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原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):292.295,2017c原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症酒井寛與那原理子新垣淑邦力石洋平玉城環琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座Preoperative,IntraoperativeandPostoperativeComplicationsofSmallIncisionCataractSurgeryforCataractandPrimaryAngle-closureDiseasesHiroshiSakai,MichikoYonahara,YoshikuniArakaki,YoheiChikaraishiandTamakiTamashiroDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:原発閉塞隅角眼の白内障手術合併症の検討.対象:原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は原発閉塞隅角緑内障(PACG)98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,原発閉塞隅角症(PAC)40眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)26眼.方法:術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無を検討した.結果:術前高眼圧22mmHg以上32眼(17%),同30mHg以上8眼,CD1,500未満20眼(10%),同1,000未満5眼,3mm以下の散瞳不良8眼,毛様小帯の脆弱10眼(5.4%).術中合併症は,術中悪性緑内障で硝子体切除を施行1眼,術中フロッピーアイリス症候群1眼で,後.破損例はなく,毛様小帯の脆弱から眼内レンズ(IOL)毛様溝縫着となった1眼を除く全例でIOL.内固定された.術後高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上6眼,術後新たにCD1,500/mm2未満9眼.術後眼内炎の発症,水疱性角膜症など重篤な合併症はなかった.Subjects:184eyesof121primaryangle-closurediseasesunderwentsmallincisioncataractsurgeries.Mainoutcomemeasures:Preoperative,intraoperativeandpostoperativecomplicationsuntil3monthaftersurgeries,intraocularpressure(IOP),cornealendothelialcelldensity(CD)andweakenedzonules.Results:Preoperatively,ocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgin32eyes,CDlessthan1500/mm2in19eyes,smallpupildiameterlessthan3mmin8eyesandweakenedzonulesin10eyeswererecorded.Intraoperatively,apatientwithmalignantglaucomaunderwentcorevitrectomy,andintraoperative.oppyirissyndromeoccurredinoneeye.IOLwasimplantedinthebaginallcases,exceptingoneinwhichweakenedzonulesrequiredIOLsuture.xation.Postoperativeocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgwasnotedin36eyes.CDlessthan1500/mm2wasnewlydiagnosedin9eyes.Therewerenoinstancesofpostoperativeendophthalmitisorbullouskeratopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):292.295,2017〕Keywords:原発閉塞隅角,白内障手術,術後合併症,高眼圧,角膜内皮細胞密度.primaryangleclosuredisease,cataractsurgery,postoperativecomplications,ocularhypertension,cornealendothelialcelldensity.はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は沖縄に多く,失明しやすい緑内障病型である1.3)が,手術により予防または治療が可能であり,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術または白内障手術が選択肢となる4).PACGの前段階であり緑内障性視神経症を伴わない原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),さらに眼圧上昇や周辺虹彩前癒着も伴わない原発閉塞隅角症疑い(PACS)に対しても予防的に手術加療が行われるが,その適応や合併症の発症率は明らかではない4).PACG,PACおよびPACSを包括した原発閉塞隅角(primaryangleclosuredesease:PACD)眼に対する白内障手術では,浅前房,角膜内皮細胞〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN292(150)密度の減少,毛様小帯の脆弱など術前から存在する合併症も存在し,術中,術後合併症の発症に影響を与えると考えられる.今回,筆者らはPAC眼に対する白内障手術の術前,術中,術後合併症について検討した.I対象琉球大学医学部附属病院眼科において,2010年の1年間に同一術者(H.S.)により施行された原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は,PACG98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,PAC40眼,PACS26眼.男性76眼,女性108眼,年齢は70±8.9歳(49.89歳)であった.対象の内訳を表1に示す.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着を前提として手術を予定した,術前から明らかな水晶体動揺がある症例は今回の検討には含んでいない.全例に緑内障専門医による隅角鏡検査,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)検査を行い診断した.PACSでは,UBMで4象限の閉塞がある場合,または3象限以上の閉塞があり,残る一象限も狭い場合を手術適応の基準とし,PACおよびPACGは,基本的に手術適応とし,いずれも本人への詳細な説明と同意のもとに手術を施行した.すでに,レーザー虹彩切開術(LI)が43眼(23%)に,周辺虹彩切除術が20眼(11%)に施行されていた.121眼(66%)では2.4mm耳側角膜切開による超音波乳化吸引術+IOL挿入術(PEA+IOL)を初回手術として施行した.麻酔は全例点眼麻酔で行った.II方法術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無をカルテの記載より記録し検討した.術前に外来において手術の危険因子となりうるもの,および,手術開始後明らかになった合併症で手術前から存在したと考えられるものを術前合併症とした.前.切開(continuouscurvicularcapslotomy:CCC)開始時に明らかになった毛様小帯脆弱も術前合併症に分類した.術後合併症は術後3カ月までの早期合併症を検討した.III結果1.術前合併症緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない高眼圧(22mmHg以上)が32眼(17%)に,同30mHg以上が8眼にあった.術前スペキュラマイクロスコープにより測定されたCD値2,000/mm2未満が28眼(15%),1,500/mm2未満19眼(11%),1,000/mm2未満5眼(2.7%)に存在した.瞳孔径は,術前散瞳で手術開始時に3mm以下の散瞳不良で瞳孔拡張を必要とするものが8眼(4.3%),毛様小帯の脆弱が10眼(5.4%)であった.2.術中合併症1例で,超音波乳化吸引中に前房形成不良となり,術中悪性緑内障と診断した.硝子体切除を施行し前房形成が得られたため手術を完遂可能であった.1例で,術中フロッピーアイリス症候群を発症したが,低灌流設定で手術完遂した.CCCの亀裂や後.破損例はなかった.毛様小帯の脆弱から皮質吸引終了後IOLを毛様溝縫着した1眼を除く全例でIOLは.内固定された.3.術後合併症術後1週間以内の高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上が6眼(3.8%)にあったが,1眼を除く全例で1カ月以内に緑内障点眼併用下に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.1眼では術後1週間で線維柱帯切除術を追加した.PACSの眼圧上昇はすべて術翌日のみで,点眼なしで1週間以内に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.術後初回外来受診時の測定で新たにCDが1,500/mm2未満となったものが9眼あった.この9眼のうち4眼ではCDは術後1カ月までに1,500/mm2以上となった.減少が持続した5眼のうち2眼にはLIの既往があり,1例はIOL縫着となった症例だった.術後1週の時点で,CD2,000/mm2未満は41眼(22%),1,500/mm2未満は17眼,1,000/mm2未満は3眼に確認された.術後2段階以上の矯正視力の低下した症例はなく,術後眼内炎の発症,水疱性角膜症などの重篤な合併症もなかった.4.病型別の合併症PACG,APAC,PAC,PACSの病型別の術前,術後合併症を表1に示す.術前高眼圧を除いて,病型間に術前,術後合併症の頻度の統計的な差はなかった(p>0.05,c2検定).IV考察2016年に眼圧30mmHg以上のPACおよびPACGを対象とした前向きのランダム化比較試験が示されPEA+IOLがLIよりも眼圧コントロール,QOL(qualityoflife),費用対効果の点で優れていることがLancet誌に報告された5).PEA+IOLがPACD眼の眼圧コントロールに優れていることも多くの報告があり,米国眼科アカデミーの報告と題したレビューも2015年にOphthalmology誌に掲載された6).PACG,PACに対するPEA+IOLの有効性は世界的に確認されたと考えられる.一方,PACD眼は浅前房であり,術前から眼圧が高いPAC,PACGが含まれ,LI,周辺虹彩切除術,APACの既往眼があり,CD減少や毛様小帯の脆弱を伴う症例が存在することが知られている.久米島で行われた疫学調査から,正常対象のCDは2,943±387/mm2で,CD2,000/mm2未満は.2S.D.未満と非常に稀であることが明らかになった.今回の症例では,CD2,000/mm2未満は術前に表1病型別の術前,術後合併症n性別n術前高眼圧術前高眼圧術前内皮散瞳不良術前毛様小帯術後高眼圧術後高眼圧術後内皮病型(症例)(男:女)(眼)年齢(*)(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満(3mm以下)の脆弱(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満PACG7131:419870±8.420(20.4%)5(5.1%)12(12%)5(5.4%)4(4.1%)22(22%)5(5.1%)12(12%)APAC196:132065±7.95(25%)3(15%)3(15%)1(5%)2(10%)2(10%)01(5%)PAC3411:234073±9.95(12.5%)02(5%)2(5%)1(2.5%)8(20%)1(2.5%)4(10%)PACS195:142671±9.2──2(7.7%)03(12%)4(15%)00±標準信差*平均PACG:原発閉塞隅角緑内障,APAC:急性原発閉塞隅角症,PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,内皮:角膜内皮細胞密度(/mm2).※術後高眼圧,術後内皮は術後1週間での頻度.※診断は眼単位で行われており両眼の病型が異なる症例が含まれているため,性別の合計症例数は全体よりも多い.15%,術後に22%と高い頻度であった.筆者らは,沖縄における原発閉塞眼の白内障手術の特徴として浅前房,短眼軸があり,術前からCDが少なく,術後CD減少は術前の浅前房と関連することを過去に報告している7,8).浅前房で前房内操作スペースが狭いことが術後CD減少の原因と考えられる.PAC眼のPEA+IOLの施行例の早期術後合併症としての角膜内皮障害の多さは術前から内皮障害が存在し,浅前房であることが原因になっていると考えられた.一方,眼圧は緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない22mmHg以上の高眼圧が17%,30mHg以上でも4%にあったが,術後は線維柱帯切除術を要した1眼を除き点眼にて眼圧コントロールが得られた.数多くの既報のとおり,PEA+IOLはPACD眼の眼圧コントロールにおいて優れている.角膜内皮減少にも注意が必要であるが,CD1,500/mm2未満は術前19眼に対して,術後1週で17眼と測定誤差による変動の範囲であった.今回の研究は後ろ向きの症例研究であり,無作為化されていない.また,患者の多くを紹介先病院へ逆紹介しているため経過観察期間が短いという限界がある.対象が沖縄という島嶼県の大学病院という重症例を中心とした紹介患者が中心となり,術者も熟練した単一術者によるものであり,結果を一般化することができない点も限界である.しかしながら,今回の研究の意義の一つは,現在の沖縄県における閉塞隅角緑内障診療の一面を合併症に焦点を当てて記録することである.また,相対的に一般化されうる事実としてPACD眼に術前の高眼圧,角膜内皮障害,毛様小帯の脆弱などが存在すること,こうした術前合併症に対して注意深い診察が必要なことをあげたい.事実,筆者らは術前に全例にUBMを行い,毛様小帯脆弱が著明な症例などには硝子体手術の併用など術式変更を考慮して適応を決定している.また,今回の症例には含まれなかったが角膜内皮移植を前提に手術を行うこともある.こうした条件のもとではPACD眼に対するPEA+IOLは安全で効果的であることが確認された.もしも,高リスク症例を厳密に区別することなく同様の検討を行えば,術後成績は低下すると考えられる.PACD眼の手術選択においては合併症を,術前,術中,術後の総合的な局面から考慮して決定することが望まれる.文献1)NakamuraY,TomidokoroA,SawaguchiSetal:Preva-lenceandcausesoflowvisionandblindnessinaruralSouthwestIslandofJapan:theKumejimastudy.Ophthal-mology117:2315-2321,20102)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20123)YamamotoS,SawaguchiS,IwaseAetal:Primaryopen-angleglaucomainapopulationassociatedwithhighprev-alenceofprimaryangle-closureglaucoma:theKumejimaStudy.Ophthalmology121:1558-1565,20144)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版)第4章緑内障の治療総論.日眼会誌116:22-29,20125)Azuara-BlancoA,BurrJ,RamsayCetal:E.ectivenessofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureglaucoma(EAGLE):arandomisedcon-trolledtrial.Lancet388:1389-1397,20166)ChenPP,LinSC,JunkAKetal:Thee.ectofphaco-emulsi.cationonintraocularpressureinglaucomapatients:AReportbytheAmericanAcademyofOph-thalmology.Ophthalmology122:1294-1307,20157)早川和久,酒井寛,仲村佳巳ほか:沖縄の白内障手術症例の特徴.臨眼56:789-793,20028)上門千時,酒井寛,早川和久ほか:超音波乳化吸引術後早期の角膜内皮細胞密度と前房深度との関係.臨眼56:1103-1106,2002.***