelationbetweenOpticDiscParametersObtainedUsingStereoFundusImagingandVisualFieldIndexofHumphreyFieldAnalyzerinGlaucomatousEyesSayakaKato1),KenAsakawa2),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita1),KouichiNagano1),JunYamaguchi1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityNonmydWX(Kowa社製)を用いた立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータ(discパラメータ)とHumphrey視野計による視野指標との相関を検討した.対象は緑内障患者58例58眼(平均年齢61歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.NonmydWXにて眼底写真撮影後,discの外縁と陥凹(cup)の範囲を立体視下で決定し,discパラメータを得た.また,HumphreyFieldAnalyzerにて得られた視野障害の程度を,Hodapp-Anderson-Parrish分類を用いて早期,中期,後期に分類し,病期別にdiscパラメータとmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関を求めた.結果,PSD値はすべてのパラメータで相関がみられなかったが,MD値およびTD値は中期および後期においてdiscパラメータと相関し,特に垂直C/D(cup/disc)比,rimarea,areaR/D(rim/disc)比,上下rim幅が視野障害を反映していた.NonmydWXは,視神経乳頭の記録だけでなく形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.Weevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersobtainedusinganewlydevelopedfundusstereoscopiccamera(NonmydWX;KowaOptimed,Inc.)andthevisualfieldindexoftheHumphreyFieldAnalyzer.Thisstudyexamined58glaucomatouseyes(58glaucomapatients;meanage:61years),comprising30eyeswithprimaryopenangleglaucomaand28eyeswithnormaltensionglaucoma.Afterphotographing,theexaminer,usingpolarizedfilters,stereoscopicallyobservedtheopticdiscoutlinedisplayedonamonitor;thediscdiagnosticparameterswerethenobtained.Weclassifiedtheglaucomainto3stages(early,moderate,andsevere),usingtheHodapp-Anderson-Parrishscale,andevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersandmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD)andtotaldeviation(TD),respectively.MDandTDshowedhighormoderatecorrelationinmoderateandsevereglaucomatousstages,whilePSDshowednocorrelationinanystage.Particularlygoodcorrelationwasseenonlywithverticalcup-to-discratio,rimarea,arearim-to-discratio,upperrimwidthandlowerrimwidth.OurresultsindicatethatNonmydWXisusefulnotonlyfordiscrecords,butalsofordiscquantitativeanalysisinglaucomaclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1127.1130,2012〕Keywords:立体眼底写真,視神経乳頭,パラメータ,緑内障.stereofundusimaging,opticdisc,parameter,glaucoma.〔別刷請求先〕加藤紗矢香:〒252-0329相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SayakaKato,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0329,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)1127 はじめに緑内障の構造変化と機能変化の関係は,網膜神経節細胞が30.50%障害されないと視野異常を生じず,視神経の変化は視野異常よりも先行する1).したがって,現在の視野検査という機能障害評価法のみでは,緑内障の検出が遅れるという問題点がある.すなわち,緑内障の診断や経過観察には,視神経乳頭(以下,disc)や神経線維層の変化が重要であり,その詳細な観察や形状を記録することが重要である.近年では光干渉断層計(OCT)や共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRT)などの画像解析装置の進歩とともに視神経乳頭形状解析の自動化が進んでおり,解析ソフトも多数開発されている2,3).しかし,測定機器の再現性や検者間での測定誤差,緑内障検出力など,画像解析装置による解析より,緑内障専門医による眼底写真の読影のほうが有用であるといわれている4).緑内障診療における視神経乳頭形状変化の観察で最も重要となるものにcupの拡大や辺縁部(以下,rim)幅の減少があるが,これらは眼底が立体的であることから,より正確な形状の観察には平面画像ではなく立体画像を使用する必要がある.わが国における緑内障診療ガイドラインにおいても眼底写真による乳頭形状の観察は立体眼底写真の使用を推奨されている5).その一方で立体画像は定性的な解析は可能でも,定量的な解析は困難であり,主観的な解釈が中心になるという欠点があった.これに対し,近年開発された新しい立体眼底カメラであるNonmydWX(Kowa社製,名古屋)は,無散瞳にて同一光学系による2方向の光路から左右視差画像の同時撮影が可能であり,乳頭形状パラメータが定量的に解析可能である.今回,NonmydWXを用いた立体眼底写真によるdiscの解析パラメータとHumphrey視野計(HFA)のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関から解析パラメータの有用性を検討した.I対象および方法北里大学病院緑内障専門外来を受診した緑内障患者58例58眼(男性29眼,女性29眼)を対象とした.年齢は33.表2症例の背景早期中期後期症例数10例10眼12例12眼36例36眼年齢(歳)等価球面値(D)MD(dB)PSD(dB)上半視野TD値66±14.0.88±2.94.1.17±0.584.61±2.78.2.33±1.2659±10.3.29±3.97.3.20±0.897.28±3.07.3.28±2.2861±15.2.82±3.12.15.62±7.3312.42±3.05.16.16±8.54下半視野TD値.2.78±1.97.4.76±2.69.14.26±9.26MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,TD:totaldeviation.80歳(61±14歳)であり,病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.HFA30-2SITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)standardprogramにて得られた視野障害の程度を,HodappAnderson-Parrish分類(表1)を用いて早期,中期,後期に分類した(表2)..6Dを超える強度近視,固視不良20%以上,偽陽性15%以上,偽陰性33%以上の症例は対象に含めなかった.研究の主旨に関して十分な説明を行い,承諾を得た後に以下の測定を行った.眼底写真の撮影にはNonmydWXを用いた.NonmydWXは,1ショットで視神経乳頭の同時立体撮影ができ,偏光眼鏡を用いることで立体眼底観察が可能な眼底カメラである.また,視差が一定で眼底の形状変化を経時的に把握でき,長期にわたる経過観察に有用である.眼底写真撮影後,得られた両眼視差の付いた左右眼2枚の画像を1枚に重ね合わせ,付属の偏光眼鏡装用下にて解析を行った.まず画面に表示されたdiscの外縁をコンピュータのマウスでプロットし,その後,血管の屈曲を基準としてcupの外縁をプロットした.この操作により,discとcupの範囲が決定され,これをもとに視神経乳頭解析パラメータ(以下,discパラメータ)が算出される.これらのプロットは1人の検者(SK)が行った.なお,本機器の再現性や検者間の一致性に関してはあらかじめ確認している6).得られたdiscパラメータとMD値,PSD値との相関を早期,中期,表1Hodapp.Anderson.Parrish分類(C-30-2の場合)早期*中期後期**MD.6dB以上.12dB未満PD確率プロット中心5°以内の感度<5%18点未満かつ<1%10点未満・<15dBがない早期の基準を1つ以上越え,後期の基準を満たさない<5%38点以上または<1%20点以上・0dBが1点以上・<15dBが上下にあるMD:meandeviation,PD:patterndeviation.*早期は3つすべての基準を満たしたものを定義する.**後期は1つ以上基準を満たしたものを定義する.1128あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(102) 後期の病期別に求めた.TD値は上半視野,下半視野に分けて,部位別に比較が可能なため,discパラメータの中の上下rim幅の値との相関を,それぞれ検討した.相関はPearson積率相関係数にて解析し,有意水準は5%未満とした.II結果HFAのMD値とdiscパラメータは,早期ではいずれも有意な相関がみられなかった.中期では垂直C/D(cup/disc)表3MD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.020.95.0.680.01.0.500.01上側rim幅0.300.400.620.030.430.01下側rim幅.0.260.470.640.030.430.01Cuparea.0.070.84.0.060.860.030.87Discarea.0.220.550.410.190.190.27Rimarea.0.290.410.620.030.350.04AreaC/D比0.370.29.0.610.04.0.310.06AreaR/D比.0.370.290.620.030.310.06Cupvolume0.080.83.0.270.400.160.36Discvolume.0.010.97.0.020.940.320.06Rimvolume.0.250.49.0.050.870.300.08CupdepthAve0.140.70.0.300.350.060.74Cupdepthmax.0.020.96.0.280.38.0.040.81Discdepth.0.360.31.0.270.40.0.150.40表4PSD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.330.350.340.280.100.57上側rim幅.0.520.12.0.230.46.0.050.77下側rim幅0.100.78.0.330.29.0.190.27Cuparea.0.130.720.310.32.0.040.80Discarea0.080.840.010.96.0.120.47Rimarea0.210.56.0.220.48.0.180.28AreaC/D比.0.490.150.340.290.050.76AreaR/D比0.490.15.0.340.27.0.050.76Cupvolume0.120.740.210.500.020.93Discvolume0.280.43.0.030.930.090.61Rimvolume0.340.330.060.850.050.77Cupdepthave0.070.840.150.640.070.67Cupdepthmax0.350.320.120.700.120.49Discdepth0.200.580.080.800.000.98表5上下rim幅とTD値との相関早期中期後期rp値rp値rp値下側rim幅-上半視野上側rim幅-下半視野0.460.060.190.860.670.490.020.130.550.410.0010.01(103)比(r=.0.68,p=0.01),上側rim幅(r=0.62,p=0.03),下側rim幅(r=0.64,p=0.03)rimarea(r=0.62,p=0.03),areaC/D比(r=.0.61,p=0.04(,)),areaR/D(rim/disc)比(r=0.62,p=0.03)との間に有意な相関があり,後期では垂直C/D比(r=.0.50,p=0.01),上側rim幅(r=0.43,p=0.01),下側rim幅(r=0.43,p=0.01),rimarea(r=0.35,p=0.04)にて有意な相関がみられた(表3).PSD値ではいずれの病期別でもすべてのdiscパラメータにおいて相関はみられなかった(表4).上下rim幅と上下半視野のTD値との相関では,中期の下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.67,p=0.02),後期は上側rim幅と下半視野のTD値(r=0.41,p=0.01),下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.55,p=0.001)に有意な相関が得られた(表5).III考按本研究ではNonmydWXのdiscパラメータとHFAのMD値,PSD値,TD値との相関を早期,中期,後期の病期別に求めることで,discパラメータの有用性を検討した.その結果,得られたdiscパラメータは早期では相関せず,中期,後期において相関した.本機器における検者内の再現性については,volumeのパラメータが他と比べてやや低いとされている.検者間の一致性については,検者が正確なdiscとcupの定義を把握していることが前提であるが,cupが浅い症例や早期の症例などでは経験に依存するとされている6).しかし,本研究の結果は,得られたdiscパラメータの再現性の問題よりは緑内障の病態によるものと考えられる.すなわち,緑内障はHFAにて視野異常が検出された場合,約40%の神経線維が消失されており,早期は視野変化よりも構造変化が先行する1,7)といわれており,今回の結果でも乳頭形状と視野異常の程度とは必ずしも対応していなかったと考えられる.一方,中期,後期においてはdiscパラメータと視野は相関した.現在使用されている眼底画像解析装置として,HRTやOCTなどがあげられ,それぞれのパラメータとHFAのMD値との相関を検討した報告をみると,Saitoら8)によればHRTIIのrimareaとR/D比において,Danesh-Meyerらの報告9)ではrimarea,rimvolume,RNFL(retinalnervefiberlayer)cross-sectionalarea,垂直C/D比,meanRNFLthickness,areaC/D比,areaR/D比において,さらに,柳川らの報告10)ではcuparea,rimarea,cupvolume,rimvolume,areaC/D比,linearC/D比,meancupdepth,cupshapemeasure,meanRNFLthickness,RNFLcrosssectionalareaにおいて相関がみられていた.OCTはKangら11)がdeviationscoreと有意な相関を示していたと報告している.本機器に類似した立体眼底カメラではrimarea,R/D比,垂直C/D比にて有意な相関を示したと報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121129 いる8).これらの既報を踏まえると,垂直C/D比,rimarea,areaR/D比が本結果と一致しており,NonmydWXによる立体画像解析では,これらのdiscパラメータが視野障害を反映していると考えられる.さらに,本機器では従来機器にはない上側rim幅と下側rim幅のパラメータが備わっており,上下rim幅を部位別に評価するため,上半視野,下半視野に分けたTD値と上下rim幅の値との相関をそれぞれ検討すると,中期の下側rim幅と上半視野のTD値,後期は上下ともに有意な相関が得られた.中期において上半視野のみ相関がみられたのは,網膜神経線維層厚は下方が薄い12)という形態的な差異があるためではないかと考えられる.そのため本装置で採用された上下rim幅は視野障害を反映するパラメータになりうる可能性が考えられる.一方で上記HRTの報告8.10)と比較すると,NonmydWXでは相関したdiscパラメータが少なかったが,これは両機器の撮影原理の違いとともに,cupの定義が異なることも一つの要因と考えられた.すなわち,立体眼底カメラではdiscとcupを検者が偏光眼鏡装用下で三次元的に決定するが,HRTではdiscのcontourlineを決定すると,そのcontourlineの平均値から50μm下方に基準面が自動的に作成され,その基準面の下方がcupとして決定される.検者がcupも決めるNonmydWXのほうが,従来の緑内障診療におけるcupの解釈(すなわち血管の屈曲に基づく判断)に近く,緑内障診断能力が画像解析装置より緑内障専門医による眼底写真の読影が有用である4)ことを踏まえると,立体眼底カメラであるNonmydWXは緑内障診療において有用な診断補助装置であると考えられる.さらに本研究において筆者らは,NonmydWXを用いてdiscパラメータと視野指標との相関を検討した.中期および後期においてdiscと視野のパラメータが相関し,特に垂直C/D比,rimarea,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映していた.Tsutsumiら13)によると40歳以上の非緑内障群に対して大規模スタディを行った結果,垂直C/D比とR/D比によって緑内障性視野異常の早期変化を捉えられる可能性があると報告している.緑内障ガイドラインによれば,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,discの上側,下側あるいは両側でrimの進行性の菲薄化が生じ,視野障害をきたすとされている.このことからも本検討では垂直C/D比,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映しており,これらは早期の構造変化を反映するパラメータになりうると考えられる.したがってNonmydWXは,視神経乳頭の記録のみならず形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.1130あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HarwerthRS,Carter-DawsonL,ShenFetal:Ganglioncelllossesunderlyingvisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2242-2250,19992)KimHG,HeoH,ParkSW:Comparisonofscanninglaserpolarimetryandopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.OptomVisSci88:124-129,20113)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeffectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergretinatomograph.Ophthalmology104:545-548,19974)VessaniRM,MoritzR,BatisLetal:Comparisonofquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessmentbygeneralophthalmologiststodifferentiatenormalfromglaucomatouseyes.JGlaucoma18:253261,20095)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20126)AsakawaK,KatoS,ShojiNetal:Evaluationofopticnerveheadusinganewlydevelopedstereoretinalimagingtechniquebyglaucomaspecialistandnon-expertcertifiedorthoptist.JGlaucoma,inpress7)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453464,19898)SaitoH,TsutsumiT,IwaseAetal:CorrelationofdiscmorphologyquantifiedonstereophotographstoresultsbyHeidelbergRetinaTomographII,GDxvariablecornealcompensation,andvisualfieldtests.Ophthalmology117:282-289,20109)Danesh-MeyerHV,KuJY,PapchenkoTLetal:Regionalcorrelationofstructureandfunctioninglaucoma,usingtheDiscDamageLikelihoodScale,HeidelbergRetinaTomograph,andvisualfields.Ophthalmology113:603611,200610)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,200511)KangSY,SungKR,NaJHetal:ComparisonbetweendeviationmapalgorithmandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsusingcirrusHD-OCTinthedetectionoflocalizedglaucomatousvisualfielddefects.JGlaucoma21:372-378,201212)HarrisA,IshiiY,ChungHSetal:Bloodflowperunitretinalnervefibertissuevolumeislowerinthehumaninferiorretina.BrJOphthalmol87:184-188,200313)TsutsumiT,TomidokoroA,AraieMetal:Planimetricallydeterminedverticalcup/discandrimwidth/discdiameterratiosandrelatedfactors.InvestOphthalmolVisSci53:1332-1340,2012(104)

緑内障患者における自動車運転実態調査

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1013.1017,2012c緑内障患者における自動車運転実態調査青木由紀国松志保原岳川島秀俊自治医科大学眼科学教室FactualSurveyofMotorVehicleDrivingbyGlaucomaPatientsYukiAoki,ShihoKunimatsu-Sanuki,TakeshiHaraandHidetoshiKawashimaDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity目的:緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.対象および方法:自治医科大学附属病院緑内障外来受診中の初期,中期,後期の緑内障患者各29名を対象とし,各群に対して自動車運転に関する質問を行い,各群間の年齢,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,運転時間,事故率を比較した.つぎに後期緑内障患者36名を事故歴のあるもの(事故群)とないもの(無事故群)に分類し,年齢,運転歴,運転時間,視力,視野検査結果の比較を行った.結果:初期・中期・後期群間の比較では後期群で有意に事故が多かった(p=0.0003).後期群における事故群と無事故群の比較では事故群で視力不良眼の視力が有意に悪く(p=0.0002),視野不良眼のMD値が有意に低かった(p=0.02).また,Goldmann両眼視野立体角の比較ではV/4視標における60°以内および30°以内の上半視野,下半視野で事故群が有意に狭かった(p=0.02.0.03).結論:視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.Objective:Toinvestigatetherelationshipbetweentypeofvisualfielddefectandfrequencyofmotorvehicleaccidentsinglaucomapatients.SubjectsandMethods:Chosenforthisstudywere29patientsofvariousglaucomastages(early,intermediateandadvanced).Weexaminedage,historyofaccidentsandmeandeviation(MD)viaHumphreyFieldAnalyzer(HFA).Additionally,patientsinadvancedstageweredividedintotwogroups:thosewithaccidenthistoryandthosewithout.Wethencomparedage,drivingrecord,actualhoursspentdriving,visualacuityandvisualfieldastestedbyHFAandGoldmannperimeter.Result:Patientswithadvancedglaucomacommittedsignificantlymoretrafficaccidentsthantheothertwogroups.Intheadvancedpatients,thosewithaccidenthistoryhadworsevisualacuityanddecreasedMDvaluesinthelessereye,aswellasmorerestrictedvisualfieldsinbothupperandlowerhemifields.Conclusions:Themorethevisualfieldlossprogressed,thegreaterthenumberofaccidentsthepatientsexperienced.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1013.1017,2012〕Keywords:緑内障,緑内障性視野障害,自動車運転,自動車事故,両眼視野.glaucoma,glaucomatousvisualfieldloss,driving,motorvehicleaccident,binocularvisualfield.はじめに公共交通機関に乏しい地方都市では,通勤,通学,買い物などの日常生活に自動車は欠かせない移動手段となっている.そのため地方では,自動車運転に支障をきたす視野障害を認める場合でも,必要に迫られて運転を継続し,安全確認不足が原因と考えられる交通事故を起こしている症例にしばしば遭遇する.しかし,日常臨床の場では医師側が,患者が運転しているかどうかについて知る機会は少ない.また,視野障害と自動車事故との関連を示唆する過去の報告は多いものの1.5),どの程度の視野障害であれば自動車運転に支障をきたさないのか明確な基準はない.筆者らは以前,自治医科大学附属病院(以下,当院)緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例について報告した6).今回筆者らは,緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.〔別刷請求先〕青木由紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)1013 I対象および方法2007年7月から2010年3月までに当院緑内障外来受診中の成人患者,264人中,過去5年間に自動車運転歴のあるもの,良いほうの視力が0.7以上であるもの,緑内障以外の視力および視野障害をきたすと思われる疾患の既往のないものを対象とした.視野障害の分類はAnderson分類に準じて7),Humphrey視野検査中心30-2プログラム(HFA30-2)meandeviation(MD)値で,初期緑内障は両眼ともに.6dB以上(以下,初期群),後期緑内障は両眼ともに.12dB以下(以下,後期群)のものとし,どちらも満たさない場合を中期緑内障(以下,中期群)とした.1.緑内障患者の自動車運転実態調査年齢をマッチングできた初期群,中期群,後期群各29名を対象とした.各群に対して自動車運転に関する質問(運転歴,過去5年間の事故歴,運転時間,運転目的)を行った.また,3群間で年齢,男女比,視力〔logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力〕,Humphrey視野検査MD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,事故率の比較を行った.2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との関連つぎに,後期群36名(平均年齢59.7±9.5歳)を対象とした.過去5年間に事故歴のある群(事故群)と事故歴のない群(無事故群)に分類した.事故群および無事故群において,年齢,運転歴,運転時間,運転目的,logMAR視力,視野検査結果の比較を行った.視野検査結果は下記の項目を比較した.a.Humphrey視野検査両群における視野良好眼および視野不良眼のHFA30-2MD値を比較した.b.Esterman視野生活不自由度を評価するために開発された両眼開放下で行うHFAの視野プログラム8)で,測定時間は正常者で6.8分である.生活不自由度に重要とされる中心30°と下半分の視野に比重がおかれ,点数配分が多くなっている.Estermandisabilitysore(満点は100点)の比較を行った.c.視能率Goldmann視野検査結果I/2視標における8方向の残存視野の角度を両眼それぞれ測定し,合計したものを560°で割り(片眼視能率),優位視能率の75%と非優位視能率の25%の合計を両眼視能率(=視能率)として算出した.d.Goldmann視野検査Goldmann視野検査結果においてV/4とI/4視標の左右眼の結果をそれぞれ重ね合わせて両眼視野を作成し,両群でのV/4,I/4視標における上半視野,下半視野それぞれ60°以内,30°以内における視野を求め,数値にて比較検討するためsteradian法により立体角で表した(図1).立体角とは二次元における角度の概念を三次元に拡張したものであり,全立体角は4psteradian(sr)である.初期群,中期群,後期群の比較についてはFisher’sexacttestおよびSteel-Dwass法による多重比較検定を使用し,正常:21歳,女性無事故群:70歳,男性事故群:51歳,男性Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野V/4I/4V/4I/4V/4I/460°30°60°30°60°30°立体角(sr)立体角(sr)立体角(sr)V/4I/4V/4I/4V/4I/460°以内上1.531.38下1.571.5730°以内上0.420.42下0.420.4260°以内上1.350.48下1.571.0530°以内上0.420.26下0.420.4260°以内上0.220.03下1.521.1230°以内上0.000.00下0.370.35図1正常人・無事故群・事故群における両眼視野および立体角1014あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(138) 表1初期・中期・後期緑内障患者群における背景初期中期後期p値292929年齢((n)歳)56.7±10.257.2±8.358.6±8.2NS男:女14:1520:920:90.17視力良好眼のlogMAR視力.0.06±0.06.0.07±0.02.0.03±0.08>0.05*視力不良眼のlogMAR視力.0.05±0.060.05±0.320.23±0.39<0.05*良いほうのMD値(dB).1.2±2.2.3.4±3.5.18.2±5.6<0.005*悪いほうのMD値(dB).3.6±2.6.13.5±6.3.22.5±5.2<0.001*運転歴(年)33.0±10.033.9±8.631.3±7.9NS運転時間(時間/週)6.4±5.45.6±4.56.4±8.1NS事故あり(%)2(6.9%)0(0%)10(34.5%)0.0003†事故率は後期群で有意に高かった.後期緑内障患者における事故群,無事故群の比較についてはStudent’st-test,Mann-Whitney’sUtestおよびc2検定を用いた.これらの調査については当院倫理委員会の承認のもと(倫理委員会番号:第臨09-12号),各対象者にインフォームド・コンセントを行い,同意を得たのちに行った.II結果1.緑内障患者の自動車運転実態調査緑内障患者の事故率を,年齢をマッチングした病期ごとに調べた結果,各群29名中,過去5年間に事故歴があったのは初期群で2名(6.9%),中期群で0名(0%),後期群で10名(34.5%)と後期群で有意に多かった(p=0.0003).事故の内訳は,初期群は対物事故1件と物損事故1件,後期群は対人事故1件,対物事故9件,物損事故4件(複数回答あり)であった.初期群・中期群・後期群を比較すると男女比は初期,中期,後期でそれぞれ14:15,20:9,20:9と有意差はなく,視力良好眼のlogMAR視力は,各群間に差がなかったが,視力不良眼のlogMAR視力は,後期群で有意に悪かった(p<0.005).運転歴,1週間当たりの運転時間ともに関連後期緑内障患者36名のうち事故群10名,無事故群26名において,年齢,視力良好眼および視力不良眼のlogMAR視力,視野良好眼および視野不良眼のMD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野立体角を比較した結果を表2,3に示す.年齢,運転時間は両群間で差はなかったが,運転歴は無事故群で有意に長かった(p=0.03).視力良好眼のlogMAR視力は両群間において有意差がなく,視力不良眼では事故群が有意にlogMAR視力は悪かった(p=0.0002).視野良好眼のMD値は事故群で.21.8±6.3dB,無事故群で.16.4±3.6dB(139)*Steel-Dwass法.†Fisher’sexacttest.表2後期緑内障患者における事故群,無事故群の背景事故群無事故群p値1026年齢((n)歳)55.9±8.161.1±9.80.11男:女8:218:80.52運転歴(年)28.1±7.636.2±10.20.03†運転時間(時間/週)8.5±9.84.6±6.00.29視力良好眼のlogMAR視力.0.03±0.1.0.03±0.10.80視力不良眼のlogMAR視力0.5±0.50.04±0.10.0002*視野良好眼のMD値(dB).21.8±6.3.16.4±3.60.13視野不良眼のMD値(dB).25.5±4.3.20.7±4.50.02†事故群では視力不良眼のlogMAR視力,視野不良眼のMD値が有意に悪かった.†Student’st-test.*Mann-Whitney’sUtest.表3事故群・無事故群における両眼視野評価方法による比較事故群無事故群p値n1026視能率3.7±2.87.6±4.20.23Estermandisabilityscore72.4±22.484.0±10.70.05上0.82±0.481.22±0.250.02*0.51±0.540.65±0.320.20各群間に有意差はみられなかった(表1).立体角60°1.46±0.161.54±0.080.02*下2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との0.94±0.351.10±0.330.210.24±0.140.36±0.080.03*上段:V/4上0.16±0.150.33±0.130.12下段:I/430°0.34±0.080.39±0.080.02*下0.30±0.120.33±0.120.29視能率,Estermandisabilityscoreにおいては差がなく,Goldman視野検査両眼視野立体角評価においてV/4視標の60°以内,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった.*Mann-Whitney’sUtest.と,両群間に差はなかったが,視野不良眼のMD値はそれぞれ.25.5±4.3dB,.20.7±4.5dBと,事故群のほうが有意に低かった(p=0.02).視能率,Estermandisabilityあたらしい眼科Vol.29,No.7,20121015 scoreの比較では両群間に差はなかった.Goldmann両眼視野立体角はV/4視標における60°以内の上半視野,下半視野,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった(p=0.02,p=0.02,p=0.03,p=0.02)(表3).なお,事故を起こした10名中8名が運転を継続していた.III考按今回筆者らは,緑内障患者における自動車運転実態調査を行った.年齢をマッチングした各群29名の過去5年間で事故を起こした率は初期群6.9%(2名),中期群0%(0名)後期群34.5%(10名)と,後期群で有意に事故率が高かった(,)(表1).視野障害と自動車事故についてOwsleyらが行った55.87歳の高齢運転者179名(事故群78例,無事故群101例)を対象とした調査では,事故群では無事故群と比べて緑内障罹患率が3.6倍であったとしている1).Szlykらは,緑内障患者40名と正常者11名とを比較したところ,過去5年間の事故歴は緑内障患者群で32.5%であり,正常者と比較して有意に事故率が高かったと報告している2).一方で,McGwinらによる緑内障患者群576名と正常群115名の事故率を比較したところ,緑内障群のほうが運転に慎重になるため事故率は低かった(relativerisk0.67)という報告もあり9),視野が狭いほど事故が起きるのかどうか統一した見解は得られていない.また,これらはいずれも海外からの報告であり,免許基準が異なる日本と比較することはできない.わが国での緑内障と自動車事故に関する報告は,筆者らの調べうる範囲ではわずかに1編のみである.Tanabeらは原発開放隅角緑内障患者を視野障害程度によりHFA30-2のMD値が両眼ともに.5dB以上を初期,視野が悪いほうの眼のMD値が.5dBから.10dBまでを中期,また,.10dB以下を後期に分類し,事故率の比較を行った.その結果,初期群で0%,中期群で3.9%,後期群で25%と後期群で有意に事故が多かったと報告している5).視野が狭いほど事故を起こしやすいという可能性を示唆するものだが,後期群ほど高齢であるため加齢の影響により事故が増加していることも考えられる.警察庁交通局による平成21年の原付以上運転者(第1当事者)による運転免許保有者10万人当たり交通事故件数を年齢層別にみると,若者(16.24歳,1,649.3件)が最も多く,ついで25.29歳(1,017.5件),高齢者(75歳以上,987.4件)の順となっている(http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H21mistake.pdf#search).今回筆者らの対象とした33.70歳での1年間の交通事故件数は727.6.770.3件であり,各群29名当たりの5年間での事故件数は平均1件前後となる.今回は,「自動車事故」の対象を,警察に届け出をしない物損事故も含めているため,単純比較はできない1016あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012が,初期群2名,中期群0名が過去5年間に自動車事故を起こした,という数字は,ほぼ,全国の同年代の運転免許保有者の事故率と同等であると考える.しかし,それに比して,後期群の10名(34.5%)は有意に多く,これにより,視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.海外の過去の報告では,対象となる緑内障患者の視野障害度は軽度のものが多く含まれ,両眼ともに高度の視野障害がある緑内障例での検討は皆無であった.国によっては,視野狭窄例では免許更新ができないこともあるが,わが国では両眼ともに視力が良好な場合は,高度の視野狭窄があっても免許取得・更新が十分可能である.Tanabeらの報告では,視野が悪いほうのMDで分類しているため片眼の視野障害が軽度な例が含まれている可能性がある.そのため,両眼の高度の視野狭窄例での検討が必要だと考え,両眼ともにHFA30-2MD値.12dB未満であるものを後期緑内障群として運転調査を行い,事故歴の有無と視野との関連を検討した.その結果,事故群では無事故群に比べて視力不良眼の視力が悪く,視野不良眼のMD値が悪かった.運転は,両眼開放下で行うものの,緑内障患者では,視力不良眼・視野不良眼の状態が,自動車事故に影響を及ぼしている可能性が示唆された.さらに,両眼視野結果である視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野より得られた立体角の3種類で比較を行ったところ,視能率と自動車事故との関連はなかった.視能率は,日常的には視覚障害者の認定のために使用されるが,Goldmann視野検査におけるI/2視標結果から計算される.そのため高度な視野障害のみられる後期緑内障群では,事故群,無事故群ともに値が小さくなり,有意差はみられなかったと考えられる.また,Estermandisabilityscoreでも事故群・無事故群では有意な差はみられなかった.Estermandisabilityscoreは生活不自由度と相関するといわれている10)が,今回,事故群と無事故群で有意差がなかったのは,中心視野を含まない(中心10°内に検査点がない)ことが影響しているかもしれない.Goldmann両眼視野では,事故群においてV/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったが,I/4視標で差がみられなかった.これは,今回の対象が,視野障害が高度な後期緑内障患者であり,I/4視標では,事故群・無事故群ともに狭小化しており,両群に差がでなかったものと考える.同じ後期緑内障群であっても,事故群は,より末期である可能性があり,V/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったことは,後期緑内障群のなかでも,事故群では,さらに視野障害が進行していることを表しているのかもしれない.Goldmann視野検査の,立体角による視野面積の定量化は,過去に馬場らが少数例で行っている11)が,筆者らの,(140) Goldmann視野検査からの両眼視野を作成し,立体角を計算する作業にはかなりの時間を要する.Goldmann視野検査結果から両眼視野を作成し,立体角を計測する方法により,より小さい立体角で事故が起こる可能性が推測できるが,日常臨床の場での判断に利用するには,作業を簡便化するソフトの開発などが必要であろう.今回の研究における問題点として事故歴聴取のあり方があげられる.対象者に行った事故歴の有無についての聴取は自己申告であり,本人が自分の責任で生じた事故ではないと考えている場合,あえて事故歴ありと申告をしていない可能性がある.視野が高度に狭窄しているにもかかわらず自覚症状のない患者では,安全確認に必要な視野が確保されていないことが原因と思われる事故状況であっても,自分の責任ではないと考えている症例もあった.このように,自己申告による事故歴の聴取には限界があると思われる.今回事故歴のあった後期緑内障患者10名のうち8名が運転を継続していた.現時点では運転を中止すべき明確な基準がないため,いずれの症例が運転を中止すべきなのかは判断できない.しかし,この実態調査を通じて,後期緑内障患者の事故率は有意に高いことから,日常臨床の場でも,緑内障患者の自動車運転歴の有無を聴取し,運転している場合は,視野検査結果を詳しく説明し,注意を喚起することは重要であると考える.今後は自動車運転シミュレータのような運転条件を一定にした状態での事故率を調査し,どの程度の視野障害度,どの部位の視野欠損が自動車事故に関与しているか検討していきたい.文献1)OwsleyC,McGwinGJr,BallK:Visionimpairment,eyedisease,andinjuriousmotorvehiclecrashesintheelderly.OphthalmicEpidemiol5:101-113,19982)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20053)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:1149-1155,20074)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Glaucomaandon-roaddrivingperformance.InvestOphthalmolVisSci49:3035-3041,20085)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:TheAssociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20116)青木由紀,国松志保,原岳ほか:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20087)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19829)McGwinGJr,XieA,MaysA:Visualfielddefectsandtheriskofmotorvehiclecollisionsamongpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:4437-4441,200510)ParrishRK2nd,GeddeSJ,ScottIUetal:Visualfunctionandqualityoflifeamongpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1447-1455,199711)馬場裕行:ゴールドマン視野の立体角による定量化.日眼会誌90:210-214,1986***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121017

緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):993.997,2012c緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子兵頭涼子林康人鎌尾知行南松山病院眼科FactorsAffectingTherapyAdherenceinPatientsUsingGlaucomaEyedropsRyokoHyodo,YasuhitoHayashiandTomoyukiKamaoDepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital高眼圧は緑内障進行の一つの要因であり,眼圧を下げるためには点眼治療のアドヒアランスが重要である.筆者らは緑内障点眼治療のアドヒアランスを調査する目的で,緑内障点眼治療を受けている患者84名(27.90歳,平均67.6±12.7歳)を対象として,聞き取り調査を実施した.84名中68名が月1回以上「点眼忘れ」があると回答した.アドヒアランスの悪い患者はアドヒアランスの良い患者に比べ,治療月数が有意(対応のないt検定:p<0.0001)に短かった.「点眼忘れ」の状況を主治医に正確に伝えている患者は1名もいなかった.73.8%の患者が理想の点眼剤数を1本と答え,96.4%の患者が理想の点眼回数を1日1回と回答した.これらの結果より,アドヒアランスの向上のためには可能なかぎり点眼剤数を減少させ,緑内障点眼処方直後は「点眼忘れ」がないよう,頻回に確認する必要があると考えられる.Elevatedintraocularpressure(IOP)isaknownriskfactorforglaucomaprogression.ForIOPreduction,adherencetoeyedroptherapyisimportant.Tosurveyadherencetoglaucomaeyedroptherapy,weinterviewed84patients(agerange:27-90years;averageage:67.6±12.7years)whohadbeenprescribedglaucomaeyedrops.Ofthe84,68hadmissedtakingtheprescribedeyedropatleastonceamonth.Poor-adherencepatientsthushadasignificantlyshorterperiodofmedicationthandidexcellent-adherencepatients(unpairedt-test:p<0.0001).Nopatientsinformedtheirphysicianofhaving“missedeyedrops.”Ofallpatients,73.8%answeredthattheidealnumberofeyedropswas1;96.4%answeredthattheidealadministrationratewasonceperday.Theseresultsuggestthatthemedicationrateshouldbereducedasmuchaspossibleforgoodadherence,andthatjustafterprescriptionofglaucomaeyedrops,wemustaskpatientsnottoforgettoinstillthem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):993.997,2012〕Keywords:点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス,緑内障.eyedroptherapy,questionnaires,adherence,glaucoma.はじめに緑内障治療における眼圧コントロールのための点眼治療の重要性1.3)は明らかであるが,その成否にはアドヒアランスが関わる4,5).医師は患者が処方された点眼剤を処方通りに点眼していることを前提として,治療方針を立て,効果が不十分であると判断すれば,変更や追加を迫られる.ところで実際患者は処方通りに点眼できているのであろうか.そこで今回,緑内障点眼治療患者に対して点眼実施状況のアンケート調査を実施したところ,今後医療従事者が注意すべき点が明らかになったので報告する.I対象および方法今回の臨床研究を実施するに際し,事前に南松山病院臨床研究審査委員会(IRB)の承認を受けた.書面による同意が得られた,27歳から90歳までの緑内障点眼治療患者84名(男性44名,女性40名,平均67.6±12.7歳)を対象とした(図1a).今回の調査内容は主治医には伝えないことを事前に説明し,表1に示す内容を1名の看護師による面接法により調査した.統計解析は,JMPVer9.0(SASInstitute,NC,USA)を用い,対応のないt検定,Fisherの正確確立検定も〔別刷請求先〕兵頭涼子:〒790-8534松山市朝生田町1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:RyokoHyodo,DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,1-3-10Asoda-cho,Matsuyama,Ehime790-8534,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)993 表1アンケート調査の内容年齢:性別:男女お勤め:有無職種:勤務体系:定期(時間帯:.)不定期点眼治療年数:点眼剤数:点眼内容:1.過去1カ月間で緑内障点眼液の点眼を忘れたことはありますか?:□ある□ない(点眼を忘れたことがある場合)2.忘れる頻度は?:□1カ月に1回□1カ月に2.3回□1週間に1.2回□1週間に3回以上3.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前4.点眼を忘れたことを,医師に伝えていますか?:□正確に伝えている□あまり伝えていない□全く伝えていない5.伝えていない理由を教えてください.□注意されるから□聞かれなかったから□眼圧が変化していなかったから□その他()6.理想の点眼回数は何回ですか?:□1日1回□1日2回□1日3回□1日4回以上□2日に1回□3日に1回□1週間に1回7.可能な点眼本数は何本ですか?:□1本□2本□3本□4本以上8.点眼習慣を妨げる要因は何ですか?(複数回答可):□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□点眼液のさし心地□点眼瓶の操作性□点眼液の副作用□その他()abc305050人数人数人数2030405060708090(歳)050100150200250300350(月)1剤2剤3剤4剤図1アンケート調査対象の背景a:年齢分布のヒストグラム.b:点眼治療月数.c:点眼治療剤数.しくはWilcoxon検定を用いて有意差検定を行い,p<0.05を有意差ありと判定した.II結果緑内障点眼治療期間は1カ月から25年までの平均5.3±4.5年であった(図1b).緑内障点眼治療剤数は1剤から4剤までの平均1.6±0.8剤であった(図1c).「点眼忘れ有り」と答えた患者は84名中68名(90.0%)であった.「点眼忘れ」の有無と年齢分布には一定の傾向はなく(図2a),「点眼忘れ」の有無と性別との関係では女性で「点眼忘れ」が多い傾向があったが,統計学的に有意ではなかった(表2,Fisherの正確確立検定:p=0.1728).仕事の有無と「点眼忘れ」の有無は今回の調査では一定の傾向が得られなかった(表3,Fisherの正確確立検定:p=0.3945).治療点眼剤数と「点眼忘れ」の有無についても一定の傾向はなかった(表4,Wilcoxon検定:p=0.1445).一方,「点眼忘れ有り」の患者は有意に治療月数が短く(図2b,対応のないt検定:p<0.0001),忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短い(図2c)という結果が得られた.点眼を忘れる時間帯は眠前が31名と最も多く,朝が18名,夕方が16名で昼は4名と少なかった(図3).「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対しては「正確に伝えている」と回答したものはなく「全く伝えていない」が85.3%,「あまり伝えていない」が14.7%であった(図4a).伝えていない理由については,「聞かれなかったから」が最も多く(75.0%),つぎに「注意されるから」が多かった(図4b).理想の点眼回数はほぼすべての患者が1日1回を選択し,1日3回以上を選択するものはいなかった(図5a).点眼可能な点眼剤数は1剤が73.8%,2剤が21.4%と2剤までで大半を占めた(図5b).患者が考える点眼を妨げる要因(複数回答)では本数(76.2%),時間帯(72.6%),回数(53.6%),操作性(42.9%)が上位を占めた.994あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(118) abc100350p<0.0001200治療月数p=0.0006p=0.000390NS30080250治療月数年齢(歳)15070200601001505010040503050200忘れ無し忘れ有り忘れ無し忘れ有り0月1回以内月2~3回週1~2回図2点眼忘れの関連要因a:点眼忘れの有無と年齢分布(NS:有意差無し).b:点眼忘れの有無と点眼治療月数の分布.c:点眼忘れの頻度と点眼治療月数の分布.表2点眼忘れの有無と性別朝(18名)夕方(16名)眠前(31名)昼(4名)図3点眼を忘れる時間帯点眼忘れ無有計性別女53540男113344計166884Fisherの正確確立検定:p=0.1728.表3点眼忘れの有無と仕事の有無ab眼圧が変化してない(5.9%)あまり伝えていない(14.7%)全く伝えていない(85.3%)その他注意される(14.7%)聞かれなかったから(75.0%)点眼忘れ無有計仕事無124254有42630計166884Fisherの正確確立検定:p=0.3945.表4治療点眼剤数と点眼忘れの有無図4点眼状況の主治医への情報提供a:点眼状況を主治医に伝える頻度.b:点眼状況を主治医に伝えなかった理由.a1日2回2日に1回b3剤(4.8%)(2.4%)(1.2%)1日1回(96.4%)1剤(73.8%)2剤(21.4%)点眼剤数1234計点眼忘れ無817016有40216168計482213184Wilcoxon検定:p=0.1445.III考按当院では緑内障点眼を開始する以前に数回眼圧を測定し,片眼トライアルをスタートする段階で,点眼の重要性,効果や副作用について患者に説明したうえで,十分に時間をかけ図5理想の点眼回数と点眼可能な点眼剤数て点眼指導を行い,患者のライフスタイルに合わせた点眼方a:理想の点眼回数.b:点眼可能な点眼剤数.法を提案するようにしている.にもかかわらず,予想外にア(119)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012995 ドヒアランスが悪く,「点眼忘れ有り」と答えた患者は90.0%おり,今回の結果は驚くべきものであった.その理由として,今回の調査では,看護師が結果を医師に伝えないという条件で聞き取り調査をしているため,主治医に対する気遣いによるバイアスを最小限に抑え,患者の本音が引き出せていた可能性がある.従来の研究でも,診療に携わっている医師が直接調査したと考えられる研究6)では「点眼忘れ」が少なく,薬剤師や看護師が調査した研究7.9)では「点眼忘れ」が多い結果が出ており,診療に携わっている医師が直接調査した研究では点眼の状況を正確に捉えきれていなかった可能性がある.以上より,本来正確に点眼状況を調査するためには電子媒体で記録すべきである10,11)が,残念ながらメーカーの協力は得られなかった.今回の調査では忘れる頻度が高い患者ほど有意に治療月数が短いということが明らかとなった(図2b,c).Nordmannら11)がTRAVALERTRDosingAidを使用して調査した報告でも最初の週は「点眼できている」が平均で50%を切っており,それ以降の60%前後の値と比較すると,極早期でより「点眼忘れ」が多いという結果を得ている.その理由として,点眼をする習慣化をあげているが,筆者らの研究では点眼開始後の平均期間が長く,その間の受診時の教育効果も結果に影響していると考えられる.やはり,点眼を忘れずに行う習慣ができるまでは,毎回点眼状況を確認する必要がある.一方,点眼を忘れる時間帯では夕方と眠前で全体の61.8%を占めた(図3).この理由として,当院ではプロスタグランジンの処方割合が多く,その副作用から,入浴前の点眼を勧めることが多いことが影響したと考えられる.また,夕方と眠前に点眼を忘れる患者は就労世代の男性に多い傾向があり,飲食と「点眼忘れ」が関連している可能性が考えられた.一方,朝の「点眼忘れ」は主婦に多い傾向にあり,個人のライフスタイルに合わせた点眼指導が必要であることがわかる.一方,「点眼を忘れたことを,医師に伝えているか?」という問いに対して,「正確に伝えている」と回答したものがいなかったのは特筆すべきことである.さらに,伝えなかった理由については「聞かれなかったから」が最も多かったが,実際には「注意されるから」という心理がその裏には隠れている可能性がある.医療従事者は患者の心理状態を推し量り,患者自身にとって不利と感じられることは話さないということを考慮する必要がある.理想の点眼回数(図5a)と点眼可能な点眼剤数(図5b)の結果から,多くの患者は1日1回1剤が理想的であると考えているようである.今回の研究では点眼剤数による「点眼忘れ」への影響は明らかとはならなかったが,池田らの研究9)では点眼剤数が増えるとアドヒアランスが低下するという結果を得ている.点眼を妨げる要因(図6)でも点眼本数,点眼回数が上位を占めていることも,近年登場した合剤への移行を後押しするものと996あたらしい眼科Vol.29,No.7,201210076.272.653.642.98.37.10図6点眼を妨げる要因(複数回答,全体に占める%で表示)考えられる.今回のアンケート調査を通じて,点眼指導の問題点や日々の診療時における患者とのコミュニケーションの取り方についての問題点を明らかにすることができた.今後,点眼治療アドヒアランス向上を目指して,診療のさまざまな場面から患者との信頼関係を築き,治療状況を把握して,患者の生活に合った無理のない点眼方法を提案することが重要であると考えた.IV結論多くの緑内障患者は点眼のみで一生視機能で不自由することがないよう治療することができるようになった.その前提として,良好な点眼治療アドヒアランスは不可欠である.そのためには,医療従事者が点眼の重要性について患者に理解できるように説明し,日々の生活のなかで無理なく,忘れることなく継続できる方法を提案し,処方後は点眼の実施状況を確認する必要がある.本数時間帯回数操作性差し心地副作用利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeskeMC,HymanL,HusseinMetal:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:625-626,19992)DaniasJ,PodosSM:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol127:623-625,19993)RossettiL,GoniF,DenisPetal:Focusingonglaucomaprogressionandtheclinicalimportanceofprogressionratemeasurement:areview.Eye(Lond)24(Suppl1):(120) S1-S7,20104)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,20055)SchwartzGF,QuigleyHA:Adherenceandpersistencewithglaucomatherapy.SurvOphthalmol53(Suppl1):S57-S68,20086)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20117)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:1813-1818,20108)山本由香里,嶋津みゆき,鶴田千明ほか:点眼薬のコンプライアンスについての検討─眼科診療補助員の立場から─.眼臨101:794-798,20079)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,200110)RegnaultA,Viala-DantenM,GiletHetal:ScoringandpsychometricpropertiesoftheEye-DropSatisfactionQuestionnaire(EDSQ),aninstrumenttoassesssatisfactionandcompliancewithglaucomatreatment.BMCOphthalmol10:1,201011)NordmannJP,BaudouinC,RenardJPetal:Measurementoftreatmentcomplianceusingamedicaldeviceforglaucomapatientsassociatedwithintraocularpressurecontrol:asurvey.ClinOphthalmol4:731-739,2010***(121)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012997

Patient-Centered Communication(PCC)Tool としての緑内障点眼治療アンケート

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):969.974,2012cPatient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート末武亜紀福地健郎田中隆之須田生英子中枝智子若井美喜子芳野高子原浩昭田邊朝子栂野哲哉関正明阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野GlaucomaTopicalMedication-relatedInterviewasPatient-CenteredCommunicationToolAkiSuetake,TakeoFukuchi,TakayukiTanaka,KiekoSuda,TomokoNakatsue,MikikoWakai,TakaikoYoshino,HiroakiHara,AsakoTanabe,TetsuyaTogano,MasaakiSekiandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:患者ごとの緑内障薬物治療を構築し,患者中心の治療(Patient-CenteredMedicine)を行うために,患者と医療者の情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は重要である.その手段の一つとして緑内障点眼治療に関する聞き取りアンケートを実施した.方法:対象は新潟県内10施設(すべて一般病院)で緑内障点眼治療中の患者182名.平均年齢は67.3±12.7歳,男性92名,女性90名.1剤点眼の患者が60%,2剤36%,1回点眼が49%,2回25%,3回18%と相対的に点眼薬数・回数が少なめの患者が対象となった.結果:年間の処方本数が不適切な患者はプロスタグランジン(PG)製剤39%,b-blocker35%,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)57%であった.年代別で若い患者は処方が過少,高齢者は過剰であった.点眼薬の名前を記憶している患者は21%,使用点眼薬数の間違いが8%の患者にみられ,点眼治療の理解は不良であった.患者自身による点眼治療の問題点は,しみる・かすむなどの点眼薬の使用感に関するものが最も多く,ついで点眼がうまくできない,点眼薬がよく見えないなどの点眼方法に関するものが多かった.治療が孤独,診療施設が遠く通院困難,点眼薬が高額で負担などの問題もみられた.緑内障点眼治療に関して,さまざまなネガティブ意見を抱えていた.結論:点眼治療に関するアンケートは全体の傾向だけでなく,アドヒアランス不良につながる個々の問題点を抽出することが可能であり,PCCの手段として有用であった.Adherencemeansagreatdealinglaucomatreatment.Toimproveglaucomapatients’adherence,Patient-CenteredCommunication(PCC)isconsideredthekeypoint.Weinterviewedpatientswhowereusingeyedropsforglaucoma,toassesseyedroptherapyforquestionnaires.Weinterviewedatotalof182patients,ranginginagefrom29to89years(average:67years).Weinquiredastotheirknowledgeofglaucoma,andfactorsthatinfluencetheiradherence.Wealsocheckedthewaysinwhichtheyusedeyedrops.Thepercentageofpatientsusingonetypeofeyedropforglaucomacomprised60%;thoseusingtwotypescomprised36%.Thoseusingeye-dropsonceadaycomprised49%,twiceaday25%andthreetimes18%.Wethentotaledtheannualnumberofeyedrops;unnecessarymedicationwasnotable.Rateofimproperuseofeyedroptypeswasasfollows:prostaglandinanalog39%,beta-adrenergicagonist35%andsystemiccarbonicanhydraseinhibitor57%.Olderpatientsusedeyedropstoexcess.Attheotherextreme,youngerpatientsusedeyedropstoolittle.Only21%ofthepatientsansweredcorrectlyanameofeyedrop;8%didnotevenknowwhicheyedropwasforglaucomatreatment.Theproblemswitheyedroptherapyarevarious.Somepatientsdonotknowhowtoproperlyuseeyedrops.Theyalsohavemanynegativeopinionsthatcanleadtonon-adherence.Theinterviewisveryuseful,notonlyasaPCCtool,butalsotoidentifyfactorsthatinfluencenon-adherence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):969.974,2012〕Keywords:緑内障,点眼治療,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,eyedroptherapy,questionnaires,adherence.〔別刷請求先〕末武亜紀:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚医学統合講座視覚病態学分野(眼科)Reprintrequests:AkiSuetake,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuou-ku,NiigataCity951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(93)969 はじめに近年,緑内障点眼治療に関してコンプライアンスからアドヒアランスへと概念が変化し,そしてアドヒアランスの重要性が注目されている.コンプライアンスは医師の服薬指示に患者がどの程度従っているかを評価する服薬遵守を意味する.コンプライアンスの良否の判断は医療者側によってなされ,指示どおり服薬できない場合は患者の問題として判断し,指導・説得によりコンプライアンスを高める.一方,アドヒアランスは患者が積極的に治療方針の決定に参加し,納得した治療を受けることを意味する.服薬率を高めるためには,薬剤・患者・医療者側のそれぞれの因子を総合的に考え,患者が参加し実行することが必要である.医師は患者の疑問・不安などの情報を収集し,治療を修正していく必要がある1,2).つまり,治療は患者が主体的に自身のために行うものであり,治療の中心は患者自身であるというPatient-CenteredMedicine(PCM)がアドヒアランスの基本である.アドヒアランスを向上させ患者ごとの緑内障薬物治療を構築するために,患者を中心とした医療者との情報伝達(Patient-CenteredCommunication:PCC)は非常に重要となる3,4).患者がどのような意見や問題点を抱えているかを抽出し,どの程度治療状況を理解しているか客観的に調べるため,PCCの一つの手段として緑内障点眼治療に関する聞き取り型アンケート調査を行った.I対象および方法対象は新潟県内10病院(小千谷総合病院,木戸病院,新潟南病院,新潟県立六日町病院,新潟県済生会三条病院,中条中央病院,柏崎中央病院,信楽園病院,新潟医療センター,豊栄病院)のいずれかの眼科において1種類以上の緑内障点眼薬を使用して治療および経過観察中の緑内障患者182名である.研究に先立って新潟大学およびすべての病院において倫理委員会の承認を受け,各患者からアンケートの同意をいただいた.患者は男性92名,女性90名,平均年齢は67.3±12.7歳(29.89歳)であった.59歳以下48例(26%),60.69歳43例(24%),70.79歳57例(31%),80歳以上34例(19%)であった.緑内障の病型は,開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障52例・正常眼圧緑内障94例・発達緑内障1例・落屑緑内障9例)156例,原発閉塞隅角緑内障8例,ぶどう膜炎による緑内障6例,血管新生緑内障4例,ステロイド緑内障2例,その他7例であった.外来診察や視野検査後などに,医療者(看護師または視能訓練士)により,以下の内容について個別に質問・記入し,最終的に医師が評価した.アンケートの内容を表1に示した.使用中の緑内障点眼薬の数,名前,点眼の確実さ,点眼手技や方法,その他の治療状況について口頭で質問した.さらに緑内障点眼治療についての各自の感想や意見,困っている点などについて聴取した.アンケートの後に,医師がアンケート時の年齢,病型,表1緑内障点眼治療に関する患者さまへのアンケート1)緑内障点眼薬をどなたが点眼していますか?答患者自身・家族()・その他()2)点眼薬の管理(数や量の確認,保管など)はどなたがされていますか?答患者自身・家族()・その他()3)点眼薬は確実に点眼していますか?どのくらい忘れますか?答忘れない・時々忘れる・よく忘れる・つけていない全体として何パーセントくらい点眼していると思いますか?答()%4)どのような時に忘れますか(複数可)?答忙しい・旅行・仕事中・なんとなく・つけたくない・その他()5)現在,緑内障の治療のために何種類の点眼薬を使っていますか?答()種類6)薬の名前を覚えていますか?答はい:名前を教えてくださいいいえ:どのように区別していますか?キャップの形・キャップの色・袋の色・その他①()②()③()④()7)それらの点眼薬はどこに保管していますか?(番号は6に同じ)①室内・冷所・その他()②室内・冷所・その他()③室内・冷所・その他()④室内・冷所・その他()8)点眼のタイミングは時間で決めていますか,イベントで決めていますか?答時間・イベント時間の方:何時にしていますか?()イベントの方:いつしていますか?()9)(2剤以上点眼している方に)同じ時間に点眼することがありますか?間隔はどのくらいあけていますか?答はい・いいえ()分くらい10)点眼した後に瞼を閉じていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい11)点眼した後に目頭をおさえていますか?どのくらいの時間続けますか?答はい・いいえ()分くらい12)緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていることを教えてください答しみる・かすむ・ゴロゴロする・充血する・うまく点眼できない・点眼薬がよく見えない・よく忘れる・必要性がわからない・治療が面倒・治療したくない・治療が孤独・家族が非協力的・薬の数が多い・薬の価格が高い・その他:13)以下,自由記入欄970あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(94) 緑内障に関する点眼薬の種類,一日当たりの点眼回数などについて確認した.また,カルテの記録上で1年間の点眼薬処方本数を計算した.最近1年以内に処方薬が変更になっている症例に関してはこの検討から除外した.点眼薬の1滴の容量は30.50μlと銘柄間に差があるが,1滴容量が15.20μlの点眼で通常は十分であること5,6)と添付文書上の使用可能期間から1カ月に1本を点眼薬の適正使用本数とし,最近1年間のそれぞれの点眼薬の適切な処方本数を12.14本として,9本以下を少ない,10.11本をやや少ない,15.17本をやや多い,18本以上を多いと,5群に分け検討した.なお,アンケート対象患者182名のうち片眼のみ緑内障点眼を使用している患者は25名(14%),点眼数では33例であった.実際の点眼使用量は片眼と両眼で差があるが,冨田らは代表的な緑内障点眼薬の1滴容量や使用期間などを調査した結果,開封から1カ月の使用期間を目安とし,長期間点眼が可能な品目を処方する場合,1カ月を目処に新しい製品に切り替える指導が特に必要と述べている7).適正な使用期間で点眼していれば両眼あるいは片眼で顕著な差は生じないこと,使用期間の適切さも緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わることを考慮し,今回のアンケートでは上記のように処方本数を決定した.点眼薬処方本数を70歳未満と70歳以上で分け,「多い」,「やや多い・適当・やや少ない」,「少ない」の3つの基準で多層のk×2表検定(Mantel-extension法)を用いて統計学的に検討した.II結果対象のうち,緑内障の点眼薬数は1剤点眼の患者は(実数)60%,同2剤点眼が同36%,点眼回数では1回点眼が同49%,2回同25%,3回同18%であった(図1).内訳は1剤点眼でプロスタグランジン製剤(以下,PG)69例,b遮断薬(以下b)37例,炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)3例であった.2剤点眼では,PG+b38例,PG+CAI18例,b+CAI8例,CAI+a1遮断薬1例であった.年間の点眼薬処方本数に関して点眼薬の系統別(図2),年齢別(図3)に示した(直前1年に処方変更がある例は除外した結果,対象は計237例,点眼薬別ではPG119例,b83例,CAI35例,年齢別では20.50歳代51例,60歳代53例,70歳代84例,80歳代46例という内訳であった).年齢別では処方本数が少ないまたは多い患者を処方不適切とした場合,PGが同39%,bが同35%,CAIが同57%であった.年齢別には処方不適切の症例は20.50歳代同41%,60歳代同23%,70歳代同44%,80歳代以上同52%であった.PG製剤の年間点眼薬処方本数は,70歳以上の高齢群で統計学的に有意に過剰であった(p=0.040).CAIの処方本数(95)■:1剤点眼薬数■:2剤:3剤0%20%40%60%80%100%■:4剤■:1回点眼回数■:2回:3回0%20%40%60%80%100%■:4回■:5回図1緑内障の点眼薬数と一日当たりの総点眼回数■:多いPG■:やや多い:適切b■:やや少ない■:少ないCAI0%20%40%60%80%100%図2年間の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)20~50歳代■:多い60歳代■:やや多い:適切70歳代■:やや少ない■:少ない80歳代0%20%40%60%80%100%図3年齢別の処方本数(直前1年以内に点眼薬変更がある例は除外)も同様に,高齢群で過剰であった(p=0.021).点眼を誰がしているか,点眼薬の名前を知っているかなど点眼治療の理解に関する質問や点眼精度や手技を確認する質問への結果を表2に示した.緑内障点眼薬や点眼治療について困っていることを聴取した結果を表3に示した.III考按緑内障は眼科臨床のなかでも,特にアドヒアランスを意識した対応が必要な疾患であり1),正確に点眼してこそ真の治療効果を期待できるが,その一方でアドヒアランスを維持することはきわめてむずかしい疾患ともいえる.良好なアドヒアランスを継続しさらに向上するためには,患者の不安や疑問を傾聴し,情報収集しながら治療を修正し継続していくことが重要であるが,実際の日常診療では非常に困難といえる.髙橋らのアンケート結果では,大学病院通院中の368名を対象とし,医師の説明について半数近くのあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012971 表2アンケート結果.点眼はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼の管理(数の確認や保管)はだれがしているか?患者自身:175名(96%),家族:5名(3%).点眼薬は確実に点眼しているか?忘れない:115名(63%),時々忘れる:64名(35%),よく忘れる:1名(0.5%),つけていない:0名.全体として何%くらい点眼しているか?100%点眼:88名(48%),90%以上点眼:160名(88%),80%以上90%未満:14名(8%),70%以上80%未満:2名(1%),70%未満:3名(2%).どのような時に忘れるか?(複数回答可)なんとなく:29名,忙しい:21名,旅行:17名,仕事中:7名,飲み会:6名,外出時:4名,他眠い時,運動中など.点眼薬の名前は?正しく答えた方:38名(21%).緑内障の治療のための点眼は何種類使っているか?正解:168名(92%),不正解:14名(8%).点眼はどのように区別しているか?キャップの色:42名(回答者97名のうち43%),袋の色:41名(同42%),キャップの形:10名(同10%),容器色:2名(同2%),置き場所:2名(同2%).点眼のタイミングは?時間:31名(17%),イベント(食事や就寝など):150名(82%).(2剤以上を)同じ時間に点眼する場合,間隔をあけているか?あける:62名(回答者79名のうち78%)→5分以上あける:49名(同62%)間隔あけない:17名(同22%).点眼したあとに瞼を閉じているか?閉じる:119名(65%)→1分以上閉じる:64名(35%)閉じない:63名(35%).点眼したあと,涙.部圧迫をしているか?圧迫している:57名(31%)→1分以上圧迫:34名(19%)圧迫しない:125名(69%)表3緑内障の点眼薬や点眼治療に関して困っていること使用感.しみる:35人.かすむ:34人.充血する:17人.ゴロゴロする:10人.かゆい:2人.睫毛がのびる:1人方法・手技.うまく点眼できない:27人.点眼薬がよく見えない:21人.よく忘れる:8人治療の目的・意味.必要性わからない:18人.治療が面倒:12人.治療したくない:10人.進行が止まっているか不安:4人.緑内障のほかに白内障といわれ不安:1人点眼薬.薬の価格が高い:26人.薬の数が多い:7人.1カ月で1本使用が面倒.点眼薬の冷蔵保存を忘れる.容器の固さが違い点眼しづらい環境.治療が孤独:6人.家族が非協力的:3人.通院が困難.診察間隔を延ばしてほしい.経済的に負担回答なし:7人患者が説明不足と感じていた8).今回,患者のアドヒアランス不良因子はどういったものか,緑内障点眼治療にどのようなネガティブな意見を抱えているか,PCCツールの一つとしてアンケート調査を行った.今回のアンケート調査はすべて一般病院で行ったことから,点眼薬数は2剤まで95%,点眼回数は3回まで92%と相対的に点眼薬数および点眼回数が少なく,緑内障薬物治療の形態としては比較的プライマリーでシンプルな患者が対象となった.つまり,医師の立場で考えた場合には,患者にとってはまだ負担も軽くわかりやすい治療の状況にある方々が対象になった.逆に緑内障専門施設に通院している患者の場972あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012合には,薬剤数は多く,そのコンビネーションは複雑であるが,緑内障に対する病識は高くアドヒアランスはより良好であることが推測される.このようなアンケート調査の結果というのは,対象の選択方法,治療・管理を行っている施設・医師によって大きく異なる.同施設であっても質問者が医師かあるいは看護師や視能訓練士かによって結果にバイアスは生じると考えられる.したがって,結果を評価する場合には,実数は単に傾向を示すだけで,重要なのは抽出された問題点の項目である.さらに,患者の自己申告の多くは,実際の治療状況と異なるという点においても評価には限界がある.Norellらは,面(96) 接によるコンプライアンス不良は3%であったが,客観的な点眼モニターでの調査では49%を占めたと報告している9).わが国では塚原が,面接ではコンプライアンス不良が18%と自己申告では良好であっても10),同施設で点眼モニターを用いた佐々木はコンプライアンス不良が41%であったと報告している11).患者の自己申告は正しくないことがほとんどで,問診によっても医療者は正確に把握できない.今回のアンケート調査においても,患者の半数近くが点眼の確実さは100%と自己申告は過剰に良好であった.患者の自己申告をもとにした統計学的な解析はあまり意味をなさないと考えられる.自己申告は良好であってもアンケート結果には,確実な自己点眼のむずかしさ,点眼治療における理解の不良さが如実に表れている.たとえばその一つが年間処方本数である.年間の点眼処方本数が不適切な患者は,最も少ないbブロッカーで35%,CAIでは57%であった.CAIは,2剤目,3剤目に追加で処方されるケースが多く,一日2回または3回点眼で回数が他の点眼群より多いことも影響していると考えられた.60歳代が最も的確に緑内障に対する点眼治療を行っていると考えられ,より若い患者では点眼治療が過少,より高齢の患者では過剰な傾向にあった(図3).若い世代では仕事が忙しい,飲み会などで点眼を忘れるという回答が目立っていた.高齢者では加齢による物忘れや自己管理不十分などによってアドヒアランスが悪化するケースが考えられる.60歳代の結果は,退職などを契機に治療に関わる時間的余裕ができ,アドヒアランスが改善,より的確に点眼治療が実施される傾向を表しているものと考えられた.さらに,点眼薬の名前は正答率21%とおよそ5人に1人しか正確に名前を把握しておらず,どの点眼薬が緑内障のためのものかを8%の患者が理解していなかった.点眼薬数・回数が相対的に少ない患者が対象であったにもかかわらず,名前の正答率や緑内障の点眼薬数を理解している患者は小数であった.小林らが大学病院通院中の開放隅角緑内障患者168名を対象とした面接法によるアンケートでも使用中の薬剤名を正解した患者は19%とほぼ同等の結果であった12).患者の治療に対する理解はきわめて心許ないといえる.点眼薬の名前を覚えていない患者は,キャップの色もしくは袋の色で区別するものがほとんどであった.しかし,実際には袋の入れ間違いやキャップを閉める際の取り違いなどにより,間違いが起こる可能性も否定できない.点眼手技においても,同じ時間に点眼する場合間隔をあけることや,涙.圧迫,閉瞼も患者ごとに自己流で長年続けている者が多かった.点眼治療自体はシンプルに感じても,「正しく確実な」点眼はとてもむずかしい.問診だけでは十分に把握することは困難で,ときには実際に医療者の前で人工涙液の点眼をさせ,点眼手技を確認するなどの工夫も必要(97)である.池田らは,59歳以下はアドヒアランスが良好な傾向を示すのに対し,60歳以上は不良傾向であること,60歳以上の高齢者には積極的な点眼指導を行う必要性を指摘している5).緑内障薬物治療に関する各患者の意見や問題点を調査した結果(表3)では,日常の診療中には気付かないさまざまな項目がピックアップされた.患者の多くは使用感など点眼薬そのものに対する不満をもっており,しみる,かすむ,充血する,ゴロゴロするなどと回答した患者が多かった.手技に関して,27名の患者は点眼がうまくできない,21名は点眼薬がよく見えないと回答していた.誰が点眼しているか,誰が点眼薬の管理をしているかという問いに対していずれに対しても96%の患者は自分自身で行っていると答えていた.ほとんどすべての患者が自己点眼・管理をしている.つまり手技的に問題があることを本人が自覚していても,自己修正は困難で,しかも家族などの協力は頼めず,医療者に相談していない,という実態が明らかになった.治療の目的や意味がよくわからない,治療が面倒という意見も当然のことではあるがみられた.一般に薬剤の価格について医師に不満を訴える患者は少ないが,実際には価格や治療の負担などに対する不満を感じている患者も多いことがわかった.緑内障治療はアドヒアランスがより重要な疾患であるにもかかわらず,アドヒアランス不良をひき起こすさまざまな原因があり,このような聞き取り型アンケート調査は個々の問題点を抽出する有効な手段であると考えられた.今後は,このアンケート結果も踏まえたうえでの対策が課題となる.まず,結果からも明らかなように医療者が,患者は処方した点眼薬を正確に使用しているという誤解を解消すること,個々の患者がアドヒアランス不良の因子を抱えていることを認識する必要がある.主治医のみでアドヒアランスを改善させることは不可能であり,非効率的である.池田らは点眼の説明を医師が関与した場合にアドヒアランスがむしろ不良となるという興味深い結果を指摘している.医師が診察中に説明する場合は診断や治療方針の説明が中心となり,点眼薬についての時間が短くなること,点眼指導は薬剤師が行うことを期待し簡単な説明に留まっているためと池田らは考えている5).緑内障診療において,良好なアドヒアランスとさらなるアドヒアランス向上のために医師・薬剤師・看護師・視能訓練士がチームを構築し,チーム内で協力・分担・コミュニケーションを進めながら診療にあたることが重要と考えられる.当院での実践例としては,専任の看護師による外来点眼指導を開始した.その際,アンケート結果から高齢者自身での理解や点眼手技の正確さには限界があると考え,家族も同伴で受講してもらって,その際にサポートを依頼している.今回は一般病院通院中の比較的点眼処方本数・回数が少なあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012973 い患者が対象であり,大学病院通院中の多剤併用している患者や視野障害が高度の患者を対象としアンケートを比較検討することも今後の課題の一つである.前述したように,緑内障診療はチームとして定期的な情報収集と個別の対策,修正を繰り返しながら継続することが重要である.緑内障点眼治療アンケートは,アドヒアランス改善を目指したPCCツールとして有用であり,全体の問題点とともに個々の患者の問題点も把握することができる.そして,このようなアンケートは繰り返すことも有用である.定期的に行うことによって,個々の患者のアドヒアランスの問題点が改善したか,維持されているか,などを確認していくことも必要である.追記:アンケートの実施と収集にご協力いただきました以下の視能訓練士の皆様にこの場を借りて感謝申しあげます.渡邊順子,吉原美和子(小千谷総合病院),石井康子,渡邉彩子(木戸病院),山田志津子,遠藤昌代,斉藤麻由美(新潟南病院),町田恵子(新潟県立六日町病院),寺下早苗,川又智美(新潟県済生会三条病院),池田豊美(中条中央病院),渡邊幸美(柏崎中央病院),羽賀雅世,風間朋子(信楽園病院),宮北結花,貝沼真由美(新潟医療センター).(敬称略)利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)内藤知子,吉川啓司:コンプライアンス(アドヒアランス)の実際とその向上法.臨眼63:262-263,20092)森和彦:治療に対するアドヒアランス向上のためのコミュニケーション学.眼科52:401-406,20103)HahnSR:Patient-centeredcommunicationtoassessandenhancepatientadherencetoglaucomamedication.Ophthalmology116:S37-S42,20094)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnoadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,20105)池田博昭,佐藤幹子,塚本秀利ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.藥學雜誌121:799-806,20016)池田博昭,塚本秀利,三嶋弘ほか:点眼液1滴あたりの容量の違いとその影響.眼科44:1805-1810,20027)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20068)髙橋雅子,中島正之,東郁郎:緑内障の知識に関するアンケート調査.眼紀49:457-460,19989)NorellSE,GranstormPA,WassenR:Amedicationmonitorandfluoresceintechniquedesignedtostudymedicationbehavior.ActaOphthalmol58:459-467,198010)塚原重雄:緑内障薬物治療法とcompliance.臨眼79:9-14,198511)佐々木隆弥:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,198612)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼60:37-41,2006***974あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(98)

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):679.686,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学大学院医学系研究科脳医科学専攻脳病態医学講座視覚科学*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野Long-termSafetyandEfficacyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientwithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital.TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とし,0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液の単剤またはプロスタグランジン(PG)関連薬との併用により52週間投与した際の眼圧下降効果と安全性および忍容性を検討した.眼圧に対しては長期投与による減弱はなく,単剤治療によりトラフで4mmHg以上,ピークで5mmHg前後の安定した効果を示した.また,PG関連薬で目標眼圧の維持が困難な症例に対しても本剤の併用による追加効果が得られ,平均眼圧変化値で3mmHg前後の有意な眼圧下降効果が長期にわたり維持されることが確認できた.副作用としてはアレルギー性結膜炎の発現頻度が高かったものの全身への影響は少なく,重篤な副作用としてPG併用治療の1例に回転性めまいが発現したが,投与中止後に症状は回復した.臨床検査,血圧・脈拍や眼科学的検査では臨床的に問題となる変動は認められず,本剤の長期投与における忍容性が確認できた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%brimonidinetartratemonotherapyandacombinationof0.1%brimonidineandprostaglandin(PG)analoguesinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension,overaperiodof52weeks.TheIOP-loweringeffectwasnotattenuatedthroughoutthelong-termadministrationperiod;brimonidinemonotherapyreducedtheIOPattroughandpeakby≧4mmHgand5mmHg,respectively.ThecombinationofbrimonidineandPGanaloguesmaintainedthe3mmHgIOPreductioninpatientswhohadbeenonPGmonotherapy;thisconfirmedtheadditiveeffectofbrimonidineandPG.Themostfrequentadversedrugreactionwasallergicconjunctivitis;however,brimonidinehadlimitedsystemiceffects.Aseriousadversereactionofvertigowasreportedinapatientreceivingcombinationbrimonidine-PGtherapy,thevertigoresolvedafterstudydrugdiscontinuation.Noclinicallysignificantchangeswereobservedinlaboratorytests,bloodpressure,pulseandophthalmologicalexamination;wethusconfirmedthelong-termtolerabilityofbrimonidine.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):679.686,2012〕Keywords:ブリモニジン,長期安全性,緑内障,プロスタグランジン,併用治療.brimonidine,long-termsafety,glaucoma,prostaglandin,concomitantuse.はじめにブタイプに対する選択性が高い選択的a2アドレナリン受容ブリモニジン(図1)はa1アドレナリン受容体よりもa2体作動薬である.そのため本薬は,レーザー照射による一過アドレナリン受容体に高い親和性を示し,なかでもa2Aサ性の眼圧上昇を対象とした類薬のアプラクロニジン塩酸塩〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital.TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)679 NHOHNH・HO2CCO2HNNNHHOHBr図1ブリモニジン酒石酸塩の構造式(p-アミノクロニジン)のような,a1アドレナリン受容体を介した散瞳や眼瞼後退が起こることはない1).米国アラガン社は本薬の眼圧下降作用に着目し,1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の緑内障治療薬ALPHAGANR点眼液の承認を取得した後,保存剤をこれまでのBAKから細胞毒性の少ない亜塩素酸ナトリウム(PURITER)に変更した0.15%製剤ALPHAGANRPの承認を2001年に,さらにはpHなどの製剤的な検討によりブリモニジン濃度を0.1%に下げた製剤の承認を2005年に取得するなど,全身および眼局所に対する安全性と忍容性に配慮した製剤改良を加えており,現在欧米をはじめとする84の国と地域で承認・販売されている.国内においては,米国で承認されたPURITER含有0.15%製剤の処方をベースに原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした二重盲検法による探索試験を実施し,0.1%製剤がプラセボに対して有意な眼圧下降を示すと同時に0.15%製剤と同等の臨床効果を示したことから,0.1%濃度を至適濃度として採択した.この0.1%製剤による第III相臨床試験では,チモロールを対照とした比較試験およびプロスタグランジン(PG)関連薬併用下でのプラセボとの比較試験により本剤の臨床的な位置付けと眼圧下降作用が検討されている.さらに,チモロールを対照とした臨床薬理試験では,高齢者の呼吸器系および循環器系に対する本剤の忍容性が検討されている.海外ではPURITER含有0.1%製剤の12カ月間点眼時の安全性は確認されているものの2),国内臨床試験の投与期間は4週間であることから,わが国においても長期点眼における安全性の検討が必要であると考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,PURITER含有0.1%ブリモニジンの単剤(単剤群)およびPG関連薬で目標眼圧の維持が困難な症例に対する併用(PG併用群)による52週間の長期投与試験を実施し,本剤の有効性と安全性および忍容性を検討したので報告する.I方法1.治験実施期間および実施医療機関本治験は,試験開始に先立ちすべての実施医療機関の治験審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2007年7月から2009年4月の間に表1に示す24680あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師山田眼科大谷地裕明慈眼会東光眼科秋葉真理子ふじた眼科クリニック藤田南都也大宮はまだ眼科濱田直紀まつお眼科クリニック松尾寛明醫会上野眼科医院木村泰朗済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治みすまるのさと会アイ・ローズクリニック安達京善春会若葉眼科病院吉野啓蒔田眼科クリニック杉田美由紀むらまつ眼科医院村松知幸安間眼科安野雅恵,安間正子こうさか眼科高坂昌志北川眼科医院北川厚子創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男長田眼科肱黒和子ひかり会木村眼科内科病院木村亘松井医仁会大島眼科病院田中敏博かとう眼科医院加藤整明和会宮田眼科病院宮田和典陽幸会うのき眼科鵜木一彦湖崎会湖崎眼科湖崎淳施設で実施した.2.対象試験参加に先立ち文書による同意が得られ,原発開放隅角緑内障(POAG)または高眼圧症(OH)と診断された満20歳以上の男女の外来患者で,表2の採用基準に該当する患者を対象とした.3.治験薬および投与方法1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgおよび保存剤として亜塩素酸ナトリウム(PURITER)を含むブリモニジン点眼剤を1日2回(朝・夜),両眼に1滴ずつ52週間点眼した.PG併用群におけるPG関連薬の点眼時刻は,本試験参加前と同じ時間帯として治療を継続した.なお,ブリモニジンと同一時間帯にPG関連薬を点眼する場合は,ブリモニジン点眼後にPG関連薬を点眼した.4.Washout試験参加前に緑内障治療薬の前治療を受けていた被験者に対し,交感神経遮断薬,PG関連薬は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬および交感神経作動薬は2週間以上,その他の緑内障治療薬は1週間以上のwashout期間を設けた.なお,PG併用群では,前治療のPG関連薬はwashoutせず,他剤とPG関連薬を併用していた場合は他剤のみをwashoutした.(100) 表2被験者の採用および除外基準おもな採用基準:単剤群1)両眼とも矯正視力が0.5以上2)両眼とも眼圧値が31.0mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上PG併用群1)両眼とも矯正視力が0.5以上2)両眼ともPG関連薬による治療期間が180日以上3)両眼ともPG関連薬併用下での眼圧値が31.0mmHg以下かつ有効性評価対象眼の眼圧値が16.0mmHg以上おもな除外基準:1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者4)a2刺激薬に重大な副作用の既往のある者5)a刺激薬,a遮断薬,b刺激薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,副腎皮質ステロイド薬の使用が必要な者6)高度の視野障害がある者7)コンタクトレンズの装用が必要な者8)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者9)内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む),角膜屈折矯正手術,濾過手術および線維柱帯切開術の既往を有する者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者表3治験スケジュール時期項目スクリーニング投与開始4週間以内投与開始4週8週12週16,20週24週28週32,36,40,44週48週52週測定ポイント(時間)─702227022270222702背景因子調査●視力検査●t●●角膜・結膜・眼瞼所見shou●●◎○●●◎○●●●◎○●●眼圧検査●Wa○●●●◎○●●●◎○●●●◎○●●眼底検査●●●視野検査●●●血圧・脈拍数○●●●◎○●●●◎○●●●◎○●●臨床検査●●●有害事象●:単剤群およびPG併用群共通.◎:単剤群のみ.○:単剤群の7時間測定症例およびPG併用群のみ(単剤群の7時間値は同意が得られた患者のみ測定した).5.検査・観察項目た.角膜所見の判定基準はAD分類3)を用い,結膜・眼瞼所検査および観察項目と試験スケジュールを表3に示す.見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値とは4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞はして8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値および7時標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて間値の測定を行った.なお,7時間値の測定は同意を得られ緑内障性異常の有無および陥凹/乳頭径比(C/D比)の垂直た被験者のみとした.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・径を記録した.視野検査にはHumphrey視野計または結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察しOctopus視野計を用いた.血圧・脈拍数は5分間安静後,座(101)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012681 位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査を三菱化学メディエンス(株)で実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない,疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象を副作用とした.6.併用薬および併用処置試験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および統計手法有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治験薬投与前の眼圧に対する治験薬投与後の各観察日の平均眼圧変化値(0時間値と2時間値の平均値)とした.副次評価項目は,投与後の各観察日の平均眼圧値および平均眼圧変化率(0時間値と2時間値の平均値),投与後の各観察日の各測定時間の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率(0時間値,2時間値,7時間値)とした.主要評価項目および副次評価項目の各観察日における要約統計量を算出し,投与後の推移を検討した.眼圧値は投与前後の推移について1標本t検定による群内比較を行った.有意水準は両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease9.1.3Foundation(SASInstituteInc.)を用いた.安全性の評価は,試験期間中に一度でも薬剤の投与を受けた被験者を対象とし,有害事象,副作用,視力,角膜・結膜・眼瞼所見,眼底,視野,臨床検査,血圧および脈拍数を評価した.血圧および脈拍数は1標本t検定を用い,有意水3025201510眼圧値(mmHg)準両側5%で群内比較を行った.視力,角膜・結膜・眼瞼所見,視野,眼底および臨床検査は薬剤投与前後の推移を比較した.なお,バイタルサインあるいは臨床検査値の異常変動の定義としては,担当医が臨床上問題となる測定値あるいは検査値の変動と解釈した場合を指し,必ずしも基準範囲内から範囲外への変動・逸脱のみを指すものではないこととした.副作用については,発現した症状および所見ごとに発現率を算出した.II結果1.対象治験薬を投与した症例は単剤群98例(このうち47例が7表4被験者背景(PPS)項目単剤PG併用性別男4022女4224年齢(歳).64473065.3516平均59.060.9緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)4833高眼圧症3413眼局所の合併症無229有6037眼局所以外の合併症無196有6340012285204812162024283236404448520824480122852(週):単剤:PG併用*****************************************0時間2時間7時間0,2時間平均(症例数)単剤8277746282793977757839747268697034624138383382777462PG併用464541344646─454444─4137393936─344646433746454134図2眼圧値の推移*p<0.05(投与前後の比較,1標本t検定).0,2時間平均は0時間値と2時間値の平均値を示す.682あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(102) 時間値測定),PG併用群59例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は単剤群82例(このうち41例が7時間値測定),PG併用群46例であった.PPSの被験者背景を表4に示す.2.有効性眼圧値の推移を図2に,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表5に示す.主要評価項目の12週間後,28週間後,52週間後の平均眼圧変化値は,単剤群で投与開始前の眼圧22.0mmHgに対し.4.8mmHg,.4.7mmHg,.4.8mmHg,PG併用群は18.7mmHgに対し.3.1mmHg,.3.3mmHg,.2.7mmHgと,いずれも有意な下降が維持されていた.副次評価項目の平均眼圧値および平均眼圧変化率,各測定時点の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率も主要評価と同様,単剤群およびPG併用群ともに投与開始前と比較して有意な下降を示した.3.安全性本試験で発現した有害事象は,単剤群68例(69.4%)194件,PG併用群44例(74.6%)127件で,このうち副作用は単剤群38例(38.8%)80件,PG併用群31例(52.5%)54件であった.おもな副作用は表6に示すようにアレルギー性結膜炎,眼瞼炎,点状角膜炎および結膜充血であった.これらの副作用のなかで,発現頻度の高かったアレルギー性結膜炎の要約を表7に示す.症状の程度は軽度または中等度で重篤なものはなかった.発症した32例のうち中止例は13例(単剤群7例,PG併用群6例),また14例(各群7例)は本剤投与開始時にアレルギー性結膜炎,アレルギー性鼻炎または花粉症の症状,所見を有していた.発症時期としては投与4週間後より散発し,投与13週.24週間後にピークを示した.その他の遅発性に発現した副作用としては,眼瞼炎,結膜充血および点状角膜炎が投与9週.52週間後にかけて散発的表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移観察日眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)単剤PG併用単剤PG併用単剤PG併用0時間値と2時間値の平均値投与開始日22.0±2.718.7±2.0────12週間後17.2±2.7*15.5±2.6*.4.8±2.5.3.1±2.1.21.6±10.4.16.7±10.928週間後17.4±2.7*15.3±2.1*.4.7±2.8.3.3±1.9.20.7±11.3.17.6±10.152週間後16.8±2.8*15.9±2.3*.4.8±2.7.2.7±1.7.22.0±12.3.14.3±8.50時間値投与開始日22.5±2.719.0±1.8────12週間後18.3±2.8*16.2±2.8*.4.2±2.6.2.8±2.2.18.5±10.9.14.8±11.928週間後18.5±3.0*16.2±2.4*.4.2±3.1.2.7±2.1.17.9±12.3.14.4±11.252週間後17.9±3.2*16.7±2.7*.4.5±2.9.2.1±1.9.19.7±13.2.11.4±9.42時間値投与開始日21.4±3.218.4±2.4────4週間後17.3±2.6*15.5±2.6*.4.2±2.6.2.9±1.9.19.1±10.8.15.5±10.48週間後17.1±2.6*─.4.8±3.1─.21.5±11.5─12週間後16.0±2.7*14.9±2.6*.5.4±3.0.3.5±2.5.24.3±12.5.18.5±12.116週間後16.6±2.9*15.1±3.0*.4.9±3.3.3.3±2.4.21.8±14.0.17.8±12.620週間後16.5±2.9*14.9±2.6*.5.0±3.0.3.3±2.4.22.6±13.3.17.7±12.524週間後16.6±2.9*─.5.2±3.1─.23.4±11.7─28週間後16.4±2.6*14.4±2.1*.5.2±3.1.3.9±2.4.23.3±13.0.20.6±12.132週間後16.5±2.7*15.3±2.6*.5.1±2.9.2.9±2.8.22.8±12.0.15.2±16.636週間後16.0±2.9*15.3±2.7*.5.3±2.7.3.0±2.4.24.5±12.1.16.1±14.140週間後16.2±3.3*15.2±2.7*.5.1±3.0.3.1±2.5.23.4±14.7.16.3±14.044週間後16.1±3.1*14.9±2.5*.4.8±3.0.3.2±2.4.22.4±14.1.17.2±13.048週間後16.6±4.6*─.4.9±4.0─.22.8±17.0─52週間後15.7±2.7*15.2±2.2*.5.2±3.0.3.2±2.1.24.0±14.4.16.9±11.17時間値投与開始日20.9±2.418.1±2.3────8週間後16.9±2.4*16.0±2.5*.4.0±2.6.2.1±2.1.18.7±11.6.11.3±11.024週間後17.0±2.4*15.3±2.3*.3.9±2.4.2.7±2.2.18.1±10.9.14.7±11.048週間後16.8±2.8*15.9±2.1*.4.0±2.0.2.0±1.9.19.2±10.4.10.6±10.3平均値±標準偏差,*p<0.05(投与前後の比較,1標本t検定).(103)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012683 表6副作用一覧治療群単剤PG併用安全性解析対象例数9859【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数全体38(38.8)8031(52.5)54眼局所アレルギー性結膜炎18(18.4)2214(23.7)15眼瞼炎9(9.2)159(15.3)12点状角膜炎7(7.1)123(5.1)7結膜充血7(7.1)85(8.5)5結膜炎3(3.1)33(5.1)4霧視2(2.0)200アレルギー性眼瞼炎2(2.0)200結膜濾胞2(2.0)200結膜出血1(1.0)100眼乾燥1(1.0)11(1.7)1眼そう痒症1(1.0)100流涙増加1(1.0)200瞼板腺炎001(1.7)1眼の異常感001(1.7)1眼の異物感1(1.0)100眼刺激1(1.0)100眼瞼浮腫1(1.0)100眼以外接触性皮膚炎3(3.1)41(1.7)1頭痛002(3.4)2貧血001(1.7)1回転性めまい001(1.7)1皮膚乳頭腫001(1.7)1浮動性めまい1(1.0)11(1.7)1傾眠001(1.7)1丘疹1(1.0)100に発現した.副作用により治験薬の投与を中止した症例は30例(単剤群16例,PG併用群14例)で,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎および結膜充血が主たる事象であったものの,治験薬投与中止後に,いずれも症状の消失あるいは寛解を確認した.重篤な副作用としてはPG併用群で1例,回転性めまいが発現したが,薬物療法により症状の回復を認めた.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査で治験薬との因果関係が否定されなかった異常変動として,単剤群で血中ビリルビン増加・抱合ビリルビン増加が1例2件,PG併用群でヘモグロビン減少・赤血球数減少が1例2件,血中ブドウ糖増加・血中トリグリセリド増加・血中尿酸増加が1例3件にみられたが,これらの事象はいずれも治療の対象となるものはなく,追跡調査により基準範囲内への回復または臨床的に問題とならないことが確認された.バイタルサインへの影響として血圧に対しては,単剤群およびPG併用群ともに収縮期血圧および拡張期血圧の統計学的に有意な低下が散見されたが,臨床的に問題となる血圧低684あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表7アレルギー性結膜炎発症例の要約単剤PG併用計安全性解析対象例数9859157アレルギー性結膜炎発現例数181432継続11819中止7613アレルギー疾患の合併*7714発現日.4週101.8週112.12週303.24週8513.36週235.48週257.52週101*:アレルギー性結膜炎,アレルギー性鼻炎,花粉症.下を示した症例はなかった.脈拍数に対しては,単剤群の52週間後の0時間を除いて有意な低下はなかった.なお,単剤群の1例に有害事象として心拍数の増加が発現したが,治験薬との因果関係は否定された.III考察ブリモニジンの単剤投与12週後,28週後および52週後のいずれの時点でも,平均眼圧変化値として4.7mmHg以上,平均眼圧変化率で20%以上の眼圧下降を確認することができた.緑内障治療において目標眼圧を設定する際に,眼圧変化率で20%以上の眼圧下降が一つの基準と考えられることから4),臨床的にも単剤投与で意義のある眼圧下降効果を示すことができたと考える.また,12週後,28週後および52週後のいずれのトラフでも4mmHg以上の眼圧下降を示し,長期投与に際しても眼圧下降効果が減弱することなく,初期の眼圧下降効果を維持することが確認できた.さらに点眼7時間後までの日内眼圧下降効果の検討でも投与開始日に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示し,1日を通じて安定した眼圧下降効果を有していた.バイタルサインに対しては血圧を低下させる傾向がみられたものの臨床上問題となるような変動もなく,脈拍数に及ぼす影響もみられなかったことから,呼吸器系や循環器系にリスクを抱えb遮断薬の投与が躊躇される症例や,PG関連薬の特異的な局所副作用が気になる症例に対しても,本剤の適応があると考えられた.また,PG関連薬による目標眼圧の維持が困難な症例に対して本剤は,PG関連薬との併用によりさらに眼圧変化値として3mmHgの追加効果を52週にわたって維持しており,その臨床的な意義は高いと考える.長期投与における安全性の面では,本試験で比較的頻度の高かった副作用はアレルギー性結膜炎であり,眼瞼炎などと同様に長期投与により発現頻度が高くなる傾向を示しアレルギーの関与が疑われた.アレルギー性結膜炎の副作用を発症(104) した32例中14例は本剤点眼前からアレルギーに起因する結膜炎や鼻炎,花粉症を合併しており,1年間の長期投与のなかでスギを含む花粉症の好発期にかかったことも要因の一つと考えられる.類薬のアドレナリンa2受容体作動薬であるアプラクロニジンやエピネフリンは長期投与により本剤より高頻度に重篤な局所アレルギーをひき起こすことが知られており,その主たるメカニズムは化合物のヒドロキノン様構造が酸化されて生じた中間体が生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化されるためと考えられている5).しかし,ブリモニジンはヒドロキノン様構造を持たず,実際にアプラクロニジンに対してアレルギー反応を示す患者にブリモニジンを投与しても交差反応は報告されていない6.8).また,本剤はアプラクロニジンと同様にイミダゾリン環を有するが,イミダゾリン環がアレルギーを誘発したとの報告はなく,本剤の局所アレルギー発症機序は明らかではない.一方,本剤の単剤群とPG併用群のアレルギー性結膜炎の発症頻度や投与中止に至った症例の頻度に差はなく,本剤とPG関連薬との併用によりアレルギー反応が増加したり重症化に向かうものではなかった.アレルギー性結膜炎の副作用を発症した症例の半数以上は1年間の継続投与が可能であったが,長期投与に際しては留意すべき事象と考える.一方,本剤の製剤的な特徴として,含有している保存剤の違いがあげられる.緑内障治療薬に限らず点眼薬には,基本的に保存剤が含まれており,なかでもBAKはその安定性と防腐効力から多くの点眼薬で汎用されている.しかし,BAKは眼表面に対する細胞毒性を有し,その障害性はBAKの濃度と点眼回数に依存するため,長期投与や多剤併用を余儀なくされている緑内障患者に対するBAKの曝露量が問題となっている9).ブリモニジンの保存剤は安定なオキシクロロ複合体の亜塩素酸ナトリウム(PURITER)である.亜塩素酸ナトリウムは細菌に取り込まれ,細菌の細胞壁の構成成分であるムラミン酸やタイコ酸などの酸性物質により二酸化塩素に変換され,そこから発生する二酸化塩素ラジカルが細菌の蛋白質や脂質を酸化,変性させて殺菌的に作用する10).一方,水溶液中の亜塩素酸ナトリウムも酸性条件下になれば二酸化塩素を生成するものの11),本剤は製剤設計によりpHが安定な中性領域に維持されているため二酸化塩素はほとんど生成されない.また,亜塩素酸ナトリウムは点眼されると涙液成分と反応し,Na+,Cl.,酸素や水などの涙液成分に分解されることから10),きわめて安全性の高い保存剤と考えられる.PURITERは哺乳類の細胞に対する毒性が低く12),培養ウサギ角膜上皮細胞およびヒト結膜上皮細胞を用いた細胞毒性の評価13)や点眼によるウサギ角膜および結膜へ障害性の検討により14),BAKよりも角結膜に与える影響が少ないことが示されている.保存剤が既存のBAKからPURITERに変更されたことで,角結膜に対する細胞毒性の軽減や他剤との併用によるBAKの曝露量の増加も回避することができるため,多剤併用を必要とする症例に対しても投与しやすい製剤といえる.保存剤以外の緑内障治療薬のリスクとして,ラタノプロスト15,16),チモロールなどのb遮断薬17),ジピベフリン18)などによる黄斑浮腫が報告されている.特に,エピネフリンを無水晶体眼の患者に長期連用した場合のアドレナリン黄斑症は以前から知られており,エピネフリン投与による内因性プロスタグランジンの上昇19)やアデニル酸シクラーゼの活性化とcyclicAMP(環状アデノシン一リン酸)の上昇20)に伴う血液網膜柵(BRB)の破綻による黄斑浮腫の発現が報告されている21).今回の長期投与試験にも白内障術後の症例が単剤群に12例,PG併用群に6例含まれていたが,本剤に起因すると考えられる網膜浮腫あるいは黄斑浮腫に関連する副作用はなかった.逆に,ブリモニジンはcyclicAMP産生を抑制すること,糖尿病モデルにおいて黄斑浮腫誘発の主要因子であるVEGF(血管内皮増殖因子)の上昇およびBRBの破綻を阻害することが報告されており22),むしろ黄斑浮腫に対しては抑制的に作用する可能性が示唆されている.本剤の特異的な副作用として眼局所のアレルギーがあげられるものの,発現例の半数以上では継続投与が可能であり,また角結膜所見などの眼科学的検査および臨床検査から,臨床的使用における本剤の忍容性を確認することができた.バイタルサインについてはブリモニジンの点眼による血圧低下は,神経性循環調節中枢である延髄網様体の腹外側部あるいは孤束核の血管運動中枢のa2A受容体を介した血管拡張作用,あるいは交感神経中枢である脳幹外側網様核のイミダゾリン受容体を介した作用と考えられる.心血管系疾患や起立性低血圧のある患者の症状を悪化させる可能性はあるものの,今回の検討においては臨床的には忍容できる範囲の変動と考えられた.一方で,点眼によってもa2作動薬の全身投与時と同様のめまいや傾眠が現れる可能性もあり,危険を伴う作業に従事する場合には留意すべきと考える.緑内障は進行性の非可逆的な疾患であり,自覚症状のないままに視機能障害が徐々に進行するsilentdiseaseとして位置づけられる4).現在,緑内障に対する唯一,エビデンスのある治療法は眼圧を下降させることであるが,最終的目標は網膜神経節細胞死や視神経軸索障害の進行抑制による視機能の維持管理といっても過言ではない.ブリモニジンはラット網膜神経節細胞モデルで緑内障視神経障害の本態である網膜神経節細胞死を抑制し23),さらに正常眼圧緑内障を対象とした臨床試験においてチモロールよりも視野障害の進行を有意に抑制することが示されている24).本剤は眼圧下降作用のみならず神経保護作用の可能性を併せ持つ長期投与の可能な緑内障治療薬として,緑内障および高眼圧症患者における新たな選択肢の提供につながると考える.(105)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012685 謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)CantorLB:Theevolvingpharmacotherapeuticprofileofbrimonidine,ana2-adrenergicagonist,afterfouryearsofcontinuoususe.ExpertOpinPharmacother1:815-834,20002)CantorLB,SafyanE,LiuCCetal:Brimonidine-purite0.1%versusbrimonidine-purite0.15%twicedailyinglaucomaorocularhypertension:a12-monthrandomizedtrial.CurrMedResOpin24:2035-2043,20083)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19944)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20125)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19976)WilliamsGC,Orengo-NaniaS,GrossRL:Incidenceofbrimonidineallergyinpatientspreviouslyallergictoapraclonidine.JGlaucoma9:235-238,20007)ShinDH,GloverBK,ChaSCetal:Long-termbrimonidinetherapyinglaucomapatientswithapraclonidineallergy.AmJOphthalmol127:511-515,19998)GordonRN,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Lackofcross-reactiveallergicresponsetobrimonidineinpatientswithknownapraclonidineallergy.Eye(Lond)12:697700,19989)澤口昭一:抗緑内障点眼薬による眼障害.あたらしい眼科25:431-436,200810)NoeckerR:Effectsofcommonophthalmicpreservativesonocularhealth.AdvTher18:205-215,200111)AokiT,FujieK:FormationofchlorinedioxidefromchloritebyUVirradiation.ChemistryExpress7:609-612,199212)KatzLJ:Twelve-monthevaluationofbrimonidine-puriteversusbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma11:119-126,200213)IngramPR,PittAR,WilsonCGetal:AcomparisonoftheeffectsofocularpreservativesonmammalianandmicrobialATPandglutathionelevels.FreeRadicRes38:739-750,200414)NoeckerRJ,HerrygersLA,AnwaruddinR:Cornealandconjunctivalchangescausedbycommonlyusedglaucomamedications.Cornea23:490-496,200415)CallananD,FellmanRL,SavageJA:Latanoprost-associatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol126:134135,199816)AyyalaRS,CruzDA,MargoCEetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprostinaphakicandpseudophakiceyes.AmJOphthalmol126:602-604,199817)山下秀明,小林誉典,板垣隆ほか:b-遮断剤の長期点眼による眼底障害.臨眼38:621-626,198418)MehelasTJ,KollaritsCR,MartinWG:CystoidMacularedemapresumablyinducedbydipivefrinhydrochloride(Propine).AmJOphthalmol94:682,198219)MiyakeK,ShirasawaE,HikitoMetal:SynthesisofprostaglandinEinrabbiteyeswithtopicallyappliedepinephrine.InvestOphthalmolVisSci29:332-334,198820)NeufeldAH,JampolLM,SearsML:Cyclic-AMPintheaqueoushumor:theeffectsofadrenergicagents.ExpEyeRes14:242-250,197221)SenHA,CanpochiaroPA:Stimulationofcyclicadenosinemonophosphateaccumulationcausesbreakdownoftheblood-retinalbarrier.InvestOphthalmolVisSci32:20062010,199122)KusariJ,ZhouSX,PadilloEetal:InhibitionofvitreoretinalVRGFelevationandblood-retinalbarrierbreakdowninstreptozotocin-induceddiabeticratsbybrimonidine.InvestOphthalmolVisSci51:1044-1051,201023)LeeKY,NakayamaM,AiharaMetal:Brimonidineisneuroprotectiveagainstglutamate-inducedneurotoxicity,oxidativestress,andhypoxiainpurifiedratretinalganglioncells.MolVis16:246-251,201024)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal;Low-PressureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,2011***686あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(106)

緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):555.561,2012c緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:SecondReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)KeijiYoshikawa6)and1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因を調査するため,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症を対象にアンケートを実施した.同時に年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.236例(男性106例,女性130例),平均年齢65.1±13.0歳が対象となった.点眼忘れは男性(p=0.0204),若年(p<0.0001),薬剤変更歴がない症例(p=0.0025)に多くみられた.点眼回数に負担は感じないと回答した症例では,眼圧が高く(p=0.0086),MDが低い(病期進行例)(p=0.0496)ほど点眼忘れは少なかった.しかし,薬剤数が増加すると,点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え(p<0.0001),点眼を忘れる頻度は高くなった(p=0.0296).薬剤数ならびに点眼回数の増加は,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性がある.Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Eyedropinstillationwasneglectedmoreinmalesthaninfemales(p=0.0204),youngerpatients(p<0.0001)andpatientswithnohistoryofdrugchanges(p=0.0025).Inpatientswhodidn’tfeelburdenedduringtimesofeyedropuse,eyedropinstillationwaslessneglectedinthosewithhigherIOP(p=0.0086),andlowerMD(p=0.0496).Withincreasingnumberofeyedropinstillations,thosewhofeltburdenedduringtimesofeyedropuseincreased(p<0.0001)andmorefrequentlyneglectedeyedropinstillation(p=0.0296).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):555.561,2012〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence.はじめに緑内障治療においてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降のみである1).最近ではその進歩により有意な眼圧下降が得られるようになったため,緑内障点眼薬が治療の第一選択となっている.一方,緑内障は慢性進行性であるため,点眼薬は長期にわたり使用する必要がある.しかし,自覚症状に乏しい緑内障では点眼の継続は必ずしも容易ではない.ここで,最近,慢性進行性疾患の治療の成否に影響する要因として,患者の積極的な医療への参加,すなわち,アドヒアランスが注目されている.緑内障点眼治療においてもアドヒアランスが良好であれば治療効果に直結しうる2,3).さて,アドヒアランスを確保するための第一段階は患者の病態理解だが,このためには医療側から患者への情報提供が〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)555 必要である.ここで,情報提供の具体化にはアドヒアランスに関連する要因の分析が求められる.そこで,筆者らは緑内障点眼薬使用に関するアンケート調査を行い,「指示通りの点眼の実施」をアドヒアランスの目安とした際に,65歳以上の男性で「眼圧を認知」していれば「指示通りの点眼」の実施率が高く,他方,若年の男性では「指示通りの点眼」の実施率が低値に留まることを報告した4).すなわち,アドヒアランスには病状認知や性別,年齢などが影響する可能性が示唆された.一方,使用薬剤数5.8)などの点眼薬に関わる要因や緑内障の重症度8)もアドヒアランスに関連することが報告されている.そこで,今回,アンケート調査時に調べた症例ごとの使用薬剤数別に「指示通りの点眼」との関連を調べ,さらに,アドヒアランスの一面を反映すると考えられる「点眼の負担」や「点眼忘れ」に関するアンケート結果と,眼圧や視野障害の程度など背景因子の影響についても検討したので報告する.I対象および方法緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過した,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設においてアンケート調査を施行した.なお,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は対象から除外した.調査方法は既報4)のごとく,診察終了後にアンケート用紙を配布,無記名式とし,質問項目への記入を求めた.性別,年齢,眼圧,使用薬剤などは,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,両眼で使用薬剤が異なる場合は,薬剤数が多い側の情報を選択した.また,緑内障点眼薬以外の点眼薬使用の有無についても調べた.さらに,アンケート調査日前6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)Standardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例のうち,少なくとも3回以上の視野検査経験があり,信頼性良好な検査データ(信頼度視標の固視不良が20%未満,偽陽性15%未満,偽陰性33%未満9))が入手可能な症例では,その平均偏差(meandeviation:MD)も調査した.なお,罹患眼が両眼の場合は,MDが低いほうの眼の値を解析データとした.一方,罹患眼が両眼の症例で,組み入れ基準を満たした検査データが片眼のみだった場合は,解析の対象から除外した.データ収集施設において,回収したアンケートの記載内容に不備がある症例を除外し,あらかじめ作成したデータ入力用のエクセルシートに結果を入力した.入力結果はデータ収集施設とは別に収集し(Y.K.),さらに,アンケートの質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?),質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)および質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)のそれぞれの回答結果と薬剤数,MDなど背景因子との関連をJMP8.0(SAS東京)を用い,c2検定,t検定,分散分析,Tukey法により検討した.有意水準は5%未満とした.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.II結果1.背景因子と薬剤関連要因アンケートに有効回答が得られた236例(男性106例,女性130例)の平均年齢は65.1±13.0(22.90)歳であった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0.23.0)mmHgであったが,男性は14.3±2.9mmHgで女性の13.4±2.9mmHgに比べ有意に高かった(p=0.0267)(表1).信頼性のある視野検査結果が得られたのは236例中226例(95.8%)で,その平均MDは.10.08±8.29(.33.00.0.99)dBであった(図1).なお,平均MDは性別(男性:.11.03±8.39dB,女性:.9.27±8.14dB,p=0.1127)や年齢層(65歳未満:.9.39±7.83dB,65歳以上:.10.61±8.62dB,p=0.2720)間で明らかな差は認めなかった(表1).対象の平均緑内障点眼薬剤数は1.7±0.8剤〔1剤:120例(50.8%),2剤:62例(26.3%),3剤:53例(22.5%),4剤:1例(0.4%)〕であった.また,緑内障以外の点眼薬剤を使用していたのは55例(23.3%)であった.平均緑内障点眼回数は2.3±1.5(1.6)回/日(図2)で,薬剤追加歴のある症例は96例(40.7%)であった.なお,平均緑内障点眼薬剤数と性別・年齢との関連はなかった(男性:1.8±0.8剤,女性:1.7±0.8剤,p=0.1931,65歳未満:1.6±0.8剤,653102029374674807060504030201007症例数(例)-35-30-25-20-15-10-505MD(dB)図1MDの分布556あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(122) 表1性別・年齢層別比較性別年齢層別背景因子男性(n=106)女性(n=130)p値65歳未満(n=102)65歳以上(n=134)p値眼圧14.3±2.9mmHg13.4±2.9mmHg0.0267*13.8±2.8mmHg13.7±3.1mmHg0.7822*MD.11.03±8.39dB※1.9.27±8.14dB※20.1127*.9.39±7.83dB※3.10.61±8.62dB※40.2720*緑内障点眼薬剤数1.8±0.8剤1.7±0.8剤0.1931*1.6±0.8剤1.8±0.8剤0.2074*緑内障点眼回数2.4±1.5回/日2.2±1.4回/日0.3229*2.1±1.4回/日2.4±1.5回/日0.0884*薬剤追加歴有42例(39.6%)無64例(60.4%)有54例(41.5%)無76例(58.5%)0.7657**有31例(30.4%)無71例(69.6%)有65例(48.5%)無69例(51.5%)0.0050**※1:n=104,※2:n=122,※3:n=99,※4:n=127.5回/日6回/日23例(9.7%)3例(1.3%)3回/日24例(10.2%)図2緑内障点眼回数1回/日109例(46.2%)2回/日45例(19.1%)4回/日32例(13.6%)歳以上:1.8±0.8剤,p=0.2074).薬剤追加歴がある症例は65歳以上134例中65例(48.5%)で,65歳未満102例中31例(30.4%)に比べ有意に高率であった(p=0.0050)(表1).2.アンケート質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)との関連236例中236例(100%)で,アンケート質問5に対し回答が得られた.236例中185例(78.4%)が,指示通りに点眼できないことは「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」は47例(19.9%),「しばしばある」は4例(1.7%)であった.すなわち,「ほとんど指示通りに点眼できていた」のは236例中185例(78.4%),「指示通りに点眼できないことがあった」のは51例(21.6%)であった(図3).緑内障点眼薬剤数と指示通りの点眼の関連を検討した.「ほとんど指示通りに点眼できていた」185例における薬剤数は1剤:98例(53.0%),2剤:44例(23.8%),3剤以上:43例(23.2%)に対し,「指示通りに点眼できないことがあった」51例では1剤:22例(43.1%),2剤:18例(35.3%),3剤以上:11例(21.6%)で,両群間に有意差はなかった(p=0.2434)(表2).「指示通りに点眼できないことがあった」のは薬剤変更歴がある103例中18例(17.5%),変更歴がなかった133例中33例(24.8%)で,両群間に明らかな差はなかった(p=0.1745).同様に,薬剤追加歴がある96例中25例(26.0%),追加歴がなかった140例中26例(18.6%)が「指示通りに点(123)*:t検定,**:c2検定.時々ある47例(19.9%)ほとんどない185例(78.4%)指示通りに点眼できないことがあった51例(21.6%)ほとんど指示通りに点眼できていた185例(78.4%)しばしばある4例(1.7%)図3質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)への回答結果表2緑内障点眼薬剤数と「指示通りの点眼」の関連薬剤数ほとんど指示通りに点眼できていた(n=185)指示通りに点眼できないことがあった(n=51)p値1剤98例(53.0%)22例(43.1%)0.24342剤44例(23.8%)18例(35.3%)3剤以上43例(23.2%)11例(21.6%)c2検定.:ほとんど指示通りに点眼できていた■:指示通りに点眼できないことがあった薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)75.224.882.517.5薬剤追加歴なし(n=140)薬剤追加歴あり(n=96)050100(%)81.418.674.026.0図4薬剤変更・追加歴と「指示通りの点眼」の関連あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012557 眼できないことがあった」が,有意差はみられなかった(p=0.1708)(図4).3.アンケート質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)との関連アンケート質問6に対し回答が得られた236例中「負担は感じない」は196例(83.1%),「どちらともいえない」は28例(11.9%),「負担を感じる」は12例(5.1%)であった(図5).「負担は感じない」と回答した196例の使用薬剤数は1剤:112例(57.1%),2剤:49例(25.0%),3剤以上:35例(17.9%)であり,「どちらともいえない」と回答した28例では1剤:8例(28.6%),2剤:11例(39.3%),3剤以上:9例(32.1%)であった.これに対し,「負担を感じる」と回答した12例中には,3剤以上使用者が10例(83.3%)負担を感じる12例(5.1%)どちらともいえない28例(11.9%)負担は感じない196例(83.1%)図5質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)への回答結果:負担は感じない■:どちらともいえないを占め,1剤使用で負担を感じた症例はなかった.薬剤数が増えるほど有意に「負担を感じる」症例は増加した(p<0.0001)(表3).一方,薬剤変更歴と点眼負担に有意な関連はみられなかった(p=0.5286)(図6).薬剤追加歴がある96例中「負担を感じる」と回答したのは11例(11.5%)で,追加歴がなかった症例140例中1例(0.7%)に比べ有意に高率であった(p=0.0002)(図6).4.アンケート質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)との関連アンケート質問8に対し回答が得られたのは236例中233例(回答率98.7%)で,そのうち127例(54.5%)が「忘れたことはない」と回答した.一方,「忘れたことがある」と回答した106例(45.5%)に対する付問(どの程度忘れられましたか?)については,「3日に1度程度」8例(3.4%),「1週間に1度程度」22例(9.4%),「2週間に1度程度」26例(11.2%),「1カ月に1度程度」50例(21.5%)であった(図7).緑内障点眼薬剤数と点眼忘れの有無には有意な関連はなかった(p=0.1587).しかし,「点眼忘れ」の頻度が「週1回以上」の30例の使用薬剤数は1剤:11例(36.7%),2剤:10例(33.3%),3剤以上:9例(30.0%)であったのに対し,「2週間に1回以下」の76例では1剤:47例(61.8%),23日に1度程度1週間に1度程度8例(3.4%)■:負担を感じる2週間に1度程度*p=0.0002:c2検定3.826例(11.2%)1カ月に1度程度50例(21.5%)22例(9.4%)忘れたことはない127例(54.5%)忘れたことがある106例(45.5%)薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)85.011.380.612.66.80.7薬剤追加歴なし(n=140)90.09.372.915.611.5*忘れたことはない薬剤追加歴あり127例(54.5%)(n=96)050100(%)図7質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことが図6薬剤変更・追加歴と「点眼負担」の関連ありませんか?)への回答結果表3緑内障点眼薬剤数と「点眼負担」の関連薬剤数1剤2剤3剤以上負担は感じない(n=196)112例(57.1%)49例(25.0%)35例(17.9%)どちらともいえない(n=28)8例(28.6%)11例(39.3%)9例(32.1%)負担を感じる(n=12)0例(0.0%)2例(16.7%)10例(83.3%)p値<0.0001c2検定.558あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(124) 剤:20例(26.3%),3剤以上:9例(11.8%)であり,薬剤数が増えるほど有意に「点眼忘れ」の頻度は増加した(p=0.0296)(表4).薬剤変更歴がない131例中「忘れたことがある」と回答したのは71例(54.2%)であり,変更歴があった症例102例中35例(34.3%)に比べ有意に高率であった(p=0.0025).一方,薬剤追加歴との有意な関連はなかった(p=0.8377)(図8).5.背景因子との関連(p<0.0001),眼圧低値(p=0.0086),MD高値(p=0.0496)の症例は点眼忘れが多かった(表5).点眼負担の回答別にも背景因子との関連を検討したが,性別(p=0.6240),年齢(p=0.4672)との関連は明らかでなかった.一方,「負担を感じる」と回答した症例のMD(.:忘れたことはない■:忘れたことがある*p=0.0025:c2検定薬剤変更歴なし「点眼忘れ」は,男性(p=0.0204)および若年(p<0.0001)(n=131)45.854.265.734.3*で有意に高率に認めたが,眼圧(p=0.0536)やMD(p=薬剤変更歴あり0.2368)との間に有意な関連は認めなかった(表5).(n=102)点眼回数に「負担は感じない」と回答した196例中,質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)薬剤追加歴なし(n=139)に対する回答が得られた194例(回答率99.0%)のうち,84薬剤追加歴あり例(43.3%)が点眼を「忘れたことがある」と回答した.点(n=94)54.046.055.344.7眼忘れの有無により分けて背景因子を比較したところ,若年050100(%)図8薬剤変更・追加歴と「点眼忘れ」の関連表4緑内障点眼薬剤数と「点眼忘れ」の関連点眼忘れ忘れる頻度薬剤数忘れたことはない忘れたことがある2週間に1回以下週1回以上(n=127)(n=106)p値(n=76)(n=30)p値1剤61例(48.0%)58例(54.7%)0.158747例(61.8%)11例(36.7%)0.02962剤31例(24.4%)30例(28.3%)20例(26.3%)10例(33.3%)3剤以上35例(27.6%)18例(17.0%)9例(11.8%)9例(30.0%)c2検定.表5「点眼忘れ」と背景因子の関連全症例「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例背景因子忘れたことはない忘れたことがある忘れたことはない忘れたことがある(n=127)(n=106)p値(n=110)(n=84)p値性別男性49例(38.6%)男性57例(53.8%)0.0204*男性43例(39.1%)男性44例(52.4%)0.0652*女性78例(61.4%)女性49例(46.2%)女性67例(60.9%)女性40例(47.6%)年齢69.4±11.0歳59.8±13.3歳<0.0001**69.9±10.8歳59.6±13.7歳<0.0001**眼圧14.1±3.0mmHg13.4±2.9mmHg0.0536**14.2±3.1mmHg13.0±2.8mmHg0.0086**MD.10.72±8.48dB※1.9.40±8.11dB※20.2368**.10.46±8.63dB※3.8.12±7.18dB※40.0496**※1:n=120,※2:n=103,※3:n=104,※4:n=83.*:c2検定,**:t検定.表6「点眼負担」と背景因子の関連負担は感じないどちらともいえない負担を感じる背景因子(n=196)(n=28)(n=12)p値性別男性87例(44.4%)男性12例(42.9%)男性7例(58.3%)0.6240*女性109例(55.6%)女性16例(57.1%)女性5例(41.7%)年齢65.6±13.1歳62.5±12.0歳63.8±12.9歳0.4672**眼圧13.7±3.0mmHg14.4±2.7mmHg14.1±2.3mmHg0.4789**MD.9.38±8.06dB※1.10.25±6.68dB※2.20.77±7.93dB<0.0001**※1:n=189,※2:n=25.*:c2検定,**:分散分析.分散分析で有意差がみられた項目については,Tukey法により多重比較を行った.(125)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012559 20.77±7.93dB)は「負担は感じない」,「どちらともいえない」と回答した症例のMD(.9.38±8.06dB,.10.25±6.68dB)に比べ有意に低値であった(p<0.0001,p=0.0006)(表6).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わる要因について多施設でアンケート調査を行い,病状認知度を高めることが良好なアドヒアランスを確保するうえで有用であることを前報で報告した4).患者の病状認知度を高めるにはask-tell-ask(聞いて話して聞く)方式により10)患者の理解度を確認しながら医療側から情報提供を行うが,その前提となるのがアドヒアランスに関わる諸要因の客観的な評価と考えられる.さて,アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数報告されている4.8,11.16)が,点眼薬剤数も重要な要因の一つとしてあげられる.そこで,今回,まず点眼薬剤数とアンケート質問中,アドヒアランスの現状を反映すると考えられる「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」および「今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?」,「緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?」の各項目との関連を検討した.その結果,薬剤数が増えるほど,点眼回数に負担を感じ,また,点眼を忘れる頻度は有意に高かった.このことから,薬剤数の増加により「患者負担」が増し,「点眼忘れ」の頻度も増加する可能性が示唆された.アンケート調査結果を評価・解釈するにあたっては,バイアスを考慮に入れる必要がある.まず,本研究は同意を得られた症例を対象としたため,調査に協力的な,比較的アドヒアランスの良い症例が抽出された可能性(抽出バイアス)が否めない.また,アンケートによるアドヒアランス評価は自己申告となるため,報告バイアスにより点眼遵守率が高値を示すことが報告17)されている.これは調査を無記名式で行うことにより,その影響を低減するよう企図した.さらに,点眼忘れを申告した症例は確実に「点眼忘れ」があると思われたため,今回はそのなかで解析し,薬剤数と点眼忘れの頻度の相関は確かであると考えた.一方,薬剤数の増加とアドヒアランスの関連は必ずしも直線関係にはないことが報告されており5.8),今回の検討でも,3剤以上の点眼使用例では「点眼忘れ」が少ない傾向にあった.これは,3剤以上処方する症例は眼圧高値,病期進行例が多く,結果的に「病状の認知」が高まり,アドヒアランスに反映されたものと考えた.しかし,「点眼回数に負担を感じる」と回答した症例のMDはそれ以外の症例に比べ有意に低値を示し,病期の進行に伴う薬剤数の増加が「患者負担」となっていることも確かであった.背景因子のうちで,性別,年齢がアドヒアランスに影響す560あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012る可能性についてはすでに報告した4).今回の結果でも「点眼忘れ」は男性,若年に有意に多かったが,眼圧,MDとの関連はみられなかった.しかし,「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例に限ると「点眼忘れ」の有無に性別による差はなく,一方で,眼圧が高く,MDが低い症例(視野進行例)ほど有意に「点眼忘れ」は少なかった.すなわち,少なくとも「患者負担」が少なければ「病状の認知」は「点眼忘れ」を減少させ,アドヒアランスに好影響を与える可能性が示された.ここで,興味深かったのは薬剤変更歴がある症例は「点眼忘れ」が有意に少なかったことである.指示通りの点眼に関しても,統計学的な有意差はなかったが,薬剤変更歴がある症例は変更歴がない症例に比べ,「ほとんど指示通りに点眼できていた」症例の割合が高かった.同等の眼圧下降効果を有する点眼薬間の前向き薬剤切り替え試験で,切り替えにより眼圧が下降し18,19),さらに元薬剤に戻しても眼圧下降は維持された19)ことが報告されている.「前向き試験」では対象患者には特別な注意が向けられ,これを反映して患者自身の行動が変化し,薬効が過大評価される傾向がある(ホーソン効果:Hawthorneeffect)20,21)ためと考えられている.今回は後ろ向きに調査した結果であるが「薬剤変更」が治療に対して積極的に取り組む動機付けとなり,アドヒアランスにも好影響を及ぼしたものと考えた.一方,眼圧上昇や視野進行のために薬剤を切り替えた場合も多く,病状の進行が治療への前向きな取り組みを促進した可能性も否定できない.しかし,薬剤の追加群では「患者負担」が有意に増加し,アドヒアランスの改善もなかったことから,薬剤数の増加はアドヒアランスに対する阻害要因であることが推察された.さて,前報4)において高齢者のアドヒアランスは良好であるとの結果を得ているが,今回の検討では薬剤追加歴が65歳以上で65歳未満に比べ有意に多く,薬剤追加歴がある症例のアドヒアランスが過大評価されている可能性も考慮すべきと考えられた.しかし,薬剤追加によるアドヒアランスの改善はみられず,つまり,薬剤数の増加による「患者負担」の増加が影響を及ぼしたことは確実と考えた.点眼モニターを用いた過去の研究においても,プロスタグランジン製剤単剤投与でのアドヒアランス不良が3.3%であったのに対し,追加投与でアドヒアランス不良が10.0%に増加した6)と報告されている.薬剤の追加,薬剤数の増加はアドヒアランスを低下させる可能性があるため,慎重を期するべきと考えた.今回の検討により,薬剤数の増加ならびに点眼回数の増加が,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,良好なアドヒアランスが保たれている症例のなかにも負担を感じながら点眼している症例がみられたことも軽視できない.視機能障害は患者のQOL(qualityoflife)を大きく損なうことになるが,他方,QOLを保つために行う薬物治(126) 療がQOLを低下させる原因ともなりかねない.今回の結果から,薬剤追加の前にはまず薬剤の変更を試みる原則1)を踏まえることの必要性が再確認され,また,追加投与の際にも薬剤数の増加を伴わない配合剤などを選択することが良好なアドヒアランスの確保につながる可能性が示唆されたため報告した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:14-46,20122)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20033)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20084)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20115)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20077)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20098)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20039)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:SITA-Standardプログラムの信頼度指標.あたらしい眼科27:95-98,201010)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnonadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,201011)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200312)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200613)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200714)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:10971105,200915)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200916)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:11071111,201017)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NovackGD,DavidR,LeePFetal:Effectofchangingmedicationregimensinglaucomapatients.Ophthalmologica196:23-28,198819)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,200520)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,197821)FletcherRH,FletcherSW,WagnerEH(福井次矢監訳):臨床疫学.p148-149,医学書院,1999***(127)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012561

ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):415.418,2012cラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果南野桂三*1安藤彰*1松岡雅人*1松山加耶子*1畔満喜*1武田信彦*1高木智恵子*1,2桑原敦子*1西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2コープおおさか病院眼科ChangesinIntraocularPressureafterSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinPatientswithGlaucomaandOcularHypertensionKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasatoMatsuoka1),KayakoMatsuyama1),MakiKuro1),NobuhikoTakeda1),ChiekoTakagi1,2),AtsukoKuwahara1)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,CoopOsakaHospital目的:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果を,切り替え前の眼圧値を15mmHg以上の群(A群)と15mmHg未満の群(B群)の2つに分け比較検討した.対象および方法:ラタノプロストを3カ月以上単独投与されている高眼圧症,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例71例115眼を対象とした.眼圧下降効果は,切り替え前3回の平均眼圧値と切り替え後1,3,6カ月の眼圧値を比較した.結果:切り替え前の全体の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え後の平均眼圧は1カ月,3カ月,6カ月では,14.2±3.1mmHg,13.9±3.7mmHg,14.0±1.5mmHgであった.切り替え後の眼圧下降率は,A群では,切り替え後1カ月,3カ月,6カ月の眼圧下降率は10.5%,8.3%,11.9%であった.B群では0.4%,6.9%,5.9%であった.A群ではすべての時期で切り替え後に眼圧は有意に低かった(pairedt-testp<0.001).2mmHg以上の眼圧下降を有効とした場合,A群の有効率は,1カ月,3カ月,6カ月では45.7%,47.2%,56.3%であった.B群の有効率は,6.8%,26.9%,28.6%であった.結論:ラタノプロスト単剤で15mmHg以上の症例ではトラボプロストへの切り替えは有用である.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithocularhypertension,normal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Caseandmethod:Thisstudyinvolved115eyesof71patientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotravoprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat1,3and6monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(15.1±3.2mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±1.5mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.7±2.0mmHg)wassignificantlyreducedto15.7±2.1mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001);themeanIOPreductionrateswere10.5%,8.3%and11.9%,andthemeaneffectiverateswere45.7%,47.2%and56.3%at1,3and6monthsafterswitching.InpatientswithIOP<15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(12.6±1.8mmHg)wassignificantlyreducedto12.0±0.7mmHgat6monthsafterswitching(p<0.05);themeanIOPreductionrateswere0.4%,6.9%and5.9%,andthemeaneffectiverateswere6.8%,26.9%and28.6%at1,3and6monthsafterswitching.Keratoepithelialdisorderdecreasedaftertheswitch.Nopatientsshowedseverecomplications.Conclusion:SwitchingfromlatanoprosttotravoprostmaybeeffectiveinpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,orwithcornealdisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):415.418,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,眼圧,切り替え.glaucoma,latanoprost,travoprost,intraocularpressure,switching.〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)415 はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別される.プロスト系PG関連薬は眼圧下降効果が強いことや眼圧変動幅抑制効果をもつこと,また全身的な副作用がないことや1日1回点眼であることから緑内障および高眼圧症の治療の第一選択薬となっている.わが国では現在ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストが臨床使用され,眼圧下降効果や副作用などによって使い分けや切り替えが試みられているがまだ一定した見解はない.海外の報告ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはメタアナリシス解析でも約25.30%の眼圧下降効果を有すること1),ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは眼圧は下降もしくは同等と報告されている2.4).しかし,海外のトラボプロストとわが国ではトラボプロストは防腐剤の違い,すなわち海外では塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC),わが国ではBAC非含有となっているので,海外での眼圧下降効果の結果はBACによって修飾されている可能性がある.さらに緑内障患者の平均眼圧が低いわが国においては海外における臨床研究の結果がそのまま当てはまらないことも考えられるため,切り替え前の眼圧値を考慮して検討することは有用であると思われる.そこで本研究ではラタノプロストからBAC非含有製剤であるトラボプロストへ切り替えて眼圧を測定し,切り替え前眼圧が高い症例と低い症例で違いがあるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象参加2施設(関西医科大学付属滝井病院,コープおおさか病院)に平成20年10月1日から平成21年4月30日にかけて初診あるいは通院中の緑内障(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障)または高眼圧症の症例で,3カ月以上ラタノプロストが単独投与されている71例115眼を対象にした.男性29例46眼,女性42例69眼,平均年齢65.3歳(29.89歳)病型別では,高眼圧症9眼,原発開放隅角緑内障52眼,正(,)常眼圧緑内障54眼であった.本研究は前向き研究であり,共同設置の倫理委員会において承認されたプロトコールに同意が得られた症例をエントリーした.続発緑内障,閉塞隅角緑内障,切り替え前6カ月内に眼外傷や手術既往のあるものは除外症例とした.2.方法眼圧の測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.ラタノプロストからトラボプロストに切り替え前に3回眼圧測定し,washout期間を設けずにラタノプロストからトラボプロストに切り替え,1カ月後,3カ月後,6カ月後に各1回416あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012眼圧測定した.切り替え前3回の平均値が15mmHg以上をA群,15mmHg未満をB群とし,切り替え前の眼圧値によって眼圧下降効果の違いがあるかをpaired-ttestで統計学的に検討した.切り替え前後の受診はできうる限り,同一時間帯とした.角膜病変は,フルオレセイン染色後,コバルトブルーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察した.角膜病変は点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)をArea-Density(AD)分類5)を用いて評価し,pairedt-testで統計学的に検討した.II結果全症例の115眼の切り替え前の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え1カ月後(90眼)では14.2±3.1mmHg,切り替え3カ月後(105眼)では13.9±3.7mmHg,切り替え6カ月後(90眼)では14.0±1.5mmHgであった.A群の59眼の切り替え前の平均眼圧は17.7±2.0mmHg,切り替え1カ月後(46眼)では15.8±2.8mmHg,切り替え3カ月後(53眼)では16.2±3.1mmHg,切り替え6カ月後(48眼)では15.7±2.1mmHgであった.切り替え後のどの時点においても,切り替え前後の眼圧値を比較して統計学的に有意差がみられた.B群の56眼の切り替え前の平均眼圧は12.6±1.8mmHg,切り替え1カ月後(44眼)では12.6±2.5mmHg,切り替え3カ月後(52眼)では11.6±2.7mmHg,切り替え6カ月後(42眼)では12.0±0.7mmHgであった.切り替え1カ月後の眼圧値は,切り替え前の眼圧値と有意差はなかったが,3カ月後と6カ月後では統計学的に有意差がみられた(図1).投与前眼圧からの眼圧下降率は,全症例では1カ月,3カ月,6カ月で6.4%,7.8%,9.6%であった.A群では10.5%,8.3%,11.9%,B群では0.4%,6.9%,5.9%であった(図2).切り替え後の眼圧値が切り替え前の眼圧値より2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化とし眼圧(mmHg)2018***********:全体(n=115)16:A群(n=59)14:B群(n=56)12():眼数108切り替え前1カ月3カ月6カ月図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後の眼圧*p<0.001,**p<0.01,***p<0.05pairedt-test.(128) 10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%1カ月全体3カ月(n=115)6カ月■:全体26.766.66.7():眼数0102030405060708090100(%)6.828.626.956.347.245.743.337.181.854.763.539.545.352.146.754.32.210.08.616.79.611.44.27.5眼圧下降率(%)1カ月(n=115)(n=59):有効A群■:A群3カ月■:不変(n=59)■:悪化6カ月:B群1カ月(n=56)B群3カ月():眼数(n=56)6カ月図3ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後1カ月3カ月6カ月の有効率と悪化率図2ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化,の眼圧下降率2mmHg未満の変化は不変とした.3後のトラフ時刻でトラボプロストのほうがラタノプロストよ2.5切り替え前(n=66)*り眼圧下降効果が大きいとする報告8)があり,本研究の対象2*p<0.01症例の多くが午後に受診しているためトラフ時刻に近い時刻1.5トータルスコアpairedt-testで測定したことや,臨床研究に参加することでアドヒアラン1():眼数スが改善したことなども影響する可能性があり,これらの因0.5子が複合したと推察される.0-0.5図4ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後のAD分類のトータルスコアた場合の有効率と悪化率を検討した.有効率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では26.7%,37.1%,43.3%,A群では45.7%,47.2%,56.3%,B群では6.8%,26.9%,28.6%であった.悪化率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では6.7%,8.6%,10.0%,A群では2.2%,7.5%,4.2%,B群では11.4%,9.6%,16.7%であった(図3).角膜病変は,切り替え前のSPKありが69%であったが,切り替え後(最終観察時)では48%であった.AD分類のトータルスコアによる検討では,切り替え前が1.62であったが,切り替え後では1.06と減少し,統計学的に有意差がみられた(図4).なお,全症例の経過観察中に充血や角膜病変によるトラボプロスト中止,または点眼変更例はなかった.III考察今回の筆者らの結果では,対象症例全体の平均眼圧値はラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に有意に下降し,最終眼圧下降率は9.6%で有効率は43.3%であった.これはトラボプロストがラタノプロストよりFP受容体の親和性が高いこと6)やFP受容体のアゴニスト活性が高いこと7)などが主な原因として考えられる.さらに点眼24時間(129)わが国におけるラタノプロスト単独投与からトラボプロストへの切り替え後の眼圧下降効果についてはすでに幾つかの報告がある9.12).大谷ら10),佐藤ら11),徳川ら12)の報告ではそれぞれ0.7mmHg,2.1mmHg,1.8mmHgと切り替え後に有意な眼圧下降が得られ筆者らの結果と同様であった.一方,中原ら9)は切り替え後の眼圧にほぼ変化なく眼圧下降効果に有意差がみられなかったと報告しているが,対象症例からラタノプロストのノンレスポンダーを除外しているため,他とは異なる結果となった可能性が考えられる.A群とB群の2群に分けた検討では,A群では全時点において有意な眼圧下降が得られ,最終眼圧下降率は約11.9%,有効率は約56.3%であった.B群では切り替え後3カ月と6カ月で有意な眼圧下降が得られたが,最終眼圧下降率は約5.9%,有効率は約28.6%でA群のほうが効果的であった.中原ら9)は筆者らと同様に切り替え前眼圧値を15mmHg以上と15mmHg未満の2群についても検討しているが,それにおいても両群とも切り替え前後で有意差はなかったと報告している.ラタノプロストのノンレスポンダーのなかにはトラボプロストが有効な症例があることが報告されており2),ラタノプロストのノンレスポンダーを除外していない本研究では,切り替え前眼圧値が高いA群にラタノプロストのノンレスポンダーまたは効果の不十分な症例が含まれていたことも考えられる.全症例では約1mmHgの眼圧下降,A群では約2mmHgの眼圧下降が得られ,EarlyManifestTrial13)ではベースライン眼圧から1mmHg眼圧が下降すると緑内障進行リスクが10%低下すると報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012417切り替え後(n=66) いることから,トラボプロストへの切り替えは有効であると考えられる.しかし,B群では最終悪化率が16.7%でラタノプロスト単独で15mmHg未満の症例では眼圧が悪化する症例もあるため注意して行うべきである.わが国ではトラボプロストは防腐剤としてBACを含有せず,sofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入しており,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは角膜所見に改善がみられるという報告が多い9.12,14).本研究でも既報と同様にラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に角膜所見の改善がみられた.ヒト結膜由来細胞を用いたinvitro試験において,BAC含有製剤およびBAC単独は明らかな細胞毒性を示し,BAC非含有製剤では細胞毒性は認められなかったという報告もあり15),わが国のトラボプロストのようにBACを含有しない点眼薬は,薬剤の長期使用による角膜障害を減少させるものと思われる.本研究の結果では,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に眼圧が有意に下降して角膜障害も減少したが,対象症例の病型,症例数,経過観察期間の眼圧の季節変動なども考慮して解釈しなければならない.薬剤の効果を比較するためにはランダム割付による群間比較ないしはクロスオーバー試験を二重盲検下で行うことが理想であり,トラボプロスト単独使用からのラタノプロストを含めた他のPG製剤への切り替えも検討する必要があると思われる.現在複数のPG製剤が存在するが,その特長に合わせた使い分けが緑内障治療を行ううえで重要である.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabililtyofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,20043)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20014)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20036)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20087)SharifNA,CriderJY,HusainSetal:HumanciliarymusclecellresponsestoFP-classprostaglandinanalogs:phosphoinositidehydrolysis,intracellularCa2+mobilizationandMAPkinaseactivation.JOculPharmacolTher19:437-455,20038)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:3023-3027,20089)中原久惠,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,201011)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,201012)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの変更による眼圧下降効果の検討.臨眼64:1281-1285,201013)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200915)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007***418あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(130)

緑内障患者に対する診療連携と情報通信技術活用に関する意識調査

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):272.276,2012c緑内障患者に対する診療連携と情報通信技術活用に関する意識調査北村一義*1杉山敦*1林京子*3比江島欣慎*4柏木賢治*1,2*1山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座*2山梨大学大学院医学工学総合研究部地域医療学講座*3多摩大学統合リスクマネジメント研究所医療リスクマネジメントセンター*4東京医療保健大学大学院医療保健学研究科OpinionPollConcerningMedicalExaminationCooperation,AsWellAsInformationandCommunicationTechnologyofPracticalUsetoGlaucomaPatientsKazuyoshiKitamura1),AtsushiSugiyama1),KyokoHayashi3),YoshimitsuHiejima4)andKenjiKashiwagi1,2)1)DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,YamanashiUniversity,2)DepartmentofCommunityandFamilyMedicine,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,YamanashiUniversity,3)MedicalRiskManagementCenter,TheIntegrated-Risk-ManagementResearchInstitute,TamaUniversity,4)MedicalHealthStudyGraduateCourse,TokyoHealthcareUniversity目的:緑内障患者に診療連携と診療への情報通信技術(ICT)の導入に関し調査し,診療連携の課題とICTの診療への活用を検討する.方法:山梨大学緑内障外来通院患者を対象とし診療連携は書面により,ICTの活用は面談により調査した.結果:診療連携調査は500名に行い,263名(男性132名,女性131名)から有効回答を得た.連携には約50%が賛同,比較的若い,通院期間が短い,自家用車で通院,付添いが必要な患者で賛同者が多かった.ICT活用調査には,125名(男性64名,女性61名)が回答した.全体の64.5%が賛同し,賛同率はインターネット非利用者が40.7%,利用者が75.0%と差を認めた.投薬の管理,病状の説明の確認,自己カルテの作成への活用希望が多かった.結論:診療連携には約半数が賛同したが,患者環境の違いが影響した.ICT活用は多数が賛同し,インターネット利用者では賛同が多かった.Purpose:Toelucidatethetasksandimprovementpointsofmedicalcollaborationandtheadaptationofinfor-mationandcommunicationtechnology(ICT)forglaucomacare,glaucomapatientsweresubjectedtoaquestion-nairesurveyandinterview.Method:SubjectscomprisedconsecutiveglaucomapatientsfollowedbyUniversityofYamanashiHospital.Results:Of500patients,263(132males,131females)completedthequestionnaire.About50%consentedtothecollaboration.Patientswhowereyounger,hadashorterfollow-upperiod,visitedusingowncarorvisitedwithanassistantshowedahigherrateofconsent.Ofthe125patientswhocomprisedtheinterviewsubjects(64males,61females),64.5%agreedtoadoptICT.OftheInternetnon-users,40.7%agreed,while75.0%ofInternetusersagreedtoadopttheICTforglaucomacare.Drugmanagement,checkingofdiseaseexplanation,andownmedicalchartpreparationwerepreferredsubjects.Conclusions:About50%ofthepatientsagreedwiththemedicalcollaboration;patientbackgroundin.uencedtheresults.Manypatients,especiallyInternetusers,agreedtouseICTforglaucomacare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):272.276,2012〕Keywords:緑内障,診療連携,情報通信技術.glaucoma,medicalexaminationcooperation,informationandcommunicationtechnology.はじめにとで多数の患者は失明を免れることが可能であるが,自覚症緑内障は,不可逆性で進行性の疾患であり,わが国でも世状が少なく治療効果が自覚しにくいため,通院,治療の脱落界的にも失明原因の上位に位置する1).適切な治療を行うこ患者が少なくない2).わが国における大規模疫学調査の結果〔別刷請求先〕北村一義:〒409-3898山梨県中央市下河東1110山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座Reprintrequests:KazuyoshiKitamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinarySchoolofMedicineandEngineering,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,Chuo,Yamanashi409-3898,JAPANあたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(00)272(124)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYから40歳以上の5.0%が緑内障をもっている可能性が示唆されており3),緑内障推定患者数は300万人から400万人と推定される.また,緑内障の有病率は加齢に伴って増加すると考えられるため,今後さらに患者数が増加することが予想される.一方,眼科医数は近年不足しており,特に病院勤務眼科医の不足は顕著である.さらに眼科医の偏在も問題視されている.以上から緑内障の診療環境は悪化を呈している.また,近年患者の大病院志向が強く,緑内障にも認められ,長時間の外来診療待ちや検査待ちが発生している.これらに対応するためには,緑内障専門医と一般医が連携する体制が重要であると考えられるが,いまだに十分に機能しているとはいえない.情報通信技術(informationandcommunicationtechno-logy:ICT)の発達は目覚ましく,医療の分野でもその活用が期待されている4.8).しかしながら,眼科領域では十分にICTが診療に活用されてはおらず,患者の緑内障診療に対するICT活用に関する意識も不明である.今回筆者らは,緑内障患者の診療連携に対する意識調査を行い,診療連携の課題を明らかにするとともに,ICTを活用することについての意識調査も併せて行った.I対象および方法本研究を行うに当たっては山梨大学倫理委員会の承認を得た.本研究はヘルシンキ条約に則り行われ,参加患者からは文書による同意を得て行われた.なお,未成年の場合は保護者の同意を得た.1.診療連携意識調査アンケート調査は2009年5月から7月の3カ月間に山梨大学(以下,当院)緑内障外来を継続的に受診している連続500症例とした.緑内障患者には表1に示すようなアンケート調査票を配布して直接担当医に手渡すか,後日記入後郵便にて返送していただいた.おもなアンケート項目は年齢,性別,当院緑内障外来への通院期間,通院方法,通院手段,および今後の診療形態についてである.アンケートの回収の期限は2010年1月31日とした.2.緑内障診療へのICTの活用に関する調査対象は2009年8月から10月の3カ月間に当院緑内障外来を継続的に受診し,アンケート調査に同意した連続125症例とした.緑内障患者には表2に示すようなアンケート調査票を基に個別に面談を行い実施した.II結果1.診療連携意識調査アンケート調査票を配布した500名中アンケートに同意した回答者は299名で,うち有効回答数は263名(回収率52.6%)であった.内訳は男性が132名,女性は131名であった.今後の診療形態への希望について表3,図1にまとめる.全体では52.1%の患者が引き続き大学病院の診療のみを希望し,検査のみなら地元病院でも可とした患者は10.4%,診療連携が十分なら大学と地元診療機関の連携でもよいと回答した患者は33.3%,地元診療機関への紹介希望が4.2%で表1アンケート項目(1)アンケート項目回答選択肢年齢1.20歳以下,2.30歳代,3.40歳代,4.50歳代,5.60歳代,6.70歳代,7.80歳以上性別1.男性,2.女性通院期間1.1年未満,2.2年未満,3.3年未満,4.5年以上,5.10年未満,6.10年以上通院方法1.単独通院可,2.付添いが必要通院手段1.自家用車,2.バス,3.電車,4.その他今後の診療形態の希望1.診療も検査も大学,2.検査のみは他施設で可,3.診療連携が十分なら診療も検査も可,4.地元の眼科施設への転院希望表2アンケート項目(2)アンケート項目回答選択肢年齢1.20歳以下,2.30歳代,3.40歳代,4.50歳代,5.60歳代,6.70歳代,7.80歳以上性別1.男性,2.女性通院手段1.自家用車,2.バス,3.電車,4.その他通院時間()分同居家族構成単身,配偶者,親,子供,孫,親戚,その他インターネットの利用の有無あり,なしICTの診療への利用目的1.自分のカルテを作る,2.医師にメールなどで相談,3.看護師にメールなどで相談,4.病気の情報を集める,5.薬の管理(125)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012273■:診療連携が十分なら両方■:地元診療所希望80歳代70歳代60歳代50歳代:診療も検査もすべて山梨大:検査のみなら他の病院も可表3アンケート回答者年齢分布(全国回答者中で年齢が判明したもの)全体20歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代診療も検査もすべて山梨大146221219335325検査のみなら他の病院も可2700334134診療連携が十分なら両方9303117203715地元眼科紹介90010134合計275252729581064850歳未満全体■:診療連携が十分なら両方■:地元診療所希望:診療も検査もすべて山梨大:検査のみなら他の病院も可0%20%40%60%80%100%図1今後の診療希望電車バス自家用車0%20%40%60%80%100%図3通院方法と診療連携の受け入れあった.50歳未満の患者においては,大学病院における診療のみを引き続き希望する患者は40.5%と減少し,何らかの形で地元診療機関との診療が可能な患者は47.6%と高かった.50歳以上の患者では傾向には大きな差はなく半数強の患者が大学のみの診療を希望していた.通院年数と診療連携の在り方について検討した(図2).その結果,通院年数が1年未満と短い患者においては大学での診療を希望する患者は31.0%であったのに対し,通院期間が長くなるほど,大学病院での診療希望率は上昇する傾向を示し,3年以上5年未満の患者では70%程度の患者が希望した.当院への通院方法は自家用車,電車,バスはそれぞれ79.1%,7.1%,13.8%であった.通院方法と診療連携に関して検討した(図3).自動車で通院が可能な患者の51.4%が大学のみでの診療を希望していたが,電車,バスで通院していた患者では大学の274あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(名):診療も検査もすべて山梨大■:検査のみなら他の病院も可10年以上10年未満5年未満3年未満2年未満1年未満図2通院年数と診療連携の在り方:診療も検査もすべて山梨大■:検査のみなら他の病院も可付添い単独通院0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%図4単独通院者と付添い者の必要な通院者における診療連携の受け入れみの診療を希望する患者はそれぞれ57.9%,67.6%と高い傾向がみられた.通院における付添い者の有無に関して検討した(図4).通院に際して単独通院の患者は72.1%であり,27.9%は付添いが必要であったが,単独通院者の54.2%が大学のみでの診療を希望していたのに対し,付添いが必要な患者の大学のみでの診療希望率は44.7%とやや低かった.一方,地元診療機関における診療希望率は単独通院者が2.8%であったのに対し,付添いが必要な患者では7.1%と高くなっていた.2.緑内障診療へのICTの活用に関する調査面談した患者は全125名,内容は男性64名,女性61名であった.平均年齢は65.31±4.0歳であった.全対象者のうち,インターネットを利用していない患者は69%と利用している患者(31.0%)の2倍以上であった.ICTを医療に活用することに対しての意見を図5に示す.とても賛成,ど(126)どちらかといえば反対反対1.6%0.8%どちらかといえば賛成15.7%図5ICTの医療への活用について:全体:とても賛成■:どちらかといえば賛成インターネット非利用者インターネット利用者0%20%40%60%80%100%図6インターネット利用の有無によるICTの活用に関する意識比較■:どちらとも言えない■:あまり興味がない■:興味がない:興味がある■:まあ興味がある薬の管理病状の説明など再確認看護師にメール相談医師にメール相談自己カルテを作成0%20%40%60%80%100%図7ICTの活用希望領域ちらかといえば賛成を合わせて活用に積極的な意見が全体の64.5%と多数を占めていたのに対し,どちらかといえば反対,反対が2.4%のみであった.一方で,どちらとも言えないが33.1%存在した.ICTの医療への活用に対してインターネットを使用している患者と使用していない患者に分けて検討した(図6).その結果,インターネット利用者においては75.8%が積極的に賛成し,反対がないのに対して,非利用者においては58.1%が賛成,3.5%が反対とインターネットの使用の有無による違いが目立った.ICTをどのように活用したいかについて結果を図7に示す.最も活用したい項目は自己カルテを作成すること,病状の説明の再確認であった.その他,医師への相談,薬の管理も比較的高い希望を示した.III考察緑内障治療において最も重要なことは緑内障性視神経障害が進行して重篤な視機能障害をきたさないように,生涯にわたって適切な管理を行うことである.このためには,治療目標を正しく定め必要な治療を続けていくことが重要であるが,自覚症状の少ない緑内障の場合,患者の積極的な診療への参加が重要である.このためには医師と患者が疾患に対して十分に意識を共有することが大切であるが,患者数の増加と専門医数の不足により医師と患者の良好な関係の維持が従来に比べ困難になってきている.この課題を克服するためには基幹病院の緑内障専門医と地域診療機関の眼科医の連携が不可欠である.今回緑内障患者を対象にアンケート調査を行い病診連携に関する患者意識調査を行った.その結果,ほぼ半数の患者が何らかの病診連携を行うことに賛同したが,年齢の高い世代や通院期間が長い患者においては連携に比較的消極的であった.今回アンケートを行った患者はすでに大学病院で診療を受けている患者であり,一般的な患者より大学病院志向が強い可能性があることがその一因であると思われたが,病診連携を進める課題としては,通院期間が長期化する前に患者に緑内障診療の特徴について説明し,病診連携の必要性について理解をしていただくことが重要と思われた.また,地方病院であることから自家用車での通院者も多かったが,単独で自家用車で通院している患者に比べ,公共の交通機関を利用している患者においては病診連携にやや消極的な傾向がみられた.これは大学病院へは比較的公共交通機関が発達しているが,地方においては地域の眼科診療機関への公共交通機関の充足が少ないことも影響している可能性が考えられた.また,付添いのない患者に比べ付添いのある患者のほうが病診連携指向が強かったが,この背景には患者が付添い者に配慮しているか付添い者の負担が大きい可能性があると思われた.医療におけるICTの活用は眼科領域ではまだほとんどないが,今回の面談結果では,積極的な意見が多いことが明らかになった.特にインターネットの利用者においてはICTの医療への活用に対する反対意見はなく,賛成意見が非常に多かった.緑内障患者には中高齢者が多く,今回のアンケート対象も平均年齢が65.3歳と高齢であったため,インターネット利用者率は31%と低かった.今後インターネットの普及などICTの利用を促進することが重要であると思われた.ICTの活用分野に関して調査した結果,自分自身の病状を理解することと投薬内容を管理することが最も関心の高い項目であった.緑内障診療は生涯にわたるものであり,今後はICTを活用し患者が興味をもつこれらの情報を積極的(127)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012275に開示し,患者の病識を高め投薬を管理していくことが非常に重要であると考えられた.今回の検討では当院に通院中の緑内障患者を対象にしたために患者背景にやや偏りがある可能性がある.診療連携意識調査のアンケートは,緑内障外来の受診者を対象とした調査であるが,同日では回答時間が十分に取れないため後日郵送も可とした.さらに高齢者および高度視野機能障害者も多く,アンケートの回答が困難な対象も比較的多かったため,回収率が52.6%とやや低い結果となった.また,本学は2005年よりICTを活用した緑内障診療支援システムを行っており9.11),一般的緑内障患者よりICTに対する理解が高い可能性がある12).今回の解析には重症度,治療歴,投薬数などは解析対象としていない.重症度に関しては今回のアンケートは無記名回答が基本であるため,個人特定が困難であり,客観的重症度を判断することができなかった.今後これらも解析対象として検討する必要がある.適正な患者分配により診療連携を行うことが,外来待ち時間の短縮や視野検査などの諸検査を効率的に行い,ひいては予約期間の短縮や緑内障診療の適正化につながると考えられる.今後はより患者の状態に合わせた病診連携を進め,重篤な患者と安定した患者に対する治療を専門病院と一般診療機関とで適正に分担していくことが重要と思われる.今回,病診連携や緑内障診療にICTを導入する際の課題が明らかになった.これらを克服してより高品質な緑内障診療を均一に提供できる体制つくりを行っていく必要がある.文献1)QuigleyHA:Numberofpeoplewithglaucomaworld-wide.BrJOphthalmol80:389-393,19962)QuigleyHA:Glaucoma.Lancet377:1367-1377,20113)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)原晋介:【これからの医工連携】はじめに情報通信技術の健康・医療分野への活用に向けて.電子情報通信学会誌94:166-171,20115)山本隆一:【情報爆発時代に向けた新たな通信技術限界打破への挑戦】情報爆発時代における通信の果たす役割とその未来像保健医療分野での通信技術の課題.電子情報通信学会誌94:380-384,20116)柏木賢治:【地域連携はどこまで進んだかEHRの実現で日本の医療を救う】MODELCASEいかにして地域連携にITを活用するか慢性期疾患管理を中心とした地域連携.INNERVISION24:33-37,20097)横井正紀:【電子カルテと地域医療ネットワーク医療連携の未来のために】地域医療連携に必要な次世代情報通信技術情報化基盤のための地域医療モデルとは何か.DIGI-TALMEDICINE5:38-40,20058)武蔵国弘:インターネットの眼科応用他科のインターネット事情.あたらしい眼科26:509-510,20099)柏木賢治:インターネットを用いた新しい慢性疾患診療支援システムの構築.日眼会誌111:114-116,200710)柏木賢治:慢性疾患診療支援システム開発に関する研究.日本遠隔医療学会雑誌5:131-132,200911)柏木賢治,寺田信幸,鈴木新一:疾患別管理を基本とした新しい病診連携システムの模索.日本遠隔医療学会雑誌2:182-183,200612)柏木賢治:WEBを用いた診療情報提供が緑内障患者の疾患理解度に与える影響マイ健康レコードの医療リテラシー改善効果.日本遠隔医療学会雑誌7:30-34,2011***276あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(128)

ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):259.265,2012cラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討広田篤*1井上康*2永山幹夫*3相良健*4岡田康志*5古本淳士*6木内良明*7*1広田眼科*2井上眼科*3永山眼科クリニック*4さがら眼科クリニック*5おかだ眼科*6ふるもと眼科*7広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学E.cacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforLatanoprostAtsushiHirota1),YasushiInoue2),MikioNagayama3),TakeshiSagara4),KojiOkada5),AtsuhitoFurumoto6)YoshiakiKiuchi7)and1)HirotaEyeClinic,2)InoueEyeClinic,3)NagayamaEyeClinic,4)SagaraEyeClinic,5)OkadaEyeClinic,6)FurumotoEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences目的:ビマトプロスト(bimatoprost:BIM)点眼薬の眼圧下降効果と安全性を比較検討した.方法:24週間以上ラタノプロスト(latanoprost:LAT)単独または併用療法を行っても眼圧下降が不十分な広義原発開放隅角緑内障65例65眼を対象とした.LATをBIMに切替えて24週間観察した.結果:眼圧は切替え前17.5±4.1mmHgで,BIM切替え2週後15.7±3.6mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも有意に下降した(p<0.0001).切替え前からの眼圧下降率が20%以上の症例は53%であった.結膜充血スコアは切替え前より2週後で有意に高かった(p<0.05).副作用出現(5例)は角膜上皮障害5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度であった.中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用2例,手術施行1例,患者希望4例であった.結論:BIMはLATで効果不十分な症例に対し,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Object:Toevaluatethesafetyandocularhypotensivee.ectofbimatoprost(BIM)asareplacementforlatanoprost(LAT).Method:BIMwasadministeredfor24weeksto65eyesof65primaryopen-angleglaucomapatientswhowereintolerantofLATtherapyexceeding24-weeks.Results:Intraocularpressure(IOP)was17.5±4.1mmHgatbaseline,15.7±3.6mmHgat2weeksand14.1±3.4mmHgat24weeksaftertheswitch(p<0.0001).IOPchangewas≧20%in53%ofpatients.Conjunctivalhyperemiascoreincreasedsigni.cantlyat2weeks(p<0.05).Adverseeventsobservedin5patientscomprisedcornealepitheliumdisorders:5;conjunctivalhyperemia:1andocularpain:1.Withdrawalsfromthestudytotaled8patients:1forine.ectivenessorincreasedIOP;2foradverseevent;1forsurgeryand4forceasedparticipation.Conclusion:BIMise.ectiveasareplacementforLATinpatientswhoareintolerantofLATtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):259.265,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,ビマトプロスト,眼圧,副作用.glaucoma,latanoprost,bimatoprost,intraocularpressure,sidee.ect.はじめに緑内障治療でevidence-basedmedicine(EBM)が確認された唯一の治療は眼圧下降であり,その治療法の主体は薬物療法である.薬物療法は点眼薬が主で,交感神経作動薬,副交感神経作動薬に加え,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhy-draseinhibitor:CAI)およびプロスタグランジン(prosta-glandin:PG)系薬などの多種の薬剤が市販されている.現在,緑内障治療薬のなかで最も汎用されているのはPG系点眼薬で,2011年3月の時点でわが国では5種類の市販薬が〔別刷請求先〕広田篤:〒745-0017山口県周南市新町1-25-1広田眼科Reprintrequests:AtsushiHirota,M.D.,HirotaEyeClinic,1-25-1Shinmachi,Shunan-city,Yamaguchi745-0017,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)259ある.イソプロピルウノプロストンを除くPG系薬は他の薬剤に比べ,眼圧下降効果は強いが,全身副作用が少なく,点眼回数は1回/日で使いやすい.しかし,結膜充血,虹彩色素沈着などの局所の副作用の頻度が高いことも指摘されている1).2009年11月から使用可能になったPG系点眼薬のビマトプロスト(bimatoprost:BIM)はプロスタマイド系,ラタノプロスト(latanoprost:LAT),トラボプロスト,タフルプロストはプロスタノイド系に分類されている.LAT,トラボプロスト,タフルプロストはプロドラッグで,アシッド体に変化してからプロスタノイド受容体に結合してぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する.一方,BIMは未変化体として直接プロスタマイド受容体に結合して房水流出を促進する2).そのため患者によってPG系薬の効果に差がある可能性があり,海外では原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)あるいは高眼圧症(ocularhypertension:OH)の患者に対しBIMはLATと比較して眼圧下降効果は高いが,結膜充血も強いとの臨床結果がクロスオーバー試験3)あるいは多施設二重盲検試験4,5)により報告されている.わが国におけるBIMとLATの多施設二重盲検比較試験の報告6)でも同様の結果であった.また,LATで眼圧下降が認められない症例が,BIMで有意に下降したとの報告もある3).LATで治療されているが眼圧下降が不十分な緑内障患者に対しては,他剤との併用が試みられることが多かったが,副作用の増加や患者の利便性を考えると,安易な薬剤の追加は避けるべきである.筆者らは以前,LATからトラボプロスト(保存剤:sofZiaTM)への切替えの有効性と安全性を評価し,眼圧は不変であったが,角膜上皮障害は減少することを報告した7).今回,LAT単独,あるいはLATと他剤との併用で治療されていて眼圧下降が不十分な症例について,LATをBIMに変更したときの眼圧下降効果と安全性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象2009年12月から2010年5月の間に6施設を受診した広義POAG患者で,LAT単剤またはLATと他の緑内障治療表1除外基準1)評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術の既往を有する者2)評価対象眼においてLAT投与前6カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者および治療薬を変更した者3)緑内障以外の活動性の眼科疾患を有する患者4)重症の角結膜疾患を有する者5)観察期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する患者6)観察期間中コンタクトレンズ装用が必要な患者7)その他,担当医師が適切でないと判断した患者薬を併用して24週間以上治療を継続したが眼圧が目標値に達せず,眼圧下降が不十分と判断された症例を対象とした.評価対象は1患者について1眼とし,点眼治療のみで眼圧コントロールが可能で矯正視力が0.7以上の眼を評価対象眼とした.両眼ともに選択基準を満たす場合は,原則として切替え前の眼圧が高い眼を評価対象眼とし,眼圧が同じ場合は右眼を採用した.症例の除外基準を表1に示した.2.方法a.投与方法0.005%LATを休薬期間を置かずに0.03%BIMに変更して24週間点眼した.他の緑内障治療薬は切替え前後で用法を含めて変更しないこととした.全身および局所のステロイド薬は併用禁忌とした.ただし皮膚局所投与は併用可とした.試験期間中,眼圧に影響を及ぼす新たな薬剤投与は行わないものとし,試験期間中に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)や濾過手術の必要のある症例は中止例とした.b.観察項目①患者背景因子年齢,性別,病歴,矯正視力,視野,緑内障併用薬,内眼手術の既往について検討した.②眼圧検査点眼切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に測定した.測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いて,2回測定し,平均値を測定値とした.切替え後の各観察日の表2結膜充血判定基準0:充血(.)0.5:軽微な充血1:軽度の充血2:中等度の充血3:高度の充血260あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(112)測定時間は切替え前の測定時間の前後2時間以内とした.③視野検査Humphrey視野計プログラム30-2を用いて,切替え前と観察終了時(24週後)に測定した.なお,切替え前6カ月以内の視野および観察終了後3カ月以内の視野をもって,切替え前と観察終了時のものに充てることができることとした.④他覚所見結膜充血と角膜上皮障害は,切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に判定した.結膜充血は表2の判定基準に従い,角膜上皮障害はMiyataら8)のArea-Density(AD)分類により判定した.⑤患者アンケート切替え前,切替え12,24週後に実施した.自覚症状は結膜充血,異物感(目がゴロゴロする),刺激感(点眼時しみる)についてVAS(visualanaloguescale)で確認した.また,「眼圧の気になり方」,「点眼忘れの頻度」,「容器の点眼のしやすさ」,「その他気になること」について質問表を用いて調査した.c.評価項目と統計解析評価項目は眼圧,視野,視力(logMAR),他覚所見(結膜充血,角膜上皮障害),およびアンケートによるVAS(結膜充血,異物感,刺激感)とした.解析は,眼圧,視野,視力(logMAR)およびアンケートのVAS(充血,異物感,点眼刺激感)についてはpairedt-test,他覚所見についてはWilcoxonsigned-ranktestを用いて検定した.有意水準は5%未満とした.なお,本試験は倫理審査委員会の承認後,同意を取得できた患者を対象に通常の診療範囲内にて実施した.II結果1.対象および患者背景選択基準を満たした65例65眼を評価対象とした.年齢は平均74.4±8.0歳(53.93歳),男性32例(49.2%),女性33例(50.8%)であった.緑内障の病歴は5年以内が41例(63.1%)であった.症例選択時の緑内障治療薬は,LAT単剤が34例(52.3%),LAT+b遮断薬が12例(18.5%),LAT+CAIが8例(12.3%),LAT+b遮断薬+CAIが6例(9.2%),LAT+その他が5例(7.7%)であった(表3).中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用発現2例,患者希望4例,1例は対象眼の手術施行により中止した.各症例の内訳を表4に示す.無効または眼圧上昇により中止した1例は0日眼圧17.5mmHg,2週後16.5mmHg,4週後14.5mmHg,8週後16.5mmHg,12週後17.5mmHg,16週後14.0mmHg,20週後15.0mmHg,24週後14.5mmHgと変動があり,主治医の判断で中止した.(113)表3患者背景性別男性32(49.2%)女性33(50.8%)74.4±8.0歳年齢〔平均±SD(範囲)〕(53.93歳)視野〔MD:平均±SD(.)(範囲)〕.6.61±4.82(.25.3..0.1)LogMAR視力〔平均±SD(範囲)〕.0.06±0.08(.0.2.0.2)病歴<1年5(7.7%)<5年36(55.4%)<10年15(23.1%)10年≧9(13.8%)緑内障併用薬34(52.3%)31(47.7%)変更前の使用薬剤分類LATのみ34(52.3%)LAT+b遮断薬12(18.5%)LAT+CAI8(12.3%)LAT+b遮断薬+CAI6(9.2%)LAT+a1遮断薬2(3.2%)LAT+b遮断薬+a1遮断薬1(1.5%)LAT+CAI+a1遮断薬1(1.5%)LAT+b遮断薬+CAI+a1遮断薬1(1.5%)内眼手術の既往(評価対象眼)34(52.3%)31(47.7%)白内障手術29(93.5%)Argonlasertrabeculoplasty5(16.1%)その他1(3.2%)無有無有表4中止例(8例)内訳BIM投与中止理由BIM投与期間無効または眼圧上昇24週間角膜上皮障害発現16週間角膜上皮障害発現・結膜充血24週間頭重ありとの患者希望によりLATに戻す2週間刺激感ありとの患者希望によりLATに戻す4週間右眼ぼやけるとの患者希望により他剤に変更16週間点眼忘れあるため,点眼数を減らしたいとの患者希望により配合剤に変更20週間対象眼手術施行のため(除外基準)4週間2.眼圧についてa.眼圧の推移全眼の眼圧は,0日17.5±4.1mmHg,切替え2週後15.7±3.6mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後15.2±3.2mmHg,12週後15.3±3.0mmHg,16週後14.7±3.4mmHg,20週後14.8±3.4mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも切替え後に有意に低下していた(いずれもp<0.0001,あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122610日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(65)(59)(60)(58)(59)(52)(54)(56)(34)(32)(33)(31)(32)(28)(29)(31)()は眼数()は眼数図1眼圧の推移(全眼)図2眼圧推移(LAT単剤からBIM単剤)0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(12)(11)(11)(11)(11)(11)(10)(11)()は眼数p値vs0日─0.07020.00000.00290.00670.00220.00330.0009pairedt-test図3眼圧の推移(LAT+b遮断薬からBIM+b遮断薬)p値vs2週後,pairedt-test図4眼圧下降率と症例分布pairedt-test)(図1).LAT単剤投与眼では,0日16.8±4.0mmHg,切替え2週100*後15.3±3.2mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後14.9±803.3mmHg,12週後14.7±3.2mmHg,16週後15.3±3.3mmスコア症例(%)Hg,20週後14.5±3.3mmHg,24週後,14.1±3.8mmHg60と,いずれも有意に低下していた(いずれもp<0.0001,40pairedt-test)(図2).LATとb遮断薬併用眼では,0日17.4±2.7mmHg,切替え2週後15.7±2.5mmHgと有意差はなかった(p=0.0702)が,4週後13.7±2.9mmHg,8週後14.6±2.0mmHg,12週後15.3±1.4mmHg,16週後13.6±3.0mmHg,20週後14.2±2.3mmHg,24週後13.8±2.4mmHgで有意に低下していた(4週後:p<0.0001,8,12,16,20週後:p<0.01,24週後:p<0.001,pairedt-test)(図3).b.眼圧下降率の推移眼圧下降率は,切替え2週後10.4%,4週後14.5%,8週後11.8%,12週後10.4%,16週後17.1%,20週後15.1%,24週後18.0%であり,2週後の眼圧下降率に比べ4,16,20,24週後では有意に増加した(4,20週後:p<0.05,16,24週後:p<0.01,pairedt-test)(図4).262あたらしい眼科Vol.29,No.2,201220:000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後*:p<0.05vs0日Wilcoxonsigned-ranktest図5結膜充血スコアの分布3.結膜充血BIM切替え前の結膜充血発現症例は67.3%で,スコア1が44.6%を占めていた.BIM切替え2週後では有意に充血が強くなり(p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest),切替え前になかったスコア2の発現もあった.4週後は充血が強い傾向がみられた(p=0.0522)が,8週以降に有意差はなかっ(114)■:充血:異物感■:しみる**スコア症例(%)■:4■:3■:2:02000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後Wilcoxonsigned-ranktest12週後24週後図6AD分類スコア(A+D)の分布た(図5).4.角膜上皮障害性BIM切替え24週後までのいずれの観察時点でもスコアの分布に差はなかった(図6).BIM切替え前に角膜上皮障害が認められた11例のうち,BIM切替え後,7例は軽減あるいは消失し,4例は変化がなかった.5.視野と視力BIM切替え前meandeviation(MD値)は.6.61±4.82dB,切替え24週後では.6.16±4.42dBで有意差はなかった.LogMAR視力は,BIM切替え前.0.06±0.08,切替え12週後.0.05±0.09,24週後.0.05±0.08といずれの観察時点でも有意差はなかった.6.患者アンケート(VASスコアと回答)「結膜充血」「異物感」のVASスコアは切替え前,切替え12週後,24週,後のいずれでも差はなかった.「刺激感」のVASスコアは切替え前の0.77±1.41,切替え24週後0.33±0.82と有意に小さかった(図7)(p<0.01,pairedt-test).BIMに切替え前で『眼圧が気にならない』患者は28例(43.1%)で,『ときどき気になる』『いつも気になる』は37例(56.9%)であった.『点眼後に眼からあふれた液を拭きとったり,洗い流している』患者は51例(78.5%)であった.「点眼忘れの頻度」はBIM切替え前,切替え12週後,24週後で『めったに忘れない(多くても2.3回/月くらいしか忘れない)』がそれぞれ95.4%(62/65),96.7%(58/60),94.5%(52/55)であった.「その他気になること」では,『目のまわりが黒くなる』がそれぞれ16.9%(11/65),23.3%(14/60),25.5%(14/55)『睫毛が長くなる』はそれぞれ3.1%(2/65),0%,9.1%/55)であった.24週後で『瞼(5,がくぼんだような気がする』が5.5%(3/55)あった.「点眼のしやすさ」では,切替え前は『点眼しやすい』が18.0%(11/61)『点眼しにくい』が4.9%(3/61)であったが,切替え12週,後では『LATと同じ』66.1%(37/56),『BIMのほうがよい』16.1%(9/56)『LATのほうがよい』17.9%(10/56)であった.切替え12後および24週後に週,図7自覚症状(VAS)の推移『BIMを継続する』はそれぞれ100%(57/57)および94.6%(53/56)であった.7.副作用副作用として報告されたのは5例7眼であった.内容は角膜上皮障害が5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度で処置を必要とするものはなかった.III考按LAT単剤またはLATと他剤併用で24週間以上点眼治療を実施し,目標眼圧に達せず眼圧下降が不十分と判断されたPOAG患者で,LATをBIMに切替えた65例65眼について検討した.眼圧下降効果については,BIMに切替えた結果,単剤(34眼)あるいはb遮断薬併用(12眼)のいずれの群も眼圧は有意に低下した.vanderValkら9)のPOAGおよびOH患者を対象とした27の無作為二重盲検比較試験のメタアナリシスでは,LATの眼圧下降率はトラフが.28%,ピークが.31%,BIMはトラフが.28%,ピークが.33%であり,BIMのほうがピーク時では眼圧下降率は大きかった.同様にAptelら10)のPOAGおよびOH患者1,610人を対象としたメタアナリシスでは,BIMの眼圧下降値はLATより8:00,12:00,16:00,20:00のいずれの測定時刻でも有意に高かった.今回の試験はこれらの試験と異なり,LAT効果不十分例に対しての切替えであるが,各観察時点で有意な眼圧下降を得られた.これはLATがプロスタノイド受容体に作用するのに対し,BIMはプロスタマイド受容体に作用していることが要因の一つと推測される2).このことからLAT効果不十分例においてLATからBIMへの切替えは有効な選択肢の一つと考えられる.また,本試験ではBIMに切替え後,眼圧下降率は時間の経過とともに増加し,16週以降で安定すると考えられた.以上の結果は,BIM切替えの効果は,切替え早期では判定できないことを示唆している.結膜充血は,BIMに切替え前に0%であったスコア2が2(115)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012263週後では6.8%と増加した.切替え前32.3%であったスコア0が2週後では18.6%と減少した.その結果,2週後の結膜充血スコアは切替え前に比べ有意に増加した.しかし,4週後から24週後までは切替え前と有意差はなく,長期投与に伴って結膜充血が重症化することはなかった.VASスコアでもBIM投与12週後および24週後で,いずれも切替え前と差はなかったことから,BIMは点眼2週前後は結膜充血の程度が強いが,4週以降はLATと同程度と考えられた.PG系点眼薬の結膜充血は,いずれの薬剤も使用早期に発現し,長期使用による増加または増悪は少ないことから11.13),BIMも他剤と同様の推移を示したものと推測される.角膜上皮障害はBIM切替え前と切替え24週後までいずれの時点でも差はなかった.BIM投与中に5眼で副作用として角膜上皮障害が発現したが,いずれも軽度で中止した症例はなかった.BIMに切替え前に角膜上皮障害が発現していた11眼中4眼はBIM切替え24週後も変化がなかったが,7眼は角膜上皮障害が軽減あるいは消失した.これについて福田らは家兎角膜障害性の基礎的な検討14)で,BIMの角膜上皮障害性はLATより低く,その要因は添加剤によるものではないかと推測している.また,「刺激感」のVASスコアは切替え24週後で有意に低かった.これらのことから,BIMの角膜障害性や刺激性はLATより低いと考えられ,両剤のpH(LAT:6.5.6.9,BIM:6.9.7.5)やベンザルコニウム塩化物の濃度(LAT:0.02%,BIM:0.005%)の違いが反映されたものである可能性が考えられる.試験期間中のコンプライアンスは,患者のアンケートにおいて「点眼忘れの頻度」は試験を通じてほとんどが『めったに忘れない』と回答し,『週1,2回忘れる』が数例であったことから,良好であると考えられた.「点眼のしやすさ」では『LATのほうが良い』が17.9%,『BIMのほうが良い』は16.1%であったが,切替え24週後でBIMから他の薬剤に変えたいとの回答は3例(5.3%)だけであった.変更希望の理由は『LATのほうが良い』,『薬剤数を減らしたい』『眼のまわりが黒くなる』であった.継続希望例(94.6%)では,『,点眼瓶が使いやすい』,『しみない』など積極的な理由もあったが,『切替えにより特に問題はなかった』との理由が最も多く,患者使用感については両剤に差はないものと考えられた.副作用として角膜上皮障害や結膜充血が5例7眼に認められたが,いずれも軽微であった.以上の結果から,LATで眼圧下降が不十分な緑内障患者には,PG系薬以外の薬剤の追加をする前にまずはBIMに切替える方法が患者の利便性や医療経済の面から勧められる.さらに,今回の試験の患者にも含まれていると思われるLATのノンレスポンダーに対し,結膜充血や角膜障害性などの安全性を考慮しても眼圧下降効果がより強いBIMを第一選択薬にしても問題ないと考えられた.ただし,今回の試験では発現は認められなかったが,色素沈着,睫毛伸長,眼瞼陥凹などの副作用も報告されていることから15.18),患者にも本剤のメリットとデメリットを十分理解させてアドヒアランスを高めていく必要がある.本稿の要旨は,第21回日本緑内障学会において発表した.文献1)LeeAJ,McCluskeyP:Clinicalutilityanddi.erentiale.ectsofprostaglandinanalogsinthemanagementofraisedintraocularpressureandocularhypertension.ClinOphthalmol4:741-764,20102)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:Identi.cationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20083)Gandol.SA,CiminoL:E.ectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20034)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20065)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpres-sure-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOph-thalmol135:55-63,20036)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20107)KanamotoT,KiuchiY,SuehiroT:E.cacyandsafetyoftopicaltravoprostwithsofZiapreservativeforJapaneseglaucomapatients.HiroshimaJMedSci59:71-75,20108)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20039)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200510)AptelF,CucheratM,DenisPetal:E.cacyandtolera-bilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofran-domizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200811)AlagozG,BayerA,BoranCetal:Comparisonofocularsurfacesidee.ectsoftopicaltravoprostandbimatoprost.Ophthalmologica222:161-167,2008264あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(116)12)AbelsonMB,MrozM,RosnerSAetal:Multicenter,open-labelevaluationofhyperemiaassociatedwithuseofbimatoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher20:1-13,200313)相原一:プロスタグランジン関連眼圧下降薬の選択.日本の眼科81:1025-1026,201014)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,201015)CentofantiM,OddoneF,ChimentiSetal:Preventionofdermatologicsidee.ectsofbimatoprost0.03%topicaltherapy.AmJOphthalmol142:1059-1060,200616)SharpeED,ReynoldsAC,SkutaGLetal:Theclinicalimpactandincidenceofperiocularpigmentationassociat-edwitheitherlatanoprostorbimatoprosttherapy.CurrEyeRes32:1037-1043,200717)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200918)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsidee.ectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012265

各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液 への切替えによる眼圧下降効果

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c南野麻美*1谷野富彦*2中込豊*3鈴村弘隆*4宇多重員*1*1二本松眼科病院*2西鎌倉谷野眼科*3中込眼科*4中野総合病院眼科EfficacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforOtherProstaglandinAnalogsMamiNanno1),TomihikoTanino2),YutakaNakagomi3),HirotakaSuzumura4)andShigekazuUda1)1)NihonmatsuEyeHospital,2)NishikamakuraTaninoEyeClinic,3)NakagomiEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospitalプロスタグランジン関連薬(PG薬)を3カ月以上使用し,眼圧コントロール不十分な広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者51例51眼において投与中のPG薬をビマトプロスト(Bim)へ切替え,眼圧下降効果と安全性を検討した.切替え前と切替え2,4,8,12,16,20,24週後における眼圧,結膜充血,角膜上皮障害を比較したところ,眼圧はすべての観察時点で下降し(すべてp<0.0001),結膜充血は16,20,24週後に有意に減少した(16,24週後各p<0.05,20週後p<0.01).角膜上皮障害に差はなかった.切替え前と切替え12,24週後にアンケートを実施し自覚症状(結膜充血,異物感,刺激感)を比較したところ,充血に変化はなく,異物感(各p<0.0001),刺激感(各p<0.001)は軽減した.以上より他のPG薬で眼圧下降効果が不十分な例ではBimへの切替えが有効と考えられた.Weevaluatedtheeffectivenessandsafetyofswitchingfromprostaglandins(PG)tobimatoprost(Bim)in51eyesof51primaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionpatientswhodidnotreachtheirtargetintraocularpressure(IOP)orwhosevisualfielddefectsprogressedafteratleast3monthsonPGtherapy.IOP,conjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratopathy(SPK)weremeasuredatbaselineandat2,4,8,12,16,20and24weeksaftertheswitch.IOPwasreducedatalltimepoints,comparedwithbaseline(p<0.0001).Conjunctivalhyperemiawassignificantlyreducedat16,20and24weeks(p<0.05,p<0.01,respectively),whereasSPKdidnotchange.Patients’subjectivesymptomsregardingconjunctivalhyperemia,foreignbodysensationandstingingwereassessedatbaseline,12and24weeks;nochangewasnotedregardingconjunctivalhyperemia.Foreign-bodysensationandstingingwerereduced(p<0.0001,p<0.001,respectively).BimmightbeaneffectivereplacementinpatientswithinadequateIOPcontrolonPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1629.1634,2011〕Keywords:緑内障,眼圧,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト.glaucoma,intraocularpressure,bimatoprost,latanoprost,travoprost.はじめに現在,緑内障に対する治療でエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降させることであり,初期には薬物を用いできるだけ眼圧下降を図るのが一般的である.なかでもプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG薬)は最大の眼圧下降効果が得られ,おもな副作用は眼局所のみであり,点眼回数が1日1回で,アドヒアランスの向上が期待できることから第一選択として使用されることが多い.2009年に新たに0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガンR,bimatoprost:Bim)が発売されプロスト系PG薬は4剤となり,その後,PG薬とb遮断薬,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の合剤が立て続けに使用可能となった.一方,米国ではBimが発売されてから10年以上が経過し,多くの臨床データやメタアナリシスが報告されている.それによるとBimの眼圧下降効果は他のPG薬と同等かそれ以〔別刷請求先〕南野麻美:〒132-0035東京都江戸川区平井4-10-7二本松眼科病院Reprintrequests:MamiNanno,M.D.,NihonmatsuEyeHospital,4-10-7Hirai,Edogawa-ku,Tokyo132-0035,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1629 上上であり,結膜充血の頻度は高く1),角膜上皮障害は同程度3,4)とされている.またラタノプロスト(latanoprost:Lat)からの切替えではさらなる眼圧下降が得られる5.7)が,結膜充血はLat未使用者よりも起きにくいと報告されている8).国内では狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)を対象とした第III相比較臨床試験において,副作用の発現頻度は若干高いものの眼圧下降効果はLatと同等以上であることが確認された9).そこで今回,PG薬単剤またはPG薬を含む2剤以上の併用療法で3カ月以上治療を継続し,目標眼圧に達しないか,視野障害の進行が疑われた広義POAGおよびOH患者を対象に,他のPG薬からBimへの切替えによる,眼圧下降効果および安全性,自覚症状の変化について検討した.I対象および方法1.対象対象は,2009年12月から2010年5月に中込眼科,西鎌倉谷野眼科,二本松眼科病院に通院中の患者のうち,狭義POAG,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG),OHで,矯正視力0.7以上,HumphreyFieldAnalyzerIIの中心30-2または24-2プログラムのmeandeviation(MD)が.15dB以上で,Lat,トラボプロスト(travoprost:Trav),タフルプロスト(tafluprost:Taf)のいずれかを3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われるもので,Bimへの変更に同意の得られた者を選択した.なお,1)角膜屈折矯正手術・濾過手術の既往,2)6カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往,3)3カ月以内に緑内障治療薬を変更,4)重症の角結膜疾患を有する,5)緑内障・高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する,6)コンタクトレンズ装用の患者は除外した.評価対象眼は片眼とし,1眼のみが症例選択条件を満たした症例では当該眼を,両眼ともに条件を満たした症例では切替え前の眼圧が高い眼,同じ眼圧であったときには右眼を選択した.本試験は倫理委員会の承認を取得し,患者からの同意を得たうえで実施した.2.方法使用していたPG薬をBimへ切替え,切替え前および切替え2,4,8,12,16,20,24週後にゴールドマン圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAP)による眼圧測定,細隙灯顕微鏡による結膜充血および角膜上皮障害について観察した.切替え時に使用していたPG薬以外の眼圧下降薬はそのまま継続使用した.眼圧はGAPにて2回測定した平均値とし,結膜充血は各施設に配布した共通の標準写真を用いた5段階スコア(0,0.5,1,2,3)10)で評価した.角膜1630あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011上皮障害はフルオレセイン染色後にAD(area-density)分類11)を用い,A+Dの合計スコアで評価した.視力は切替え時,12,24週後に,視野は切替え時,24週後に測定した.また切替え時および12,24週後に,結膜充血,異物感(ごろごろする感じ),刺激感について,0から10段階のVisualAnalogScale(VAS)を用いた自覚症状アンケートを実施した.観察期間中に発生した有害事象についても観察した.結果の解析は,SASver.8.0を用いて,眼圧はpairedt-test,スコアはWilcoxonsigned-ranktestまたはMann-WhitneyUtestにより行い,有意水準は5%とした.II結果選択基準を満たし,評価対象となったのは51例51眼で,男性29例,女性22例,平均年齢は66.7±11.3歳,平均MD値は.6.48±4.97dB,矯正視力の中央値は1.2,range0.7.1.5(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR視力:.0.03±0.07)であった.緑内障の病型別では狭義POAG31眼(60.8%),NTG19眼(37.3%),OH1眼(2.0%)であった.治療薬剤数は,PG薬単剤が18眼(35.3%),PG薬を含む2剤併用が13眼(25.5%),3剤併用が17眼(33.3%),4剤併用が3眼(5.9%)であり,併用例が全体の64.7%を占めていた.切替え前に使用していたPG薬はLat22眼(43.1%),Trav24眼(47.1%),Taf5眼(9.8%)であった.Tafは5眼と少なかったため,切替え前PG薬別の検討項目においては評価対象から除外した.有害事象(鞍結節部髄膜腫)が1例に生じたが因果関係は否定された.その他,副作用は認められず,中止例はなかった.1.眼圧切替え時,切替え4,12,24週後の4つの観察時点で眼圧を測定できた50例を評価対象とした.図1に全症例および単剤,併用治療による眼圧推移を示す.全症例における切替え時の平均眼圧は18.7±3.7mmHg,4週後16.1±3.4mmHg,12週後15.3±3.5mmHg,24週後15.1±2.8mmHgであり,いずれの観察時点でも有意に下降した(すべてp<0.0001,pairedt-test).また眼圧下降率は4週後13.2±10.5%,12週後17.6±12.3%,24週後17.3±14.6%であった.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降し(すべてp<0.0001,pairedt-test),各々の眼圧下降率は4週後13.2±8.8%,13.3±11.4%,12週後13.5±9.6%,19.7±13.1%,24週後17.0±13.6%,17.5±15.3%であった.前PG薬別ではLatからの切替えにより平均眼圧は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg(p=0.0007),12週後13.9±2.5mmHg(p<0.0001),24週後14.1±2.5mmHg(p=0.0024)と下降し,Travからの切替えでも切替え時19.5±3.6mmHg,4週後16.8±3.5mmHg(p<0.0001),12(118) 1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)-20%≦-10%≦0%≦10%≦20%≦30%≦<-10%<0%<10%<20%<30%観察時期(週)図1ビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移眼圧下降率全症例で,いずれの観察時点でも,眼圧は切替え時より有意に図3切替え24週後における全例(n=50)の眼圧下降率別下降した.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降した.分布グラフ上の数値(%)は全例に占める割合を示す.24:前PG薬:Lat(n=21):前PG薬:Trav(n=24)********************************************p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test*p<0.05,**p<0.01(vs切替え時)22Wilcoxonsigned-ranktest眼圧(mmHg)20100****24812162024切替え時189080全症例に対する割合(%)16****701460**:35012:24010:1切替え時2481216202430:0.5観察時期(週)20:010図2ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移0前PG薬Lat(n=21):単剤7例,併用14例.前PG薬Trav(n=24):単剤8例,併用16例.Lat,Travからの切替えで,切替え時よりいずれの観察時点でも有意に眼圧は下降した.週後16.1±3.9mmHg(p<0.0001),24週後15.9±2.9mmHg(p<0.0001)と下降した(pairedt-test)(図2).眼圧下降率はLat,Travそれぞれ4週後13.1±12.4%,13.3±9.3%,12週後17.3±11.1%,17.3±12.9%,24週後14.5±17.7%,17.7±10.3%であった.24週後における眼圧下降率別の症例分布を図3に示す.10%以上の眼圧下降を示したのは35眼(70%),逆に10%以上の眼圧上昇を示したのは1眼(2.0%)であった.2.結膜充血および角膜上皮障害切替え時における結膜充血スコアは,スコア0が11眼(21.6%),スコア0.5が19眼(37.3%),スコア1が15眼(29.4%),スコア2が6眼(11.8%)であり,16週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が25眼(56.8%),スコア1が8眼(18.2%),スコア2が2眼(4.5%),20週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が28眼(63.6%),スコア1が6眼(13.6%),スコア2が1眼(2.3%),24週後で(119)(51)(50)(51)(47)(51)(44)(44)(50)観察時期(週)図4充血スコアの推移横軸()の数値は症例数を示す.切替えにより結膜充血スコアは,16,20,24週後において有意な改善を認めた.はスコア0が9眼(18.0%),スコア0.5が30眼(60.0%)スコア1が9眼(18.0%),スコア2が2眼(4.0%)で,16,(,)20,24週後において有意な改善を認めた(16週後p=0.0313,20週後p=0.0028,24週後p=0.0394,Wilcoxonsigned-ranktest)(図4)が,前PG薬別に充血スコアの推移をみると,Lat,Travからの切替えともに切替え前後で有意差は認められなかった(図5).またすべての観察時点で切替え時からの変化量に両薬剤間で差はなかった.角膜上皮障害については,切替え時のA+Dの合計スコアはスコア0が38眼(74.5%),スコア2が8眼(15.7%)スコア3が4眼(7.8%),スコア4が1眼(2.0%)であり,(,)12週後ではスコア0が35眼(68.6%),スコア2が10眼(19.6%),スコア3が6眼(11.8%),24週後ではスコア0が34眼(68.0%),スコア2が12眼(24.0%),スコア3があたらしい眼科Vol.28,No.11,20111631 前PG薬:Lat前PG薬:Trav10010090908080全症例に対する割合(%)全症例に対する割合(%)60:37605040302010705040:230:1:0.520:01000切替え時24812162024切替え時24812162024(22)(22)(22)(20)(22)(18)(19)(21)(22)(23)(24)(23)(24)(22)(21)(24)症例数観察時期(週)観察時期(週)図5ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる充血の推移各グラフの横軸()の数値は症例数を示す.充血スコアはLat,Travからの切替え前後で有意な差は認められなかった.***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)Wilcoxonsigned-ranktest30充血:12週後30:12週後****30刺激感:12週後***25異物感:24週後25:24週後****25:24週後***症例数症例数2020201515151010105550-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-20246810切替え時との差切替え時との差切替え時との差図6切替え12,24週後におけるVAS変化量各n=48.充血の平均VASスコアは切替え時と,12,24週後で変化はなかった.異物感,刺激感の平均VASスコアは切替え時より,12,24週後で有意に改善していた.4眼(8.0%)と,いずれの観察時点でも変化はなかった.3.視力,視野観察期間中,logMAR視力は切替え時.0.03±0.07,12週後.0.04±0.07,24週後.0.04±0.07,平均MD値は切替え時.6.48±4.97dB,24週後.5.77±5.99dBと変化は認められなかった.4.自覚症状アンケート図6に切替え時,12,24週後における充血,異物感,刺激感のVASスコアの分布を示す.充血の平均VASスコアは切替え時1.36±2.15,12週後1.38±2.07,24週後1.19±2.05と変化はなかった.前PG薬別でもLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時0.77±1.47,1.75±2.53,12週後1.49±2.22,1.09±1.86,24週後1.03±2.10,1.03±1.76であり,切替え前後で差は認められなかった.また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.異物感の平均VASスコアは切替え時1.95±2.37,12週後0.54±1.16,24週後0.58±1.14で,12,24週後に有意な改善を認めた(ともにp<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.61±2.43,2.52±2.44,12週後0.64±1.25,0.45±1.10,24週後0.58±1.25,0.66±1.16であり,切替え12,24週後で有意に改善した(Lat:12週後p=0.0410,24週後p=0.0220,Trav:12週後p<0.0001,24週後p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後6眼(30.0%),24週後6眼(30.0%),Travでは12週後12眼(52.2%),24週後12眼(52.2%)で,Travからの切替えのほうが異物感の改善が多かった.刺激感の平均VASスコアは切替え時1.61±1.75,12週後0.87±1.52,24週後0.76±1.51であり,12,24週後で有意に改善していた(12週後p=0.0006,24週後p=0.0008,Wilcoxonsigned-ranktest)(図6).前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.88±1.84,1.60±1.80,12週後1.07±1.92,0.65±1.13,24週後0.64±1.00,1632あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(120) 0.0.(Lat:24週後p=0.0056,Trav:12週後p=0.0016,24週後p=0.0088,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後9眼(45.0%),24週後9眼(45.0%),Travでは12週後10眼(43.5%),24週後10眼(43.5%)であった.III考按今回,選択基準を満たし,PG薬を3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われ,次なる薬物治療のステップに進む必要がある狭義POAG,NTG,OH患者において,使用中のPG薬をBimへ切替え,眼圧下降効果と安全性,患者の自覚症状を検討した.眼圧は使用薬剤数やPG薬の種類に拘わらずBimへの切替えにより有意に下降した.Lat単剤および併用治療に対する効果不十分な症例でLatをBimへ切替えた過去の報告7)では,切替え時の眼圧は20.4mmHg,2カ月後の眼圧下降幅は3.4mmHg(下降率の記載なし)とされている.今回,Latからの切替え症例における眼圧値は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg,12週後13.9±2.5mmHg,24週後14.1±2.5mmHgで,眼圧下降率は4週後13.1±12.4%,12週後17.3±11.1%,24週後14.5±17.7%であり,切替え時の眼圧は若干低いものの,ほぼ同様の結果を得ることができた.一方,TravからBimへの切替えの報告は見当たらず,直接比較試験では両薬剤間の眼圧下降効果にほとんど差はないとされている12).しかしLat効果不十分例に対するTravとBimの効果を比較した報告5)では,眼圧下降効果に差が認められており,Bimの作用部位,プロスタマイド受容体が他のPG薬のプロスタノイドFP受容体とは異なる点13)が今回の結果に影響したと考えられた.また,今回対象となった症例は前PG薬のノンレスポンダーで,Bimへの切替えによって眼圧が下降した可能性がある.今後,無治療時眼圧からの各点眼薬の眼圧下降についての検討が必要である.なお,切替え時の眼圧がLat17.0±3.3mmHgに比較しTrav19.5±3.6mmHgと高いが,これは参加3施設においてLat効果不十分例にTravを使用していた例が多いことが影響したものと推測された.結膜充血については,過去の報告でBimは結膜充血の頻度が高い1)が,Latから切替えてBimを使用すると未使用時に比べ充血が起こりにくく8),LatからTravへの切替えよりも充血増強例が少ないとされている5).今回の検討では,TravからBimへの切替えで,有意差はなかったもののスコア1以上の充血が減少した.これに加え前PG薬からの切替(121)えによりBimの充血が起こりにくかったため,全体として16週以降は充血が改善される結果となったと考えられた.VASを用いた患者アンケートでも,有意差はなかったものの,スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後2眼(10.0%),24週後3眼(15.0%),Travでは12週後7眼(30.4%),24週後8眼(34.8%)で,充血が改善したと回答した症例はLatよりもTravからの切替え例で多く,充血スコアの結果を支持していると考えられた.また,充血については切替え時に十分な説明を行っており,充血が理由で中止を希望した患者はいなかったことから,他のPG薬からの切替えという使用方法であればBimの結膜充血はアドヒアランスへの影響が少ないことが示唆された.点眼時の異物感と刺激感については切替えにより改善した.これは,Lat(キサラタンR:pH6.5.6.9),Trav(トラバタンズR:pH5.7),Bim(ルミガンR:pH6.9.7.5)のpHの違いで,より涙液のpH7.75±0.1914)に近いBimへの切替えにより,点眼時の異物感,刺激感が改善されたと考えられた.このことから,他PG薬で異物感,刺激感を訴える患者にはBimへの変更を考慮してもよいと思われた.PG薬の副作用として,最近上眼瞼溝の顕性化が問題となっているが,今回は検討を行わず,また経過観察中,眼周囲の変化を訴えた症例もなかった.緑内障は長期の管理が必要な慢性疾患であり,薬物治療における点眼薬の選択に当たっては,眼圧下降効果のみならず,アドヒアランスに影響を与える副作用など諸事象も考慮して決定する必要がある.Bim以外のPG薬を含む治療で眼圧コントロール不十分の場合,結膜充血発現の可能性について十分に患者に説明を行ったうえで,使用中のPG薬をBimに変更することは,さらなる眼圧下降効果を得るとともに,自覚症状の改善も期待できる価値ある手段であり,緑内障治療の質を向上できるものと考えた.本論文の要旨は第21回日本緑内障学会にて発表した.文献1)AptelF,CucheratM,DenisPetal:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)WhitsonJT,TrattlerWB,MatossianCetal:Ocularsurfacetolerabilityofprostaglandinanalogsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher26:287-292,20104)StewartWC,StewartJA,JenkinsJNetal:Cornealpuncあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111633 tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003JA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicentrestudy.BrJOphthalmol94:74-79,20106)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension:auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,20097)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,20038)KurtzS,MannO:Incidenceofhyperemiaassociatedwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsubjectspreviouslytreatedwithlatanoprost.EurJOphthalmol19:400-403,20099)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)LaibovitzRA,VanDenburghAM,FelixCetal:ComparisonoftheocularhypotensivelipidAGN192024withtimolol:dosing,efficacy,andsafetyevaluationofanovelcompoundforglaucomamanagement.ArchOphthalmol119:994-1000,200111)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,200613)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)布出優子,小橋俊子,松本美智子ほか:正常人の涙液pH値.眼臨82:648-651,1988***1634あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(122)