角膜ジストロフィの遺伝子検査GeneticTestsforCornealDystrophies辻川元一*はじめに角膜は外界に接する組織で,ヒトが採光する際に光が最初に通る組織であるのと同時に,レンズ機能の多くを占めることからその透明性と形状の維持がきわめて重要である.したがって,透明度を損ねる混濁や,形状を変化させる脱落などはその機能を大きく阻害する.角膜は大きく上皮,実質,内皮からなり,それぞれの座において発現する遺伝子の異常により,実質を中心とした混濁や形状異常が引き起こされ失明に至る.たとえば,内皮ジストロフィによって角膜実質の浮腫と混濁が起こるといったように,ある部分の異常がほかの部分の異常も引き起こすことがあり,その維持機構は複雑であり解明されていない部分も多い.いずれにしても,この維持機構が阻害されると視機能は著しく低下する.本稿では,それが遺伝的素因で起こる角膜ジストロフィとその遺伝子解析について述べる.I角膜ジストロフィ角膜ジストロフィは「遺伝性に発症し,両眼性,進行性に角膜の混濁をきたす非炎症性の疾患」として定義される.これをもう少し詳しく検討する.①「遺伝性に発症」の意味は遺伝的素因が存在するという意味ではなく,はっきりと定義されていないが,少なくともメンデル遺伝発生形式を含むものと考えられる.たとえば,Fuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchsendothelialcornealdystrophy:FECD)は遺伝形式がはっきりしないものもあるが,常染色体優性遺伝の家系が存在するので該当する.つまり,遺伝的素因(この場合は病因遺伝子にある病因変異の支配の法則に従う存在)が発症の少なくとも必要条件であり,ほぼ十分条件であるものを含むことを示す.②「両眼性」という条件は①の遺伝性によってもその多くが規定されるが,角膜疾患に於いてはジストロフィでなくとも片眼性に角膜ジストロフィと酷似する病態を示すことがままあり,これを明確に除外するためでもあると考えられる.③「進行性に角膜の混濁をきたす」という点は角膜ジストロフィの特徴を示したものであるが,本来,さらに重要なのは「遅発性」進行性であるということである.つまり,多くの角膜ジストロフィはメンデル遺伝病であるものの,出生時にはその表現型が確定していない(症状や所見が出ていない)という点が重要である.今後増加すると思われる遺伝カウンセリングにおいて家系内再発や発症前診断を対象とする場合は,遺伝検査が必須の検査項目となる.また,多くの神経疾患における変性症・ジストロフィとは異なり,角膜においてはある特定の細胞群の障害や脱落を必ずしも意味しない.たとえば,沈着病である神経疾患においては沈着物によって神経細胞の脱落が起きて発症するが,角膜ジストロフィにおいては沈着物が細胞死を引き起こさなくとも沈着物自身が角膜の透明性を阻害した時点で発症する.上皮下・実質の角膜ジストロ*MotokazuTsujikawa:大阪大学大学院医学系研究科病態生体情報科学講座〔別刷請求先〕辻川元一:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科病態生体情報科学講座(1)(11)7950910-1810/25/\100/頁/JCOPYフィの多くはこの発症形式をとる.この点が多くの神経ジストロフィとは異なり,そのためか,本疾患カテゴリは角膜変性症といった表記はせず,角膜ジストロフィという記載が一般には使用される(これについてはジストロフィの記載のほうがいいと個人的に考える).また,炎症によっても角膜の混濁が一時的,あるいは永続的に生じるため,炎症によるものも除いた定義となっている.II角膜ジストロフィの遺伝子検査角膜ジストロフィはその定義に「遺伝性」があるため,眼科領域においてもっとも早く遺伝子検査が行われてきた疾患群であろう.角膜ジストロフィの多くはメンデル形式にて遺伝するメンデル疾患であるため,患者の遺伝子型が決定できれば,ほぼ診断は確定する.また,上記のように片眼性の似たような病変や炎症によっても類似した病態が発生することから,これらを除外する意味でも遺伝子検査の価値は高い.また,後述するように,遺伝子検査の有用性が早くから認識されてきた分野でもあり,全科的にみても早期から診断基準などに積極的に遺伝子検査が取り入れられている.その代表であり,成果であるものが国際的な角膜ジストロフィの分類であるIC3D1)であり,ここでは遺伝子検査がとくに重要視されている.角膜ジストロフィは下記のように分類されている.カテゴリ1:遺伝子座が特定され,責任遺伝子およびその特異的変異が明らかとなっている,定義の確立された角膜ジストロフィ.カテゴリ2:一つ以上の特定の染色体上の遺伝子座への連鎖が確認されているものの,責任遺伝子が未だ同定されていない,定義の確立された角膜ジストロフィ.カテゴリ3:疾患としての定義は確立されているが,いまだ染色体上の遺伝子座への連鎖が示されていない角膜ジストロフィ.カテゴリ4:新たに提唱された,あるいは既報の角膜ジストロフィである可能性があるが,独立した疾患単位としての確証が不十分なもの.このように,角膜ジストロフィのカテゴリは遺伝子検査が可能かどうか,そして,その結果に左右される.この観点からは,とくにカテゴリ1の疾患(占める疾患が拡大している現在においては)では,遺伝子検査は必須に近い.III角膜ジストロフィの遺伝子検査の歴史角膜ジストロフィの遺伝子診断は,1990年代からの位置的原因遺伝子検索法(ポジショナルクローニング)の発展により可能となった.これはDuchenne型ジストロフィ,.胞性線維症,Huntington舞踏病など欧米において著名であった他科の疾患群には遅れるものの,かなり早くから積極的に解明が始まっている.これには,角膜ジストロフィが致死的でなく,家系の蓄積が容易に認められることが関係していると思われる.この成果はまず,上皮ジストロフィにおいて現れた.1994年にStoneらは格子状角膜ジストロフィI型,顆粒状角膜ジストロフィ,Avellino角膜ジストロフィの三つの疾患が,古典的連鎖解析により5番染色体長腕に存在し,これらの異なったジストロフィが同じ遺伝子の違った変異で起きている可能性が高いと予想した2).この予想はMunierによって確かめられた3).これら一連の発表が衝撃的であったのは,表現型が異なる三種類のジストロフィが,同一の遺伝子であるTGFBIの違った変異で起こるという事実であった.実際にこれらのジストロフィは蓄積する物質も異なり,同じ遺伝子で起こるとは考えられていなかったのである.日本においてさらに話題となったのは,長らく顆粒状角膜ジストロフィと考えられていた表現型が,実はAvellino角膜ジストロフィであることが判明したことである.遺伝子検査が疾患概念を再構成した例であり,角膜ジストロフィにおける遺伝子診断の有用性を広く知らしめるものであった.IV日本の単離への貢献ミースマン角膜ジストロフィは,角膜上皮に微細な.胞状混濁を生じる常染色体優性遺伝性疾患である.大阪大学の西田らはKRT12が角膜上皮に非常に特異的に発現するケラチン遺伝子であり,ほかのケラチン異常により水疱性病変が起きることから,候補遺伝子としての検討を行っていた.KRT12遺伝子の変異自体の報告は他グループが先んじたが,KTR12の一時配列決定も西796あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(12)田を中心になされたことを鑑みれば,原因遺伝子単離における功績は大きい4).斑状角膜ジストロフィは,角膜実質に酸性ムコ多糖が沈着し,進行性の混濁を呈する常染色体劣性遺伝性疾患である.同様に赤間,西田らは候補遺伝子アプローチによりCHST6遺伝子が本疾患の原因であることを明らかにした5).また,筆者らのグループがわが国に多い膠様滴状ジストロフィの原因遺伝子をポジショナル解析によって原因遺伝子が明らかとなった6).このようにして,古典的メンデル遺伝で発症する角膜上皮・実質ジストロフィの多くの原因遺伝子が単離され,技術的に遺伝診断が可能となった.以上のとおり,上皮・実質のジストロフィにおいては日本人研究者の貢献がかなり高い.VFuchs角膜内皮ジストロフィの原因遺伝子FECDは欧米においては報告によっては20%近くの罹病率をもち,角膜移植の需要の主たるものを占める重要疾患である.近年,衝撃を与えたのはFECDにおけるTCF4の関与の発見であった.FECDは遺伝子座異質性,つまり,原因遺伝子が複数存在する疾患であるが,多くの患者において連鎖解析ではなく相関解析であるgenomewideassociationstudy(GWAS)においてTCF4領域に原因遺伝子が存在すると予測された7)(相関解析においてはより原因変異に近い位置で陽性結果が出るため,TCF4遺伝子であろうと予測された).そこで本遺伝子座での変異検索が行われたが,TCF4の翻訳領域(エクソンのなかで実際に蛋白質に翻訳される領域,codingsequence:CDS)ではなく,イントロン3領域に存在する3塩基繰り返し配列における伸長(50回以上CTGが繰り返される)を示す割合が,が一般人(3%)に比べて患者では(79%)と優位に高いことが示された8).このように,3塩基の繰り返し配列が病因となる疾患はトリプレットリピート病とよばれ,神経疾患に多く,筋緊張性ジストロフィ1型(DM1)などイントロンでの伸長で起こるものも多い.FECDも遺伝学的尤度(3塩基伸長が真の原因と考えたほうが統計学的に有利)や体細胞不安定性(個々の細胞においてリピート伸長数が異なる)が起こり,一部の報告に表現型促進(優性遺伝において子が親よりもリピートが伸長し,表現型が重症になる)があることから,神経疾患でないものの3塩基繰り返しによるトリプレットリピート病であることは間違いないとされている.このように,原因遺伝子座が特定された疾患に関しては,基本的に遺伝子検査が可能となり,診断可能な疾患はここ20年ほどで急速に増えた.対象とする疾患の原因遺伝子が単離されているかどうか,すなわち,遺伝子診断が可能であるか否かは,ヒトメンデル遺伝病カタログ(MendelianInheritanceinMan:MIN)を参照すればほぼわかる.現在ではオンライン化されており,頻繁にアップデートされている(OnlineMendelianInheri-tanceinMan:OMIM,http://omim.org/).VI角膜ジストロフィの遺伝的特徴上述のように角膜細胞の変性・脱落によらず,混濁を引き起こす物質の蓄積によって起こる一群(とくにTGFBI関連ジストロフィ)があり,その機序から常染色体顕性遺伝となる疾患が多い.この場合,ほかのヒト顕性遺伝疾患と同様に完全優性を示さず,ホモ接合体はヘテロ接合体よりも重症度が高く,一見違った遺伝病にみえることがある.また,このTGFBI関連ジストロフィにおいては,同じ遺伝子の異なる変異が異なる表現型を示す(表現型異質性).これら同一遺伝子の違った変異で起きる各病態は,なんらかの蓄積病という点では同様であるが,その重症度や形状,さらには蓄積している物質も異なるため,臨床的には区別することがむずかしく,遺伝子検査が威力を発揮する.またFECDも含め,角膜ジストロフィの多くは前述のとおり遅発性,進行性疾患であり,若年時にはそれぞれの疾患に特異的な沈着,混濁などの臨床的特徴がはっきりしない場合が多い.この場合もすでに遺伝子異常は受精卵の状態から持続しているため,採血からの遺伝子検査で発症前診断が行えることになる.さらに,角膜ジストロフィはあまり生存性(生物学的適応度,健康な子孫を残すことができる能力)にはかかわらないためか,創始者効果による代表的な変異(患者に於いて多くを占める単独の変異)が存在することが多(13)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025797図1FECDの表現型a:前眼部写真にて水疱性角膜症を認める.b:スペキュラーマイクロスコープによるGuttaeの観察.表1角膜ジストロフィ遺伝子検査に関する厚生労働省の告示と通知D006-20角膜ジストロフィ遺伝子検査C1,200点保険収載:2020年C4月C1日.注:別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に,患者C1人につきC1回に限り算定する.通知:(1)角膜ジストロフィ遺伝子検査は,角膜混濁等の前眼部病変を有する患者であって,臨床症状,検査所見,家族歴等から角膜ジストロフィと診断又は疑われる者に対して,治療方針の決定を目的として行った場合に算定する.本検査を実施した場合には,その医学的な必要性を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること.(2)検査の実施に当たっては,個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成C29年C4月)及び関係学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(平成C23年C2月)を遵守すること.表2遺伝子検査が可能な角膜ジストロフィとその遺伝子変異ジストロフィ名(別名)OMIN番号遺伝形式染色体座遺伝子病因変異Cepithelial-stromalTGFBIdystorphiesClatticecornealdystrophy,typeI(格子状)C122200R124CなどCvariantsIIIC608471CP501TCgranularcornealdystrophy,typeI:GCDC1(顆粒状)C121900CADC5q31CTGFBICR555WCgranularcornealdystrophy,typeII;CCGD2607541CADC5q31CTGFBICR124HCthiel-behnkecorneal602082CADC5q31CTGFBICR555QCdystrophy:TBCDC10q24CunknownCReis-Bucklerscornealdystrophy:RBCDC608470CADC5q31CTGFBICR124LCstromaldystrophiesCmacularcornealdystrophy,typeI(斑状)C217800CARC16q23.1CCHST6many(Functionloss)schnydercornealdystrophy:CSCDC121800CADC1p36.22CUBIAD1many(Functionloss)CepithelialandsubepithelialdystrophiesCgelatinousdrop-likecornealdystrophy:GDLD(膠様滴状)C204870CARC1p32.1CTACSTD2*many(Functionloss)1CendothelialdystropiesCFuchsendothelialcornealdystrophy3C61367CADC18q21.2CTCF4(CTG)CnRepeatExpansion,IVS3など*2*1SRLにて外注可能*2検出は容易ではない-治療は,混濁が表層にある場合が多いためエキシマレーザーによる治療的角膜切除術(phototherapeutickeraC-tectomy:PTK)が行われるが,再発がC2年ほどで認められる.PTKはC2回ほど治療ができるが,その後は表層および深層角膜移植による治療となる.混濁が深い位置にある場合も同様である.C2.顆粒状角膜ジストロフィII型顆粒状角膜ジストロフィCII型(アベリノ角膜ジストロフィ,granularCcornealCdystrophy,CtypeII:CGD2)はTGFBI関連角膜ジストロフィのうち,わが国では一番多く認められる.元々顆粒状の角膜ジストロフィで組織的にヒアリンとアミロイドが同時に沈着している特徴があり,イタリアのCAvellino地方に多く認められると考えられ,この名前がついた.しかし,遺伝子診断により日本をはじめ世界中各地に確認されている.遺伝子検査により,顆粒状角膜ジストロフィCI型(GrenouwtypeI,granularCdystrophy)と明確に区別されるようになり,現在は混乱を避ける意味からも顆粒状角膜ジストロフィCII型とよばれる.遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが,I型同様に不完全優性で,ホモ接合体ではヘテロ接合体より重篤である.TGFBI遺伝子のCR124Hミスセンス変異によって引き起こされる.初期には両眼瞳孔領付近に顆粒状角膜ジストロフィCI型よりも大きく辺縁の明瞭な白色円形の混濁が実質表層から中層に出現する.進行するとコンペイトウ状,棍棒状,棒状の濃い白色沈着に成長するが,この場合でも視力低下は引き起こさないことが多い.これに伴い,濃い混濁の間に淡い混濁が表層に生じるようになると視力低下を引き起こすことが多い.混濁の進行に伴って上皮欠損を起こすような状態に至ることは少ない.治療は顆粒状角膜ジストロフィCI型に準ずるが,明らかに再発は少ない.C3.格子状角膜ジストロフィ格子状の沈着性角膜実質混濁をしめす格子状角膜ジストロフィ(latticeCcornealdystrophies)はCI型,CII型,CIII型,IIIA型,CIV型が報告されている.このうち,CII型は全身性のアミロイドーシスを伴い,FinnishCtypeCamylidosisとよばれる常染色体優性遺伝病の一症状である.この疾患では血清のCgelsolin蛋白の異常が知られており,これより候補遺伝子検索でこれをコードするCgel-solin遺伝子(GSN)が原因遺伝子として単離された.CIII型は後で述べるCIIIA型に非常に近い表現型をもち,常染色体劣性遺伝形式を示すといわれているが,遺伝子検査が行われるようになってからはこのような症例報告がなく不明である.そのほかのCI型,CIIIA型,CIV型はやはりCTGFBIの変異が原因の常染色体優性遺伝病である.I型は世界中で報告され,もっとも多く認められる格子状角膜ジストロフィの一つである.TGFBIのCR124C変異ほか,同遺伝子のいくつかの変異でこの表現型が起こることが報告されている.実質浅層,Bowman層に二重の輪郭をもった細かい線状の混濁が絡み合い,メロンの皮のような形態を示す.この混濁ははじめ瞳孔領に発生し,次第に周辺部を侵すのとともに,中央部の混濁は強くなり,卵黄型あるいは円形の混濁を呈し,その周辺に微細な格子状病変を伴う.また,これにより角膜表面に隆起をきたすようになり,再発性角膜びらんを生じることが多く,臨床的に問題となる.CII型は全身のアミロイドーシス(アミロイドーシスCIV型)に伴う角膜症状で,周辺から出現する格子状の変性が特徴的である.IIIA型はCI型に比べ太い格子状,あるいは線上の混濁が角膜中央部から周辺部まで出現する.角膜表面の隆起は少なく,臨床症状は比較的穏やかである.TGFBIの創始者効果によりCS538C変異がほとんどである.CIV型は晩年発症が特徴的で表現型も軽い.TGFBIのCL527Rが報告されている.CIV型もわが国での創始者効果が報告されている.治療は,角膜の中央部の混濁による視力への影響と再発性のびらんの状況などにより必要を判断する.病巣のアミロイド沈着は角膜実質浅層にあることから,エキシマレーザーによるCPTKが行われる.再発しやすい例,あるいはより深い層に混濁がある場合は,表層あるいは深層角膜移植を選択する.800あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(16)4.斑状ジストロフィ斑状ジストロフィ(macularCcornealdystrophy)は実質の細胞内外にムコ多糖類が沈着する疾患で,細隙灯顕微鏡による観察では角膜実質に細かい沈着がびまん性に認められ,角膜全体がすりガラス状を呈する.この混濁ははじめは中央部から連続して周辺に広がっていき,角膜全層が混濁する.視力低下はこの時点で顕著である.その後,びまん性の混濁に加えて灰白色の小さい不規則な形の多数の混濁が実質浅層に認められることがある.本疾患はプロテオグリカン(蛋白質に糖鎖の修飾がついたもの)の代謝異常による.角膜実質にはプロテオグリカンが存在し,これにケラタン硫酸がついて透明性を維持している.斑状ジストロフィ患者においてはこのケラタン硫酸の硫酸基を付加する酵素が欠落するため,必要なケラタン硫酸が産生されず,プロテオグリカンが難溶性となって,混濁を生じる.酵素の機能喪失性変異によるので,常染色体劣性遺伝となる.全身においてこれが起こるのがCI型で,角膜においてのみ起こるのがCII型である.I型の原因遺伝子検索は,まずCStoneらが連鎖解析を用いた位置的検索法で第C16番染色体長腕に存在することを明らかにした.続いて赤間,西田らは角膜型のCN-アセチルグルコサミンC6スルフォトランスフェラーゼをコードするCCHST6遺伝子がこの領域に存在することをつきとめ,位置的候補遺伝子アプローチにて変異を複数同定した.この変異により酵素活性が低下するためにI型においては全身の病態を示す.一方でCII型においてはCCHST6のコーディングには問題がないが,このプロモーター領域に大きな欠損や相同組み換えによる異常があり,この場合角膜でのCN-アセチルグルコサミンC6スルフォトランスフェラーゼの発現が減弱する.このため,角膜のみで表現型が出現する.治療はCTGFBI関連ジストロフィとは異なり,混濁が全層にびまん性に進行することからエキシマレーザーによるCPTKや表層角膜移植を選択しにくく,通常は全層角膜移植,もしくは深層角膜移植が行われる.つまり,より深層への介入が必要である.沈着は角膜実質細胞が産生するものであるので,術後の再発は通常はない.5.膠様滴状角膜ジストロフィ膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinousdrop-likecor-nealdystrophy:GDLD)はC1914年中泉により初めて報告され,1932年に滝沢により膠様滴状角膜ジストロフィと命名された.遺伝形式は常染色体劣性遺伝で,患者はわが国に比較的多く,諸外国ではまれであることに特徴がある.罹病率は約C30万人にC1人とされる.また,わが国において位置的遺伝子検索法にて初めて原因遺伝子が同定された疾患でもある.典型的な患者はC10代頃より,羞明感,異物感の自覚で発症し,両眼の角膜上皮下に乳白色のびまん性の小混濁が出現し,次第に数と密度を増していく.さらに,角膜表面に灰白色の隆起性病変(膠様病変)が瞼裂,角膜中央のやや下方に出現し,次第に数を増やし融合しながら周辺部へ侵入し,最終的には輪部を含めた角膜全体を覆ってしまう.この沈着物はコンゴーレッド陽性のアミロイド沈着である.また,本疾患においては角膜のバリア機能が低下していることと,周辺から角膜上皮に血管侵入が認められることが比較的特徴的な所見である.本疾患は辻川らが位置的遺伝子探索法にてCTAC-STD2(M1S1/TROP2/GA733-2)という遺伝子に複数の変異を同定した.また,このうちCQ118X変異は病因変異の実にC90%を占め,さらにこの周囲の遺伝マーカーの対立遺伝子の状態(ハプロタイプ)も共通であった.このことは,患者の多くは共通の祖先(創始者)をもち,創始者に起こった病因変異(Q118X)を共通に引き継いでいる,いわば大きな家系を形成していることを示唆する(創始者効果).本疾患は角膜のバリア機能が低下しているのが特徴であるが,その機構については中司らが角膜上皮においてCTACSTD2が存在しないとクローディン分子の不安定化が起こることを報告している10).本疾患は日本において商業的に検査が行われているおそらく唯一の角膜ジストロフィである.2023年に保険収載された検査としてCSRL社が提供を開始した.原因遺伝子CTACSTD2はシングルエクソンジーンであるため,コーディング領域すべての変異をダイレクトシーケンスで検出,報告するシステムとなっており,プロモーターに存在するような特殊な変異(報告はまだない)でない限り,検出できるものと考えられる.また,本疾患(17)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C801aNormal+extendedalleleTP-PCR(+)図2リピート伸長を示す遺伝子検査の結果a:TP-PCRによるリピート伸長の検出.extrapeaksを認める.Cb:SP-PCRの結果,各バンドそれぞれが伸長したCTCF4リピートの存在を示す.異なった細胞においてC40個ほどの異なった伸長数をもつことが示され,体細胞不安定性が認められる.この症例では最長のリピート数はC2241回,バンドの種類はC40種類を数える.図3フラグメント解析,TP-PCR,SP-PCRを組み合わせた診断上段:膠様滴状角膜ジストロフィのさまざまな表現型.下段:どの表現型も同一のCQ118X変異のホモ接合体であることを示す結果.(文献C9より改変引用)