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TorsionalモードPEAにおいてキャビテーションを抑制する新形状チップの開発

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):296.301,2017cTorsionalモードPEAにおいてキャビテーションを抑制する新形状チップの開発岸本眞人岸本眼科医院NewlyDevelopedTipInhibitsCavitationduringPhacoemulsi.cationandAspirationinTorsionalModeMakotoKishimotoKishimotoEyeClinic目的:白内障手術中に超音波を発振すると前房内にキャビテーションが発生する.今回,開発したキャビテーションを抑制できる新型チップ(MKチップ)とそれ以外のチップを比較しながら,キャビテーションにより起こりうる問題点をinvitroで検討した.方法:インフィニティとOZIL用ハンドピースを用い,チーズ片をチップの先端に付け,超音波発振を行った.また,試験管の内側にインクを塗布し超音波発振を行った.さらに,灌流液にルミノール溶液を加え超高感度カメラで撮影を行った.結果:従来の超音波チップでは,チーズ片は水晶体乳化吸引術(PEA)中にキャビテーション発生方向へ弾かれたが,MKチップではそれらが認められなかった.また,試験管内側に塗布されたインクは,超音波発振することにより発生したキャビテーションによって.離された.ルミノール溶液を加えた灌流液中では,キャビテーション発生部分が青く発光するソノルミネッセンスが認められた.結論:新形状のMKチップは,invitroでもキャビテーションの抑制が確認され,preliminarilyな臨床評価でも十分なPEAを施行することができた.キャビテーションを抑制するMKチップは臨床上有用と考えられた.Objectives:Ultrasoundduringcataractsurgeryresultsincavitationintheanteriorchamber.WeexaminedpossibleissuesassociatedwithcavitationbycomparingthenewlydevelopedMKtip,whichinhibitscavitation,withothertips.Methods:Apieceofcheesewasattachedtothetips,andultrasoundwasperformedwithINFINITYandtheOZILhandpiece.Ultrasoundwasalsoperformedwithinkappliedinsidethemock-up.Further,luminolwasaddedtotheirrigatingsolution,andimageswereobtainedusingahigh-sensitivitycamera.Results:Withconventionalultrasoundtips,thepieceofcheesewas.ipped,whereaswiththeMKtipitwasnot.Theinkappliedinsidethemock-upbecamedetachedbythecavitation.Sonoluminescence,i.e.,bluelightemissionfromcavitation,wasobservedintheirrigatingsolutionwithluminoladded.Conclusion:TheMKtipinhibitedcavitationinvitro,ensuringsu.cientPEAinapreliminaryclinicalevaluation.TheMKtipisconsideredclinicallyusefulbecauseitinhibitscavitation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):296.301,2017〕Keywords:白内障手術,トーショナルモード,キャビテーション,ヒドロキシラジカル,ソノルミネッセンス,MKチップ.cataractsurgery,torsionalmode,cavitation,hydoroxylradical,sonoluminescence,MKtip.はじめによって起こる発泡現象であり,いまだに未解明な部分も多水中で超音波(ultrasound:US)を発振するとキャビテーい.ションが発生することは古くから知られている.キャビテー水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:ションとは液体中の限局した空間において急激な圧力低下にPEA)による白内障手術でも,同じようにUSを発振すると〔別刷請求先〕岸本眞人:〒524-0022滋賀県守山市守山1-10-8岸本眼科医院Reprintrequests:MakotoKishimoto,M.D.,KishimotoEyeClinic,1-10-8Moriyama,Moriyama-shi,Shiga524-0022,JAPAN296(154)前房内にキャビテーションが発生する.しかし,キャビテーションが生体組織へ与える影響については,ラジカルの発生1,2)やその組織毒性についていくつかの報告3.5)はあるものの,筆者が知る限り多くの術者は特段の関心を有しているとは言いがたい.今回,torsionalmode(反復回転振動)でのキャビテーションを抑制できる新型チップ(以下,MKチップ)を開発し,キャビテーションにより起こりうる問題点をinvitroで検討したので報告する.I対象および方法MKチップ(シャルマン製:福井県鯖江市)を図1に示す.チップ先端断面は楕円形状を呈しており,寸法は縦1.6mm,横0.6mmのストレートチップである.ストレート部の軸径は1.1mm(19G),0.9mm(20G),0.8mm(21G)が製品化されている.本報告では軸径1.1mmチップを用いた.MKチップがTorsionalmodeにおけるキャビテーションを抑制できる理由は後述する.対照としてアルコン製TurboSonicTip(30°RoundTip:以下,ストレートチップ)および同TurboSonicMini-.aredTip30°(Kelman0.9mm:以下,ケルマンチップ)を用いた.以上のチップをアルコン製OZIL用ハンドピースに接合し,アルコン製PEA機器インフィニティを用いて実験を行った(方法1および2).またキャビテーションによる発光現象の観察(方法3)では,上記に加えAMO製PEA機器シグネチャーおよび20Gチップも用いた.【方法1:キャビテーションによるチーズ片の弾き飛ばし】PEAの設定値を吸引圧300mmHg,吸引流量30ml/mとし,スリーブを装着せず,核に見立てた一辺2mmのチーズ片*をチップの先端に付け,灌流遮断条件下にて灌流液(BSSプラス,アルコン)中で3種のチップ(MKチップ,ストレートチップ,ケルマンチップ)を用いてUS発振を行った.*:筆者のこれまでの経験より水晶体核硬度2.3程度の図1シャルマン製19GのMKチップ(15°)表1試用チップおよびUS発振条件チップUS発振条件Traditionalmode(前後振動)Torsionalmode(反復回転振動)ストレートチップ(アルコン)TurboSonicTip(30°RoundTip)70%0%ケルマンチップ(アルコン)TurboSonicMini-.aredTip30°(Kelman0.9mm)0%70%MKチップ(シャルマン)1.1mm(スタンダードタイプ)ベベルアングル15°0%70%表2試用PEA機器およびチップならびにUS発振条件PEA機器およびチップUS発振条件PEA機器チップTraditionalmode(前後振動)Torsionalmode(反復回転振動)シグネチャー(AMO)20Gチップ(AMO)80%.インフィニティ(アルコン)ケルマンチップ(アルコン)TurboSonicMini-.aredTip30°(Kelman0.9mm)0%70%インフィニティ(アルコン)MKチップ(シャルマン)1.1mm(スタンダードタイプ)ベベルアングル15°0%70%核にもっとも近似すると考えることから,本報告ではNCL製オランダ産ゴーダチーズを用いた.US発振条件を表1に示す(traditionalmodeとは従来の前後振動のことである).US発振時のチップ先端から発生するキャビテーションの状態と乳化吸引されるチーズ片の動向をカシオ製デジタルカメラ(HIGHSPEEDEXILIMEX-FH20)にて撮影した.【方法2:キャビテーションの多寡による油性インクへの衝撃】試験管の内側に油性インク(三菱ペイントマーカーPX-20)を約1.5mm四方に塗布した.PEAのUS発振をtor-sionalmodeのみ70%と設定し,MKチップおよびケルマンチップを用いてチップ先端がインクの塗布部分の近傍(目安として1mm程度)となるようにしてUS発振を行った.US発振時,油性インクの塗布部分の変化について目視にて観察した.Torsionalmodeのみで実験を実施した理由は,MKチップはtorsionalmode時のキャビテーション抑制を目的に開発されているためである.【方法3:キャビテーションによる発光現象(ソノルミネッセンス)】試験管に20mlの灌流液および1mlのヒアルロン酸製剤ビスコート0.5眼粘弾剤(アルコン)を入れて,灌流液と粘弾性物質が混ざらないように注意し,試験管底部に粘弾性物質が貯留するようにした後,ルミノール溶液(和光純薬工業ルミノール試薬混合品)を2滴加え,灌流および吸引のいずれも遮断した状態で,暗室下にて表2に示す条件でUS発振を行い,ソニー製a7S,超高感度カメラで撮影を行った.撮影条件はシャッタースピード10秒,F2.8,ISO409600とした.II結果【方法1:キャビテーションによるチーズ片の弾き飛ばし】ストレートチップ(アルコン)でのtraditionalmode発振ではチップ先端から前方へキャビテーションが観察され,チーズ片はPEA中にキャビテーション発生方向へ弾かれた(図2).またケルマンチップ(アルコン)でのtorsionalmode発振ではチップ先端の両側面にキャビテーションが観察され,チーズ片はキャビテーション発生方向に弾かれた(図3a,b).MKチップでのtorsionalmode発振ではキャビテーションを認めず,チーズ片を弾くことなくスムーズに吸引した(図4).図2ストレートチップ(アルコン)でのtraditionalmodeでの発振チップ前方にキャビテーションを認め,チーズ片が(前方へ)弾き飛ばされている図3aケルマンチップ(アルコン)でのtorsionalmodeでの発振チップ側方にキャビテーションを認め,チーズ片が(側方へ)弾き飛ばされている.図3bケルマンチップ(アルコン)でのtraditionalmodeでの発振チップ前方にキャビテーションを認め,チーズ片が(前方へ)弾き飛ばされている.図4MKチップ(シャルマン)でのtraditionalmodeでの発振図5ケルマンチップ(アルコン)でのtorsionalmodeでの発振安定してチーズ片がスムーズに乳化吸引されている.キャビテーションにより油性インクが試験管壁より.離した.図6MKチップ(シャルマン)でのtorsionalmodeでの発振油性インクに変化は認められなかった.図7AMO製チップのUS発振によるソノルミネッセンス現象キャビテーションが発生している方向に大きく青く発光している.図8ケルマンチップ(アルコン)でのtorsionalmodeでの発振チップ側方の数カ所にキャビテーションを認め,発光現象が観察される.図9MKチップ(シャルマン)でのtorsionalmodeでの発振発光現象は観察されなかった.【方法2:キャビテーションによる油性インクへの衝撃】ケルマンチップ(アルコン)でのtorsionalmode発振では,発生したキャビテーションにより試験管内側に塗布された油性インクの.離が認められた(図5).MKチップでのtor-sionalmode発振ではキャビテーションは発生せず,油性インクの.離は認められなかった(図6).【方法3:キャビテーションによる発光現象(ソノルミネッセンス)】シグネチャー/20Gチップ(AMO)およびインフィニティ/ケルマンチップ(アルコン)でのUS発振では,いずれもキャビテーション発生部分が青く発光していることが認められた(図7,8).MKチップでは明らかな発光はみられなかった(図9).III考按キャビテーションは液体中の圧力差によりごく短時間で気泡の発生と消滅を繰り返す現象であり,100年以上前,船舶用のスクリューの回転数を上げても推進力が思うように上がらない原因を追究するなかで発見された.超高速でスクリューが液体中を回転した際,その付近では一時的な圧低下が誘発されて部分的な沸騰状態となり無数の気泡が発生する.この気泡が消滅する瞬間には大きな衝撃波が発生し,その衝撃波による物理的な力がスクリューの破損などのさまざまな問題を引き起こすことがわかっている.白内障手術におけるPEAにおいても,チップの先端でキャビテーションが発生する6).たとえばtraditionalmodeでチップをUS発振した場合,超高速の前後振動によりチップ先端が手前に引かれた瞬間には,その部分の圧が急激に低下し気泡(キャビテーション)が発生する.発生したキャビテーションは周囲の高い圧力に晒されると,大抵はごく短い時間で消滅する.US発振時に発生したキャビテーションは,その飛び散るエネルギーにより周辺組織に対してさまざまな影響を与えていることが知られている6.11).今回の試験条件では灌流を行っていないなかで,キャビテーションの発生方向とチーズ片がチップの先端から弾き飛ばされた方向が一致していた.このことからキャビテーションにはチーズ片を直接または間接的(例:水流の発生)に弾く力を惹起することが示唆され,キャビテーションによってPEA中の核処理の効率が低下する可能性も考えられた.試験管内側に塗布された油性インクが近傍で発生したキャビテーションによって.離されたことから,キャビテーションは大きな衝撃力を有することも示唆された.ケルマンチップでのtorsionalmodeにおいて起こりやすいとされる虹彩色素脱出7)は,チップの弯曲によりスリーブが虹彩に強く接触するために起こるという報告8)もあるが,今般の結果からキャビテーションも原因の一つではないかと示唆された.また,キャビテーションの発生方向によっては角膜内皮に障害陰圧陰圧陽圧陽圧図10MKチップのキャビテーション抑制原理Torsionalmodeで発生する陽圧および陰圧がきわめて短時間に相殺され,キャビテーションが抑制される.を与える可能性も考えられる.以上より,キャビテーションは核処理効率の低下や虹彩色素脱出,角膜内皮障害の原因になるため,抑制すべきであると考えられる.本報告で示された試験官内で青く発光する現象はソノルミネッセンス(sonoluminescence)12)とよばれ,液中においてキャビテーションが圧壊する際に起こる発光現象である.すなわち,US振動によって発生したキャビテーションの気泡は膨張収縮を繰り返し,もっとも収縮したときの気泡内の温度は数千から数万度,気圧は数百気圧となる.このとき,水はHラジカル(水素ラジカル)とOHラジカル(ヒドロキシルラジカル)に分解されるといわれている.発光はルミノールがラジカルと反応し生じるものであることから,本報告の結果からOHラジカルも発生している可能性が強く示唆された.したがって本報告で認められたキャビテーションの発生状況から,OHラジカルはtraditionalmodeではチップ前方に大きく遠くまで,またtorsionalmodeの発振ではチップ両側面方向に短距離に多数発生していると推察される.眼内で実際にOHラジカルの発生程度や,臨床上の侵襲程度については今後さらなる検討が必要であるが,本報告の発光範囲からすると,毒性が強いとされているOHラジカルが角膜内皮に到達している可能性は否定できない.MKチップではキャビテーションを抑制するためチップの先端形状を前述のようにしており,torsionalmodeにおいて図10のように両側の上部と下部に陰圧と陽圧が常に交代しながら,同時に,しかも近傍に存在することになる.この隣り合う陽圧から陰圧に向けて瞬時に動く液体の流れが作られることによって,きわめて短時間に圧力差が相殺され,結果的にキャビテーション発生が抑制される.Torsionalmodeは32KHzの発振で「往復」のアタックがあるため,traditionalmodeでの40KHzよりも効率がよいとされている.しかし,チップ先端部の断面が円形のストレート型チップでは破砕効果が得られないので,屈曲チップ(ケルマン型チップ)が用いられてきた.MKチップはストレート型チップながら,ユニークな先端形状を有していることからtorsionalmodeを用いることができる.MKチップはtorsionalmodeでのキャビテーションを抑制することで,核を弾くことなく効率よい乳化吸引ができ,なおかつ虹彩色素脱出のリスクや角膜内皮細胞の減少も抑制できるのではないかと考えられる.IV結語Torsionalmodeでキャビテーションの発生を抑制する新形状チップ(MKチップ)を開発した.MKチップはinvitroにおいてキャビテーションの抑制が確認された.PEA中に発生するキャビテーションは手術効率の低減や眼内組織への侵襲も危惧されるため,キャビテーションを抑制するMKチップは臨床上の有用性が期待できる可能性があるものと考えられた.文献1)安田啓司:超音波による化学物質の分解と超音波反応器の開発.TheChemicalTimes212:2-7,20002)RieszP,KondoT:Freeradicalformationinducedbyultrasoundanditsbiologicalimplications.FreeRadicBiolMed13:247-270,19943)高橋浩:PEAにおけるフリーラジカル発生と粘弾性物質の効果.IOL&RS18:448-449,20044)TakahashiH,SakamotoA,TakahashiRetal:Freeradi-calsinphacoemulsi.cationandaspirationprocedures.ArchOphthalmol120:1348-1352,20025)MuranoN,IshizakiM,SatoSetal:Cornealendothelialcelldamagebyfreeradicalsassociatedwithultrasoundoscillation.ArchOphthalmol126:816-821,20086)MiyoshiT,YoshidaN:Ultra-high-speeddigitalvideoimagesofvibrationsofanultrasonictipandphacoemulsi-.cation.JCataractRefractSurg134:1024-1028,20087)杉浦毅,下分章裕:新しい超音波白内障乳化吸引方式OZilTortionalPhacoの合併症の検討.眼科手術21:513-517,20088)大木孝太郎:EllipsFX.IOL&RS25:254-256,20119)辰巳郁子:TorsionalPhacoemulsi.cationと虹彩色素脱出の関係.あたらしい眼科28:531-535,201110)鈴木久晴:SignatureEllipsFXによる虹彩色素脱出の頻度と原因の検討.眼科手術26:99-102,201311)高橋和久:SignatureEllipsの虹彩色素脱出の予防におけるCurvedTipの効果.IOL&RS28:180-183,201412)安井久一:ソノルミネセンスとソノケミストリー.ながれ24:413-420,2005***