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緑内障点眼薬3 種類2 製剤から4 種類2 製剤への 配合点眼薬切替─多施設共同観察試験

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1476.1480,2023c緑内障点眼薬3種類2製剤から4種類2製剤への配合点眼薬切替─多施設共同観察試験上田晃史*1,4坂田礼*2,4安達京*3宮田和典*1白土城照*2大内健太郎*5相原一*2,4*1宮田眼科病院*2四谷しらと眼科*3アイ・ローズクリニック*4東京大学医学部附属病院*5大塚製薬株式会社CAMulticenterObservationalStudyofSwitchingFixed-CombinationEyeDropsfromTwoFormulationsofThreeEyeDropstoTwoFormulationsofFourEyeDropsfortheTreatmentofGlaucomaKojiUeda1,4),ReiSakata2,4),MisatoAdachi3),KazunoriMiyata1),ShiroakiShirato2),KentaroOuchi5)andMakotoAihara2,4)1)MiyataEyeHospital,2)YotsuyaShiratoEyeClinic,3)EyeRoseClinic,4)TheUniversityofTokyoHospital,5)OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.C目的:FP受容体作動薬(以下,FP)と炭酸脱水酵素阻害薬・b遮断薬配合点眼薬(以下,CAI/b)の併用療法を,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬(以下,CAR/LAT)とブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BRM/BRZ)の併用療法へ変更した際の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:2カ月以上FPとCA/bを併用してC15CmmHg以上で管理されていた患者を対象とした.FP+CAI/bをCCAR/LAT+BRM/BRZへ変更し,変更前と変更後C3カ月目の眼圧を比較検討した.結果:原発開放隅角緑内障C42眼,高眼圧症C2眼を検討対象とし,点眼変更前後の眼圧はそれぞれC17.5±2.2CmmHg,15.4±3.2CmmHgで,変更後にC2.0±2.8CmmHg(p<0.001)の眼圧下降を認めた.1例で皮疹を認めた.結論:点眼変更によって,重篤な副作用は認めずに眼圧は有意に低下した.CPurpose:ToCevaluateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCswitchingCfromCprostaglandinCFreceptor(FP)agonistCandCcarbonicanhydraseinhibitor/bblocker.xedcombination(CAI/b)eyedropstocarteolol/latanoprost.xedcombi-nation(CAR/LAT)andCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BRM/BRZ)eyeCdropsCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CMethods:ThisCstudyCinvolvedCglaucomaCorCocularChypertensionCpatientsCwithCanCintraocularCpressure(IOP)of≧15CmmHgwhohadbeentreatedwithFPreceptoragonistandCAI/beyedropsforatleast2monthsbeforeswitchingtoCAR/LATandBRM/BRZeyedrops.IOPatpreswitchandat3-monthspostswitchwascom-pared.CResults:ThisCstudyCinvolvedC42CpatientsCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandC2CpatientsCwithCocularChypertension.CMeanCIOPCwasC17.5±2.2CmmHgCbeforeCswitchCandC15.4±3.2CmmHgCatC3-monthsCpostCswitch,CthusCshowingasigni.cantdecreaseof2.0±2.8CmmHg(p<0.001).Askinrashwasobservedin1case.Conclusion:IOPsigni.cantlydecreasedafterswitchingfromFPreceptoragonistandCAI/btoCAR/LATandBRM/BRZ,andnoserioussidee.ectswereobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1476.1480,C2023〕Keywords:眼圧,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,原発開放隅角緑内障.intraocularpressure,carteolol/latanoprost.xedcombination,brimonidine/brinzolamide.xedcom-bination,primaryopenangleglaucoma.Cはじめにを行っていくため1,2),病期の進行とともに点眼数が増えて緑内障点眼治療は目標眼圧をめざして単剤や多剤併用点眼いく.そしてC2本以上の点眼薬を使用する際には,点眼アド〔別刷請求先〕坂田礼:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1CRC棟A北C339(秘書室)東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ReiSakata,M.D.,Ph.D.,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1HongoBunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1476(106)8週間以上カルテオロール・ラタノプロスト配合点眼液+ブリモニジン・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液観察期間12週間・有害事象処方変更日12週後(±4週:8~16週)・眼圧・眼圧・患者背景図1対象患者8週以上プロスタグランジン点眼液(FP)と炭酸脱水酵素阻害・Cb遮断配合点眼液(CAI/Cb)を併用し,眼圧15CmmHg以上で管理されていた原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者に対して,両点眼薬をカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼液(CAR/LAT)とブリモニジン・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液(BRM/BRZ)へ変更しC12週間の経過観察を行った.ヒアランスを維持させるために配合点眼薬を選択することが推奨されている3).配合点眼薬のメリットとして,1日の点眼回数が減ることや洗い流し効果を軽減させるための点眼間隔を開ける必要がないことなどがある.配合点眼薬は,FP受容体作動薬(以下,FP)とCb遮断薬の組み合わせ(以下,FP/Cb),炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬の組み合わせ(以下,CAI/Cb)が当初認可されたが,2019年にCa2刺激薬とCb遮断薬の配合点眼薬(以下,Ca2/b),2020年に炭酸脱水酵素阻害薬とCa2刺激薬(以下,CAI/Ca2)の配合点眼薬がそれぞれ上市された.CAI/Ca2の登場により,CFP/bと併用することでC2製剤C4成分の治療が可能となった.このCFP/Cb+CAI/a2の配合点眼薬は,最小限の点眼本数で最大に近い効果を得ることと,点眼アドヒアランス維持の両立が期待できる組み合わせである.CFP/b配合点眼薬のCb遮断薬はチモロールまたはカルテオロールが配合されているが,FP/チモロールC1回点眼では,本来のチモロールC2回点眼あるいは持続タイプのゲル化チモロールC1回点眼と比較して終日での眼圧下降は劣る可能性が高い.一方,FP/カルテオロールC1回点眼は,基剤としてアルギン酸を含有し,持続的な作用が維持できるカルテオロールと同様であるため,1回点眼でも終日の眼圧下降が維持できる.今回,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)または高眼圧症患者を対象として,FPとチモロール含有CCAI/CbのC2製剤C3成分の併用療法を,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼薬(以下,CAR/LAT)とブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BRM/BRZ)のC2製剤C4成分の併用療法へ変更した際の有効性と安全性を検討した.CI対象および方法研究デザインは,国内C3施設による多施設共同後ろ向き観察研究である.組み入れ基準として,8週間以上CFPとCAI/bを併用し,15CmmHg以上で管理されていたCPOAGまたは高眼圧症患者のうち,2021年C9月C30日までにさらなる眼圧下降が必要とされ,両点眼薬をCCAR/LATとCBRM/BRZの併用療法に変更した患者を対象とした(図1).除外基準は,1)緑内障手術(レーザー含む)の既往のある患者,2)処方変更前にビマトプロスト点眼液を使用していた患者,3)処方変更後に他の緑内障点眼薬を併用,あるいは緑内障手術(レーザー含む)を実施した患者,4)点眼薬を遵守できなかった患者とした.処方変更日と処方変更C12週後(C±4週:8.16週)に,Goldmann圧平眼圧計で測定した眼圧を,対応のあるCt検定を用いて比較検討した.両眼とも選択基準を満たした症例については処方変更日の眼圧値が高い眼を有効性評価対象眼とし,眼圧が両眼とも同じ場合は右眼とした.主要評価項目は,処方変更日から処方変更C12週後までの眼圧下降値(平均)とし,副次評価項目は,同じ期間の眼圧値,眼圧下降率,そして期間中の安全性の評価とした.眼圧下降値および眼圧下降率の取扱いは以下のとおりとした.・眼圧下降値=(処方変更日の眼圧測定値)C.(12週時の眼圧測定値)・眼圧下降率(%)=(12週時の眼圧下降値)/(処方変更日の眼圧測定値)×100本検討はヘルシンキ宣言の教義を遵守し,宮田眼科病院の倫理委員会(承認CID:CS-368-017)によって承認された.本研究は,新たに試料・情報を取得することはなく,既存の診療録のみを用いた調査研究であるため,研究対象者から文書または口頭による同意取得は行わず,あらかじめ情報を通知もしくは公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障する方法(オプトアウト)による手続きを行った.統計解析は,SASVersion9.4(SASInstituteInc.)を使用し,両側で有意水準は5%とした.表1患者背景合計眼数44眼処方変更日時点での年齢C65.0±11.2歳性別男性:26人,女性:18人表2点眼変更前のFPとCAI/bの組み合わせ症例数(割合)ラタノプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩23(C52.3%)タフルプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩10(C22.7%)トラボプロスト+ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩5(1C1.4%)ラタノプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩4(9C.1%)タフルプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩1(2C.3%)トラボプロスト+ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩1(2C.3%)25II結果2044名C44眼(POAG42眼,高眼圧症C2眼)が検討対象となった.患者背景を表1,点眼変更前のCFPとCCAI/Cbの処方の組み合わせを表2に示す.処方変更日から変更C12週後までの平均眼圧値は,それぞれC17.5C±2.2CmmHg(95%信頼区間,平均眼圧(mmHg)151016.8,18.1),15.4C±3.2CmmHg(95%信頼区間,14.5,16.4)で,変更後の平均眼圧下降値はC2.0C±2.8CmmHg(p<0.001)であった(図2).眼圧下降率は,11.4C±15.6%(p<0.001)であった.処方変更C12週目で処方変更日の眼圧値からC10%,20%,30%以上の眼圧下降率を達成した症例数は,それぞ50処方変更日処方変更後12週時れC29眼(66%),15例(34%),3例(7%)であった.点眼変更後,発疹(全身だが詳細不明)を認めた症例がC1例あったが,重篤な副作用は認められなかった.CIII考按本検討ではCFPとCCAI/Cbの併用療法で管理していた緑内障・高眼圧症の患者に対して,CAR/LATとCBRM/BRZへの併用療法に変更したところ,3カ月目で平均C2.0CmmHg(11.4%)と有意な眼圧下降を示した.点眼変更後に発疹を認めた症例があったが,点眼中止後に回復を認め,容認性も良好と考えられた.今回の研究結果からC2製剤C3成分を,Ca2を加えたC2製剤C4成分に変更することで,点眼本数や点眼回数を増やすことなく治療の強化を行うことが可能であることが示された.緑内障進行を遅延させる確実な方法は眼圧下降しかないが,眼圧をC1CmmHg下げることでも視野進行を抑制することができるとされている5).点眼治療において,第一選択薬として用いられることが多いCFPは,単剤のなかでもっとも眼圧下降効果が強い点眼薬であるが,多くの患者はこれを含めた多剤併用管理となっていることが多い2).FPに他点眼図2点眼変更前後の眼圧値処方変更日から処方変更C12週時までの眼圧値(平均)は,それぞれC17.5C±2.2CmmHg,15.4C±3.2CmmHgで,眼圧下降値(平均)はC2.0C±2.8CmmHg(p<0.001)であった.薬を追加して治療強化を行っていく場合,ほとんどの研究において追加後に有意な眼圧下降効果を認めているが6.10),点眼本数が増えるほど,点眼アドヒアランスが落ちることが懸念される.したがって,治療強化の際には配合点眼薬を選択して患者の負担軽減を図る必要がある.今回使用したCCAR/LATと,LATの眼圧下降効果を比較した研究では,CAR/LATがCLATより強力な眼圧下降を認めており,1日C1回点眼のまま治療を強化できることが示されている11).また,BRM/BRZはCbを含有しない配合点眼薬として,全身既往歴のある患者にも処方する場面が増えてくると考えられが,BRM/BRZの第CIII相臨床試験12)ではBRZ単独療法からCBRM/BRZへの変更によって,3.7C±2.1mmHgの眼圧下降が得られており(変更前C20.7+/.2.0mmHg,変更後C18.2+/.2.8CmmHg),対照であるCBRZ群に比べ有意な眼圧下降が得られている.今回は点眼変更後にC44例中C15例(34%)の症例で,点眼変更前からC20%以上の眼圧下降,そしてC3例(7%)でC30%以上の眼圧下降を認めている.この理由として,チモロールがカルテオロールに変更になったこと,新規のCa2が加わったこと,そして処方内容を一新したことによって点眼アドヒアランスが上がったことなどが考えられる.FPとチモロール点眼薬C2回の併用とCFP/チモロール配合点眼薬C1回の眼圧下降効果を検討したメタ解析13)では,多剤併用のほうが配合点眼薬よりも眼圧下降効果が高いことが示されているが,この理由は言及したとおりである.また,チモロールは長期連用で眼圧下降効果が減弱するいわゆるCtachyphylaxisがあるため14),切替前にチモロールの効果が減弱していた可能性も否定できない.また,第一選択治療としてのCa2の眼圧下降率はC20.25%とされており15),FP単剤にCBRMを追加した場合も有意な眼圧下降を認め(変更前眼圧C16.0C±4.0mmHg,追加後眼圧C14.6C±3.2CmmHg)8),これが眼圧下降に影響した可能性がある.さらに,点眼切り替えで処方内容が一新されたことで患者への説明がしっかりと行われ,患者の点眼への意識が一時的に高まったことも眼圧下降によい影響を及ぼしたと考えられた.副作用について,点眼変更後,発疹を認めた症例がC1例あったが,点眼中止に至るような副作用は認めなかった.処方変更後に加わったCa2は,点眼開始後しばらくしてからアレルギー性結膜炎が発症する場合もあるが,今回は調査期間が短かったためこのような症例はなかった.本研究の限界として,患者の選択バイアスがあったことをあげる.まず今回はC2製剤C3成分で眼圧C15CmmHg以上の患者を対象としたため点眼変更の有効性をはっきりと認めたが,一方でわが国では,点眼使用下でC15CmmHg未満で管理されている緑内障患者が多いのも事実である.そのような患者に対する点眼治療強化についての知見は少なく,仮に点眼変更の効果がない場合は,低侵襲緑内障手術などの手術療法に切り替えていかざるをえない.このような問題点は今後検討し解決していく必要があると考えられた.つぎに,処方変更後C12週まで経過を追えた患者を対象とした研究であったことから,12週までになんらかの理由で点眼が中止された症例の検討が行えていない.また,今回の検討では点眼変更前後で非選択的Cb遮断薬を使用している.カルテオロールはCISA(intrinsicsympathomimeticactivity)作用を有し16),チモロールよりも循環器系への影響が少ないが,非選択性Cb遮断薬自体は喘息や慢性閉塞性肺疾患に対しては処方禁忌であり,このような患者における点眼処方の組み立て方は別途検討が必要である.最後に,点眼変更前後のCFPやCCAIが統一されていない問題があげられる.点眼変更前はC61%がラタノプロストであったが,CAIはC14%しかブリンゾラミドを使用していなかった.前後で同じ成分で切り替えていない症例も含まれたため,今回示した眼圧下降幅(率)も過小あるいは過大評価されている可能性は否定できない.しかし,本研究は,緑内障の日常診療でよく遭遇する処方の組み合わせを想定し,それを現状でもっとも効率的な組み合わせのC2製剤C4成分に切り替えた後の有効性や安全性を検討することを主眼としたため,今回の結果はおおむね実臨床を反映した結果であると考えられた.まとめると,2製剤C3成分のCFPとCCAI/Cbの併用療法から,2製剤C4成分のCFP/CbとCCAI/Ca2の併用療法に変更したところ,ほとんどのケースで問題なく切り替えを行うことができ,3カ月目で有意な眼圧下降を認めた.緑内障点眼治療において治療を強化する際,点眼回数を増加させずに点眼アドヒアランスを維持したままさらなる眼圧下降が得られる配合点眼薬C2製剤を組み合わせる処方は有効であると考えられる.利益相反:上田晃史FII,坂田礼FII,RII,安達京FII,宮田和典FIV,RIV,白土城照FII,大内健太郎E,相原一FII,RIII文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-117,C20222)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)内藤知子:緑内障配合薬のアップデート.あたらしい眼科C38:173-174,C20214)LeskeCMC,CHeijlCA,CHusseinCMCetal:FactorsCforCglauco-maCprogressionCandCtheCe.ectCoftreatment:theCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.CArchCOphthalmolC121:48-56,C20035)朴華,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の治療実態調査C2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.あたらしい眼科C38:945-950,C20216)LiF,HuangW,ZhangX:E.cacyandsafetyofdi.erentregimensCforCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:aCsystematicCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.ActaOphthalmolC96:277-284,C20187)MaruyamaCK,CShiratoS:AdditiveCe.ectCofCdorzolamideCorCcarteololCtoClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglauco-ma:aCprospectiveCrandomizedCcrossoverCtrial.CJCGlauco-maC15:341-345,C20068)宮本純輔,徳田直人,三井一央ほか:0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用.あたらしい眼科C33:729-734,C20169)MizoguchiCT,COzakiCM,CWakiyamaCHCetal:AdditiveCintraocularCpressure-loweringCe.ectCofCdorzolamide1%/timolol0.5%C.xedCcombinationConCprostaglandinCmono-therapyCinCpatientsCwithCnormalCtensionCglaucoma.CClinCOphthalmolC5:1515-1520,C201110)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤のC3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,C201411)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C201612)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C202013)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOculCPharmacolCTherC29:382-389,C201314)BogerWP:Shortterm.“escape”andClongterm“drift”.CtheCdissipationCe.ectsCofCtheCbetaCadrenergicCblockingCagents.SurvOphthalmolC28:235-240,C198315)GeddeCSJ,CVinodCK,CWrightCMMCetal:PrimaryCopen-angleglaucomapreferredpracticepattern.OphthalmologyC128:71-150,C202116)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎ほか:気管支喘息患者に及ぼすCb遮断点眼薬の影響CCarteololとCTimololとの比較.現代医療C16:1259-1264,C1984***

トラベクトーム術後におけるリパスジル点眼の 眼圧下降効果の検討

2021年8月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(8):968.971,2021cトラベクトーム術後におけるリパスジル点眼の眼圧下降効果の検討油井千旦齋藤雄太安田健作三浦瑛子油井一敬恩田秀寿昭和大学医学部眼科学講座CInvestigationofIntraocularPressure-LoweringE.ectsofRipasudilOphthalmicSolutionAfterTrabectomeChiakiYui,YutaSaito,KensakuYasuda,EikoMiura,KazuhiroYuiandHidetoshiOndaCDepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicineC目的:リパスジル点眼とトラベクトームは,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させるという点で作用機序が類似しており,トラベクトーム前後で,リパスジル点眼が眼圧下降に与える影響を検討した.対象および方法:対象は広義の原発開放隅角緑内障でリパスジル点眼を使用している患者のうち,2017年C7月.2018年C6月に昭和大学病院附属東病院で,トラベクトームを施行されたC13例C15眼.術前(手術前日の入院時),術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後に,リパスジル点眼直前の眼圧および点眼C2時間後の眼圧を測定し,眼圧下降効果を検討した.結果:15眼では術前,術後ともにリパスジル点眼前後での有意な眼圧下降は認めなかった.術前にリパスジル点眼前後で眼圧が下降したC10眼でも術後は有意な眼圧下降を認めなかった.結論:トラベクトーム手術で線維柱帯を切開したことにより,術後リパスジル点眼の効果が出にくくなった可能性が考えられる.CPurpose:RipasudilCophthalmicCsolutionCandCTrabectomeChaveCsimilarCmechanismsCofCactionCforCreducingCtheCresistanceoftrabecularmeshworktissuetoaqueoushumorout.ow.ThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.ectsCofCripasudilCophthalmicCsolutionCafterCTrabectome.CSubjectsandMethods:ThisCprospectiveCstudyCinvolvedC15CeyesCofC13CprimaryCopen-angleCglaucomaCpatientsCwhoCunderwentCripasudiladministrationafterTrabectomeatourinstitutionbetweenJuly2017andJune2018.Inall15eyes,IOPwasCevaluatedCpreCandC1-day,C1-week,C1-monthCpostCadministrationCofCripasudilCafterCTrabectome.CResults:Nosigni.cantdecreaseinIOPwasobservedbetweenpreandpostadministrationofripasudil,bothbeforeandafterTrabectome.In10eyesinwhichIOPreductionwasobservedpreandpostadministrationofripasudilbeforeTra-bectome,CnoCsigni.cantCdi.erenceCofCIOPCreductionCwasCobservedCafterCTrabectome.CConclusion:NoCsigni.cantCdi.erenceofIOPreductionwasobservedbetweenpreandpostadministrationofripasudilafterTrabectome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(8):968.971,C2021〕Keywords:開放隅角緑内障,落屑緑内障,リパスジル,トラベクトーム,眼圧.primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma,ripasudil,Trabectome,intraocularpressure.Cはじめに近年,わが国で開発されたCRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼)は,既存の緑内障点眼とは作用機序が異なり,眼内房水の主流出路における線維柱帯細胞の骨格と収縮性の変化1),線維柱帯間隙への作用2),細胞-細胞外マトリックス間関係の変化3),細胞外マトリックス産生抑制4)などの機序により,房水の流出抵抗を減少させ房水流出を促進すると考えられている5,6).一方,minimallyCinvasiveCglaucomasurgery(MIGS)の一つであるトラベクトームは線維柱帯の一部を切開してSchlemm管後壁と集合管を露出させることで,房水流出抵抗を減少させて眼圧を下降させる手術である7).リパスジル〔別刷請求先〕油井千旦:〒142-8555東京都品川区旗の台C1-5-8昭和大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiYui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-8555,JAPANC968(120)点眼とトラベクトームはともに線維柱帯の房水流出抵抗を減少させるという点で作用機序が類似している.リパスジル点眼は日本でC2014年に承認された新しい薬剤であり,流出路再建術後のリパスジル点眼の眼圧下降効果について検討された報告はまだ少ない.そこで,今回筆者らは,トラベクトーム前後で,リパスジル点眼が眼圧下降に与える影響および,リパスジル点眼で眼圧下降する患者にトラベクトームを施行し線維柱帯を切開しても,術後リパスジル点眼で眼圧が下降するのかを検討した.CI対象および方法対象は広義の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)でリパスジル点眼を使用している患者のうち,2017年C8月.2018年C6月に昭和大学病院附属東病院にてトラベクトームを施行した患者とした.選択基準は広義POAG患者のうち,緑内障点眼で十分な眼圧下降が得られない,眼圧がC15CmmHg以上,隅角検査で線維柱帯が同定できる,白内障手術以外の眼手術既往がないこと,同意取得時の年齢がC20歳以上であること,本研究への参加について本人から文書により同意が得られた患者とした.トラベクトームは耳側角膜を切開し隅角を確認後,トラベクトームのハンドピースを挿入し,鼻側の線維柱帯をC120°切開し,Schlemm管が開放できたことを逆流性出血で確認した.白内障同時手術の場合はトラベクトーム術後に切開創を拡大し白内障手術を施行した.術後点眼は抗菌薬点眼,ステロイド点眼,2%ピロカルピン点眼をC1カ月間継続した.手術前日は朝からリパスジル点眼を中止し,入院後にリパスジル点眼前後の眼圧を測定した.術後はリパスジル点眼を中止し,その他の緑内障点眼は,術後に十分な眼圧下降が得られない場合に必要に応じて再開した.表1リパスジル点眼前後の比較リパスジル点眼前リパスジル点眼後眼圧(mmHg)C眼圧(mmHg)Cp値n=15n=15術前C22.1±6.0C21.8±7.0Cp=0.82術1日後C21.5±9.8C20.2±6.8Cp=0.40術C1週間後C16.6±5.6C16.8±5.5Cp=0.69術C1カ月後C18.7±7.6C19.7±9.0Cp=0.08術前(手術前日の入院時),術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後にリパスジル点眼直前の眼圧(点眼前眼圧)および点眼C2時間後の眼圧(点眼後眼圧)を測定した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用いた.緑内障薬剤スコアは単剤点眼C1点,配合剤点眼C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点とした.結果は平均C±標準偏差で示し,眼圧値は対応のあるCt検定,緑内障薬剤スコアはCMann-WhitneyのCU検定を用いて統計解析を行い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は,昭和大学倫理委員会の承認を得ている.CII結果対象症例はC13例C15眼で,年齢はC67.1C±13.4歳.病型はPOAGがC7眼,落屑緑内障がC8眼で,術前点眼スコアはC5.1C±1.2であった.リパスジル点眼前後(点眼前後)の比較を表1に示す.術前と術C1日後では点眼前後で眼圧は下降したが有意な下降は認めなかった.また,術C1週間後と術C1カ月後では点眼前後で眼圧は下降しなかった.術前の点眼前眼圧と術後の点眼前眼圧の比較(トラベクトーム効果)を表2に示す.術C1週間後で有意に眼圧が下降した.対象C15眼のうち,術前にリパスジル点眼で眼圧が2CmmHg以上下降したC10眼を下降群,眼圧がC2CmmHg以上下降しなかったC5眼を非下降群とした.下降群,非下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果をそれぞれ表3,4に示す.下降群では術前の点眼前後で有意な眼圧下降を認めたが,術後は有意な眼圧下降を認めなかった.非下降群では術前と同様,術後C1カ月後までのどの時点においてもリパスジル点眼による有意な眼圧下降は認めなかった.トラベクトーム効果では下降群では術C1週間後で有意な眼圧下降を認めた.非下降群では術後に有意な眼圧下降は認めなか表2手術前後の点眼前眼圧の比較(トラベクトーム効果)眼圧(mmHg)Cn=15p値術前C22.1±6.0術1日後C21.5±9.8Cp=0.8術C1週間後C16.6±5.6p<C0.05術C1カ月後C18.7±7.6Cp=0.1C表3下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果点眼前眼圧(mmHg)点眼後眼圧(mmHg)手術前後の点眼前Cn=10Cn=10点眼前後の比較眼圧の比較手術前日C25.0±3.8C22.3±4.0p<C0.05術1日後C22.8±8.8C22.2±6.4Cp=0.73Cp=0.37術C1週間後C19.0±5.0C18.8±4.6Cp=0.76p<C0.05術C1カ月後C20.7±7.3C21.8±8.8Cp=0.16Cp=0.01表4非下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果点眼前眼圧(mmHg)点眼後眼圧(mmHg)手術前後の点眼前Cn=5n=5点眼前後の比較眼圧の比較手術前日C16.5±5.7C21.0±11.6Cp=0.17術1日後C18.9±12.3C16.3±6.6Cp=0.43Cp=0.71術C1週間後C11.9±3.7C13.0±5.6Cp=0.40Cp=0.20術C1カ月後C14.8±7.3C15.6±8.9Cp=0.37Cp=0.66Cった.1カ月後の緑内障薬剤スコアはC3.1C±1.1(p<0.05)で,トラベクトーム前後で有意に減少した.CIII考按本研究ではトラベクトーム前後で,リパスジル点眼による眼圧下降にどのような影響があるかを検討した.リパスジル点眼の眼圧下降効果のピークは点眼後C2時間との報告8)があるため,本研究でも点眼C2時間後に点眼後眼圧を測定した.リパスジル点眼前後の眼圧を検討すると,15眼の平均では術前の点眼前後で有意差を認めなかった.15眼のなかにはリパスジル点眼に反応しにくい対象患者も含まれていたと考えられ,下降群と非下降群に分けて検討を行った.リパスジル点眼単剤での眼圧下降幅はC2.7.4.0mmHg9),3.5CmmHg10),ピーク時C6.4.7.3CmmHg8)とさまざまな報告があり,下降群では術前の点眼前後で,平均してC2.6CmmHgの眼圧下降を認めたが,術後は有意な眼圧下降を認めなかった.トラベクトーム手術で線維柱帯を切開したことにより,術後リパスジル点眼の効果が出にくくなった可能性が考えられる.しかし,今回は術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後の眼圧測定時のみリパスジル点眼を行ったため,術後継続的に,またさらに長い期間リパスジル点眼を使用すれば手術で切除していない範囲の線維柱帯細胞や細胞外マトリックスへより作用し,眼圧下降した可能性が考えられる.また,術後点眼として使用していたピロカルピンはリパスジル点眼と拮抗して眼圧下降効果を減弱させると報告11)があり,今回の研究においてもピロカルピンとの併用で眼圧下降が得られなかった可能性もあると推察される.トラベクトーム手術と同様に線維柱帯を切開する緑内障手術に眼外からのアプローチによるトラベクロトミーがあるが,術前のリパスジル点眼での眼圧下降効果と手術成功率を調べた研究では,リパスジル点眼の有効群と非有効群で有意差はなかったとの報告12)がある.本研究では眼圧下降群で術C1週間後にトラベクトーム手術による有意な眼圧下降を認めたが,術前のリパスジル点眼による眼圧下降とトラベクトーム手術による眼圧下降に必ずしも一貫性はなく,術前のリパスジル点眼の点眼効果で,トラベクトームの手術効果を予測することは困難であった.今後は症例数を増やし,観察期間を延長して,トラベクトーム手術の生存率や術後もリパスジル点眼を継続した場合の眼圧下降効果,ピロカルピン中止後のリパスジル点眼の眼圧下降効果の検討が必要だと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:E.ectsCofCRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)RaoPV,DengPF,KumarJetal:Modulationofaqueoushumorout.owfacilitybytheRhokinase-speci.cinhibitorY-27632.CInvestOphthalmolVisSciC42:1029-1037,C20013)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632,CinducesCalterationsCinCadhesion,CcontractionCandCmotilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20064)FujimotoCT,CInoueCT,CKamedaCTCetal:InvolvementCofCRhoA/Rho-associatedkinasesignaltransductionpathwayindexamethasone-inducedalterationsinaqueousout.ow.InvestOphthalmolVisSciC53:7097-7108,C20125)InoeuT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20136)IsobeCT,CMizunoCK,CKanekoCYCetal:E.ectsCofCK-115,CaCRho-kinaseinhibitor,onaqueoushumordynamicsinrab-bits.CurrEyeResC39:813-822,C20147)MincklerD,MosaedS,DustinLetal:Tabectome(Trab-eculectomy-internalapproach):additionalexperienceandextendedfollow-up.TransAmOphthalmolSocC106:149-159,C20088)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:Intra-ocularCpressure-loweringCe.ectsCofCaCRhoCkinaseCinhibitor,Cripa-sudil(K-115)C,over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmolC93:e254-e260,C20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsCofCaCselectiveCRhoCkinaseCinhibitor,CK-115.CJAMACOphthalmolC131:1288-1295,C201310)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:PhaseC2Cran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,k-115,inprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAmJOphthalmolC156:731-736,C201311)Yamagishi-KimuraCR,CHonjoCM,CKomizoCTCetal:Interac-tionCbetweenCpilocarpineCandCripasudilConCintraocularCpressure,CpupilCdiameter,CandCtheCaqueous-out.owCpath-way.InvestOphthalmolVisSciC59:1844-1854,C201812)GodaCE,CHirookaCK,CMoriCKCetal:IntraocularCpressure-loweringe.ectsofRipasudil:apotentialoutcomemarkerforTrabeculotomy.BMCOphthalmolC19:243,C2019***

カフークデュアルブレードを用いた線維柱帯切開術後に視神経 乳頭陥凹縮小を認めた成人の開放隅角緑内障の1 症例

2021年6月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(6):714.718,2021cカフークデュアルブレードを用いた線維柱帯切開術後に視神経乳頭陥凹縮小を認めた成人の開放隅角緑内障の1症例岩下昇平中島圭一井上俊洋熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座CReversalofOpticDiscCuppinginaCaseofAdult-OnsetOpenAngleGlaucomaafterAbInternoTrabeculotomybyKahookDualBladeCShoheiIwashita,Kei-IchiNakashimaandToshihiroInoueCDepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversityC目的:カフークデュアルブレード(KDB)を用いた線維柱帯切開術後に視神経の陥凹乳頭径比(C/D比)が縮小した開放隅角緑内障(OAG)の若年成人症例を経験したので報告する.症例:20歳,女性.霧視にて前医受診し右眼緑内障を指摘された.眼圧下降点眼開始も高眼圧が続き,初診C45日後に当院を紹介受診しCOAGと診断された.右眼眼圧C30.40CmmHg台で推移し,初診C61日後にCKDBを用いた線維柱帯切開術を施行した.術前眼圧はC46CmmHgだったが,術翌日よりC19.25CmmHgと下降した.術後C5日でCC/D比の縮小を認めたが,乳頭周囲視神経線維層(cpRNFL)厚は菲薄化した.術後C335日の視野検査では鼻側階段状の視野障害が出現した.考按:OAGの若年成人症例にCKDBを用いた線維柱帯切開術を施行し,眼圧下降だけでなく視神経乳頭形態にも影響を与えた.しかし,cpRNFL厚は菲薄化し,視野障害も悪化した.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCadult-onsetCopenangleCglaucoma(OAG)inCwhichCtheCcup-to-discratio(C/Dratio)reducedaftertrabeculotomybyKahookDualBlade(KDB).Case:A20-year-oldfemaledevelopedOAGinherCrightCeye.CAtC61-daysCpostCpresentation,Cintraocularpressure(IOP)inCthatCeyeCremainedCbetweenC30CandC40CmmHgCunderCmedication,CsoCabCinternoCtrabeculotomyCbyCKDBCwasCperformed.CTheCpreoperativeCIOPCwasC45CmmHg,CyetCitCdecreasedCtoCbetweenC19CandC25CmmHgCpostCsurgery.CAlthoughCtheCC/DCratioCwasCreducedCatC5-daysCpostoperative,CtheCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer(cpRNFL)thicknessCwasCdecreased.CAtC335-daysCpostoperative,CtheCvisualC.eldCwasCfoundCtoCbeCaccompaniedCwithCaCperipheralCnasalCstep.CConclusions:AbinternoCtrabeculotomybyKDBreducedIOPinayoungadultcaseofOAG,yetalsochangedthemorphologyoftheopticnervecupping.However,thecpRNFLthicknessdecreasedandthevisual.elddefectprogressed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(6):714.718,C2021〕CKeywords:線維柱帯切開術,視神経乳頭陥凹,開放隅角緑内障,カフークデュアルブレード,乳頭周囲網膜神経線維層.trabeculotomy,opticnervecupping,openangleglaucoma,Kahookdualblade,circumpapillaryretinalnerve.berlayer(cpRNFL).Cはじめに緑内障は進行性の神経疾患であり,主要な失明原因としてわが国のみならず世界的に克服すべき課題となっている1,2).緑内障に対する治療として唯一エビデンスに基づいた治療法は眼圧下降治療である3).近年,より低侵襲な緑内障手術としてCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery(MIGS)が登場している.MIGSにおけるCSchlemm管からの房水流出を促進させるタイプにカフークデュアルブレード(KahookCdualblade:KDB)を用いた線維柱帯切開術がC2016年よりわが国で認可され,広く普及している.KDBはC2枚刃となっており,線維柱帯を帯状に切開除去できる点が特徴である4).緑内障では,特徴的な視神経所見と視野障害を認め,視神〔別刷請求先〕岩下昇平:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座Reprintrequests:ShoheiIwashita,DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,1-1-1Honjo,Chuo-ku,Kumamoto860-8556,JAPANC714(110)経所見の一つとして陥凹乳頭径比(cup-to-discratio:C/Dratio)の拡大があるが,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopenangleCglaucoma:POAG)では眼圧上昇のために視神経乳頭の結合組織が圧縮,伸展,再配置し,篩状板の層板が潰れて癒合して後方移動した結果として視神経乳頭に特徴的な形態変化を起こすとされている3).小児緑内障では眼圧下降とともにCC/D比が縮小した症例が多数報告されている6).成人緑内障症例においても,眼圧下降とともにCC/D比の縮小を認めた症例は報告されているが7.9),MIGS施行後のCC/D比の縮小は,筆者らが知る限り報告されていない.今回,筆者らはCKDBを用いた線維柱帯切開術後にCC/D比の縮小を認めた成人症例を経験したので報告する.CI症例患者:20歳,女性.主訴:霧視.既往歴:アトピー性皮膚炎,喘息,花粉症.アトピー,喘息に対してステロイド使用歴があるが詳細は不明.現病歴:右眼の霧視を自覚し,前医を受診した.右眼C33mmHg,左眼C22CmmHgと高眼圧であり,眼底検査では右眼C/D比の拡大を指摘された.右眼開放隅角緑内障(openCangleglaucoma:OAG)の診断でプロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬,Rhoキナーゼ阻害薬点眼を開始された.初診時よりC29日目の再診時の眼圧は右眼C33CmmHg,左眼C16CmmHgと改善を認めず,初診からC45日目に当院を紹介受診された.当院初診時所見:視力は右眼C0.04(1.2C×sph.7.00D(cylC.1.25DCAx100°),左眼0.07(1.2C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx80°).眼圧は右眼C36mmHg,左眼C21mmHg.両眼ともに角膜,前房は清明,中心および周辺前房深度は深かった.隅角は全周開放されており(両眼ともにCScheie分類にてCGradeI,Sha.er分類にてCGrade3),虹彩癒着,結節,虹彩高位付着などの特記的所見を認めなかった.眼底検査では右眼CC/D比の拡大(図1a)を認めるのみであり,その他の特記的所見を認めなかった.光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)により計測された乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRN-FL)厚は正常範囲内だった(図2a).Humphrey視野検査では,右眼に緑内障性変化はなく,左眼はCmeanCdeviation(MD)値C.5.72CdB(p<1%),patternCstandardCdeviation(PSD)値C3.30CdB(p<1%),緑内障半視野テストは正常範囲外であった(図3a).経過:経過および所見より,右眼COAG,左眼高眼圧症と診断した.降圧点眼治療にもかかわらず眼圧コントロール不良であり,KDBを用いた線維柱帯切開術の目的にて当院入院となった.術前日の眼圧は右眼C46CmmHg,左眼C22CmmHgであった.局所麻酔下で,KDBを用いて鼻側線維柱帯を約120°切開除去し,術翌日から右眼圧はC20mmHgと下降を認めた.その後,外来経過中は眼圧下降点眼薬を使用せずに右眼眼圧C19.25CmmHgで推移しており,術後C5日目の眼底検査にてCC/D比の縮小(図1b)を認めた.OCTの比較では平均CC/D比にて術前C0.65から術後C36日目にはC0.48へ減少し,視神経乳頭陥凹の体積はC0.348CmmC3からC0.095CmmC3まで減少した(図4b).しかし,cpRNFL厚の菲薄化が出現し(図2b),眼底写真では視神経乳頭陥凹は術前より小さいものの,術後C5日目と比較すると拡大していた(図1c).術後C335日目の検査ではOCTにて平均CC/D比がC0.62まで再拡大し,視神経乳頭陥凹の体積もC0.227CmmC3まで拡大した(図4c).また,視野検査では鼻側階段状の視野障害が出現した(図3b).MD値は図1右眼視神経乳頭所見a:初診時.C/D比の拡大を認めた.Cb:術後C5日目.初診時と比較してCC/D比の縮小を認めた.Cc:術後C36日目.初診時より小さいが,術後C5日目と比較して,C/D比の再度拡大を認めた.aOD図2OCTmapでの比較a:初診時.cpRNFL厚は正常範囲内であった.Cb:術後C36日目.C/D比は初診時と比較して縮小しているが,cpRNFL厚の菲薄化を認めた.Cab図3Humphrey視野検査の結果a:初診時.MD値C.5.72CdB(p<1%),PSD値C3.30CdB(p<1%),緑内障半視野テストは正常範囲外であった.b:術後C335日目.鼻側階段状の視野障害を認めた.MD値はC.3.52CdB(p<1%),PSD値はC3.81CdB(p<1%)であった.図4OCTで比較した乳頭断面の所見a:術前.平均CC/D比C0.65,視神経乳頭陥凹の体積C0.348CmmC3.b:術後C36日目.平均CC/D比C0.68,視神経乳頭陥凹の体積C0.095CmmC3.Cc:術後C335日目.平均CC/D比C0.62,視神経乳頭陥凹の体積C0.227CmmC3..3.52CdB(p<1%),PSD値はC3.81CdB(p<1%)であった.CII考按緑内障眼では高眼圧に視神経乳頭部がさらされることにより,視神経乳頭の結合組織が圧縮,伸展し篩状板の後方移動が起こり,C/D比の拡大が起こるとされている5).また,篩状板部における後方移動,再構築に伴い,篩状板孔が屈曲するため神経線維における軸索輸送が障害され神経線維のアポトーシスが起き,神経線維の脱落が生じるために不可逆的な変化が生じると考えられる10.12).小児緑内障眼では篩状板部におけるコラーゲン線維が未発達であることにより,C/D比の変化が起きやすいとされている13).また,小児緑内障においても初期段階なら眼圧下降に伴い視神経乳頭陥凹の正常化が期待できるが,慢性的な高眼圧により視神経線維が脱落した症例では期待できないとされている14).成人ではコラーゲン線維が発達しており,強膜の伸展性も低いため,C/D比が眼圧下降とともに縮小することはまれといわれているが13),成人例でもCOCT所見では眼圧下降に伴い,C/D比の改善が若干起こっているとの報告がある15).本症例ではステロイド使用歴の詳細がわからなかったため,POAGとステロイド緑内障の鑑別がつかずにCOAGと診断した.発症年齢がC20歳と比較的若年であったことに加え,強度近視眼であることに伴い強膜の伸展性があったために,高眼圧によりC/D比の拡大が急激に起こった可能性がある.さらに,KDBを用いた線維柱帯切開術による眼圧下降幅が大きかったこと,発症早期のため神経線維の脱落が軽度であったこと,前述した組織脆弱性などがCC/D比の大幅な縮小(図1)に関与したと考えられる.また,C/D比の改善をいったん認めたにもかかわらず,C/D比の部分的な再拡大とCcpRNFLの減少が出現し(図2),視野欠損が出現したのは(図3),神経細胞のアポトーシスと神経線維の脱落が高眼圧による視神経乳頭の構造変化から一定期間経過してから生じるためと推測される10,11).KDBを用いた線維柱帯切開術は眼圧下降とともに視神経乳頭形態を改善しうるが,注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)QuigleyCHA,CBromanAT:TheCnumberCofCpeopleCwithCglaucomaCworldwideCinC2010CandC2020.CBrCJCOphthalmolC90:262-267,C20062)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisu-allyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20193)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20184)SeiboldLK,SooHooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinves-tigationCofCabCinternoCtrabeculectomyCusingCaCnovelCdual-bladedevice.AmJOphthalmolC155:524-529,C20135)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morpholog-icCchangesCinCtheClaminaCcribrosaCcorrelatedCwithCneuralClossinopen-angleglaucoma.AmJOphthalomolC95:673-691,C19836)MochizukiCH,CLesleyCAG,CBrandtJD:ShrinkageCofCtheCscleralcanalduringcuppingreversalinchildren.Ophthal-mologyC118:2008-2013,C20117)石崎典彦,大須賀翔,大野淳子ほか:治療中に視神経乳頭陥凹・網膜視神経層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障のC1例.あたらしい眼科33:597-600,C20168)KakutaniCY,CNakamuraCM,CNagai-KusuharaCACetal:CMarkedCcupCreversalCpresumablyCassociatedCwithCscleralCbiomechanicsCinCaCcaseCofCadultCglaucoma.CArchCOphthal-molC128:139-141,C20109)LeskMR,SpaethGL,Azuara-BlancoAetal:ReversalofopticCdiscCcuppingCafterCglaucomaCsurgeryCanalyzedCwithCaCscanningClaserCtomograph.COphthalmologyC106:1013-1018,C199910)QuigleyHA,NickellsRW,KerriganLAetal:Retinalgan-glionCcelldeathinexperimentalglaucomaandafteraxoto-myCoccursCbyCapoptosis.CInvestCOphthalmolCVisCSciC36:C774-786,C199511)QuigleyCHA,CMcKinnonCSJ,CZackCDJCetal:RetrogradeCaxonaltransportofBDNFinretinalganglioncellsisblockedbyacuteIOPelevationinrats.InvestOphthalmolVisSciC41:3460-3466,C200012)TakiharaCY,CInataniCM,CEtoCKCetal:InCvivoCimagingCofCaxonaltransportofmitochondriainthediseasedandagedmammalianCCNS.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC112:10515-10520,C201513)QuigleyHA:TheCpathogenesisCofCreversibleCcuppingCinCcongenitalglaucoma.AmJOphthalmolC84:358-370,C197714)MeirellesCSH,CMathiasCCR,CBloiseCRRCetal:EvaluationCofCtheCfactorsCassociatedCwithCtheCreversalCofCtheCdiscCcup-pingCafterCsurgicalCtreatmentCofCchildhoodCglaucoma.CJGlaucomaC17:470-473,C200815)WaisbourdM,AhmedOM,MolineauxJetal:ReversiblestructuralCandCfunctionalCchangesCafterCintraocularCpres-sureCreductionCinCpatientsCwithCglaucoma.CGraefesCArchCClinExpOphthalomolC254:1159-1166,C2016***

開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1037〜1043,2016©開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績佐藤智樹*1平田憲*2川路隆博*1溝口尚則*3*1佐藤眼科・内科*2林眼科病院*3溝口眼科SurgicalOutcomesof360°SutureTrabeculotomyAbInternoforOpen-angleGlaucomawithOne-yearFollow-upTomokiSato1),AkiraHirata2),TakahiroKawaji1)andTakanoriMizoguchi3)1)SatoEye&InternalMedicineClinic,2)HayashiEyeHospital,3)MizoguchiEyeClinic360°スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,360°LOTabinterno)の術後1年成績について検討した.対象は,2014年2〜8月に開放隅角緑内障に対し,佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した13例13眼で,術後12カ月の眼圧経過,緑内障点眼数,合併症を前向きに検討した.術前の平均眼圧は19.2±2.0mmHgで術12カ月後は13.5±2.4mmHgへ有意に下降した(pairedt検定にてp<0.0001).術前の緑内障点眼数は3.1±0.9で,術12カ月後は1.2±1.2へ減少した.(Wilcoxon符号順位検定にてp=0.0002).術後合併症は,一過性高眼圧が5眼,前房出血が7眼にみられたものの自然軽快し,2例は白内障の進行により白内障手術を施行した.360°LOTabinternoは開放隅角緑内障に対して,結膜と強膜を温存でき,短期的には有効と考えられる.Toinvestigatethesurgicalresultsof360°suturetrabeculotomyabinterno(360°LOTabinterno)withoneyearfollow-up.360°LOTabinternowasperformedon13eyesof13patientswithopen-angleglaucomaatSatoEyeandInternalMedicineClinicbetweenFebruaryandAugust2014.Time-courseofintraocularpressure(IOP),changesinnumberofanti-glaucomamedicationsandfrequencyofcomplicationswereprospectivelyevaluated.PreoperativeIOPdecreasedsignificantlyfrom19.2±2.0mmHgto13.5±2.4mmHgat12monthspostoperatively(p<0.0001,pairedt-test).Thenumberofanti-glaucomamedicationsreducedsignificantlyfrom3.1±0.9atbaselineto1.2±1.2at12monthspostoperatively(p=0.0002,Wilcoxonsigned-ranktest).PostoperativecomplicationsincludedtransientelevationofIOPtoabove30mmHgin5eyesandspontaneouslyresolvedhyphemain7eyes.Twoeyesshowedcataractprogressionrequiringcataractsurgery.360°LOTabinternoappearstobeavaluableoptionforthesurgicaltreatmentofopen-angleglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1037〜1043,2016〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,開放隅角緑内障,白内障手術.360°suturetrabeculotomy,abinterno,openangle-glaucoma,cataractsurgery.はじめにトラベクロトミーは,Schlemm管内壁の眼外への房水流出抵抗を減らすことで,眼圧を下降させる手術であり,成人の開放隅角緑内障に対してその有効性が報告されている1,2).トラベクロトミー術後の眼圧は10台後半であり,トラベクレクトミーに比べ眼圧下降効果では劣るものの,トラベクレクトミーにみられる濾過胞からの漏れや感染,浅前房,低眼圧に伴う脈絡膜剝離や黄斑症などの重篤な合併症は認めない.Chinらは,1995年にBeckら3)が先天緑内障に対して報告した360°スーチャートラベクロトミーを改良し,360°スーチャートラベクロトミー変法を考案した4).成人の開放隅角緑内障に対して施行,術後12カ月の眼圧は13.1mmHgであり,従来の金属トラベクロトームを用いた120°トラベクロトミーより良好な成績を示したが,予定どおりに360°のSchlemm管を切開できた完遂率は75%であったと報告している4).筆者らも,強膜深層弁切除術を併用した360°スーチャートラベクロトミー変法を開放隅角緑内障に対して施行したが,Chinら4)の報告と同等の眼圧下降効果と完遂率であった5,6).360°スーチャートラベクロトミー変法は,濾過胞を作製することなく13〜14mmHgの眼圧が得られるが,問題点として,手技的な困難さから完遂率がやや制限される点,眼外からアプローチしてSchlemm管を露出させるために結膜および強膜切開が必要であり,そのため将来の濾過手術に不利な影響を及ぼす可能性がある点などがある7).筆者らは,結膜と強膜を温存したうえで,より簡便で確実な手術を施行するため,角膜切開にて前房側より手術を行う360°スーチャートラベクロトミー眼内法(360°suturetrabecultotomyabinterno,以下360°LOTabinterno)を考案した8).開放隅角緑内障に対する術後6カ月の眼圧は13.8mmHg,完遂率は92%であり,360°スーチャートラベクロトミー変法の完遂率75%前後4,5)より高く,短期においては開放隅角緑内障に対して有効と思われた.今回は,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後1年の眼圧経過,投薬数の変化,術後合併症,完遂率について前向きに検討したので報告する.I対象および方法1.対象佐藤眼科・内科内に設置された倫理委員会の承認を得,ヘルシンキ宣言に基づき,前向き,無比較,非無作為試験を行った.対象は,2014年2〜8月に佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した開放隅角緑内障13例13眼である.病型は,原発開放隅角緑内障または落屑緑内障で,緑内障点眼薬にて加療するも視野狭窄の進行がみられた症例に手術を施行した.すべての手術は当施設で同一術者が施行した.手術に際し,すべての患者本人と家族にて効果と危険性,この研究の目的を説明し,文書にて同意を得た.本研究の対象は1例1眼とし,両眼施行した場合は,先行眼を用いた.また,眼圧測定の支障となる前眼部病変眼,ぶどう膜炎,強膜炎,外傷や緑内障手術既往眼は除外した.すべての患者に,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査,角膜内皮密度検査(SP-3000P,トプコン社),Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,Humphrey視野検査(HFAII740i,カールツァイス社),眼底検査,病歴聴取を行った.2.術式手術の1時間前から,2%ピロカルピン,4%リドカイン,モキシフロキサシンを5分ごとに点眼した.下鼻側に2%リドカイン2mlにてTenon囊下注射を行い,1.7mmの耳側角膜切開を行った(図1a).1%リドカインにて前房麻酔を行い,患者の頭を切開部の対側に傾け,Swan-Jacob隅角鏡をSchlemm管が見えるように設置し,前房内を粘弾性物質(ディスコビスク®,日本アルコン)で満たした.隅角鏡で観察しながらトラベクトームにて鼻側Schlemm管を15°ほど切開し(図1b),熱加工して先端を丸くした5-0ナイロン糸を23G鉗子(DSPforceps®,日本アルコン)を用いて耳側角膜創から前房内へ挿入し,内腔が露出されたSchlemm管内に糸の先端を挿入した(図1c,2a).Schlemm管に挿入した糸は,全周通糸できた場合は,糸の先端がSchlemm管切開部から出てくるので(図1d),その糸の先端を把持し(図1e,f),そのまま耳側角膜創から引き抜くことで(図1g,h),全周のSchlemm管を切開した.Schlemm管に挿入した糸は,糸の先端が半周以上挿入したところで動かなくなる場合がある.糸の先行部はその膨大部のため容易に逆行せずその場所で固定されているため,まずSchlemm管挿入部位(23ゲージ鉗子の把持部位)の糸を耳側角膜創から引き抜くことで,通糸できた半周のSchlemm管を切開した(図2b,c).続いて,Schlemm管切開部から最初と反対方向に糸を挿入し(図2d),同様の操作を行い,半周のSchlemm管を切開した(図2e,f).2例2眼において白内障手術も希望されたため同時手術を行った.上方に2.4mm角膜切開を作製し,超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)を施行した.最後に前房洗浄し,0.4%ベタメタゾンを結膜下に注射して手術を終了した.3.術後治療と観察期間術後2週間はモキシフロキサシン,0.1%ベタメタゾンと2%ピロカルピンを点眼し,PEA+IOLを併用施行した眼はブロムフェナクを術後3カ月間点眼した.術後の診察は,術1,2,3日後,術後1カ月以内は1週間ごと,術6カ月までは1カ月ごと,それ以降は1.5カ月ごとに行った.術後2週間までは,30mmHg以上の眼圧上昇時には炭酸脱水酵素阻害薬内服を適宜使用し,術2週間以降1カ月までは20mmHgを超えた場合,術1カ月以降は15mmHgを超えた場合に緑内障点眼を1剤ずつ追加した.前眼部検査,眼圧測定は毎回行い,視力検査,隅角検査,角膜内皮密度検査,Humphrey視野検査は適宜行った.4.検討項目,統計学的評価眼圧,ベースラインからの眼圧下降率,緑内障点眼数の経時変化,術中および術後合併症の種類と頻度,手術の完遂率について検討した.眼圧のベースラインは術前1カ月以内に日時を変えて3回測定した.術後眼圧は術後1日,1週間,2週間,1,3,6,9,12カ月の眼圧を用いた.緑内障点眼数は,通常の点眼は1,合剤は2,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2とした.術後2週間使用した2%ピロカルピンは術後虹彩前癒着防止のために使用したもので,緑内障点眼数としては含めなかった.合併症は,術1カ月以内に30mmHg以上になった場合を一過性高眼圧とし,隅角鏡にて線維柱帯に及ぶ虹彩の癒着を虹彩前癒着とした.視力は少数視力をlogMAR(logarithmoftheminimumangleofresolution)視力に変換した値を用い,視力低下は0.2logMAR以上悪化した場合とした.手術の完遂率は,予定どおりに360°Schlemm管を切開することができた場合とした.統計学的評価は,Graph-PadPrism6.01(エムデーエフ)を用いて,連続するデータは平均値±標準偏差で表し,術前後の眼圧比較にはpairedt検定を,緑内障点眼数の比較にはWilcoxon符号順位検定を用いた.p<0.05を有意とした.II結果術前の患者背景を表1に示す.1.眼圧経過術後眼圧の経時変化を図3に示す.術前眼圧は19.2±2.0mmHg,術後12カ月の平均眼圧は13.5±2.4mmHgで29.7%の眼圧下降率であった.術1,3,6,9,12カ月の眼圧は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれpairedt検定にてp=0.0002,0.0010,<0.0001,0.0002,<0.0001).2.緑内障点眼数緑内障点眼数を図4に示す.術前の緑内障点眼数は3.1±0.9,術12カ月後は1.2±1.2で,術1,3,6,9,12カ月の緑内障点眼数は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれWilcoxon符号順位検定にてp=0.0005,0.0002,0.0002,0.0002,0.0002).3.術中および術後合併症と完遂率術中および術後合併症を表2に示す.術後7眼(54%)に前房出血を認めたが,前房洗浄を要したものはなく,術後平均4.3日で吸収された.5眼(38%)に30mmHg以上の一過性高眼圧を認め,炭酸脱水酵素阻害薬内服にて平均3.8日で30mmHg以下に下降した.術後2カ月時の隅角検査にて4眼(31%)に虹彩前癒着を認め,その範囲は平均21.3%であった.有水晶体眼10眼のうち2眼(20%)に白内障進行を認め,1眼は術2カ月後に,もう1眼は術10カ月後に白内障手術を追加した.術12カ月後の平均視力は0.09±0.10logMARで,術前に比べ0.2logMAR以上視力低下したものはなかった.角膜内皮細胞密度は2,479.3±248.0/mm2で,術前に比べて0.8%の減少率であった.Schlemm管切開は,3眼では単回の全周通糸による切開が可能であった.9眼では上下半周ずつの通糸により全周切開を完成させた.1眼は上方90°のSchlemm管に通糸できずに切開範囲が270°にとどまった.完遂率は92.3%であった.III考按筆者らは以前に開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後6カ月の成績を報告したが8),今回の調査で,術後1年時点においても引き続き有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認めた.原発開放隅角緑内障における房水流出抵抗は,集合管よりもSchlemm管内壁におもに存在するといわれており9〜11),落屑緑内障では,落屑物質や色素細胞がSchlemm管や細胞外マトリックスに蓄積していくことで房水流出抵抗が増すといわれている12,13).したがって,360°スーチャートラベクロトミー変法や360°LOTabinternoはこれらの病型に対して理にかなった手術と思われる.Chinらや筆者らが報告しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は開放隅角緑内障において,通常の金属トラベクロトームを使用する120°トラベクロトミーよりも低い術後眼圧を得ているが4〜6),その理由として,集合管は不規則に分布し,その多くは金属トラベクロトームでは切開しづらい鼻側や下方に多く存在している14,15)こと,全周のSchlemm管を切開することで直接全周の集合管に房水が最短で流れる16)ことが考えられる.しかしながら,Hepsenら17)が指摘しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は結膜および強膜切開が必要であるため,その瘢痕化が将来の濾過手術に悪影響を及ぼす可能性があり7),また,手技がやや煩雑なため完遂率が75%前後に制限されるという欠点がある4,5).筆者らが報告した360°LOTabinternoは,結膜および強膜を切開しないため将来の濾過手術への影響が少なく,さらに手技の簡略化や改良によって,より高い完遂率で360°Schlemm管を切開できた8).完遂率が高かった理由としては,1)トラベクトームを用いて鼻側のSchlemm管を切開することで,Schlemm管外壁を損傷させずにSchlemm管内腔を大きく開放でき18),糸の挿入が容易であったこと,2)隅角鏡下でSchlemm管への糸の挿入の様子が直接確認できるため,360°スーチャートラベクロトミー変法でときに起こりうる前房内や脈絡膜下腔への糸の迷入がなく,正確にSchlemm管内に糸を挿入することができたこと,3)Schlemm管の太さは不均一である19)ため,今回の症例でも単回での全周通糸が困難な眼が多かったが,上下方向それぞれに切開し全周切開を完成させることにより,通糸率が向上したこと,などが考えられる.筆者らの報告した術式は,鼻側のSchlemm管切開にトラベクトームを使用するため,Groverらが報告した,針を用いたSchlemm管切開20)に比してコスト面で劣る.しかし,筆者らの経験では,トラベクトームによるSchlemm管の切開幅は針によるそれと比べ広いため,糸を挿入するうえではより簡便に遂行できる点では大いに有用であると考えた.また,本研究と同様の20mmHg前後の術前眼圧に対するトラベクトーム手術の過去の報告21)をみると,術後眼圧が12mmHgと低い報告もあるが22),15〜17mmHgの報告が多い23〜25).本研究と直接比較することはできないものの,術12カ月後の眼圧が13.5mmHgという結果からは,より有効な眼圧下降効果が期待できそうである.術後合併症は,前房出血が7眼(54%),30mmHg以上の一過性高眼圧が5眼(38%)にみられたが,ともに保存的加療により眼圧は下降した.虹彩前癒着は4眼(31%)に認めたが,その範囲は平均21%で後眼圧経過も良好であったため,眼圧への影響はないと考えられた.これらの合併症の頻度は,360°スーチャートラベクロトミー変法の報告と同等であったが4〜6,17),それらの報告では認められなかった術後白内障を2眼に認めた.術中の鉗子や糸の水晶体への接触による可能性もあるが,術中所見として,接触とは関係なく前囊下に軽度の水滴状の混濁を認める症例があり,今後も注意して観察を続けていく予定である.また,本研究では,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した眼が2眼含まれている.白内障手術自体に眼圧下降効果があることは知られているが26),今回は症例も少ないため眼圧下降効果の相互作用の有無に関しては不明であり,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した際の眼圧下降効果や合併症に関しては現在検討中である.今回の検討にて,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoは,術後12カ月においても眼圧下降作用が維持されていることが確認され,結膜と強膜を温存できる有効な術式になる可能性がある.しかしながら,重篤ではないものの合併症の問題も残されており,今後もより多くの症例で長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735-739,19932)WadaY,NakatsuA,KondoT:Long-termresultsoftrabeculotomyabexterno.OphthalmicSurg25:317-320,19943)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:1200-1202,19954)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)佐藤智樹,平田憲:原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績.あたらしい眼科31:271-276,20146)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Outcomesof360degreessuturetrabeculotomywithdeepsclerectomycombinedwithcataractsurgeryforprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcataract.ClinOphthalmol8:1301-1310,20147)BroadwayDC,GriersonI,HitchingsRA:Localeffectsofpreviousconjunctivalincisionalsurgeryandthesubsequentoutcomeoffiltrationsurgery.AmJOphthalmol125:805-818,19988)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncomparative,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360degreessuturetrabeculotomyabinternoinpatientswithopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol9:63-68,20159)EthierCR,KammRD,PalaszewskiBAetal:Calculationsofflowresistanceinthejuxtacanalicularmeshwork.InvestOphthalmolVisSci27:1741-1750,198610)TammER:Functionalmorphologyoftheoutflowpathwaysofaqueoushumorandtheirchangesinopenangleglaucoma.Ophthalmologe110:1026-1035,201311)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Outflowresistanceofenucleatedhumaneyesattwodifferentperfusionpressuresanddifferentextentsoftrabeculotomy.CurrEyeRes8:1233-1240,198912)KonstasAG,JayJL,MarshallGEetal:Prevalence,diagnosticfeatures,andresponsetotrabeculectomyinexfoliationglaucoma.Ophthalmology100:619-627,199313)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU:Exfoliationsyndrome.SurvOphthalmol45:265-315,200114)Dvorak-TheobaldG:FurtherstudiesonthecanalofSchlemm;itsanastomosesandanatomicrelations.AmJOphthalmol39:65-89,195515)HannCR,BentleyMD,VercnockeAetal:Imagingtheaqueoushumoroutflowpathwayinhumaneyesbythreedimensionalmicro-computedtomography(3Dmicro-CT).ExpEyeRes92:104-111,201116)HannCR,FautschMP:Preferentialfluidflowinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOphthalmolVisSci50:1692-1697,200917)HepsenIF,GulerE,KumovaDetal:Efficacyofmodified360-degreesuturetrabeculotomyforpseudoexfoliationglaucoma.JGlaucoma25:e29-e34,201618)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinvestigationofabinternotrabeculectomyusinganoveldual-bladedevice.AmJOphthalmol155:524-529.e522,201319)KagemannL,NevinsJE,JanNJetal:CharacterisationofSchlemm’scanalcross-sectionalarea.BrJOphthalmol98(Suppl2):ii10-ii14,201420)GroverDS,SmithO,FellmanRLetal:Gonioscopyassistedtransluminaltrabeculotomy:anabinternocircumferentialtrabeculotomyforthetreatmentofprimarycongenitalglaucomaandjuvenileopenangleglaucoma.BrJOphthalmol99:1092-1096,201521)KaplowitzK,BusselII,HonkanenR:Reviewandmetaanalysisofab-internotrabeculectomyoutcomes.BrJOphthalmol100:594-600,201622)AhujaY,MaKhinPyiS,MalihiMetal:Clinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabectomeforopen-angleglaucoma:theMayoClinicseriesinRochester,Minnesota.AmJOphthalmol35:927-935,201323)WerthJP,GesserC,KlemmM:Diverseeffectivenessofthetrabectomefordifferenttypesofglaucoma.KlinMonblAugenheilkd232:72-78,201524)FrancisBA,MincklerD,DustinLetal:Combinedcataractextractionandtrabeculotomybytheinternalapproachforcoexistingcataractandopen-angleglaucoma:initialresults.JCataractRefractSurg34:1096-1103,2008.25)TingJ,DamjiK,StilesMC:Abinternotrabeculectomy:Outcomesinexfoliationversusprimaryopen-angleglaucoma.JCataractRefractSurg38:315-323,2012.26)MansbergerSL,GordonMO,JampelHetal:Reductioninintraocularpressureaftercataractextraction:theOcularHypertensionTreatmentStudy.Ophthalmology119:1826-1831,2012図1360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:全周通糸できた場合(左眼)a:1.7mm耳側角膜切開.b:トラベクトームを用いて鼻側Schlemm管切開.c:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.d:鼻側下方のSchlemm管から出てきた糸の先端を確認.e,f:糸の先端を23G鉗子を用いて把持.g,h:糸を耳側角膜創から引き抜いて全周のSchlemm管を切開.図2360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:半周以上通糸できた場合(左眼)a:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.b,c:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管上半周切開.d:糸を鼻側下方のSchlemm管に挿入.e,f:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管下半周切開.表1患者背景症例数13例13眼性別(男/女)4/9名平均年齢72.1±8.4(60〜89)歳病型(POAG/XFG)9/4眼術前平均眼圧19.2±2.0(15〜22)mmHg術前緑内障点眼数3.1±0.9(2〜4)剤HumphreyMD値−12.0±6.6(−26.4,−2.7)dB術前平均矯正視力0.01±0.07(−0.08,0.15)logMAR術前角膜内皮細胞密度2,498.4±265.4(2,201〜2,995)mm2白内障手術歴2眼平均観察期間12.0月POAG:原発開放隅角緑内障,XFG:落屑緑内障.MD:meandeviation,logMAR:logarithmoftheminimumangleofresolution.図3術後12カ月までの眼圧変化図4術後12カ月までの緑内障点眼数の変化表2術中および術後合併症眼数(%)術中前房出血13(100)前房消失0(0)Descemet膜剝離0(0)毛様体根部離断0(0)虹彩損傷0(0)術後前房出血7(54)一過性高眼圧(≧30mmHg)5(38)低眼圧(<5mmHg)0(0)虹彩前癒着4(31)内皮減少(≧10%)0(0)感染0(0)創からの漏れ0(0)手術を要した白内障2(20)〔別刷請求先〕佐藤智樹:〒864-0041熊本県荒尾市荒尾4160-270佐藤眼科・内科Reprintrequests:TomokiSato,M.D.,SatoEyeandInternalMedicineClinic,4160-270Arao,AraoCity,Kumamoto864-0041,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(111)10371038あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610391040あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(114)(115)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610411042あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(116)(117)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161043

下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):583.586,2015c下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績加賀郁子*1城信雄*1南部裕之1.2)中内正志*1吉川匡宣*1越生佳代*3髙橋寛二*1松村美代*2*1関西医科大学眼科学教室*2永田眼科*3関西医科大学滝井病院Long-TermOutcomesforTrabeculotomywithSinusotomyCombinedwithPhacoemulsificationandAspirationwithIntraocularLensImplantationforGlaucomaIkukoKaga1),NobuoJo1),HiroyukiNambu1,2),TadashiNakauchi1),TadanobuYoshikawa1),KayoKoshibu3),KanjiTakahashi1)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)NagataEyeClinic,3)DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversityTakii目的:原発開放隅角緑内障(POAG),落屑緑内障(EG)に対する白内障手術を併用した下方サイヌソトミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)の眼圧下降効果について検討した.対象および方法:2004.2009年に白内障+下方LOT+SINを行ったPOAG22例31眼,EG20例23眼について眼圧経過および20または16mmHgの生存率を検討.結果:眼圧(POAG/EG)は術前19.8/22.7,術後3年13.4/13.1,術後5年11.5/13.0mmHgであった.術後7年の20mmHg以下の生存率(POAG/EG)は51.8/93.3%,16mmHg以下は46.5/72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p<0.01).結論:白内障手術を併用した下方LOT+SINの成績は,過去の上方でのLOT+SINを行った報告と同等であった.POAGよりもEGのほうが成績は良好であった.Inthisstudy,weretrospectivelyanalyzedthelong-termsurgicaloutcomesofinferior-approachtrabeculotomyandsinusotomy(inferior-LOT+SIN)combinedwithphacoemulsificationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL).Wereviewed31primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand23exfoliationglaucoma(EG)eyes.AllcaseshadundergoneinitialLOT+SIN,andwerefollowedupforatleast6-monthspostoperative.InthePOAGandEGeyes,themeanpreoperativeintraocularpressure(IOP)was19.8mmHgand22.7mmHg,respectively,whilethemeanIOPat3-and5-yearspostoperativewas13.4and11.5mmHgand13.1and13.0mmHg,respectively.Statisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenthepre-andpostoperativeIOP.BytheKaplan-Meierlifetablemethod,thesuccessratebelow20/16mmHgwere51.8/46.5%inthePOAGeyesand93.3/72.8%intheEGeyesat7-yearspostoperative.ThesuccessrateofEGwasstatisticallyhigherthanthatofPOAG.Thesefindingsareidenticaltothoseofpreviousreportsonsuperior-LOT+SIN.ThefindingsofthisstudyshowthatPEA+IOL+inferior-LOT+SINiseffectiveforthecontrolofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):583.586,2015〕Keywords:トラベクロトミー,サイヌソトミー,白内障手術,開放隅角緑内障,落屑緑内障.trabeculotomy,sinusotomy,phacoemulcification+IOLimplantation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.はじめにことが知られ1.3),成人例ではLOT+SINを施行することがトラベクロトミー(trabeculotomy:LOT)は緑内障流出主流になっている.SINを行ってもトラベクレクトミーでみ路手術の代表格であるが,サイヌソトミー(sinusotomy:られるような濾過胞はできない1.4,7)ので,将来行う可能性SIN)を併用すると,LOT単独に比べて術後眼圧が低くなるのあるトラベクレクトミーのために上方の結膜を温存するこ〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shinmachi,Hirakata573-1191,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)583 とを考慮して,最近では下方でLOT+SINを行うことが多く,下方で行っても,上方で行ったLOT+SINの成績と同等であることが報告されている4).LOTに白内障手術を併用した場合,LOT単独手術と同等以上の成績であり6),LOT+SINでも同様の報告はあるが7,8),これらの報告は上方で手術を行った成績であり,白内障手術を併用して下方でLOT+SINを行ったものの報告は少ない5).今回,白内障手術を併用した下方でのLOT+SINの術後長期成績を,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)に分けてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法2004.2009年に関西医科大学附属滝井病院および枚方病院において,LOT+SINと超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration:PEA+intraocularlens:IOL)の同時手術を施行した,初回手術例48例61眼のうち,術後6カ月以上経過観察ができた42例54眼を対象とした(経過観察率89%).病型はPOAG22例31眼,EG20例23眼,男性24例29眼,女性18例25眼であった.平均年齢(平均値±標準偏差,以下同様)はそれぞれ70.0±10.3,77.6±8.6歳とEGのほうが有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.0087).平均経過観察期間はPOAG48.9±22.1カ月,EG45.6±25.6カ月と同等であった(Mann-WhitneyU検定,p=0.7330)(表1).LOT+SINは8時方向で行った.4×4mmの二重強膜弁を作製し,Schlemm管を露出した.上方から角膜切開ないし19ゲージ(G)のバイマニュアルにてPEAを行い,IOLは表層強膜弁下より挿入した.LOT用プローブを挿入,回転し,深層強膜弁を切除して強膜弁を10-0ナイロン糸で2.4糸縫合閉鎖した後,SINすなわちSchlemm管上の強膜の一部をケリーデスメ膜パンチにて切除した.最後に前房内の粘弾性物質を吸引した.眼圧に関してはKaplan-Meier法を用いて20mmHgあるいは16mmHg以下への生存率の解析を行った.死亡の定義は,1)術後1カ月以降で目標眼圧あるいは術前眼圧を2回表1対象症例POAGEGp値症例22例31眼20例23眼平均年齢(歳)70.0±10.377.6±8.6p=0.0087平均観察期間(カ月)48.9±22.145.6±25.6p=0.7330POAG:primaryopenangleglaucoma,原発開放隅角緑内障,EG:exfoliationglaucoma,落屑緑内障.両群間で平均年齢に有意差はなかったが,平均観察期間に有意差はなかった.(Mann-WhitneyU検定)584あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015連続して超えた最初の時点,2)炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始した時点,3)新たな緑内障手術を施行した時点とした.ほかの内眼手術を行った場合は,その時点で経過観察打ち切りとした.Logrank検定を用いてPOAGとEGの病型別の生存率の比較も行った.II結果1.眼圧経過POAGの術前平均眼圧は19.8±4.4mmHgであった.術後1,3,5年の眼圧は13.9±4.1,13.4±3.2,11.5±1.6mmHgといずれの時点においても術前に比較して有意に下降した(術後1,3年p<0.0001,5年p=0.0269:pairedt-test).EGでも同様に,術前平均眼圧は22.7±9.7mmHg,術後眼圧は1,3,5年の眼圧は11.8±3.1,13.1±4.9,13.0±3.7mmHgであり,いずれの時点でも術前に比較して有意に下降した(術後1年p<0.0001,3年p=0.0037,5年でp=0.0180:pairedt-test)(図1).2.薬剤スコア緑内障点眼薬1点(ただし配合剤は2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.POAGでは術前平均2.1±0.9から術後3年で1.5±1.0と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.0979:pairedt-test).また,EGでは術前平均が2.2±1.2から,術後3年で0.9±1.0(p=0.0217:pairedt-test)と統計学的に有意に減少したが,術後5年では1.0±0.6と減少はみられたものの有意差は認めなかった(p=0.1025:pairedt-test)(図2).3.生存率20mmHg以下への生存率は,POAGは術後3年で73.6%,術後5年で51.8%,EGは術後3年以降で93.3%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0086,Logranktest)(図3).16mmHg以下への生存率も同様で,POAGは術後3年で60.9%,5年で46.5%,EGは術後3年で95.2%,5年で72.8%であり,EGのほうが有意に良好であった(p=0.0099,Logranktest)(図4).4.視力術前視力と最終観察時の視力を比較した.術前と比べ最終観察時の視力がlogMAR視力で0.3以上低下した症例をPOAGの1眼(3.2%)に認めた.術後に発症した裂孔原性網膜.離が視力低下の原因であった(図5).5.濾過胞濾過手術でみられるような濾過胞は全例みられなかった.6.合併症一過性眼圧上昇(術後7日以内に30mmHg以上を呈したもの)をPOAG5眼(16.1%),EG8眼(34.8%)に認めたが,いずれの症例も経過観察もしくは点眼追加で眼圧下降した.POAG1眼で術後4日に感染性眼内炎を生じ,硝子体手(120) 32*******POAGn=31n=28n=25n=20:POAG:EG******EGn=23n=21n=17n=15n=12n=7n=18n=6:POAG:EG*****眼圧値(mmHg)スコア(点)201510術前12345(年)図2薬剤スコア0術前12345(年)図1病型別眼圧経過経過とともに症例数が減少するため有意差は出なかった術前の眼圧と比べ,病型を問わず有意に眼圧下降が得られが,術前と比べPOAGでは術後2年まで,EGでは3年また(pairedt-test**p<0.0001,*p<0.05).で有意に薬剤スコアは下降した(pairedt-test*p<0.05).100100:EG:POAG(月)72.8%(90カ月)46.5%(84カ月):EG:POAG51.8%(90カ月)93.3%(90カ月)8080生存率(%)生存率(%)60604040202000020406080(月)最終観察視力020406080図320mmHg以下への生存率図416mmHg以下への生存率POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定POAGと比べ,EGが有意に良好であった(Logrank検定p=0.0086).p=0.0099).術で治癒した.この症例では術後濾過胞はみられなかった.37.再手術例POAG6眼,EG1眼で再手術を行った.POAG3眼,EG2.50.51眼では術後18,34,54,54カ月までは投薬下で18mmHg2以下にコントロールできていたが,その後眼圧上昇を認めた.明らかな視野の悪化はなく,術後20,36,57,57カ月1.5で,下方の別部位から再度LOT+SINを行った.1術後1カ月以降20mmHg以上の眼圧を示しLOTが無効:EGと考えられたPOAGの1眼と,術後9カ月以降に点眼2剤●:POAGと内服投薬下で14mmHgであったが視野進行を認めたPOAGの1眼,術後48カ月まで15mmHg以下であったが視野進行を認めたPOAGの1眼の合計3眼で,各々術後6,-0.5-0.50.511.522.5326,48カ月にトラベクレクトミーを上半周で行った.術前視力図5視力経過(logMAR視力)III考按POAGの1例で裂孔原性網膜.離をきたし,術後視力低LOT+SINは10mmHg台前半の眼圧をねらえる術式では下を生じた.ないため,長い人生には将来的に濾過手術が必要になる可能性を考えて,近年では下方で行われることが多い.下方(121)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015585 LOT+SINの成績は上方で行ったものと変わらないことがわかっている4).LOT+SIN+PEA+IOLに関しては,以前筆者らの施設で上方から行った成績が,術後1年の眼圧14.6mmHgであり,LOT+SIN単独と同等であったことを報告した7).松原ら8)は,上方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,術後5年の平均眼圧13.6mmHg,20mmHg以下への生存率86.8%と,単独手術よりもよかったと報告している.浦野ら5)は今回の筆者らと同様に,下方でLOT+SINを施行し耳側角膜切開でPEA+IOLを行った症例と,上方でLOT+SIN+PEA+IOLを行った症例について,術後12カ月での眼圧は上方14.4mmHg,下方13.6mmHgで差はなく,その眼圧は過去のLOT+SIN単独と同等であったと報告している.本報告では,下方LOT+SIN+PEA+IOLの長期成績を,POAGとEGの病型別に検討した.POAGでは術後4年の眼圧12.9mmHg,20mmHg以下への4年生存率が71.8%で,下方でのLOT+SIN単独手術(術後5年の眼圧14.6mmHg,20mmHg以下への8年生存率62.2%)の報告4)と同等であった.POAGでは下方LOT+SIN単独と下方LOT+SIN+PEA+IOLとの成績に差はないと考えてよさそうである.EGでは,下方LOT+SIN単独手術は,術後3年の平均眼圧17.8mmHg,20mmHg以下への生存率は25.2%(42カ月)と不良であるが,内皮網除去を併用した場合はPOAGと同等の成績であると報告されている4).今回の下方LOT+SIN+PEA+IOLでは,術後5年の眼圧13.0mmHg,20mmHg以下への生存率93.3%とPOAGより明らかに良好であり,Fukuchiら10)の上方からの成績とも同等であった.落屑症候群の症例では,緑内障の有無にかかわらずPEA+IOL術後に眼圧下降が得られることも報告されている11).白内障手術で落屑物質が吸引除去されること,水晶体がIOLに替わることで虹彩との摩擦が減少し,その後の落屑物質の浮遊が減少するであろうことから,EGにはPEA+IOLは有効に作用すると考えられる.実際,LOTにSINを併用していなかった時代から,EGにはLOT+PEA+IOLが有効であることがわかっていた9)が,今回の検討でEGにおける同時手術の有用性は下方で行っても同様であることが確認された.今回,下方でのLOT+SN+PEA+IOLの長期成績を検討して,POAGではLOT+SIN単独でもPEA+IOLを併用しても眼圧成績に差のないことが明らかになった.EGでは,LOT+SIN単独よりもPEA+IOLを併用するほうが成績は良好で,POAGと比較しても有意に高い眼圧コントロールができるという結果が示された.EGでは,LOT+SINを下方で行う場合でも積極的に白内障手術を併用することが推奨586あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015される.過去の報告では,LOT+SIN+PEA+IOLの成績がLOT+SIN単独と同等であったとされるものと5,7),同時手術のほうが単独手術よりよかったとされるもの8)がみられるが,今後は病型を考慮した検討が必須であると思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicaleffectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycomparedtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20002)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19963)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期経過.臨眼57:1609-1613,20034)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20125)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,20086)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsificationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcartaract.OpthalmicSurgLasers28:810-817,19977)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科8:813-815,20018)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20029)TaniharaH,NegiA,AkimotoAetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201111)ShingletonBJ,HeltzerJ,O’DonoghueMW:Outcomesofphacoemulsificationinpatientswithandwithoutpseudo-exfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg29:10801086,2003(122)

他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1171.1173,2013c他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討橋爪公平*1,2長澤真奈*1,2黒坂大次郎*2*1北上済生会病院眼科*2岩手医科大学医学部眼科学講座EfficacyofTravoprostinPatientsUnresponsivetoOtherProstaglandinsKouheiHashizume1,2),ManaNagasawa1,2)andDaijiroKurosaka2)1)DepartmentofOphthalmology,KitakamiSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)製剤は緑内障治療の第一選択薬であるが,ノンレスポンダーの存在も知られている.今回,他のPG製剤で効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.北上済生会病院に通院中の広義の開放隅角緑内障患者のうち,他のPG製剤が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えた症例を対象とした.効果不十分とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降,②視野欠損の進行のいずれかに当てはまることと定義した.切り替え前後の眼圧について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.対象症例は34例65眼であった.眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,トラボプロスト点眼液への切り替えにより眼圧が有意に低下していた(pairedt-test:p=0.012).他のPG製剤が効果不十分であった症例に対して,トラボプロスト点眼液への切り替えが有効である可能性が考えられた.Prostaglandin(PG)ophthalmicsolutionsareconsideredthefirst-choiceforglaucomatreatment,butsomepatientsdonotrespondtoPGanalogues.WestudiedtheeffectsofswitchingtotravoprostinpatientsunresponsivetootherPGs.ThesubjectswerepatientsatKitakamiSaiseikaiHospitalwhohadopenangleglaucomaandswitchedtotravoprostduetoinsufficientresponsetootherPGs.Insufficientresponsewasdefinedaseitheri)intraocularpressure(IOP)reductionof<10%ofthebaselineorii)progressionofvisualfielddefect.IOPrecordswereretrospectivelyexaminedbeforeandafterswitching.Atotalof65eyesof34patientswereexamined.IOPswere14.0±3.6mmHgbeforeand13.3±3.4mmHgafterswitching,asignificantreductioninIOPafterswitchingtotravoprosteyedrops(pairedt-test,p=0.012).TheresultssuggestedthatswitchingtotravoprosteyedropsiseffectiveinpatientsunresponsivetootherPGs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1171.1173,2013〕Keywords:プロスタグランジン製剤,トラボプロスト,ノンレスポンダー,切り替え,開放隅角緑内障.prostaglandin,travoprost,non-responder,switching,openangleglaucoma.はじめに緑内障はわが国においては中途失明2位を占める疾患で,その有病率は40歳以上で約5%と比較的高い疾患である.緑内障に対する治療はおもに点眼による薬物療法で,眼圧を下降させることにより視野欠損の進行リスクが軽減される1).プロスタグランジン(PG)製剤はプロスト系製剤とプロストン系製剤の2つに大別される.プロスト系PG製剤は強力な眼圧下降作用を有し,1日に1回の点眼で終日の眼圧下降が得られ,また全身の副作用がないことから,緑内障治療薬の第一選択薬となっている.現在わが国で4種のプロスト系PG製剤が承認されているが,そのうちラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストの眼圧下降作用は同等で,およそ25.30%の眼圧下降作用を示すとされている2,3)が,その程度には個体差があり,眼圧下降が10%以下のいわゆるノンレスポンダーという症例も存在する.そこで今回は,他のPG製剤が効果不十分であった症例で,その点眼をトラボ〔別刷請求先〕橋爪公平:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KouheiHashizume,M.D.,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,19-1Uchimaru,MoriokaCity020-8505,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)1171 プロスト点眼液に切り替えた症例の眼圧の変化について検討したので報告する.I対象および方法対象は平成24年1月から6月に北上済生会病院を受診した広義の開放隅角緑内障患者のうち,過去に他のPG製剤(ラタノプロストまたはタフルプロスト)が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えたことがある症例を対象とした.本研究における「効果不十分」とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていないこと,②点眼を継続しているにもかかわらず視野欠損が進行していることのいずれかに該当する症例と定義した.診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.眼圧は通常の外来診療における任意の時間帯(8:30.17:00)に非接触眼圧測定装置(NIDEK社RKT-7700)を用いて測定した.低信頼度データを除く3メーターの測定値を平均し,その日の値とした.測定は切り替え直前・直後の連続する3回の受診時の計測値の平均をそれぞれ切り替え前眼圧,切り替え後眼圧とした.切り替え前後の眼圧をpairedt-testで統計学的に検討した.II結果他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤への切り替えを行った症例は34例65眼で,このうちラタノプロスト点眼液からの切り替えが23例46眼,タフルプロスト点眼液からの切り替えが11例19眼であった.また,他の緑内障点眼薬を併用し,その併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例は15例28眼であった.他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤へ切り替えた症例では,眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.0078,図1).また,単剤同士の切り替え65眼中23眼(35%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.さらに併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例では,眼圧が切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.025,図2).併用薬あり例の切り替え28眼中7眼(25%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.III考按今回の検討では他のPG製剤で効果不十分でトラボプロストへ切り替えた症例を対象に検討した.そのなかで,効果不十分例は,ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていない,いわゆるノンレスポンダーといわれる症例,あるいは視野欠損が進行している症例とし,日常の診療において点眼液の変更や追加が必要となる症例である.今回トラボプロストへの切り替えによる眼圧を比較し,単剤同士の切り替え・併用薬がある場合での切り替えともに有意に眼圧が低下した.このことから他のPG製剤で加療して効果が不十分であった症例に対して,bブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬などの他剤を追加する前にトラボプロストへの切り替えを試すことが治療の選択肢の一つになりうると考えられた.今回の検討では他のPG製剤(ラタノプロストとタフルプロスト)単剤からトラボプロスト単剤への切り替えにより,35%の症例で2mmHg以上の眼圧下降が得られた.ラタノプロスト単独投与からトラボプロスト単独投与への切り替え後の眼圧下降効果についてはすでにいくつかの報告がある.海外ではトラボプロストはラタノプロストなどの他のPG製剤と比較して,同等あるいはそれ以上の眼圧下降作用が得られたと報告されている4.6).わが国では湖崎らはラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで約30%の症例で2mmHg以上の眼圧下降がみられたと報告し7),佐藤らは同じくラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで36%の症例で2mmHgを超える眼圧下降が得られたと報告している8).今回の検討はこれらの報告と同等の結果と考えられる.15.7±3.42020014.0±3.613.3±3.4切り替え前切り替え後14.7±2.6眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)15151050105切り替え前切り替え後図1単剤使用例の切り替えによる眼圧の変化図2併用薬あり例の切り替えによる眼圧の変化眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4眼圧は切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedmmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedt-test:p=0.0078).t-test:p=0.025).1172あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(128) 今回の検討では眼圧に関してのみ比較検討を行った.緑内障治療における目標は視野欠損進行の抑制であるので,今後切り替え前後の視野欠損の進行速度についてさらなる検討が必要である.また,眼圧測定を非接触眼圧計にて行ったが,より正確な眼圧測定のためには,Goldmannアプラネーショントノメーターによる測定が望ましい.さらに点眼の切り替えによって,患者のアドヒアランスが一時的に向上した可能性は否定できない.これらの課題を含めたさらなる検討が今後必要である.他のPG製剤が効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.結果,トラボプロスト点眼液への切り替えが眼圧下降に有効である可能性が考えられた.本論文の要旨は第335回岩手眼科集談会(2013年,1月)にて発表した.文献1)LeskeMC,HejilA,HusseinMetal:Factorforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20032)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20083)MansbergerSL,HughesBA,GordonMOetal:Comparisonofinitialintraocularpressureresponsewithtopicalbeta-adrenergicantagonistsandprostaglandinanaloguesinAfricanAmericanandwhiteindividualsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol125:454-459,20074)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypertensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin21:1341-1345,20047)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木和彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響.あたらしい眼科26:101-104,20098)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,2010***(129)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131173

Trabectome® を用いた線維柱帯切開術の短期成績

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):265.268,2013cTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績石田暁*1,2庄司信行*3森田哲也*2高郁嘉*4春木崇宏*2笠原正行*2清水公也*2*1海老名総合病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*4社会保険相模野病院眼科Short-periodSurgicalOutcomeofTrabeculotomybyTrabectomeRAkiraIshida1,2),NobuyukiShoji3),TetsuyaMorita2),AyakaKo4),TakahiroHaruki2),MasayukiKasahara2)KimiyaShimizu2)and1)DepartmentofOphthalmology,EbinaGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversity,SchoolofMedicine,3)DepartmentofRehabilitation,OrthopicsandVisualScienceCourse,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthSciences,4)DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceSagaminoHospitalTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績を報告する.対象は2010年12月より2011年7月までに北里大学病院眼科にて手術を行った34例40眼.年齢は19.85歳(平均63.6歳),術前眼圧は19.64mmHg(平均31.9mmHg),術後の観察期間は1カ月.8カ月(平均4.4カ月)であった.白内障同時手術は13例16眼であった.病型は原発開放隅角緑内障14例16眼,落屑緑内障9例10眼,ステロイド緑内障3例5眼,ぶどう膜炎続発緑内障3例4眼,術後続発緑内障2例2眼,発達緑内障2例2眼,高眼圧症1例1眼であった.術後3カ月の眼圧は16.2±3.8mmHgと有意に下降し(p<0.01),眼圧下降率は43%であった.薬剤スコアは術前平均4.8±1.9点から術後3カ月で3.1±1.1点と減少した(p<0.01).線維柱帯切除術の追加手術を要したのは3眼(7.5%)であった.低眼圧,感染症はみられなかった.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術は10台後半の眼圧を目指した開放隅角緑内障に対する手術として期待できる.Wereporttheshort-periodsurgicaloutcomeoftrabeculotomyusingtheTrabectomeRforopenangleglaucoma.Thisstudycomprised40eyesof34glaucomapatientswhounderwentsurgeryattheDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversity,betweenDecember2010andJuly2011,including16casesofTrabectomeRphacoemulsificationsurgery.Patientmeanagewas63.6years±17.9(19.85years)withmeanfollow-upof4.4±1.9months(1.8months).Preoperativemeanintraocularpressure(IOP)of31.9±11.2mmHgsignificantlydecreasedto16.2±3.8mmHg(p<0.01)witha43%decreaserateat3monthspostoperatively.Themedicationscoredecreasedfrom4.8±1.9to3.1±1.1at3months(p<0.01).Anteriorchamberirrigationwasrequiredin4eyes(10%)duetohemorrhage;3eyes(7.5%)requiredadditionaltrabeculectomy.Therewasnohypotonyorinfection.TrabeculotomywiththeTrabectomeRcanbeeffectivefortreatingopenangleglaucomawiththeaimofachievinggoodIOPcontrolinthehighteens.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):265.268,2013〕Keywords:TrabectomeR,線維柱帯切開術,手術成績,開放隅角緑内障.TrabectomeR,trabeculotomy,surgicaloutcome,openangleglaucoma.はじめに年9月には厚生労働省より認可がおり日本でも使用できるよ開放隅角緑内障に対する流出路再建術である線維柱帯切開うになった.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の特徴術を眼内からのアプローチによって行う,TrabectomeRととしては,結膜が温存できるため線維柱帯切除術などの追加いう器具を用いた手術が米国では2004年から始まり,2010手術に影響を与えないこと,角膜小切開創から施行できるこ〔別刷請求先〕石田暁:〒243-0433海老名市河原口1320海老名総合病院眼科Reprintrequests:AkiraIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EbinaGeneralHospital,1320Kawaraguchi,Ebina,Kanagawa243-0433,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(131)265 と,手術時間が約10.15分ほどで短く,重篤な術後合併症が少ないことがあげられ,低侵襲および手技が比較的容易な手術といわれている1.3).今回筆者らは,TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績について報告する.I対象および方法対象は2010年12月から2011年7月までの間に北里大学病院眼科(以下,当院)でTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術を行った34例40眼である.内訳は男性24例29眼,女性10例11眼であった.平均年齢は63.6±17.9歳(平均±標準偏差)(19.85歳),平均経過観察期間は4.4±1.9カ月(1カ月.8カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)14例16眼,落屑緑内障9例10眼,ステロイド緑内障3例5眼,ぶどう膜炎続発緑内障3例4眼,術後続発緑内障2例2眼,発達緑内障2例2眼,高眼圧症(ocularhypertension:OH)1例1眼であった.全例が点眼,内服にても目標眼圧の得られない症例で,TrabectomeR手術研究会で定められている患者選定基準に従い,隅角はShaffer分類2.4度であり,鼻側に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)がないことを確認した.TrabectomeRの装置は灌流と吸引の制御装置と電気焼灼装置,そこに接続されたディスポーザブルのハンドピースからなり,ハンドピースの先端のフットプレートをSchlemm管に挿入し,先端の電極から発生するプラズマによって線維柱帯を電気焼灼する.ハンドピースの先端は19.5ゲージで1.7mmの角膜切開からの手術が可能となっている.術式は全例角膜耳側切開で,TrabectomeR単独では1.7mm,白内障手術併用では2.8mmの切開幅で手術を施行した.有水晶体眼でのTrabectomeR単独が8例10眼,偽水晶体眼でのTrabectomeR単独が13例14眼,白内障手術併用が13例16眼であった.眼圧値と眼圧下降率,薬剤スコアについて術前後で比較し,手術の合併症についても検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合点眼薬を2点,アセタゾラミド250mg内服は1錠1点とした.抗緑内障薬は原則として術後も継続し,眼圧下降の程度に応じて適宜漸減した.また,PASの形成を予防するために2%塩酸ピロカルピンを追加し,術後のPAS形成の程度をみながら漸減,中止した.2%塩酸ピロカルピンは1点として薬剤スコアに加えた.なお,眼圧と薬剤スコアの検定に関してはDunnett法を用い,術式別の眼圧と薬剤スコアの検定に関してはScheffe法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前後の眼圧経過と眼圧下降率を表1および図1に示す.術前眼圧は31.9±11.2mmHg,術後眼圧・眼圧下降率は術後1カ月で15.9±5.1mmHg・46%(n=39),術後3カ月では16.2±3.8mmHg・43%(n=32),術後6カ月では17.4±5.7mmHg・37%(n=18)であった.術前と比較し術後各時点で有意に眼圧下降した(p<0.01).薬剤スコアを図2に示す.薬剤スコアは,術前平均4.8±1.9点から術後7日までは一次的に上昇を認めるものの,術表1術後眼圧経過眼圧(mmHg)下降率(Mean±SD)(Mean±SD)症例数術前術後1日術後1週術後2週術後1カ月術後3カ月術後6カ月31.9±11.2(19.64)16.9±9.0*(7.58)18.8±9.9*18.3±7.7*(10.56)(9.42)15.9±5.1*(10.36)16.2±3.8*(11.27)17.4±5.7*(12.31)4044±30%4036±41%4040±20%3946±19%3943±24%3237±33%18*p<0.01:Dunnett法.(Mean±SD)()内は症例数術後日数図1術後眼圧経過(Mean±SD)()内は症例数*p<0.01:Dunnett法4.8±1.9(40)5.7±1.9(40)5.1±2.0(40)4.5±1.6(39)4.1±1.4(39)3.1±1.1*(32)2.9±1.6*(18)薬剤スコア(点)9876543210術前1週2週1カ月3カ月6カ月1日術後日数図2薬剤スコア*p<0.01:Dunnett法1日706050403020100術前1週2週1カ月3カ月6カ月16.9±9.0*(40)18.3±7.7*(39)15.9±5.1*(39)16.2±3.8*(32)17.4±5.7*(18)18.8±9.9*(40)眼圧(mmHg)31.9±11.2(40)266あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(132) 表2手術合併症・逆流性出血40眼(100%)・術後1日前房出血34眼(85.0%)・周辺虹彩前癒着9眼(22.5%)・創口離開1眼(2.5%)・角膜上皮障害2眼(5.0%)・遷延性眼圧上昇(術後3カ月眼圧>21mmHg)3眼(9.4%)・追加手術(前房洗浄)4眼(10.0%)・追加手術(線維柱帯切除術)3眼(7.5%)・一過性眼圧上昇3眼(7.5%)(術後3日までに術前眼圧より5mmHg以上上昇)・低眼圧0眼(0%)・感染症0眼(0%)後1カ月で4.1±1.4点(n=39),術後3カ月で3.1±1.1点(n=32),術後6カ月で2.9±1.6点(n=18)と減少した.術前と比較し,術後3カ月,術後6カ月で有意に減少した(p<0.01).手術合併症を表2に示す.合併症では,術中の逆流性出血は全症例で生じ,術翌日の前房出血は34眼(85.0%)にみられたが,ほとんどの症例は1週間以内に吸収された.遷延性の前房出血のため前房洗浄を要したのは4眼(10.0%)であった.眼圧下降不良のため線維柱帯切除術の追加手術を要したのは3眼(7.5%)であり,1眼は前房洗浄を施行するも高眼圧が持続したPOAGの症例で,他の2眼はPOAGとOHの症例で,切開部に広範囲のPAS形成が認められた.そのため,切開部の広い範囲にPASが形成されると,これが眼圧上昇の一因になるのではないかと考えて,顕著な眼圧上昇がみられる前に処置を施行した眼は9眼(22.5%)であった.内訳はレーザーでの切離が8眼,前房洗浄の際に隅角癒着解離術を併用したのが1眼であった.術後3カ月で眼圧が21mmHgより高い,遷延性の眼圧上昇は32眼中3眼(9.4%)であった.角膜上皮障害は2眼(5.0%)でみられたが,術後4日目以内には軽快した.創口離開は白内障手術併用例で1眼(2.5%)あり,術当日の眼圧が0mmHgで創口からの漏出と考えられたが,経過観察で翌日に眼圧は回復した.低眼圧,感染症はみられなかった.術式別の検討も行い,白内障手術併用群と,TrabectomeR単独で偽水晶体群・有水晶体群に分けて比較した.術後眼圧では,術前および術後3カ月までは3群間に有意差は認められなかった.6カ月の時点では,白内障手術併用群が22.2±7.7mmHg(n=6)で,TrabectomeR単独で偽水晶体眼群13.7±1.7mmHg(n=7)と比べ有意に高い(p<0.05)結果であった.ただし,白内障手術併用群の6カ月時点の眼圧には,追加手術の適応だが希望せず約半年間通院を自己中断していた1例2眼が含まれている.術式別の薬剤スコアでは,術前・術後とも有意差は認めなかった.(133)III考按日本においては開放隅角緑内障に対し,濾過手術として線維柱帯切除術,流出路再建術として線維柱帯切開術が症例に応じて使い分けられている.一方,米国や西欧諸国においては,成人の開放隅角緑内障に対する手術は線維柱帯切除術が標準術式とされている.線維柱帯切開術や隅角切開術はおもに小児の発達緑内障に対し行われている.線維柱帯切除術は良好な眼圧下降を得られるが,濾過胞のトラブルなど重篤な合併症を伴う可能性がある.こうしたなか,成人の開放隅角緑内障に対する流出路再建術としてTrabectomeRが2004年に米国のFDA(食品・医薬品局)で承認され,TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が始められた.2010年9月には厚生労働省に承認され,日本でもTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が行われている.TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術が従来の線維柱帯切開術と比べて有利な点は,結膜が温存できるため線維柱帯切除術やインプラントなどの追加手術が施行できることである.低眼圧,脈絡膜出血,濾過胞炎や眼内炎などの感染症といった重篤な合併症は少なく,しかもTrabectomeRを用いた線維柱帯切開術で眼圧下降が不十分であったり,長期経過で視野悪化がみられた場合には,結膜瘢痕化の問題なく線維柱帯切除術などが施行できる.また,角膜小切開創から施行でき,手術時間も約10.15分ほどと短いため,侵襲が少なく手技が比較的容易な手術といえる1.4).眼圧・眼圧下降率は,当院では術前眼圧は31.9±11.2mmHg,術後3カ月で16.2±3.8mmHg・43%(n=32),術後6カ月で17.4±5.7mmHg・37%(n=18)であった.日本では,渡邉が術前眼圧は25.9±9.2mmHg(n=24),術後3カ月で16.7±3.0mmHg・28.3%(n=19),術後6カ月で17.7±2.4mmHg・21.4%(n=20),術後12カ月で16.3±4.0mmHg・29.2%(n=22)と報告している4).海外では,Mincklerらが術前眼圧は23.8±7.7mmHg(n=1,127),術後24カ月で16.5±4.0mmHg・39%(n=50)と報告している5).Mosaedらは,最終の眼圧が21mmHg未満で,術後3カ月で術前眼圧より20%低下し,追加の緑内障手術を要さなかった場合を成功と定義し,TrabectomeR手術単独538例で成功率64.9%,成功例での術前眼圧は26.3±7.7mmHg,術後12カ月で16.6±4.0mmHg・31%,白内障手術併用290例で成功率86.9%,成功例での術前眼圧は20.2±6.0mmHg,術後12カ月で15.6±3.7mmHg・18%と報告している6).これら過去の報告では,1年以上の経過で眼圧下降率は18.39%と報告によりやや幅があるが,眼圧値は16mmHg前後に落ち着くことが多いようである.当院の結果は術後3カ月,6カ月までは眼圧16.18mmHgとやや高めであるが,眼圧下降率は40%前後と良好で,日本の渡邉の報告4)と術あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013267 後6カ月まではほぼ同様の眼圧値であった.おおむね,過去の報告と同様の結果と思われる.薬剤スコアは,術前平均4.8±1.9点から術後7日までは一次的に上昇を認めるものの,術後1カ月で4.1±1.4点(n=39),術後3カ月で3.1±1.1点(n=32),術後6カ月で2.9±1.6点(n=18)と減少した.渡邉は術前平均3.5点から術後6カ月で2.2点と報告している4).Mincklerらは術前平均2.8点から術後24カ月で1.2点と報告している5).MosaedらはTrabectomeR単独で術前平均2.88±1.30点から術後12カ月で2.09±1.35点,白内障手術併用で術前平均2.54±1.07点から術後12カ月で1.69±1.33点と報告している6).当院では術前平均4.8点と過去の報告よりやや高めであった.当院では手術決定から手術日までの間,一時的にアセタゾラミド内服を処方することが多く65%の症例で内服しており,このため術前薬剤スコアが高めとなったのではないかと考えられる.過去の報告ではいずれも術後に薬剤スコアが減少しており,当院でも同様に減少していた.当院では術後6カ月で2.9点と過去の報告よりやや高めであったが,平均して2剤中止することが可能であった.点眼薬を中止する時期に関しては,術後眼圧の経過と炎症の程度や隅角のPASの程度をみながらになるが,隅角の所見と眼圧下降の程度は個々の症例によっても異なり,点眼を中止しても眼圧上昇しないかの判断はむずかしく,今後も検討していく必要がある.当院での合併症は,過去の報告と同様の傾向であった.逆流性出血とそれによる前房出血が高頻度に認められるものの,1.2週間以内に消失する.線維柱帯切除術の追加手術は当院では7.5%,過去の報告では2.7.8.3%,術後3日までの一過性眼圧上昇は当院では7.5%,過去の報告では5.4.16.7%であった4.7).脈絡膜出血,低眼圧の持続や感染症など重篤な合併症は報告がない.他に,過去の報告では頻度の明確な記載がないが,当院では術後に処置を要したPAS形成が22.5%,遷延性の前房出血のための前房洗浄が10.0%あった.重篤な合併症が少ないことは当院も過去の報告も共通していた.PASは,術後の隅角の広さにも関係すると思われるが,術中に生じた線維柱帯組織の遺残物(いわゆるデブリス)や吸収の遅かった出血,フィブリンなどのために形成されたと推測される.線維柱帯切開術の術後に生じるPASと同様の機序で形成されることが考えられるが,線維柱帯切開術の術後に生じたPASは必ずしも眼圧上昇をもたらすとは限らないといわれており,今回のTrabectomeRにおいてもPASの影響はよくわかっていない.筆者らは,切開部位に広範囲に生じたPASが房水流出の妨げになる可能性を考えてレーザーによる癒着の解除や前房洗浄時に癒着解離術を行ったが,この処置が適切であったかどうかは判断がむずかしい.実際に9眼中3眼は処置後に眼圧が下降したが,変わらない場合も多く,2眼は逆に上昇した.PASの形成と眼圧上昇の関連,そしてこれに対して処置が必要か否かについては今後の検討が必要である.白内障手術により眼圧下降することは知られており,過去の報告においても白内障手術を併用すると成功率が高いという報告がある6).このため,白内障手術併用群と,TrabectomeR単独で偽水晶体群・有水晶体群に分けて比較した.当院の結果では,予想に反し術後6カ月時点の眼圧は白内障手術併用群がTrabectomeR単独で偽水晶体眼群と比べ有意に高い結果であった.しかし,対象症例も少数で,白内障手術併用群には追加手術を拒否して通院を自己中断し眼圧上昇を放置していた1例2眼が含まれており,単純には比較できないと考えられる.薬剤スコアでは有意差は認めなかったが,TrabectomeR単独で有水晶体眼群でやや高く,水晶体を残すと術後の使用点眼数がやや多くなっていた.当院の現時点での結果は,今後長期観察で傾向が変わってくる可能性があると考えられる.筆者らはTrabectomeRを用いて線維柱帯切開術を行い,良好な眼圧下降を得た.術後眼圧は16.18mmHgであり,10台後半の眼圧を目指した開放隅角緑内障に対する手術として今後期待できると思われる.今回の検討は短期成績であり,今後の長期観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)前田征宏,渡辺三訓,市川一夫:TrabectomeTM.IOL&RS24:309-312,20102)渡邉三訓:TrabectomeR,Ex-PRESSRの臨床的評価.臨眼63(増刊):308-309,20093)FrancisBA,SeeRF,RaoNAetal:Abinternotrabeculectomy:developmentofanoveldevice(Trabectome)andsurgeryforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:68-73,20064)渡邉三訓:トラベクトーム(TrabectomeTM)手術装置.眼科手術24:317-321,20115)MincklerD,MosaedS,DustinLetal:Trabectome(trabeculectomy-internalapproach):additionalexperienceandextendedfollow-up.TransAmOphthalmolSoc106:149159,20086)MosaedS,RheeDJ,FilippopoulosTetal:Trabectomeoutcomesinadultopen-angleglaucomapatients:oneyearfollow-up.ClinSurgOphthalmol28:5-9,20107)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:ClinicalresultswiththeTrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-967,2005268あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(134)

全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の治療成績

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1697.1700,2012c全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の治療成績榎本暢子安樂礼子高木誠二富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科ClinicalResultof360-DegreeSelectiveLaserTrabeculoplastyat6MonthsPost-TreatmentNobukoEnomoto,AyakoAnraku,SeijiTakagiandGoujiTomitaDepartmentofOphthalmology,OhashiMedicalCenter,TohoUniversity全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後成績を後ろ向きに検討した.同一術者によって初めてSLTを施行され,6カ月以上経過観察できた34眼で,原発開放隅角緑内障18眼,正常眼圧緑内障13眼,落屑緑内障3眼を対象とした.平均眼圧±標準偏差(mmHg)は術前,術後1,3,6カ月でそれぞれ18.8±4.1,15.2±4.5,15.3±3.0,15.9±3.3であり,有意に下降した.術1カ月以降に2回連続で下降率が20%未満になった症例を無効群(17眼),その他を有効群(17眼)と定義し,2群間で症例背景についてロジスティック回帰分析を行ったところ,術前眼圧は高いほうが有意に有効(p=0.016,オッズ比1.565)であり,近視が強くなると効果が低い傾向(p=0.052,オッズ比=0.742)を認めた.以上,症例を選択すれば6カ月で半数程度の有効率を得ることができると考えられた.Aretrospectivestudyafter360-degreeselectivelasertrabeculoplasty(SLT)wasconductedin34glaucomapatients(34eyes)whounderwentinitialsurgerybythesameoperatorandwerefollowedupforatleast6months.Thetypesofglaucomaincludedwasprimaryopenangleglaucoma(POAG)in18eyes,normaltensionglaucoma(NTG)in13eyesandpseudoexfoliativeglaucomain3eyes.Thepatientgroupthatshowedlessthan20%intraocularpressure(IOP)reductionfromtheirbaselineattwoconsecutiveexaminationsaftersurgerywasdefinedas“Ineffective.”Thegroupofremainingpatientswasdefinedas“Effective.”MultivativelogisticregressionanalysisshowedthatpreoperationalIOPwasasignificantpredictivefactorforIOPreduction(p=0.016,oddsratio=1.565)andthatmyopiaremainedafactortrendingtowardunfavorableoutcomes(p=0.052,oddsratio=0.742).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1697.1700,2012〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,全周照射,開放隅角緑内障,眼圧,成功予測因子.selectivelasertrabeculoplasty,360-degreeSLT,openangleglaucoma,intraocularpressure,predictivefactorofsuccess.はじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は線維柱帯構造に影響を与えることなく,反復照射が可能で比較的安全性が高い,眼圧(intraocularpressure:IOP)下降治療として知られている1,2).SLTは初期治療あるいは薬物療法にてコントロール不良な例にも効果があることが示されており,続発緑内障,閉塞隅角緑内障などを除いた線維柱帯が良好にみえる症例であれば照射可能である.しかしその効果判定は,成功あるいは不成功の定義が異なること,また対象人数,対象期間,年齢,性別,病型,術前IOPなど,背景因子が異なること,さらに照射範囲も90°,半周あるいは全周と照射範囲が異なることにより比較がむずかしい.現在のところ多くは半周照射であるが,全周照射のほうがより眼圧下降効果が高い報告3.7)や眼圧変動幅を減らす報告があり8),全周照射の報告も増えてきている.今回筆者らは,最大耐用薬物療法を行っているにもかかわらず,目標眼圧に届かない症例に対し全周照射SLTを施行し,術後6カ月の治療成績と術前背景,成功予測因子についてレトロスペクティブに検討したので報告する.〔別刷請求先〕榎本暢子:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:NobukoEnomoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OhashiMedicalCenter,TohoUniversity,2-17-6Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(107)1697 I対象および方法2009年6月から2010年12月までに当院にて同一術者によって初めてSLTを施行された38例38眼のうち,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)の既往のあるものは除外し,かつ6カ月以上経過観察ができた34例34眼を対象とした.SLT施行には,ルミナス社製セレクタIIRを使用し,照射条件は0.7mJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとし,隅角鏡(OcularRLATINASLTGONIOLASERLENS)を用いて隅角全周に照射を行った.SLT照射前後に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)を点眼し,術後は消炎目的で0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR)点眼1日4回を1週間使用した.術前の抗緑内障薬はそのまま継続した.IOPは術前と術後1,3,6カ月でGoldmann圧平眼圧計にて測定し,術前と術後それぞれの時点での平均IOPをOne-WayRepeated-MeasuresANOVAで検討した.さらに,術1カ月以降に2回連続で下降率が20%未満になった症例を無効群,その他を有効群と定義し,2群間で症例背景について比較検討を行った.症例背景因子として,年齢,性表1症例背景性別(眼数)男性19女性15年齢(歳)61.8±13.6(平均値±標準偏差)病型(眼数)原発開放隅角緑内障18正常眼圧緑内障13落屑緑内障3等価球面値.4.2±3.5D手術既往(眼数)9白内障手術(眼数)6線維柱帯切除術(眼数)2線維柱帯切除・白内障手術(眼数)1点眼内服数(剤)3.2±0.1総エネルギー量(mJ)89.8±16.3術前IOP(mmHg)18.8±4.12120*:p<0.0011918.8±4.115.9±3.31715.2±4.5**眼圧(mmHg)18別,屈折,手術既往歴,点眼内服数,総エネルギー量,術前IOPを選択した.炭酸脱水酵素阻害薬を内服している場合は点眼薬と同様1剤として加えた.年齢,屈折,点眼内服数,15.3±3.016総エネルギー量,術前IOPについてはMann-WhitneyU15*test,性別,手術既往歴についてはc2testにて解析を行った後,さらにロジスティック回帰分析を行い,有効予測因子を検討した.統計解析ソフトはIBMSPSSStatisticsversion19を使用し,有意水準p<0.05を有意とした.II結果患者背景を表1に示す.対象となった34眼は,男性19眼,女性15眼で,平均年齢61.8±13.6歳(平均値±標準偏差,以下同様).病型は原発開放隅角緑内障18眼,正常眼圧緑内障13眼,落屑緑内障3眼で,屈折値は等価球面値で.4.2±3.5D,手術既往は9眼(白内障手術6眼,線維柱帯切除術2眼,線維柱帯切除・白内障同時手術1眼)で,点眼内服数は3.2±0.1剤,総エネルギー量は89.8±16.3mJ,術前IOP18.8±4.1mmHgであった.IOPは術後1カ月で15.2±4.5mmHg(p<0.001),3カ月で15.3±3.0mmHg(p<0.001),6カ月で15.9±3.3mmHg(p<0.001)となり,術後どの時点でも有意に眼圧の低下を認めた(図1).眼圧下降率は術後1カ月19.3±12.2%,3カ月17.3±11.5%,6カ月14.4±9.2%で差は認めなかった.術前よりIOPが20%以上下降した症例は術後1カ月で18眼(52.9%),3カ月で13眼(38.2%),6カ月で12眼(35.3%)であった.1698あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121413術前1カ月3カ月6カ月術後観察期間(月)図1術前後の眼圧経過表2有効群と無効群の単変量解析結果有効群17眼無効群17眼性別(男/女)13/46/11p=0.016*年齢(歳)59.4±14.964.1±12.1p=0.772**屈折(D).4.9±3.8.3.5±3.2p=0.597**手術既往歴(眼数)(有/無)4/135/12p=0.050*点眼内服数(剤)3.2±1.03.3±1.0p=0.484**総エネルギー量(mJ)95.3±18.384.3±12.4p=0.036**術前IOP(mmHg)20.5±4.917.1±2.0p=0.005***:c2test,**:Mann-WhitneyUtest.また,定義に従い対象を2群に分けると,有効群は17眼(50%),無効群は17眼(50%)で,両群間の症例背景において単変量解析を行ったところ,男性は女性より有意に有効群の割合が高く(p=0.016),総エネルギー量(p=0.036)および,術前IOP(p=0.005)は有効群で有意に高かった(表2).ロジスティック回帰分析では術前IOPが高いほうが有(108) 表3ロジスティック回帰結果オッズ比(OR)95%信頼区間(CI)p値術前IOP(1mmHg当たり)1.5651.087.2.2540.016屈折0.7420.549.1.0020.052意に有効であり(p=0.016,オッズ比1.565,95%信頼区間1.087.2.254),また屈折で近視が強くなると効果が低い傾向を認めた(p=0.052,オッズ比0.742,95%信頼区間0.549.1.002)(表3).III考按眼圧下降は術後1,3,6カ月のどの時点でも有意に認められた.眼圧下降率は術後1,3,6カ月で差は認めなかった.今回の結果は過去に報告された最大耐用薬剤使用下での全周照射における1.6カ月の結果とほぼ同等であった9,10).無効群と有効群,両群間の単変量解析では,年齢,屈折,手術既往歴,点眼内服数で有意な差を認めなかった.性別では男性で有効(p=0.016,c2test),総エネルギー量では有効群でエネルギー量が高かった(p=0.036,Mann-WhitneyUtest)が,ロジスティック回帰分析ではどちらも有意な因子と認められなかった.性別に関してALTではロジスティック回帰分析にて男性の有効因子が指摘されている11,12).SLTでは今回と同様に男性の割合が多い報告もある13,14)が,多くの報告で有意な差を認めず7,15.17),明らかな有効因子とは考えにくい.総エネルギー量に関して過去の報告では,総エネルギー量とSLT成功率や眼圧下降率の相関については,半周照射3,7,14,16,18)においても全周照射3,7)においても有意な相関を認めない報告が多く,SLTの最適照射条件についてはさらに検討が必要であると考える.術前IOPは単変量解析,ロジスティック回帰分析でも有意であり,独立した有効因子と考えられる(p=0.016,オッズ比1.565,95%信頼区間1.087.2.254).これは,Martowら13)やHodgeら16),Maoら14)の過去の報告と一致する.緑内障薬使用下にてMartowらは6カ月後の成績で術前IOPに対しオッズ比1.03(95%信頼区間1.16.1.46),Hodgeらは1年後の成績で術前IOPのオッズ比1.58(95%信頼区間1.2.2.1)と報告した.Maoらの症例には初回治療も含まれるが,オッズ比1.3(95%信頼区間1.2.1.4)であった.一方で,術前IOPが多変量解析にて有意な相関を認めなかった報告もある10,19)が,緑内障薬投与下でも対象となる術前眼圧に差があり,観察期間や対象人数,成功定義が異なること,またSongら20)は低い術前眼圧での症例であり,低い術前眼圧では眼圧下降効果の減少と関連する可能性があることから,このような相違を生じていると推測される.しかし,高(109)い術前IOPが成功率や下降率と正の相関を認める報告も多く3,16,17,20,21),術前IOPが高いことがSLT成功の一つの重要な因子であることは一致している.大規模な多施設研究であるSLT/MedStudy22)では緑内障の初期治療において,SLT全周照射群とラタノプロスト使用群をプロスペクティブに比較を行っているが,1年後の報告ではほぼ同等の治療結果となっている.緑内障薬を投与されている症例の術前眼圧は,治療される前よりある程度低くコントロールされており,SLT施行のタイミングが重要である可能性が指摘されていること13,19)を考慮しても,今後はこのタイミングについて検討する必要がある.今回,屈折についても術前背景に加え検討を行った.単変量解析では有意な差はなかったものの,ロジスティック回帰分析では屈折が小さいほど影響する傾向を認めた(p=0.052,オッズ比0.742,95%信頼区間1.087.2.254).これまでのSLTの報告で,予測因子に屈折の可能性について指摘した報告はほとんどない.今回の結果から,近視が強くなると効果が低くなる可能性があることが示唆された.ALTでは,屈折の影響についての報告があり24.26),高度近視群はやや効果が減弱するが,有意差は認められなかったと報告している.隅角構造の形態変化が屈折異常や年齢と関連があると考えられるため27),今後症例数を増やし検討する必要があると考えられる.結論として,今回筆者らは最大耐用薬剤投与下でのSLTの全周照射を行い有意に眼圧下降を得た.また,最も影響を及ぼす成功予測因子は高い術前眼圧であり,さらに屈折が小さいことも影響する可能性を認めた.点眼治療が第一選択となっている緑内障治療において,薬剤投与下でも術前IOPや屈折を考慮して症例を選択すれば,6カ月で半数程度の有効率を得ることができると考えた.本稿の要旨は第22回日本緑内障学会(2011)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoflasermeshworkcells:invitrostudiesofpulseandCWlaserinteraction.ExpEyeRes60:359-371,19952)HongBK,WinerJC,MartoneJFetal:Repeatselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma18:180-183,20093)ShibataH,SugiyamaT,IshidaOetal:Clinicalresultsofselectivelasertrabeculoplastyinopen-angleglaucomainJapaneseeyes:Comparisonof180degreewith360degreeSLT.JGlaucoma21:17-21,20124)GoyalS,Beltran-AgulloL,RashidSetal:Effectofpriあたらしい眼科Vol.29,No.12,20121699 maryselectivelasertrabeculoplastyontonographicoutflowfacility:arandomizedclinicaltrial.BrJOphthalmol94:1443-1447,20105)森藤寛子,狩野廉,桑山泰明ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲による治療成績の違い.眼臨紀1:573-577,20086)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,20077)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPSetal:Arandomised,prospectivestudycomparingselectivelasertrabeculoplastywithlatanoplastoforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20058)PrasadN,MurthyS,DagianisJJetal:Acomparisonoftheintervisitintraocularpressurefluctuationafter180and360degreesofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)asaprimarytherapyinopenangleglaucomaandocularhypertension.JGlaucoma18:157-160,20099)松葉卓郎,豊田恵理子,大浦淳史ほか:全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.眼科手術22:401-405,200910)菅原道孝,井上賢治,若倉雅登ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科27:835-838,201011)安達京,白土城照,蕪木俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティー10年の成績.日眼会誌98:374378,199412)TakenakaY,YamamotoT,ShiratoSetal:FactorsaffectingsuccessandIOPriseafterargonlasertrabeculoplasty.JpnJOphthalmol31:475-482,198713)MartowE,HuntnikCM,MaoAetal:SLTandadjunctivalmedicaltherapy:Apredictionruleanalysis.JGlaucoma20:266-270,201114)MaoAJ,PanXJ,McIlraithIetal:Developmentofpredictionruletoestimatetheprobabilityofacceptableintraocularpressurereductionafterselectivelasertrabeculoplastyinopenangleglaucomaandocularhypertension.JGlaucoma17:449-454,200815)AyalaM,ChenE:Predictivefactorsofsuccessinselectivelasertrabeculoplasty(SLT)treatment.ClinOphthalmol5:573-576,201116)HodgeWG,DamijiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultfromarandomizedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200517)JohnsonPB,KatzLJ,RheeDJ:Selectivelasertrabeculoplasty:predictivevalueofearlyintraocularpressuremeasurementsforsuccessat3months.BrJOphthalmol90:741-743,200618)GeorgeMK,EmersonJW,CheemaSAetal:Evaluationofamodifiedprotocolforselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma17:197-202,200819)斉藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,200720)SongJ,LeeP,EpsteinDetal:Highfailurerateassociatedwith180°selectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,200521)KouchekiB,HashemiH:Selectivelasertrabeculoplastyinthetreatmentofopen-angleglaucoma.JGlaucoma21:65-70,201222)KatzLJ,SteinmannW,KabirAetal:Selectivelasertrabeculoplastyversusmedicaltherapyasinitialtreatmentofglaucoma:aprospective,randomizedtrial.SLT/MedStudyGroup.JGlaucoma21:460-468,201223)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,200624)TraversoCE,RolandoM,CalabriaGetal:Eyeparametersinfluencingtheresultsofargonlasertrabeculoplastyinprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica(Basel)194:174-180,198725)TraversoCE,FellmanRL,SpaethGLetal:Factorsaffectingtheresultsofargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg17:554-559,198626)PennebakerGE,StewartWetal:Responsofargonlasertrabeculoplastywithvaryinganteriorchamberanatomy.OphthalmicSurg22:301-302,198627)FontanaST,BrubakerRF:Volumeanddepthofanteriorchamberinthenormalaginghumaneye.ArchOphthalmol98:1803-1808,1980***1700あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(110)

インターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):998.1001,2012cインターネット通販でコンタクトレンズを購入し末期緑内障に至った1例下地貴子*1新垣淑邦*2澤口昭一*2*1ちばなクリニック眼科*2琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座ACaseofTerminalGlaucomainWhichContactLensesWerePurchasedviaInternetShoppingTakakoShimoji1),YoshikuniArakaki2)andShoichiSawaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibanaClinic,2)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicineインターネット通販でコンタクトレンズ(CL)を購入し続け,受診時に末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.症例は24歳,男性.10年前にCL量販店でCLを購入.その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.右眼の視力低下自覚し,近医を受診したところ,緑内障と診断され,緑内障薬点眼開始.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日にちばなクリニック眼科初診となった.初診時,視力は右眼(0.5),左眼(1.2).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった.緑内障はすべての年齢層で発症し,近視が危険因子であり,また末期まで自覚症状に乏しい場合が多い.CL処方には眼圧や眼底検査を含めた定期的な眼科一般検査が必要である.Wereportayoungcaseofadvancedglaucomavisualfielddisturbance.Thepatient,a24-year-oldmale,hadpurchasedcontactlenses(CL)atashoptenyearspreviously.For9yearssubsequently,hecontinuedpurchasingCLofthesameprescriptionviainternetshopping.Admittedtoanophthalmologistbecauseofblurredvisioninhisrighteye,hewasdiagnosedwithopenangleglaucomaandcommencedmedicaltreatmentwithanti-glaucomaeyedrops.VisualfieldtestingshowedstageIIIbrighteyeandstageIIIaleft,viaKosakiclassification.Glaucomaisadiseasenotonlyofadultbutalsoofyoungerindividuals,andmyopiaisknowntobeariskfactor.Moreover,mostglaucomapatientsareasymptomatic,unlessvisualfieldlossbecomessevere.ItisrecommendedCLusersundergoophthalmologicalexaminationincludingintraocularpressuremeasurementandfundusexamination,especiallyoftheopticnervehead.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):998.1001,2012〕Keywords:若年者,開放隅角緑内障,近視,インターネット通販,コンタクトレンズ.younggeneration,openangleglaucoma,myopia,internetshopping,contactlens.はじめにコンタクトレンズ(CL)はおもに近視眼における屈折矯正の手段として近年,広く普及している.CLの入手方法は眼科病院,眼科医院のみならず,CL量販店やインターネット通販でも購入することが可能である.後者では一般的な眼科検査が行われない,不十分にしか行われていない,あるいは眼科医以外の医師によって行われることがまれではなくこれらが相まって,潜在する眼科疾患の見逃し,あるいはCLによる合併症が少なからず報告1,2)されている.緑内障は高齢者に多くみられる疾患である3)が,若年者においても決してまれな疾患ではなく4.9),眼科日常診療上注意が必要である.今回,インターネット通販でCL購入を続け,受診時,末期緑内障と診断された若年者の1例を経験したので報告する.I症例患者:24歳,男性.主訴:右眼視力障害.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕下地貴子:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakakoShimoji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207AzaUehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN998998998あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(122)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY ab現病歴:10年前にCL量販店でCLを処方され,その後,その処方箋で以降9年間インターネット通販にてCLを購入していた.ちばなクリニック(以下,当科)受診1カ月前に右眼の視力低下を主訴に近医を受診したところ,両眼の緑内障と診断された.処方は両眼への1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.005%ラタノプロスト点眼液であった.3日前から点眼液がなくなったとのことで平成22年5月14日に当科初診となった.初診時所見:視力は右眼0.02(0.5×.6.5D(cyl.0.5DAx10°),左眼0.06(1.2×.6.5D(cyl.1.0DAx180°).眼圧は右眼20mmHg,左眼19mmHg.前眼部,中間透光体ab図1眼底所見(a:右眼,b:左眼)両眼ともに進行した緑内障性視神経萎縮を認める.には異常なく,隅角は開放(Shaffer分類4°)であったが,虹彩の高位付着は認めず,軽度虹彩突起が観察された.眼底は緑内障視神経萎縮が著明であり,特に右眼は末期の緑内障性変化と著明な萎縮の所見を認めた(図1).HRT(HeidelbergRetinaTomograph)-II,SD-OCT(spectraldomainopticalcoherencetomography)による眼底画像解析の結果は両眼とも進行した陥凹の拡大と,神経線維の高度な欠損が観察された(図2,3).念のため頭部の画像〔コンピュータ断層撮影(CT),磁気共鳴画像(MRI)〕を調べたが,異常は検出されなかった.Humphrey静的視野検査では両眼とも進行した視野異常を認め,特に右眼は中心視野がわずかに残存した末期の緑内障性視野異常であった.Goldmann動的視野検査では右眼湖崎分類IIIb期,左眼IIIa期であった(図4).II臨床経過当科初診時より1%ブリンゾラミド点眼液,0.5%チモロールマレイン酸点眼液,0.004%ラタノプロスト点眼液の両眼への点眼治療を再開した.また,CL装用継続希望があり,アドヒアランスを考慮し点眼薬数と点眼回数の減少を図り,平成23年8月11日よりトラボプロスト点眼液,ドルゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼液に切り替えた.その後眼圧は13.16mmHgで推移している.図2HRT.II(a:右眼,b:左眼)著明な乳頭陥凹の所見を認める.(123)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012999 III考按インターネット通販で約10年間CLを購入し,末期緑内障で受診した若年者の緑内障患者を経験した.患者は右眼の視力低下を自覚し来院した.初診時右眼の矯正視力は0.5と不良であり,またGoldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野障害を認めた.両眼とも等価球面度数でおよそ.7Dの高度近視であった.緑内障薬物治療に反応し,眼圧コントロールは良好である.図3SD.OCT乳頭周囲の視神経線維の高度な菲薄化を認める.緑内障の多くは成人以降に発症し,40歳以降の成人人口の5%が罹患していることがわが国の疫学調査で明らかにされた3).一方,ホスピタルベースのデータではあるが,眼科クリニックを受診した40歳未満の緑内障患者は0.12%と報告され4),若年者の緑内障にも注意が必要とされている.若年者の緑内障の特徴として屈折が近視であることが報告されている5.7).本症例も両眼とも等価球面度数で約.7Dの強い近視眼であった.また,若年者の正常眼圧緑内障患者も青壮年以降発症のそれと比べ,有意に近視眼が多いことが知られており6),近視性の屈折異常はこの点に十分に注意して眼科検査を行う必要がある.このように若年者の緑内障は近視眼に多く,その発見の契機はCLや眼鏡作製時の偶然の眼底検査やときに眼圧上昇であることが知られている7,8).今回の症例は10年前に量販店のコンタクトレンズセンターでCLを処方されており,その際にどのような眼科的検査が行われていたかは明らかではない.一般的には近視,特に強い近視を伴う緑内障では視神経乳頭の形状異常や視神経線維層欠損が見逃しやすいなど,緑内障性変化の検出が困難なことも多く,専門の眼科医での検査が重要である.近年,わが国において,近視の有病率が急速に増加している.13年間で17歳以下の近視有病率は49.5%から65.6%に増加しており,また10歳以上の学童の屈折は有意に近視にシフトしていることが明らかとなっている10).また,アンケート調査ではCLを装用開始する年齢層は小学校高学年13%,中学生59%,高校生では24%となっており11),これらの年齢層での眼疾患,特に緑内障のスクリーニングはきわめて重要といえる.このような近視人口の増加に伴うCL装用者の増加とともに患者側の問題点としてアンケート調査12,13)が行われたが,2008.2009年にインターネットでのCL購入者が12.4%から22.9%と増加していること,処方時に眼科医を含めた医師の診察を受けていない症例が6.7%にab図4Goldmann視野検査(a:右眼,b:左眼)湖崎分類で右眼IIIb期,左眼IIIa期の進行した視野異常を認める.1000あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(124) 上ること,また約半数の45.5%が不定期ないし定期検査を受けていないことが明らかにされた.CL処方時のスクリーニング検査の問題点としては2005年にコンタクトレンズ診療ガイドラインが示され14),問診に始まり,他覚的屈折検査,自覚的屈折検査を始め,13項目の眼科検査項目が列挙されている.そのなかで眼圧検査と眼底検査は緑内障を含めた眼科標準検査項目であるにもかかわらず,ルーチンの検査とはされず,検査は医師の裁量に任されている.緑内障は青壮年以降に好発する疾患であり,真の発症時期に関しては当然ではあるがより若年層である可能性が推察される.また,眼圧は緑内障進行・悪化の重要かつ最大の危険因子であり,その変動も緑内障進行悪化に影響すると考えられている.今回の症例のように若年者でも高眼圧を伴った開放隅角緑内障を認める可能性もあり,自覚症状も乏しいことから眼科専門医による確実,かつ精度の高い検査がきわめて重要と言える.IVまとめ成人以降の緑内障は末期に至るまで自覚症状に乏しく,多くの潜在患者がいることが報告された3).一方で,緑内障はすべての年齢層で発症し,余命が長いほど失明に至る可能性が増加する.若年者の緑内障は近視性の屈折異常が多く,CLあるいは眼鏡作製で眼科を受診するときが発見の好機となる.一方で,近視眼では陥凹の境界が不鮮明かつ乳頭辺縁(リム)が不鮮明である,乳頭が傾斜していることがある,視神経線維層欠損が検出しにくい,など眼科医でも診断に苦慮する場合が少なくない.この観点からも緑内障の診断には最終的には専門の眼科医の診察が重要である.さらに医療側だけでなく患者側に対してもCL処方時の診察と定期検査の必要性,重要性についての教育が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計報告(平成21年度).日本の眼科81:408-412,20102)熊川真樹子,稲田紀子,庄司純ほか:KingellaKingaが検出されたコンタクトレンズ関連角膜感染症の1例.眼科52:319-323,20103)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)岡田芳春:若年者における緑内障.臨眼57:997-1000,20035)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者の正常眼圧緑内障.あたらしい眼科14:1235-1241,19976)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者と中高年者の正常眼圧緑内障の比較.あたらしい眼科16:423-426,19997)末廣久美子,溝上志朗,川崎史朗ほか:初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例.あたらしい眼科23:697-700,20088)小川一郎:若年性正常眼圧緑内障.臨眼89:1631-1639,19959)丸山亜紀,屋宜友子,神前あいほか:若年発症した正常眼圧緑内障の視神経乳頭.臨眼99:297-299,200510)MatsumuraH,HiraiH:Prevalenceofmyopiaandrefractivechangesinstudentsfrom3to17yearsofage.SurvOphthalmol44(Suppl1):S109-S115,199911)鳥居秀成,不二門尚,宇津見義一:学校近視の現況に関する2010年度アンケート調査報告.日本の眼科82:531541,201112)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本コンタクトレンズ協議会)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,201013)植田喜一,上川眞巳,田倉智之(日本眼科医会医療対策部)ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者の実態調査.日本の眼科80:947-953,200914)糸井素純,稲葉昌丸,植田喜一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン.日眼会誌109:637-665,2005***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121001

緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(127)10310910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(7):10311034,2008cはじめに小切開で行う超音波水晶体乳化吸引術と折りたたみ式眼内レンズ(PEA+IOL)の普及で白内障手術の安全性は飛躍的に高まった.このことを背景として,開放隅角緑内障に対しても白内障手術が積極的に行われるようになっている.緑内障手術既往のない症例では白内障術後に眼圧は下降し,緑内障点眼薬数も減少すると報告されることが多い14).一方で線維柱帯切除術の既往のある症例ではさまざまな報告がなされており,眼圧コントロール不良になることがある5,6),長期的にみても眼圧に悪影響を及ぼさない7,8)など意見が一致しない.そこで今回,開放隅角緑内障眼にPEA+IOLを行ったときの眼圧および併用緑内障点眼薬数の変動を調べ,線維柱帯切除術既往が及ぼす影響について検討した.I対象および方法2004年11月から2007年6月に広島大学病院眼科にて白内障手術を施行した原発開放隅角緑内障患者34例34眼(男性22例,女性12例)を対象とし,別に白内障以外に眼疾患〔別刷請求先〕原田陽介:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:YosukeHarada,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響原田陽介*1望月英毅*2高松倫也*2木内良明*2*1県立広島病院眼科*2広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EectonIntraocularPressureafterPhacoemulsicationinGlaucomatousEyesYosukeHarada1),HidekiMochizuki2),MichiyaTakamatsu2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaPrefecturalHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity緑内障眼に対する白内障術後早期の眼圧について手術既往のない開放隅角緑内障22眼と線維柱帯切除術を受けている12眼で手術前および術後2カ月の時点での眼圧,点眼薬数について検討した.眼圧は手術既往のない群では術前14.37±3.01mmHgから術後13.22±3.45mmHgへ,線維柱帯切除術既往群では12.61±2.86mmHgから11.41±2.64mmHgへ低下した.緑内障点眼数は手術既往のないものでは1.66±1.01剤から1.00±0.94剤へ,線維柱帯切除術既往群は1.08±1.51剤から0.33±0.15剤へとともに術前に比べて減少した.しかし,線維柱帯切除術を受けている症例では1例が術後眼圧コントロール不良に,1例が濾過胞の機能不全となり,線維柱帯切除術や濾過胞再建術を施行されている.緑内障眼に白内障手術を行った場合,手術既往のない緑内障眼では術後眼圧は下降する傾向を認めたが,濾過胞を有する症例には細心の注意が必要である.Cataractsurgerywasperformedon34eyeswithopen-angleglaucoma,comprising22eyeswithnohistoryofsurgery(phaco-onlygroup)and12eyesthathadundergonelteringsurgery(trabeculectomygroup).Preopera-tiveintraocularpressure(IOP)was14.37±3.01mmHginthephaco-onlygroupand12.61±2.86mmHginthetra-beculectomygroup,whichdecreasedto13.22±3.45mmHgand11.41±2.64mmHgintwomonthsaftersurgery,respectively.Meannumberoftopicalmedicationsalsodecreased,from1.66±1.01to1.00±0.94inthephaco-onlygroupandfrom1.08±1.51to0.33±0.15inthetrabeculectomygroup.However,2outof12eyesinthetrabeculec-tomygroupunderwentadditionallteringsurgeryaftercataractsurgeryduetolossofIOPcontrolorreducedblebfunction.Theseresultsindicatethatineyeswithoutpreviouslteringsurgery,cataractsurgeryisbenecialforIOPcontrol,butthatinsomeeyeswithpreviouslteringsurgeryitmayjeopardizetheeect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10311034,2008〕Keywords:白内障手術,開放隅角緑内障,術後眼圧,線維柱帯切除術,一過性眼圧上昇.cataractsurgery,open-angleglaucoma,postoperativeintraocularpressure(IOP),trabeculectomy,transientIOPelevation.———————————————————————-Page21032あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(128)±2.90mmHg(p=0.014)といずれの群においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(表1).一過性眼圧上昇の有無を検討したところ,対照群では32眼中1眼のみであったのに対し,緑内障眼では手術既往のないものは22眼中7眼,線維柱帯切除術既往のあるものは12眼中5眼とともに対照群と比較して有意に一過性眼圧上昇をきたしやすいことが明らかになった(手術既往なし:p=0.004,線維柱帯切除術既往:p=0.001)(図1).緑内障眼においては一過性眼圧上昇の有無で年齢,術前眼圧,術前併用点眼薬数,術前MD値について検討したが,手術既往の有無にかかわらずこれらの因子との間には明らかな相関関係は指摘できなかった.2.併用緑内障点眼薬数の変化手術既往のない群では術前は平均1.66±1.01剤であった併用点眼薬数は術後2カ月の時点で1.00±0.94剤と有意に減少していた(p=0.014).一方,線維柱帯切除術既往のある症例では術前1.08±1.51剤が術後2カ月で0.33±0.15剤と減少傾向があるものの有意差はなかった(p=0.109)(表2).3.緑内障再手術が必要になった症例線維柱帯切除術の既往がある12眼のうち2眼は濾過手術が追加された.緑内障再手術に至る経緯としては,1眼では術前眼圧16mmHgから術後1日より30mmHgを超える眼圧上昇が続き,濾過胞の機能不全もきたしたため白内障手術後4日目に線維柱帯切除術を施行した.もう1眼は術後の急激な眼圧上昇はなかったが,術後1カ月より濾過胞機能不全となり,その後も改善が認められなかったため,白内障術後のない32例32眼の成績と比較した.緑内障患者において両眼白内障手術を施行された症例については,視野障害の進行した眼側を対象とした.症例の内訳は,手術既往のないものが22眼,線維柱帯切除術の既往があり,濾過胞のあるものが12眼である.対象には正常眼圧緑内障4眼(手術既往なし3眼,線維柱帯切除既往あり1眼)も含まれている.手術既往のない症例では強角膜切開で,濾過胞を有する症例では耳側角膜切開で白内障手術を行い折りたたみレンズを内に挿入した.全例とも白内障手術は問題なく行われ,術中に後破損,硝子体脱出などの合併症を生じた症例は対象から除外した.線維柱帯切除術は全例鼻上側または耳上側で施行している.各症例の手術前後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.術前眼圧は手術前の別の日に測定した2回の眼圧の平均とし,術後は術翌日から退院時までと術後1カ月,2カ月の眼圧を調べた.また,術後退院までに眼圧が30mmHg以上になったとき,術前と比べて5mmHg以上の眼圧が上昇したときを術後一過性眼圧上昇と定義し,緑内障群と対照群でその頻度を比較した.緑内障群では一過性眼圧上昇をきたした症例に共通の特徴があるか調べるために年齢,術前眼圧,術前点眼薬数,術前MD(平均偏差)値について検討した.結果は平均±標準偏差で表記し,術前後の眼圧変化はpaired-t検定,点眼数の変化はWilcoxonsigned-rankedtestを用い,p<0.05を有意差ありとした.緑内障群と対照群における術後一過性眼圧上昇をきたす頻度の比較はMann-WhitneyUtestを用い,Bonferroniの補正を行って,p<0.025を有意差ありとした.II結果1.眼圧の経過白内障手術前眼圧は緑内障手術の既往のない緑内障眼22眼では14.37±3.01mmHgであり,線維柱帯切除術を受けている12眼では12.61±2.86mmHgであった.白内障以外に眼疾患のない対照群の術前平均眼圧は14.23±3.17mmHgであった.白内障手術後2カ月の時点の眼圧は緑内障手術既往のないものは13.22±3.45mmHg(p=0.040),線維柱帯切除術の既往症例は11.41±2.64mmHg(p=0.031),対照群では12.47表1術前後の眼圧変化n術前眼圧(Mean±SDmmHg)術後眼圧(2カ月)(Mean±SDmmHg)対照群3214.23±3.1712.51±2.90(p=0.002)手術既往なし2214.37±3.0113.22±3.45(p=0.040)TLE既往1212.61±2.8611.41±2.64(p=0.031)手術既往なし:手術既往のない緑内障眼,TLE既往:線維柱帯切除術既往のある緑内障眼.(Pairedt-test)表2術前後の緑内障点眼薬数の変化術前,剤数(Mean±SD)術後(2カ月),剤数(Mean±SD)手術既往なし1.66±1.011.00±0.94(p=0.014)TLE既往1.08±1.510.33±0.15(p=0.109)Wilcoxonsingle-ranktest.図1術後早期における一過性眼圧上昇TLE既往(眼)Mann-WhitneyUtest手術既往なし対照群———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081033(129)の眼圧上昇は術後1カ月の時点で全例改善しているのに対し,手術既往のある1症例は術後早期の眼圧上昇が持続したため緑内障再手術に至っている.白内障術後の眼圧上昇のピークは術後46時間後に起こるとの報告もあり13),術後当日に眼圧測定し早期の対応ができるようにするなど注意が必要である.以上より,緑内障眼に対して白内障手術を行った症例を検討した結果,手術既往のない群では術後早期の一過性眼圧上昇はきたしやすいものの,術後2カ月の時点では点眼数が減少した状態で術前に比べ眼圧下降が得られた.一方,線維柱帯切除術既往例では手術既往のない群と同様に眼圧下降効果は認めるも,症例数は少ないが2/12の確率で術後に眼圧コントロール不良,濾過胞機能不全による緑内障再手術が必要となっている.したがって,患者へリスクの説明を十分行い,手術中には水晶体残渣や粘弾性物質を取り除くべく前房灌流を十分行い,術後は眼圧変動,濾過胞の状態に注意することが必要と考える.文献1)MonicaLM,ZimmermanTJ,McMahanLB:Implantationofposteriorchamberlensesinglaucomapatients.AnnOphthalmol109:9-10,19852)PohjalainenT,VestiE,UnsitaloRetal:Phacoemulsica-tionandintraocularlensimplantationineyeswithopen-angleglaucoma.ActaOphthalmolScand79:313-316,20013)尾島知成,田辺昌代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発性開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障の術後経過.臨眼59:1993-1997,20054)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発性開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19965)CassonR,RahmanR,SalmonJF:Phacoemulsicationwithintraocularlensimplantationaftertrabeculectomy.JGlaucoma11:429-433,20026)EhrnroothP,LehtoI,PuskaPetal:Phacoemulsicationintrabecutomizedeyes.ActaOphthalmolScand83:561-565,20057)ParkHJ,KwonYH,WeitzmanMetal:Temporalcornealphacoemulsicationinpatientswithlteredglaucoma.4カ月で濾過胞再建術を行った(表3).III考按今回筆者らは開放隅角緑内障眼に白内障手術を行った後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.その結果,線維柱帯切除術の既往のない群では,白内障術後2カ月の時点では術前と比べて眼圧は下降し,必要とされる緑内障点眼薬数も減少して,過去の報告14)と矛盾しないものであった.眼圧が下降する機序としては,①手術による房水産生量の低下,②血液房水関門の変化,③手術操作による線維柱帯からの房水排泄効率の上昇,④白内障手術により前房が深くなるためなどの仮説がある912)が詳細は不明である.線維柱帯切除術既往のある群では,眼圧は手術既往のないものと同様に下降していた.しかし点眼数については,減少効果はあるものの有意差はなかった.これは症例数が限られていたことも要因となっているであろう.手術既往群では12眼中2眼で緑内障再手術が必要となっていることは注目に値する.手術既往のある症例に対する白内障手術の眼圧への影響は1年以上経過を追っている文献でも,眼圧上昇傾向を示すもの5)もあれば逆に眼圧に悪影響を及ぼさないとの報告7,8)もあり意見は分かれている.白内障手術後1年間経過観察したParkらの報告によると,白内障術後3カ月以降は術前眼圧とほぼ同等になっているが,白内障術後1カ月までは眼圧は変動し術前に比べ高眼圧の傾向にある7).われわれもひき続き長期的に眼圧の変動を観察し過去の報告との比較検討が必要である.しかし,白内障手術により血液房水関門が破綻し,炎症メディエーターが前房中に放出されることで,強膜弁の瘢痕形成と周辺結膜の癒着が起こり,濾過胞の機能不全に陥る可能性は十分考えられる.したがって,手術既往のある症例に対する白内障手術は術後早期に緑内障再手術の危険性を伴うことを念頭に置く必要がある.術後の一過性眼圧上昇は対照群に比べ,手術既往の有無にかかわらず,緑内障眼で高頻度に起こった.術後の一過性眼圧上昇をきたす機序としては,①血液房水関門の破綻,②線維柱帯の浮腫や屈曲による流出障害,③水晶体残渣による流出抵抗の増大,④房水蛋白の増加,⑤粘弾性物質の残留などが考えられている13).また,手術既往のない緑内障群ではこ表3術後眼圧上昇をきたした2例過去の緑内障手術の回数術前眼圧(mmHg)一過性眼圧上昇経過症例1(77歳,男性)2線維柱帯切除術1濾過胞再建116+眼圧上昇のため術後4日目に線維柱帯切除術施行症例2(80歳,女性)1線維柱帯切除術114.7眼圧上昇,濾過胞限局化のため術後4カ月で濾過胞再建施行———————————————————————-Page41034あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008ArchOphthalmol115:1375-1380,19978)MietzH,AndersenA,WelsandtGetal:Eectofcata-ractsurgeryonintraocularpressureineyeswithprevi-oustrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol239:763-769,20019)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.TransAmAcadOphthalmolOtolar-yngol75:260-272,197110)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Evtracapsularcata-ractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198711)MeyreMA,SavittML,KopitasE:Theeectofphaco-emulsicationonaqueousoutowfacility.Ophthalology104:1221-1227,199712)SteuhlKP,MarahrensP,FrohnCetal:Intraocularpres-sureandanteriorchamberdepthbeforeandafterextra-capsurecataractextractionwithposteriorchamberlensimplantation.OphthalmicSurg23:233-237,199213)大西健夫,小池昇,浅野徹ほか:白内障術後24時間における瞳孔径・眼圧・角膜乱視の経時的変化.あたらしい眼科10:835-839,1993(130)***