‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼内リンパ腫

2025年4月30日 水曜日

眼内リンパ腫Intraocularlymphoma蕪城俊克*はじめに眼内リンパ腫(intraocularlymphoma)は眼内に原発するまれな眼内の血液系腫瘍で,浸潤部位から網膜硝子体リンパ腫(vitreoretonallymphoma:VRL)とぶどう膜リンパ腫(uveallymphoima)に分けられ,ほとんどが前者である1).VRLは悪性度が高く,とくに脳中枢神経系(centralnervoussystem:CNS)へ進展しやすく,生命予後不良となりやすい1).しかも内因性ぶどう膜と誤診されやすく,古くから「仮面症候群(masqueradesyndrome)」ともよばれ,注意すべき疾患とされてきた.一方で,ぶどう膜リンパ腫はVRLより悪性度は低いとされているが,後部強膜炎などと誤診しやすい.本稿ではVRL患者の特徴的な眼科画像検査所見について総説する.I前眼部所見・硝子体所見の特徴VRLはCNSへの進展のリスクが高く,診断の遅れは生命予後不良につながりやすい.早期診断のためには,眼所見からVRLを疑い,硝子体生検などによって確定診断する必要がある.VRLは比較的特徴的な眼所見を認めることが多い.細隙灯顕微鏡検査による観察では,VRLの角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)は,白色小型から微塵様であることが多い(図1a).また,前部硝子体中には大型で白色の炎症細胞を多数認めることが多い(図1b).細胞径が大きいのは,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫であるためである.硝子体混濁はびまん性で濃淡のある混濁を特徴とし,オーロラ状またはベール状混濁とよばれる(図1c).混濁は眼底後極部よりも周辺部でより強いことが多い.まれに雪玉状あるいは数珠状の硝子体混濁(図1d)や偽前房蓄膿を呈することもある(図1e).II眼底画像所見の特徴近年では眼底写真,光干渉断層計(opticalcoherenttomography:OCT),フルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA),眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)など複数の画像検査を組み合わせて眼底病変を評価するマルチモーダルイメージングが日常臨床で頻用されている.VRLについても,診断や病変の活動性評価に有用な情報を提供してくれる.以下,各眼底画像検査におけるVRLの特徴的所見について述べる.1.カラー眼底撮影日本でのVRL患者217例を対象とした多施設後ろ向き研究によると,VRLでみられた眼所見は,硝子体混濁(91%),網膜下浸潤(57%),虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%),網膜血管炎(10%),視神経乳頭浮腫(2%)などであった2).一方,海外の原発性VRL患者23例43眼の超広角眼底撮影像を後ろ向きに検討した研*ToshikatsuKaburaki:自治医科大学附属病院眼科〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学附属病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(47)437図1VRL症例の前眼部所見・硝子体所見a:白色小型の角膜後面沈着物.Cb:前部硝子体中の大型の白色炎症細胞浸潤.Cc:濁はびまん性で濃淡のあるオーロラ状の硝子体混濁.d:雪玉状あるいは数珠状の硝子体混濁.e:偽前房蓄膿.図2周辺部に網膜下浸潤病巣を認めたVRL症例の眼底画像(同一症例)a:広角眼底撮影.周辺部に隆起性の黄白色病変を認め,表面に色素性顆粒を認める(豹紋状斑点).b:OCT像(後極部).RPE上の散在性の結節.c:OCT像(周辺部).RPE()とCBruch膜()の間への均一な高輝度物質の貯留とCRPEの隆起を認める.Cd:FA像(早期).RPE隆起部は蛍光ブロックにより顆粒状の低蛍光となる.Ce:FA像(後期).障害されたCRPEの組織染色により過蛍光となる.Cf:IA像.RPE隆起部は低蛍光領域として描出される.Cg:FAF像.RPE下病変の過自発蛍光,および後極部の過自発蛍光斑と低自発蛍光斑の混在(豹紋様斑)を認める.de図3多発性脈絡膜炎様の周辺部病変を呈したVRL症例a:カラー眼底写真:黄白色の癒合性のある斑状病変を認める.b:OCT像.病変部はCRPE上の散在性の結節あるいはCRPEの小隆起として観察される.Cc:FA像(早期).RPE隆起部は蛍光ブロックにより低蛍光となる.Cd:FA像(後期).その部位は後期像ではCRPEの組織染色により過蛍光となる.Ce:IA像:RPE隆起部は低蛍光となる.図4網膜血管炎を呈したVRL症例a:カラー眼底写真.血管に沿った白色浸潤を認める.b:OCT像.血管炎の部位は網膜内層の高反射浸潤病変として観察される.Cc:FA像(後期).血管からの旺盛な蛍光漏出を認める.de図5後極部網膜の肥厚を伴う浸出性網膜炎を呈したVRL症例a:カラー眼底写真.後極部網膜に白色浸潤病巣を認める.b:OCT像.RPE上の帯状の高反射像を認める.Cc:FA像(早期).RPE上帯状病変部は蛍光ブロックにより低蛍光となる.d:FA像(後期).RPE上帯状病変部は後期像ではCRPEの組織染色により過蛍光となる.e:FAF像.過自発蛍光斑と低自発蛍光斑の混在がみられる.図6脈絡膜ぶどう膜リンパ腫の症例a:カラー眼底写真.夕焼け状様の眼底で,表面にCRPE細胞の過形成による色素性顆粒を認める.Cb:OCT像.Bruch膜下の脈絡膜にリンパ腫細胞が浸潤するため,脈絡膜肥厚やCRPEの波打ちはみられるが,RPEとCBruch膜の分離像はみられない.-

多発消失性白点症候群(MEWDS)および 点状脈絡膜内層症(PIC)

2025年4月30日 水曜日

多発消失性白点症候群(MEWDS)および点状脈絡膜内層症(PIC)MultipleEvanescentWhiteDotSyndrome(MEWDS)andPunctateInnerChoroidopathy(PIC)柳井亮二*はじめに多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS)と点状内脈絡網膜症(punc-tateinnerchoroidopathy:PIC)は,類似した臨床症状を示すまれな白点状脈絡網膜症である.MEWDSは一般的に若い女性に発症し,網膜に多数の白色斑点を呈する疾患で,網脈絡膜の炎症所見や黄色~橙色の顆粒状所見を特徴とする1).PICもおもに若い近視の女性に発症する炎症性の網脈絡網膜症で2,3),前房や硝子体の炎症を伴わずに,後極に多数の小規模な黄白色病変として出現する2).MEWDSは原発性疾患として発症する場合とPICの二次性疾患として発症する場合があり4),他のぶどう膜炎との鑑別もむずかしい.確定診断は,おもに臨床所見と画像診断に基づいて行われるため,マルチモーダルイメージングが不可欠となる3).本稿では,MEWDSとPICの臨床像とマルチモーダルイメージングを示しながら,MEWDSおよびPICの疾患概念を解説するとともに,MEWDSとPICを合併した症例を呈示する.I多発消失性白点症候群とはMEWDSはellipsoidzone(EZ)を中心とする網膜外層が障害される,まれな自己免疫性の炎症性眼疾患である1,5,6).MEWDSおよびPICを含む白点症候群の年間発生率は,10万人あたり0.45人と推定されており,他の自己免疫疾患との関連性6)やインフルエンザなどのワクチン接種との関連性も報告されている7).しかし,原因や病態の詳細は未解明の部分が多く,さらなる研究が望まれる眼疾患の一つである.自覚的には光視症や視力低下,中心暗点で発症することが多く,通常は1~3カ月で自然治癒する.網膜の白点が消失するとともに視力低下などの症状も回復する7).診断には,臨床所見に加え,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)によるEZの消失やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)による低蛍光斑などの特徴的所見から総合的に判定する.さらに,近年では眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)による過蛍光所見の有用性も報告されている8).治療は大半の患者で自然軽快するため不要である.PICに続発したMEWDSに対しては,副腎皮質ステロイドが用いられ,良好な結果が報告されている9).このように,MEWDSに対する治療の要否は個々の患者に応じた対応が必要である.II多発消失性白点症候群に対するマルチモーダルイメージング広角眼底写真では黄白色の白点が多数認められ,後極部から網膜周辺部までの局在が明らかである(図1).さらに,中心窩には黄色~橙色の顆粒状所見がみられることもある.FAFでは白点部位に一致して過蛍光斑がみ*RyojiYanai:徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕柳井亮二:〒770-8503徳島市蔵本町2-50-1徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(41)431初診時1カ月後3カ月後広角眼底眼底自発蛍光(FAF)光干渉断層計(OCT)図1多発消失性白点症候群の自然経過39歳,女性.初診時の眼底写真では黄白色の白点の多数認められ,眼底自発蛍光で過蛍光を呈している.OCTでは,EZ消失()や中心窩の顆粒状所見()が観察される.これらの所見はC1カ月後には改善し,3カ月後には異常所見はみられない.図2多発消失性白点症候群のインドシアニングリーン蛍光造影(IA)a,b:41歳,男性.Cc,d:34歳,女性.広角眼底(Ca,c)でみられる白斑に一致して,IA(Cb,d)では低蛍光斑が観察される.図3点状内脈絡網膜症のマルチモーダルイメージング39歳,女性.21歳時より視力低下の自覚症状があり,数年ごとに再発を繰り返していた.Ca:カラー眼底.b:OCT.c:フルオレセイン蛍光造影.d:インドシアニングリーン蛍光造影.e:眼底自発蛍光.図4点状内脈絡網膜症のOCTによる治療経過17歳,女性.Ca,b:初診時.c:初診C3週間後のCVEGF治療開始時.Cd:VEGF治療C1カ月後.CNVは縮小した.Ce:VEGF治療C2カ月後.CNVは消失したが,EZは軽度消失している.ab図5点状内脈絡網膜症のOCTAによる治療経過17歳,女性.Ca:初診C3週間後のCVEGF治療開始時,Cb:VEGF治療C1カ月後.CNVは縮小した.図6点状内脈絡網膜症に続発した多発消失性白点症候群39歳,女性.図C3と同一の症例.Ca,b:初診時.c,d:3カ月後.広角眼底(Ca,c)および広角自発蛍光(Cb,d)では,後極部から網膜周辺部に広がる白斑がみられ,同部位に一致した過蛍光がみられる.3カ月後(Cc,d),網膜の白斑は消失し,自発過蛍光も消失した.—

急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)

2025年4月30日 水曜日

急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)AcutePosteriorMultifocalPlacoidPigmentEpitheliopathy(APMPPE)鈴木佳代*はじめに急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteriormul-tifocalplacoidpigmentepitheliopathy:APMPPE)は,1968年にGassらにより最初に報告された疾患であり,一過性に後極部網膜に散在性の白点病変が多発する原因不明の疾患群である「白点症候群」の一つに分類される1).本疾患は急性もしくは亜急性に若年層で発症することが特徴であり,患者はおもに霧視,暗点,変視症といった自覚症状を訴える.一般的に両眼性の発症が多く,両眼が同時に発症する場合や,片眼に初発したのち,数日遅れてもう片眼が発症する場合が報告されている.また,発症に先立ちインフルエンザ様の症状がみられることがあり,これがウイルス感染との関連性を示唆する要因の一つとして注目されている2).APMPPEは,他の白点症候群のみならず,Vogt-小柳-原田病や後部強膜炎といった疾患とも類似した眼所見を呈する場合があるため,その鑑別診断がきわめて重要である.これらの疾患を正確に診断するには,眼所見のみで判断することはむずかしく,詳細な検査が必要である.とくに,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)が診断の基本となるが,近年では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)などの非侵襲的画像診断技術の進歩が著しく,診断にも有用である.さらには,非侵襲的に網膜や脈絡膜の血流を評価可能なレーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)も有用であることが示されている.これらの複数の画像診断手法を組み合わせたマルチモーダルイメージングのアプローチがAPMPPEの診断と治療方針の決定において必須であると考えられる.本稿では,APMPPEの診断および治療におけるマルチモーダルイメージングの有用性について,これまでの知見を基に詳細に解説するとともに,同疾患の特徴的な眼所見や画像所見についても触れる.I眼所見APMPPEにおける眼所見は,前房炎症が比較的軽度であることが特徴である.前房および前部硝子体内にはわずかな細胞浸潤が観察される程度であり,急性ぶどう膜炎にみられるような激しい炎症所見を呈することはまれである.初発病変は,おもに後極部から中間周辺部にかけて広がる白色病巣として現れる(図1).これらの病巣は大きさがおよそ1/2~1/4乳頭大であり,発症初期には境界がやや不鮮明であることが多いが,経過とともに次第に明瞭化し,多くの場合に発症から数週間以内に自然に消退する.しかし,一部の病巣は瘢痕病巣となり,とくに黄斑部に瘢痕化病変が残存した場合には,視機能障害が不可逆的となる可能性が高い.このため,黄斑部病変を有する患者には発症早期にステロイドの内服や後部Tenon.下注射などの積極的な治療介入が推奨*KayoSuzuki:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木佳代:〒060-8638札幌市北区北15条西7北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(35)425図1APMPPEの初発病変黄斑部および視神経乳頭周囲に黄白色の滲出斑が多数みられる.図2APMPPEの瘢痕化病変寛解期には色素沈着を伴う瘢痕病変が残存することもある().図3APMPPEのOCT画像OCTでは急性期に脈絡膜が肥厚し(),漿液性網膜.離()を伴うこともある.図4APMPPEのフルオレセイン蛍光造影所見早期に滲出斑が低蛍光(Ca)となり,後期では過蛍光(Cb)となる逆転現象がみられる.図5APMPPEのインドシアニングリーン蛍光造影所見初期から低蛍光がみられていたがC,後期にも低蛍光斑が残存している.図6APMPPEの眼底自発蛍光(FAF)画像a:FAFは活動性病変は過自発蛍光となるが,その内部が低自発蛍光を呈することもある().b:色素沈着を伴った瘢痕病変が残存した場合には同部位で低自発蛍光がみられる()が,その内部が過自発蛍光を呈することがある().c:再発病変では過自発蛍光が再び出現する().図7APMPPEのレーザースペックルフローグラフィ所見a:急性期には黄斑部Cmeanblurrate(MBR)が減少し,寒色調となる.Cb:寛解期にはCMBRが上昇し,暖色調へ変化する.図8Relentlessplacoidchorioretinitisの眼病変a:発症初期はCAPMPPEに類似するが,より広範囲に病変がみられることが多い.Cb:時間経過とともに病変は再発を繰り返し,色素沈着を伴った広範囲な萎縮を生じる().-

急性網膜壊死・サイトメガロウイルス網膜炎

2025年4月30日 水曜日

急性網膜壊死・サイトメガロウイルス網膜炎MultimodalImaginginAcuteRetinalNecrosisandCytomegalovirusRetinitis武田篤信*はじめに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)はヒトヘルペスウイルス属単純ヘルペスウイルス(herpessim-plexvirus:HSV)-1,HSV-2,水疱帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)の網膜感染が原因で発症し,急速に進行する壊死性網膜炎である1).1971年に浦山らにより報告された2).ARNは約半数が発症後6カ月で視力0.1未満となる視力予後不良な疾患である3,4).健常者に発症することが多いが,悪性リンパ腫などの血液腫瘍の患者で,造血幹細胞移植などの治療後に免疫能が低下していると発症することがある5).一方,ヒトヘルペスウイルス属b亜科に属するウイルスであるサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の感染により生じるCMV網膜炎は,ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)感染,腎移植後などの免疫抑制治療,悪性腫瘍に対する化学療法などで免疫能が低下して生じる日和見感染症である6,7).わが国では未曽有の高齢化が進んでおり,また膠原病や癌治療に新たな生物製剤や分子標的薬が数多く登場しており,患者の免疫能に影響を及ぼし,今後はARNやCMV網膜炎の発症が増えていく可能性がある.しかし,ARNやCMV網膜炎などの感染性ぶどう膜炎では免疫能低下の程度により表現型に違いがみられ,臨床所見のみでは診断に苦慮することがある.そのため,これらの疾患の画像所見を知っておくことが診断につながる可能性がある.本稿ではARNおよびCMV網膜炎のマルチモーダルイメージングについて紹介する.I急性網膜壊死ARNでは壊死網膜炎が生じている部分である黄白色顆粒状病変が特徴的である(図1).顆粒状病変内に動静脈に沿った火炎状の出血がみられる.発症初期では視神経炎により視神経乳頭の発赤腫脹がみられることがある.黄白色顆粒状病変は周辺部網膜から出現することが多く,病状が悪化してくると後極へ進展する.近年は周辺部病変の観察が超広角眼底撮影装置により可能となってきており,経時的変化も観察可能である.筆者らのグループでは,ARN患者の初診時に撮像した超広角眼底撮影画像を用いて壊死網膜病変の範囲を計測・解析し,周辺部の病変の範囲が広いほど発症1年後の視力が不良であることを明らかにした.すなわち,ARNでは視力予後予測の観点から超広角眼底撮影は有用である可能性がある(図2)5).眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)画像は,活動性のある壊死網膜炎部位では過蛍光を呈する.高コントラストの自家蛍光パターンは,ARNの疾患活動性の境界を示すことができ,疾患の進行をモニターするのに役立つことが報告されている9).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では,初期の視神経病変(図3a)においては通常,視神経乳頭からの蛍光漏出や過蛍光がみられる(図*AtsunobuTakeda:大分大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕武田篤信:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(29)419図1ARNの超広角眼底撮影像図2超広角眼底撮影像を用いたARN患者の壊死性網膜炎の耳側周辺部網膜に黄白色の壊死性網膜炎,その内部に動静脈の範囲の測定方法火炎状の出血()がみられる.超広角眼底撮影像における壊死性網膜炎の円周方向の広がりを定量化するために,黄斑から壊死性病変の両端にC2本の経線()を引いた.その後,OCptosAdvanceソフトウェアを用いて壊死性網膜炎として子午線間の角度()を測定した.(文献C5より改変引用)図3ARNの眼底撮影像a:眼底写真.視神経乳頭の発赤,腫脹,耳側周辺部網膜に黄白色壊死性網膜炎がみられる.b:FA像.視神経乳頭からの蛍光漏出,耳側網膜血管の閉塞がみられる.図4ARNの眼底撮影像a:眼底写真.鼻側周辺部網膜に黄白色壊死性網膜炎がみられる.b:FA早期像.鼻側網膜血管の色素漏出および欠損がみられる.壊死性網膜炎に一致した脈絡膜低蛍光領域がみられる.Cc:FA後期像.網膜動脈の粒状または数珠状の色素漏出がみられる.Cd:FA後期像.壊死性網膜炎に一致した脈絡膜過蛍光領域(で囲った部分)がみられる(文献C13より改変引用).図5ARNのIA後期像脈絡膜血管の充満遅延網膜動脈炎部位の過蛍光()がみられる.図6ARNのOCT像a:発症早期.網膜内層の高反射と肥厚,漿液性網膜.離()がみられる.Cb:発症C2カ月後.網膜全層の破壊像()がみられる.図7CMV網膜炎後極部血管型の眼底写真図8CMV網膜炎周辺部顆粒型の眼底写真網膜動脈に沿った網膜出血と白色滲出斑の混在がみられる.網膜周辺部に白色顆粒状の滲出斑がみられる.図9CMV網膜炎a:超広角眼底撮影像.周辺部網膜に半月形の白色顆粒状病変,中央に網脈絡膜萎縮がみられる.Cb:FA像.白色顆粒状病変に一致した低蛍光,動脈閉塞所見がみられる.(文献C13より改変引用)図10CRNの動脈炎の進行眼底写真.が動脈炎.周辺部から後極に白鞘化が進行してくる.a:初診時.b:初診からC2週間後.Cc:初診からC1カ月後.図11CRNのFA像耳側周辺部に一致した低蛍光と全象限の中間周辺部から周辺部まで広範な無灌流領域がみられる.(文献C13より改変引用)図12CRNのOCTA像-耳側周辺部に無血管領域がみられる.(文献C13より改変引用)

サルコイドーシス

2025年4月30日 水曜日

サルコイドーシスSarcoidosis長谷川英一*はじめにサルコイドーシスは原因不明の肉芽腫性炎症性疾患であり,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とし,多彩な臨床症状を全身臓器に生じる.肺病変,皮膚病変,リンパ節病変とともに眼病変も頻度が高い1).サルコイドーシスの診断は全身の臨床症状,特徴的な検査所見(表1),臓器別特徴的臨床所見,他疾患の除外,組織所見の項目の組み合わせで行う2).眼サルコイドーシスはわが国ではぶどう膜炎の原因疾患の第1位であり3),両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を呈することが多い.診断基準には特徴的な眼所見6項目があげられており,2項目以上みられれば眼サルコイドーシスを疑う(表2).眼サルコイドーシスは細隙灯顕微鏡による観察のほか,眼底写真,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),蛍光造影検査などの各種眼科検査機器による画像所見を総合して診断する必要がある.以下,眼サルコイドーシスに特徴的な眼所見,画像検査所見についてまとめる.表1サルコイドーシスの特徴的検査所見1.両側肺門縦隔リンパ節腫脹2.血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値3.血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値4.GaシンチグラフィまたはF-FDG/PETにおける著明な集積所見5.気管支肺胞洗浄液のリンパ球比率上昇またはCD4/8比の上昇(文献2より改変引用)I前眼部・隅角所見前眼部は肉芽腫性の前部ぶどう膜炎を呈し,前房内炎症細胞とともに豚脂様角膜後面沈着物がみられる.また,灰白色の肉芽腫である虹彩結節が虹彩上(Busacca結節)や瞳孔縁(Koeppe結節)にみられることがある(図1).隅角にも同様に灰白色の結節(隅角結節)がみられるほか,テント状の周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を形成することがある(図2).強い炎症や繰り返す炎症では虹彩後癒着をきたすこともあり,瞳孔閉鎖に至れば膨隆虹彩(irisbombe)を起こす.II硝子体・網脈絡膜所見1.硝子体混濁硝子体中には雪玉状硝子体混濁(snowballopacity)またはそれらが数珠状につながった塊状の硝子体混濁表2眼病変を強く示唆する臨床所見眼所見にて下記6項目中2項目以上を満たす場合にサルコイドーシス眼病変を疑い,臨床症状,特徴的検査項目など診断基準に準じて診断する1.肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節)2.隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着3.塊状硝子体混濁(雪玉状,数珠状)4.網膜血管周囲炎(おもに静脈)および血管周囲結節5.多発するろう様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣6.視神経乳頭肉芽種または脈絡膜肉芽種(文献2より改変引用)*EiichiHasegawa:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕長谷川英一:〒810-8563福岡市中央区地行浜1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(23)413図1瞳孔縁のKoeppe結節図2隅角結節とテント状の周辺虹彩前癒着abc図3網膜血管周囲炎の広角眼底写真とフルオレセイン蛍光造影画像a:広角眼底写真.b:aの拡大画像.周辺部に分節状の網膜血管周囲炎を認める.Cc:フルオレセイン蛍光造影画像.網膜血管からの蛍光漏出と静脈血管壁の染色がみられる.図4網膜血管周囲炎の眼底写真と蛍光造影画像a:カラー眼底写真.b:フルオレセイン蛍光造影画像.網膜血管からの蛍光漏出を認める.c:インドシアニングリーン蛍光造影画像.後極に多数の低蛍光領域を認める.図5ろう様網脈絡膜滲出斑の広角眼底写真網膜下方周辺にろう様網脈絡膜滲出斑がみられる().b:aの部分の拡大.図6ろう様網脈絡膜滲出斑部の眼底写真と蛍光造影画像,OCT画像a:カラー眼底写真.ろう様網脈絡膜滲出斑を認める.b:フルオレセイン蛍光造影画像.多数の結節状の過蛍光斑を認める.c:インドシアニングリーン蛍光造影画像.同部位は低蛍光斑を示す.d,e:OCTにて網膜内に多数の塊状の高反射領域を認める.図7網膜周辺部の光凝固様萎縮瘢痕病巣図8視神経乳頭腫脹a:カラー眼底写真.視神経乳頭の腫脹がみられる.b:フルオレセイン蛍光造影画像.視神経乳頭の過蛍光を認める.図9.胞様黄斑浮腫a:カラー眼底写真.黄斑浮腫を認める.b:フルオレセイン蛍光造影画像.黄斑部に花弁状の過蛍光を認める.c:インドシアニングリーン蛍光造影画像.黄斑部は描出されていない.d,e:OCTでは網膜内に低反射領域を認める.ab図10黄斑上膜a:カラー眼底写真.黄斑上膜を認める.b:OCT画像:網膜面上に高輝度の線状膜様物を認める.C–

Behçet病によるぶどう膜炎の画像所見

2025年4月30日 水曜日

Behcet病によるぶどう膜炎の画像所見DiagnosticImagingofBehcet-DiseaseUveitis河越龍方*はじめにBehcet病は,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状,ぶどう膜炎,外陰部潰瘍を主症状とし,急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする1,2).ほかに副症状として,関節炎,消化器病変,血管病変,中枢神経病変,精巣上体炎がある.とくに腸管型,血管型,神経型Behcet病は生命予後にかかわるため注意すべきものであり,特殊病型に分類されている.本症は日本をはじめ,韓国,中国,中近東,地中海沿岸諸国によくみられる.わが国では1972年に厚生省が難病指定した8疾患の第一号である.同年にBehcet病調査研究班が組織され,現在まで継続して精力的に調査,研究が進められている.しかし,未だ発症に直接結びつく明らかな病因はわかっていない.Behcet病による眼病変は,かつては中途失明に至る疾患の一つであったが,2007年に抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体であるインフリキシマブがBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対して承認された.インフリキシマブ導入により,これまで抑えられなかった眼発作が抑えられるようになり,予後が大きく改善している3,4).それでも適切な治療をしなければ予後が悪い疾患であることに変わりはなく,早期に診断することが重要である.現在のところ,Behcet病に特異的なバイオマーカーとなるものは見出されていないが,炎症反応を反映して末梢白血球増多,CRP上昇,血沈亢進,補体価の上昇が認められうる.cグロブリンの著しい上昇や,自己抗体陽性は,むしろ膠原病などを疑う.HLA-B51はもっとも強い疾患関連因子であり,人種を越えてBehcet病の発症機序に深く関与している.日本人におけるHLA-B51保有頻度は対照群14%であるのに対し,患者群では59%であり,強い相関をもつことがわかっている5).HLA-B51が疾患に関与していることは統計上確実ではあるが,HLA-B51の日本人における保有率は決して低いわけではなく,保有していること自体で必ずしも発症するわけではない.Behcet病診断基準においても,HLA-B51はあくまでも参考所見という位置づけである.よって,診断は臨床的な特徴的所見を組み合わせ総合的に判断することになるため,的確に所見を得ることが非常に重要になってくる.本稿では,Behcet病の眼所見に関して画像を提示して解説する(画像は横浜市立大学眼科学水木信久教授のご厚意による).IBehcet病の診断基準と疫学1.診断基準Behcet病の症状はさまざまであり,症状の現れ方も個人間で異なる.そのため,Behcet病には診断に直接結びつくような検査所見はなく,症状の組み合わせから厚生労働省Behcet病研究班の診断基準に基づいて総合的に診断する.眼病変に関しては他病変と比べ特徴的で*TatsukataKawagoe:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕河越龍方:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(15)405表1厚生労働省Behcet病診断基準主症状C1.口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍C2.皮膚症状C3.眼症状C4.外陰部潰瘍副症状C1.変形や硬直を伴わない関節炎C2.精巣上体炎C3.回盲部潰瘍で代表される消化器病変C4.血管病変C5.中等度以上の中枢神経病変病型C1.完全型:経過中にC4主症状が出現したものC2.不全型:Ca.経過中にC3主症状,あるいはC2主症状とC2副症状が出現したものCb.経過中に定型的眼症状とその他のC1主症状,あるいはC2副症状が出現したものC3.疑い:主症状の一部が出現するが,不全型の条件を満たさないもの,及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するものC4.特殊病変:完全型または不全型の基準を満たし,下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し,以下のように分類する.a.腸管(型)CBehcet病-内視鏡で病変(部位を含む)を確認する.b.血管(型)CBehcet病C-動脈瘤,動脈閉塞,深部静脈血栓症,肺塞栓のいずれかを確認する.Cc.神経(型)CBehcet病C-髄膜炎,脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調,精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する.Behcet病による眼症状Ca.虹彩毛様体炎b.網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)Cc.以下の所見があればCa,bに準じるCa,bを経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆(文献C1より改変引用)図1Behcet病の前眼部所見a:結膜充血,境界明瞭なニボーを伴う前房蓄膿,虹彩後癒着を認める.b:隅角鏡を用いてわかる隅角蓄膿を認める.図2Behcet病の後眼部所見の経過a:硝子体混濁,硝子体出血.b:滲出斑,網膜出血.c:網膜血管白鞘化,網脈絡膜菲薄化.発作を起こすたびに所見は悪化していく.図3Behcet病で発作と寛解を繰り返したあとの後眼部所見a:網膜大血管の白鞘化と狭小化,網脈絡膜萎縮,視神経乳頭蒼白化を認める.b:視神経乳頭より上方に線維血管増殖膜を認める.e図4フルオレセイン蛍光造影a:赤道部.周辺部全象限においてシダ状蛍光漏出を認める.Cb:aの一部を拡大したもの.Cc:アーケード血管より周辺に,全象限においてシダ状蛍光漏出を認める.Cd:赤道部より周辺にシダ状蛍光漏出を認める.Ce:大きな血管周囲にも蛍光漏出を認める.図5.胞様黄斑部浮腫a:OCTで.胞様黄斑部浮腫を認める.Cb:フルオレセイン蛍光造影では中心窩近傍に蛍光漏出を認める.’–’C’C-’C’-’C

Vogt-小柳-原田病(再発・遷延型)

2025年4月30日 水曜日

Vogt-小柳-原田病(再発・遷延型)AProtractedCaseofVogt-Koyanagi-HaradaDisease長谷敬太郎*南場研一*はじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)によるぶどう膜炎は,ステロイドへの反応がよく,比較的視力予後のよい疾患といわれている.しかし,なかにはステロイドの減量中に炎症の再発を繰り返し,発症後6カ月を経過しても炎症が消退しない遷延型原田病に移行する患者が少なからず存在する.遷延型での治療目標は生涯の視機能維持である.そのためには再発を予防するとともに,再発時には炎症を最小限に抑え,脈絡膜萎縮の拡大を防ぐ必要がある.その際に大事なことは,複数の画像診断機器を用いて,再発を早期に正確に診断することである.今回は,マルチモーダルイメージングを用いた炎症の再発・遷延時の病状評価方法や治療方法について述べる.I原田病(再発・遷延型)の再発時の眼所見・画像所見原田病再発時の眼所見として,前眼部に虹彩毛様体炎(豚脂様角膜後面沈着物やKoeppe結節など)が生じる「前眼部再発のみ」タイプと,後眼部に脈絡膜炎(漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞など)を生じる「検眼鏡的後眼部再発のみ」のタイプ,その両者を生じる「前眼部再発+検眼鏡的後眼部再発」タイプがある.しかし,検眼鏡的に後眼部に炎症所見がみられず「前眼部再発のみ」と判断された患者にも,複数の画像検査を用いることで無症候性脈絡膜炎の存在を確認できる場合が多々あり,実は「前眼部再発+無症候性後眼部再発」であることが多い1).無症候性脈絡膜炎の検出には,深部強調光干渉断層計(enhanceddepthimaging-opticalcoherencetomog-raphy:EDI-OCT)やsweptsource(SS)-OCT,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiog-raphy:IA),フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA),レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)といった画像検査を組み合わせて行う,いわゆるマルチモーダルイメージングが有用である.「検眼鏡的後眼部再発」タイプでは,初発時と同様に漿液性網膜.離,視神経乳頭発赤・腫脹がみられ,OCTで著明な脈絡膜肥厚と脈絡膜皺襞を生じる.FAでは多発性点状蛍光漏出や蛍光貯留が検出され,IAでは低蛍光斑(hypo.uorescentdarkdots:HDDs)が多数検出される.つぎに,もっとも多いタイプである「前眼部再発+無症候性後眼部再発」では,検眼鏡的には眼底に異常は観察されないが,OCTで脈絡膜肥厚が検出される(図1).FAでは点状蛍光漏出や蛍光貯留は認められない.IAでHDDsが多発するが,初発の場合と違ってHDDsが眼底全体ではなく,ある区画に限られることが多い(図2).そのため,OCTでの脈絡膜肥厚やIAでのHDDsの所見が脈絡膜炎再発の有用な指標となる.筆者らの報告では,前眼部再発した原田病17眼のうち,IAで4眼(24%)はHDDs(-)であったが,13眼(76%)はHDDs(+)であった2).さらに,前眼部再発時とステロ*KeitaroHase&KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕長谷敬太郎:〒060-8638北海道札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(9)399b581μm図1OCTによる前眼部再発時の無症候性脈絡膜炎の検出a:前眼部再発前.脈絡膜厚()はC293Cμm.Cb:前眼部再発時.後眼部に検眼鏡的炎症所見はないが,脈絡膜厚()はC581Cμmと肥厚している.d図2IAによる前眼部再発時の無症候性脈絡膜炎の検出上段:前眼部再発前の眼底写真(Ca)とCIA(Cb)とCOCT(Cc).IAでは炎症を示唆する淡い低蛍光斑(HDDs)は目立たない.下段:前眼部再発時のCIA(Cd)とCOCT(Ce).再発前(上段)と比べてCIAで炎症を示唆する淡いCHDDsが多発しており,OCTでも脈絡膜厚()が厚くなっている.a図3マルチモーダルイメージングによる前眼部再発時の脈絡膜炎(脈絡膜腫瘤型)a:視神経周囲に脈絡膜萎縮がみられる.脈絡膜色素の脱失により夕焼け状の眼底となっており,色素の集簇もみられる.b:OCTでは,黄斑部の脈絡膜が隆起しており(脈絡膜腫瘤型),肉芽腫の存在を疑わせる.Cc,d:FA(Cc)では,黄斑周囲に点状の蛍光漏出を認め,その周囲に蛍光貯留を認める.IA(Cd)では,その部位は低蛍光となっている.Ce,f:LSFGでは,再発前(Ce)と比べて再発後(Cf)の血流速度が低下し,寒色系になっている.図4無症候性脈絡膜炎による遷延型脈絡膜萎縮の進行a:原田病発症からC7年.視神経乳頭周囲や黄斑部に脈絡膜萎縮があり,矯正視力はC0.7であった.Cb:原田病発症からC16年.視神経乳頭周囲や黄斑部含む後極の広範囲に脈絡膜萎縮が進行し,矯正視力はC0.2まで低下した.Cc,d:bの前眼部再発前.OCT(Cc)では黄斑部の脈絡膜萎縮があり,脈絡膜厚()は菲薄化している.IA(Cd)で脈絡膜の炎症を示唆する淡いCHDDsはあまりめだたない.濃いCHDDsは脈絡膜が萎縮し,完全に脈絡膜血流が途絶えてしまっている部位である.Ce,f:bの前眼部再発時.OCT(Ce)での脈絡膜厚()は再発前(Cc)と変化ないが,IA(Cf)で淡いCHDDsが多発しており,無症候性脈絡膜炎を示唆している.脈絡膜の完全な萎縮を示唆する濃いCHDDsの個数や大きさに変化はない.TenonCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:STTA)で対応することがある.CIII治療強化の方法1.ステロイドの再開または増量いったんステロイドを休薬している患者での再発であればステロイドの再導入を行うが,すでに遷延型となっている場合にはCPSL0.3Cmg/kg/日(15.25Cmg/日)内服から開始し漸減する.ステロイド内服中の再発であれば,PSL内服量の増量である.よく用いられている方法としてC2ステップアップがある1).たとえば,PSL10Cmg/日を内服していたのであれば,PSLの量をC2段階増量(12.5Cmg/日→C15Cmg/日)し,再度漸減する.ステロイドの副作用として,免疫抑制によるニューモシスチス肺炎,消化性潰瘍,骨粗鬆症があり,それぞれの疾患予防のため,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤,ヒスタミンCHC2受容体拮抗薬,ビスホスホネート製剤の内服を併用する.そのほかにも,血糖値の上昇,高血圧,高脂血症,不眠や精神症状などの副作用を生じることがあり,定期的な血液・尿検査や,他科との連携が必要である.C2.シクロスポリンもしくは腫瘍壊死因子阻害薬の併用原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用として用いることができる薬剤には,免疫抑制薬のシクロスポリン(CyA)と腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfac-tor:TNF)阻害薬のCADAがあるが,ADAが保険適用となったC2016年以降はCADAを用いることが多くなってきたと思われる.CyAも原田病に対して有効な薬剤であり,ステロイドとの併用により夕焼け状眼底を抑制できるとの報告がある5).しかし,CyAは食事などの影響により吸収が変化しやすいこと,また,至適血中濃度の幅が狭いため治療薬物血中濃度のモニタリングを行う必要があり,定期的にトラフ値(内服直前の血中濃度)を測定し,その投与量を調節する必要があること,さらには副作用(腎機能障害,脂質異常症,高血圧など)が高頻度にみられることから,その使用はCADAにシフトしてきていると考えられる.ADAは完全ヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体で,投与方法は皮下注射となっている.原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対しては,初回C80Cmgを投与し,1週間後からC40CmgをC2週ごとに投与する.ADAは原田病に対して有効であり,ステロイド減量効果を有する.筆者らの検討では,PSL内服に加えてCADAを導入し,導入後C12カ月以上経過観察を行った遷延型原田病のC18例(うちC14例はCCyAからの切り替え)におけるCADAのステロイド減量効果を調べたところ,全例で減量可能で,平均C16.9CmgからC6.3Cmgへの減量(約C60%の減量)が可能であった6).ADAの使用における注意点は,感染防御反応に重要な因子であるCTNFCaを抑えるため,感染症に十分に気をつけることである.とくに,導入前には結核やCB型肝炎ウイルスに関するスクリーニング検査は必須であり,投与後も定期的なモニタリングが必要である.日本眼炎症学会から提示されている「非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針及び安全対策マニュアル(改訂第C2版,2019年版)」をぜひ参照していただきたい.C3.メトトレキサート内服治療メトトレキサート(MTX)内服治療は保険適用外の治療となるが,原田病を含む非感染性ぶどう膜炎に対してステロイドやCTNF阻害薬との併用薬として以前から用いられており,一定の効果が認められる7).1週間にC1度の内服(2またはC3分服)をC8Cmg/週から開始し,効果がみられ副作用がみられない場合は,徐々に増量する.最大C16Cmg/週まで増量可能であるが,腹部症状,倦怠感などがみられることが多く,その場合は減量またはC2日後に葉酸製剤で中和する.そのほか,汎血球減少,易感染性,肝機能障害,腎機能障害,間質性肺炎などの副作用に注意する必要がある.C4.後部トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射原田病は全身疾患であるため,初発時に後部CSTTAのみで完治をめざすことは期待できない.しかし,遷延型に移行した患者は,もはや完治が望めない状態と考えられる.そのため,ステロイドの内服量を減量する目的(13)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C403-

Vogt-小柳-原田病(発症早期)

2025年4月30日 水曜日

Vogt-小柳-原田病(発症早期)MultimodalImaginginEarlyOnsetAcuteVogt-Koyanagi-HaradaDisease慶野博*はじめにこれまでのぶどう膜炎診療では,細隙灯顕微鏡検査や眼底検査,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangi-ography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などの画像検査が中心となっていたが,最近では眼底自発蛍光(fun-dusauto.uorescence:FAF),光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA),超広角眼底撮影画像の情報を組み合わせるマルチモーダルイメージングにより,眼所見の病態を多層的,多面的,かつ広角的に理解することが可能となってきた1).本稿では,日本を含むアジア地域に多いぶどう膜炎であるVogt-小柳-原田病(以下,原田病)の発症早期例について自験例を示しながらマルチモーダルイメージングを活用した原田病の診療の実際について紹介する.I疾患の概念原田病はメラニン色素を含んだ組織,すなわち脈絡膜,髄膜,毛包,内耳,皮膚などが障害される全身疾患であり,わが国での全国疫学調査ではサルコイドーシスについで多いぶどう膜炎である2).発症機序としてメラニン色素細胞を標的としたT細胞による自己免疫学的機序が関与していると考えられている3).遺伝的要因としてヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)-DR4,とくにDRB1*0405と強い相関があることが報告されている4).原田病では眼症状に先行して感冒様症状がみられることが多く,メラニン色素細胞を含む臓器がターゲットとなり,汎ぶどう膜炎に伴う眼症状,内耳障害による難聴,耳鳴り,めまい,髄膜炎による頭痛,項部痛,皮膚では頭髪の違和感,晩期になると白斑,白髪,脱毛を呈してくる5).II前眼部所見原田病は両眼性の汎ぶどう膜炎であり,初発時所見として前房中の炎症細胞,角膜後面沈着物,虹彩結節の有無を注意深く診察することが重要である.受診が発症早期の場合は,前房細胞や角膜後面沈着物を認めないケースもみられる.筆者の施設を受診した急性期原田病患者111例222眼の検討では,初診の時点で前房細胞は87眼(39%),角膜後面沈着物は32眼(14%)で観察された6).虹彩結節や豚脂様の角膜後面沈着物,周辺虹彩前癒着は慢性型に移行した患者で観察されることが多い.また,毛様体の炎症が強い場合に,水晶体が前方偏位を生じることで両眼性に浅前房が観察されることもある.筆者の施設での調査では,急性期原田病患者111例222眼中16眼(7%)で浅前房を認めた6).近年は前眼部OCTを活用することで,狭隅角の状態を客観的かつ定量的に評価することが可能であり,原田病診療における治療反応性の指標として有用と思われる(図1).*HiroshiKeino:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕慶野博:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(3)393図1治療開始前後の急性期原田病の前眼部OCTa:治療前.両眼ともに狭隅角を認める.b:治療開始C3カ月後.治療前と比較して隅角は広がっており,前房も深くなっている.図2治療開始前後の急性期原田病の眼底所見とOCT所見上段:初診時.視神経乳頭の発赤,腫脹と後極部を中心に漿液性網膜.離がみられ(Ca),OCTにて網膜下に水分が貯留しており,脈絡膜の肥厚が観察される(Cb).下段:ステロイドパルス療法C1クール後.視神経乳頭周囲の漿液性網膜.離は減少している(Cc).OCTにて網膜下液,および脈絡膜厚の減少を認める(Cdのは脈絡膜と強膜との境界部を提示).図3フルオレセイン蛍光造影所見a:初期像.脈絡膜レベルの低蛍光斑が散在している().b:初期から中期像:視神経乳頭の過蛍光()と点状の漏出点を認める().Cc:後期像.漿液性網膜.離の部位に一致して色素貯留がみられる.図4超広角フルオレセイン蛍光造影所見(図2の症例)a:初診時.視神経乳頭の過蛍光と視神経乳頭周囲に色素貯留がみられる.耳側周辺部網膜血管からの漏出がみられる.b:ステロイドパルス療法C1クール後.視神経乳頭周囲の色素貯留は減少し,周辺血管からの漏出も軽快している.図5超広角インドシアニングリーン蛍光造影(図2の症例)a:初診時.造影後期で下方の脈絡膜血管の透過性亢進による血管の不鮮明化(fuzzyvessel)と脈絡膜肉芽腫形成部分に一致して低蛍光斑(hypo.uorescentdarkdots:HDDs)が散在している.Cb:ステロイドパルス療法C1クール後.下方のCfuzzyvesselは残存しているが,HDDsは減少している.図6超広角擬似カラー眼底画像と眼底自発蛍光画像a:擬似カラー画像:視神経乳頭鼻側に漿液性網膜.離を認める().b:眼底自発蛍光画像:漿液性網膜.離の部位に一致して過蛍光像を認める().図7治療前後のレーザースペックルフローグラフィ画像(図2の症例)a:治療前.アーケード血管内の領域が青色であり,脈絡膜の血流速度の低下がみられる.b:治療開始C2週間後.アーケード血管内の領域に緑色のエリアが拡大しており,脈絡膜の血流速度の上昇を認める.-’C’C-

序説:マルチモーダルイメージングとぶどう膜炎

2025年4月30日 水曜日

マルチモーダルイメージングとぶどう膜炎MultimodalImaginginUveitis園田康平*南場研一**ぶどう膜炎には多数の原因疾患が混在しているため,正確な診断が治療の成否を左右する.また,治療経過においても,正確な状態評価の指標が必要である.近年は眼科専用画像機器や解析機器が進歩し,さまざまな眼疾患に応用されている.単一画像機器に頼るのではなく,さまざまなイメージングを組み合わせるマルチモーダルイメージングは,ぶどう膜炎診療に欠くことのできない手法となっている.本特集では,代表的なぶどう膜炎について,いかにイメージング機器を組み合わせて使いこなすかをエキスパートの先生方にまとめていただいた.Vogt-小柳-原田病はメラノサイトに対する自己免疫疾患で,初期に他疾患と素早く鑑別し,適切な治療を開始する必要がある.とくに初期病変はいくつかの類似疾患との鑑別を要するが,脈絡膜まで含めた最近のイメージング技術は診断の助けになる.また,遷延型に移行すると多くの合併症を起こすが,遷延型のマネージメントにおいてもイメージング機器の果たす役割は大きい.初期病変については慶野博先生に,遷延型病変については長谷敬太郎先生に勘どころをご執筆いただいた.Behcet病は最近減少傾向であるものの,未だ失明につながりうる重要な疾患である.他疾患との鑑別や治療方針の決定において重要な各モダリティーの画像所見について,河越龍方先生にご執筆いただいた.サルコイドーシスは網膜・脈絡膜のさまざまなレベルで肉芽腫病変が出現するが,イメージング機器によって好発部位や進展様式が追跡できるようになった.また,急性網膜壊死・サイトメガロウイルス網膜炎などの網膜壊死を伴うウイルス疾患は,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や造影検査で特異的なパターンを呈する.それぞれについて長谷川英一先生,武田篤信先生にまとめていただいた.色素上皮や脈絡膜を主座とする「白点症候群」はこれまで分類が不正確であったが,マルチモーダルイメージングによって概念が整理されつつある(表1).急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteri-ormultifocalplacoidpigmentepitheliopathy:APMPPE)について鈴木佳代先生に,多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyn-drome:MEWDS)および点状脈絡膜内層症(punc-tateinnerchoroidopathy:PIC)について柳井亮二先生に,経時変化も含めてまとめていただいた.仮面症候群の代表である眼内リンパ腫についても,マルチモーダルイメージングが診断と経過観察に威力を発揮する.勘どころを蕪城俊克先生にご執*Koh-heiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野**KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)391表1白点症候群における病変部位のマルチモーダルイメージング所見の違いOCTFAIAFAFAPMPPE網膜外層に高反射領域蛍光の逆転現象(低蛍光→過蛍光)低蛍光活動期:過自発蛍光のなかに低自発蛍光非活動期:低自発蛍光MEWDSEZの不整や消失過蛍光低蛍光過自発蛍光PICRPE下結節性病変過蛍光低蛍光低自発蛍光(まれに過自発蛍光が混在)OCT:光干渉断層計,FA:フルオレセイン蛍光造影検査,IA:インドシアニングリーン蛍光造影検査,FAF:眼底自発蛍,APMPPE:急性後部多発性斑状色素上皮症,MEWDS:多発消失性白点症候群,EZ:ellipsoidzone,PIC:点状脈絡膜内層症,RPE:網膜色素上皮.

リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液の使用経験

2025年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(3):378.382,2025cリパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液の使用経験吉見翔太*1,2齋藤雄太*1,3三浦瑛子*1恩田秀寿*1*1昭和大学医学部眼科学講座*2野近眼科医院*3さいとう眼科医院CTheOutcomesofUsingRipasudil-BrimonidineFixed-CombinationEyeDropsfortheReductionofIntraocularPressureShotaYoshimi1,2),YutaSaito1,3),EikoMiura1)andHidetoshiOnda1)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,2)NojikaEyeClinic,3)SaitoEyeClinicC目的:リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液(RBFC)の眼圧下降効果に関して後ろ向きに検討した.対象と方法:2022年C12月.2023年C6月にC3施設においてCRBFCを処方されたC71例の患者のうち,白内障以外の眼科手術歴あり,眼術直後の高眼圧あり,RBFC処方後C3カ月以内の再診歴がない患者を除外し,両眼症例は右眼の眼圧値を採用した.処方前後の点眼スコア増減数を.1.+2成分とパターン化し,各パターンにおける点眼処方前と処方後C3カ月の眼圧下降効果を検討した.結果:対象はC33眼で,7眼で+2成分,14眼で+1成分,9眼で±0成分,3眼で.1成分であった.点眼スコア増減数の処方前後眼圧は+2成分でC18.4±4.4CmmHgC→C14.7±1.8CmmHg(p=0.022),+1成分でC17.9±6.6CmmHgC→C14.6±2.5CmmHg(p=0.042)と点眼スコア増加で有意に眼圧下降を認めた.結論:RBFCへの変更によって点眼スコアが増加した症例では有意な眼圧下降を認めた.CPurpose:Toretrospectivelyexaminetheintraocularpressure(IOP)-loweringe.ectsofripasudil-brimonidine.xed-combination(RBFC)eyeCdrops.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC71CpatientsCprescribedCRBFCCeyeCdropsCatConeChospitalCandCtwoCeyeCclinicsCfromCDecemberC2022CtoCJuneC2023.CPatientsCwithCaChistoryCofCeyeCsurgeryotherthancataractsurgery,highIOPimmediatelyaftersurgery,andnohistoryofre-examinationwithin3monthsafterprescriptionwereexcluded.Inbilateralcases,theright-eyedatawasused.Wepatternedthenum-berCofCincreasesCandCdecreasesCinCmedicationCscoresCbeforeCandCafterCprescriptionCintoCcomponentsCrangingCfromC.1to+2,CandCcomparedCIOPCatCpre-instillationCofCRBFCCeyeCdropsCwithCIOPCatCpost-instillationCofCRBFCCeyeCdrops.Results:Thisstudyincluded33eyes.Thechangesinmedicationscorewasasfollows:+2componentsin7eyes,+1componentin14eyes,±0componentsin9eyes,and.1componentin3eyes.ComparisonofthemeanIOPofpre-andpost-instillationofRBFCeyedropsforeachchangeinmedicationscore,signi.cantIOPreductionwasCobservedCwithCanCincreasedCmedicationCscoreCasfollows:18.4±4.4CmmHgCtoC14.7±1.8CmmHg(p=0.022)for+2Ccomponents,C17.9±6.6CmmHgCtoC14.6±2.5CmmHg(p=0.042)for+1Ccomponent,C16.2±4.3CmmHgCtoC15.0±3.2CmmHg(p=0.230)forC±0Ccomponents,CandC15.0±5.2CmmHgCtoC15.0±4.6CmmHg(p=1.000)forC.1Ccomponent.CConclusion:ThisCstudyCsuggestedCthatCRBFCCeyeCdropsCsigni.cantlyCdecreasedCIOPCatCincreasedCmedicationCscores.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(3):378.382,C2025〕Keywords:緑内障,高眼圧症,眼圧,点眼スコア,リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液.Cglaucoma,ocularhypertension,intraocularpressure,medicationscore,ripasudil-brimonidine.xedcombinationCはじめに圧を下降させることが,現在唯一のエビデンスの高い治療法緑内障は世界中で失明のおもな原因の一つとなっている.となっている.眼圧を下降させるためのおもな治療法としてそして緑内障による視野障害の進行を抑制するためには,眼点眼薬の使用が行われているが,目標眼圧に到達するために〔別刷請求先〕吉見翔太:〒142-8666東京都品川区旗の台C1-5-8昭和大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShotaYoshimi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-8666,JAPANC378(114)表1点眼スコアのパターンパターン変更前変更後成分増減意義C①現状点眼なし1眼EP21眼FP1眼FP/b4眼RBFC追加+2強力に治療強化目的C②リパスジルFP+リパスジル1眼FP/b+リパスジル2眼b/CAI+リパスジル1眼FP+CAI+リパスジル1眼CRBFC+1治療強化目的C③ブリモニジンEPC2+ブリモニジン1眼FP+ブリモニジン1眼FP/b+ブリモニジン3眼FP+b/CAI+ブリモニジン1眼CRBFC+1治療強化目的C④CCAIFP/b+CAI2眼*CAI+b/CAI1眼CRBFC+1治療強化目的C⑤CBBFCFP/b+BBFC6眼CRBFCC±0薬理作用の異なる成分へ変更し,さらなる眼圧下降に期待C⑥ブリモニジン+リパスジルFP/b+BBFC+リパスジル2眼EPC2+CAI+ブリモニジン+リパスジル1眼CRBFCC±0点眼をまとめてアドヒアランス向上を目的C⑦CBBFC+リパスジルFP/b+BBFC+リパスジル2眼FP/b+BBFC+リパスジル+a1遮断薬1眼CRBFCC.1点眼本数を減らしてでもアドヒアランス向上を目的FP:プロスタノイドCFP受容体作動薬,EP2:プロスタノイドCEP2受容体選択性作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca1:Ca1受容体遮断薬,BBFC:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液*CAIが重複していたため,1つのCCAIを変更複数の眼圧下降薬を必要とする患者も多い.しかし,点眼薬の本数が増えると患者の点眼アドヒアランスが低下することが報告されている1).そこで近年では緑内障配合点眼薬が続々と登場してきた.配合点眼薬を使用することで,より少ない点眼本数で眼圧を下降させるとともに,点眼アドヒアランスの向上も期待できる2).その中で,リパスジル塩酸塩水和物(以下,リパスジル)とブリモニジン酒石酸塩(以下,ブリモニジン)の配合点眼液であるリパスジル・ブリモニジン配合点眼液(グラアルファ,以下,RBFC)がC2022年C9月に国内承認となった.リパスジルはCROCK阻害薬であり,房水流出抵抗の主座である主流出路の線維柱帯.Schlemm管からの房水流出を促進することにより眼圧を下降させる3).一方,ブリモニジンはアドレナリンCa2受容体作動薬であり,房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進により眼圧を下降させる4).RBFCはC1剤で主流出路からの房水流出促進,副流出路からの房水流出促進および房水産生抑制のC3種の眼圧下降機序を有する世界初の新規配合点眼液である.今回筆者らは,RBFCの眼圧下降効果に関して診療録をもとに後ろ向きに検討したので報告する.CI対象と方法2022年C12月.2023年C6月に昭和大学病院附属東病院,野近眼科医院,さいとう眼科医院のC3施設においてCRBFCを処方されたC71人の患者のうち,白内障手術以外の眼手術歴,直後の高眼圧,処方後C3カ月以内の再診歴がない患者を除外し,両眼へCRBFCを使用している患者では右眼の眼圧値を採用した.また,RBFCの処方時に,他の緑内障点眼薬も追加または点眼薬の組み合わせを変更している症例があり,これらの患者はCRBFC以外の点眼成分も眼圧へ影響している可能性があるため除外した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計または非接触型圧平眼圧計で測定した.処方前後の点眼スコア増減数を.1.+2成分と以下および表1に示すようにパターン化した.表2患者背景(N=33)年齢C66.8±10.5(42.92)歳男/女13/20人病型POAG26眼CPE4眼COH2眼Csteroid1眼有水晶体眼/眼内レンズ挿入眼21眼/12眼眼圧C17.3±5.4(10.37)mmHg点眼スコア(成分)C3.2±1.2(0.6)POAG:原発開放隅角緑内障,PE:落屑緑内障,OH:高眼圧症,steroid:ステロイド緑内障平均±標準偏差(範囲)表3点眼スコア増減数および副作用点眼スコア増減処方前眼圧処方後最終眼圧副作用(パターン)症例数(眼)(mmHg)(mmHg)p値〔眼(パターン)〕+2(①)C7C18.4±4.4(14.26)C14.7±1.8(12.17)C*0.0219結膜充血1眼結膜充血1眼(④)+1(②③④)C14C17.9±6.6(11.37)C14.6±2.5(11.19)C0.0422*結膜炎1眼(④)眼刺激1眼(④)口渇1眼(②)C±0(⑤⑥)C9C16.2±4.3(10.25)C15.0±3.2(11.21)C0.2295なしC.1(⑦)C3C15.0±5.2(12.21)C15.0±4.6(10.19)C1.0000結膜充血1眼・パターン①(2成分増):現状よりさらに強力に眼圧を下降させる目的でリパスジルとブリモニジンのC2成分を同時に追加した症例.・パターン②③④(1成分増):さらなる眼圧下降を目的として,すでにリパスジルまたはブリモニジンを単剤で使用している症例をCRBFCへ変更,もしくは炭酸脱水酵素阻害薬の単剤使用をCRBFCへ変更した症例.・パターン⑤(成分の増減なし):ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液(以下,BBFC)の使用症例で点眼本数は増やさずに,薬理作用の異なる成分へ変更(炭酸脱水酵素阻害薬→リパスジル)することで,さらなる眼圧下降に期待した症例.・パターン⑥(成分の増減なし):ブリモニジンとリパスジルのC2成分を使用している症例に対して,点眼本数を減らしてアドヒアランスを向上させることを目的とした症例.・パターン⑦(1成分減):あえてC1成分(炭酸脱水酵素阻害薬)を減らしてでも点眼本数を減らすことで,点眼回数の負担を減らしてアドヒアランスの向上を期待した症例.各パターンにおける処方前と処方後最終診察時の眼圧を統計解析ソフトCJMPCProCver.17.0.0を使用して対応のあるCt平均±標準偏差(範囲)*:p<0.05検定を行い,p<0.05を有意とした.本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,昭和大学における人を対象とする研究等に関する倫理委員会の承認を得て,診療録をもとに後ろ向きに調査を行った.CII結果患者背景を表2に示す.対象となったC33眼は平均年齢C66.8±10.5歳(平均C±標準偏差,以下同様).病型は原発開放隅角緑内障C26眼,落屑緑内障C4眼,高眼圧症C2眼,ステロイド緑内障C1眼であり,有水晶体眼C21眼,眼内レンズ挿入眼C12眼であった.処方前眼圧はC17.3C±5.4CmmHg.処方前点眼スコアはC3.2C±1.2成分であり,点眼スコア数増減数は表3に示すように,+2成分はC7眼,+1成分はC14眼,C±0成分はC9眼,C.1成分はC3眼であった.点眼スコア増減数の処方前後眼圧を図1に示す.+2成分はC18.4C±4.4CmmHgC→C14.7C±1.8CmmHg(p=0.022),+1成分はC17.9C±6.6CmmHgC→C14.6C±2.5CmmHg(p=0.042),±0成分はC16.2C±4.3CmmHgC→C15.0C±3.2CmmHg(p=0.230),.1成分はC15.0C±5.2CmmHgC→C15.0C±4.6CmmHg(p=1.000)であった.点眼スコア増加で有意に眼圧(mmHg)3020100点眼スコア増減図1処方前後の眼圧点眼スコアの増加で有意に眼圧下降を認めた.眼圧下降を認めた.また,副作用はC6眼(18.2%)に認められ(重複なし),結膜充血C3眼(9.1%),結膜炎C1眼(3.0%),眼刺激C1眼(3.0%),口渇C1眼(3.0%)であった(表3).CIII考按現在,国内には作用機序の異なる多くの緑内障点眼薬が存在する.緑内障診療ガイドライン第C5版5)ではまず単剤から点眼を開始し,効果不十分であるときには多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行うとされている.本研究では目標眼圧に達していない症例や視野障害の進行速度が早い症例,点眼アドヒアランスが良好でない症例などを対象にCRBFCへの切り替え,または追加を行った.その結果,表1に示すような点眼成分の増減のパターンがみられた.緑内障診療ガイドラインのフューチャーリサーチクエスチョン(FQ)1には,FP受容体作動薬以外の眼圧下降薬の追加薬としての眼圧下降幅はC1.2CmmHgと少量であるとの記載がある5).ただし当時,上市直後で文献の少ないCROCK阻害薬は,このCFQ1でのシステマティックレビューは行えていなかった.リパスジルは線維柱帯に作用することで主流出路からの房水流出促進をするといった他の眼圧下降薬とは異なるユニークな眼圧下降機序があり,すでにC3.0C±0.9成分使用している症例に対して,リパスジル点眼の追加でC2.8C±3.3CmmHgの眼圧下降幅を認めたとの報告もある6).本研究において,点眼スコアの増えた症例(パターン①.④)では眼圧が有意に低下したことは,臨床的に妥当な結果であったといえる.一方,点眼スコアが不変(パターン⑤⑥)でも変更前に比べて非劣性であった.また,症例数は少ないが,1成分減ったパターン⑦でも眼圧の変化はみられず,多剤併用症例ではC1成分の眼圧下降効果が少ないことを表しているのかもしれない.点眼のアドヒアランスが悪いことが緑内障の進行に関与することが報告7)されている.現在,プロスタノイド受容体関連薬・Cb遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・Ca2作動薬・ROCK阻害薬のC5成分を組み合わせて眼圧下降させることが多く,配合点眼薬を使用することで,点眼薬C3本でC5成分を使用することができる.配合点眼薬であるCRBFCは,点眼本数を減らすことでアドヒアランスを改善させる可能性があり,また多剤連続点眼による薬剤のウォッシュアウトの可能性が低減するため,眼圧下降効果が強化される可能性も考えられ,RBFCは緑内障および高眼圧症治療の新しい選択肢となる可能性がある.また,本研究では副作用はC18.2%と既報8,9)より少なかった.既報9)の代表的副作用は,結膜充血C58.1%,眼瞼炎C25.7%,アレルギー性結膜炎C21.2%,眼刺激C7.3%であった.また,結膜充血と眼刺激はCRBFC開始後C12週以内に,アレルギー性結膜炎はC12.24週に,眼瞼炎はC24.36週にもっとも発生した.本研究でCRBFC使用に伴う副作用が少なかった原因は,観察期間が処方後C3カ月以内と短かったことや,外来診療においてCRBFC処方前に副作用の出現の可能性を十分説明しており,副作用の自己申告が少なくなった可能性も考えられる.また,李ら10)はリパスジル単剤使用に比べ,リパスジルとブリモニジンの併用により結膜充血が有意に軽減したと報告しており,リパスジルの平滑筋弛緩作用による血管拡張作用とブリモニジンのアドレナリンCa2受容体刺激による血管収縮作用の両者11,12)の拮抗に伴い,RBFCの副作用で最多とされる結膜充血が出現しにくかったと考えられる.近年,ブリモニジンによる角膜混濁の報告13,14)があり,わが国でも注意喚起されている.配合点眼薬であっても成分それぞれの副作用発現には十分注意する必要がある.本研究の限界として対象症例がC33眼と少なく,処方後C3カ月以内と観察期間が短いことがあげられる.また,今回はRBFCへの変更・追加症例のみを対象にしており,今後はRBFCから他剤への変更・追加症例も検討されるべきであろう.今後は症例数を増やし,観察期間を伸ばして検討する必要がある.本研究の結果,RBFCへの変更によって点眼スコアが増加した症例では有意な眼圧下降を認め,緑内障および高眼圧症治療の新しい選択肢となる可能性が示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:DetermiC-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20092)ShiraiCC,CMatsuokaCN,CNakazawaT:ComparisonCofCadherencebetween.xedandun.xedtopicalcombinationglaucomaCtherapiesCusingCJapaneseChealthcare/pharmacyCclaimsdatabase:aCretrospectiveCnon-interventionalCcohortstudy.BMCOphthalmolC21:52,C20213)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:E.ectsofbrimo-nidineConCaqueousChumorCdynamicsCinChumanCeyes.CArchCOphthalmolC113:1514-1517,C19955)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改定委員会:緑内障:85-177,2022C126版).日眼会誌C5診療ガイドライン(第6)當重明子,齋藤雄太,高橋春男:開放隅角緑内障に対するリパスジル点眼薬の短期的な眼圧下降効果.臨眼C71:1105-1109,C20177)TsaiJC:ACcomprehensiveCperspectiveConCpatientCadher-enceCtoCtopicalCglaucomaCtherapy.COphthalmologyC116:C30-36,C20098)TaniharaH,YamamotoT,AiharaMetal:Ripasudil-bri-monidineC.xed-doseCcombinationCvsCripasudilCorCbrimoni-dine:twoCphaseC3CrandomizedCclinicalCtrials.CAmCJCOph-thalmolC248:35-44,C20239)TaniharaCH,CYamamotoCT,CAiharaCMCetal:Long-termCintraocularCpressure-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCripa-sudil-brimonidineC.xed-doseCcombinationCforCglaucomaCandocularhypertension:amulticenter,open-label,phase3Cstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC262:2579-2591,C202410)李真煕,小溝崇史,小野喬ほか:健常者におけるブリモニジンとリパスジルの単回併用点眼による眼圧下降効果,瞳孔径,結膜充血の検討.日眼会誌C122:453-459,C201811)TaniharaCH,CInataniCM,CHonjoCMCetal:IntraocularCpres-sure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCtopicalCadministrationCofaselectiveROCKinhibitor,SNJ-1656,inhealthyvolun-teers.ArchOphthalmolC126:309-315,C200812)Dahlmann-NoorAH,CosgraveE,LoweSetal:Brimoni-dineCandCapraclonidineCasCvasoconstrictorsCinCadjustableCstrabismussurgery.JAAPOSC13:123-126,C200913)ManabeCY,CSawadaCA,CMochizukiK:CornealCsterileCin.ltrationCinducedCbyCtopicalCuseCofCocularChypotensiveCagent.EurJOphthalmolC30:NP23-NP25,C202014)篠崎友治,溝上志朗,細川寛子ほか:ブリモニジン関連角膜実質混濁の臨床経過自験C3症例からの考察.あたらしい眼科C41:82-88,C2024***