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視線計測装置を用いたMNREAD-Jk による読字能力と 眼球運動指標の検討

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):462.467,2026c視線計測装置を用いたMNREAD-Jkによる読字能力と眼球運動指標の検討丸久友理子*1岡真由美*1,2細川貴之*1,2*1川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CAssessmentofReadingAbilityandEyeMovementParametersUsinganEyeTrackerwiththeMNREAD-JkAcuityChartYurikoMaruhisa1),MayumiOka1,2)andTakayukiHosokawa1,2)1)DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:MNREAD-Jkを視線計測装置に提示し,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討した.さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.対象および方法:対象は若年健常成人C20名であった.読字の視標はCMNREAD-Jkとし,視線計測装置のモニターに表示させた.解析は読字能力および読字の眼球運動とした.結果:読書能力において読字時間と読書速度はC0.1logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.眼球運動においてCsaccade移動量,改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるほど短縮したが,停留時間,逆行回数は文字サイズ間で有意差がなかった.結論:MNREAD-Jkによる読字能力はC1.3logMARから0.9logMARまで評価可能であった.各文字サイズでの読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを得ることができた.CPurpose:ToinvestigatethefeasibilityofevaluatingreadingabilityusingtheMNREAD-Jkacuitychartpre-sentedviaeye-trackingsysteminhealthyyoungadultsandobtainingfundamentaldataoneyemovementparame-tersduringreading.Methods:Thisstudyinvolved20healthyyoungadultswhoviewedtheMNREAD-JkacuitychartCdisplayedConCtheCeye-trackerCmonitor.CTheCreadingCabilityCandCeyeCmovementCparametersCwereCthenCana-lyzed.Results:Readingabilitydeclinedwith0.1logMARasthethresholdvalue.Themaximumreadingspeedwas359characters/min.Thecriticalprintsizewas0.10logMAR,andthereadingacuitywas-0.12logMAR.AsprintsizeCdecreased,CsaccadeCandCreturnCsweepCamplitudesdecreased;however,CnoCsignificantCdi.erencesCinCfixationCdurationCandCregressionsCwereCobserved.CConclusion:ReadingCabilityCwasCsuccessfullyCassessedCusingCtheCMNREAD-JkCacuityCchartCfromC1.3CtoC0.9logMAR,CandCtheseCfindingsCprovideCfundamentalCdataCforCevaluatingCeye-movementparametersduringreadingforeachprintsize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(4):462.467,C2026〕Keywords:視線計測装置,MNREAD-Jk,読字,眼球運動,若年健常成人.eyetracker,MNREAD-Jk,reading,eyemovement,younghealthyadults.Cはじめに神経発達症は,読字時間の延長や誤読など読字に関する問題を伴う1,2).読字障害の視覚的要因として眼球運動の問題があり,停留時間の延長,逆行回数の増加,衝動性眼球運動回数の増加,不正確性などが報告されている3,4).そのため,眼科領域においても神経発達症児の読字に関する問題の早期発見に努め,一次障害および二次障害を予防する必要がある.眼科領域において小児に対する読字能力の評価方法にCdevelopmentaleyemovementtest(DEM)やCMNREAD-Jk(はんだや)がある.DEMは眼球運動自体の評価よりも読字能力を反映する5).丸久ら6)は注意欠如多動性障害(attentiondeficithyperactivitydisorder:ADHD)児に施したCDEMに〔別刷請求先〕丸久友理子:〒701-0193倉敷市松島C288川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻Reprintrequests:YurikoMaruhisa,DoctoralPrograminSensoryScienceGraduateSchoolofHealthScienceandTechnologyKawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,KurashikiCity,Okayama701-0193,JAPANC462(120)おいて,不等間隔に配列された数字視標の読字時間が延長し,周辺視における空間認識への視覚的注意が狭い可能性を述べた.Bilbaoら3)は,神経発達症児において逆行回数の増加と誤読の有意な増加がみられ,読字困難の特定に有用と報告している.しかし,DEMの視標である数字は意味処理を必要とせず,認知的負荷が低い.そのため,読字における単語や文節を一つの塊として認識する能力の評価が困難である.一方で,MNREAD-Jkは音韻誤読が起こらないよう配慮されているため,視覚情報処理の評価に適している7).石井ら7)は,発達性読み書き障害児に対してCMNREAD-Jkを用い,読字能力が健常発達児と異なるパターンを示したと述べているが,眼球運動に関する要因は不明である.今回は,眼科領域における神経発達症児の読字能力の評価指標を明らかにするための予備的研究を行った.本研究では,MNREAD-Jkを視線計測装置のCGazefinder(JVCケンウッド)に表示させ,若年健常成人を対象に読字能力を評価可能か検討する.さらに,読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求める.CI対象対象は若年健常成人C20名(男性C10名,女性C10名)で,年齢は平均C21.5歳(20.22歳)であった.条件は,矯正視力C1.0以上,TitmusStereoTestによる立体視がC60秒以下であった.屈折異常は,眼鏡またはコンタクトレンズで矯正した.除外基準は視野異常があること,顕性斜視があることとした.また,言語発達について聴取し,すべての対象者において問題はみられなかった.本研究は,川崎医療福祉大学倫理委員会による審査(20-045)を受け実施した.CII方法読字の視標はCMNREAD-Jkを用いた.MNREAD-Jkはひらがな単語で構成され,文字サイズがC1.3logMARから-0.5logMARまで変化する.各文字サイズをC1ブロックとし,3行にC9単語(1行にC3単語),24文字で構成されている.単語の長さや濁音の数は各ブロック共通である.MNREAD-Jkを視距離C60cmに位置するモニターに投影させて測定するため,30cm用のプレート版を解像度C600dpiでスキャンし,拡大率=元の距離/使用距離により,視距離に対応した文字サイズとなるよう拡大した.対象者には最大文字サイズから最小文字サイズへとC1ブロックずつ,順にできるだけ早く正確に音読するよう指示した.眼球運動の記録にはCGazefinderを使用した.Gazefinderの測定原理は,ディスプレイ下部にある視線計測部から射出される近赤外線CLEDが角膜に反射することで生じる角膜反射像と瞳孔中心との相対的距離をもとに視線位置を計測することである.装置のサンプリングレートはC50Hzであった.モニターのサイズはC19インチで,解像度は横(X軸)C1,280pixel×縦(Y軸)1,024pixelであった.検査距離は60cmとし,測定中は頭部を顎台で固定した.C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字能力の指標は,読書速度および最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力であった.さらに,神経発達症児においては読字時間の延長と誤読が多くみられることから3),読字速度のみでは読字能力の影響を評価できない可能性がある.したがって今後の分析を視野に入れ,指標として読字時間と誤読数を追加し,以下の五つを設定した.Ca.読字時間,読書速度読字時間はC1ブロックを読字するのに要した秒数とした.読書速度はC1分間に読めた文字数で計測し,つぎの計算式で求めた.読書速度=(24-読み飛ばし文字数)÷読字時間×60Cb.最大読書速度最大読書速度は,臨界文字サイズ以上での読書速度の平均値より求めた.Cc.臨界文字サイズ臨界文字サイズは,対象者が最大読書速度で読める最小の文字サイズとした.Cd.読書視力読書視力は対象者がかろうじて読むことのできる最小の文字サイズとし,つぎの計算式で求めた.読書視力=1.4-(読字可能であったブロック数C×0.1)+(読み飛ばし誤読数/240)Ce.誤読数誤読は,読字困難児の誤読分析表C8)を参考に,読み飛ばし,読み誤り,自己修正,語頭反復の四つに分類した.誤読の種類ごとに文字数を計測した.上記五つの指標の算出には,MicrosoftExcelを用いた.C2.Gaze.nderにおける眼球運動解析する文字サイズはCGazefinderの精度9)を考慮し,1文字が平均1°(36pixel)以上となる1.3logMARから0.8logMARとした.読字の眼球運動はCsaccade,停留,改行,逆行のC4要素からなる10).これらに着目し,眼球運動指標としてCsaccadeの視線移動量(saccade移動量),saccade回数,停留時間,改行時における第一Csaccadeの視線移動量(改行Csaccade移動量),逆行回数を設定した.実際に測定した眼球運動の波形を示す(図1).瞬目やそれと同時に生じた眼球運動,測定画面から視線がはずれているもの(マイナス値,0,X軸が(pixel)(pixel)401.5402402.5403403.5(秒)図11.0logMARの1行における眼球運読字時間X軸,Y軸,停留時間,saccade移動量,改行Csaccade移動量を示す.単語をまとまり読みしており,停留とsaccadeを繰り返していた.1,280pixel以上・Y軸が1,024pixel以上の値)は除外した.Saccadeは,視線移動量が36pixel以上の値とした.停留はC36pixel以内にC100msec以上と定義した.また,改行saccade移動量は,改行開始を行の読み終わりに生じる停留のCX軸最大値.とし,改行終了を.のつぎに生じた停留のX軸値.とし,.から.までの移動量を求めた.逆行は,逆行したCsaccadeの視線移動量がC36pixel以上の値を計測した.C3.統計解析統計解析は眼球運動の各指標において隣接するClogMAR値を比較し,Bonferroni法で有意水準を補正後,t検定で多重比較をした.有意水準は5%とした.III結果1.MNREAD-Jkにおける読字能力1.3logMARからC0.0logMAR視標を音読可能であった対象者はC20名全員であったが,-0.1logMARではC19名,-0.2logMARではC10名,-0.3logMARではC1名,-0.4と-0.5logMARではC0名であった.したがって,以降の解析は1.3logMARから-0.2logMARとした.Ca.読字時間,読書速度(図2)読字時間および読書速度はC1.3logMARからC0.1logMARでほぼ一定で,0.1logMARを境界とし,それぞれ延長・低下がみられた.Cb.最大読書速度最大読書速度(平均値C±標準偏差)はC359C±46文字/分であった.-0.3-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.11.21.3文字サイズ(logMAR)N=20図2読字曲線文字サイズごとの読字時間と読字速度を示す.c.臨界文字サイズ(個)臨界文字サイズ(平均値C±標準偏差)はC0.10C±0.12log-25MARであった.C20d.読書視力誤読の文字数15101.3logMARからC0.0logMARにおいて誤読はほとんどみC5られず,中央値はC0(0.0)個であった.0.0logMARから-0.2logMARまでの誤読数を図3に示す.-0.1logMAR以下でC0読書視力(平均値C±標準偏差)は-0.12±0.07logMARであった.e.誤読数の中央値(四分位範囲)0.0logMAR(n=20)(n=19)(n=10)は誤読が多く出現した.-0.1logMARでの読み飛ばしの中央値は2(0.4)個,読み誤りはC1(0.2.5)個,-0.2logMARでの読み飛ばしの中央値はC8(6.16.3)個,読み誤りはC0.5(0.3.5)個であった.-0.1logMARから-0.2logMARにおいて誤読数のばらつきが大きく,自己修正,語頭反復はみられなかった.C2.Gaze.nderにおける眼球運動(表1)Saccade移動量は,文字サイズが小さいほど短縮した.1.1logMARとC1.0logMARの間,0.9logMARとC0.8logMARの間で有意差がみられなかったが,その他の文字サイズ間では有意差がみられた(p<0.01).Saccade回数は,0.9logMARとC0.8logMARの間でのみ有意差がみられ,その他の文字サイズ間では有意差がみられなかった.停留時間は,すべての文字サイズ間で有意差がみられなかった.改行Csaccade移動量は,文字サイズが小さくなるほど短縮し,すべての文字サイズ間で有意差がみられた(p<0.05).読み誤り図3読字曲線文字サイズが-0.1logMARより小さくなると誤読数が増加したが,対象者間でばらつきが大きかった.改行Csaccade移動量がC1行の長さに占める割合(改行到達度)は,1.3logMARでC72%,1.2logMARでC73%,1.1logMARでC73%,1.0logMARでC72%,0.9logMARでC70%,0.8logMARでのみC60%であった.逆行回数はすべての文字サイズでC0回であった.CIV考按若年健常成人を対象にCMNREAD-JkをCGazefinderのモニターに表示させ,さらに読字における眼球運動指標を検討するための基礎的データを求めた.表1文字サイズごとの眼球運動指標saccade停留改行文字サイズCsaccade移動量saccade回数停留時間改行Csaccade移動量改行到達度(pixel)(回)(秒)(pixel)(%)C1.3logMARC429±55C8.3±1.4C**0.23±0.04C914±62C**0.72C1.2logMARC325±55C8.7±1.4C**0.23±0.03C739±56C**0.73C1.1logMARC235±37C8.8±2.1C0.23±0.05C585±44C**0.73C1.0logMARC215±70C8.4±1.3C**0.22±0.04C459±47C**0.72C0.9logMARC144±26C8.6±1.9C0.24±0.05C353±57C0.70C****0.8logMARC113±27C6.7±1.1C0.25±0.06C243±50C0.61平均値±標準偏差を示す.**:p<0.01C1.MNREAD-Jkにおける読字能力読字時間,読書速度は,0.1logMARを境界に延長・低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズは0.10logMAR,読書視力は-0.12logMARであった.MNREAD-Jk読書速度調査11)において,読書速度は0.0logMARを境界に低下がみられ,最大読書速度はC359文字/分,臨界文字サイズはC0.01logMAR,読書視力は-0.18logMARと報告されている.読書速度が低下する文字サイズと読書視力の文字サイズは本研究のほうが大きく,臨界である小さい文字サイズではモニターの解像度が影響している可能性が考えられた.また,誤読数は-0.1logMAR以下で増加とばらつきがみられた.これは-0.1logMAR以下では文字の形態を認識する限界であることが考えられた.誤読数に対する今後の解析は,読字時間,読字速度,臨界文字サイズなどを含めて考慮し0.1logMAR以上とする.さらに今回は,新たな指標として読字時間および誤読数を追加した.しかし読字時間および読字速度は同程度であった.これは今回の対象者である若年健常成人ではほとんど誤読がみられなかったためと考える.今後は神経発達症において検討を行う.C2.Gaze.nderにおける眼球運動Saccade移動量は,文字サイズが小さくなるごとに短縮傾向を示し,停留時間,逆行回数は文字サイズによる差がみられなかった.健常人においては,文章の難易度が高いとCsac-cade移動量が短くなり10),逆行回数が増加する12).また,停留は認知処理の種類や作業負荷によって変化する13).しかし,今回視標として用いたCMNREAD-Jkは,各文字サイズで単語の難易度が不変である.したがって,今回の結果は文字サイズに起因したものと考える.Saccade回数は約C8回であり,1ブロックあたりの単語数とほぼ一致し,まとまり読みを行っていた.単語の読字は,ひとまとまりの文字の連なりが表す音や意味を理解・表出する行為である.Saccade回数の評価は,この知覚的・認知的処理を推測可能である10).また,0.8logMARにおけるCsac-cade回数は約C6回であり,1.3logMARから0.9logMARより少なかった.モバイルアイトラッカーを用いた読書課題におけるCsaccade検出率はサンプリングレートC120HzのほうがC60Hzよりも有意に高いことが報告されている14).したがって,0.8logMAR以下でのCsaccade検出には限界があると考えた.改行Csaccade移動量は文字サイズが小さくなるごとに有意に短縮した.改行のCsaccadeは傍中心窩の処理を反映しており,視空間的注意が関与15)する.今回,改行到達度は約C70%であった.成人に対する読字中の改行時における眼球運動の検討では,改行中の約C20%が目標位置を下回る眼球運動を示し,それに続く修正Csaccadeが発生することが報告されている15).これは筆者らの結果とほぼ一致した.読字障害児において,文字サイズを変化させることは,視空間的注意の広がりを捉える評価指標としての可能性があると考える.本研究において,Gazefinderのモニターに表示させたMNREAD-JkはC1.3logMARから0.9logMARの読字能力を評価可能であった.眼球運動指標を設定し,その基礎的データを求めたことにより認知的処理を推測可能であり,神経発達症児の読字能力に与える要因の解明につながることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岡牧郎,竹内章人,諸岡輝子ほか:広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害に合併する読字障害に関する研究.脳と発達44:378-386,C20122)岡牧郎:併存症,遺伝子研究から発達性読み書き障害の病態を展望する.脳と発達50:253-258,C20183)BilbaoCC,CCarreraCA,COtinCSCetal:EyeCtracking-basedCcharacterizationCofCfixationsCduringCreadingCinCchildrenCwithCneurodevelopmentalCdisorders.CBrainCSciC14:750,C20244)SeassauCM,CGerardCCL,CBui-QuocCECetal:BinocularCsac-cadeCcoordinationCinCreadingCandCvisualsearch:aCdevel-opmentalCstudyCinCtypicalCreaderCandCdyslexicCchildren.CFrontIntegrNeurosciC8:85,C20145)AytonLN,AbelLA,FrickeTRetal:Developmentaleyemovementtest:whatCisCitCreallyCmeasuring?COptomCVisCSciC86:722-730,C20096)丸久友理子,岡真由美,星原徳子ほか:注意欠陥多動性障害(ADHD)児における眼球運動が読字に及ぼす影響.日視能訓練士協誌45:79-86,C20167)石井雅子,張替涼子,長谷川真理ほか:発達性読み書き障害が疑われる学童の読字能力の特性―MNREAD-Jkによる検討―.日視能訓練士協誌42:215-222,C20138)島田恭仁:読み困難児の誤読分析:文章音読課題における誤読基準表の作成.鳴門教育大学研究紀要C28:24-38,20139)藤田美佳,米田剛,山下力ほか:半側空間無視に対する視線計測装置を用いた病態評価の検討―視線計測時の測定精度・視標サイズについて―.川崎医療福祉学会誌C30:C565-569,C202110)苧阪直行:読み-脳と心の情報処理.朝倉書店,p1-128,C199811)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視能訓練士協誌35:147-154,C201312)RaynerK:EyeCmovementsCinCreadingCandCinformationprocessing:20yearsofresearch.PsycholBullC124:372-422,C199813)StaubA,RaynerK:Eyemovementsandon-linecompre-hensionprocesses.TheOxfordhandbookofpsycholinguis-tics(GarethCGaskelled),p327-342,OxfordCUniversityPress,UK,200714)LeubeA,RifaiK:SamplingCrateCin.uencesCsaccadeCdetectionCinCmobileCeyeCtrackingCofCaCreadingCtask.CJEyeMovResC10:1-11,C201715)SlatteryCTJ,CParkerAJ:ReturnCsweepsCinreading:pro-cessingCimplicationsCofCundersweep-fixations.CPsychonCBullRevC26:1948-1957,C2019***

結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例

2016年5月31日 火曜日

《第52回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科33(5):719〜723,2016©結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例平木翔子岡本紀夫山雄さやか渡邊敬三橋本茂樹福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室ACaseofOrbitalCellulitisfollowingConjunctivitisShokoHiraki,NorioOkamoto,SayakaYamao,KeizoWatanabe,ShigekiHashimoto,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine目的:結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例を経験したので報告する.症例:66歳,女性.2014年12月末に後頭部痛を自覚.その後,眼瞼の痛みを自覚し2015年1月5日に近医を受診.左眼の結膜炎と診断され0.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルメトロン点眼をするも改善されないため当科受診となる.初診時矯正視力は右眼1.2,左眼1.0pで,眼圧は右眼17mmHg,左眼23mmHgであった.前眼部所見では右眼は正常であったが,左眼は全周にわたる充血と下方の結膜の浮腫を認め一部は黄色の液体であった.ただし眼脂を認めていない.眼底所見は両眼とも視神経乳頭浮腫はなかった.若干の眼球運動障害があったのでHess試験を施行したところ,左眼の眼球運動障害を認めた.眼窩蜂巣炎を疑いCT検査をしたところ,炎症波及の原因となる副鼻腔炎を認めない眼窩蜂巣炎であった.ただちにセフェピム塩酸塩1g/日の点滴を開始した.その後,自覚症状は改善し結膜所見,Hess試験の所見も改善した.結論:本症例は既往歴に高血圧があるのみで,軽度の結膜炎から眼窩蜂巣炎に至ったと推察した.軽度の結膜炎に眼球運動障害がある場合,眼窩蜂巣炎を念頭に置く必要がある.Purpose:Wereportacaseoforbitalcellulitisthatfollowedconjunctivitis.Case:Thepatient,a66-year-oldfemale,complainedofoccipitalheadachearoundtheendofDecember2014.LatershefeltthepaininherleftlidareaandvisitedanearbyeyecliniconJanuary5,2015.Herconditionwasdiagnosedasconjunctivitis(OS)andtreatedwith0.5%levofloxacinand0.1%fluorometholoneeyedrops.However,thesymptomspersisted;shethereforevisitedourclinic.Atfirstvisittous,herbest-correctedvisualacuitywas1.2(OD)and1.0p(OS).Ocularpressurewas17mmHg(OS)and23mmHg(OU).Totalrednessofthebulbarconjunctiva,withedemainthelowerpart,wasobservedinherlefteye.Insomeareaofthatedema,therewasyellowishfluid.Herrighteyelookednormal.Therewasnosignoflidswellingordischarge.Wefoundmilddisorderinhereyemovement(OS)ontheHesschartdiplopiatest.Thepatientwasdiagnosedwithorbitalcellulitis,basedonlidandconjunctivaswellingandsoftshadowintheorbitaltissueasrevealedbyCTscan.ThesinusitiswasnotapparentonCTscan.Wetreatedherwithcefepime1g/dayDIVandhersymptomsandocularsignswerewelleased.Conclusion:Wesuggestthatthisorbitalcellulitiswasinducedbymildconjunctivitis,sincehergeneralconditionwasquitenormal,despitepastmildhypertension.Weshouldbecarefulwhenseeingmildconjunctivitiscombinedwitheyemovementdisorder.Therecouldbeorbitalcellulitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):719〜723,2016〕Keywords:眼窩蜂巣炎,結膜炎,眼球運動.orbitalcellulitis,conjunctivitis,ocularmotility.はじめに眼窩蜂巣炎は慢性および急性の副鼻腔炎に多く発症し,副鼻腔の未発達な小児によくみられるが,成人でもまれではない.抗菌薬がなかった時代には約25%が死亡し,25%が失明していた.今日でもときに致死的であり,重要な疾患である.今回筆者らは,高血圧があるのみで,軽度の結膜炎と眼球運動障害から画像検査を行い眼窩蜂巣炎の診断に至り抗菌薬の点滴にて速やかに治癒した1例を経験した.眼窩蜂巣炎の早期診断に寄与すると考えられたので報告する.I症例患者:66歳,女性.主訴:違和感(左眼),複視.既往歴:高血圧.現病歴:2014年12月末に後頭部痛を自覚.その後,眼瞼の痛みを自覚し2015年1月5日に近医を受診.左眼の結膜炎と診断され0.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルメトロン点眼をするも改善されないため当科受診となる.初診時所見(2015年1月8日):矯正視力は右眼(1.2×sph+2.00D(cyl−1.00DAx80°),左眼(1.0p×sph+1.25D(cyl−1.00DAx60°).眼圧は右眼17mmHg,左眼23mmHg.前眼部所見では右眼は正常であったが,左眼は全周にわたる結膜充血と下方の結膜の浮腫を認め,一部は黄色の液体であった(図1).ただし眼瞼腫脹と眼脂を認めていない.両眼とも前房に炎症所見はなかった.眼底所見は両眼とも視神経乳頭浮腫はなかった(図2).若干の眼球運動障害があったのでHess試験を施行したところ,左眼の眼球運動障害を認めた(図3).眼窩蜂巣炎を疑いCT検査をしたところ,左眼瞼・眼球結膜は肥厚し,眼窩内に軟部影が広がっていた.涙腺の肥大,副鼻腔炎,骨破壊像は認めなかった(図4).以上の所見より眼窩蜂巣炎と診断し,近医処方の点眼薬の継続に加え,セフェピム塩酸塩1g/日の点滴をただちに開始し3日間投与した.その後はセフカペンピボキシル塩酸塩100mg3錠/日の内服を7日間投与した.II経過1月10日の再診時には自覚症状は改善し,結膜所見はやや改善していた(図5).2月26日にはHess試験の所見も改善した(図6).3月26日の視力は右眼(1.5×sph+1.75D(cyl−1.00DAx80°),左眼(1.2×sph+1.50D(cyl−1.00DAx60°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.結膜は正常化した.III考按眼窩蜂巣炎は眼窩内の脂肪組織の感染症で,びまん性に化膿性浸潤を生ずる急性化膿性炎症である.ときに限局性化膿巣をつくることがあるが,抵抗力が少なく,かつ静脈系の豊富なところから炎症が容易に拡大しやすく,生命に対しても視力に対しても,重大な障害を及ぼすことがある.原因として小児では副鼻腔炎の眼窩内穿破がもっとも多く,成人では糖尿病や免疫抑制状態患者に多いとされている1〜6).眼科的に救急を要する疾患の一つである.近年の抗菌薬の発達により,以前の死亡率25%前後から激減したが,なお2〜3%の死亡率がある7,8).眼窩蜂巣炎の症状は,1)眼瞼の強い腫脹,開瞼不能,2)球結膜浮腫,3)炎症性眼球突出,4)眼球運動障害,複視,5)三叉神経痛,6)視力障害,7)発熱がある1〜4).本症例は球結膜浮腫と眼球運動のみで,眼窩蜂巣炎に特徴的な眼瞼浮腫・開瞼不能,炎症性の突出を認めなかった.眼窩蜂巣炎は一般的には結膜炎から進展することはないとされているが,高橋ら9)は,ソフトコンタクトレンズ装用中に重篤な結膜炎を初発症状とした眼窩蜂巣炎の1例を報告している.本症例はコンタクトレンズ装用者ではなく,前眼部所見も比較的軽度であった.彼らの症例と同様に健常者であったので原因を究明できなかった.健常者で結膜炎様症状の時期に眼窩蜂巣炎と診断し,適切な治療をすれば有効な治療結果が得られるのではないかと考えた.木村は,眼窩蜂巣炎の一歩手前の前眼窩蜂巣炎というべき症状はまれではないと提唱している11).彼は日常の外来経験から具体例として,他院の抗菌薬の投与で反応しない症例には眼窩周囲の可能性炎症病巣を注意深く検索すべきであると報告している.本症例も近医で抗菌薬が投与されても結膜の所見が改善せず紹介された.若干の眼球運動障害があったのでCTを行ったところ眼窩蜂巣炎の診断に至ったことから,前眼窩蜂巣炎に相当すると思われる.鑑別診断は表1に提示する疾患があげられる1〜5,9).いずれの疾患もCT,MRIが鑑別診断に有用である.眼窩蜂巣炎の起因菌は黄色ブドウ球菌が多く,ついでグラム陽性球菌である肺炎球菌などが多くみられる2,10).小児の場合はHemophilusinfluenzaeが多く重篤化しやすいので注意が必要である2,10).治療法は,細菌検査の結果が待てないときは広域スペクトラムをもつ抗菌薬を投与し,起因菌が黄色ブドウ球菌や肺炎球菌であればペニシリン系,セフェム系,ニューキノロン系の抗菌薬の点滴投与を行う.メシチリン耐性ブドウ黄色ブドウ球菌であればバンコマイシンの投与を行う.その他,眼窩切開術,重篤な場合は眼球摘出術,または眼球内容除去術を行う1〜5,8).本症例は木村11)が提唱する眼窩蜂巣炎の一歩手前の前眼窩蜂巣炎であったためか,抗菌薬の点滴で速やかに治癒することができた.一般的には特徴的な眼瞼腫脹,開瞼不能,炎症性の眼球突出があれば眼窩蜂巣炎を疑うが,ごく初期もしくは前眼窩蜂巣炎であれば見逃す可能性がある.抗菌薬を投与しても改善しない結膜炎をみた場合は,結膜浮腫,眼球運動障害もチェックし,眼窩蜂巣炎が疑わしい場合は積極的にCTを施行すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)前久保知行,中馬秀樹:眼窩炎症性疾患.あたらしい眼科28:1565-1569,20012)中尾雄三:眼窩蜂巣織炎の診断と治療について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):108-110,20003)太根節直:眼窩蜂巣炎.眼科救急ガイドブック(臼井正彦編),眼科診療プラクティス,15.p185-187,文光堂,19954)萩原正博:眼窩蜂窩織炎.眼感染症治療戦略(大橋裕一編),眼科診療プラクティス,21.p96-98,文光堂,19965)FerqusonMP,McNabAA:Currenttreatmentandoutcomeinorbitalcellulitis.AustNZJOphthalmol27:375-379,19996)MuephyC,LivingstoneI:OrbitalcellulitisinScotlandincidence,aetiology,managementandoutcomes.BrJOphthalmol98:1575-1578,20147)Duke-Elder:SystemofOphthalmology,VolXIII,PartII,p866-884,HenryKimpton,London,19748)大橋孝平:眼科臨床のために.p142-143,金原出版,19689)高橋秀徳,渋井洋文,松尾寛ほか:結膜炎症状で発症した眼窩蜂巣炎の1例.あたらしい眼科21:1245-1248,200410)木村泰朗:眼窩蜂巣炎.眼の感染・免疫疾患─正しい診断と治療の手引き─(大野重昭・大橋裕一編),p20-23,メディカルビュー社,199711)木村泰朗:前眼窩蜂巣炎症状!?眼の感染・免疫疾患─正しい診断と治療の手引き─(大野重昭,大橋裕一編),p45-46,メディカルビュー社,1997〔別刷請求先〕平木翔子:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShokoHirakiM.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN図1結膜所見左眼で著明な結膜充血と下方に限局した黄色調滲出液を伴う結膜浮腫を認めた.図2初診時眼底所見両眼ともに特記すべき所見を認めなかった.図3初診時Hessチャート左眼の全方向性の眼球運動障害を認めた.図4初診時頭部CT眼瞼,眼球結膜は肥厚し,眼窩内に軟部影(→)が広がっていた.外眼筋,涙腺の肥大,副鼻腔炎,骨破壊像は認めなかった.図52015年1月10日自覚症状は改善し,結膜所見はやや改善を認めた.図62015年2月26日Hessチャート所見は改善している.表1鑑別診断痛み画像備考眼窩炎性偽腫瘍(−)眼瞼,涙腺,外眼筋の腫大悪性リンパ腫(−)生検し病理診断涙腺炎(+)涙腺部涙腺腫大後部強膜炎(+++)強膜の肥厚頸動脈海綿静脈洞瘻(−)上眼動脈の拡大結膜血管拡張海綿静脈洞症候群(−)海綿静脈洞内の血栓,腫瘍IgG4関連疾患(−)眼瞼,涙腺,外眼筋の腫大生検し病理診断,血清IgG4測定甲状腺眼症(−)外眼筋のコカコーラボトル様肥大0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(95)719720あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(96)(97)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016721722あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(98)(99)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016723