●連載◯153監修=安川力五味文133抗VEGF治療によるポリープ状脈絡膜星野順紀群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学血管症のポリープ閉塞率ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は,日本人を含むアジア人に多くみられる病型である.PCVはC1型黄斑新生血管の端部にポリープがみられることを特徴とし,ポリープの閉塞は一つの治療目標と考えられている.本稿では,各抗CVEGF治療薬によるポリープの閉塞率について述べる.ポリープ閉塞の意義ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)は,他の病型の新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)と比べて網膜下出血が生じる頻度が高く,黄斑下に及ぶ出血による高度視力低下をきたす懸念がある.残存するポリープ状病巣(ポリープ),とくにクラスター型やサイズが大きいポリープは,広範な網膜下出血の危険因子である.また,ポリープの閉塞は,抗CVEGF薬硝子体内注射による治療回数や投与間隔,再燃率と相関する.このように,PCV治療におけるポリープの残存は治療予後と相関するため,その閉塞は重要な治療目標の一つと考えられる.抗VEGF治療によるポリープ閉塞率現在,わが国でCnAMDに保険適用がある抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプトC2Cmg,ブロルシズマブ,ファリシマブ,アフリベルセプトC8Cmgである.上市されて間もないアフリベルセプトC8Cmgによるポリープ閉塞率はまだ報告がないため,ここではその他の抗CVEGF薬による導入期治療後のポリープ閉塞率について述べる.ラニビズマブによる導入期治療後のポリープ閉塞率は,国際共同試験CEVERESTstudyIとCIIで,それぞれ33%1),23%2),わが国における多施設共同前向き試験FujisanCstudyでC30%と報告されている3).ラニビズマブ単独でのポリープ閉塞率が約C30%であるのに対して,EVERESTstudyでは,ラニビズマブ併用光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)からC3カ月後のポリープ閉塞率は約C70%と報告されており1,2),PDTの併用により閉塞率は高くなる.PCVに対するアフリベルセプトC2Cmgの治療成績は,わが国の多数の施設で検討されている.それらの検討ではアフリベルセプトC2Cmgの導入期治療後のポリープ閉塞率はおおむねC50%程度(85)と報告されており,ラニビズマブと比べて閉塞率は高い.現行の抗CVEGF薬の中でもっともモル投与量が高いブロルシズマブは,導入期治療後のポリープ閉塞率がおおむねC80%程度と報告されており,先行薬のラニビズマブやアフリベルセプトC2Cmgと比べ高率に閉塞する.VEGF-Aとアンジオポエチン-2を標的としたバイスペシフィック抗体製剤であるファリシマブでは,導入期治療後のポリープ閉塞率は筆者らの検討ではC61%4),Mukaiらの報告ではC50%5)と,閉塞率はアフリベルセプトC2Cmgと同等かそれよりやや高いと考えらえる.アフリベルセプトC8Cmgを除く現行の抗CVEGF薬の中ではブロルシズマブがもっともポリープ閉塞率が高いが,ブロルシズマブは他の抗CVEGF薬と比べて眼内炎症の発症率が高いため,リスクとベネフィットを考慮した治療選択が必要である.また,抗CVEGF薬による治療でポリープが閉塞しないCPCV患者も存在する.EVERESTstudyでも示されたように,PDTの併用によりポリープ閉塞率は高くなるため,ポリープが残存し,抗VEGF薬治療に抵抗するCPCV患者に対してはCPDT併用を積極的に考慮してもよいと考える.抗VEGF治療とOCTAを用いたポリープ内血流の評価ポリープを検出するゴールドスタンダードは,インドシアニングリーン蛍光眼底造影であるが,近年では光干渉血管撮影(opticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phy:OCTA)によって非侵襲的なポリープ内血流の評価が可能となった.これまでに,OCTABスキャンにおけるポリープ内血流と治療成績の相関を検討した報告がある.Changらは,アフリベルセプトC2Cmgによる導入期治療後のポリープ内血流シグナルの消失率はC37.5%であり,導入期治療後の血流の程度によって網膜下液の消退率に差があることを報告している6).Fukuyamaらは,アフリベルセプトC2Cmg併用CPDTからC3カ月後のポリープ内血流シグナルの消失率がC45.7%であり,あたらしい眼科Vol.42,No.3,20253490910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1導入期治療後のポリープ閉塞例上段:治療前.インドシアニングリーン蛍光眼底造影でポリープと異常血管網が検出される.下段:ファリシマブによる導入期治療後.ポリープは閉塞し,drymaculaとなっている.治療前導入期治療後治療C2週後の血流の有無は早期再発や治療抵抗性と関連することを報告している7).筆者らはブロルシズマブによる導入期治療後のポリープ内血流シグナルと治療予後を検討し,導入期治療後にC64.3%で血流シグナルは消失し,血流シグナルの有無とC1年間の治療回数や最終予定投与間隔が相関することを報告している8).これらの報告から,OCTAを用いたポリープ内血流の評価においても,ブロルシズマブでその消失率が高いと考えられる.また,ポリープ内の血流シグナルの有無はCPCVの治療反応性と相関するため,OCTAによるポリープ内血流評価はCPCVの治療予後予測に有用であると考える.文献1)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJetal:EVERESTstudy:e.cacyCandsafetyofvertepor.nphotodynamictherapyincombi-nationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibizumabCmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolyp-oidalchoroidalvasculopathy.RetinaC32:1453-1464,C20122)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCaCrandom-izedCclinicalCtrial.CJamaCOphthalmologyC135:1206-1213,C350あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025図2OCTAでのポリープ内血流消失例上段:治療前.EnfaceOCTAで,橙赤色隆起病巣に一致してポリープが描出され(),BスキャンOCTAではポリープに一致した急峻な網膜色素上皮.離内に血流シグナルが検出される.下段:ブロルシズマブによる導入期治療後.EnfaceOCTAで描出されていたポリープは不明瞭となり(),BスキャンCOCTAで血流シグナルは消失している.C20173)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetal:InitialCversusCdelayedCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:TheCFujisanStudy.CRetinaC35:1569-1576,C20154)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:Short-termCoutcomesCofCintravitrealCfaricimabCforCtreatment-naiveCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2945-2952,C20235)MukaiCR,CKataokaCK,CTanakaCKCetal:Three-monthCout-comesCofCfaricimabCloadingCtherapyCforCwetCage-relatedCmaculardegenerationinJapan.SciRepC13:8747,C20236)ChangCCJ,CHuangCYM,CHsiehCMHCetal:FlowCsignalCchangeCinCpolypsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactortherapy.PLoSOneC15:e0241230,C20207)FukuyamaCH,CKomukuCY,CArakiCTCetal:AssociationCofC.owCsignalsCwithinCpolypsConCopticalCcoherenceCtomogra-phyangiographywithtreatmentresponsesaftercombina-tiontherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina42:942-948,C20228)HoshinoCJ,CMatsumotoCH,CNakamuraCKCetal:PredictingCtreatmentCoutcomesCofCintravitrealCbrolucizumabCforCpol-ypoidalCchoroidalCvasculopathyCthroughCnoninvasiveCassessmentCofCpolypoidalClesionCbloodC.owCwithCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CSciCRepC14:961,C2024(86)