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トラベクトームが有効であった遅発性水晶体起因性続発 緑内障の1 例

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):697.700,2023cトラベクトームが有効であった遅発性水晶体起因性続発緑内障の1例小野萌古畑優貴子松原美緒杉山敦柏木賢治山梨大学医学部眼科学講座CACaseofLate-onsetLens-inducedSecondaryGlaucomaSuccessfullyTreatedbyAb-InternoTrabeculotomyMoeOno,YukikoFuruhata,MioMatsubara,AtsushiSugiyamaandKenjiKashiwagiCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashiC目的:白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を報告する.症例:66歳,男性.幼少時に右眼外傷性白内障となり,33歳時に白内障手術を施行,39歳時に眼内レンズ二次挿入を行った.問題なく経過していたが術後C30年を経たC2020年C7月,右眼の眼痛とかすみを自覚し,近医を受診した.右眼眼圧C35CmmHgと高値を認めたため,点眼加療が行われたが,眼圧下降が得られず,精査加療のため同月山梨大学医学部附属病院眼科(以下,当院)紹介となった.当院初診時,右眼眼圧C42CmmHg,角膜浮腫,前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め,隅角は周辺虹彩前癒着などの異常所見は認めず開放していた.右眼水晶体起因性続発緑内障と診断し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を施行した.術翌日に一過性の眼圧上昇がみられたものの,その後眼圧下降が得られた.結論:外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.CPurpose:Toreportacaseoflate-onsetlens-inducedsecondaryglaucomasuccessfullytreatedbyab-internotrabeculotomy.Casereport:Thisstudyinvolveda66-year-oldmalepatientwhohadpreviouslyundergonesur-geryinhisrighteyewhenhewas33yearsoldforatrauma-relatedcataractthatdevelopedatchildhood,andsub-sequentCintraocularlens(IOL)implantationCinCthatCeyeCinC1992.CInCJulyC2020,CheCvisitedCaClocalCclinicCdueCtoCblurredCvisionCandCocularCpainCinCthatCeye,CandChighCintraocularpressure(IOP)andCresidualClensCparticlesCwereCobserved.CSinceClocalCsteroidCandCglaucomaCtreatmentCfailedCtoCcontrolCtheCelevatedCIOP,CheCwasCreferredCtoCourCdepartment.CUponCexamination,ChighCIOP,CcornealCedema,CintracameralCin.ammation,CandCresidualClensCcortexCwasCobserved.CForCtreatment,Cab-internoCtrabeculotomyCwithCIOLCextraction,CsecondaryCIOLCimplantation,CandC.xationCatCtheCintrascleralCspace,CandCvitrectomyCforClens-inducedCsecondaryCglaucomaCwasCperformedCinChisCrightCeye,CwhichCsuccessfullyCloweredCtheCIOP.CConclusion:Ab-internoCtrabeculotomyCmayCbeCe.ectiveCevenCforCcasesCofClate-onsetlens-inducedsecondaryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):697.700,C2023〕Keywords:水晶体起因性続発緑内障,遅発性,白内障手術,残存皮質,トラベクトーム.lens-inducedsecondaryglaucoma,late-onset,cataractsurgery,residuallensparticles,trabeculotomy.Cはじめに後の残存皮質はC0.1.1.5%程度に発症すると報告されている水晶体に起因した続発緑内障は,水晶体の膨化による隅角が2.4),多くの場合は自然吸収される.しかし,術後に角膜閉塞,膨化水晶体.や外傷による水晶体蛋白の房水中漏出に浮腫や長期化する眼内炎症などを発症するものは残存皮質の対する炎症反応などさまざまな原因で発症する1).白内障術除去が通常術後数カ月程度で行われる.既報では白内障の術〔別刷請求先〕小野萌:〒409-3898山梨県中央市下河東C1110山梨大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MoeOno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,ChuoCity,YamanashiPref.409-3898,JAPANC後C30年以上経過して角膜浮腫や眼内炎症をきたした症例の報告があるが5),水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).今回白内障手術後C30年を経て発症した残存皮質起因性の続発緑内障のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:66歳,男性.主訴:右眼の眼痛,かすみ.現病歴:右眼を幼少時に受傷し,外傷性白内障となった.1987年C12月(33歳時)に右眼水晶体乳化吸引術を施行,1992年C11月に眼内レンズ二次挿入術を施行した.以後近医を定期受診し,経過は良好であった.2020年C7月C15日に右眼の眼痛とかすみを自覚し,前医を受診した.右眼前房内炎症細胞および高眼圧(35CmmHg)を認め,抗炎症薬および抗緑内障薬点眼開始となった.同年C7月C25日前医再診時,右眼眼圧がさらに上昇(37CmmHg)し,瞳孔領に水晶体上皮細胞の塊と思われる白色物質を認めた.図1前眼部写真残存水晶体皮質を認めた.右眼水晶体起因性続発緑内障が疑われ,2020年C7月C27日に山梨大学医学部附属病院(以下,当院)へ紹介となった.当院初診時の所見としては,VD=0.2(1.0CpC×IOL×sphC.2.25D(cyl.1.75DCAx165°),VS=1.0(1.5C×IOL×sphC.0.75D),眼圧は右眼C42mmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は角膜浮腫と前房内炎症細胞,残存水晶体皮質を認め(図1),広角眼底写真で鼻側上方に残存皮質を確認できた(図2).隅角は両眼開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった(図3).右眼は視神経乳頭陥図2広角眼底写真鼻側上方に残存皮質を確認できた.図3隅角写真開放隅角で,隅角新生血管や周辺虹彩前癒着,隅角後退を認めなかった.図4右眼Humphrey視野検査下鼻側の視野障害を認めた.凹拡大を認め,視野では乳頭所見に一致する右眼下鼻側の視野障害を認めた(図4).血液検査や手術時に採取した房水を用いて行ったぶどう膜炎マルチスクリーニング検査では特記すべき異常所見は認めなかった.経過:右眼水晶体起因性続発緑内障と診断,残存水晶体皮質の膨化進行,眼圧コントロールの悪化を認めたため,2020年C8月C6日右眼トラベクトーム+眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術(25ゲージ)を施行した.残存した.の赤道部から前部硝子体に膨張した水晶体・硝子体が絡んでおり,眼内レンズと.を残したまま残存水晶体のみを完全に処理するのは困難と判断,眼内レンズ摘出・強膜内固定も行った.術中所見としては,残存水晶体皮質は白色に膨化しており,水晶体.ごと除去した.前房出血は少量であった.術後経過:術翌日に右眼眼圧C36CmmHgと一過性の上昇を認めたが,タフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の再開により術後C2日目には右眼眼圧C15CmmHgと速やかに下降が得られ,術後炎症も比較的軽度であった.術後C8日目に右眼眼圧C15CmmHg,VD=0.9Cp(1.2C×IOL×sph+0.50D(cyl.1.75DAx75°)で,退院とした.外来でも眼圧上昇なく経過,前医へ紹介とした.II考按水晶体起因性続発緑内障のメカニズムとして,水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞や免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序などがあると考えられる1).水晶体小片による物理的線維柱帯閉塞は水晶体.外摘出術,超音波水晶体乳化吸引術,YAGレーザー後.切開術,穿孔性水晶体外傷後などで発生した水晶体小片が線維柱帯間隙を閉塞することで生じる1).免疫反応・炎症によるアナフィラキシー機序では,水晶体物質を異物と認識し,免疫機序によって炎症を生じ眼圧上昇が発症する.既報における水晶体起因性続発緑内障は,手術後数日以内の発症が多数である1).治療は残存水晶体皮質除去などの外科的加療例が中心であることが多く,本症例のような遅発性水晶体起因性続発緑内障の報告は少ない.Barnhorstらは術後C65年を経て発症した水晶体小片緑内障を報告している6).また,多田らは術後C10年以上経過して発症したC4例を報告している7).そのうちC2例は抗炎症および抗緑内障薬点眼・内服加療で軽快,1例はプラトー虹彩形状を認めレーザー隅角形成術で加療,1例は水晶体遺残物を水晶体.とともに除去し,脱臼眼内レンズ摘出/縫着,トラベクレクトミーで加療を行っており,トラベクトームのような流出路手術による改善例の報告はなかった.Konoらはトラベクトームの術後成績には緑内障の病型は有意には影響しないと報告しているが8),流出路手術は.性緑内障やステロイド緑内障において原発開放隅角緑内障に対してよりも大きな眼圧下降効果が得られるという報告もみられ9,10),まだ結論は出ていない.流出路手術は一般的にステロイド緑内障を除き,続発緑内障には有効性が低いとされているが,これはCSchlemm管内腔の閉鎖が成立していることが影響していると考えられる.今回の症例の眼圧上昇機序は,線維柱帯路に近年になって膨化した水晶体線維や反応性物質が沈着し,流出路抵抗が上がったためと考えられる.眼圧上昇が急速に発症したが,発症から外科的治療までが比較的短期間であり,Schlemm管内の器質的閉塞が完成しなかったため,トラベクトームが有効であった可能性が考えられた.このため,水晶体起因性の続発開放隅角緑内障でも,発症から比較的短期間で,Schlemm管腔の閉鎖が発症する前には流出路手術が有効な場合があると考えられた.既報11)では残存水晶体皮質の除去のみで眼圧が正常化した報告があるが,本症例では術後も眼圧コントロールのためにタフルプロストとブリンゾラミド・チモロール配合薬の継続的処方が必要であったため,なんらかの緑内障手術は必要であった可能性が高い.CIII結論外傷性白内障の手術からC30年を経過して,誘因なく発症した遅発性水晶体起因性続発緑内障に対し,トラベクトーム手術と眼内レンズ摘出+眼内レンズ強膜内固定+硝子体切除術を行い,良好な術後経過を得た.水晶体起因性続発緑内障の眼圧上昇例において,開放隅角眼ではトラベクトームが有効な可能性がある.文献1)RichterCU:Lens-inducedopen-angleglaucoma.In:Theglaucomas(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT)C,Vol2,2ndCed,p1023-1031,Mosby,StLouis,19962)PandeM,DabbsTR:IncidenceoflensmatterdislocationduringCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractCSurgC22:C737-742,C19963)KageyamaCT,CAyakiCM,COgasawaraCMCetal:ResultsCofCvitrectomyCperformedCatCtheCtimeCofCphacoemulsi.cationCcomplicatedCbyCintravitrealClensCfragments.CBrCJCOphthal-molC85:1038-1040,C20014)AasuriMK,KompellaVB,MajjiAB:RiskfactorsforandmanagementCofCdroppedCnucleusCduringCphacoemulsi-.cation.JCataractRefractSurgC27:1428-1432,C20015)TienT,CrespoMA,MilmanTetal:Retainedlensfrag-mentpresenting32yearsaftercataractextraction.AmJOphthalmolCaseRepC26:2022-06-016)BarnhorstCD,CMeyersCSM,CMyersT:Lens-inducedCglau-comaC65CyearsCafterCcongenitalCcataractCsurgery.CAmJOphthalmolC118:807-808,C19947)多田香織,上野盛夫,森和彦ほか:白内障術後に生じた遅発型水晶体起因性続発緑内障のC4例.あたらしい眼科C30:569-572,C20138)KonoY,KasaharaM,HirasawaKetal:Long-termclini-calCresultsCofCtrabectomeCsurgeryCinCpatientsCwithCopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:C2467-2476,C20209)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndromeCArchOphthalmolC111:1653-1661,C199310)IwaoK,InataniM,TaniharaH:Successratesoftrabecu-lotomyCforCsteroid-inducedglaucoma:aCcomparative,Cmulticenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC151:1047-1056,C201111)KeeC,LeeS:Lensparticleglaucomaoccurring15yearsaftercataractsurgery.KoreanJOphthalmolC15:137-139,C2001C***

白内障術後に生じた遅発型水晶体起因性続発緑内障の4例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):569.572,2013c白内障術後に生じた遅発型水晶体起因性続発緑内障の4例多田香織*1,2上野盛夫*2森和彦*2池田陽子*2今井浩二郎*2木下茂*2*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学FourCasesofLens-InducedGlaucomaThatDevelopedManyYearsafterLensReconstructionSurgeryKaoriTada1,2),MorioUeno2),KazuhikoMori2),YokoIkeda2),KojiroImai2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoSecondRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine白内障術後10年以上を経て発症し,複数の発症メカニズムの関与が示唆された水晶体起因性続発緑内障症例を4例経験したので報告する.症例1,2は抗炎症および抗緑内障薬点眼,内服加療にて軽快したが,経過中にステロイド緑内障を併発した.症例3は超音波生体顕微鏡にてプラトー虹彩形状を認めレーザー隅角形成術を施行した.症例4は急性緑内障発作,線維柱帯切除術/白内障手術の既往があり,眼内レンズ脱臼を認め,観血的加療により眼圧下降を得た.遅発型の水晶体起因性続発緑内障にはさまざまな発症メカニズムが関与するため,眼圧上昇機序をよく理解して適切な治療を行う必要がある.Lens-inducedsecondaryglaucomasometimesoccursseveralyearsaftercataractsurgery,lasercapsulotomyorpenetratingcornealinjury.Manymechanismsthatresultinincreasedintraocularpressure(IOP)arethoughttobecombinedinthiscondition,suchasblockageoffluidoutflowthroughthetrabecularmeshworkbysmallresiduallensparticles,inflammationcausedbylensanaphylacticreaction,angleclosuremechanismduetoresidualswollenlenssubstances,andsteroidtherapyitself.Herewereport4casesoflens-inducedsecondaryglaucomawithcombinedmechanismsthatdevelopedseveralyearsaftercataractsurgery.Cases1and2respondedwelltotreatmentwithsteroidandanti-glaucomaeyedrops,butresultedinsteroid-inducedglaucomaduringthetimecourse.InCases3and4,residuallensparticlesorintraocularlensdislocationworsenedtheglaucoma,necessitatingsurgerytocontrolIOP.Physiciansshouldbeawareoftheexistenceoftheseseveralmechanisms,andchoosethesuitabletherapyaccordingly.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):569.572,2013〕Keywords:水晶体起因性続発緑内障,白内障手術,残存皮質,ステロイド緑内障,アナフィラキシー反応.lensinducedglaucoma,cataractsurgery,residuallensparticles,steroidglaucoma,lensanaphylacticreaction.はじめに水晶体起因性続発緑内障は時に白内障術後や後.切開,穿孔外傷後数年を経て発症することがある.眼圧上昇機序はさまざまであり,残存水晶体蛋白による線維柱帯閉塞やアナフィラキシー反応,膨化水晶体による隅角閉塞,ステロイド薬による眼圧上昇など複数の発症メカニズムが関与することが知られている.今回,白内障術後10年以上を経て発症し,複数の発症メカニズムの関与が示唆された水晶体起因性続発緑内障症例を4例経験したので,その特徴と治療経過について報告する.I症例〔症例1〕30歳,男性.既往歴:10年前に両眼白内障手術歴(右眼は後.破損).現病歴:6時間前からの右眼痛,霧視,嘔気を主訴に京都府立医科大学眼科(以下,当科)救急受診.初診時右眼の毛様充血と角膜浮腫,軽度前房炎症を認め,後房に残留水晶体皮質を認めた(図1a).眼圧は右眼60mmHg,左眼14〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(141)569 mmHg.隅角検査では下方180°にわたって周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)および下方虹彩上に白色水晶体遺残物を認めた(図1b).散瞳検査の結果,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は.外固定されており,残留水晶体上皮細胞の増殖/膨化とそれによるIOLの前方移動を認めた.PASindexは50%であり上方は開放隅角であったため,眼圧上昇の主因は水晶体小片緑内障と考えられた.また,前房内に炎症所見を伴っており,水晶体アナフィラキシーによるぶどう膜炎の合併も考慮し,ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール,1%ドルゾラミドの点眼,アセタゾラミドの内服に加え0.1%ベタメタゾン点眼液右眼4回,プレドニゾロン15mg/日の内服による治療を開始した.治療開始5日目,毛様充血と角膜浮腫は消失し,眼圧も17mmHgまで下降した.隅角検査にてPASは残存するも下方虹彩上の白色水晶体遺残物は消失していた.アセタゾラミド内服を中止し0.1%ベタメタゾン点眼液,プレドニゾロン内服を減量し治療を継続したが,治療開始42日目,眼圧は21mmHgと再度上昇傾向を認め,ステロイド緑内障の合併が疑われたため,0.1%ベタメタゾン点眼液を0.1%フルオロメトロン点眼液に変更したところ眼圧は下降し,治療7カ月の時点で0.5%マレイン酸チモロールと0.1%フルオロメトロン点眼のみにて眼圧16mmHgに落ち着いている.〔症例2〕74歳,男性.既往歴:20年前に両眼白内障手術歴あり,無水晶体眼.両眼ともに原発開放隅角緑内障の既往あり.右眼はすでに光覚なし,左眼は抗緑内障薬点眼3剤(ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール,1%ドルゾラミド)で眼圧15mmHg以下にコントロールされていた.視野は湖崎分類IIIb.ab図1症例1の前眼部および隅角写真a:毛様充血,角膜浮腫をきたしている.前房は深く,白色の小物質が浮遊している.b:症例1の隅角所見.下方180°にPASを認めた.ab図2症例2の前眼部および隅角写真a:症例1同様に毛様充血,角膜浮腫をきたしている.b:症例2の隅角所見.PASは認めず,虹彩上に白色物質を認める.570あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(142) ab図3症例3の前眼部写真およびUBMa:前房深度は中央においては正常であるが,周辺部においてはきわめて狭くプラトー虹彩である.b:症例3のUBM.残存水晶体小片により周辺部虹彩が前方に押されている.現病歴:前日からの左眼視力低下を主訴に当科受診.初診時左眼毛様充血と角膜浮腫を認め(図2a),眼圧は右眼15mmHg,左眼55mmHg.隅角検査にてPASを認めず,虹彩上に白色塊状の水晶体遺残物を認めた(図2b).消炎,眼圧下降を目的に0.1%ベタメタゾン点眼,アセタゾラミド内服を追加したところ,眼圧はいったん下降傾向を示したが,治療開始21日目に眼圧39mmHgと再上昇した.ステロイド緑内障を疑い0.1%ベタメタゾン点眼を中止したところ,中止後1カ月で眼圧は24mmHgまで下降し,8カ月後には14mmHgと安定した.〔症例3〕74歳,男性.既往歴:11年前に左眼網膜.離に対し硝子体手術および水晶体再建術を施行.その後も網膜.離を2回発症し計3回硝子体手術の既往あり.現病歴:近医にて散瞳検査後より左眼眼圧が上昇し当科救急紹介受診.初診時左眼毛様充血と角膜浮腫を認め(図3a),眼圧は右眼10mmHg,左眼60mmHg.IOLは.内固定されており隅角検査にて左眼は全周性に隅角底が確認できなかった.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)にて全周性にプラトー虹彩形状を認め(図3b),一部では残留水晶体皮質の膨化により虹彩が前方へ圧排されていることが確認された.レーザー隅角形成術(lasergonioplasty:LGP)を施行したところ,耳側ならびに鼻側隅角は閉塞が開放され,眼圧は25mmHgまで下降.0.1%ベタメタゾン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ドルゾラミド点眼,アセタゾラミド内服により,治療開始3日目には眼圧は10mmHg.その後,保存的経過観察にて8カ月後には8mmHgと安定.〔症例4〕72歳,女性.既往歴:右眼は12年前に急性緑内障発作に対しレーザー(143)図4症例4の前眼部写真毛様充血と角膜浮腫を認め,IOLは前上方に脱臼している.虹彩切開術(laseriridotomy:LI),線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)および水晶体超音波乳化吸引術(PEA)+IOL挿入術を施行されるも,眼圧コントロール不良にて前部硝子体切除術(A-vit)+隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)の既往あり.6年前から右眼眼圧が再上昇し,1年前からは30mmHg程度.左眼はLI既往があり2年前に白内障手術を受けた後は眼圧が安定した.現病歴:右眼圧コントロール不良および角膜内皮細胞障害(932/mm2)にて当科紹介受診.初診時右眼毛様充血と角膜浮腫を認め,眼圧は右眼33mmHg,左眼12mmHg.IOLは前上方に脱臼しており(図4),隅角検査にて全周性にPASを認めた.TLE+IOL摘出/縫着術を施行,術中に水晶体遺残物を水晶体.とともに摘出した.眼圧は術翌日11あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013571 mmHgまで下降,4カ月後には18mmHgと安定している.II考察一般的に水晶体起因性緑内障はその発症機序により,1)水晶体融解緑内障,2)水晶体小片緑内障,3)水晶体アナフィラキシーによる緑内障の3種類に分類される1).水晶体小片緑内障は水晶体.外摘出術または超音波水晶体乳化吸引術,Nd-YAGレーザーによる後.切開術,穿孔性水晶体外傷後に正常な水晶体小片が浮遊し線維柱帯間隙を閉塞することによって生じる緑内障であり,手術あるいは外傷後数日以内に発症することが多いとされる1).稀に数年を経てから生じることもあり3,4),過去には術後65年を経て発症した水晶体小片緑内障の報告もある2)が,先天白内障術後に発症する症例が多い.通常,幼児や小児の水晶体にはheavymolecularweightprotein(HMWP)がほとんど存在せず,75歳以上になると著しく増加することが報告されている5).HMWPはその高分子量のために線維柱帯を閉塞して眼圧上昇をひき起こす1).先天白内障術後の残存水晶体皮質が変性しHMWP濃度が増加してから,これらが小片化して水晶体融解緑内障および水晶体小片緑内障をひき起こすまでには長期の経過を要すると考えられている2).したがって,今回のように成人例の白内障手術長期経過後の発症の報告は少ない.今回,筆者らが経験した4症例は,眼圧上昇においてそれぞれ異なるメカニズムの関与が示唆された.症例1では,眼圧上昇機序として水晶体小片緑内障(開放隅角緑内障)と閉塞隅角緑内障の両者が関与していたと考えられる.つまり,残存皮質から産生された水晶体小片や水晶体蛋白が線維柱帯間隙を閉塞,さらに残存皮質が膨化して形成されたSoemmering’sringがIOL越しに虹彩を前方移動させてPASを形成し,眼圧上昇に至ったと考えられる.Soemmering’sringは後発白内障の一種とされ,白内障術後に前後.が癒着してできた閉鎖腔内で水晶体上皮細胞が水晶体線維細胞に分化・再生して形成されるリング状の白色組織である6).近年では超音波水晶体乳化吸引術の普及により発生頻度は少なくなっているが,ECCE(.外摘出)後にはより高頻度にみられていた.Soemmering’sringが単独で閉塞隅角緑内障を発症したという報告は少なく,また眼圧上昇程度は,通常房水中に浮遊する水晶体小片の量と相関するとされている1,7).したがって,白内障術後に皮質残存が疑われる症例では長期経過後に眼圧が上昇する可能性があることを認識しておくことは非常に重要であり,そのような既往のある症例の診断,眼圧上昇機序を考えるうえで隅角検査やUBM検査は非常に有用であるといえる.症例2.4のように既往歴に緑内障を有している例でも白内障術後に眼圧上昇がよく認められること8)から,元来の房水流出能が水晶体小片緑内障発症に関わっているとされる1).これらの水晶体起因性緑内障に対する治療に関して,水晶体小片緑内障に対する過去の報告では,保存的治療のみで眼572あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013圧下降を得られたとの報告は少なく,最終的に残留水晶体皮質除去を施行している場合が多い.確かに治療として残留水晶体皮質除去は確実な原因除去となるが観血的な治療として侵襲的であり,炎症が軽度であればまずは保存的治療による眼圧下降および消炎が第一選択となる1).一方,水晶体アナフィラキシーの合併が示唆される症例では,軽度の眼圧上昇の場合にはステロイド点眼が有効であるが,長期にわたる場合には症例1,2のようにステロイド緑内障の合併にも注意が必要である.症例3ではplateauirisconfigurationを認めLGPを施行することで残留水晶体皮質除去をせずとも眼圧下降が得られた.このように眼圧上昇機序を正しく理解すれば保存的治療のみで眼圧下降が得られる症例も少なくない.保存的治療抵抗性の症例もしくは水晶体起因性緑内障を繰り返す症例,全周性PASを伴う症例や症例4のようにIOL脱臼を伴う症例では,保存的治療のみでの眼圧コントロールは困難であり観血的治療が必要と考える.以上から,水晶体起因性続発緑内障はさまざまな機序が複合して発症することがあり,経過観察時にはこれらの眼圧上昇機転をよく理解して適切な治療を行っていく必要がある.文献1)RichterCU:Lens-inducedopen-angleglaucoma.In:TheGlaucomas(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT),Vol2,2nded,p1023-1031,Mosby,StLouis,19962)BarnhorstD,MeyersSM,MyersT:Lens-inducedglaucoma65yearsaftercongenitalcataractsurgery.AmJOphthalmol118:807-808,19943)KeeC,LeeS:Lensparticleglaucomaoccurring15yearsaftercataractsurgery.KoreanJOphthalmol15:137-139,20014)柴原玲子,二井宏紀:水晶体.外摘出術の20年後に水晶体起因性緑内障を生じた1例.臨眼58:2099-2101,20045)JedziniakJA,KinoshitaJH,YatesEMetal:Theconectionandlocalizationofheavymolecularweightaggregatesinagingnormalandcataractoushumanlenses.ExpEyeRes20:367-369,19756)林研:後発白内障の成因と対策.臨眼55:129-133,20017)EpsteinDL:Diagnosisandmanagementoflens-inducedglaucoma.Ophthalmology89:227-230,19828)SavageJA,ThomasJV,BelcherCD3rdetal:Extracapsularcataractextractionandposteriorchamberintraocularlensimplantationinglaucomatouseyes.Ophthalmology92:1506-1516,19859)EpsteinDL,JedziniakJA,GrantWM:Obstructionofaqueousoutflowbylensparticlesandbyheavy-molecular-weightsolublelensproteins.InvestOphthalmolVisSci17:272-277,197810)EpsteinDL,JedziniakJA,GrantWM:Identificationofheavy-molecular-weightsolubleproteininaqueoushumorinhumanphacolyticglaucoma.InvestOphthalmolVisSci17:398-402,1978(144)