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タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)

新潟大学ロービジョン外来における緑内障患者の受診状況

2013年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科30(7):1029.1033,2013c新潟大学ロービジョン外来における緑内障患者の受診状況本間友里恵*1張替涼子*1石井雅子*1,2阿部春樹*2福地健郎*1*1新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野*2新潟医療福祉大学GlaucomaPatientConsultationatNiigataUniversityLow-VisionClinicYurieHonma1),RyokoHarigai1),MasakoIshii1,2),HarukiAbe2)andTakeoFukuchi1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,2)NiigataUniversityofHealthandWelfare目的:ロービジョン外来を受診した緑内障患者の受診状況を検証し,緑内障患者にロービジョン外来受診を勧める時期や背景について検討した.対象および方法:対象は,2000年9月から2009年8月までの9年間にロービジョン外来を受診した緑内障患者121例,平均年齢61.5±17.2歳である.視覚障害による困難を聴取し,それに対応し必要なロービジョンケアを行った.良いほうの眼の視力を0.5以上の良好群と0.4以下の不良群の2群に,良いほうの眼のGoldmann視野病期を早期・中期群と晩期群の2群に,年齢を20.60歳の就労年齢群と61.88歳の高齢群の2群にそれぞれ分類し,改善したい困難(ニーズ)について視力,視野および年齢別に比較検討した.結果:視覚障害による困難は読書81.8%,羞明55.4%,歩行52.1%,書字33.9%,日常生活19.0%の順に多かった.羞明は視力良好群で80.5%および視野晩期群で73.1%,歩行は就労年齢群で64.2%,書字は視力不良群で41.3%および視野晩期群で44.8%,日常生活は視力良好群で36.6%,遠見は視力不良群で15.0%および視野晩期群で16.4%,就労は就労年齢群で17.0%とそれぞれ他群に比べ困難の訴えの割合が有意に多かった(p<0.05,c2検定).結論:視力および視野が良好であっても患者の生活・社会環境によってはさまざまな困難を自覚しており,障害が軽度であってもロービジョンケアを必要とする場合があることを理解する必要がある.Purpose:Toassessthetimingandbackgroundoflow-visionclinicvisitrecommendationbyexaminingtheconsultationsituationofglaucomapatientsconsultingourlow-visionclinic.SubjectsandMethods:Subjectscomprised121patients61.5±17.2yearsofagewhoconsultedourlow-visionclinicduringthe9yearsfromSeptember2000toAugust2009.Eachpatientconsultedwithusregardingdifficultiesarisingfromvisualimpairment;weprovidedthenecessarylow-visioncare.Weclassifiedthesubjectsintotwogroupsbasedonthevisualacuityofthebettereye:onegroupabove0.5,theotherbelow0.4.WealsoclassifiedthesubjectsintotwogroupsbasedontheimpairmentstageofthebettereyeintermsofGoldmannvisualfield:early,intermediateandlatestage.Thesubjectswerealsoclassifiedintotwoagegroups:theworkingagegroup(20-60yearsofage)andtheseniorgroup(61-88yearsofage).Wethenexaminedandcomparedthegroupsbasedonvisualacuity,visualfieldandage,intermsoftheirneeds(visionproblemstheywishedtoimprove).Results:Inorderofnumberofcases,manypatientssufferedfromvisualimpairmentthatcausedreadingdifficulties(81.8%),photophobia(55.4%),walkingdifficulties(52.1%),writingdifficulties(33.9%)andotherdifficultiesindailylife(19.0%).Ofthebettervisualacuityandseverevisualfieldimpairmentgroups,80.5%and73.1%,respectively,sufferedfromphotophobia;64.2%ofpatientsintheworkingagegroupexperiencedproblemswithwalking;41.3%oftheworsevisualacuitygroupand44.8%ofthelatevisualimpairmentstagegrouphadtroublereadingandwriting;36.6%ofthoseinthebettervisualacuitygrouphaddifficultiesindailylife;15.0%ofthoseintheworsevisualacuitygroupand16.4%intheseverevisualfieldimpairmentgroupsufferedfromfar-sightedness.Meanwhile,17.0%oftheworkingagegroupindicatedhavingdifficultyworking,showingasignificantlyhigherratioofdifficultiesthananyothergroup(p<0.05,chi-squaretest).Conclusions:Regardlessofgoodvisualacuityandvisualfield,patientsareawareofvariousdifficultiesrelatingtothesocialenvironmentandtheirdailylife.Thisstudyrevealedtheimportanceofunder〔別刷請求先〕本間友里恵:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:YurieHonma,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(147)1029 standingtheneedtoprovidelow-visioncareevenforindividualswithmildvisualimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):1029.1033,2013〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,ニーズ.glaucoma,lowvisioncare,needs.はじめに近年,社会の老齢化に伴い治療できない視覚障害のために視機能が低下したままの状態,すなわちロービジョンで生活せざるをえない人口は増加している.日本眼科医会の報告では,わが国における視覚障害者は164万人ともいわれ,緑内障は視覚障害の原因の首位疾患である1).また,大規模な緑内障の疫学調査である多治見スタディでは,40歳以上の日本人の緑内障有病率は5.0%であることが報告されている2).緑内障では無症状のままゆっくりと緩慢に視機能が障害されるため,自覚症状が現れたときにはかなり病状が進行し患者のqualityoflife(QOL)が極端に損なわれていることもしばしばみられる.それゆえ治療・視機能の管理と並行してロービジョンケアを行う必要性について認識されつつあるが,ケア導入のタイミングはむずかしい3).今回,筆者らは緑内障により視機能に低下をきたし新潟大学眼科ロービジョン外来を受診した患者の視機能の状態と,視機能障害による困難およびロービジョンケアの内容について調査し検討したので報告する.I対象および方法2000年9月から2009年8月までの9年間にロービジョン外来を受診した340人のうち,緑内障と診断された121例(男性70例,女性51例)を対象とした.ロービジョンケアの開始年齢は5.88歳,平均61.5±17.2歳である.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)が52例,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)が31例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が24例,原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)および発達緑内障(developmentalglaucoma:DG)が各7例である.見えにくいことによる,どのような困難を改善したいのか(ニーズ)を聴取し,それに対応した必要なロービジョンケアを行った.ロービジョンケアの内容は遮光眼鏡,近用拡大鏡および単眼鏡などの処方,タイポスコープ,拡大読書器などの指導,福祉制度,便利グッズおよび障害年金などの情報提供である.良いほうの眼の視力を0.5以上の良好群と0.4以下の不良群2群に,良いほうの眼のGoldmann視野病期を湖崎分類4)に従って早期・中期群と晩期群の2群に,年齢を20.60歳の就労年齢群と61.88歳の高齢群の2群にそれぞれ分類し,ニーズについて視力,視野および年齢別に比較検討した.1030あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013データの解析にはc2検定を用い,危険率5%以下を有意差ありとした.II結果1.受診患者の視力および視野良いほうの視力は0.01未満が4例(3.3%),0.01.0.05が18例(14.9%),0.06.0.09が15例(12.4%),0.1.0.4が43例(35.5%),0.5.0.9が22例(18.2%),1.0以上が19例(15.7%)であった(図1).良いほうのGoldmann視野は湖崎分類のIIa期およびIIb期が各1例(0.8%),IIIa期が34例(28.1%),IIIb期が14例(11.6%),IV期が38例(31.4%),Va期が7例(5.8%),0.01未満1.0以上419(3.3%)0.01~0.0518(14.9%)0.1~0.443(35.5%)0.5~0.922(18.2%)(15.7%)0.06~0.0915(12.4%)図1良いほうの視力(n=121)0.4以下:80例,0.5以上:41例.n():症例数(%).不測IIa期41IIb期(3.3%)(0.8%)1Va期7(5.8%)IIIb期14Vb期22(18.2%)IIIa期(0.8%)34(28.1%)(11.6%)IV期38(31.4%)図2良いほうの視野(n=121)早期・中期:50例,晩期:67例,測定不能:4例.n():症例数(%).(148) Vb期が22例(18.2%)であった.3例は幼少のため,1例は明(55.4%),歩行(52.1%),書字(33.9%),日常生活(19.0知的な障害のため測定不能であった(図2).%),遠見(10.7%)と続く(図3).2.ニーズとロービジョンケアの内容ロービジョンケアの内容は,処方では多い順に,遠用遮光ニーズには複数の回答があった.読書の困難を改善したい眼鏡(34.7%),近用拡大鏡(30.6%),白杖(28.9%),近用という訴えが最も多く全体の81.8%にみられた.つぎに羞眼鏡(17.4%),拡大読書器(14.1%)であった.指導および情報提供では補装具および日常生活用具の身体障害者手帳(視覚)のサービス,税金の減免,NKK受信料の割引などの読書福祉制度についての情報提供が76.9%と最も多かった.つ羞明ぎに近用拡大鏡(57.9%),見えにくいことによる日常生活歩行書字の不自由さを助ける便利グッズ(52.9%),タイポスコープ・日常生活筆記用具(46.8%),拡大読書器(44.6%)と続く(図4).遠見ニーズに対応したケアでは,読書および書字の困難には近福祉情報心理的不安用拡大鏡,近用眼鏡,拡大読書器,近用遮光眼鏡,書見台の就労処方を行った.処方にあたっては十分な試用のうえ,可能でパソコンあれば1週間程度の貸し出しの後に処方した.再来時に使用就学その他状況を確認し,処方された補助具やタイポスコープを用いて01099(81.8)67(55.4)63(52.1)41(33.9)23(19.0)13(10.7)11(9.1)10(8.3)9(7.4)3(2.5)3(2.5)6(5.0)2030405060708090100(%)の読み書きの指導を行った.視機能を用いることが困難な場図3ニーズの割合(n=121:複数回答あり)合は音声パソコン教室および録音図書の情報提供を行った.その他:車の運転,携帯電話の使い方,時計が見えない,視力就労の困難には事務作業の効率を上げるための音声パソコン回復,内科の処方薬と眼との関係,暗順応障害が各1例.教室の情報提供,パソコン画面のハイコントラスト設定の指a.処方遠用遮光眼鏡42(34.7)近用拡大鏡37(30.6)白杖35(28.9)近用眼鏡21(17.4)拡大読書器17(14.1)遠用眼鏡14(11.6)近用遮光眼鏡12(9.9)音声時計11(9.1)書見台10(8.3)単眼鏡4(3.3)その他15(12.4)0510152025303540(%)b.指導・情報提供福祉制度93(76.9)近用拡大鏡70(57.9)便利グッズ64(52.9)タイポスコープ・筆記用具59(48.8)拡大読書器54(44.6)障害年金38(31.4)照明37(30.6)点字・録音図書35(28.9)音声パソコン教室34(28.1)パソコンの画面設定21(17.4)眼球運動・偏心視訓練17(14.1)日常生活14(11.6)単眼鏡12(9.9)就労9(7.4)就学3(2.5)その他17(14.1)0102030405060708090(%)図4ロービジョンケアの内容(149)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131031 表1ニーズの比較視力視野※1年齢※2良好群0.5以上n=41不良群0.4以下n=80p値早期・中期群IIa,IIb,IIIa,IIIbn=50晩期群IV,Va,Vbn=67p値就労年齢群20.60歳n=53高齢群61.88歳n=65p値n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)読書34(82.9)65(81.3)0.8239(78.0)56(83.6)0.4541(77.4)55(84.6)0.31羞明33(80.5)34(42.5)<0.01*18(36.0)49(73.1)<0.01*35(66.0)32(49.2)0.07歩行19(46.3)44(55.0)0.3728(56.0)35(52.2)0.6934(64.2)29(44.6)0.03*書字8(19.5)33(41.3)0.02*11(22.0)30(44.8)0.01*20(37.7)21(32.3)0.54日常生活15(36.6)8(10.0)<0.01*7(14.0)16(23.9)0.1812(22.6)11(16.9)0.44遠見1(2.4)12(15.0)0.03*2(4.0)11(16.4)0.03*6(11.3)7(10.8)0.92福祉情報4(9.8)7(8.8)0.863(6.0)8(11.9)0.498(15.1)3(4.6)0.05心理的不安3(7.3)7(8.8)0.794(8.0)6(9.0)0.855(9.4)5(7.7)0.74就労1(2.4)8(10.0)0.131(2.0)8(11.9)0.059(17.0)0(0.0)<0.01*パソコン2(4.9)1(1.3)0.22※32(4.0)1(1.5)0.40※33(5.7)0(0.0)0.05※3※1測定不能であった4例を除く.※2未成年の3例を除く.※3イエーツ(Yates)の補正済み.*p<0.05で有意差あり(c2検定).導を行った.3.ニーズと視力,視野および年齢おもなニーズを視力,視野および年齢をそれぞれ2群して比較した(表1).羞明は視力良好群で80.5%および視野晩期群で73.1%とそれぞれ視力不良群42.5%および視野早期・中期群36.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.歩行は就労年齢群で64.2%と高齢群44.6%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.書字は視力不良群で41.3%および視野晩期群で44.8%とそれぞれ視力良好群19.5%および視野早期・中期群22.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.日常生活は視力良好群で36.6%と視力不良群10.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.遠見は視力不良群で15.0%および視野晩期群で16.4%とそれぞれ視力良好群2.4%および視野早期・中期群4.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.就労は就労年齢群で17.0%と高齢群0.0%に比べ困難を改善したいと訴える割合が有意に多かった.読書,福祉情報および心理的不安に関しては,2群間に差がみられなかった.III考按本研究は緑内障患者のロービジョンケアを導入した時期の状況を診療録から後ろ向きに調査したものである.緑内障のロービジョンケアについてはこれまでに多くの報告がある5.8).また,緑内障患者のQOL評価についてはThe25itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQueationnaire(VFQ-25)を用いての生活機能評価から,視機能の障害程度とQOLは相関することが報告されている8,9).筆者らは,質問紙を用いず視機能の低下によってもたらされた困難のなかで改善を希望することを十分な時間をかけて面談により聴取し,そのニーズに対応したロービジョンケアを行った.今回の対象のロービジョン外来を受診した緑内障患者の病型は原発開放隅角緑内障が最も多く,つぎに続発緑内障,正常眼圧緑内障の順であった.わが国の緑内障の疫学調査である多治見スタディでは,緑内障の頻度は正常眼圧緑内障が最も多く,原発開放隅角緑内障は少ない.しかし,原発開放隅角緑内障や続発緑内障のような高眼圧の緑内障では視機能障害が重症化しやすく正常眼圧緑内障は重症化しにくいといわれている2).ロービジョンケアを導入した緑内障患者は高眼圧で重症化しやすいタイプの緑内障が多かった.川瀬の報告8)ではケアを開始した時点の良いほうの眼の視力は0.7以上が89%,視野はHumphrey視野におけるAnderson分類10)にて重度が48%と最も多く,中心視力が良好なうちにケアが開始されていた.筆者らの調査では,ロービジョンケアを開始した時点の良いほうの眼の視力は0.1.0.4の35.5%が最も多く,視力0.7以上は20%に満たなかった.視野はGoldmann視野における湖崎分類4)でIV期の31.4%が最も多かった.ケア開始時の視力値に大きな違いがみられた.ロービジョンケア導入を勧めるタイミングが異なることがその原因であると考えられる.読書の困難をニーズとしてあげる者が全体の81.8%と最も多かった.視力,視野が良好であっても若年層においては読書の困難を自覚しやすいことがわかった.読書の困難に対応して近用拡大鏡の処方および指導,タイポスコープ・筆記用具の指導がロービジョンケアの内容として多かった.しか1032あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(150) し,川瀬8)のVFQ-25の下位尺度の平均点数では運転,心の健康や一般的健康の項目の点数が低く,近見の項目は低値を示していない.聞き取り方法の違いかもしれない.面談によるニーズの聴取では,患者は眼科医療機関で対応してもらえそうな困難を優先する.その結果,筆者らのクリニックでは補助具で解決できそうな読書や羞明のニーズが多く,心の不安を訴える患者は少なかったのではないかと推測される.ロービジョンケアの内容では,高橋ら7)は心のケアが最も多く,つぎに眼球運動訓練であると報告している.ロービジョンケアの内容は患者のニーズや導入時の緑内障の病期により異なる.視力良好群が不良群よりも,羞明および日常生活の困難の改善を訴えることは,興味深い結果であった.読書および歩行についてもわずかではあるが,視機能の良い群が悪い群より,困難の自覚の割合が多かった.その理由として,視機能障害の軽い群ではそれまでは自立して日常生活を送ってきたが不自由を感じ始めたという段階の患者が多いこと,また外出の機会が多いためではないかと推測できる.一方,視機能障害が進行している群ほど不自由になってからの期間が長く,保有視野での生活に適応している,家族の介助に頼ることに慣れてしまった,外出の機会が少なくなる,などの生活環境の変化により,困難を自覚しにくくなっている可能性がある.QOLの向上を目指すロービジョンケアは眼科医療において重要である11,12).しかし,ロービジョンケアの導入のタイミングには視機能からの明確な基準はない.緑内障は視機能障害の進行が遅く自覚症状に乏しいという特徴があり,患者自身が視機能障害による生活の不自由さに慣れてしまっていることがロービションケアの導入をむずかしくしているのかもしれない.新潟大学眼科では,緑内障外来主治医が患者からの視機能障害による困難の訴えがあった場合に,ロービジョン外来の受診を勧めている.そのため緑内障の罹患期間が長く中心視野が消失した状態ではじめてロービジョンケアを受けるという患者もいる.その場合,患者自身のロービジョンケアに対する意識が乏しく,視力を回復させたいという思いから補助具を用いることに抵抗がありロービジョンケアの受け入れがうまくいかないこともある.視機能障害が軽度なほど補助具での見え方の満足度が高い.また,治療への期待が強い患者では障害への受容が遅れがちである.通常の診療では患者は積極的に見えにくいことによる不自由さを訴えることは少ない.定期の視野検査の後に,生活に支障がないか尋ねることや有効視野の位置を患者とともに確認するなどの医療側からのアプローチが,早期のロービジョンケア導入を可能にすると考える.本論文は第22回日本緑内障学会(2011年)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本眼科医会研究班報告2006.2008:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80(6):付録9-11,20092)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1678,20043)張替涼子:4)緑内障IV.年齢と疾患によるケアの特徴/3.疾患別特徴.眼科プラクティス14巻,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),文光堂,20074)湖崎弘,井上康子:視野による慢性緑内障の病期分類.日眼会誌76:1258-1267,19725)浅野紀美江,川瀬和秀,山田敬子ほか:緑内障におけるロービジョンケア─視野による評価─.あたらしい眼科19:771-774,20026)西田朋美,三輪まり枝,山田明子ほか:医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2例.あたらしい眼科27:155-158,20107)高橋広,花井良江,土井涼子ほか:柳川リハビリテーション病院におけるロービジョンケア─第8報:緑内障患者に対するロービジョンケア─.あたらしい眼科19:673-678,20108)川瀬和秀:疾患別ロービジョンケア“緑内障”.眼紀57:261-266,20069)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,200910)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimeter.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199911)簗島謙次:視覚障害のリハビリテーション.ロービジョン・クリニック.あたらしい眼科9:1273-1279,199212)田淵昭雄,河原正明,廣田佳子ほか:眼科リハビリテーション・クリニックの重要性と課題.眼紀49:695-700,1998***(151)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131033

緑内障患者に対する光学的補助具の有効性

2013年6月30日 日曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):865.869,2013c緑内障患者に対する光学的補助具の有効性河本ひろ美*1柴田拓也*1麓智比呂*1伊藤裕美*1河原有美佳*1瀬谷剛史*1千葉マリ*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科AvailabilityofLowVisionAidsforHandicappedGlaucomaPatientsHiromiKohmoto1),TakuyaShibata1),ChihiroFumoto1),HiromiIto1),YumikaKawahara1),TakeshiSeya1),MariChiba1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院ではロービジョン患者に光学的補助具を処方しているが,光学的補助具を処方された緑内障患者31例に対して,アンケート調査を行い,その結果と診療録を検討した.アンケート調査は緑内障患者を対象にしたSumiの問診票を用いて不自由度を数値化し光学的補助具の処方前後で検討した.23例(74.2%)が補助具による日常生活の改善に満足していた.不便度が高かった文字の読解にも有意な改善がみられた.満足している症例が多いが,使用上の説明,訓練の不足のため,満足していない症例もあった.WeselectlowvisionaidsatInouyeEyeHospital.Weevaluatedvisualimpairmentin31handicappedglaucomapatientsbyquestionnaire,usingSumiTables.Lowvisionaidshavebeenusefulinimprovingthequalityoflifefor23(74.2%)ofthesepatients,especiallyhandicappedpatientsinreadingsignificantly.Somepatientsfeltnosatisfaction,becauseoflackofexplanationortraining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):865.869,2013〕Keywords:緑内障,光学的補助具,Sumiの問診票.glaucoma,lowvisionaids,SumiTables.はじめに緑内障患者の視覚障害による日常生活の不自由さは多岐にわたっている1).井上眼科病院では「目の相談室」を1999年11月に設置し,医師の指示に基づいて視能訓練士がロービジョン患者に光学的補助具を選定している.年間約150名が「目の相談室」を受診しており,疾患別では緑内障が23.2%と最多である2).今回筆者らは緑内障患者が日常生活にどのような不自由があるのか,どのような光学的補助具を希望したか,また処方された光学的補助具により不自由さがどのように改善したかを探る目的でアンケート調査を行った.I対象および方法2012年1月から8月までに「目の相談室」を受診したロービジョン患者は303例であり,そのうち緑内障患者は86例であり,光学的補助具を処方された緑内障患者31例(男性12例,女性19例,平均年齢74.3±10.7歳)を対象とした.対象症例の優位眼視力は,0.3未満が8例,0.3以上0.7未満が9例,0.7以上が14例であった.対象症例の視野は,Goldmann視野検査では,湖崎分類Iは2例,IIは5例,IIIは11例,IVは1例,Vは1例であった.Humphrey視野検査では,meandeviation(MD)値は,2例がMD>.6dB,5例が.12dB<MD≦.6dB,4例がMD≦.12dBであった.対象患者に以下に述べるアンケートを行い,その結果と診療録を検討した.アンケートは緑内障患者を対象にしたSumiの問診票3)(表1)を用いて不自由度を数値化し(非常に不便;2,やや不便;1,不便なし;0)(スコア),光学的補助具を処方前と処方1.2カ月後で比較した.また,光学的補助具に対する満足度,有効利用のための意見も聴取した.統計は対応のないt検定を用いた.有意差はp<0.05とした.当調査は井上眼科病院の倫理委員会の承認を受け,対〔別刷請求先〕河本ひろ美:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:HiromiKohmoto,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(143)865 表1Sumiの問診票(文献3より)読字(単語)1.新聞の見出しの大きい文字は読めますか.2.新聞の細かい文字を読めますか.3.辞書などの細かい文字は読めますか.4.電話帳や住所録の活字は読めますか.5.駅の料金表や路線図は見えますか.読字(文章)6.文章の読み書きに不自由を感じますか.7.縦書きの文章を書くとき,曲がってしまうことはよくありますか.8.文章を一行読んだ後,次の行に移るとき,見失うことはよくありますか.歩行(家の近所への外出について)9.見づらくて歩きづらいことはありますか.10.ひとりで散歩はできますか.11.信号を見落とすことはありますか.12.歩行中,人やものにぶつかることはありますか.13.階段を昇り降りするとき,つまずくことはよくありますか.14.道路に段差があったとき,気づかないことはありますか.15.知人とすれ違っても,相手から声をかけられてないとわからないことはありますか.16.人や走行中の車が脇から近づいてくるのがわからないときがありますか.移動〔交通機関(電車,バス,タクシーなど)を利用した外出〕17.見づらくて外出に不自由を感じることはありますか.18.知らないところに外出するとき,付き添いは必要ですか.19.タクシーを拾うとき,空車かどうか分からないことはありますか.20.電車やバスでの移動に不自由を感じますか.21.夜間の外出は見づらくて不安を感じますか.食事22.見づらくて食事に不自由を感じることはありますか.23.見づらくて食べこぼしたりすることはありますか.24.お茶やお湯を注ぐとき,こぼすことはよくありますか.25.おはしでおかずをつかむとき,つかみそこねることはありますか.着衣整容26.下着の表裏がわかりづらいことがありますか.27.お化粧や髭剃りの際,自分の顔は見えますか.その他28.テレビは見えますか.29.床に落とした物を探すのに苦労することがありますか.30.電話に顔を近づけないとかけづらいことがありますか.象者にはインフォームド・コンセントを施行した.II結果処方した光学的補助具のうち拡大鏡,ルーペ処方は10例であった.これら10例の平均年齢は79.0±4.3歳であった.優位眼視力は,0.3未満が4例,0.3以上0.7未満が5例,0.7以上が1例であった.Goldmann視野検査の結果は,湖崎分類Iは1例,IIは2例,IIIは5例,IVは1例,Vは1例であ866あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013った.遮光眼鏡処方は21例であった.これら21例の平均年齢は72.5±11.0歳であった.優位眼視力は,0.3未満が4例,0.3以上0.7未満が4例,0.7以上が13例であった.Goldmann視野検査の結果は,湖崎分類Iは1例,IIは3例,IIIは6例であった.Humphrey視野検査の結果では,2例がMD>.6dB,5例が.12dB<MD≦.6dB,4例がMD≦.12dBであった.選定された遮光眼鏡は,ブラウン系が10例と最も多く,ついでグレー系6例,グリーン系5例であった.光学的補助具処方前後の生活の改善度は,全体では,単語,文章ともに字の読みに有意に改善がみられた(p<0.05)(図1).さらに読字時の改善度を優位眼視力別に検討したところ,優位眼視力0.3未満の群,0.3以上0.7未満の群において,単語の読みで補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.0001).優位眼視力0.7以上の群において,文章の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.05)(図2).拡大鏡,ルーペは細かい字の読みの改善目的に処方するが,今回,拡大鏡,ルーペ処方群では単語の読みに関しては,新聞,辞書,電話帳などの細かい字の読みに有意に改善がみられた(p<0.05)(図3).遮光眼鏡は外出時の眩しさ軽減のために処方するが,遮光眼鏡処方群では,歩行,移動,食事において遮光眼鏡処方後,満足している症例が多かったが,処方前後で有意差はなかった(p=0.0679)(図4).満足度は,全体では8例(26%)が「とても満足」,15例(48%)が「少し満足」,8例(26%)が「満足なし」と回答した.拡大鏡,ルーペ処方群では,3例(30%)が「とても満足」,3例(30%)が「少し満足」,4例(40%)が「満足なし」と回答した.遮光眼鏡処方群では,5例(24%)が「とても満足」,12例(57%)が「少し満足」,4例(19%)が「満足なし」と回答した(表2).優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡,ルーペ処方群,遮光眼鏡処方群ともに,0.3未満の症例に満足度が低い結果となった(表3).有効利用度では,全体では12例(39%)が「とても有効利用している」,13例(42%)が「少し有効利用している」6例(19%)が「有効利用していない」と回答した.拡大鏡,(,)ルーペ処方群では,4例(40%)が「とても有効利用している」,3例(30%)が「少し有効利用している」,3例(30%)が「有効利用していない」と回答した.遮光眼鏡処方群では,8例(38%)が「とても有効利用している」,10例(48%)が「少し有効利用している」,3例(14%)が「有効利用していない」と回答した(表2).優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡,ルーペ処方群,遮光眼鏡処方群ともに,視力良好例ほど有効利用できているようであった(表3).III考按井上眼科病院の「目の相談室」において,ロービジョン患(144) スコアスコアスコア1.401.201.000.800.600.400.200.002.001.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00(n=31):前■:後*p<0.05(対応のあるt検定)1.11±0.130.82±0.141.12±0.020.85±0.080.71±0.070.71±0.070.82±0.030.83±0.070.54±0.110.51±0.140.52±0.060.51±0.110.74±0.040.70±0.07**読字…読字…歩行移動食事着衣…その他単語文章図1補助具選定前後の不便度(全体)単語,文章ともに字の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた.**1.53±0.201.16±0.04(n=31)1.63±0.231.42±0.28**1.33±0.200.84±0.25:前■:後1.40±0.071.00±0.11**p<0.0001,*p<0.05*0.71±0.170.62±0.080.62±0.220.46±0.12読字(単語)読字(文章)読字(単語)読字(文章)読字(単語)読字(文章)~0.30.3~0.70.7~(n=8)(n=9)(n=14)優位眼視力図2補助具選定前後の読字時の不便度(優位眼視力別)優位眼視力0.3未満の群(n=8),0.3以上0.7以下の群(n=9)において,単語の読みで補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.0001).優位眼視力0.7以上の群(n=14)において,文章の読みに補助具選定後に有意に改善がみられた(p<0.05).者に処方した光学的補助具は字の読み改善目的での拡大鏡,ルーペ処方が約75%と多く,視力良好(0.7以上)症例では,羞明改善目的での遮光眼鏡処方が66.7%と多かった2).中村らの報告によると,井上眼科病院の「目の相談室」において補助具を処方した40例の緑内障患者に面談したところ読み書きに対するニーズが92.5%と最も多かった4).今回の筆者らの対象は,視力0.7以上が45.2%と多く,処方された光学的補助具も遮光眼鏡が67.6%と多かった.比較的視力や視野が良好で,遮光眼鏡処方前も生活にあまり困っていない症例でも遮光眼鏡により羞明に改善がみられ,満足しているが,アンケート上の生活の不便さには,処方前後で有意差はみられなかった.今回はじめて遮光眼鏡の存在を知り,もっと早く知っていれば良かったという意見もあった.遮光眼鏡は身体障害者手帳を取得している場合,要件を満たしていれば疾患にかかわらず遮光眼鏡が支給されることに2010年に改正された.緑内障では次第に視野が障害されていくが,視(145)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013867 スコアスコア2.52p<0.05(対応のあるt検定)1.5図3補助具選定前後の不便度(拡大鏡・ルーペ選定群)1読字(単語),新聞,辞書,電話帳などの細かい字の読みに有意に改善がみられた.0.500.10±0.321.80±0.421.90±0.321.80±0.421.90±0.321.10±0.741.00±0.820.90±0.741.50±0.71***(n=10):前:後*1.新聞見出しの2.新聞読める3.辞書などの4.電話帳や5.駅の料金表大きい字が細かい字が住所録のや路線図は読める読める活字が読める見える0.90(n=21)0.80:前■:後0.700.60図4補助具選定前後の不便度(遮光眼鏡群)0.50歩行,移動,食事において遮光眼鏡処方後改0.40善がみられたが,処方前後で有意差はなかった.0.300.200.100.000.62±0.090.74±0.060.44±0.090.41±0.040.62±0.070.57±0.090.65±0.040.35±0.070.75±0.060.52±0.1歩行移動食事着衣整容その他表2補助具選定後の満足度,有効利用度(n=31)ルーペ遮光眼鏡全体とても満足3例(30%)5例(24%)8例(26%)少し満足3例(30%)12例(57%)15例(48%)満足なし4例(40%)4例(19%)8例(26%)とても有効利用4例(40%)8例(38%)12例(39%)少し有効利用3例(30%)10例(48%)13例(42%)有効利用なし3例(30%)3例(14%)6例(19%)野欠損の部位が広がると,羞明をきたす症例が多い5).井上眼科病院での遮光眼鏡の処方を調査したところブラウン系の処方が全体の4割,ついでグリーン系,グレー系,イエロー系であった6).柳澤らの報告では緑内障患者に選定された遮光眼鏡ではイエロー系が24%と最も多かった7).今回緑内障患者に選定された遮光眼鏡は,ブラウン系が10例(32.3%)と最も多く,ついでグレー系6例(19.4%),グリーン系5例(16.2%)であった.今回の筆者らの遮光眼鏡処方症例は,比較的視覚良好例が多く,外見上の問題からイエロー系が選ばれなかったと考えられた.視野欠損部位が邪魔になる,読み飛ばしをするなど,視野868あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013表3優位眼視力別満足度,有効利用度【ルーペ選定後の優位眼視力別満足度,有効利用度】優位眼視力0.3未満0.3以上0.7未満0.7以上とても満足2例1例少し満足1例2例満足なし3例1例とても有効利用1例2例1例少し有効利用1例2例有効利用なし2例1例【遮光眼鏡選定後の優位眼視力別満足度,有効利用度】優位眼視力0.3未満0.3以上0.7未満0.7以上とても満足1例1例5例少し満足1例2例12例満足なし2例1例4例とても有効利用1例2例8例少し有効利用2例1例10例有効利用なし1例1例3例優位眼視力別に検討したところ,拡大鏡・ルーペ処方群(n=10),遮光眼鏡処方群(n=21)ともに,視力良好例ほど満足度が高く,有効利用できているようであった.(146) 異常による読字困難に対し,拡大鏡,ルーペが処方される.拡大鏡,ルーペ処方の症例は,比較的視野や視力が不良例が多く,処方前は困っていたことが改善され,満足している症例が多い.満足度では不便度が高かった細かい字の読解に改善がみられた.しかし高度に視力,視野が障害されている症例は光学的補助具を使用してもまだ不便であり有効利用できない症例があり,満足がみられなかった.練習をもっとしたいとの意見があった.このような症例でも視野障害を考慮したルーペの使用法を詳しく説明されて満足している意見もあり,個々の症例に合わせた詳しい説明と使い方の練習が重要である.今後ルーペ使用後にも再度使用法について面談すべきであると思われた.視野欠損において,川瀬らはタイコスコープの有用性を述べている5).当院でもルーペ使用でも読書時の不自由を訴える症例には,行間間違いの軽減目的でタイコスコープを検討してみたいと思われた.遮光眼鏡処方症例においては,眩しさ軽減のため外出時の不便度の改善がみられた.遮光眼鏡装用後,室内で洋服を選ぶのに色合いがわかりにくくなったという意見があり,遮光眼鏡処方後の着衣整容の不便度悪化の原因と考えられた.遮光眼鏡処方後満足している症例が多く,視力良好例ほど有効利用できている傾向であった.しかし使用上の説明,訓練の不足のため,満足していない症例もあった.これまで視覚補助具の有効活用に関するアンケート調査の報告では,有効利用の要因として,使用法が容易であることがあげられる8).有効利用のためには,行政担当者の視覚補助具に対する知識が必要だという意見が多い8).今回筆者らの症例でも役所に書類を揃えて持って行ったところ所得制限のため,対象外と言われた症例があった.書類を取りに行った段階でその説明をすべきだと思われた.われわれ医療関係者のみならず,行政担当者の視覚補助具に対する啓蒙活動が必要と思われる.緑内障患者は多く,日々の忙しい診療において,患者の視覚障害による生活の不自由度を詳しく知ることはむずかしいが,患者の声に耳を傾け,より良い光学的補助具を提案し,その使用法について詳しく説明することが大切だと思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)国松志保:緑内障患者のロービジョンケア.あたらしい眼科26:1077-1078,20092)中村秋穂,堂山かさね,石井祐子ほか:井上眼科病院での7年間におけるロービジョンエイドの選定.日本ロービジョン学会誌8:148-152,20083)SumiI,SiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20034)中村秋穂,細野佳津子,石井祐子ほか:井上眼科病院緑内障外来におけるロービジョンケア.あたらしい眼科22:821-825,20055)川瀬和秀,浅野紀美江:疾患別ロービジョンケア“緑内障”.眼紀57:261-266,20066)楡井しのぶ,堂山かさね,国谷暁美ほか:井上眼科病院における遮光眼鏡の選定に影響を及ぼす因子.日本視能訓練士協会誌39:217-223,20107)柳澤美衣子,国松志保,加藤聡ほか:眼科ロービジョン外来における使用頻度の高い光学的補助具.臨眼61:363366,20078)三柴恵美子,平塚英治,小町裕子:ロービジョン者用視覚補助具の保有状況と有効活用に関するアンケート調査.日本視能訓練士協会誌39:233-238,2010***(147)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013869

水晶体亜脱臼と多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を合併した緑内障の1例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):561.567,2013c水晶体亜脱臼と多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を合併した緑内障の1例善本三和子*1桃原久枝*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2丸の内中央眼科診療所ACaseofGlaucomawithLensSubluxationandMultifocalPosteriorPigmentEpitheliopathyMiwakoYoshimoto1),HisaeMomohara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)MarunouchiCentralEyeClinic症例:52歳,男性.経過:2001年9月10日,左眼視力低下・眼圧上昇にて東京逓信病院眼科紹介初診.初診時,視力は右眼0.6(1.0),左眼0.04(0.7),眼圧は両眼15mmHg(左眼ラタノプロストとドルゾラミド点眼下),左眼の浅前房,前房内炎症,漿液性網膜.離と耳鳴があり,原田病を考えステロイド薬を全身投与し,視力は回復した.2008年頃より眼圧コントロールが悪化し,両眼の水晶体亜脱臼と白内障(R>L)も進行したため,2009年8月右眼白内障手術(眼内レンズ縫着)を施行するも,その後さらに右眼眼圧は上昇した.2010年8月左眼胞状網膜.離を発症.多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を考え,左眼硝子体切除術を施行し,網膜は復位した.右眼は,同年9月線維柱帯切除術を施行後7日目に胞状網膜.離を起こしたが,経過観察のみで網膜は自然復位した.結論:漿液性網膜.離に対するステロイド薬治療後,両眼の胞状網膜.離を合併し,眼圧コントロールに苦慮した緑内障症例を経験した.Wereportthecaseofa52-year-oldmalewhoconsultedusonSept10,2001withvisualacuityof0.6(1.0)REand0.04(0.7)LE.Intraocularpressure(IOP)ofbotheyeswas15mmHg(withglaucomaeyedropsinLE),withshallowanteriorchamber;floatersandinflammatoryserousretinaldetachmentwerealsoobserved.Healsohadtinnitus.UpondiagnosisofHarada’sdisease,systemiccorticosteroidtreatmentwasadministered,resultinginrecoveryofvisualacuity.Sevenyearslater,IOPbecameelevatedandcataractouslenssubluxationdeveloped.AftercataractsurgerytoRE,itsIOPbecamecontinuouslyelevated.InAugust2010,bullousretinaldetachmentoccurredinLE;wediagnosedmultifocalposteriorpigmentepitheliopathy(MPPE).TheLEretinareattachedaftervitrectomy.TrabeculectomywasperformedinRE,butonpostoperativeday7,bullousretinaldetachmentoccurred.Within1month,however,theretinareattachedwithouttreatment.WeexperiencedacaseofHarada’sdiseasewithuncontrollablesevereglaucomathatdevelopedtoMPPE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):561.567,2013〕Keywords:浅前房,原田病,水晶体亜脱臼,多発性後極部網膜色素上皮症,緑内障.shallowanteriorchamber,Harada’sdisease,lenssubluxation,multifocalposteriorpigmentepitheliopathy(MPPE),glaucoma.はじめに浅前房の鑑別診断には,原発閉塞隅角緑内障と続発閉塞隅角緑内障があり,後者の原因のなかで,原田病は,水晶体後方組織の前方移動によるものの代表的な疾患である1).今回筆者らは,片眼の浅前房,前房内炎症,両眼後極部漿液性網膜.離,耳鳴を初発時症状とし,原田病と考え,ステロイド薬全身投与を行い,いったんは視力が回復した症例で,その数年後に水晶体亜脱臼と白内障が進行し,両眼に多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorpigmentepitheliopathy:MPPE)を合併した緑内障症例を経験したので報告する.I症例と経過症例:52歳,男性.〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)561 主訴:左眼視力低下.既往歴:右眼再発性角膜上皮.離.全身疾患は特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2001年5月頃より左眼のかすみと耳鳴を自覚したが放置していた.他に頭痛や感冒様症状,難聴,脱毛,毛髪および皮膚の白変などの症状はなかった.2001年8月29日,丸の内中央眼科診療所を受診し,視力は右眼(1.0),左眼(0.15),眼圧は右眼12mmHg,左眼18mmHg,左眼の浅前房を認めた.その後さらに左眼眼圧が上昇したため,ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液とドルゾラミド(トルソプトR)点眼液を開始し,2001年9月10日東京逓信病院眼科(以下,当院)を紹介初診となった.現症:初診時視力は,VD=0.6(1.5×.3.0D(cyl.0.75DAx115°),VS=0.04(0.7×.4.25D(cyl.1.0DAx70°),眼圧は両眼ともに15mmHg(左眼のみ上記2剤点眼下)であった.前眼部所見では,右眼は異常なく,左眼で浅前房(vanHerick法Grade1),散瞳後に前房内cell(+)出現,隅角所見は,右眼Shaffer分類3度,左眼はShaffer分類0.1度と左眼は狭隅角であったが,両眼とも色素沈着はSheie分類0度,周辺虹彩前癒着(PAS)や結節はみられなかった.両眼とも,視神経乳頭に緑内障性変化はみられなかったが,両眼後極部に漿液性網膜.離を認めた.経過:初診当日施行したフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,両眼に多発性の顆粒状の過蛍光と網膜下への蛍光色素の貯留を認めた(図1)ため,原田病を考え,ステロイド薬全身投与を開始した.治療開始時は,多忙で入院不可能であったため,髄液検査を施行することができず,プレドニゾロン(プレドニンR,以下PSL)80mg/日の内服から開始したが,効果不十分であった.2001年11月6日より入院にてステロイドパルス療法(PSL換算1,000mg/日×3日間)を施行し,その後漸減し,漿液性網膜.離は消失し,矯正視力も右眼(1.0),左眼(1.2)と改善したため,その後は,紹介元にて経過観察となった(図2).2002年6月24日,漿液性網膜.離が再発(図3)し,再度紹介受診となり,PSL40mg/日から開始し,漸減したところ,漿液性網膜.離は軽快したが,右眼には緑内障性視神経症が存在していた.2003年1月末まで当科にて経過観察したが,その間眼圧は右眼12.17mmHg,左眼13.21mmHgであった.2008年7月3日,緑内障性視神経症が進行したので再度紹介となり(図4),両眼にカルテオロール塩酸塩持続性点眼液(ミロルR)点眼にて,眼圧は右眼13mmHg,左眼16mmHg,矯正視力は右眼0.5p,左眼1.2,右眼には点状の角膜混濁とその周囲の角膜上皮障害(再発性)と水晶体亜脱臼を認め,左眼の水晶体亜脱臼ははっきりしなかったが,浅前房を認めた(図5).その後左眼眼圧が上昇したため,レーザー虹彩切開術を施行し,右眼はさらに水晶体亜脱臼が進行したため,2009年8月20日右眼水晶体全摘+眼内レンズ縫着術を施行したが,右眼は術後にさらに眼圧が上昇した.アセタゾラミド(ダイアモックスR)の内服やD-マンニトール(マンニトールR)の点滴静注を併用したが,眼圧のコントロールがつかず,経過中,ときに前房内炎症を認め眼圧が40mmHgに上昇したため,続発緑内障も考え,PSL20mg/日の内服を開始し,ようやく眼圧は20mmHg台に下降したが,その間に緑内障性視神経症が進行した.2010年3月,耳鳴と両眼後極部の漿液性網膜.離を認め,視力は右眼(0.4),左眼(0.9)と低下したため,原田病の再右眼左眼図1初診時FA写真右眼:後極部網膜には多発性の顆粒状の過蛍光があり,後期には蛍光色素の網膜下貯留(→)を認めた.左眼:黄斑部耳側に蛍光貯留所見(→)があり,視神経乳頭鼻側にも過蛍光部位が存在していた.562あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(134) 眼圧(mmHg)50454035302520151050:TOD:TOS80mg/日40mg/日左眼キサラタンR+トルソプトR両眼ミロルR左眼LI右眼catope20mg/日40mg/日左眼vit+catope右眼lectomyダイアモックスR内服右眼デタントールR右眼タプロスR右眼エイゾプトR右眼サンピロR左眼ミケランR+デタントールR:PSL内服治療:ステロイドパルス療法200109102001100320011029200112032002062420020715200208122002091920021031200212092008091820081106200903122009082520090903200910142009101820091029200911162009120320100114201003152010042620100520201006242010071201008262010101220101026201011102010120220101227201101202011021720110324201105122011063020110818経過観察日図2全経過表TOD=右眼圧,TOS=左眼圧,LI:レーザー虹彩切開術,catope:白内障手術,lectomy:線維柱帯切除術,vit+catope:硝子体切除術+白内障手術,PSL:プレドニンR.右眼左眼図32002年6月眼底写真漿液性網膜.離(→)が再発していた.(135)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013563 右眼左眼図42008年7月視神経乳頭写真両眼の緑内障性視神経症の進行を認めた.右眼左眼図52008年7月前眼部写真右眼:再発性の角膜上皮障害()と水晶体亜脱臼()を認めた.左眼:浅前房がさらに進行していた.発を考え,PSL40mg/日の内服を再開したが,効果が乏しく,2010年4月入院にて,ステロイドパルス療法を行った.1クール目のパルス療法には反応しなかったため,2クール目を施行したところ,視力は右眼(0.9),左眼(1.2)と回復したが,その後右眼の眼圧も20.30mmHg前後で経過し,PSL漸減中の2010年6月には眼底後極部に円形の漿液性網膜色素上皮.離を数カ所認めるようになった.PSLおよびアセタゾラミド(ダイアモックスR)両者ともに内服を中止することができずに経過観察していると,2010年7月より左眼の水晶体亜脱臼が進行し,同年8月12日には,左眼の胞状網膜.離を認め(図6),それまで矯正で1.2あった視力が0.3に低下した.網膜周辺部には明らかな裂孔形成はなく,Bモード超音波検査では,体位変換による網膜下液の移動が図62010年8月12日左眼眼底写真黄斑部を含む下方の胞状網膜.離を認めた.564あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(136) ☆☆☆☆図72010年8月13日左眼FA写真白矢印:点状の蛍光漏出部位を認め,後期にはその周囲に蛍光漏出が拡大した(☆).白縁取り矢印:色素上皮裂孔による強い過蛍光を認めた.図82010年9月17日右眼眼底写真(緑内障術後)黄斑部を含む,丈の高い胞状網膜.離を認めた.明らかであったが,強膜の肥厚や周辺部の脈絡膜.離は認められなかった.また,2009年8月右眼の白内障手術前に測定した眼軸長は,右眼で24.73mm,左眼では24.34mmであり,胞状網膜.離の原因としては,uvealeffusionではなく,MPPEを考えた.FAを施行した(図7)ところ,点状の蛍光漏出とその周囲に淡い後期過蛍光部位の拡大,黄斑部耳側から下方周辺部にかけて,色素上皮裂孔による境界明瞭な過蛍光を認めた.網膜.離のない蛍光漏出部位に対して,網膜光凝固を施行するも,胞状網膜.離はさらに拡大したため,同年9月3日,左眼硝子体切除術+眼内網膜光凝固+SF6(六フッ化硫黄)ガス注入術+亜脱臼水晶体摘出+眼内レンズ縫着術を施行した.術中所見では,広い範囲に網膜色素上皮裂孔に伴う網膜色素上皮の欠損が認められたが,幸いにも黄斑部は保たれており,術中に液-空気置換にて網膜を復位させた後に,術前FAの蛍光漏出部位には眼内光凝固術(137)を施行した.術後経過が比較的良好であったため,右眼の緑内障に対して,1週間後の9月10日線維柱帯切除術を施行した.術後は右眼の眼圧は10mmHg前後で経過していたが,右眼術後1週目の9月17日に右眼に胞状網膜.離が出現した(図8).左眼と同様にMPPEと考えたが,濾過手術直後であることを考え,硝子体手術は施行せずに経過観察としたところ,1カ月後右眼の網膜は自然復位した(図9).左眼は硝子体手術後,網膜.離の再発はなく網膜は復位した(図9).最終受診時の2011年8月18日,矯正視力は右眼0.2,左眼1.2,眼圧は右眼10mmHg,左眼はカルテオロール(2%ミケランR)点眼液とブナゾシン(デタントールR)点眼液点眼下で15mmHgであり,両眼ともに緑内障性視神経症が進行し,特に右眼では中心視野が消失し,視力は不良となったが,左眼ではMPPEと緑内障両方による視野障害を残したあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013565 右眼左眼左眼図92010年10月21日両眼眼底写真右眼:胞状網膜.離は1カ月で自然復位した.左眼:硝子体切除術後,網膜は復位した.右眼左眼MD-29.90dBMD-23.25dB図102011年8月視野検査:HumphreySITA30.2右眼:緑内障性視神経症と網膜萎縮により矯正視力は0.2に低下した.左眼:中心視野は残存したため,矯正視力は1.2に保たれた.が,中心と耳側視野は保たれ,中心視力を温存することが可能であった(図10).II考按本症例は,約10年間に,原田病,水晶体亜脱臼,緑内障,再発性角膜上皮.離,MPPEによる胞状網膜.離などの多彩な眼病変を両眼性に認め,ステロイド薬全身投与,硝子体手術,緑内障手術などの手術治療を行ったが,最終的には緑内障性視野障害が進行し,片眼の視力低下を避けられなかった1症例である.原田病は,浅前房の鑑別診断として,ときに見逃されやすく注意を要する疾患であるが,本症例では初診時より眼圧上昇と浅前房があり,前駆症状としての耳鳴,後極部の漿液性網膜.離と合わせて原田病と考え,ステロイド薬治療を開始した.入院が不可能で外来通院時よりステロイド薬内服を開566あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013始したため,髄液検査は施行できなかった.しかし,ステロイド薬治療に対する反応は良好で視力も回復したが,眼圧上昇は続き,水晶体亜脱臼が右眼に先行し進行性に増悪した.経過中の眼圧上昇の機序としては,浅前房と前房内炎症に伴う続発性との両方の機序が混合していると考えられたが,原田病の寛解期に施行した水晶体摘出と眼内レンズ縫着術後の著しい眼圧上昇は術前の予想を上回り,続発性の眼圧上昇と考えられ,ステロイド薬内服投与を追加することで,眼圧をいったんコントロールすることが可能であった.経過中のステロイド薬投与は,大きく分けるとパルス療法(PSL換算1,000mg/day×3日にて治療開始)が計3回,PSL内服単独治療(PSL40mg/dayにて投与開始)が計2回で,初発時のパルス治療に対する反応は良好で,その後のPSL内服治療は,眼底病変の再発と一時的な浅前房の進行,また右眼水晶体手術後の眼圧上昇時にそれぞれ使用したが,いずれも治療に反応していた.しかし,2010年3月以降の眼底病変に対する2回目のパルス療法には反応が悪く,その後同じ病変に対する2クール目として行った3回目のパルス療法に対する反応は良好であった(表1).過去に,原田病のステロイド薬治療中に胞状網膜.離をきたし,MPPEと診断された症例2)や,遷延化した原田病に胞状網膜.離を合併した症例などが報告3.5)されているが,MPPEなどの疾患を含む一連の網膜色素上皮症に対するステロイド薬治療は無効であるだけでなく,むしろ増悪させるともいわれており,ステロイド薬の投与は網膜色素上皮症の発症原因に関与しているとも考えられている6.8).本症例のステロイド薬治療に対する反応を顧みると,初発時とその後のステロイド薬投与によく反応していた時期は原田病の診断(138) として正しいと考えられたが,2010年3月の2回目のステロイドパルス療法の頃より認められた漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離は,MPPEの所見の一部をみていた可能性も考えられた.そして,本症例のMPPEの発症機序には,2001年の原田病発症時以降,その再発時,または浅前房の悪化,眼圧上昇時など,長年にわたるステロイド薬投与が,ステロイド薬による創傷治癒遅延をひき起こし,原田病により障害を受けた網膜色素上皮の修復が障害されてMPPEを発症したと推測された.本症例をMPPEと診断した根拠は,検眼鏡的に後極部網膜に黄白色の網膜色素上皮.離と漿液性網膜.離を認めたこと,FA所見で病変部位に一致する旺盛な蛍光漏出があったこと,また誘因と考えられているステロイド薬の長期使用歴があり,かつステロイドパルス療法が無効であったことなどであるが,胞状網膜.離を呈した際に大きな色素上皮裂孔を認めたことも,網膜色素上皮障害を根本原因とする網膜色素上皮症という一連の疾患群のなかにある疾患であるということを強く考えた.さらに胞状網膜.離の鑑別診断として,uvealeffusionがあげられるが,眼軸長測定により小眼球症はなく,Bモード超音波検査にて,強膜肥厚や周辺部の脈絡膜.離がないこと,FAにてleopar-spotに相当する周辺部の顆粒状の過蛍光がないこと,蛍光漏出があることなどより,uvealeffusionではなく,MPPEという診断に至った.さらに,本症例の長い経過のなかの反省点は,緑内障手術時期の遅れである.角膜病変,水晶体病変,前房内炎症,眼底病変など複数病変が生じる状態での緑内障手術時期の決定は大変むずかしいが,本症例における現在の右眼の視機能障害の主因は,緑内障性視野障害の進行による中心視野の消失であることを考えると,右眼の眼圧上昇に対しもう少し早期に積極的に手術治療の介入をすべきであったとも考えられる.しかしながら,脱臼水晶体の処理,その後に起こしえた胞状網膜.離に対する硝子体手術治療の可能性などを考えると,どの時点が緑内障手術治療として正しい時期であったのかを決めることはむずかしい症例であったと思われる.以上,原田病を発症後,水晶体亜脱臼,原田病の再発,MPPE,再発性角膜上皮.離などの病変を次々に発症し繰り返し,長い経過中,眼圧コントロールに大変苦慮し,最終的には,緑内障性視野障害の進行により,右眼視力低下に至った症例の経過を報告した.さらに類似症例を集積することにより,原因に対するアプローチを含めた適切な眼科治療を明らかにすることが必要と考えられた.本稿の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版),第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20122)竹内玲美,菅原道孝,鶴岡三恵子ほか:ステロイド全身投与で急性増悪した多発性後極部網膜色素上皮症の1例.眼科47:881-885,20053)井上俊輔,宮本文夫:原田病に対するステロイド内服療法中に,中心性漿液性網脈絡膜症様あるいは胞状網膜.離様所見を呈した1例.眼臨79:1849-1853,19854)山本晋,安藤伸朗,阿部達也ほか:遷延化した原田病に合併した胞状網膜.離の1例.眼紀45:323-327,19945)籠谷保明,伊藤美樹,山本節ほか:高度な胞状網膜.離を伴った原田病の1例.眼紀44:1463-1468,19936)山本陽子,間宮和久,大黒浩ほか:MPPEが疑われ,ステロイド治療がためらわれた原田病の2例.眼科45:1077-1081,20037)WakakuraM,IshikawaS:Centralserouschorioretinopathycomplicatingsystemiccorticosteroidtreatment.BrJOphthalmol68:329-331,19848)PolakBC,BaarsmaGS,SnyersB:Diffuseretinalpigmentepitheliopathycomplicatingsystemiccorticosteroidtreatment.BrJOphthalmol79:922-925,1995***(139)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013567

タフルプロスト点眼薬併用下でのβ遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):551.554,2013cタフルプロスト点眼薬併用下でのb遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾田原昭彦永田竜朗宮本理恵宮本直哉藤紀彦原田行規近藤寛之産業医科大学眼科学教室EffectofSwitchingfromBeta-BlockertoDorzolamideandTimololFixed-CombinationEyedropsinGlaucomaPatientsTreatedwithTafluprostandBeta-BlockerShingoIshibashi,AkihikoTawara,TatsuoNagata,RieMiyamoto,NaoyaMiyamoto,NorihikoTou,YukinoriHaradaandHiroyukiKondouDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行っても臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例を対象に,b遮断点眼薬を1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また,結膜充血,角膜上皮障害についても観察した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,3カ月後ともに有意に下降した.一方,平均血圧,平均脈拍数は変更前・後で有意な差はなかった.また,結膜充血,角膜上皮障害の程度にも有意な変化はなかった.タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬の併用療法をしている症例に対して,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧が下降しかつ安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithtafluprost(TAF)andbeta-blockereyedrops,theeffectsonintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP)andpulseofswitchingtodorzolamideandtimololfixed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1andmonth3aftertheswitch.Atmonths1and3afterDTFCinitiation,meanIOPdecreasedsignificantly,ascomparedtobeforeswitching.TherewerenosignificantdifferencesinBPorpulsebetweenbeforeandaftertheswitch.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithTAFandbeta-blockerwhoswitchedtoDTFCexhibitedsignificantdecreaseinIOPwithoutincreasingthenumberofeyedropsorsafety,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):551.554,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,副作用.dorzolamideandtimololfixed-combination,glaucoma,intraocularpressure,sideeffects.はじめに緑内障に対する唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.初期の開放隅角緑内障では眼圧を1mmHg下降させると緑内障進行の危険性が約10%低下するとの報告1)がある.また,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)や,眼圧を12mmHgに抑えないと視野障害が進行する可能性が高いとの報告3)がある.以前,筆者らは正常眼圧緑内障に対するプロスタグランジン関連薬(PG)単剤使用での眼圧下降率を調査した4).その結果,眼圧が30%以上下降した症例,あるいは12mmHg以下であったものは54.1%であった.したがって,第一選択薬として使用されているPG単剤では,視野障害進行の抑制に十分であるとは考えられない.日本緑内障学会が作成した緑内障診療ガイドライン5)では,「単剤で視神経障害の進行を阻止しうると考える目標眼圧に達しない場合は,まず薬剤(単剤)の変更を考〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(123)551 慮し,それでも効果が不十分であるときには多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行う」と記載されている.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告6)がある.しかし,抗緑内障点眼薬2剤使用症例に1剤を配合点眼薬へ切り替えることによる有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回タフルプロスト点眼薬(tafluprost:TAF)とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2011年3月から2012年8月までの期間,産業医科大学病院でタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性6例,女性14例,年齢は70.9±10.9(平均値±標準偏差)歳である.病型は,原発開放隅角緑内障12例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障2例である.なお,b遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬11例,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬2例,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬7例である.方法は,タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが,目標眼圧に達しない,もしくは視野障害の進行が認められるため,さらなる眼圧下降が必要と判断した場合,b遮断点眼薬を中止し,washout期間を置かずに1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で,血圧と脈拍数は電動式血圧計で各1回ずつ測定した.また,DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に結膜充血と角膜上皮障害について,細隙灯顕微鏡で観察した.結膜充血は,充血なしをスコア0,重度の充血をスコア4とし,充血の程度を5段階に分類してスコア化した.また,角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてAD(area/density)分類7)で評価し,AとDの合計をスコアとした.全症例の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数の平均値を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ552あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013月後とで比較した.同時に,全症例の結膜充血スコア,角膜上皮障害スコアの平均値も治療前後で比較した.解析には,全症例の片眼を用いて(両眼の場合は左眼を採用),右眼6例,左眼14例とした.統計学的解析は,眼圧と血圧と脈拍数については対応のあるt-検定を使用し,結膜充血と角膜上皮障害についてはWilcoxon符号順位検定を用いて,危険率5%以下を有意な差ありと判断した.II結果全症例の眼圧の平均値は,変更前15.8±2.9mmHg(平均値±標準偏差),変更1カ月後14.0±2.8mmHg,変更3カ月後14.0±2.7mmHgで,変更前と後の差は変更1カ月後1.8mmHg,変更3カ月後も1.8mmHgで,変更前と比較して変更後いずれも有意に下降していた(p<0.0001,p<0.005,図1).全症例の平均眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であった.全症例の収縮期血圧の平均値は,変更前138.2±14.6mmHg,変更1カ月後140.0±16.9mmHg,変更3カ月後140.3±13.8mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.7,p=0.5).全症例の拡張期血圧の平均値は,変更前77.5±11.6mmHg,変更1カ月後80.6±11.9mmHg,変更3カ月後81.2±11.1mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.2,p=0.2).全症例の脈拍数の平均値は,変更前66.7±11.6回/分,変更1カ月後66.6±9.0回/分,変更3カ月後67.8±8.5回/分と,変更前・後で有意な差はなかった(p=1.0,p=0.6).眼圧(mmHg)変更3カ月後変更前変更1カ月後***15.8±2.914.0±2.814.0±2.72520151050図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均眼圧は,いずれも変更前に比較して変更後有意に下降している.変更前からの眼圧下降幅は,変更1カ月後は1.8mmHg,変更3カ月後は1.8mmHgで,変更前からの眼圧下降率は,変更1カ月後は11.6±10.2%,変更3カ月後は10.2±13.8%でいずれも変更前に比較して有意に下降している.*:p<0.0001,**:p<0.005,n=20.(124) :角膜:充血##2.521.510.51.7±0.91.5±0.91.4±1.00.4±0.80.4±0.80.4±0.8スコ##変更前変更1カ月後変更3カ月後図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の結膜充血,角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均結膜充血,平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後で有意な変化はない.♯:有意差なし,n=20.全症例の結膜充血スコアの平均値は,変更前0.4±0.8,変更1カ月後,3カ月後も0.4±0.8で,変更前・後で有意な差はなかった(p=検定不能,図2).全症例の角膜上皮障害スコアの平均値は,変更前1.7±0.9,変更1カ月後1.5±0.9,変更3カ月後1.4±1.0で,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.4,p=0.2,図2).III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告2,3,8)されている.1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCは緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制することで眼圧が下降すると考えられている9).今回,TAFとb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ変更し,眼圧,血圧,脈拍数の変化と同時に結膜充血,角膜上皮障害の変化を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ月後とで比較し,その結果を検討した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後ともに有意に下降し,平均眼圧の眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.PG製剤とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対してb遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧への効果を調べた報告はないが,ラタノプロストとb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障眼に対して1%ドルゾラミド塩酸塩点眼薬(125)を追加した場合の眼圧への効果を調べた丹羽らの報告10)では,平均眼圧は追加1カ月後有意に下降し眼圧下降率は11%であった.また,Tsukamotoら11)は追加2カ月後の眼圧下降率は9.8%であった.本研究では,切り替え前に使用しているb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果は,カルテオロール塩酸塩からチモロールマレイン酸塩への切り替えによる眼圧下降効果と1%ドルゾラミド塩酸塩の1日2回点眼による追加効果であり,一概に1%ドルゾラミド塩酸塩の1日3回点眼の追加による眼圧下降効果と比較はできないが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧下降率は約10.11%であり,眼圧下降効果は1%ドルゾラミド塩酸塩を追加した場合とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPG製剤とb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障の眼圧下降治療において優れた薬剤であるといえる.また,アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告12)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要である.高橋らの点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告13)や,木内らの多剤併用療法から配合剤への切り替え後のアドヒアランスは向上したとの報告14)がある.今回,アドヒアランスについて調査はしていないが,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧下降作用を示したことからも,緑内障の治療薬として優れた薬剤であるといえる.b遮断点眼薬は全身的副作用があり心拍数と血圧の低下を生じるが,今回筆者らの研究では,b遮断点眼薬からDTFCへの切り替えで,血圧,脈拍数に有意な変化はなかった.このことは,DTFCにはチモロールマレイン酸塩が含まれているためと考えられる.また,今回の結果で,結膜充血の程度にも有意な変化はなかった.PG製剤は,結膜充血をひき起こし,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが充血が強いと報告15)されている.本研究ではPG製剤であるTAFはそのまま使用を継続しているため,結膜充血の程度に変化がなかったと考えられる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告16)されている.今回の研究では,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や頻度,主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013553 ったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが塩化ベンザルコニウムの影響を減少させている作用があること17)が影響している可能性がある.また,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬と0.5%チモロールマレイン酸塩持続点眼薬とで,角膜上皮障害への影響に差はなかったとの報告18)も角膜上皮障害に差がなかった結果を支持する.これらのことから,本研究のb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.本研究では,b遮断点眼薬が0.5%チモロールマレイン酸塩だけではないことから,各々のb遮断点眼薬からのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用について,さらなる調査の必要があると考える.また,緑内障診療ガイドライン5)では,無治療時から20%,30%の眼圧下降率を目標眼圧として設定することが推奨され,視神経障害の進行を阻止できた時点ではじめて目標眼圧が適切であると確認できる.本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であったが,PG製剤とb遮断点眼薬を使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,無治療時からの眼圧下降率は調査できなかった.DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.さらには,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性も否定できない.以上,TAFとb遮断点眼薬の併用療法で眼圧下降効果が不十分な症例に対してb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,点眼薬数を増やすことなく有意に眼圧を下降させ,血圧,脈拍数に影響がなく,さらに結膜充血,角膜上皮障害の程度を変化させないことから,有効かつ安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,20032)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)TheAGISInvestigators:Theadvancedglaucomaintervensionstudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraoculardeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)石橋真吾,廣瀬直文,田原昭彦:正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動に対するラタノプロストの効果.あたらしい眼科21:1693-1696,20045)日本緑内障学会緑内障ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20126)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第Ⅲ相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20117)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19948)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldperformanceincentral30°fieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology104:197-201,19979)中谷雄介,大久保真司:知っておきたい配合剤(炭酸脱水酵素阻害薬+b遮断薬).あたらしい眼科29:479-485,201210)丹羽義明,山本哲也:各種緑内障眼に対する塩酸ドルゾラミドの効果.あたらしい眼科19:1501-1506,200211)TsukamotoH,NomaH,MatsuyamaSetal:Theefficacyandsafetyoftopicalbrinzolamideanddorzolamidewhenaddedtothecombinationtherapyoflatanoprostandabeta-blockerinpatientswithglaucoma.JOculPharmacolTher21:170-173,200512)RossiGC,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadherenceratesandglaucomatousvisualfieldprogressioncorrelate?EurJOphthalmol21:410-414,201113)高橋真紀子,内藤智子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,201214)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討.あたらしい眼科29:831-834,201215)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,201216)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729732,201017)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201118)北澤克明,東郁夫,塚原重雄ほか:1日1回点眼製剤TimololGS点眼液─チモロール点眼液1日2回点眼との臨床第Ⅲ相比較試験─.あたらしい眼科13:143-154,1996***554あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(126)

正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケラン® LA2%)の眼血流への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405 者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120) 2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407 子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)

Heidelberg Edge Perimeter(HEP)の使用経験

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1573.1578,2012cHeidelbergEdgePerimeter(HEP)の使用経験江浦真理子*1松本長太*1橋本茂樹*1奥山幸子*1高田園子*1小池英子*2野本裕貴*1七部史*1萱澤朋康*1沼田卓也*1下村嘉一*1*1近畿大学医学部眼科学教室*2近畿大学医学部堺病院眼科ClinicalUsefulnessofHeidelbergEdgePerimeterMarikoEura1),ChotaMatsumoto1),ShigekiHashimoto1),SachikoOkuyama1),SonokoTakada1),EikoKoike2),HirokiNomoto1),FumiTanabe1),TomoyasuKayazawa1),TakuyaNumata1)andYoshikazuShimomura1)1)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SakaiHospitalKinkiUniversityFacultyofMedicine目的:HeidelbergEdgePerimeter(HEP)は錯視輪郭であるFlickerDefinedForm(FDF)視標を用いM-cell系の異常を選択的に捉え,早期の緑内障性視野異常の検出を目的として開発された視野計である.今回,HEPの臨床的有用性について検討した.対象および方法:正常被験者20例20眼,緑内障患者20例20眼(平均年齢47.1±14.7歳)(極早期10眼,早期10眼)を対象に,HEP(FDFASTA-Standard24-2)を用い視野測定を行った.結果:HEPのROC(ReceiverOperatingCharacteristic)曲線下面積は0.73(トータル偏差),0.87(パターン偏差),特異度は30%(トータル偏差),80%(パターン偏差)であった.結論:HEPは早期の緑内障において視野障害を検出できる検査法の一つであることが示唆された.一方,正常値に関しては再検討の必要があると考えられた.Purpose:TheHeidelbergEdgePerimeter(HEP)wasdevelopedtodetectearlyglaucomausingFlickerDefinedForm(FDF),anewstimulusthatselectivelystimulatesthemagnocellularsystemtogenerateanillusoryedgecontour.WeevaluatedtheclinicalusefulnessofHEP.SubjectsandMethods:Subjectscomprised20eyesof20normalsubjectsand20eyesof20patientswithglaucoma(averageage,47.1±14.7years;10eyeswithpreperimetricglaucomaand10eyeswithearlystageglaucoma).AllsubjectsunderwentHEPusingtheFDF24-2ASTA-Standardstrategy.Results:Theareaunderthecurve(AUC)inHEPwas0.73usingtotaldeviationand0.87usingpatterndeviation.HEPspecificitywas30%withtotaldeviationand80%withpatterndeviation.Con-clusion:HEPappearstobeausefulmethodfordetectingearlyglaucoma,althoughthenormaldatabaseinHEPmayneedfurthervalidation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1573.1578,2012〕Keywords:緑内障,視野,HeidelbergEdgePerimeter(HEP),錯視輪郭,FlickerDefinedForm(FDF).glaucoma,visualfield,HeidelbergEdgePerimeter,illusorycontour,FlickerDefinedForm(FDF).はじめに緑内障では明度識別視野検査で異常が検出される時期ではすでに多くの神経線維が障害されていることが知られている.Quigleyらは,Goldmann視野計では視野異常の出現までに約50%の,自動視野計では5dBの感度低下の出現までに約20%の網膜神経節細胞の減少が生じていることを報告している1,2).これらのデータはヒトの視神経の余剰性を示す一方,明度識別視野検査による極早期緑内障検出の限界も示している.網膜神経節細胞は,解剖学的・生理学的特徴によっていくつかのサブタイプに分類される3,4).Quigleyらは緑内障ではそのサブタイプのなかで特に太い軸策を持つ大型の網膜神経節細胞(K-cell系,M-cell系)が早期に減少することを報告している5).また,K-cell系,M-cell系は比較的少数で余剰性が少ないため,これらの機能を選択的に検査することで検出能力が上がるとする考え方もある6).そこで,これらのサブタイプをターゲットとし,通常の視野検査よりも早期に異常を検出しうる機能選択的視野検査法が開発されてきた.〔別刷請求先〕江浦真理子:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarikoEura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-Higashi,Osakasayama-shi589-8511,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(123)1573 K-cell系をおもにターゲットとしたShortWavelengthAutomatedPerimetry(SWAP)(CarlZeiss社製),M-cell系をおもにターゲットとしたFrequencyDoublingTechnology(FDT)(CarlZeiss社製)やフリッカー視野(Haag-Streit社製)は,緑内障の早期検出に有用であることが報告されている7.10).Flanaganらは,緑内障の早期発見を目的に,おもにMcell系をターゲットとした視野計であるHeidelbergEdgePerimeter(HEP)(Heidelberg社製)を開発した(図1).HEPは,FlickerDefinedForm(FDF)という錯視現象を用いている11).FDFとは,平均輝度50cd/m2の背景において,背景と直径5°内に,白と黒の相の異なるランダムなドットをおき,白と黒を反転させ,反転速度を上げていくと,15Hz以上ではドット自体は認識されず,円の輪郭つまり“edge”のみが浮かび上がる錯視現象である(図2).錯視現象については,Livingstoneらが,2つの隣接した輝度の異なった領域を15Hzで反転させると,その領域の境界に輪郭が知覚されると初めて提唱した4).その後,Rogersらが,刺激視標をランダムな点に変えても同様の錯視現象が生じることを報告しており12),HEPはこの現象を応用し開発された.図1HeidelbergEdgePerimeter(HEP)の外観今回,極早期および早期の緑内障患者を対象に,HEPの臨床的有用性について検討したので報告する.I対象および方法対象は,正常被験者20例20眼(平均年齢36.2±9.7歳)緑内障患者20例20眼(平均年齢57.8±10.0歳),計40例(,)40眼(平均年齢47.1±14.7歳,男性15例,女性25例)である.緑内障の内訳は,正常眼圧緑内障10例10眼,原発開放隅角緑内障(狭義)10例10眼,病期は極早期10例10眼,早期10例10眼(Anderson分類13))である.今回対象とした正常被験者は,眼底に異常を認めず,StandardAutomatedPerimetry(SAP)を少なくとも2回以上測定したことのあるものを採用した.極早期の定義は,眼底に視神経乳頭陥凹拡大,網膜神経線維束欠損,視神経乳頭辺縁部の菲薄化などの緑内障性変化を認めるが,SAPにおいてAnderson基準を満たさないものとした.全例に対し,構造的検査として眼底写真およびCirrusOCT(光干渉断層計)〔RetinalNerveFiberLayer(RNFL)ThicknessAnalysis:OpticDiscCube200×200〕,機能的検査としてSAP(HFASITA-Standard24-2)およびHEP(FDFASTA-Standard24-2)(SoftwareVersion2.1)を施行した.視野検査の信頼性は,SAPおよびHEP両者とも,固視不良が20%未満,偽陽性が15%未満,偽陰性が33%未満のすべてを満たす場合を対象とした.なお,矯正視力が0.8以下,等価球面度数が.6.00D以上の近視眼,中間透光体の混濁があるもの,視神経・網膜疾患の既往のあるものは対象から除外した.また,この研究は近畿大学医学部付属病院倫理委員会で承認され,ヘルシンキ宣言に基づき,全例から書面によるインフォームド・コンセントを得て行われた.今回用いたHEPのASTA-Standard24-2はHFAのSITA-Standard24-2と類似した測定アルゴリズムである.4dBと2dBの2種類で行うbracketing法を用い,正常者の年齢別感度パターンに照らし,被験者の期待される閾値に最も近い輝度を順次提示する最尤法を用いている.SITAが正+=図2FlickerDefinedForm(FDF)背景と直径5°内に白と黒の相の異なるランダムなドットを置き,白黒を反転させると,15Hz以上ではドット自体は認識されず,円の輪郭“edge”のみが浮かび上がる.1574あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(124) 常者と緑内障患者の年齢別感度パターンを元に測定しているのに対し,ASTAは正常者の年齢別感度パターンを元に測定している点が異なっている.測定点はHFAと同じ中心24°内の52ポイントを計測する.50cd/m2の背景スクリーンの中に,視角0.33°の大きさのドットが,視角1°内に約3.5個の密度でランダムに配置されている.その中で,検査視標となる直径5°の円内にあるドットと,それ以外の背景のドットは15Hzで白黒が反転する.FDF錯視が成立すると,視標の輪郭が直径5°のリング状に知覚される.視標内のドットの輝度と背景のドットの輝度はそれぞれ0.100cd/m2の範囲で変化し,両者の平均が常に50cd/m2になるように設定されている.たとえば,背景のドットが平均輝度よりも20cd/m2明るいときには,視標内のドットは平均輝度よりも20cd/m2暗く,逆に背景のドットが平均輝度よりも20cd/m2暗いときには視標内のドットは平均輝度よりも20cd/m2明るい.このように,視標内と背景のドットのコントラストを変化させ,FDF錯視で認められるリング状の輪郭が自覚できる最少のコントラストを閾値として用いている.視標の応答基準は,インストラクションマニュアルに従い,点滅する背景の中に,リングのみならず何かグレーの部分が見えたらボタンを押すよう説明した.視標提示時間は400msである.固視監視はビデオカメラ法で行われ,瞬目,固視不良,偽陰性,偽陽性はリアルタイムにサイドのモニターに表示される.今回の視野検査は,2回目以降の検査結果を採用し,検査順序は無作為に選択し,各検査間には十分な休憩を入れた.HEPの緑内障検出能の評価においては,視野検査における測定点52点中のp<5%の異常点数を用い,ReceiverOperatingCharacteristic(ROC)曲線を作成してROC曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)を病期別に算出し,AUC0.5との有意差を統計学的に検討した.つぎに,正常被験者20眼の視野検査結果に対しAnderson基準を適応し,HEPの特異度を算出した.測定結果をもとに,SAPとHEPのmeandeviation(MD),測定時間についても比較検討を行った.II結果HEPのAUCは,極早期と早期を合わせると,トータル偏差において0.73(p=0.060),パターン偏差において0.87(p<0.01)であった.病期別にみると,極早期ではトータル偏差で0.72(p=0.13),パターン偏差で0.85(p<0.05),早期ではトータル偏差で0.74(p=0.11),パターン偏差で0.89(p<0.01)であった.正常被験者20眼におけるHEPの特異度は,トータル偏差では30%と非常に低く,パターン偏差においては80%であった.正常被験者20眼におけるSAPとHEPのMD値を(125)20-2.0-4.0-6.0-8.0-10図3各視野計の正常被験者におけるMD値(平均値±SD)表1緑内障各病期および正常被験者の検査に要した時間(平均値)MD(dB)(n=20)-0.91±1.16-4.09±2.39SAPHEPSAPHEP正常(n=20)緑内障(n=20)極早期(n=10)早期(n=10)4分32秒5分18秒5分02秒5分34秒7分51秒10分31秒10分17秒10分44秒図3に示す.SAPのMD値は.0.91±1.16と,SAPに内蔵されている年齢別正常値との差はほとんど認めなかった.それに対し,HEPのMD値は.4.09±2.39であり,HEPに内蔵されている年齢別正常値よりも非常に低く,ばらつきも大きかった.表1に,検査に要した平均時間を示す.HEPの平均測定時間は,正常被験者では7分51秒,緑内障患者においては10分31秒であった.病期別にみると,極早期では10分17秒,早期では10分44秒であった.図4は44歳,女性で,極早期の原発開放隅角緑内障の右眼の検査結果である.眼底写真およびCirrusOCTにおいて下方の視神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)を認めた.HEPでは,トータル偏差においてびまん性の視感度の低下を認めた.一方,パターン偏差ではNFLDに一致した,おもに上半視野に限局した視感度の低下を認めた.図5は65歳,女性の正常眼圧緑内障の右眼で,Anderson分類の早期に相当した.眼底写真およびCirrusOCTでは,下方にNFLDを認めた.HEPでは,トータル偏差においてびまん性の視感度の低下を認めたが,パターン偏差では,NFLDに一致した,おもに上半視野の視感度の低下を認めた.III考按HEPは緑内障の早期発見を目的に新しく開発された機能選択的視野検査法であり,網膜神経節細胞のサブタイプの一つであるM-cell系をおもにターゲットとしている.今回,極早期および早期の緑内障患者を対象にHEPを用いて視野あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121575 abcdefga:眼底写真b:CirrusOCTc:SAP(グレースケール)d:SAP(トータル偏差)e:HEP(トータル偏差)f:SAP(パターン偏差)g:HEP(パターン偏差)図4症例1(44歳,女性):原発開放隅角緑内障(狭義)(極早期,右眼)測定を行い,その臨床的有用性について検討した.まず,HEPの緑内障検出能について検討するため,HEPのAUCを算出した.HEPのAUCは病期が進むほど高い値を示し,極早期+早期,極早期,早期のすべてにおいて,パターン偏差を用いた場合にAUC0.5との有意差を認めた.パターン偏差におけるHEPのAUCは,従来から緑内障の早期検出に有用とされているSWAP,FDT,フリッカー視野の過去の論文におけるAUCと類似した値であった14).このことから,HEPは極早期および早期緑内障の検出に有用な検査法の一つであると考えられた.一方,トータル偏差におけるAUCは極早期+早期,極早期,早期のすべてにおいてパターン偏差におけるAUCよりも低く,AUC0.5との有意差も認めなかった.実際の症例においても,トータル偏差ではびまん性の異常として示されるのに対し,パターン偏差にすると限局した視感度の低下として示された.視野検査におけるトータル偏差でのびまん性の異常の原因としては,一般的に,被験者が検査に不慣れであること,疲労現象,白内障などの中間透光体の影響,屈折の影響などがあげられる.今回の検査は,学習効果を考慮して2回目以降の検査結果を採用し,疲労現象を回避するために十分な休憩をとり施行した.白内障などの中間透光体の混濁のある症例や等価球面度数が.6.00D以上の近視眼は除外し,検査時には遠用の屈折矯正レンズを用いた.これにもかかわらず,今回トータル偏差でびまん性の異常が検出されており,HEPに内蔵されている正常値に問題がある可能性が考えられた.正常被験者におけるHEPのMD値は.4.09±2.39と低く,ばらつきも大きいことがわかった.また,HEPの特異度はトータル偏差では30%と非常に低く,パターン偏差では80%であった.このことから,正常被験者においても,トータル偏差でびまん性の異常が検出されることがわかり,HEPに内蔵されている正常値に関してはやはり再考の必要があると考えられた.正常値が低くなった原因として,ドームを持たないタイプの視野計で,レンズ系を覗きながら視野検査を行う場合,若年者では調節の影響でびまん性感度低下が生じやすいという報告があり15),今回の正常被験者は比較的若年者が多かった1576あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(126) abecdfga:眼底写真b:CirrusOCTc:SAP(グレースケール)d:SAP(トータル偏差)e:HEP(トータル偏差)f:SAP(パターン偏差)g:HEP(パターン偏差)図5症例2(65歳,女性):正常眼圧緑内障(早期,右眼)ことも影響している可能性が考えられる.さらに,視標の応答基準も正常値が低くなった要因の一つであることが推測されたが,今回はFDTで行われているのと同様に16),リングが見えたらではなく,リングは認識されなくても何かが見えたら応答するという形をとっており,こちらのほうがむしろ感度は上がると考えられるため,正常値が低い原因としては考えにくい.HEPの検査に要した平均時間は,正常被験者で7分51秒,緑内障患者で10分31秒であり,ともにSAPよりも長かった.また,極早期では10分17秒,早期では10分44秒であり,病期が進行すると検査時間が長くなった.HEPではSAPと同様,24-2の測定点の配置を用いたため,測定点の配置に関して両者に差はなく,HEPにおいて検査時間が長い原因としては,SAPとHEPの閾値測定アルゴリズムの違いが考えられる.今回HEPで用いた閾値測定アルゴリズムであるFDFASTA-Standardは,SAPのSITA-Standardと類似した閾値測定アルゴリズムであるが,SITAが正常者と緑内障患者の年齢別感度パターンを元に測定しているのに対し,ASTAは正常者の年齢別感度パターンを元に測定している点が異なっている.現在,さらに時間を短縮した新しい閾値測定アルゴリズムが開発され,つぎのバージョンで搭載予定となっている.被験者のHEPに対する印象としては,「他の視野検査と比較し視標の認識がむずかしい」など,検査の難易度が高いことをあげる被験者が多かった.HEPは従来の視野計と異なり,視標のみでなく,背景もフリッカーしコントラストが変化するため,リングが認識しにくくなり,検査の難易度が高くなると考えられる.測定に際しては,実際に提示される視標を用いて,十分な説明と練習が不可欠であると考えられた.今回,HEPの使用経験を経て,HEPは極早期および早期の緑内障の検出に有用な検査法の一つであることがわかった.一方,問題点として,内蔵されている正常値に関して再考の必要がある点,検査時間が長い点などがあげられた.今後,これらの問題を改善することにより,HEPは緑内障の早期診断の補助検査方法の一つとなる可能性があると考えら(127)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121577 れた.文献1)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWR:Opticnervedamageinhumanglaucoma.III.Quantitativecorrelationofnervefiberlossandvisualfielddefectinglaucoma,ischemicneuropathy,papilledema,andtoxicneuropathy.ArchOphthalmol100:135-146,19822)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453464,19893)LivingstoneMS,HubelDH:Psychophysicalevidenceforseparatechannelsfortheperceptionofform,color,movement,anddepth.JNeurosci7:3416,19874)ShapleyR:Visualsensitivityandparallelretinocorticalchannels.AnnuRevPsychol41:635-658,19905)QuigleyHA,SanchezRM,DunkelbergerGRetal:Chronicglaucomaselectivelydamagelargeopticnervefibers.InvestOphthalmolVisSci28:913-920,19876)JohnsonCA:Selectiveversusnonselectivelossesinglaucoma.JGlaucoma1:S32-34,19947)JohnsonCA,AdamsAJ,CassonEJetal:Progressionofearlyglaucomatousvisualfieldlossasdetectedbyblue-on-yellowandstandardwhite-on-whiteautomatedperimetry.ArchOphthalmol111:651-656,19938)BrusiniP,BusattoP:Frequencydoublingperimetryinglaucomaearlydiagnosis.ActaOphthalmol227:23-24,19989)MedeirosFA,SamplePA,WeinrebRN:Frequencydoublingtechnologyperimetryabnormalitiesaspredictorsofglaucomatousvisualfieldloss.AmJOphthalmol137:863-871,200410)MatsumotoC,TakadaS,OkuyamaSetal:AutomatedflickerperimetryinglaucomausingOctopus311:acomparativestudywiththeHumphreyMatrix.ActaOphthalmolScand(Suppl)84:210-215,200611)QuaidPT,FlanaganJG:Definingthelimitsofflickerdefinedform:effectofstimulussize,eccentricityandnumberofrandomdots.VisionRes45:1075-1084,200412)Rogers-RamachandranDC,RamachandranVS:Psychophysicalevidenceforboundaryandsurfacesystemsinhumanvision.VisionRes38:71-77,199813)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199914)NomotoH,MatsumotoC,TakadaSetal:DetectabilityofglaucomatouschangesusingSAP,FDT,flickerperimetry,andOCT.JGlaucoma18:165-171,200915)OkuyamaS,MatsumotoC,UyamaKetal:ReappraisalofnormalvaluesofthevisualfieldusingtheOctopus1-2-3.PerimetryUpdate:359-363,1992/199316)McKendrickAM,AndersonAJ,JohnsonCAetal:Appearanceofthefrequencydoublingstimulusinnormalsubjectsandpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci44:1111-1116,2003***1578あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(128)

緑内障治療用の配合点眼液の1日薬剤費用評価

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1405.1409,2012c緑内障治療用の配合点眼液の1日薬剤費用評価冨田隆志*1櫻下弘志*1池田博昭*1塚本秀利*2木平健治*1*1広島大学病院薬剤部*2高山眼科EconomicConsiderationsRegardingtheNewFixed-CombinationOphthalmicSolutionsforTreatingGlaucomaTakashiTomita1),HiroshiSakurashita1),HiroakiIkeda1),HidetoshiTsukamoto2)andKenjiKihira1)1)DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,2)TakayamaEyeClinic新たに上市された緑内障用配合点眼液について,後発品を含む単味製剤を併用した場合と比較した薬剤経済性を評価した.評価対象は,ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRと,これらを構成する成分の単味製剤(キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品,トルソプトR1%)のうち,入手可能であった22銘柄とし,各製剤の薬価,および総滴下数・1日使用回数・薬価から算出した理論上の1日薬剤費用を比較した.配合剤は先発品の単味製剤併用と比較すると安価で,後発品単味製剤併用と比較すると高価であったが,1日薬剤費用では後発品単味製剤を使用しても配合剤より高価になる組み合わせも認められた.1日薬剤費用の比較は,配合剤の評価においても必要と考えられる.Thecostsofthenewlyapprovedfixed-combinationophthalmicsolutionsfortreatingglaucomawereinvestigatedandcomparedwithuseoftheirseparatecomponents,includinginnovatorandgenericproductformulations.XalacomR,DuotravaRandCosoptR,asfixedcombinations,andtheiravailableseparatecomponentformulationswerestudied.Thepriceperbottleandthetheoreticalactualdailycostwerecalculatedonthebasisoftotaldropcountperbottle,standarddailydosageandofficialpriceofeachproduct.Thepriceperbottleandthedailycostoffixed-combinationproductswerelowerthanthoseofseparateformulationcombinationswhenusinginnovatorproducts,andconsiderablyhigherwhenusinggenericproducts.However,evaluationonthebasisofactualdailycostrevealedthatcertaincombinationsusinggenericproductsweremoreexpensivethanfixed-combinationproductformulations.Actualdailycostmayalsobehelpfulineconomicalevaluationoffixed-combinationophthalmicsolutions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1405.1409,2012〕Keywords:薬剤費,緑内障,配合点眼液,先発医薬品,後発医薬品.medicationcosts,glaucoma,fixed-combinationophthalmicsolution,innovatorproduct,genericproduct.はじめに医療用配合剤の承認申請の要件として,2005年に「患者の利便性の向上に明らかに資するもの」(医薬審査発第0331009号医薬食品局審査管理課長通知)が追加されて以降,内服薬を中心に多くの配合剤が発売された.点眼液の配合剤は2010年4月からザラカムR(ファイザー),2010年6月からデュオトラバR(日本アルコン),コソプトR(MSD)の3銘柄が上市されている(それぞれラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,ドルゾラミド塩酸塩1%とチモロールマレイン酸塩0.5%の配合剤).筆者らは,点眼液の1滴容量は,容器を含む種々の要因で銘柄間に差が存在するため,点眼液の薬剤費用を比較する際は1瓶当たりの薬価基準(以下,薬価)を比較することに加え,点眼液1瓶を実際に使用できる期間(以下,点眼可能期間)から算出した薬剤費用の比較を行うことで,より適切に薬剤経済性が比較できることをこれまでに報告した1.4).今回,新たに上市された配合剤の薬剤経済性を明らかにする目的で,配合成分の単味製剤(先発医薬品:以下先発品,〔別刷請求先〕池田博昭:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学病院薬剤部Reprintrequests:HiroakiIkeda,DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)1405 および後発医薬品:以下後発品を含む)を併用点眼した場合の経済性を,1瓶当たりの薬価および実際の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用(以下,1日薬剤費用)で比較した.I方法対象は,ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRの3種の配合剤,およびこれら配合剤を構成する単味製剤(キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品,トルソプトR1%)のうち,入手可能であった22銘柄とした.1.1瓶の薬価調査対象とした点眼液の多くは,1日1回点眼の製剤は1瓶容量2.5mL,1日2回点眼の製剤は1瓶容量5mLであることから,1瓶当たりの薬価を比較に用いた.なお,トルソプトRは1日3回点眼で1瓶容量5mLであるため,比較には1.5瓶分の薬価を用いた.薬価は,小数点以下を四捨五入して比較した.2.1日薬剤費用a.ザラカムR,デュオトラバR,コソプトRについて既報1.4)と同様に室温(23℃)で専任者1名により1滴ずつ加圧滴下し,1瓶当たりの総滴数を計測した.計測は1名の計測者により同一ロット3瓶について行い,その平均値の小数点以下を切り捨てた滴下数と,添付文書記載の用法で両眼1回1滴点眼した場合の1日点眼滴数と2012年4月1日改訂薬価から,理論上の1日薬剤費用を算出した.b.その他の点眼液キサラタンR,ラタノプロスト後発品,トラバタンズR,トルソプトR1%,チモプトールR0.5%,チモロールマレイン酸塩0.5%後発品の1日薬剤費用は,筆者らの既報の滴下数1.4)を2012年4月1日改訂薬価に基づいて再計算した.II結果1.1瓶の薬価表1に対象とした配合剤および単味製剤の1瓶容量,1日表1対象とした点眼薬の1瓶容量,薬価および点眼回数製品名1瓶容量(mL)1瓶薬価(円)点眼回数(片眼)配合剤先発品ザラカムR配合点眼液2.53,243.001デュオトラバR配合点眼液2.53,386.251コソプトR配合点眼液5.03,340.002ラタノプロスト先発品キサラタンR点眼液0.005%2.51,923.251後発品ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」,「アメル」,「ケミファ」,「センジュ」,「ニットー」2.51,427.001同「NS」,「TOA」,「ニッテン」2.51,364.751同「NP」,「TYK」,「イセイ」,「科研」,「コーワ」,「トーワ」,「わかもと」2.51,280.001同「キッセイ」,「タカタ」,「マイラン」2.51,191.751同「CH」,「KRM」,「TS」,「サワイ」2.51,094.001同「三和」,「日医工」2.5936.001トラボプロスト先発品トラバタンズR点眼液0.004%2.52,449.001ドルゾラミド先発品トルソプトR点眼液1%5.01,445.50*3チモロール先発品チモプトールR点眼液0.5%5.01,760.502チモプトールRXE点眼液0.5%2.51,877.501リズモンRTG点眼液0.5%2.51,839.751後発品チモレートR点眼液0.5%,チモレートRPF点眼液0.5%,リズモンR点眼液0.5%5.0583.502チモロール点眼液0.5%「テイカ」,チモロール点眼液T0.5%5.0532.002チアブートR点眼液0.5%,ファルチモR点眼液0.55.0348.002*:トルソプトR点眼液は1日3回点眼で1瓶容量5mLであるため,以後の比較では1.5瓶分の薬価を用いている.1406あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(90) 点眼回数,1瓶薬価を示し,配合剤を構成する単味製剤の組み合わせの薬価の分布を図1に示した.a.ザラカムRについて(表1)ザラカムR1瓶の薬価は3,243円で,単味製剤先発品の合計薬価3,684円(キサラタンR1瓶1,923円とチモプトールR0.5%1瓶1,761円)より441円安価であったが,最も安価な単味製剤後発品併用の合計薬価1,284円(ラタノプロスト・三和または日医工1瓶936円とチアブートRまたはファルチモR1瓶348円)より1,954円高価であった.ザラカムRに対する単味製剤併用の薬価比は0.40.1.14であった.それぞれの単味製剤の先発品と後発品の1瓶の最大薬価差はチモロールが1,530円,ラタノプロストが987円であり,後発品を使用することによって生じる薬価差はチモロールで:配合剤:先発品+先発品:先発品+チモロール後発品:ラタノプロスト後発品+先発品:後発品+後発品A4,500影響が大きかった.一方,後発品の銘柄間の1瓶薬価の差は,チモロールが236円,ラタノプロストが491円であり,後発品の銘柄選択の影響はラタノプロストで大きかった.b.デュオトラバRについて(表1)デュオトラバR1瓶の薬価は3,386円で,単味製剤先発品の合計薬価4,210円(トラバタンズR1瓶2,449円,チモプトールR0.5%1瓶1,761円)より824円安価であったが,トラバタンズRとチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートRまたはファルチモR1瓶348円)併用の合計薬価2,797円より589円高価であった.デュオトラバRに対する単味製剤併用の薬価比は0.83.1.24であった.c.コソプトRについて(表1)コソプトR1瓶の薬価は3,340円で,単味製剤先発品の合計薬価3,929円(トルソプトR1.5瓶2,168円,チモプトールR0.5%1瓶1,761円)より589円安価であったが,トルソプトRにチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートRまたはファルチモR1瓶348円)併用の合計薬価2,516円より824円高価であった.コソプトRに対する単味製剤併用の薬価比は0.75.1.18であった.1瓶薬価(円)B4,0002.1日薬剤費用3,500今回,新たに計測した配合剤の1日薬剤費用を表2に,筆3,000者らの既報値から現在の薬価を用いて再算出した単味製剤の2,5001日薬剤費用を表3に示した.図1に配合剤を構成する単味2,0001,500製剤の組み合わせの1日薬剤費用の分布を示した.1,000a.ザラカムRについて500ザラカムRの1日薬剤費用は72.1円で,単味製剤先発品0の合計88.3円(キサラタンR42.3円,チモプトールR0.5%1801日薬剤費用(円)160140120100806040200ザラカムRデュオトラバRコソプトR図1配合剤と単味製剤併用の1瓶薬価および1日薬剤費46.0円)より16.2円安価であったが,最も安価な単味製剤後発品併用の合計30.7円(ラタノプロスト・三和または日医工20.8円,チアブートR9.9円)より41.4円高価であった.ザラカムRに対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.43.1.22であり,単味製剤をいずれも後発品で併用した場合はどの組み合わせでもザラカムRよりも安価であった.b.デュオトラバRについてデュオトラバRの1日薬剤費用は67.7円で,単味製剤先発品の合計93.6円(トラバタンズR47.6円,チモプトールR用の比較0.5%46.0円)より25.9円安価であった.トラバタンズRとA:1瓶薬価.B:1日薬剤費用について,横線で配合剤チモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートR9.9の費用を示し,縦線で単味製剤併用時の費用の分布(最大値から最小値)を示した.円)の合計57.5円より10.2円高価であった.デュオトラバR表2配合点眼薬の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用製品名1瓶薬価(円)点眼回数(片眼)滴下可能数1滴薬剤費用(円)1日薬剤費用(両眼)(円)ザラカムR配合点眼液デュオトラバR配合点眼液コソプトR配合点眼液3,2433,3863,34011290.7±2.1100.7±3.1123±1.736.033.927.272.167.7108.6(91)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121407 表3単味製剤の点眼可能期間を考慮した1日薬剤費用製品名1日薬剤費用(円)キサラタンR点眼液0.005%42.31)ラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」41.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「TOA」40.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」38.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」38.61)ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」38.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」37.91)ラタノプロスト点眼液0.005%「トーワ」36.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「科研」35.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「ケミファ」31.71)ラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」31.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「KRM」30.41)ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」30.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」29.21)ラタノプロスト点眼液0.005%「NS」28.71)ラタノプロスト点眼液0.005%「タカタ」26.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」26.11)ラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」25.91)ラタノプロスト点眼液0.005%「マイラン」24.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「キッセイ」24.61)ラタノプロスト点眼液0.005%「TS」22.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「三和」20.81)ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」20.81)トラバタンズR点眼液0.004%49.52)トルソプトR点眼液1%78.13)リズモンRTG点眼液0.5%94.34)チモプトールRXE点眼液0.5%49.44)チモプトールR点眼液0.5%46.04)チモレートR点眼液0.5%21.24)リズモンR点眼液0.5%18.14)チモロール点眼液0.5%「テイカ」17.04)チモロール点眼液T0.5%16.84)ファルチモR点眼液0.512.14)チアブートR点眼液0.5%9.94)に対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.85.1.38であった.c.コソプトRについてコソプトRの1日薬剤費用は108.6円,単味製剤先発品の合計124.1円(トルソプトR78.1円,チモプトールR0.5%46.0円)より15.5円安価であった.トルソプトRとチモプトールR0.5%の最も安価な後発品(チアブートR9.9円)の合計87.9円より20.7円高価であった.コソプトRに対する単味製剤併用の1日薬剤費用比は0.81.1.14であった.III考察配合剤を使用する利点として,点眼回数の減少とそれに伴う点眼間隔に要する時間の減少などの患者の利便性向上によ1408あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012るアドヒアランスの改善の他,複数回点眼時に直前に点眼した薬剤が洗い流されてしまうリスクも少ないことなどがある.また,配合剤では,点眼液に含まれる添加剤の角膜上皮への曝露量を最小限にできることから,副作用の軽減などの治療上の改善も考えられる5).緑内障患者は長期にわたり点眼液を使用するため,点眼液の薬剤費用がアドヒアランスに影響を及ぼすという報告もある6,7).点眼液を選択するうえでは治療効果のみならず,その経済性も考慮することが望まれる.配合剤使用の薬剤費用への影響は,点眼回数の違いや後発品の存在のため複雑である.今回検討対象とした配合剤の1日点眼回数は,配合した単味製剤の少ないほうに統一されている.ザラカムR,デュオトラバRではチモロールの点眼回数が1日2回から1回に,コソプトRではドルゾラミドの点眼回数が1日3回から2回に減ることになる.しかしながら,ザラカムR,コソプトRについては,単味製剤をそれぞれの用法で併用した場合と比較した眼圧降下作用の非劣性が臨床試験で示されている(ザラカムR配合点眼液承認審査報告書およびコソプトR配合点眼液承認審査報告書,医薬品医療機器総合機構).デュオトラバRについても,チモロールの点眼回数についてはザラカムRと同様であることから,本検討では薬剤費用だけを評価した.点眼液の薬剤費用を評価する手段としては,1瓶薬価を比較することが簡便である.配合剤の1瓶薬価は,単味製剤先発品併用の合計より割安であったが,チモロールの後発品を用いた併用では,いずれの組み合わせでも配合剤の薬剤費用が割高となった.配合剤の新収載時の薬価は,単味製剤の合計金額(後発品が発売されている品目については,最も安価な銘柄の薬価を使用)の8割,あるいは単味製剤いずれかの薬価の高い価格と改められている.しかし,今回検討の対象とした3種の配合剤の薬価収載時には外用剤はこのルールから除外されており,先発品の薬価の単純な合計額となっている.配合剤の1日点眼回数が単味製剤使用時よりも少なく設定されているという用法の違いから,先発品使用時を考えると配合点眼薬は単剤併用よりも安価になるが,その程度は軽微である.単味製剤にはすでに後発品も上市されている場合があり,後発品を組み合わせて使用することを考えると,配合剤の薬価が割高となった.一方,点眼液の滴下容量は,薬剤の種類のみでなく,点眼容器の形状,添加物濃度などの影響を受けるため,点眼液の経済性比較を行う際には,1滴容量を加味した1日薬剤費用の評価が必要である.1日薬剤費用での比較においても,先発品を使用すると単味製剤併用よりも配合剤が安価になり,後発品を使用すると単味製剤併用が配合剤よりも安価になる傾向は変わらなかった.しかし,単味製剤併用において,後(92) 発品を用いても配合剤の薬剤費用を上回る組み合わせも存在しており(デュオトラバR67.7円に対し,トラバタンズRとチモレートRの併用が70.7円,など),後発品間の1日薬剤費用の違いが薬価の違いよりも大きいこと,ラタノプロスト製剤は,後発品のなかに1日薬剤費用が先発品とほとんど変わらないものも存在していることなどの影響が認められた.今回の検討では,1日薬剤費用の考慮により,配合剤の経済性を実際に即した形で評価できた.容器や添加物の違いも,使用性や忍容性にも影響しうるため,薬剤選択のうえで重要な要素である.しかし,1日薬剤費用による経済性の比較は,配合剤の評価においても必要と考えられる.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)櫻下弘志,冨田隆志,池田博昭ほか:ラタノプロスト点眼液の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼65:1079-1082,20112)冨田隆志,櫻下弘志,池田博昭ほか:プロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較.あたらしい眼科28:1179-1181,20113)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴用量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20064)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:b遮断薬点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,20095)山崎仁志,宮川靖博,目時友美ほか:トラボプロスト点眼液の点状表層角膜症に対する影響.あたらしい眼科27:1123-1126,20106)FriedmanDS,HahnSR,GelbLetal:Doctor-patientcommunication,health-relatedbeliefs,andadherenceinglaucomaresultsfromtheGlaucomaAdherenceandPersistencyStudy.Ophthalmology115:1320-1327,20087)TsaiJC:Acomprehensiveperspectiveonpatientadherencetotopicalglaucomatherapy.Ophthalmology116:S30-S36,2009***(93)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121409

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1303.1311,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野AnExploratoryStudyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)の探索的臨床試験として,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%または0.15%製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果および安全性を,プラセボを対照として比較検討した.主要評価項目に設定した投与4週間後の0時間値および2時間値の眼圧変化値において,0.1%群および0.15%群はいずれもプラセボに比べ有意な眼圧下降を示した.また,0.1%群と0.15%群の眼圧下降効果および副作用発現頻度に差はなく,副次評価項目の眼圧変化率,目標眼圧達成率やノンレスポンダー率においても主要評価を支持する結果を得た.眼科学的検査,血圧・脈拍数や臨床検査においても臨床的に問題となる変動はなく,本剤の忍容性が確認できた.以上の結果より,ブリモニジンはプラセボよりも有意な眼圧下降作用を有し,わが国における臨床至適濃度は0.1%濃度が妥当と判断した.This4-weekexploratoryclinicalstudysoughttodeterminetheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%and0.15%brimonidinetartrateappliedtwicedailyinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension.Comparedtothevehiclealone,0.1%and0.15%brimonidinesignificantlydecreasedthemeanIOPchangefrombaselineat0and2hatweek4.NodifferencewasseenbetweentheIOP-loweringeffectsandincidenceofadversesideeffectsof0.1%and0.15%brimonidine.Percentchangesfrombaseline,achievementoftargetpressureandnonresponderrateatthesecondaryendpointsupporttheresultsobtainedattheprimaryendpoint.Theabsenceofclinicallysignificantchangesonophthalmologicalandlaboratoryexaminations,andinbloodpressureandpulserate,confirmedthetolerabilityofbrimonidine.Topical0.1%and0.15%brimonidinearesignificantlymoreefficaciousinloweringIOPthanisthevehiclealone.Withcomparableefficacyandtolerability,0.1%brimonidineisclinicallysuperiorto0.15%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1303.1311,2012〕Keywords:ブリモニジン,緑内障,高眼圧症,探索的臨床試験,選択的アドレナリンa2作動薬.brimonidine,glaucoma,ocularhypertension,exploratoryclinicalstudy,selectivea2-adrenergicagonist.はじめにまざまな緑内障治療薬が上市されており,なかでも原発開放わが国ではプロスタグランジン(PG)関連薬や交感神経b隅角緑内障においてはPG関連薬やb遮断薬が優れた眼圧下受容体遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経a1受容体遮降効果により第一選択薬として使用されている.しかし,b断薬,非選択性交感神経刺激薬,副交感神経刺激薬などのさ遮断薬の心肺機能に及ぼす影響やPG関連薬に特異的な副作〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1303 用が危惧される症例では,機序の異なる治療薬の選択が必要となってくる.また,高眼圧症または初期の緑内障患者であっても,単剤治療では十分な効果が得られない症例が多々存在することも事実である.緑内障治療における薬剤耐性の状況として,OcularHypertensionTreatmentStudy(OHTS)1)では目標眼圧を達成するために5年目で約40%が2剤以上を必要とし,CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy(CIGTS)2)では2年で2剤以上を必要とした症例が75%以上と報告されている.緑内障に対する薬物療法の選択肢を広げざるをえない背景には,このような単剤治療のみでは目標眼圧の維持が困難な症例の存在や継続投与によって生じる薬剤耐性の問題があげられる.非選択性交感神経刺激薬のエピネフリン製剤やa1遮断薬,b遮断薬などのアドレナリン受容体をターゲットとした緑内障治療薬は,わが国においても比較的古くから臨床の場に供されてきた.一方,交感神経受容体サブタイプの一つであるa2受容体をターゲットとした緑内障治療薬の開発も過去に試みられており,海外では選択的アドレナリンa2作動薬として1960年代初めに合成されたクロニジンに期待が寄せられた.しかし,クロニジンは眼圧下降作用を有するものの点眼においても中枢性の血圧下降作用を示し,ボランティアの50%で拡張期血圧を30mmHgまで低下させる3)などの副作用により臨床応用には至っていない.ついで,1970年代に合成されたアプラクロニジンは,p-アミノ基の導入により親水性が増加したため中枢性の全身的な副作用は減少したもののヒドロキノン様構造が酸化を受けやすく,生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化され4),長期使用では約半数が眼局所のアレルギーにより点眼中止を余儀なくされた5).また,眼圧下降効果を示さなかった症例の割合が投与3.6週間後に24%,投与7.8週間後には57%と高率に認められている6).そのため長期投与が必須となる緑内障や高眼圧症に対する開発は断念され,レーザー手術後の一過性の眼圧上昇の防止を目的とした限定的な使用に留まっている.一方,ブリモニジンはヒドロキノン様構造をもたず,アプラクロニジンにアレルギー反応を示す症例にも交差反応は示さず,全身性の副作用が少ないアドレナリンa2作動薬として唯一,ブリモニジン酒石酸塩点眼液として開放隅角緑内障または高眼圧症に対する適応を取得した緑内障治療薬である.本剤はアプラクロニジンに比べa1受容体よりもa2受容体に高い親和性を示し,既存の緑内障治療薬とは異なる房水産生抑制作用とぶどう膜強膜流出路からの流出促進作用の2つの眼圧下降機序を有する7).また,眼圧コントロール不良例や前治療薬に副作用を生じた症例8)あるいは他剤との併用による高い有効性と忍容性が報告されており9,10),単剤あるいは併用治療のみならずチモロールとの配合剤としても豊富な使用実績を有している.海外では米国アラガン社が1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の米国承認を取得し,その後,保存剤を亜塩素酸ナトリウム(PURITER:以下,Purite)に変更するなどの処方改良が加えられ,現在では0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有する0.15%ブリモニジンPurite製剤が汎用されている.しかし,これまでに日本人におけるブリモニジンの使用経験はないことから,国内においても用量反応性の検討が必要と考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%ブリモニジンPuriteまたは0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果と安全性を,プラセボを対照として探索的に検討したので報告する.I方法本臨床試験は,開始に先立ちすべての実施医療機関の治験表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師かつしま眼科勝島晴美中の島たけだ眼科竹田明さいたま赤十字病院眼科小島孚允春日部市立病院眼科水木健二大宮はまだ眼科濱田直紀真仁会小関眼科医院小関信之日本大学医学部附属板橋病院眼科山崎芳夫東京医療生活協同組合中野総合病院眼科鈴村弘隆レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院眼科武井歩済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治オリンピア会オリンピア眼科病院井上立州善春会若葉眼科病院吉野啓吉川眼科クリニック吉川啓司蒔田眼科クリニック杉田美由紀湘南谷野会谷野医院谷野富彦富山県立中央病院眼科岩瀬剛金沢大学附属病院眼科杉山和久恩賜財団福井県済生会病院眼科齋藤友護,棚橋俊郎千照会千原眼科医院千原悦夫厚生年金事業振興団大阪厚生年金病院眼科狩野廉創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男研英会林眼科病院林研熊本大学医学部附属病院眼科稲谷大NTT西日本九州病院眼科布田龍佑熊本市立熊本市民病院眼科有村和枝陽幸会うのき眼科鵜木一彦上野眼科医院木村泰朗広田眼科広田篤永山眼科クリニック永山幹夫1304あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(128) 審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2006年4月から10月の間に表1に示す32施設で実施した.対象患者は,有効性評価対象眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断された満20歳以上の男女で,試験参加に先立ち文書による同意が得られ,表2の採用基準に該当する症例とした.表2対象被験者のおもな採用・除外基準おもな採用基準1)両眼とも矯正視力が0.7以上の者2)両眼とも眼圧値が31mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上おもな除外基準1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術,濾過手術,線維柱帯切開術および内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者4)コンタクトレンズの装用が必要な者5)a2作動薬にアレルギーまたは重大な副作用の既往のある者6)a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,中枢神経抑制薬の使用が必要な者7)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者8)高度の視野障害がある者9)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者被験薬は1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgまたは1.5mgを含有し,Puriteを保存剤として有し,対照薬のプラセボは被験薬の基剤を用いた.試験薬剤は1日2回,朝(8:30.10:30)と夜(20:00.22:00)に両眼に1滴ずつ4週間点眼した.本試験は二重盲検法により実施し,3群の試験薬剤は北里大学薬学部臨床薬学研究センター・臨床薬学部門の小宮山貴子がプラセボとの外観上の識別不能性を確認したうえで無作為割付けを行った.試験参加前に緑内障の薬物治療を受けていた患者に対しては,交感神経遮断薬またはPG製剤は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬または交感神経作動薬は2週間以上の休薬期間を設けた.その他,ステロイド薬についても1週間以上の休薬期間を設けたが,眼瞼周囲を除く皮膚局所投与については休薬不要とした.検査および観察項目と治験スケジュールを表3に示す.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値の測定を行った.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察した.角膜所見の判定基準はAD(Area-Density)分類11)を用い,結膜・眼瞼所見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)は4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞は標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて緑内障性異常の有無および垂直陥凹/乳頭径比(vC/D比)を記録した.視野検査は自動静的視野計を用いた.血圧(収縮期,拡張期)・脈拍数は5分間安静後,座位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査をファルコバイオシステムズで実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象表3治験スケジュール時期*スクリーニング項目背景因子調査●視力検査●角膜・結膜・眼瞼所見眼圧検査●眼底検査・写真●視野検査●血圧・脈拍数臨床検査有害事象休薬投与開始日投与2週間後投与4週間後0時間2時間0時間2時間0時間2時間●●●●●●●*:下段,測定ポイント(時間).(129)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121305 を副作用とした.治験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止し,その他の眼圧に影響を及ぼす可能性のある薬剤の新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,投与4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.副次評価項目は,投与2週間後の眼圧変化値と2および4週間後の眼圧変化率とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.また,2および4週間後に眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合(眼圧値の目標眼圧達成率),眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合(眼圧変化率の目標眼圧達成率)および.10%に達しなかった症例の割合(ノンレスポンダー率)を求め,c2検定またはFisherExact検定による薬剤群間比較を行った.さらに,0時間値と2時間値の平均値を算出し,主要評価項目および副次評価項目の集計ならびに解析を行った.安全性の評価として実施した血圧および脈拍数は,薬剤ごとに投与開始日と投与後の各観察時点の変化を1標本t検定で比較した.いずれも有意水準両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease8.2(SASInstituteJapan)を用いた.また,視力・角膜・結膜・眼瞼所見・眼底・視野・臨床検査は各項目について薬剤ごとに投与前後の比較を行った.目標症例数については,少なくとも0.15%ブリモニジン群がプラセボ群に対して投与4週間後の眼圧変化値で統計学的に有意に優れていること示すため,有意水準両側5%,検出力80%の条件で必要症例を算出し,さらに試験実施中の中止,脱落を考慮して1群40例と設定した.II結果試験薬剤を投与した症例は0.1%ブリモニジン群44例,0.15%ブリモニジン群45例およびプラセボ群44例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は0.1%ブリモニジン群43例,0.15%ブリモニジン群43例およびプラセボ群42例で,その背景因子を表4に示す.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移をそれぞれ図1,表5および表6に示す.主要評価項目である4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)は,いずれの観察時点においても0.1%ブリモニジン群,0.15%ブリモニジン群ともに表4被験者背景(PPS)項目0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ性別男性221915女性212427年齢(歳).6426282965.171513平均57.659.055.3緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)212320高眼圧症222022眼圧値(mmHg)2724:0.1%ブリモニジン21:0.15%ブリモニジン:プラセボ1815投与2週4週投与2週4週投与2週4週開始日開始日開始日0時間値2時間値0,2時間平均値図1眼圧値の推移平均値±標準偏差.0,2時間平均値は0時間値と2時間値の平均値を示す.1306あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(130) 表5眼圧変化値の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.3.1±1.8(43).3.3±2.3(43).1.5±1.9(41).1.6p=0.0006.1.8p=0.00014週間後.3.7±2.0(43).3.4±2.2(43).2.3±2.2(42).1.4p=0.0055.1.2p=0.02302時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.4.7±2.5(43).4.8±2.3(43).2.2±2.3(41).2.5p<0.0001.2.6p<0.00014週間後.5.1±2.5(43).4.9±2.0(43).2.3±2.4(42).2.9p<0.0001.2.7p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.3.9±1.9(43).4.1±2.0(43).1.9±1.8(41).2.1p<0.0001.2.2p<0.00014週間後.4.4±1.9(43).4.2±1.8(43).2.3±2.2(42).2.1p<0.0001.1.9p<0.0001単位:mmHg,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.表6眼圧変化率の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.14.1±8.0(43).14.8±9.8(43).6.5±8.2(41).7.6p=0.0002.8.3p<0.00014週間後.16.4±8.9(43).15.1±9.6(43).10.1±9.9(42).6.3p=0.0049.5.0p=0.03062時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.21.8±11.2(43).21.8±9.4(43).9.9±10.4(41).11.9p<0.0001.11.9p<0.00014週間後.23.2±10.7(43).22.4±8.0(43).10.3±10.8(42).12.9p<0.0001.12.1p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.18.0±8.7(43).18.3±8.7(43).8.3±7.8(41).9.7p<0.0001.10.0p<0.00014週間後.19.9±8.2(43).18.7±7.6(43).10.3±9.8(42).9.7p<0.0001.8.4p<0.0001単位:%,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.プラセボ群に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示した.0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の眼圧変化値に大きな違いはなかった.副次評価として,各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を薬剤群間で比較した結果,すべての観察時点において主要評価の結果と同様に0.1%および0.15%ブリモニジン群はプラセボ群に比べ有意な眼圧下降効果を示し,両濃度間の眼圧下降効果に大きな違いはなかった.投与2週間後および4週間後の眼圧値が19mmHg以下になった眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率が.20%以上になった眼圧変化率の目標眼圧達成率および眼圧変化率が.10%に達しなかったノンレスポンダー率をそれぞれ表7,表8および表9に示す.眼圧値の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群はすべての観察時点において,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除き,プラセボ群に比べ有意に高かった.眼圧変化率の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群は2週間後の0時間値を除き,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除きプラセボ群に比べ有意に高かった.ノンレスポンダー率については,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有意に低かった.なお,0.1%と0.15%製剤の眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率の目標眼圧達成率およびノンレスポンダー率には有意な差はなかった.その他の解析として,各観察時点における眼圧の0時間値と2時間値の平均値を用いて同様の解析を行った結果,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有(131)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121307 表7眼圧値の目標眼圧達成率(19mmHg以下)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後55.855.831.7p=0.0261†p=0.0261†p=1.0000†4週間後67.458.140.5p=0.0126†p=0.1034†p=0.3722†2時間値2週間後76.781.451.2p=0.0147†p=0.0034†p=0.5960†4週間後88.486.057.1p=0.0015‡p=0.0031†p=1.0000‡0時間値と2時間値の平均2週間後69.872.136.6p=0.0023†p=0.0011†p=0.8123†4週間後79.174.450.0p=0.0050†p=0.0202†p=0.6097†目標眼圧達成率:眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表8眼圧変化率の目標眼圧達成率(.20%以上)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後23.332.69.8p=0.1433‡p=0.0158‡p=0.3362†4週間後39.537.219.0p=0.0382†p=0.0629†p=0.8245†2時間値2週間後53.553.57.1p=0.0005†p=0.0005†p=1.0000†4週間後60.567.416.7p<0.0001†p<0.0001†p=0.5005†0時間値と2時間値の平均2週間後39.548.89.8p=0.0022‡p=0.0001‡p=0.3851†4週間後53.548.819.0p=0.0010†p=0.0038†p=0.6661†目標眼圧達成率:眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表9ノンレスポンダー率の薬剤群間比較ノンレスポンダー率(%)観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%0時間2週間後37.223.368.3p=0.0044†4週間後18.625.652.4p=0.0011†2時間値2週間後14.011.653.7p=0.0001†4週間後7.09.350.0p<0.0001‡0時間値と2時間値の平均2週間後27.920.963.4p=0.0011†4週間後18.67.052.4p=0.0011†ノンレスポンダー率:眼圧変化率が.10%に達しなかった症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.薬剤群間比較プラセボvs0.15%p<0.0001†p=0.0113†p<0.0001‡p<0.0001‡p<0.0001†p<0.0001‡0.1%vs0.15%p=0.1589†p=0.4355†p=1.0000‡p=1.0000‡p=0.4514†p=0.1951‡1308あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(132) 表10副作用一覧薬剤0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ安全性解析対象例数444544【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数例数(%)件数全体6(13.6)76(13.3)92(4.5)2点状角膜炎4(9.1)46(13.3)71(2.3)1結膜浮腫001(2.2)100結膜充血1(2.3)11(2.2)100眼の異常感1(2.3)10000眼刺激1(2.3)10000眼瞼.痒症00001(2.3)1意な眼圧下降効果を示す一方で,0.1%と0.15%ブリモニジン群の眼圧下降効果に差はなかった.発現した有害事象は,0.1%ブリモニジン群11例(25.0%)13件,0.15%ブリモニジン群14例(31.1%)21件,プラセボ群10例(22.7%)11件であった.このうち副作用は0.1%ブリモニジン群6例(13.6%)7件,0.15%ブリモニジン群6例(13.3%)9件,プラセボ群2例(4.5%)2件で,表10に示すようにすべて眼局所の障害で,発現した副作用のなかでは点状角膜炎の頻度が高かった.重症度としては0.1%ブリモニジン群の点状角膜炎1例1件が中等度と判定された以外はいずれも軽度で,0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の副作用の発現頻度に差はなかった.死亡例,重篤な副作用および薬剤の投与中止を必要とするような重要な副作用はなかった.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.バイタルサインの血圧および脈拍数で,試験薬剤投与後に統計学的に有意な低下が散見されたものの変動幅は小さく,臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査についても治療の対象となるような異常変動はなかった.III考察今回のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間投与による用量反応試験において,主要評価とした投与4週間後のトラフに相当する0時間の眼圧変化値は,プラセボ群の.2.3±2.2mmHgに対し0.1%ブリモニジン群は.3.7±2.0mmHg,0.15%ブリモニジン群は.3.4±2.2mmHgと両群とも有意な低下を示した.また,ピークに相当する2時間後においてもプラセボ群の.2.3±2.4mmHgに対し,それぞれ.5.1±2.5mmHg,.4.9±2.0mmHgとブリモニジン群はいずれも統計学的に有意な眼圧下降作用を示した.本剤は日本人においても有意な眼圧下降作用を有し,0.1%ブリモニジンPurite製剤が海外で承認されている0.15%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認できた.この眼圧下降作用は炭酸脱水酵素阻害薬の0.5%塩酸ドルゾラミド点眼液を(133)1日3回または1%ブリンゾラミド点眼液を1日2回点眼したときと同等あるいはそれ以上の効果を示唆する結果であった12,13).また,副次評価項目には臨床に即した評価として,日本緑内障診療ガイドライン14)で推奨されている緑内障初期症例に対する目標眼圧19mmHg以下の症例,無治療時眼圧からの眼圧下降率20%以上の症例の割合を含め,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダー率を設定したが,これらの副次評価においても本剤の主要評価を支持する結果を得た.米国でブリモニジンの開発初期に実施された0.08%,0.2%および0.5%ブリモニジンBAK製剤による用量反応試験では,0.2%群と0.5%群の継続投与による眼圧下降作用に明らかな違いはなく,いずれも0.08%群に対して有意な眼圧下降作用を示し,安全性の面では0.2%群が優れることからブリモニジンの至適濃度として0.2%が選択されている15).その後,この0.2%ブリモニジンBAK製剤の保存剤をPuriteに変更するとともに,pHを中性領域に変更することで眼内移行性が約1.4倍向上し16),臨床的にも0.15%ブリモニジンPuriteが0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認されている17).さらに,0.2%ブリモニジンBAK製剤と0.15%ブリモニジンPuriteあるいは0.2%ブリモニジンPurite製剤の3用量による長期投与試験の結果,0.15%ブリモニジンPurite製剤は,0.2%ブリモニジンBAK製剤および0.2%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を示す一方で,アレルギー性結膜炎や口内乾燥などの発現率が有意に少ないことが確認され18),2001年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を取得している.国内の臨床試験に用いた0.15%ブリモニジンPurite製剤は,米国で0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用が確認された製剤である.その主薬濃度のみを変更した0.1%ブリモニジンPurite製剤が,わが国においては0.15%ブリモニジンPurite製剤と同様の眼圧下降作用とプロファイルを示したことから,間接的な比較にはなるものの日本人に対する0.1%ブリモニジンPurite製剤は,これまで海外で汎用されてきた0.2%ブリモニジンBAK製剤あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121309 とも同等の眼圧下降作用を有すると考えられる.現在,緑内障治療薬の薬効評価は眼圧下降作用を指標として検討されているが,緑内障に対する最終的な治療目的は視神経障害の進行阻止である.目標眼圧の維持は緑内障の進行を抑制するうえで有効な手段ではあるものの,眼圧は代替評価項目(サロゲートエンドポイント)であることから近年,改めて視神経乳頭の血流改善や網膜神経節細胞に対する直接的な神経保護治療が注目されつつある.ブリモニジンは角膜透過性が高く,薬理作用が期待できる濃度が点眼で網膜や硝子体に到達しており19.21),虚血再灌流モデルやグルタミン酸硝子体内注入あるいは眼圧上昇動物モデルに対する点眼投与で網膜神経節細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている22,23).また,臨床研究においても0.2%ブリモニジンBAK製剤の点眼により正常眼圧緑内障の視野障害の進行がチモロール点眼液よりも少なかったという結果24)や開放隅角緑内障のコントラスト感度が改善したなど25),神経保護作用を示唆する結果が報告されている.これらの神経保護作用を支持する根拠の一つとして,前述の点眼投与による網膜への移行性があげられる.ブリモニジンのa2受容体に対する親和性を示す平衡定数値は約2nMに対し26),有水晶体眼の網膜硝子体手術患者へ0.15%ブリモニジンPurite製剤を点眼したときの硝子体内濃度は12.5nMとの報告があり21),また,サルに14C-ブリモニジン点眼液を投与した移行性試験では,硝子体よりも網脈絡膜に高い放射能濃度が認められている19).従来,点眼による後極部網脈絡膜への移行は非常に少ないと考えられていたが,眼球壁に沿った結合織中の拡散によっても点眼投与した薬物が短時間で網脈絡膜に高濃度で到達することが報告されている27,28).0.1%ブリモニジンPurite製剤の組織移行性については今後さらなる検討が必要となるものの従来の報告結果は,0.1%ブリモニジンPurite製剤においても点眼後に,神経保護作用が期待できる濃度が網脈絡膜へ到達する可能性を否定するものではないと考える.安全性に関しては,海外の臨床試験17,18,29)で比較的,発現頻度の高いアレルギー性結膜炎,結膜濾胞および口内乾燥の報告はなく,結膜充血も0.1%群および0.15%群に1例のみであった.一方,これまでは報告の少なかった点状角膜炎が0.1%群に4例,0.15%群に6例と比較的高い発現頻度を示した.本試験では角膜所見をAreaとDensityによる9段階で評価するAD分類を用いたことで,初期の微細な角膜上皮の変化の検出が可能になったことが一因と考えられる.なお,発現した点状角膜炎はすべて無治療での継続治療の間に消失しており,本剤の臨床使用における忍容性に支障を及ぼすものではなかった.また,両群に発現した副作用はすべて眼局所の症状・所見で,0.1%群と0.15%群の発現頻度や重症度に大きな違いはなく,臨床検査やバイタルサインの血圧1310あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012および脈拍数に対する影響も少ないことが確認できた.以上のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降作用と安全性に関する検討結果から,わが国における原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するブリモニジンPurite製剤の至適濃度は0.1%が妥当と判断した.謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal;TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:CIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20013)RobinAL:Theroleofapraclonidinehydrochlorideinlasertherapyforglaucoma.TransAmOphthalmolSoc87:729-761,19894)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19975)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine.Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,19956)AraujoSV,BondJB,WilsonRPetal:Longtermeffectofapraclonidine.BrJOphthalmol79:1098-1101,19957)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19998)LeeDA:Efficacyofbrimonidineasreplacementtherapyinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinTher22:53-65,20009)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)SchumanJS,BrimonidineStudyGroups1and2:Effectsofsystemicbeta-blockertherapyontheefficacyandsafetyoftopicalbrimonidineandtimolol.Ophthalmology107:1171-1177,200011)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199412)北澤克明:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-5070.5%点眼液の第III相比較試験─0.25%マレイン酸チモロール点眼液との多施設共同群間比較試験.眼紀45:1023-1033,199413)北澤克明,三嶋弘,阿部春樹ほか:原発開放隅角緑内障(134) 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緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1281.1285,2012c緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野水木健二*1,2山崎芳夫*1早水扶公子*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2春日部市立病院眼科DailyLivingDisabilityandBinocularVisualFieldExaminationinPatientswithGlaucomaKenjiMizuki1,2),YoshioYamazaki1)andFukukoHayamizu1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KasukabeCityHospital目的:緑内障患者の日常生活困難度と両眼視野との関係を検討する.対象および方法:重度視野障害を有する緑内障患者46例に対し,30項目からなる日常生活困難度の調査を行い,スコアを求めた.Humphreyfieldanalyser(HFA)のEsterman両眼開放視野を測定しEstermanスコアを算出した.同様に中心24-2プログラムと中心10-2プログラムを行い,bestlocationmodelにより両眼加算視野を作成し,平均totaldeviation(TD)を求めた.結果:日常生活困難度スコアとEstermanスコアとのSpearman順位相関係数はr2=0.124(p=0.017),HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.171(p=0.004),HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.242(p=0.001)であった.結論:重度視野障害を有する緑内障の日常生活困難度には中心10°以内の視野障害が影響する.Purpose:Toevaluatetherelationshipbetweendailylivingdisabilityandbinocularvisualfieldexaminationinpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Weexamined46patientswithglaucomawithseverevisualfielddefects.Dailylivingdisabilitywasassessedusingaquestionnaireconsistingof30questions.ThebinocularEster-manvisualfieldtestwasperformedwithaHumphreyfieldanalyzer(HFA).Thebinocularcompositionvisualfieldsofcentral24-2andcentral10-2fieldsofHFAwerecalculatedusingthosemonocularvisualfieldsaccordingtothebestlocationmodel.Therelationshipamongdailylivingdisabilityscore,Estermanscore,andmeantotaldeviation(mTD)ofbinocularcompositionvisualfields.Results:ThedailylivingdisabilityscorewassignificantlycorrelatedtotheEstermanscore(r2=0.124,p=0.017),mTDofbinocularcompositioncentral24-2field(r2=0.171,p=0.004),andcentral10-2fields(r2=0.242,p=0.001).Conclusions:Theseresultssuggestthatvisualfielddamagewithincentral10-degreesstronglyaffecteddailylivinginpatientswithsevereglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1281.1285,2012〕Keywords:緑内障,日常生活困難度,Esterman視野,両眼加算視野,Humphrey視野計.glaucoma,dialylivingdisability,Estermanvisualfield,binocularcompositionvisualfield,Humphreyfieldanalyzer.はじめに緑内障は適切に治療されなければ失明に至る重篤な視機能障害をもたらす疾患である.平成17年度厚生労働省難治性疾患研究報告書「網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究」1)において,緑内障が視覚障害の原因の第1位を占めることが明らかにされている.平成7年の身体障害者福祉法改正により視力障害認定基準に視野障害の重み付けが増し,視覚障害者に占める緑内障患者数は急増している2).同時に,身体障害者のqualityoflife(QOL)の改善を目的とする調査が行われるようになり,緑内障患者については日常生活活動困難度に影響する視野障害重症度の評価が求められている.Estermanが考案した両眼開放視野は片眼ずつの視野検査よりQOLと相関があることが報告され3),その後,Crabbらにより自動視野計の静的閾値検査結果の左右眼を重ね合わせた両眼加算視野が提唱されている4)が,緑内障患者のQOLの評価について,両眼視野の検査法別の比較検討の報告はない.今回,筆者らは緑内障患者を対象にQOLアンケートを行うとともに,両眼開放視野と両眼加算視野の関連について検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕山崎芳夫:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YoshioYamazaki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchikami-machi,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)1281 I対象および方法対象は,日本大学医学部附属板橋病院にて経過観察中の緑内障患者から,本研究参加に書面で同意が得られた視野障害重度の後期緑内障患者46例である.症例の選択基準は,①少なくとも1眼がHumphreyfieldanalyser(HFA,Zeiss,Dublin,CA,USA)中心24-2プログラム(HFA24-2)のmeandeviation(MD)が.20decibel(dB)以下,②矯正視力が両眼とも0.5以上(対数視力0.57以下),③眼位異常も含め緑内障以外の視野に影響を及ぼす眼疾患のないもの,とした.対象の年齢は65±11歳(平均±標準偏差),レンジは39.85歳,男性39例,女性7例である.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(狭義)が28例,正常眼圧緑内障が13例,.性緑内障が2例,発達緑内障が2例,続発緑内障が1例で表1日常生活困難度質問項目1020304070506080図1Esterman両眼開放視野の検査点Ⅰ文字の読み書きについて1新聞の見出しの大きい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める2新聞の細かい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める3辞書の細かい文字は読めますか読めない・読みづらい・読める4電話帳はひけますかひけない・ひきづらい・ひける5電車の料金表は見えますか見えない・見づらい・見えるⅡ文章の読み書きについて6文章の読み書きに不自由を感じますかよく感じる・時々感じる・感じない7縦書きの文章を書くと曲がることがありますかよくある・時々ある・ない8文章を一行読んだ後,次の行がすぐ見つかりますか見つからない・見つけづらい・見つかるⅢ家の近所の外出について9一人で散歩はできますかできない・しづらい・できる10見づらくて歩きづらいことがありますかよくある・時々ある・ない11信号を見落とすことはありますかよくある・時々ある・ない12歩行中,人やものにぶつかることがありますかよくある・時々ある・ない13階段につまづくことはありますかよくある・時々ある・ない14段差に気づかないことはありますかよくある・時々ある・ない15知人とすれ違っても,相手から声をかけられていないとわからないことはありますかよくある・時々ある・ない16人や走行中の車が脇から近づいてくるのが見えないことがありますかよくある・時々ある・ないⅣ交通機関(電車,バス,タクシー)を利用した外出について17見づらくて外出に不自由を感じることはありますかよくある・時々ある・ない18知らない所へ外出する時,付き添いが必要ですか必要・いたほうがいい・必要ない19タクシーは拾えますか拾えない・拾いづらい・拾える20電車やバスでの移動に不自由を感じますかよく感じる・時々感じる・感じない21夜間の外出は見づらくて不安を感じますかよく感じる・時々感じる・感じないⅤ食事について22見づらくて食事に不自由を感じることはありますかよく感じる・時々感じる・感じない23見づらくて食べこぼしてしまうことがありますかよくある・時々ある・ない24お茶を注ぐとき,こぼしてしまうことがありますかよくある・時々ある・ない25おはしでおかずをつかみ損ねることがありますかよくある・時々ある・ないⅥ整容について26下着の表と裏を間違えることはありますかよくある・時々ある・ない27鏡で自分の顔は見えますか見えない・見づらい・見えるⅦその他28テレビは見えますか見えない・見づらい・見える29床に落とした物を探すのに苦労することがありますかよくある・時々ある・ない30電話に顔を近づけないとかけづらいことがありますかよくある・時々ある・ない1282あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(106) あった.視野検査はHFAを用い,両眼開放下でEsterman両眼開放視野を行った後,HFA24-2とHFA中心10-2プログラム(HFA10-2)を片眼ずつ施行した.Esterman両眼開放視野は,図1に示すように日常生活上重要な視野領域に重み付けを行い,下方,中心,赤道経線上により多くの検査点が配置されており,左右80°,上方50°,下方70°の範囲に合計120点の測定点からなる3).HFAには両眼同時測定用の矯正レンズ枠がないため,Esterman両眼開放視野検査は色付きレンズを除き,日常装用している多焦点,もしくは単焦点レンズを眼鏡装用下で行った.測定条件は,刺激視標サイズはGoldmannIII,刺激輝度は10dBの単一輝度である.反応がなかった点を再度刺激し,2回目で反応がない点を暗点と判定した.120点の測定点に対して反応があった点の数を百分率表示しEstermanスコアとした.HFA24-2とHFA10-2は近方視力完全矯正下で右眼,左眼の順に測定した.測定条件は,刺激視標サイズはGoldmannIII,検査ストラテジはSwedishInteractiveThresholdAlgorithm(SITA)-Standard(SITA-standard)を用い,測定点の感度閾値を求めた.HFA24-2は中心視野30°以内に測定点54点,HFA10-2は中心視野10°以内に測定点68点の左右眼の対応する感度閾値を比較し,良好な感度閾値を各測定点の感度閾値と定義し(bestlocationmodel),両眼加算視野を作成した4).両眼加算視野の測定点はHFA24-2は左右眼で重複しない2点を除外した52点,HFA10-2では全点が対応し68点である.両眼加算視野の評価は各測定点のtotaldeviation(TD)から,患者ごとに平均TDを算出した.日常生活活動困難度のアンケート調査はSumiら5)の考案した生活不自由度問診表を用いた.質問項目は文字・文章の読み書き,近所の歩行外出,交通機関の利用,食事,着衣・整容,その他の7項目30問で構成され(表1),各問について不自由度に応じて「支障なし」を0点,「やや困難」を1QOLスコア項目(満点)文字の読み書き(10)文章の読み書き(6)近所の外出歩行(16)図2QOLスコア交通機関の利用(10)項目別分布食事(8)整容(4)その他(6)点,「困難」を2点とした3段階に点数化し,QOLスコアとした.すなわち,全項目で支障なしは0点,すべて困難の場合は60点である.QOLスコアとEstermanスコア,HFA24-2およびHFA10-2の両眼加算視野の平均TDについて,Spearman順位相関係数を求め,緑内障患者のQOLと両眼視野の検査法別の関係について検討した.また,対数視力両眼和についても同様の検討を行った.本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究委員会の承認を得て実施した.II結果全患者46例のQOLスコア値は9±9点(0.34点)であった.QOLスコアの項目別分布を図2に示す.項目別には近所の外出歩行の不自由度の訴えが最も多く,ついで文章の読み書き,文字の読み書きの順であった.Estermanスコアは79±17点(29.97),両眼加算視野の平均TDは,HFA24-2が.14.8±7.3dB(.27.8.0.2),HFA10-2が.13.2±8.0dB(.31.5.0.9)であった.対数視力両眼和は0.16±0.41(.0.24.1.16)であった.QOLスコアと各両眼視野検査結果との相関関係を図3に示す.Estermanスコアはr2=0.124(p=0.017)(図3a)HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.171(p=0.004)(,)(図3b),HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.242(p=0.001)(図3c)であった.QOLスコアの項目別の相関関係は,Estermanスコアは近所の歩行外出(r2=0.121,p=0.018),食事(r2=0.120,p=0.018)の2項目と有意な相関があった.HFA24-2両眼加算視野の平均TDは,文字の読み書き(r2=0.112,p=0.023),近所の歩行外出(r2=0.167,p=0.005),食事(r2=0.149,p=0.008),その他(r2=0.155,p=0.007)の4項目と有意な相関を示した.HFA10-2両眼加算視野の平均TDは文字の読み書き(r2=0.166,p=0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%項目別スコア::0点■:1点■:2点■:3点■:4点■:5点■:6点■:8点■:9点■:10点■:12点(107)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121283 a:Esterman両眼開放視野605040302010060504030201006050403020100-30.0-20.0-10.00HFA10-2両眼加算視野平均TD(dB)Estermanスコア(点)r2=0.124p=0.017n=46c:HFA10-2両眼加算視野020406080100HFA24-2両眼加算視野平均TD(dB)r2=0.171p=0.004n=46-30.0-20.0-10.00r2=0.242p=0.001n=46b:HFA24-2両眼加算視野図3QOLスコアと各両眼視野結果との相関関係r2:Spearman順位相関係数,p:有意水準.0.005),近所の歩行外出(r2=0.195,p=0.002),交通機関の利用(r2=0.225,p=0.001),食事(r2=0.194,p=0.002),その他(r2=0.329,p=0.000)の5項目と有意な相関を認めた(表2).対数視力両眼和とQOLスコアとの有意な相関はなかった(r2=0.069,p=0.083).対数視力両眼和と各両眼視野検査結果との相関関係は,Estermanスコアがr2=0.002(p=0.742),HFA24-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.019(p=0.370)HFA10-2両眼加算視野の平均TDはr2=0.147(p=0.009)(,)であった.1284あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012QOLスコア(点)QOLスコア(点)QOLスコア(点)表2QOLスコア項目と両眼視野検査結果の相関EstermanスコアHFA24-2両眼加算視野平均TDHFA10-2両眼加算視野平均TD文字の読み書き文章の読み書き近所の歩行外出交通機関の利用食事整容その他0.078(0.060)0.029(0.255)0.121(0.018)0.067(0.084)0.120(0.018)0.018(0.378)0.029(0.260)0.112(0.112)0.028(0.266)0.167(0.005)0.058(0.107)0.149(0.008)0.028(0.264)0.155(0.007)0.166(0.166)0.056(0.113)0.195(0.002)0.225(0.001)0.194(0.002)0.073(0.069)0.329(0.000)Spearman順位相関係数:r2(有意水準).なお,質問票の信頼性と妥当性について算出したCronbacha係数は0.937であった.III考按わが国の身体障害者に対する福祉行政は,昭和24年に制定,翌年に施行された身体障害者福祉法に始まる.同法の視覚障害認定基準は視力障害を中心に定められていたが,平成7年の法改正より,中心視野障害が日常生活活動において重要な役割をもつことから視能率の概念が認定基準に導入された.同時に法改正により,身体障害者のQOLの改善を目的に日常生活活動の調査が行われるようになり,緑内障患者については日常生活活動困難度に影響する視野障害重症度の評価が注目されている.しかし,同法の認定基準はGoldmann動的視野計を用いた単眼視野を基本とし,現在眼科臨床の視野検査の汎用機である静的自動視野計ではない.そこで,HFAを用いた両眼視野と日常生活困難度について検討した.今回の結果では,緑内障患者のQOLスコアとの関係はHFA10-2の両眼加算視野の平均TDが最も相関が強く,ついでHFA24-2の両眼加算視野の平均TDで,Esterman両眼開放視野スコアは有意な相関を示すが関係は弱いことが示された.また,QOL質問票の項目別スコアとの関係はHFA10-2の両眼加算視野平均TDが5項目,HFA24-2の両眼加算視野平均TDは4項目,Esterman両眼開放視野スコアは2項目であり,本研究で用いたQOLアンケートでは,中心視野10°以内の障害が緑内障患者の日常生活困難度に影響を及ぼしていることが明らかとなった.藤田ら6)は緑内障患者多数例を対象に10項目のQOL質問とEsterman両眼開放視野を行い,本結果と比較して良好な相関関係を示し,その有用性を述べている.しかし,その対象には視力不良者や視野不良者が多数含まれている.本研究(108) では静的視野検査を施行するため,中心固視が困難な視力不良者は含まれていない.したがって,対象となる患者集団の臨床背景によりQOLスコアと各両眼視野検査の結果との相関は異なると思われる.また,同様に対数視力両眼和とQOLスコアとの間に有意な相関はなかった.山縣ら7)は,Goldmann視野計を用いたEsterman両眼開放視野は視野障害者の移動や歩行の困難度の評価に適すると報告し,藤田ら6)もEstermanスコアは屋内行動よりも屋外行動との相関が強いと述べている.本研究結果でもEstermanスコアと歩行困難度は有意な相関を示しており,周辺視野の狭窄は移動や歩行に大きく影響することが確認された.両眼加算視野ではHFA10-2の平均TDがHFA24-2の平均TDよりもQOLスコアとの相関係数が高く,Sumiら5)の報告と同様に,中心視野障害が緑内障患者のQOLと強い関係があることが明らかとなった.視野内の部位と機能的役割については,明確にされておらず推測の域を出ないが,文字や文章の読み書き,食事など屋内での日常活動には中心視野が重要な役割をもち,屋外の行動には中心と周辺を含めた視野全体が関与すると思われる.両眼視野は左右眼の視野を重ね合わせることにより単眼よりも視野が広がると同時に,各眼共通の視野で重なり合う部位は,両眼相互作用の働きであるbinocularsummationにより単眼視よりも網膜感度が増強されることが知られている.Nelson-Quiggら8)は,両眼視感度閾値(binocularsensitivity:BS)について右眼感度閾値(SR)と左眼感度閾値(SL)との間に(BS)2=(SR)2+(SL)2の関係が成立すると仮定したbinocularsummationmodelを構築し,本研究で用いたbestlocationmodelによる両眼加算視野と実測値を比較し,binocularsummationmodelのほうがbestlocationmodelよりも優れているが,両モデル間に有意差はなく,ともに実測値ときわめて近似すると述べている.しかし,binocularsummationの働きは,正常眼や緑内障以外の視野障害例では認めるものの,緑内障眼では成立しないことが報告9,10)されており,緑内障患者についての両眼加重視野の評価は今後の検討課題である.身体障害者福祉法改正により導入された視能率は動的視野の45°ごとの8経線の角度を合計し正常角度の合計で除して算出される.日常生活にとって重要な中心視野や下方視野に比重がおかれていないため,生活不自由度との乖離が指摘されている7).今後,重度の視野障害患者の適切なQOL評価に向け,自動視野計を用いた両眼視野と日常生活困難度との関係について詳細な検討が必要である.文献1)中江公裕,小暮文雄,増田寛次郎ほか:日本における視覚障害の現況.網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究.平成17年度厚生労働省難治性疾患研究報告書,p263-267,20062)平成18年身体障害児・者実態調査結果.厚生労働省,20073)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19824)CrabbDP,ViswanathanAC,McNaughtAIetal:Simulatingbinocularvisualfieldstatusinglaucoma.BrJOphthalmol82:1236-1241,19985)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualfielddisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20036)藤田京子,安田典子,中元兼二ほか:緑内障患者における日常生活困難度と両眼開放視野.日眼会誌112:447-450,20087)山縣祥隆,寺田木綿子,鈴木温ほか:視野障害患者の移動困難度評価におけるEstermandisabilityscoreの有用性に関する臨床統計学的研究.日眼会誌114:14-22,20108)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,20009)CalabriaG,CaprisP,BurtoloC:Investigationsofspacebehaviorofglaucomatouspeoplewithextensivevisualfieldloss.DocOphthalmolProSer35:205-210,198310)MillsRP,DranceSM:Estermandiabilityratinginsevereglaucoma.Ophthalmology93:371-378,1986***(109)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121285