■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く15.医療用コンタクトレンズ(3)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C3回として,医療用コンタクトレンズ使用における合併症,装用者に対する指導などに関する部分を解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は医療用CCLについての第C3回で1),医療用CCL使用における合併症とその予防,点眼薬との関係,装用者に対する装用方法・ケアの方法の指導についてである.医療用コンタクトレンズと予防的抗菌薬の使用治療用CCLの夜間装用に伴う細菌性角膜炎のリスクを軽減するために,局所的な予防的抗菌薬(可能であれば防腐剤を含まないもの)を使用することと,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲル(siliconehydrogel:SiHy)素材の使い捨てCCLを選択することが推奨されている.しかし,52人の眼科医を対象とした調査では,バンデージCCL使用時に予防的抗菌薬を使用する割合は42.3%にとどまり,予防的抗菌薬を使用していても細菌性角膜炎が発生した例が報告されている.このことから,予防的抗菌薬使用の強固なエビデンスは確立されていないといえる.さらに,バンデージCCL装用中の長期的な予防的抗菌薬使用は,薬剤耐性菌の増加や結膜.内細菌叢の変化につながる可能性があり,注意が必要である.予防的抗菌薬を治療用CCLと同時に使用する場合は,薬剤を定期的に変更することで薬剤耐性菌出現のリスクを低減できる可能性がある.他疾患の治療のため点眼中の患者に対する医療用コンタクトレンズの使用①副腎皮質ステロイドと非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)Invitroの研究では,副腎皮質ステロイドとCNSAIDの局所投与が角膜毒性を引き起こす可能性が示唆されて(77)いる.さらにCCL装用によって薬剤の滞留時間が延長し,角膜毒性が悪化する恐れがある.一方,1%プレドニゾロン酢酸塩にC2分間浸したソフトCCL(SCL)をウサギに装用した実験では,SCLを装用せずに点眼した群と比較して,薬剤が長時間にわたり効率的に角膜および前房内に伝達されることが確認された.②自己血清点眼,その他の血液製剤遷延性上皮欠損(persistentCepithelialdefect:PED)の患者に対し自己血清点眼とバンデージCSCLを組み合わせた治療を行ったところ,約C11~14日でCPEDが治癒したとの報告がある.また,PED治癒後にバンデージCSCLを除去したあとも自己血清点眼を継続した群では,PEDの再発率が有意に減少したとされている.さらに,Sjogren症候群患者を対象とした前向き研究では,自己血清点眼群とバンデージCSCL群のいずれも眼表面疾患指数(ocularsurfacediseaseindex:OSDI)が有意に改善したが,とくにバンデージCSCL群のCOSDIスコアがより良好であった.医療用コンタクトレンズによる合併症①細菌性角膜炎SiHy素材の医療用CSCLを使用しているC6,188人の患者(6,385眼)を対象とした中国での大規模調査では,42カ月間の抗菌薬予防投与中にC0.13%(8人)が細菌性角膜炎を発症したと報告されており,年間発生率は10,000人あたりC3.7人であった.また,高齢者や角膜移植患者は細菌性角膜炎発症のリスクが高く,夜間装用もリスク増加要因とされている.予防的抗菌薬の使用により細菌性角膜炎発症リスクを軽減させる可能性はあるもの,医療用CCLが適応となる自己免疫疾患や炎症性疾患の患者の多くは,局所的または全身的に副腎皮質ステロイドまたは免疫抑制薬の治療を受けているため,感染症あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025C3410910-1810/25/\100/頁/JCOPYを発症するリスクが高く,注意が必要である.②角膜炎症CL起因急性充血(contactClensCinducedCacuteCredeye:CLARE)は,ハイドロゲルレンズを夜間装用した患者で初めて報告された.CLAREの症状は,重度の球結膜および角膜輪部の充血,角膜中間周辺部の浸潤,軽度のフルオレセイン染色が認められるものの,角膜潰瘍や他の角膜感染の徴候がないことが特徴である.CLARE様の症状が,バンデージCSCL装用者で報告されており,その原因には,夜間装用中にレンズに付着した黄色ブドウ球菌が関連していると推測された.③強膜レンズ装用時の低酸素症従来の酸素透過性の低い強膜レンズでは,角膜浮腫や血管新生が一般的な合併症であったが,現在の強膜レンズは酸素透過性が高いため,これらの問題は改善されつつある.日中に適切に装着している場合には,4.5%以上の角膜浮腫を生じることは少ないが,装用C8時間後に2%程度の軽度の角膜浮腫が観察されることがある.とくに角膜移植後や閉瞼条件下では,強膜レンズによる角膜浮腫のリスクが高くなるため,適切なフィッティングだけでなく,長時間装用や夜間装用は避けるべきである.④合併症リスクと対応策治療用CCL使用中の合併症は,基礎疾患や異常な眼環境に起因する場合が多い.しかし,患者や医療従事者がこれをCCL装用に関連づけて中止するケースがある.治療用CCLの使用が必要である患者にとって,治療用CCLは生活の質を大幅に改善することが多い.そのため,合併症の原因を正確に推定し対応するだけでなく,CLの種類,デザイン,素材およびケア方法の最適化を通じて装用の継続を可能とすることが重要である.患者への指導と教育①装脱着通常のCCLと同様,装脱着前には必ず石鹸での手洗いを行うなどの指導が必須であるが,子どもや低視力者の場合には,家族にもレンズの取り扱い方法についての指導が必要になる.また,強膜レンズの装用に使用する補助具(プランジャー,強膜カップなど)は,使用後に洗浄と消毒が必要である.②装用時間治療用CCL(とくに強膜レンズ)を装用すると,機能的な視力や快適さが得られる.そのため,治療用CCL装用者の多くが長時間装用しており,平均C10時間以上装着する患者がC59%に上るとの報告がある.長時間装用に伴う合併症リスクを認識し,適切な指導を行う必要がある.③コンプライアンス基礎疾患を有する患者はコンプライアンスが比較的良好であるとされているが,点眼薬の使用方法や装用期間を守らずに細菌性角膜炎を発症した事例が報告されている.とくに強膜レンズでは,涙液交換がほとんど行われず,密閉性が高いため,汚染リスクが高く,正しいケア方法の指導が重要となる.また,強膜レンズを装用中に点眼する場合は,レンズ下への点眼の侵入を防止するために,レンズを取りはずし,洗浄・消毒を行う必要があるなど,レンズの取り扱いも複雑である.おわりに今回はCCLEARレポートの第C8章の後半を要約し解説した.CLは,屈折矯正だけでなく,他に有効な医療的・外科的選択肢がない希少疾患の治療において,重要な役割を果たしている.そのため,医療用CCLの進歩や合併症など安全性についての知識の更新は今後も必要である.文献1)YacobsCDS,CCarrasquilloCKG,CCottrellCPDCetal:CLEARC.CMedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEyeC44:289-329,C2021