‘角膜ヒステリシス’ タグのついている投稿

スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***

DSAEK とPKP 術後の角膜ヒステリシスの比較

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1525.1529,2022cDSAEKとPKP術後の角膜ヒステリシスの比較山口裕子竹澤由起池川和加子井上英紀坂根由梨原祐子白石敦愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座CAnalysisofCornealHysteresisafterDSAEKandPKPHirokoYamaguchi,YukiTakezawa,WakakoIkegawa,HidenoriInoue,YuriSakane,YukoHaraandAtsushiShiraishiCDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicineC目的:角膜内皮移植術(DSAEK)および全層角膜移植(PKP)術後の角膜ヒステリシスについて比較検討した.対象および方法:対象はC2020年C7月.9月に愛媛大学附属病院を受診し,DSAEKまたはCPKPを施行したCDSAEK群22例C22眼(76.0C±7.6歳),PKP群C17例C17眼(69.8C±15.4歳)で,角膜手術歴のない僚眼を対照群とした.OcularResponseCAnalyzer(ORA)で角膜ヒステリシス(CH),Goldmann相関眼圧(IOPg),補正眼圧(IOPcc)を測定した.結果:CHはCDSAEK術眼C7.4C±1.6,僚眼C9.3C±1.0CmmHg(p<0.001),PKP術眼C8.6C±1.8,僚眼C9.6C±1.6CmmHg(p<0.05)で両群とも有意に術眼が僚眼より低く,術眼の比較ではCDSAEK群がCPKP群より低かった(p=0.047).IOPgはDSAEK術眼C12C±6.7,PKP術眼C17.5C±6.7CmmHgでCDSAEK術眼が有意に低かった(p=0.045)が,IOPccはCDSAEK術眼C16.2C±6.4,PKP術眼C19.8C±6.8CmmHgで有意差はなかった.結論:角膜移植術後,とくにCDSAEK術後ではCCHが低いため,補正前の眼圧(IOPg)よりも補正後の眼圧(IOPcc)が高くなる.CPurpose:Tocomparecornealhysteresis(CH)usingtheOcularResponseAnalyzer(ORA;ReichertOphthal-micInstruments)intheeyesofpatientswhounderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)andDescemetstrippingautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)withCthatCinCtheCnormalCfellowCeyes.CMethods:ThisCcross-sectionalCcomparativestudyinvolved22post-DSAEKeyes(DSAEKgroup;meanage:76.0C±7.6years)C,17post-PKPeyes(PKPgroup;meanage:69.8C±15.4years),andtherespectivenormalfelloweyes.Inalleyes,theORAwasusedtoCmeasureCCH,CGoldmann-correlatedIOP(gcIOP)C,CandCcorneal-compensatedIOP(ccIOP)C.CResults:MeanCCHCinCtheDSAEKgroupandPKPgroupwas7.4±1.6CmmHgand8.6±1.8CmmHg,respectively,andsigni.cantlylowerinbothCgroupsCcomparedCtoCtheCrespectiveCnormaleyes(p<0.001,Cp=0.047)C.CMeanCCHCinCtheCDSAEKCgroupCwassigni.cantlylowerthanthatinthePKPgroup(p=0.037)C.MeangcIOPintheDSAEKgroup(12C±6.7mmHg)wassigni.cantlyClowerCthanCthatCinCtheCPKPgroup(17.5C±6.7CmmHg)(p=0.045)C.CMeanCccIOPCinCtheCDSAEKCgroupCandPKPgroupwas16.2±6.4CmmHgand19.8±6.8CmmHg,respectively,withnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.Thedi.erencebetweenccIOPandgcIOP(CΔIOP)wassigni.cantlyhigherintheDSAEKgroup(4.2C±1.7mmHg)thaninthePKPgroup(2.3C±1.7mmHg)(p=0.002)C,andasigni.cantnegativecorrelationwasfoundbetweenCCHCwithCccIOPCandΔCIOP.CConclusion:CHCpostCPKPCandCDSAEKCwasClowerCthanCthatCinCnormalCeyes,CandthevaluesofccIOPwerehigherthanthoseofgcIOP,especiallypostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1525.1529,C2022〕Keywords:角膜ヒステリシス,OcularResponseAnalyzer,全層角膜移植,角膜内皮移植術,補正眼圧.cornealhysteresis,OcularResponseAnalyzer,PKP,DSAEK,corneal-compensatedintraocularpressure.Cはじめに染症,縫合による不正乱視などの問題も多く,近年では角膜水疱性角膜症や角膜混濁などの角膜疾患に対する外科的治内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelial療として,従来は全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:karatoplasty:DSAEK)などの角膜パーツ移植が登場したこPKP)がおもに施行されてきた.しかし,術後拒絶反応や感とにより,合併症のリスクが少ない術式の選択肢が増えてい〔別刷請求先〕山口裕子:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirokoYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANCる.一方で,DSAEK後の眼圧上昇やCDSAEK後の角膜厚の増加が眼圧測定の精度に悪影響を与える可能性を指摘する報告1)もあり,DSAEKにおいても合併症の課題は少なからず残っている.角膜移植後の眼圧上昇は重大な合併症の一つであるが,角膜移植後では縫合糸や残存する角膜浮腫などの影響による角膜上皮の不整や角膜厚が一定でないことが多く,どのような眼圧計を用いても測定値に影響を受ける2,8).さらに角膜移植後は眼底透見性も不良となりやすく,視神経乳頭所見や視野異常の判定が困難なことが多い2).そのため角膜移植後では,緑内障管理のみならず眼圧測定値についても正しく評価することがむずかしい.また,近年の日本におけるCDSAEKの原因疾患では,Fuchs角膜ジストロフィやレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症よりも線維柱帯切除術後の水疱性角膜症が増えている3).そのためCDSAEK後の眼圧測定精度については既存の緑内障進行の面においても重要と考えられる.近年,角膜生体力学特性の概念が臨床的に用いられ,眼圧計測や緑内障進行に関連する可能性があることが報告されている4.7).角膜は外力が加わり変形すると,元に戻ろうとする弾性と,押し込まれたときと戻るときの動きに抵抗する粘性を併せ持つ“粘弾性”が働く.弾性によって戻ろうとする動きを粘性が抑えるため,角膜頂点を押し込むときと戻るときの動きは一致しない.この動きの違いにより,角膜に加えられたエネルギーは吸収され,その特性を角膜ヒステレシス(cornealhysteresis:CH)といい,角膜生体力学特性の一つとされる.OcularResponseCAnalyzer(ORA,Reichert社)は,定量的にCCHを測定でき,ORAで与える空気圧エネルギーを多く吸収できる場合には計測されるCCHが高くなり,反対に空気圧エネルギーの吸収が少ない場合にはCCHは低くなる.CHは日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第C4版)で進行危険因子の一つとして記載されており,低いCCHは緑内障性視野障害の進行に相関があるとの報告もある6.8).眼科手術のなかでも,とくに角膜移植後は前眼部構造が大きく変化するため,角膜生体力学特性も変化すると考えられる.これまでにもCPKP術後やCDSAEK術後では正常眼と比べてCCHが低いとの報告があり8.10),角膜移植後の生体力学特性の変化は,眼圧測定や角膜移植後緑内障に影響している可能性がある.そこで今回,筆者らはCORAを用いて,DSAEK後とCPKP後の角膜ヒステリシスや眼圧測定値について比較検討を行った.CI対象および方法対象はC2020年C7月.10月に愛媛大学附属病院眼科を受診したCDSAEK眼(DSAEK群)22名C22眼,平均年齢C76.0C±7.6歳(62.87歳),平均術後経過月数C26.7C±34.3カ月(1.132カ月),PKP眼(PKP群)17名C17眼,平均年齢C68.7C±15.4(26.86歳),平均術後経過月数C31.1C±34.5カ月(1.136カ月)である.DSAEK,PKP群ともに術後移植片不全や拒絶反応を認める症例は除外とした.対照群は,角膜移植歴および角膜疾患のないそれぞれの僚眼とした.検討項目はReichert社製COcularResponseCAnalyzer(ORA)を用いて測定したCH,およびCGoldmann相関眼圧値(Goldmann-cor-relatedCIOPmeasurement:IOPg),CHを考慮した補正眼圧値(corneal-compensatedIOP:IOPcc),また中心角膜厚(centralCcornealthickness:CCT)とした.CCTはCTOMEYCASIA2で測定を行った.各項目について後ろ向きに検討した.すべての統計解析には統計ソフトウェアJMP11を使用し,p<0.05をもって有意とした.なお本研究は愛媛大学医学部附属病院倫理委員会の承認(承認番号:1503007)のもと行った.CII結果原疾患の内訳は,DSAEK群ではすべて水疱性角膜症で,PKP群では角膜感染がC6眼,外傷がC4眼,水疱性角膜症C5眼,ICE症候群C1眼,サイトメガロウイルス角膜内皮炎C1眼であった.また,緑内障手術既往はCDSAEK群ではC15眼,PKP群ではC3眼でありCDSAEK群で有意に多かった.DSAEK群とCPKP群において平均年齢,平均術後期間に有意差は認めなかった(表1).まずCDSAEK群,PKP群それぞれにおける術眼と僚眼(対照群)での比較(表2)では,CCTはCDSAEK群では術眼が僚眼よりも有意に厚いが,PKP群では術眼と僚眼に有意差は認めなかった.CHは,DSAEK群では術眼C7.4C±1.6CmmHg,僚眼C9.3C±1.0CmmHg,PKP群では術眼C8.6C±1.8CmmHg,僚眼C9.6C±1.6CmmHgと両群とも術眼が有意に低かった.またIOPg,IOPccでは,DSAEK群では術眼と僚眼に有意差を認めなかったが,PKP群では術眼が僚眼より有意に高かった.さらにCIOPccとCIOPgの差(CΔIOP)においては,DSAEK群では術眼が僚眼より有意にCΔIOPが大きく,PKP群では術眼と僚眼に有意差を認めなかった.つぎに,DSAEK群およびCPKP群における術眼での比較(表3)では,DSAEK群の術眼においてCCHおよびCIOPgは有意にCPKP群の術眼より低かった.IOPccは両群間で有意差は認めなかった.CΔIOPにおいてはCDSAEK術眼で有意にCPKP術眼より大きかった.最後に各群におけるCCHとの相関を検討した.年齢や術後期間,graft/host厚比,CCTおよびCIOPgではCDSAEK群,PKP群ともに有意な相関を認めなかったが,IOPccおよびCΔIOPは両群ともCCHと負の相関を認めた(表4,図1).CIII考察今回の検討では,DSAEK,PKP両群ともに術眼でのCCH表1対象の内訳DSAEK群PKP群p値症例22眼17眼性別男性C12眼,女性C10眼男性C10眼,女性C7眼年齢C76±7.6歳(62.8C7歳)C68.7±15.4歳(26.8C6歳)Cp=0.105術後平均期間(カ月)C26.7±34.4C31.1±34.5Cp=0.695原疾患水疱性角膜症2C2眼角膜感染6眼水疱性角膜症5眼外傷4眼ICE症候群1眼サイトメガロウイルス角膜内皮炎1眼緑内障手術既往15眼3眼C*p=0.003Paired-t検定およびCFisher正確検定,*:有意差あり.年齢,術後平均期間において,各群間での有意差は認めなかった.DSAEK群ではCPKP群より有意に緑内障手術既往眼が多かった.表2DSAEK群,PKP群の術眼と僚眼(対照群)での比較DSAEK群PKP群術眼僚眼p値術眼僚眼p値CCT(Cμm)C633±89.4C532±48.7*p<C0.001554±68.5C537±48.9Cp=0.84CH(mmHg)C7.4±1.6C9.3±1.0*p<C0.0018.6±1.8C9.6±1.6C*p=0.047IOPg(mmHg)C12.0±6.7C12.8±3.2Cp=0.633C17.5±6.7C13.0±3.3C*p=0.031IOPcc(mmHg)C16.2±6.4C14.8±2.9Cp=0.331C19.8±6.8C14.7±3.5C*Cp=0.013ΔIOP(mmHg)C4.16±1.7C2.03±1.2*p<C0.0012.28±1.7C1.64±1.8Cp=0.21Paired-t検定,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).各群の術眼と僚眼での比較では,DSAEK群でCCT,CH,CΔIOPにおいて有意差を認めた.一方CPKP群ではCH,IOPg,IOPccにおいて有意差を認めた.表3DSAEK群,PKP群の術眼での比較DSAEK群の術眼PKP群の術眼p値CH(mmHg)C7.4±1.6C8.6±1.8C*p=0.037IOPg(mmHg)C12.0±6.7C17.5±6.7C*p=0.045IOPcc(mmHg)C16.2±6.4C19.8±6.8Cp=0.225CΔIOP(IOPcc-IOPg)C4.16±1.7C2.28±1.7C*p=0.002Paired-t検定,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).術眼での比較では,CH,IOPgはともにCDSAEK群で有意に低く,CΔIOPはDSAEK群で有意に大きかった.が僚眼より有意に低くなっており,既報とも一致した結果ででIOPgやIOPccに有意な差はなく,PKP群では術眼であることから角膜移植術後眼ではCCHが低下している可能性IOPg,IOPccともに有意に僚眼より高くなっていた.これが示唆された8.10).一方で,今回CDSAEK群では術眼と僚眼はCDSAEK術後に比べるとCPKP術後ではステロイド点眼使表4DSAEK群,PKP群におけるCHとの相関DSAEK群PKP群p値相関係数p値相関係数CIOPgCp=0.31Cr=.0.23Cp=0.089Cr=.0.42CIOPccC*Cp=0.028r=.0.47C*Cp=0.005r=.0.64CΔCIOP*p<C0.001r=.0.85*p<C0.001r=.0.87CCCTCp=0.82Cr=0.05Cp=0.66Cr=.0.11graft厚/host厚Cp=0.91Cr=0.03C..平均術後期間Cp=0.34Cr=0.21Cp=0.21Cr=.0.32年齢Cp=0.62Cr=0.11Cp=0.11Cr=0.11Pearsonの積率相関係数,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).両群ともCIOPccおよびCΔIOPにおいてCCHと有意な負の相関を認めた.CHCHΔIOPΔIOP図1:CHとΔIOPの相関両群ともCCHとCΔIOPにおいて有意な負の相関を認めた(p<0.001,Pearsonの積率相関係数).用が長期であることや,DSAEK群で有意に緑内障手術後の水疱性角膜症が多かったことが影響し,僚眼との比較においてこのような結果となったと考える.術眼における比較では,DSAEK群の術眼がCPKP群の術眼より有意にCCHが低く,さらにCCHを考慮し補正された眼圧であるCIOPccとCIOPgの差(CΔIOP)においても,DSAEK術眼では僚眼およびCPKP術眼と比較しても有意に大きかった.以上の結果より,DSAEK術眼では緑内障手術既往眼が多いため,僚眼と有意差をもつほどの高い眼圧値とはならないものの,PKP術眼よりもCΔIOPが大きく,DSAEK眼のIOPccはIOPgより高くなりやすい可能性があると思われる.また今回CCHと有意な相関を認めたのはCIOPccとCΔCIOPのみであり,どちらも負の相関であった.IOPccはCCHを考慮し補正された眼圧であり,その補正計算式などの詳細な情報は明らかとなっていないが,CHが低いほどその補正された眼圧であるCIOPccが大きくなることは補正上当然の結果である.またΔIOPにおいてもCCHと有意な負の相関を認めたが,CHが低いほどその補正された眼圧であるCIOPccとIOPgとの眼圧測定値の差が大きくなることから,これも補正上当然の結果といえる.一方で,今回の検討においてはCDSAEK群,PKP群ともにCCCTやCgraft厚/host厚比,術後平均期間,および年齢とはCCHと有意な相関は認めなかった.正常眼におけるCCHでは,CCTが薄く眼圧が高い症例ほどCCHは低くなるが,年齢や性別についてはCCHと明らかな相関は認めないという報告11)がある.しかしながら,角膜移植術後のCCHに関する既報では,PKPおよびCDSAEK後どちらも有意に正常眼よりもCCHが低く,IOPccと負の相関がある一方,CCTとは相関しないという報告8,10)があることから,やはり角膜移植後ではその角膜生体力学特性は正常眼とは異なり,角膜厚以外にもドナー角膜の剛性や術後構造変化などさまざまな因子が複雑に関連している可能性が考えられる.角膜移植術後においてCCHが変化する理由はこれまで明らかとはなっていないが,既報では角膜移植後の曲率の変化や残存レシピエント角膜の力学特性の影響の可能性を推察する報告10)のほか,ドナーとレシピエント間の創傷治癒反応による影響を指摘する報告12)などがある.PKP術後においては縫合による影響の可能性も考えられるが,既報では縫合糸の有無による眼圧やCCHなどへの相関はみられていない13).一方CDSAEKにおいては,水疱性角膜症に伴う術前からの慢性的な角膜浮腫によって実質コラーゲンがたるんでしまい,実質が置き換わるCPKPと違ってCDSAEKでは移植後もその影響が残るため,CHが低いのではないかと推察する報告12)もある.今回の検討においては,既報とほぼ一致する結果であったが,一方で術後経過中一度のみの測定結果であるため,術前および術後経過中の角膜力学特性については評価できなかった.また,Fuchs角膜ジストロフィや緑内障多重手術後など水疱性角膜症の原因による角膜力学特性の違いや術前後での角膜浮腫の軽減に伴う経時的なCCHの変化については今後症例数を増やし,検討課題としたい.角膜移植が必要な症例では,術前から緑内障を合併している患者や,術後もステロイド使用などの影響によって続発緑内障を合併する患者も多く,眼底透見性の低下や眼圧測定がむずかしく緑内障進行の評価が困難なことが多い.今回の検討では角膜移植術後,とくにCDSAEK後においてはCCHが低く,IOPgとCCHを考慮した補正後眼圧CIOPccとの差が大きかった.今回,実際のCGoldmann眼圧は測定していないため,一般の非接触眼圧計での測定値とCIOPg,およびIOPccとの差は不明であるが,今回の結果から角膜移植術後眼において,一般的な補正機能のない非接触眼圧計の測定値の解釈には注意が必要と考えられた.文献1)EspanaCEM,CRobertsonCZM,CHuangB:IntraocularCpres-sureCchangesCfollowingCDescemet’sCstrippingCwithCendo-thelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC248:237-242,C20102)森和彦:角膜移植後の緑内障はこう治す.あたらしい眼科C26:317-321,C20093)NishinoCT,CKobayashiCA,CYokogawaCHCetal:AC10-yearCreviewofunderlyingdiseasesforendothelialkeratoplasty(DSAEK/DMEK)inatertiaryreferralhospitalinJapan.ClinOphthalmolC12:1359-1365,C20184)DascalescuD,CorbuC,VasilePetal:TheimportanceofassessingCcornealCbiomechanicalCpropertiesCinCglaucomaCpatientsCcare-aCreview.CRomCJCOphthalmolC60:219-225,C20165)CongdonCNG,CBromanCAT,CBandeen-RocheCKCetal:Cen-tralCcornealCthicknessCandCcornealChysteresisCassociatedCwithCglaucomaCdamage.CAmCJCOphthalmolC141:868-875,C20066)MangouritsasG,MorphisG,MourtzoukosSetal:Associ-ationCbetweenCcornealChysteresisCandCcentralCcornealCthicknessCinCglaucomatousCandCnon-glaucomatousCeyes.CActaOphthalmolC87:901-905,C20097)ParkJH,JunRM,ChoiKR:Signi.canceofcornealbiome-chanicalCpropertiesCinCpatientCwithCprogressiveCnormalCtensionglaucoma.BrJOphthalmolC99:746-751,C20158)FeiziCS,CFaramarziCA,CMasoudiCACetal:GoldmannCappla-nationCtonometerCversusCocularCresponseCanalyzerCforCmeasuringCintraocularCpressureCanalyzerCforCmeasuringCintraocularCpressureCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC37:1370-1375,C20189)FaramarziCA,CFeiziCS,CNajdiCDCetal:ChangesCinCcornealCbiomechanicalCpropertiesCafterCDescemetCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplastyCforCpseudophakicCbullousCkeratopathy.CorneaC35:20-24,C201610)MohamedCSamyCAbdCElaziz,CHodaCMohamedCElsobky,CAdelGalalZakyetal:Cornealbiomechanicsandintraoc-ularCpressureCassessmentCafterCpenetratingCkeratoplastyCfornonkeratoconicpatients,longtermresults.BMCOph-thalmolC19:172,C201911)KamiyaCK,CHagishimaCM,CFujimuraCFCetal:FactorsCa.ectingCcornealChysteresisCinCnormalCeyes.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC246:1491-1494,C200812)FeiziS,MontahaiT,MoeinH:Graftbiomechanicsfollow-ingthreecornealtransplantationtechniques.JOphthalmicVisResC10:238-242,C201513)FabianCID,CBarequetCIS,CSkaatCACetal:IntraocularCpres-sureCmeasurementsCandCbiomechanicalCpropertiesCofCtheCcorneaineyesafterpenetratingkeratoplasty.AmJOph-thalmolC151:774-781,C2011***

スクリーニング用眼圧計としてOcular Response Analyzer G3 を用いた際の測定値の信頼度の検討

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):959.962,2022cスクリーニング用眼圧計としてOcularResponseAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討杉浦奈津美丸山勝彦瀧利枝金谷楓八潮まるやま眼科CEvaluationoftheMeasurementReliabilitywhenUsingtheOcularResponseAnalyzerforIntraocularPressureScreeningExaminationsNatsumiSugiura,KatsuhikoMaruyama,ToshieTakiandKaedeKanayaCYashioMaruyamaEyeClinicC対象および方法:スクリーニングとしてライカート社のCOcularResponseAnalyzer(以下,ORA)G3を用いて眼圧測定を行った症例C747例C1,488眼,平均年齢C53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳)を対象に,信頼度を表す係数CWave-formCScoreが推奨値であるC6に満たない症例の割合を算出した.結果:測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,Goldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当する眼圧値CIOPgがC14.9C±4.8CmmHg(1.0.63.2CmmHg),角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPccはC16.2C±4.7mmHg(3.2.73.6mmHg),角膜ヒステリシスはC9.7C±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg),WaveformScoreはC7.3C±1.5(0.1.9.7)であり,WaveformScoreがC6未満の割合はC18%であった.結論:スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,信頼性のある結果が得られる割合は約C8割である.CPurpose:ToCevaluateCintraocularpressure(IOP)measurementCreliabilityCwhenCusingCtheCOcularCResponseAnalyzer(ORA)(ReichertOphthalmicInstruments)forIOPscreeningexaminations.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed1,488eyesof747subjects(meanage:53.5C±20.4years,range:6-94years)whoseIOPwasCmeasuredCusingCtheCORACforCtheCIOPCscreeningCexamination.CTheCrateCofCmeasurementsCwithCaCWaveformCScoreoflessthan6,whichimpliesanunreliablemeasurement,wascalculated.Results:Themean±standarddevi-ationCofCGoldman-estimatedCIOP,Ccorneal-compensatedCIOP,CcornealChysteresis,CandCWaveformCScoreCwasC14.9±4.8mmHg(range:1.0C-63.2mmHg)C,C16.2±4.7mmHg(range:3.2C-73.6mmHg)C,C9.7±1.5CmmHg(range:0.0C-20.6CmmHg)C,CandC7.3±1.5(range:0.1-9.7)C,Crespectively.CTheCpercentageCrateCofCeyesCwithCaCWaveformCScoreCofCless-than6was18%.Conclusion:Our.ndingsrevealedthattheORAproducedreliableIOPmeasurementsin80%CofthecaseswhounderwentanIOPscreeningexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):959.962,C2022〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,信頼度,WaveformScore,眼圧,角膜ヒステリシス.OcularResponseAnalyzer,reliability,WaveformScore,intraocularpressure,cornealhysteresis.Cはじめにライカート社のCOcularResponseAnalyzer(ORA)G3は,緑内障の発症1,2),あるいは進行3.6)に影響するとされるパラメータ,角膜ヒステリシスが測定できる非接触型眼圧計であり,近年,緑内障診療に活用されることが多くなってきている.眼圧測定は一般診療でもルーチンに行われる検査であるが,スクリーニング用眼圧計としてCORAG3を用いた際の測定値の信頼度についてはこれまで報告がない.本研究の目的は,スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた際の測定値の信頼度を検討することである.CI対象および方法対象は,2021年C3月C1日.5月C15日に八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3を用いて眼圧測定を行ったC747例C1,488眼である.男性C287例,女性C460例,年齢はC53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳),右眼はC745眼,左眼は〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15,Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC743眼であった.これらを対象に,患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.測定結果として,CORAG3ではCGoldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当するCIOPg,角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPcc,角膜ヒステリシス,信頼度を示す係数であるCWaveformCScoreが出力される.今回はCWaveformScoreが推奨値である「6」に満たない症例の割合を算出した.なお,同一症例に複数回測定を行っている場合には初回の結果を解析に用いた.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).C70060050040030020010000.0~5.0~10.0~15.0~4.99.914.919.9II結果測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,IOPgがC14.9±4.8mmHg(1.0.63.2CmmHg),IOPccはC16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6CmmHg),角膜ヒステリシスはC9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6CmmHg),WaveformScoreはC7.3±1.5(0.1.9.7)となり,それぞれ図1~4のように分布していた.WaveformCScoreがC3未満だったのはC2%,3台が3%,4台が5%,5台がC8%,6台が17%,7台が30%,8台が29%,9台が6%であり,6未満の割合はC18%であった.67345421977441303520.0~25.0~30.0~35.0~40.0~24.929.934.939.9症例数症例数測定値(mmHg)図1IOPgの分布平均±標準偏差(レンジ):14.9±4.8CmmHg(1.0.63.2mmHg)C9008007006005004003002001000888293246202362190.0~5.0~10.0~15.0~20.0~25.0~30.0~35.0~40.0~4.99.914.919.924.929.934.939.9測定値(mmHg)図2IOPccの分布平均±標準偏差(レンジ):16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6mmHg)症例数90080070060050040030020010008453482144740226110.0~2.0~4.0~6.0~8.0~10.0~12.0~14.0~16.0~18.0~1.93.95.97.99.911.913.915.917.9角膜ヒステリシス(mmHg)図3角膜ヒステリシスの分布平均±標準偏差(レンジ):9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg)C50044342826012276874359154003002001000症例数0.0~0.91.0~1.92.0~2.93.0~3.94.0~4.95.0~5.96.0~6.97.0~7.98.0~8.99.0~10.0WaveformScore図4WaveformScoreの分布平均±標準偏差(レンジ):7.3±1.5(0.1.9.7)CIII考按い.Ayalaら7)は平均年齢C56.5±16.0歳の健常者C266例を対象として検討を行っており,WaveformScoreの平均はC7.39ORAで得られる測定値の信頼度に関する報告は多くはなC±1.32(2.8.9.7)だったと報告している.また,Lamら8)は健常者C64例(平均年齢C26.3C±6.8歳)を対象とした検討で,貢献し,重症化の回避などによる医療経済的効果につながる各症例に対し両眼C4回測定を行った計C512回分の測定値を可能性がある.今後,さらに多数例を対象とした多施設での解析した結果,WCaveformScoreの平均はC5.49(1C.58.9C.06)検証が必要である.だったと報告している.しかし,これらの報告で使用されているCORAはCversion2.04であり,現在普及しているCG3で利益相反:利益相反公表基準に該当なしの信頼度はこれまで明らかではなかった.そのため今回,G3で検討を行ったが,CWaveformScoreの平均値やレンジは既報と同等かそれ以上の結果が得られた.また,本報告は文献年齢や眼疾患の有無などの背景もさまざまな症例に対し,ス1)CongdonCNG,CBromanCAT,CBandeen-RocheCKCetal:CCen-クリーニングとして行う眼圧検査にCORAG3を用いた検討tralCcornealCthicknessCandCcornealChysteresisCassociatedCであり,実臨床に沿った結果といえるが,およそC8割で信頼withCglaucomaCdamage.CAmCJCOphthalmolC141:C868-875,C性のある測定が可能であることがわかった.C2006CORAG3の測定精度は通常の非接触型眼圧計と同様に,2)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CCornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalC眼表面のコンディションや固視,瞬目,睫毛などの影響を受andCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:C116-119,Cけると考えられる.本報告の対象にも信頼度が低い症例がみ2010Cられたが,その原因については今回検討していない.今後,3)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:CLowerCcornealChys-どの因子がどれくらい信頼度に影響するか研究を進めたいとteresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:C209-213,C2012C考えている.4)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CCornealC本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈にhysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:CaCは各種バイアスの影響を加味しなければならない.たとえprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:C1533-ば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例など1540,C2013C5)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CCornealChysteresisに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値andprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.はそのときの検者の判断に任せた結果である.また,今回はCAmJOphthalmolC166:C29-36,C2016CORAG3で測定を行った全症例を対象としたため,眼表面6)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:CAprospectiveに異常がある症例など,測定精度が低いと想定される症例もlongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJ対象に含んでいる.さらに,C4名の検者が測定を担当したが,OphthalmolC187:C148-15,C2018C検者ごとの結果は明らかではない.このようにいくつかの問7)AyalaM,ChenE:Measuringcornealhysteresis:thresh-題点はあるが,緑内障診療に有用な角膜ヒステリシスが測定oldCestimationCofCtheCwaveformCscoreCfromCtheCOcularC可能なCORAは,日常診療のスクリーニング用としても十分ResponseCAnalyzer.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:C1803-1806,C2012C活用できる眼圧計と考えられた.CORAG3のスクリーニン8)LamCAK,CChenCD,CTseJ:CTheCusefulnessCofCwaveformCグ用眼圧計としての信頼性が確認できれば,将来的には緑内scoreCfromCtheCocularCresponseCanalyzer.COptomCVisCSciC障の早期発見や,進行の危険因子を有する患者の早期発見に87:C195-199,C2010***