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上方視神経部分低形成症例のOCT Angiography

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1122.1126,2018c上方視神経部分低形成症例のOCTAngiography伊藤翔平*1澤田有*1石川誠*1吉冨健志*1徐魁.*2*1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座*2おのば眼科COpticalCoherenceTomographyAngiographyofSuperiorSegmentalOpticNerveHypoplasiaShoheiIto1),YuSawada1),MakotoIshikawa1),TakeshiYositomi1)andKaiiJoh2)1)DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,2)OnobaEyeClinic目的:上方視神経部分低形成(superiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia:SSOH)について,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangiography:OCTA)による網膜毛細血管の状態を評価した.対象および方法:SSOH2例C2眼(62歳,男性およびC40歳,女性)について,OCTAを用いて網膜毛細血管を撮像した.2例とも健診で網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)欠損を指摘され,検眼所見,OCT所見,視野所見よりCSSOHと診断された.結果:2例ともCRNFLの欠損部位に一致し網膜毛細血管の密度の低下を認めた.結論:SSOHではCRNFL欠損に一致した網膜血管密度の低下が認められることがCOCTAによって示された.CPurpose:ToCinvestigateCopticCdiscCmicrocirculationCinCeyesCwithCsuperiorCsegmentalCopticCnerveChypoplasia(SSOH)usingCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(OCTA).CMethods:TwoCeyesCwithCSSOHCwereCexam-inedbyOCTAina62-year-oldmaleanda40-year-oldfemale.Theyshowedthinningoftheretinalnerve.berlayer(RNFL)andCwereCdiagnosedCasCSSOHCbyCopticCdiscCappearanceCandCRNFLCthickness,CbasedConCOCTCmea-surementsandthecorrespondingvisual.eld.Result:OpticdiscmicrocirculationinthetwoeyeswasreducedinRNFLthicknessarea.Conclusions:OCTA.ndingsrevealedthatmicrovasculardensityisreducedinRNFLdefectareainSSOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(8):1122.1126,C2018〕Keywords:上方視神経部分低形成,光干渉断層血管撮影,網膜血管密度低下.superiorsegmentalopticnervehypoplasia,opticalcoherencetomographyangiography,retinalmicrovasculardensityreduction.Cはじめに近年,光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phyangiography:OCTA)を用いた緑内障眼の観察が行われるようになってきており,網膜神経線維層(retinalnerve.berClayer:RNFL)欠損に一致した網膜表層血管の減少が報告されている.一方,同様にCRNFL欠損をきたす疾患である上方視神経部分低形成(superiorsegmentalopticnervehypoplasia:SSOH)について,OCTAによる網膜毛細血管の状態の報告はまだない.今回,筆者らはCSSOHのC2例についてCOCTAを用いた網膜毛細血管の状態の評価を行い,興味ある知見を得たので報告する.CI症例〔症例1〕62歳,男性.主訴:健康診断の二次検診.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.現病歴:平成C24年C10月,健康診断で右眼CRNFL欠損を指摘された.初診時検査所見:視力は右眼C0.06(1.2×.4.0D),左眼0.04(1.2×.5.0D).眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHg.前眼部.中間透光体に特記すべき所見なし.眼底検査では,右眼視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位を認めた(図1).光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼の視神経乳頭上方に網膜菲薄〔別刷請求先〕伊藤翔平:〒010-8543秋田県秋田市広面蓮沼C44-2秋田大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ShoheiIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversitySchoolofMedicine,44-2HiroomoteHasunuma,Akita-shi,Akita010-8543,JAPAN1122(116)ab図1症例1:両眼乳頭周囲所見a:右眼,b:左眼.右眼では網膜中心動脈の上方偏位,視神経乳頭鼻上側のCRNFL欠損を認めた.C図2症例1:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.C図3症例1:動的視野検査a:右眼,b:左眼.右眼ではCMariotte盲点に連続する楔状の視野欠損を認めた.C化を認めた(図2).Goldmann視野検査にて,右眼にCMari-主訴:健康診断の二次検診.otto盲点より下方に連なる楔状の視野欠損を認めた(図3).家族歴・既往歴:特記すべきことなし.CirrusCOCT(modelC5000,CCarlCZeissCMeditec)にてCOCTA現病歴:平成C29年C6月,健康診断で左眼CRNFL欠損を指を施行したところ,右眼の乳頭上方を中心とした網膜菲薄化摘された.部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた(図4).初診時検査所見:視力は右眼C0.7Cp(1.2C×.0.5D(cyl.1.0〔症例2〕40歳,女性.DAx95°),左眼0.7p(1.2C×.0.25D(cyl.1.25DCAx85°).図4症例1:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.C図5症例2:両眼乳頭周囲所見a:右眼,Cb:左眼.網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側のCdoubleCringCsign,左眼視神経乳頭の鼻上側にRNFL欠損を認めた.C図6症例2:OCT所見a:右眼,b:左眼.両眼とも上方CRNFLの菲薄化を認めた.左眼は下方の菲薄化も認めた.C眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHg.前眼部.中間透光Goldmann視野検査では,左眼耳下側に視野欠損を認めた帯に特記すべき所見なし.眼底検査では,左眼視神経乳頭鼻(図7).CirrusOCTにてCOCTAを施行したところ,左眼の上側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位,乳頭耳上側乳頭鼻側上下の網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血のCdoubleCringCsignを認めた(図5).OCTでは左眼の乳頭管の減少を認めた(図8).上下方および右眼の乳頭上方に網膜菲薄化を認めた(図6).図7症例2:動的視野検査a:右眼,b:左眼.左眼では耳下側の扇状の視野欠損を認めた.C図8症例2:OCTA所見a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜菲薄化部分に一致して網膜浅層の毛細血管の減少を認めた.II考按SSOHは,上方の網膜神経線維が欠損する先天性非進行性の疾患である1,2).視力は良好であり,神経線維の欠損に対応する特徴的な下方の楔状視野欠損がみられる.日本人における有病率は多治見スタディにおいてC0.3%であることが示された3).Kimらによって四つの特徴的な所見が示され4)それらは1)上方のCRNFL欠損,2)網膜中心動脈の上方偏,位,3)乳頭上半の蒼白化,4)乳頭上方のCdoubleCringCsignである.これらすべてを満たさない症例も多く,4徴候のなかでは乳頭上方のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位が多いといわれる5).診断は,特徴的な眼底所見,Goldmann視野検査所見,OCTによる視神経乳頭周囲網膜菲薄化の検出によってなされる.本報告において,症例C1では乳頭上鼻側のCRNFL欠損,網膜中心動脈の上方偏位と,盲点より下方耳側に広がる典型的な楔状視野欠損よりCSSOHと診断した.症例C2ではCRNFL欠損と網膜中心動脈の上方偏位に加え,doubleringsignが認められた.SSOHでは視神経軸索が区画性に欠落し,視神経の径が細く,強膜.篩状板境界よりも内側まで網膜・色素上皮が存在し,その内側が検眼鏡的に乳頭部となるために,その解剖学的なずれによりCdoubleringCsignが生じる.また,症例C2では上方だけでなく,下方のCRNFL欠損も認められた.SSOHでは上方以外にも下方・鼻側の視神経低形成を合併することも多く,このことから,これらの先天性視神経異常は,視神経部分低形成という共通の疾患概念でまとめられるもので,SSOHはそのなかでもっとも高頻度に認められる一亜型ではないかと考えられている6).さらに,本報告ではC2症例とも,片眼性にCSSOHに典型的な眼底所見とそれに伴う楔状の視野欠損を認めたが,その僚眼にも,視野障害は生じていないものの患眼と同様なC上方の網膜菲薄化を認めた.このことから,これらのC2症例の視神経低形成は両眼性であるが,患眼と僚眼の間でその程度に差があることが考えられた.SSOHの視野障害は緑内障と類似しているため,診断には緑内障との鑑別が必要になるが,SSOHの特徴としてCRNFL欠損が乳頭上方から鼻側にかけ扇形に広がること,視野障害の部位が下方であり,盲点に連なり耳側に向かうことがあげられる7).緑内障では初期にはCRNFL欠損をアーケード内に認めることが多く,horizontalsplitに伴う鼻側階段を認めることが多い.本症例では典型的な眼底所見および視野障害パターンよりCSSOHと診断したが,緑内障と鑑別するには,10年程度の長期の経過観察のうえで視野進行がみられないことを確認する必要がある.本研究ではCSSOH症例にCOCTAを施行し,視神経乳頭上方のCRNFL欠損部位に一致した血管密度の低下を認めた.OCTAは眼底の血流状態を毛細血管レベルで抽出することができる画期的な技術である.造影剤を使用しないため薬剤アレルギーを心配する必要がなく,短時間で高い再現性をもつ画像を得ることができるため,今後使用される可能性が高まることが予想される.OCTAは網膜血管閉塞など網脈絡膜病変の診療においておもに利用されているが,そのほかの分野でも応用が広まりつつある.緑内障の分野では,視神経乳頭周囲網膜および乳頭内部の血流状態について知見が集積されつつある8,9).視神経乳頭周囲の網膜表層には放射状乳頭周囲毛細血管網(radialCperipapillaryCcapillary:RPC)が存在するが,緑内障眼ではこのCRPCの密度が病期の進行に伴い低下することが報告されている.具体的には,RPC密度はCHumphrey視野検査のCMD値,OCTによるCRNFL厚,視神経細胞節複合体(ganglioncellcomplex:GCC)と相関し,とくにCGCCと相関が強いことが報告されている.また,このCRPCの減少部位はCRNFL欠損部位と一致するため,RPCの脱落部位から視神経の障害部位を推測することができる.RPCの脱落はCRNFL層の菲薄化に伴い二次的に生じると推測されている.緑内障眼では視神経乳頭における血流密度も健常眼と比較して減少している.視神経乳頭は組織深度によって血流供給源が異なっているが,緑内障では篩状板前組織の血管密度が減少していることが示されている.本研究では,SSOH症例にCOCTAを施行し,上鼻側のRNFL欠損の部分に一致したCRPCの減少を認めた.SSOHにおいてこのような所見を報告するのは,筆者らの知る限り本報告が初めてである.このことは,SSOHにおいて,特徴的な臨床所見に加え,OCTAによる上鼻側のCRPC脱落の検出が診断に役立つ可能性を示唆している.以上,本研究ではCSSOH症例におけるCOCTA所見について報告した.SSOH症例は加齢に伴い緑内障を合併し,治療対象となることも多く,今後は,進行の有無についてCOCTA検査も含め定期的に経過観察する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PetersenCRA,CWaltonCDS:OpticCnerveChypoplasiaCwithCgoodCvisualCacuityCandCvisualC.eldCdefects.CArchCOphthal-molC95:254-258,C19772)布施昇男,相澤奈帆子,横山悠ほか:SuperiorCsegmen-talCopticChypoplasia(SSOH)の網膜神経線維層厚の解析.日眼会誌116:575-580,C20123)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiaCfoundCinCTajimiCEyeCHealthCCareCProjectCpar-ticipants.JonJOphthalmolC48:578-583,C20044)KimRY,WilliamFH,SimmonsLetal:Superiorsegmen-talCopticChypoplasia.CACsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOphthalmolC107:1312-1315,C19895)HashimotoCM,COhtsukaCK,CNakagawaCTCetCal:ToplessCopticCdiskCsyndromeCwithoutCmaternalCdiabetesCmellitus.CAmJOphthalmolC128:111-112,C19996)新田耕治,杉山和久:緑内障に類似した所見(SSOHなど).眼科52:1548-1554,C20107)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神経眼科24:426-432,C20078)JiaCY,CWeiCE,CWangCXCetCal:OpticalCcoherenceCtomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmologyC121:1322-1332,C20149)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:Canopticalcoherencetomographyangiography.AmJOph-thalmolC168:237-249,C2016***