AIによる前眼部疾患診断補助AI-AssistedDiagnosisofAnteriorSegmentEyeDiseases上野勇太*はじめに眼科診療は人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた画像解析技術との相性が非常によい.前眼部はアプローチしやすいために多様な測定装置が開発されており,角膜形状解析においては1990年代から機械学習プログラムが実装され,現在でも汎用されている.深層学習が実装されて以降は膨大な情報量をもつ画像にもAI解析が導入されるようになり,2020年以降は前眼部カラー写真を対象とした汎用性の高いプログラムが相ついで報告され,前眼部診療を一変させうる段階に入りつつある.本稿では,現状でAIがどのような前眼部疾患診断補助を可能にするのか,現在の開発到達点を整理したうえで,臨床現場への社会実装に向けたロードマップやAIと共存する近未来の前眼部診療風景を読者と共有したい.I前眼部画像解析装置を用いたAI研究角膜形状解析データを用いたAI研究として,円錐角膜の診断補助プログラムが数多く報告されている.その代表がKlyce/Maedaindexであり,プラチド型トポグラファーに搭載され,正常眼と円錐角膜眼を高精度に分類可能である1).また,近年では角膜形状解析装置を用いたドライアイのサブタイプ分類2),進行性円錐角膜か否かの判定3),コンタクトレンズフィッティングの判定4),角膜移植の予後予測5)など,単純な診断補助の枠を超えて臨床的に踏み込んだ機能を有するプログラムが,深層学習を利用して開発されている.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)データに基づいたAI研究では,角膜移植後6~8)や原発閉塞隅角緑内障9),白内障10,11)など,さまざまな疾患を対象としたプログラム開発が報告されている.角膜移植後では,内皮移植後のホスト.グラフト間隙の自動検出6)やカラーマップ生成7),治療用ガス注入の必要性予測8)など,術後診察の精度を高めるために有用な報告がなされており,すぐにでも日常診療に導入したいツールである.また,水晶体核・皮質のセグメンテーション10),白内障混濁部位の特定11)などの報告を参照すると,将来的には前眼部OCTが白内障術前検査のスタンダードになりうると考えられる.II前眼部カラー写真を用いたAI研究前眼部疾患の診療は,細隙灯顕微鏡の操作法を習熟したうえで外観から診断を下すため,医師の経験により差がつきやすい領域である.2020年以降,疾患の見逃しや診療経験の差を埋め,医師の正診率を向上させるためのAI診断補助プログラムが報告されるようになった.ディフューザー法を用いた前眼部カラー写真を題材とし,感染性角膜炎を検出するもの12)や,その他の角膜疾患も含めたマルチ疾患分類を行うもの13),感染性角膜炎の病原体分類を行うもの14)など,臨床的に有用な診断補助プログラム開発が報告されている.また,角膜に*YutaUeno:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科(1)(49)8990910-1810/26/\100/頁/JCOPY限らず,眼瞼腫瘍15)やアレルギー性結膜炎16)についてもCAIを用いた診断補助プログラム開発の報告が出てきている.眼腫瘍はとくに専門家とよべる医師が少なく,まれな疾患ゆえに経験も積みにくい一方で,誤診や見逃しが生命予後にもかかわりうるため,AIによる診断補助の需要が高い分野であるといえる.ディフューザー写真は,細隙灯顕微鏡に限らずスマートフォンやその他の機器を用いても同等な写真を撮影可能であり,スマートフォン写真に対するCAI診断補助プログラムの精度検証も報告されている12).スマートフォンは操作が簡便で,眼科医のみならず他科医師やメディカルスタッフによる撮影も想定される.夜間救急外来での初期対応や医師不足地域での遠隔医療に利用できるため,AI診断補助プログラムを導入することで,これまでの前眼部診療を大きく変革しうると考えている.ここで一つ問題となるのが,AI診断補助プログラムで読み込む画像の質である.AI研究でよく言及されるのが,プログラム開発時には良好なデータで検証されている一方で,リアルワールドにおける低品質なデータも混在した条件では,精度不良になってしまうという点である.これは撮影者の経験不足に起因する面が大きく,他科医師やメディカルスタッフによるスマートフォン撮影を遠隔医療に運用する際にはとくに注意すべきである.近年では,前眼部写真の撮影条件や画質などを自動分類するプログラムが報告されており,スリット光の有無を判別したり,ピンボケや固視不良,開瞼不良など質の悪い写真を弁別したりすることが可能である17).これらのプログラムをメインの診断補助プログラムの前に実行するシステムを構築することで,すべての撮影画像から質の高い特定条件の写真のみを自動抽出してから診断補助にかけることも可能であり,これにより低品質画像を読み込んで誤診を招くリスクを抑制することができる.また,これを動画ファイルに応用することで,診察時に動画撮影したなかから適切なピントや撮影条件の静止画を一度に複数枚抽出し,それらを統合して診断補助を行うようなシステムも将来的に実現可能であり,スマートフォン撮影者の経験の差を埋めることができると考えている.IIIわが国における角膜・前眼部AI診断補助プログラムの開発わが国でも日本眼科CAI学会,国立情報学研究所,日本眼科医療機器協会の支援のもと,日本角膜学会関連18施設からC9カテゴリー(正常,感染性角膜浸潤,非感染性角膜浸潤,角膜瘢痕,角膜沈着,水疱性角膜症,腫瘍性病変,水晶体混濁,急性緑内障発作)の細隙灯顕微鏡写真C5,270枚を収集し,物体検出モデルCYOLOv5に学習させた自動分類プログラムが完成した18).テストデータC500枚に対し正診率C88.8%で分類し,眼科医が画像のみから診断した際の正診率を上回った.また,鳥取大学から,前眼部写真の情報のみから感染性角膜炎の4種の病原微生物(細菌,真菌,アカントアメーバ,単純ヘルペスウイルス)を正診率C90.7~97.9%で自動分類するCAIが報告されている14).筆者らはこのC9分類プログラムと病原体C4分類プログラムを統合し,前眼部疾患AI診断支援システム「CorneAI」を開発した.前眼部カラー写真を読み込むと数秒でC9カテゴリーそれぞれの尤度が表示され,感染性角膜炎の場合にはさらにC4病原体の尤度が示される(図1)19).筆者らはC40名の眼科医の協力のもと,CorneAIのC9分類プログラムに関する性能評価試験を行った20).医師が画像のみを読影して診断した場合と,その後にCAIが解析した結果付きの画像を読影して診断した場合とで,医師の正診率がどの程度向上したのかを調査した.読影試験に用いたC50枚の画像において,眼科医C40名の正診率は画像のみC81.6%からCAI補助付きでC89.2%に向上し,これはCCorneAI単体の正診率C86%を上回った.すなわち,AIが誤った選択肢を提示している画像でも医師が正解の分類を選んでいることが示され,社会実装された際のプログラムの有用性を示す重要なエビデンスとなっている.これを受け,筆者らは早期の社会実装に向け,まずは国内の医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)承認の申請準備中である(2026年C5月現在).日本のCPMDA,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA),欧州医療機器規則(MedicalDeviceRegulation:MDR)のいずれにおいても,角膜・前眼部疾患を診断補助するCAIプログ900あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(50)図1前眼部カラー写真のAI診断支援プログラム,研究用プロトタイプCorneAIex(G-Data)a:感染性角膜浸潤(病原体:真菌).b:成熟白内障.Cc:翼状片.Cd:水疱性角膜症.AIが考える分類に対する尤度(確率)をバーで表示する仕様であり,いずれの症例も正しい分類名の尤度が最大であった.海外展開を見据えて英語表記も可能である.dの症例のように複数分類の尤度が大きく見積もられることもあり,AIが複数の疾患で迷っていることがわかる.(文献C19より引用)ab図2スマートフォンを用いた前眼部撮影と研究用アプリCorneAIforiOSa:ボランティアの撮影風景.被写体に近づくことでマクロ撮影モードに切り替わり,特殊なアタッチメントなしでも前眼部の拡大画像が取得可能である.Cb:急性緑内障発作の症例.スマートフォン上で作動する研究用のCAI診断補助アプリケーションを用いて解析することで,その場で上位のC3病名候補が提示され,診断補助に利用可能である.C-細隙灯顕微鏡オートレフラクトメータ(MR-6000)図3同一症例に対して異なる機種で撮影した前眼部カラー画像の比較上段:感染性角膜浸潤.中段:顆粒状角膜変性.下段:急性緑内障発作.いずれの症例も,細隙灯顕微鏡およびオートレフラクトメータ(MR-6000,トーメーコーポレーション)で撮影した画像を並べた.オートレフラクトメータの写真においても,細隙灯顕微鏡のディフューザー写真と同等のレベルで病的所見が描出されており,診療に使用するのに申し分のない画質である.VAIと共存する近未来の前眼部診療AI診断補助プログラムが提供する近未来の前眼部診療風景を描いてみたい.たとえば,眼科医のいない離島の診療所に,充血と眼痛を訴える患者が訪れる.常駐するメディカルスタッフが多機能オートレフラクトメータあるいはスマートフォンで前眼部を撮影すると,画質判定プログラムが自動で適切な一枚を抽出し,数秒のうちにCCorneAIが細菌による感染性角膜浸潤の可能性を提示する.メディカルスタッフと総合診療医はこの結果に基づいて初期対応とトリアージを行い,本土の基幹病院に画像と解析結果を伝送する.本土の眼科医は日常業務の合間にこれを確認し,培養結果の確定を待たずに初期治療を助言し,それに従って現地の総合診療医が診察と処方を行う.これまで角膜専門家にたどり着くまでに数日以上を要した僻地の患者が,受診したその場で適切な初期診療を受けられる―AIとの共存は,専門家の目を従来届かなかった場所にまで届ける可能性を秘めており,筆者らはそのようなシステムの構築をめざしている.おわりにAIによる前眼部疾患診断補助について,国内外の動向と近未来像,そして日本発のシステムが世界基準になるための活動状況をまとめた.報告されているプログラムは診断補助に留まらず予後予測モデルや低品質な写真を除外するモデルなど,早期の臨床実装が期待されるものばかりであり,医師とCAIが共存する時代の到来は想像に難くない.このような潮流のなかで多くの先生方が抱く疑問は「どうCAIと共存すべきか?」であろう.筆者らは以前,CorneAIを用いた実験において,AIの解析結果を適切に解釈するためには医師の経験が必要であることを示した22).つまり,画像読影試験において,AIがあえて誤答を示すように解析結果を加工した画像を混ぜ,医師の経験によってCAIのミスリードに左右されやすいか否かを検証した.その結果,一般眼科医はAIのミスリードにより正診率を大きく落とす一方で,角膜を専門とする医師は惑わされにくいことが示された.CorneAIに限らず,今後ますます便利なシステムが日常診療を支え,医師がCAIと共存する時代が到来すると思われるが,最終的な判断を下すのは医師自身であることは変わらないであろう.臨床医たるもの,診断や治療法の選択をCAIに一任してはならない.自身の経験と知識に基づいてこれらのツールを使いこなせる医師こそが,真にCAIと共存できると考える.若手の先生方には,引き続き日々の自己研鑽に励み,実臨床での経験を何より大切にしていただきたいと切に願い,本稿のまとめとさせていただく.文献1)MaedaCN,CKlyceCSD,CSmolekMK:NeuralCnetworkCclassi.cationCofCcornealCtopography.CpreliminaryCdemon-stration.InvestOphthalmolVisSci36:1327-1335,C19952)YokoiCN,CKusadaCN,CKatoCHCetal:DryCeyeCsubtypeCclassi.cationCusingCvideokeratographyCandCdeepClearning.Diagnostics(Basel)C14:52,C20233)KamiyaK,AyatsukaY,KatoYetal:Predictionofkera-toconusCprogressionCusingCdeepClearningCofCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCmaps.CAnnCTranslCMedC9:1287,C20214)AbadouCJ,CDahanCS,CKnoeriCJCetal:Arti.cialCintelligenceCversusconventionalmethodsforRGPlens.ttinginkera-toconus.ContLensAnteriorEyeC48:102321,C20255)KunduG,D’SouzaS,ModakDetal:Usingarti.cialintel-ligenceCforCanCe.cientCpredictionCofCoutcomesCofCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)inCadvancedCkera-toconus.TranslVisSciTechnol14:30,C20256)TrederCM,CLauermannCJL,CAlnawaisehCMCetal:UsingCdeeplearninginautomateddetectionofgraftdetachmentinCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:aCpilotCstudy.CorneaC38:157-161,C20197)GlatzA,BohringerD,ZanderDBetal:Three-dimension-alCmapCofCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastydetachment:developmentandapplicationofadeeplearn-ingmodel.COphthalmolSciC1:100067,C20218)HayashiT,IliasianRM,MatthaeiMetal:TransferabilityofCanCarti.cialCintelligenceCalgorithmCpredictingCrebub-blingsafterDescemetmembraneendothelialkeratoplasty.CorneaC42:544-548,C20239)ShanCJ,CLiCZ,CMaCPCetal:DeepClearningCclassi.cationCofCangleclosurebasedonanteriorsegmentOCT.OphthalmolCGlaucomaC7:8-15,C202410)HanX,ZhangX,ZhangJetal:Automatedquanti.cationoflenscortexandnuclearopacitybasedonswept-sourceanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JRefractSurgC41:e1042-e1048,C202511)ZeboulonCP,CPanthierCC,CRougerCHCetal:DevelopmentCandCvalidationCofCaCpixelCwiseCdeepClearningCmodelCtoC904あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(54)–