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眼内レンズMP70 を用いた眼内レンズ縫着術の術後短期成績

2023年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(2):252.256,2023c眼内レンズMP70を用いた眼内レンズ縫着術の術後短期成績佐藤彩乃竹内正樹河野奈々子黄士恭岡崎信也山田教弘水木信久横浜市立大学附属病院眼科CShort-termOutcomesofTransscleralSutureFixationoftheHOYAMP70IntraocularLensAyanoSato,MasakiTakeuchi,NanakoKawano,ShihkungHuang,ShinyaOkazaki,NorihiroYamadaandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityHospitalC目的:支持部にCpositioningnotchを有する眼内レンズ(intraocularlens:IOL),HOYAエイエフ-1iMics1(モデル名:MP70)を用いたCIOL縫着術についての術後短期成績を検討した.方法:横浜市立大学附属病院眼科においてMP70を用いたCIOL縫着術を行った患者について,術前後矯正視力,レフ屈折値,目標屈折値と術後屈折値との差(以下,屈折誤差),IOL傾斜と偏位を測定した.術後結果はすべて術後C3カ月時点で計測した.結果:対象は9例9眼.矯正視力は術前C0.85±0.44,術後C1.02±0.28(p=0.04),レフ屈折値は術前C5.19±6.26D,術後.1.21±1.39D(p=0.003)と有意に改善を認めた.屈折誤差は.0.03±0.59Dであった.IOL傾斜および偏位はC5例で測定し,傾斜は5.14C±3.26°,偏位はC0.54±0.10Cmmであった.術中C1例で支持部の屈曲とCIOLの回転がみられた.術後低眼圧による脈絡膜.離,および黄斑浮腫を各C1例認めたが,いずれも空気注入または点眼にて改善を得られた.結論:MP70を用いたIOL縫着術はCIOLの安定性に寄与すると考えられた.術者は支持部の張力への脆弱性について留意して操作しなければならない.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCoutcomesCofCtransscleralCsutureC.xationCofCtheCHOYACAF-1CiMics1(MP70),anintraocularlens(IOL)withtwopositioningnotchesateachhaptic.SubjectsandMethods:InpatientswhoCunderwentCtransscleralCsutureC.xationCofCtheCMP70CIOL,CpreCandCpostoperativeCbest-correctedCvisualCacuity(BCVA),refractivepower,predictionerror,andIOLtiltanddecentrationwereexamined,andsurgicaloutcomeswereevaluatedat3-monthspostoperative.Results:In9eyesof9patientsincludedinthestudy,themeanpreop-erativeandpostoperativeBCVAwas0.85±0.44CandC1.02±0.28,respectively(p=0.04),themeanrefractivepowerimprovedfrom5.19±6.26diopters(D)to.1.21±1.39D(p=0.003),andin5patients,themeanIOLtiltanglewas5.14±3.26°Canddecentrationwas0.54±0.10Cmm.PostoperativecomplicationsincludedocularhypotensionresultinginCchoroidalCdetachment,CandCmacularCedema,CyetCbothCsoonCimprovedCfollowingCanCairCtamponadeCandCeyeCdropCmedication.CInC1Cpatient,CintraoperativeCIOLCrotationCandCbendingCofCtheChapticCwasCobserved.CConclusion:CAlthoughtheMP70wasfoundtoprovidereliablestabilityforIOLtransscleralsuture.xation,surgeonsshouldbeawareofthesusceptibilitytosuturetensionandthepullingdirection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(2):252.256,C2023〕Keywords:MP70,眼内レンズ縫着術,眼内レンズ傾斜,偏位.positioningnotch,transscleralsuture.xation,in-traocularlenstilt,decentration.Cはじめに白内障手術時に眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の.内固定や.外固定が困難な症例において,IOL縫着術はもっとも基本的な術式の一つであるが,術後のCIOL傾斜や偏位が患者の視機能に大きく影響することがある1,2).これらを最小限に抑えるためには,左右対称かつ均衡のとれた縫着が必須であり3),今日まで術式の工夫のみならず,アイレットを有するCZ70BD(アルコン社)やCP366UV(ポシュロム社),VA70AD(HOYA)などさまざまなCIOLが開発されてきた.しかし,CZ70BDやCP366UVはポリメチルメタクリ〔別刷請求先〕佐藤彩乃:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学附属病院眼科Reprintrequests:AyanoSato,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityHospital,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,YokohamaCity,Kanagawa236-0004,JAPANC252(114)レート(polymethylCmethacrylate:PMMA)素材であるため切開創が大きくなるという欠点があり,VA70ADはフォーダブルレンズであるものの,非着色眼内レンズであるため着色眼内レンズと比較し,コントラスト感度が低下したり4),網膜色素上皮細胞への光線酸化ストレスを受けやすくなったりする5).また,近年では支持部や全長が長いCNX-70(参天製薬)が用いられていることも多い.今回CHOYAにより開発されたCHOYAエイエフ-1iMics1(モデル名:MP70)は径C13Cmm,アクリル疎水性のC3ピースCIOLであり,各支持部にC2個の特徴的な突起(以下,positioningnotch)を有している(図1).本研究では,IOL縫着術において,このCpositioningnotch間に結び目を作製することでCIOLの安定性に寄与するのではないかと考え,その短期成績と有効性について報告する.CI対象および方法1.対象および方法横浜市立大学倫理審査委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に基づいて後ろ向き観察研究を行った.2019年C12月.2021年C5月に当院でCMP70を用いたCIOL縫着術を施行された患者を対象とした.評価項目は術前後の矯正視力,レフ屈折値,目標屈折値と術後屈折値の差(以下,屈折誤差),IOL傾斜および偏位量とした.屈折検査はオートレフラクトメータ(ARK-1a,ニデック)を使用し,IOL傾斜および偏位は,前眼部光干渉断層計(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定した.すべての術後結果は術後C3カ月の時点で測定した.C2.手術方法2%塩酸リドカインによる球後麻酔導入後,右眼ではC2時およびC8時方向,左眼ではC4時およびC10時方向に,角膜輪部よりC2.0Cmmの位置で強膜フラップを作製した(図2a).水晶体摘出の場合はC2.4Cmm,IOL摘出の場合はC3.4Cmmの強角膜切開創をC12時方向に作製し,水晶体やCIOLが落下していない症例や,水晶体.の破損がない症例,Zinn小帯断裂がない症例についてはCinfusioncannulaのみ設置し,それ以外の症例ではC3ポートC27G硝子体手術併用で行った.IOL摘出の際は,IOLカッターを用いて半分に切断し摘出した(図2b).針付C10-0ポリプロピレン糸の直針をC8時またはC10時の強膜フラップより挿入,先端をやや弯曲させた別のC27CG針を反対側の強膜フラップより挿入し,10-0ポリプロピレン糸を通糸した(図2c).IOLフックを用いて強角膜切開創よりC10-0ポリプロピレン糸を引き出し,左右対称の長さになるよう切断した.MP70をカートリッジに設置,支持部の前脚側のみを押し出したのち,2時またはC4時方向の10-0ポリプロピレン糸をCpositioningnotch間で結びつけた(図2d).レンズを前房内に挿入し,支持部の後脚側のみ強Positioningnotch7.0mm13.0mm図1HOYAエイエフ-1iMics1(MP70)角膜切開創より脱出するように留置した.同様にC8時または10時方向のC10-0ポリプロピレン糸を後脚のCpositioningnotch間で結びつけたのち前房内に挿入し(図2e),レンズ全体を後房へ押し下げた(図2f).光学部が瞳孔中心に位置するようC10-0ポリプロピレン糸の両端を引っ張り(図2g)強膜フラップへ縫着(図2h),結膜で被覆し終刀とした(図2i).C3.統計学的検討統計ソフトはCSPSSver21.(IBM社)を使用した.屈折結果の評価にはCt検定を用い,p<0.05を有意とした.CII結果対象はC9例C9眼.症例ごとの基本情報について表1に示す.患者は全例男性,平均年齢はC57.9C±19.4歳であった.手術契機としては,2例が水晶体偏位,1例がCIOL脱臼,その他がCIOL偏位であった.6例が硝子体手術併用で施行された.平均観察期間はC5.11C±3.41カ月であった.術前後の矯正視力および屈折結果をあわせて表1に示す.術前矯正視力はC0.85C±0.44であったが,術後C3カ月時点での矯正視力はC1.02C±0.28と有意に改善を認めた(p=0.04).レフ屈折値は,5.19C±6.26DからC.1.21±1.39Dと遠視化の改善を認めた(p=0.003).屈折誤差はC.0.03±0.59Dとほぼすべての患者で目標屈折値と近い屈折値を得ることができた.IOL傾斜および偏位については,その後の通院状況などによりC5例でのみ計測を行い,IOL傾斜はC5.14C±3.26°,偏位はC0.54C±0.10Cmmであった(表2).術後合併症として,症例C3では低眼圧による脈絡膜.離を認めたが,フルオレセイン染色にて創口からの漏出がないことを確認し,空気注入により改善した.症例C8では黄斑浮腫を認めたが,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼にて速やかに改善が得られた.いずれも術後視力に影響はなかった.術中合併症として,症例C4では,MP70を後房に挿入し10-0ポリプロピレン糸の両端を引っ張った際に支持部が屈図2手術方法(代表症例)a:強膜フラップおよび強角膜切開創を作製.b:IOLを切断し摘出.Cc:10-0ポリプロピレン糸を通糸.Cd:IOL支持部前脚のCpositioningnotchへ結ぶ.Ce:IOLを前房内へ挿入し後脚のCpositioningnotchへ結ぶ.Cf:IOLを後房へ押し下げる.Cg:10-0ポリプロピレン糸の両端を引っぱる.h:強膜フラップへ縫合.i:結膜で被覆し終刀.曲し,レンズが回転するという現象が起きた.したがって,一度レンズ全体を虹彩上に戻し,絡まったC10-0ポリプロピレン糸をほどいた後,再び後房に戻し縫着を行った.これに起因するその他の合併症は認めなかった.CIII考按通常の白内障手術においては,IOLの種類にかかわらず,2.3°のCIOL傾斜およびC0.2.0.3Cmmの偏位は一般的であり,患者の視機能含め臨床的な影響はないとされているが6),5°以上の傾斜およびC1.0Cmm以上の偏位は,術後矯正視力低下や乱視量の増加など視機能に影響をもたらす7,8).IOL縫着術におけるCIOL傾斜や偏位量については,今日までさまざまな報告がなされており,三浦らの報告では,4.38C±3.72°およびC0.31C±0.26mm9),DurakらではC6.09C±3.80°およびC0.67±0.43mm10),林らでは6.35C±3.09°およびC0.62C±0.31Cmm11)であった.本研究では,複数の術者が執刀したなか,IOL傾斜はC5.14C±3.26°,偏位はC0.54C±0.10Cmmと比較的良好な結果が得られた.IOL縫着術は盲目的操作を伴うため,毛様溝に縫着できていない場合があり12),また,後.が不安定または欠損している場合は,IOL傾斜や偏位はより生じやすくなる.今回,一般的な白内障手術で認めるようなIOL傾斜および偏位量には達することはできなかったもの表1症例基本情報および術前後矯正視力と屈折結果観察期間PPVの矯正視力レフ屈折値(D)症例年齢性別(月)手術契機眼既往歴有無術前術後術前術後屈折誤差(D)表2IOL傾斜と偏位1C64男性C3IOL偏位水晶体偏位C.1.2C1.2C.3.50C.3.00+0.74C2C88男性C10水晶体偏位偽落屑症候群+0.15C0.8C.2.50C.3.00C.1.27C3C33男性C4IOL偏位外傷およびC.0.6C0.7+11.0+0.60+0.41網膜.離C4C60男性C4IOL偏位反対眼のCIOL縫着+1.2C1.2+6.50C.1.50+0.38強度近視および5C80男性C3IOL偏位網膜色素変性症+0.3C0.5+5.25C.2.25C.0.46C6C30男性C12IOL偏位成熟白内障C.0.6C1.2C.2.00C.0.75C.0.03C7C65男性C3IOL脱臼なし+1.2C1.2+10.75+0.75+0.24C8C47男性C4IOL偏位アトピー性皮膚炎+1.2C1.2+9.75C.1.25C.0.15C9C54男性C3水晶体偏位アトピー性皮膚炎+1.2C1.2+11.5C.0.50C.0.10C平均±SDC57.9±19.4C5.11±3.41C0.85±0.44C1.02±0.28C5.19±6.26C.1.21±1.39C.0.03±0.59Cp値Cp=0.04Cp=0.003CD:ジオプトリー,IOL:眼内レンズ,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除,SD:標準偏差.症例IOL傾斜(°)IOL偏位(mm)2C1.6C0.49C4C3.2C0.48C5C7.5C0.44C7C3.9C0.64C8C9.5C0.67C平均±SDC5.14±3.26C0.54±0.10CIOL:眼内レンズ,SD:標準偏差.の,MP70の特徴的なCpositioningnotchは支持部の中央部付近に位置しており,結び目から光学部間だけでなく,結び目から支持部先端部までの固定の安定性に寄与できるのではないかと考える.また,10-0ポリプロピレン糸を結びつける際の指標となるため,均一で対称性のある縫着力をもたらす.さらに,縫合糸の結び目が支持部上で滑ることにより対称性を失い,IOL傾斜や偏位を惹起する場合もあるが,MP70のCpositioningnotchにはこれらを防ぐ役割も果たしていると考えられる.しかし,症例C5およびC8では他の症例よりも比較的大きなIOL傾斜を認めた.原因として,強膜ポケットに挿入する10-0ポリプロピレン糸の直針や,反対側のC27CG針の穿刺位置のずれが大きかった可能性,両端の縫い付ける縫合力の違いが考えられる.IOL縫着術は複雑な手技を伴うため,IOL傾斜や偏位を予防するうえでは術者の正確な技量を要する側面も否定できない.症例C3では網膜.離の既往によるCellipsoidzoneの断裂,症例C5では網膜色素変性症の既往があることから,両者とも術後矯正視力の大幅な改善は認められなかったが,その他の患者では良好な視力結果を得た.また,本研究では屈折誤差は.0.03±0.59Dとわずかであった.EuropeanCRegistryCofCQualityCOutcomesCforCCataractCandCRefractiveSurgeryによると,2007.2017年で,屈折誤差の中央値は,0.38DからC0.28Dへと大幅に改善しており13),また,Aristodemouらが行ったメタ解析では,一般的な白内障手術においてC95%以上で±1.00D内の屈折誤差であった14).これらをふまえると,MP70を使用したCIOL縫着術は,従来の白内障手術に劣らず,目標屈折値をほぼ正確に達成することができたといえる.術後合併症として低眼圧による脈絡膜.離を認めたが,創口からの漏出はなく,手術侵襲による毛様体房水産生能の低下が原因と考えられた.また,黄斑浮腫についても点眼にて改善し,術後視力への影響は認めなかった.しかし,術中合併症としてCIOLの回転と支持部の屈曲を認め,これらはMP70の特徴的な構造に起因していると考えられた.他のレンズと異なり,MP70の光学部と支持部の連結部分は,光学図3MP70の支持部の屈曲Positioningnotchに結びつけた縫合糸を矢印方向に引っぱると,支持部が容易に屈曲した.部と同じアクリル素材で連続している.これにより支持部の強度が増しCIOL傾斜を減少させ安定させるという利点はあるものの,張力やその方向に影響を受けやすく,支持部は簡単に屈曲できてしまう(図3).レンズが後房内にある際にこの現象が起きると,術野は虹彩により必然的に狭くなるため,屈曲した支持部を直す,または絡まったC10-0ポリプロピレン糸をほどく操作が煩雑になってしまう.これらを防ぐための手順として,まずCMP70を前房内に挿入し,支持部およびC10-0ポリプロピレン糸を含めCIOL全体の位置を確認する.糸の絡まりを可能な限り防ぐため,各Cpositioningnotchと強膜フラップの距離が最短になるようCIOLを回転させたのち,レンズを後房内へ押し下げる.術者は慎重にかつ適度な張力でC10-0ポリプロピレン糸を左右対称に引っ張り,光学部が中心に位置するよう調整する.これらの操作により,狭い術野のなかでも縫合糸の絡まりや支持部の屈曲などの合併症を減らすことができ,本研究でも症例C4以降,上記のような手術方法で同様の現象は認めなかった.本研究の問題点としては,症例数が少ないこと,術者の経験年数や手術手技などのばらつきがあること,術後C3カ月のみの短期成績のみであることがあげられる.今後,さらなる症例数を検討し長期成績を評価していく必要がある.CIV結論MP70レンズは支持部にCpositioningnotchという特徴的な構造物を有し,IOL縫着術においてCIOLの安定性に寄与すると考えられた.術者は支持部の張力およびその方向性への脆弱性に留意し,術中合併症を防ぐ必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AshenaZ,MaqsoodS,AhmedSNetal:E.ectofintraoc-ularlenstiltanddecentrationonvisualacuity,dysphotop-siaandwavefrontaberrations.Vision(Basel)C4:41,C20202)LawuT,MukaiK,MatsushimaHetal:E.ectsofdecen-trationCandCtiltConCtheCopticalCperformanceCofC6CasphericCintraocularlensdesignsinamodeleye.JCataractRefractSurgC45:662-668,C20193)TeichmannCKD,CTeichmanIA:TheCtorqueCandCtiltCgam-ble.JCataractRefractSurgC23:413-418,C19974)越野崇,星合繁,福島孝弘ほか:着色アクリル眼内レンズ挿入眼のコントラスト感度.IOL&RSC21:243-247,C20075)MukaiCK,CMatsushimaCH,CSawanoCMCetal:Photoprotec-tiveCe.ectCofCyellow-tintedCintraocularClenses.CJpnCJCOph-thalmolC53:47-51,C20096)AleJB:Intraocularlenstiltanddecentration:AconcernforCcontemporaryCIOLCdesigns.CNepalCJCOphthalmolC3:C68-77,C20117)HolladayJT:EvaluatingCtheCintraocularClensCoptic.CSurvCOphthalmolC30:385-390,C19868)UozatoH,OkadaY,HiraiHetal:WhatarethetolerablelimitsofIOLtiltanddecentration?JpnRevClinOphthal-molC82:2308-2311,C19889)三浦瑛子,薄井隆宏,遠藤貴美ほか:強膜内固定術の術後経過毛様溝縫着術との比較.眼科手術C33:437-441,C202010)DurakA,OnerHF,KocakNetal:Tiltanddecentrationafterprimaryandsecondarytranssclerallysuturedposte-riorCchamberCintraocularClensCimplantation.CJCCataractCRefractSurgC27:227-232,C200111)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:IntraocularlenstiltandCdecentration,CanteriorCchamberCdepthCandCrefractiveCerrorCafterCtrans-scleralCsutureC.xationCsurgery.COphthal-mologyC106:878-882,C199912)PavlinCJ,RootmanD,Arshino.Setal:Determinationofhapticpositionoftranssclerally.xatedposteriorchamberintraocularlensesbyultrasoundbiomicroscopy.JCataractRefractSurgC19:573-577,C199313)LundstomCM,CDicmanCM,CManningCSCetal:ChangingCpracticeCpatternsCinCEuropeanCcataractCsurgeryCasCre.ectedintheEuropeanregistryofqualityoutcomesforcataractCrefractiveCsurgeryC2009CtoC2017.CJCCataractCRefractSurgC47:373-378,C202114)AristodemouP,KnoxCartwrightNE,SparrowJMetal:CFormulachoice:Ho.erCQ,CHolladayC1,CorCSRK/TCandCrefractiveCoutcomesCinC8108CeyesCafterCcataractCsurgeryCwithbiometrybypartialcoherenceinterferometry.JCata-ractRefractSurgC37:63-71,C2011***

眼内レンズ縫着術後に再縫着を要した症例の検討

2015年11月30日 月曜日

した.I対象および方法対象は京都市立病院において2004年4月.2014年12月に白内障手術後のIOL脱臼に対して,IOL縫着術を行った46例52眼とした.そのうち,IOL縫着術後にIOL位置不良とならずに単回の縫着術のみで経過している45眼(単回縫着眼)と,IOL縫着術後にIOL位置不良となり,再度IOL縫着術が施行された7眼(再縫着眼)の2郡に分けて検討を行った.IOL縫着術は初回縫着,再縫着ともすべて同一術者によって,同一術式で施行されており,各症例で術式の差異による影響はないものとして検討した.縫着糸はすべて10-0ポリプロピレン糸を使用し,10-0ポリプロピレンのloop糸,直針を用いて,対面通糸(abexterno法)を行った.眼内レンズとの結紮は,IOLのハプティクスを角膜切開創から眼外に出してcowhitch縫合で行った.強膜通糸位置は2-8時または4-10時で輪部から2mmとし,縫着糸の強膜結紮固定は,強膜半層縦切開をし,そこからクレッセントナイフで水平に強膜ポケットを作製して埋没させた(図1).IOLは基本的には7mmのfoldable1ピースレンズ[VA-70ADR(HOYA,東京)]を使用し,もともと径7mmのfoldable1ピースレンズが使用されていた場合はそのまま入れ替えをせずに縫着し,それ以外のIOLの場合は切断して取り出して入れ替えを行った.これら単回縫着45眼と再縫着7眼について,①性別,②術眼,③白内障手術時年齢,④縫着術時年齢,⑤白内障手術から縫着術までの期間,⑥眼軸長,⑦患者因子として基礎疾患と眼手術既往などについて比較検討した.また,⑧白内障術後のIOL脱臼の状態について調べ,⑨再縫着眼について,白内障手術から初回縫着術までの期間と初回縫着術から再縫着術までの期間を比較検討した.II結果①性別は単回縫着眼が男性41人に対し,女性は4人であり,再縫着眼では男性6人に対し,女性は1人であった.②術眼は単回縫着眼では右眼が22眼,左眼が23眼で,再縫着眼では右眼が2眼,左眼が5眼であった.③白内障手術時年齢は単回縫着眼では49.7±15.9歳(平均値±標準偏差),再縫着眼では44.4±10.5歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.ただ,当院で2007年10月.12月の3カ月間に白内障手術を施行した228眼の平均年齢は73.6±9.9歳(平均値±標準偏差)であり,これと比較すると単回縫着眼と再縫着眼のどちらも白内障手術を受ける年齢としては有意に若年であった(p<0.01).④縫着時の平均年齢は単回縫着眼では58.0±14.7歳(平均cb値±標準偏差),再縫着眼では初回縫着時の年齢として55.4±12.3歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.⑤白内障手術から縫着術までの期間は単回縫着眼では8.4±5.2年(平均値±標準偏差),再縫着眼では白内障手術から初回縫着時までの期間として11.0±5.1年(平均値±標準偏差)で有意差は認めなかった.⑥眼軸長は単回縫着眼では24.8±1.8mm(平均値±標準偏差)で再縫着眼では26.4±3.4mm(平均値±標準偏差)であり,有意差は認めなかった(表1).⑦患者因子については,単回縫着眼ではアトピー性皮膚炎のみが5眼(11.1%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往が5眼(11.1%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが4眼(8.8%),PE症候群のみが3眼(6.7%),PE症候群と網膜.離で硝子体手術の既往が2眼(4.4%),外傷の既往のみが2眼(4.4%),網膜.離以外での硝子体手術の既往と外傷の既往が2眼(4.4%),網膜.離で硝子体手術以外の治療を受けた既往のみが2眼(4.4%),眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),外傷の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),網膜.離で硝子体手術の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往と外傷の既往が1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしの眼は16眼(35.6%)であった.再縫着眼では,アトピー性皮膚炎のみが3眼(42.9%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが2眼(28.6%),眼軸長27mm以上のみが1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしは1眼(14.3%)であった(表2).⑧白内障術後のIOL脱臼の状態は,単回縫着眼と再縫着眼を合わせた52眼のうち,水晶体.は固定されたままIOLが.外に脱臼したものが1眼で,その他の51眼はすべて水晶体.ごとの脱臼であった.⑨再縫着眼における白内障手術から初回縫着術までの期間は11.0±5.1年(平均値±標準偏差)に対して,初回縫着術から再縫着術までの期間は1.7±1.3年(平均値±標準偏差)と有意に短くなっていた(p<0.01).(103)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151615表1単回縫着眼と再縫着眼の患者背景の比較単回縫着眼再縫着眼p値眼球数457─性別(男性/女性)41/46/1─右/左22/232/5─白内障手術時平均年齢(歳)49.7±15.944.4±10.50.40§初回縫着平均年齢(歳)58.0±14.755.4±12.30.66§白内障手術から初回縫着までの期間(年)8.4±5.211.0±5.10.23§眼軸長(mm)24.8±1.826.4±3.40.29§§統計的に有意差なし(t-検定)III考按わが国ではIOL縫着術の手術手技や使用器具は施設,あるいは術者によって異なるが,過去の報告によると,使用する糸は10-0ポリプロピレン糸がもっとも多く,通糸方法はabexterno法がもっとも多く,眼内レンズとの結紮はcowhitch法がもっとも多く,強膜ポケット作製は三角フラップ作製についで2番目に多い4)とのことであり,当施設でのIOL縫着術はわが国で多く行われている術式から大きく逸脱するものではないと考えられる.本調査結果での白内障手術後のIOL脱臼の状態としては,.外へのIOL脱臼眼よりも水晶体.ごとのIOL脱臼眼のほうが多かった.過去の報告でも近年は.外への脱臼の症例数が減ってきているとの報告があり2,5),.外への脱臼の場合,そのリスクとしては破.などの術中合併症や,成熟白内障であることが報告されている2).実際,当院での.外へのIOL脱臼眼も,成熟白内障で超音波乳化吸引術予定であったが.外摘出術へ変更された症例であった.本調査を行った動機の一つとして,京都市立病院での白内障手術後のIOL脱臼による縫着術症例は,高齢者よりも比較的若年者が多い印象があり,そしてPE症候群についてはそれほど多い印象はなかったことがある.PE症候群については他の患者因子との重複も含めると単回縫着眼では5眼で11.1%(5/45眼),再縫着眼では0眼であった.本調査対象はPE症候群の既往のない単回縫着眼1眼を除いて,すべて水晶体.ごとのIOL脱臼眼であり,水晶体.ごとの脱臼眼に限ったとしてもPE症候群は単回縫着眼で11.3%(5/44眼)となり,過去の,水晶体.ごとのIOL脱臼で約40%がPE症候群との報告2)と比べると,やはり少なかった.また,単回縫着眼と再縫着眼とでは,両者とも京都市立病院でのある一定期間に白内障手術を施行した患者全体の平均年齢よりも有意に若かった.このことは,再縫着眼については,アトピー性皮膚炎の既往が3眼(3/7,42.9%)ともっとも多い患者因子であることが一因と思われた.アトピー性皮膚炎は,慢性のあるいは慢性的に増悪を繰り返す掻痒感を伴った皮膚表2単回縫着眼と再縫着眼の患者因子(既往歴)の比較単回縫着眼再縫着眼患者因子(既往歴)(n=45)(n=7)AD5(11.1%)3(42.9%)AD,RD,PPV5(11.1%)0RD,PPV4(8.8%)2(28.6%)PE3(6.7%)0PE,RD,PPV2(4.4%)0trauma2(4.4%)0PPV,trauma2(4.4%)0RD2(4.4%)0myopia1(2.2%)1(14.3%)trauma,myopia1(2.2%)0RD,PPV,myopia1(2.2%)0AD,RD,PPV,trauma1(2.2%)0明らかな因子なし16(35.6%)1(14.3%)AD:アトピー性皮膚炎,RD:網膜.離の既往,PPV:硝子体手術既往,PE:偽落屑症候群,trauma:外傷の既往,myo-pia:眼軸長≧27mm炎であり,近年その有病率は上昇傾向で,治療による掻痒感のコントロールが十分でないと顔面や眼周囲の掻痒感で,繰り返し眼周囲を掻いたり,叩いたりすることにより,アトピー性白内障や網膜.離につながると考えられている6).アトピー性皮膚炎で顔面に湿疹があること,眼周囲をこすることが白内障の進行を早める7)との報告もある.アトピー性皮膚炎の有病率は小児期に高く,年齢が高くなると少なくなってくる6).単回縫着眼と再縫着眼では白内障手術後からIOL脱臼までの期間には有意差はなかった.しかし,再縫着眼における初回縫着術後から再縫着術までの期間は白内障手術後から初回縫着術までの期間より有意に短かった.再縫着眼の縫合糸の断裂の原因として外力によるものと,そして経年劣化も考慮される.過去の報告では10-0ポリプロピレン糸の劣化によるIOL脱臼は縫着術後4,5年で起こってくる8)とのことだが,今回の検討結果からは初回縫着術から再縫着術までは1.7±1.3年(平均値±標準偏差)という短期間であり,経年劣化の影響はそれほど大きくないように思われる.再縫着眼は女性よりも男性のほうが多く,また再縫着眼では単回縫着眼よりもアトピー性皮膚炎が多かったことは,アトピー性皮膚炎による掻痒感で眼窩部を叩くなどの行為が,縫合糸の断裂の原因として大きい可能性も考えられる.再縫着眼ではPE症候群や外傷の既往をもつ眼はなかった.これは当然ではあるがZinn小帯の脆弱性は初回縫着後にはもはや影響がなくなるため,再縫着のリスク因子とはならないからだと考えられる.つまりこれまで報告されてきた白内障術後にIOL脱臼に至るリスク因子と,縫着術後に縫着糸が断裂するリスク因子とは異なるといえる.(104)以上より今回の結果からは,IOL縫着術後にIOL位置不良となり再縫着を要するリスク因子としては,これまで白内障術後にIOL脱臼を起こしやすいといわれていたリスク因子とは異なり,アトピー性皮膚炎の既往をもち,若年で白内障手術を施行され,その後IOL脱臼に至りIOL縫着術を施行された男性患者であることと考えられた.そして,そのような症例に対してIOL縫着術を施行する際は10-0ポリプロピレン糸では強度不足である可能性が高い.強度の点においては縫着糸として10-0糸よりも9-0糸,8-0糸が優れている9)との報告があり,実際に10-0以上の太さのポリプロピレン糸を使用したIOL縫着術は施行されている.ただし,糸が太くなると,より縫合部分が大きくなり強結膜を突き破らないようにするための工夫がそれだけ必要になる8).強膜ポケットをより強膜深層に作製するなどの工夫を行う必要があると思われる.また,最近ではIOL強膜内固定術も施行され始めている.IOL強膜内固定術の一番の利点としてIOL支持部が強膜内に固定されるために,IOLの眼内での固定はより強固であるとともに,IOLの偏心や傾斜をほとんど認めないことがあげられる.もう一つの大きな利点として,術後に打撲などによりIOL偏位を認めても,容易に整復可能なことがあげられる10).眼内レンズ強膜内固定術は2007年に初めて報告され10),長期予後はまだ明らかでない部分もあるが,とくに上記の特徴をもつ患者については現段階で有効な手術法の一つであると考えられる.白内障手術は各種手術機器が進歩し,術中合併症の可能性も少なくなっているため,若年であっても施行されることも多いが,上記の特徴をもつ患者についてはIOL脱臼のリスクについて考慮し,またそのリスクについて術前の十分な説明が重要と考えられる.文献1)PueringerSL,HodgeDO,ErieJC:Riskoflateintraocularlensdislocationaftercataractsurgery,1980-2009:Apopulation-basedstudy.AmJOphthalmol152:618-623,20112)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesur-gery.Ophthalmology114:969-975,20073)Fernandes-BuenagaR,AlioJL,Perez-ArdoyALetal:Latein-the-bagintraocularlensdislocationrequiringexplantation:riskfactorsandoutcomes.Eye27:795-802,20134)一色佳彦,森哲,大久保朋美ほか:北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査.あたらしい眼科29:391-394,20125)田中最高,吉永和歌子,喜井裕哉ほか:眼内レンズ脱臼の原因と臨床所見.あたらしい眼科27:391-394,20106)FukueM,ChibaT,TakeuchiS:CurrentstatusofatopicdermatitisinJapan.AsiaPacAllergy1:64-72,20117)NagakiY,HayasakaS,KadoiC:Cataractprogressioninpatientswithatopicdermatitis.JCataractRefractSurg25:96-99,19998)BuckleyEG:Long-terme.cacyandsafetyoftranss-cleralsuturedintraocularlensesinchildren.TransAmOphthalmolSoc105:294-311,20079)秋山奈津子,西村栄一,薄井隆宏ほか:縫着糸の強膜床結紮部の強度測定.IOL&RS25:217-222,201110)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.日本の眼科6:783-784,2014***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151617

北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1579.1585,2012c北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査一色佳彦森哲大久保朋美宮原晋介小倉記念病院眼科SurveyofTransscleralSutureFixationofIntraocularLensinKitakyushuCityYoshihikoIsshiki,SatoshiMori,TomomiOkuboandShinsukeMiyaharaDepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital目的:北九州市における眼内レンズ(IOL)縫着術の実態調査.対象および方法:北九州市の眼科医に対し,IOL縫着術に関するアンケート調査を行い,27名から回答を得た.結果:眼内レンズ縫着糸通糸法は,abexterno法が多く(17名,63.0%),右眼手術時の縫着糸の通糸方向は,2-8時(11名,40.7%),4-10時(9名,33.3%)が多かった.縫着糸の輪部からの通糸位置は,2mm(12名,44.4%),1.5mm(11名,40.7%)が大半を占めた.IOLへの縫合糸結紮方法は,カウヒッチ縫合(10名,37.0%)が最も多く,3-1-1縫合(9名,33.3%)と続いた.縫着糸の強膜結紮固定方法は,三角フラップ(12名,44.4%)が最も多かった.創口の幅が4mm以下で施行する術者は10名,37.0%であった.結論:IOL縫着術は,使用IOLや手術器具などが施設によりさまざまであった.また,小切開手術を選択する術者もみられた.Purpose:Tosurveytransscleralsuturefixationofintraocularlenses(IOL)inKitakyushuCity.Methods:OftheophthalmologistsinKitakyushuCity,27respondedtoourquestionnaireregardingtransscleralsuturefixationofIOL.Result:TheabexternomethodwasmostcommonlyusedintransscleralsuturefixationofIOLby17surgeons(63.0%).Thetransscleralsuturewasmadeatthe2and8o’clockpositionsby11surgeons(40.7%),andthe4and10o’clockpositionsby9surgeons(33.3%).Thetransscleralsuturewasfixedat2mmfromthesurgicallimbusby12surgeons(44.4%),and1.5mmfromthesurgicallimbusby11surgeons(40.7%).Themostcommonlyusedtransscleralsuturewoundwasthetriangularflap,usedby12surgeons(44.4%).ThesuturemethodsateachIOLhapticscomprisedthecowhitchmethod,usedby10surgeons(37.0%),andthe3-1-1suture,usedby9surgeons(33.3%).ThesizeoftheIOLimplantationincisionwas4mmorsmallerfor10surgeons(37.0%).Conclusions:RegardingtransscleralsuturefixationofIOL,varioussurgicalmethods,IOLtypesandsurgicalinstrumentswereselectedbythesurgeons.TransscleralsuturefixationofIOLviathesmall-incisionapproachisincreasinglyused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1579.1585,2012〕Keywords:眼内レンズ縫着術,アンケート調査,白内障手術,小切開手術,北九州市.transscleralsuturefixationofintraocularlens,questionnaire,cataractsurgery,smallincisionsurgery,KitakyushuCity.はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術が一般的な術式となったのは1980年代であり,それ以後白内障手術時には可能な限りIOLが.内もしくは.外固定で挿入されている.しかしZinn小帯脆弱例や破.例などIOL固定に水晶体.を使用することができない症例にIOLを挿入する場合は,IOL縫着術が選択されることが多い.このように重要な術式であるIOL縫着術だが,手術手技や使用器具は施設あるいは術者によって異なる.筆者らが調べた限りでは,これまでにそのような多様性についての報告はなされていない.今回筆者らは,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査するためアンケートを行い,使用IOL,IOL縫着創作製方法,硝子体処理方法など18項目を調査し検討したので報告する.〔別刷請求先〕一色佳彦:〒802-8555北九州市小倉北区浅野3丁目2番1号小倉記念病院眼科Reprintrequests:YoshihikoIsshiki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,3-2-1Asano,Kokurakita-ku,KitakyushuCity,Fukuoka802-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(129)1579 I対象および方法IOL縫着術を行っている福岡県北九州市の眼科医を調査対象とした.方法は,2011年1月初旬に21項目の設問からなるアンケート調査表を郵送した.取得した情報を集計・分析し,個人が特定できない統計データに加工し集計データのみを第三者に開示(学会発表・論文投稿)すること,学会発表・論文投稿を除き収集した情報を第三者に開示・提供することはないことを注記した.上記に同意し2011年3月末までに回答があった15施設27名の眼科医からの回答を有効対象とした(アンケート発送数34,回収率79.4%).有効対象とした27名の眼科医の背景は,日本眼科学会専門医取得者は24名,指導者が必要な術者は4名(3名は眼科専門医未取得者)であった.なお,本調査は,水晶体脱臼やZinn小帯脆弱,過去の白内障.内摘出術による人工無水晶体眼など,白内障手術で水晶体を除去したもののIOLを.内・.外固定することが不能であった場合のみのIOL縫着術を対象とし,水晶体核落下した場合やIOL摘出が必要な場合(IOL亜脱臼,IOL脱臼など),また.内もしくは.外に固定されていたIOLをそのまま使用した場合のIOL縫着術は除外した.II結果(表1,2)1.過去3年間のIOL縫着術件数術者あたりの過去3年間のIOL縫着術件数は,1.5例が10名(37.0%),6.10例が7名(25.9%),10.20例,20例以上がそれぞれ5名(18.5%)ずつであった.【眼内レンズ縫着術】2.IOL縫着糸の通糸法IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法が17名(63.0%),abinterno法が7名(25.9%),abexterno変法(abinternowithabexterno法)3名(11.1%)であった.3.使用するIOL縫着糸使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸(直・曲)(ペアパック含む)が16名(52.3%),10-0ポリプロピレン表1IOL縫着術のアンケート結果(単位:人)①[過去3年間の眼内レンズ縫着手術件数]④[縫着糸の通糸位置方向(右眼)]⑤[縫着糸の輪部からの通糸位置(距離)]1.5例102-8時112mm126.10例74-10時91.5mm1110.20例53-9時52.2.5mm120例以上55-11時11mm14-10時もしくは2-8時12mm以上1②[眼内レンズ縫着糸の通糸法]その他1Abexterno法17(Abexterno法)Abinterno法72-8時6(Abexterno法)Abexterno変法34-10時82mm63-9時21.5mm9③[使用する眼内レンズ縫着糸]5-11時12.2.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)164-10時もしくは2-8時11mm110-0ポリプロピレン(両端ループ)102mm以上19-0ポリプロピレン(直・曲)1(Abinterno法)その他02-8時4(abexterno法)4-10時1(Abinterno法)10-0ポリプロピレン(直・曲)163-9時22mm410-0ポリプロピレン(両端ループ)05-11時01.5mm39-0ポリプロピレン(直・曲)14-10時もしくは2-8時02.2.5mm11mm0(Abinterno法)(Abexterno変法)2mm以上010-0ポリプロピレン(直・曲)02-8時0その他010-0ポリプロピレン(両端ループ)74-10時29-0ポリプロピレン(直・曲)03-9時1(Abexterno変法)5-11時02mm2(Abexterno変法)4-10時もしくは2-8時01.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)02.2.5mm010-0ポリプロピレン(両端ループ)31mm09-0ポリプロピレン(直・曲)02mm以上0その他11580あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(130) 糸(両端ループ針)が10名(37.0%),9-0ポリプロピレン糸(直・曲)が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別に検討すると,「abexterno法」は,すべてポリプロピレン糸(直・曲)であったが,「abinterno法」「abexterno変法」は,すべてポリプロピレン糸(両端ループ針)であった.4.縫着糸の通糸方向右眼手術を想定し回答を得た.「2-8時方向」が11名(40.7〔表1つづき〕%)「4-10時方向」が9名(33.3%)「3-9時方向」が5名(18「5-11時方向」が1名(3「4-10時もしく.5%)(,).7%),(,)は2-8時方(,)向」が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,「abexterno変法」以外は「2-8時方向」が多かった.5.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置(距離)縫着糸の輪部からの通糸位置は,「2mm」が12名(44.4(単位:人)⑥[縫着糸の強膜結紮固定方法]⑨[眼内レンズ挿入創の幅]三角フラップ122mm以上3mm未満7強膜ポケット作製63mm以上4mm未満22本の縦切開作製24mm以上6mm未満61本の縦切開作製26mm以上7縫合糸を長くし結膜下に置く26mm以上もしくは3mm以上4mm未満22本の縦切開もしくはポケット作製26mm以上もしくは2mm以上3mm未満2三角フラップもしくはポケット作製13mm以上4mm未満もしくは2mm以上3mm未満1⑦[眼内レンズへの縫着糸結紮方法]⑩[縫着時使用の眼内レンズ](複数回答あり)カウヒッチ縫合(2重縫合:内2名)10VA70AD(HOYA株式会社,東京)123-1-1縫合9P366UV(Bausch&Lombジャパン,東京)102-1-1縫合3YA65BB(HOYA株式会社,東京)83-1-1-1縫合2CZ70BD(AlconLaboratories,Inc.,USA)53-2-1-1縫合1VA65BB(HOYA株式会社,東京)33-3縫合1NR-81K(株式会社NIDEK,愛知)13-1-1縫合もしくはカウヒッチ縫合1⑪[IOL.内固定時と比較した縫着IOLの屈折度数]⑧[眼内レンズ挿入創の作製方法].1.0D14強角膜三面切開法21同じ7強角膜一面切開法6.0.5D5+1.0D1⑫[周辺虹彩切除もしくは周辺虹彩切開術の有無]施行しない23症例による4表2IOL縫着術(硝子体処理)のアンケート結果(単位:人)⑬[IOL縫着手術を一次的に行うか]⑯[硝子体処理を行う機器]原則一次10硝子体手術機器22原則二次10白内障手術機器5症例による7⑰[硝子体切除範囲]⑭[インフュージョンポートの設置位置]Anteriorvitrectomyのみ23毛様体扁平部から12Subtotalvitrectomy2角膜サイドポートから9Totalvitrectomy2つけない5バイマニュアルinfusin/aspirationを灌流に使用1⑱[硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ]23ゲージ9⑮[硝子体カッター挿入位置]25ゲージ9角膜サイドポート1920ゲージ1毛様体扁平部325ゲージもしくは23ゲージ3角膜サイドポートもしくは毛様体扁平部3強角膜創(眼内レンズ挿入創)2(131)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121581 %)「1.5mm」が11名(40.7%),「2.2.5mm」が1名(3.7%)「(,)1mm」が1名(3.7%),「2mm以上」が1名(3.7%),「その(,)他」1名(3.7%)であった.「その他」と回答した術者は,abexterno変法で内視鏡で眼内より毛様溝を確認し通糸しているため,輪部からの距離は症例により異なるとのことであった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,すべての方法で2mmの位置が多かった.6.縫着糸の強膜結紮固定方法縫着糸の強膜結紮固定方法は,「三角フラップ」が12名(44.4%)「強膜ポケット」が6名(22.2%)「2本の縦切開線」が27.4%)「1本の縦切開線」が2(7.4%),「縫合糸を長くして結に置く」が2名(7.4%),「2本の縦切開作製もしくは強膜ポケット」が2名(7.4%),「三角フラップもしくは強膜ポケット」が1名(3.7%)であった.片側は名((,)名(,)膜下(,)上記だが,対側の固定方法は,IOL挿入創内に縫合するという回答(1名)もあった.7.IOLへの縫合糸結紮方法IOLへの縫合糸結紮方法は,「カウヒッチ縫合」が10名(37.0%)「3-1-1縫合」が9名(33.3%)「2-1-1縫合」が3名(11「3-1-1-1縫合」が2名4%)「3-2-1-1縫合」が1.7%)「3-3縫合」が1名(3.7「3-1-1.1%)(,)(7.(,)名(3(,)%),(,)縫合もしくはカウヒッチ(,)縫合」が1名(3.7%)であった.カウヒッチ縫合10名のうち,2名は2重縫合であった.8.IOL挿入創の作製方法IOL挿入創の作製方法は,「強角膜三面切開法」が21名(77.7%),「強角膜一面切開法」が6名(22.2%)であった.角膜切開法を選択する術者はいなかった.9.IOL挿入創の幅IOL挿入創の幅は,「6mm以上」が7名(25.9%),「4mm以上6mm未満」が6名(22.2%)「3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「2mm以上3mm未(,)満」が7名(25.9%)であった.使用するIOLによって創を調整している術者もおり,「6mm以上,もしくは3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「6mm以上,もしくは2mm以上3mm未満」がZinn小帯離断など一期的にコンバートする緊急時に用いるIOLが異なる術者(2名)もいた.11.縫着IOLの屈折度数の決定縫着IOLの屈折度数は,「.内固定時より.1.0D」が14名(51.9%),「.内固定時と同じ」が7名(25.9%),「.内固定時より.0.5D」が5名(18.5%),「.内固定時より+1.0D」が1名(3.7%)であった.12.周辺虹彩切除もしくは周辺レーザー虹彩切開術の施行の有無手術時周辺虹彩切除もしくは術後周辺レーザー虹彩切開術を施行するか否かは,「施行しない」が23名(85.2%),「症例によっては施行する」が4名(14.8%)であった.【硝子体処理】13.IOL縫着術を一次的に行うか白内障手術時起こった破.・Zinn小帯離断時などに,IOL縫着術を一次的に行うか,二次的に行うかは,「原則一次」「原則二次」が各10名(37.0%)「症例による」が7名(25.9%)であった.「症例による」と答した術者は,破.の範囲,眼底疾患の有無,手術経過時間,患者の状態などにより決定(1名),硝子体処理終了後の患者の状態による(2回(,)名),術前にIOL縫着を予測できる場合は一次的に施行(2名)とのことであった.14.インフュージョンポートの設置位置インフュージョンポートの設置位置は,「毛様体扁平部」が12名(44.4%)「角膜サイドポート」が9名(33.3%)「インフュージョン(,)ポートは設置しない」が5名(18.5%),(,)「バイマニュアル灌流を使用」が1名(3.7%)であった.15.硝子体カッター挿入位置硝子体カッター挿入位置は,「角膜サイドポート」19名(70.3%)「毛様体扁平部」3名(11.1%)「角膜サイドポー毛様体扁平部」3名(11.1%「IOL挿入創」2トもしくは(,))(,)名(7.4%)であった.「毛様体扁平部」を選(,)択した術者で,縫着用の強膜ポケット部に硝子体カッターポートを作製する.7名(24%),「3mm以上4mm未満,もしくは2mm以上3mm未満」が1名(3.7%)であった.10.縫着時使用するIOLの種類術者が1名いた.16.硝子体処理を行う機器硝子体処理を行う機器は,「硝子体手術機器」22名(81.5縫着時使用するIOLの種類は,眼状態などによって選択するIOLを変更している施設・術者もおり複数の回答があった.最も多かったのが「VA70ADR(HOYA株式会社,東京)」で12名(44.4%),続いて「P366UVR(Bausch&Lombジャパン株式会社,東京)」で10名(37.0%),ほか「YA65BBR(HOYA株式会社,東京)」8名(29.6%)「CZ70BDR(AlconLaboratories,Inc.,USA)」5名(18.5%)(,),「VA65BBR(HOYA株式会社,東京)」3名(11.1%),「NR-81KR(株式会社NIDEK,愛知)」1名(3.7%)であった.予定縫着時と,1582あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012%),「白内障手術機器」5名(18.5%)であった.17.硝子体切除範囲硝子体切除範囲は,「anteriorvitrectomyのみ」23名(85.2%),「subtotalvitrectomy」2名(7.4%),「totalvitrectomy」2名(7.4%)であった.18.硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージは,「23ゲージ」9名(33.3%),「25ゲージ」9名(33.3%),「20ゲージ」1名(3.7%),「25ゲージもしくは23ゲージ」3名(132) (11.1%)であった.III考按白内障手術や,屈折矯正手術などの前眼部手術については,米国では,1985年以降AmericanSocietyofCataractSurgery(ASCRS)の学会員を対象に調査が毎年行われており1,2),2004年以降は米国会員を対象に継続調査され報告されている.欧州3.5)ならびに最近ではアジア,豪州など諸外国においても同様な調査が開始され,国際比較を検討する試みもされている6,7).日本でも,日本眼内レンズ屈折手術学会会員を対象とした同様なアンケート調査が18年間行われている8)が,IOL縫着術についての調査報告はされていない.平成24年6月現在,北九州市で白内障手術を行っている術者は約82名であり,またIOL縫着術を行っている術者は約30名である.今回,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査した.IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法(Lewis法)9),abinterno法10),さらに眼外から強膜にお迎え針を挿入し,強膜切開創や角膜サイドポートから弱弯針を入れお迎え針に挿入するabexterno変法11)がある.Abexterno法は,眼内操作や創口を通した操作が少なく,縫着部位を眼外から設定できる.眼内操作が多くなると糸が絡んだり,眼内組織を損傷したりする危険性が高くなり,また創口を通した操作が多くなると,眼内圧の急激な変動により重篤な合併症をひき起こす危険性があるため,abexterno法は,安全性の高い手術方法といわれている.Abinterno法は,強膜固定時に2本の糸が使用できる,IOLの支持部への結紮に断端が発生しないカウヒッチ縫合を容易に行えるという利点があるが,眼内から非直視下で針をさす手技上の問題がある.Abexterno変法は,両者の利点を取り入れた方法である.本調査では,abexterno法を選択する術者が2/3を占めた.Abexterno変法を選択している術者で,眼内内視鏡を用い,毛様溝を確認して通糸する術者がいたが,眼内内視鏡を用いることにより,安全かつ正確に毛様溝に通糸でき,またブラインド操作を少なくすることが可能となる12,13).使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸が多かった.最近は,糸の強度などから9-0ポリプロピレン糸を使用する報告もある14).IOL縫着糸は,生体内劣化を防止するためポリプロピレン糸もしくはマーシリン糸が使用される.これらの糸は非常に硬く,縫着糸を強膜創に埋没しないと結膜を突き破る可能性が高い.縫着糸が結膜を突き破ると糸を伝って眼内まで細菌が侵入する可能性があり,ときに眼内炎を起こす原因にもなる15).このように縫着糸縫合はIOL縫着手術のなかでも重要なポイントといえる.本調査では,強膜フラップ作製が最も多く,強膜ポケット作製,強膜溝作製,埋没させず縫着糸を長く残し結膜下に置くなどさまざまな方(133)法が選択されていた.近年強膜創を作製せず,ジグザグに5回強膜を通糸することにより結び目を作らないZ-sutureの報告16)もあり,現在も縫着糸縫合の研究がなされている.縫着糸の通糸方向は,2-8時方向,4-10時方向が多かった.前毛様動脈眼筋枝は3,6,9,12時,長後毛様動脈は3,9時に位置するため,3-9時方向への通糸は硝子体出血17)などの出血の危険性が高くなる.本調査でも3-9時を選択している術者も散見したが,合併症を考えると避けるべきと考えている.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置は,毛様溝固定9.11),毛様体扁平部固定18,19)のどちらを目的とするかにより変わる.本調査では,毛様溝縫着を目的とする術者が大半を占めた.毛様溝固定は,毛様体皺襞による支えがあるためIOLの術後安定性が優れており,輪部後端から強膜に垂直に穿刺する場合で0.5.1.0mm20),虹彩に平行に穿刺する場合で1.5mmが目安といわれている9).しかし,前述のとおり盲目的であり,症例により毛様溝の位置に差があるため,実際は目的の部位への穿刺成功率は高くないとの報告がなされている12).内視鏡を用いて毛様溝を確認し穿刺する報告もある13)が,高度な技術が必要であり器具を所持しない施設も多い.一方,毛様体扁平部固定の場合は,輪部後端から約3.5mmと幅広く位置するため盲目的操作でも穿刺成功率はほぼ100%である.IOLの虹彩への接触による炎症も少なく,それによるぶどう膜炎の発症も少ない19,21).しかし,IOLを支える組織がないため縫着糸のみでIOLを支えることになり,また毛様体扁平部の長径は通常使用するIOLより大きいため,特に眼球が大きい場合などはIOLの位置移動や傾斜が起こりやすい19).縫着用IOLは,縫着糸を通すアイレット付きタイプ(CZ70BDR,P366UVRなど),縫着糸の結び目のズレを防止するディンプルタイプ(NR-81KRなど),支持部端を太くして縫着糸が抜けないタイプ(VA-70ADR,VA/YA-65BBR22)など)がある.IOL挿入創の切開幅は,使用するIOLによって決定されるのでIOLの選択は重要である.近年IOLの多様化が進み,日本では2008年から7.0mm光学径のアクリル製フォーダブルIOLが発売された.このIOLは,インジェクターを用いると切開幅2.4.3.0mm,折りたたみ法を用いると約3.75.4.0mmで挿入できるため,IOL縫着手術時に使用する術者もいる23.25).小切開法でのIOL縫着術はさまざまな利点がある.第1の利点は,術後惹起乱視が少ない25,26)ことである.大光学径のIOLをそのまま挿入するためには6mm以上の強膜切開が必要となるので,術後惹起乱視が大きくなり早期の視力回復が期待できにくい.第2の利点は,より安定したclosedeyesurgeryが可能なことである.無水晶体眼や無硝子体眼では,切開創からの出し入れが多いIOL縫着術においてはあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121583 容易に眼球虚脱に陥りやすい.しかし,小切開法では,切開創が小さいため眼内灌流をつけると硝子体切除などの眼内操作時も眼球が虚脱することは少なくなる.6mm以上の大きな切開創では,眼内灌流の流れにより切開創からの虹彩脱出,それによる瞳孔偏位や虹彩損傷,術後炎症の増大をきたすこともあるが,3mm以内の小切開法ではそのような合併症を起こすことはほぼない.IOL縫着が必要な症例は,硝子体脱出を伴っている場合が多く,IOLの固定位置に水晶体遺残物や前部硝子体が残存していると,術後にIOLの位置異常や偏位をきたしやすくなる27).IOL縫着術の術後合併症として硝子体出血や網膜.離もあるが,それらも眼内で縫着糸を通糸する際に硝子体が絡み,術後の硝子体牽引によってひき起こされることが多いと考えられている28).そのため,最周辺部まで硝子体切除している術者もいる.近年硝子体の処理法は,23ゲージや25ゲージの小切開硝子体手術が普及してきており,IOL縫着術でも使用されている24).本調査でも前部硝子体切除のみ行う術者が多いが,小切開硝子体手術にて容易に周辺部まで硝子体処理ができるようになった現在,合併症予防として最周辺部まで硝子体処理をしたほうがいいのかもしれない.急速な高齢化社会によるqualityoflifeを重要視する傾向であるなか,眼科領域でもqualityofvisionを軽視できない環境となっており,IOL縫着術においてもより良い術後視力が期待されるようになってきた.小切開法から挿入できる縫着用IOLが開発され,術後惹起乱視は大幅に解決されてきた.白内障手術は現在までいくつもの時代の波によって変化してきた.IOL縫着術もさらなる発展により,低侵襲で合併症が少なく早期の視機能回復を得られる手術にならなければならないと考えている.今回の調査は,北九州市という一地域の小規模な調査であった.今後さらなる大規模な調査が望まれる.本論文の要旨は,第65回日本臨床眼科学会にて発表した.文献1)KraffMC,SandersDR,KarcherDetal:Changingpracticepatterninrefractivesurgery:resultsofasurveyoftheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery.JCataractRefractSurg20:172-178,19942)LeamingDV:PracticestylesandpreferencesofASCRSmembers-2003survey.JCataractRefractSurg30:892900,20043)WongD,SteeleADM:AsurveyofintraocularlensimplantationintheUnitedKingdom.TransOphthalmolSocUK104:760-765,19854)Ninn-PedersonK,SteneviU:CataractsurgeryinaSwedishpopuration:Observationsandcomplications.JCataractRefractSurg22:1498-1505,19961584あたらしい眼科Vol.29,No.11,20125)SchmackI,AuffarthGU,EpsteinDetal:RefractivesurgerytrendsandpracticestylechangesinGermanyovera3-yearperiod.JRefractSurg26:202-208,20106)NorregaadJC,ScheinOD,AndersonGF:Internationalvariationinophthalmologicmanagementofpatientswithcataracts.ArchOphthalmol115:399-403,19977)NorregaardJC,Bernth-PetersonP,BellanLetal:IntraoperativeclinicalpracticeandriskofearlycomplicationsaftercataractextractionintheUnitedStates,Canada,Denmark,andSpain.Ophthalmology106:42-48,19998)佐藤正樹,大鹿哲郎:2009年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS24:462-485,20109)LewisJS:Abexternosulcusfixation.OphthalmicSurg22:692-695,199110)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorchamberintraocularlensimplantationintheabsenceofposteriorcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,198811)德田芳浩:毛様体溝固定3)通糸法の工夫─対面通糸法変法.臨眼64(増刊号):235-240,201012)ManabeS,OhH,AminoKetal:Ultrasoundbiomicroscopicanalysisofposteriorchamberintraocularlenseswithtransscleralsulcussuture.Ophthalmology107:2172-2178,200013)SasaharaM,KiryuJ,YoshimuraN:Endscope-assistedtransscleralsuturefixationtoreducetheincidenceofintraocularlensdislocation.JCataractRefractSurg31:1777-1780,200514)DickHB,AugustinAJ:Lensimplantselectionwithabsenceofcapsularsupport.CurrOpinOphthalmol12:47-57,200115)HeilskovT,JoondephBC,OlsenKRetal:Lateendophthalmitisaftertransscleralfixationofaposteriorchamberintraocularlens.ArchOphthalmol107:1427,198916)SzurmanP,PetermeierK,AisenbreySetal:Z-suture:anewknotlesstechniquefortransscleralsuturefixationofintraocularimplants.BrJOphthalmol94:167-169,201017)HeidemannDG,DunnSP:Visualresultandcomplicationsoftranssclerallysuturedintraocularlensesinpenetratingkeratoplasty.OphthalmicSurg21:609-614,199018)TeichmannKD:Parsplanafixationofposteriorchamberintraocularlenses.OphthalmicSurg25:549-553,199419)門之園一明:毛様体扁平部縫着術眼内からの刺入による毛様体扁平部縫着.IOL&RS21:323-326,200720)DuffeyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,198921)MiyakeK,AsakuraM,KobayashiH:Effectofintraocularlensfixationontheblood-aqueousbarrier.AmJOphthalmol98:451-455,198422)YaguchiS,YaguchiS,NodaYetal:Foldableacrylicintraocularlenswithdistendedhapticsfortransscleralfixation.JCataractRefractSurg35:2047-2050,200923)SzurmanP,PetermeierK,JaissleGBetal:Anewsmallincisiontechniqueforinjectorimplantationoftranssclerallysuturedfodablelenses.OphthalmicSurgLasersImag(134) ing38:76-80,2007術後成績─シリコーン眼内レンズとpolymethyl-methacry24)塙本宰:インジェクターを用いた7.0mmフォーダブル眼late眼内レンズの比較─.日眼会誌98:362-368,1994内レンズの毛様溝縫着術.IOL&RS24:90-94,200927)種田人士,大島佑介,恵美和幸:自己閉鎖創による眼内レ25)金高綾乃,柴琢也,神前賢一ほか:小切開眼内レンズ縫ンズ毛様溝縫着術の手術成績の検討.眼紀49:218-222,着術を施行した水晶体亜脱臼の1例.眼科手術24:339-1998343,201128)安田秀彦,鈴木岳彦,矢部比呂夫:後房レンズ毛様溝縫着26)大鹿哲郎,坪井俊児,谷口重雄ほか:小切開白内障手術の術後に生じた網膜.離の2症例.臨眼50:53-56,1996***(135)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121585