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眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の 特徴

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):691.694,2026c眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴坂田苑子*1井上賢治*1鶴岡三惠子*1國松志保*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院CCharacteristicsofGlaucomaPatientsSeenataLow-VisionClinicinanOphthalmologyHospitalSonokoSakata1)C,KenjiInoue1)C,MiekoTsuruoka1)C,ShihoKunimatsu-Sanuki2)C,GojiTomita1,3)CandKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)CNishikasaiInouyeEyeHospital,3)CTohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:高齢化に伴い緑内障患者は増加し,ロービジョンケアの需要も増えている.今回,ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を調査した.対象および方法:2024年C4月.C2025年C3月に井上眼科病院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例を対象とした.年齢,性別,病型,身体障害者手帳等級,ニーズおよび実施したロービジョンケアの内容を診療録より後ろ向きに調査した.結果:平均年齢はC68.0C±13.9歳で高齢者が多かった.病型は広義原発開放隅角緑内障がC75%を占めた.身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級がC70%以上であった.患者のおもなニーズは読字で,ロービジョンケア内容では拡大読書器の紹介が最多であった.結論:ロービジョン外来を受診した緑内障患者は高齢の重症例が多く,読字のニーズに対して拡大読書器,ICT機器,光学補助具の紹介が多く行われていた.CPurpose:Asthepopulationages,thenumberofglaucomapatientsisexpectedtoincrease,thusleadingtoariseinthedemandforlow-visioncare.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatethecharacteristicsofglauco-maCpatientsCseenCatCaCLow-VisionClinic(LVC)inCanCophthalmologyChospital.CSubjectsandMethods:WeCretro-spectivelyCanalyzedCtheCmedicalCrecordsCofC114CglaucomaCpatientsCseenCatCtheCInouyeCEyeCHospitalCLVCCbetweenCApril2024andMarch2025.Patientdemographics,glaucomasubtypes,visualdisabilitygrades,speci.cneeds,anddetailsCofCtheClow-visionCcareCprovidedCwereCreviewed.CResults:TheCmajorityCofCtheCpatientsCseenCwereCelderly(meanage:68.0C±C13.9years).Primaryopen-angleglaucomaaccountedforabout75%oftheglaucomasubtypesobserved.Over70%ofthepatientsheldaphysicaldisabilitycerti.cateclassi.edasGrade1orGrade2.Reading-relatedCneedsCremainedCpredominant,CandCvisualCaidCdeviceCintroductions,CespeciallyCthoseCrelatedCtoCaCvideoCmagni.er,werethemostcommoninterventions.Ontheotherhand,thedemandofapplicationforaphysicaldis-abilitycerti.catehaddecreased.Conclusion:TheglaucomapatientsseenatourLVCwerepredominantlyelderlysubjectswithsevereconditions,andreading-relatedneeds,magnifyingreadingaids,ICTdevices,andopticalaidswerefrequentlyrecommended.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):691.694,C2026〕Keywords:ロービジョン外来,緑内障,読字,身体障害者手帳C.low-visionclinic,glaucoma,reading-relatedneeds,physicaldisabilitycerti.cate.はじめに緑内障は長らく日本人の視覚障害の原因の第C1位で1),進行すると視力低下,視野障害により日常生活に著しく支障をきたす疾患である.日本人の高齢化の進展に伴いさまざまな眼疾患によるロービジョン患者が増加しており,ロービジョンケアの重要性はますます高まっている1).近年では視機能低下に対して医療機関でのロービジョンケアが重視され,各地でロービジョン外来が開設されている2).井上眼科病院(以下,当院)ではC2010年C9月にロービジョン外来を開設したが,患者の眼疾患の内訳では緑内障がもっとも多かっ〔別刷請求先〕坂田苑子:〒C101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SonokoSakata,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-SurugadaiChiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(97)C691(人)3530302725222015101050年齢図1年齢分布6級(0例,0.0%)4級(5例,4.4%)3級(2例,1.8%)20~4050607080~90以上(歳代)その他(9例,7.9%)正常眼圧緑内障(8例,7.0%)図2緑内障病型読字82歩行17就労17書字13羞明123遠見不自由介護3手帳2その他4図4患者のニーズた3).広島大学ロービジョン外来の受診者も緑内障患者がもっとも多く4),ロービジョンケアを考える際にはまずは緑内障患者について検討することが重要と考える.過去にも当院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を報告した5)が,緑内障治療の進歩や高齢化に伴い受診者の背景やニーズが変化している可能性がある.そこで本稿では,2024年度のC1年間に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を後ろ向きに検討したC.CI対象および方法対象はC2024年C4月.C2025年C3月に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例である.年齢,性別,緑内障病型,身体障害者手帳等級,患者のニーズ,およびロービジョン外来での指導内容を診療録から後ろ向きに調査した.期間内に複数回受診した患者については,期間内最初の受診時のデータを用いた.本研究はオプトアウトを実施し,井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を取得した(承認番号:C202501-4).CII結果対象は男性C53例,女性C61例で,平均年齢はC68.0C±13.9歳(平均C±標準偏差)で,28.C95歳であった.年代はC20.40歳代C10例(8.7%),50歳代C25例(21.5%),60歳代C22例(19.3%),70歳代C27例(23.7%),80歳代以上C30例(26.3%)で,70歳以上が半数を占めた(図1).緑内障病型は原発開放隅角緑内障C78例(68.4%),続発緑内障C19例(16.7%),正常眼圧緑内障C8例(7.0%)の順であった(図2).視覚障害による身体障害者手帳はC89例(78.1%)が有しており,1級C21例(18.4%),2級C43例(37.7%),3級C2例(1.8%),4級5例(4.4%),5級18例(15.8%),6級0例(0%)であった(図3).身体障害者手帳を有していないC25例(21.9%)のうち,等級に該当するが希望していないのがC19例で,692あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(98)表1ロービジョンケアの内容内訳件数内訳件数拡大読書器(CTV)紹介,利用C35ルーペ紹介C5就労継続,相談C21介護保険紹介,相談,利用C5視覚リハビリ紹介C11歩行訓練C4点字図書館,デジタル録音図書紹介C10障害年金申請C2ITサポート紹介C7代読,代筆サービスC1音声CPC紹介C6歩行器C1同行援護C6スマートサイト紹介C1身体障害者手帳紹介,申請C6自立訓練C1合計(重複あり)C122CこのうちC2級相当がC10例,4級相当がC1例,5級相当がC8例であった.障害の等級に該当しない症例はC6例であったC.患者のニーズ(重複あり)は読字C82例,歩行C17例,就労17例,書字C13例,羞明C12例と続いた(図4).ロービジョンケアの指導内容(重複あり)は,拡大読書器の紹介C35例,就労に関する相談C21例,視覚リハビリ紹介C11例,点字図書館の紹介C10例,ITサポートの紹介C7例,音声パソコン紹介C6例,同行援護の紹介C6例,身体障害者手帳の申請希望C6例,ルーペ紹介C5例,介護保険紹介C5例,歩行訓練C4例,障害年金申請C2例など多岐にわたった(表1).ITサポートとは,当院の視覚障害を有する職員がパソコンやタブレット端末などの視覚補助機能を紹介し,日常生活支援や社会資源の情報提供を行うものである6)C.CIII考按当院のロービジョン外来を受診する緑内障患者は高齢者が多く,身体障害者手帳C1級やC2級の重度の視覚障害を有する患者が多数であった.また,身体障害者手帳を有していない患者のなかで,身体障害に該当する障害を有しながら身体障害者手帳申請を希望しない患者も存在した.等級が低いほどロービジョンケアの必要性や利用できる福祉サービスが少ないという誤解があり,身体障害者手帳取得のメリットを感じづらく7),申請の遅れが生じている可能性も考えられる.視覚補助具をはじめ,公共料金の割引など利用できるサービスを具体的に提示し,身体障害者手帳申請に対するネガティブな感情を少なくする工夫も必要と思われる.身体障害者手帳の取得により自身を身体障害者と認識することへの心理的抵抗感から,申請を希望しない患者も存在すると考えられる.一方で,身体障害者手帳に障害が該当しない患者も,少なからずロービジョン外来を受診しており,視覚障害が早期の段階からロービジョンケアの介入ができていることも示された.いずれの患者も比較的若年で,就労や趣味において細かい文字の視認が必要な患者であった.傍中心視野障害によって緻密な作業に支障をきたしていたものの,周辺視野は保たれているため,身体障害者手帳の認定基準には該当しなかったC.患者のニーズでは依然として読字が多かった.読字に対するロービジョンケアの内訳は非常に多岐にわたるが,拡大読書器の紹介やデジタルデバイスの紹介が多かった.パソコンやスマートフォン,タブレット端末などのCinformationandcommunicationtechnology(ICT)機器をC1人C1台所有する時代となり8),実際に視覚障害者でもコロナ禍を境にCICT機器の利用が以前と比べ有意に増加している8).今後もCICT機器を活用したデジタル支援がさらに拡充されていくと考えられる.端末のカメラを利用した文字の拡大機能やコントラスト調節機能による視認性向上,また,スマートフォンやスマートスピーカーなどのスマート家電を利用した音声読み上げ機能,文字の音声入力によって情報の入手・発信が可能になっている8).近年ではアプリの進化もめざましく,カメラに映る人物や色を認識し音声で伝える機能や,外出時に信号を認識し目的地までナビゲーションする機能なども開発されている6,9).これらの機能を有効に活用する患者と,ICT機器の導入にハードル,不安を感じ情報社会から取り残されている患者もおり,情報格差が広がりつつあることが課題である7).今回,患者のニーズとして身体障害者手帳の紹介や申請はC6例(4.9%)で,過去の報告5)のC22例(59.5%)から減少した.これは,今回の対象がロービジョン外来を受診したすべての緑内障患者であるのに対して,過去の報告5)では初めてロービジョン外来を受診した緑内障患者を対象とした点が異なる.初回の受診では身体障害者手帳の紹介や緑内障の進行による等級の変更が行われる可能性が高いが,ロービジョン外来に数回受診している患者では生活指導が中心に行われていたことが考えられる.加えて,ロービジョン外来の認知度向上に伴い一般外来でもロービジョンケアを提供する機会が増加しており,ロービジョン外来の受診以前に一般外来でも身体障害者手帳の紹介や申請が行われている可能性も(99)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C693考えられる.また,Limらは「緑内障患者はうつ傾向のある患者の割合が多く4),うつ傾向がC30%,不安障害がC64%の割合でみられた」10)と報告している.緑内障患者と網膜色素変性患者の比較では,緑内障患者で心の健康や行動の制限などにおける生活の質(qualityCoflife:QOL)の低下が指摘されており11),日常生活に多くの困難を抱えていることが予測される.一般的にはロービジョンケアを必要と考える患者は,少なからず見えにくいことに不安を感じてから受診する.しかし,不安を強く抱える患者には,ロービジョンケアの存在や福祉センターとの連携,福祉サービスなどを早期に情報提供することも大切である.視覚補助具の選定のみならず,本人の意思を尊重しながら,心理的サポートを含めた包括的なロービジョンケアを行うことが求められる12).今回の調査では,2024年度のC1年間でロービジョン外来を受診した緑内障患者は身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級を有する重症例が約C70%を占めた.患者のおもなニーズは読字であり,ロービジョンケア内容は拡大読書器の紹介が最多であった.身体障害者手帳に障害等級が該当しない軽度視覚障害のロービジョン外来受診も約C5%みられ,早期からのロービジョン介入ができていることもわかった.緑内障患者では,重度の視覚障害を有する患者だけでなく,視力低下や視野障害が軽度の患者についても早期からロービジョンケアの導入が検討されうる.今後もCICT機器のさらなる活用拡充とともに,心理的側面にも配慮した包括的支援が望まれる.緑内障患者に対し,ロービジョン外来は今後も重要な役割を担っていくと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation..JpnJOphthal-molC67:346-352,C20232)田淵昭雄,藤原篤之:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状(第C2報).日ロービジョン会誌.14:52-57,C20143)鶴岡三惠子,井上賢治,大音清香ほか:井上眼科病院におけるロービジョン外来の実態.眼臨紀.15:317-321,C20224)佐藤佑二,奈良井章人,木内良明:緑内障のロービジョンケア.臨眼C72:192-194,C20185)井上賢治,鶴岡三惠子,大音清香ほか:眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴.眼臨紀C11:C922-926,C20186)石原純子,中津愛,石井祐子ほか:コロナ禍を境に変化した視覚障害者のCIT機器利用と意識について.日ロービジョン会誌.25:s10-s14,C20257)安蘇谷浩乃,相馬睦,杉谷邦子ほか:眼科における身体障害者手帳申請の現況と過去との比較.日ロービジョン会誌.24:41-44,C20238)三宅琢:ICT機器を用いたデジタルビジョンケア.眼科.64:447-452,C20229)山本翠:視覚補助具とCICT機器の選び方と使い方.薬局.72:2505-2511,C202110)LimNC,FanCH,YongMKetal:Assessmentofdepres-sion,Canxiety,CandCqualityCofClifeCinCSingaporeanCpatientsCwithglaucoma..JGlaucomaC25:605-612,C201611)井上賢治,鶴岡三惠子,石田恭子ほか:ロービジョン外来を受診した緑内障患者と網膜色素変性症患者のCQOLの評価.臨眼.73:361-367,C201912)松岡恵美子,松原英紀:不安感の強い緑内障患者のロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌.23:73-77,C2023***694あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(100)

視線計測装置を用いたMNREAD-Jk による読字能力と 眼球運動指標の検討

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):462.467,2026c視線計測装置を用いたMNREAD-Jkによる読字能力と眼球運動指標の検討丸久友理子*1岡真由美*1,2細川貴之*1,2*1川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CAssessmentofReadingAbilityandEyeMovementParametersUsinganEyeTrackerwiththeMNREAD-JkAcuityChartYurikoMaruhisa1),MayumiOka1,2)andTakayukiHosokawa1,2)1)DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:MNREAD-Jkを視線計測装置に提示し,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討した.さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.対象および方法:対象は若年健常成人C20名であった.読字の視標はCMNREAD-Jkとし,視線計測装置のモニターに表示させた.解析は読字能力および読字の眼球運動とした.結果:読書能力において読字時間と読書速度はC0.1logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.眼球運動においてCsaccade移動量,改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるほど短縮したが,停留時間,逆行回数は文字サイズ間で有意差がなかった.結論:MNREAD-Jkによる読字能力はC1.3logMARから0.9logMARまで評価可能であった.各文字サイズでの読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを得ることができた.CPurpose:ToinvestigatethefeasibilityofevaluatingreadingabilityusingtheMNREAD-Jkacuitychartpre-sentedviaeye-trackingsysteminhealthyyoungadultsandobtainingfundamentaldataoneyemovementparame-tersduringreading.Methods:Thisstudyinvolved20healthyyoungadultswhoviewedtheMNREAD-JkacuitychartCdisplayedConCtheCeye-trackerCmonitor.CTheCreadingCabilityCandCeyeCmovementCparametersCwereCthenCana-lyzed.Results:Readingabilitydeclinedwith0.1logMARasthethresholdvalue.Themaximumreadingspeedwas359characters/min.Thecriticalprintsizewas0.10logMAR,andthereadingacuitywas-0.12logMAR.AsprintsizeCdecreased,CsaccadeCandCreturnCsweepCamplitudesdecreased;however,CnoCsignificantCdi.erencesCinCfixationCdurationCandCregressionsCwereCobserved.CConclusion:ReadingCabilityCwasCsuccessfullyCassessedCusingCtheCMNREAD-JkCacuityCchartCfromC1.3CtoC0.9logMAR,CandCtheseCfindingsCprovideCfundamentalCdataCforCevaluatingCeye-movementparametersduringreadingforeachprintsize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(4):462.467,C2026〕Keywords:視線計測装置,MNREAD-Jk,読字,眼球運動,若年健常成人.eyetracker,MNREAD-Jk,reading,eyemovement,younghealthyadults.Cはじめに神経発達症は,読字時間の延長や誤読など読字に関する問題を伴う1,2).読字障害の視覚的要因として眼球運動の問題があり,停留時間の延長,逆行回数の増加,衝動性眼球運動回数の増加,不正確性などが報告されている3,4).そのため,眼科領域においても神経発達症児の読字に関する問題の早期発見に努め,一次障害および二次障害を予防する必要がある.眼科領域において小児に対する読字能力の評価方法にCdevelopmentaleyemovementtest(DEM)やCMNREAD-Jk(はんだや)がある.DEMは眼球運動自体の評価よりも読字能力を反映する5).丸久ら6)は注意欠如多動性障害(attentiondeficithyperactivitydisorder:ADHD)児に施したCDEMに〔別刷請求先〕丸久友理子:〒701-0193倉敷市松島C288川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻Reprintrequests:YurikoMaruhisa,DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,KurashikiCity,Okayama701-0193,JAPANC462(120)おいて,不等間隔に配列された数字視標の読字時間が延長し,周辺視における空間認識への視覚的注意が狭い可能性を述べた.Bilbaoら3)は,神経発達症児において逆行回数の増加と誤読の有意な増加がみられ,読字困難の特定に有用と報告している.しかし,DEMの視標である数字は意味処理を必要とせず,認知的負荷が低い.そのため,読字における単語や文節を一つの塊として認識する能力の評価が困難である.一方で,MNREAD-Jkは音韻誤読が起こらないよう配慮されているため,視覚情報処理の評価に適している7).石井ら7)は,発達性読み書き障害児に対してCMNREAD-Jkを用い,読字能力が健常発達児と異なるパターンを示したと述べているが,眼球運動に関する要因は不明である.今回は,眼科領域における神経発達症児の読字能力の評価指標を明らかにするための予備的研究を行った.本研究では,MNREAD-Jkを視線計測装置のCGazefinder(JVCケンウッド)に表示させ,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討する.さらに,読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求める.CI対象対象は若年健常成人C20名(男性C10名,女性C10名)で,年齢は平均C21.5歳(20.22歳)であった.条件は,矯正視力C1.0以上,TitmusStereoTestによる立体視がC60秒以下であった.屈折異常は,眼鏡またはコンタクトレンズで矯正した.除外基準は視野異常があること,顕性斜視があることとした.また,言語発達について聴取し,すべての対象者において問題はみられなかった.本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会による審査(20-045)を受け実施した.CII方法読字の視標はCMNREAD-Jkを用いた.MNREAD-Jkはひらがな単語で構成され,文字サイズがC1.3logMARから-0.5logMARまで変化する.各文字サイズをC1ブロックとし,3行にC9単語(1行にC3単語),24文字で構成されている.単語の長さや濁音の数は各ブロック共通である.MNREAD-Jkを視距離C60cmに位置するモニターに投影させて測定するため,30cm用のプレート版を解像度C600dpiでスキャンし,拡大率=元の距離/使用距離により,視距離に対応した文字サイズとなるよう拡大した.対象者には最大文字サイズから最小文字サイズへとC1ブロックずつ,順にできるだけ早く正確に音読するよう指示した.眼球運動の記録にはCGazefinderを使用した.Gazefinderの測定原理は,ディスプレイ下部にある視線計測部から射出される近赤外線CLEDが角膜に反射することで生じる角膜反射像と瞳孔中心との相対的距離をもとに視線位置を計測することである.装置のサンプリングレートはC50Hzであった.モニターのサイズはC19インチで,解像度は横(X軸)C1,280pixel×縦(Y軸)1,024pixelであった.検査距離は60cmとし,測定中は頭部を顎台で固定した.C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字能力の指標は,読書速度および最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力であった.さらに,神経発達症児においては読字時間の延長と誤読が多くみられることから3),読字速度のみでは読字能力の影響を評価できない可能性がある.したがって今後の分析を視野に入れ,指標として読字時間と誤読数を追加し,以下の五つを設定した.Ca.読字時間,読書速度読字時間はC1ブロックを読字するのに要した秒数とした.読書速度はC1分間に読めた文字数で計測し,つぎの計算式で求めた.読書速度=(24-読み飛ばし文字数)÷読字時間×60Cb.最大読書速度最大読書速度は,臨界文字サイズ以上での読書速度の平均値より求めた.Cc.臨界文字サイズ臨界文字サイズは,対象者が最大読書速度で読める最小の文字サイズとした.Cd.読書視力読書視力は対象者がかろうじて読むことのできる最小の文字サイズとし,つぎの計算式で求めた.読書視力=1.4-(読字可能であったブロック数C×0.1)+(読み飛ばし誤読数/240)Ce.誤読数誤読は,読字困難児の誤読分析表C8)を参考に,読み飛ばし,読み誤り,自己修正,語頭反復の四つに分類した.誤読の種類ごとに文字数を計測した.上記五つの指標の算出には,MicrosoftExcelを用いた.C2.Gaze.nderにおける眼球運動解析する文字サイズはCGazefinderの精度9)を考慮し,1文字が平均1°(36pixel)以上となる1.3logMARから0.8logMARとした.読字の眼球運動はCsaccade,停留,改行,逆行のC4要素からなる10).これらに着目し,眼球運動指標としてCsaccadeの視線移動量(saccade移動量),saccade回数,停留時間,改行時における第一Csaccadeの視線移動量(改行Csaccade移動量),逆行回数を設定した.実際に測定した眼球運動の波形を示す(図1).瞬目やそれと同時に生じた眼球運動,測定画面から視線がはずれているもの(マイナス値,0,X軸が(pixel)(pixel)401.5402402.5403403.5(秒)図11.0logMARの1行における眼球運読字時間X軸,Y軸,停留時間,saccade移動量,改行Csaccade移動量を示す.単語をまとまり読みしており,停留とsaccadeを繰り返していた.1,280pixel以上・Y軸が1,024pixel以上の値)は除外した.Saccadeは,視線移動量が36pixel以上の値とした.停留はC36pixel以内にC100msec以上と定義した.また,改行saccade移動量は,改行開始を行の読み終わりに生じる停留のCX軸最大値.とし,改行終了を.のつぎに生じた停留のX軸値.とし,.から.までの移動量を求めた.逆行は,逆行したCsaccadeの視線移動量がC36pixel以上の値を計測した.C3.統計解析統計解析は眼球運動の各指標において隣接するClogMAR値を比較し,Bonferroni法で有意水準を補正後,t検定で多重比較をした.有意水準は5%とした.III結果1.MNREAD-Jkにおける読字能力1.3logMARからC0.0logMAR視標を音読可能であった対象者はC20名全員であったが,-0.1logMARではC19名,-0.2logMARではC10名,-0.3logMARではC1名,-0.4と-0.5logMARではC0名であった.したがって,以降の解析は1.3logMARから-0.2logMARとした.Ca.読字時間,読書速度(図2)読字時間および読書速度はC1.3logMARからC0.1logMARでほぼ一定で,0.1logMARを境界とし,それぞれ延長・低下がみられた.Cb.最大読書速度最大読書速度(平均値C±標準偏差)はC359C±46文字/分であった.-0.3-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.11.21.3文字サイズ(logMAR)N=20図2読字曲線文字サイズごとの読字時間と読字速度を示す.c.臨界文字サイズ(個)臨界文字サイズ(平均値C±標準偏差)はC0.10C±0.12log-25MARであった.C20d.読書視力誤読の文字数15101.3logMARからC0.0logMARにおいて誤読はほとんどみC5られず,中央値はC0(0.0)個であった.0.0logMARから-0.2logMARまでの誤読数を図3に示す.-0.1logMAR以下でC0読書視力(平均値C±標準偏差)は-0.12±0.07logMARであった.e.誤読数の中央値(四分位範囲)0.0logMAR(n=20)(n=19)(n=10)は誤読が多く出現した.-0.1logMARでの読み飛ばしの中央値は2(0.4)個,読み誤りはC1(0.2.5)個,-0.2logMARでの読み飛ばしの中央値はC8(6.16.3)個,読み誤りはC0.5(0.3.5)個であった.-0.1logMARから-0.2logMARにおいて誤読数のばらつきが大きく,自己修正,語頭反復はみられなかった.C2.Gaze.nderにおける眼球運動(表1)Saccade移動量は,文字サイズが小さいほど短縮した.1.1logMARとC1.0logMARの間,0.9logMARとC0.8logMARの間で有意差がみられなかったが,その他の文字サイズ間では有意差がみられた(p<0.01).Saccade回数は,0.9logMARとC0.8logMARの間でのみ有意差がみられ,その他の文字サイズ間では有意差がみられなかった.停留時間は,すべての文字サイズ間で有意差がみられなかった.改行Csaccade移動量は,文字サイズが小さくなるほど短縮し,すべての文字サイズ間で有意差がみられた(p<0.05).読み誤り図3読字曲線文字サイズが-0.1logMARより小さくなると誤読数が増加したが,対象者間でばらつきが大きかった.改行Csaccade移動量がC1行の長さに占める割合(改行到達度)は,1.3logMARでC72%,1.2logMARでC73%,1.1logMARでC73%,1.0logMARでC72%,0.9logMARでC70%,0.8logMARでのみC60%であった.逆行回数はすべての文字サイズでC0回であった.CIV考按若年健常成人を対象にCMNREAD-JkをCGazefinderのモニターに表示させ,さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.表1文字サイズごとの眼球運動指標saccade停留改行文字サイズCsaccade移動量saccade回数停留時間改行Csaccade移動量改行到達度(pixel)(回)(秒)(pixel)(%)C1.3logMARC429±55C8.3±1.4C**0.23±0.04C914±62C**0.72C1.2logMARC325±55C8.7±1.4C**0.23±0.03C739±56C**0.73C1.1logMARC235±37C8.8±2.1C0.23±0.05C585±44C**0.73C1.0logMARC215±70C8.4±1.3C**0.22±0.04C459±47C**0.72C0.9logMARC144±26C8.6±1.9C0.24±0.05C353±57C0.70C****0.8logMARC113±27C6.7±1.1C0.25±0.06C243±50C0.61平均値±標準偏差を示す.**:p<0.01C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字時間,読書速度は,0.1logMARを境界に延長・低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズは0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.MNREAD-Jk読書速度調査11)において,読書速度は0.0logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.01logMAR,読書視力は-0.18logMARと報告されている.読書速度が低下する文字サイズと読書視力の文字サイズは本研究のほうが大きく,臨界である小さい文字サイズではモニターの解像度が影響している可能性が考えられた.また,誤読数は-0.1logMAR以下で増加とばらつきがみられた.これは-0.1logMAR以下では文字の形態を認識する限界であることが考えられた.誤読数に対する今後の解析は,読字時間,読字速度,臨界文字サイズなどを含めて考慮し0.1logMAR以上とする.さらに今回は,新たな指標として読字時間および誤読数を追加した.しかし読字時間および読字速度は同程度であった.これは今回の対象者である若年健常成人ではほとんど誤読がみられなかったためと考える.今後は神経発達症において検討を行う.C2.Gaze.nderにおける眼球運動Saccade移動量は,文字サイズが小さくなるごとに短縮傾向を示し,停留時間,逆行回数は文字サイズによる差がみられなかった.健常人においては,文章の難易度が高いとCsac-cade移動量が短くなり10),逆行回数が増加する12).また,停留は認知処理の種類や作業負荷によって変化する13).しかし,今回視標として用いたCMNREAD-Jkは,各文字サイズで単語の難易度が不変である.したがって,今回の結果は文字サイズに起因したものと考える.Saccade回数は約C8回であり,1ブロックあたりの単語数とほぼ一致し,まとまり読みを行っていた.単語の読字は,ひとまとまりの文字の連なりが表す音や意味を理解・表出する行為である.Saccade回数の評価は,この知覚的・認知的処理を推測可能である10).また,0.8logMARにおけるCsac-cade回数は約C6回であり,1.3logMARから0.9logMARより少なかった.モバイルアイトラッカーを用いた読書課題におけるCsaccade検出率はサンプリングレートC120HzのほうがC60Hzよりも有意に高いことが報告されている14).したがって,0.8logMAR以下でのCsaccade検出には限界があると考えた.改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるごとに有意に短縮した.改行のCsaccadeは傍中心窩の処理を反映しており,視空間的注意が関与15)する.今回,改行到達度は約C70%であった.成人に対する読字中の改行時における眼球運動の検討では,改行中の約C20%が目標位置を下回る眼球運動を示し,それに続く修正Csaccadeが発生することが報告されている15).これは筆者らの結果とほぼ一致した.読字障害児において,文字サイズを変化させることは,視空間的注意の広がりを捉える評価指標としての可能性があると考える.本研究において,Gazefinderのモニターに表示させたMNREAD-JkはC1.3logMARから0.9logMARの読字能力を評価可能であった.眼球運動指標を設定し,その基礎的データを求めたことにより認知的処理を推測可能であり,神経発達症児の読字能力に与える要因の解明につながることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岡牧郎,竹内章人,諸岡輝子ほか:広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害に合併する読字障害に関する研究.脳と発達44:378-386,C20122)岡牧郎:併存症,遺伝子研究から発達性読み書き障害の病態を展望する.脳と発達50:253-258,C20183)BilbaoCC,CCarreraCA,COtinCSCetal:EyeCtracking-basedCcharacterizationCofCfixationsCduringCreadingCinCchildrenCwithCneurodevelopmentalCdisorders.CBrainCSciC14:750,C20244)SeassauCM,CGerardCCL,CBui-QuocCECetal:BinocularCsac-cadeCcoordinationCinCreadingCandCvisualsearch:aCdevel-opmentalCstudyCinCtypicalCreaderCandCdyslexicCchildren.CFrontIntegrNeurosciC8:85,C20145)AytonLN,AbelLA,FrickeTRetal:Developmentaleyemovementtest:whatCisCitCreallyCmeasuring?COptomCVisCSciC86:722-730,C20096)丸久友理子,岡真由美,星原徳子ほか:注意欠陥多動性障害(ADHD)児における眼球運動が読字に及ぼす影響.日視能訓練士協誌45:79-86,C20167)石井雅子,張替涼子,長谷川真理ほか:発達性読み書き障害が疑われる学童の読字能力の特性―MNREAD-Jkによる検討―.日視能訓練士協誌42:215-222,C20138)島田恭仁:読み困難児の誤読分析:文章音読課題における誤読基準表の作成.鳴門教育大学研究紀要C28:24-38,20139)藤田美佳,米田剛,山下力ほか:半側空間無視に対する視線計測装置を用いた病態評価の検討―視線計測時の測定精度・視標サイズについて―.川崎医療福祉学会誌C30:C565-569,C202110)苧阪直行:読み-脳と心の情報処理.朝倉書店,p1-128,C199811)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視能訓練士協誌35:147-154,C201312)RaynerK:EyeCmovementsCinCreadingCandCinformationprocessing:20yearsofresearch.PsycholBullC124:372-422,C199813)StaubA,RaynerK:Eyemovementsandon-linecompre-hensionprocesses.TheOxfordhandbookofpsycholinguis-tics(GarethCGaskelled),p327-342,OxfordCUniversityPress,UK,200714)LeubeA,RifaiK:SamplingCrateCin.uencesCsaccadeCdetectionCinCmobileCeyeCtrackingCofCaCreadingCtask.CJEyeMovResC10:1-11,C201715)SlatteryCTJ,CParkerAJ:ReturnCsweepsCinreading:pro-cessingCimplicationsCofCundersweep-fixations.CPsychonCBullRevC26:1948-1957,C2019***