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緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査 2021 年版

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):958.962,2023c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2田中宏樹*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科TheCurrentStatusofApplicantsforVisualImpairmentCerti.cationforGlaucomain2021SatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),HirokiTanaka2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)取得申請を行った緑内障患者について検討した.対象および方法:2021年1.12月に手帳申請を行った緑内障153例を対象とした.緑内障病型,視覚等級,視野測定方法を調査した.2015年調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(22.2%)などだった.視覚等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%)だった.視野測定はGoldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)だった.視覚障害5級が2015年調査より有意に増加した.結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚等級は1級と2級で60%を超えていた.視野測定はGoldmann型視野計が依然として多かった.Purpose:Toreportthestatusofvisualimpairmentcerti.cationinglaucomapatients.Methods:Atotalof153glaucomapatientswhoappliedforvisualimpairmentcerti.cationin2021wereenrolled.Thetypeofglaucoma,thegradeofvisualimpairment,andvisual.eld(VF)measurementswereinvestigated.Theresultswerethencomparedwiththoseinthe2015survey.Results:Ofthe153patients,theglaucomatypeswereprimaryopen-angleglaucoma(POAG)in54.2%,secondaryglaucomain22.2%,andother.ThegradeswereGrade1in12.4%,Grade2in50.3%,Grade3in2.6%,Grade4in7.8%,andGrade5in26.8%.TheVFmeasurementdevicesusedweretheGoldmannperimeterin60.1%andtheautomaticperimeterin39.9%.Grade5signi.cantlyincreasedcomparedwiththatinthe2015survey.Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved,thetotalofGrades1and2wasmorethan60%,andGoldmannperimetrywasstillthemostcommonmeasurementmethodused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):958.962,2023〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycerti.cate,perimeter.はじめに厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が2018年4月27日に公布された.これを受けて2018年7月に視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.視力障害では「両眼の視力の和」が「視力の良い方の目の視力と他方の目の視力」となった.視野障害ではGoldmann型視野計では「周辺視野角度が左右眼ともI/4視標の視野が10°以内である」が「周辺視野角度の総和が80°以下」となった.また,視能率,損失率という用語を廃止し,視野角度,視認点数を用いた明確な基準が導入された.さらにGoldmann型視野計による認定基準に加え,現在普及している自動視野〔別刷請求先〕正井智子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SatokoMasai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN958(110)計でも認定が可能となった.緑内障は視覚障害による手帳認定者の原因疾患の常に上位である.そこで手帳に該当する緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで筆者らは,井上眼科病院において2005年1),および井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2012年2),2015年3)に視覚障害による手帳の申請を行った緑内障患者の実態を調査して報告した.今回筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2021年に手帳の申請を行った緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2015年に行った調査3)の結果と比較し,経年変化を検討した.I対象および方法2021年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に視覚障害による手帳の申請を行った153例(男性71例,女性82例)を対象とし,後ろ向きに研究を行った.年齢は41.95歳で,平均年齢は73.9±11.3歳(平均±標準偏差)であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann型視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を比較した.視野検査方法別に視野障害等級を比較した.2015年に行った同様の調査3)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.統計学的検討にはIBM統計解析ソフトウェアSPSSで|2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.8%),6級0例(0%)であった(図2).病型別の視覚障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級11例(13.3%),2級43例(51.8%),3級2例(2.4%),4級5例(6.0%),5級22例(26.5%)であった.続発緑内障では1級4例(11.8%),2級18例(52.9%),4級4例(11.8%),5級8例(23.5%)であった.正常眼圧緑内障では1級3例(10.3%),2級13例(44.8%),3級2例(6.9%),4級2例(6.9%),5級9例(31.0%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級1例(20.0%),5級2例(40.0%)であった.発達緑内障では1級1例(50.0%),2級1例(50.0%)であった.緑内障の病型別に視覚障害等級に差はなかった(p=0.8729).視力障害で申請したのは72例,視野障害で申請したのは153例であった.その内訳は,視力障害は1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%)で,視野障害によるもの2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%)であった(表1).重複障害申請を行ったのは72例で,重複申請により上位等級に認定された症例は11例であった.内訳は視野障害2級・視力障害2級が7例,視野障害2級・視力障害3級が3例,視野障害3級・視力障害4級が1例であった(表2).申請に使った視野検査方法は,Goldmann型視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)であった.Goldmann型視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかには明確な基準がなく,視野障害を評価する医師の判断で視野計を選択した.視野障害等級は,Goldmann型視野計は2級69例(75.0%),5級23例(25.0%),自動視野計は2級25例(41.0%),3級3例(4.9%),5級33例(54.1%)であった.視野障害2級の症例はGoldmann型視野計が自動視野計より有意に多く(p<0.0001),視野障害5級の症例は自動視野計のほうがGoldmann型視野計より有意に多かった(p=0.0003).2015年調査3)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障33例(54.1%),続発緑内障16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26.2%),正常眼圧緑内障7例(11.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(6.6%),発達緑内障1例(1.6%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(23%),2級29例(47%),3級1例(2%),4級3例(5%),5級8例(13%),6級6例(10%)であった(図2).今回調査と2015年調査6)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.5736)(図1),視覚障害等級は5級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に増加し(p=0.0320),6級が2015年調査3)と比べて今回調査で有意に減少した(p=0.0004)(図2).視力障害等級は,今回調査では1級7例(9.7%),2級10例(13.9%),3級5例(6.9%),4級28例(38.9%),5級1例(1.4%),6級21例(29.2%),2015年調査3)では1級9例(20.0%),2級6例(13.3%),3級2例(4.4%),4級3例(6.7%),5級6例(13.3%),6級19例(42.2%)であった(表1).今回調査では2015年調査3)に比べて4級が有意に多く(p<0.0001),5級が有意に少な今回調査(153例)2015年調査(61例)発達緑内障(2例,1.3%)原発閉塞隅角緑内障(5例,3.3%)*p<0.05今回調査(153例)2015年調査(61例)6級*図2視覚障害等級の比較今回調査と2015年調査で今回調査の視野等級では,5級の割合が有意に増加し(p=0.0320),6級の割合が有意に減少した(p=0.0004).表1今回調査と2015年調査との視力障害等級,視野障害等級の比較等級今回調査2015年調査p視力障害1級7(9.7%)9(20.0%)0.16582級10(13.9%)6(13.3%)>0.99993級5(6.9%)2(4.4%)0.70564級28(38.9%)3(6.7%)**<0.00015級1(1.4%)6(13.3%)0.0127*6級21(29.2%)19(42.2%)0.1650視野障害3級3(2.0%)0(0.0%)>0.99994級0(0.0%)0(0.0%)─5級56(36.6%)8(19.5%)0.0406*6級0(0.0%)0(0.0%)─かった(p<0.05).視野障害等級は,今回調査では2級94例(61.4%),3級3例(2.0%),5級56例(36.6%),2015年調査3)では2級33例(80.5%),5級8例(19.5%)であった.今回調査では2015年調査3)に比べて2級が有意に少なく(p<0.05),5級が有意に多かった(p<0.05).III考按視覚障害による手帳認定者の全国規模の疫学調査が2015年4月.2016年3月の患者を対象にして行われた4).原因疾患は緑内障(28.6%),網膜色素変性(14.0%),糖尿病網膜症(12.8%),黄斑変性(8.0%)の順だった.筆者らは,井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に2021年1.12月に通院し,視覚障害による手帳を申請した患者を調査して報告した5).原因疾患は緑内障(46.5%),網膜色素変性(15.8%),網脈絡膜萎縮(9.1%),黄斑変性(8.2%)の順だった.2015.2016年に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で行った同様の調査6)と比較すると,今回調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.緑内障患者の早期発見,治療薬や手術の開発,ロービジョンケアがますます重要になっている.そこで今回2021年1.12月に視覚障害による手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに2015年に行った同様の調査3)の結果と比較した.2015年から2021年までの間に視覚障害による手帳の視力障害,視野障害の認定基準が改正された.今回はこの改正の影響も検討した.緑内障病型は今回調査と2015年調査3)で順位は同様で割合に差もなかった.引き続き,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では,注意深い経過観察が必要である.視力障害は4級の割合が2015年調査3)6.7%より今回調査62.2%で有意に増加し(p<0.0001),5級の割合が2015年調査3)13.3%より今回調査2.2%で有意に減少した(p<0.05).視力障害認定基準の改正により2015年調査3)で5級だった症例が今回調査で4級となった可能性が考えられる.緑内障症例に限定しないが,同様の変更が既報でも多く報告されている7.10).視野検査方法は2018年から視野障害判定に利用可能となった自動視野計が39.9%で使用されていた.今回調査の全症例での検討5)では,自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮に比べて有意に多く使用されていた.視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは,緑内障患者にとって有益であったと考えられる.視野障害等級は,Gold-mann型視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,5級の症例が存在し,自動視野計のほうが詳細に視野障害を評価できる可能性がある.視野障害は5級の割合が2015年調査3)19.5%より今回調査36.6%で有意に増加し(p<0.05),2級の割合が2015年調査3)80.5%より今回調査61.4%で有意に減少していた(p<0.05).2018年の改正により,自動視野計による判定が可能となり,自動視野計による5級認定が54.1表2重複申請で上位等級となった症例視野等級視力等級視覚等級症例数(例)2級2級1級72級3級1級33級4級2級1%と多かったことが寄与したと考えられる.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では62.7%,2015年調査3)では70%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが判明した.2015年から2021年の間に緑内障治療分野では,点眼薬として新たにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用可能となった.また,手術ではmicroinvasiveglaucomasurgery(MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式abinternoマイクロフックロトミー,TrabExが行われるようになった.これらの新しい点眼薬や手術手技により緑内障患者の手帳申請が減ることを期待したが,今回調査では2015年調査3)に比べて,件数,割合ともに増加していた.この6年間で緑内障患者が増加したと考えるよりも,緑内障に対する啓発活動により緑内障が発見されやすくなったと思われる.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院ではロービジョンケアに力を入れており,光学補助具の使用や福祉施設への紹介にあたり積極的に手帳取得をすすめていることも増加の理由と考えられる.2021年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による手帳を申請した緑内障症例153例を調査した.病型は原発開放隅角緑内障が54.2%で最多で,視覚障害等級は2級以上が62.7%を占めていた.2015年調査3)と比較すると視覚障害5級が有意に増加したが,これは2018年の視野障害の認定基準の改訂,具体的には自動視野計による視野障害認定が可能となった影響によると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20072)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,20133)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版).あたらしい眼科34:1042-1045,20174)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)井上賢治,鶴岡三惠子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2021年).眼臨紀(印刷中)6)井上賢治,鶴岡三惠子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現状(2015年)─過去の調査との比較─.眼臨紀10:380-385,20177)江口万祐子,杉谷邦子,相馬睦ほか:認定基準改正後の手帳取得状況とQOLの変化.日本ロービジョン学会誌20:101-104,20208)中川浩明,本田聖奈,間瀬智子ほか:視覚障害認定基準改正前後の等級とFunctionalVisionScore.眼科62:795-800,20209)黄丹,間宮紀子,武田佳代ほか:身体障害者手帳申請件数の新旧基準での比較.日本ロービジョン学会誌21:24-28,202110)相馬睦,杉谷邦子,青木典子ほか:視覚障害認定基準改正による身体障害者手帳等級への影響.日本ロービジョン学会誌21:34-38,2021***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015 年版)

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1042.1045,2017c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年版)比嘉利沙子*1井上賢治*1永井瑞希*1塩川美菜子*1鶴岡三恵子*1岡山良子*1井上順治*2堀貞夫*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofGlaucomaPatientsWhoAppliedforPhysicalDisabilityCerti.cateduringtheYear2015RisakoHiga1),KenjiInoue1),MizukiNagai1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),RyokoOkayama1),JunjiInoue2),SadaoHori2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を後ろ向きに調査した.年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.等級は,1級が14例(23%),2級が29例(47%)であり,両者で全体の70%を占めていた.病型では,原発緑内障が44例(開放隅角緑内障33例,正常眼圧緑内障7例,閉塞隅角緑内障4例)(72%),続発緑内障が16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26%),発達緑内障が1例(2%)で,開放隅角緑内障が全体の54%で最多であった.視力障害と視野障害を重複申請した症例は25例であった.2005年および2012年の調査と比較し,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Weretrospectivelyinvestigated61patients(32male,29female)withglaucomatreatedatInouyeEyeHospitalandNishikasaiInouyeEyeHospital,whoappliedforphysicaldisabilitycerti.catesbetweenJanuaryandDecember2015.Patientsintheir80snumbered23cases(38%),intheir70s18cases(9%),andintheir60s15cases(24%).Astograde,.rstgrade(14cases,23%)andsecondgrade(29cases,47%)accountedfor70%ofthetotal.Glauco-matypeincludedprimaryglaucoma(44cases;72%),secondaryglaucoma(16cases,26%)anddevelopmentalglaucoma(1case;2%).Primaryopen-angleglaucomawasthemostfrequentglaucomatype(54%).Atotalof25patientsappliedfordouble-disordercerti.cates.Glaucomatypeandgradewerenotdi.erentbetweenresultsat2005and2012.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1042.1045,2017〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野障害,等級.glaucoma,visualimpairement,physicallydis-abilitycerti.cate,visual.elddisturbance,grade.はじめに上眼科病院グループで行っている視覚障害による身体障害者現在,わが国における視覚障害者の原因疾患の第1位は緑手帳申請の実態調査2.5)で,緑内障は上位を占めていた(表内障である1).地域や施設の特徴により,身体障害者手帳申1).しかし,緑内障患者の身体障害者手帳申請の詳細を検討請の原因疾患が異なる可能性は否めないが,2005年から井した報告は少ない6.8).今回,視覚障害による身体障害者手〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda,Tokyo101-0062,JAPAN1042(126)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(126)10420910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1井上眼科病院グループにおける視覚障害の身体障害者手帳申請の原因疾患2005年2)2009年3)2012年4)2015年5)1位緑内障23%網膜色素変性症28%緑内障31%緑内障29%2位網膜色素変性症17%緑内障23%網膜色素変性症17%網膜色素変性症18%3位黄斑変性13%黄斑変性12%黄斑変性11%黄斑変性15%(%)602015年:61例5150384034302010312030代40代50代60代70代80代90代図1年齢分布帳取得申請を行った緑内障患者について検討した.I対象および方法井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を対象とした.年齢は74.2±10.3歳(平均値±標準偏差),33.90歳であった.実態調査は,身体障害者診断書,意見書の控えおよび診療記録をもとに後ろ向きに行った.検討項目は,1)年齢分布,2)等級の内訳,3)緑内障の病型,4)重複申請の内訳である.視覚障害は,視力障害と視野障害に区分して認定されるが,両障害が等級に該当する場合は重複申請が可能である.1)から3)の項目については,2005年および2012年に行った井上眼科病院グループの実態調査結果7,8)と比較した.ただし,2005年は,井上眼科病院のみを対象としているため,症例数が少なくなっている.統計学的解析には,c2検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.年.齢.分.布年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.その他の年代では,50歳代が3例(5%),90歳代,30歳代が各1例(2%)であった.2012年の調査では,同様に80歳代が最多で25例(34%),70歳代が22例(30%),60歳代が16例(22%)の順であった.2005年では,70歳代が最多で18例(51(%)1006級52805級4級603級402級1級2002005年2012年2015年図2等級の内訳%),60歳代が9例(26%),80歳代が5例(14%)の順であった(図1).2.等級の内訳1級が14例(23%),2級が29例(47%)で,両等級を合わせると全体の70%を占めていた.2005年,2012年と比較し,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.882)(図2).3.緑内障の病型緑内障の病型は,原発緑内障が44例(72%),続発緑内障が16例(26%),発達緑内障が1例(2%)であった.原発緑内障では,開放隅角緑内障(POAG)が33例(54%),正常眼圧緑内障(NTG)が7例(11%),閉塞隅角緑内障(PACG)が4例(7%)を占めていた.続発緑内障の原因疾患は,ぶどう膜炎が6例(10%),落屑緑内障が5例(8%),血管新生緑内障が4例(6%),虹彩角膜内皮症候群が1例(2%)であった.2005年,2012年の調査でも,同様に開放隅角緑内障が最多(43,63%)で,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.763)(図3).4.重複障害申請の内訳申請は,視力障害のみが20例(33%),視野障害のみが16例(26%),重複申請を行った症例が25例(41%)であった.重複申請を行った25例のうち,視野障害が視力障害より上位等級であった症例は18例(72%),視力障害が上位等級であった症例は3例(12%),両者が同等の等級であった症例は4例(16%)であった.重複申請により,4例が上位等級に認定された(図4).(127)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171043【2005年】白内障術後3%n=35血管新生3%外傷3%落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2012年】血管新生3%n=73落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2015年】ICE症候群2%n=61血管新生発達2%落屑ぶどう膜炎POAGPACGNTG(%)図3緑内障の病型III考按視覚障害を米国の基準に従い9),良いほうの目の矯正視力0.02以上0.3未満のロービジョンと0.01以下の失明の両者とすると,2007年現在,日本の視覚障害者数は約164万人,約19万人弱が失明と推定されている1).さらに,視覚障害者の有病率は2007年では1.3%であったが,2030年では2.0%(約200万人)に増加することが予測されている1).緑内障患者に限定した今回の調査では,手帳申請者は70歳代以上が67%,60歳代以上では91%を占めていた.同調査における年齢(平均値±標準偏差)の推移は,2005年は72.1±9.3歳7),2012年は72.4±12.5歳8),2015年は74.2±10.3歳であった.年代別のピークは,2005年では70歳代であったが,2012年と2015年では80歳代であった(図1).症例数の差もあり単純に比較することはできないが,社会の高齢化に伴い,手帳申請も高齢者が増えると予想される.n=61視野障害の等級無54327241311111213648214123456無視力障害の等級図4各症例における視力障害と視野障害の等級数字は症例数を示した.黒の塗りつぶしは,重複申請により上位等級に認定された症例を示した.病型においては,原発緑内障が約3/4に対し,続発緑内障が約1/4を占めていた.過去の調査においても,同様の割合であり,全体としては開放隅角緑内障(POAG)が最多であった.また,TajimiStudyでは,続発緑内障の有病率は0.5%と報告されているが10),身体障害者では続発緑内障の割合が多かった.同じ病型でも症例ごとで重症度は異なるが,続発緑内障では重症例が多いことが示唆された.既報と比較して病型に関しては目立った変化はみられなかった(図2).身体障害者福祉法の障害等級判定には,問題点も指摘されている.視力に関しては,左右の単純加算による妥当性,視野に関しては,半盲と10°以内の求心性狭窄の評価の妥当性などがあげられる.また,手帳交付までの流れは都道府県により多少異なる.東京都においては,東京都心身障害者福祉センターに交付申請進達される診断書は年間約1,200件であり,障害認定課障害者手帳係で手帳交付が決定されるのは600件弱とされている.残りの約半数は,センター指定医の書類判定となるが,そのうち80%が視野に関する問題であり,疾患では,とくに緑内障が問題にあげられている11).視野障害2.4級では,「ゴールドマン視野検査のI/4イソプターが10度以内」と規定がある.1995年に視覚障害認定基準が改訂され,末期の緑内障患者の視野障害は該当しやすくなった.本実態調査では,2級が最多で,3級と4級に該当する症例がなかったのは,判定基準が影響している可能性がある.各疾患の重症度に合わせて等級が判定されるべきであるが,現状では疾患によって重症度と等級が一致していない場合もあり,緑内障の視野障害の評価は依然として困難をきわめる.一方で,今回の調査では,重複申請により上位等級に認定された症例が4例(16%)あった.緑内障という疾患の特徴上,手帳申請においては,視野障害の判定は重要な要素である.本実態調査では,井上眼科病院グループに通院している緑(128)内障患者数が正確に算定できないため,緑内障患者のうち身体障害者手帳を申請した割合が明確にできず,調査の限界があった.失明予防は,われわれ医療従事者の責務であるが,高齢社会により,身体障害者手帳申請者の増加および高齢化が予想される.また,身体障害者手帳の申請により,各福祉サービスや公的援助が受けられるが,実際にロービジョンケアに結びついているか否かの実態調査も今後は必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:視覚障害の疾病負担本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20073)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院における視覚障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20114)井上順治,鶴岡三恵子,堀貞夫ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)─過去の調査との比較.眼臨紀7:515-520,20145)井上賢治,鶴岡三恵子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現況(2015年)─過去の調査との比較.眼臨紀10:380-385,20176)武居敦英,平塚義宗,藤巻拓郎ほか:最近10年間に身体障害者手帳を申請した緑内障患者の背景の検討─順天堂大学と江東病院の症例から─.あたらしい眼科22:965-968,20057)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20078)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科37:1029-1032,20149)ColenbranderA:Thevisualsystem.Chapter12inGuidestotheEvaluationofPermanentImpairment,6thedition(RodinelliReds),AmericanMedicalAssociationpublications,p281-319,UnitedStatesofAmerica,200810)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclousureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200511)久保田伸枝:現状の身体障害者認定基準に基づく視野判定.日本の眼科84:1584-1595,2013***(129)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171045

身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)

2014年7月31日 木曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(7):1029.1032,2014c身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)瀬戸川章*1井上賢治*1添田尚一*2堀貞夫*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofPhysicalDisabilityCertificateDeclaredbyGlaucomaPatients(2012)AkiraSetogawa1),KenjiInoue1),ShoichiSoeda2),SadaoHori2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討.対象および方法:2012年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のなかで視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例,平均年齢72.4±12.5歳)を対象とした.申請時の緑内障病型,障害等級を調査した.さらに2005年に行った同様の調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障が46例(63.0%)と最多であった.障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)とを合わせて70%を超えていた.結論:原発開放隅角緑内障で重症例が多かった.2005年の調査と比較して,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Purpose:Toreporttheresultsofglaucomapatients’applicationforvisuallyhandicappedstatuscertification.ObjectsandMethod:Thisretrospectivestudyinvolved73patients(36males,37females,averageage:72.4±12.5years)whoappliedforthephysicallyhandicappedpersons’cardforvisualimpairmentfromJanuarythroughDecember2012,byregularlygoingtoInouyeEyeHospitalandNishikasai-InouyeEyeHospital.Glaucomatypeandgradeattimeofapplicationwereinvestigatedandcomparedwiththesameinvestigationconductedatourinstitutionin2005.Results:Primaryopen-angleglaucomanumbered46cases(63.0%),themostnumeroustype.Theclassesexceeded70%forthecombinedfirstgrade(13cases,17.8%)andsecondgrade(40cases,54.8%).Conclusion:Incomparisonwiththe2005surveyresults,glaucomatypeandgradeatthetimeofapplicationforthephysicallydisabledcertificatedidnotchange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1029.1032,2014〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycertificate.はじめに井上眼科病院におけるロービジョン専門外来受診者の実態を以前に報告した1).そのなかで原因疾患の第1位は緑内障(49%),第2位は網膜色素変性症(17%)であった.斉之平ら2)は,鹿児島大学附属病院のロービジョン外来受診者の原因疾患は,第1位は黄斑変性(52%),第2位は緑内障(30%)と報告した.ロービジョン外来を受診する原因疾患として緑内障は高い割合を占めると考える.身体障害者手帳申請者は井上眼科病院での2005年調査3)では,緑内障(23%),網膜色素変性症(17%),黄斑変性(12%)が原因疾患の上位を占めていた.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院での2009年調査4)では,第1位は網膜色素変性症(28.0%),第2位は緑内障(22.5%),第3位は網脈絡膜萎縮(11.9%)であった.視覚障害者を対象とした調査では,大澤ら5)は,変性近視,糖尿病網膜症,緑内障が,高橋6)は糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮,緑内障が,谷戸ら7)は糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性症が原因疾患の上位であると報告している.視覚障害の原因疾患としても,やはり緑内障は高い割合を占めると考える.ロービジョン外来受診者や身体障害者手帳取得者の原因疾患として緑内障は上位である.それらの緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点からは重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,また病型により重症度や身体障害者手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで井上眼科病院において2005年に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った緑内障患者の実態を報告した8).今回筆者らは,井上〔別刷請求先〕瀬戸川章:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkiraSetogawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)1029 眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2012年に身体障害者手帳の申請に至った疾患の第1位である緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2005年調査8)と比較した.I対象および方法2012年1.12月までに井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のうち,同時期に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例)を対象とし,後向きに研究を行った.年齢は35.92歳で,平均年齢は72.4±12.5歳(平均±標準偏差)であった.身体障害者手帳申請時の緑内障病型,視力,視野,障害等級を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.2005年に井上眼科病院で行った同様の調査8)と緑内障病型ならびに視覚障害等級の内訳をIBM統計解析ソフトウェアSPSSでANOVAおよびc2検定を用いて比較した.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障の4群として検討した.2005年調査8)と今回調査の違いは,対象者が2005年調査8)では井上眼科病院通院中の患者のみだったため35例で,今回の73例より少なかった.また,2007年にも井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で視覚障害による身体障害者手帳申請者の調査を行った4)が,そのなかの緑内障患者についての詳細な検討は行わなかったため,表1視力障害と視野障害の内訳視力1級2級3級4級5級6級申請なし視野2級042928195級0001022申請なし8225252005年■原発開放隅角緑内障2012年n=35■正常眼圧緑内障n=73■原発閉塞隅角緑内障今回は2005年調査8)と比較した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障46例(63.0%),続発緑内障18例(ぶどう膜炎後10例,落屑緑内障6例,血管新生緑内障2例)(24.7%),原発閉塞隅角緑内障5例(6.8%),正常眼圧緑内障4例(5.5%)であった.視覚障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)3級2例(2.7%),4級7例(9.6%),5級6例(8.2%),6級(,)5例(6.8%)であった.病型別の障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級10例(21.7%),2級28例(60.9%),3級1例(2.2%),4級2例(4.3%),5級3例(6.5%),6級2例(9.4%)であった.続発緑内障では1級3例(16.7%),2級8例(44.4%),3級1例(5.6%),4級3例(16.7%),5級1例(5.6%),6級2例(11.1%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級2例(40.0%),5級1例(20.0%)であった.正常眼圧緑内障では2級2例(50.0%),5級1例(25.0%),6級1例(25.0%)であった.緑内障の病型別に障害等級に差はなかった(p=0.3265).視力障害を申請したのは52例,視野障害を申請したのは49例であった.その内訳は,視力障害は1級8例,2級6例,3級4例,4級15例,5級4例,6級15例で,視野障害は2級44例,5級5例であった.重複障害申請を行ったのは28例であった.その内訳は視野障害2級・視力障害2級が4例,視野障害2級・視力障害3級が2例,視野障害2級・視力障害4級が9例,視野障害2級・視力障害5級が2例,視野障害2級・視力障害6級が8例,視野障害5級・視力障害4級が1例,視野障害5級・視力障害6級が2例であった(表1).2005年調査8)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障15例(42.9%),正常眼圧緑内障7例(20.0%),原発閉塞隅角緑内障4例(11.4%),血管新生緑内障4例(11.4%),落屑緑内障2例(5.7%),ぶどう膜炎による続発緑内障1例(2.93級2012年n=35■4級■5級■6級n=732005年■1級■2級42.92011.425.7635.56.824.7■続発緑内障22.942.9011.414.38.517.854.82.79.68.26.8図1緑内障病型の比較図2視覚障害等級の比較2005年調査と今回調査で緑内障病型に有意差はない.2005年調査と今回調査で視覚障害等級に有意差はない.1030あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(104) %),白内障手術による続発緑内障1例(2.9%),外傷性緑内障1例(2.9)であった.視覚障害等級は1級8例(22.9%),2級15例(42.9%),4級4例(11.4%),5級5例(14.3%),6級3例(8.5%)であった.今回と2005年調査8)との比較では,緑内障病型(p=0.066,図1)と障害等級(p=0.706,図2)ともに同等であった.III考按ロービジョンサービスの対象者は日本眼科医会では約100万人と推定している9).ロービジョン外来あるいは視覚障害の原因疾患として高い割合を占める緑内障患者の身体障害者手帳申請について今回は検討した.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院し,視覚障害による身体障害者手帳を申請した患者は236例で,原因疾患は緑内障73例,網膜色素変性症41例,黄斑変性症25例,糖尿病網膜症22例の順に多かった.一方,井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に同時期に通院した患者は130,281例であった.疾患別の内訳は緑内障39,745例,糖尿病網膜症18,796例,黄斑変性症11,458例,網膜色素変性症2,838例などであった.疾患別の視覚障害による身体障害者手帳の申請率は各々緑内障0.18%,網膜色素変性症1.44%,黄斑変性症0.22%,糖尿病網膜症0.12%であった.網膜色素変性症患者の割合が高く,他の疾患はほぼ同等であった.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院した緑内障患者は39,745例であった.これらの症例の緑内障病型は不明である.一方,2012年3月12.18日までに両院を含めた39施設で行った緑内障実態調査では正常眼圧緑内障47.6%,原発開放隅角緑内障27.4%,続発緑内障10.3%,原発閉塞隅角緑内障7.6%などであった10).今回の結果と比べると,今回のほうが正常眼圧緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多く,原発閉塞隅角緑内障はほぼ同等であった.つまり正常眼圧緑内障では身体障害者手帳に該当するほどの重症例は少なく,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では重症例が多いと考えられる.しかし,緑内障の病型別に障害等級に差はなく,身体障害者手帳に該当するほどの重症例においては個々の症例で重症度が異なり,一定の傾向はない.今回,視力障害の申請は1.6級まですべての等級に及んだが,視野障害の申請は2級と5級のみであった.これは1995年の身体障害者手帳の視覚障害の基準が改定され,視野障害の基準が緩やかになったが,やはり緑内障の視野障害の特徴が評価しがたいためではないかと思われる.今後,緑内障の視野障害も段階的に評価できるような,視覚障害の基準が制定されることを願う.しかし,視力障害と視野障害の重複障害により障害等級が上がった症例も6例あり,それら(105)の症例では制度の恩恵を受けていると考えられる.視覚障害を自覚してロービジョン外来を受診しても,身体障害者に該当しない患者がいる1).このことは,身体障害者手帳の申請に至っていない緑内障患者のなかにも,視覚障害の問題を抱える多くの患者が存在していることを示唆している.緑内障は末期まで視力が比較的よいのが特徴である.現在の視覚障害等級の基準だけで,患者のQOLをすべて評価することはむずかしく,視覚障害による身体障害者手帳の該当がなくてもロービジョンケアの必要性を考慮すべきである.身体障害者に該当するにもかかわらずさまざまな理由で身体障害者手帳の申請がなされていない患者についても報告されている5,7).藤田らは手帳取得に該当することを知らされていないこと,手帳を有した場合の福祉サービスについて情報が十分に伝達されていないことなどが要因の一つと報告している11).また,低い等級では該当していても申請を行わない症例もあるためと思われる.身体障害者手帳の取得は障害の告知と受容を意味するばかりでなく,ロービジョンサービスを充実させるための一つの手段である.2005年調査8)と今回調査の結果はほぼ同等であった.2005.2012年までの7年間にさまざまな緑内障点眼薬が新たに使用可能になった.しかし,依然として視覚障害による身体障害者手帳申請者の上位を緑内障が占め,緑内障病型や障害等級も変化はなかった.今後は2012年に緑内障チューブシャント手術が認可されたので緑内障による視覚障害者が減少することが期待される.2012年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による身体障害者手帳を申請した緑内障患者73例について調査した.病型は原発開放隅角緑内障が63.0%で最多で,障害等級は2級以上が72.6%を占めていた.2005年調査8)との変化は特になかった.今後も社会の高齢化に伴い視覚障害者も増加すると考えられる.改めて,円滑なロービジョンケアの提供,妥当な身体障害者手帳申請が日常外来において必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鶴岡三恵子,井上賢治,若倉雅登ほか:井上眼科病院におけるロービジョン専門外来の実際.臨眼66:645-650,20122)斉之平真弓,大久保明子,坂本泰二:鹿児島大学附属病院ロービジョン外来における原因疾患別のニーズと光学的補助具.眼臨紀5:429-432,20123)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20074)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院におけるあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141031 視覚障害による身体障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20115)大澤秀也,初田高明:外来における視覚障害患者の検討.臨眼51:1186-1188,19976)高橋広:北九州市内19病院眼科における視覚障害者の実態調査.第1報.視覚障害者と日常生活訓練.臨眼52:1055-1058,19987)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,8)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20079)日本眼科医会(編):あきらめないでロービジョン─社会復帰への道.199110)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,201311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***1032あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(106)