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多数例による上方視神経部分低形成と緑内障合併の検討

2025年6月30日 月曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(6):742.747,2025c多数例による上方視神経部分低形成と緑内障合併の検討金森章泰*1,2金森敬子*1*1医療法人社団かなもり眼科クリニック*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CALarge-ScaleStudyoftheAssociationofSuperiorOpticNerveHypoplasiaandGlaucomaAkiyasuKanamori1,2)andNorikoKanamori1)CKanamoriEyeClinic1),KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery2)目的:上方視神経部分低形成(SSOH)は日本人ではC300人にC1人程度の有病率とされ,まれではない.緑内障発症のリスク因子とされ,ときどき緑内障と誤診されているケースが散見される.目的はCSSOHの臨床像を検討し,緑内障合併例を分類することである.対象と方法:光干渉断層計(OCT)・眼底写真からCSSOHと判断したC130眼について,緑内障の合併の有無や視野検査結果等を検討した.結果:年齢・屈折値・HFA24-2のCMD・眼軸長の平均値は48.1歳,.4.20D,.1.79CdB,25.57Cmであった.緑内障性構造障害の有無について以下のようにグループ分けを行うことができた.SSOHのみ群C40眼,黄斑部にかかる網膜内層構造障害合併群C17眼,前視野緑内障合併群C52眼,緑内障合併群C21眼.そのうちCSSOHによる視野欠損を生じていたのはC9眼,10眼,10眼,11眼であった.結論:SSOHにおいて,前視野緑内障を含む緑内障合併例は多数みられた.黄斑部にかかる上方の網膜神経線維層欠損はCSSOHの広がりによるものか,緑内障性かの判断が困難であった.CPurpose:Superiorsegmentalopticnervehypoplasia(SSONH)hasanestimatedprevalenceofapproximately1CinCeveryC300CJapaneseCpeople,CsoCitCisCnotCaCrareCdisease.CHowever,CSSONHCisCconsideredCaCriskCfactorCforCtheCdevelopmentofglaucomaandisoccasionallymisdiagnosedasglaucoma.ThepurposeofthisstudywastoexaminetheclinicalfeaturesofSSONHandclassifycaseswithglaucoma.PatientsandMethods:Inthisstudy,weexam-inedCtheCpresenceCorCabsenceCofCglaucomaCandCvisualC.eldCtestC.ndingsCofC130CeyesCdiagnosedCasChavingCSSONHCbasedConCopticalCcoherenceCtomographyCandCfundusCimaging.CResults:TheCmeanCpatientCage,CrefractiveCvalue,CHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CmeanCdeviation,CandCaxialClengthCwereC48.1Cyears,C.4.20D,C.1.79dB,CandC25.57Cmm,respectively.The130eyesweregroupedaccordingtothestructuralglaucomatouschangeasfollows:C40eyeswithSSONHonly,17eyeswithganglioncellcomplex(GCC)damageintheuppermacular,52eyeswithpreperimetricglaucoma,and21eyeswithglaucoma.Ofthose,visual.elddefectsduetoSSONHoccurredin9,10,10,and11eyes,respectively.Conclusion:ManycasesofSSONHwerecomplicatedwithglaucoma,includingpre-perimetricCglaucoma,CsoCitCwasCdi.cultCtoCdetermineCwhetherCtheCGCCCdefectsCinCtheCupperCmaculaCwereCdueCtoCthespreadofSSONHorwereglaucomatous.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(6):742.747,C2025〕Keywords:上方視神経部分低形成,緑内障,合併,光干渉断層計.superiorsegmentalopticnervehypoplasia,glaucoma,coexisting,opticalcoherencetomography.Cはじめに上方視神経部分低形成(superiorCsegmentalCopticCnervehypoplasia:SSOH)は視神経乳頭の上方から鼻側にかけての軽度の先天的形成異常とされる.日本人における有病率は,多治見スタディで集積された眼底写真の判読より,0.3%とされている1).さらに,193名の自覚症状のない大学生における研究では,SSOHの頻度はC2.6%(全員CGoldmann視野に異常が確認されている)という報告もある2).日常診療ではよくみかける状態であるにもかかわらず,SSOHの診断基準は明確ではないうえに,SSOHの約半数は視野欠損がないとも報告されており1),その場合はいっそう診断が困難になることもある.SSOHの形態的特徴は,①網膜上方の網〔別刷請求先〕金森章泰:〒673-0892明石市大明石町C1-6-1パピオスあかしC3Fかなもり眼科クリニックReprintrequests:AkiyasuKanamori,M.D.,Ph.D.,KanamoriEyeClinic,1-6-1-3F,Ohakashi-cho,Akashi-city,Hyogo673-0892,CJAPANC742(100)膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)欠損,②乳頭上部の蒼白化,③乳頭上方の強膜のChalo,④乳頭における網膜中心動脈起始部の上方偏位,の四つがあげられているが3),日本人ではこれらの特徴がすべてそろうことは少ないとされている4,5).また,SSOHと緑内障合併例の症例報告に加え,SSOHがあると緑内障の発症率がC5倍になるとされる6).一般的な開放隅角緑内障は急に発症することはなく,その前の病期である視野が正常な前視野緑内障(preperimet-ricglaucoma:PPG)を併発している例はさらに多いと思われる.今回,多数例のCSSOHと緑内障の合併程度から,分類を試みたので報告する.CI対象と方法本研究は診療録から調査した後ろ向き研究である.プロトコールはヘルシンキ宣言に基づいており,兵庫県医師会倫理審査委員会の承認のもと,対象から文書による同意を得て行った.2017年C6月.2023年C12月にかなもり眼科クリニックを受診し,SSOHと診断した患者を対象とした.SSOHの診断は眼底所見および光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),視野検査によって総合的に行った.OCTは緑内障とCSSOHの鑑別に有用とされる7).OCTはCRetinaScan-DUO(ニデック)を用いた.乳頭マッププログラムにて視神経形状ならびに乳頭周囲網膜神経線維層(circumpap-illaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚を測定した.黄斑部解析では,黄斑部網膜内層構造(ganglionCcellCcom-plex:GCC)を計測した.GCCは網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層の厚みからなる複合体厚である.視野はCHumphreyCFieldAnalyzer(HumphreyZeiss社)のCHum-phrey24-2SITA-standardを用いて測定を行った.本研究の選択基準は,矯正視力がC0.7以上,眼軸長がC30mm未満,良好なスキャンが取得されていること,および信頼性のある視野検査の結果が得られていることとした.26mm以上の眼軸長のある眼ではCOCTに内蔵された長眼軸補正プログラムでデータ補正を行った.眼底検査および眼底写真で上方・下方どちらかにでも視神経乳頭リムの狭窄および網膜神経線維層欠損がみられる緑内障性視神経乳頭変化に加え,OCTによる緑内障性構造障害があり,それに一致する視野欠損基準を満たすものを緑内障と診断した.信頼性のある視野検査(固視不良C20%未満,偽陰性C15%未満,偽陽性15%未満)において,視野検査結果が以下のいずれかの基準を満たした場合に緑内障性視野異常と定義した.①パターン偏差確率プロットにおいて,隣接した位置にC3点以上がC5%未満の確率を示し,そのうち少なくとも1点がC1%未満の確率を示した場合,②パターン標準偏差の確率がC5%未満の場合,③緑内障半視野検査が正常範囲外であると示した場合(AndersonとCPatellaの基準に従う)である.PPGは緑内障性構造障害があるものの緑内障性視野障害がないものと定義した.本研究では,角膜および硝子体手術の既往,角膜混濁,臨床的に有意な白内障,網膜疾患(黄斑上膜,黄斑円孔,糖尿病網膜症など),および非緑内障性視神経症の既往がある眼は除外した.CII結果対象患者はC100例C130眼である.患者の年齢は平均C±標準偏差C48.1C±11.9歳,男性41例54眼,女性59例76眼であった.等価球面度数はC.4.20±3.47D,眼軸長はC25.57C±1.70mm,Humphrey視野Cmeaddeviation(MD)値はC.1.79C±3.02CdBであった.SSOHと緑内障との鑑別を考えるにあたり,OCT解析結果をもとに判断すると,臨床上,四つのパターンがあると考えられた(図1,2).①単純な鼻上側のSSOH(SSOH群),②鼻上側のCSSOHによる構造障害に連続した黄斑部にかかるCGCC障害があるもの(+a群),③CSSOH+PPG(+P群),④CSSOH+緑内障(+G群)である.結果は,SSOH群40眼,+a群C17眼,+P群C52眼,+G群C21眼に分類された.表1に各群の背景を示す.年齢や眼軸,角膜厚に群間差はなかったものの,HFAのCMD値は有意に緑内障群で低かった(ANOVA,p<0.01).表2に示すとおり,片眼性のものはC30例あり,SSOH群C14眼,Ca群6眼,+P群10眼,+G群C0眼であった.つぎに,両眼での各群の分布を検討すると,SSOH群がC11例,Ca群3例,+P群17例,+P群6例と74%(=34/50)は多くは両眼とも同じ分類に入り,この分類には両眼性が存在すると思われた.SSOHによる視野欠損の有無により,各群の眼数を検討した(表3).視野欠損あり群はCSSOH群と+a群で比較したところ,視野欠損ありが+a群のほうが有意に多かった(Fisher検定,p=0.013).一方,+a群は低形成程度が強い群と考えると,+a群のほうがよりCSSOH視野欠損を有する症例が多い結果は妥当な結果と思われる.+G群でも+P群に比べCSSOHの視野欠損のある例が多かった(Fisher検定,p=0.009).つぎに,OCTのCdisc解析による視神経乳頭形状について検討した(表4).垂直視神経乳頭陥凹比はC4群で有意な差はなかったが,視神経乳頭面積は有意に+a群が小さかった(ANOVA,p=0.014).CIII考按SSOHに関する報告はいくつか過去にされているが,いずれも数十例までの報告で,100例を越えるような多数例による検討はC1報のみである.Yagasakiらは日本人において,眼底写真でCSSOHと診断したC106眼について報告しており,図1右眼が+a群,左眼がSSOH群の症例d左列:右眼.右列:左眼.Ca,b:眼底写真ではとくに右眼で低形成が著しい.Cc:cpRNFL,GCC解析で両眼とも上側のCcpRNFL減少がみられる.Cd:GCC解析で右眼は上方のGCCの減少がみられる.左眼は網膜神経線維の走行に沿ったCGCCの菲薄化があるようにみえるが,眼底写真で明らかな乳頭陥凹拡大はない.Ce,f:Goldmann視野計では右眼は下半分が大きく欠損している.左眼は楔状の視野欠損が下方にみられる.Cg:Humphrey視野検査(24-2)では右眼のみ下方の視野欠損を認める.左眼は正常視野である.fg図2判別がつきにくい症例(両眼とも+P群とした)左列:右眼.右列:左眼.Ca,b:両眼ともCSSOHの所見があり,視神経乳頭陥凹拡大および神経線維束欠損(↑)もある.Cc:cpRNFL解析では上.鼻側にかけてCcpRNFL減少を両眼ともに認める.下方のcpRNFL減少も認める.Cd:GCC解析では,右眼はCSSOHに連続した上方のCGCC障害に加え,下方に緑内障による神経線維束欠損を認める.+a群の障害もあるが,+P群に分類した.左眼上方は,図中の黒丸で囲んだ部分はSSOHであり,SSOH障害に連続していない図中の白丸で囲んだ部分は緑内障性変化と判断した.Ce,f:Goldmann視野計では,右眼は下方の視野欠損があるが,扇状ではなく,一見,緑内障様である.左眼は上方,および耳下側への扇状の軽度の視野欠損を認める.g:Humphrey視野C24-2では,右眼はCSSOHによる視野欠損を認める.左眼の耳側視野欠損は低形成でよいが,上側の視野欠損は黄斑部GCC下方欠損程度からするとかなり上方であり,緑内障にしては非典型的である.下方の部分低形成も混在すると考える.cdg表14分類の臨床的背景年齢(歳)眼軸(mm)角膜厚(Cμm)HFAMD(dB)SSOHのみ(n=40)C46.0±12.0C25.67±1.74C535.6±32.8C.1.48±2.41+a(n=17)C41.5±11.2C24.68±1.60C528.4±26.1C.1.66±2.88+P(Cn=52)C50.3±11.2C25.60±1.30C531.6±37.4C.0.76±2.82+G(Cn=21)C51.9±11.3C26.02±2.47C506.2±33.9C.5.06±3.51*表2片眼性と両眼性で分けた場合の4分類の眼数片眼性のもの:3C0例両眼性のもの(9通り):5C0例・SSOHのみ:1C4例・両眼CSSOHのみ:1C1例・SSOH+a:6例・SSOHと+a:1例・SSOH+P:1C0例・SSOHと+P:2例・SSOH+G:なし・SSOH+G:1例・両眼+a:3例・+aと+P:1例・+aと+G:3例・両眼+P:1C7例・+Pと+G:5例・両眼+G:6例表4OCTによる視神経乳頭形状解析結果視神経乳頭面積(mmC2)垂直視神経乳頭陥凹比SSOHのみ(n=40)C2.44±0.67C0.52±0.13+a(n=17)C2.05±0.41*C0.44±0.14+P(Cn=52)C2.56±0.70C0.51±0.21+G(Cn=21)C2.52±0.99C0.60±0.14その中で緑内障との合併例はC6例だったとしている8).106眼中COCT検査が行われたのはC35眼のみで,全例では網膜や視神経の詳細な検討はなされていない.本研究では多数例のCSSOHを対象とし,OCT所見を踏まえて緑内障の合併具合を検討し,分類を試みた.本研究では上方から鼻上側にかけて単純にCOCTのCcpRNFLでの菲薄化があるものを単純なSSOH群としたが,これはCSSOHが視神経乳頭鼻上側の局所的な低形成であるという従来の概念に相応する.しかし,スペクトラルドメインCOCTの登場により,黄斑部網膜内層が障害されている症例が多数存在することがわかり,こういった症例をプラスアルファの障害があると認識し,+a群として定義づけた.この群では視野障害が単純なCSSOHより多いことや,視神経乳頭面積が小さい結果を踏まえると,より低形成具合が大きいものと思われる.部分低形成ではない,いわゆる視神経低形成は視力不良例や黄斑形成異常を多く伴うが,36眼の視神経低形成に関する研究では視神経乳*p<0.01表3SSOHの視野欠損の有無と4分類の眼数SSOHの視野異常なし(眼)SSOHの視野異常あり(眼)SSOHのみ(n=40)C31C9+a(n=17)C7C10+P(Cn=52)C42C10+G(Cn=21)C11C9頭面積と視力が有意な相関があると報告され,本研究結果を裏付けるものである9).+a群でみられるCGCC菲薄化が,網膜神経線維層の障害のみか,あるいは網膜神経節細胞の障害を伴うかは本研究で用いたCOCTはこのC2層を分離して解析できないためこれ以上の推測はできないが,層別解析を行うことができるスペクトラリスCOCTなどがあればさらなる解析が可能と思われる.また,四つの分類はC1名の眼科医のみ(AK)で行った.とくに,図2の左眼のような非典型的な症例や微妙な緑内障性構造障害については判定者により判断が変わることもあり得るため,より正確な議論を行うには複数名による判定が望ましいと思われる.SSOHは比較的よくみられ,緑内障が合併しているかどうかで患者への対応が変わる.緑内障があれば,より綿密なフォローが必要であり,その診断は非常に重要である.視神経乳頭下方に緑内障性変化がある場合はCSSOHがあっても診断はつきやすい.しかし,上方にたとえば網膜神経線維束欠損のような緑内障性変化がある場合は,SSOHによる構造的変化が混在すると判別が非常に困難となる.本研究では+a群と+P群に分類したが,図2に示すような症例も多々あり,明確な診断基準を示すことは困難である.SSOHはもともと小乳頭であることや視神経乳頭形状がいびつなことも多く,緑内障性視神経乳頭陥凹拡大の有無での診断もむずかしいと思われる.視野欠損が生じているようであれば参考にできるが,PPGだとそれも不可能である.本研究のような横断的研究では解決しえず,緑内障であれば進行性であるので,判断に迷った際は経過観察が必要となり,今後の縦断的研究も必要と思われる.SSOH以外にも,頻度は少ないが鼻側・下方の視神経部分低形成もある.SSOHは治療の必要ない状態であるにもかかわらず緑内障と間違われることもあり10),緑内障点眼加療をされてしまっているケースも散見される.本研究で多数得られたCOCTのCdisc解析や黄斑部解析の結果を用いて,今後の研究でよりよい診断方法について検討する予定である.利益相反:利益相反公開基準に該当なし1)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiaCfoundCinCTajimiCEyeCHealthCCareCProjectCpar-ticipants.JpnJOphthalmolC48:578-583,C20042)岡野真弓,深井小久子,尾崎峯生:上方視神経低形成の頻度─20歳前後における頻度─神経眼科C24:389-386,C20073)KimCRY,CHoytCWF,CLessellCSCetal:SuperiorCsegmentalCopticChypoplasia.CaCsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOph-thalmolC107:1312-1315,C19894)HashimotoCM,COhtsukaCK,CNakazawaCTCetal:ToplessCopticCdiskCsyndromeCwithoutCmaternalCdiabetesCmellitus.CAmJOphthalmolC128:111-112,C19995)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomogra-phyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthal-molC86:910-914,C20026)LeeHJ,OzakiM,OkanoMetal:Coexistenceanddevel-opmentofanopen-angleglaucomaineyeswithsuperiorsegmentalCopticChypoplasia.CJCGlaucomaC24:207-213,C20157)YamadaCM,COhkuboCS,CHigashideCTCetal:Di.erentiationCbyCimagingCofCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasiaCandCnormal-tensionglaucomawithinferiorvisual.elddefectsonly.JpnJOphthalmolC57:25-33,C20138)YagasakiA,SawadaA,ManabeYetal:ClinicalfeaturesofsuperiorCsegmentalCopticChypoplasia:hospital-basedCstudy.JpnJOphthalmolC63:34-39,C20199)Skriapa-MantaCA,CVenkataramanCAP,COlssonCMCetal:CCharacteristicCdeviationsCofCtheCopticCdiscCandCmaculaCinCopticCnerveChypoplasiaCbasedConCOCT.CActaCOphthalmolC102:922-930,C202410)WuCJH,CLinCCW,CLiuCCHCetal:SuperiorCsegmentalCopticCnervehypoplasia:aCreview.CSurvCOphthalmolC67:1467-1475,C2022C***

上方視神経部分低形成症例のOCT Angiography

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1122.1126,2018c上方視神経部分低形成症例のOCTAngiography伊藤翔平*1澤田有*1石川誠*1吉冨健志*1徐魁.*2*1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座*2おのば眼科COpticalCoherenceTomographyAngiographyofSuperiorSegmentalOpticNerveHypoplasiaShoheiIto1),YuSawada1),MakotoIshikawa1),TakeshiYositomi1)andKaiiJoh2)1)DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,2)OnobaEyeClinic目的:上方視神経部分低形成(superiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia:SSOH)について,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangiography:OCTA)による網膜毛細血管の状態を評価した.対象および方法:SSOH2例C2眼(62歳,男性およびC40歳,女性)について,OCTAを用いて網膜毛細血管を撮像した.2例とも健診で網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)欠損を指摘され,検眼所見,OCT所見,視野所見よりCSSOHと診断された.結果:2例ともCRNFLの欠損部位に一致し網膜毛細血管の密度の低下を認めた.結論:SSOHではCRNFL欠損に一致した網膜血管密度の低下が認められることがCOCTAによって示された.CPurpose:ToCinvestigateCopticCdiscCmicrocirculationCinCeyesCwithCsuperiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia(SSOH)usingCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(OCTA).CMethods:TwoCeyesCwithCSSOHCwereCexam-inedbyOCTAina62-year-oldmaleanda40-year-oldfemale.Theyshowedthinningoftheretinalnerve.berlayer(RNFL)andCwereCdiagnosedCasCSSOHCbyCopticCdiscCappearanceCandCRNFLCthickness,CbasedConCOCTCmea-surementsandthecorrespondingvisual.eld.Result:OpticdiscmicrocirculationinthetwoeyeswasreducedinRNFLthicknessarea.Conclusions:OCTA.ndingsrevealedthatmicrovasculardensityisreducedinRNFLdefectareainSSOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1122.1126,C2018〕Keywords:上方視神経部分低形成,光干渉断層血管撮影,網膜血管密度低下.superiorsegmentalopticnervehypoplasia,opticalcoherencetomographyangiography,retinalmicrovasculardensityreduction.Cはじめに近年,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phyangiography:OCTA)を用いた緑内障眼の観察が行われるようになってきており,網膜神経線維層(retinalnerve.berClayer:RNFL)欠損に一致した網膜表層血管の減少が報告されている.一方,同様にCRNFL欠損をきたす疾患である上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)について,OCTAによる網膜毛細血管の状態の報告はまだない.今回,筆者らはCSSOHのC2例についてCOCTAを用いた網膜毛細血管の状態の評価を行い,興味ある知見を得たので報告する.CI症例〔症例1〕62歳,男性.主訴:健康診断の二次検診.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.現病歴:平成C24年C10月,健康診断で右眼CRNFL欠損を指摘された.初診時検査所見:視力は右眼C0.06(1.2×.4.0D),左眼0.04(1.2×.5.0D).眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHg.前眼部.中間透光体に特記すべき所見なし.眼底検査では,右眼視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位を認めた(図1).光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼の視神経乳頭上方に網膜菲薄〔別刷請求先〕伊藤翔平:〒010-8543秋田県秋田市広面蓮沼C44-2秋田大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ShoheiIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,44-2HiroomoteHasunuma,Akita-shi,Akita010-8543,JAPAN1122(116)ab図1症例1:両眼乳頭周囲所見a:右眼,b:左眼.右眼では網膜中心動脈の上方偏位,視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損を認めた.C図2症例1:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.C図3症例1:動的視野検査a:右眼,b:左眼.右眼ではCMariotte盲点に連続する楔状の視野欠損を認めた.C化を認めた(図2).Goldmann視野検査にて,右眼にCMari-主訴:健康診断の二次検診.otto盲点より下方に連なる楔状の視野欠損を認めた(図3).家族歴・既往歴:特記すべきことなし.CirrusCOCT(modelC5000,CCarlCZeissCMeditec)にてCOCTA現病歴:平成C29年C6月,健康診断で左眼CRNFL欠損を指を施行したところ,右眼の乳頭上方を中心とした網膜菲薄化摘された.部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた(図4).初診時検査所見:視力は右眼C0.7Cp(1.2C×.0.5D(cyl.1.0〔症例2〕40歳,女性.DAx95°),左眼0.7p(1.2C×.0.25D(cyl.1.25DCAx85°).図4症例1:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.C図5症例2:両眼乳頭周囲所見a:右眼,Cb:左眼.網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側のCdoubleCringCsign,左眼視神経乳頭の鼻上側にRNFL欠損を認めた.C図6症例2:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.左眼は下方の菲薄化も認めた.C眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHg.前眼部.中間透光Goldmann視野検査では,左眼耳下側に視野欠損を認めた帯に特記すべき所見なし.眼底検査では,左眼視神経乳頭鼻(図7).CirrusOCTにてCOCTAを施行したところ,左眼の上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側乳頭鼻側上下の網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血のCdoubleCringCsignを認めた(図5).OCTでは左眼の乳頭管の減少を認めた(図8).上下方および右眼の乳頭上方に網膜菲薄化を認めた(図6).図7症例2:動的視野検査a:右眼,b:左眼.左眼では耳下側の扇状の視野欠損を認めた.C図8症例2:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.II考按SSOHは,上方の網膜神経線維が欠損する先天性非進行性の疾患である1,2).視力は良好であり,神経線維の欠損に対応する特徴的な下方の楔状視野欠損がみられる.日本人における有病率は多治見スタディにおいてC0.3%であることが示された3).Kimらによって四つの特徴的な所見が示され4)それらは1)上方のCRNFL欠損,2)網膜中心動脈の上方偏,位,3)乳頭上半の蒼白化,4)乳頭上方のCdoubleCringCsignである.これらすべてを満たさない症例も多く,4徴候のなかでは乳頭上方のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位が多いといわれる5).診断は,特徴的な眼底所見,Goldmann視野検査所見,OCTによる視神経乳頭周囲網膜菲薄化の検出によってなされる.本報告において,症例C1では乳頭上鼻側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位と,盲点より下方耳側に広がる典型的な楔状視野欠損よりCSSOHと診断した.症例C2ではCRNFL欠損と網膜中心動脈の上方偏位に加え,doubleringsignが認められた.SSOHでは視神経軸索が区画性に欠落し,視神経の径が細く,強膜.篩状板境界よりも内側まで網膜・色素上皮が存在し,その内側が検眼鏡的に乳頭部となるために,その解剖学的なずれによりCdoubleringCsignが生じる.また,症例C2では上方だけでなく,下方のCRNFL欠損も認められた.SSOHでは上方以外にも下方・鼻側の視神経低形成を合併することも多く,このことから,これらの先天性視神経異常は,視神経部分低形成という共通の疾患概念でまとめられるもので,SSOHはそのなかでもっとも高頻度に認められる一亜型ではないかと考えられている6).さらに,本報告ではC2症例とも,片眼性にCSSOHに典型的な眼底所見とそれに伴う楔状の視野欠損を認めたが,その僚眼にも,視野障害は生じていないものの患眼と同様なC上方の網膜菲薄化を認めた.このことから,これらのC2症例の視神経低形成は両眼性であるが,患眼と僚眼の間でその程度に差があることが考えられた.SSOHの視野障害は緑内障と類似しているため,診断には緑内障との鑑別が必要になるが,SSOHの特徴としてCRNFL欠損が乳頭上方から鼻側にかけ扇形に広がること,視野障害の部位が下方であり,盲点に連なり耳側に向かうことがあげられる7).緑内障では初期にはCRNFL欠損をアーケード内に認めることが多く,horizontalsplitに伴う鼻側階段を認めることが多い.本症例では典型的な眼底所見および視野障害パターンよりCSSOHと診断したが,緑内障と鑑別するには,10年程度の長期の経過観察のうえで視野進行がみられないことを確認する必要がある.本研究ではCSSOH症例にCOCTAを施行し,視神経乳頭上方のCRNFL欠損部位に一致した血管密度の低下を認めた.OCTAは眼底の血流状態を毛細血管レベルで抽出することができる画期的な技術である.造影剤を使用しないため薬剤アレルギーを心配する必要がなく,短時間で高い再現性をもつ画像を得ることができるため,今後使用される可能性が高まることが予想される.OCTAは網膜血管閉塞など網脈絡膜病変の診療においておもに利用されているが,そのほかの分野でも応用が広まりつつある.緑内障の分野では,視神経乳頭周囲網膜および乳頭内部の血流状態について知見が集積されつつある8,9).視神経乳頭周囲の網膜表層には放射状乳頭周囲毛細血管網(radialCperipapillaryCcapillary:RPC)が存在するが,緑内障眼ではこのCRPCの密度が病期の進行に伴い低下することが報告されている.具体的には,RPC密度はCHumphrey視野検査のCMD値,OCTによるCRNFL厚,視神経細胞節複合体(ganglioncellcomplex:GCC)と相関し,とくにCGCCと相関が強いことが報告されている.また,このCRPCの減少部位はCRNFL欠損部位と一致するため,RPCの脱落部位から視神経の障害部位を推測することができる.RPCの脱落はCRNFL層の菲薄化に伴い二次的に生じると推測されている.緑内障眼では視神経乳頭における血流密度も健常眼と比較して減少している.視神経乳頭は組織深度によって血流供給源が異なっているが,緑内障では篩状板前組織の血管密度が減少していることが示されている.本研究では,SSOH症例にCOCTAを施行し,上鼻側のRNFL欠損の部分に一致したCRPCの減少を認めた.SSOHにおいてこのような所見を報告するのは,筆者らの知る限り本報告が初めてである.このことは,SSOHにおいて,特徴的な臨床所見に加え,OCTAによる上鼻側のCRPC脱落の検出が診断に役立つ可能性を示唆している.以上,本研究ではCSSOH症例におけるCOCTA所見について報告した.SSOH症例は加齢に伴い緑内障を合併し,治療対象となることも多く,今後は,進行の有無についてCOCTA検査も含め定期的に経過観察する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PetersenCRA,CWaltonCDS:OpticCnerveChypoplasiaCwithCgoodCvisualCacuityCandCvisualC.eldCdefects.CArchCOphthal-molC95:254-258,C19772)布施昇男,相澤奈帆子,横山悠ほか:SuperiorCsegmen-talCopticChypoplasia(SSOH)の網膜神経線維層厚の解析.日眼会誌116:575-580,C20123)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiaCfoundCinCTajimiCEyeCHealthCCareCProjectCpar-ticipants.JonJOphthalmolC48:578-583,C20044)KimRY,WilliamFH,SimmonsLetal:Superiorsegmen-talCopticChypoplasia.CACsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOphthalmolC107:1312-1315,C19895)HashimotoCM,COhtsukaCK,CNakagawaCTCetCal:ToplessCopticCdiskCsyndromeCwithoutCmaternalCdiabetesCmellitus.CAmJOphthalmolC128:111-112,C19996)新田耕治,杉山和久:緑内障に類似した所見(SSOHなど).眼科52:1548-1554,C20107)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神経眼科24:426-432,C20078)JiaCY,CWeiCE,CWangCXCetCal:OpticalCcoherenceCtomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmologyC121:1322-1332,C20149)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:Canopticalcoherencetomographyangiography.AmJOph-thalmolC168:237-249,C2016***