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ドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタ®点眼液UD2%の効果

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1363?1368,2016cドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタR点眼液UD2%の効果井上康*1越智進太郎*1高静花*2*1井上眼科*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Effectsof2%RebamipideOphthalmicSuspensiononPerioperativePeriodofCataractSurgeryinDryEyePatientsYasushiInoue1),ShintaroOchi1)andShizukaKoh2)1)InoueEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:ドライアイ(DE)症例に対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)の白内障周術期における投与の有効性を評価した.方法:2014年12月17日?2015年6月17日に両眼の白内障手術目的で井上眼科を受診した症例のうち,2006年DE診断基準においてDE確定およびDE疑いと診断され,術後8週まで経過観察できた男性4名8眼,女性26名52眼,計30名60眼(72.1±7.3歳)を対象とした.術前4週の時点で無作為に片眼にレバミピド(REBA群),他眼にソフトサンティア(AT群)を割り付け,1日4回の点眼を開始した.点眼は術後8週まで継続し,DE自覚症状評価,SchirmertestI法,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,光干渉断層計によるTMH,角膜高次収差の連続測定の結果を比較した.結果:REBA群ではAT群に比べ,角結膜フルオレセイン染色スコアが術前2週および術後4?8週にかけて有意に減少し,BUTは術前2週以降延長していた.角膜高次収差の連続測定の結果から算出したFluctuationIndexおよびStabilityIndexはそれぞれ術前2週から術後6週まで,手術当日から術後6週までの間REBA群ではAT群に比べ有意に低下していた(p<0.05).結論:DE症例に対する白内障周術期におけるレバミピドの投与により早期の涙液層の安定化が得られた.Purpose:Toevaluatetheeffectsof2%Rebamipideophthalmicsuspension(rebamipide)ontheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.Method:Enrolledwere60eyesof30dryeyepatientswhohadundergonecataractsurgeryinbotheyesbetweenDecember17,2014andJune17,2015andbeenfollowedupfor8weeks(8w)aftersurgery.Artificialtearswererandomlyappliedtooneeye(ATgroup)and2%rebamipideophthalmicsuspensiontothefelloweye(REBAgroup)at4weeksbeforecataractsurgery(?4W).Eachgroupwasinstructedtostarttheophthalmicsuspensions4timesadayfrom?4wto8w.Subjectivesymptomassessment,SchirmertestI,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceinstainingscore,tearmeniscusheightobtainedbyopticalcoherencetomographyandserialcornealhigh-orderaberration(HOAs)wereexaminedat?4w,?2w,dayofsurgery(0w),2w,4w,6wand8w.Twoquantitativeindices,thefluctuationindex(FI)andthestabilityindex(SI)oftotalHOAs,wereusedtoindicatesequentialchangeinHOAsovertime.Result:BUTat?2w,0w,2w,4w,6wand8wwereextended,fluoresceinstainingscoreat?2w,4w,6wand8wweredecreased,FIat?2w,0w,2w,4wand6wweredecreasedandSIat0w,2w,4wand6wweredecreasedsignificantlyintheREBAgroup,comparedwiththeATgroup(p<0.05).Conclusion:Rebamipidewaseffectiveduringtheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1363?1368,2016〕Keywords:レバミピド懸濁点眼液,白内障手術,ドライアイ.rebamipideophthalmicsuspension,cataractsurgery,dryeye.〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoueM.D.,InoueEyeClinic,1-14-31Uno,TamanoCity,Okayama706-0011,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)1363はじめに近年,白内障手術は小切開化などさまざまな改良により術後早期から良好な視力が得られるようになるとともに,トーリック眼内レンズなどの導入により屈折矯正手術としての完成度も高まってきている.しかし,手術中の強制開瞼,眼内灌流液の滴下,顕微鏡光,局所麻酔および消毒液などによる角結膜,涙液層への障害は,角膜知覚低下,眼表面のムチン,ゴブレット細胞の減少を通して角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮を引き起こす術後ドライアイとして報告されている1?3).臨床現場において術後経過が良好であるにもかかわらず,異物感,乾燥感や霧視を訴える症例を経験することは少なくない.現在国内のドライアイ症例数は800?2,000万人と考えられており,白内障手術において良好な結果を得るためには術前にドライアイの診断を適確に行うこと,ドライアイと診断された場合には周術期のドライアイ治療を効率的に行うことが欠かせないと考えられる.ドライアイの治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)は角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用などを有することが報告されており4?8),白内障周術期におけるドライアイ治療薬としても有効である可能性がある.今回,白内障周術期のドライアイ症例に対してレバミピドを使用し,人工涙液使用眼との比較からレバミピドの有効性について検討を行った.I対象および方法本研究は眼科康誠会倫理審査委員会にて前向き無作為化比較試験として承認を受け,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および「臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月改正,厚生労働省告示)」を遵守して実施された.対象は2014年12月17日?2015年6月17日まで間の井上眼科における両眼白内障手術予定症例の内,第1眼の手術より4週前(?4w)の時点で,2006年ドライアイ診断基準9)におけるドライアイ確定およびドライアイ疑いに該当し,文書による同意を得ることができた41名82眼(男性5名10眼,女性36名72眼,年齢72.5±8.1歳)である.除外基準はドライアイ,結膜弛緩症以外の前眼部疾患(眼瞼炎,兎眼,眼瞼痙攣および虹彩炎を含む),コンタクトレンズ装用,涙点プラグを挿入中もしくは本研究参加前3カ月以内の涙点プラグ装用,本研究開始前12カ月以内の眼科的手術歴とし,マーキングによる眼表面への影響を排除するためにトーリック眼内レンズ挿入予定眼も除外基準に含めた.対象症例には?4wの時点で無作為に割り付けられた片眼にレバミピドを(レバミピド群),他眼には人工涙液(ソフトサンティアR:参天製薬,AT群)を?4wから術後8週(8w)まで1回1滴,1日4回点眼した.臨床評価は?4w,?2w,手術当日の手術前(0週),術後2週(2w),術後4週(4w),術後6週(6w),術後8週(8w)に行った.評価項目はドライアイ自覚症状(異物感,眼痛,乾燥感,霧視,羞明,疲労,流涙)をVisualAnalogueScaleにて評価,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア(9点満点),SchirmertestI法,前眼部アダプタを装着した後眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography,RS-3000,NIDEK)による下方の涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),波面センサー(Wave-FrontAnalyzer,KR-1W:TOPCON)による高次収差の10秒間連続撮影とした.波面センサーによる高次収差測定は白内障の影響を除外するため測定直径4mmの角膜高次収差を評価した.測定された10秒間の高次収差の変化からFluctuationIndex(FI),StabilityIndex(SI)を求めた10).今回の研究では,レバミピドは特徴的な白色懸濁性点眼液であるため二重盲検化は行えなかった.検者の主観を排除するためBUTの測定は左右の点眼薬を確認する前に行った.また,第三者機関による登録データの監査,モニタリングにより透明性を確保した.統計解析はJMPバージョン10.0.2(SASInstitute,Cary,NorthCarolina,USA)で行い,群間比較はpairedt-test,群内比較はKruskal-Wallis,多重比較はSteelを用い,有意水準p<0.05で検定した.白内障手術は全症例ともオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシールR点眼液0.4%:参天製薬,以下ベノキシール)とリドカイン塩酸塩(キシロカインR点眼液4%:アストラゼネカ)による点眼麻酔下で施行し,第1眼手術の2週間後に第2眼の手術を施行した.切開創は2.2mm耳側強角膜とし,前例とも無縫合で終了した.眼内レンズは1例2眼にSN60WF(ALCON),29例58眼にZCB00V(AMO)を使用した.全症例とも術前3日前より術当日までガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%:千寿製薬)を,術後はレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液1.5%:参天製薬)を術後4週まで1回1滴,1日4回使用した.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬)は術翌日より術後8週まで1回1滴,1日2回併用した.II結果対象症例のうち,本人の希望により8例,コンプライアンス不良により2例,点眼による苦味のために1例が中止・脱落となったため,30名60眼(男性4名8眼,女性26名52眼,年齢72.1±7.3歳)について解析を行った.本研究中に苦味以外の有害事象は認めなかった.?4wの時点でのBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,SchirmertestI法,TMH,高次収差変化のパターン,1364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)FI,SI,ドライアイ自覚症状はレバミピド群とAT群の間に有意差を認めなかった(表1).BUTは全症例で5秒以下,SchirmertestI法は5mm以上が60眼中56眼,10mm以上が60眼中30眼であった.白内障手術における術中合併症はなく,眼内レンズは全症例で?内に固定され,手術時間,術後矯正視力には両群間の有意差を認めなかった.レバミピド群ではAT群に比べ,BUTが?2wから8wまで有意に延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアが?2wおよび4wから8wまで有意に減少していた(p<0.05).群内比較ではAT群はBUT,角結膜フルオレセイン染色スコアともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wと比較して,BUTは手術当日から8wにおいて延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアは0w,4w,8wで有意な減少を認めた(p<0.05,図1).SchirmertestI法とTMHは両群間に有意差はなく,群内比較でも両群ともにすべての時点で有意差を認めなかった(図2).波面センサーによる角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化を図3に示す.AT群では全経過を通してBUT短縮型の特徴である開瞼後徐々に高次収差が増加する「のこぎり型」を示していたのに対し,レバミピド群では?4wでは「のこぎり型」を示していたが,それ以外では高次収差の変化が少ない「安定型」を示していた10).レバミピド群ではAT群に比べ,FIは?2w,0w,2wから6wまで,SIは0wから6wまで有意に低下していた(p<0.05).群内比較では,AT群ではFI,SIともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wに比べFIが?2wで,SIは?2wから8wまで有意に低下していた(p<0.05,図4).ドライアイの自覚症状評価は?4wと各測定点でのスコアの差から行った.すべての測定点において両群間に有意差を認めなかったが,眼痛や乾燥感の項目ではレバミピド群がAT群より改善している傾向が認められた.(図5)III考察LASIK(laser-assistedinsitukeratomileusis)では広範囲にわたり角膜知覚神経が切断されるために角膜知覚が低下し,涙液の反射分泌が減少することによりドライアイを発症することが広く知られている11).また,術中術後に使用する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液の鎮痛作用も角膜知覚低下の原因となる可能性がある12).ただし,今回の結果ではAT群とレバミピド群ともに?4wから8wまでの間涙液の反射性分泌を反映するとされているSchirmertestI法,TMHには変化が認められず,涙液の反射分泌の減少を惹起するほどの角膜知覚の低下は生じていなかったと考えられる.NSAIDsなどに防腐剤として配合されているベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride)の細胞毒性による角結膜表面のmicrovilli(微絨毛,微ひだ)への障害はmicrovilli先端の膜結合型ムチンの減少につながる13).また,強制開瞼に伴う乾燥と頻回に行われる眼内灌流液の滴下によっても膜結合型ムチンおよび分泌型ムチンが減少すると考えられる14).レバミピドには前述のように角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用があり4?8),BUT延長および涙液層の安定による高次収差の改善が報告されている15).今回の検討においても,レバミピド群ではBUTの延長,角結膜フルオレセイン染色スコアの改善,高次収差変化パターンの「安定型」への移行,FIおよびSIの低下が?2wから認められ,白内障手術の施行前に涙液層の安定化が得られていたと考えられる.一方,AT群ではBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,高次収差変化のパターン,FI,SIには全経過を通じて有意な変化はなく,ドライアイの改善および増悪ともに認められなかった.今回対象となった症例の約半数はBUT短縮型ドライアイであり,涙液量が正常範囲に保たれていたこと,人工涙液や抗菌薬点眼による水分量の増加により増悪が生じなかったのではないかと考えられる.術後矯正視力については両群間に有意な差はなく,自覚症状評価においても同様に有意差は認められなかったが,レバミピドにより涙液層の安定化が得られることが確認できた.今後,実用視力16)などで時間軸を考慮した視力評価を行い,視機能に対する効果を検証する必要がある.本研究は大塚製薬株式会社から助成を受けて行われた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)KasetsuwanN,SatitpitakulV,ChangulTetal:Incidenceandpatternofdryeyeaftercataractsurgery.PLoSOne8:e78657,20133)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20094)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20125)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20126)RiosJD,ShatosM,UrashimaHetal:OPC-12759increasesproliferationofculturedratconjunctivalgobletcells.Cornea25:573-581,20067)RiosJD,ShatosMA,UrashimaHetal:EffectofOPC-12759onEGFreceptoractivation,p44/p42MAPKactivity,andsecretioninconjunctivalgobletcells.ExpEyeRes86:629-636,20088)OhguchiT,KojimaT,IbrahimOMetal:Theeffectsof2%rebamipideophthalmicsolutiononthetearfunctionsandocularsurfaceofthesuperoxidedismutase-1(sod1)knockoutmice.InvestOphthalmolVisSci54:7793-7802,20139)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200710)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsubjects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,200611)LiM,ZhaoJ,ShenYetal:ComparisonofdryeyeandcornealsensitivitybetweensmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondLASIKformyopia.PLoSOne8:e77797,201312)DonnenfeldED,HollandEJ,StewartRHetal:Bromfenacophthalmicsolution0.09%(Xibrom)forpostoperativeocularpainandinflammation.Ophthalmology114:1653-1662,200713)高橋信夫:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198714)中島英夫,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,201215)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,201316)KaidoM,IshidaR,MuratDetal:Therelationoffunctionalvisualacuitymeasurementmethodologytotearfunctionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmol55:451-459,20111364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)表1術後8週まで経過観察できた症例の背景(123)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161365図1Tearfilmbreakuptime(BUT)と角結膜フルオレセイン染色スコアの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図2SchirmertestI法と下方涙液メニスカス高(TMH)の経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図3角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化平均値の変化を示す.1366あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(124)図4FluctuationIndexとStabilityIndexの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図5自覚症状の経時変化?4wと各測定点でのスコアの差を求め,+:改善,?:増悪とした.グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201613671368あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(126)

原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1057〜1061,2016©原発開放隅角緑内障(広義)に対する白内障単独手術狩野廉桑山泰明岡崎訓子桑村里佳福島アイクリニックClinicalResultsofCataractSurgeryinPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaKiyoshiKano,YasuakiKuwayama,NorikoOkazakiandRikaKuwamuraFukushimaEyeClinic目的:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.対象および方法:2014年8〜10月に当院で白内障単独手術を施行し,術後1カ月以上経過観察した原発開放隅角緑内障(広義)38例38眼を対象として後ろ向きに調査した.結果:術前,術翌日,1,3,6カ月後の眼圧(平均±標準偏差mmHg)はそれぞれ13.7±2.7,18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.),13.8±3.3(n.s.)だった.点眼スコアは術前2.1±1.5から術6カ月後1.0±1.2に有意に減少した(p<0.05).術翌日10mmHg以上眼圧上昇したものが5眼(13.2%)あり,術前高眼圧が有意な関連因子だった(p<0.05).結論:原発開放隅角緑内障(広義)眼に対する白内障単独手術は,短期的に点眼1剤分の眼圧下降効果が期待できるが,一過性眼圧上昇に注意が必要である.Purpose:Toevaluatechangesinintraocularpressure(IOP)followingcataractsurgeryinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).Patientsandmethods:TheauthorsretrospectivelyreviewedpreoperativeandpostoperativeIOPin38consecutivePOAGpatientswhohadundergonecataractsurgerybetweenAugustandOctoberof2014andhadbeenfollowedupatleast1monthaftersurgery.Results:PreoperativeIOPwas13.7±2.7;meanIOPat1day,1month,3monthsand6monthsaftersurgerywas18.0±6.4(p<0.01),15.1±5.1(p<0.05),14.5±3.8(n.s.)and13.8±3.3(n.s.),respectively.Thenumberofglaucomamedicationsbeforeandat6monthsaftersurgerydecreasedto2.1±1.5and1.0±1.2,respectively(p<0.05).Fiveeyes(13.2%)werefoundtohaveanIOPincreaseof≧10mmHgonthedayaftersurgery,higherpreoperativeIOPshowingstatisticallysignificantcorrelationwiththeIOPspike(p<0.05).Conclusions:Theefficacyofcataractsurgeryseemstobealmostthesameasthatofonebottleofglaucomamedication,atleastintheshortterm.WehavetobewareoftransientincreaseinIOPfollowingcataractsurgeryoneyeswithPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1057〜1061,2016〕Keywords:原発開放隅角緑内障,白内障手術,眼圧,点眼数,一過性眼圧上昇.primaryopen-angleglaucoma,cataractsurgery,intraocularpressure,numberofglaucomamedications,transientincreaseinintraocularpressure.はじめに緑内障の有病率は年齢とともに上昇し,白内障手術適応となることの多い70歳以上では10%にのぼると推測される1,2).緑内障を合併した白内障患者の頻度は多く,その術式の選択肢としては白内障単独手術と緑内障同時手術の2つが考えられる.白内障単独手術は手術時間が短く侵襲が少ないため,早期に視力回復が得られる一方で,術後眼圧コントロール悪化に伴う視野障害進行のリスクがある.緑内障同時手術は視力改善と眼圧下降の両方が一度の手術で得られ,点眼数減量などによるqualityoflife(QOL)の改善が期待できる反面,惹起乱視や収差増加など視機能に対する悪影響3,4)や眼内レンズの度数ずれが多いことが知られている5).以前わが国では,眼圧コントロール良好な原発開放隅角緑内障(広義)(primaryopen-angleglaucoma:POAG)眼に白内障単独手術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を施行すると,15.5〜26.6%の眼圧下降が得られると報告されてきた6,7)が,プロスタグランジン(PG)関連薬使用が緑内障治療の第一選択となった最近のわが国の報告では下降率−2.6〜9.9%と低い8〜11).術後の眼圧変化を予測することは,緑内障を合併した白内障眼の手術術式決定のうえで重要であり,今回筆者らはPOAGに対するPEA後の眼圧変化と,術後眼圧上昇に関連する因子について検討した.I対象および方法2014年8〜10月に当院でPEAを施行し,術後1カ月以上経過観察したPOAG38例38眼(両眼手術症例では先行眼のみ)を対象に,術前後の眼圧,点眼スコアを後ろ向きに調査した.PEAは全例耳側3mm切開で,角膜切開または強角膜切開で施行した.術中後囊破損した症例が1例あったが,硝子体脱出はなく眼内レンズは囊内固定であった.その他の症例は術中合併症もなく,全例眼内レンズは囊内固定だった.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて日中外来時間帯に測定し,術前眼圧は手術直近1回の値を用いた.患者背景を表1に示す.点眼スコアは配合剤を2,他の点眼と内服薬を1とした.術前に使用していた緑内障治療薬は術後いったんすべて中止し,経過に応じて再開した.術前後の眼圧を対応のあるt検定で,点眼スコアをWilcoxon符号順位検定で比較し,術翌日の5mmHgまたは10mmHg以上の眼圧上昇に関連する因子についてロジスティック回帰分析を用いて調べた.視野検査はHumphrey視野計のプログラムC30-2またはC10-2を用い,固視不良20%以上,偽陽性20%以上,偽陰性33%以上のいずれかに該当する信頼性の低い検査結果は除外した.II結果眼圧は術翌日から術1カ月後まで術前より有意に上昇していたが,以後は術前と同等のレベルに下降し,有意差はなかった(図1).点眼スコアは術後有意に減少し,経過とともに徐々に増加したが,術6カ月後の時点で術前より約1剤分有意に減少していた(図1).術前に炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)内服を使用していたものはなく,術後CAI内服を必要としたものが4眼あったが,術2カ月以降に使用していたものはなかった.術翌日の眼圧上昇は5mmHg以上が13眼(34.2%),10mmHg以上が5眼(13.2%)あった(図2).術翌日5mmHg以上の眼圧上昇と眼軸長には有意な関連があり(表2),長眼軸眼ほど眼圧上昇のリスクが高かった.また,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があったが,有意水準には達しなかった.術翌日10mmHg以上の眼圧上昇と術前眼圧には有意な関連があり(表2),術前眼圧が16mmHg以上のものは15mmHg以下のものに比較して有意に眼圧上昇をきたした(Fisher直接確率検定,p<0.05)(表3).術後2段階以上視力改善したものは16眼(42.1%)で,2段階以上視力低下したものはなかった.PEA前後で同一プログラムの検査結果がある15眼について,術後1dB以上MD値が改善したものは7眼(46.7%),3dB以上MD値が低下したものは2眼(6.7%)あった.感度低下した2眼はいずれも術後一過性に30mmHg以上の眼圧上昇をきたした症例であった.III考察POAGに対するPEA後の眼圧変化については,これまでの報告で−2.6〜26.6%と幅があるが,術前平均眼圧が18〜22mmHgの比較的高いものは下降率が15.5〜26.6%と大きい6,7,12,13)のに対し,15〜18mmHgの比較的低いものは−2.6〜11.2%と下降率が小さい8〜11,14,15).散布図で確認すると,術前眼圧に関係なく術後眼圧は15〜16mmHg,術後点眼スコアは1程度になることが多いことがわかる(図3).狭義POAGのなかでも術前眼圧が21mmHg以上のものは20mmHg以下のものより眼圧下降幅が大きいとの報告があるが6),わが国では1999年以降PG関連薬使用により眼圧コントロールがそれ以前より改善したため,術前眼圧が15〜17mmHgと低くなり,術後眼圧下降が得られにくくなったと考えられる.当院では術前眼圧が高めのものに対しては積極的に緑内障同時手術を選択しているため,本研究の症例群は過去の報告に比較して眼圧レベルがさらに低く,術前後の平均眼圧に差が出なかったものと思われる.また,多くの症例で緑内障第一選択薬であるPG関連薬が術前に投与されているのに対し,術直後には囊胞様黄斑浮腫のリスクを考慮して少なくとも1〜2カ月は投与を控える傾向にあり,眼圧下降が得られなかったもう一つの原因と考えられる.しかしながら点眼数は減少しており,眼圧コントロールとしては短期的には点眼1剤分の改善が得られていると思われた.白内障手術後の眼圧下降機序について,PEAが行われる以前の文献では房水産生低下16)や血液房水柵の変化17)などが考察されている.手術侵襲が少ないPEAについては,術前に房水流量が低下している症例は房水流出率が改善し,低下していない症例では変化がない18)ことから,PEA時の人工房水灌流による線維柱帯に沈着したグリコサミノグリカンの洗い流し効果や,線維柱帯障害による貪食細胞増加などが考えられている12)が,手術侵襲に伴う内因性PGF2放出によるぶどう膜強膜流出増加の可能性も推測されている15).PEAと同様に軽度の炎症惹起による眼圧下降効果が得られるものとしてレーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)があるが,LTPの眼圧下降率は20%前後19〜21),点眼数にして1剤程度と,PEA後と同等の下降効果が報告されている21,22).LTPの作用機序としては,細胞内メラニン顆粒破壊に伴うフリーラジカルや各種インターロイキン放出により,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性上昇,マクロファージの細胞外物質貪食増加,Schlemm管内皮細胞有孔性増加などを通じて線維柱帯の房水流出抵抗が減少することが知られており23,24),PEAも手術侵襲によって同様の経路が活性化し,房水流出抵抗が減じている可能性が考えられる.PEA後に危惧される眼圧上昇の割合は,術翌日5mmHg以上上昇したものが34.2%と高頻度で,眼軸長が長いほど有意にリスクが大きく,若年齢ほど眼圧上昇しやすい傾向があった.術翌日10mmHg以上と著明に上昇したものは13.2%あり,術後28mmHg以上が13%10),30mmHg以上が23%25)などの過去の報告と同様の結果であった.とくに術前眼圧が16mmHg以上のものは10mmHg以上上昇するリスクが有意に大きく,視野悪化の要因となりうるため,周術期の管理に十分に注意が必要と思われる.術後眼圧上昇の原因としては術後炎症,粘弾性物質残留,ステロイド薬などが考えられるが,より侵襲の少ない手術,眼内レンズ挿入後の十分な前房灌流,ステロイド薬の必要最小限の投与などに注意をしていても,予想以上に眼圧上昇が生じることが明らかとなった.術後眼圧上昇の予防には,術後CAI内服26,27)や,術前あるいは術直後のb遮断薬28),a2刺激薬29),PG関連薬30)などの点眼が有効であるとされており,眼圧上昇や視野悪化のリスクが高い症例では予防投与を考慮する必要があると思われる.また,追加治療の必要性をより早く判断するため,術後眼圧が最高となる4〜6時間後28〜30)に眼圧測定を行うことも有用と考えられる.POAGを合併した白内障患者では,眼圧コントロールが良好であれば白内障単独手術,不良であれば緑内障同時手術を選択することに異論はないと思われるが,その具体的な境界は明確ではない.当院では眼圧レベルが高いものや病期が進行したものは積極的に緑内障同時手術を選択しているが,適応を限定した症例群においても白内障単独手術では術後10mmHg以上の一過性眼圧上昇をきたすものが1割以上あった.とくに術前眼圧16mmHg以上の症例では4割にのぼり,視野悪化の原因となった可能性のある症例もあった.今後そのような症例はより積極的に緑内障同時手術を選択するか,術後眼圧上昇に対する点眼・内服予防投与を考慮する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimistudyreport2:PrevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)豊川紀子,宮田三菜子,木村英也ほか:緑内障手術の視機能への影響.臨眼62:461-165,20084)松葉卓郎,狩野廉,桑山泰明:IOLマスターを用いた線維柱帯切除術後の眼軸長測定.臨眼65:387-391,20115)有本剛,丸山勝彦,菅野敦子:白内障緑内障同時手術時の光学式ならびに超音波眼軸長測定装置による屈折誤差の比較.臨眼67:1525-1531,20136)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19967)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Effectofcataractsurgeryonintraocularpressurecontrolinglaucomapatients.JCataractRefractSurg27:1779-1786,20018)藤本裕子,黒田真一郎,永田誠:開放隅角緑内障に対するPEA+IOL後の長期経過.眼科手術16:571-575,20039)加賀郁子,稲谷大,柏井聡:緑内障眼の白内障手術術後眼圧変化.臨眼59:1131-1133,200510)尾島知成,田辺晶代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障眼の術後経過.臨眼56:1993-1997,200511)庄司信行:緑内障眼と眼内レンズ挿入術.あたらしい眼科23:153-158,200612)KimDD,DoyleJW,SmithMF:Intraocularpressurereductionfollowingphacoemulsificationcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinglaucomapatients.OphthalmicSurgLasers30:37-40,199913)LeeYH,YunYM,KimSHetal:Factorsthatinfluenceintraocularpressureaftercataractsurgeryinprimaryglaucoma.CanJOphthalmol44:705-710,200914)MerkurA,DamjiKF,MintsioulisGetal:Intraocularpressuredecreaseafterphacoemulsificationinpatientswithpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg27:528-562,200115)MathaloneN,HyamsM,NermanSetal:Long-termintraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationinglaucomapatients.JCataractRefractSurg31:479-483,200516)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeffectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.Ophthalmology75:260-272,197117)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Extracapsularcataractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198718)MeyerMA,SavittML,KopitasE:Theeffectofphacoemulsificationonaqueousoutflowfacility.Ophthalmology104:1221-1227,199719)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2090,199820)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,199921)FrancisBA,IanchulevT,SchofieldJKetal:Selectivelasertrabeculoplastyasareplacementformedicaltherapyinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol140:524-525,200522)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arandomized,prospectivestudycomparingselectivelasertrabeculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,200523)GuzeyM,VuralH,SaticiAetal:IncreaseoffreeoxygenradicalsinaqueoushumourinducedbyselectiveNd:YAGlasertrabeculoplastyintherabbit.EurJOphthalmol11:47-52,200124)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:Anewinsightintothecellularregulationofaqueousoutflow:howtrabecularmeshworkendothelialcellsdriveamechanismthatregulatesthepermeabilityofSchelemm’scanalendothelialcells.BrJOphthalmol89:1500-1505,200525)丸山幾代,勝島晴美,鎌田昌俊ほか:緑内障眼に対する白内障手術.眼科手術8:313-318,199526)RichWJ:Furtherstudiesonearlypostoperativeocularhypertensionfollowingcataractsurgery.TransOphthalmolSocUK89:639-647,196927)LewenR,InslerMS:TheeffectofprophylacticacetazolamideontheintraocularpressureriseassociatedwithHealon-aidedintraocularlenssurgery.AnnOphthalmol17:315-318,198528)Levkovitch-VerbinH,Habot-Wilner,BurlaNetal:Intraocularpressureelevationwithinthefirst24hoursaftercataractsurgeryinpatientswithglaucomaorexfoliationsyndrome.Ophthalmology115:104-108,200829)KatsimprisJM,SiganosD,KonstasAGPetal:Efficacyofbrimonidine0.2%incontrollingacutepostoperativeintraocularpressureelevationafterphacoemulsification.JCataractRefractSurg29:2288-2294,200330)AriciMK,ErdoganH,TokerIetal:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostonintraocularpressureaftercataractsurgery.JOculPharmacolTher22:34-40,2006表1背景因子因子性別男性17眼,女性21眼年齢68.2±8.5歳眼圧13.7±2.7mmHg点眼スコア2.1±1.5眼軸長24.8±1.9mmHumphrey視野MD値*−10.0±8.4dB無治療時最高眼圧**18.5±3.7mmHg内眼手術既往5眼(13.2%)レーザー線維柱帯形成術既往7眼(18.4%)濾過胞眼4眼(10.5%)*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.図1眼圧・点眼スコア各時点の眼圧(mmHg),点眼数はそれぞれ術前13.7±2.7,2.1±1.5,術翌日18.0±6.4,0.0±0.0,1週後16.5±5.9,0.1±0.4,2週後14.6±3.6,0.3±0.7,1カ月後15.1±5.1,0.4±0.8,2カ月後13.8±3.3,0.6±0.9,3カ月後14.5±3.8,0.9±1.1,6カ月後13.8±3.3,1.0±1.2だった(*p<0.05,**p<0.01;対応のあるt検定).図2術翌日の眼圧変化:y=x,:回帰直線y=1.6276x−4.2028(相関係数r2=0.46874),:y=x+10(術前より10mmHg眼圧上昇)を示す.表2術翌日の眼圧上昇に関連する因子5mmHg以上上昇10mmHg以上上昇年齢0.05750.7718性別0.41740.8194術前眼圧0.28720.0255術前点眼スコア0.68790.2843術前MD*0.90080.4672無治療時最高眼圧**0.14760.9920眼軸長0.01660.9656左右0.92670.9785術者0.92670.9794術中合併症0.97930.9815手術既往0.48180.6312SLT既往0.16960.9782Bleb眼0.68380.4711*術前に測定していた28眼,**術前に測定していた21眼.表3術前眼圧と術翌日10mmHg以上の眼圧上昇眼圧上昇なし眼圧上昇あり術前眼圧≦15mmHg27(96.4%)1(3.6%)術前眼圧≧16mmHg6(60.0%)4(40.0%)Fisher直接確率検定,p<0.05.図3白内障手術前後の眼圧・点眼スコア文献6〜15の術前後眼圧および点眼スコアをプロットした.:y=x,左グラフの:y=0.8x(20%眼圧下降線),右グラフの:y=x−1,→:本報告.〔別刷請求先〕狩野廉:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16福島アイクリニックReprintrequests:KiyoshiKano,M.D.,FukushimaEyeClinic,5-6-16Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)10571058あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(132)(133)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610591060あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161061

開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1037〜1043,2016©開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績佐藤智樹*1平田憲*2川路隆博*1溝口尚則*3*1佐藤眼科・内科*2林眼科病院*3溝口眼科SurgicalOutcomesof360°SutureTrabeculotomyAbInternoforOpen-angleGlaucomawithOne-yearFollow-upTomokiSato1),AkiraHirata2),TakahiroKawaji1)andTakanoriMizoguchi3)1)SatoEye&InternalMedicineClinic,2)HayashiEyeHospital,3)MizoguchiEyeClinic360°スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,360°LOTabinterno)の術後1年成績について検討した.対象は,2014年2〜8月に開放隅角緑内障に対し,佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した13例13眼で,術後12カ月の眼圧経過,緑内障点眼数,合併症を前向きに検討した.術前の平均眼圧は19.2±2.0mmHgで術12カ月後は13.5±2.4mmHgへ有意に下降した(pairedt検定にてp<0.0001).術前の緑内障点眼数は3.1±0.9で,術12カ月後は1.2±1.2へ減少した.(Wilcoxon符号順位検定にてp=0.0002).術後合併症は,一過性高眼圧が5眼,前房出血が7眼にみられたものの自然軽快し,2例は白内障の進行により白内障手術を施行した.360°LOTabinternoは開放隅角緑内障に対して,結膜と強膜を温存でき,短期的には有効と考えられる.Toinvestigatethesurgicalresultsof360°suturetrabeculotomyabinterno(360°LOTabinterno)withoneyearfollow-up.360°LOTabinternowasperformedon13eyesof13patientswithopen-angleglaucomaatSatoEyeandInternalMedicineClinicbetweenFebruaryandAugust2014.Time-courseofintraocularpressure(IOP),changesinnumberofanti-glaucomamedicationsandfrequencyofcomplicationswereprospectivelyevaluated.PreoperativeIOPdecreasedsignificantlyfrom19.2±2.0mmHgto13.5±2.4mmHgat12monthspostoperatively(p<0.0001,pairedt-test).Thenumberofanti-glaucomamedicationsreducedsignificantlyfrom3.1±0.9atbaselineto1.2±1.2at12monthspostoperatively(p=0.0002,Wilcoxonsigned-ranktest).PostoperativecomplicationsincludedtransientelevationofIOPtoabove30mmHgin5eyesandspontaneouslyresolvedhyphemain7eyes.Twoeyesshowedcataractprogressionrequiringcataractsurgery.360°LOTabinternoappearstobeavaluableoptionforthesurgicaltreatmentofopen-angleglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1037〜1043,2016〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,開放隅角緑内障,白内障手術.360°suturetrabeculotomy,abinterno,openangle-glaucoma,cataractsurgery.はじめにトラベクロトミーは,Schlemm管内壁の眼外への房水流出抵抗を減らすことで,眼圧を下降させる手術であり,成人の開放隅角緑内障に対してその有効性が報告されている1,2).トラベクロトミー術後の眼圧は10台後半であり,トラベクレクトミーに比べ眼圧下降効果では劣るものの,トラベクレクトミーにみられる濾過胞からの漏れや感染,浅前房,低眼圧に伴う脈絡膜剝離や黄斑症などの重篤な合併症は認めない.Chinらは,1995年にBeckら3)が先天緑内障に対して報告した360°スーチャートラベクロトミーを改良し,360°スーチャートラベクロトミー変法を考案した4).成人の開放隅角緑内障に対して施行,術後12カ月の眼圧は13.1mmHgであり,従来の金属トラベクロトームを用いた120°トラベクロトミーより良好な成績を示したが,予定どおりに360°のSchlemm管を切開できた完遂率は75%であったと報告している4).筆者らも,強膜深層弁切除術を併用した360°スーチャートラベクロトミー変法を開放隅角緑内障に対して施行したが,Chinら4)の報告と同等の眼圧下降効果と完遂率であった5,6).360°スーチャートラベクロトミー変法は,濾過胞を作製することなく13〜14mmHgの眼圧が得られるが,問題点として,手技的な困難さから完遂率がやや制限される点,眼外からアプローチしてSchlemm管を露出させるために結膜および強膜切開が必要であり,そのため将来の濾過手術に不利な影響を及ぼす可能性がある点などがある7).筆者らは,結膜と強膜を温存したうえで,より簡便で確実な手術を施行するため,角膜切開にて前房側より手術を行う360°スーチャートラベクロトミー眼内法(360°suturetrabecultotomyabinterno,以下360°LOTabinterno)を考案した8).開放隅角緑内障に対する術後6カ月の眼圧は13.8mmHg,完遂率は92%であり,360°スーチャートラベクロトミー変法の完遂率75%前後4,5)より高く,短期においては開放隅角緑内障に対して有効と思われた.今回は,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後1年の眼圧経過,投薬数の変化,術後合併症,完遂率について前向きに検討したので報告する.I対象および方法1.対象佐藤眼科・内科内に設置された倫理委員会の承認を得,ヘルシンキ宣言に基づき,前向き,無比較,非無作為試験を行った.対象は,2014年2〜8月に佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した開放隅角緑内障13例13眼である.病型は,原発開放隅角緑内障または落屑緑内障で,緑内障点眼薬にて加療するも視野狭窄の進行がみられた症例に手術を施行した.すべての手術は当施設で同一術者が施行した.手術に際し,すべての患者本人と家族にて効果と危険性,この研究の目的を説明し,文書にて同意を得た.本研究の対象は1例1眼とし,両眼施行した場合は,先行眼を用いた.また,眼圧測定の支障となる前眼部病変眼,ぶどう膜炎,強膜炎,外傷や緑内障手術既往眼は除外した.すべての患者に,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査,角膜内皮密度検査(SP-3000P,トプコン社),Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,Humphrey視野検査(HFAII740i,カールツァイス社),眼底検査,病歴聴取を行った.2.術式手術の1時間前から,2%ピロカルピン,4%リドカイン,モキシフロキサシンを5分ごとに点眼した.下鼻側に2%リドカイン2mlにてTenon囊下注射を行い,1.7mmの耳側角膜切開を行った(図1a).1%リドカインにて前房麻酔を行い,患者の頭を切開部の対側に傾け,Swan-Jacob隅角鏡をSchlemm管が見えるように設置し,前房内を粘弾性物質(ディスコビスク®,日本アルコン)で満たした.隅角鏡で観察しながらトラベクトームにて鼻側Schlemm管を15°ほど切開し(図1b),熱加工して先端を丸くした5-0ナイロン糸を23G鉗子(DSPforceps®,日本アルコン)を用いて耳側角膜創から前房内へ挿入し,内腔が露出されたSchlemm管内に糸の先端を挿入した(図1c,2a).Schlemm管に挿入した糸は,全周通糸できた場合は,糸の先端がSchlemm管切開部から出てくるので(図1d),その糸の先端を把持し(図1e,f),そのまま耳側角膜創から引き抜くことで(図1g,h),全周のSchlemm管を切開した.Schlemm管に挿入した糸は,糸の先端が半周以上挿入したところで動かなくなる場合がある.糸の先行部はその膨大部のため容易に逆行せずその場所で固定されているため,まずSchlemm管挿入部位(23ゲージ鉗子の把持部位)の糸を耳側角膜創から引き抜くことで,通糸できた半周のSchlemm管を切開した(図2b,c).続いて,Schlemm管切開部から最初と反対方向に糸を挿入し(図2d),同様の操作を行い,半周のSchlemm管を切開した(図2e,f).2例2眼において白内障手術も希望されたため同時手術を行った.上方に2.4mm角膜切開を作製し,超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)を施行した.最後に前房洗浄し,0.4%ベタメタゾンを結膜下に注射して手術を終了した.3.術後治療と観察期間術後2週間はモキシフロキサシン,0.1%ベタメタゾンと2%ピロカルピンを点眼し,PEA+IOLを併用施行した眼はブロムフェナクを術後3カ月間点眼した.術後の診察は,術1,2,3日後,術後1カ月以内は1週間ごと,術6カ月までは1カ月ごと,それ以降は1.5カ月ごとに行った.術後2週間までは,30mmHg以上の眼圧上昇時には炭酸脱水酵素阻害薬内服を適宜使用し,術2週間以降1カ月までは20mmHgを超えた場合,術1カ月以降は15mmHgを超えた場合に緑内障点眼を1剤ずつ追加した.前眼部検査,眼圧測定は毎回行い,視力検査,隅角検査,角膜内皮密度検査,Humphrey視野検査は適宜行った.4.検討項目,統計学的評価眼圧,ベースラインからの眼圧下降率,緑内障点眼数の経時変化,術中および術後合併症の種類と頻度,手術の完遂率について検討した.眼圧のベースラインは術前1カ月以内に日時を変えて3回測定した.術後眼圧は術後1日,1週間,2週間,1,3,6,9,12カ月の眼圧を用いた.緑内障点眼数は,通常の点眼は1,合剤は2,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2とした.術後2週間使用した2%ピロカルピンは術後虹彩前癒着防止のために使用したもので,緑内障点眼数としては含めなかった.合併症は,術1カ月以内に30mmHg以上になった場合を一過性高眼圧とし,隅角鏡にて線維柱帯に及ぶ虹彩の癒着を虹彩前癒着とした.視力は少数視力をlogMAR(logarithmoftheminimumangleofresolution)視力に変換した値を用い,視力低下は0.2logMAR以上悪化した場合とした.手術の完遂率は,予定どおりに360°Schlemm管を切開することができた場合とした.統計学的評価は,Graph-PadPrism6.01(エムデーエフ)を用いて,連続するデータは平均値±標準偏差で表し,術前後の眼圧比較にはpairedt検定を,緑内障点眼数の比較にはWilcoxon符号順位検定を用いた.p<0.05を有意とした.II結果術前の患者背景を表1に示す.1.眼圧経過術後眼圧の経時変化を図3に示す.術前眼圧は19.2±2.0mmHg,術後12カ月の平均眼圧は13.5±2.4mmHgで29.7%の眼圧下降率であった.術1,3,6,9,12カ月の眼圧は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれpairedt検定にてp=0.0002,0.0010,<0.0001,0.0002,<0.0001).2.緑内障点眼数緑内障点眼数を図4に示す.術前の緑内障点眼数は3.1±0.9,術12カ月後は1.2±1.2で,術1,3,6,9,12カ月の緑内障点眼数は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれWilcoxon符号順位検定にてp=0.0005,0.0002,0.0002,0.0002,0.0002).3.術中および術後合併症と完遂率術中および術後合併症を表2に示す.術後7眼(54%)に前房出血を認めたが,前房洗浄を要したものはなく,術後平均4.3日で吸収された.5眼(38%)に30mmHg以上の一過性高眼圧を認め,炭酸脱水酵素阻害薬内服にて平均3.8日で30mmHg以下に下降した.術後2カ月時の隅角検査にて4眼(31%)に虹彩前癒着を認め,その範囲は平均21.3%であった.有水晶体眼10眼のうち2眼(20%)に白内障進行を認め,1眼は術2カ月後に,もう1眼は術10カ月後に白内障手術を追加した.術12カ月後の平均視力は0.09±0.10logMARで,術前に比べ0.2logMAR以上視力低下したものはなかった.角膜内皮細胞密度は2,479.3±248.0/mm2で,術前に比べて0.8%の減少率であった.Schlemm管切開は,3眼では単回の全周通糸による切開が可能であった.9眼では上下半周ずつの通糸により全周切開を完成させた.1眼は上方90°のSchlemm管に通糸できずに切開範囲が270°にとどまった.完遂率は92.3%であった.III考按筆者らは以前に開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後6カ月の成績を報告したが8),今回の調査で,術後1年時点においても引き続き有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認めた.原発開放隅角緑内障における房水流出抵抗は,集合管よりもSchlemm管内壁におもに存在するといわれており9〜11),落屑緑内障では,落屑物質や色素細胞がSchlemm管や細胞外マトリックスに蓄積していくことで房水流出抵抗が増すといわれている12,13).したがって,360°スーチャートラベクロトミー変法や360°LOTabinternoはこれらの病型に対して理にかなった手術と思われる.Chinらや筆者らが報告しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は開放隅角緑内障において,通常の金属トラベクロトームを使用する120°トラベクロトミーよりも低い術後眼圧を得ているが4〜6),その理由として,集合管は不規則に分布し,その多くは金属トラベクロトームでは切開しづらい鼻側や下方に多く存在している14,15)こと,全周のSchlemm管を切開することで直接全周の集合管に房水が最短で流れる16)ことが考えられる.しかしながら,Hepsenら17)が指摘しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は結膜および強膜切開が必要であるため,その瘢痕化が将来の濾過手術に悪影響を及ぼす可能性があり7),また,手技がやや煩雑なため完遂率が75%前後に制限されるという欠点がある4,5).筆者らが報告した360°LOTabinternoは,結膜および強膜を切開しないため将来の濾過手術への影響が少なく,さらに手技の簡略化や改良によって,より高い完遂率で360°Schlemm管を切開できた8).完遂率が高かった理由としては,1)トラベクトームを用いて鼻側のSchlemm管を切開することで,Schlemm管外壁を損傷させずにSchlemm管内腔を大きく開放でき18),糸の挿入が容易であったこと,2)隅角鏡下でSchlemm管への糸の挿入の様子が直接確認できるため,360°スーチャートラベクロトミー変法でときに起こりうる前房内や脈絡膜下腔への糸の迷入がなく,正確にSchlemm管内に糸を挿入することができたこと,3)Schlemm管の太さは不均一である19)ため,今回の症例でも単回での全周通糸が困難な眼が多かったが,上下方向それぞれに切開し全周切開を完成させることにより,通糸率が向上したこと,などが考えられる.筆者らの報告した術式は,鼻側のSchlemm管切開にトラベクトームを使用するため,Groverらが報告した,針を用いたSchlemm管切開20)に比してコスト面で劣る.しかし,筆者らの経験では,トラベクトームによるSchlemm管の切開幅は針によるそれと比べ広いため,糸を挿入するうえではより簡便に遂行できる点では大いに有用であると考えた.また,本研究と同様の20mmHg前後の術前眼圧に対するトラベクトーム手術の過去の報告21)をみると,術後眼圧が12mmHgと低い報告もあるが22),15〜17mmHgの報告が多い23〜25).本研究と直接比較することはできないものの,術12カ月後の眼圧が13.5mmHgという結果からは,より有効な眼圧下降効果が期待できそうである.術後合併症は,前房出血が7眼(54%),30mmHg以上の一過性高眼圧が5眼(38%)にみられたが,ともに保存的加療により眼圧は下降した.虹彩前癒着は4眼(31%)に認めたが,その範囲は平均21%で後眼圧経過も良好であったため,眼圧への影響はないと考えられた.これらの合併症の頻度は,360°スーチャートラベクロトミー変法の報告と同等であったが4〜6,17),それらの報告では認められなかった術後白内障を2眼に認めた.術中の鉗子や糸の水晶体への接触による可能性もあるが,術中所見として,接触とは関係なく前囊下に軽度の水滴状の混濁を認める症例があり,今後も注意して観察を続けていく予定である.また,本研究では,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した眼が2眼含まれている.白内障手術自体に眼圧下降効果があることは知られているが26),今回は症例も少ないため眼圧下降効果の相互作用の有無に関しては不明であり,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した際の眼圧下降効果や合併症に関しては現在検討中である.今回の検討にて,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoは,術後12カ月においても眼圧下降作用が維持されていることが確認され,結膜と強膜を温存できる有効な術式になる可能性がある.しかしながら,重篤ではないものの合併症の問題も残されており,今後もより多くの症例で長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735-739,19932)WadaY,NakatsuA,KondoT:Long-termresultsoftrabeculotomyabexterno.OphthalmicSurg25:317-320,19943)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:1200-1202,19954)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)佐藤智樹,平田憲:原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績.あたらしい眼科31:271-276,20146)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Outcomesof360degreessuturetrabeculotomywithdeepsclerectomycombinedwithcataractsurgeryforprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcataract.ClinOphthalmol8:1301-1310,20147)BroadwayDC,GriersonI,HitchingsRA:Localeffectsofpreviousconjunctivalincisionalsurgeryandthesubsequentoutcomeoffiltrationsurgery.AmJOphthalmol125:805-818,19988)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncomparative,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360degreessuturetrabeculotomyabinternoinpatientswithopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol9:63-68,20159)EthierCR,KammRD,PalaszewskiBAetal:Calculationsofflowresistanceinthejuxtacanalicularmeshwork.InvestOphthalmolVisSci27:1741-1750,198610)TammER:Functionalmorphologyoftheoutflowpathwaysofaqueoushumorandtheirchangesinopenangleglaucoma.Ophthalmologe110:1026-1035,201311)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Outflowresistanceofenucleatedhumaneyesattwodifferentperfusionpressuresanddifferentextentsoftrabeculotomy.CurrEyeRes8:1233-1240,198912)KonstasAG,JayJL,MarshallGEetal:Prevalence,diagnosticfeatures,andresponsetotrabeculectomyinexfoliationglaucoma.Ophthalmology100:619-627,199313)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU:Exfoliationsyndrome.SurvOphthalmol45:265-315,200114)Dvorak-TheobaldG:FurtherstudiesonthecanalofSchlemm;itsanastomosesandanatomicrelations.AmJOphthalmol39:65-89,195515)HannCR,BentleyMD,VercnockeAetal:Imagingtheaqueoushumoroutflowpathwayinhumaneyesbythreedimensionalmicro-computedtomography(3Dmicro-CT).ExpEyeRes92:104-111,201116)HannCR,FautschMP:Preferentialfluidflowinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOphthalmolVisSci50:1692-1697,200917)HepsenIF,GulerE,KumovaDetal:Efficacyofmodified360-degreesuturetrabeculotomyforpseudoexfoliationglaucoma.JGlaucoma25:e29-e34,201618)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinvestigationofabinternotrabeculectomyusinganoveldual-bladedevice.AmJOphthalmol155:524-529.e522,201319)KagemannL,NevinsJE,JanNJetal:CharacterisationofSchlemm’scanalcross-sectionalarea.BrJOphthalmol98(Suppl2):ii10-ii14,201420)GroverDS,SmithO,FellmanRLetal:Gonioscopyassistedtransluminaltrabeculotomy:anabinternocircumferentialtrabeculotomyforthetreatmentofprimarycongenitalglaucomaandjuvenileopenangleglaucoma.BrJOphthalmol99:1092-1096,201521)KaplowitzK,BusselII,HonkanenR:Reviewandmetaanalysisofab-internotrabeculectomyoutcomes.BrJOphthalmol100:594-600,201622)AhujaY,MaKhinPyiS,MalihiMetal:Clinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabectomeforopen-angleglaucoma:theMayoClinicseriesinRochester,Minnesota.AmJOphthalmol35:927-935,201323)WerthJP,GesserC,KlemmM:Diverseeffectivenessofthetrabectomefordifferenttypesofglaucoma.KlinMonblAugenheilkd232:72-78,201524)FrancisBA,MincklerD,DustinLetal:Combinedcataractextractionandtrabeculotomybytheinternalapproachforcoexistingcataractandopen-angleglaucoma:initialresults.JCataractRefractSurg34:1096-1103,2008.25)TingJ,DamjiK,StilesMC:Abinternotrabeculectomy:Outcomesinexfoliationversusprimaryopen-angleglaucoma.JCataractRefractSurg38:315-323,2012.26)MansbergerSL,GordonMO,JampelHetal:Reductioninintraocularpressureaftercataractextraction:theOcularHypertensionTreatmentStudy.Ophthalmology119:1826-1831,2012図1360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:全周通糸できた場合(左眼)a:1.7mm耳側角膜切開.b:トラベクトームを用いて鼻側Schlemm管切開.c:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.d:鼻側下方のSchlemm管から出てきた糸の先端を確認.e,f:糸の先端を23G鉗子を用いて把持.g,h:糸を耳側角膜創から引き抜いて全周のSchlemm管を切開.図2360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:半周以上通糸できた場合(左眼)a:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.b,c:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管上半周切開.d:糸を鼻側下方のSchlemm管に挿入.e,f:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管下半周切開.表1患者背景症例数13例13眼性別(男/女)4/9名平均年齢72.1±8.4(60〜89)歳病型(POAG/XFG)9/4眼術前平均眼圧19.2±2.0(15〜22)mmHg術前緑内障点眼数3.1±0.9(2〜4)剤HumphreyMD値−12.0±6.6(−26.4,−2.7)dB術前平均矯正視力0.01±0.07(−0.08,0.15)logMAR術前角膜内皮細胞密度2,498.4±265.4(2,201〜2,995)mm2白内障手術歴2眼平均観察期間12.0月POAG:原発開放隅角緑内障,XFG:落屑緑内障.MD:meandeviation,logMAR:logarithmoftheminimumangleofresolution.図3術後12カ月までの眼圧変化図4術後12カ月までの緑内障点眼数の変化表2術中および術後合併症眼数(%)術中前房出血13(100)前房消失0(0)Descemet膜剝離0(0)毛様体根部離断0(0)虹彩損傷0(0)術後前房出血7(54)一過性高眼圧(≧30mmHg)5(38)低眼圧(<5mmHg)0(0)虹彩前癒着4(31)内皮減少(≧10%)0(0)感染0(0)創からの漏れ0(0)手術を要した白内障2(20)〔別刷請求先〕佐藤智樹:〒864-0041熊本県荒尾市荒尾4160-270佐藤眼科・内科Reprintrequests:TomokiSato,M.D.,SatoEyeandInternalMedicineClinic,4160-270Arao,AraoCity,Kumamoto864-0041,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(111)10371038あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610391040あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(114)(115)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610411042あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(116)(117)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161043

手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):313.318,2016c手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績高橋光生*1勝田聡*1横井匡彦*2加瀬諭*3加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲よこい眼科*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野TherapeuticOutcomeofEyeglobeRupturebyBluntInjuryatTeineKeijinkaiHospitalMitsuoTakahashi1),SatoshiKatsuta1),MasahikoYokoi2),SatoruKase3)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)TeineYokoiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:鈍的外傷による眼球破裂の臨床像,治療方法,視力予後の報告.対象および方法:手稲渓仁会病院眼科で加療した鈍的外傷による眼球破裂33例34眼について,患者背景,白内障手術既往との関連,治療方法と成績,予後不良例の特徴などにつき,診療録からretrospectiveに調査した.結果:原因は転倒がもっとも多く,女性では発症年齢が男性よりも高かった.白内障手術の既往を有した16眼(47%)のうち,14眼で破裂創が切開創に一致しており,網膜.離の合併は切開創が一致しない1眼のみで認めた.ほぼ半数の症例で初回の縫合術の際に硝子体手術を併用したが,二次的に硝子体手術を追加した症例と経過や予後に明らかな差異はなく,手術回数は少なかった.視力の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に改善した.11眼(36%)に網膜.離を認め,最終的に4眼で復位を得られなかったが,これらはすべて白内障手術の既往がなく,初診時の視力が光覚なしであった.結論:眼球破裂においては,術前の視力や白内障手術既往の有無が治療方針や予後の参考となる.また,初回から硝子体手術を併用する有用性が示唆された.Weretrospectivelyinvestigatedpatients’backgrounds,includinghistoryofcataractsurgery,locationofruptureandvisionprognosis,fromthemedicalrecordsof34eyesof33patientswhohadsufferedeyegloberupturebybluntinjuryandwereimmediatelytreatedatTeineKeijinkaiHospital.Patientagewashigherinfemalesthaninmales.In14ofthe16eyeswithexperienceofcataractsurgery,therupturewoundswerelocatedclosetothepreviouslyincisedline;however,theyshowednoretinaldetachmentexceptinonecase.Inabout50%oftherupturepatients,vitrectomywasdoneinthefirstoperation,aswellassuturingofrupturedwounds.FinallogMARvisualacuityimprovedto1.43from2.51initially.Retinaldetachmentoccurredin11eyes(36%),4ofwhichshowednoresolutionofretinaldetachment,all4havingexperiencednocataractsurgeryandpreoperativelyexhibitingnolightperception.Thisstudysuggestedthatvitrectomyismoreusefulinthefirstoperation,inadditiontomanagementofrupturedwounds.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):313.318,2016〕Keywords:鈍的外傷,眼球破裂,網膜.離,白内障手術,硝子体手術.bluntinjury,eyegloberupture,retinaldetachment,cataractsurgery,vitreoussurgery.はじめに鈍的外傷による眼球破裂は患者背景や臨床像が非常に多彩であり,眼組織の脱出や網膜.離を複雑に伴う難治性疾患である.治療の進歩にもかかわらず視力予後はいまだに不良であり,高齢者に長期の入院生活や体位制限,複数回の手術を要したにもかかわらず,最終的に光覚を保存できないこともある.また,硝子体手術の時期に関しては,術者や施設により見解が異なる.すべての症例に良好な視機能を残すことは困難であるが,術前に得られた問診や診察所見から予後を推測することがで〔別刷請求先〕高橋光生:〒006-0811札幌市手稲区前田1条12丁目手稲渓仁会病院眼科Reprintrequests:MitsuoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,Maeda1-12,Teine-ku,Sapporo-shi,Hokkaido006-0811,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(153)313 きれば,個々の症例に応じた治療計画を立て,患者の心身の負担を軽減させることが可能である.今回,一地方に位置する手稲渓仁会病院(以下,当院)において眼球破裂34眼の治療を経験した.今後の治療に役立てるため,患者背景や手術既往,術前の所見,治療方針が,視力予後とどのように関連したのかを調査したので報告する.I対象および方法2004年4月.2013年3月の10年間に,鈍的外傷による眼球破裂で当院を受診した連続症例33例34眼について,患者の性別や年齢,受傷原因,治療方法,最終視力,白内障手術既往の有無による臨床像や予後の相違,初回の術式による治療成績の相違,視力予後不良例の特徴について,診療録からretrospectiveに調査した.視力を統計学的に解析する目的で小数視力を対数変換したが,大半が指数弁以下であったため,Schulze-Bonselら1)の報告に基づき,光覚なしはlogMAR値2.9,光覚弁は同2.8,手動弁は同2.3,指数弁は同1.85として計算した.II結果全症例の概要を表1に示した.性別および年齢(図1)は,男性が15例15眼で24.87歳(平均59.1±17.7歳),女性が18例19眼で56.96歳(平均77.4±9.0歳),合計33例34眼で24.96歳(平均69.1±16.5歳)であった.受傷眼の左右の別は右眼が7眼,左眼が27眼.観察期間は14日.7.5年(平均24.7カ月)であった.受傷原因(図2)は転倒18眼,打撲14眼(庭仕事4眼,労働災害4眼,スポーツ2眼,表1全症例の概要年齢白内障手術の網膜.離症例性別(歳)左右受傷の原因既往他の既往脱出した組織・物質の有無初診時視力1女79左打撲(棒)+(ECCE)虹彩,眼内レンズ.手動弁2女74左転倒+(ECCE)虹彩,硝子体.光覚なし3男70左転倒+(ICCE)角膜混濁虹彩?手動弁4男51左打撲(石).硝子体+指数弁5男87左転倒+(PEA)虹彩,眼内レンズ.手動弁6男51右打撲(金具).虹彩,硝子体+光覚なし7女74左打撲(木).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁8男40左転倒.硝子体+光覚弁9女74左転倒+(PEA)虹彩.手動弁10女77左転倒+(ECCE?)虹彩,硝子体.指数弁11男57左打撲(金具).なし.0.0112男87左転倒.虹彩,水晶体,脈絡膜+光覚弁13女70左転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障虹彩,脈絡膜,眼内レンズ+0.01〃〃〃右転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障なし.光覚なし14男43左打撲(殴打).虹彩,硝子体+光覚弁15女69左転倒.角膜混濁,緑内障なし?光覚なし16女81左打撲(棒)+(ICCE)虹彩.光覚弁17女56左打撲(玩具).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁18女82左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁19男43右打撲(バール).虹彩,硝子体.手動弁20女86左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁21女89左転倒+(術式不明)虹彩.手動弁22女96左転倒+(術式不明)角膜混濁虹彩?測定不能23男63左打撲(ゴルフボール).脈絡膜+光覚なし24女69右打撲(木).虹彩.手動弁25男24左交通事故.なし+光覚弁26女69左転倒.虹彩,水晶体.手動弁27男69右打撲(ドア)+(PEA)虹彩.0.0728女84右転倒+(術式不明)虹彩.手動弁29女85左転倒.虹彩+手動弁30男60左打撲(ルアー).水晶体,硝子体+光覚なし31男85右打撲(落雪).硝子体,網脈絡膜+光覚なし32女80左交通事故.虹彩.光覚弁33男56左転倒+(術式不明)虹彩,眼内レンズ.光覚弁ECCE:白内障.外摘出術,ICCE:白内障.内摘出術,PEA:水晶体乳化吸引術,PVR:増殖硝子体網膜症.314あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(154) ドア,落雪,玩具,殴打が各1眼),交通事故2眼であった.当院受診から初回手術までの期間は,同日21眼,翌日6眼,2.5日後7眼であり,平均0.85日であった.当院受診から1日以内に約80%の症例で初回手術を施行できた.手術回数は1.6回であり,平均1.88回であった.初回手術において,破裂創の縫合に加えて硝子体手術を併用(以下,一期的手術)した18眼の平均手術回数は1.67回であった.初回手術は破裂創の縫合のみで二次的に硝子体手術を計画(以下,二期的手術)した症例が16眼あったが,年齢や既往疾患などを理由に追加手術を希望しなかったり,硝子体出血が吸収されて追加手術が不要となった症例が8眼あった.実際に二期的手術にて治療した8眼の平均手術回数は3.25回であった.硝子体手術においては,硝子体出血や網膜.離などの症状に応じて適宜必要な処置(ガスやシリコーンオイル注入など)を施した.初回手術の34眼の麻酔方法の内訳は,局所麻酔が23眼,全身麻酔が11眼であった.34眼中16眼に白内障手術の既往があり,そのうち14眼(88%)は白内障手術の切開創と受傷による破裂創が一致していた.角膜混濁により眼底検査が不能であった2眼を除き,検査が可能であった12眼では網膜.離は認めなかった.切開創と破裂創が一致しなかった2眼では1眼が網膜.離であった.白内障手術の既往がない18眼では,眼球の上方2象限に破裂創が集中しており,下方半周において破裂したのは2眼のみであった(図3).角膜混濁により眼底検査が不能であった1眼を除く17眼のうち,10眼(59%)に網膜.離を認めた.結局,眼底検査が可能であった31眼中11眼に網膜.離を認めた(36%)が,この11眼の内訳は白内障手術の既往初回術式手術回数観察期間(月)最終視力転帰縫合+硝子体手術10.70.3経過良好縫合+硝子体手術10.70.15経過良好縫合10.7光覚弁元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術2691.2網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術10.7手動弁認知症.希望で治療終了縫合+硝子体手術10.5光覚なし顔面骨折治療あり受傷12日後に受診.復位せず縫合3240.6経過良好縫合6900.2PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合+硝子体手術21.5手動弁角膜染血にて視力不良縫合120.07硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合1901.2硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合+硝子体手術3180.3網膜は復位.経過良好縫合2120.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合220.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合4340.1PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合10.5光覚なし元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合460.04経過良好縫合390.6経過良好縫合278手動弁経過良好.視神経萎縮にて視力不良縫合1200.01経過良好.角膜障害で視力不良縫合1670.01水疱性角膜症にて視力不良縫合1150.06認知症につき追加治療を希望せず縫合111測定不能認知症,高齢,心疾患につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術258光覚なし受傷7日後に受診.復位せず眼球萎縮縫合+硝子体手術2601.0経過良好縫合+硝子体手術5330.15網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術144手動弁統合失調症.角膜混濁で視力不良縫合+硝子体手術1171.2経過良好縫合+硝子体手術130.7経過良好縫合+硝子体手術1240.06網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術143光覚弁復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術11.5光覚なし網膜が著明に脱出し復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術22光覚弁受傷20日後に受診.角膜混濁で視力不良.縫合+硝子体手術230.3経過良好(155)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016315 年齢(歳20代30代40代50代60代70代80代90代■:男性:女性024681012症例数(例)図1年齢分布と性別上直筋外直筋内直筋下直筋図3破裂創の中心部の分布×印は破裂創の中心部を示す.のあった14眼中1眼(6.7%)と既往のなかった17眼中10眼(59%)であり,Fisherの正確確率検定にて有意差があった(表2,p=0.007).視力測定が可能であった33眼の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に有意に改善していた(paired-t検定,p<0.001).白内障手術の既往の有無と,最終視力との関連について調べた.角膜混濁や緑内障の既往があり,元々視力が不良であると推測された4症例5眼(症例3,13,15,22)を除外した29眼を対象とした.白内障手術の既往がある群12眼の初診時の平均logMAR値は2.38であり,最終の平均logMAR値は1.21であった.既往がない群17眼の初診時の平均logMAR値は2.60であり,最終の平均logMAR値は1.35であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(表3,それぞれp=0.18,p=0.72,p=0.84).また,初回の術式と最終視力との関連について調べた.同様に眼科既往のない29眼において,一期的手術群18眼では初診時の平均logMAR値は2.49であり,最終の平均316あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016転倒53%打撲41%交通事故6%図2受傷原因の内訳表2白内障手術既往と網膜.離の関連白内障手術既往+.網膜.離+.110137白内障手術既往のある症例では網膜.離の併発が有意に少なかった.(p=0.007)表3白内障手術既往の有無と視力の関連白内障手術既往p値有無初診時視力2.38±0.482.60±0.340.18最終視力1.21±0.821.35±1.160.72視力改善1.18±0.771.25±1.050.84白内障手術の既往の有無による2群間で,初診時視力,最終視力,視力改善に有意差はなかった.logMAR値は1.41であった.二期的手術群11眼中,実際に硝子体手術を施行した6眼では初診時の平均logMAR値は2.8であり,最終の平均logMAR値は0.97であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(それぞれp=0.12,p=0.41,p=0.12).網膜.離を認めた11眼中,4眼で復位を得られなかった.いずれも初診時の視力が光覚なしで受傷原因は打撲(ルアー,ゴルフボール,落雪,金具)であり,白内障手術の既往がなく破裂創から網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中3眼は術中に視機能の保存は困難と判断されたため,手術は1回のみで治療を終了した.経過観察中,感染性眼内炎や交感性眼炎の発症は認めなかった.III考察鈍的外傷による眼球破裂は,平均発症年齢が50.60歳代(156) で男性に多く,転倒が主要な原因であるとする報告が多い2.4).また,一般的に男性の場合,若年者では肉体労働やスポーツ,暴力が原因となりやすいことが特徴であるといわれる.今回の結果は上述の報告と比較して,男性の発症平均年齢が女性よりも低く,転倒に多くみられたことは一致したが,性別で男性よりもやや女性に多く,全体の平均年齢もより高齢であった.その差異として当院の立地条件が関与したと思われる.僻地在住の高齢者や認知症患者が転倒により発症した例が多く,スポーツや暴力による発症者は2例と少数であった.右眼よりも左眼に多く発症していたが,眼球破裂に関する過去の報告で左右の発症比率にとくに言及しているものはなく,外傷性網膜.離5)やスポーツ眼外傷6)では右眼により多く発症している報告もあり,明らかな要因は不明であった.眼科手術の既往を有する眼球破裂症例では,破裂創が手術の切開創に一致しやすいことが報告されている7,8)が,今回の筆者らの検討結果も同様であった.受傷の瞬間には反射的な閉瞼によりベル現象で眼球が上転し,外力により眼球が前後方向に短縮すると同時に,これと直交する方向では眼球がもっとも伸展する.結果として,上方では角膜輪部から上直筋付着部の範囲が強く伸展するが,白内障手術の強角膜創はちょうどこの位置に作製されるため,離開しやすいと推測されている.下方では赤道部後方の強膜が伸展するが,上方の伸展部位に比べると強膜は厚いため,今回の結果でも下方に破裂創が形成される例が少なかったと考えられる.白内障の術創は,坂本ら9)は4年5カ月後,立脇ら3)は10年後でも離開したと報告しているが,当院の結果では最長21年後でも離開していた.Simonsenら10)は摘出眼球を用いた実験において,白内障手術の輪部付近における術創の抗張力は術後4年で最大となるが非手術眼の64%であったとしており,今回の結果はその報告を立証していた.眼球破裂はほとんどの症例で著明な結膜下出血を伴うため,術前には破裂創の有無や部位が不明であることが多いが,白内障手術の既往がある症例においては手術の切開創が破裂創となっていることを想定して手術を開始することができる.この場合,破裂創が眼球の後方深部に及ぶことはほとんどなく,夜間の緊急手術で助手を確保できない場合であっても,術者一人で執刀することが可能である.また,今回の検討では,白内障手術の既往がある症例では既往がない症例と比較して,網膜.離を併発する率が有意に低かった.白内障手術の術創は角膜輪部付近に輪部に平行に作製されるため,外力により術創が離開・拡大しても,網膜への直接的な影響は虹彩や眼内レンズに比べて解剖学的に小さい.白内障手術の既往がある場合は,より軽微な外力で術創が離開して眼球破裂に至っている可能性があるが,結果として圧の変動や眼球壁の変形が軽減されることで網膜.離の(157)発症が抑制されていると推測される.白内障手術の既往の有無と視力予後については意見が分かれており,坂東ら11)は線維柱帯切除術や全層角膜移植術も含めての検討であるが手術既往のない症例に比べて最終視力は有意に低いと報告し,立脇ら3)は逆に比較的良いと報告している.筆者らの検討結果では,手術既往の有無により網膜.離の併発率に有意差があるにもかかわらず最終視力には有意差がなく,一見矛盾する結果となった.これは早期に硝子体手術を施行することで黄斑部の復位を得ていた可能性のほかに,白内障手術の既往のない群に網膜.離を併発せず視力が著明に改善した症例が多く含まれていたことが影響したと考えられる.最終的に4眼で網膜の復位を得られなかった.いずれも白内障手術の既往がなく初診時の視力が光覚なしであり,破裂創は長大で輪部に垂直な例が多く,網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中2眼は受傷後1週間以上経過してから受診していた.これらは過去の報告2.4)で指摘された予後不良因子の多くと合致した.また,4眼ともに受傷原因は打撲であり,転倒では認めなかった.転倒の場合,眼球への外力はおもに患者の身長と体重に起因する位置エネルギーと歩行時では運動エネルギーの総和となり,これはおよそ一定と考えられるが,たとえばスポーツや落下物による打撲の場合では,より大きなエネルギーが眼球に加わる症例があるためと推測された.手術方法が一期的か二期的かについては明確な指針はなく,それぞれに長所があるが,以前と比べて一期的に手術を施行する報告が増えた印象がある9,12).一期的手術の長所としては,①網膜.離併発の際の早期復位,②眼内の増殖性変化の防止,③感染性眼内炎の防止があげられ,二期的手術の長所としては,①角膜の透明性回復による視認性の向上,②網脈絡膜血管の怒張の軽減,③出血の溶解,④後部硝子体.離の進行があげられるが,筆者は一期的手術がより有用と考える.二期的手術の群では,患者や家族が年齢などを理由に治療を途中で断念し,硝子体手術を施行できないまま退院となった症例(症例3,15,21,22)が多くみられた.手術回数の軽減や入院期間の短縮が期待できる一期的手術を施行していれば,途中で治療を終了させることなく,より良い視力を得られていた可能性があった.近年の硝子体手術が小切開で低侵襲に進歩したことを考えると,眼内の状態を早期に把握する診断学的な観点からも,初回の硝子体手術は高齢者においても有益な操作と思われる.さらに一期的手術の群で初回手術時に硝子体手術が技術的に不可能であった症例はなく,また結果的に予後を悪化させたと思われる症例もなかった.眼内照明機器の進歩により多少角膜の透明性が不良であっても硝子体手術が可能となったこと,高齢者では最初から後部硝子体.離が完成している例が多いこと,もっとも難治あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016317 性と思われる増殖硝子体網膜症や感染性眼内炎の発症を避ける意味などからも,とくに高齢者では積極的に一期的手術を選択する意義があると考えられた.なお,今回の調査において一期的手術と二期的手術の2群間で視力に有意差はなかったが,症例数が少なく観察期間が短い症例もあり,統計学的に結論を出すにはさらなる症例数の蓄積と検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Schulze-BonselK,FeltgenN,BurauHetal:Visualacuities“handmotion”and“countingfingers”canbequantifiedwiththeFreiburgVisualAcuityTest.InvestOphthalmolVisSci47:1236-1240,20062)樋口暁子,喜多美穂里,有澤章子ほか:鈍的外傷による眼球破裂の検討.臨眼56:1121-1125,20023)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20064)尾崎弘明,ファン・ジェーン,梅田尚靖ほか:外傷性眼球破裂の治療成績.臨眼61:1045-1048,20075)中西秀雄,喜多美穂里,大津弥生ほか:外傷に伴う網膜.離の臨床像と手術成績の検討.臨眼60:959-965,20066)笠置裕子:最近4年間におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.東女医大誌51:868-869,19817)高山玲子,中山登茂子,妹尾正ほか:眼科手術後の外傷による眼球破裂症例の検討.眼科手術11:283-286,19988)相馬利香,森田啓文,久保田敏昭ほか:高齢者における鈍的眼外傷の検討.臨眼63:93-97,20099)坂本英久,馬場恵子,小野英樹ほか:眼内レンズ挿入術後の眼球破裂に対し一期的に硝子体手術を行った2症例.臨眼57:49-54,200310)SimonsenAH,AndereassenTT,BendixK:Thehealingstrengthofcornealwoundsinthehumaneye.ExpEyeRes35:287-292,198211)坂東誠,後藤憲仁,青瀬雅資ほか:眼外傷症例の視力予後不良因子の検討.臨眼67:947-952,201312)西出忠之,早川夏貴,加藤徹朗ほか:眼球破裂眼の術後視力に対する術前因子の重回帰分析.臨眼65:1455-1458,2011***318あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(158)

眼内レンズ縫着術後に再縫着を要した症例の検討

2015年11月30日 月曜日

した.I対象および方法対象は京都市立病院において2004年4月.2014年12月に白内障手術後のIOL脱臼に対して,IOL縫着術を行った46例52眼とした.そのうち,IOL縫着術後にIOL位置不良とならずに単回の縫着術のみで経過している45眼(単回縫着眼)と,IOL縫着術後にIOL位置不良となり,再度IOL縫着術が施行された7眼(再縫着眼)の2郡に分けて検討を行った.IOL縫着術は初回縫着,再縫着ともすべて同一術者によって,同一術式で施行されており,各症例で術式の差異による影響はないものとして検討した.縫着糸はすべて10-0ポリプロピレン糸を使用し,10-0ポリプロピレンのloop糸,直針を用いて,対面通糸(abexterno法)を行った.眼内レンズとの結紮は,IOLのハプティクスを角膜切開創から眼外に出してcowhitch縫合で行った.強膜通糸位置は2-8時または4-10時で輪部から2mmとし,縫着糸の強膜結紮固定は,強膜半層縦切開をし,そこからクレッセントナイフで水平に強膜ポケットを作製して埋没させた(図1).IOLは基本的には7mmのfoldable1ピースレンズ[VA-70ADR(HOYA,東京)]を使用し,もともと径7mmのfoldable1ピースレンズが使用されていた場合はそのまま入れ替えをせずに縫着し,それ以外のIOLの場合は切断して取り出して入れ替えを行った.これら単回縫着45眼と再縫着7眼について,①性別,②術眼,③白内障手術時年齢,④縫着術時年齢,⑤白内障手術から縫着術までの期間,⑥眼軸長,⑦患者因子として基礎疾患と眼手術既往などについて比較検討した.また,⑧白内障術後のIOL脱臼の状態について調べ,⑨再縫着眼について,白内障手術から初回縫着術までの期間と初回縫着術から再縫着術までの期間を比較検討した.II結果①性別は単回縫着眼が男性41人に対し,女性は4人であり,再縫着眼では男性6人に対し,女性は1人であった.②術眼は単回縫着眼では右眼が22眼,左眼が23眼で,再縫着眼では右眼が2眼,左眼が5眼であった.③白内障手術時年齢は単回縫着眼では49.7±15.9歳(平均値±標準偏差),再縫着眼では44.4±10.5歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.ただ,当院で2007年10月.12月の3カ月間に白内障手術を施行した228眼の平均年齢は73.6±9.9歳(平均値±標準偏差)であり,これと比較すると単回縫着眼と再縫着眼のどちらも白内障手術を受ける年齢としては有意に若年であった(p<0.01).④縫着時の平均年齢は単回縫着眼では58.0±14.7歳(平均cb値±標準偏差),再縫着眼では初回縫着時の年齢として55.4±12.3歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.⑤白内障手術から縫着術までの期間は単回縫着眼では8.4±5.2年(平均値±標準偏差),再縫着眼では白内障手術から初回縫着時までの期間として11.0±5.1年(平均値±標準偏差)で有意差は認めなかった.⑥眼軸長は単回縫着眼では24.8±1.8mm(平均値±標準偏差)で再縫着眼では26.4±3.4mm(平均値±標準偏差)であり,有意差は認めなかった(表1).⑦患者因子については,単回縫着眼ではアトピー性皮膚炎のみが5眼(11.1%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往が5眼(11.1%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが4眼(8.8%),PE症候群のみが3眼(6.7%),PE症候群と網膜.離で硝子体手術の既往が2眼(4.4%),外傷の既往のみが2眼(4.4%),網膜.離以外での硝子体手術の既往と外傷の既往が2眼(4.4%),網膜.離で硝子体手術以外の治療を受けた既往のみが2眼(4.4%),眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),外傷の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),網膜.離で硝子体手術の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往と外傷の既往が1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしの眼は16眼(35.6%)であった.再縫着眼では,アトピー性皮膚炎のみが3眼(42.9%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが2眼(28.6%),眼軸長27mm以上のみが1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしは1眼(14.3%)であった(表2).⑧白内障術後のIOL脱臼の状態は,単回縫着眼と再縫着眼を合わせた52眼のうち,水晶体.は固定されたままIOLが.外に脱臼したものが1眼で,その他の51眼はすべて水晶体.ごとの脱臼であった.⑨再縫着眼における白内障手術から初回縫着術までの期間は11.0±5.1年(平均値±標準偏差)に対して,初回縫着術から再縫着術までの期間は1.7±1.3年(平均値±標準偏差)と有意に短くなっていた(p<0.01).(103)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151615表1単回縫着眼と再縫着眼の患者背景の比較単回縫着眼再縫着眼p値眼球数457─性別(男性/女性)41/46/1─右/左22/232/5─白内障手術時平均年齢(歳)49.7±15.944.4±10.50.40§初回縫着平均年齢(歳)58.0±14.755.4±12.30.66§白内障手術から初回縫着までの期間(年)8.4±5.211.0±5.10.23§眼軸長(mm)24.8±1.826.4±3.40.29§§統計的に有意差なし(t-検定)III考按わが国ではIOL縫着術の手術手技や使用器具は施設,あるいは術者によって異なるが,過去の報告によると,使用する糸は10-0ポリプロピレン糸がもっとも多く,通糸方法はabexterno法がもっとも多く,眼内レンズとの結紮はcowhitch法がもっとも多く,強膜ポケット作製は三角フラップ作製についで2番目に多い4)とのことであり,当施設でのIOL縫着術はわが国で多く行われている術式から大きく逸脱するものではないと考えられる.本調査結果での白内障手術後のIOL脱臼の状態としては,.外へのIOL脱臼眼よりも水晶体.ごとのIOL脱臼眼のほうが多かった.過去の報告でも近年は.外への脱臼の症例数が減ってきているとの報告があり2,5),.外への脱臼の場合,そのリスクとしては破.などの術中合併症や,成熟白内障であることが報告されている2).実際,当院での.外へのIOL脱臼眼も,成熟白内障で超音波乳化吸引術予定であったが.外摘出術へ変更された症例であった.本調査を行った動機の一つとして,京都市立病院での白内障手術後のIOL脱臼による縫着術症例は,高齢者よりも比較的若年者が多い印象があり,そしてPE症候群についてはそれほど多い印象はなかったことがある.PE症候群については他の患者因子との重複も含めると単回縫着眼では5眼で11.1%(5/45眼),再縫着眼では0眼であった.本調査対象はPE症候群の既往のない単回縫着眼1眼を除いて,すべて水晶体.ごとのIOL脱臼眼であり,水晶体.ごとの脱臼眼に限ったとしてもPE症候群は単回縫着眼で11.3%(5/44眼)となり,過去の,水晶体.ごとのIOL脱臼で約40%がPE症候群との報告2)と比べると,やはり少なかった.また,単回縫着眼と再縫着眼とでは,両者とも京都市立病院でのある一定期間に白内障手術を施行した患者全体の平均年齢よりも有意に若かった.このことは,再縫着眼については,アトピー性皮膚炎の既往が3眼(3/7,42.9%)ともっとも多い患者因子であることが一因と思われた.アトピー性皮膚炎は,慢性のあるいは慢性的に増悪を繰り返す掻痒感を伴った皮膚表2単回縫着眼と再縫着眼の患者因子(既往歴)の比較単回縫着眼再縫着眼患者因子(既往歴)(n=45)(n=7)AD5(11.1%)3(42.9%)AD,RD,PPV5(11.1%)0RD,PPV4(8.8%)2(28.6%)PE3(6.7%)0PE,RD,PPV2(4.4%)0trauma2(4.4%)0PPV,trauma2(4.4%)0RD2(4.4%)0myopia1(2.2%)1(14.3%)trauma,myopia1(2.2%)0RD,PPV,myopia1(2.2%)0AD,RD,PPV,trauma1(2.2%)0明らかな因子なし16(35.6%)1(14.3%)AD:アトピー性皮膚炎,RD:網膜.離の既往,PPV:硝子体手術既往,PE:偽落屑症候群,trauma:外傷の既往,myo-pia:眼軸長≧27mm炎であり,近年その有病率は上昇傾向で,治療による掻痒感のコントロールが十分でないと顔面や眼周囲の掻痒感で,繰り返し眼周囲を掻いたり,叩いたりすることにより,アトピー性白内障や網膜.離につながると考えられている6).アトピー性皮膚炎で顔面に湿疹があること,眼周囲をこすることが白内障の進行を早める7)との報告もある.アトピー性皮膚炎の有病率は小児期に高く,年齢が高くなると少なくなってくる6).単回縫着眼と再縫着眼では白内障手術後からIOL脱臼までの期間には有意差はなかった.しかし,再縫着眼における初回縫着術後から再縫着術までの期間は白内障手術後から初回縫着術までの期間より有意に短かった.再縫着眼の縫合糸の断裂の原因として外力によるものと,そして経年劣化も考慮される.過去の報告では10-0ポリプロピレン糸の劣化によるIOL脱臼は縫着術後4,5年で起こってくる8)とのことだが,今回の検討結果からは初回縫着術から再縫着術までは1.7±1.3年(平均値±標準偏差)という短期間であり,経年劣化の影響はそれほど大きくないように思われる.再縫着眼は女性よりも男性のほうが多く,また再縫着眼では単回縫着眼よりもアトピー性皮膚炎が多かったことは,アトピー性皮膚炎による掻痒感で眼窩部を叩くなどの行為が,縫合糸の断裂の原因として大きい可能性も考えられる.再縫着眼ではPE症候群や外傷の既往をもつ眼はなかった.これは当然ではあるがZinn小帯の脆弱性は初回縫着後にはもはや影響がなくなるため,再縫着のリスク因子とはならないからだと考えられる.つまりこれまで報告されてきた白内障術後にIOL脱臼に至るリスク因子と,縫着術後に縫着糸が断裂するリスク因子とは異なるといえる.(104)以上より今回の結果からは,IOL縫着術後にIOL位置不良となり再縫着を要するリスク因子としては,これまで白内障術後にIOL脱臼を起こしやすいといわれていたリスク因子とは異なり,アトピー性皮膚炎の既往をもち,若年で白内障手術を施行され,その後IOL脱臼に至りIOL縫着術を施行された男性患者であることと考えられた.そして,そのような症例に対してIOL縫着術を施行する際は10-0ポリプロピレン糸では強度不足である可能性が高い.強度の点においては縫着糸として10-0糸よりも9-0糸,8-0糸が優れている9)との報告があり,実際に10-0以上の太さのポリプロピレン糸を使用したIOL縫着術は施行されている.ただし,糸が太くなると,より縫合部分が大きくなり強結膜を突き破らないようにするための工夫がそれだけ必要になる8).強膜ポケットをより強膜深層に作製するなどの工夫を行う必要があると思われる.また,最近ではIOL強膜内固定術も施行され始めている.IOL強膜内固定術の一番の利点としてIOL支持部が強膜内に固定されるために,IOLの眼内での固定はより強固であるとともに,IOLの偏心や傾斜をほとんど認めないことがあげられる.もう一つの大きな利点として,術後に打撲などによりIOL偏位を認めても,容易に整復可能なことがあげられる10).眼内レンズ強膜内固定術は2007年に初めて報告され10),長期予後はまだ明らかでない部分もあるが,とくに上記の特徴をもつ患者については現段階で有効な手術法の一つであると考えられる.白内障手術は各種手術機器が進歩し,術中合併症の可能性も少なくなっているため,若年であっても施行されることも多いが,上記の特徴をもつ患者についてはIOL脱臼のリスクについて考慮し,またそのリスクについて術前の十分な説明が重要と考えられる.文献1)PueringerSL,HodgeDO,ErieJC:Riskoflateintraocularlensdislocationaftercataractsurgery,1980-2009:Apopulation-basedstudy.AmJOphthalmol152:618-623,20112)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesur-gery.Ophthalmology114:969-975,20073)Fernandes-BuenagaR,AlioJL,Perez-ArdoyALetal:Latein-the-bagintraocularlensdislocationrequiringexplantation:riskfactorsandoutcomes.Eye27:795-802,20134)一色佳彦,森哲,大久保朋美ほか:北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査.あたらしい眼科29:391-394,20125)田中最高,吉永和歌子,喜井裕哉ほか:眼内レンズ脱臼の原因と臨床所見.あたらしい眼科27:391-394,20106)FukueM,ChibaT,TakeuchiS:CurrentstatusofatopicdermatitisinJapan.AsiaPacAllergy1:64-72,20117)NagakiY,HayasakaS,KadoiC:Cataractprogressioninpatientswithatopicdermatitis.JCataractRefractSurg25:96-99,19998)BuckleyEG:Long-terme.cacyandsafetyoftranss-cleralsuturedintraocularlensesinchildren.TransAmOphthalmolSoc105:294-311,20079)秋山奈津子,西村栄一,薄井隆宏ほか:縫着糸の強膜床結紮部の強度測定.IOL&RS25:217-222,201110)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.日本の眼科6:783-784,2014***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151617

1.5%レボフロキサシン点眼液と0.3%ガチフロキサシン点眼液の白内障手術当日点眼における結膜囊減菌化試験

2015年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科32(9):1339.1343,2015c1.5%レボフロキサシン点眼液と0.3%ガチフロキサシン点眼液の白内障手術当日点眼における結膜.減菌化試験藤紀彦*1,3近藤寛之*1田原昭彦*1坂本雅子*2*1産業医科大学眼科学教室*2(財)阪大微生物病研究会*3小波瀬病院ConjunctivalSacSterilizationwith1.5%Levofloxacinor0.3%GatifloxacinOphthalmicSolutionsontheDayofCataractSurgeryNorihikoTou1,3),HiroyukiKondo1),AkihikoTawara1)andMasakoSakamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,2)MicrobialDiseasesofOsakaUniversity,3)ObaseHospitalTheResearchFoundationfor目的:1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼液と0.3%ガチフロキサシン(GFLX)点眼液の白内障手術当日点眼の減菌効果について検討した.対象および方法:2012年5月.11月に白内障手術を実施した患者85例122眼を対象とした.投与方法は,1.5%LVFX点眼液または0.3%GFLX点眼液を術当日手術2時間前より20分ごと3回,以後30分ごとに点眼した.点眼前,術直前に結膜.を擦過し,細菌の培養,同定および薬剤感受性検査を行った.結果:点眼前の菌検査で直接培養が陽性であった37例47眼に対する術前減菌化率は1.5%LVFX群で53.6%(15/28眼),0.3%GFLX群で52.6%(10/19眼)であった.結論:手術2時間前からの点眼による1.5%LVFX点眼液と0.3%GFLX点眼液の減菌効果に差はなかった.減菌化率が低いことから,術前の点眼期間は考慮する必要がある.Purpose:Toexaminethesterilizationefficaciesof1.5%levofloxacin(LVFX)and0.3%gatifloxacin(GFLX)ophthalmicsolutionsinstilledonthedayofcataractsurgery.Methods:Eighty-fivepatients(122eyes)undergoingcataractsurgerywereexamined.Onthedayofsurgery,1.5%LVFXor0.3%GFLXwasadministeredbyeyedropsat2-hoursbeforesurgery(threeinstillationsat20-minuteintervals,andthenonceevery30minutes).Theconjunctivalsacwasscrapedbeforethepreoperativeadministrationandimmediatelybeforesurgery.Theisolatedmicrobialstrainswerethenidentifiedandassessedforantibacterialsusceptibility.Results:Theperioperativesterilizationratesdidnotdifferbetween1.5%LVFX(53.6%;15/28eyes)and0.3%GFLX(52.6%;10/19eyes).Conclusions:Thesterilizationefficaciesofthe1.5%LVFXand0.3%GFLXsolutionsweresimilarwhentheywereadministeredby2-hoursbeforesurgery.Sincethesterilizationefficacieswerelow,theoptimaltimetoadministerthedropsbeforesurgeryneedstobefurtherexamined.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(9):1339.1343,2015〕Keywords:レボフロキサシン点眼液,ガチフロキサシン点眼液,白内障手術,術前減菌化,眼内炎.levofloxacinophthalmicsolution,gatifloxacinophthalmicsolution,cataractsurgery,perioperativesterilization,endophthalmitis.はじめに白内障手術に伴う感染性眼内炎は,その頻度や原因,そして発症予防についてさまざまな検討がなされてきた.抗菌点眼薬による術前の結膜.内の減菌化は,眼内炎を予防する手段の一つとして広く行われている.レボフロキサシン(LVFX)は,内服,注射などさまざまな剤型があり,キノロン系抗菌薬のなかでもっとも汎用されている薬剤である.点眼薬では0.5%LVFX点眼液(製品名:クラビットR点眼液0.5%,参天製薬,以下0.5%LVFX)がその有効性と安全性から汎用されてきたが,その反面,細菌に対するLVFXの感受性低下の報告も少なくない1.3).筆者らも以前,全科の入院患者および外来患者から採取した眼脂より培養同定した細菌に対するLVFXの感受性を検討したところ,グラム陽性菌に対する耐性率が約70%であったことを報告してい〔別刷請求先〕藤紀彦:〒807-8555北九州市八幡西区医生ケ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorihikoTou,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Kitakyusyu807-8555,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(111)1339 る4).2011年に,1.5%LVFX点眼液(製品名:クラビットR点眼液1.5%,参天製薬,以下1.5%LVFX)が発売された.0.5%LVFXより前房への移行性が高く,眼内炎予防が期待される薬剤であるが,周術期の減菌化に対する報告5,6)は少ない.また,0.5%LVFXの3週間点眼投与により耐性菌への菌交代が示唆された報告7)や,抗菌薬の耐性化は総投与量に比例するとの報告8)もあることから,投与期間の短縮など,より適正な使用方法の検討が求められている.産業医科大学病院では,白内障手術時に0.3%ガチフロキサシン(GFLX)点眼液(製品名:ガチフロR点眼液0.3%,千寿製薬,以下0.3%GFLX)を使用し,手術当日および術後4週間の点眼を行っている.0.3%GFLXは,眼内炎の主要起炎菌に対する十分な抗菌力を有するとともに,MIC上昇を軽減する9,10)などの特徴があり,さらにこれまでの使用経験によりその有効性と安全性が十分に確認できている.そこで今回,筆者らは,0.3%GFLXを対照薬とし1.5%LVFXの手術当日点眼における白内障手術患者の結膜.内検出菌の減菌化率について検討した.I対象および方法本研究は事前に産業医科大学倫理委員会の承認を取得し,患者からの文書による同意を得たうえで実施した.1.対象2012年5月.11月に白内障手術を予定し産業医科大学病院に来院した20歳以上の男女を対象とした.同意取得時に次の事項のいずれかに該当する患者は対象から除外した.(1)観察期間中に抗菌薬の投与(全身投与および点眼を含む頭部への局所投与)が避けられない者(手術当日のみフルオロキノロン以外の全身薬は併用可).(2)観察期間中に抗炎症薬の投与(手術当日まで点眼を含む頭部への局所投与,手術当日以降全身投与)が避けられない者.(3)本試験期間中にコンタクトレンズ装用を希望する者.(4)フルオロキノロン系抗菌薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者.(5)重篤な基礎疾患,合併症を有するなどの理由で研究者らが本試験への参加に支障があると判断した者.2.使用薬剤および投与方法抗菌薬は,1.5%LVFXまたは0.3%GFLXを用い,手術当日の手術2時間前より20分ごと3回,以後30分ごとに継続点眼した.なお,術後は手術翌日から1日3回4週間点眼した.3.菌検査抗菌薬点眼開始前(以下,点眼前),手術当日の術直前(以下,術前)に細菌検査を実施した.細菌検査に用いる検体は,1340あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015滅菌綿棒で結膜.を擦過することにより採取し,輸送用培地(ANAポート)に入れ凍結保存した後,(財)阪大微生物病研究会に送付した.直接培養は,5%羊血液加コロンビア寒天培地またはチョコレート寒天培地にて36.5℃,好気下で24.48時間,または5%羊血液加コロンビア寒天培地にて36.5℃,嫌気下で1.5日間で分離培養した.直接培養で細菌の増殖が認められなかった場合,臨床用TGC培地にて36.5℃で1.2週間増菌培養を行った.細菌の発育を認めた検体は直接培養および増菌培養ともに細菌同定検査を行った.同定された細菌について,眼科用薬剤感受性プレートSG17(栄研化学,東京)にて最小発育阻止濃度(MIC)(μg/ml)測定を行った.4.評価方法1.5%LVFX群および0.3%GFLX群における手術当日の点眼開始前に対する減菌化率を算出し,薬剤間の減菌化の比較を行った.減菌化率は,菌陰性眼数/点眼開始前菌陽性眼数×100(%)とし,直接培養における減菌化率を算出した.結果の解析は,c2検定で行い,有意水準は両側5%とした.また,直接培養および増菌培養を含めた減菌化率も同様に算出した.MICが測定可能であった主要な菌については,MIC90を算出した.薬剤感受性の判定はCLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute)基準に準拠し,MIC値に応じて,「S」を感性,「I」を中間,「R」を耐性と区別し,耐性の割合について評価した.なお,Corynebacteriumspp.は設定がないため,ブドウ球菌属の値を代用した.II結果1.症例の内訳(表1)本研究には85例122眼(1.5%LVFX:42例58眼,0.3%GFLX:43例64眼)が登録された.ここから,点眼前または術前の菌検査が未実施の5眼(1.5%LVFX:5眼),増菌培養を含めて点眼前の菌検査が陰性であった24眼(1.5%LVFX:7眼,0.3%GFLX:17眼)を除く,66例93眼(1.5%LVFX:33例46眼,0.3%GFLX:33例47眼)が直接培養および増菌培養の評価対象となった.このうち,直接培養のみの評価対象は37例47眼(1.5%LVFX:22例28眼,0.3%GFLX:15例19眼)であった.2.菌検査結果点眼前の菌検査で直接培養のみで陽性であった37例47眼からは73株(1.5%LVFX:49株,0.3%GFLX:24株)が検出され,その割合はCorynebacteriumspp.が42.5%(31/73株),Propionibacteriumacnesが21.9%(16/73株),Staphylococcusepidermidisが13.7%(10/73株)の順でグラム陽性菌が多くを占めた.また,直接培養および増菌培養が陽性であった66例93眼より158株(1.5%LVFX群:85株,0.3%GFLX群:73(112) 株)が検出された(図1).このなかで多く検出された菌は,Propionibacteriumacnesでその割合は37.3%(59/158株)であった.次いで,Corynebacteriumspp.が21.5%(34/158株),Staphylococcusepidermidisが17.1%(27/158株)であった.表1症例の内訳1.5%0.3%LVFX群GFLX群合計症例数22例28眼15例19眼37例47眼平均年齢73.0±9.872.1±15.972.7±12.5直接培養(歳)男性13例17眼6例8眼19例女性9例11眼9例11眼18例症例数33例46眼33例47眼66例93眼直接培養平均年齢72.4±9.772.2±12.272.3±11.0+(歳)増菌培養男性18例27眼15例22眼33例女性15例19眼18例25眼33例0.6%3.2%0.6%2.5%37.3%7.0%17.1%2.5%0.6%3.2%2.5%1.3%21.5%StaphylococcusaureusMRSAStaphylococcusepidermidisCNS(S.epidermidisを除く)StreptococcuspneumoniaeStreptococcusspp.EnterococcusfaecalisEnterococcusspp.Corynebacteriumspp.Propionibacteriumacnesその他グラム陽性菌Morganellamorganiiその他グラム陰性菌3.手術前減菌化率点眼前菌陽性眼を対象とした直接培養による手術前減菌化率は,1.5%LVFX群で53.6%(15/28眼),0.3%GFLX群で52.6%(10/19眼)であり,両群間に統計学的に有意な差は認められなかった(c2検定,p=0.9495).また,直接培養および増菌培養による手術前減菌化率は,1.5%LVFX群で30.4%(14/46眼),0.3%GFLX群で17.0%(8/47眼)であり,両群間において統計学的に有意な差は認められなかった(c2検定,p=0.1280)(表2).菌別の手術前減菌化率は,直接培養で検出されたすべての菌において1.5%LVFX群69.4%(34/49株),0.3%GFLX75.0%(18/24株),直接培養および増菌培養では1.5%LVFX群60.0%(51/85株),0.3%GFLX群57.5%(42/73株)であった.直接培養および増菌培養における検出菌ごとの手術前減菌化率は,表3に示した.表2術前減菌化率(結膜.内由来菌)直接培養直接培養+増菌培養LVFX群GFLX群LVFX群GFLX群点眼前菌陽性眼28194647菌陽性眼1393239菌消失眼1510148術前減菌化率(%)53.652.630.417図1点眼開始前検出菌158株(直接培養+増菌培養)表3検出菌別手術前減菌化率(直接培養および増菌培養)1.5%LVFX群0.3%GFLX群減菌化例/採用例減菌化率(%)減菌化例/採用例減菌化率(%)Staphylococcusaureus1/2.3/3.MRSA2/2.2/2.Staphylococcusepidermidis10/1662.54/1136.4CNS(S.epidermidisを除く)1/2.2/2.Streptococcuspneumoniae1/1…Streptococcusspp.2/3.2/2.Enterococcusfaecalis1/2.0/2.Enterococcusspp…2/2.Corynebacteriumspp.10/18508/1650Propionibacteriumacnes16/325013/2748.1その他グラム陽性菌6/61005/5100Morganellamorganii1/1…その他グラム陰性菌..1/1.合計51/856042/7357.5症例数が5例未満の場合,菌別減菌化率の算出は行わなかった.(113)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151341 4.点眼前後の薬剤感受性点眼前に直接培養または増菌培養により検出され,かつMICが測定できたおもな検出菌の各薬剤におけるMIC90は次のとおりであった.Corynebacteriumspp.34株のMIC90はLVFXが128μg/ml(0.25.>128μg/ml),GFLXが32μg/ml(0.25.128μg/ml),Staphylococcusepidermidis27株のMIC90は,LVFXが64μg/ml(0.25.>128μg/ml),GFLXが16μg/ml(0.25.64μg/ml),Propionibacteriumacnes15株のMIC90はLVFXが1μg/ml(0.25.16μg/ml),GFLXが0.5μg/ml(0.25.0.5μg/ml)であった.また,CLSI基準によるおもな検出菌の耐性率は,LVFX,GFLXでそれぞれ,Corynebacteriumspp.で73.5%(25/34株),64.7%(22/34株),Staphylococcusepidermidisで59.3%(16/27株),55.6%(15/27株),Propionibacteriumacnesで6.7%(1/15株),0.0%(0/15株)であった.III考察内眼手術前患者の結膜.内常在菌に対するLVFX耐性状況を検討した櫻井らの報告1)では,StaphylococcusepidermidisのLVFX耐性率は24.8%であり,キノロン耐性株も少なからず検出されている.また,0.5%LVFXの3週間点眼投与においてStaphylococcusepidermidisの薬剤感受性とキノロン耐性決定領域遺伝子変異との関係を検討したMiyanagaらの報告7)では,methicillin-resistantStaphylococcusepidermidisの割合は点眼前33%で,点眼3週間後には73%と上昇している.このとき,同様の条件で投与した0.3%GFLXでは点眼前43%,点眼3週間後40%と差はなかった.一方,結膜.から分離されたmethicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococciのキノロン耐性について検討した星らの報告2)では,GFLXやモキシフロキサシンなどの第4世代のキノロンには感受性であってもオフロキサシンやLVFXに耐性を示す株が43.4%とキノロン間でも差があることが示唆されている.今回,点眼前に検出されたStaphylococcusepidermidisに対するLVFXおよびGFLXの耐性率をCLSI基準に準拠し算出したところ,59.3%,55.6%と高く,Staphylococcusepidermidisのキノロンに対する耐性化が示唆された.LVFXだけでなくGFLXの耐性率が高くなっている理由としては,フルオロキノロン間での交叉耐性が認められるとの羽藤らの報告11)より,LVFXの耐性率の増加とともにGFLXの耐性率も増加している可能性が考えられた.一方,点眼前のStaphylococcusepidermidisに対するMICは,LVFXでは0.25.>128μg/mlと広範囲に分布し,術前においても128μg/ml未満の株が検出され,高濃度製剤であっても1回の点眼では,高度耐性株を減菌できないことが示唆された.GFLXでは0.25.64μg/mlと広範囲に分布1342あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015していたが,点眼前も術前もMICが128μg/ml以上を示すような高度耐性株は認められなかった.このように耐性率は同程度であっても,MICでは差が認められた.0.5%LVFXと0.3%GFLXを比較した矢口らの報告12)では,手術前1週間,1日4回点眼による減菌化率は,0.5%LVFX群で70.0%,0.3%GFLX群で74.3%であった.また,望月ら13)は,白内障および緑内障周術期の術前減菌化率を検討し,術前3日前から1日4回点眼したときの術前減菌化は0.5%LVFX群が93.3%,0.3%GFLX群が95.8%であったと報告している.今回の1.5%LVFXと0.3%GFLXの減菌化率は,それぞれ53.6%と52.6%であった.これは,施設,投与方法および培養条件などに違いがあるとはいえ,既報の結果と比べても低い値だと考えられる.志熊ら14)は,点眼日数による減菌化率を検討し,0.5%LVFX点眼を1日5回点眼したときの手術前1日点眼群での減菌化率は88.2%,手術前3日点眼群では95.8%であり,有意差は認められていないものの3日点眼のほうが高い傾向にあったと報告している.また,日本眼感染症学会が術前点眼を検討した報告15)でも,1日前投与より3日前点眼の減菌効果が高く,より眼内炎の予防に適していると結論づけられている.また,1.5%LVFX点眼の減菌化を検討した南ら5)およびSuzukiら6)の報告では,手術3日前から1日3回投与で検討を行っており,減菌化率はそれぞれ93%,86.7%であった.これらの報告からすると,今回の術前減菌化率の低さは術前の点眼期間に依存する結果と考えられ,高濃度製剤である1.5%LVFX点眼液であっても術前の点眼期間を考慮する必要があると考えられた.今回の検討から,1.5%LVFXと0.3%GFLXの減菌化率は差がなかった.また,過去の報告と比較して術前の減菌化率が低いことより術前の点眼期間を考慮する必要があることが示唆された.今後,使用方法については,さらなる検討が必要であると考えられた.文献1)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,20052)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,20103)小前恵子,山上聡,亀井裕子ほか:内眼手術前患者の結膜.内常在菌と薬剤耐性.眼臨紀4:1137-1140,20114)藤紀彦,山下美恵,田原昭彦:眼脂培養からの同定菌のフルオロキノロンに対する耐性の比較検討.臨眼60:703706,20065)南雅之,長谷川裕基,藤澤邦見:レボフロキサシン点眼1.5%の周術期無菌化療法.臨眼67:1381-1384,2013(114) 6)SuzukiT,TanakaH,ToriyamaKetal:Prospectiveclinicalevaluationof1.5%levofloxacinophthalmicsolutioninophthalmicperioperativedisinfection.JOculPharmacolTher29:887-892,20137)MiyanagaM,NejimaR,MiyaiTetal:Changeindrugsusceptibilityandthequinolone-resistancedeterminingregionofStaphylococcusepidermidisafteradministrationoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg52:151-161,20088)NeuhauserMM,WeinsteinRA,RydmanRetal:Antibioticresistanceamonggram-negativebacilliinUSintensivecareunits:implicationsforfluoroquinoloneuse.JAMA289:885-888,20039)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:Targetpreferenceof15quinolonesagainstStaphylococcusaureus,basedonantibacterialactivitiesandtargetinhibition.AntimicrobAgentsChemother45:3544-3547,201110)FukudaH,KishiiR,TakeiMetal:Contributionsofthe8-methoxygroupofgatifloxacintoresistanceselectivity,targetpreference,andantibacterialactivityagainstStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother45:1649-1653,200111)羽藤晋,南川洋子,山田昌和:結膜.から分離されたブドウ球菌に対する二変量ノンペラメトリック密度を用いた薬剤感受性分布解析.あたらしい眼科24:663-667,200712)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200613)望月英毅,高松倫也,木内良明:ガチフロキサシンとレボフロキサシン点眼による白内障および緑内障周術期の減菌効果.臨眼64:231-237,201014)志熊徹也,松本哲哉:白内障術前患者の結膜.内常在菌と培養方法の検討.眼臨101:254-258,200715)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedisinfectionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,2008***(115)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151343

唾液α-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙囊鼻腔吻合術とのストレス評価比較

2015年8月31日 月曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(8):1205.1211,2015c唾液a-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙.鼻腔吻合術とのストレス評価比較久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科UseofSalivaryAmylasetoEvaluateSurgicalStressRelatedtoDacryocystorhinostomyandCataractSurgeryMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospital筆者らはココロメータ(ニプロ)を用い,超音波白内障手術(IOL)と涙.鼻腔吻合術鼻外法(DCR)患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討と同時にココロメータの有用性を検討した.症例はIOL男性11例,女性17例,計28例,DCR男性13例,女性18例,計31例.手術30分前・後に血圧,心拍数測定およびココロメータでストレス値を測定した.IOL前後,DCR前後のストレス平均値は42.8から73.8KU/L.ストレス値が61KU/L以上の緊張の強い症例は20.40%台だった.手術前のストレス値は,手術中・後の血圧の上昇や心拍数亢進と相関せず,他覚的および患者の自覚症状とも一致しなかった.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられた.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheuseofsalivaryamylaseactivity(sAMY)toevaluatethechangesintheamountofpre-andpostoperativestressinpatientsundergoingdacryocystorhinostomy(DCR)andcataractsurgery(CS).Methods:Inthisstudy,weevaluatedtheperioperativechangesinsAMYbyuseoftheCocoroMeter(NIPRO,Osaka,Japan)portablestressmeteratbeforeandaftersurgeryandassessedthebloodpressureandheartratein59patientsbeingtreatedattheFukiageEyeClinic,Hachinohe,Japan.TheDCRgroupincluded31cases(13malesand18females),andtheCSincluded28cases(11malesand17females).Results:ThelevelofsAMYrangedfrom42.8to73.8KU/L.ThehighersAMYgroup(>61KU/L)occupiedfrom27-41%inbothgroups.NosignificantdifferencewasfoundbetweenthelevelofsAMYamongsexandtypeofsurgery.Conclusion:Wewereabletosuccessfullyreducesurgery-relatedpatientstressandpainbyuseofthesAMYlevel.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1205.1211,2015〕Keywords:白内障手術,涙.鼻腔吻合術,唾液アミラーゼ,心理ストレス,ココロメータ.cataractsurgery,dacryocystorhinostomy,salivaryamylase,psychologicalstress,cocorometer.はじめに近年,涙道手術が普及し涙.鼻腔吻合術鼻外法(dacryocystorhinostomy:DCR)が増加している.眼科で多く行われている超音波白内障手術(intraocularlens:IOL)と比較して,どちらが術後痛いのだろうかと患者に問われることも多い.これまで手術法の評価は,成功率や手術時間について論議されることが多く,患者の手術後の痛みについては客観的な評価が困難であり,考慮されることは少なかった.また,検索した限りでは,眼科手術において患者の疼痛評価を定量的に考察した報告はなかった.しかし,眼科医療の質の向上のためにも,患者の疼痛を軽減することは重要である.そのためには,患者の疼痛の状態を客観的に評価する必要があり,さらに定量的に評価可能であれば,治療法の選択などに有用〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上2丁目10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(139)1205 と考える.周術期ストレスの主要因子の一つである痛み1,2)については,患者の主観的な感覚であるため,客観的に評価することはむずかしい.そのため,問診や視覚的評価スケール方法(VAS法)などの主観的な評価法3)や,血液や尿中のカテコラミンやコルチゾールを測定する客観的な生化学的方法などにより,間接的に痛みの状態を評価する方法が応用されてきた4).近年,唾液a-アミラーゼが交感神経活動の指標になることがわかり,痛みを含めたストレスの有用な指標と考えられている4,5).加えて近年,安価で簡便な唾液a-アミラーゼ活性の測定機器(以下,ココロメータ)が販売され,ストレスの数値化が簡便に行えるようになった5).そこで,今回筆者らは,ココロメータを用いIOLおよびDCR患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討をすると同時に,ココロメータの有用性を検討した.I対象および方法対象は2003年5月.2003年8月および2013年5月.2013年8月に,当院が手術を行ったIOL症例(男性13例,女性18例),DCR症例(男性16例,女性29例)を対象とした.両眼を行う症例では最初の症例眼のみを対象とし,他方眼は対象から除いた.涙液メニスカスが減少し,Sjogren症候群が明らかに疑われる症例はいなかった.ストレス値測定で手術前後に1回以上測定不能だったIOL男性2例(15%),女性1例(6%),DCR男性3例(19%),女性11例(38%)を除いた.IOL群で男性11例,女性17例,計28例,DCR群は男性13例,女性18例,計31例を検討対象とした.測定項目は性別,年齢,手術30分前・中・手術30分後の血圧と心拍数.手術前後30分のストレス値である.血圧は,収縮期血圧が165mmHg以上または拡張期血圧が95mmHg以上で高血圧とし,心拍数は90以上で異常とした.看護記録より,患者の緊張が他覚的に観察されたり,「緊張している」「緊張していた」とコメントがあれば,手術前・中・後に「緊張状態」ありとした.Schirmerテストは今回行っていない.ストレス値の測定後に血圧・心拍数測定を行い,指示がある症例で前投薬の筋肉注射を行った.DCR6)については,鼻にパッキングが入った状態で手術前,手術後の測定を行った.各群の検討項目は,①平均年齢,②手術時間とストレス値,③前投薬,術中の投薬,④術中の高血圧発生頻度,⑤心拍数亢進の発生頻度,⑥緊張状態の発生頻度,⑦各群のストレス平均値,⑧各群のストレス高値症例の比率,⑨手術前にストレス値が正常の症例,高い症例の2群の手術前・中・後の血圧・心拍数・緊張状態の変化,⑩測定不能例の出現頻度1206あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015である.平均値の比較は,t-testで行い,2群間の比率の比較はc2検定,Fishers’stestを行い検定有意水準p<0.05で有意とした.すべての手術は,局所麻酔下で行った.外来処置中(白内障手術では,術前抗菌薬の涙.洗浄時,DCRでは鼻内のパッキング時)に,視診で患者の緊張度を判断して前投薬のアタラックスPRの筋肉下注射を指示した.手術中に緊張が高い場合は,ドルミカムRおよびソセゴンRの希釈溶液を側管より静注した.血圧が高い場合は,同様にペルジピンRを使用した.白内障手術の手順は以下のとおりである.11時部位の結膜を3.4mm程度切開し,止血後に2mlの2%キシロカインRでTenon.下麻酔を行った.2.65mmスリットナイフで強角膜にて前房に進入し,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させた.ハイドロダイジェクション後にフェイコチョッパーにて白内障の核を除去し,皮質を吸引し,カートリッジなどを用いて眼内レンズを.内に挿入し,眼圧調整後に結膜を凝固し,エリスロマイシン・コリスチン眼軟膏で封入し眼帯した.DCR鼻外法は,手術前に半切したベスキチンFRとnasaldressingRを鼻内に留置した.高周波メスで皮膚切開を行い,骨窓はドリルおよび骨パンチで作製した.涙.および鼻粘膜は前弁,後弁をそれぞれ作製し,吻合した.鼻内に留置したものは1週間後に抜去した.全例シリコーンチューブ留置術を併用した6).唾液アミラーゼ測定機器ココロメータ7)は,本体とアミラーゼ試験紙が付いた使い捨てのテストストリップで構成される.測定方法は,テストストリップの先端を舌下部に入れ,30秒間唾液を採取する.次に唾液を採取したテストストリップの後部を一段階引っ張り,ココロメータホルダー内に挿入する.ディスプレイの指示に従いレバーを操作すると,アミラーゼ試験紙が唾液採取紙に押し付けられ唾液が転写され,30秒後にストレス値の結果が数値とアイコンにて画面に表示される.ココロメータの測定精度については,R2=0.988変動係数10.2%と報告され7),61KU/L以上を高値とした.また,測定時に唾液採取ができない場合は「エラー」の表示となり,今回は「測定不能」とした.II結果平均年齢はIOL群で男性75.4±5.71歳,女性69.4±9.49歳.DCR群で男性63.7±19.4歳,女性69.0±7.90歳だった.IOL男性群とIOL女性群との間に有意差を認めた(p=0.037,unpairedt-test).IOL群男性とDCR群男性との間にも有意差を認めた(p=0.034,unpairedt-test)(表1).(140) 手術時間は,IOLでは結膜切開から最後の結膜凝固までとし,DCRでは,皮膚切開から最後の皮膚縫合終了までとした.IOL男性で15.1±2.1分,女性で17.5±6.0分だった.DCRでは男性44.2±6.5分,女性で41.8±6.4分だった,男女での手術時間には,有意差はなかった.IOL症例内およびDCR症例内では手術時間と手術後のストレス値との相関はなかった.手術前の前投薬と手術中の投薬は,DCR女性群でソセゴンRを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった(表2).高血圧を示した症例数を表3に示した.IOL女性群で,手術中の高血圧の発生頻度が高く,手術前・後と比較して有意な差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.027,手術中と手術後の比較でp=0.004,Fisher’stest).しかし,他の群では手術中の高血圧の発生率に,有意差を認めなかった.また,発生率が低いDCR女性群と,高いIOL女性群との間で有意差は認めなかった.心拍数が亢進した症例数を表4に示した.DCR女性群は手術中に心拍数の上昇を高い確率で示し,手術前との有意差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.0076,Fisher’stest).DCR女性群とIOL女性群との間に有意差は認めなかった.DCRの手術前の緊張状態は,男性女性ともに,IOLの緊張状態より有意に高かった.手術中・手術後については,有意差を認めなかった(表5).ストレス値は,IOL群は手術前で男性46.8±41.8KU/L,女性54.5±55.1KU/L,手術後で男性38.4±41.7KU/L,女性55.6±44.1KU/Lで,手術前後,男女間で有意な差は認めなかった(図1).DCR群では,手術前で男性73.8±49.7KU/L,女性50.3±42.1KU/L,手術後で男性53.5±33.5KU/L,女性50.8±47.7KU/Lだった.手術前後で有意な差を認めず,男女差も認めなかった.DCR男性群の手術前のストレス値が高かったが,IOL男性群との差は認めなかった(図2).ストレス値が61KU/L以上,同未満で2群に分類すると2),手術前・手術後で高いストレス値の症例が占める割合は20.40%台で,IOL女性群が術前・術後ともに高値だったが,有意な差は認めなかった(表6).手術前のストレス値を61KU/L以上,同未満で2群に分類し,手術前・中・後の血圧および心拍数が亢進した症例表1症例の平均年齢IOL群(歳)DCR群(歳)男性75.4±5.71*63.7±19.4女性69.4±9.4969.0±7.90*p<0.05unpaired-ttest*IOL男性群は,DCR男性群より有意に高齢であった.・女性群で,有意差を認めなかった.表2前投薬と手術中の投薬についてアタラックスPRドルミカムRソセゴンRペルジピンR合計(例)IOL群男性女性711121401121117DCR群男性女性712121413051318Fisher’stest・DCR女性群で,ソセゴンを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった.表3高血圧を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性1147*101117DCR群男性女性1645221318*p<0.05Fisher’stest*IOL女性群の手術中の高血圧の発生頻度は手術前および手術後より有意に高かった(手術中と手術前でp=0.027,手術中と手術後でp=0.04).・IOL女性群とDCR女性群との間に有意差を認めなかった.表4心拍数が亢進した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性0204001117DCR群男性女性0027*101318*p<0.05Fisher’stest・DCR女性群のの手術中の心拍数の上昇の発生頻度は手術前と比較すると手術前より有意に高かった(p=0.076).・DCR女性群は,IOL女性群と有意差を認めなかった.(141)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151207 表5緊張状態を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性00011女性00017DCR群男性52113女性74318****p<0.05,**p<0.05Fisher’stest*男性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.041).**女性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.0076).男性女性ストレス値180160140120100806040200ストレス値(KU/L)手術前手術後200180160140120100806040200手術前手術後(KU/L)手術前手術後男性73.8±49.7KU/L53.5±33.5KU/L有意差なし女性50.3±42.1KU/L50.8±47.7KU/L有意差なし図2DCR群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化数,緊張状態となった症例数,手術後に高ストレス値を示した症例数を検討した(表7).手術前ストレス値で,手術前の高血圧および心拍数亢進で有意差を認めなかった.手術前ストレス値と,手術中の投薬頻度,高血圧発生頻度・心拍数の亢進を認めた頻度に差を認めなかった.IOL男性群で前投薬を指示した比率と,DCR女性群で手術後も高ストレス値であった比率に有意差を認めた.手術前ストレス値の高い女性が,手術前に緊張状態を認めた割合がIOLよりDCRのほうが有意に高かった.各群でのココロメータの測定不能例の出現頻度は,DCR女性群が高く(38%),IOL女性群との有意差を認めた(p=0.017.Fischer’stest).また,IOL群とDCR群での比較で1208あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015男性女性ストレス値ストレス値050100150200250手術前手術後(KU/L)手術前手術後(KU/L)180160140120100806040200手術前手術後男性46.8±41.8KU/L38.4±41.7KU/L有意差なし女性54.5±55.1KU/L55.6±44.1KU/L有意差なし図1IOL群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化表6手術前後で高いストレス値(61KU.L以上)を示した症例手術前手術後合計(例)IOL群男性3311女性7817DCR群男性5513女性5418Fisher’stest統計学的に有意な差は認めなかった.も,有意な差を認めた(p=0.047.Fischer’stest)(図3).測定不能例のDCR女性群内での年齢別頻度では(表8),年代別に有意差はなかった.測定不能だったDCR女性群(測定不能群)11例の内訳は,手術前のみ1例,手術後のみ8例,両方が2例だった.測定不能群とDCR女性群症例(測定可能群)18例の手術前・中・後の高血圧の発生頻度には有意差を認めなかったが,測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する傾向を示した(p=0.057)(表9).III考察生理学的にストレスという反応をみると,1)視床下部.下垂体.副腎皮質(hypothalamus-pitcitary-adrenal:HPA)系と2)交感神経.副腎髄質系(sympathetic-adrenal-medul-lary:SAM)系の2つがある(図4).最近では,唾液a-アミラーゼの分泌は,交感神経活動の亢進とよく相関しているので,とくにSAM系の活動に依存していると考えられてい(142) 表7手術前ストレス値の高い症例,低い症例の手術前・手術中,手術後の投薬・血圧変化・心拍数の変化,ストレス値および緊張状態の推移IOL男性手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)IOL女性8100**p=0.006000083220000121000単位(例)0083低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR男性5601110086432200420000単位(例)00107低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR女性5201003275311111322001単位(例)1085手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)104049243100113**高い(≧61KU/L)2203*533132025*IOL女性手術前ストレス値が高い人と有意差ありp=0.045**p=0.044単位(例)緊張状態:看護士が「患者は緊張している」と観察したり,自ら「緊張している」と言った場合.高ストレス値:ストレス値が61以上であれば高ストレス値とした.45表8DCR女性群内での年齢別の測定不能例40年齢40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代35発生例(頻度)0325130症例数(例)066161Fisher’stest25・年齢によるエラー率に有意な差を認めなかた.2015表9DCR女性群内での測定可能群と測定不能群での高血圧の頻度10手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)測定可能群652185測定不能群472110IOLIOLDCRDCRc2検定男性群女性群IOL群男性群女性群DCR群測定不能群;ココロメーターでエラーが出た症例図3各群での測定不能率測定可能群:ココロメーターで測定可能だった症例*DCR女性群は,IOL女性群より有意に測定不能率が高かった手術前・中・後で2群間に有意な差を認めなかった.(p=0.017.Fischer’stest).測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する★DCR群はIOL群より有意に測定不能率が高かった(p=0.047.傾向を示した(p=0.057).Fischer’stestで有意な差を認めた).ココロメータのエラー率(%)*★(143)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151209 心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用図4ストレス応答系と唾液a-アミラーゼ分泌の関係る.SAM系を介した唾液a-アミラーゼ分泌促進には,カテコラミン分泌に伴うホルモン作用(間接作用)と交感神経からの直接神経作用によるものがある.以上のことから,唾液a-アミラーゼはSAM系の活動の指標とともに,間接的な交感神経活動の指標となっている.そのため,唾液a-アミラーゼを測定することにより,ストレスの強度を推測することが可能と考えられる.術者の視点で侵襲度という観点でストレスを考慮していたが,患者のストレスについて考察されることは少なかった.手術を受ける前の不安や手術後の痛みを主とするストレスは,ストレスにより上昇する唾液a-アミラーゼを簡便に測定できるようになったことで評価が可能となった.ココロメータでのストレス値測定は,簡便で,血圧や心拍数の変動に現れない患者のストレスを推測するのに有用であった.逆に交感神経系のマーカーと従来から重要視されている血圧および心拍数に異常が出なかった.理由としては,高血圧治療薬を服用している患者が多く,普段の内服薬により血圧上昇および心拍数の亢進が抑えられたためと考えた.ストレス値は,術前不安および術後創痛の程度を反映していると考えられる6,7).ココロメータはストレスが加わって最大値を示すまでの時間は10分以内,復帰するのに20分程度であり,心拍などと比べてもストレス負荷に対して比較1210あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015的早い応答が観察される8)と報告されている.よって今回の手術前のストレス値は術前不安を,手術後30分経過して測定した術後のストレス値は,術後の創痛の程度を反映していると思われる.手術前のDCR鼻外法での鼻内処置には,ボスミンRを使用せず,手術中の止血用にボスミンR外用液0.1%を希釈して用いたが,それによる明らかな血圧上昇例はなくストレス値に影響はないと考えた.各手術のストレス値の平均値は,術前,術後,性別,手術別に有意な差を認めなかった.高ストレス値を示した症例の割合も,有意差を認めなかった.ストレス値が測定できた症例のなかでは,IOLとDCRのストレス値は同等と考えられ,ストレス値からは2つの手術の術前不安および手術後疼痛は同等であると考えられた.ココロメータによる唾液a-アミラーゼ測定の有用性は,術前のストレス度を測定することによって疼痛軽減を主にした術後ストレスケアへの準備を容易にする点にあると考える.理由として,手術前ストレス値が低いグループと高いグループで分けて手術前・中・後と経過を追うと,DCR女性群で,手術前にストレス度が高い症例は,IOL群に比べて,緊張状態が有意に高く,手術後のストレス度も高かった.つまり,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人は,手術前に不安が強く,手術後に疼痛によりストレス度が高かったと(144) 考えられ,このような症例に対しては手術前に不安対策を,手術後早期に疼痛対策を行えば,患者の苦痛軽減ができると考えられる.ココロメータは簡便にストレス度が測定でき,前述した有用性がみられるが,測定不能例が無視できない率でみられることが短所の一つである.ココロメータの測定不能率に関しての報告は,1報告9)のみで手術当日34例中13例(38%)が測定不能と報告されている.今回の測定でも,DCR女性群の測定不能率が38%と高く,手術当日の測定不能率が高いと思われた.測定不能群で高血圧の出現頻度が高い傾向を認め(p=0.057)(表7),測定不能の原因は,強い緊張による唾液減少が強く関係すると考えた.麻酔導入中では,唾液a-アミラーゼ活性の変動は,平均血圧や心拍数の変動と同調,相関すると報告10)され,深い沈静の状態では,痛みにより最初に唾液a-アミラーゼ活性が上昇すると報告11)されているが,今回は,唾液a-アミラーゼ活性の変動と血圧および心拍数の変動とが相関しているかどうかは確認できなかった.ストレス測定をより頻回に行うか,連続的に測定可能となれば,何らかの関係性が明らかになると思われた.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられる.欠点として,手術後の測定不能率が高かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(1)内視鏡下および開腹胆.摘出術前後のストレス度比較.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:65-70,20122)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(2)整形外科手術にみる周術期ストレスの検討.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:1-5,20123)成田紀之,平山晃康:痛みの評価スケール.日本医師会雑誌143:88-89,20144)山口昌樹:唾液マーカーでストレスを測る.日薬理誌129:80-84,20075)廣瀬倫也,加藤実:唾液を検体とした新しいストレス評価法─唾液クロモグラニンAおよび唾液a-アミラーゼ活性によるストレス評価.臨床検査53:807-811,20096)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,20057)山口昌樹,花輪尚子,吉田博:唾液アミラーゼ式交感神経モニタの基礎的性能.生体医工学45:161-168,20078)山口昌樹,金森貴裕,金丸正史ほか:唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか.医用電子と生体工学39:234-239,20019)藤井宏二,石井亘,松村博臣ほか:疾患と侵襲:病態からみたストレスの比較─唾液アミラーゼ活性を測定して.診断と治療11:1884-1886,201010)廣瀬倫也,加藤実:唾液a-アミラーゼ測定器─唾液aアミラーゼの特性と疼痛評価への応用について─.麻酔58:1360-1366,200911)FujimotoS,NomuraM,NikiMetal:Evaluationofstressreactionsduringuppergastrointestinalendoscopyinelderlypatients:assessmentofmentalstressusingchromograninA.JMedInvest54:140-145,2007***(145)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151211

円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):889.893,2015c円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例力石洋平*1満川忠宏*1大澤亮子*2湯口琢磨*2大城三和子*3海谷忠良*1*1海谷眼科*2みどり台海谷眼科*3かけ川海谷眼科EfficacyofToricIntraocularLensImplantationforPatientswithKeratoconusYoheiChikaraishi1),TadahiroMitsukawa1),RyokoOsawa2),TakumaYuguchi2),MiwakoOshiro3)andTadayoshiKaiya1)1)KaiyaEyeClinic,2)MidoridaiKaiyaEyeClinic,3)KakegawaKaiyaEyeClinic円錐角膜患者4症例5眼の白内障手術にトーリック眼内レンズ挿入を行った.使用した眼内レンズはAcrysofRIQTORIC(Alcon社)でT4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.視力は全例改善し,他覚的円柱度数は4例4眼において改善した.一方,自覚的円柱度数は不変3眼,改善1眼,悪化1眼とばらつきがみられた.進行の止まった円錐角膜患者の白内障手術にはトーリック眼内レンズが有効である可能性が示唆された.Purpose:ToinvestigatetheefficacyofToricintraocularlens(IOL)implantationinpatientswithkeratoconus.SubjectsandMethods:ToricIOLswereimplantedin5eyesof4cataractpatientswithkeratoconuscorneas.TheimplantedIOLswereAcrySofRIQToricT4(1eye),T7(1eye),andT9(3eyes)IOLs(Alcon,FortWorth,TX),respectively.Results:Visualacuitywasimprovedinall5IOLimplantedeyes.Objectivecylindricalpowerdecreasedin4eyes,however,subjectivecylindricalpowerwasfoundtohaveworsenedin1eye,beunchangedin3eyes,andtohaveimprovedin1eye.Conclusions:ToricIOLimplantationisapossibleusefulsurgicalmodalityforthetreatmentofcataracteyesinpatientswithkeratoconus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):889.893,2015〕Keywords:白内障手術,円錐角膜,トーリック眼内レンズ.cataractsurgery,keratoconus,toricIOL.はじめに円錐角膜は角膜中央部が進行性に菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.これによって強い近視と乱視をきたし著しい視機能の障害をきたす.その治療には眼鏡による矯正,コンタクトレンズ装用,全層角膜移植などがあるが,近年角膜クロスリンキングなどの報告もある1).円錐角膜の白内障患者に対しては眼内レンズ挿入術が行われている.トーリック眼内レンズは白内障手術の際に強い乱視の矯正を目的に開発され,近年その効果について報告されている2,3).トーリック眼内レンズの適応については1.4Dの角膜正乱視が適応であり,円錐角膜などの角膜不正乱視は慎重適応であり,わが国での使用報告はほとんどされていない.今回,円錐角膜の乱視矯正と視機能に関してのトーリック眼内レンズの使用について文献的考察を含めて,その有用性について検討したので報告する.I対象および方法対象は海谷眼科(以下,当院)で角膜形状解析装置(TMS5,TOMEY)のKeratoconusScreeningにてKlyce/MaedaandSmolek/Klyceに異常値を示した4症例5眼,平均年齢44.6±14.0歳(男性2名,女性2名)の白内障手術施行例である.眼内レンズの選択はオートレフケラトメータで測定した術前のケラト値や軸,眼軸長などをトーリックカリキュレータに入力し,算出された結果を参考に術者が最終決定した.術前のマーキング方法は座位にて6時マーク法を用い,30ゲージ(G)針にて周辺部角膜に上皮擦過を行い,手術時にはトーリック軸マーカーを6時の擦過痕と一致させ,挿入軸のマーキングを行った.使用レンズは,AcrysofRIQ〔別刷請求先〕力石洋平:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207番地琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:YoheiChikaraishi,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207Uehara,Nishiharacho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)889 TORIC(Alcon社)T4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.患者には全例術前にトーリック眼内レンズについての十分な説明を行い,その使用について了承を得た.術前と術後1カ月の時点での視力,屈折,円柱度数について検討した.〔症例1〕71歳,女性.平成23年4月28日に近医より左眼の緑内障と白内障の治療目的に当院紹介された.全身的にはアレルギー疾患などの既往はない.眼圧は右眼13mmHg,左眼30mmHg.進行した視野狭窄(湖崎IV度)を認めた.細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図1)で平均K値49.4Dの中等度の円錐角膜を認めた.まず緑内障の治療のために点眼治療を開始した.眼圧は点眼でコントロールされたため,平成23年6月2日に左眼に対して超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT4)の移植・挿入術を行った.術前ケラト値は.4.0D,146°,挿入軸は20°であった.術前視力0.15(0.2×sph.4.00D)は術後1カ月で0.4(矯正不能)となった.〔症例2〕34歳,男性.図1症例1.中等度の円錐角膜を認める近医より右白内障手術の依頼により平成24年10月17日当院,紹介受診した.アトピー性皮膚炎を合併していた.右眼視力は0.4(0.5×sph+0.75D(cyl.3.00DAx95°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の軽度前方突出を認め,TMS(図2)で平均K値44.9Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常は認めなかった.前.と皮質に強い白内障による混濁を認めた.平成24年11月12日,右眼超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT7)の挿入術を行った.術前ケラト値は.0.50D,95°,挿入軸は97°であった.術後1カ月の視力は0.15(1.2×sph.2.0D(cyl.1.75DAx120°)と向上した.〔症例3〕32歳,男性.平成24年7月25日に近医より白内障の手術目的にて紹介され受診した.既往歴に気管支喘息があり,ステロイドを吸引していた.右眼視力は0.1(0.7×sph.3.75D(cyl.3.00DAx55°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図3)で平均K値47.5Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常を認めなかった.後.下混濁が強く,本人の視力低下の自覚も強いため,平成25年8月8日,右超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT9)の挿入術を行った.術前ケラト値は.6.25D,46°,挿入軸は156°であった.術後視力は0.4(0.9×sph.6.50D(cyl.3.00DAx180°)と向上した.〔症例4〕43歳,女性.平成24年4月26日,両眼の白内障と円錐角膜の診断で近医より治療目的にて当科紹介受診.全身的にはアレルギー疾患などの既往歴はなかった.視力は右眼0.08(0.3×sph.4.00D(cyl.1.00DAx65°),左眼0.2(0.4×sph.4.25D)であった.眼圧,眼底に異常を認めなかった.細隙灯顕微鏡検査にて左右とも角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図4,5)では右眼には平均K値52.0Dの進行した,また左眼には平均K値48.5Dの中等度の円錐角膜の所見を認図2症例2.軽度の円錐角膜を認める図3症例3.軽度の円錐角膜を認める890あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(126) 図4症例4の右眼.進行した円錐角膜を認める図5症例4の左眼.中等度の円錐角膜を認める1.201.0-20.8-4T9T7T9T9T4T9T9T9T7T4術後術後術後-6-80.60.40.2-100.0-120.00.20.40.60.8-12-10-8-6-4-20術前術前図6矯正視力の変化図7他覚円柱度数T4T9II結果0-2全症例の結果についてまとめてみる.T7T9T91.矯正視力.矯正視力の変化を術前と術後で比較した(図-46).すべての症例で矯正視力の改善がみられた.また,症例-62を除いて裸眼視力の改善も認めた.-82.術前後の他覚円柱度数の変化(ニデック社製オートレ-10図8自覚円柱度数めた.白内障は軽度であったため,まずコンタクトレンズによる治療を開始したが装用時痛があるため中止し,平成24年7月23日に左眼の白内障手術を,ついで平成25年8月26日に右眼の白内障手術を行った.左右眼とも眼内レンズはAcrysofRIQTORICSN6AT9を使用した.術前ケラト値は右眼.10.75D,10°,挿入軸は93°であり,左眼.6.00,174°,挿入軸は82°であった.術後1カ月後の視力は右眼0.4(0.5×sph+1.00D(cyl.9.00DAx180°)で左眼0.6(矯正不能)であった.フラクトメータでの測定値).図7に手術前後の他覚円柱度数の変化を示した.T4を挿入した症例1で軽度の悪化を認めているが,その他の症例は全例改善を認めた.3.術前後の自覚円柱度数の変化(最良矯正視力に必要な円柱度数).図8に自覚円柱度数の術前後での変化を示した.進行した円錐角膜の症例4の右眼では自覚円柱度数の明らかな悪化を認めた.症例1から3までの中等度以下の円錐角膜症例では不変あるいは改善を示した.III考按円錐角膜は思春期に発症し,進行性に角膜中央部が菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.発症に性差はなく,30歳代以降にその進行は停止する.比較的まれな疾患であり,発症率は年間1.3.25人/100,000人であり,また8.8.229人/100,000人の有病率と報告されている4).しかしながら,-10-8-6-4-20術前(127)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015891 近年の角膜画像解析機器の進歩によりその有病率は増加している可能がある.今回の症例においても症例1から4までは前医で診断されておらず,軽度な円錐角膜はその多くが見逃されている可能性が示された.また,病期の進行によって角膜の変形とともに生じる近視と不正乱視のために最終的に高度の視機能障害をきたすことが知られている.治療には初期にはまず眼鏡による屈折矯正が試みられるが,近視,乱視の進行とともにコンタクトレンズの装用が,さらに角膜移植が最終的に実施される.近年クロスリンキングによる治療の報告が相ついでいるが,現時点ではその長期予後を含め不明な点が少なからずあり,今後一般臨床へと普及するには多施設での大規模な前向き研究が必要であるとされている4).また,角膜移植は8年の経過観察中に約12%の患者に実施されており,大部分の本症患者は眼鏡あるいはコンタクトレンズでの屈折矯正が行われているものと考えられる4).本疾患は青壮年期にはほぼ進行は停止し,多くの本症患者は角膜移植を経ずにいずれ白内障の発症,進行とともに屈折矯正を兼ねた白内障手術が適応とされることが推定される.円錐角膜患者の白内障手術に用いる眼内レンズとその手術成績に関する報告として,Watsonらは1996.2010年における円錐角膜患者で白内障手術を球面眼内レンズを挿入した64症例,92眼について報告している5).彼らはその後ろ向き研究で,角膜移植未施行群で,ダウン症候群を除いた平均K値が48Dまでの軽症群(35眼),平均K値が48.55Dまでの中等症群(40眼)と平均K値が55D以上の進行群(17眼)に分類してその結果を報告している.軽症群では術後球面度数の平均は0.0Dであったが屈折誤差は+5.2..3.0Dと幅広く分布し,中等症群では平均術後球面度数は.0.3Dで,屈折誤差は軽症群と同様に+3.2..3.8Dまで広く分布したと述べている.この2群間に有意差はなかった.しかしながら進行群で,実測(measured)K値を用いた8眼では術後球面度数は平均+6.8Dでその範囲は+0.2.+17Dであった.また,標準(standard)K値を用いた9眼では術後平均球面度数は+0.6Dでその範囲は+6.2..5.8Dの範囲であったと報告している.彼らは円錐角膜患者の生体計測にはさまざまな因子が関与し,精度の高い屈折値は特に進行した症例では予測することは困難であると結論している.一方,近年,白内障手術の際に乱視矯正用にトーリック眼内レンズが普及している.円錐角膜は近視性の不正乱視をきたすことから,この乱視軽減を目的とした使用の可能性が示唆される.しかしながら,円錐角膜患者はすでに述べたように頻度が少なく,トーリック眼内レンズを用いた白内障手術の報告は少ない.Sauderらは2例の報告を行っている6).1例(66歳,女性)は白内障手術の際にトーリック眼内レンズを挿入し,他の1例(68歳,女性)は無水晶体眼にトーリック眼内レンズを毛様溝に縫着している.2例とも乱視の軽減と視力の向上を得ている.Navasらも同様に2例のトーリック眼内レンズを円錐角膜患者の白内障手術に用いている7).症例1は55歳,男性で,症例2は46歳,男性であった.両者とも著しい裸眼視力の向上と,乱視の軽減を認めている.さらに最近,Nanavatyらは円錐角膜9症例12眼(平均年齢63.4±3.5歳)における白内障手術にトーリック眼内レンズを挿入し,術後裸眼視力の改善と,近視の減少,乱視の減少を報告している8).彼らは術後裸眼視力は75%で0.5以上,近視の量は術前.4.80±5.60Dから術後0.3±0.5Dへ,また乱視の絶対量は3.00±1.00Dから0.7±0.80Dへと改善したことを報告した.今回の筆者らの結果では,視力に関しては裸眼視力では症例2で軽度の低下を認めたが他のすべての症例で向上した.また,症例2においても矯正視力は1.2と改善した.ほぼ全例における術後視力の向上はもともと軽度以上の白内障が存在しており,この結果は妥当と考えられた.また症例4の右眼を除いては中等度以下の円錐角膜であり,これまでの報告と同様に良好な結果となった.一方,症例4の右眼は進行した円錐角膜であり,十分な視力の改善が得られなかった.Watsonらも進行した円錐角膜患者では白内障手術によっても視力の改善の予測が困難であると報告しており5),またNanavatyらもトーリック眼内レンズの適応をgrade1.2と比較的軽度の円錐角膜に限定して手術を行っており8),進行した円錐角膜ではもともとの屈折予測が困難であることからトーリック眼内レンズに限らず一般の球面レンズの度数計算,さらに視力の改善は困難である可能性が改めて示された.このような症例はWatsonらの勧めるようにstandardK値を用いて,眼内レンズを挿入するか,角膜移植と同時に白内障手術を行うか,あるいは角膜移植後に時期をおいてから白内障手術を行うほうがよいのか,その治療手段の選択には今後の検討が必要である.自覚と他覚での円柱度数に相違が大きくなっている症例は円錐角膜による高度の乱視によって検査結果にばらつきがみられることが大きな要因と考えられる.今回引用したトーリック眼内レンズの報告の経過観察期間は1年以内であり,その長期予後については明らかでない.今後,その長期予後,さらに角膜移植が適応となった場合の対応について検討する必要があると考えられる.円錐角膜を伴う白内障症例についてトーリック眼内レンズを挿入した症例を経験した.術後矯正視力の改善,乱視の軽減が認められた.円錐角膜の重症度分類における軽度.中等度例に関してはトーリック眼内レンズによる正乱視の矯正が有効であると考えられ,今後のトーリック眼内レンズの適応拡大も期待される.また,進行した高度な円錐角膜ではトーリック眼内レンズだけでは十分矯正できないため,このような症例に対しては角膜移植を含め,慎重に適応を考慮する必要がある.892あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(128) 文献1)加藤直子:角膜クロスリンキング.日本の眼科83:13301334,20122)寺田和世,三木恵美子,松田智子:トーリック眼内レンズの術後成績.IOL&RS25:242-246,20113)鳥山佑一,今井章,金児由美ほか:トーリック眼内レンズの術後短期成績.眼臨紀4:846-850,20114)VariraniJ,BasuS:Keratoconus:currentperspectives.ClinOphthalmol7:2019-2030,20135)WatsonMP,AnandS,BhogalMetal:Cataractsurgeryoutcomeineyeswithkeratoconus.BrJOphthalmol98:361-364,20146)SauderG,JonasJB:Treatmentofkeratoconusbytoricfoldableintraocularlenses.EurJOphthalmol13:577579,20037)NavasA,SuarezR:One-yearfollow-upoftoricintraocularlensimplantationinformefrustekeratoconus.JCataractRefractSurg35:2024-2027,20098)NanavatyMA,LakeDB,DayaSM.Outcomeofpseudophakictoricintraocularlensimplantationinkeratoconiceyeswithcataract.JRefractSurg28:884-889,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015893

下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):583.586,2015c下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績加賀郁子*1城信雄*1南部裕之1.2)中内正志*1吉川匡宣*1越生佳代*3髙橋寛二*1松村美代*2*1関西医科大学眼科学教室*2永田眼科*3関西医科大学滝井病院Long-TermOutcomesforTrabeculotomywithSinusotomyCombinedwithPhacoemulsificationandAspirationwithIntraocularLensImplantationforGlaucomaIkukoKaga1),NobuoJo1),HiroyukiNambu1,2),TadashiNakauchi1),TadanobuYoshikawa1),KayoKoshibu3),KanjiTakahashi1)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)NagataEyeClinic,3)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversityTakii目的:原発開放隅角緑内障(POAG),落屑緑内障(EG)に対する白内障手術を併用した下方サイヌソトミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)の眼圧下降効果について検討した.対象および方法:2004.2009年に白内障+下方LOT+SINを行ったPOAG22例31眼,EG20例23眼について眼圧経過および20または16mmHgの生存率を検討.結果:眼圧(POAG/EG)は術前19.8/22.7,術後3年13.4/13.1,術後5年11.5/13.0mmHgであった.術後7年の20mmHg以下の生存率(POAG/EG)は51.8/93.3%,16mmHg以下は46.5/72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p<0.01).結論:白内障手術を併用した下方LOT+SINの成績は,過去の上方でのLOT+SINを行った報告と同等であった.POAGよりもEGのほうが成績は良好であった.Inthisstudy,weretrospectivelyanalyzedthelong-termsurgicaloutcomesofinferior-approachtrabeculotomyandsinusotomy(inferior-LOT+SIN)combinedwithphacoemulsificationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL).Wereviewed31primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand23exfoliationglaucoma(EG)eyes.AllcaseshadundergoneinitialLOT+SIN,andwerefollowedupforatleast6-monthspostoperative.InthePOAGandEGeyes,themeanpreoperativeintraocularpressure(IOP)was19.8mmHgand22.7mmHg,respectively,whilethemeanIOPat3-and5-yearspostoperativewas13.4and11.5mmHgand13.1and13.0mmHg,respectively.Statisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenthepre-andpostoperativeIOP.BytheKaplan-Meierlifetablemethod,thesuccessratebelow20/16mmHgwere51.8/46.5%inthePOAGeyesand93.3/72.8%intheEGeyesat7-yearspostoperative.ThesuccessrateofEGwasstatisticallyhigherthanthatofPOAG.Thesefindingsareidenticaltothoseofpreviousreportsonsuperior-LOT+SIN.ThefindingsofthisstudyshowthatPEA+IOL+inferior-LOT+SINiseffectiveforthecontrolofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):583.586,2015〕Keywords:トラベクロトミー,サイヌソトミー,白内障手術,開放隅角緑内障,落屑緑内障.trabeculotomy,sinusotomy,phacoemulcification+IOLimplantation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.はじめにことが知られ1.3),成人例ではLOT+SINを施行することがトラベクロトミー(trabeculotomy:LOT)は緑内障流出主流になっている.SINを行ってもトラベクレクトミーでみ路手術の代表格であるが,サイヌソトミー(sinusotomy:られるような濾過胞はできない1.4,7)ので,将来行う可能性SIN)を併用すると,LOT単独に比べて術後眼圧が低くなるのあるトラベクレクトミーのために上方の結膜を温存するこ〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shinmachi,Hirakata573-1191,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)583 とを考慮して,最近では下方でLOT+SINを行うことが多く,下方で行っても,上方で行ったLOT+SINの成績と同等であることが報告されている4).LOTに白内障手術を併用した場合,LOT単独手術と同等以上の成績であり6),LOT+SINでも同様の報告はあるが7,8),これらの報告は上方で手術を行った成績であり,白内障手術を併用して下方でLOT+SINを行ったものの報告は少ない5).今回,白内障手術を併用した下方でのLOT+SINの術後長期成績を,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)に分けてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法2004.2009年に関西医科大学附属滝井病院および枚方病院において,LOT+SINと超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration:PEA+intraocularlens:IOL)の同時手術を施行した,初回手術例48例61眼のうち,術後6カ月以上経過観察ができた42例54眼を対象とした(経過観察率89%).病型はPOAG22例31眼,EG20例23眼,男性24例29眼,女性18例25眼であった.平均年齢(平均値±標準偏差,以下同様)はそれぞれ70.0±10.3,77.6±8.6歳とEGのほうが有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.0087).平均経過観察期間はPOAG48.9±22.1カ月,EG45.6±25.6カ月と同等であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.7330)(表1).LOT+SINは8時方向で行った.4×4mmの二重強膜弁を作製し,Schlemm管を露出した.上方から角膜切開ないし19ゲージ(G)のバイマニュアルにてPEAを行い,IOLは表層強膜弁下より挿入した.LOT用プローブを挿入,回転し,深層強膜弁を切除して強膜弁を10-0ナイロン糸で2.4糸縫合閉鎖した後,SINすなわちSchlemm管上の強膜の一部をケリーデスメ膜パンチにて切除した.最後に前房内の粘弾性物質を吸引した.眼圧に関してはKaplan-Meier法を用いて20mmHgあるいは16mmHg以下への生存率の解析を行った.死亡の定義は,1)術後1カ月以降で目標眼圧あるいは術前眼圧を2回表1対象症例POAGEGp値症例22例31眼20例23眼平均年齢(歳)70.0±10.377.6±8.6p=0.0087平均観察期間(カ月)48.9±22.145.6±25.6p=0.7330POAG:primaryopenangleglaucoma,原発開放隅角緑内障,EG:exfoliationglaucoma,落屑緑内障.両群間で平均年齢に有意差はなかったが,平均観察期間に有意差はなかった.(Mann-WhitneyU検定)584あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015連続して超えた最初の時点,2)炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した時点,3)新たな緑内障手術を施行した時点とした.ほかの内眼手術を行った場合は,その時点で経過観察打ち切りとした.Logrank検定を用いてPOAGとEGの病型別の生存率の比較も行った.II結果1.眼圧経過POAGの術前平均眼圧は19.8±4.4mmHgであった.術後1,3,5年の眼圧は13.9±4.1,13.4±3.2,11.5±1.6mmHgといずれの時点においても術前に比較して有意に下降した(術後1,3年p<0.0001,5年p=0.0269:pairedt-test).EGでも同様に,術前平均眼圧は22.7±9.7mmHg,術後眼圧は1,3,5年の眼圧は11.8±3.1,13.1±4.9,13.0±3.7mmHgであり,いずれの時点でも術前に比較して有意に下降した(術後1年p<0.0001,3年p=0.0037,5年でp=0.0180:pairedt-test)(図1).2.薬剤スコア緑内障点眼薬1点(ただし配合剤は2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.POAGでは術前平均2.1±0.9から術後3年で1.5±1.0と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.0979:pairedt-test).また,EGでは術前平均が2.2±1.2から,術後3年で0.9±1.0(p=0.0217:pairedt-test)と統計学的に有意に減少したが,術後5年では1.0±0.6と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.1025:pairedt-test)(図2).3.生存率20mmHg以下への生存率は,POAGは術後3年で73.6%,術後5年で51.8%,EGは術後3年以降で93.3%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0086,Logranktest)(図3).16mmHg以下への生存率も同様で,POAGは術後3年で60.9%,5年で46.5%,EGは術後3年で95.2%,5年で72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0099,Logranktest)(図4).4.視力術前視力と最終観察時の視力を比較した.術前と比べ最終観察時の視力がlogMAR視力で0.3以上低下した症例をPOAGの1眼(3.2%)に認めた.術後に発症した裂孔原性網膜.離が視力低下の原因であった(図5).5.濾過胞濾過手術でみられるような濾過胞は全例みられなかった.6.合併症一過性眼圧上昇(術後7日以内に30mmHg以上を呈したもの)をPOAG5眼(16.1%),EG8眼(34.8%)に認めたが,いずれの症例も経過観察もしくは点眼追加で眼圧下降した.POAG1眼で術後4日に感染性眼内炎を生じ,硝子体手(120) 32*******POAGn=31n=28n=25n=20:POAG:EG******EGn=23n=21n=17n=15n=12n=7n=18n=6:POAG:EG*****眼圧値(mmHg)スコア(点)201510術前12345(年)図2薬剤スコア0術前12345(年)図1病型別眼圧経過経過とともに症例数が減少するため有意差は出なかった術前の眼圧と比べ,病型を問わず有意に眼圧下降が得られが,術前と比べPOAGでは術後2年まで,EGでは3年また(pairedt-test**p<0.0001,*p<0.05).で有意に薬剤スコアは下降した(pairedt-test*p<0.05).100100:EG:POAG(月)72.8%(90カ月)46.5%(84カ月):EG:POAG51.8%(90カ月)93.3%(90カ月)8080生存率(%)生存率(%)60604040202000020406080(月)最終観察視力020406080図320mmHg以下への生存率図416mmHg以下への生存率POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定p=0.0086).p=0.0099).術で治癒した.この症例では術後濾過胞はみられなかった.37.再手術例POAG6眼,EG1眼で再手術を行った.POAG3眼,EG2.50.51眼では術後18,34,54,54カ月までは投薬下で18mmHg2以下にコントロールできていたが,その後眼圧上昇を認めた.明らかな視野の悪化はなく,術後20,36,57,57カ月1.5で,下方の別部位から再度LOT+SINを行った.1術後1カ月以降20mmHg以上の眼圧を示しLOTが無効:EGと考えられたPOAGの1眼と,術後9カ月以降に点眼2剤●:POAGと内服投薬下で14mmHgであったが視野進行を認めたPOAGの1眼,術後48カ月まで15mmHg以下であったが視野進行を認めたPOAGの1眼の合計3眼で,各々術後6,-0.5-0.50.511.522.5326,48カ月にトラベクレクトミーを上半周で行った.術前視力図5視力経過(logMAR視力)III考按POAGの1例で裂孔原性網膜.離をきたし,術後視力低LOT+SINは10mmHg台前半の眼圧をねらえる術式では下を生じた.ないため,長い人生には将来的に濾過手術が必要になる可能性を考えて,近年では下方で行われることが多い.下方(121)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015585 LOT+SINの成績は上方で行ったものと変わらないことがわかっている4).LOT+SIN+PEA+IOLに関しては,以前筆者らの施設で上方から行った成績が,術後1年の眼圧14.6mmHgであり,LOT+SIN単独と同等であったことを報告した7).松原ら8)は,上方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,術後5年の平均眼圧13.6mmHg,20mmHg以下への生存率86.8%と,単独手術よりもよかったと報告している.浦野ら5)は今回の筆者らと同様に,下方でLOT+SINを施行し耳側角膜切開でPEA+IOLを行った症例と,上方でLOT+SIN+PEA+IOLを行った症例について,術後12カ月での眼圧は上方14.4mmHg,下方13.6mmHgで差はなく,その眼圧は過去のLOT+SIN単独と同等であったと報告している.本報告では,下方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,POAGとEGの病型別に検討した.POAGでは術後4年の眼圧12.9mmHg,20mmHg以下への4年生存率が71.8%で,下方でのLOT+SIN単独手術(術後5年の眼圧14.6mmHg,20mmHg以下への8年生存率62.2%)の報告4)と同等であった.POAGでは下方LOT+SIN単独と下方LOT+SIN+PEA+IOLとの成績に差はないと考えてよさそうである.EGでは,下方LOT+SIN単独手術は,術後3年の平均眼圧17.8mmHg,20mmHg以下への生存率は25.2%(42カ月)と不良であるが,内皮網除去を併用した場合はPOAGと同等の成績であると報告されている4).今回の下方LOT+SIN+PEA+IOLでは,術後5年の眼圧13.0mmHg,20mmHg以下への生存率93.3%とPOAGより明らかに良好であり,Fukuchiら10)の上方からの成績とも同等であった.落屑症候群の症例では,緑内障の有無にかかわらずPEA+IOL術後に眼圧下降が得られることも報告されている11).白内障手術で落屑物質が吸引除去されること,水晶体がIOLに替わることで虹彩との摩擦が減少し,その後の落屑物質の浮遊が減少するであろうことから,EGにはPEA+IOLは有効に作用すると考えられる.実際,LOTにSINを併用していなかった時代から,EGにはLOT+PEA+IOLが有効であることがわかっていた9)が,今回の検討でEGにおける同時手術の有用性は下方で行っても同様であることが確認された.今回,下方でのLOT+SN+PEA+IOLの長期成績を検討して,POAGではLOT+SIN単独でもPEA+IOLを併用しても眼圧成績に差のないことが明らかになった.EGでは,LOT+SIN単独よりもPEA+IOLを併用するほうが成績は良好で,POAGと比較しても有意に高い眼圧コントロールができるという結果が示された.EGでは,LOT+SINを下方で行う場合でも積極的に白内障手術を併用することが推奨586あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015される.過去の報告では,LOT+SIN+PEA+IOLの成績がLOT+SIN単独と同等であったとされるものと5,7),同時手術のほうが単独手術よりよかったとされるもの8)がみられるが,今後は病型を考慮した検討が必須であると思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicaleffectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycomparedtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20002)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19963)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期経過.臨眼57:1609-1613,20034)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20125)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,20086)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsificationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcartaract.OpthalmicSurgLasers28:810-817,19977)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科8:813-815,20018)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20029)TaniharaH,NegiA,AkimotoAetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201111)ShingletonBJ,HeltzerJ,O’DonoghueMW:Outcomesofphacoemulsificationinpatientswithandwithoutpseudo-exfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg29:10801086,2003(122)

角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術 ―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1519.1522,2014c角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―安田優介若生里奈高瀬範明吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Cataract-VitreousCombinedSurgeryAssistedbyChandelierEndoilluminationandWide-AngleViewingSysteminSevereCornealOpacityYusukeYasuda,RinaWako,NoriakiTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences角膜混濁例を有する症例に対し,白内障および硝子体同時手術をシャンデリア照明と広角眼底観察システムを用いて行った.症例は68歳,女性.主訴は2011年6月からの右眼の視力低下.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘され当院紹介受診となった.60歳時の右眼ヘルペス性角膜炎によって角膜中央部に広範囲にわたる混濁がみられ,眼底観察が困難であった.初診時の視力は右眼30cm手動弁,Bモードで下鼻側網膜に.離がみられた.シャンデリアによる後方からの照明を使用して水晶体超音波乳化吸引術を施行し,広角眼底観察システムを併用して25ゲージ(G)硝子体手術を施行した.経過良好で,術後22日に退院した.右眼矯正視力は退院時0.04まで回復した.シャンデリア照明の使用により散乱光の影響を少なくし,水晶体全体を確認しながら安全に白内障手術を施行できた.また,広角眼底観察システム使用により混濁の少ない部位を通して眼底観察が可能であった.Combinedsurgery(cataractandvitrectomy)wasperformedinapatientwithcornealopacity,usingchandelierendoilluminationandawide-angleviewingsystem.Thepatient,a68-year-oldfemalewithvitreoushemorrhageinherrighteyeduetoproliferativediabeticretinopathy,hadseverecornealopacityinherrighteye,whichhadbeentreatedasherpetickeratitis.Thebest-correctedvisualacuityinherrighteyewas30cmhandmotion.Retinaldetachmentinthelowertemporalquadrantwassuspected.Surgerywassuccessfullyperformed,andrightvisualacuityimprovedfromhandmotionto0.04.Inthiscase,chandelierretroilluminationprovidedgoodvisibilitythroughahazycorneainthesurgicalfieldofthecataractsurgery.Ontheotherhand,thewide-angleviewingsystemenabledfundusobservationthroughtherelativelyclearerportionofthecornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1519.1522,2014〕Keywords:角膜混濁,白内障手術,硝子体手術,シャンデリア照明,広角眼底観察システム.cornealopacity,cataractsurgery,vitreoussurgery,chandelierretroillumination,wide-angleviewingsystem.はじめに角膜混濁を伴う症例の白内障手術や硝子体手術は眼内の視認性が悪く,術中操作が困難であるため合併症も生じやすい.このような症例における眼内手術には,一時的に人工角膜を用いて手術を施行し,その後に角膜移植を行う方法や1.3),眼内内視鏡を用いる方法がある4,5).人工角膜を使用することによって,術中の眼底の視認性は良好に保たれ,通常の手術手技が可能となるが,角膜の同時移植が必要であることはもちろん,術後炎症が高度で,長期的にみると移植片の生着不全や毛様体機能不全により前眼部の複雑化が起こると報告されている6).また,眼内内視鏡を用いる方法は,視認性が角膜や瞳孔の状態に左右されず,眼底最周辺部までの観察が可能である.しかし,内視鏡手術手技に習熟する必要があること,病巣の立体的把握や双手による操作が困難で繊細な手術を行うには限界があるなど,術後合併症や操作性などの問題が指摘され〔別刷請求先〕若生里奈:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RinaWako,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)1519 図1B.mode水平断下鼻側に網膜.離を認めた.図2手術開始前所見角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認め,周辺部よりわずかに水晶体を確認できる(下方が12時方向).チストトーム前.フラップ前.切開ライン図3前.切開の様子前.染色なども行うことなく,前.切開を行うことが可能であった.図4術中眼底所見広角眼底観察システム(ResightR)を使用した.眼球を下転し,上方の混濁の少ない部位から眼底を観察することができた.シャンデリア照明カッター視神経乳頭鑷子黄斑1520あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(98) ている7).今回,角膜混濁を伴う増殖糖尿病網膜症に対し,シャンデリア照明と広角眼底観察システムを使用することにより,人工角膜や内視鏡を使用せずに,白内障手術および硝子体手術を施行することのできた1例を経験したので報告する.I症例患者:68歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:32歳時,急性膵臓壊死により1型糖尿病,インスリン導入となった.60歳時,右眼ヘルペス性角膜炎を発症し,治癒したが,角膜中央部に角膜混濁が残存している.現病歴:2011年6月から右眼の視力低下を認めた.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘されたため,同年10月17日に名古屋市立大学病院眼科に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼30cm手動弁(矯正不能),左眼0.5(0.9×sph+2.0D(cyl.1.5DAx180°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHgであった.右眼の角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認めた.前眼部には,その他特記すべき所見は認められなかった.また,中等度核白内障を認め,眼底は角膜混濁および硝子体出血のために透見不良であった.Bモードで右眼下鼻側に網膜.離を認めた(図1).経過:シャンデリアによる後方からの照明を使用した水晶体超音波乳化吸引術と広角眼底観察システムを使用した25ゲージ(G)硝子体手術を施行した(図2.4).シャンデリア照明はアルコンエッジプラスRトロッカール用のシャンデリアライトシステムを,光源はコンステレーションR内蔵のキセノンを用いた.まず,5時方向に25Gポートを作製し,シャンデリア照明を設置した.これにより,水晶体.全体を観察することが可能となり,前.切開,超音波乳化吸引を行った.さらに25Gポートを3カ所設置し,広角眼底観察システム(ResightR)を併用して硝子体手術を施行した.硝子体切除を進めていくと,下鼻側に術前から認めていた網膜.離を確認した.意図的裂孔を作製して網膜下液を吸引除去した後,液-空気置換を行った.レーザー光凝固を追加,SF6(六フッ化硫黄)ガスを硝子体内へ注入し,手術終了となった.術後,網膜は復位し経過良好で術後22日に退院した.右眼視力は退院時に矯正0.04へ回復した.II考按角膜混濁を伴う症例において白内障および硝子体手術を施行する際,眼内の視認性を確保することは困難で,合併症も生じやすい.先に述べたように,角膜混濁を伴う眼内手術の方法として,一時的に人工角膜を使用する方法や眼内内視鏡を用いる方法があるが,いずれも問題点が多く手術施行はむ(99)ずかしい.角膜混濁例に対する白内障手術の方法として,前房内にイルミネーションライトを挿入し,前.切開を行う方法が報告されている8).顕微鏡による外部照明では観察光が混濁部位を2回通して検者の眼に入ってくるのに対して,この方法の場合は,光源が角膜下にあるため1回しか角膜を光が透過せず,その結果散乱光の影響を少なくし,観察が容易となる.また,硝子体出血に対して,シャンデリア照明を先に設置し,白内障および硝子体同時手術を行った症例も報告されている9).シャンデリア照明を使用することで,水晶体の後方から照明することになり,前.切開時から視認性が上がるとともに,硝子体手術まで一連の操作をバイマニュアルで行うことが可能である10).今回,筆者らは,白内障手術においてシャンデリア照明を使用することで,前.切開,水晶体分割,乳化吸引など一連の手術手技において,混濁した角膜を通しても良好な視認性と操作性を得ることができ,安全に手術を施行することが可能であった.硝子体手術には,広角眼底観察システムが有用であった.広角眼底観察システムは前眼部付近で観察光がいったん収束する光学経路設計となっているため,小瞳孔など狭い部分を利用しての眼底観察が可能である.角膜混濁も部分的に混濁の少ない部分があればそこを通しての観察が可能である.さらに,非接触型システムの場合,眼球を傾けて,光学経路と角膜透明帯が合致する場所に調節して眼底観察を行うことが可能である.本症例では,眼底の観察が困難な場合は眼内内視鏡の併用も考慮し,術中準備していたが,眼内内視鏡を使用することなく,広角眼底観察システムを用い,術中に眼球を下転して上方の角膜透明帯を通して眼底観察を行い,手術を施行することができた.角膜混濁を伴う症例の白内障および硝子体手術に対し,シャンデリア照明および広角眼底観察システムの使用は比較的簡便で,特別な器具や手技を必要とせず,眼内の視認性を向上させ,安全かつ正確に手術を施行できる一つの方法と考えられる.文献1)LandersMB3rd,FoulksGN,LandersDMetal:Temporarykeratoprosthesisforuseduringparsplanavitrectomy.AmJOphthalmol91:615-619,19812)EckardtC:Anewtemporarykeratoprosthesisforparsplanavitrectomy.Retina7:34-37,19873)古城美奈,中島伸子,外園千恵ほか:人工角膜を用いた網膜硝子体手術6症例.あたらしい眼科22:1289-1293,20054)KitaM,YoshimuraN:Endoscope-assistedvitrectomyinthemanagementofpseudophakicandaphakicretinalあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141521 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