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ロービジョン患者の疾患別不自由度の特徴

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(145)8950910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):895898,2008cはじめに視機能の低下は,それまで視覚を用いて支障なく行っていた動作や読み書き,歩行などの行動を困難にし,視覚障害者の生活の質(qualityoflife:QOL)の低下をもたらす.一方,視覚障害等級は,視力・視野障害の程度によって判定されており,視覚障害者の障害程度を評価する基準として定められたものである〔身体障害者福祉法施行規則第5条(昭和25年4月6日厚生省令15)〕.しかし,視力,視野ともに他〔別刷請求先〕柳澤美衣子:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院眼科・視覚矯正科Reprintrequests:MiekoYanagisawa,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongou,Bunkyou-ku,Tokyo113-8655,JAPANロービジョン患者の疾患別不自由度の特徴柳澤美衣子*1,2国松志保*1加藤聡*1北澤万里子*1田村めぐみ*1落合眞紀子*1庄司信行*2,3*1東京大学大学院眼科・視覚矯正科*2北里大学大学院医療系研究科・臨床医科学群・眼科学*3北里大学医療衛生学部・リハビリテーション学科・視覚機能療法学専攻QualityofLifeCharacteristicsEvaluationinPatientswithVariousOcularDiseasesMiekoYanagisawa1,2),ShihoKunimatsu1),SatoshiKato1),MarikoKitazawa1),MegumiTamura1),MakikoOchiai1)andNobuyukiSyoji3)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKitasatoGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences目的:ロービジョン(LV)患者の不自由度について調査を行い,疾患ごとに等級別に検討した.方法:外来を受診した269例中の受診が多かった上位3疾患(緑内障108例,黄斑変性44例,糖尿病網膜症34例)の186例を対象とした.障害等級分布は,1・2級100例,3・4級44例,5・6級42例であった.Sumiの問診票により不自由度を数値化後,総和を項目数で除した不自由度を算出し,等級別に比較検討をした.結果:1・2級で緑内障と糖尿病網膜症,または緑内障と黄斑変性の間に有意差を認めた(p=0.0005,ANOVA).黄斑変性,糖尿病網膜症にて等級間に有意差を認めた(p<0.0001,ANOVA)が,緑内障では,等級間で不自由度に有意差はなかった(p=0.06,ANOVA).結論:1・2級において緑内障は黄斑変性,糖尿病網膜症に比べ,不自由度が有意に低く,黄斑変性では等級別に不自由度が異なった.Toinvestigatedierencesinqualityoflife(QOL)characteristicsamongvariousdiseasesinpatientswithvisu-alhandicaps,weanalyzedtheQOLcharacteristicsassociatedwiththreediseasesin186visuallyhandicappedJapa-nesepatients(glaucoma:108cases,maculardegeneration:44cases,diabeticretinopathy:34cases).Usingapre-viouslydevelopedquestionnaire,weassesseddisabilityindexes(DI),asaQOLcharacteristicinpatientswiththesediseases.Regardingrst-andsecond-gradehandicaps,totalDIdieredbetweenglaucoma+diabetespatientsandglaucoma+maculardegenerationpatients(p=0.0005,ANOVA).TheDIdieredbetweenhandicapsinmaculardegeneration+diabetespatients(p<0.0001,ANOVA).Inpatientswithglaucoma,theDIdidnotdieramongvisu-alhandicapgrades(p=0.06,ANOVA).Withrst-andsecond-gradehandicaps,theDIofpatientswithglaucomawaslowerthanthoseofpatientswithotherdiseases.Inaddition,theDIofpatientswithmaculardegenerationdieredaccordingtothegradeofvisualhandicap.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):895898,2008〕Keywords:視覚障害,視覚障害等級,不自由度,ロービジョン,緑内障,黄斑変性,糖尿病網膜症.visualim-pairment,visualhandicapgrades,thedisabilityindexes,lowvisioncare,glaucoma,maculardegeneration,diabeticretinopathy.———————————————————————-Page2896あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(146)1・2級と3・4級の間で差がみられることが多く,実際に1・2級と3・4級で不自由度に相違がみられるかを調べるために,視覚障害等級を1・2級,3・4級,5・6級の3段階に再分類し,3疾患それぞれにおける不自由度の相違を等級別に比較検討を行った.全症例,全疾患において総合不自由度の相違を,分散分析(ANOVA)を用いて比較し,Tukey-Kramerにて検討した.全解析において,p<0.05を有意と覚的な評価であるため,視覚障害等級が必ずしも視覚障害者のQOLを正しく反映しているとは限らない1).そのため視覚障害者のQOL評価として視覚障害者の視点に立脚した指標が必要であると考えられるようになってきた.以前からロービジョン(LV)患者の日常生活のQOLを調査する報告は数報あり27),緑内障,黄斑変性などの疾患別のQOLの評価なども報告されている8,9).以前の国松らの報告7)では,QOLの評価としてSumiの問診票10)を用いて疾患別にLV患者の不自由度を調査し,視覚障害等級との相関を検討しており,全体では障害等級と不自由度の相関があったと報告している.しかし同程度の等級でも疾患によって不自由度に差があるかどうか詳細は不明である.そこで今回筆者らは,国松らと同じSumiの問診票を用いてLV患者の不自由度を調査し,疾患ごとに視覚障害等級別の不自由度を比較検討した.I対象および方法2002年4月から2007年6月に東京大学医学部附属病院眼科(以下,当院)LV外来を受診し,視覚障害による障害者手帳を取得している269例(男性149名,女性120名)中,受診が多かった上位3疾患の186例を対象とした.3疾患の内訳は,緑内障108例,黄斑変性44例,糖尿病網膜症34例であり,対象の平均年齢は66.7±13.8歳であった.各疾患(緑内障,黄斑変性,糖尿病網膜症)別に,年齢,男女比,視覚障害等級の内訳を表1に示す.それぞれの相違を,分散分析(ANOVA)を用いて比較し,Tukey-Kramerにて検討した.年齢においてのみ疾患別に有意差がみられ,特に黄斑変性と緑内障,黄斑変性と糖尿病網膜症で黄斑変性の年齢が有意に高い結果となった.対象症例に対して,Sumiの問診票を用い,問診より「文字,文章,歩行,移動,食事,着衣整容,その他」(表2)の7項目に関し,不自由さを数値化(非常に不便=2,やや不便=1,ほとんど不便を感じない=0)し,総和を項目数で除した値を患者の総合不自由度として評価した.疾患別の視覚障害等級の分布の差についてはc2検定を行った.視覚障害者手帳取得者に対する福祉サービスにおいて表1背景(歳)男/女(人数)1・2級/3・4級/5・6級(人数)緑内障10865.0±15.070/3873/19/16黄斑変性4472.4±10.623/2110/19/15糖尿病網膜症3464.9±10.818/1617/6/11p*0.007*0.25*<0.0001***ANOVA,**c2検定.表2Sumiの問診票1)新聞の見出しの大きい文字は読めますか.2)新聞の細かい文字を読めますか.3)辞書などの細かい文字は読めますか.4)電話帳や住所録の活字は読めますか.5)駅の料金表や路線図は見えますか.読字(文章)6)文章の読み書きに不自由を感じますか.7)縦書きの文章を書くとき,曲がってしまうことはよくありますか.8)文章を一行読んだ後,次の行に移るとき,見失うことはよくありますか.歩行(家の近所への外出について)9)見づらくて歩きづらいことはありますか.10)ひとりで散歩はできますか.11)信号を見落とすことはありますか.12)歩行中,人やものにぶつかることはありますか.13)階段を昇り降りするとき,つまずくことはよくありますか.14)道路に段差があったとき,気づかないことはありますか.15)知人とすれ違っても,相手から声をかけられないとわからないことはありますか.16)人や走行中の車が脇から近づいてくるのがわからないときがありますか.移動(交通機関(電車,バス,タクシーなど)を利用した外出)17)見づらくて外出に不自由を感じることはありますか.18)知らないところに外出するとき,付き添いは必要ですか.19)タクシーを拾うとき,空車かどうかわからないことはありますか.20)電車やバスでの移動に不自由を感じますか.21)夜間の外出は見づらくて不安を感じますか.食事22)見づらくて食事に不自由を感じることはありますか.23)見づらくて食べこぼしたりすることはありますか.24)お茶やお湯を注ぐとき,こぼすことはよくありますか.25)おはしでおかずをつかむとき,つかみそこねることはありますか.着衣整容26)下着の表裏がわかりづらいことがありますか.27)お化粧やひげ剃りの際,自分の顔は見えますか.その他28)テレビは見えますか.29)床に落とした物を探すのに苦労することがありますか.30)電話に顔を近づけないとかけづらいことがありますか.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008897(147)3・4級,5・6級のそれぞれで総合不自由度に有意差があり,糖尿病網膜症では1・2級の総合不自由度が3・4級,5・6級に比べ有意に高い結果となった.緑内障の1・2級の総合不自由度が有意に低くなった原因として,疾病の進行過程が大きく影響すると思われる.緑内障ではおもな障害が求心性視野障害であり,それも比較的長い時間をかけてゆっくり進行する疾患であると考えられる.それに比べ,黄斑変性のおもな障害は中心視力障害であり,糖尿病網膜症では視力障害と視野障害の両方であり,レーザー瘢痕や網膜血管床閉塞領域,牽引性網膜離などによる不規則な視機能低下を伴うこともある.以上のことから,緑内障の1・2級の総合不自由度が低かった原因を考えると,障害の進行がゆっくりである疾患では不自由さに徐々に慣れていくため不自由さを訴える程度が軽くなった,つまり不自由度が低くなったと考えられる.疾病の進行過程を考えてみると,徐々に視機能を失っていく疾患とある時を境に急に視機能が低下する疾患を比較すると,ある時点で同じ視機能の状態であったとしても不自由さの自覚は異なると考えられる.たとえば,緑内障や網膜色素変性症などのように比較的障害の進行が徐々に進む疾患の場合は,不自由さにも徐々に慣れていき,不自由さの訴えが少なくなると考えられる.一方,ある時を境に急に症状が変化することが比較的起こりやすい黄斑変性や糖尿病網膜症は不自由さに慣れていないため不自由さを強く訴える傾向があるのではないかと考えられた.そのうえ,障害者手帳の申請の視覚に関する2つの項目のうち,緑内障患者では,視野障害がおもな原因であり,求心性視野障害のほうが重度障害に認定されやすい可能性も考えられた.黄斑変性や糖尿病網膜症のようにおもな障害が視力障害でした.II結果原因疾患の上位3疾患(緑内障,黄斑変性,糖尿病網膜症)において,視覚障害等級1・2級で比較したときのみ3疾患に有意差がみられた(p=0.0005,ANOVA,図1).緑内障と黄斑変性,緑内障と糖尿病網膜症それぞれで有意差がみられ(緑内障:1.32±0.40,黄斑疾患:1.62±0.19,糖尿病網膜症:1.67±0.22,Tukey-Kramer),緑内障の1・2級の総合不自由度が黄斑変性,糖尿病網膜症の総合不自由度に比べ有意に低い結果となった.一方,3・4級,5・6級においては3疾患で有意差はみられなかった(それぞれp=0.86,p=0.68,ANOVA).また視覚障害等級間における総合不自由度を検討してみると,黄斑変性,糖尿病網膜症において視覚障害等級別に有意差がみられた(両者ともp<0.0001,ANOVA,図2).黄斑変性では,どの等級間でも有意差があり(1・2級:1.62±0.19,3・4級:1.27±0.36,5・6級:0.95±0.37,Tukey-Kramer),糖尿病網膜症では,1・2級の総合不自由度が3・4級,5・6級に比べ有意に高い結果となった(1・2級:1.67±0.22,3・4級:1.26±0.35,5・6級:1.04±0.41,Tukey-Kramer).緑内障では視覚障害等級別に総合不自由度の差はなかった(p=0.06,ANOVA).III考按本研究では,疾患別,視覚障害等級別にLV患者の不自由度を知るために,当院を受診したLV患者に対して,視機能の評価とともにSumiの問診票を用いて,総合不自由度について調査した.等級別で検討してみると緑内障1・2級の総合不自由度が,黄斑変性,糖尿病網膜症に比べ有意に低い結果となった.疾患別でみてみると,黄斑変性では1・2級,図2疾患別における視覚障害等級の不自由度緑内障では等級間の不自由度に有意差はみられなかった(p=0.06).黄斑変性ではどの等級間でも有意差がみられ(p<0.0001),糖尿病網膜症では1・2級と3・4級,1・2級と5・6級で有意差がみられた(p<0.0001).*NS*:ANOVA,Tukey-Kramer21.61.20.80.40緑内障黄斑変性糖尿病網膜症総合不自由度**NS**:1・2級:3・4級:5・6級図1視覚障害等級別における3疾患の不自由度1・2級において3疾患の不自由度に有意差がみられた(p=0.0005).3・4級,5・6級では有意差はみられなかった(p=0.86,p=0.68).NSNSNS*:ANOVA,Tukey-Kramer21.61.20.80.401・2級3・4級5・6級総合不自由度**:緑内障:黄斑変性:糖尿病網膜症———————————————————————-Page4898あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(148)2)ScottIU,ScheinOD,WestSetal:Functionalstatusandqualityoflifemeasurement:amongophthalmicpatient.ArchOphthalmol112:329-335,19943)平島育美,山縣祥隆,並木マキほか:兵庫医科大学病院眼科におけるQualityofLifeアンケート調査.眼紀51:1134-1139,20004)西脇友紀,田中恵津子,小田浩一ほか:ロービジョン患者のQualityofLife(QOL)評価と潜在的ニーズ.眼紀53:527-531,20025)MendesF,SchaumbergDA,NavonSetal:Assessmentofvisualfunctionaftercornealtransplantation:Thequal-ityoflifeandpsychometricassessmentaftercornealtransplantation(Q-PACT)study.AmJOphthalmol135:785-793,20036)柳澤美衣子,国松志保,加藤聡ほか:重度視覚障害者における疾患別生活不自由度.あたらしい眼科23:1235-1238,20067)国松志保,加藤聡,鷲見泉ほか:ロービジョン患者の生活不自由度と障害等級.日眼会誌111:454-458,20078)湯沢美都子,鈴鴨よしみ,李才源ほか:加齢黄斑変性のqualityoflifeの評価.日眼会誌108:368-374,20049)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,200610)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualeldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,2003ある疾患では,「見ようとする対象が見えない」ため,不自由さを本人がより自覚しやすく,不自由さを強く訴えることもあげられる.そのため最も自覚しやすいと考えられる視力の値が低くなれば,不自由さの自覚も比例して大きくなることが考えられる.このことが黄斑変性,糖尿病網膜症において1・2級,3・4級,5・6級の等級間で総合不自由度に有意差があった原因と思われる.以上の観点から,LV患者の視覚障害による不自由さを知るには,実際の視力,視野などの視機能の状態だけでなく,現在に至るまでどのように症状が変化してきたかという経過も知る必要がある.今後,LV患者のQOLを詳細に知るためには障害の経過を含めた状態,視野の障害部位による不自由度の差など視機能の状態を細かく分けて調べることが必要であると思われた.また視覚障害による各疾患に特有な日常生活への影響を評価するためには,総合不自由度の比較だけでなく,「読字」や「歩行」などの項目別にみた不自由度の検討も今後必要である.文献1)山縣祥隆:視野障害者の日常生活における能力障害の評価.眼紀58:269-273,2007***