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脳神経内科領域の薬剤による眼疾患(副作用)

2025年8月31日 日曜日

脳神経内科領域の薬剤による眼疾患(副作用)Ocular Disorders(adverse events)Caused by Neurological Drugs秋山久尚*
はじめに脳神経内科領域では生物学的製剤や抗てんかん薬の新規開発,適応が急速に拡大しているが,従来薬を含む同領域薬による眼科領域での副作用は特異的で,頻度は多くないのが特徴である.しかし,眼科医が一度,薬剤性を疑えば,全身疾患を含めた適切な問診や治療歴の聴取を行い,眼科学的検査所見を詳細に検討することで,被疑薬が想定できる知識をもつことが求められる.また,副作用発現時の治療方針は被疑薬の中止が原則であるが,中止としても改善なく追加治療が必要な場合もあり,治療選択肢を多数もつべきである. 
I 抗てんかん薬
近年,高齢者てんかん患者の増加とともに新規抗てんかん薬の上市が増加し,治療選択肢が増えてきている.しかし,これら抗てんかん薬による眼科領域での特異的な副作用は多くなく,カルバマゼピンやフェノバルビタールなどの抗てんかん薬に対するアレルギー機序により生じる StevensJohnson症候群,中毒性表皮壊死症(toxicepidermal necrolysis:TEN),薬剤性過敏症症候群などの重症薬疹に伴った眼科的症状が主体である.このうち Stevens Johnson症候群は,高熱や全身倦怠感,咽頭痛(初期症状として重要)などの症状を伴い,口唇,口腔内,外陰部を含む全身皮膚粘膜移行部に重症の紅斑,びらん,水疱を多発する病態であり,眼科領域では後遺症を残しやすい眼粘膜での粘膜疹を呈する.治療は被疑薬の中止と発症早期のステロイド療法および免疫グロブリン静注(intravenousimmunoglobulin:IVIg)療法,血液浄化療法のほか,補液,栄養管理,感染予防,粘膜部の局所処置が重要である.また,TENでは眼症状として眼球結膜の充血,偽膜形成,角膜・結膜上皮の欠損を認める.抗てんかん薬による眼科領域の特異的な副作用としては,小児てんかん薬であるビガバトリン(サブリル)の長期内服で不可逆的な視野狭窄(障害),錐体機能障害,視神経萎縮を認める.これらはビガバトリン投薬の継続により悪化するため,定期的な視野検査を含めた眼科学的検査が必須となっている.

II 神経難病治療薬近年,神経難病治療薬の開発がめざましく,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS),視神経脊髄炎,重症筋無力症での急性期の副腎皮質ステロイド(とくにステロイドパルス)療法,IVIg療法,血液浄化療法は変わらないが,MSの疾患修飾(再発予防)薬として従来から使用されてきたインターフェロン(interferon:IFN) b,グラチラマー酢酸塩,フマル酸ジメチル,フィンゴリモド塩酸塩,シポニモドフマル酸,ナタリズマブに代わり生物学的製剤であるオファツマブが上市され,治療の選択肢が増えた.また,視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防薬としてはエクリズマブ,サトリズマブ,イネピリズマブ,ラブリズマブ,リツキシマブが,重症筋無
*Hisanao Akiyama:聖マリアンナ医科大学脳神経内科学〔別刷請求先〕 秋山久尚:〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生 2-16-1 聖マリアンナ医科大学脳神経内科学(1)(57) 9910910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
図 1 IFN網膜症眼底に軟性白斑,網膜出血を認める.
表 1 フィンゴリモド製剤の施設要件(注)医療施設の「施設要件」
①本剤の適性使用情報を伝達できている施設であり,e-learningを受講して本剤の有効性および安全性について十分な知識を有することを確認された医師が在籍している施設であること.②多発性硬化症(MS)の診断が可能で,十分な MS治療経験を有する医師であり,原則として日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会のいずれかの学会に所属する医師が在籍している施設であること.③循環器を専門とする医師と連携するなど,週切な処置が行える管理下での投与開始ならびに心電図測定を含む観察が可能な診療体制が取られていること.④本剤の重罵な副作用(感染症等)へ対応できる診療体制が取られている施設であること.⑤眼科医との連携を取ることが可能な施設であること.⑥全例調査への理解と協力が得られた施設であること.(フィンゴリモド製剤の適正使用ガイドより引用)

図 2 頭部/頸髄 MRI a:頭部 MRIでは DIRおよび T2WIで両側傍側脳室および juxtacorticalに高信号域,矢状断で Dawson’s .ngersを認める. b:頸髄 MRIでは高位頸髄に高信号を認める. -
図 3 フィンゴリモド開始前の OCT画像2014年C6月C18日(フィンゴリモド開始前)のCOCT画像では異常を認めない.~ -
左眼視力=0.7(1.2×-0.50D Cyl-0.5D Ax180 
°)

左眼視力=0.6(1.2×-0.50D cyl-0.5D Ax180°

図 4 左眼 OCT画像①フィンゴリモドの投与を開始し約C0.5カ月後に,OCTで左眼に無症候性黄斑浮腫の出現を確認した.
左眼視力=0.8(1.2×-0.50D cyl-0.5D Ax180°
)左眼視力=0.7(1.2×-0.50D Cyl-0.5D Ax180°)

左眼視力=0.8(1.2×-0.50D Cyl-0.5D Ax180°
)図 5 左眼 OCT画像②フィンゴリモド開始からC9カ月後まで徐々に左眼の黄斑浮腫の.胞状悪化を認めた.
左眼視力=0.5(0.9×-0.75D cyl-0.5D Ax170 
°)

左眼視力=0.4(0.9×-0.75D cyl-0.5D Ax170°
)左眼視力=0.5(0.9×-0.75D cyl-1.0D Ax165 
°)図 6 左眼 OCT画像③フィンゴリモド内服を中断なく継続したところ,黄斑浮腫は消退傾向を示し,フィンゴリモド開始約C1年で左眼の黄斑浮腫は自然消退した.
図 7 FAME発現機序は未だに不明である.DMEと同様に,フィンゴリモド用量依存的にCS1P1受容体を介してCvascularpermeabilityが増加し,blood-retinalbarrierのCbreakdownを起こし漏れ出しが生じるとされる.(文献C13より改変引用)図 8 糖尿病性黄斑浮腫( DME)単純CDR(初期)では,高血糖により網膜での毛細血管が障害され,血管から血液が漏れて出血したり(点状・斑状出血),血液中の蛋白質や脂質が網膜に沈着したり(硬性白斑)する.血糖コントロールが良好な場合,DRは可逆性である.前増殖CDR(中期)では,毛細血管が閉塞し網膜の神経細胞に酸素や栄養が行かず軟性白斑や静脈拡張が生じる.網膜の酸素欠乏状態になると,酸素を補うために異常血管(新生血管)を作る準備が始まる.増殖CDR(末期)では,網膜からの新生血管が硝子体中に発生して硝子体出血を起こし,さらに進行すると増殖膜が網膜表面を覆い網膜.離を起こす.DMEは単純CDRから増殖CDRに至るまでどの病期にも発症し,黄斑部の毛細血管が障害され,血管から血液中の水分が漏れ出して黄斑部にたまり浮腫が生じた状態で,この漏れ出しにCVEGFがかかわる.

図 9 黄斑浮腫への眼科学的検査の提言(ノバルティスファーマ社・メーゼント適正使用ガイドより転載)C–’C

抗リウマチ薬による眼障害・リンパ腫

2025年8月31日 日曜日

抗リウマチ薬による眼障害・リンパ腫OcularComplicationsandLymphomaAssociatedwithAnti-RheumaticMedications南出みのり*福岡秀記*はじめに関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は,全身の関節に慢性的な炎症を生じる進行性の自己免疫疾患である.病変の主座は関節滑膜であり,炎症が持続すると骨破壊へと進行し,関節の変形や破壊をきたす.有病率はC0.5~1.0%で,日本における患者数は約C80万人と推定される1).小児から高齢者まで幅広く発症し,30~50歳代の発症がもっとも多い.男女比はC1:4程度と女性に多いが,高齢になると1:2~3程度と男性比が相対的に高くなる.原因は不明であるが,発症には多数の遺伝要因と環境要因の関与が指摘されている.近年,メトトレキサート(methotrexate:MTX)をはじめとする抗リウマチ薬(diseaseCmodifyingCantiCrheumaticdrugs:DMARDs)の導入により,RAの治療成績は著しく向上した.治療目標はこれまでの疼痛コントロールだけでなく,骨破壊を抑制し,臨床的寛解をめざすことができるようになった.しかし,これらの薬剤はさまざまな副作用をもたらす可能性があり,眼合併症もその一つである.本稿では,DMARDsによる眼合併症およびCMTX関連リンパ腫について概説する.CIDMARDsの種類現在使用されているCDMARDsは以下のように分類される.「関節リウマチ診療ガイドライン」のCRA薬物治療アルゴリズム(図1)に従って薬剤が選択される.1.従来型合成DMARDs従来型合成抗リウマチ薬(conventionalCsyntheticDMARDs:csDMARDs)の歴史は,注射金剤やペニシラミンといった古典的CcsDMARDsに始まり,ブシラミン,サラゾスルファピリジンなどの免疫調節薬の時代を経たあと,MTXの承認により新たな時代に入った.MTXはC1950年代に抗癌薬として開発された葉酸代謝拮抗薬であるが,1980年代にCRAに対する有効性が証明され,日本ではC1999年にCRAの治療薬として承認された.当時の承認用量の上限はC8Cmg/週であり,添付文書上の適応はほかの低分子CDMARDsで効果が得られなかった症例であった.その後,2011年に成人CRAに対する最大用量はC16Cmg/週となり,第一選択薬としての使用が可能になった.高い有効率,継続率と優れた関節破壊進行抑制効果,生活の質(qualityoflife:QOL)の改善効果に加え,生命予後の改善効果も示されている.現在はCRA診療のアンカードラッグに位置づけられ,RAの第一選択薬として広く使用される.ほかのCcsDMARDsは,MTXが禁忌の場合や年齢,腎機能障害,肺合併症などを考慮してCMTXの使用を控える場合に選択される.また,MTX単独使用では効果が不十分な場合にほかのCcsDMARDsの追加併用療法を検討する.効果不十分例には,MTXとの併用に有効が示されているサラゾスルファピリジン,タクロリムス,イグラチモド,ブシラミンが推奨されている.*MinoriMinamide&HidekiFukuoka:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕南出みのり:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学(1)(49)C9830910-1810/25/\100/頁/JCOPY補助的治療太い矢印は“強い推奨”,細い矢印は“弱い推奨”であることを示す.点線矢印()はエキスパートオピニオンであることを示す.図1RAの薬物治療アルゴリズムRAと診断後はまずCMTXを考慮する.原則としてC6カ月以内に治療目標である「臨床的寛解もしくは低疾患活動性」が達成できない場合には,次のフェーズに進む.(文献C1より改変引用)薬物の減量を考慮MTX-LPDと診断MTX中止2週間経過観察寛解不変・増悪再燃経過観察化学療法図2MTX-LPDの診断と治療の概要図3症例1の前眼部写真a:初診時.左眼にサーモンピンク色の結膜腫瘍を認める.b:術後C9カ月後.左眼の結膜に結膜腫瘍の再発は見られない.図4症例2の頭部MRI画像a:術前のCT1強調画像.b:術前のCT2強調画像.左涙腺部に腫瘤を認める.図5症例3初診時の左眼前眼部写真角膜後面沈着物および角膜浮腫を認める.既往歴:RA,高血圧,胃癌,結核.眼科所見:矯正視力右眼C1.0,左眼C0.4,眼圧右眼9CmmHg,左眼C25CmmHg.左眼の角膜後面沈着物および角膜浮腫を認めた(図5).全身所見:明らかなリンパ節腫脹を認めなかった.画像所見:頭部CMRIで頭蓋内病変を認めなかった.PET-CTでリンパ節腫大はなかった.検査所見:sIL-2R660U/mL.経過:左眼の前房水を採取したところ,IL-10/IL-6=1080/181と上昇しており,左眼のCMTX硝子体内注射を施行した.その際に採取した硝子体の細胞診はCclassCIVであり,MTX-LPDの再発と診断した.2週間後,右眼にも前房内炎症が出現したため,右眼の前房水を採取したところ,IL-10/IL-6=505/72と上昇しており,右眼もCMTX硝子体内注射を開始した.全身化学療法は本人の希望がなく,両眼への局所放射線療法を併用した.経時的に眼所見は改善し,硝子体内注射C10カ月終了時には両眼ともに視力はC1.0であった.5年間再発なく経過している.おわりにDMARDs,とくにCMTXは効果的なCRA治療薬である一方,眼合併症やリンパ腫などの重篤な副作用を引き起こす可能性がある.眼合併症としては結膜炎などの比較的軽度なものから,視神経症といった重篤なものまで多岐にわたる.とくにCMTX関連リンパ増殖性疾患は生命予後にもかかわる合併症であり,眼窩や眼内病変を呈することもある.これらの副作用を早期に発見し適切に対処するためには,リウマチ専門医と眼科医,そして必要に応じて血液内科医との密接な連携が重要である.DMARDs使用患者に対する継続的な教育と,症状出現時の速やかな受診の重要性も強調されるべきである.今後,新規CDMARDsの開発や長期使用例の蓄積に伴い,さらなる眼合併症の報告が予想される.継続的な眼科的モニタリングと副作用報告の集積が,安全な抗リウマチ治療の実現に貢献するであろう.文献1)一般社団法人日本リウマチ学会(編):関節リウマチ診療ガイドラインC2024,診断と治療社,20242)Al-TweigeriT,NabholtzJM,MackeyJR:Oculartoxicityandcancerchemotherapy.CancerC78:1359-1373,C19963)ClareCG,CColleyCS,CKennettCRCetal:ReversibleCopticCneu-ropathyassociatedwithlow-dosemethotrexatetherapy.JNeuroophthalmol25:109-112,C20054)Santodomingo-RubidoCJ,CGilmartinCB,CWol.sohnJS:CDrug-inducedCbilateralCtransientCmyopiaCwithCtheCsulfon-amideCsulphasalazine.COphthalmicCPhysiolCOptC23:567-570,C20035)KatsiaunisCAK,CLipnerS:OcularCadverseCe.ectsCofCTNF-ainhibitorsCinCtheCFDACadverseCeventCreportingsystem(FAERS)C.CJCClinCDermatolCSurgC2:https://doi.Corg/10.61853/1tvx5p216)LimCLL,CFraunfelderCFW,CRosenbaumJT:DoCtumorCnecrosisCfactorCinhibitorsCcauseCuveitis?CaCregistry-basedCstudy.ArthritisRheumC56:3248-3252,C20077)Levy-ClarkeCG,CJabsCDA,CReadCRWCetal:ExpertCpanelCrecommendationsfortheuseofanti-tumornecrosisfactorbiologicagentsinpatientswithocularin.ammatorydisor-ders.OphthalmologyC121:785-796,C20148)ZemraniCS,CAmineCB,CElCBinouneCICetal:OpticCatrophyoccurringwithanti-tumornecrosisfactoralphatherapy:Cacasereport.SaudiJPatholMicrobiolC9:211-214,C20249)DermawanCA,CSoCK,CVenugopalCKCetal:In.iximab-inducedopticneuritis.BMJCaseRepC13:e236041,C202010)LiD,YangX,LiYetal:Adverseeventpro.leofocularinjuryCassociatedCwithCJAKCinhibitorsCinCpatientsCwithCrheumatoidarthritis:aCdisproportionalityCanalysis.CExpertCOpinCDrugSaf:doi:10.1080/14740338.2025.2465862.Conlineaheadofprint11)HecquetCS,CRabierCMB,CLepelleyCMCetal:Ophthalmologi-calCadverseCeventsCunderCJAKCinhibitorsCinCpatientsCwithCrheumatoidarthritis:caseanalysisoftheEuropeanphar-macovigilanceCdatabase.CAnnCRheumCDisC78(Suppl2):C748,C201912)EllmanCMH,CHurwitzCH,CThomasC:LymphomaCdevelop-inginapatientwithrheumatoidarthritistakinglowdoseweeklymethotrexate.JRheumatol18:1741-1743,C199113)KamelCOW,CvanCdeCRijnCM,CWeissCLMCetal:ReversibleClymphomasCassociatedCwithCEpstein-BarrCvirusCoccurringCduringmethotrexatetherapyforrheumatoidarthritisanddermatomyositis.NEnglJMed328:1317-1321,C199314)HoshidaCY,CXuCJX,CFujitaCSCetal:LymphoproliferativeCdisordersinrheumatoidarthritis:clinicopathologicalanal-ysisCofC76CcasesCinCrelationCtoCmethotrexateCmedication.CJRheumatolC34:322-331,C200715)TokuhiraCM,CSaitoCS,COkuyamaCACetal:Clinicopathologi-calCanalysesCinCpatientsCwithCotherCiatrogenicCimmunode.ciency-associatedClymphoproliferativeCdiseasesC988あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(54)–

免疫チェックポイント阻害薬による眼障害:臨床的特徴とマネジメント

2025年8月31日 日曜日

免疫チェックポイント阻害薬による眼障害:臨床的特徴とマネジメントOcularImmune-RelatedAdverseEventsAssociatedwithImmuneCheckpointInhibitors:ClinicalManifestationsandManagementStrategies鴨居功樹*はじめに近年,がん免疫療法として免疫チェックポイント阻害薬(immunecheckpointinhibitor:ICI)の使用が急速に普及している.ICIにはprogrammedcelldeath-1(PD-1)阻害薬(ニボルマブ,ペムブロリズマブなど),programmedcelldeath-ligand1(PD-L1)阻害薬(アテゾリズマブ,アベルマブ,デュルバルマブなど),およびcytotoxict-lymphocyteantigen4(CTLA-4)阻害薬(イピリムマブ)があり,これらはT細胞の抑制経路を遮断することで抗腫瘍免疫を賦活する.その一方で,免疫的機序による多彩な免疫関連有害事象(immune-relatedadverseevents:irAE)を引き起こすことが知られている.眼合併症(ocularirAE)は頻度こそ低いものの,患者の視機能や生活の質(qualityoflife:QOL)に大きな影響を及ぼしうる重要な有害事象である.初期の報告では発生率1%未満と考えられていたが,近年では2.8.4.3%程度に上る可能性が示唆されている.眼障害として,ドライアイから重篤なぶどう膜炎や視神経炎に至るまで多岐にわたる.眼は本来免疫特権的な環境であり,角膜や虹彩毛様体,網膜色素上皮(retinalpig-mentepithelium:RPE)などでPD-L1が発現して免疫応答を制御している.ICIによるこれら制御経路の解除は,眼組織に自己免疫反応を誘発する機序と考えられている.本稿では,ICIに伴う眼障害の種類と頻度,臨床症状,重症度評価,治療戦略,ICI継続可否の判断基準について最新の知見を解説する.I眼障害の分類と各薬剤の特徴ICIに関連する眼障害は,解剖学的部位ごとに分類すると理解しやすい.おもな病態として角膜・眼表面の障害,ぶどう膜炎(前眼部/中間部・後部/汎),網膜・脈絡膜障害,視神経障害,神経眼科的障害,眼窩障害などが報告されている.以下に部位別の詳細を述べる.1.角膜・眼表面の障害眼表面の障害としてもっとも多いのはドライアイである.ICI使用患者の3.24%でドライアイが報告されたとの報告もあり1),比較的高頻度の副作用と考えられる.自覚症状としては目の乾燥感や異物感,軽度の充血などがみられ,多くは両側性である.通常は重症度Grade1(軽度)に相当し(グレーディングは後述),人工涙液などの点眼による対症療法で管理可能である.しかし,まれながら重症の角膜上皮障害に進展する例もあり,ニボルマブ投与中に重度の角膜潰瘍・穿孔をきたした症例報告も存在する2).角膜炎も数は少ないものの報告されており,点状表層角膜症から潰瘍性角膜炎まで幅がある3).ドライアイや角膜炎はPD-1/PD-L1阻害薬で比較的多くみられる傾向があるが,CTLA-4阻害薬でも起こりうる4).結膜炎もICI開始後にみられることがあり,充血や眼脂を主訴とするが,細菌感染などとの鑑別が必要となる.これら眼表面の副作用はおおむね軽症で局所治療に反応し,ICI治療の継続は可能な場合が多い5).*KojuKamoi:東京科学大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8510東京都文京区湯島1-5-45東京科学大学大学院医歯学総合研究科眼科学(1)(41)9750910-1810/25/\100/頁/JCOPY2.ぶどう膜炎ぶどう膜炎はCICIによる眼障害のなかでもっとも代表的かつ頻度の高いものである.文献レビューによれば,報告された眼合併症のうち約C46%がぶどう膜炎関連であり,ほかの病態を圧倒して最多である4).臨床的には前部から後部までさまざまなタイプがあり,しばしば汎ぶどう膜炎の様相を呈する.前眼部の障害として前部ぶどう膜炎(虹彩・毛様体炎)がよく知られている.症状としては視力低下や霧視,羞明,飛蚊症がみられ,充血や軽度の疼痛を伴うこともある.ICI関連の前部ぶどう膜炎は両眼に発症する傾向があり,ステロイド点眼などで治療すれば多くは速やかに寛解する5).重症度としてはCGrade2(中等度)程度までの例が多く,ステロイド点眼・散瞳薬の局所治療で炎症をコントロールしつつCICIを一時中止する対応がとられる.前部ぶどう膜炎が改善すればCICI再開も可能であり,適切な治療により後遺症なく治癒する患者がほとんどである.なお,implantableCcollamerlens(ICL)使用中に虹彩炎と眼圧上昇をきたした報告もあり,炎症による隅角閉塞やステロイド誘発緑内障への注意も必要である5).中間部・後部・汎ぶどう膜炎においては,Vogt-小柳C-原田病に類似したぶどう膜炎がある(図1)6,7).このタイプは両側性の漿液性網膜.離(serousretinaldetach-ment:SRD)や脈絡膜の肉芽腫性炎症を呈し,ICI,とくに抗CCTLA-4抗体のイピリムマブで高頻度に認められる.実際,米国眼科学会CIRISレジストリの報告では,ぶどう膜炎の発生率はイピリムマブ単独でC17.6%と,ニボルマブC3.5%,ペムブロリズマブC2.6%に比べて有意に高く,ニボルマブ+イピリムマブ併用でもC6.4%と上昇することが示された8).CTLA-4阻害による全身の自己免疫活性化が,より強い眼内炎症反応を引き起こすと考えられる.治療は重症度に応じて行われる.軽度(Grade1)の場合は局所ステロイドで経過をみながらCICIを継続できることもあるが,中等度以上(Grade2.3)のぶどう膜炎ではCICIの投与中断が推奨される5).副腎皮質ステロイドの全身投与を行うことで大半の患者は改善し,多くは視力が回復するステロイド治療への反応が不十分な重症例では,免疫抑制薬の併用も検討される.たとえば,後部ぶどう膜炎に対しメトトレキサートやアザチオプリン,あるいは抗腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)C-a抗体(インフリキシマブ)投与の報告がある9).幸い,報告されたぶどう膜炎患者の予後はおおむね良好であり,適切な治療介入によって視力は改善することが多い.C3.網膜・脈絡膜障害ICIは網膜や脈絡膜にもさまざまな障害を引き起こす.上述のように多発性のCSRDは原田病様ぶどう膜炎の症状として比較的よくみられる所見である.また,網膜血管炎(血管炎性網膜症)もまれながら報告があり,網膜静脈周囲炎とそれに伴う虚血や浮腫を呈したケースがある10).急性黄斑神経網膜症(acuteCmacularCneuro-retinopathy:AMN)はきわめてまれな合併症だが,抗PD-L1抗体アテゾリズマブ投与後にCAMNと網膜静脈炎を生じた報告がある.中心視力低下と中心暗点を主訴に発症し,一部はステロイド治療で視力改善を得たとされる10).さらに,腫瘍随伴症候群の一種である自己免疫性網膜症,たとえばメラノーマ関連網膜症(melanoma-associatedretinopathy:MAR)もCICI開始後に顕在化または増悪することがある11,12).ICI治療下ではこのような網膜症の鑑別も念頭におく必要がある.また,イピリムマブ+ニボルマブ併用療法中にメラノーマ関連網膜症を発症し,脈絡膜新生血管や脈絡網膜萎縮をきたした症例報告も存在する.この症例では抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)硝子体注射やステロイド治療が行われたものの,黄斑部の瘢痕化により視力予後不良であったと報告されている13).網膜・脈絡膜障害の頻度自体は眼合併症のなかで約C9%と比較的少ないが4),ひとたび生じると中心視力に直接影響するため,早期発見と介入が重要である.C4.視神経障害ICIは中枢神経系への自己免疫反応を介して視神経炎などの視路障害を引き起こすことがある14).報告されている頻度はごく低く,ある解析では全CICI症例の約C0.4%に視神経障害が発生したとのデータがある15).しかし,976あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(42)ab図1悪性黒色腫に対するペムブロリズマブの投与例a:眼底写真.b:OCTでは,両眼において網膜色素上皮の波打,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚が観察され,Grade3のCICI関連CVKH様後部ぶどう膜炎と診断され,ICIは中止された.(文献C7より引用)いったん発症すると重篤な視力予後不良を招く可能性があるため,注意すべき合併症である.ICI誘発例では両眼同時または短期間で視力低下が進行し,眼痛をほとんど伴わない例が多い14).視野は中心暗点や視野狭窄などさまざまなパターンを呈しうる.MRI検査で視神経の造影増強効果や視交叉の炎症所見が認められることもあり,中枢神経の他の部位(脳幹や脊髄)に病変を合併する例も報告されている.治療は高用量ステロイドパルス療法を速やかに開始することが推奨され,可逆性の高い急性期に免疫抑制を行うことで視力の改善が得られる.実際,ICI関連視神経炎の多くはステロイド治療に反応し,最終的な視力予後は良好な患者が多い.しかし,なかにはステロイド抵抗性で進行する例もあり,その場合は血漿交換や免疫グロブリン大量静注療法(intravenousimmunoglobulin:IVIg)といった治療が検討される.報告例ではリツキシマブ(抗CCD20抗体)投与が試みられたケースもあるが,明確な有効性エビデンスは確立していない.視神経炎以外にも,ICIにより視神経周囲の炎症やうっ血乳頭を呈した例もある.虚血性視神経症の報告はまれだが,もし発症した場合は不可逆的な視神経障害を残すため,ICIの再開はむずかしいと考えられる16).C5.神経眼科的障害ICI治療中には,眼球そのもの以外に神経筋接合部や脳神経への免疫性副作用も生じうる.代表的なのが重症筋無力症(myastheniaCgravis:MG)であり,ICIにより免疫介在性の筋接合部障害が誘発されることがある.MGは眼瞼下垂や複視(外眼筋麻痺)で発症することが多く,眼症状のみの「眼筋型」から全身の筋力低下をきたす全身型へ進展しうる重篤な疾患である.ICI関連MGの頻度自体は非常に低いが,発症した場合は生命予後にかかわる可能性もあるため,注意深い観察が必要である.とくにCPD-1/PD-L1阻害薬は重症筋無力症様症状を誘発することが報告されている17).症状としては急激な眼瞼下垂・複視に加え,四肢近位筋力低下や嚥下障害,呼吸筋麻痺などが出現する.治療はCICIをただちに中止し,高用量ステロイド全身投与を行うとともに,必要に応じて抗コリンエステラーゼ薬の投与,さらにはIVIGや血漿交換を速やかに導入する18).ICI関連CMGの死亡率は他のCirAEと比して高いため,早期発見と積極的治療が肝要である18).一方で,脳神経障害としては眼球運動障害が報告されている19).これらは免疫介在性脳神経炎や中枢神経病変により生じると推測される.症状は複視や眼球運動障害として現れ,単独あるいは複数神経の麻痺が起こりうる.治療はほかの重篤CirAEに準じ,ICI中止とステロイド全身投与が考慮される.C6.眼窩障害ICIに関連して眼窩の炎症性疾患が誘発されることもある.炎症性眼窩偽腫瘍様の眼窩炎症では眼球突出,眼痛,複視,眼瞼腫脹などを呈しうる.報告例の集積では,眼合併症全体の約C11%が眼窩にかかわる病変とされ4),頻度としてはぶどう膜炎や神経眼科障害につぐグループである.典型例としては,ICI投与後に眼窩内の筋肉や脂肪組織にリンパ球浸潤性の炎症が起こり,眼窩炎症症候群を呈したケースがある.画像上は眼窩筋肉の肥厚や眼窩脂肪内の造影効果増強がみられ,病理検査では炎症細胞浸潤を伴う線維化が報告されている20).また,ICIに誘発された甲状腺機能異常は甲状腺眼症様の所見を呈することがあり,これも眼窩症状の一つと考えられる.治療はステロイド全身投与が主体で,多くの患者で改善がみられる21).CII重症度評価と治療・マネジメント1.重症度の評価基準ICIによる眼障害の重症度評価には,腫瘍領域で用いられるCcommonCterminologyCcriteriaCforCadverseCevents(CTCAE)が参考になる.CTCAE第C5版では,有害事象をCGrade1(軽症).5(死亡)に区分しており,眼科領域においても視力低下の程度や症状の深刻さで分類されている16)(表1).具体的には,米国臨床腫瘍学会のガイドラインでは,上強膜炎の視力障害ではCGrade1:無症状,Grade2:矯正視力C20/40(0.5)以上,Grade3:有症状,矯正視力C2/40(0.05)未満,Grade4:矯正視力C20/200(0.01).未満,といった基準が設けられている16,22).また,頻度の多いぶどう膜炎においては,炎症978あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(44)表1ICI関連眼障害の重症度に応じた段階的アプローチ症状分類ICI継続重症度(CTCAEGrade)所見治療軽度(ドライアイ・軽い充血など)○継続可能CGrade1無症状だが,臨床的に所見が確認される場合も含む人工涙液などの対症療法必要に応じてステロイド点眼を検討中等度(前部ぶどう膜炎など)△一時中止CGrade2視力はC0.5以上前房中に細胞C1+or2+ステロイド点眼重度(中間部.汎ぶどう膜炎)C×原則中止Grade3.4CGrade3視力はC0.5未満.0C.1まで前房中に細胞C3+以上,あるいは中間・後部・汎ぶどう膜炎CGrade4視力はC0.1以下高用量の全身ステロイド投与神経眼科症状(視神経炎・眼筋麻痺)C×原則中止Grade3.4相当神経学的所見を伴う場合ステロイドパルス療法(IVICg/血漿交換)軽度(Grade1)で視力に影響がなく,軽微な眼症状であれば,ICIを継続しつつ局所治療を行うことが可能である.中等度(Grade2)以上の症状,矯正視力がC20/40(0.5)を下回るような視力低下を伴う角膜潰瘍・前部ぶどう膜炎など懸念される場合には,いったんCICIを休薬することが推奨される5).治療を行い,視力・炎症所見が改善した段階で治療再開を検討する.重度(Grade3)以上の眼障害を経験した患者では,ICI再投与により再発するリスクが高いと考えられるため,原則として治療継続は推奨されない5).ICI継続可否の判断は重症度(Grade),視機能予後,全身の治療状況,そして患者本人の意思を総合的に考慮して行われる.眼科医と腫瘍内科医の緊密な連携のもと,1例ごとに最善の方針を協議することが望ましい.適切な治療に反応し,ある後ろ向き研究では大半の眼に生じたCirAEが局所または全身ステロイドで良好にコントロールされ,視力予後も改善したとしている23).一方で,興味深いことに,眼を含むCirAEを呈した患者は腫瘍学的予後が良好な傾向が示唆されている24).つまり,免疫関連毒性が現れるほど免疫が活性化され,腫瘍排除にも働いている可能性も指摘されている.おわりにICIによる眼障害は比較的新しい領域であり,眼科の見地からの発症メカニズムの解明とエビデンスに基づいたガイドライン整備が今後の課題である.現時点では,症例報告や小規模ケースシリーズの積み重ねから知見が得られている状況であり,体系的研究は限られている.免疫関連症状は眼に限らず全身に及ぶため,内科医と眼科医が連携することでさらにデータを蓄積し,エビデンスに基づいた管理指針の確立と,新たな治療オプションの開発が期待される.文献1)CappelliCLC,CGutierrezCAK,CBinghamCCOC3rdCetal:CImmune-relatedCadverseCeventsCdueCtoCimmuneCcheck-pointinhibitors:aCsystematicCreviewCofCtheCliterature.ArthritisCareRes(Hoboken)C69:1751-1763,C20172)NguyenCAT,CEliaCM,CMaterinCMACetal:CyclosporineCforCdryeyeassociatedwithnivolumab:acaseprogressingtocornealperforation.Cornea35:399-401,C20163)WuKY,YakobiY,GueorguievaDDetal:Emergingocu-larCsideCe.ectsCofCimmuneCcheckpointinhibitors:aCcom-prehensivereview.BiomedicinesC12:2547,C20244)MartensCA,CSchauwvliegheCPP,CMadoeCACetal:OcularCadverseeventsassociatedwithimmunecheckpointinhibi-tors,ascopingreview.CJOphthalmicIn.ammInfectC13:5,20235)ShahzadCO,CThompsonCN,CClareCGCetal:OcularCadverseCeventsCassociatedCwithCimmuneCcheckpointinhibitors:aCnovelCmultidisciplinaryCmanagementCalgorithm.CTherCAdvCMedOncolC13:1758835921992989,C20216)CrossonCJN,CLairdCPW,CDebiecCMCetal:Vogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCafterCCTLA-4CinhibitionCwithCipili-mumabCforCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC38:C80-84,C20157)TakeuchiCM,CMeguroCA,CNakamuraCJCetal:HLA-DRB1*04:05isinvolvedinthedevelopmentofVogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCimmune-relatedCadverseCeventsCinCpatientsCreceivingCimmuneCcheckpointCinhibitors.CSciCRepC13:13580,C20238)SunMM,KellySP,MylavarapuBsALetal:OphthalmicImmune-relatedCadverseCeventsCafterCanti-CTLA-4CorCPD-1CtherapyCrecordedCinCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmologyintelligentresearchinsightregistry.Oph-thalmologyC128:910-919,C20219)DickAD,RosenbaumJT,Al-DhibiHAetal:GuidanceonnoncorticosteroidCsystemicCimmunomodulatoryCtherapyCinCnoninfectiousuveitis:FundamentalsCOfCCareCforCUveitiS(FOCUS)initiative.OphthalmologyC125:757-773,C201810)RamtohulP,FreundKB:Clinicalandmorphologicalchar-acteristicsCofCanti-programmedCdeathCligandC1-associatedretinopathy:expandingCtheCspectrumCofCacuteCmacularCneuroretinopathy.OphthalmolRetinaC4:446-450,C202011)LuCY,CJiaCL,CHeCSCetal:Melanoma-associatedCretinopa-thy:aCparaneoplasticCautoimmuneCcomplication.CArchCOphthalmolC127:1572-1580,C200912)ElsheikhCS,CGurneyCSP,CBurdonMA:Melanoma-associat-edretinopathy.ClinExpDermatol45:147-152,C202013)ElwoodCKF,CPulidoCJS,CGhafooriCSDCetal:ChoroidalCneo-vascularizationandchorioretinalatrophyinapatientwithmelanoma-associatedCretinopathyCafterCipilimumab/CnivolumabCcombinationCtherapy.CRetinCCasesCBriefCRepC15:514-518,C202114)FrancisCJH,CJabenCK,CSantomassoCBDCetal:ImmuneCcheckpointinhibitor-associatedopticneuritis.Ophthalmol-ogy127:1585-1589,C202015)YuCCW,CYauCM,CMezeyCNCetal:Neuro-ophthalmicCcom-plicationsCofCimmuneCcheckpointinhibitors:aCsystematicCreview.EyeBrain12:139-167,C202016)MazharuddinCAA,CWhyteCAT,CGombosCDSCetal:High-lightsConCocularCtoxicityCofCimmuneCcheckpointCInhibitorsCataUStertiarycancercenter.JImmunotherPrecisOncolC5:98-104,C202217)QinCY,CChenCS,CGuiCQCetal:PrognosisCofCimmuneCcheck-pointinhibitor-inducedmyastheniagravis:asinglecenterexperienceCandCsystematicCreview.CFrontCNeurolC15:C1372861,C202418)Sanchez-CamachoCA,CTorres-ZuritaCA,CGallego-LopezCLCetal:ManagementCofCimmune-relatedCmyocarditis,Cmyo-sitisandmyastheniagravis(MMM)overlapsyndrome:asingleCinstitutionCcaseCseriesCandCliteratureCreview.CFrontCImmunol16:1597259,C202519)ManconeCS,CLycanCT,CAhmedCTCetal:SevereCneurologicCcomplicationsCofCimmuneCcheckpointinhibitors:aCsingle-centerreview.JNeurolC265:1636-1642,C201820)BittonCK,CMichotCJM,CBarreauCECetal:PrevalenceCandCclinicalCpatternsCofCocularCcomplicationsCassociatedCwithCanti-PD-1/PD-L1CanticancerCimmunotherapy.CAmCJCOph-thalmolC202:109-117,C201921)HahnCL,CPeppleKL:BilateralCneuroretinitisCandCanteriorCuveitisfollowingipilimumabtreatmentformetastaticmel-980あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(46)

特定の抗癌剤による網膜外層障害 

2025年8月31日 日曜日

特定の抗癌剤による網膜外層障害DamagetotheOuterRetinaCausedbyCertainAnticancerDrugs篠田啓*はじめに癌の治療は,「手術療法」「放射線療法」「薬物療法」といった3大治療(「免疫療法」「光免疫療法」を加えて5大治療とよばれることもある)と,これらを組み合わせた集学的療法に分類される.このうち,癌化のメカニズムとその遺伝子の解明により1990年代に登場した分子標的薬によって薬物療法は近年大きく発展している.そして複数の抗癌剤の登場によって,眼科領域の副作用が増えている.ここでは,網膜外層障害を生じうる抗癌剤についておもな薬剤と臨床所見を解説する.I網膜外層障害を生じる抗癌剤抗癌剤は,大まかに殺細胞性抗癌剤,分子標的薬,癌免疫療法,ホルモン療法薬などに分類される(表1).殺細胞性抗癌剤の抗腫瘍効果はおもに核酸合成阻害,DNA複製・転写阻害作用によって細胞の分裂阻害,アポトーシス誘導による.これは癌細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうため,副作用が問題であった.一方,分子標的治療薬は癌細胞だけがもつ増殖,浸潤・転移などの特徴を分子レベルでとらえ,その働きを抑え込む作用を有する.正常細胞へのダメージは少ないものの皆無ではなく,ほかの組織,ほかの臓器,そして眼の副作用もわかってきている.本稿では網膜外層障害を中心に,後眼部副作用について抗癌剤ごとに記述する.1.殺細胞性抗癌剤a.タキサン系抗癌剤パクリタキセル(タキソール),ドセタキセル(タキソテール)は乳癌や肺の小細胞癌などに用いられ,眼合併症としてドライアイ,視神経症などのほか,両眼性の.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)が有名である(図1)1.3).視力低下・変視症・小視症を生じる.蛍光眼底造影検査では蛍光漏出はないかごくわずかで,Muller細胞の障害,毛細血管からの漏出,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞機能低下などの機序が推測されている.網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による経過観察を行い,休薬,減量で治癒する.多くは可逆性だが,消失せず,アセタゾラミド,ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬が奏効した報告もある4).b.金製剤シスプラチン(マルコ)および頻度は低いがカルボプラチン(パラプラチン)はさまざまな癌の治療に用いられるプラチナ製剤で,乳頭浮腫,球後神経炎,黄斑色素の変化などが報告されている.シスプラチンは,炎症や酸化ストレスにより血液脳関門を破壊し,視神経の軸索病変,網膜電図での錐体,杆体機能障害,視細胞やRPE細胞といった網膜外層への直接的な細胞毒性が報告されている(図2)5).視力低下や色覚異常などをきたし,浮腫には炭酸脱水酵素阻害薬などの対症療法が行われることもあるが,重要なのは早期発見と薬剤を中止す*KeiShinoda:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡下呂山町下呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室(1)(33)9670910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1抗癌剤の種類1.殺細胞性抗癌剤白金製剤シスプラチンほか微小管阻害薬タキサン系抗癌剤パクリタキセル,ドセタキセルほか抗体薬標的抗原はCEGFR,HER2,VEGFなど多数抗CHER2抗体トラスツズマブ,ペルツズマブ,デルクステカンほか2.分子標的薬*小分子化合物チロシンキナーゼ阻害薬①CBCR-ABL阻害薬②CBRAF阻害薬**③CMEK阻害薬**④CEGFR阻害薬イマチニブ,ダサチニブ,ポナチニブほかベムラフェニブ,タブラフェニブ,エンコラフェニブトラメチニブ,ビニメチニブゲフィチニブ,エルロチニブマルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ,スニチニブ,アキシチニブほかFGFR阻害薬ペミガチニブ3.癌免疫療法インターフェロン,免疫チェックポイント阻害薬4.ホルモン療法薬タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント太字は眼科領域の副作用が有名な薬.EGFR:epidermalCgrowthCfactorCreceptor,HER2:humanCepidermalCgrowthCfactorCreceptorCtypeC2,VEGF:vascularCendo-thelialCgrowthCfactor,BCR-ABL:BreakpointCclusterCregion-AbelsonCmurineCleukemiaCviralConcogeneChomolog,BRAF:B-Rafproto-oncogene,serine/threoninekinase,MEK:Mitogen-ActivatedProteinKinaseKinase.*抗体薬は細胞外の標的分子に作用し,細胞外にある蛋白質などを標的とすることが多く,小分子薬は細胞内に取り込まれて細胞内の標的分子に作用する.たとえば,細胞外のCEGFRやCVEGFを標的とした抗体薬とこれらの細胞内での機能を阻害する小分子薬がある.**BRAF阻害薬,MEK阻害薬はチロシンキナーゼの下流にあるCBRAF,MEKをそれぞれ阻害する.-図1胃癌肝転移に対するパクリタキセル投与でみられた黄斑浮腫63歳,男性.Ca,b:初診時のCOCT所見(Ca:右眼.b:左眼).両眼黄斑部に,網膜外層を中心とした.胞様変化がみられ,右眼にはCSRDを認めた.Cc,d:初診時のフルオレセイン蛍光造影所見後期像(Cc:右眼.Cd:左眼).網膜毛細血管および黄斑部において蛍光漏出や蛍光貯留を認めなかった.Ce,f:薬中止C4カ月後のCOCT所見(Ce:右眼.Cf:左眼).右眼のCSRDは消失,両眼のCCMEは改善し,網膜厚の減少もみられるが,.胞様変化の残存がみられる.(文献C3より引用)b図2化学療法を受けた小細胞肺癌患者の眼所見79歳,男性.Ca:初診時の眼底写真(左:右眼,右:左眼).両眼特に乳頭周囲領域に網膜動脈の狭窄と硬化がみられる.Cb:初診時のCOCT画像(左:右眼,右:左眼).両眼にびまん性の脈絡膜,網膜の菲薄化がみられる.右眼に軽度のCCMEが,左眼に中心窩下沈着が認められた.(文献C5より引用)-図3:BRAF阻害薬とMEK阻害薬併用療法によるSRD73歳,女性.上段:投与中.視力(1.2)/(1.0p).悪性黒色腫に対するエンコラフェニブ(ビラフトビ)およびビニメチニブ(メクトビ)使用時に生じた両眼性の多発性CSRD.下段:投薬中止後.視力(1.2)/(1.2).比較的丈が低いのが特徴的である.薬剤中止後に自然軽快した.Ca右眼左眼b右眼左眼cdef図4ペミガチニブ投与後にSRDを認めた症例ペミガチニブC13.5Cmg投与C7日後に両眼にCSRDを認めた(Ca.c).薬剤をC8日間中断するとCSRDは改善したが(Cd),9.0Cmgのペミガチニブによる治療再開後C13日目にCSRDが再発した(Ce).直ちにペミガチニブの投与を再びC9日間中断したところ,SRDは完全に消失した(Cf).(文献C15より改変引用)図5抗エストロゲン薬投与中にみられたMacTeltype2に類似した黄斑症のOCT所見53歳,女性.右眼(Ca,c,e)および左眼(Cb,d,f)における深部強調COCT画像において中心を通る水平画像の連続的な変化を示す.a,b:初回来院時には両眼中心窩においてCellipsoidzone(EZ)とCinterdigitationCzone(IZ)の消失と,内外に層状の空洞を認めた.Cc,d:初診からC3カ月後,EZ消失面積と内外の層状の空洞の範囲は左眼では減少したが,右眼では減少しなかった.Ce,f:初診からC22カ月後,EZ消失面積は初診C3カ月後と比較して両眼でさらに減少し,内層の空洞は消失し,外層の空洞もほぼ消失した.しかし,中心窩でのIZは消失したままであった.(文献C17より改変引用)’C–

プラケニル(Plaquenil)による網膜障害

2025年8月31日 日曜日

プラケニル(Plaquenil)による網膜障害Plaquenil-AssociatedRetinalToxicity丸子留佳*丸子一朗*Iプラケニルの歴史クロロキン(chloroquine:CQ,図1)は1934年にドイツのバイエル社が合成し,1943年に米国がマラリアの特効薬として短期間の投与に限って使用を開始したが,第二次世界大戦中に抗マラリア薬の投与を受けていた兵士の関節痛などの症状が改善したことを契機に,全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythemato-sus:SLE)や関節リウマチの治療薬として広く使用されるようになった.日本では1955年に抗マラリア薬として承認され,そののち,腎炎,関節リウマチ,気管支喘息,てんかんにまで適応が拡大された.当時は薬事制度が十分に整備されておらず,長期投与についての安全性の確認や市販後の副作用のモニターも行われないまま,適応拡大や投与量増加,投与期間の長期化が行われた.1959年にLancetにCQ網膜症の報告が掲載され,日本においても1962年には文献報告で142例,アンケート調査で353例の網膜症の報告がなされ,1964年には日本リウマチ学会でCQ網膜障害の集中討議も行われた1).しかし,ただちには安全対策に結びつかず,1971年にはCQ網膜症被害が社会問題化し,1972年に被害者の会が結成され,1973年よりCQ訴訟が提起された1).製薬企業は1974年にCQの製造を中止し,1976年に再評価結果で腎炎に対して有効性なしと判定され,日本薬局方から削除された.ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine:HCQ,図1)はCQの副作用を軽減する目的でCQにヒドロキシ基(-OH)を付加した誘導体として合成された.1955年にHCQは米国食品医薬品局によって医療用途として承認され,商品名プラケニル(Plaquenil)で販売が開始され,SLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬として使用されるようになった.日本では長らく未承認であったが,2015年7月にSLEと皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE)を適応としてサノフィが製造販売承認を取得した.なお,2021年には旭化成ファーマとの共同販売となっており,2024年12月からはジェネリック医薬品も発売されている.IISLE診療におけるHCQの位置づけSLEはT細胞,B細胞などに起因する免疫異常を背景に多彩な自己抗体が産生され,皮膚,腎臓,脳など全身の臓器を障害する代表的な自己免疫疾患の一つである.有病率は10万人あたり20.150人と報告され,好発年齢は20.40歳代,男女比は1:9で女性に多い2).CQHCQ図1CQとHCQの構造式*RukaMaruko&IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子留佳・丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室(1)(23)9570910-1810/25/\100/頁/JCOPYHCQは抗炎症作用,免疫調節作用,抗酸化作用など,多岐にわたる作用を有する薬剤である3).HCQは核内因子(nuclearfactor:NF)lB経路を抑制し,炎症性サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)1b,IL-6,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)aの産生を減少させる.これにより,関節痛や皮疹,腎炎などの症状の改善が期待できる.また,HCQは高い脂溶性とリソソームへの特異的な親和性により,細胞膜を通過してリソソーム内に蓄積し,抗原提示細胞の機能を抑制し,免疫応答を調節することができる.具体的には,Toll様受容体の阻害を通じてインターフェロンa(IFNa)の過剰産生を抑制し,自己免疫反応を緩和する.さらに,HCQは活性酸素種の産生を抑制することで,細胞の酸化ストレスを軽減し,組織のダメージを防ぐ.この抗酸化作用により,心血管疾患のリスクを低減できる可能性がある.HCQの効果として,SLEの再燃抑制効果,疾患活動性の抑制効果や生存期間の延長,早期導入による疾患の進行や生存期間の延長が示唆されている4).CLEにおいては,50%以上がHCQ単剤で効果がある4).厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班)および日本リウマチ学会の合同で作成されたSLE診療ガイドライン20195)の診療アルゴリズムによると,皮膚以外の臓器病変を認める場合には,病態や臓器病変にかかわらず,副腎皮質ステロイド投与の前に全例でHCQを考慮することになっている.ガイドラインのなかでSLEの治療目標は,「生命予後のさらなる改善に加え,長期にわたって患者の生活の質を落とさないこと,すなわちSLEではない健常者と何もかわらない社会活動を行える状態を維持すること(社会的寛解の維持)」と定義された.またSLE患者が若年女性に好発することから,社会活動は労働生産性のみでなく,妊娠・出産・育児などの家庭活動も含まれる.社会活動を大きく制限する要因は骨粗鬆症による圧迫骨折や白内障など,副腎皮質ステロイドによるものも多い.さまざまな免疫抑制薬を使用できるようになった現在,SLEの疾患活動性をいかに抑えるかという点に加え,副腎皮質ステロイドの副作用を軽減し,SLEならびに治療に伴う臓器障害を起こさないことが重要となってきている2).2023年に改定された欧州リウマチ学会のSLE治療に関するリコメンデーションズにおいても,HCQは禁忌でない限り,SLEの疾患活動性によらず,軽症・中等症・重症の全患者に投与するものと位置付けられている6).筆者らの外来診療でも,HCQを開始することで副腎皮質ステロイドから離脱できたSLE患者を複数診ている.また,女性に多いSLEで議論となるのが妊娠である.一般に,妊娠中の薬剤使用では,初期の催奇形性と胎児毒性の二つが懸念されるが,催奇形性については妊娠初期にHCQの使用で先天異常の発生は上昇せず7),催奇形性や胎児毒性も認められていない4).原病の治療に必要であれば妊娠中のHCQの使用は可能であり,むしろ妊娠中はSLEが再燃しやすくなるため,疾患活動性管理が重要と考えられている.IIIHCQ網膜症副腎皮質ステロイドよりも全身副作用の少ないHCQであるが,長期使用により網膜症が出現することがあり,もっとも注意しなければならない副作用である.黄斑ジストロフィや萎縮型加齢黄斑変性などの視細胞の変性をきたす疾患が鑑別に上がるが,HCQ開始後に発症したかどうかが鑑別の鍵となるため,HCQ服用開始前の眼科検査が重要である.IV発症機序CQおよびHCQは,メラニンとの親和性が非常に高く,メラニン顆粒を含む網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞や脈絡膜メラニン含有細胞に取り込まれる.弱塩基性であるCQおよびHCQによって酸性のリソソーム内pHが上昇してリソソーム酵素の働きが低下し,視細胞外節の代謝を阻害し,リポフスチンが蓄積する.この蓄積したリポフスチンがさらにリソソーム機能を阻害する悪循環を生み,最終的にRPEの機能不全から視細胞変性が起き,網膜症を発症する8).HCQはCQよりも細胞膜透過性が低く,リポフスチンの産生量が少ないことが基礎実験で示されており8),実臨床でもHCQはCQよりも網膜症の発症率が低いことが示されている9,10).958あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025(24)Vスクリーニングで行うべき眼科検査HCQは前述のように,視細胞変性とRPE萎縮を引き起こす.HCQ網膜症の初期は中心窩周囲に顆粒状変化がみられ,進行すると黄斑部にbull.seyemaculopathy(標的黄斑症)が出現し,末期には周辺部網膜までメラニン色素の沈着を伴った網脈絡膜萎縮をきたす11).初期には自覚症状はないか,あっても軽微(図2)であり12),患者の自覚症状の有無による評価は危険である.現時点ではHCQ網膜症に有効な治療法はなく,いったん発症するとHCQの中止後も網膜症が進行することがある(図2)ため11,12),定期的なスクリーニング検査を行い,患者の自覚症状の出ていない初期のうちにHCQ網膜症を診断し,プラケニルを中止することが視機能を守るうえで非常に重要である.HCQ服用例に対して実施すべき眼科検査を表1に示す.HCQの適応疾患であるSLEとCLEでは経口副腎皮質ステロイドが併用されている患者もあり,HCQ網膜症に加えて,ステロイド白内障,ステロイド緑内障,中心性漿液性脈絡網膜症などの副腎皮質ステロイドの眼副作用にも留意して診察する.また,網膜症の発現部位に関する人種差についての検討の結果,アジア人では黄斑辺縁部型での発症が他の人種に比べて高頻度にみられた13,14).黄斑辺縁部型は傍中心窩型よりも診断時のプラケニル累積投与量が多く,より進行した状態でみつかった13)ことから,黄斑辺縁部型は傍中心窩型よりも発見が遅れる傾向にあることがわかる.定期的なスクリーニングでは,黄斑辺縁部型を常に念頭におき,黄斑部のみならず,その外側にも注意して検査を行うことが重要である.日本眼科学会のガイドライン11)に準じて,以下に各検査の注釈を述べる.①視力検査:HCQ網膜症のみならず,ステロイド白内障や中心性漿液性脈絡網膜症によるによる視力低下に留意して視力を測定する.②細隙灯顕微鏡検査:HCQは網膜症以外にも角膜症を起こすことがあるため行う.CQ角膜上皮症では,両眼性に角膜表面をほうきで掃いたような線状の細かいびまん性の混濁が認められる15).③眼圧測定:日本で行われたHCQの臨床試験,海外市販後調査において眼圧変化にかかわる副作用の報告はないが,ステロイド緑内障に留意して眼圧を測定する11).④眼底カメラ撮影:HCQによる眼底の詳細な変化をとらえるために行う.広角眼底カメラ撮影を行うことも検討する.⑤光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT):傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化をとらえることにより,HCQによる網膜障害の検出が可能である.Ellipsoidzone(EZ)の欠損は傍中心窩障害の初期の所見である可能性がある(図2).網膜構造の微細な変化はタイムドメインOCTなどの古い機種では適切に描出できないことに注意する.⑥視野検査:網膜症による中心視野の状態および変化をとらえる目的で実施する.HCQによる視野異常は,傍中心窩型では中心10°以内で観察されるが,黄斑辺縁部型ではそれよりも周辺で視野障害が起こるため,中心30°までの領域の検査も検討する.筆者らはHumphrey自動視野計の10-2プログラムと30-2プログラムを交互に施行している.なお,ステロイド緑内障による視野異常がないかどうかもスクリーニング時に確認する.⑦眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF):2016年に日本眼科学会より発刊された「ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き」では,HCQ使用例に行うべき眼科検査のなかに含まれていないが11),2020年に英国王立眼科学会より発刊された改訂ガイドライン「TheRoyalCollegeofOphthalmologistsrec-ommendationsonmonitoringforhydroxychloroquineandchloroquineusersintheUnitedKingdom(2020revision)」では,推奨される検査に含まれており,黄斑辺縁部型の検出にも適した広角のFAFの撮影がとくに推奨されている16).なお,ステロイド併用例においては,中心性漿液性脈絡網膜症に起因する漿液性網膜.離が発生していない場合でも,RPE障害が生じることがある.このような変化をHCQ網膜症と混同しないよう,注意が必要である.色覚検査は,日本眼科学会のガイドラインではHCQ使用例に行うべき眼科検査のなかに含まれているが11),(25)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025959eHumphrey10-2プログラム図2初期のHCQ網膜症(弘前大学上野真治先生のご厚意による)39歳,女性.SLE.a:HCQ服用開始前.OCTでCinterdigitationzone(IZ)の途絶がみられ(.),EZの反射も不良であった.b~e:HCQ網膜症診断時(投与開始後C2年C4カ月,累積投与量C168g).右眼視力(1.2).自覚症状なし.眼底写真で異常はみられないが,FAFで中心窩上方にリング状の過蛍光があり,それに対応する下方の視野障害がみられる.OCTでCEZとCIZの途絶(.)が観察される.f~h:中止後C3年.右眼視力(1.2).自覚症状なし.眼底自発蛍光で過蛍光の範囲が拡大し,それに対応して視野障害の範囲も拡大している.OCTで観察されるCEZとCIZの欠損範囲も長くなっている(.).hHumphrey10-2プログラム-表1HCQ使用例に行うべき眼科検査・視力検査・細隙灯顕微鏡検査・眼圧測定・眼底カメラ撮影・SpectraldomainOCT(SD-OCT),SweptsourceOCT(SS-OCT)×timedomainOCTは推奨されない・視野検査(中心C10°とC30°を交互に施行)・FAF(黄斑部と周辺部を両方撮影)図3強度近視眼のHCQ服用症例58歳,女性.SLE.Ca~c:HCQ服用開始前.左眼視力(1.2).タクロリムスとプレドニゾロンC11Cmg/日を併用.Cd~f:HCQ開始後C3年C8カ月(累積投与量約C400Cg).左眼視力(1.25).プレドニゾロンC9Cmg/日を併用.強度近視眼でCOCTでのCEZとCIZは描出不良であるが,服用開始後のCOCT所見に著変なく,FAFでも網膜障害を示唆する所見がないことからCHCQの服用を継続している.図4経過中に中心性漿液性脈絡網膜症を発症したHCQ内服症例38歳,女性.SLE.Ca,b:HCQ服用開始時.右眼視力(1.2).ミゾリビン,タクロリムスとプレドニゾロンC10mg/日を併用.OCTで脈絡膜が肥厚しているが,FAFでCRPE異常ははっきりしない.Cc,d:HCQ服用開始C2年後(累積投与量約C220Cg).右眼視力(0.7).ミコフェノール酸モフェチルとプレドニゾロンC20Cmg/日を併用.OCTで中心性漿液性脈絡網膜症がみられる.Ce,f:HCQ開始後C3年C4カ月(累積投与量約C365Cg).右眼視力(1.2).タクロリムスとプレドニゾロンC15Cmg/日を併用.漿液性網膜.離の消失に伴ってCFAFの過蛍光所見が消失した.OCTで中心窩のCIZが描出されず,EZの連続性も不良であるが,中心性漿液性脈絡網膜症の既往のためと判断し,HCQの服用を継続している.表2HCQ網膜症の発症率■全CHCQ網膜症の累積発症率■中等度もしくは重度CHCQ網膜症の累積発症率HCQ用量(mg/kg/日*)10年累積発症率15年累積発症率C.5mg/kg/日C1.2%C2.7%5.6mg/kg/日C3.5%C11.4%>6mg/kg/日C5.8%C21.6%HCQ用量(mg/kg/日*)10年累積発症率15年累積発症率C.5mg/kg/日C0.5%C1.1%5.6mg/kg/日C0.9%C2.4%>6mg/kg/日C1.5%C5.9%*体重は実測体重(文献C19より改変引用)表3HCQの累積投与量表4眼科検査のタイミングとリスク因子HCQ投与量おおよその累積投与量(g)200mg/日C6×服用期間(月)200CmgとC400Cmgの隔日投与C9×服用期間(月)400mg/日C12×服用期間(月).処方前.処方開始後は年C1回.下記リスクのある場合はより頻回(半年毎など)・累積投与量がC200Cg超・高齢者・肝機能障害または腎機能障害・視力障害,SLE網膜症,投与後に眼科検査異常の出現

抗糖尿病薬(DPP4,GLP-1)関連の眼疾患

2025年8月31日 日曜日

抗糖尿病薬(DPP4,GLP-1)関連の眼疾患OcularDisordersRelatedtoAnti-DiabeticDrugs(DPP-4inhibitors,GLP-1ReceptorAgonists)福岡秀記*はじめに2型糖尿病の治療薬として広く使用されているCdipep-tidylpeptidase-4(DPP-4)阻害薬やCglucagon-likepep-tide-1(GLP-1)受容体作動薬は,その安全性と有効性から臨床現場で多く使用されている.これらの薬剤はおもにインクレチンホルモンの作用を増強することで血糖コントロールに寄与する.しかし,近年,とくにDPP-4阻害薬投与に関連した自己免疫性水疱症(水疱性類天疱瘡,bullouspemphigoid:BP)の報告が増加しており,医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)より医療関係者に対して注意喚起がなされ1),とくに皮膚科領域では注目されている.眼科領域においても,DPP-4阻害薬関連の眼類天疱瘡(ocularCcicatricialpemphigoid:OCP)の症例が報告され始めており,薬剤誘発性の眼表面疾患として認識が高まっている.またCGLP-1受容体作動薬も,2型糖尿病治療薬として使用され,近年では肥満症治療においても画期的な効果を示している.しかし,その使用拡大に伴い,眼疾患を含むさまざまな副作用の報告が増加している.本稿では,DPP-4阻害薬関連のCOCPとCGLP-1受容体作動薬と関連する非動脈炎性前部虚血性視神経症(non-arteriticCanteriorCischemicopticneuropathy:NAION)を中心に,最新の知見を整理する.IDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の作用機序1.DPP-4阻害薬DPP-4はインクレチンホルモンであるCGLP-1やCglu-cose-dependentCinsulinotropicCpolypeptide(GIP)を分解する酵素である.DPP-4阻害薬は,この酵素の働きを阻害することで,インクレチンホルモンの血中濃度を上昇させ,膵Cb細胞からのインスリン分泌を促進する.日本で承認されているCDPP-4阻害薬には,シタグリプチン,ビルダグリプチン,アナグリプチン,リナグリプチン,テネリグリプチン,サキサグリプチン,トレラグリプチン,オマリグリプチンなどさまざまな種類がある.DPP-4阻害薬は日本におけるC2型糖尿病治療の主要な選択肢となっており,2014.2017年の調査によれば,国内のC2型糖尿病患者の新規治療においてもっとも多く処方されている薬剤で,処方率はC65.1%に達している2).とくに高齢者や腎機能低下患者においても比較的安全に使用でき,低血糖リスクの少なさから第一選択薬として頻用されている3).C2.GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬は,インクレチンホルモンであるCGLP-1の作用を模倣し,GLP-1受容体に直接作用する薬剤である.これにより,膵Cb細胞からのインスリン分泌を促進し,膵Ca細胞からのグルカゴン分泌を抑*HidekiFukuoka:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学(1)(11)C9450910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1DPP-4阻害薬関連OCPa:右眼.b:左眼.両眼の結膜充血と輪部の堤防上隆起および睫毛乱生を認める.図2DPP-4阻害薬関連OCPa:右眼.b:左眼.フルオレセイン蛍光造影により角膜輪部の上皮欠損および眼脂を認める.図3DPP-4阻害薬関連OCPDPP-4阻害薬を中止し,全身治療を行ってからC2年が経過した.左眼(Cb)は角膜上に角化組織を残し,右眼(Ca)の角膜は透明性を維持している.ab図4NAIONの典型的な所見a:眼底写真.b:眼底COCT画像.視神経乳頭浮腫を認める.一方で,2024年C8月の大規模リアルワールドデータ分析では,6,600万例のデータベース解析においてGLP-1受容体作動薬使用群と非使用群でCNAIONリスクに差がないという結果が示された.この研究ではC6種類の感度分析(セマグルチド限定解析を含む)でも同様の結果が得られており,眼科受診歴のない一般集団を対象としている8).Cc.発症機序の仮説GLP-1受容体作動薬がCNAIONを誘発する可能性のある機序としては,いくつかの仮説が考えられている.一つは視神経に発現するCGLP-1受容体の刺激により交感神経が亢進し,血管収縮が生じて視神経乳頭の血流障害を引き起こす可能性,治療薬による急速な体重減少に伴う低血圧や血管内脱水が視神経乳頭の血流低下を引き起こす可能性,高血糖の急速な是正が眼合併症と関連している可能性も指摘されている.さらに,基礎疾患としての糖尿病や肥満自体がCNAIONのリスク因子であるため,今後も関連性評価には注意が必要である.C2.GLP-1受容体作動薬とその他眼合併症GLP-1受容体作動薬と糖尿病網膜症の関連については,さまざま報告されている.急速な血糖コントロールの改善に伴い,一過性の網膜症悪化が生じる現象(earlyworsening)が知られており,SUSTAIN-6試験9)では,セマグルチド投与群で糖尿病網膜症合併症が対照群よりも高率に報告された.この悪化は,おもに治療前のHbA1c値が高く,すでに網膜症を有していた患者で生じていた.現在ではCGLP-1受容体作動薬は軽症糖尿病網膜症の発症リスクを高めるものの,重症糖尿病網膜症の発症リスクを軽減させると理解されている.C3.今後の課題と研究の方向性GLP-1受容体作動薬と眼疾患の関連については,依然として多くの未解明点がある.今後の課題としては,因果関係の調査とリスク推定のための大規模前向きコホート研究の実施や知見から得られるハイリスク患者における眼合併症予防などがあげられる.おわりにDPP-4阻害薬とCGLP-1受容体作動薬はC2型糖尿病治療において重要な選択肢である一方,それぞれ特有の眼合併症リスクについても注意が必要である.DPP-4阻害薬はCOCPとの関連が報告されており,早期発見と原因薬剤の中止が重要である.一方,GLP-1受容体作動薬については,とくにCNAIONに関する研究結果が相反する状況にあり,明確な結論には至っていない.今後の続報が待たれる.このように薬剤性眼障害を疑った場合には,薬剤の投与歴(投与量,期間,併用薬など)を詳細に聴取することが診断の一助となる.文献1)医薬品医療機器総合機構:AppropriateCmeasuresCtoCbeCtakenforpemphigoidduetodipeptidylpeptidase-4(DPP-4)Inhibitors.https://www.pmda.go.jp/.les/000263415.pdf2)BouchiCR,CSugiyamaCT,CGotoCACetal:RetrospectiveCnationwideCstudyConCtheCtrendsCinC.rst-lineCantidiabeticCmedicationCforCpatientsCwithCtype2CdiabetesCinCJapan.CJDiabetesInvestigC13:280-291,C20223)DoniK,BuhnS,WeiseAetal:Safetyofdipeptidylpepti-dase-4CinhibitorsCinColderCadultsCwithCtypeC2diabetes:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCrandomizedCcon-trolledtrials.TherAdvDrugSafC13:20420986211072383,C20224)MatsumotoCA,CFukuokaCH,CYonedaCACetal:OcularCcica-tricialCpemphigoidCfollowingCdipeptidylCpeptidase-4Cinhibi-toruse:aCcaseCreport.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC32:C101957,C20235)HathawayJT,ShahMP,HathawayDBetal:Riskofnon-arteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCinCpatientsCprescribedsemaglutide.JAMAOphthalmolC142:732-739,C20246)Carreno-GaleanoCJT,CShahCM,CZekavatCSMCetal:NonCarteriticischemicopticneuropathyinpatientsreceivingaglucagon-likeCpeptideCreceptorCagonistsCinCaCtertiaryCcareCcenter.CInvestOphthalmolVisSciC65:6177,C20247)KatzCBJ,CLeeCMS,CLinco.CNSCetal:OphthalmicCcomplica-tionsCassociatedCwithCtheCantidiabeticCdrugsCsemaglutideCandtirzepatide.JAMAOphthalmolC143:215-220,C20258)Klono.CDC,CHuiCG,CGombarS:Real-worldCevidenceCassessmentCofCtheCriskCofCnonarteriticCanteriorCischemicCopticCneuropathyCinCpatientsCprescribedCsemaglutide.CJDiabetesSciTechnolC18:1517-1518,C20249)MarsoSP,BainSC,ConsoliAetal:Semaglutideandcar-diovascularCoutcomesCinCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CNEnglJMedC375:1834-1844,C2016(15)あたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C949

TS-1による角膜上皮障害・涙道障害

2025年8月31日 日曜日

TS-1による角膜上皮障害・涙道障害CornealEpithelialDisorderandLacrimalDuctObstructionAssociatedwiththeAnticancerDrugS-1鎌尾知行*はじめにテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワン,以下,TS-1)は,消化器系悪性腫瘍を中心に広く使用される経口抗癌薬である.とくに,フッ化ピリミジン系抗癌薬であるテガフールが主成分となり,5-フルオロウラシル(5-FU)として体内で代謝されることで抗腫瘍効果を発揮する.TS-1は有効性が高い一方で,消化器症状,骨髄抑制,皮膚障害など多彩な副作用を有することが知られている.眼科領域においては角膜上皮障害および涙道障害が臨床的に重要であるため,本稿ではTS-1による角膜上皮障害と涙道障害について概説する.Iわが国におけるTS-1の使用状況TS-1は,主成分であるテガフールと分解阻害薬のギメラシル,リン酸化阻害のオテラシルカリウムの入った配合抗癌薬である.テガフールが5-FUのプロドラッグであり,肝臓で代謝されて抗腫瘍効果を発揮するため,TS-1は5-FUなどのフルオロウラシル系抗癌薬に属する.そしてギメラシルは,5-FUの分解阻害薬であり抗腫瘍効果を高め,オテラシルカリウムは,消化管障害の副作用を軽減する作用がある.わが国ではフルオロウラシル系抗癌薬の使用頻度が高いが,TS-1は適応疾患が幅広いこと,抗腫瘍効果が高いこと,主要な副作用である消化管障害が低減されているという特徴を有する内服抗癌薬であるため,わが国でもっとも多く処方されている.IITS-1による眼障害の頻度フルオロウラシル系抗癌薬の作用は細胞増殖の阻害・抑制であり,細胞増殖の盛んな組織,毛髪や皮膚,血球系などに副作用を生じやすい.眼科領域の副作用として角膜上皮障害,涙道障害が報告されているが1),角膜上皮や涙点・涙小管上皮は細胞増殖の盛んな重層扁平上皮で構成されており,抗癌薬の影響をもっとも受けやすい組織である.角膜,涙道障害の発症機序としては,血液中から涙腺に取り込まれた5-FUが涙液中に分泌され,角膜上皮細胞,涙点・涙小管上皮細胞の増殖が抑制されることで,角膜上皮障害,涙道障害を引き起こすと考えられている.また,血中の5-FUが直接角膜上皮,涙点・涙小管上皮に働く機序も推定されている.1999年3月の発売後,TS-1による角膜・涙道障害が報告されるようになった2,3).その発症頻度は角膜障害が6.17.5%,涙道障害が8.37%と報告されている4.7).一方,5-FUによる涙道障害が5.8.6%と報告されており,TS-1はほかのフルオロウラシル系抗癌薬よりも眼障害の発症頻度が高い.図1はフルオロウラシル系抗癌薬のTS-1,ドキシフルリジン,カペシタビン,UFTの四つの5-FU血中濃度推移のグラフである.いずれも5-FUやそのプロドラッグであるため,肝臓で代謝されて5-FUとなり,抗腫瘍効果を発揮する.ドキシフルリジン,カペシタビン,UFTでは投与後急激に血*TomoyukiKamao:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座〔別刷請求先〕〒791-9025愛媛県東温市志津川454愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座(1)(3)9370910-1810/25/\100/頁/JCOPY5-FU血中濃度(ng/ml)25020015010050002468101214(時間)投与後時間図1フルオロウラシル系抗癌薬の5-FU血中濃度推移縦軸はC5-FUの血中濃度で,横軸が投与後の時間である.CVIは長期持続点滴静注法を意味する.5-FUを点滴投与するにあたって至適濃度がC50.100の間であり,この濃度以上が有効な抗癌作用を発揮する.(各薬剤インタビューフォームより作成)abc図2TS-1角膜障害a:SPK(Ⅱ型).b,c:角膜上方からシート状の異常上皮が下方に向かって侵入してくる場合(Ⅳ型).フルオレセイン蛍光造影(Cb),ディフューザー(Cc).表1抗癌薬による涙道閉塞の部位抗癌薬閉塞部位涙点涙小管涙.・鼻涙管CTS-15(3C1%)10(C63%)1(6%)ドセタキセル6(5C5%)5(4C5%)C0涙道閉塞を起こす代表的な抗癌薬であるCTS-1とドセタキセルは,いずれも涙点や涙小管閉塞を起こしやすい.(文献C11より改変引用)表2抗癌薬による涙道閉塞に対する治療方法と症状の改善率抗癌薬治療方法流涙症状の改善涙点形成術涙管チューブ挿入術涙腺へのボトックス注射CTS-1C0C13C1114(C58%)ドセタキセルC4C13C017(C100%)(文献C11より改変引用)重症度手術方法Grade1涙点からブジーが10mm・涙管チューブ以上挿入できる挿入術涙管通水検査で上下交通が確認できるGrade2涙点からブジーが7~8mm以上挿入できる・経皮的涙小管涙管通水検査で上下交通が再建術ない・涙小管造袋術Grade3・結膜涙.鼻腔吻合術涙点からブジーが7~8mm・涙.移動術未満しか挿入できない(結膜涙.吻合術)図3涙小管閉塞の重症度と対応する手術方法矢部・鈴木分類は,涙点から閉塞部の距離で重症度を分類する簡便な評価方法である.涙小管閉塞は,閉塞距離が長くなればより重症となるが,非観血的に閉塞部以降の状態を把握できないため,閉塞距離を評価することはできない.閉塞部の場所が涙点近傍であるほど閉塞距離が長くなるリスクが高くなることで評価する.前期後期Grade2,3Grade2,319%9%Grade15%図4TS-1による涙道障害の初診時の障害部位2009.2013年を前期群,2014.2018年を後期群としている.障害部位は涙管通水検査,ブジー,涙道内視鏡による観察で判定した.C-図6経皮的涙小管再建術の手術方法涙点側からブジーを挿入して閉塞部位を鼻側に押し付けて,内総涙点側からメスで切開・開放する.図5涙小管造袋術の手術方法涙乳頭が存在する場合は,その部位にC18G針もしくはC15°メスで穿刺し,涙小管垂直部を探索する.涙乳頭が存在せず涙点の位置が明確でない場合は,涙点があったと考えられる部位からC15°のメスで瞼縁を切開し,涙小管を探す.白色で光沢のある組織が涙小管内腔の上皮である.その場所で涙小管を見つけられない場合は,切開部位より鼻側に新たな切開を加えて探索する.図7結膜涙.鼻腔吻合術の手術方法結膜.と涙.もしくは鼻腔とをバイパスする方法.鼻外法や鼻内法,レーザーアプローチでCDCRを行ったあと,結膜から涙.または鼻腔へステントを通す.結膜から涙小管を介さずにステントを介して涙.,鼻腔へと涙液が流れる.表3結膜涙.鼻腔吻合術の治療成績と合併症報告者報告年症例数治療成績合併症CSteinsapirKD16)C1990C79C96%脱落51%偏位22%チューブ閉塞23%CSekharGC17)C1991C69C98.5%脱落30%偏位28%チューブ閉塞28%CRoseGE18)C1991C326C91%脱落41%CLeeJS19)C2001C124C97%脱落10%結膜侵入12%(文献C11より改変引用)C-’C-

序説:知っておきたい薬剤の副作用

2025年8月31日 日曜日

知っておきたい薬剤の副作用DrugSideE.ectsYouShouldKnowAbout福岡秀記*大野京子**外園千恵*医療の進歩に伴い,さまざまな全身疾患に対する新規薬剤が次々と開発され,臨床現場に使用される機会が増加してきている.これらの新規薬剤はこれまで治療のむずかしかった疾患の治療に大きく貢献する一方で,眼に対する副作用を示すことがあり,また,影響が不明なものもある.ご存知のとおり,全身投与された薬剤の影響を眼が受けて視機能低下を引き起こすと,患者のみならず介護者を含む社会的にも大きな影響を与える.眼科医にとって,薬剤の副作用による眼障害の知識を更新し続けることは,患者の視機能を守るためにきわめて重要な責務と思われる.薬剤による眼障害は,その発症機序によって大きく分けると,直接的な薬物毒性によるもの,免疫学的機序を介したもの,未だ機序が不明なものに大別される.直接的な薬物毒は投与量や期間に依存して発症することが多く,免疫学的機序は個体〔ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)を含む〕の免疫応答の違いにより発症リスクが異なる.また,障害部位は角膜や結膜などの前眼部から,網膜や視神経などの後眼部まで多岐にわたり,あらゆる眼組織が影響を受ける可能性がある.とくに注目すべきは,近年の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(immunecheckpointinhibi-tor:ICI),生物学的製剤などの新規薬剤による眼障害である.これらの薬剤は,従来の抗癌薬とは異なる作用機序をもち,それに伴い眼障害のパターンも従来とは異なるため,薬剤副作用による眼障害の知識の更新がとくに必要な領域である.たとえば,ICIでは自己免疫反応の活性化により,ぶどう膜炎や視神経炎などさまざまな眼部位に自己免疫疾患様の炎症を引き起こすことが報告されている.また,抗癌薬による網膜外層障害,dipeptidylpeptidase(DPP)-4阻害薬関連の眼類天疱瘡,フルオロウラシル系抗癌薬による涙道障害など,薬剤特有の病態が明らかになってきている.また,長期にわたって使用される慢性疾患治療薬による眼障害も重要である.プラケニル(ヒドロキシクロロキン)による網膜症は,適切なスクリーニングにより早期発見が可能であり,抗リウマチ薬関連リンパ腫の眼内発症,プロスタノイドFP受容体作動薬(FP作動薬)による眼窩周囲症など,長期使用により蓄積性に発症する障害への対策が求められている.さらに,Stevens-Johnson症候群のような重症薬疹では,急性期の適切な眼科的管理が後遺症の軽減に重要であることが示されている.薬剤性眼障害の管理においては,以下の点が重要である.*HidekiFukuoka&ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**KyokoOhno-Matsui:東京科学大学眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)935

第一世代Ahmed ClearPath (ACP) の使用経験と6カ月の短期治療成績

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):924.927,2025c第一世代AhmedClearPath(ACP)の使用経験と6カ月の短期治療成績千原悦夫千原智之千照会・千原眼科CAnalysisofAhmedClearPathTreatmentOutcomesOveraShort-TermPeriodof6MonthsEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC3例C3眼の難治性緑内障眼に対して第一世代CAhmedClearPath(ACP)による治療を行った.術前C35.2±7.6CmmHg(4.7±1.5剤)であったものがC6カ月後にはC14.0±3.6CmmHgに下がり,2眼は点眼フリーとなった.視力は術前と比べて悪化したものはなかった.術後短期合併症として浅前房があったが自然治癒し,そのほかには特記するべき異常を認めなかった.3例におけるC6カ月という短期の経過観察ではあるが,経過は良好であり,第一世代CACPは十分臨床使用に耐えるものと考えられた.CHerein,wereportthesurgicaloutcomesof3eyesof3refractoryglaucomacasesthatweretreatedusingtheAhmedCClearPathR(ACP)(NewCWorldMedical)drainageCdevice.CPreoperativeCmeanCintraocularpressure(IOP)CwasC35.2±7.6CmmHg(meanCnumberCofCmedicationsCbeingused:4.7±1.5).CAtC6-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCdecreasedCtoC14.0±3.6CmmHg,CandC2CeyesCnoClongerCrequiredCeye-dropCinstillation.CMoreover,CthereCwasCnoCworseningofvisioncomparedtothepreoperativelevels.Atransientanteriorchambershallowingwasobservedasashort-termpostoperativecomplication,butitresolvedspontaneouslyandnoothersigni.cantabnormalitieswerenoted.Althoughthefollow-upperiodinthese3caseswasshort(i.e.,6months),our.ndingsrevealedthattheout-comeswerefavorableandthatACPimplantationisbothsafeande.ectiveforthetreatmentofrefractoryglauco-ma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(7):924.927,C2025〕Keywords:緑内障ロングチューブシャント,難治性緑内障,AhmedClearPath(ACP),術後眼圧,手術合併症.Cglaucomadrainagedevice,refractiveglaucoma,AhmedClearPath,post-surgicalintraocularpressure,surgicalcom-plications.Cはじめに第一世代CAhmedClearPath(ACP)はC2024年C3月に医療材料としてわが国の認可を得た新しい緑内障ロングチューブシャントである.従来,わが国のロングチューブシャントはBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)とCAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)しかなかったが,3種類目のロングチューブが導入されたことになる.筆者らはこのチューブを試用する機会があったので,その6カ月の結果を報告する.I第一世代ACPの概要第一世代CACPは調圧弁のないロングチューブで,眼圧下降機序はCBGIと似ているが,プレートとCsutureholeの形状が改良され,ステントが前置されるという改善が施されている.プレートの材料はバリウムを含むシリコン素材で乳白色をしており,表面は研磨されて平滑である.FenestrationholeがC4個あり,BGIのC4個と同じである.プレートの形状はCBGIが楕円形であるのに対して第一世〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会・千原眼科Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC924(140)図1第一世代ACPの術中所見第一世代CACPの出荷時には,あらかじめチューブ内にC4-0ポリプロレン糸が挿入されており,後から入れなくてはならないCBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)よりも改善されている.また,プレートは矩形に近くなっており,操作性が改善されている.代CACPは矩形に近く,外直筋の下に挿入するにあたって入れやすくなるように工夫されている(図1).プレート面積はCP250がC250CmmC2,CP350がC350CmmC2であり,BGIにおけるC250CmmC2/350Cmm2と同じである.従来の報告では,BGIとほぼ同等の眼圧下降効果が得られている1.4).プレートを強膜に固定するためのCsutureholeの位置と形状は特徴的で,この部分はプレート本体から岬状に突出しており可動性がある.従来のCBGIやCAGVでは二つのCsutureholeの距離が一定であり,プレートを強膜上に固定する場合は歪みを生じないように配慮が必要であるが,第一世代ACPの場合は多少のずれであればデバイスの方が順応してくれるので術中操作がやりやすくなった(図2).チューブの外径はC0.635Cmmと内径はC0.305Cmmとなっており,従来のCAGVと変わらない.このチューブ内には,出荷時からC4-0ポリプロピレン糸が挿入されている.BGIの場合は手術時にC3-0のナイロン糸あるいはプロリン糸を挿入する必要があったが,第一世代CACPではその手間が省けるようになっている.チューブの挿入部位は前房・毛様溝・硝子体腔のいずれも可能であるが,ステントが入った状態なので剛性が高く挿入操作はやりやすい(図3).CII術後低眼圧と高眼圧の抑制ステントは入れてあるが,そのままでは術後低眼圧が起こるので,術中にチューブを結紮してCSherwoodslitを入れておく必要がある.ただ,これでも術後高眼圧を起こす可能性があるので,その調節のためにチューブを結紮するときにチューブの外側にC7-0もしくはC6-0のナイロン糸をC2本おいて一緒に縛り,高眼圧が起こったときに順次抜くようにすると眼圧の調節ができる(図4).チューブを前房に挿入するときは輪部からC2Cmm,毛様溝ではC2.5Cmm,硝子体腔に挿入するときはC3.5Cmm後方で強図2第一世代ACPのsuturehole第一世代CACPのCsutureholeはプレート本体から岬状に突出した突起の中にあり,可動性がある.そのため,強膜に固定する場合に二つのCholeが多少ずれても順応してくれるので扱いやすい.図3第一世代ACPのデザインプレート形状は矩形に近く,BaerveldtglaucomaCimplant(BGI)とは異なるが,プレートの面積がC250CmmC2のCCP250(Ca)とC350Cmm2のCCP350(Cb)があり,BGIと同じになっている.(NewWorldMedicalのホームページより転載)膜を穿孔する.通常はC23CGの針を用いるが,針の方向には注意が必要である.前房に挿入する場合は角膜からの距離が保たれるように虹彩面に平行に挿入し,毛様溝では水晶体.や虹彩に当たらないように十分粘弾性物質で空間を作ってから挿入する.何度もさしなおすと出血することがあるので注意が必要である.硝子体腔挿入では眼球中心に向かって挿入するが,kinkingが起こっていないことを確認する必要があ図4術後の低眼圧と高眼圧の抑制第一世代CACPは調圧弁がないタイプのインプラントで,低眼圧制御のために出荷時からC4-0ポリプロピレン糸(.)が挿入してあるが,それでも術直後の低眼圧が起こりうる.それを防ぐためには,チューブを結紮する必要があるが,結紮により短期的な術後高眼圧が起こるので,Sherwoodslitを作成するが,それでも高眼圧が起こる.その対策として,チューブの結紮を行う場合にはチューブの外側にC6-0もしくはC7-0のナイロン糸(.)を置いて一緒に縛り(.:7-0ポリソルブ糸),術後高眼圧が起こった場合に一本ずつ抜くという操作を加えると,術後高眼圧を乗り切ることができることが多い(左側のC4-0絹糸は上直筋にかけた牽引糸).る.チューブの被覆は保存強膜を使用することが多いが,最近では強膜トンネルをする術者も増えてきている.GoretexやEverPatchなど人工材料を使う被覆も検討されているが5),現時点では保存強膜を使うことが無難と考えられる.CIII対象と方法対象は点眼・内服での眼圧コントロールが不良であり,結膜瘢痕や虹彩血管新生のために緑内障インプラント手術の適応となった難治緑内障C3例C3眼である,これらの患者に対して,手術に関するインフォームドコンセントを得たうえで手術治療を行った.研究デザインは当院CIRB(主任天野)の承諾を得ており,世界医師会ヘルシンキ宣言に則って行われている.CIV手術手技外上方結膜輪部切開後にCTenon.下麻酔を行い,外直筋を露出して牽引糸を置く.Tenon.下組織を郭清し,プレートを直筋の下に挿入する.つぎに,輪部からC7Cmmの場所でプレート固定のためのCanchorsuture糸(筆者はC5-0テフデック(ポリエステル)だがC8-0ナイロン糸を使う術者も多い)を置き,これをCsutureholeに通糸してプレートを固定する.前房と硝子体腔にチューブを挿入する場合は眼内にC2表1眼圧,視力,点眼数の経過眼圧術前1カ月後3カ月後6カ月後C35.2±7.6C19.7±12.7C15.3±1.5C14.0±3.6点眼数術前6カ月後C4.7±1.5C0.7±1.2矯正視力術前6カ月後C(小数視力)0.68±0.75C0.74±0.74Cmm(+強膜内C2Cmm)入るようにトリミングするが,毛様溝に入れる場合はC3Cmm(+3Cmm)になるようにトリミングする.毛様溝にチューブを留置するためには前房穿刺のあと,粘弾性物質で毛様溝空間を拡大し,適当な経線部分で輪部からC2.5Cmm離れてC23CG針で強膜・ぶどう膜を穿孔し,ここにチュ.ブを挿入する.チューブをC9-0ナイロン糸で強膜に固定し,チューブのそばにC7-0もしくはC6-0ナイロン糸(ripcord)をC2本おいてチューブとCripcordをまとめてC7-0吸収性の糸でもろともに結紮する(図4).結紮の角膜寄りでC3カ所程度のCSherwoodslitを作成する.保存強膜を適当な大きさに切り,チューブの上に置いてC9-0ナイロンC4糸で固定する.結膜創をC8-0ポリソルブ吸収糸で閉じる.結膜創からはみ出ているC4-0プロリンステントはトリミングして異物感の原因にならないように配慮する.術後処置としてデキサメサゾン(デカドロン)の結膜注射をし,抗菌薬とステロイド軟膏を塗布して眼帯する.CV手術成績2024年C4月からC6月の間にC3例の第一世代CACP手術を行った.平均年齢はC55±15.1歳,観察期間はC174±21日,眼内手術既往数はC1.7±0.6回,小数視力はC0.68±0.75(0.03-1.5),屈折は無水晶体眼C1眼,偽水晶体眼C1眼,.4.5の近視C1眼であった.病名は小眼球に伴う続発緑内障C1眼,偽水晶体眼に伴う続発緑内障C1眼,糖尿病に伴う血管新生緑内障1眼である.内皮数はC2090±400/mm2,ステント抜去は術後C31.7±11.7日,ripcord抜去はC17±14.7日であった.眼圧,視力,点眼数の経過を表1に示す.3眼中C2眼は点眼フリーとなり,術後C6カ月の小数視力はC0.74±0.74と改善気味であった.合併症としてはC1例で浅前房があったが自然治癒し,そのほかの重大な異常はない.CVI考按ロングチューブは濾過手術の一種であるが,濾過胞はトラベクレクトミーにおけるそれよりも後方にできるので濾過胞漏出や感染のリスクが低く,また,術後の眼圧下降がプレートの大きさによって影響されると考えられているため,術後の眼圧を想定された範囲に収めることが可能であるという特徴がある.低眼圧黄斑症が起こりにくいこともロングチューブの特徴であり,トラベクレクトミーと比べると安全性が有意に高いとされており,このことが世界的にトラベクレクトミーからロングチューブへと術式のシフトが起こっている理由である6,7).ロングチューブには調圧弁のついたもの(現在はCAGVのみであるが,過去にはCWhiteCPumpShuntやClongCKrupinCDenverCvalveCimplantなどがあった)と調圧弁のないもの(BGI,Molteno3implant,PaulGlaucomaimplantなど)があり,一般論として弁のないものは眼圧下降効果が強いが,低眼圧黄斑症などの合併症が多いということがいわれてきた.弁のないロングチューブの最大の欠点は術後の低眼圧による合併症と考えられるが,これに対応する改良点としてチューブを細くしたり,術中チューブ内にステントを留置して流量を調節したりするようなデバイスが出てきており,それが今回紹介した第一世代CACPと,まだわが国では未発売のCPaulGlaucomaimplantである.術後低眼圧が起こるのはチューブ設置後C1.2カ月であるので,その間をステント・ripcordとチューブの結紮で乗り切り,最終的にステントを抜去すれば,術後の眼圧は弁なしのほうが低くなり成功率が高いことは報告されているとおりなので,より大きな眼圧下降が求められる眼にとってはメリットがある8).今回はC3例のみの経験であるが,6カ月の臨床経過は良好であり,今後適応を選んで実臨床に応用していくことが望ましい.CVII結論新しい弁のないロングチューブである第一世代CACPの使用経験について報告した.従来の弁なしのロングチューブと比べるといくつかの点で改善されており,今後有用な治療デバイスになると考えられた.利益相反:JFCセールスプラン,JFCセールスプランFII文献1)DorairajCS,CChecoCLA,CWagnerCIVCetal:24-MonthCOut-comesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCforCRefractoryCGlaucoma.CClinCOphthalmolC16:2255-2262,C20222)ElhusseinyAM,VanderVeenDK:EarlyExperienceWithAhmedCClearCPathCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCChild-hoodGlaucoma.JGlaucomaC30:575-578,C20213)ShalabyCWS,CReddyCR,CWummerCBCetal:AhmedCClear-PathCvs.CBaerveldtCGlaucomaImplant:ACRetrospectiveCNoninferiorityCComparativeCStudy.COphthalmolCGlaucomaC7:251-259,C20244)BoopathirajCN,CWagnerCIV,CLentzCPCCetal:36-MonthCOutcomesCofCAhmedCClearPathRCGlaucomaCDrainageCDeviceCinCSevereCPrimaryCOpenCAngleCGlaucoma.CClinCOphthalmolC18:1735-1742,C20245)安岡恵子,多田憲太郎,安岡一夫:人工硬膜使用のCAhmed緑内障チューブシャント手術.眼科手術C37:541-545,C20246)VinodK,GeddeSJ,FeuerWJetal:PracticepreferencesforCglaucomasurgery:aCsurveyCofCtheCamericanCglauco-masociety.JGlaucomaC26:687-693,C20177)ChiharaE:TrendsCinCtheCnationalCophthalmologicalChealthcarefocusingoncataract,retina,andglaucomaover15yearsinJapan.ClinOphthalmolC17:3131-3148,C20238)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal:Five-yearCpooledCdataCanalysisCofCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudyandtheAhmedversusBaerveldtstudy.AmJOph-thalmolC176:118-126,C2017***

急性涙囊炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙囊内に注入する治療法の結果

2025年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科42(7):919.923,2025c急性涙.炎に対するアジスロマイシン点眼液を涙.内に注入する治療法の結果久保勝文*1工藤孝志*2*1吹上眼科*2十和田市立中央病院眼科E.ectofAzithromycinOphthalmicSolution1%InjectionIntoTheLacrimalSacforAcuteDacryocystitisMasabumiKubo1)andTakashiKudo2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TowdaCityHospitalC吹上眼科にてアジスロマイシン(AZM)点眼液の涙.内注入で治療した,急性涙.炎の成績について報告する.急性涙.炎を認めた男性C1例女性C7例,全員片側の計C8例で,手術希望がないC7例,希望があるC1例だった.年齢は,38.95歳で平均年齢C74.9C±18.1歳.通水試験で鼻涙管閉塞症をC6例に認め,2例に認めなかった.上涙点より生食で涙.内洗浄後に,涙.内をCAZM点眼液に完全に置換する治療で,8例全員がC1.3日と短期間で消炎鎮痛した.観察期間中にC2例で涙.炎再発を認めず,2カ月後とC5カ月後にそれぞれC1例が再発した.消炎後に涙.鼻腔吻合術C3例,涙.摘出術C1例を行った.AZM点眼液の涙.組織への高い移行性と長期間の持続性により,急性涙.炎の治癒と再発予防が可能になったと考えた.手術以外の代替治療や,手術前の速やかな消炎治療方法としてCAZM点眼液を涙.内に注入する治療法は効果があると考えられた.CPurpose:Toreportthee.cacyofazithromycinophthalmicsolution1%(AZM)injectionintothelacrimalsac(LS)forCacutedacryocystitis(AD)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC8CADpatients(1Cmale,C7females;meanage:74.9C±18.1years[range:38-95years])C.Ofthose,6hadnasolacrimalductobstruction,yet2hadnoobstruction.Inalltreatedeyes,afterwashingtheLSwithsalineviathesuperiorlacrimalpunctum,itwas.lledCwithCAZMCviaCinjection.CResults:InCallCcases,CimmediateCresolutionCofCpainCandCrapidCcontrolCofCinfectionComlurredpostinjection.In2casestherewasnorecurrence,yetrecurrencedidomlurin1caseat1-monthpostinjectionandin1caseat5-monthspostinjection.Afterimprovementofin.ammation,3casesunderwentdacryo-cystorhinostomyand1caseunderwentdacryocystectomy.Conclusion:InjectionofAZMatahighconcentrationintotheLSwasfoundtobeane.ectivealternativetherapyforAD,aswellasforrapidreductionofin.ammationpriortosurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):919.923,C2025〕Keywords:アジスロマイシン点眼液,急性涙.炎,涙.鼻腔吻合術,涙.摘出術,注入療法.azithromycinCoph-thalmicsolution,acutedacryocystitis,dacryocystorhinostomy,dacryocystectomy,injectiontherapy.はじめに急性涙.炎は涙道疾患のC2.4%にみられ,まれな疾患ではない1).急性涙.炎の増悪・寛解を繰り返し,涙.摘出術や涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を説得しても,手術を拒絶する老齢患者も多い.手術の有無にかかわらず速やかな消炎鎮痛も必要となるため1),急性涙.炎に対して点滴・内服および点眼を処方するが,薬剤耐性率が高くなっているためか2,3),改善までに長時間を要する場合も多い1.3).急を要する場合では,涙.穿刺や涙.切開で排膿する治療方法がとられる1,2,4).しかし,5%ほどで涙.皮膚瘻を形成し,事態が悪化することもある4).今回,アジスロマイシン(AZM)点眼液は涙.炎への適応病名をもち,組織への高い薬物移行性と5)長期の良好な薬物滞留性により6)涙.炎治療に有効であり,さらに涙.内に注〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,PhD.,FukiageEyeClinic,2-10FukiageHachinohe031-0003,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(135)C919表1症例1~8のまとめNo.年齢性別(歳)初診時通水検査涙.炎治癒後の通水検査観察期間(月)結果培養結果備考C62女性鼻涙管閉塞通水良好C72カ月後再発CNeisseriasp.C92女性鼻涙管閉塞検査なしC5手術(涙.摘出術)発育を認めずC73女性通水良好通水良好C55カ月後再発CPseudomonaeaeruginosaIgG4:C527C↑(C11-121)涙道内視鏡検査で異常なしC75女性通水良好通水良好C4涙.炎治癒CCorynebacteriumsp.涙道内視鏡検査で異常なしC38女性鼻涙管閉塞検査なしC3手術(DCR)CAcinetobactersp.初診時より手術希望C83男性鼻涙管閉塞検査なしC2Stenotophomonas手術(DCR)CmaltophiliaC95女性鼻涙管閉塞検査なしC1涙.炎治癒CEnterobactraogenesC80女性鼻涙管閉塞検査なしC1手術(DCR)発育を認めずDCR:dacryocystorhinostomy.入すればより効果的であると考えて治療を行ったので結果を報告する.CI対象と方法2023年C8月.24年C3月末の期間で急性涙.炎の患者に対して生食で涙.内洗浄を行い,その後CAZM点眼液で涙.内に注入する治療を行った.10症例に行い,1例は治療後来院せず.1例は全身麻酔希望のため他院紹介.残りの急性涙.炎C8例について考察を行った.男性C1例,女性C7例で年齢はC38-95歳で平均年齢はC74.9C±18.1歳.全員片側で観察期間はC1.7カ月,平均C3.5C±2.1カ月.全例に涙.部に発赤・圧痛を認める急性涙.炎を認めた.初診時の通水検査ではC6例には鼻涙管閉塞症があり,2例は閉塞がなく通水があるのを確認した(表1).初診時はC7例に手術希望がなく,1例(症例5)が手術を希望した.細菌検査は,涙.内から注射筒で採取または通水検査時に逆流した膿汁をカルチャースワブプラス医科用捲綿糸(日本ベクトン・ディキンソン社製)にて採取し,全例ビー・エム・エル社で細菌培養検査を行った.全例で好気性細菌培養検査を行い,血液寒天培地,BTB寒天培地およびチョコレート培地で行った.AZM点眼液による処置は,点眼麻酔後にC2.5Cml注射筒にディスポーザルの曲の涙洗針(27CGC×25Cmm,エムエス)を装着して生食で十分に涙.内を洗浄後にCAZM点眼液を注射筒内に移し,指で涙.を触診し,十分な大きさになるまでAZM点眼液を涙.内に注入した.当院初診C2例,他施設からの紹介C6例で,基本的に前医の点眼内服を継続し,適宜AZM点眼液とクラリスロマイシンC200Cmg2回C5日分を追加処方し,1.3日後に来院を指示した.II結果8例全員がC1.3日で速やかに消炎し,2例は涙.炎が治癒して観察期間中に再発しなかった.2例はいったん涙.炎が治癒したが,2カ月後とC5カ月後にC1例ずつ再発した.消炎後に手術を希望したC3例と初診時から手術を希望していたC1症例の計C4症例に対してCDCR3例および涙.摘出術C1例を行い経過良好である(表1).初診時に鼻涙管閉塞のなかったC2例(症例C3,4)について,消炎した時点で涙道内視鏡検査を行ったが,軽い鼻涙管狭窄を認める以外に涙.内結石などの異常を認めなかった.培養結果は,細菌の発育を認めなかった症例がC2例.6例でCNeis-seriasp.,Pseudomonaeaeruginosa,Corynebacteriumsp.,CStenotophomonasmaltophilia,Enterobacteraerogenes,CAcinetobacterCsp.をそれぞれ検出した.細菌感受性試験は,AZM点眼液に対しては行わなかった(表1).以下にC3症例を提示する.[症例1]62歳,女性,近医で何度か涙.炎を治療し,鼻涙管閉塞を指摘されていたが,眼脂が強くなり当院を受診.初診時に涙.炎を認め,通水検査で通過性はなかった.AZM点眼液で治療後C1週間後に涙.炎は治癒し,通水検査でも通過良好でその後通院がなかった.しかし,2カ月後に涙.炎で再受診し,涙.炎を認め,通水検査で通過性を認めず,AZM点眼液を涙.内に注入後に来院がなかった.[症例2]92歳,女性.以前より何度か急性涙.炎を起こしていたが,今回腫れが引かないので当院へ紹介となる.初診時は図1のように涙.が大きく腫れて強い痛みを訴えた.涙.洗浄後にCAZM点眼液を涙.内注入し,翌日には消炎し痛みもなくなった(図2).後日,涙.摘出術に同意し手術を行い,経過良好である.図1症例2の初診時顔写真左眼急性涙.炎で大きく腫脹している.図3症例6の初診時顔写真右急性涙.炎で大きく腫脹している.[症例6]83歳,男性.近医で穿刺排膿の治療をしていたが,半年前から涙.部分の腫瘤が徐々に大きくなり,治療目的で当院に紹介となる(図3).ガチフロキサシンC5CmlおよびC0.1%フルオロメトロンC5Cmlを右眼にC4回点眼していた.初診時に右涙.部が大きく腫れ,痛みが強く,手術希望はなく,前医で行っていた涙.穿刺を希望した.涙.洗浄後にAZM点眼液を注入し,クラリスロマイシン錠C200Cmgの内服を追加した.3日後の来院時には消炎し,痛みも引いていた(図4).その後も増悪なく,2カ月C10日後には慢性涙.炎の状態となりCDCRを希望した.手術中もとくに出血がなく,術後も経過良好である.CIII考按涙.炎は,鼻涙管閉塞などの原因で起こる感染症疾患であ図2症例2のAZM点眼液を涙.内に入れた翌日涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.図4AZM点眼液を涙.内に入れた3日後涙.部の炎症は鎮静化し,痛みもほぼ消失した.り,速やかに消炎ができなければ眼窩内に炎症が波及し,失明することもあるため,慎重に診察治療する必要がある1).涙.摘出術やCDCRなどの外科治療を行うことができれば,急速に治療できる疾患ではあるが1,2,4),抗菌薬の点眼や抗菌薬の内服・点滴では治癒までにC1.2週間やC10日を要すると報告されている1,2,4).今回はC7例と症例は少ないが,今までの経験以上に速やかに消炎・鎮痛が行えた.点滴を常備できない開業医や,紹介病院まで遠い医療施設において,常備しやすいCAZM点眼液の涙.内注入で抗菌剤の内服・点滴と同等に速やかに治療できるなら,患者および開業医にとって有用と考えられる.涙.炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,レンサ球菌が多く,鈴木らは,涙.内貯留液から分離された菌C64株のうち,グラム陽性菌はC44株,グラム陰性菌はC19株,真菌はC1株と報告している3).AZMは,ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌,コリネバクテリウム属,インフルエンザ菌,アクネ菌に対する抗菌作用を示すが,感受性はフルオロキノロンには及ばない.しかし,組織内移行性と滞留性がよく,一度の点眼で長期に炎症を抑える効果が期待できる薬剤である7,8).今回は,検出された細菌でのCAZMへの感受性を行っていないので次回以降の検討が必要と考えた.また,AZMの内服・点滴では,涙.炎の適応病名がなく,AZMの静脈内投与はC2時間かけて点滴する必要がある.それに比較して,AZM点眼液では涙.炎の適応病名があり7),AZM涙.内注入は点滴に比較し短時間で終わり,医療側,患者側の負担も少ない.涙.内への薬物注入治療による涙.炎治療についての報告は,わが国では前田らと松見らによる軟膏注入したC2編があり,海外での報告は確認できなかった9,10).報告が少ない原因は,軟膏の粘性が高く注入自体が容易でないことが原因と思われる10).また,AZM点眼液の涙.注入についての報告は,わが国および海外で確認できなかった.軟膏の注入の効果については,わが国で前田らが慢性涙.炎に対して眼軟膏の種類を変えて注入したが,完全に分泌物は消失しなかったと報告している9).また,約C100例の慢性涙.炎の注入で全例有効だったが,2.3週間ごとの注入が必要で,注射器と洗浄針の固定が外れないよう注意が必要だったとしている.松見らは,DCR後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(mechicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)涙.炎に,ペリプラスト用の微量滴下セット(20ゲージ)を用い,6日連続で涙.内にバンコマイシン眼軟膏注入を行い,最終的に眼脂,結膜充血がなく排膿を認めない状態まで改善させた10).今回のCAZM点眼液は,通常の点眼液よりは粘性が高いが針が外れることもなく,27CGの洗浄針とC2.5Cmlのディスポーザルの注射器で,容易に涙.内に注入することができ,特別に用意する物品はなく,容易にC1回のCAZM涙.内注入で,頻回の軟膏注入と同等の治療効果が期待できると考えられた.再発までの期間は,前田らの報告ではC2.3週間であった9)のに比べて今回は症例が少ないが,2カ月とC5カ月と再発までの期間をより長期間維持できた.AZMが組織内に長く残留し,再発を長期間防止し,手術に同意しない高齢患者の涙.炎の消炎を長期間維持できる可能性が高いと考えた.涙.内に眼軟膏注入する療法の効果の機序として,軟膏の粘性が高いため,分泌物が洗い流され,軟膏が長期に滞留することや,局所濃度が高いことなどがあげられている9).AZM点眼液の注入でも同様の機序が考えられ,加えて閉鎖された涙.内に注入されるため,反復点眼のような効果で高濃度の薬剤が長期にわたり組織に滞留する6,11).さらに,AZMが炎症抑制作用をもつことが寄与していると思われた7,11).しかし,ブジーと軟膏注入療法を行ったC2年後に,下眼瞼に腫瘤を形成したという報告があり12),軟膏が皮下に迷入した結果と考えられており,AZM点眼液注入にも注意が必要であると考えた.急性涙.炎に対して涙.切開を積極的に行う治療法や,針で吸引する方法も報告されている13).今回は,全員涙点より涙.内に到達可能だった.症例や施設によっては積極的に涙.切開や穿刺を行い,直接創部より涙.内にCAZM点眼を注入することも可能であると考えた.AZM点眼液を創部から涙.内粘膜に作用させることにより,今回も同様の効果が得られるかは不明だが,症例があれば検討したいと考えた.当院初診時の涙.炎にもかかわらず通水検査で通水があり,涙.炎治癒後に涙道内視鏡検査を行ったが,軽度の鼻涙管狭窄以外の異常を認めなかった症例がC2例あった.症例C3はCIgG4関連疾患として観察中であり,IgG4関連疾患としての涙.から鼻涙管粘膜の一時的な浮腫が発生し,機能的な鼻涙管閉塞に至り,消炎できたあとは鼻涙管粘膜の浮腫がとれ,通過性が回復した可能性が高いと思われた14).症例C4では,涙.内結石がもともとあったが15),AZM点眼液注入時で涙.内結石が洗い流され,後日涙道内視鏡検査を行っても異常を認めなかった可能性や,症例C3と同様にCIgG4関連疾患の可能性もあるが,採血を行っていないのでそれ以上は不明だった.涙.炎に対してもCIgG4関連疾患の可能性を念頭におかなければならないと考えた.涙.炎の根治治療としてCDCRや涙.摘出術が確立しているが,患者の高齢化などにより手術に同意しない場合も増加すると考えられ,老齢患者では内服薬コンプライアンスが悪い場合も多い.手術前の速やかで効果的な消炎や手術の代替治療として,AZM点眼液の涙.内注入療法は,症例が少ないものの患者と医療側ともに利益がある治療法である.今後も症例を増やし,検討することが必要であろう.CIV結論AZM点眼の涙.内注入により,急性涙.炎の速やかな消炎・鎮痛をすることができた.一時的な代替治療および手術前の消炎・鎮痛が目的であれば,従来の点眼および点滴・内服治療と比較して同等かそれ以上の効果があり,導入の容易な治療である可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鎌尾知行:2.急性涙.炎.眼科62:1293-1298,C20202)CahillCKV,CBurnsJA:ManagementCofCacuteCdacryocysti-tisCinCAdult.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC9:38-41,C19933)鈴木亨,森田啓文,柳本孝子ほか:涙道手術では抗菌点眼薬は何を選択すべきか?.あたらしい眼科C17:385-389,C20004)AliMJ,JoshiSD,NaikMNetal:Clinicalpro.leandman-agementoutcomeofacutedacryocystitis:twodecadesofexperienceCinCaCtertiaryCeyeCcareCcenter.CSeminCOphthal-molC30:118-123,C20155)SakaiCT,CShinnoCK,CKurataCMCetal:PharmacokineticsCofCazithromycin,levo.oxacin.ando.oxacininrabbitextraoc-ularCtissuesCafterCophthalmicCadministration.COphthalmolCTherC8:511-517,C20196)AkpekCEK,CVittitowCJ,CVerhoevenCRSCetal:OcularCsur-facedistributionandpharmacokineticsofanovelophthal-mic1%azithromycinformulation.JOculPharmacolTherC25:433-439,C20097)井上幸次:アジスロマイシン点眼:薬剤耐性対策時代の新しい抗菌点眼薬.IOL&RSC34:151-156,C20208)松永敏幸:新規C15員環マクロライド系抗菌薬アジスロマイシン(ジスロマックC.)の薬理学的および薬物動態学的特性.日薬理誌117:343-349,C20019)前田清二,中村秀夫,佐藤直樹ほか:慢性涙.炎に対する軟膏注入の試み.臨眼48:622-623,C200410)松見文晶,三ツ井瑞季:涙.鼻腔吻合術後の難治性慢性涙.炎に対する涙.内抗菌眼軟膏注入療法.耳鼻臨床C112:C795-800,C201911)IkemotoCK,CKobayashiCS,CHaranosonoCYCetal:Contribu-tionCofCanti-in.ammatoryCandCanti-virulenceCe.ectsCofCazithromycinCinCtheCtreatmentCofCexperimentalCstaphylo-comlusaureuskeratitis.BMCOphthalmolC20:89,C202012)LiebW:Para.ngranulomCdesCunterlides.CKlinCMonblCAugenheilkdC190:125-126,C198713)GuptaCA,CSainiCP,CBothraCNCetal:Acutedacryocystitis:CchangingpracticepatternoverthelastthreedecadesatatertiaryCcareCsetup.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC262:1289-1293,C202414)BatraCR,CMudharCHS,CSandramouliS:ACuniqueCcaseCofCIgG4CsclerosingCDacryocystits.COphthalCPlastCReconstrCSurgC28:e70-e72,C201215)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathoogocalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinJapaneseCpatients:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthal-molC2013:406153,C2013***