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網膜疾患に対する抗VEGF薬の広域脈絡膜厚への影響

2025年8月31日 日曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(8):1064.1069,2025c網膜疾患に対する抗 VEGF薬の広域脈絡膜厚への影響荒木梨沙*1,2 富田洋平*1 伴 紀充*1 國見洋光*1 栗原俊英*1 篠田 肇*1 根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科 *2国家公務員共済組合連合会立川病院CE.ect of Anti-VEGF Therapy on Wide-Field Choroidal Thickness in Retinal Diseases Risa Araki1,2),Yohei Tomita1),Norimitsu Ban1),Hiromitsu Kunimi1),Toshihide Kurihara1),Hajime Shinoda1)andCKazuno Negishi1)1)Keio University Hospital, Department of Ophthalmology, 2)Tachikawa HospitalC背景:抗血管内皮増殖因子療法(anti-VEGF therapy)による中心窩脈絡膜厚の変化に関する報告はあるが,広域脈絡膜厚への影響は明らかではない.今回,筆者らは広角光干渉断層計(OCT)を用いて抗CVEGF薬が広域の網膜・脈絡膜厚へどのような影響を及ぼすかを検討した.直径C5Cmmの円を後極とし,後極を除く直径C18Cmmの円を八つに分割し,注射前と注射C1カ月後で平均網膜・脈絡膜厚を測定して比較した.対象と方法:対象は46例46眼(男性27例,C69.2±13.3歳)で加齢黄斑変性C19例,糖尿病黄斑浮腫C3例,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫C24例であった.結果:注射前後で視力,眼軸長に有意な差は認められなかった.また,注射後にすべての領域で平均網膜厚が有意に減少しており,平均脈絡膜厚は後極以外のすべての領域で有意に減少していた.結論:抗CVEGF薬の注射前後で後極以外の脈絡膜厚は有意に減少し,抗CVEGF薬が影響している可能性が示唆された.CBackground:Changes in central choroidal thickness following anti-vascular endothelial growth factor(VEGF)Ctherapy have been reported, but alterations in wide-.eld(WF)choroidal thickness remain unexplored. Herein, we evaluatedCtheCe.ectCofCanti-VEGFCtherapyConCchoroidalCthicknessCusingCWFCopticalCcoherencetomography(WF-OCT). Subjects and Methods:This study involved 46 eyes of 46 patients(27 males, 19 females;mean age:69.2C±13.3years)(19CeyesCwithCage-relatedCmacularCdegeneration,C3CeyesCwithCdiabeticCmacularCedema,CandC24CeyesCwith macular edema secondary to retinal vein occlusion). Using WF-OCT, we de.ned a 5-mm diameter circle as theCposteriorpole(C0),CandCdividedCtheCsurroundingC18-mmCdiameterCareaCintoCeightCregions.CMeanCchoroidalCthicknessCwasCmeasuredCatCbeforeCandCatC1CmonthCafterCanti-VEGFCinjection,CandCthenCcompared.CResults:PostCinjection,CnoCsigni.cantCchangesCinCvisualacuity(logMAR)andCaxialClengthCwereCobserved,CyetCsigni.cantCreduc-tionCinCmeanCretinalCthicknessCinCallCregionsCandCinCmeanCchoroidalCthicknessCinCallCareasCexceptCtheCC0CwasCobserved.CConclusion:ACsigni.cantCreductionCinCchoroidalCthicknessCwasCobservedCinCallCregionsCexceptCtheCC0,Cthus suggesting that anti-VEGF therapy a.ects choroidal thickness.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)42(8):1064.1069,C2025〕 Key words:抗血管内皮増殖因子療法,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症.anti-VEGFCtherapy,Cage-related macular degeneration, diabetic macular edema, retinal vein occlusion.Cはじめに加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症などの網膜疾患は,視覚に重大な影響を及ぼす.これらの疾患においては,病的な網膜血管からの漏出による黄斑浮腫が視力低下の主な病因である1).これらの網膜疾患に対して,抗血管内皮増殖因子(anti-vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法(anti-VEGF therapy)が有効であることが広く認識されている.抗CVEGF薬は,病的な新生血管を抑制し,血管漏出を減少させることで視力を維持または改善する効果がある2).しかし,抗CVEGF薬の長期的な安全性については,まだ解明されていない部分が多い.脈絡膜は網膜の外側に位置し,網膜外層に酸素や栄養を供給する重要な組織であ〔別刷請求先〕 富田洋平:〒160-0016 東京都新宿区信濃町C35 慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprint requests:Yohei Tomita, M.D., Ph.D., Keio University Hospital, Department of Ophthalmology 35 Shinano-machi, Shinjuku-ku, Tokyo 160-0016, JAPANC1064(130)
る.抗CVEGF薬はおもに網膜の新生血管を標的とするが,脈絡膜にも影響を及ぼす可能性があるとされている3).抗VEGF薬の投与により中心窩脈絡膜厚が減少することは報告されているが,広域的な脈絡膜厚への影響については明らかではない.これまでの研究では,加齢黄斑変性において抗CVEGF薬の頻回投与が地図状萎縮(geographic atrophy:GA)を引き起こすことが示唆されているが,脈絡膜への影響に関するデータは限られている4).脈絡膜の厚みが減少すると,網膜への栄養供給が不足し,網膜の健康状態が悪化する可能性がある.また,脈絡膜厚は年齢や眼軸長などによって変動し,これらの因子が抗CVEGF薬の効果に影響を与える可能性がある5).したがって,抗CVEGF薬の効果と安全性をより深く理解するためには,脈絡膜厚の広域的な変化を詳細に解析することが重要である.本研究の目的は,抗CVEGF薬が広域脈絡膜厚に与える影響を詳細に調査することである.これにより,抗CVEGF薬のより効果的な適用方法と長期的な安全性を評価し,将来的な治療方針の決定に寄与することをめざす.C
I 対象と方法本研究はヘルシンキ宣言に基づき,慶應義塾大学病院眼科で後ろ向き観察研究として実施した.対象は,2019年C1月からC2021年C12月までの間に,抗CVEGF薬(ラニビズマブ,アフリベルセプト,ファリシマブ,ブロシズマブのいずれか)の投与を受けた患者C46名(46眼)であった.性別は男
図 2 en face画像
自動セグメンテーションで網膜と脈絡膜のCen face画像を生成した.性C27名(58.7%),女性C19名(41.3%)であった.患者の平均年齢は全体でC69.2C±13.4歳であった.対象疾患は,加齢黄斑変性(19眼),糖尿病黄斑浮腫(3眼),網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫(24眼)であった.加齢黄斑変性の性別は男性C11名(57.9%),女性C8名(42.1%)で平均年齢はC72.21C±17.93歳であった.網膜静脈閉塞症の性別は男性C15名(62.5%),女性C9名(37.5%)で平均年齢はC66.71C±8.41歳であった.抗CVEGF薬投与前および投与後C1カ月において,視力と眼圧を測定し,広角光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)(Xephilio OCT S-1,キヤノン)を用いてC20C×23Cmmの範囲で光干渉断層血管撮影(OCTCangiog-raphy:OCTA)を行った.解析は,直径C5Cmmの円(C0)とその周囲に位置する直径C18Cmmの円をC8つの領域〔耳側(L1),上耳側(L2),上方(L3),上鼻側(L4),鼻側(L5),下鼻側(L6),下方(L7),下耳側(L8)〕に分割して行った(図 1).自動セグメンテーション技術で網膜と脈絡膜のCenface画像を生成し,各領域の網膜厚,脈絡膜厚をOCTResearch Tool Ver.2.0(キヤノン)で解析した(図 2).解析項目としては,①注射前後の眼軸長および視力(logMAR)の変化,②非注射眼における広域網膜厚の変化,③非注射眼における広域脈絡膜厚の変化,④注射眼における広域網膜厚の変化,⑤注射眼における広域脈絡膜厚の変化の五つを設定した.統計解析には,平均値と標準偏差を用いてデータの分布を確認し,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて有意差を評価した.統計解析ソフトはCSPSSCver29.0(IBM)を使用した.C
II 結   果
平均眼軸長は注射前がC24.97C±1.73mm,注射後がC24.99C±1.72Cmmであり,注射前後で有意な変化は認められなかっmm 
図 3 眼軸長と視力( logMAR)の変化眼軸長はC24.97C±1.73mmからC24.99C±1.72Cmmに,logMARは0.25からC0.21に変化した.どちらにも統計的な有意差は認められなかった(p>0.05).た(p>0.05).logMARは注射前がC0.25,注射後はC0.21であり,統計学的な有意差は認められなかった(p>0.05)(図 3).また,抗CVEGF薬の投与後に,非注射眼の網膜厚はすべての範囲で変化を認めなかった(p>0.05).注射前の平均網膜厚(μm)はCC0C313±34,L1C222±19,L2C225±16,CL3C234±17,L4C258±23,L5C263±25,L6C235±25,L7 219±24,L8C221±23で,注射後C1カ月の平均網膜厚(μm)はCC0C308±42,L1C220±16,L2C225±15,L3C234±17,CL4C260±27,L5C263±24,L6C232±21,L7C215±19,L8 217±18であった.さらに,抗CVEGF薬の投与後に,非注射眼の脈絡膜厚はすべての範囲で変化を認めなかった(p> 0.05).注射前の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C228C±89,L1C208C±64,L2C242±75,L3C216±73,L4C194±79,L5C164±68,L6C133C±43,L7C161C±54,L8C195C±68で,注射後C1カ月の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C221±81,L1C207±60,L2 240±69,L3C213±67,L4C192±73,L5C164±63,L6C133C±40,L7C160C±52,L8C194C±65であった.抗CVEGF薬の投与後に,注射眼の網膜厚はすべての範囲で有意に減少した(p<0.01).注射前の平均網膜厚(μm)はCC0C355±65,L1C238±40,L2C242±53,L3C251±45,L4 265±24,L5C271±27,L6C247±42,L7C234±24,L8C237C±42で,注射後C1カ月の平均網膜厚(μm)はCC0C321±48,CL1C227±21,L2C232±34,L3C243±32,L4C258±27,L5 264±24,L6C239±24,L7C224±26,L8C224±22であった(図 4).抗CVEGF薬の投与後に,注射眼の脈絡膜厚は,C0を除くすべての範囲で有意に減少した(p<0.01).注射前の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C223±70,L1C199±49,L2C233±58,L3C207±61,L4C181±60,L5C149±50,L6C129±38,CL7C159±50,L8C193±59で,注射後C1カ月の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C221±72,L1C194±49,L2C227±59,L3C203±62,L4C175±63,L5C142±49,L6C124±37,L7C152±47,CL8C187±56であった(図 5).加齢黄斑変性と網膜静脈閉塞症は疾患ごとの解析も行った.加齢黄斑変性では網膜厚はCC0のみで有意に減少した.注射前の平均網膜厚(μm)はCC0C314±25,L1C218±12,L2 222±14,L3C231±17,L4C254±23,L5C260±21,L6C231C±13,L7C214±17,L8C217±14で,注射後C1カ月の平均網膜厚(μm)はCC0C290±23,L1C217±12,L2C222±13,L3 230±17,L4C246±35,L5C256±28,L6C228±18,L7C212C±19,L8C215±15であった.脈絡膜厚はCC0,L1以外のすべての領域で有意に減少した.注射前の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C205±75,L1C190±64,L2C217±70,L3C186±65,CL4C167±66,L5C138±51,L6C119±41,L7C147±56,L8 184±75で,注射後C1カ月の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C200C±76,L1C187±65,L2C211±69,L3C179±64,L4C157±69,L5C129±50,L6C113±39,L7C138±51,L8C177±70であった.網膜静脈閉塞症では網膜厚はCC0,L4で有意に減少した.注射前の平均網膜厚(μm)はCC0C376±60,L1C254C±48,L2C258±69,L3C266±56,L4C272±24,L5C279±29,L6C261C±52,L7C251±48,L8C252C±51で,注射後C1カ月の平均網膜厚(μm)はCC0C334±39,L1C234±24,L2C241C±44,L3C253±38,L4C265±17,L5C270±19,L6C247±26,L7C233±28,L8C231±24であった.脈絡膜厚はCL6以外のすべての領域で有意に減少した.注射前の平均脈絡膜厚(μm)はCC0C227±62,L1C201±31,L2C239±44,L3C215±45,L4C185±46,L5C151±46,L6C132±33,L7C163±44,CL8C199±44で,注射後C1カ月の平均脈絡膜厚(μm)はCC0 230±64,L1C197±33,L2C234±47,L3C214±48,L4C182C±49,L5C145±44,L6C128±32,L7C159±41,L8C193±42であった.C

III 考   按
本研究では,抗CVEGF薬注射後で平均眼軸長と視力に変化は認めなかった.また,視力に関しては改善傾向であったが,変化に有意差はなかった.注射眼における網膜厚は全範囲で有意に減少を認めた.さらに,脈絡膜厚は後極のみ変化がなかったが,後極以外の全範囲で有意に減少を認めた.既報では,疾患によらず注射後の中心窩脈絡膜厚は減少すると報告されている.その変化が血管内腔面積の変化によるものなのか,間質面積の変化によるものなのかについては,疾患によって報告が異なっており,見解が一致していない.加齢黄斑変性においては,抗CVEGF薬注射後に血管管腔面積の減少を認めたと報告されている6).網膜静脈閉塞症においては血管管腔面積には変化がなく,間質面積が減少したと報告されている7).糖尿病黄斑浮腫に対しては,汎網膜光凝固術の有無で結果が異なっており,汎網膜光凝固術後の症例では血管管腔面積に変化がなかったが,汎網膜光凝固術前の症例では血管管腔面積が減少したと報告されている8).いずL2 L4L3 600** 600
*** 600 
400 300 400 300

nm nm nm nmnm nm nm nm nm200 
200 200 100 100 0 

0 L2 berore L2 after L3 berore L3 after L1 C0L5**** 
500 800 
400***
**** 400 600 300 300 
L4 berore L4 after 
400 200 200 200 100 100 0 0 0 L1 berore L1 after C0 berore C0 after C0 berore C0 after L8 L8L6*****500 500*** 500 400 400 
400

300 300 300 200 
200 200 100 100 100 0 0 0 L8 berore L8 after L7 berore L7 after L6 berore L6 after

図 4 注射眼における網膜厚の変化注射眼における平均網膜厚はすべての範囲で有意に減少を認めた(p<0.01).れの報告も中心窩脈絡膜厚にとどまっており,広域脈絡膜厚における脈絡膜厚の変化についての報告はほとんど存在しない.一般的に,脈絡膜厚は中央よりも周辺,上方よりも下方,耳側よりも鼻側で薄いことがわかっている.周辺部よりも後極が厚いのは,短後毛様体動脈が後極に流れ込んでいるからと考えられている5).脈絡膜のCHaller層には渦静脈がC4本存在しているが,その還流量は耳上側-耳下側-鼻上側-鼻下側の順で多いことが示唆されており,渦静脈の還流量によって脈絡膜厚に違いが出る可能性が指摘されている9).今回の研究では,注射眼において広域脈絡膜厚は後極を除く全範囲で減少したが,血流量の違いや組織学的構造の違いなどから,厚みの変化のしやすさは領域によって異なっていると予想される.脈絡膜厚に影響を与える因子についてはいくつかの報告がなされている.年齢と脈絡膜厚には負の相関があることがわかっており,これは加齢に伴って全身の血管抵抗が増加することで脈絡膜血流も減少し,厚みが減少すると考えられている5).また,眼軸長と脈絡膜厚に関しても負の相関があることがわかっている.とくに鼻下側は発生段階で眼杯が最後にL2L3 L4** 400 400*** 400 300 300 300

nm nm nm nm nm nm nm nm nm 200 200 200 100 100 100 0 0 0 L1C0 L5** ns 400 400 400 L2 berore L2 after L3 berore L3 after L4 berore L4 after 300 
300 
300 100 100 100 0 0 0 L1 berore L1 after C0 berore C0 after L5 berore L5 after

L8L7 L6 500 400 300****200 200 200

400 
300 200 300 200 200 100 100

100 0 0 0 
L6 berore L6 after
図 5 注射眼における脈絡膜厚の変化注射眼における平均脈絡膜厚はCC0を除くすべての範囲で有意に減少した(p<0.01).L8 berore L8 after L7 berore L7 after 閉じる部位であるため,組織が脆弱であり,眼軸の伸長とともに菲薄化しやすいと考えられている10).今後は,年齢や眼軸長などの脈絡膜厚に影響を与えうる因子別に解析を行う必要がある.今回,筆者らの研究では,後極の脈絡膜厚は変化しなかったが,後極以外のすべての範囲で脈絡膜厚が減少した.これは既報からは矛盾するように思われる結果であった.後極のみ厚みが変化しなかった理由として,脈絡毛細血管板の血流が関係していることが予想される.動物実験では,カニクイザルに対して抗CVEGF薬を硝子体内に投与すると,脈絡毛細血管板の厚みが減少することが報告されている11).また,加齢黄斑変性の患者に対して長期的に抗CVEGF薬を投与すると,脈絡毛細血管板の血管密度が減少することがわかっている12).しかし,注射後C1カ月では黄斑部の脈絡毛細血管板の血流は再開するとも報告されている13).これら既報を鑑みると,注射の直後は脈絡膜全域で脈絡毛細血管板が閉塞することによって静脈の循環血流が減少し,脈絡膜厚も減少したと考えられる.しかし,注射後C1カ月の時点での後極では脈絡毛細血管板の血流が回復したため,後極部のみで脈絡膜厚が回復し,差が生じなかった可能性が考えられる.また,周辺部脈絡膜厚は後極よりも薄いことや,今回筆者らが設定した解析範囲の面積が周辺部と後極で異なることによって測定誤差が生じた可能性も考えられる.疾患ごとの解析結果が全体の解析結果と異なっていた理由としては,疾患ごとに解析すると母数が少なかったことがあげられる.とくに脈絡膜厚は個人差が大きく,母数が少なかったため,変化を捉えにくかったと考えられる.また,網膜静脈閉塞症に関しては,今回は網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症が混在していた.これらは血管の閉塞領域が異なるため,注射前後の厚みの変化も異なっていたことが予想される.今後は疾患ごとに母数を増やして解析する必要があると考えられる.今回の研究で,後極部と後極部以外では抗CVEGF薬が与える変化に違いがあることがわかった.今後の研究では,抗VEGF薬が脈絡膜の血流や組織構造にどのような影響を与えるのか,また,疾患,薬剤,年齢,眼軸長ごとの変化など,さらに詳細に解析し,長期的に評価することも重要である.今後は,多施設共同研究や前向きコホート研究を行い,より信頼性の高いデータを収集することが求められる.利益相反・荒木梨沙 なし・富田洋平 カテゴリーF:ロート製薬;カテゴリーP:あり・伴 紀充 カテゴリーCF:ロート製薬,坪田ラボ;カテゴ
リーP:あり・國見洋光 なし
・栗原俊英 カテゴリーCF:ロート製薬,シード,興和,坪田ラボ,レストアビジョン;カテゴリーCI:坪田ラボ,レストアビジョン;カテゴリーP:あり
・篠田 肇 なし
・根岸一乃 カテゴリーCF:ジンズホールディングス,エイエムオージャパン,セルージョン,レストアビジョン,参天製薬;カテゴリーP:あり

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網膜静脈閉塞症発症とコントロール不良高血圧の存在─仮面高血圧を考慮して

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1322.1326,2020c網膜静脈閉塞症発症とコントロール不良高血圧の存在─仮面高血圧を考慮して土屋徳弘*1,3戸張幾生*2宮澤優美子*2西山功一*2,4田中公二*3森隆三郎*3*1表参道内科眼科内科*2表参道内科眼科眼科*3日本大学病院眼科*4オリンピア眼科病院CDevelopmentofRetinalVeinOcclusionandPresenceofUncontrolledHypertensioninConsiderationofMaskedHypertensionNorihiroTsuchiya1,3),IkuoTobari2),YumikoMiyazawa2),KoichiNishiyama2,4),KojiTanaka3)andRyusaburoMori3)1)OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,InternalMedicine,2)OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,Ophthalmology,3)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,4)OlympiaOphthalmologyHospitalC目的:網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)発症時の血圧コントロール状態に関し,家庭血圧(仮面高血圧)を考慮し後ろ向きに検討する.対象および方法:対象はCRVOを発症し表参道内科眼科の眼科を受診し,同時に全身状態検索のため同院内科受診に同意したC130例.内科では高血圧の既往・降圧薬内服の有無の問診と診察室血圧を測定し,診察室血圧正常例には仮面高血圧検索のため家庭血圧測定(起床時・就寝前)が行われた.結果:130例中,高血圧ありの診断C129例(99.2%)(降圧薬内服中C34例C26.2%).内訳は診察室血圧C140/90CmmHg以上の高血圧C84例(64.6%),診察室血圧C140/90CmmHg未満かつ家庭血圧C135/85CmmHg以上の仮面高血圧C45例(34.6%).診察室血圧140/90CmmHg未満かつ家庭血圧C135/85CmmHg未満の非高血圧C1例(0.8%).高血圧と診断されたC129症例は,降圧薬治療の有無にかかわらず診察室血圧または家庭血圧が治療目標値を超えており,コントロール不良・管理不良の高血圧状態であった.考按:RVO発症例は,高血圧が無治療ならば降圧治療の開始が,また降圧薬内服中でも治療の再検討が必要な病態であることが示唆された.CPurpose:Toretrospectivelyanalyzethebloodpressure(BP)controlstatusatthetimeofretinalveinocclu-sion(RVO)onsetinconsiderationofthepatient’shomeBP(maskedhypertension).SubjectsandMethods:ThisretrospectiveCstudyCinvolvedC130CRVOCpatientsCinCwhomCBPCcontrolCwasCexaminedCinCconsiderationCofCmaskedChypertension.Results:Ofthe130patients,129(99.2%)werediagnosedwithhypertension.Therewere85(65.4%)patientsCwithCanCo.ceCBPCofC≧140/90mmHg.CThereCwere44(33.8%)patientsCwithCanCo.ceCBPCof<C140/90CmmHgandahomeBPof≧135/85CmmHg(maskedhypertension).Therewas1patientwithano.ceBPof<140/90CmmHgandahomeBPof<135/85CmmHg.Inall129patientsdiagnosedwithhypertension,thehyper-tensionwasuncontrolled.Conclusion:The.ndingsinthisstudysuggestthatincasesinwhichRVOdevelops,ifhypertensionisnotbeingtreated,treatmentwithanantihypertensivetherapyshouldbestarted,andthatevenifthepatientiscurrentlybeingtreatedwithanantihypertensivedrug,thetreatmentshouldbereexamined.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(10):1322.1326,C2020〕Keywords:網膜静脈閉塞症,仮面高血圧,家庭血圧,コントロール不良高血圧.retinalveinocclusion:RVO,maskedhypertension,homebloodpressure,uncontrolledhypertension.Cはじめに意な相関がみられたと報告され,140/90CmmHg以上の高血網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は全身的圧だけでなく,130/80CmmHg以上の正常高値血圧のレベルな因子との関連で,久山町研究では高血圧の罹患との間に有からCRVO発症のリスクが増加すると報告されている1).RVO〔別刷請求先〕土屋徳弘:〒107-0061東京都港区北青山C3-6-16表参道内科眼科Reprintrequests:NorihiroTsuchiya,M.D.,Ph.D.,OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,3-6-16Kitaaoyama,Minato-ku,Tokyo107-0061,JAPANC発症においては高血圧合併の有無だけでなく血圧コントロールの状態が重要な要因として考えられる.また,現在の高血圧治療ガイドライン2,3)では,高血圧の診断と血圧コントロール状態の判断や管理において,仮面高血圧を考慮した家庭血圧が重要とされている.これまでのRVOにおける高血圧に関する報告は,健康診断データを基にしたCRVO既往のある症例における高血圧合併の有病率を検討した疫学研究であり,実際にCRVOを発症したときの診察室血圧値に関する報告は少ない.さらにCRVO発症時の仮面高血圧の有無や血圧コントロール・管理状態に関する検討はなされていない.内科と眼科の併設されている筆者らのクリニックでは,眼科を受診したCRVO発症例はCRVOの危険因子とされている全身状態を検索するため,内科においても同時に診察し血圧など全身状態を詳細に観察している.診察室血圧正常例においては,高血圧治療ガイドライン2,3)に従い仮面高血圧検索のため家庭血圧測定を指示している.今回筆者らはCRVO発症時に測定された診察室血圧値と,診察室血圧正常例において測定された家庭血圧値を後ろ向き横断的に調査し,RVO発症時のコントロール不良高血圧の存在に関し検討した.CI対象および方法対象はC2012年C3月.2020年C2月に新規にCRVO(網膜静脈分枝閉塞症CbranchCretinalCveinocclusion:BRVOと網膜中心静脈閉塞症Ccentralretinalveinocclusion:CRVO)を発症し表参道内科眼科の眼科を受診した患者で,同時に全身状態検索のため同院内科受診に同意したC130例.BRVO102例,CRVO28例.内科で高血圧の既往・降圧薬内服の有無の問診と診察室血圧測定などの内科的診察が行われた.診察室血圧正常例に関しては,仮面高血圧検索のため家庭血圧測定(起床時・就寝前)が行われた.血圧測定と高血圧診断に関してはC2014年およびC2019年高血圧治療ガイドライン2,3)に従って行われた.高血圧の診断は両ガイドラインとも,診察室血圧C140/90CmmHg以上,家庭血圧C135/85CmmHg以上とし,診察室血圧と家庭血圧の診断が異なる場合は家庭血圧の診断を優先するとされている.診察室血圧は内科医が聴診器を使ったコロトコフ法で測定し,血圧C140/90CmmHg以上は高血圧と診断した.診察室血圧が正常範囲であるC140/90CmmHg未満の症例は,仮面高血圧検索のために家庭血圧測定が指示され,朝起床時と夜就寝前の家庭血圧測定がなされた.家庭血圧計は日本国内で市販されている上腕カフ・オシロメトリック法の自動家庭血圧計が用いられた(わが国の血圧計は医薬品医療機器総合機構によって認可を得て販売されており,「自動血圧計の精度は日本の製造会社の装置であれば問題なし」と高血圧治療ガイドライン2,3)に明記されている).家庭血圧測定はガイドラインの推奨どおりに行われ,朝起床後(起床後C1時間以内で排尿後・朝食前・朝の服用前)と,夜就床前,それぞれ座位1.2分間の安静後に測定された.家庭血圧は最低C5日間以上測定し,135/85CmmHg以上を認めた場合に仮面高血圧と診断した.全症例の年齢・性別・身長・体重・BMIが調べられた.調査期間において,すでに他の内科通院中であるとの理由や,他院より降圧薬が処方されているなどの理由により当院内科受診の同意を得られなかった症例は対象から除外した.統計学的な検討は対応のないCt検定を使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.本研究は表参道内科眼科の倫理審査委員会で承認後,ヘルシンキ宣言を順守して実施された.研究情報は院内掲示などで通知公開され,研究対象者が拒否できる機会を保障した.CII結果表1に患者背景を示す.RVO全C130例の内訳は男:女55:75,平均年齢C66.2歳C±11.2歳(41.91歳),BRVO102例,CRVO28例,降圧薬内服中C34例.全C130例の診察室血圧値はC146.3C±18.5/83.9±11.1CmmHg(96.202/58.116mmHg)であった.図1に高血圧診断手順とその内訳を示す.全C130例中高血圧ありの診断C129例(99.2%降圧薬内服中C34例,26.2%).内訳は診察室血圧C140/90CmmHg以上の高血圧C84例(64.6%.うち降圧薬内服中C25例,19.2%),診察室血圧C140/90CmmHg未満かつ家庭血圧C135/85CmmHg以上の仮面高血圧C45例(34.6%.うち降圧薬内服中C9例,6.9%).診察室血圧および家庭血圧正常かつ降圧薬内服がない非高血圧C1例(0.8%).図2に降圧薬内服治療の有無による血圧コントロール状態を示す.全C130例中C34例(26.2%)は,RVO発症時にすでに降圧薬服用中であった.そのうちC25例(19.2%)は診察室血圧がガイドラインで示されている診察室血圧治療目標値の140/90CmmHgを超えており,管理不良高血圧と診断された.残りC9例(6.9%)は診察室血圧が正常域であったが,家庭血表1対象者の背景n=130C性別(例)男性C55:女性C75年齢(歳)C66.2±11.2(41.91)BMI(kg/mC2)C23.7±4.4(15.8.37.4)病型(例)BRVO102:CRVO28降圧剤服用有:無(例)34:96収縮期血圧(mmHg)C146.3±18.5(96.202)拡張期血圧(mmHg)C83.9±11.1(58.116)BMI:bodymassindex.平均値±標準偏差.診察室血圧測定家庭血圧測定図1高血圧診断手順BP:bloodpressure(mmHg).診察室血圧測定診察室血圧測定家庭血圧測定家庭血圧測定図2降圧薬内服治療有無別の血圧コントロール状態BP:bloodpressure(mmHg).圧が家庭血圧治療目標値のC135/85CmmHgを超えており,コントロール不良の高血圧(治療中仮面高血圧)と診断された.全C130例中C96例(73.8%)はCRVO発症時に降圧薬の服用がなかった.そのうちC59例(45.4%)は診察室血圧がC140/90mmHgを超えており無治療の高血圧と判断された.診察室血圧が正常範囲であったC37例(28.5%)においても,36例(27.7%)は家庭血圧がC135/85CmmHgを超えており,無治療の高血圧(仮面高血圧)と判断された.1例のみが家庭血圧も正常の非高血圧であった.降圧薬の内服がなく診察室血圧・家庭血圧ともに正常域であったC1例を除き,130例中C129例が降圧薬内服の有無を問わずコントロール不良の高血圧と判断された.表2に降圧薬内服中症例と降圧薬内服のない症例との比較検討を示す.降圧薬服用の有無で比較すると,診察室血圧がC152.4±19.6vs144.2±17.6CmmHg(p=0.013)と降圧薬服用症例のほうが高値であった.表2降圧薬有無の比較による患者背景項目降圧剤服用ありn=34降圧剤服用なしn=96p値性別(例)男性C15:女性C19男性C16:女性C56C0.403年齢(歳)C67.4±9.16C65.7±11.8C0.237BMI(kg/mC2)C24.0±3.3C23.6±4.8C0.173収縮期血圧(mmHg)C152.4±19.6C144.2±17.6C0.013拡張期血圧(mmHg)C85.1±13.8C83.5±9.9C0.199BMI:bodymassindex.平均値±標準偏差.Unpairedttestで比較した.有意水準p<0.05.III考按RVOにおける高血圧の存在は,その有病率の高さとリスクファクターとしての重要性が久山町研究1)でも示されている.同研究では血圧がC130/80CmmHg以上の正常高値レベルからCRVOが多かったことも報告されており,RVO発症時においては高血圧有無の判断だけでなく,血圧の絶対値に対する検討が必要と考えられた.現在の高血圧診断・治療においては家庭血圧測定の重要性が示されている.高血圧治療ガイドライン2,3)においては,仮面高血圧は非高血圧を示す一般住民のC10.15%,高血圧治療中でコントロール良好な診察室血圧が収縮期C140CmmHg未満かつ拡張期C90CmmHg未満の高血圧患者のC9.23%にみられるとしている4).また同ガイドラインでは仮面高血圧患者の臓器障害と心血管イベントのリスクは,未治療か治療中かにかかわらず持続性高血圧患者と同程度と示されている5).そのため同ガイドラインでは「家庭血圧を指標とした降圧治療の実施を強く推奨する」と明示している.また高血圧患者の治療管理率(降圧薬を服用している患者における診察室血圧が収縮期C140CmmHg未満かつ拡張期C90CmmHg未満)は男性約C33.44%,女性約C43.48%としており6),高血圧の診断を受け降圧薬を服用している患者においても,実際は血圧コントロール不良である可能性がある.RVOと高血圧の関連に関しての検討では,これら家庭血圧を指標とした仮面高血圧の存在や治療管理率を考慮した最新の高血圧診療における視点を考慮することが必要と考えられる.今回筆者らは,RVO発症時に内科にて全身状態や血圧が観察された症例に関し検討した.診察室血圧正常例においては家庭血圧測定が施行された.それにより診察室高血圧の有無に加え,仮面高血圧や治療中仮面高血圧の存在が確認された.またCRVO発症時の血圧値が実測され,RVO発症時の血圧コントロール状態に関し検討が可能であった.その結果,既報告以上にCRVOにおける高血圧の有病率は高率であった.また高血圧ありと判断された症例は,降圧薬服用の有無を問わず全例が診察室血圧高値または家庭血圧が高値であり,コントロール不良の高血圧と判断された.コントロール不良の高血圧の存在は,高血圧治療の不十分または破綻を示している.RVOを発症した症例は,降圧薬内服の有無にかかわらず高血圧治療の開始や再検討が必要な状態であることが示唆された.本研究の限界と今後の課題を述べる.今回の研究では診察室血圧高値例の家庭血圧は計測されていなかった.そのため白衣高血圧の存在が確認できなかった.白衣高血圧に関しては高血圧治療ガイドライン2,3)では「白衣高血圧は非高血圧より予後不良である可能性が高い.」とされており,家庭血圧値にかかわらず診察室血圧高値は血圧コントロール不良と考えられた.今回の研究ではCRVO発症におけるコントロール不良の高血圧の存在の深いかかわりが示唆されたが,その病理は明らかではない.筆者らはCRVO発症機転における高血圧の関与に関し,全身循環における静脈灌流と動脈硬化時の血管に生ずる血管生物学的変化を考慮した病態生理をこれまでに発表したが7,8),より一層の検討が必要であると考えられる.高血圧が重要な危険因子である疾患として脳血管疾患・冠動脈疾患・腎疾患が広く認知されており,それらの発症や予後は高血圧治療の影響を強く受ける.今回の研究ではCRVOもこれらの疾患と同様である可能性が示唆されたが,実臨床においては高血圧治療とCRVOの関連に関してはほとんど報告がない.RVOは眼科疾患として扱われているが,RVO発症は全身の循環障害存在のサインともとらえられ,内科・高血圧専門医との密接な連携が必要な病態であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapaneseCpopulation:TheCHisayamaCStudy.CInvestCOph-thalmolVisSciC51:3205-3209,C20102)日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014).日本高血圧学会,20143)日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019).日本高血圧学会,20194)KarioCK,CShimadaCK,CSchwartzCJECetal:SilentCandCclini-callyovertstrokeinolderJapanesesubjectswithwhite-coatCandCsustainedChypertension.CJCAmCCollCCardiolC38:C238-245,C20015)MatsuiY,EguchiK,IshikawaJetal:Subclinicalarterialdamageinuntreatedmaskedhypertensivesubjectsdetect-edCbyhomebloodpressuremeasurement.AmJHypertensC20:385-391,C20076)三浦克之:新旧(1980-2020年)のライフスタイルからみた国民代表集団大規模コホート研究:NIPPONDATA80/90/2010/2020平成C30年度総括・分担研究報告書.20197)土屋徳弘:血圧変動に伴う網膜静脈変化と黄斑浮腫変化─網膜は血圧変動による血管障害を直接観察できる臓器─.血圧C25:696-703,C20188)土屋徳弘,戸張幾夫:高血圧・動脈硬化と網膜静脈閉塞症.日本の眼科C89:1368-1376,C2018***

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1418.1426,2018c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験小椋祐一郎*1飯田知弘*2伊藤雅起*3志村雅彦*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2東京女子医科大学眼科学教室*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京医科大学八王子医療センター眼科Phase3ClinicalTrialofSub-Tenon’sInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainRetinalVeinOcclusionYuichiroOgura1),TomohiroIida2),MasakiIto3)andMasahikoShimura4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,LTD.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者C50人を対象に,WP-0508STの有効性および安全性を検討するため多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.WP-0508ST20CmgをCTenon.下に単回投与し,投与後C12週とスクリーニング時の中心窩平均網膜厚の変化量を比較した結果,平均値は.150.0Cμm,95%信頼区間は.200.9..99.1Cμmであった.本治験において,あらかじめ有効性の基準として設定したC95%信頼区間上限の.100Cμmとの差はC1Cμm以内であり,平均値では十分な改善効果が認められ,中心窩平均網膜厚ではスクリーニング時と比較し有意な減少が示された.投与後12カ月までのおもな副作用は,眼圧上昇(14.0%),結膜充血(12.0%),結膜浮腫(10.0%),血中コルチゾール減少(10.0%)および血中トリグリセリド増加(8.0%)であり,水晶体混濁の発現率はC4.0%であった.いずれも軽度または中等度であり,外科的処置は行われなかった.以上より,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者におけるCWP-0508STの有効性および安全性が確認された.CWeCconductedCaCmulticenter,Cnon-masked,CuncontrolledCstudyConC50CRetinalCVeinOcclusion(RVO)patientsCwithmacularedematoinvestigatethee.cacyandsafetyofWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicInjection40mg).Afterasinglesub-Tenon’sinjectionofWP-0508ST,wecomparedtheamountofchangeinmeancentralmacularthicknessbetweentimeofscreeningand12weekslater.Theresultsrevealedameanvalueof.150.0Cμmanda95%con.denceinterval(CI)of.200.9Cto.99.1Cμm,indicatingthatthedi.erenceinthe95%CIwaswithin1CμmoftheCmaximum95%CCICpreviouslyCsetCasCtheCcriteriaCfore.cacy(.100Cμm).CInCaddition,CtheCmeanCvalueCdemon-stratedsu.cientimprovement,andthemeancentralmacularthicknessshowedsigni.cantdecreasefromthetimeofCscreening.CTheCmajorCadverseCe.ectsCobservedCupCtoC12CmonthsCpost-administrationCwereCintraocularCpressureincrease(14.0%),conjunctivalChyperemia(12.0%),chemosis(10.0%),CdecreasedCbloodcortisol(10.0%)andCincreasedbloodtriglycerides(8.0%).Theincidenceoflensopacitywas4.0%.Allcasesweremildtomoderate,sosurgicalCtreatmentCwasCnotCperformed.CTheCaboveCresultsCindicateCthatCWP-0508STCisCe.ectiveCandCsafeCinCRVOCpatientswithmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1418.1426,C2018〕Key.words:網膜静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,有効性,安全性,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,WP-0508ST.retinalveinocclusion,branchretinalveinocclusion,centralretinalveinocclusion,macularedema,e.cacy,safety,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection,WP-0508ST.C〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,M.D.,Ph.D.,CDepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC1418(106)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は,高血圧,糖尿病,高脂血症などが危険因子となり,血栓の形成により網膜静脈が閉塞し,網膜に出血,浮腫,毛細血管閉塞などの病態を引き起こす.RVOは網膜中心静脈閉塞症(cen-tralCretinalCveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)とに分類される.網膜浮腫が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫となり,視力障害の原因となる.黄斑浮腫が遷延すると,慢性的かつ不可逆的な視力障害に至る.RVOによる黄斑浮腫は,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)についで頻度が高く,有病率はC40歳以上の成人のC2.1%であることが報告されている1).RVOの黄斑浮腫の治療には,格子状網膜レーザー光凝固術および硝子体手術が行われてきたが,2001年にCJonasら2)がトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を硝子体内に注射することで,DMEに対する有効性を報告して以来CTAが使用されるようになった.その後,2002年にはCGreenbergら3)がCCRVOに伴う黄斑浮腫に,2004年にはCChenら4)がCBRVOに伴う黄斑浮腫にCTAの硝子体内投与による有効性を報告している.硝子体内投与は低頻度ながらも眼内炎が報告されているため5),国内では感染のリスクを軽減し低侵襲なTAのTenon.下投与(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が臨床上多用されている.抗CVEGF薬は,特異的にCVEGFを阻害するため浮腫に対する治療効果が大きいが,頻回投与が必要とされていることから,患者への負担軽減および経済性のため,補助的治療としてCSTTAが選択されることもある.TAを有効成分とし無菌的に充.された粉末注射剤であるマキュエイドR(WP-0508)は,硝子体内手術時の可視化を目的に,2010年に手術補助剤として承認され,2012年には硝子体投与によるCDME治療の効能・効果が追加承認されている.さらにC2017年C3月には,Tenon.下投与によるDME,ぶどう膜炎およびCRVOに伴う黄斑浮腫の軽減に対する効能・効果が追加承認された.今回筆者らは,RVOに伴う黄斑浮腫の効能・効果承認のために実施された,多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬機法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」および治験計画書を遵守し実施した.I対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験は,2014年C12月.2016年C6月に,表1に示した全国C13医療機関において実施された.治験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象表2に示したCRVOの分類基準6)に従い,BRVO(半側RVOを含む)およびCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された患者を対象とした.ただし,虚血型のCCRVOは被験者に対する安全性を考慮し,本試験からは除外した.表3にはおもな選択および除外基準を示した.なお開始前に,すべての被験者に対し本治験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意書を得た.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験とし,単群で実施した(第CIII相試験).Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTA40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,耳側下方の角膜輪部より後方を結膜小切開し,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿っ表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*桑園むねやす眼科竹田宗泰順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本大学病院服部隆幸東京医科大学八王子医療センター野間英孝,安田佳奈子聖路加国際病院大越貴志子独立行政法人国立病院機構東京医療センター野田徹名古屋市立大学病院吉田宗徳名古屋大学医学部附属病院安田俊介大阪市立大学医学部附属病院河野剛也医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学医学部・歯学部附属病院坂本泰二鹿児島市立病院上村昭典*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).表.2網脈静脈閉塞症の分類基準網膜静脈分岐閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞をC1象限以下に認める半側網膜静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC1象限を超え,4象限未満に認める網膜中心静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC4象限すべてに認める表.3おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢が満C20歳以上(2)スクリーニング検査来院前C52週間以内に,対象眼がCBRVOまたはCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された者(3)対象眼の最高矯正視力(ETDRS)が,35文字からC80文字(小数視力換算でC0.1以上C0.8以下)である者(4)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計[スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)]による測定でC300Cμm以上である者(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下である者(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)緑内障,虚血性CCRVO*,糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシス,強度近視の症状を対象眼に有する(2)いずれかの眼に活動性の眼内炎または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(3)血清クレアチニンがC2.0Cmg/dl以上(4)治験薬投与前C52週以内に,対象眼に薬剤の硝子体内投与を実施(5)対象眼に薬剤の硝子体内投与を治験薬投与前C52週以内に実施(6)対象眼に副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与を,治験薬投与前C24週以内に実施(7)対象眼にレーザー治療または内眼手術を,治験薬投与前C12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与を,治験薬投与前C4週以内に実施(9)妊婦または授乳婦(10)その他,治験責任医師または治験分担医師が不適と判断*蛍光眼底造影による無灌流領域がC10乳頭面積以上.て押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬にて感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表4に示した.スクリーニング時に蛍光眼底造影検査を行い,黄斑浮腫の有無および無灌流領域の面積を判断した.中心窩平均網膜厚は,各実施医療機関で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて対象眼の測定を行い,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会において専門家による判定を行った.観察項目はCETDRS(EarlyTreatmentCDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いた最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査とした.治験薬投与後C12週を観察期間とし,この間は被験者の利益性から必要となる場合を除き,本治験の評価に影響を及ぼす併用治療(レーザー治療,内眼手術,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,透析治療)は禁止とした.さらに,治験薬投与後12カ月まで追跡調査を実施した.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,スクリーニング時と比較した投与後C12週(最終評価時)の中心窩平均網膜厚の変化量とし,各評価時期の中心窩平均網膜厚および最高矯正視力の推移と変化量を副次評価項目とした.12週以内に中止または脱落した場合は,もっとも遅くに測定されたデータを最終評価時データとして採用した.中心窩平均網膜厚の変化量は,以下の既報を参考に基準を定めた.1)RVOに対する非投与(Sham)群における中心窩平均網膜厚の変化量の平均値は.85Cμm,95%信頼区間は.101.43.C.68.57μm7),2)RVOにおける抗VEGF薬投与による黄斑浮腫改善の定義として,50Cμm以上の網膜厚の減少を設定した8,9).これらを指標にC.100μmを臨床的に改善効果が示された基準として設定し,本治験で得られた変化量のC95%信頼区間上限値がC.100Cμm以下であれば,WP-0508STの有効性が確認されたものとした.Cb..安全性治験薬投与後C12カ月までに発現した有害事象のうち,WP-0508STとの因果関係が否定できないものを副作用とし,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査の各項目について安全性を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団有効性は,最大の解析集団(FullAnalysisSet:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerCProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は投与が実施され表.4検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●Cたすべての被験者から得られたデータを対象とした.Cb..解.析.方.法中心窩平均網膜厚は,各評価時期および最終評価時おけるスクリーニング時からの変化量について要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.検定は両側検定で行い有意水準はC5%とした.最高矯正視力についても中心窩平均網膜厚と同様の解析で実施した.主要評価項目は,最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量についてC95%信頼区間を算出した.CII試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し,スクリーニング検査を実施した被験者はC56例であり,50例が登録され全例で投与が実施された.このうち,8例が治験薬投与後C12週以内に中止・脱落し,42例がC12週間の観察期間を完了した.中止・脱落となった理由は,有害事象が発現し,治験責任医師または治験分担医師が中止すべきと判断したためがC7例(眼圧上昇,視力悪化などにより併用禁止薬および併用禁止治療が必要と判断),治験開始後に被験者が同意を撤回したためがC1例であった.12週間の観察期を完了したC42例のうち,2例が同意撤回により投与後C12週で本治験を終了した.その後C1例(治験薬投与後C7カ月で治験責任医師の判断で治験終了)を除くC39例がC12カ月までの安全性追跡調査を終了した.解析対象集団CFASの被験者背景を表5に示した.被験者のCRVO罹病期間は平均C2.22カ月であり,病型の内訳はBRVOがC45例,CRVOはC5例であった.C2..有効性投与が実施された被験者C50例のうち,FAS不採用例は認められなかった.1例でスクリーニング検査からC12カ月の追跡調査期間を通じて最高矯正視力検査の測定手順の逸脱があったため,最高矯正視力の有効性解析では当該C1例をPPS不採用とした.したがって,有効性解析対象集団のFASはC50例,PPSはC50例(最高矯正視力の解析ではCPPSはC49例)となった.Ca..主要評価項目に関する結果本治験の主要な解析対象集団CFASにおける,最終評価時の中心窩平均網膜厚を表6に示した.中心窩平均網膜厚の変化量の平均値(95%信頼区間下限.上限)はC.150.0Cμm(.200.9.C.99.1Cμm)であり,信頼区間の上限と設定したC.100Cμmとの差はC1Cμm以内であった.中心窩平均網膜厚はスクリーニング時と比較した対応あるCt検定で有意な減少が認められた(p<0.001).なおCPPSはCFASと同一の結果であった.また,病型別での中心窩平均網膜厚の変化量を表7に示した.BRVOがC.152.6μm(C.209.2.C.96.1μm),CRVO8例2例1例投与後12カ月追跡調査終了例数39例性別男C29(58.0)女C21(42.0)登録被験者数治験薬被験者数投与12週観察期間終了例数項目50例50例42例投与12週内中止・脱落例数投与12週時終了例数投与7カ月終了例数図.1被験者の内訳表.5被験者背景(FAS)解析対象被験者数C50C年齢(歳)平均値±標準偏差C64.7±8.0最小.最大47.77RVO罹病期間(カ月)平均値±標準偏差C2.22±2.41最小.最大0.133カ月未満C40(C80.0)3カ月以上C6カ月未満C6(C12.0)6カ月以上C4(8C.0)病型網膜静脈分枝閉塞症C45(90.0)網膜中心静脈閉塞症C5(10.0)中心窩平均網膜厚(μm)平均値±標準偏差C575.3±176.5最小.最大301.1047400Cμm未満C8(C16.0)400Cμm以上C500Cμm未満C11(C22.0)500Cμm以上C600Cμm未満C9(C18.0)600Cμm以上C22(C44.0)最高矯正視力(文字)平均値±標準偏差C67.1±9.5最小.最大41.80眼圧(mmHg)平均値±標準偏差C15.0±2.3最小.最大10.21被験者数(%)が.126.0Cμm(C.194.8.C.57.2Cμm)であった.Cb..副次評価項目に関する結果FASにおける中心窩平均網膜厚および変化量の推移を図2および表8に示した.各評価時期および最終評価時のスクリーニング時からの変化量は,投与後C1週より減少し,投与後のすべての観察期において有意な減少がみられた(いずれもp<0.001).また,FASにおける最高矯正視力および変化量の推移を図3および表9に示した.各評価時点におけるスクリーニング時からの中心窩平均網膜厚は,治験薬投与後4週から有意な文字数の改善がみられたが(4週でCp=0.023,8週およびC12週でCp=0.001),最終評価時は有意差が認められなかった.なおいずれもCPPSでもCFASと同一の結果であ表.6最終評価時における中心窩平均網膜厚(FAS)中心窩平均網膜厚中心窩平均網膜厚(μm)変化量(μm)被験者数C50C50平均値C±標準偏差C425.4±191.3C.150.0±179.1最小.最大184.0.C1018C.683.0.C31395%信頼区間(下限.上限)C─C.200.9.C.99.1対応あるCt検定p<C0.001C─表.7最終評価時における病型別中心窩平均網膜厚の変化量平均値±標準偏差最小.最大95%信頼区間病型被験者数(下限.上限)(μm)(μm)(μm)網膜静脈分枝閉塞症C45C.152.6±188.1C.683.0.313.0C.209.2.C.96.1網膜中心静脈閉塞症C5C.126.0±55.4C.197.0.C.69.0C.194.8.C.57.2C中心窩平均網膜厚(μm)8007006005004003002001000スクリーニング時図.2中心窩平均網膜厚の推移(FAS)平均値C±標準偏差.***:p<0.001対応あるCt検定.表.8中心窩平均網膜厚変化量の推移(FAS)1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C5046C44C42C50C平均値C±標準偏差(μm)C.84.0±114.1C.124.3±116.4C.167.9±155.0C.192.1±155.5C.150.0±179.1Cった.C3..安全性a..副作用治験薬投与後C12カ月までにC5%以上発現した副作用は,眼圧上昇,結膜充血,結膜浮腫,血中コルチゾール減少および血中トリグリセリド上昇であった(表10).なお重篤な副作用は認められなかった.治験薬投与後C12週以内に,スクリーニング時に認められた現病の悪化によりC8例が中止に至り,その内訳は,RVOの悪化C4例,一過性の視力低下C3例,黄斑浮腫の悪化C1例であった.これらはいずれも投与対象眼に発現し,程度は軽度から中程度の悪化とされ,治験薬との因果関係は「関係なし」と判定された.Cb..眼圧上昇および水晶体混濁投与対象眼での眼圧上昇はC7例(14.0%)に認められ,その内訳は治験薬投与後C12週までにC5例(10.0%),12週以降12カ月後までにC2例(4.0%)であった.これらC7例の眼圧上昇はC24CmmHg未満がC1例(2%),24CmmHg以上C30CmmHg未満がC5例(10.0%),30CmmHg以上がC1例(2.0%)であった.治験薬投与後C12週までにみられたC5例については,いずれも眼圧下降点眼薬の使用により,転帰は軽快または消失となった.12週以降C12カ月後までのC2例は,被験者への連最高矯正視力(文字)1009080706050403020100スクリーニング時1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値C±標準偏差.*:p<0.05,**:p<0.01対応あるCt検定.表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C50474442C50C平均値±標準偏差(文字)C1.7±8.1C2.3±6.8C3.9±7.1C4.6±8.1C2.6±9.8C表.10副作用一覧副作用名発現数(%)CMedDRA/Jver.18.150例眼結膜浮腫眼脂水晶体混濁点状角膜炎硝子体.離硝子体浮遊物結膜充血前房内細胞眼圧上昇5例(1C0.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)6例(1C2.0%)1例(2C.0%)7例(1C4.0%)眼以外アラニンアミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)血中コルチゾール減少血中ブドウ糖増加血圧上昇血中トリグリセリド増加血中尿素減少血中尿素増加尿中ブドウ糖陽性白血球数減少好中球百分率増加単球百分率増加リンパ球百分率減少筋骨格痛体位性めまい頭痛5例(1C0.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)4例(8C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)絡がとれなかったことおよび治験薬投与C12カ月時に眼圧上昇がみられたことから,転帰は不変と判定した.なお,WP-0508ST投与から眼圧上昇が発現されるまでの期間は,平均C100.1日(最小C29日,最大C357日)であり,持続した期間は平均C157日(最小C28日,最大C315日)であった.水晶体混濁はC2例(4%)で発現し,治験薬投与後C57日目およびC169日後にそれぞれC1例が認められ,細隙灯顕微鏡検査による水晶体混濁では,投与後C12カ月の時点でいずれもC1段階の進展であった(WHO分類).なおすべてにおいて外科的処置は行われなかった.CIII考察RVOは網膜内に分枝した静脈が閉塞するCBRVOと,視神経内で静脈が閉塞するCCRVOとに大別されるが,いずれも黄斑浮腫に起因して視力障害を引き起こす.黄斑浮腫の悪化にはCIL-6やCVEGFなどの炎症性サイトカインが関与するため10),これらを抑制するCTAは有効であることが報告されている11,12).黄斑浮腫は自然治癒する場合も認められるが,慢性化することも多く症例により予後には大きな違いがある.本治験における罹病期間の平均はC2.22カ月であるが,症状の悪化に伴い投与後C12週以内に中止となったC7例の罹病期間は平均0.86カ月であった.これらの患者は,VEGFや炎症性サイトカインが急激に産生され悪化したと推察された.そのため中止例により信頼区間幅が拡大し,最終評価時におけるC95%信頼区間上限があらかじめ設定した基準に及ばなかったと考えられた.しかし,その差異はC1Cμm以内とわずかであり,(112)投与後C12週における中心窩平均網膜厚はC.192.1Cμmの減少を示し,変化量のC95%信頼区間はC.240.5.C.143.6Cμmと信頼区間上限は.100Cμmを超える改善が示された.また,早期の時点(投与後C1週目)に中止となったC2例を除外した最終評価時の平均値は.163.4Cμm,信頼区間上限はC.114.8μmであり,投与後すべての観察期で中心窩平均網膜厚に有意差が認められたことからも,本治験におけるCWP-0508STの有効性は示されたと判断した.病型別の部分集団におけるそれぞれの中心窩平均網膜厚の変化量を既報と比較すると,TAの硝子体内投与による中心窩平均網膜厚の変化量は,BRVOではC.142Cμm11)およびCRVOではC.196Cμm12)に対し,本治験ではCBRVOはC.152.6μmおよびCCRVOではC.126.0Cμmと,CRVOでは報告された数値よりも改善効果が低かった.この背景には,CRVOの被験者数はわずかC5例であったため,例数不足により十分に評価されなかったことに起因していると考えられた.TAの局所投与は硝子体内やCTenon.下に行われるが,STTAのほうが効果はやや劣る可能性が報告されている13).STTAは投与されたCTAが強膜や短後毛様動脈を介して脈絡膜に移行するが,硝子体内投与は,TAが病変部である網膜に直接接触するためCSTTAよりも即効性に優れていると考えられる.しかし,本治験において最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量が.150Cμmであったこと,また投与後C12週の結果と比較しても,BRVOではCTAの硝子体内投与の報告11)と同程度であった.そのため,Tenon.下投与においても黄斑浮腫の改善効果は硝子体内投与と同等であることが期待される.硝子体内投与は,Tenon.下投与と比べると眼内炎のリスクが懸念され,またCTAによる眼圧上昇や水晶体混濁の副作用を軽減するためにも,日本ではCTenon.下投与が選択されることが多い.TAの硝子体内投与における眼圧上昇はC33.50%,白内障はC59.83%で発現する報告例があり14,15),またCWP-0508の硝子体内投与16)で報告された眼圧上昇(25.6.27.3%),白内障(15.2.23.5%)と比較しても本治験では半分程度の発現率であった.したがってCWP-0508STのCSTTAによるCRVOに伴う黄斑浮腫の改善は,副作用の軽減を目的とする意味においても十分有用であると考えられる.また,硝子体内投与に比べCSTTAは,外来などで比較的に簡易的に行えるメリットもある.しかし,ステロイドに対し過敏に反応して眼圧が上昇するステロイドレスポンダーが存在し,その頻度は原発開放隅角緑内障およびその血縁者,若年者,高度近視患者,糖尿病患者に多いことが報告されているため17),TAの投与には十分な配慮が必要となる.黄斑浮腫の治療に用いられる抗CVEGF薬は,浮腫を抑制する効果は高いものの,1.2カ月ごとに投与を繰り返す必要がある.一方CTAは抗CVEGF薬と比べ,即効性に劣るが持続期間は約C3カ月と長く,頻回投与が避けられる特徴がある.そこで抗炎症作用を有するCTAと抗CVEGF薬の併用による有効性が検討され,Choら18)はベバシズマブの硝子体内注射とCSTTAを組み合わせることによる中心窩平均網膜厚の改善効果を,またCMoonら19)はCSTTAにより抗CVEGF薬の投与間隔の延長が可能であることを報告している.これらの結果は,抗CVEGF薬による治療が必要とされながらも,長期的な継続使用が困難な患者にとっては一助となるものであろう.したがって,WP-0508STのCSTTAは,RVOに伴う黄斑浮腫治療法の選択肢の拡大に寄与するものである.利益相反:小椋祐一郎,飯田知弘,志村雅彦(カテゴリーCC:わかもと製薬㈱)文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamaStudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)JonasCJB,CSofkerA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C20013)GreenbergCPB,CMartidisCA,CRogersCAHCetal:IntravitrealCtriamcinoloneacetonideformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmolC86:247-248,C20024)ChenCSD,CLochheadCJ,CPatelCCKCetal:IntravitrealCtriam-cinoloneCacetonideCforCischaemicCmacularCoedemaCcausedCbyCbranchCretinalCvainCocclusion.CBrCJCOphthalmolC88:C154-155,C20045)MoshfeghiCDM,CKaiserCPK,CScottCIUCetal:AcuteCendo-phthalmitisCfollowingCintravitrealCtriamcinoloneCacetonideCinjection.AMJOphthalmolC136:791-796,C20036)TheCSCORECStudyCInvestigatorCGroup.CSCORECStudyCReport2:InterobserverCagreementCbetweenCinvestigatorCandCreadingCcenterCclassi.cationCofCretinalCveinCocclusionCtype.OphthalmologyC116:756-761,C20097)OZURDEXCGENEVACStudyGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.OphthalmologyC117:1134-1146,C20108)KreutzerCTC,CAlgeCCS,CWolfCAHCetal:IntravitrealCbeva-cizumabCforCtheCtreatmentCofCmacularCoedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC92:C351-355,C20089)PriglingerSG1,WolfAH,KreutzerTCetal:IntravitrealbevacizumabCinjectionsCforCtreatmentCofCcentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCaCprospectiveCtrial.CRetinaC27:1004-1012,C200710)坂本泰二:黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療.あたらしい眼科27:1333-1337,C201011)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1115-1128,C200912)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C200913)CardilloJA,MeloLA,CostaRAetal:Comparisonofintra-vitrealCversusCposteriorCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.OphthalmologyC112:1557-1563,C200514)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Ran-domizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,201015)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Three-yearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabet-icmacularedema.ArchOphthalmolC127:245-251,C200916)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたCWP-0508(マキュエイドCR硝子体内投与)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:138-146,C201417)RazeghinejadCMR,CKatzLJ:Steroid-inducedCiatrogenicCglaucoma.OphthalmicRes47:66-80,C201218)ChoCA,CChoiCKS,CRheeCMRCetal:CombinedCtherapyCofCintravitrealbevacizumabandposteriorsubtenontriamcin-oloneinjectioninmacularedemawithbranchretinalveinocclusion.JKoreanOphthalmolSocC53:276-282,C201219)MoonJ,KimM,SagongM:Combinationtherapyofintra-vitrealCbevacizumabCwithCsingleCsimultaneousCposteriorCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCdueCtobranchretinalveinocclusion.EyeC30:1084-1090,C2016***

網膜静脈閉塞症に続発した黄斑円孔および黄斑円孔網膜剝離へのHemi-Inverted Internal Limiting Membrane (ILM)Flap Technique硝子体手術の応用

2016年1月31日 日曜日

140あたらしい眼科Vol.6101,23,No.3(140)1400910-1810/16/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科33(1):140.144,2016c〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,Ph.D.,TaneMemorialEyeHospital,Sakaigawa,1-1-39,Nishiku,Osaka550-0024,JAPAN網膜静脈閉塞症に続発した黄斑円孔および黄斑円孔網膜.離へのHemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTechnique硝子体手術の応用櫻井寿也木下太賀高岡源福岡佐知子真野富也多根記念眼科病院ParsPlanaVitrectomywithHemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTechniqueforCaseswithRetinalVeinOcclusionFollowedbyMacularHoleandMacularHoleRetinalDetachmentToshiyaSakurai,TaigaKinoshita,HajimeTakaoka,SachikoFukuokaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital目的:網膜静脈閉塞症(RVO)の晩期合併症に黄斑円孔(MH)がある.今回,RVOに続発したMH,および黄斑円孔網膜.離(MHRD)を経験し,これに対し,Hemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTecnique(以下,Hemi-Inverted法)を用いた硝子体手術を施行したので報告する.症例:症例1)63歳,女性.半側網膜中心静脈閉塞症(以下,hemi-CRVO)を右眼に発症し,その2カ月後にMHを発症した.初診時右眼矯正視力(0.3),血管アーケード下方に多数の軟性白斑と黄斑円孔を認めHemi-Inverted法併用硝子体手術施行.術1年後の経過観察時,円孔の閉鎖を認め矯正視力(0.4).症例2)64歳,女性.平成23年10月に網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を左眼に発症し,その後,脳動脈瘤手術のため眼科治療が途絶えていた.発症から7カ月後に当科受診.受診時左眼矯正視力(0.04),黄斑円孔網膜.離を認め,Hemi-Inverted法併用硝子体手術施行.術1年後の経過観察時,円孔閉鎖網膜復位を認め矯正視力(0.6)に改善した.結論:RVOに合併したMH,MHRDに対するHemi-Inverted法併用硝子体手術は円孔閉鎖に有用であった.今後,より多くの症例数による長期間の経過観察が必要である.Purpose:Macularhole(MH)maydevelopasalatecomplicationafterretinalveinocclusion(RVO).Weper-formedparsplanavitrectomy(PPV)withhemi-invertedInternalLimitingMembrane(ILM)flaptechniqueforcas-eswithMHandmacularholeretinaldetachment(MHRD)afterRVO.Cases:Case1:A63-year-oldfemalehadhemi-centralretinalveinocclusion(hemi-CRVO)inherlefteye,followedbyMH2monthslater.Decimalbest-cor-rectedvisualacuity(BCVA)inherrighteyewas0.3,andsoftexudatesintheinferiorarcadeandMHwereobserved.PPVwithhemi-invertedILMflaptechniquewasperformed.Oneyearaftersurgery,MHclosurewasobservedanddecimalBCVAinherrighteyewas0.4.Case2:A64-year-oldfemalehadbranchretinalveinocclusion(BRVO)inherlefteye.However,duetocerebralaneurysmsurgery,shecouldnotvisitourofficeforacheckup.After7monthsfromherfirstvisit,decimalBCVAofherlefteyewasreducedto0.04,andMHRDwasobserved.SheunderwentPPVwithhemi-invertedILMflaptechnique.Oneyearpostoperatively,MHclosureandretinalreattachmentcouldbeseenanddecimalBCVAinherlefteyeimprovedto0.6.Conclusion:PPVwithHemi-invertedILMflaptechniqueforcaseswithRVOfollowedbyMHandMHRDwasuseful.Largernumbersandlong-termfollow-uparerequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):140.144,2016〕Keywords:黄斑円孔,インバーテッドILMフラップ法,網膜静脈閉塞症.maculahole,invertedILMflaptech-nique,retinalveinocclusion.140(140)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY6101,23,No.3(140)1400910-1810/16/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科33(1):140.144,2016c〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,Ph.D.,TaneMemorialEyeHospital,Sakaigawa,1-1-39,Nishiku,Osaka550-0024,JAPAN網膜静脈閉塞症に続発した黄斑円孔および黄斑円孔網膜.離へのHemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTechnique硝子体手術の応用櫻井寿也木下太賀高岡源福岡佐知子真野富也多根記念眼科病院ParsPlanaVitrectomywithHemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTechniqueforCaseswithRetinalVeinOcclusionFollowedbyMacularHoleandMacularHoleRetinalDetachmentToshiyaSakurai,TaigaKinoshita,HajimeTakaoka,SachikoFukuokaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital目的:網膜静脈閉塞症(RVO)の晩期合併症に黄斑円孔(MH)がある.今回,RVOに続発したMH,および黄斑円孔網膜.離(MHRD)を経験し,これに対し,Hemi-InvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTecnique(以下,Hemi-Inverted法)を用いた硝子体手術を施行したので報告する.症例:症例1)63歳,女性.半側網膜中心静脈閉塞症(以下,hemi-CRVO)を右眼に発症し,その2カ月後にMHを発症した.初診時右眼矯正視力(0.3),血管アーケード下方に多数の軟性白斑と黄斑円孔を認めHemi-Inverted法併用硝子体手術施行.術1年後の経過観察時,円孔の閉鎖を認め矯正視力(0.4).症例2)64歳,女性.平成23年10月に網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を左眼に発症し,その後,脳動脈瘤手術のため眼科治療が途絶えていた.発症から7カ月後に当科受診.受診時左眼矯正視力(0.04),黄斑円孔網膜.離を認め,Hemi-Inverted法併用硝子体手術施行.術1年後の経過観察時,円孔閉鎖網膜復位を認め矯正視力(0.6)に改善した.結論:RVOに合併したMH,MHRDに対するHemi-Inverted法併用硝子体手術は円孔閉鎖に有用であった.今後,より多くの症例数による長期間の経過観察が必要である.Purpose:Macularhole(MH)maydevelopasalatecomplicationafterretinalveinocclusion(RVO).Weper-formedparsplanavitrectomy(PPV)withhemi-invertedInternalLimitingMembrane(ILM)flaptechniqueforcas-eswithMHandmacularholeretinaldetachment(MHRD)afterRVO.Cases:Case1:A63-year-oldfemalehadhemi-centralretinalveinocclusion(hemi-CRVO)inherlefteye,followedbyMH2monthslater.Decimalbest-cor-rectedvisualacuity(BCVA)inherrighteyewas0.3,andsoftexudatesintheinferiorarcadeandMHwereobserved.PPVwithhemi-invertedILMflaptechniquewasperformed.Oneyearaftersurgery,MHclosurewasobservedanddecimalBCVAinherrighteyewas0.4.Case2:A64-year-oldfemalehadbranchretinalveinocclusion(BRVO)inherlefteye.However,duetocerebralaneurysmsurgery,shecouldnotvisitourofficeforacheckup.After7monthsfromherfirstvisit,decimalBCVAofherlefteyewasreducedto0.04,andMHRDwasobserved.SheunderwentPPVwithhemi-invertedILMflaptechnique.Oneyearpostoperatively,MHclosureandretinalreattachmentcouldbeseenanddecimalBCVAinherlefteyeimprovedto0.6.Conclusion:PPVwithHemi-invertedILMflaptechniqueforcaseswithRVOfollowedbyMHandMHRDwasuseful.Largernumbersandlong-termfollow-uparerequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):140.144,2016〕Keywords:黄斑円孔,インバーテッドILMフラップ法,網膜静脈閉塞症.maculahole,invertedILMflaptech-nique,retinalveinocclusion.140(140)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016141(141)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は,しばしば遭遇する疾患であるが,晩期の合併症として黄斑円孔(macularhole:MH)や黄斑円孔網膜.離(macularholeretinaldetachment:MHRD)を発症する場合がある.近年,難治性MHに対し,MichalewskaらはInvertedInternalLimitingMembrane(ILM)FlapTechnique(以下,Invert-ed法)を考案し良好な成績を報告した1).Inverted法は円孔周囲のILMを円孔縁に付着させたままの状態で全周翻転し,円孔内に押し込める操作を必要とする手技であるが,筆者らは,反転するILMを半周に減少させるInverted法の変法として,Hemi-InvertedILMFlapTecnique(以下,Hemi-Inverted法)を考案し,この方法を用いた硝子体手術を施行し良好な結果を報告してきた2,3).今回RVOに続発したMHにこの方法を施行したので報告する.I症例対象は,RVOに合併したMH,MHRD2例2眼.〔症例1〕63歳,女性.初診:2012年6月.主訴:右眼視力低下.既往歴:高血圧症.家族歴:特記事項なし.現病歴:2012年5月右眼視力低下を自覚,近医にて半側網膜中心静脈閉塞症と診断され,ベバシズマブ硝子体注射を受け,1カ月後の診察によりMHの合併により,当院紹介となる.初診時所見:VD=(0.3×sph+0.5D(cyl.0.25DAx145°),図1Hemi-Inverted法のシェーマ①.離したILMを黄斑円孔半周分のみ円孔縁に付着した状態で残す.②残したILMをインバーテッドにより黄斑円孔内に挿入する.①②図2症例1の術前眼底写真(左),フルオレセイン蛍光眼底撮影像(中),OCT画像(右)図3症例1の術18カ月後,眼底写真(左),OCT画像(右)円孔閉鎖は得られたが,外境界膜(ELM),視細胞内節外節接合部(IS/OS)の改善は得られていない.図3症例1の術18カ月後,眼底写真(左),OCT画像(右)円孔閉鎖は得られたが,外境界膜(ELM),視細胞内節外節接合部(IS/OS)の改善は得られていない. 図4症例2の術前眼底写真(左),OCT画像(右)図5症例2の術後18カ月眼底写真(左上),OCT画像:術2週後(左下),術4週後(右上),術8週後(右中),術18カ月後(右下)VS=(1.0×sph.0.5D(cyl.0.5DAx90°).眼圧は右眼11mmHg,左眼13mmHg.眼底所見は右眼)下方網膜静脈に半側網膜中心静脈閉塞症を認め,黄斑部にはMHを伴っていた.右眼眼軸長23.5mm.円孔最大径は1,201μm,円孔最小径580μm.左眼)異常なし.治療および経過:同年7月,白内障手術併用23ゲージ(G)経毛様体扁平部硝子体切除(23GPPV+PEA+IOL),人工的後部硝子体.離作製,ブリリアントブルーG(0.25mg/ml)にてILMを染色し,Hemi-Inverted法によるILM翻転,液-空気置換,20%SF6(六フッ化硫黄)ガスタンポナーデ術を施行した.術後,MHの閉鎖を認め,術後18カ月時の右眼視力はVD=(0.4×sph+0.5D(cyl.0.25DAx145°),円(142) 孔閉鎖は得られたが,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)において外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinneroutersegments:IS/OS)の改善は得られていない(図2,3).〔症例2〕64歳,女性.初診:2011年10月.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧症.家族歴:特記事項なし.現病歴:2011年9月左眼視力低下を自覚,近医にて網膜静脈分枝閉塞症と診断されたが,その後脳動脈瘤を指摘され脳外科にて脳動脈瘤クリッピング手術のため眼科受診不可となったため,2012年5月再診となる.再診時所見:VD=(0.8×sph+2.0D(cyl.0.75DAx20°),VS=(0.04×sph+3.0D(cyl.0.5DAx160°).眼圧:右眼13mmHg,左眼18mmHg.前眼部:両眼異常なし.中間透光体:両眼軽度白内障.眼底:右眼異常なし.左眼は下耳側網膜静脈に閉塞を認め,黄斑部にはアーケード血管にまで広がる範囲までMHRDが生じていた.左眼軸長23.15mm.治療および経過:同年8月,症例1と同様にHemiInverted法によるILM翻転を併用した23G,PPV+PEA+IOLを施行した.術後,ILMflapと思われる架橋構造を認め,術1カ月時で,網膜復位に先行して,MHの閉鎖が得られ,術4カ月後に網膜下液が消失し,網膜復位の状態となった.術後18カ月時の左眼視力は,VS=(0.6×sph+0.5D(cyl.0.25DAx145°),MH閉鎖,網膜復位が得られ,OCT画像において,ELM,IS/OSの改善が得られた(図3,4).II考察RVOは網膜動静脈交叉部や篩状板後方で網膜静脈の循環障害によって生じる.静脈閉塞から静脈のうっ滞により,静脈の拡張,蛇行,毛細血管からの出血と血管内皮細胞の障害から浮腫が生じる.浮腫が強い場合には.胞状浮腫が出現し,隔壁が融合して拡大し,表層が破綻し部分孔となり,さらに血管外漏出が続くと漿液性網膜.離に発展することになる.このように黄斑部に浮腫が遷延化することで黄斑部は脆弱な状態と変化し,さらに,硝子体癒着が存在することで黄斑部への牽引が生じると,MHに至ると推測される.近年では,黄斑浮腫の形成には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が大きくかかわっていることが知られている4).そこで,RVOからの黄斑部浮腫に対し,抗VEGF治療が多くの施設で施行され,早期の視力改善が得られている5.7).ただ,抗VEGFの硝子体注入後にMHを生じた報告もあり,それは眼内注射そのものによる硝子体牽引という物理的要因や,抗VEGF注入後の硝子体牽引の増加に伴ってMHが発生すると報告されている8).今回の症例では,症例1の場合半側網膜静脈中心静脈閉塞症に対し,発症直後に抗VEGFの硝子体投与を受け,その1カ月後にMHを発生している.この症例の術中所見として,後部硝子体.離は生じていなかったために,人工的後部硝子体.離の操作を必要としたことから,黄斑部への硝子体の牽引が存在したと推測され,また抗VEGFの投与も関与し,MHの発症に黄斑浮腫と硝子体牽引が関与していたものと考えられる.症例2では,網膜静脈分枝閉塞症の発症から約半年の間無治療のため,黄斑部に浮腫が遷延化しており,さらに症例1と同様に,術中所見で後部硝子体は未.離の状態が確認された.この場合にも症例1と同様にMHが生じやすい状況であった.症例2では術直後黄斑円孔は閉鎖されていたが網膜下液が残存しており吸収には4カ月もの期間を要した.通常の強度近視眼におけるMHRDへのInverted法の場合,術後早期に網膜下液が吸収されることが多い.今回のRVOに併発したMHRDの場合は,長期にわたる滲出性病変も加わったために,網膜下液の粘稠性が高かったことが関与している可能性がある.巨大円孔や陳旧性円孔の硝子体手術にInverted法は難治性黄斑円孔の円孔閉鎖を促進する新しい方法である.通常のILM.離法と比べ,反転させたILMが網膜組織の架橋形成に役立ちグリオーシスを促進させる効果があると推測している1).しかしながら,病理学的な知見はなく,黄斑円孔術後の閉鎖は自然閉鎖の場合と同じく,円孔の上に網膜がせり出して架橋した後,中心窩.離が徐々に吸収され閉鎖されると報告され9),Inverted法で推測できることは,ILMを.離し翻転することから黄斑部分に炎症が生じ,創傷治癒により円孔が閉鎖されると考えられる.さらに,Inverted法は円孔全周のILMを円孔内に翻転することから,円孔の正常組織形成の妨げになる可能性をも否定できない10).そこで筆者らは,Inverted法の変法として円孔内に反転するILMを半周に減少させたHemi-Inverted法を考案し難治性黄斑円孔での有用性について報告した.今回RVOに続発したMHは円孔径も大きく,MHRDを生じていたことから,通常の硝子体手術では円孔閉鎖が困難と考えHemi-Inverted法を適用した.今回の症例では円孔の閉鎖は認められたが網膜外層構造の再構築には至らない症例もあり,手術手技によるものかRVOの影響であるものかは不明である.RVOにおいて黄斑浮腫の遷延化と後部硝子体未.離のみられる症例では,MHを生じる可能性も念頭に治療をすべきである.今後,症例数を増やし,長期間の術後経過観察が必要であるが,通常のILM.離の手術方法で閉鎖が得られにくいと考えられるMHの場合には,HemiInverted法は選択肢の一つと示唆された.(143)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016143 この論文の要旨は第119回日本眼科学会総会にて発表した.文献1)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,2)櫻井寿也,木下太賀,田野良太郎ほか:Hemi-InvertedILMflaptechnique手術を行った黄斑円孔の1年後経過.臨眼68:1449-1453,20143)櫻井寿也,木下太賀,福岡佐知子ほか:InvertedInternalLimitingMembraneFlapTechniqueとその変法.眼科手術28:423-427,20154)辻川明孝:抗VEGF薬.あたらしい眼科29(臨増):165171,20125)CampochiaroPA,HeierJS,FeinerLetal:Ranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIIIstudy.Ophthalmology117:1102-1112,20106)BrownDM,CampochiaroPA,BhisitkulRBetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:12-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:1594-1602,20117)CampochiaroPA,SophieR,PearlmanJetal:Long-termoutcomesinpatientswithretinalveinocclusiontreatedwithranibizumab:theRETAINstudy.Ophthalmology121:209-219,20148)ManishN,VikramM,KamalN:MacularHoleProgressionafterIntravitrealBevacizumabforHemicentralRetinalVeinOcclusion.CaseReportsinOphthalmologicalMedicineVolume2011(2011),ArticleID679751,3pages9)TakahashiH,KishiS:Opticalcoherencetomographyimagesofspontaneousmacularholeclosure.AmJOphthalmol128:519-520,199910)ImaiH,AzumiA:TheexpansionofRPEatrophyaftertheinvertedILMflaptechniqueforachroniclargemacularhole.CaseRepOphthalmol5:83-86,2011***(144)