●連載◯152監修=安川力五味文132糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の新井律樹毛細血管瘤退縮効果春田雅俊久留米大学医学部眼科学講座抗CVEGF療法は,糖尿病黄斑浮腫に対するすぐれた治療効果だけでなく,局所性黄斑浮腫の原因となる毛細血管瘤を退縮する効果も報告されている.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法に抵抗性を示す毛細血管瘤を選択的に局所光凝固する低侵襲治療を心がけることで,患者の視力を長期にわたって維持できる可能性がある.はじめに糖尿病黄斑浮腫は,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)からの漏出による局所性黄斑浮腫と,広範な血液網膜関門の障害に伴うびまん性黄斑浮腫に大別される.糖尿病黄斑浮腫に対しては,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法,ステロイド眼局所投与,局所光凝固,硝子体手術などの治療の選択肢があるが,抗CVEGF療法が第一選択となることが多い.抗CVEGF療法は,糖尿病黄斑浮腫に対してすぐれた治療効果を示すだけでなく,局所性黄斑浮腫の原因となるCMAを退縮する効果もあることが報告されている.Ca図1糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法による毛細血管瘤の退縮効果a:治療前.インドシアニングリーン蛍光造影の後期で,毛細血管瘤(内)は過蛍光に描出されている.b:治療前の毛細血管瘤(.,aの内と同一)を含むCOCT斜めスキャン(aの→に沿うスキャン).c:導入期毎月C3回のアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射後C1カ月.インドシアニングリーン蛍光造影の後期で,aと同一の毛細血管瘤(内)は過蛍光を示していない.d:治療後の毛細血管瘤(.,cの内と同一)を含むCOCT斜めスキャン(cの→に沿うスキャン).毛細血管瘤は治療前と比べて退縮している.抗VEGF療法によるMAの退縮効果VEGFには血管新生や血管透過性亢進の作用があり,糖尿病網膜症におけるCMA形成の病態に深くかかわっている.健常なカニクイザルの硝子体腔にCVEGFの組換え蛋白質を注射するだけで,眼底に糖尿病網膜症に特徴的なCMAを形成することができる1).一方,糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF療法ではCMAは退縮傾向を示す.Sugimotoらは,導入期にC3回のアフリベルセプト2Cmg硝子体内注射をした糖尿病黄斑浮腫のC25眼では,治療開始C3カ月の時点で,平均CMA数がC49.6個から24.8個へと有意に減少し,MA数は中心窩網膜厚と有意な相関を示したと報告している2).また,インドシアCb(95)あたらしい眼科Vol.42,No.2,20252290910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2糖尿病黄斑浮腫に対するファリシマブ硝子体内注射による毛細血管瘤の減少効果a:治療前.フルオレセイン蛍光造影の早期で,毛細血管瘤(黄色でマーキング)は過蛍光点として描出されている.b:導入期毎月C3回およびCtreat-and-extend法によるファリシマブ硝子体内注射の治療後1年.フルオレセイン蛍光造影の早期で描出される毛細血管瘤(黄色でマーキング)は,治療前と比べて減少している.ニングリーン蛍光造影の後期で描出されるCtelangiectat-iccapillaries(TelCaps)とよばれる径の大きなCMAを対象とした筆者らの報告で,導入期C3回の抗CVEGF療法を施行した糖尿病黄斑浮腫のC12眼では,治療開始C3カ月の時点でCTelCapsの数も径も有意に減少し,径の大きなCTelCapsほど残存する傾向を示した(図1)3).ファリシマブ硝子体内注射によるMAの退縮効果アンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2は,血管安定化に作用するCAng-1/Tie-2シグナルを阻害して,ペリサイトの脱落と血管の不安定化をもたらす.2022年から糖尿病黄斑浮腫に適用となったファリシマブは,1分子でCVEGFとCAng-2を同時に阻害することにより,血管新生および血管透過性を抑制し,血管の不安定化を是正すると考えられている.Takamuraらは,導入期C3回のファリシマブを硝子体内注射した糖尿病黄斑浮腫の28眼では,治療開始C3カ月の時点で,平均CMA数が投与前のC40.7%と有意に減少したと報告している4).VEGFに加えてCAng-2を同時に阻害することで,実際にCMAの退縮効果を促進できるかは興味をかき立てられる問題である(図2).抗VEGF療法によるMAの退縮効果を考慮した局所光凝固実臨床では,高価な抗CVEGF療法を大規模臨床試験のように毎月継続することは現実的ではない.DRCR.C230あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025netによるプロトコールCIでは,ラニビズマブと併用するCMAに対する局所光凝固を即座に開始するよりも,半年遅延して開始したほうが,5年にわたってより良好な視力改善が得られている5).残念ながら糖尿病黄斑浮腫に伴うCMAを抗CVEGF療法のみで完全に消退させることは困難である.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法に抵抗性を示す毛細血管瘤を選択的に局所光凝固する低侵襲治療を心がけることで,長期に視力を維持できる可能性がある.文献1)TolentinoCMJ,CMillerCJW,CGragoudasCESCetal:Intravitre-ousCinjectionsCofCvascularCendothelialCgrowthCfactorCpro-duceretinalischemiaandmicroangiopathyinanadultpri-mate.OphthalmologyC103:1820-1828,C19962)SugimotoM,IchioA,MochidaDetal:Multiplee.ectsofintravitrealCa.iberceptConCmicrovascularCregressionCinCeyeswithdiabeticmacularedema.OphthalmolRetinaC3:C1067-1075,C20193)ItouJ,FurushimaK,HarutaMetal:Reducedsizeoftel-angiectaticCcapillariesCafterCintravitrealCinjectionCofCanti-vascularendothelialgrowthfactoragentsindiabeticmac-ularedema.ClinOphthalmolC17:239-245,C20234)TakamuraCY,CYamadaCY,CMoriokaCMCetal:TurnoverCofCmicroaneurysmsCafterCintravitrealCinjectionsCofCfaricimabCforCdiabeticCmacularCedema.CInvestCOphthalmolCVisCSciC64:31,C20235)ElmanCMJ,CAyalaCA,CBresslerCNMCetal:IntravitrealCranibizumabfordiabeticmacularedemawithpromptver-susCdeferredClasertreatment:5-yearCrandomizedCtrialCresults.OphthalmologyC122:375-381,C2015(96)