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術後眼内炎との鑑別を要した未治療糖尿病患者における白内障術後早期の糖尿病虹彩炎の1例

2025年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(8):1054.1057,2025c術後眼内炎との鑑別を要した未治療糖尿病患者における白内障術後早期の糖尿病虹彩炎の1例福田泰雅石田友香厚東隆志井上真杏林大学医学部眼科学教室CEarlyPostoperativeDiabeticIritisAfterCataractSurgeryinanUntreatedDiabeticPatientRequiringDi.erentiationfromPostoperativeEndophthalmitisYasumasaFukuda,TomokaIshida,TakashiKotoandMakotoInoueCDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicineC白内障術後早期に眼内炎との鑑別を要した糖尿病虹彩炎の症例を経験した.症例はC45歳,男性.繰り返す両眼性の虹彩炎に対し加療歴があり,左眼白内障が進行したため前医で白内障手術が施行された.術後C3日目に霧視を訴え,術後眼内炎の疑いで当院へ紹介となった.初診時,左眼は視力(1.2),眼圧C15CmmHg,軽度の球結膜充血,角膜後面沈着物,前房蓄膿,フィブリン析出を認めた.硝子体混濁はなく,後極網膜に硬性白斑,耳側周辺部網膜に斑状出血を認めた.採血ではCHbA1c11.7%と高値であり,糖尿病治療は自己中断していた.経過より術後眼内炎ではなく糖尿病虹彩炎の再発と診断し,ステロイド点眼を強化して炎症所見は改善した.白内障手術後に虹彩炎が増悪すると,術後眼内炎と鑑別困難なことがある.虹彩炎の原因としてコントロール不良の糖尿病があり,白内障手術前の十分な血糖コントロールの必要性が示唆された.CWereportacaseofdiabeticiritisthatneededdi.erentiationfromendophthalmitisintheearlypostoperativephase.A45-year-oldmanwithahistoryofrecurrentbilateraliritisunderwentcataractsurgery.At3-dayspost-operative,heexperiencedfoggyvisionandwasreferredtoourhospitalduetoconcernsaboutendophthalmitis.Ini-tialCexaminationCshowedCaCbest-correctedCvisualCacuityCofC1.2CinChisCleftCeyeCandCanCintraocularCpressureCofC15CmmHg.CFindingsCincludedCmildCconjunctivalChyperemia,CkeraticCprecipitates,CpusCinCtheCanteriorCchamber,CandC.brinprecipitation.Notably,therewasnovitreousopacity,yettheretinaexhibitedhardexudatesanddothemor-rhages.CACbloodCtestCrevealedCanCelevatedCHbA1cClevelCof11.7%.CAfterCadministeringCtopicalCsteroids,CtheCin.ammationimproved.Hewasultimatelydiagnosedwithrecurrentdiabeticiritis,notendophthalmitis.Thiscasehighlightsthechallengesofdistinguishingtheseconditionspostcataractsurgery,andemphasizestheneedforglu-cosecontrolpriortotheprocedurebeingperformed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(8):1054.1057,C2025〕Keywords:糖尿病虹彩炎,白内障手術,術後眼内炎.diabeticiritis,cataractsurgery,postoperativeendophthal-mitis.Cはじめに白内障術後の感染性眼内炎の特徴的な所見として角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン析出,Descemet膜皺襞などの虹彩炎所見や,硝子体混濁や網膜血管炎所見が知られている1.3).術後眼内炎を疑った場合は,失明を防ぐために早期の加療を行う必要がある1.3).術後眼内炎の鑑別診断としては,中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorsegmentCsyndrome:TASS)を含む非感染性虹彩炎があげられる3,4).とくに糖尿病患者においては,まれであるが感染性眼内炎のように前房蓄膿や前房フィブリン形成を伴うことがあり3),糖尿病虹彩炎と感染性眼内炎との鑑別が困難となる.さらに,このような症例で糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)を有する場合には,網膜出血や白斑といった眼底所見も感染性眼内炎に類似するため,〔別刷請求先〕石田友香:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TomokaIshida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversity,6-20-2Shinkawa,Mitaka-shi,Tokyo181-8611,JAPANC1054(120)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(120)C10540910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1左眼の初診時所見a:前眼部細隙灯顕微鏡写真.軽度の球結膜の充血,前房細胞C3+,フレアC1+,角膜後面沈着物,前房蓄膿を認め瞳孔領にはフィブリンが析出していた.Cb:広角合成カラー眼底写真.硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認めた.c:Bモード超音波検査.硝子体混濁は認めなかった.鑑別がより困難となる.今回,筆者らは白内障術後眼内炎との鑑別を要した前房蓄膿を呈する糖尿病虹彩炎の症例を経験したので報告する.CI症例49歳,男性.手術中の合併症がなかった左眼白内障手術後C2日目より左眼の霧視が出現し,前医を受診した.術後眼内炎が疑われたため当科へ紹介となった.既往歴は,糖尿病(10年前に指摘,通院自己中断),両眼の単純CDR,詳細不明の繰り返す両虹彩炎であった.前医からC0.1%ベタメタゾン点眼C4回/日,0.5%モキシフロキサシン点眼C4回/日,ブロクフェナクナトリウム点眼C2回/日が処方されていた.初診時視力は右眼C0.5(0.7C×.5.25D(cyl.0.50DCAx170°),左眼C0.2(1.2C×IOL×.2.75D(cyl.1.50DAx5°).眼圧は右眼C19mmHg,左眼C15CmmHgであった.細隙灯顕微鏡所見では,右眼はCGrade2の核硬化度を有する白内障を認めた.左眼は眼内レンズ挿入眼であり,軽度の球結膜の充血,微塵状角膜後面沈着物,前房細胞C3+,フレアC1+,前房蓄膿,瞳孔領にはフィブリンの析出と,前部硝子体中にC1+の細胞がみられた(図1a).後.破損を含めた手術合併症の所見はなかった.両眼眼底に軟性白斑,硬性白斑,網膜出血を認めた(図1b).光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)では両眼ともに周辺部に散在する無灌流域を認め,前増殖CDR(pre-proliferativeDR:prePDR)の状態であった.左眼のBモード超音波検査では硝子体腔に高輝度な硝子体混濁はみられなかった(図1c).採血検査では血算と白血球分画は正常,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)はC0.01Cmg/dlと正常値であったが,血糖値がC320Cmg/dl,HbA1cがC11.9%と高値を認め,インスリン分泌能を示すCHOMA-bはC7.4%と低下,インスリン抵抗性を示すCHOMA-RはC4.6と上昇を認めた.腎機能はクレアチニンC0.77Cmg/dl,eGFR77.7ml/min,尿所見では尿糖がC4+,尿蛋白C2+,尿潜血C1+であった.鑑別として,TASS,術後感染性眼内炎,糖尿病虹彩炎が考えられた.本症例は両眼に虹彩炎の既往があったが,血糖コントロールが不良なために非感染性虹彩炎である糖尿病虹彩炎を再燃した可能性が高いと判断した.しかし,術後感染性眼内炎が完全には否定できなかったため,ステロイド点眼加療を強化し,増悪時は硝子体手術介入ができるように頻回に診察することとした.ベタメタゾン点眼液をC2時間おきに増量,瞳孔管理目的にトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩をC1日C4回処方した.同時に内科による血糖コントロールも開始した.初診からC9時間後,矯正視力は(0.8),前房所見は細胞C3+,前房蓄膿は変化なかったが,フレアとフィブリンは改善傾向であった.眼底所見も著変認めなかった.初診からC3日目には矯正視力は(0.6),Descemet膜皺襞の増悪と虹彩後癒着が生じ(121)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1055図2左眼の経過a,b:左眼の初診からC3日目の所見.Ca:前眼部細隙灯写真.初診時と比較し前房蓄膿が改善傾向となっていたが虹彩後癒着を認めた.b:広角合成カラー眼底写真.眼底所見は初診時と比較し,著変を認めなかった.Cc,d:左眼の初診からC7日目の所見.Cc:前眼部細隙灯写真.前房細胞がC±まで改善し,フィブリン析出,前房蓄膿は消失し,虹彩後癒着は残存していた.Cd:広角合成カラー眼底写真.初診時に比較し,軟性白斑(C.)が増加していた.Ce,f:左眼の初診からC3カ月の所見.Ce:前眼部細隙灯写真.炎症所見はすべて消失していたが虹彩後癒着は残存していた.Cf:広角合成カラー眼底写真.7日目に比較し,軟性白斑は不変であったが,網膜出血(.)の増加を認めた.ていたが,前房蓄膿は改善傾向となった(図2a).眼底所見も初診時と比較して著変を認めなかった(図2b).7日目には,前眼部所見は前房細胞C0.5+まで改善し,フィブリンと前房蓄膿は消失していたため,ベタメタゾン点眼をC1日C4回へ減量した(図2c).眼底は初診時と比較し軟性白斑が増加していた(図2d).術後3カ月時点では矯正視力は(1.2),前房内炎症所見はすべて消失したが虹彩後癒着の残存を認めた(図2e).眼底所見はC7日目時点と比較し,軟性白斑は不変であったが,網膜出血の増加を認めた(図2f).この時点でCHbA1cはC5.7%まで改善した.術後C4カ月でベタメサゾン点眼を中止したが術後C6カ月時点でも再燃なく経過している.なお,眼底所見は網膜出血が増加しCDRは悪化し,OCTAにて虚血範囲の増加がみられたため,DRは悪化していると判断し汎網膜光凝固を施行した.CII考按本症例は白内障術後早期に前房炎症を認め,糖尿病虹彩炎と感染性眼内炎やCTASSとの鑑別診断を要した.TASSは手術後C12.48時間以内に発症し,びまん性角膜浮腫,フィブリン析出,前房蓄膿の所見を認める急性の無菌性炎症反応であるC4.6).本症例の発症は術後C12.24時間が経過しているものの,角膜浮腫などの角膜所見に乏しいことからCTASSは否定的と考えた.また,感染性眼内炎における眼底所見では硝子体混濁や網膜血管の白線化,網膜出血,軟性白斑などが認められ1,2),DRの眼底所見では硬性白斑,軟性白斑,網膜斑状出血や点状出血が両眼性に認められる7.10).本症例では軟性白斑,網膜斑状出血がみられるものの,それらの所見は両眼性であること,点状出血や硬性白斑も伴うこと,硝子体混濁がみられないことから,感染性眼内炎による網膜血管炎というよりは,DRに伴う眼底所見である可能性が高いと考えられた.白内障術後眼内炎の所見は,既報では角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン,Descemet膜皺襞,硝子体混濁や網膜血管炎が報告されている1.3).白内障術後虹彩炎でもまれに前房蓄膿やフィブリン析出を示すことがあると報告されており,1,500例の白内障術後虹彩炎を検討したCMoham-madpourら3)の報告によると,2+以上の細胞を伴う虹彩炎はC1,500眼中C126眼で認められ,そのうちC8眼で前房蓄膿,48眼で前房フィブリン形成を認めたと報告している.Wata-nabeら11)の報告では,糖尿病患者のC1.6%で糖尿病虹彩炎がみられ,角膜後面沈着物,前房蓄膿,前房フィブリン形成を伴い,血糖コントロール不良患者に生じやすかった.本症例は血糖コントロール不良例であり,既往にあった原因不明の虹彩炎は,糖尿病虹彩炎であった可能性が高い.白内障手(122)術C2日後に生じた虹彩炎も血糖コントロール不良に伴う糖尿病虹彩炎の再燃であったと考えられ,術後の糖尿病虹彩炎の再燃を予防するためにも術前の血糖コントロールの重要性が示唆された.CSutoら12)は白内障術前の血糖コントロールの違いによる術後CDRの悪化率に有意差はなかったことを報告している.しかし,糖尿病の血糖コントロールが不良な場合,有意に術後感染のリスクが上がることが報告されている13,14).術後感染のリスクを減らすという意味においても,術前の血糖コントロールは重要であると考えられる.また,本症例では当院での内科による血糖コントロール開始後よりCDRが増悪している.中等.重度のCprePDRの症例では急速な血糖コントロールにより,優位にCDRが悪化したことが報告されている12).この現象はCEarlyworseningofdiabeticretinopathy(EWDR)とよばれており,血糖コントロールが急激に改善した後C3.6カ月以内に患者のC10.20%に発生するとされている15).本症例でのCDRの悪化は,術後炎症のほかに急速な血糖コントロールに起因するCEWDRをみていたものと思われる.これらのことを考慮すると,本症例のような虹彩炎の既往もあり,prePDRを有するような血糖コントロール不良例においては,術後虹彩炎の再燃や,DRの悪化,感染のリスクを下げることを念頭に入れ,術前血糖コントロールは穏やかに行い,血糖コントロールが十分になされた後に白内障手術を行うことが重要であることが示唆された.CIII結論今回,白内障術後早期に,感染性眼内炎やCTASSとの鑑別に苦慮した糖尿病虹彩炎を有する症例を経験した.糖尿病患者では白内障手術前に血糖コントロールを行うことが重要であり,とくに糖尿病虹彩炎の既往がある血糖コントロール不良例については白内障術後の高度な虹彩炎に注意を要する必要性が示唆された.利益相反・福田泰雅なし・石田友香なし・厚東隆志[F]AlconJapanLtd.ClassIV[R]SantenCPharmaceuticalCCo.,CLtd.,CBayerCYakuhinCLtd.(Japan)C,CNovartisCPharmaKK(Japan)C,CKowaCCo.,CLtd.,CSenjuCPharmaceuticalCCo.,CLtd.,CAMOCInc.,CAlconCJapanCLtd.,CChugaiCPharmaceuticalCCO.,CLTD.,CBayerCYakuhin,CLtd,River.eldInc.,RohtoNittenCo.,Ltd.ClassII・井上真[F]AlconJapanLtd.,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.Class(123)IV[R]AlconCJapanCLtd.,CSantenCPharmaceuticalCCo.,CLtd.NovartisPharmaKK(Japan)C,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,CBayerCYakuhin,CLtd,CBayerCYakuhin,CLtd.,CHOYACCorporation,CCarlCZeissCMeditec.,CAMOCInc.,CKowaCCo.,CLtd.,LogicAndDesignInc.ClassII文献1)井上真:白内障術後眼内炎.臨眼75:168-172,C20212)MichaelSK,AlessandroAC,MarcoAZetal:Endophthal-mitis.SurvOphthalmolC43:193-224,C19983)MohammadpourCM,CJafarinasabCMR,CJavadiCMACetal:COutcomesCofCacuteCpostoperativeCin.ammationCafterCcata-ractsurgery.EurJOphthalmolC17:20-28,C20074)ServetC,ZeynepD,HusamettinAetal:Toxicanterior-segmentsyndrome(TASS)C.CClinCOphthalmolC8:2065-2069,C20145)MoshirfarM,WhiteheadG,BeutlerBCetal:Toxicante-riorsegmentsyndromeafterVerisyseiris-supportedpha-kicCintraocularClensCimplantation.CJCCataractCRefractCSurgC32:1233-1237,C20066)BodnarZ,ClouserS,MamalisN:Toxicanteriorsegmentsyndrome:updateConCtheCmostCcommonCcauses.CJCCata-ractRefractSurgC38:1902-1910,C20127)PortaCM,CBandelloF:DiabeticCretinopathy.CDiabetologiaC45:1617-1634,C20028)RamandeepCS,CKimCR,CChandranCACetal:DiabeticCreti-nopathy:AnCupdate.CIndianCJCOphthalmolC56:179-188,C20089)WilkinsonCCP,CFrederickCLFCIII,CRonaldCEKCetal:ProC-posedCinternationalCclinicalCdiabeticCretinopathyCandCdia-beticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmolo-gyC110:1677-1682,C200310)RajvardhanCA,CSonyCS,CPrateekN:AsymmetricCdiabeticCretinopathy.IndianJOphthalmolC69:3026-3034,C202111)WatanabeCT,CKeinoCH,CNakayamaCKCetal:ClinicalCfea-turesofpatientswithdiabeticanterioruveitis.BrJOph-thalmolC103:78-82,C201912)SutoC,HoriS,KatoSetal:E.ectofperioperativeglyce-micCcontrolCinCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCandCmaculopathy.ArchOphthalmolC124:38-45,C200613)WongCTY,CCheeSP:TheCepidemiologyCofCacuteCendo-phthalmitisaftercataractsurgeryinanAsianpopulation.OphthalmologyC111:699-705,C200414)NagakiCY,CHayasakaCS,CKadoiCCCetal:BacterialCendo-phthalmitisaftersmall-incisioncataractsurgery:e.ectofincisionCplacementCandCintraocularClensCtype.CJCCataractCRefractSurgC29:20-26,C200315)FeldmanBS,LargerE,MassinP:Earlyworseningofdia-beticCretinopathyCafterCrapidCimprovementCofCbloodCglu-cosecontrolinpatientswithdiabetes.DiabetesMetabC44:C4-14,C2018あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1057

内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloid vitrectomyを行った1例

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):904.909,2025c内眼手術後1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術併用irido-zonulo-hyaloidvitrectomyを行った1例小林栞綸*1根元栄美佳*1角野晶一*1泉谷祥之*1大須賀翔*1河本良輔*1,2小嶌祥太*3喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2河本眼科クリニック*3市立ひらかた病院眼科CACasethatUnderwentIrido-Zonulo-HyaloidoVitrectomywithGoniosynechialysisforBilateralMalignantGlaucomathatOccurred18MonthsAfterIntraocularSurgeryKarinKobayashi1),EmikaNemoto1),AkikazuSumino1),YoshiyukiIzutani1),ShouOosuka1),RyohsukeKohmoto1,2),ShotaKojima3)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)KohmotoEyeClinic,3)HirakataCityHospitalDepartmentofOphthalmologyC目的:術後C1年半で生じた両眼悪性緑内障に隅角癒着解離術(GSL)併用Cirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)を施行した症例報告.症例:78歳,女性.X-2年C8月に左眼硝子体黄斑牽引症候群に対し白内障手術併用硝子体手術,右眼白内障手術.2週間前からの両眼霧視でCX年C2月C6日前医受診,右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgであり同日当科紹介.右眼視力(0.8×sph.3.50D(cyl.0.75DAx90°),左眼視力(0.7×sph.3.00D(cyl.1.25DAx75°)と近視化し,浅前房,毛様体前方回旋と毛様溝消失,水晶体.の前方圧排を認めた.眼軸長は右眼C21.67Cmm,左眼21.76Cmm.両眼悪性緑内障と診断,薬物・レーザー治療を行うも両眼とも再発したためCGSL併用CIZHVを施行し,眼圧下降を得た.結論:悪性緑内障は術後数年して生じることがあり危険因子があれば注意を要する.この症例に対する治療としてCIZHVが有効であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCthatCunderwentCirido-zonulo-hyaloidovitrectomy(IZHV)withCgoniosynechialysis(GSL)forCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredC18CmonthsCafterCintraocularCsurgery.CCase:AC78-year-oldCfemaleunderwentvitrectomycombinedwithcataractsurgeryforvitreomaculartractionsyndromeinherlefteyeandcataractsurgeryinherrighteye.At18-monthspostoperative,shevisitedanoutsideclinicforblurredvisioninCbothCeyes,CandCwasCreferredCtoCourCdepartmentCdueCtoCbilateralCreducedCvisualCacuityCandCelevatedCintraocularpressure(IOP).CUponCexamination,CsheCwasCdiagnosedCwithCbilateralCmalignantCglaucoma,CandCpharmacotherapyCandYAG-lasercapsulotomywasperformed.However,theconditionrecurredinbotheyes,soIZHVwithGSLwasperformedCinCbothCeyesCandCtheCIOPCloweredCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCfavorable.CConclusions:InCthisCcase,CIZHVCwithCGSLCwasCe.ectiveCforCbilateralCmalignantCglaucomaCthatCoccurredCseveralCyearsCafterCintraocularCsurgery,thusillustratingthatpatientswithsimilarriskfactorsshouldbecarefullyfollowed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):904.909,C2025〕Keywords:悪性緑内障,短眼軸長,白内障手術,硝子体手術.aqueousmisdirection,irido-zonulo-hyaloidvitrec-tomy(IZHV),shorteraxiallength,cataractsurgery,vitreoussurgery.Cはじめにた1).発症機序は毛様体で産生された房水が前房へ流出せず悪性緑内障はC1869年にCvonGraefeによって初めて報告に後房から硝子体側へおもに流れるようになり(aqueousされた病態で,周辺虹彩切除術後に浅前房を伴う高眼圧がみmisdirection),硝子体腔への房水の貯留により水晶体,虹られ,通常の緑内障治療では予後不良の症例として報告され彩が前方移動し,浅前房と隅角閉塞をきたすと推測されてい〔別刷請求先〕小林栞綸:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:KarinKobayashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC904(120)る2).近年,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体膜の切除を併用するCirido-zonulo-hyaloidCvitrectomy(IZHV)が有効であることが報告されている3,4).今回,術後C1年半で生じた両眼の悪性緑内障に,隅角癒着解離術(goniosynechiolysis:GSL)併用CIZHVを施行したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,女性.主訴:両眼の霧視.既往歴:脂質代謝異常,腎.胞,胃癌(術後)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:X-2年C8月,他院にて左眼硝子体黄斑牽引症候群に対して白内障手術併用硝子体手術と右眼白内障手術を施行された.X年C2月C6日にC2週間前からの両眼霧視にて前医を受診.右眼眼圧C54CmmHg,左眼眼圧C63CmmHgと両眼ともに眼圧が上昇しており,トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液を処方のうえ,精査加療目的に同日に大阪医科薬科大学病院(以下,当院)に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.3(0.8C×sph.3.50D(cyl.0.75CDAx95°),左眼0.1p(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25DCAx75°)で,眼圧は右眼C35mmHg,左眼C54mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,両眼とも中央の前房深度は保たれているが,周辺の前房は消失していた(図1a).前房内に落屑物質は認めなかった.静的隅角検査では両眼とも全周で閉塞しており,動的隅角検査では下方の線維柱帯がわずかに観察できた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で全周閉塞隅角,中央前房深度は右眼2.170Cmm,左眼C2.207Cmmであった(図1c).超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で両眼ともに毛様体の前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた(図1d).眼底所見として視神経乳頭陥凹は両眼ともC/D比C0.5で拡大は認めなかった.眼軸長は右眼C21.67mm,左眼C21.76mmと短眼軸眼で,平均角膜曲率半径は右眼7.10Cmm,左眼C7.23Cmmであった.中心角膜厚は右眼C517μm,左眼C511Cμm,角膜内皮細胞数は右眼C2,596個/mmC2,左眼C2,571個/mmC2であった.経過:両眼の悪性緑内障と診断した.高張浸透圧薬の点滴を施行し,両眼にアトロピン硫酸塩水和物点眼と炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した.X年C2月C10日,右眼眼圧C19mmHg,左眼眼圧C26CmmHg,薬物療法は効果不十分と判断し,両眼ともCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開を施行した.レーザー治療後,前眼部COCTにて隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765mm,左眼C2.796Cmmと改善(図2a),UBMにて両眼とも毛様体の前方回旋が一部改善しており,右眼眼圧C13CmmHg,左眼眼圧C22CmmHgと下降した(図2b).X年3月4日左眼眼圧33mmHgと再度上昇を認め,悪性緑内障の再発と診断し,X年C3月C8日に左眼CGSL併用CIZHVを施行した.硝子体手術後であったが前部硝子体皮質が残存していたため,25CG硝子体手術で前部硝子体皮質を周辺部まで可及的に切除した.硝子体カッターにてC11時の周辺虹彩を切除し,25CGVランスにて角膜から周辺虹彩切除で作成した虹彩穴へ向け穿刺し,同創より硝子体カッターを挿入して周辺虹彩切除部よりCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.これにより前後房の圧格差が解消され,前房深度は改善を認めた.そののち隅角を確認し,9.12時に虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)の形成を認めたため,GSLを併施した.右眼はCX年C6月C9日にアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところ眼圧上昇を認めたため悪性緑内障再発と診断し,X年C7月C30日に右眼CGSL併用CIZHVを施行した.25CG硝子体手術で最周辺まで硝子体を可及的に切除,硝子体カッターにてC2時の周辺虹彩を切除した.硝子体側より硝子体カッターにて周辺虹彩切除部のCZinn小帯を切除することで前後房の交通路を作成した.前後房の圧格差は解消され前房深度は改善した.その後,隅角を確認し4.7時にCPASの形成を認めたためCGSLを併施した.その後,術後C3年の現在まで両眼とも悪性緑内障の再発はなく経過している.視力は右眼(1.2CpC×sph.0.25D(cyl.0.75DAx95°),左眼(1.2C×cylC.1.75DAx90°)と近視化は改善しており,眼圧は右眼C12mmHg,左眼C13CmmHg.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める(図3a).隅角は開大しており(図3b),中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mmである(図3c).CII考按悪性緑内障は,房水の前房への流出が阻害されるCaqueousmisdirectionにより生じると考えられている2).発症には解剖学的要因があることが既報で示唆されており,短眼軸眼,狭隅角やプラトー虹彩は危険因子とされる5,6).発症の男女比はC3:11と女性に多く,その解剖学的な要因として,女性では水晶体が男性よりも前方にあり,前房がC4%浅いだけでなく水晶体の赤道部と毛様体の間も狭いためにCaqueousmisdirectionが生じやすいとされる2).本症例は女性,短眼軸眼であり既報の危険因子を有していた.悪性緑内障の発症により近視化することが報告されている7).近視化はCaque-ousmisdirectionによる眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の前方偏位によると考えられるが,今回の症例でもC.3D程度に近視化していた.短眼軸眼ではCIOL度数計算のずれにより術後に遠視化することが多いと報告されている8).術後の近視化は,浅前房化や閉塞隅角の進行と同様に悪性緑内障を疑うに矛盾しない指標であるといえる.ab右眼左眼cd右眼左眼図1初診時の所見a:細隙灯顕微鏡所見.両眼とも中央の前房深度は保たれているが周辺の前房は消失.Cb:隅角所見.静的隅角検査では全周閉塞.動的隅角検査では下方のみ線維柱帯がわずかに観察できた.Cc:前眼部COCT所見.両眼とも閉塞隅角.中央前房深度は右眼C2.17Cmm,左眼C2.207Cmm.Cd:UBM所見.両眼ともに毛様体前方回旋と毛様溝の消失,水晶体.の前方への圧排を認めた.悪性緑内障の誘因となる内眼手術は閉塞隅角緑内障の周辺術後C1年半で両眼ともに悪性緑内障を発症した.左眼は硝子虹彩切除のほか,濾過手術,レーザー虹彩切開術,白内障手体術後に悪性緑内障を発症しており,前部硝子体皮質の切除術などさまざまな報告があり,もっとも頻度が高いのは急がなされていなかったことが関与している可能性があると考性・慢性閉塞隅角緑内障の濾過手術後でC2.4%,白内障術える.後の発症はC0.1%程度である9,10,11).硝子体術後にも悪性緑内悪性緑内障の治療は,まず薬物療法が第一選択となる.ア障が発症した報告があり,残存前部硝子体皮質が収縮し前方トロピン硫酸塩水和物点眼や炭酸脱水酵素阻害薬内服,高張移動することで水晶体後面と癒着を生じ,房水の前房への流浸透圧薬点滴,緑内障薬(房水産生抑制作用)点眼を行い,れを障害したことで発症したとされる11,12).今回の症例は,毛様体を弛緩させて水晶体を後方へ移動させること,房水産ab図2YAGレーザー後の所見a:前眼部COCT所見.両眼とも隅角は一部開大し,中央前房深度は右眼C2.765Cmm,左眼C2.796Cmm.Cb:UBM所見.両眼とも一部で毛様体の前方回旋が改善している.生を抑制することで眼圧を下降させる.しかし,薬物治療のみではC20%しか悪性緑内障は解消されず13),またほぼC100%再発したという報告もある14).薬物療法が奏効しない場合は次段階としてCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜の切開があるが,こちらの再発率はC75%程度と報告されており14),観血的治療が必要となる場合が多い.本症例でも薬物治療とCYAGレーザーによる後.および前部硝子体膜切開では再発し,観血的治療を要した.観血的治療としては,有水晶体眼であれば水晶体再建術・水晶体.切開,単純硝子体切除などがあげられるが,aqueousmisdirectionの解除のために硝子体切除のみでなく,虹彩,Zinn小帯,前部硝子体の切除を行うことで前房と硝子体腔に交通を作製するIZHVが有効であると報告されており3,4),再発率は周辺のshavingを伴わない単純硝子体切除術ではC75%程度,IZHVではC0.10%とされる14,15).また,IZHVにおいて前部硝子体の切除のみでは,術後に前方移動してきた硝子体により前後房の交通路がブロックされて悪性緑内障を再発することがあり,硝子体をすべて切除することの重要性が報告されている14).本症例では,両眼とも最周辺部まで硝子体切除を行なったCIZHVにて悪性緑内障の改善が得られ,術後C3年の間で再発は認めない.悪性緑内障により狭隅角の状態が続くとPASが形成され,悪性緑内障の原因であるCaqueousCmisdi-rectionを解除できたとしても眼圧のコントロールが困難となる可能性があるため,早期に診断し治療することが重要である.本症例では,長期経過中にCPASが形成された可能性を考慮し術中に隅角の確認を行い,両眼ともC1/4周のCPASの形成を認めた.PASの形成が半周以上ではなかったが,より確実な眼圧コントロールのためにCGSLを併施とした.本症例は女性,短眼軸眼であり既報の悪性緑内障の危険因子を有していた.悪性緑内障は手術から発症まで数時間から数年と幅があり,危険因子を有する場合は術後の経過に注意が必要である.本症例に対してCIZHVは有効であった.本症例は,第C35回日本緑内障学会で発表した.ab右眼左眼図3現在の所見a:細隙灯顕微鏡所見.IZHVによる周辺虹彩切除を両眼とも鼻上側に認める.Cb:隅角所見.隅角は開大している.c:前眼部COCT所見.隅角は開大.中央前房深度は右眼C2.85mm,左眼C3.62mm.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vonCGraefeA:BeitrageCzurCpathologieCundCtherapieCdesCglaucomas.ArchOphthalmolC15:108-252,C18692)GrzybowskiCA,CKanclerzP:AcuteCandCchronicC.uidCmis-directionsyndrome:pathophysiologyCandCtreatment.CGraefesArchClinExpOphthalmolC256:135-154,C20183)LoisCN,CWongCD,CGroenewaldC:NewCsurgicalCapproachCinCtheCmanagementCofCpseudophakicCmalignantCglaucoma.COphthalmologyC108:780-783,C20014)FaisalCAA,CKamaruddinCMI,CTodaCRCetal:SuccessfulCrecoveryCfromCmisdirectionCsyndromeCinCnanophthalmicCeyesCbyCperformingCanCanteriorCvitrectomyCthroughCtheCanteriorchamber.IntophthalmolC39:347-357,C20195)ZarnowskiT,Wilkos-KucA,Tulidowicz-BielakMetal:CE.cacyCandCsafetyCofCaCnewCsurgicalCmethodCtoCtreatCmalignantCglaucomaCinpseudophakia.CEye(Lond)C28:C761-764,C20146)PrataCTS,CDorairajCS,CDeCMoraesCCGCetal:IsCpreopera-tiveCciliaryCbodyCandCirisCanatomicalCcon.gurationCaCpre-dictorofmalignantglaucomadevelopment?ClinExpOph-thalmolC41:541-545,C20137)VarmaDK,BelovayGW,TamDYetal:Malignantglau-comaaftercataractsurgery.JCataractRefractSurgC40:1843-1849,C20148)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:Nationwidemulti-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C20229)Krix-JachymCK,CZarnowskiCT,CRekasCMCetal:RiskCfac-torsCofCmalignantCglaucomaCoccurrenceCafterCglaucomaCsurgery.JOphthalmolC2017:1-6,C201710)ShuteTS,VarmaDK,TamDetal:SeasonalvariationintheCIncidenceCofCmalignantCglaucomaCafterCcataractCsur-gery.JOphthalmicVisRes14:32-37,C201911)MassiccotteEC,SchumanJS:Amalignantglaucoma-likesyndromefollowingparsplanavitrectomy.OphthalmologyC106:1375-1379,C199912)植木麻理:硝子体手術後に生じた悪性緑内障のC1例.眼科43:1715-1718,C200113)RajCS,CThattaruthodyCF,CJoshiCGCetal:TreatmentCout-comesCandCe.cacyCofCparsCplanaCvitrectomy-hyaloidoto-my-zonulectomy-iridotomyCinCmalignantCglaucoma.CEurJOphthalmolC31:234-239,C202114)DebrouwereCV,CStalmansCP,CVanCCalsterCJCetal:Out-comesCofCdi.erentCmanagementCoptionsCforCmalignantglaucoma:aCretrospectiveCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:131-141,C201215)AlCBinCAliCGY,CAl-MahmoodCAM,CKhandekarCRCetal:COutcomesofparsplanavitrectomyinthemanagementofrefractoryCaqueousCmisdirectionCsyndrome.CRetinaC37:C1916-1922,C2017C***

白内障手術により両眼のDescemet膜剝離を発症し,片眼に角膜内皮移植を要した1例

2025年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(3):368.372,2025c白内障手術により両眼のDescemet膜.離を発症し,片眼に角膜内皮移植を要した1例生駒輝髙橋理恵原田一宏内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CACaseofBilateralDescemetMembraneDetachmentfollowingCataractSurgeryTreatedwithDescemetStrippingEndothelialKeratoplastyinOneEyeHikaruIkoma,RieTakahashi,KazuhiroHaradaandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:白内障手術により両眼に広範なCDescemet膜(DM).離を発症し,前房内空気注入・SF6ガス注入を試みたが,片眼はCDMが接着せず,角膜内皮移植術(DSAEK)により視力の改善を認めたC1例を経験したので報告する.症例:74歳,女性.前医にて右眼白内障手術を施行され,術翌日に広範なCDM.離を発症し紹介受診した.前房内に空気を注入したが,DMは接着・復位しなかった.SF6ガスを注入したが,DMの再.離を認めたため,DSAEKを施行し,右眼角膜の透明性が得られた.その後,左眼白内障手術を施行したところ,右眼同様にCDM.離が出現した.前房内空気注入で復位しなかったため,前房内CSF6ガス注入を行い左眼CDMは復位した.両眼とも(1.0)となった.結論:白内障術後に両眼のCDM.離を生じるケースがあり,その発症に注意するとともに,治療には前房内CSF6ガス注入とCDSAEKも考慮すべきと考えられた.CPurpose:ToreportacaseofextensivebilateralDescemet’smembrane(DM)detachmentduetocataractsur-geryCinCwhichCairCinjectionCandCSF6CgasCinjectionCintoCtheCanteriorCchamberCwasCperformedCbutCtheCDMCdidCnotCadhereCinConeCeye,CsoCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)wasCultimatelyCrequiredCtoimprovevision.Case:Thisstudyinvolveda74-year-oldfemalereferredtoourhospitalfromalocalclinicwithextensiveCDMCdetachmentC1CdayCafterCundergoingCcataractCsurgeryCinCherCrightCeye.CAirCwasCinjectedCintoCtheCanteriorchamber,yettheDMdidnotadhereorreattach,sointracameralSF6Cgaswastheninjected.However,DMredetachmentwasobserved,soDSAEKwasperformedandthecorneabecametransparent.Cataractsurgerywasthenperformedonherlefteye,andDMdetachmentoccurredinthesamemannerasinherrighteye.Asitdidnotrelocatepostairinjectionintotheanteriorchamber,intracameralSF6CgasinjectionwasperformedandtheDMreattached.Postsurgery,visualacuityinbotheyeswas(1.0).Conclusion:IncasesinwhichbilateralDMdetach-mentoccurspostcataractsurgery,anditisvitaltopaycloseattentionandconsiderintracameralSF6CgasinjectionandDSAEKastreatments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(3):368.372,C2025〕Keywords:白内障手術,Descemet膜.離,角膜内皮移植,前房内気体注入.cataractsurgery,Descemetmem-branedetachment,Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty,intracameralgasinjection.Cはじめに白内障手術における合併症の一つにCDescemet膜(Des-cemetmembrane:DM).離があるが,多くは強角膜切開創または角膜切開創部の限局的なものであり,視機能に影響しないことがほとんどである.しかし,.離が広範囲なものは未治療で経過した場合,角膜内皮障害のため角膜浮腫や水疱性角膜症をきたし,重篤な視力障害を引き起こす原因となりうる1).DM.離が限局的な場合は自然治癒が望めるが,広範囲であれば前房内への空気注入やCSF6(六フッ化硫黄)ガス,C3F8(八フッ化プロパン)ガス注入が行われることが〔別刷請求先〕生駒輝:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HikaruIkoma,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1Nanakuma,Johnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC368(104)多い1.3).今回,両眼白内障術後に上方半分にわたる広範囲なCDM.離を発症し,前房内空気注入およびCSFC6ガス注入を行い,左眼はCDMが接着したものの,右眼はCDMが接着せず角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)を行い視力の改善を認めたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:2型糖尿病,高血圧症,潰瘍性大腸炎,リウマチ性多発筋痛症,気管支喘息,椎間板ヘルニア.家族歴:特記事項なし.現病歴:20XX年C10月,前医にて右眼白内障手術を施行した.術中,角膜内皮が上半分ほど.離しているのに気づいたが,DM.離を残したまま手術を終了した.翌日,細隙灯顕微鏡検査で水疱性角膜症を認めたが,角膜浮腫のためにDMの詳細が不明であった.このため,同日,患者は筆者らの施設(福岡大学附属病院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.02(矯正不能),左眼C0.5(0.9C×sph+0.25D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼17mmHg,左眼C15CmmHg.右眼角膜はびまん性の浮腫と角膜内皮側にDM皺襞を認め,上方の内皮側に線状構造が部分的にみられた(図1a).中央から下方にかけて明らかな二重前房は認められず,前房に浮遊している構造物もなく,角膜内皮の所在は不明だった.前房は形成され,眼内レンズは水晶体.内にあることが確認できた(図1b).眼底は角膜浮腫により透見不能であった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査では,角膜上方半分にCDMと思われる膜の.離を認め,連続性が確認できた.右眼CDM.離と診断した.スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度は右測定不能,左眼C2,892個/mmC2であった.経過:初診時の前眼部COCT検査で広範なCDM.離を認めたため,同日に前房内空気注入を施行した.また,術後点眼としてレボフロキサシンC4回/日,フルオロメトロンC4回/日を開始した.第C1病日,前眼部COCT検査にて空気が接触している上方角膜はCDMの接着が確認できたが,下方は再度DM.離を認めたため,同日前房内にC30%CSFC6ガス注入を施行した.第C5病日,前房内のCSFC6ガスがC1/2に減少した時点でCDM.離が再発し,細隙灯顕微鏡検査では角膜中央部にCDMの欠損を認めた(図2).前房内気体タンポナーデによるCDMの整復はむずかしいと考え,第C28病日に右眼DSAEKと前房内空気注入を施行した(図3).術中,ホストのCDMと思われる構造物を眼外に除去し,角膜移植片を前房内に挿入し,位置を確認し最後に前房内に空気を注入して手術終了とした.術後,ドナー角膜の接着は良好であり,前房中の空気が消失してもドナー角膜の.離を認めなかったため,第C36病日で退院となった.退院後は徐々に右眼角膜の透明性が得られ,術後C1カ月で右眼視力(0.5)まで改善した.右眼術後C3カ月時の診察で,右眼虹彩と眼内レンズの後癒着を認め,膨隆虹彩と診断した.高眼圧のため緑内障点眼薬を使用し,ダイアモックス内服,マンニトール点滴を行ったが右眼高眼圧が持続したため,20XX+1年C4月に右眼瞳孔形成術・周辺虹彩切除術を施行した.その後,右眼眼圧は正常化した.また,右眼視力も術後C1年で(1.0)まで改善し,DMの再.離は認めていない.一方,外来経過中に左眼も白内障進行を認め視力が(0.6)まで低下し,本人の強い希望により,20XX+1年6月に左眼の水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した.術中,眼内レンズ挿入後に粘弾性物質を灌流液で洗浄をしている最中に,上方の強角膜創部からCDM.離が出現した(図4).その際は上方のみの.離だった.これ以上.離が広がらないように,白内障手術の最後に,前房内空気注入を施行し,手術を終了した.しかし術後,前房内の空気が減少するとともにCDM.離の再発を認めた..離の範囲は上方半分と広範囲であっため,術後C7日目に前房内にCSFC6ガス注入を施行した.SFC6ガスが減少してもCDM.離の再発なく経過した.その後,左眼は徐々に角膜の透明性が増し,術後C1カ月の時点で左眼視力(1.0)となり,それ以降両眼ともDMの再.離はみられていない(図5).CII考按小切開化が進んだ現在の白内障手術において,切開創やサイドポート部にできる小さい範囲のCDM.離は時にみられる合併症であるが,何かしらの処置が必要になる広範囲なDM.離はまれであり,その頻度はC0.028.0.044%と報告されている4,5).限局性のCDM.離の原因は,切れないメスの使用,器具の出し入れ方向の誤り,粘弾性物質や灌流液の誤注入など術者の手技の問題で発生することが多いといわれている.一方,広範囲に生じるCDM.離の原因としては,糖尿病の既往,梅毒による角膜白斑,角膜ジストロフィ,先天緑内障,外傷などによる角膜実質とCDM間の接着異常が考えられている4).本症例は,右眼は前医での手術となるため詳細が不明であるが,左眼の手術動画を確認しても手術手技には問題ないと思われた.また,左眼は術中最後に入れた空気が抜けた後のDM.離範囲を確認すると,術中に.がれていた範囲を超えてCDM.離が広がっていた.両眼とも上方半分にわたり広範囲にCDM.離を発症したため,手術の手技による合併症よりも,角膜の何らかの器質的脆弱性が原因ではないかと考えられた.DMと角膜実質との接着は,角膜実質からCDMに向か図1初診時の右眼前眼部写真(a)とOCT画像(b)a:角膜全体に高度な浮腫を呈し,上方にCDescemet膜(Descemetmembrane:DM).離を認める().b:上方から中央にかけてCDM.離を認める.図2SF6ガス注入後5日の右眼前眼部写真とOCT画像a:前房内のCSFC6ガスがC1/2まで減少しているが,角膜浮腫がみられる.角膜内皮の欠損部位に一致したCDMがみられる(点線範囲内).b:翻転し.離しているCDMを認める().って角膜実質線維が貫通することでなされているが6),DM.離をきたした症例のC71.4%に糖尿病を認めた過去の報告から,DM.離が起こりやすい素因の一つに糖尿病の可能性があげられている7).本症例も既往に糖尿病があるため,糖尿病がCDMと角膜実質間の接着に影響した可能性が考えられた.糖尿病の既往がある患者に対して内眼手術を行う際は,予期せぬ広範囲なCDM.離をきたす可能性があることを念頭に置く必要がある.治療方法はCDM.離の範囲で対応が異なる.MackoolとHoltzはCDMの.離がC1Cmm以内かどうか,平面型か非平面型かに分類して予後をみたとき,1Cmm以内の平面型の.離は自然治癒し予後がもっともよいと報告している8).Assiaらは,1Cmmを超えても平面型の.離は自然治癒する可能性を指摘している9).しかし,自然治癒までに数週間.数カ月かかり,Marconらは平均C9.8週要したとしている10).自然治癒は視力回復まで時間がかかるため,近年は早期治療が提唱されている.広範囲のCDM.離に対しては,空気やCSFC6ガス,CC3F8ガスの前房内気体注入が一般的である2,3,5).前房内気体注入は比較的簡便に行える手技であるが,気体による角膜内皮障害や,多くの症例で眼圧上昇をきたすことが報告されており,注入後の管理が重要である.本症例も空気,CSF6ガスによって高眼圧になり,点眼,点滴などによる眼圧図3DSAEK後の右眼前眼部写真SF6ガスがC1/2以下まで減少してもCDM.離は認めない.図4左眼白内障手術中写真前房洗浄中にCDM.離を認めた().図5白内障術後の左眼前眼部写真とOCT画像a:白内障術後C7日目.角膜浮腫とCDM皺襞がみられ,前房内に空気が残存している.Cb:白内障術後C7日目.OCTではCDM再.離を認める.Cc:SFC6ガス注入後C13日目.ガスが消失してもCDM.離はなく,角膜の透明性が維持されている.d:SF6ガス注入後C13日目.OCTでCDM.離は認められなかった.コントロールが必要であった.膜実質を縫いつける方法であるが,.離したCDMを平面に気体注入を複数回行ってもCDMが整復できない場合は,広げて縫合するため,DMが途中でちぎれたり,丸まったりDM縫着術,角膜移植術による治療法がある3,11).DM縫着すると縫合が困難であり,高度な手技が必要となる1).本症術は縫合糸を前房内から角膜実質に通して自己のCDMと角例の右眼は再々.離をきたした際に,DM角膜内皮の所在が不明となったため,角膜移植が必要と判断した.角膜移植に関しては,現在は角膜パーツ移植が発展してきており,病状に合わせた部位の角膜移植を行うことで,拒絶反応などの合併症を抑えることが可能となっている.Jainらは,DM.離を認めたC60症例に対して空気またはCCC3F8を前房内に注入しC95%は治療できたと報告している一方,5%は気体注入ではCDMの復位が困難であり,追加治療として角膜内皮移植術を施行したと報告した3).本症例も角膜内皮のみが欠損していることから,DSAEKを選択した.手術は通常のDSAEKと同じ方法で行い,最後に空気を前房内に注入して終了した.その結果,ドナー角膜内皮はホストの角膜実質と接合し,角膜機能の回復が得られ,角膜の透明性を維持することができた.数回気体注入を行っても整復されないCDM.離は,角膜の機能と視力を早期に回復させるためにも,DSAEKが有効であると考える.文献1)佐々木洋:デスメ膜.離.臨眼58:28-33,C20042)魚谷竜,井上幸次:白内障手術に伴う広汎なCDescemet膜.離を両眼に生じCSFC6ガス前房内注入を要したC1例.あたらしい眼科30:699-702,C20133)JainR,MurthySI,BasuSetal:Anatomicandvisualout-comesCofCdescemetopexyCinCpost-cataractCsurgeryCDes-cemet’sCmembraneCdetachment.COphthalmologyC120:C1366-1372,C20134)山口大輔,西村栄一,早田光孝:治療を要した小切開水晶体乳化吸引術後のデスメ膜.離.臨眼C71:1723-1729,C20175)TiCSE,CCheeCSP,CTanCDTHCetal:DescemetCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationsurgery:riskCfac-torsCandCsuccessCofCairCbubbleCtamponade.CCorneaC32:C454-459,C20136)永瀬聡子,松本年弘,吉川真理ほか:手術操作に問題のない超音波白内障手術中に生じたCDescemet膜.離.臨眼C62:691-695,C20087)KansalCS,CSugarJ:ConsecutiveCDescemetCmembraneCdetachmentCafterCsuccessiveCphacoemulsi.cation.CCorneaC20:670-671,C20018)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-63,C19779)AssiaCEI,CLevkovich-VerbinCH,CBlumenthalM:Manage-mentCofCDescemet’sCmembraneCdetachment.CJCCataractCRefractSurgC21:714-717,C199510)MarconCAS,CRapuanoCCJ,CJonesCM-RCetal:DescemetC’sCmembraneCdetachmentCafterCcataractsurgery:manageC-mentandoutcome.OphthalmologyC109:2325-2330,C200211)DasCM,CShaikCMB,CRadhakrishnanCNCetal:DescemetCmembraneCsuturingCforClargeCDescemetCmembraneCdetachmentCafterCcataractCsurgery.CCorneaC39:52-55,C2020C***

白内障術後4カ月に角膜浮腫を生じたDescemet膜剝離の1例

2024年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(12):1472.1475,2024c白内障術後4カ月に角膜浮腫を生じたDescemet膜.離の1例柚木麻衣*1,2田尻健介*1吉川大和*1,3向井規子*1,4喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2近畿大学奈良病院眼科*3よしかわ眼科医院*4市立ひらかた病院眼科CACaseofDescemetMembraneDetachmentthatCausedCornealEdemaFourMonthsafterCataractSurgeryMaiYunoki1,2),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1,3),NorikoMukai1,4)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityNaraHospital,3)YoshikawaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospitalC目的:白内障術後C4カ月に角膜中央にCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下貯留液の排液および前房内C20%六フッ化ガス(SF6)注入が奏効したC1例を報告する.症例:84歳,女性.2020年に両眼の白内障手術を耳側角膜切開で施行され術後経過は良好であった.術後C4カ月に右眼に角膜浮腫を認めた.経過観察されたが角膜浮腫は増悪し,術後7カ月に大阪医科薬科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,角膜中央に角膜浮腫およびCDescemet膜.離を認め視力は(0.5)に低下していた.角膜内皮面に切開創付近からCDescemet膜.離の方向へ管状構造をもつ帯状の瘢痕を認めた.Descemet膜.離が拡大し視力が(0.3)に低下したため術後C9カ月にCDescemet膜下貯留液の排液および前房内C20%CSF6注入術を施行した.術後速やかに角膜浮腫は消退し再発なく経過している.結論:切開創付近の角膜内皮面に管状の瘢痕が生じ,Descemet膜下に房水が貯留したことがCDescemet膜.離を生じた原因と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCDescemetCmembranedetachment(DMD)withClate-onsetCcornealCedemaCthatCwassuccessfullytreatedwithanovelsurgicalprocedure.Case:Thisstudyinvolvedan84-year-oldfemalepatientwhounderwentbilateralcataractsurgeryin2020withanuneventfulpostoperativecourse.However,at4-monthspostoperative,cornealedemadevelopedinherrighteye,and3monthslatershewasreferredtoourdepartmentfortreatmentastheconditionhadworsened.Uponinitialexamination,cornealedemaandDMDwereobservedintheCcentralCcorneaCofCherCrightCeye,CandCvisualCacuityChadCdecreasedCtoC20/40.CWeCobservedCaCband-shapedCscarCwithatubularstructureonthecornealendothelialsurfacefromthetemporalcornealincisionmadefortheDMD.Thus,drainageofDescemetsubmembrane.uidandinjectionof20%SF6CintotheanteriorchamberwasperformedCatC9-monthsCpostoperative.CPostCsurgery,CtheCcornealCedemaCquicklyCdisappearedCandCthereCwasCnoCrecurrence.CConclusion:Inthiscase,wetheorizethattheDMDwascausedbythetubularscarthatappearedonthecornealendothelialsurfaceneartheincision,andthataqueoushumoraccumulatedundertheDescemetmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(12):1472.1475,C2024〕Keywords:Descemet膜.離,白内障手術,角膜浮腫,20%CSF6ガス.Descemetmembranedetachment,cata-ractsurgery,cornealedema,20%sulfurhexa.uoride(SF6)gas.はじめにDescemet膜.離は白内障手術でときおり認められる術中合併症である.通常は切開創を起点として生じ,Descemet膜.離の範囲が大きい場合は角膜浮腫により重篤な視力低下を生じる.長期間CDescemet膜.離が治癒しない場合は,不可逆的な変化により水疱性角膜症となる1).今回筆者らは,白内障手術を施行しC4カ月後に角膜中央に限局する角膜浮腫およびCDescemet膜.離を認め,Des-cemet膜下貯留液の排液および前房内C20%六フッ化ガス(sulfurChexa.uoridegas:SF6gas)(以下,SF6ガス)注入〔別刷請求先〕柚木麻衣:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:MaiYunoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1472(88)が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:84歳,女性.既往歴:特記事項なし.現病歴:2020年,近医にて両眼の白内障手術を耳側角膜切開で施行され視力は右眼(0.9),左眼(1.0)に改善した.術後の右眼角膜内皮細胞密度は角膜中央部でC2,900個/mm2であり,ステロイド点眼は漸減された.ドライアイの治療を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で継続していたが,術後C4カ月の近医再診時に角膜浮腫を認めた.0.1%ベタメタゾン点眼をC1日C4回に変更されたものの視力低下が進行し,術後C7カ月に大阪医科薬科大学病院眼科を紹介受診した.初診時所見:右眼の角膜中央からやや上方にかけて角膜浮腫を認め(図1),角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向に帯状の瘢痕形成を認めた(図2).角膜内皮細胞密度は角膜中央では測定できず,下方でC2,207個/mm2であった.前眼部光干渉断層計(HeidelbergCSpectralis,HeidelbergEngineering社)で撮像した前眼部光干渉断層撮影像では角膜中央からやや上方にかけてCDescemet膜.離を認めた.視力は右眼C0.15(0.5×sph.0.5D(cyl.2.0DAx105°),左眼0.4(0.7×sph.0.5D(cyl.1.25DAx90°),眼圧は右眼C10.7mmHg,左眼C9.0CmmHgであった.図1初診時の右眼前眼部写真(フルオレセイン染色)右眼の角膜中央からやや上方にかけて角膜浮腫を認める.図2初診時の右眼前眼部写真角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向に連なる帯状の瘢痕形成を認める(.).図3再診時の前眼部光干渉断層撮影像(CASIA2)両図とも角膜中央にCDescemet膜.離を認める.上図では創口近くの角膜内皮面に管状構造を認める.下図で管状構造が.離したDescemet膜上にも存在することがわかる.図4Descemet膜下貯留液の排液および前房内SF6ガス注入後8カ月の前眼部写真Descemet膜.離および角膜浮腫を認めない.角膜切開創から角膜中央やや上方にかけて帯状の瘢痕は残存している.治療経過:0.1%ベタメタゾン点眼をC1日C6回に変更したが角膜浮腫は増悪し,術後C8カ月には視力は(0.3)に低下した.術後C9カ月に当院に導入された前眼部光干渉断層計(CASIA2,トーメーコーポレーション)で撮像した前眼部光干渉断層撮影像ではCDescemet膜.離は拡大傾向であり,初診時に認めていた帯状の瘢痕部に一致して角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向へ連なる管状構造を認めた(図3).同月に前房内CSF6ガス注入およびCDescemet膜下貯留液の排液を施行した.最初に前房水を採取し,眼圧調整のうえで角膜上皮を掻爬しCDescemet膜を視認したその後C32CG針を用いて前房内にC20%CSFC6ガスを注入した.そのままシリンジに陰圧をかけながらベベルダウンで前房内からCDes-cemet膜を刺入しCDescemet膜下貯留液の排液を試みたが,シリンジ内のC20%CSFC6が逆流しCDescemet膜.離が拡大してしまった.そのためCDescemet膜下の貯留液とCSFC6ガスは角膜上皮側からCDescemet膜下腔に刺入しなおして排液および排気を完遂した.前房内をC20%CSFC6ガスで全置換し,10分間CDescemet膜を角膜実質に圧着させC0.4%ベタメタゾン結膜下注射を施行,治療用ソフトコンタクトレンズを装用させ術後は仰臥位安静とした.手術中は適宜スリット照明でDescemet膜.離の状況を確認した.術翌日,管状構造は残存していたがCDescemet膜.離は接着していた.術後速やかに角膜浮腫は消退しCDescemet膜.離は再発することなく(図4),2カ月後には管状構造に内腔は確認されなくなった.前房水ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査は単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)およびサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)は陰性であった.前房内CSFC6ガス注入後約C3年目の現在,Descemet膜.離の再発はなく右眼矯正視力は(0.9)と良好である.角膜内皮細胞密度は中央およびC6方向の測定点で約C1,300個/mmC2である.CII考案一般に,白内障手術に伴って生じるCDescemet膜.離は,手術中もしくは術後数日に発症が確認される2).しかし,まれではあるが白内障手術を行って数週間以上が経過してから遅れてCDescemet膜.離が生じたという報告があり,Schny-der角膜ジストロフィ症例3)や梅毒性角膜白斑の症例4),とくに基礎疾患のない症例5)で術後C3.4週後に生じたと報告されている.本症例では術直後は視力良好であったが術後C4カ月頃に視力低下が生じており過去の報告に比較して発症が遅いと考えられた.Descemet膜.離の位置は通常,強角膜切開創および角膜切開創を起点にして生じるため,Descemet膜.離は切開創と連続して認められる1).本症例では切開創から離れた角膜中央部にCDescemet膜.離が限局していた.Schnyder角膜ジストロフィの症例で角膜切開創に連続しない遅発性CDes-cemet膜.離の報告3)があるが,本症例には角膜ジストロフィの所見は認められなかった.角膜切開創からCDescemet膜.離部へは角膜内皮面に管状構造をもつ瘢痕様の所見が認められた.本症例はかなり極端なCdeep-seteyesであり術中に前房内の視認性が不良となりやすい比較的白内障手術難症例であることから,角膜創付近に術直後から無症候性かつ限局性のCDescemet膜.離を生じていた可能性を考えている.管状構造が形成された過程については二つの仮説を考えている.一つは角膜内皮移植の術式の一つであるCDescemet膜移植においてドナー角膜から.離したCDescemet膜は内皮面を外側にしたデスメロールを形成するが6),弁状に.離していたCDescemet膜がデスメロールを形成しながら癒合し管状になった場合,二つ目はCDescemet膜.離部のCDescemet膜側同士が中央に寄りながら癒着し管状構造を形成した場合である.Descemet膜.離を広範に生じるような症例ではCDes-cemet膜と角膜実質との間に接着異常が存在する可能性がある.Schnyder角膜ジストロフィでは電子顕微鏡像で角膜実質とCDescemet膜との間に脂質沈着を疑う多数の空間の存在が報告されている7).本症例はCDescemet膜下貯留液の排液時にCDescemet膜.離を拡大させてしまった.シリンジにかけた陰圧に比較してCSFC6ガスの膨張が強かったためと考えている.本症例に特筆した既往歴は認めなかったがCDes-cemet膜と角膜実質間の接着の脆弱性を考えている.本症例におけるCDescemet膜.離の発症機序についての仮説を立てて考察してみた.白内障手術後,視力に影響を与えない大きさのCDescemet膜.離は角膜切開創近くに生じていた.Descemet膜.離は管状構造を形成しながら瘢痕化した.管状構造がCDescemet膜下と前房を交通しており,白内障術後遅発性にCDescemet膜.離が角膜中央部に限局して生じた.画像で確認は困難だが管状構造内に弁状の構造がありDescemet膜下貯留液は吸収量より供給量が勝ることで.離の拡大が生じた.発症が術後C4カ月であるが,術後ドライアイ治療のためにステロイド点眼を継続しており,瘢痕形成に時間を要した可能性がある.白内障手術中に範囲の広いCDescemet膜.離が生じた場合は前房内気体注入が考慮される..離範囲が数Cmm程度であれば空気注入で十分であるが1),広範囲であれば長期間貯留し膨張するCSFC6ガス8)やパーフルオロプロパンガス(per-.uoropropaneCgas)9)を選択する..離を何度も繰り返す場合はCDescemet膜縫着10)を検討する.一方で広範囲のCDes-cemet膜.離が自然治癒した報告5,11)もあり明確な指針はない.本症例は管状構造の残存による再発の可能性が考えられたため,SFC6ガスを用いて前房内ガス注入を施行した.Des-cemet膜.離は前房内に大きく開放しておらず,前房内ガス注入だけではCDescemet膜下の貯留液が残存する可能性を考慮し積極的に排液を行った.本症例では細隙灯顕微鏡検査で帯状の瘢痕およびCDes-cemet膜.離が確認できたが,管状構造とCDescemet膜.離の観察にはCCASIA2による網羅的な角膜断層像が有用であった.原因不明の角膜浮腫に対してCCASIA2による前眼部光干渉断層撮影像は病態解明の一助となるであろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)佐々木洋:Descemet膜.離.臨眼58:28-33,C20042)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-463,C19773)勝部志郎,安田明弘,舟木俊成ほか:白内障術後に遅発性Descemet膜.離を生じたCSchnyder角膜ジストロフィのC1例.あたらしい眼科36:1579-1583,C20194)西村栄一,谷口重雄,石田千晶:両眼性CDescemet膜.離を繰り返した梅毒性角膜白斑合併白内障症例.IOL&RS24:100-106,C20105)CouchCSM,CBaratzKH:Delayed,CbilateralCDescemet’sCmembraneCdetachmentsCwithCspontaneousresolution:CimplicationsCforCnonsurgicalCtreatment.CCorneaC28:1160-1163,C20096)MellesCGRJ,CLanderCF,CRietveldFJR:TransplantationCofCDescemet’sCmembraneCcarryingCviableCendotheliumCthroughCaCsmallCscleralCincision.CCorneaC21:415-418,C20027)FreddoCTF,CPolackCFM,CLeibowitzHM:UltrastructuralCchangeintheposteriorlayersofthecorneainSchnyder’scrystallinedystrophy.CorneaC8:170-177,C19898)GaultCJA,CRaberIM:RepairCofCDescemet’sCmembraneCdetachmentCwithCintracameralCinjectionCof20%CsulfurChexa.uoridegas.CorneaC15:483-489,C19969)MacsaiMS,GainerKM,ChisholmC:RepairofDescemet’CsCmembraneCwithCdetachmentCwithCper.uoropropaneCgas(C3F8).CorneaC17:129-134,C199810)AmaralCE,PalayDA:TechniqueforrepairofDescemetmembraneCdetachment.CAmCJCOphthalmolC127:88-90,C199911)MinkovitzCJB,CSchrenkCLC,CPeposeCJSCetal:SpontaneousCresolutionCofCanCextensiveCdetachmentCofCDescemet’sCmembranefollowingphacoemulsi.cation.ArchOphthalmolC112:551-552,C1994***

白内障術後Descemet 膜剝離の治療に難渋した1 例

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):592.596,2024c白内障術後Descemet膜.離の治療に難渋した1例横田智香小林隆幸国家公務員共済組合連合会吉島病院眼科CARefractoryCaseofDescemetMembraneDetachmentafterCataractSurgeryChikaYokotaandTakayukiKobayashiCDepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServiceandA.liatedPersonnelMutualAidAssociations,YoshijimaHospitalC目的:白内障術後にデスメ膜.離(Descemetmembranedetachment:DMD)を診断し,治療に難渋した症例を報告する.症例:74歳,男性.数カ月前から左眼視力低下が進行したため吉島病院眼科を受診した.左眼の視力は(0.15)であった.左眼の核白内障と黄斑前膜に伴う視力低下と診断し,左眼白内障手術,硝子体手術を行った.術中に角膜浮腫を生じ,手術翌日の診察で左眼CDMDを診断した.2度の前房内気体注入を行ったがCDMDは治癒しなかった.3度目の前房内空気注入は細隙灯顕微鏡でCDescemet膜の位置を確認しながら行ったところ,正確に前房内空気注入を行うことができ,Descemet膜の接着を得られた.注入した空気が吸収した後もCDMDの再発はなく左眼視力(0.7)まで改善した.結論:白内障術後CDMDに対して,細隙灯顕微鏡を用いて処置を行うことでCDescemet膜の接着が得られたC1例を経験した.CPurpose:ToreportachallengingcaseofDescemetmembranedetachment(DMD)followingcataractsurgery.Case:A74-year-oldmalepresentedtotheDepartmentofOphthalmologyatYoshijimaHospitalwithprogressivevisionlossinhislefteyeandabest-correctedvisualacuityof0.15.Hewasdiagnosedwithcataractandepiretinalmembraneinthateye,andsubsequentlyunderwentcataractsurgeryandvitrectomy.Intraoperativecornealede-maoccurred,andDMDwasobservedat1-daypostoperative.Despitetwoattemptsatintracameralairtamponade,DMDwasnotcured.Athirdintracameralairtamponadeguidedviatheuseofaslitlampwasperformed,result-inginaccurateinjectionandsuccessfulreattachment.Followingcompletegasabsorptioninthetreatedeye,therewasnorecurrenceofDMDandvisualacuityimprovedto0.7.Conclusion:WepresentacaseofDMDaftercata-ractsurgeryinwhichDescemetmembranereattachmentwassuccessfullyachievedthroughtreatmentguidedbyuseofaslitlamp.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):592.596,C2024〕Keywords:デスメ膜.離,白内障手術,前房内空気置換.Descemetmembranedetachment,cataractsurgery,intracameralairtamponade.Cはじめにデスメ膜.離(Descemetmembranesetachment:DMD)は内眼手術後,眼外傷後に生じうる疾患である.DMDを発症すると角膜内皮細胞のポンプ機能が失われ,角膜浮腫を生じ,視機能低下をきたす1).DMDの原因となる内眼手術としてもっとも多いのが白内障手術であるが2,3),白内障術中に作製した角膜切開創のCDescemet膜の裂け目に沿って房水が流れ込むことで発症すると考えられている2).白内障術後DMDはまれな合併症ではなく,注意深い観察を行うと多くの症例に生じていたという報告がある4).軽症のCDMDは自然軽快することが多いが,まれに重症CDMDを生じた場合には早急な治療を行うことが必要である.今回広範囲なCDMDを生じ,複数回の処置を行ったがCDescemetの膜の接着を得られず,最終的に細隙灯顕微鏡で観察しながら前房内空気注入を行ったことでCDMDを治すことができたC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕横田智香:〒730-0822広島市中区吉島東C3-2-33吉島病院眼科Reprintrequests:ChikaYokota,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServiceandA.liatedPersonnelMutualAidAssociations,YoshijimaHospital,3-2-33Yoshijima-higashi,Naka-ku,Hiroshima-shi,Hiroshima730-0822,JAPANC592(120)図1初診時眼所見a,c:右眼の前眼部写真と眼底三次元画像解析(opticalcoherencetomography:OCT)画像であり,軽度白内障と,黄斑部COCTでは一部網膜色素上皮の不整を認めるのみだった.Cb:左眼前眼部写真であり,Emery-Little分類2.3程度の核白内障がある.Cd:左眼COCT画像であり,網膜前膜と中心窩陥凹の消失がある.CI症例患者:74歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧症,心房細動.現病歴:数カ月前からの左眼視力低下がありC2022年C7月吉島病院眼科を初診した.左眼白内障,黄斑前膜を認め,2022年C10月左眼白内障手術と硝子体手術を行うこととなった.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.15),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHgであった.左眼核白内障,左眼黄斑前膜(図1)を認めた.術前検査時のスペキュラーマイクロスコープCEM-4000(トーメーコーポレーション)による評価では角膜内皮数は右眼C2,808/mmC2,左眼角膜内皮細胞数C3,092/mmC2であり,滴状角膜などの角膜内皮異常はなかった.術中記録:2022年C10月左眼白内障と黄斑前膜に対して白内障手術と硝子体手術を行った.麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon下麻酔,創はC12時にC2.75Cmmの強角膜C3面切開,10時とC2時にC1mmのサイドポートを作製した.前.切開のためにC26CGチストトームをC10時のサイドポートから挿入した際に,サイドポートの角膜切開創においてわずかなCDMDを生じCDescemet膜が翻転した.その後の前.切開,ハイドロダイセクション,超音波乳化吸引術後の際にはDMDの拡大を認めなかった.創口閉鎖のためにハイドレーションを行い,その後C27CGシステムを用いて硝子体手術を行った.黄斑前膜の除去を行っている最中に角膜浮腫を生じ,眼底の視認性が低下したが,角膜上皮掻把により透明性は改善したため,手術を続行し,予定どおりの術式を完了し,手術を終了した.術後経過:手術翌日,細隙灯顕微鏡での診察を行い,広範囲に及ぶCDMDと著明な角膜浮腫を認めた.DMDは広範囲に及び,自然軽快はむずかしいと考え,前房内ガス注入を行うこととした.仰臥位になり,顕微鏡下で処置を行った.耳下側にCDMDを生じていない部位があったため,そこへ新たにサイドポートを作製し,27G鈍針でC20%六フッ化硫黄(SFC6)の前房内注入を行った.20%CSFC6を前房内のC80%程度置換し,処置後は仰臥位とした(図2).処置翌日,角膜浮腫の改善はなく,前房内ガスはC50%残存しており,DMDの詳細な評価はできなかった.処置C3日後にガスがほぼ消失したところ,角膜全体にCDMDを再度認めた.初回処置時にCSF6の注入量が十分でなかったことを反省点とし,また前房内気体注入の角膜内皮毒性(5)を懸念し,2回目の処置時にはCSF6ではなく空気を用いて前房内完全置換を行った.初回処置時に作製したサイドポートに,27CG鋭針のベベルを圧着させて空気注入を行った.この方法をとることで前房内の完全空気置換を行うことができた.処置C3時間後に眼痛を生じ,左眼眼圧C60CmmHgに上昇した.瞳孔ブロックを生じた図2手術翌日の左眼前眼部写真a,b:中央から下方にかけてCDescemet膜.離(.)がある.c:耳下側のCDescemet膜.離を生じていない部分から処置を行った.図32回目処置後の左前眼部写真a:処置直後,前房内はC100%空気置換された.b:処置C3時間後に瞳孔ブロックを生じた(.).c:前房内空気部分除去後,Descemet膜.離を生じた(.).ため空気注入で使用したサイドポートにC27CG鋭針を挿入し前房内空気の部分除去を行ったところ,DMDを再度認めた(図3).その際,残存した空気がCDescemet膜上に存在していたため,空気注入部位が誤っていたことが判明した.3度目の処置時は角膜内皮後面に確実に空気を注入するために,細隙灯顕微鏡の観察下で処置を行った.まず洗眼を行い,開瞼器をかけた.その状態で眼周囲が不潔にならないように看護師に誘導してもらいながら座位で細隙灯顕微鏡に顔を乗せ,処置中に頭が動かないように頭部を看護師が固定しつづけた.27CG鈍針を前回処置時のサイドポートから挿入したが,鈍針ではCDescemet膜を穿破できなかった.30CG鋭針を今までの処置で使用したサイドポートとは別部位の耳下側角膜輪部から刺入した.針先がCDescemet膜を穿破したことを確認し,空気注入を行った.完全前房内空気置換を行うことができたが,2回目の処置時に注入したCDescemet膜前面の空気が残存したため,2回目の処置時に使用したサイドポートへC30G針を刺入し,創口を圧迫することで残存したDescemet膜前面の空気を除去した.3度目の前房内完全空気置換後も処置C3時間後に瞳孔ブロックを生じたため,耳下側角膜輪部の創にC30CG針を再度挿入し,前房内空気の部分除去を行った.空気はC50%程度に減少したが,DMDの再燃はなく,角膜の透明性は良好であった(図4).処置翌日には完全に空気が消失したが,その後もCDMDの再発はなかった.術後半年時点でCDMDの再発はなく,角膜透明性を維持している.術後半年CVD=(0.7)まで向上し,内皮細胞数はC2,518/mm2と保たれていた(図5).CII考察今回,白内障術後にCDMDと診断し,その治療に難渋した1例を報告した.白内障手術に併発するCDMDは主創口から生じることがもっとも多いと考えられており2),術中COCTで主創口を観察したCDaiらの報告では,133例中C125例(94%)でCDMDを生じていた6).既報では白内障術後CDMDは0.04.0.5%とまれな合併症であるという報告もあったが1,2),白内障術後全例で前眼部三次元画像解析(anteriorsegmentopticalCcoherencetomography:AS-OCT)を行った報告ではC36.7%,82.0%にCDMDを生じていた4,7).白内障手術では,周辺に存在しているCDMDや小さなCDMDは検眼鏡検査のみでは見落とされることが多いと考えられる.DMDを疑う所見ではCAS-OCTの撮像が詳細な病状把握には有効であると考える.本症例ではCAS-OCTがなかったため細隙灯顕微鏡の観察のみだったが,広範囲な丈の高いCDMDであった図43回目処置後の左眼前眼部写真a:前房内完全空気置換を行った.Cb:前房内空気部分除去後,前房内の空気はC50%程度となったが,Descemet膜.離は再発せず,角膜透明性を維持した.ため診断はむずかしくなかった.本症例では術中にCDMDの拡大を把握できておらず,また術後の動画検証においても,DMDがいつ拡大したのかは不明であった.推測にはなるが,サイドポートからの器具の出し入れの際にCDescemet膜の翻転を生じており,創口閉鎖のためのハイドレーションにより.離が広がった可能性を考えた.山口らは,白内障術後CDMD6症例中C3症例がハイドレーションをきっかけに拡大したと報告しており,術中にCDMDを生じている症例では角膜内方弁にかかる位置でハイドレーションを行うと灌流液が迷入しやすいため,DMDの拡大を回避するために切開創側面の角膜実質に針先を向ける方法が安全であると考えられている8).チストトームの出し入れの際に,針先が角膜内皮側に当たることでCDMDを生じるので,器具の出し入れの際には注意が必要であり,またCDMDを生じた場合はハイドレーションの方法にも配慮が必要である.DMDは自然軽快するものが存在するが,自然軽快を得られずCDMDが長期間持続するとCDescemet膜の線維化を生じる.自然軽快を得られにくいと予想される症例では早期に治療を検討すべきである.DMDの予後予測の分類として,Mackoolらは.離の大きさ(1Cmm未満か,1Cmm以上か)9),Mulhernらは.離の部位(周辺部のみか,中央も含むか)10)を提唱している.DMDの治療基準はまだ確立したものはないが,視軸にかかるような.離範囲の大きなCDMDでは早期治療介入を検討するべきだろう.DMDの治療方法としては前房内気体注入によるタンポナーデがもっとも一般的である.これは角膜内皮移植(Des-cemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)において角膜内皮グラフトをホスト角膜実質裏面に接着させる際に用いる手技と同様である.DSAEKでは眼圧がC30.60CmmHgに上昇する程度の完全前房気体置換を少なくともC15分間行うことが接着のために重要と考えられている10).前房内完全気体置換を行う時間は術者により異なる図5術後半年の左眼前眼部写真Descemet膜.離の再発はなく,角膜透明性を維持した.が,DSAEK310症例をまとめたCRoyらの報告では,瞳孔ブロックや空気による角膜内皮障害を懸念して処置後C1時間後に前房内気体を完全に除去したが,術後CDescemet膜.離を生じた割合はC1.3%と低かった11).また,本症例でも完全前房内空気置換後C3時間で前房内空気の部分除去を行ったが,Descemet膜の接着を得られた.完全前房内気体置換を行うと,数時間後に瞳孔ブロックを生じることが多い.角膜内皮移植(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)では瞳孔ブロック予防のため前房内空気注入を行う前に周辺虹彩切除術を行うことがあるが,周辺虹彩切除術を行っていても瞳孔ブロックを生じた報告がある12).よって前房内完全空気置換を行った後は瞳孔ブロックの予防のために処置後早期に前房内空気の部分除去を行うか,眼圧上昇をきたした際にすぐに処置ができるように慎重な処置後のフォローを行う必要がある.処置方法は.離範囲が広範囲に及ぶ場合はCDescemet膜を観察しながらでないと適切な位置に注入を行うことがむずかしい.よって広範囲CDMDの場合は細隙灯顕微鏡またはCAS-OCTでCDescemet膜の後方に注入針が入ったことを確認したうえで注入を行うべきである.本症例のようにCDescemet膜.離が角膜全体に及んだ場合は鈍針でDescemet膜を穿破することがむずかしいため注入針は鋭針を用いるべきと考える.また,DMDでは部分的なCDes-cemet膜の亀裂から房水が流入しているので,DSAEKと比較しCDescemet膜前面のフルイド除去がむずかしいことが予想される.本症例においても誤って注入したCDescemet膜前面の空気をサイドポートから除去したが,丈の高い.離となっている場合はCDescemet膜前面のフルイドを除去することが接着率向上につながると考える.結論として,本症例は広範囲に及ぶCDMDであり視力低下が著明であったため早期処置を行った.処置用顕微鏡にAS-OCTやスリット照明が搭載されていなかったため,適切な部位に空気を注入することができず,複数回の処置が必要となったが,診察用の細隙灯顕微鏡を用いることで対応することができた.DMDを生じた際にCAS-OCTが搭載された顕微鏡がない場合でも本方法であれば多くの施設で施行可能であると考える.DMDは適切な処置を行えば,治癒率の高い疾患であるので,処置の必要があれば積極的に行うべきである.文献1)ChowCVW,CAgarwalCT,CVajpayeeCRBCetal:UpdateConCdiagnosisCandCmanagementCofCDescemet’sCmembraneCdetachment.CurrOpinOphthalmolC24:356-361,C20132)TiCSE,CCheeCSP,CTanCDTCetal:DescemetCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationsurgery:riskCfac-torsCandCsuccessCofCairCbubbleCtamponade.CCorneaC32:C454-459,C20133)MulhernCM,CBarryCP,CCondonP:ACcaseCofCDescemet’sCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationCsurgery.CBrJOphthalmolC80:185-186,C19964)XiaY,LiuX,LuoLetal:EarlychangesinclearcorneaincisionCafterphacoemulsi.cation:anCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CActaCOphthalmolC87:764-768,C20095)LandryH,AminianA,Ho.artLetal:CornealendothelialtoxicityCofCairCandCSF6.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:C2279-2286,C20116)DaiCY,CLiuCZ,CWangCWCetal:Real-timeCimagingCofCinci-sion-relatedDescemetmembranedetachmentduringcat-aractsurgery.JAMAOphthalmolC139:150-155,C20217)FukudaCS,CKawanaCK,CYasunoCYCetal:WoundCarchitec-tureCofCclearCcornealCincisionCwithCorCwithoutCstromalChydrationCobservedCwithC3-dimensionalCopticalCcoherenceCtomography.AmJOphthalmolC151:413-419,C20118)山口大輔,西村栄一,早田光孝ほか:治療を要した小切開水晶体乳化吸引術後のデスメ膜.離.臨眼C71:1723.1729,C20179)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-463,C197710)GharraM,AchironA,NaftaliLetal:Wound-assistedairinjectionCinCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.AmJOphthalmolCaseRepC26:1-3,C202211)LehmanRE,CopelandLA,StockEMetal:Graftdetach-mentrateinDSEK/DSAEKaftersame-daycompleteairremoval.CorneaC34:1358-1361,C201512)LivnyE,BaharI,LevyIetal:“PI-lessDMEK”:ResultsofCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty(DMEK)withoutCaCperipheralCiridotomy.CEyeC33:653-658,C2019C***

白内障手術における患者因子および術中,術後合併症が 術後屈折誤差に与える影響

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):569.573,2024c白内障手術における患者因子および術中,術後合併症が術後屈折誤差に与える影響野々村美保*1稗田牧*1岡田陽*1小室青*2山崎俊秀*3加藤雄人*4木下茂*5外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2四条烏丸小室クリニック*3バプテスト眼科クリック*4京都府立医科大学附属北部医療センター*5京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.ectofPatient-RelatedFactorsandComplicationsonRefractiveErrorafterCataractSurgeryMihoNonomura1),OsamuHieda1),YoOkada1),AoiKomuro2),ToshihideYamasaki3),YutoKato4),ShigeruKinoshita5)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)Shijo-KarasumaKomuroEyeClinic,3)BaptistEyeInstitute,4)NorthernMedicalCenterKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofSensoryOrgansandFutureMedicineKyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:白内障手術におけるさまざまな患者背景および術中術後合併症のうち術後屈折誤差に影響を与える要因を明らかにすること.対象および方法:京都府立医科大学附属病院とC3つの関連施設において,白内障単独手術のC820眼のデータを後ろ向きに収集した.対象は男性C354眼,女性C466眼,年齢はC74.5C±8.9歳(平均C±標準偏差)である.術後の屈折誤差(SRK-T式による予測屈折度と手術C1カ月後の自覚的屈折度との差の絶対値)を目的変数とし,性別,年齢,眼軸長,角膜屈折力,眼既往症・併存症,眼手術歴,術中・術後の合併症を説明変数として多変量解析を行った.緑内障は病型の判断がむずかしいため,今回の検討には含めていない.結果:術後の屈折誤差は長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,および術中の破.のC4要因が術後屈折誤差の増加に影響を与えた.結論:これらの要因に該当する患者は屈折誤差が生じやすく,SRK-T式以外の計算式も検討すべきである.CPurpose:ToCinvestigateCvariousCpatient-relatedCfactorsCandCintraoperative/postoperativeCcomplicationsCthatCin.uencerefractiveerror(RE)aftercataractsurgery.Methods:Inthisretrospectivestudy,themedicalrecordsof820eyes(354CmaleCeyes,C466Cfemaleeyes;meanCpatientage:74.5C±8.9years)thatCunderwentCcataractCsurgeryCatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCHospitalCandCthreeCassociatedCfacilitiesCwereCreviewed.CPostoperativeRE(absoluteCdi.erenceCbetweenCrefractionCpredictedCbyCtheCSRK/TCformulaCandCRECatC1-monthpostoperative)Cservedasthedependentvariable.Multivariateanalysisincludedpatientbackground,ocularhistory/comorbidities,surgeryhistory,andintraoperative/postoperativecomplications.GlaucomatouseyeswereexcludedfromthestudydueCtoCaCdi.cultyCinCdeterminingCtheCspeci.cCtypeCofCglaucoma.CResults:PostoperativeCRECwasCsigni.cantlyCin.uencedCbyCtheCfollowingC4factors:1)axialClength,2)cornealCrefractiveCpower,3)cornealCdeformation,Cand4)CposteriorCcapsuleCrupture.CConclusion:OurC.ndingsCshowCthatCpatientsCwithCtheCabove-statedCfactorsCareCmoreClikelytoexperiencepostoperativeRE,yetalternativecalculationformulasbeyondtheSRK/Tformulashouldalsobeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(5):569.573,C2024〕Keywords:術後屈折誤差,白内障手術,SRK/T式.post-operativerefractiveerror,cataractsurgery,SRK/Tformula.C〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuHieda,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCはじめに現在の日本ではC65歳以上の人口がC28.4%となり1),高齢者の増加が指摘されている.これに伴い白内障患者も増加し,手術を希望する患者の背景も多様化している.白内障手術は患者が術前に希望する屈折度に近いほど術後満足度が高いため2),白内障術後の屈折誤差を小さくする必要がある.白内障術後屈折誤差の減少には適切なパワーの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入する必要があり,IOLパワーの決定にはCIOL計算式を用いる.現在多くのCIOL計算式が存在し,SRK-T式はそのうちの一つである.既報ではSRK-T式を用いた場合,術後屈折誤差がC±0.5ジオプター(D)以内の割合は約C74%と報じられている3).一方で,術後屈折誤差には眼軸長4,5),角膜屈折力6)などの患者背景や眼既往症または併存症として円錐角膜7,8),屈折矯正手術後9,10),緑内障11),網膜前膜12),手術中の破.13)が影響するといわれている.近年,日常の臨床から収集される実際のデータを使用したリアルワールド研究が行われるようになり,海外では全症例を登録してデータを収集するレジストリーが活用されている.わが国では,多施設連続症例における白内障術前検査の測定値や術後屈折誤差を比較した研究はあるが14),多施設連続症例における患者背景や術中,術後合併症といった複数の要因が術後屈折誤差に与える影響についての研究は筆者らが知る限り報告されていない.今回,4施設のリアルワールドデータを用いて,術後屈折誤差に患者背景および術中,術後合併症が与える影響を検討した.CI対象および方法本研究は京都府立医科大学附属病院(大学),京都府立医科大学附属北部医療センター,バプテスト眼科クリニック,四条烏丸小室クリニックのC4施設において,白内障単独手術を行った連続症例を対象とした多施設後ろ向き研究である.この研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得て実施された(番号:ERB-C-1235-2).術前に光学式眼軸長測定装置による眼軸長および角膜屈折力測定装置による角膜屈折力を測定し,かつ,手術C1カ月後時点で視力測定を行い,矯正視力がC0.5以上の症例を解析の対象とした.2018年C4月より開始し,男性C354眼,女性466眼であり,右眼はC424眼,左眼はC396眼の計C820眼であった.平均年齢C±標準偏差はC74.5C±8.87歳(20歳からC94歳)であった.また,患者背景として眼軸長および角膜屈折力,術後矯正視力と屈折値を表1にまとめた.本研究における対象患者の術前の眼既往症や併存症,眼手術歴,術中合併症の内訳は図1に示した.使用した光学式眼軸長測定装置と角膜屈折力測定装置について,大学ではCIOLマスターC700(カール・ツァイス社)とCTONOREFRKT-7700(ニデック社),京都府立医科大学附属北部医療センターではCIOLマスターC500(カール・ツァイス社)とCTONOREFIII(ニデック社),バプテスト眼科クリニックではCIOLマスターC700とCTONOREFIIおよびCIII(ニデック社),四条烏丸小室クリニックではOA-1000(トーメーコーポレーション社)とCTONOREFCRIIを使用した.手術で使用したCIOLはCSZ-1(ニデック社),XY1-SP(HOYA社),ZCB00V(エイエムオー・ジャパン社)を中心に多種類を使用し,A定数はメーカー推奨値(光学式測定機器用)とした.主要評価項目は術後屈折誤差である.術後屈折誤差はSRK-T式による予測屈折度と手術C1カ月後の自覚的屈折度との差の絶対値と定義した.調査項目は患者CID番号および術後屈折誤差に影響を与えうる要因として,患者背景,術前の眼既往症または併存症,眼手術歴,術中合併症,術後合併症とした.患者背景として性別,年齢,眼軸長,角膜屈折力(強主経線と弱主経線の平均)を調査した.術前の眼既往症または併存症として角膜疾患は変形,混濁,疾患なしのC3分類で調査した.網膜前膜はあり,なしのC2分類で調査した.既報では緑内障も術後屈折誤差に影響を与えると報告されているが,本調査は後ろ向き研究であり,カルテデータでは正確な緑内障病型判断が困難であったため,今回は調査項目には含めていない.術前の眼手術歴として角膜移植,屈折矯正手術,緑内障手術,硝子体手術の有無について調査した.術中および術後の合併症として破.,Zinn小帯断裂,核落下,眼内炎の有無を調査し,計C15項目となった.各疾患の有無については,カルテに「病名」の記載がある,またはカルテ上の所見や検査データから判断し,すべてのデータはC2名の調査医師で確認を行った.調査項目は,過去の研究や既報4.13)を参考に複数名で検討し決定した.研究に必要な症例数は戸ケ里の論文15)を参考に,1つの調査項目ごとにC10眼以上のデータを収集することにした.そのためC150眼以上が必要となり,施設ごとにC200眼,全体でC800眼を目標とした.データ収集は複数の眼科医で行い,バイアスの軽減をめざした.収集したデータをもとに,術後屈折誤差が絶対値C0.5D以内の割合を算出した.本研究では片眼手術の患者と両眼手術の患者がデータ内で混在するため,個人内の相関の影響に対して,患者CID番号を変量効果として解析に組み込むことで調整した.また,術後屈折誤差に影響を与える要因を把握するため,目的変数を術後屈折誤差の絶対値,説明変数を調査項目として変数減少法を用いて重回帰分析を施行した.最初にすべての説明変数を用いて重回帰分析を施行し,p値が最大となる項目をC1つ除外し,それ以外の全項目で再度重回帰分析を施行した.この操作を繰り返し,全説明変数のCp値がC0.05以下になるまで行った.表1患者背景n=820C手術前平均値±標準偏差範囲眼軸長(mm)C24.0±1.8420.5.C34.39角膜屈折力(D)C44.25±1.7034.25.C53.35手術C1カ月後矯正視力(logMAR)C.0.02±0.120C.0.176.C0.301球面度数(D)C.0.62±1.45C.8.00.+4.00円柱度数(D)C.0.86±0.65C.5.5.C0角膜疾患(眼)網膜前膜(眼)混濁(12)1.46%屈折矯正手術(5)手術歴(眼)0.61%術中,術後合併症(眼)破.(6)0.73%Zinn小帯断裂(1)0.12%硝子体手術(12)1.46%図1眼既往症・併存症,手術歴,術中術後合併症の内訳対象であるC820眼のうち,各疾患,手術歴,術中,術後合併症例数を円グラフまとめた.II結果全症例C820眼における術後屈折誤差の平均値はC0.53C±0.64D(0.6.23D)であり,このなかで絶対値C0.5D以内となったのはC537眼で全体のC65.5%であった.術後屈折誤差の絶対値に影響を与える要因を重回帰分析すると,眼軸長,角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,破.のC4項目が術後屈折誤差の増加に影響することが明らかになった(表2).偏回帰係数が眼軸長,角膜屈折力ともに正の数値であることから,眼軸長および角膜屈折力の数値が大きいほど,すなわち長眼軸長や急峻な角膜屈折力であるほど術後屈折誤差が増加した.偏回帰係数が正の値であったことから変形を伴う角膜疾患,破.は術後屈折誤差を増加させ,偏回帰係数が負の値であることから混濁を伴う角膜疾患がある場合は術後屈折誤差を減少させた.表2術後屈折誤差に影響する説明変数の回帰分析結果説明変数偏回帰係数p値眼軸長角膜屈折力変形を伴う角膜疾患混濁を伴う角膜疾患C破.ありC0.05C0.08C0.71.0.29CC0.31C<C0.0001<C0.0001<C0.00010.0270.002p<0.05とした.CIII考按本研究では,多施設連続症例に対して患者背景や術前の眼既往症および併存症,眼手術歴,術中,術後合併症といった複数の項目を用いて術後屈折誤差に影響を与える要因を調査した.その結果,長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形伴う角膜疾患,破.が術後屈折誤差の増加に有意に影響を及ぼしていた.既報どおり眼軸長4,5)や角膜屈折力6)は術後屈折誤差に影響を与えた.変形を伴う角膜疾患について,代表疾患として円錐角膜8)や角膜屈折矯正術後眼10)があり,術後屈折誤差の増大が指摘されている.これらの疾患で術後屈折誤差が増加する原因として,角膜前後面比率の変化のため角膜屈折力の測定に系統誤差が生じている.一方,混濁を伴う角膜疾患について既報13)とは異なり,本研究では術後屈折誤差が減少するという結果になった.本研究では変形と混濁をともに認める症例については,変形のほうが術後屈折誤差に影響すると考え,変形に分類した.混濁により散乱が生じ,レンズ矯正が困難なため屈折誤差が減少した可能性がある.近年,長眼軸や急峻な角膜屈折力に対してCSRK-Tを含む多くの計算式で誤差が生じやすいことが指摘されており16)CBarrettCUniversalII式17,18)が開発され,IOLパワーの測定が正確にできるようになった.さらに変形を伴う角膜疾患は,前後面の角膜形状の測定やCKANECformula19)を用いた場合,SRK-Tと比較して術後屈折誤差が改善する可能性がある.今回,可能な限り除外項目を設けず,臨床に即したデータを用いて,白内障術後屈折誤差の増加に影響を与える患者背景および術中術後合併症を検討した.長眼軸,急峻な角膜屈折力,変形を伴う角膜疾患,破.のC4要因に該当する患者は術後屈折誤差が生じやすく,SRK-T式以外の計算式も参考に眼内レンズ度数を決定することが望ましい.また,術前に誤差が生じやすい患者に個別に説明することで患者への適切な情報提供がおこなえる.このような術後屈折誤差への配慮を行うことで,手術への患者満足度の向上が期待できると思われる.謝辞:本調査のデータ抽出に協力した専攻医(調査当時)の,足立瑛美,岡本真子,鍵谷悠,片岡佑人,喜多遼太,小林嶺央奈,小山達夫,柴田学,高橋実花,千森瑛子,堤亮太,三木岳,山下耀平,伊部友洋,大久保寛,岡田陽,北野ひかる,長野広実,中村藍,細田明良,渡邉聖奈,弓削皓斗(敬称略),に感謝申し上げます.利益相反野々村美保なし稗田牧なし岡田陽なし小室青なし山崎俊秀なし加藤雄人:なし木下茂【P】あり,【F】AurionBiotechnologies,千寿製薬株式会社,興和株式会社,参天製薬株式会社外園千恵:【P】あり,【F】参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGen,文献1)内閣府ホーム:令和C2年板高齢社会白書.厚生労働省.2018-7-20.Chttps://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/Czenbun/s1_1_1.html.(参照C2021-5-28)2)菊池理香,須藤史子,島村恵美子ほか:眼軸長別にみた術後の患者希望屈折度と術前屈折値との関連.日本視能訓練士協会誌33:91-96,C20043)RBMelles,JTHolladay,WJChang:Accuracyofintraocu-larClensCcalculationCformulas.COphthalmologyC125:169-178,C20184)ZhuCX,CHeCW,CSunCXCetal:FixationCstabilityCandCrefrac-tiveCerrorCafterCcataractCsurgeryCinChighlyCmyopicCeyes.CAmJOphthalmolC169:89-94,C20165)GavinCEA,CHammondCJ:IntraocularClensCpowerCcalcula-tioninshorteyes.Eye(Lond)C22:935-938,C20086)EomCY,CKangCSY,CSongCJSCetal:UseCofCcornealCpower-speci.cconstantstoimprovetheaccuracyoftheSRK/Tformula.OphthalmologyC120:477-481,C20137)WatsonCMP,CAnandCS,CBhogalCMCetal:CataractCsurgeryCoutcomeCinCeyesCwithCkeratoconus.CBrCJCOphthalmolC29:C361-364,C20148)GhiasianCL,CAbolfathzadehCN,CMana.CNCetal:IntraocularClenspowercalculationinkeratoconus;Areviewoflitera-ture.JCurrOphthalmolC31:127-134,C20199)StakheevAA,BalashevichLJ:Cornealpowerdetermina-tionafterpreviouscornealrefractivesurgeryforintraocu-larlenscalculation.CorneaC3:214-220,C200310)CheanCCS,CYongCBKA,CComelyCSCetal:RefractiveCout-comesCfollowingCcataractCsurgeryCinCpatientsCwhoChaveChadmyopiclaservisioncorrection.BMJOpenOphthalmolC4:e000242,C201911)ManoharanCN,CPatnaikCJL,CBonnellCLNCetal:RefractiveCoutcomesCofCphacoemulsi.cationCcataractCsurgeryCinCglau-comapatients.JCataractRefractSurg44:348-354,C201812)KimCM,CKimCHE,CLeeCDHCetal:IntraocularClensCpowerCestimationCinCcombinedCphacoemulsi.cationCandCparsCplanaCvitrectomyCinCeyesCwithCepiretinalmembranes:aCcase-controlstudy.YonseiMedJC56:805-811,C201513)LundstromCM,CDickmanCM,CHenryCYCetal:RiskCfactorsCforCrefractiveCerrorCafterCcataractsurgery:AnalysisCofC282C811CcataractCextractionsCreportedCtoCtheCEuropeanCregistryCofCqualityCoutcomesCforCcataractCandCrefractiveCsurgery.JCataractRefractSurgC44:447-452,C201814)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:NationwidemultiC-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C202215)戸ヶ里泰典:サンプルサイズ緒論.順天堂大学医療看護学部医療看護研究23:1-8,C201916)ReitblatCO,CLevyCA,CKleinmannCGCetal:A.liationsCexpandCIntraocularClensCpowerCcalculationCforCeyesCwithChighandlowaveragekeratometryreadings:ComparisonbetweenCvariousCformulas.CJCCataractCRefractCSurgC9:C1149-1156,C201717)ZhouCD,CSunCZ,CDengG:AccuracyCofCtheCrefractiveCpre-dictionCdeterminedCbyCintraocularClensCpowerCcalculationCcornealCcurvature11:https://doi.org/10.1371/journal.CformulasCinChighCmyopia.CIndianCJCOphthalmolC67:484-pone.0241630,C2020C489,C201919)JackCXK,CBenjaminCC,CHarryCYCetal:AccuracyCofCintra-18)ZhangCC,CDaiCG,CPazoCEECetal:AccuracyCofCintraocularCocularlenspowerformulasmodi.edforpatientswithker-lensCcalculationCformulasCinCcataractCpatientsCwithCsteepCatoconus.OphthalmologyC127:1037-1042,C2020***

トラベクトームが有効であった遅発性水晶体起因性続発 緑内障の1 例

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):697.700,2023cトラベクトームが有効であった遅発性水晶体起因性続発緑内障の1例小野萌古畑優貴子松原美緒杉山敦柏木賢治山梨大学医学部眼科学講座CACaseofLate-onsetLens-inducedSecondaryGlaucomaSuccessfullyTreatedbyAb-InternoTrabeculotomyMoeOno,YukikoFuruhata,MioMatsubara,AtsushiSugiyamaandKenjiKashiwagiCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashiC目的:白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を報告する.症例:66歳,男性.幼少時に右眼外傷性白内障となり,33歳時に白内障手術を施行,39歳時に眼内レンズ二次挿入を行った.問題なく経過していたが術後C30年を経たC2020年C7月,右眼の眼痛とかすみを自覚し,近医を受診した.右眼眼圧C35CmmHgと高値を認めたため,点眼加療が行われたが,眼圧下降が得られず,精査加療のため同月山梨大学医学部附属病院眼科(以下,当院)紹介となった.当院初診時,右眼眼圧C42CmmHg,角膜浮腫,前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め,隅角は周辺虹彩前癒着などの異常所見は認めず開放していた.右眼水晶体起因性続発緑内障と診断し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を施行した.術翌日に一過性の眼圧上昇がみられたものの,その後眼圧下降が得られた.結論:外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.CPurpose:Toreportacaseoflate-onsetlens-inducedsecondaryglaucomasuccessfullytreatedbyab-internotrabeculotomy.Casereport:Thisstudyinvolveda66-year-oldmalepatientwhohadpreviouslyundergonesur-geryinhisrighteyewhenhewas33yearsoldforatrauma-relatedcataractthatdevelopedatchildhood,andsub-sequentCintraocularlens(IOL)implantationCinCthatCeyeCinC1992.CInCJulyC2020,CheCvisitedCaClocalCclinicCdueCtoCblurredCvisionCandCocularCpainCinCthatCeye,CandChighCintraocularpressure(IOP)andCresidualClensCparticlesCwereCobserved.CSinceClocalCsteroidCandCglaucomaCtreatmentCfailedCtoCcontrolCtheCelevatedCIOP,CheCwasCreferredCtoCourCdepartment.CUponCexamination,ChighCIOP,CcornealCedema,CintracameralCin.ammation,CandCresidualClensCcortexCwasCobserved.CForCtreatment,Cab-internoCtrabeculotomyCwithCIOLCextraction,CsecondaryCIOLCimplantation,CandC.xationCatCtheCintrascleralCspace,CandCvitrectomyCforClens-inducedCsecondaryCglaucomaCwasCperformedCinChisCrightCeye,CwhichCsuccessfullyCloweredCtheCIOP.CConclusion:Ab-internoCtrabeculotomyCmayCbeCe.ectiveCevenCforCcasesCofClate-onsetlens-inducedsecondaryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):697.700,C2023〕Keywords:水晶体起因性続発緑内障,遅発性,白内障手術,残存皮質,トラベクトーム.lens-inducedsecondaryglaucoma,late-onset,cataractsurgery,residuallensparticles,trabeculotomy.Cはじめに後の残存皮質はC0.1.1.5%程度に発症すると報告されている水晶体に起因した続発緑内障は,水晶体の膨化による隅角が2.4),多くの場合は自然吸収される.しかし,術後に角膜閉塞,膨化水晶体.や外傷による水晶体蛋白の房水中漏出に浮腫や長期化する眼内炎症などを発症するものは残存皮質の対する炎症反応などさまざまな原因で発症する1).白内障術除去が通常術後数カ月程度で行われる.既報では白内障の術〔別刷請求先〕小野萌:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MoeOno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,ChuoCity,YamanashiPref.409-3898,JAPANC後C30年以上経過して角膜浮腫や眼内炎症をきたした症例の報告があるが5),水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).今回白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:66歳,男性.主訴:右眼の眼痛,かすみ.現病歴:右眼を幼少時に受傷し,外傷性白内障となった.1987年C12月(33歳時)に右眼水晶体乳化吸引術を施行,1992年C11月に眼内レンズ二次挿入術を施行した.以後近医を定期受診し,経過は良好であった.2020年C7月C15日に右眼の眼痛とかすみを自覚し,前医を受診した.右眼前房内炎症細胞および高眼圧(35CmmHg)を認め,抗炎症薬および抗緑内障薬点眼開始となった.同年C7月C25日前医再診時,右眼眼圧がさらに上昇(37CmmHg)し,瞳孔領に水晶体上皮細胞の塊と思われる白色物質を認めた.図1前眼部写真残存水晶体皮質を認めた.右眼水晶体起因性続発緑内障が疑われ,2020年C7月C27日に山梨大学医学部附属病院(以下,当院)へ紹介となった.当院初診時の所見としては,VD=0.2(1.0CpC×IOL×sphC.2.25D(cyl.1.75DCAx165°),VS=1.0(1.5C×IOL×sphC.0.75D),眼圧は右眼C42mmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は角膜浮腫と前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め(図1),広角眼底写真で鼻側上方に残存皮質を確認できた(図2).隅角は両眼開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった(図3).右眼は視神経乳頭陥図2広角眼底写真鼻側上方に残存皮質を確認できた.図3隅角写真開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった.図4右眼Humphrey視野検査下鼻側の視野障害を認めた.凹拡大を認め,視野では乳頭所見に一致する右眼下鼻側の視野障害を認めた(図4).血液検査や手術時に採取した房水を用いて行ったぶどう膜炎マルチスクリーニング検査では特記すべき異常所見は認めなかった.経過:右眼水晶体起因性続発緑内障と診断,残存水晶体皮質の膨化進行,眼圧コントロールの悪化を認めたため,2020年C8月C6日右眼トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術(25ゲージ)を施行した.残存した.の赤道部から前部硝子体に膨張した水晶体・硝子体が絡んでおり,眼内レンズと.を残したまま残存水晶体のみを完全に処理するのは困難と判断,眼内レンズ摘出・強膜内固定も行った.術中所見としては,残存水晶体皮質は白色に膨化しており,水晶体.ごと除去した.前房出血は少量であった.術後経過:術翌日に右眼眼圧C36CmmHgと一過性の上昇を認めたが,タフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の再開により術後C2日目には右眼眼圧C15CmmHgと速やかに下降が得られ,術後炎症も比較的軽度であった.術後C8日目に右眼眼圧C15CmmHg,VD=0.9Cp(1.2C×IOL×sph+0.50D(cyl.1.75DAx75°)で,退院とした.外来でも眼圧上昇なく経過,前医へ紹介とした.II考按水晶体起因性続発緑内障のメカニズムとして,水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞や免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序などがあると考えられる1).水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞は水晶体.外摘出術,超音波水晶体乳化吸引術,YAGレーザー後.切開術,穿孔性水晶体外傷後などで発生した水晶体小片が線維柱帯間隙を閉塞することで生じる1).免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序では,水晶体物質を異物と認識し,免疫機序によって炎症を生じ眼圧上昇が発症する.既報における水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).治療は残存水晶体皮質除去などの外科的加療例が中心であることが多く,本症例のような遅発性水晶体起因性続発緑内障の報告は少ない.Barnhorstらは術後C65年を経て発症した水晶体小片緑内障を報告している6).また,多田らは術後C10年以上経過して発症したC4例を報告している7).そのうちC2例は抗炎症および抗緑内障薬点眼・内服加療で軽快,1例はプラトー虹彩形状を認めレーザー隅角形成術で加療,1例は水晶体遺残物を水晶体.とともに除去し,脱臼眼内レンズ摘出/縫着,トラベクレクトミーで加療を行っており,トラベクトームのような流出路手術による改善例の報告はなかった.Konoらはトラベクトームの術後成績には緑内障の病型は有意には影響しないと報告しているが8),流出路手術は.性緑内障やステロイド緑内障において原発開放隅角緑内障に対してよりも大きな眼圧下降効果が得られるという報告もみられ9,10),まだ結論は出ていない.流出路手術は一般的にステロイド緑内障を除き,続発緑内障には有効性が低いとされているが,これはCSchlemm管内腔の閉鎖が成立していることが影響していると考えられる.今回の症例の眼圧上昇機序は,線維柱帯路に近年になって膨化した水晶体線維や反応性物質が沈着し,流出路抵抗が上がったためと考えられる.眼圧上昇が急速に発症したが,発症から外科的治療までが比較的短期間であり,Schlemm管内の器質的閉塞が完成しなかったため,トラベクトームが有効であった可能性が考えられた.このため,水晶体起因性の続発開放隅角緑内障でも,発症から比較的短期間で,Schlemm管腔の閉鎖が発症する前には流出路手術が有効な場合があると考えられた.既報11)では残存水晶体皮質の除去のみで眼圧が正常化した報告があるが,本症例では術後も眼圧コントロールのためにタフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の継続的処方が必要であったため,なんらかの緑内障手術は必要であった可能性が高い.CIII結論外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した遅発性水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム手術と眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い,良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.文献1)RichterCU:Lens-inducedopen-angleglaucoma.In:Theglaucomas(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT)C,Vol2,2ndCed,p1023-1031,Mosby,StLouis,19962)PandeM,DabbsTR:IncidenceoflensmatterdislocationduringCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractCSurgC22:C737-742,C19963)KageyamaCT,CAyakiCM,COgasawaraCMCetal:ResultsCofCvitrectomyCperformedCatCtheCtimeCofCphacoemulsi.cationCcomplicatedCbyCintravitrealClensCfragments.CBrCJCOphthal-molC85:1038-1040,C20014)AasuriMK,KompellaVB,MajjiAB:RiskfactorsforandmanagementCofCdroppedCnucleusCduringCphacoemulsi-.cation.JCataractRefractSurgC27:1428-1432,C20015)TienT,CrespoMA,MilmanTetal:Retainedlensfrag-mentpresenting32yearsaftercataractextraction.AmJOphthalmolCaseRepC26:2022-06-016)BarnhorstCD,CMeyersCSM,CMyersT:Lens-inducedCglau-comaC65CyearsCafterCcongenitalCcataractCsurgery.CAmJOphthalmolC118:807-808,C19947)多田香織,上野盛夫,森和彦ほか:白内障術後に生じた遅発型水晶体起因性続発緑内障のC4例.あたらしい眼科C30:569-572,C20138)KonoY,KasaharaM,HirasawaKetal:Long-termclini-calCresultsCofCtrabectomeCsurgeryCinCpatientsCwithCopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:C2467-2476,C20209)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndromeCArchOphthalmolC111:1653-1661,C199310)IwaoK,InataniM,TaniharaH:Successratesoftrabecu-lotomyCforCsteroid-inducedglaucoma:aCcomparative,Cmulticenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC151:1047-1056,C201111)KeeC,LeeS:Lensparticleglaucomaoccurring15yearsaftercataractsurgery.KoreanJOphthalmolC15:137-139,C2001C***

緑内障眼に対する白内障手術併用Ab Interno Trabeculotomy の手術成績

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1417.1420,2022c緑内障眼に対する白内障手術併用AbInternoTrabeculotomyの手術成績石部智也*1八坂裕太*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学教室*2九州大学大学院医学研究院眼科学教室SurgicalOutcomesofAb-InternoTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryforGlaucomaTomoyaIshibe1),YutaYasaka1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine白内障手術併用abinternotrabeculotomyの術後短期成績について報告する.対象は2018.2021年に大分大学医学部附属病院眼科にて白内障手術と併施してマイクロフックを用いて線維柱帯切開術を施行した26例37眼.年齢は47.89歳(平均73.7歳),術前眼圧は8.25mmHg(平均14.1mmHg),術後観察期間は6.21カ月(平均7.7カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例18眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角緑内障2例3眼であった.術後3カ月で13.5±3.7mmHg,術後12カ月の眼圧は13.3±3.4mmHgと術前と比較して有意な変化はみられなかったが,薬剤スコアが術前2.6±1.3点から術後3カ月で0.4±0.7点,術後12カ月で0.9±1.4点とぞれぞれ有意に減少した.眼圧のコントロール不良により追加手術が必要となった症例は存在せず,また術後感染症や低眼圧をきたした症例もみられなかった.術後黄斑浮腫が1例にみられたが,その他白内障手術に関連した合併症はみられなかった.白内障手術併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させる.緑内障眼に対して,白内障併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させるのに有用であった.Purpose:Toreporttheshort-termsurgicaloutcomesofab-internotrabeculotomy(TLO)combinedwithcat-aractsurgeryforglaucoma.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved37eyesof26glaucomapatients[meanage:73.7years(range:47.89years)]whounderwentmicrohookab-internoTLOcombinedwithcataractsur-geryattheDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityHospital,Oita,JapanfromDecember2018toJune2021.Themeanfollow-upperiodwas7.7months(range:6.21months).Results:Meanintraocularpressure(IOP)priortosurgerywas14.7mmHg(range:8.25mmHg),whilethatat3-and12-monthspostoperativewas13.5±3.7mmHgand13.3±3.7mmHg,respectively.Themedicationscoredecreasedfrom2.6±1.3priortosurgeryto0.4±0.7and0.9±1.4,respectively,at3-and12-monthspostoperatively(p<0.01).Nopatientrequiredanadditionaloperation,andnohypotonyorpostoperativeinfectionwasobserved.Therewerenocomplicationsassociatedwithcataractsurgery,except1caseinwhichpostoperativemaculaedemaoccurred.Conclusion:Inglaucomapatients,ab-internoTLOtrabeculotomycombinedwithcataractsurgerycanreducethemedicationscorewithgoodIOPcontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1417.1420,2022〕Keywords:線維柱帯切開術,白内障手術,手術成績.trabeculotomy,cataractsurgery,surgicaloutcomes.はじめにり,おもに眼球外からアプローチする眼外法(abexterno)緑内障眼に対する線維柱帯切開術(trabeculotomy)は線維と眼内からアプローチする眼内法(abinterno)が存在する.柱帯を切開することで生理的房水流出を再建する術式であ近年低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasur-〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593大分県由布市挟間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiKubota,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu,Oita879-5593,JAPANgery:MIGS)とよばれる低侵襲な緑内障手術が開発され,角膜の小切開創から施行でき,重篤な術後合併症が非常に少ない手術法として注目を浴びている.2016年に谷戸らが報告したマイクロフックを用いた線維柱帯切開術は簡便な手術器具によって短時間のうちに行える新たなabinternotra-beculotomyであり,眼圧下降効果も従来のabexternotra-beculotomyと遜色ないことが報告されている1.3).今回筆者らは,大分大学医学部付属病院眼科(以下,当院)で施行した白内障手術併用のマイクロフックを用いたabinternotra-beculotomy(以下μLOT)の短期手術成績について報告する.I対象および方法対象は2018年12月.2021年6月に当院で白内障手術と表1患者背景症例数37眼/26例年齢,歳平均±標準誤差(レンジ)73.7±10.5(47.89)歳性別男性女性16眼/13例21眼/13例病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障18眼16眼3眼logMAR視力平均±標準誤差(レンジ)0.34±0.35(0.1.7)眼圧平均±標準誤差(レンジ)14.1±4.3(8.32)mmHg屈折値平均±標準誤差(レンジ).3.6±6.92(.25.2)D内皮細胞数平均±標準誤差(レンジ)2,496±281(1,934.3,114)個/mm2MD値平均±標準誤差(レンジ).10.6±8.71(.30.3.0.01)dB併用して谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(以下,谷戸氏フック)(M-2215S,イナミ)を用いてtra-beculotomyを施行した26例37眼である.性別は男性13人16眼,女性13人21眼であった.平均年齢は73.7±10.5歳(47.89歳),平均観察期間は7.7±4.2カ月(6.21カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例17眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角(ステロイド)緑内障2例3眼であった(表1).全例白内障手術との併用手術であり,耳側からのアプローチで白内障手術を施行し,眼内レンズを挿入後に角膜サイドポートから直の谷戸氏フックを挿入し,隅角プリスムでの観察下に鼻側の線維柱帯を約120°切開した.術前後の眼圧値,薬剤スコア,視力,屈折誤差,角膜内皮細胞数について比較検討,術後合併症についても検討した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合剤点眼薬を2点,アセタゾラミド内服を2点とした.緑内障点眼薬は術後に原則的にすべて中止とし,術後の眼圧に応じて適宜点眼,内服薬を再開した.眼圧値と薬剤スコアはDunnett法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前と術後の眼圧値,薬剤スコア,視力について示す(図1~3).術前の眼圧値は14.7±5.2mmHg(8.32mmHg),術後の眼圧値は術後1週間で17.5±9.0mmHg(7.4328n=37logMAR視力眼圧(mmHg)24201612840術前124132652(週)図1術前後の眼圧経過術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.3.50.83.00.62.5薬剤スコア(点)0.42.01.51.00.20術前124132652(週)-0.2術前42652(週)図2術前後の点眼スコア経過図3術前後の視力経過術前と比較して各時点で有意な減少を認めた(p<0.01).術後早期より有意な改善を認めた(p<0.01).mmHg),術後2週間で15.0±4.8mmHg(7.29mmHg),術後1カ月で12.6±3.0mmHg(7.19mmHg),術後3カ月で13.5±3.7mmHg(7.22mmHg),術後6カ月で12.6±3.6mmHg(7.20mmHg),術後12カ月で13.3±3.4mmHg(9.21mmHg)であった.術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.薬剤スコアは術前が2.6±1.3点(0.5点),術後1週間で0.5±0.9点(0.3点),術後2週間で0.5±0.9点(0.3点),術後1カ月で0.4±0.7点(0.2点),術後3カ月で0.4±0.7点(0.3点),術後6カ月で0.5±0.8点(0.4点),術後12カ月で0.9±1.4点(0.4点)であった.薬剤スコアは術前と比較して各時点で有意に減少した(p<0.01).視力は平均logMAR視力にて術前0.35±0.35(0.+1.70),術後1カ月で0.04±0.14(.0.08.+0.40),術後6カ月で0.01±0.11(.0.20.+0.10),術後12カ月で.0.02±0.09(.0.20.+0.10)と術前と比較して有意に改善した(p<0.01).(1,934角膜内皮細胞数は術前2,496±281個/mm2.3,114個/mm2),術後1.3カ月で2,499±269個/mm2(1,669.3,073個/mm2).術後1.3カ月での角膜内皮細胞数は0.4±9.0%で術前とほぼ変化はなかった.術後3カ月における平均屈折誤差は.0.09±0.54D(.1.25.+0.75D)で,73%(27眼)が目標屈折の±0.5D以内,97%(36眼)が±1.0D以内の誤差であった.術後合併症を表2に示す.線維柱帯を切開した際に認める逆流性出血は92%(34眼)にみられた.術後1日目にニーボーを形成する前房出血は27%(10眼)にみられたが,いずれも1週間以内に吸収された.一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)は16%(6眼)にみられた.遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)は8.1%(3眼)にみられ,緑内障点眼再開により眼圧下降している.眼圧のコントロール不良により線維柱帯切除術などの追加手術が必要となった症例は存在しなかった.また,術後感染症や5mmHg以下の術後低眼圧をきたした症例はみられなかった.角膜上皮障害が5.4%(2眼)にみられたが,いずれも点眼加療にて3日以内に軽快した.また,黄斑浮腫が2.7%(1眼)にみられたが,点眼加療により増悪なく経過している.III考按従来,緑内障に対する観血的治療は線維柱帯切除術および眼外から行う線維柱帯切開術が主であったが,2011年にわが国で認可されたTrabectomeを皮切りにiStent,KahookDualBladeなど,低侵襲の緑内障手術を可能とするさまざまなデバイスが登場してきた.欧米では成人の開放隅角緑内障に対する標準術式は線維柱帯切除術とされているが,このようなデバイスを用いた線維柱帯切開術も行われるようになっている1).利点として,結膜を温存することができるため,表2術後合併症逆流性出血34眼(92%)術後1日目にニボー形成する前房出血10眼(27%)一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)6眼(16%)遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)3眼(8.1%)角膜上皮障害2眼(5.4%)黄斑浮腫1眼(2.7%)術後に眼圧のコントロールが困難となった場合でも追加で線維柱帯切除術やインプラント手術を行うことができる.谷戸氏フックはそれらのデバイスと同様に角膜小切開創から施行でき,手術時間も短時間で行うことができる.また,比較的安価な手術器具によって手術を行うことができることは他のデバイスと比較して秀でている点である2,3).谷戸氏フックの登場からまだ年月が浅いことや海外では一般的でないこともあるが,μLOTの手術成績に関する報告はあまり多くない.既報では2017年に谷戸らがμLOT単独手術で術前眼圧25.9±14.3mmHgおよび薬剤スコア3.3±1.0が,188.6±68.8日の平均観察期間で14.7±3.6mmHgおよび2.8±0.8に,白内障手術併用のμLOTで術前眼圧16.4±2.9mmHgおよび薬剤スコア2.4±1.2が,術後9.5カ月で11.8±4.5mmHgおよび2.1±1.0に低下したと報告している1).当院における手術では術後にすべての緑内障点眼薬を中止し,その後の経過観察中に必要に応じて点眼薬を再開しており一概に比較ができないが,術前の眼圧をほぼ維持しながら薬剤スコアを顕著に減少させており非常に良好な手術成績を得られていると思われる.術後になんらかの合併症を認めた頻度は30%(37眼中11眼)と既報3.6)より低めであった.低眼圧,感染症などの重篤な合併症は過去の報告も当院でも存在しなかった.筆者らは白内障手術を併用したμLOTを行い良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させることができた.緑内障眼に対して白内障手術を行う際,点眼加療でコントロールできている症例に対しμLOTは点眼を減らすために有用と思われる.今回の報告は観察期間が短期間かつ症例が少数であり,今後はさらなる長期的かつ多数例での観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Short-termresultsofmicrohookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasurgeryinJapaneseeyes:initialcaseseries.ActaOphthalmol95:e354-e360,20172)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Microhookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmol94:e371-e372,20163)TanitoM,IkedaY,FujiharaEetal:E.ectivenessandsafetyofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmol61:457-464,20174)EsfandiariH,ShahP,TorkianPetal:Five-yearclinicaloutcomesofcombinedphacoemulsi.cationandtrabectomesurgeryatasingleglaucomacenter.GraefesArchClinExpOphthalmol257:357-362,20195)MoriS,MuraiY,UedaKetal:Acomparisonofthe1-yearsurgicaloutcomesofabexternotrabeculotomyandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmol5:e000446,20206)石田暁,庄司信行,森田哲也ほか:TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績.あたらしい眼科30:265-268,2013***

良好な視力経過をたどったStaphylococcus lugdunensis による白内障術後眼内炎の1 例

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):644.648,2022c良好な視力経過をたどったCStaphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎のC1例佐藤慧一竹内正樹石戸みづほ岩山直樹岡﨑信也山田教弘水木信久横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室CARareCaseofEndoophthalmitisCausedbyStaphylococcuslugdunensisCafterCataractSurgeryCKeiichiSato,MasakiTakeuchi,MiduhoIshido,NaokiIwayama,ShinyaOkazaki,NorihiroYamadaandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC目的:硝子体検体からCStaphylococcusClugdunensis(S.lugdunensis)が培養された良好な視力経過をたどった白内障術後眼内炎のC1例を報告する.症例:64歳,女性.左眼白内障手術施行後C8日目に霧視を自覚し前医を受診し,当院紹介となった.左眼矯正視力はC20Ccm手動弁まで低下しており,前房蓄膿と硝子体混濁を認め,左眼白内障術後眼内炎と診断した.霧視出現の翌日に眼内レンズ抜去と硝子体切除術を施行し,術後に硝子体検体からCS.lugudunensisが培養された.培養されたCS.lugudunensisはセフタジジムとバンコマイシンに感受性を示し,レボフロキサシンに中間耐性を示した.術後経過は良好であり,左眼矯正視力は(1.2)まで改善した.結語:眼内炎の起因菌として,S.lugu-dunensisも考慮する必要がある.早期の硝子体手術と抗菌薬の硝子体注射により眼内炎の予後は良好となりうる.CPurpose:ToreportararecaseofendophthalmitispostcataractsurgerycausedbyStaphylococcuslugdunen-sis(S.lugdunensis)inCwhichCaCgoodCvisualCoutcomeCwasCobtained.CCaseCreport:AC64-year-oldCfemaleCpresentedCwithCblurredCvisionCinCherCleftCeyeC8CdaysCafterCundergoingCphacoemulsi.cationCandCaspirationCcataractCsurgeryCwithCintraocularlens(IOL)implantation.CUponCexamination,Cvisualacuity(VA)inCthatCeyeCwasChandCmotionCatC20Ccm,andhypopyonandvitreousopacitywereobserved.Shewassubsequentlydiagnosedaspostoperativeendo-phthalmitis,andparsplanavitrectomy(PPV)andIOLexplantationwereimmediatelyperformedthefollowingday.ACcultureCtestCofCanCobtainedCvitreousChumorCspecimenCshowedCpositiveCforCS.lugdunensis,CwithCsusceptibilityCtoCceftazidimeandvancomycin,yetnotlevo.oxacin.Posttreatment,thebest-correctedVAinherlefteyeimprovedtoC20/16.CConclusion:Inthisrarecase,agoodvisualoutcomewasobtainedviaearlyPPVcombinedwithintravit-realantibioticadministration,andcliniciansshouldbestrictlyawarethatendophthalmitiscausedbyS.lugdunensisCcanoccurpostcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):644.648,C2022〕Keywords:Staphylococcuslugdunensis,白内障手術,術後眼内炎,硝子体手術.Staphylococcuslugdunensis,cat-aractsurgrery,endopthalmitis,postoperativeendophthalmitis,parsplanavitrectomy.Cはじめに術後眼内炎は白内障手術の重大な合併症である.起炎菌としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)が半数を占め,とくにCStaphylococcusepidermidisが多い.StaphylococcusClugdunensis(S.lug-dunensis)はCCNSに含まれる皮膚常在菌の一つであり,軟部組織感染や菌血症,心内膜炎などの原因菌として近年報告されているが1.3),眼内炎の起因菌としての報告はまだ少ない.抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射後の眼内炎は犬塚らの報告がわが国でもされているが4),白内障術後眼内炎の起因菌となった症例はわが国ではまだ報告がない.今回,StaphylococcusClugdunensisによる白内障術後眼内〔別刷請求先〕佐藤慧一:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:KeiichiSato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC644(94)図1初診時所見a:前眼部写真.前房蓄膿と前房内フィブリン析出を認める.Cb:超音波断層検査像.硝子体混濁を認める.明らかな網膜.離は認めない.炎を生じ,良好な経過をたどったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:左眼白内障,右眼眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼.その他特記事項なし.糖尿病罹患歴なし.現病歴:左眼白内障の進行により近医にて左超音波乳化吸引術とCIOL挿入術を施行された.術後点眼として,モキシフロキサシンC4回,ベタメタゾンC4回,ブロムフェナクC2回の点眼が行われていた.手術C8日後,外来診察にてCVS=(1.0)であり,診察上感染兆候はみられなかったが,同日帰宅後に左眼霧視を自覚した.手術C9日後,起床時から左眼視力低下を自覚し,近医受診し,同日横浜市立大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.当院受診時所見:視力は左眼C20Ccm手動弁であり矯正不能であった.眼圧は左眼C11CmmHg,右眼C17CmmHgであった.左眼前眼部には前房蓄膿に加え,多数の炎症細胞とフィブリン析出,虹彩癒着を認めた.左眼CIOLは.内固定されており,左眼底は透見不可能であった.右眼は特記すべき異常はみられなかった.Bモード断層超音波検査では左眼の硝子体混濁を認め,明らかな網膜.離はみられなかった(図1).以上の病歴と所見より白内障術後感染性眼内炎と診断した.同日硝子体手術およびCIOL摘出術を施行し,術中の灌流液にバンコマイシン(VCM)10Cmg/500Cmlおよびセフタジジム(CAZ)20Cmg/500Cmlを混注した.術中所見では濃厚な硝子体混濁と,網膜の全象限に網膜出血と浸潤病巣が観図2術中眼底写真硝子体混濁に加え,網膜に出血と浸潤病巣が観察される.察された.網膜.離はみられなかった(図2).経過:術直後からセフトリアキソン(CTRX)1Cg/日の点滴を開始した.また,当院では硝子体手術後術後に追加治療としての硝子体内注射を行っており,術後C2日目とC5日目にCVCM2.0Cmg/0.2CmlとCCAZ4.0Cmg/0.2Cmlの連続した硝子体注射を行った.点眼としてガチフロキサシン(GFLX)6回,ベタメタゾンC6回,ブロムフェナクC2回を開始した.術後翌日から前房蓄膿は消失した.術後C6日目,術中の硝子体検体からCS.lugdunensisが培養され,眼底透見も改善傾向であった.本症例で培養されたCS.lugdunensisの薬剤感受性結果は,CAZとCVCMに感受性を示し,レボフロキサシ表1薬剤感受性試験結果ン(CLVFX)に中間耐性を示していた(表1).感受性確認後,薬剤MIC(Cμg/ml)判定CCTRXの点滴からセファレキシン(CCEX)C750Cmg/日内服へPCGC≦0.06CSC抗菌薬を変更し,退院とした.CGFLX点眼は術後感染予防目ABPCC≦1CSC的に退院後も継続した.術後C16日目には,CVS=(C0.5C×IOLCMPIPCC0.5CSC×sph+5.50D(cyl.0.75DAx5°)まで改善し,前眼部は炎CEZCCMZC≦1C≦4CSCSC症細胞を軽度認め,眼底には線状硝子体混濁がわずかに残るIPM/CSC≦1CSCが,網膜色調は良好であり,白斑や変性巣はみられなかっSBT/ABC≦2CSCた.術後C1カ月後にはCVS=(C1.0C×IOL×sph+5.00(cylCGMC≦1CSC.0.50DAx165°)の視力が得られた.術後C2カ月で点眼をABKCEMC≦1C≦0.25CNACSC終了した.術後C5カ月の時点で硝子体混濁は消失し,CIOL二CLDMC≦0.25CSC次挿入を施行した.術後C11カ月の時点でCVS=(C1.2C×IOL×MINOC≦1CSCsph.1.50(cyl.0.50)の最終視力が得られ,経過は非常にCAZC1CSC良好であった.CLVFXC2CICVCMC0.5CSCII考按TEICC≦1CSCDAPC≦0.25CSCS.lugdunensisは皮膚常在菌であり,CNSの一つである.STC≦0.5CSC皮膚感染症に加え,脳膿瘍,膿胸,軟部膿瘍,心内膜炎,FOMCRFPC≦4C≦0.5CSCSC敗血症,腹膜炎,人工関節周囲感染の原因菌としても知られLZDC1CSCている.他のCCNSに比べ病原性が高く,皮膚感染症や整形MUPC≦256CS外科疾患の領域ではCStaphylococcusaureus(CS.aureus)と臨PCG:ベンジルペニシリン,ABPC:アンピシリン,MPIPC:オ床上同等に扱われている2,3).キサシリン,CEZ:セファゾリン,CMZ:セフメタゾール,IPM/S.lugdunensisに起因する白内障術後眼内炎のこれまでのCS:イミペネム/シラスタチン,SBT/AB:スルバクタム/アンピ報告ではCLVFXに対して感受性をもつ株が培養されているシリン,GM:ゲンタマイシン,ABK:硫酸アルベカシン,EM:が5,6),本症例では感受性をもたなかった.エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,CAZ:セフタジジム,LVFX:レボフロキサシン,2007年のChiquetらの報告では,白内障術後のS.VCM:塩酸バンコマイシン,TEIC:テイコプラニン,DAP:ダlugdunensis眼内炎C5例のうち,4例について硝子体切除術プトマイシン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム合を施行し,3例については術後網膜.離を発症し最終矯正視剤,FOM:ホスホマイシン,RFP:リファンピシン,LZD:リネゾリド,MUP:ムピロシン.力は手動弁以下であり,網膜.離を発症しなかった残りC1例CX-8日X日X+1日X+1カ月X+2カ月X+5カ月PEA+IOL挿入発症初診S.lugdunensis検出PPV+IOL摘出IOL二次挿入VCM+CAZ(I.V.)CTRX(div)CEX(p.o.)GFLX(点眼)矯正視力1.00.1図3治療経過PEA:水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,PPV:経毛様体扁平部硝子体手術,VCM(I.V.):バンコマイシン硝子体注射(2.0Cmg/0.2Cml),CAZ(I.V.):セフタジジム硝子体内注射(4.0Cmg/0.2Cml),CTRX(div):セフトリアキソン経静脈投与(1Cg/日),CEX(p.o.):セファレキシン内服(750Cmg/日),GFLX(点眼):ガチフロキサシン点眼(6回/日).表2Staphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎の報告報古者発症から発症から受診時最終年齢術後受診まで手術まで治療合併症(報告年)の日数の日数矯正視力矯正視力827日2日5日硝子体手術Cm.m.C0.5特記なしCChiquetら(C2007)C8478696日5日12日不明不明不明C7日4日N/A硝子体手術C硝子体手術C硝子体注射Cs.L(+)Cs.l.(+)C0.2Cm.m.s.1.(.)1.0術後網膜.離C術後網膜.離C特記なしC647日不明5日硝子体手術Cm.m.Cn.d.術後網膜.離6810日不明CN/A硝子体注射Cn.d.C0.7特記なしGaroonらC757日1日CN/A硝子体注射Cn.d.C0.5特記なし(2018)C7321日不明2週間硝子体手術Cn.d.C0.2特記なし本症例(2021)C648日1日1日硝子体手術Cm.m.C1.0特記なしN/A:手術未施行につき該当なし,m.m.:手動弁,n.d.:指数弁,s.I.:光覚弁.は最終矯正視力はC0.5であった.いずれも受診時の視力は手動弁以下であり,発症から手術までの期間はC4.7日であった.1例については受診時矯正視力がC0.2と良好であり,硝子体注射による治療で最終矯正視力C1.0が得られている5).またCGaroonらの報告では白内障術後のCS.lugdunensis眼内炎C3例のうち,硝子体手術を施行した症例はC1例で,発症から手術まではC2週間が経過しており,最終矯正視力はC0.2であった.残りC2例は硝子体内注射で治療が行われ,最終矯正視力はそれぞれC0.7とC0.5であった(表2).Garoonらは硝子体手術には術後網膜.離のリスクが伴い,硝子体手術を施行しなかった症例に比べて視力予後が悪いとして,S.lugdu-nensis眼内炎に対する硝子体手術治療については懐疑的な提言をしていた6).しかし,本症例では矯正視力が手動弁からC1.0まで回復した.本症例では発症C1日以内と早期に手術治療を行ったことが過去の症例と異なっており,発症後早期に手術加療を行った場合は高い治療効果が期待できる可能性があると考える(表2).また,網膜全象限に浸潤病巣が出現していたが,網膜.離は生じておらず,網膜.離が生じる前に硝子体手術を完了できたことも治療効果につながった可能性がある.今回の症例では前房蓄膿が生じていたが,前述したCChi-quetらとCGaroonらのC8例の報告においても,Chiquetらの硝子体注射のみで治療を行ったC1例を除き,すべての症例で前房蓄膿を合併していた5,6).また,Cornutらの報告でもS.lugudunensis白内障術後眼内炎における前房蓄膿はその他のCCNS術後眼内炎による前房蓄膿に比べ丈が高いことが報告されている7).他科領域でもCS.lugdunensisによる人工関節周囲感染症は高率で膿瘍を合併することが知られており2),眼内炎の際に前房蓄膿の合併が多いことはCS.lugdu-nensis眼内炎の特徴の一つであると考えられる.先に述べた白内障術後眼内炎の報告において,発症から手(97)術まで数日以上経過している原因として,EndophtalmitisVitrectomyCStudy(EVS)の影響が考えられる.EVSでは1990.1995年にかけて白内障術後眼内炎に対する硝子体手術の治療効果を検討し,光覚弁まで低下している患者に対しては硝子体茎離断術の利益が考えられるが,手動弁以上の視力がある症例には必ずしも硝子体茎離断術は必要でないと提言している8).2013年のCEuropeanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgeon(ESCRS)のガイドラインでは,まず前房穿刺を行い,初期治療としてはクラリスロマイシンの経口投与が提言されている.硝子体手術は前房水の培養とCPCRで感染が確認された場合に検討し,その際抗菌薬の硝子体注射と併用することが提言されている.また,手術の際も初回はCIOL摘出を行わず,後.切開を伴う硝子体切除に留めるとされている9).当院においては術後眼内炎発症時は早期に初期治療として硝子体切除術と硝子体検体の培養検査を施行し,その後数回の硝子体注射を施行している.IOL摘出術については必ずしも視力予後に寄与しないという報告もあるが10),今回は施行した.S.lugdunensis感染症は組織破壊性が高く,とくに心内膜炎の起因菌としてはCS.aureusと比べても死亡率が高いため,積極的な手術治療の必要性が論じられている11,12).S.lugdu-nensisに起因する心内膜炎のみならず,眼内炎についても,早期の手術治療の必要性について論じる余地があると考える結果であった.今回はわが国でこれまで報告のなかったCS.lugdunensisによる白内障術後眼内炎を経験した.S.lugdunensisは発症早期に硝子体手術を行い,硝子体培養によって適切な抗菌薬を選択することが予後につながると考えられた.あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C647C文献1)FrankKL,PozoJLD,PatelR:FromclinicalmicrobiologytoCinfectionpathogenesis:HowCdaringCtoCbeCdi.erentCworksforStaphylococcuslugdunensis.,ClinMicrobiolRev21:111-133,C20082)Lourtet-HascoeJ,Bicart-SeeA,FeliceMPetal:Staphy-lococcusClugdunensis,CaCseriousCpathogenCinCperiprostheticjointinfections:comparisontoStaphylococcusCaureusCandCStaphylococcusCepidermidis,IntCJCInfectCDisC51:56-61,C20163)桜井博毅,堀越裕歩:小児のCStaphylococcuslugdunensisによる市中感染症と院内感染症の臨床像と細菌学的検討,小児感染免疫31:21-26,C20194)犬塚将之,石澤聡子,小澤憲司ほか:StaphylococcusClug-dunensisによる抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与後眼内炎のC1例.眼科61:1535-1540,C20195)ChiquetCC,CPechinotCA,CCreuzot-GarcherCCCetal:AcuteCpostoperativeCendophthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.JClinMicrobiolC45:1673-1678,C20076)GaroonCRB,CMillerCD,CFlynnCHWJr:Acute-onsetCendo-phthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.AmJOphthalmolCaseRepC9:28-30,C20187)CornutCPL,CThuretCG,CCreuzot-GarcherCCCetal:RelationC-shipCbetweenCbaselineCclinicalCdataCandCmicrobiologicCspectrumCinC100CpatientsCwithCacuteCpostcataractCendo-phthalmitis.RetinaC32:549-557,C20128)EndophthalmitisCVitrectomyCStudyGroup:ResultsCofCtheCEndophthalmitisVitrectomyStudy.ArandomizedtrialofimmediateCvitrectomyCandCofCintravenousCantibioticsCforCtheCtreatmentCofCpostoperativeCbacterialCendophthalmitis.CArchOphthalmolC113:1479-1496,C19959)BarryCP,CCordovesCL,CGardnerS:ESCRSCguidelinesCforCpreventionCandCtreatmentCofCendophthalmitisCfollowingCcataractsurgery:Data,CdilemmasCandCconclusions.Cwww.Cescrs.org/endophthalmitis/guidelines/ENGLISH.pdf,201310)望月司,佐野公彦,折原唯史:硝子体手術を施行した白内障術後急性眼内炎の起炎菌と手術成績の推移.日眼会誌C121:749-754,C201711)KyawCH,CRajuCF,CShaikhAZ:StaphylococcusClugdunensisCendocarditisCandCcerebrovascularaccident:ACsystemicCreviewCofCriskCfactorsCandCclinicalCoutcome.CCureusC10:Ce2469,C201812)AngueraI,DelRioA,MiroJMetal:Staphylococcuslug-dunensisCinfectiveendocarditis:descriptionCofC10CcasesCandCanalysisCofCnativeCvalve,CprostheticCvalve,CandCpace-makerleadendocarditisclinicalpro.les.Heart(Britshcar-diacsociety)91:e10,C2005***

眼内レンズの強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):709.713,2021c眼内レンズの強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較中村陸田村弘一郎岸大地横山勝彦木許賢一久保田敏昭大分大学医学部附属病院眼科ComparativeStudyofIntraocularLensImplantation:SuturelessIntrascleralFixationversusCiliarySulcusSutureFixationRikuNakamura,KohichiroTamura,DaijiKishi,KatsuhikoYokoyama,KenichiKimotoandToshiakiKubotaCDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:眼内レンズ(IOL)の強膜内固定術と毛様溝縫着術の術後成績を比較検討した.対象および方法:水晶体脱臼,IOL脱臼,無水晶体眼に対して,IOLの強膜内固定術を施行したC23例C23眼(69.7C±13.9歳)と毛様溝縫着術を施行したC17例C18眼(77.6C±12.5歳).術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月における術前後の矯正視力差,予測屈折値と術後屈折値の差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視,角膜内皮細胞密度減少率,術後合併症を比較,検討した.結果:毛様溝縫着術で術後C1週間での視力の改善が術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良(p<0.01)であったが,術式間に有意差はなかった.術後屈折値は予測屈折値よりやや近視化するが,術式間に有意差はなかった.術後合併症は術式間で有意差はなかったが,毛様溝縫着術のみで縫合糸露出を認めた.網膜.離は認めなかった.結論:当院で行った強膜内固定術は縫着術同様に術後早期から安定した視機能が得られる有用な術式と考えられた.CPurpose:Tocomparethesurgicaloutcomesofsuturelessintrascleralintraocularlens(IOL).xationwiththatofciliarysulcussuture.xation.SubjectsandMethods:In23eyesof23patientswhounderwentsuturelessintra-scleralCIOLC.xationCandC17CeyesCofC18CpatientsCwhoCunderwentCciliaryCsulcusCIOLC.xation,Cvisualacuity(VA)C,Crefractiveerror(RE)C,CcornealCandCIOLCastigmatism,CcornealCendothelialCcells,CandCsurgicalCcomplicationsCwereCexamined.Results:Intheciliarysulcus.xationeyes,theincreaseofVAwassigni.cantlysmallerat1-weekthanat3-and6-monthspostoperative.Nodi.erencebetweenpredictedandactualREwasobservedbetweenthetwooperations.Sutureexposurewasobservedpostciliarysulcussuture.xation.Inbothoperations,noretinaldetach-mentoccurred.Conclusions:IntrascleralsuturelessIOL.xationise.ectiveforobtainingearlyvisualrecovery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(6):709.713,C2021〕Keywords:白内障手術,眼内レンズ強膜内固定術,眼内レンズ毛様溝縫着術,水晶体脱臼,眼内レンズ脱臼.cat-aractsurgery,intrascleral.xationofintraocularlens,ciliarysulcus.xationofintraocularlens,lensluxation,intra-ocularlensluxation.Cはじめに水晶体脱臼や眼内レンズ(intraocularlens:IOL)脱臼,白内障手術中に生じたCZinn小帯断裂や破.による無水晶体眼に対して,従来はCIOL毛様溝縫着術が行われてきたが,2007年にCGaborら1)がCIOL強膜内固定術を報告し,2008年にはCAgarwalら2)がフィブリン糊を用いたCIOL強膜内固定術を発表した.これらの術式はわが国でも急速に普及した.大分大学医学部附属病院眼科(以下,当院)でも,2013年までは毛様溝縫着術を行ってきたが,強膜内固定術では糸を結紮する煩雑さがなく,また縫合糸に関連した合併症もない3)ことからC2014年から強膜内固定術を導入した.手術症例の蓄積によって,当院での強膜内固定術と毛様溝縫着術の術後成績の比較検討が可能となったので報告する.CI対象および方法対象は水晶体脱臼,IOL脱臼,白内障術後の無水晶体眼に対してC2017年C4月.2018年C6月に強膜内固定術を行い,半年以上経過観察を行ったC23例C23眼と,2012年C7月.〔別刷請求先〕田村弘一郎:〒879-5593大分県由布市挾間町医大ヶ丘C1-1大分大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KohichiroTamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasamamachi,Yufu-shi,Oita879-5593,JAPANC表1患者背景強膜内固定術毛様溝縫着術p値♯男性:女性15人:8人9人:8人C0.65♯右眼:左眼11眼:1C2眼11眼:7眼C0.60♯年齢(平均値C±SD)C69.7±13.9歳C77.6±12.5歳C0.08♭原因C0.58♯水晶体脱臼水晶体亜脱臼IOL脱臼IOL亜脱臼白内障術後の無水晶体眼1眼(4%)8眼(35%)6眼(26%)5眼(22%)3眼(13%)1眼(6%)6眼(33%)1眼(6%)8眼(44%)2眼(11%)#Chi-squaretest,♭Unpairedt-test.2013年C12月に毛様溝縫着術を行い,半年以上経過観察を行ったC17例C18眼である.IOL脱臼眼のうち,脱臼CIOLを摘出せずに利用した症例は除外した.患者背景について表1に示した.男女比は強膜内固定術群(以下,固定群)では男性15例,女性C8例,毛様溝縫着術群(以下,縫着群)では男性9例,女性C8例であり,平均年齢は,固定群はC69.7C±13.9歳,縫着群はC77.6C±12.5歳で,それぞれ有意差はなかった.原因疾患は,固定群では,水晶体脱臼,水晶体亜脱臼,IOL脱臼,IOL亜脱臼,白内障術後の無水晶体眼の順にC1眼,8眼,6眼,5眼,3眼であり,縫着群では,それぞれC1眼,6眼,1眼,8眼,2眼であった.術式間で有意差は認めなかった.強膜内固定術は,Kawajiらの報告4)に基づいて施行した.まず上方に約C3Cmmの強角膜創を作製し,水晶体やCIOLが残存する症例は水晶体乳化吸引術またはCIOL摘出術を行った.硝子体切除術は,25ゲージシステムで後部硝子体.離を作製し,強膜圧迫を行いながら硝子体を周辺部まで徹底して切除した.耳側,鼻側強膜の角膜輪部からC2Cmmの位置にMVRナイフでC3Cmmの強膜トンネルを作製した.IOLを強角膜創から挿入し,IOL支持部を鑷子で強角膜創から眼外に引き出し,強膜トンネル内に無縫合で固定した.毛様溝縫着術は,強膜内固定術と同様にCIOLや水晶体を除去し,硝子体切除を行った.IOL縫着用の眼内レンズを使用することが多く,上方の強角膜創は大きく切開せざるをえなかったため,3.6Cmmとばらつきがあった.耳側,鼻側強膜の角膜輪部からC2Cmmの位置に強膜半層切開または強膜フラップを作製し,Abexterno法5)でC10-0ポリプロピレン糸を通糸した.IOL支持部に強角膜創から引き出したポリプロピレン糸を眼外で結紮し,IOLを眼内に挿入して強膜に縫着固定した.対象の症例の診療録をさかのぼり,術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月の術前後の矯正視力差(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR),屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視,角膜内皮細胞密度減少率,術後合併症のC6項目について比較検討した.術前後の矯正視力差は,術前矯正視力と各術後時期の矯正視力の差と定義し,比較した.屈折値誤差は,術後の屈折値と予測屈折値との差とし,評価した.いずれの屈折値も等価球面の値を用いた.予測屈折値は光学式眼軸長測定装置(OA-2000,トーメーコーポレーション)で測定した眼軸長と角膜乱視度数から,SRK/Tを用いて算出した.術前と術後の角膜乱視の差を惹起角膜乱視と定義し,比較した.また,全乱視と角膜乱視との差をCIOL(水晶体)乱視とし,術前と術後のCIOL(水晶体)乱視の差を惹起CIOL乱視と定義し,比較した.乱視度数の計算にはCJa.e法6)を用いた.角膜内皮細胞密度減少率と,術後合併症の頻度も,術式間で比較した.術式間の比較はCunpairedt-test,術後経過による変化の比較はCrepeatedCmeasuresANOVAを用いた.多重比較にはCStudent-Newman-Keulstestを用いた.術後合併症は,術式間の比較にCchi-squaretestを用いて比較した.p<0.05を有意差ありとした.本検討は,倫理研究法を遵守し,世界医師会ヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会による適切な審査を受け承認を得て行った.CII結果表2に術前後の矯正視力差,屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起CIOL乱視の結果を示す.術前後の矯正視力差は,固定群では,術後C1週間,1カ月,3カ月,6カ月の順に,C.0.08C±0.68,C.0.17±0.70,C.0.17±0.79,C.0.27±0.74であり,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.縫着群では,+0.04±0.31,C.0.03±0.31,C.0.08±0.24,C.0.14±0.26であり,術後C1週間での矯正視力の改善が術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良(p<0.05,p<0.01)であった(図1).それぞれの術後時期で術式間における有意差は認めなかった.屈折値誤差は,固定群では,C.1.17±1.26D,C.0.68±1.32D,.0.91±1.54D,C.0.82±1.39Dであり,縫着群では,C.1.47±1.50D,C.1.07±1.49D,C.1.60±2.46D,C.0.87±2.75Dであった.それぞれの術後時期で術式間に有意差はみられず,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.惹起角膜乱視は,固定群では,C.1.39±1.12D,C.1.24±1.19D,C.1.08±1.33D,C.0.99±0.98Dであり,縫着群では,C.1.98±1.13D,C.1.67±0.76D,C.1.64±0.84D,C.1.39±0.70Dであった.両術式で術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.それぞれの術後時期で術式間に有意差はみられなかった.惹起CIOL乱視は,固定群ではC.2.48±1.62D,C.2.90±3.25D,.2.05±2.93D,C.2.13±1.72Dであり,縫着群ではC.2.63C±2.03D,C.1.79±0.93D,C.1.82±0.77D,C.2.58±2.53DC表2術前後の視力差,屈折値誤差,惹起角膜乱視,惹起IOL乱視術後1週間術後1カ月術後3カ月術後6カ月p値♯C術前後の視力差強膜内固定術C.0.08±0.68C.0.17±0.70C.0.17±0.79C.0.27±0.740.12毛様溝縫着術+0.04±0.31C.0.03±0.31C.0.08±0.24C.0.14±0.26<0.01p値♭C0.55C0.48C0.69C0.50C屈折値誤差強膜内固定術C.1.17±1.26DC.0.68±1.32DC.0.91±1.54DC.0.82±1.39DC0.11毛様溝縫着術C.1.47±1.50DC.1.07±1.49DC.1.60±2.46DC.0.87±2.75DC0.41p値♭C0.92C0.56C0.39C0.95C惹起角膜乱視強膜内固定術C.1.39±1.12DC.1.24±1.19DC.1.08±1.33DC.0.99±0.98DC0.52毛様溝縫着術C.1.98±1.13DC.1.67±0.76DC.1.64±0.84DC.1.39±0.70DC0.06p値♭C0.19C0.31C0.24C0.26C惹起CIOL乱視強膜内固定術C.2.48±1.62DC.2.90±3.25DC.2.05±2.93DC.2.13±1.72DC0.33毛様溝縫着術C.2.63±2.03DC.1.79±0.93DC.1.82±0.77DC.2.58±2.53DC0.40p値♭C0.77C0.23C0.82C0.84C#repeatedmeasuresANOVA,♭unpairedt-test.C術前後の矯正視力差1**0.8*0.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2術後1週間術後1カ月術後3カ月術後1週間■強膜内固定術毛様溝縫着術図1術前後の矯正視力差毛様溝縫着術後C1週間の視力改善は,術後C3カ月,6カ月と比較して有意に不良であった.*:p<0.05,**:p<0.01(Student-Newman-Keulstest).表3角膜内皮細胞密度表4術後合併症術前術後減少率強膜内固定術C2,186±375cells/mm2C1,783±571cells/mm217.6%毛様溝縫着術C2,356±370cells/mm2C1,986±553cells/mm214.4%p値♯C0.73#Unpairedt-test.C強膜内固定術(23眼)毛様溝縫着術(18眼)p値♯C低眼圧(≦5mmHg)9眼(39%)5眼(28%)C0.67高眼圧(≧25mmHg)1眼(4%)4眼(22%)C0.21虹彩捕獲3眼(13%)1眼(5%)C0.70IOL偏位,傾斜2眼(9%)1眼(5%)C0.90逆瞳孔ブロック1眼(4%)0眼(0%)C0.94虹彩偏位1眼(4%)0眼(0%)C0.94縫合糸露出0眼(0%)2眼(10%)C0.41硝子体出血0眼(0%)0眼(0%)網膜.離0眼(0%)0眼(0%)であった.それぞれの術式で術後時間が経過しても有意な変化はみられず,術後時間が経過しても有意な変化はみられなかった.角膜内皮細胞密度の減少率は固定群でC17.6%,縫着群で14.4%であり,有意差は認めなかった(表3).術後合併症を表4に示す.術後合併症は術式間で有意差を認めなかった.縫合糸露出は縫着群のみに認めた.硝子体出血,網膜.離はC1例も認めなかった.CIII考察強膜内固定術は近年急速に普及しており,強膜内固定術を従来の毛様溝縫着術と比較した報告はあるが,各施設によって術式が少しずつ異なる.今回はCKawajiらの報告4)に基づいて強膜内固定術を行い,後部硝子体.離を作製し周辺部まで硝子体切除を行った.縫着群では,術後C1週間の矯正視力が術前よりも低下しており,術後C3カ月,術後C6カ月と比較して有意に改善が乏しかったが,固定群では,術後早期から矯正視力が安定していた.この理由として,縫着群には強角膜創の大きさにばらつき(3.6Cmm)があったことが考えられる.本検討では,有意差はなかったが,固定群に比べ縫着群で惹起角膜乱視が大きい傾向にあり,縫着群で視力改善が遅かったことに関与している可能性がある.縫着群には強角膜創が大きかった症例が含まれており,それらの症例では角膜への侵襲が大きく,惹起角膜乱視が大きくなったと予想される.惹起角膜乱視はどちらの術式でも時間経過とともに改善傾向であった.屈折値誤差に関しては,固定群と縫着群との間に有意差はなく,いずれも近視化する傾向であった.既報4,7.9)では毛様溝縫着術では近視化し,強膜内固定術ではやや遠視化,またはごく軽度近視化するという報告が多いが,本報告で近視化した理由として,当院では硝子体切除術の際,前部硝子体切除のみではなく,周辺部硝子体まで切除していることがあげられる.Choら10)は毛様溝縫着術の際にCparsCplanaCvit-rectomy(PPV)を行った群と前部硝子体切除術を施行した♯Chi-squaretest.群とを比較したが,前部硝子体切除群と比較してCPPV群のほうが予測屈折値よりも近視化した(p=0.04)と報告している.Jeoungら11)は,前部硝子体切除よりもCPPVを行うほうが強膜への侵襲が大きく,強膜が菲薄,伸展することで近視化すると推測している.また,角膜輪部からCIOL支持部を固定する位置までの距離や,IOLの全長,強膜トンネルに挿入するCIOL支持部の長さによって,IOL光学面の位置が変化し,術後屈折値に影響する.本検討では両術式で角膜輪部からC2Cmmの位置にCIOL支持部を固定したが,Abbeyら8)は強膜内固定術において,IOL支持部を角膜輪部からC2Cmmの位置に固定した場合,1.5Cmmの位置に固定した場合と比較して,0.23D近視化すると報告している.現在,これらのパラメータの屈折値への影響について検討した報告は少ないため,今後検討が必要である.Kawajiら4)の報告では強膜内固定術での角膜内皮細胞密度減少率はC12.5%であり,他の報告4,12)と比較しても本報告では角膜内皮細胞密度減少率はやや高い結果となった.本報告では硝子体切除を徹底して行ったため,手術時間も長くなり,角膜内皮細胞への侵襲も大きかったと考えられる.術後合併症は,両術式間で有意差はみられなかった.網膜.離は両術式でC1例も認めなかった.これは硝子体切除を徹底して行ったためと思われる.Choら10)の報告でも,毛様溝縫着術にCPPVを併施したC47眼では網膜裂孔や裂孔原性網膜.離は発生しなかったが,前部硝子体切除を併施した36眼では網膜裂孔をC1眼,裂孔原性網膜.離をC1眼で認めている.柴田ら13)は,毛様溝縫着術時に周辺硝子体を可能な限り切除することで,硝子体ゲルの虚脱や嵌頓,術中の毛様溝への通糸操作による網膜.離の発生を予防できる可能性があると述べている.硝子体切除を徹底して行うことで,網膜裂孔,裂孔原性網膜.離を防ぐことができるが,予想屈折値より近視化する点,角膜内皮細胞密度減少率がやや高い点に注意する必要がある.今回の報告では,毛様溝縫着術を行っていた時期と強膜内固定術を行っていた時期が異なるため,使用するCIOLや術者が異なっていた.また,本来CIOL摘出の際の強角膜創の大きさを揃える必要があったが,3Cmmの強角膜創を作製して毛様溝縫着術を行った症例数が十分ではなく,厳密な比較が困難であった.また,症例数も少ないため,さらなる検討が必要である.CIV結論強膜内固定術は比較的早期から良好な視機能が得られる有用な術式である.予測屈折値よりもやや近視化する傾向にあることに留意する必要がある.文献1)GaborCSG,CPavlidisMM:SuturelessCintrascleralCposteriorCchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)AgarwalA,KumarDA,JacobSetal:Fibringlue-assist-edsuturelessposteriorchamberintraocularlensimplanta-tionCinCeyesCwithCde.cientCposteriorCcapsules.CJCCataractCRefractSurgC34:1433-1438,C20083)山根真:眼内レンズ強膜内固定法.眼科C59:1471-1477,C20174)KawajiCT,CSatoCT,CTaniharaH:SuturelessCintrascleralCintraocularlens.xationwithlamellardissectionofscreraltunnel.ClinOphthalmolC10:227-231,C20165)LewisJS:AbCexternoCsulcusC.xation.COphthalmicCSurgC11:692-695,C19916)Ja.eCNS,CClaymanHM:TheCpathophysiologyCofCcornealCastingmatismCafterCcataractCextraction.CTransCAmCAcadCOphthalmolOtolaryngolC79:615-630,C19757)武居敦英,横山利幸:強膜内固定術と毛様溝縫着術の比較.眼科60:733-741,C20188)AbbeyAM,HussainRM,ShahARetal:Suturelessscler-al.xationofintraocularlenses:outcomesoftwoapproach-es.The2014YasuoTanoMemorialLecture.GraefesArchClinExpOphthalmolC253:1-5,C20159)長田美帆子,藤川正人,川村肇ほか:眼内レンズ強膜内固定術における術後屈折値の検討.眼科C59:289-294,C201710)ChoBJ,YuHG:SurgicaloutcomesaccordingtovitreousmanagementCafterCscleralC.xationCofCposteriorCchamberCintraocularlenses.RetinaC34:1977-1984,C201411)JeoungCJW,CChungCH,CYuCHGCetal:FactorsCin.uencingCrefractiveCoutcomesCafterCcombinedCphacoemulsi.cationCandparsplanavitrectomy.Resultofaprospectivestudy.JCataractRefractSurgC33:108-114,C200712)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedCintrescleralCintraocularClensCimplantationCwithClamellarCscleralCdissection.COphthalmologyC121:61-66,C201413)柴田朋宏,井上真,廣田和成ほか:眼内レンズ縫着術後に生じた後眼部合併症の臨床的特徴.日眼会誌C117:19-26,C2013C***