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補償光学イメージングによる黄斑部微細構造の可視化と病態解明

2026年7月31日 金曜日

《第14回.日本視野画像学会.シンポジウム》あたらしい眼科43(7):814.820,2026c補償光学イメージングによる黄斑部微細構造の可視化と病態解明加登本伸京都大学大学院医学研究科眼科学CAdaptiveOpticsImagingforHigh-ResolutionVisualizationandElucidationofHumanMaculaShinKadomotoCDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicineCはじめに黄斑部の観察では視機能に直結する視細胞および黄斑部血流の健常性評価が重要である.しかし,視細胞や血球を直接観察することは,細隙灯顕微鏡検査やカラー眼底写真では光学分解能の制約から困難である.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectralCdomain-opticalCcoherenceCtomogra-phy:SD-OCT)はC3.7Cμm程度の高い光学的縦分解能を有しており,組織切片像のように視細胞層をCellipsoidCzone(EZ)として観察できるものの,EZはC1本のバンドとして描出されるため,視細胞単位の解像には至っていない.また,光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は非侵襲的に血流情報を可視化できる画期的なモダリティだが,血球そのものの解像,可視化は達成できていない.すなわち,細胞レベルでの高解像度眼底イメージングには,縦分解能のみならず光学的横分解能の向上が不可欠である.補償光学(adaptiveoptics:AO)は,波面収差をリアルタイムに計測・補正する技術であり,眼科イメージング機器に応用することで,光の波長と開口数によって理論的に決まる最小の解像度限界(回析限界)に近い光学的横分解能を達成し,ヒト黄斑部の細胞レベルのCinvivoイメージングを可能にした.本稿では,黄斑部微細構造の可視化,病態解明を目的として筆者らが取り組んできたCAOイメージング方法である補償光学走査型レーザー検眼鏡(AOCscanningClaserCophthalmo-scope:AO-SLO)およびCAO-OCTについて解説する.CIAOと眼底イメージングへの応用AOはC1953年,HoraceW.Babcockにより提唱され,その後天文学分野で発展した1).大気のゆらぎによって天体光の波面が歪み,解像度が低下する現象に対し,波面収差をリアルタイムに補正して光の回折限界の高解像度の像を得る技術である.AOの光学系は波面のゆらぎ分布を高速で測定する波面センサーと波面のゆらぎを打ち消す可変鏡から構成される.AOの導入により,大気のゆらぎの影響によって乱れた波面が補正され,高精細な天体画像を取得できるようになった.SLO,OCTなどさまざまな眼底イメージング機器が開発され普及した現在でも,眼底を細胞レベルの解像度で観察することは達成できていない.これは,生体眼では角膜表面の涙液層や,角膜/水晶体の歪み,硝子体の液化度合いといった上述の天体観測での大気のゆらぎに相当する波面を乱しうる収差が存在するからである.理想的な波面補正がリアルタイムになされなければ,細胞レベルの高解像度の眼底イメージングは到底達成できない.AOを眼底イメージング機器に組み込むことで天文学と同様の効果が期待でき,1997年にRochester大学のCDavidWilliams研究室でCAOの技術を眼底カメラに応用し,生体眼に存在する収差を補正することで,視細胞レベルのイメージングに初めて成功した2).さらに,同研究室のCAustinRoordaがヒト視細胞組織3)と同等レベルでヒト視細胞のCconemosaic構造をCAO-SLOで描出することに初めて成功し,1999年にCNature誌に報告した4).この成果を契機に,AO-SLOを用いた細胞レベルでの眼底観察が世界的に活発化し,AOは次世代の眼底イメージングとして注目されるようになった.CIIAOの原理光源から出た光の波面は,最初は平面波として眼内に入射する.入射した波面は角膜,水晶体というレンズを通して網膜面で理想的には点で集光するはずだが,実際は眼球光学系〔別刷請求先〕加登本伸:〒C606-8507京都市左京区聖護院川原町C54京都大学大学院医学研究科眼科学Reprintrequests:ShinKadomoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,54ShogoinKawaharacho,Sakyo-ku,Kyoto606-8507,JAPANC814(98)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1共焦点AO-scanninglightophthalmoscope(AO-SLO)での黄斑部視細胞conemosaic像健常眼(a)では視細胞Cconemosaicは等間隔に規則正しく配列されているが,Behcet病患者(b)では視細胞の配列異常と密度低下を認め,OCTでは観察されなかった斑状のCconemosaic欠損(→)を呈していた.眼底写真/SD-OCTで異常が認められなかった視力低下のない患者を対象としており,ぶどう膜炎のCsubclinicalな炎症を反映していると考えられる.共焦点AO-SLOO.setpinholeAO-SLO図2共焦点AO-SLOとo.setpinholeAO-SLOの血管描出能の比較上段:網膜内層の毛細血管において,共焦点CAO-SLOではCvenule(小静脈),arteriole(小動脈)は解像されているが,capillary(毛細血管)は不明瞭である.一方で,o.setpinholeAO-SLOではCcapillaryも明瞭に描出されている(▽△).下段:網膜表層に高反射体である網膜上膜を認めると共焦点CAO-SLOではCcapillary(毛細血管)はおろかCvenule(小静脈),arteriole(小動脈)の描出も不明瞭になるが,o.setpinholeAO-SLOは後方散乱光を遮断することで網膜上膜領域内の血管のコントラストが低下していないことがわかる(▽△).の収差の影響を受けて,ぼやけた像として網膜面で集光され,網膜面から反射・散乱された光は同じ経路を逆向きに進み,歪んだ波面として眼外から光検出器の直前に置かれたピンホール上に再び集光する.眼外から出た光情報を基に波面センサーで歪みを検出し,可変鏡をリアルタイムに変形させ,眼への入射光および反射光を動的に調整することで,眼内へ入光する光が網膜面で点として連続的に集光できる.ここで,網膜上に集光した点を二次元的に走査(scanning)すると共焦点の効果によりコントラストの高い鮮明な像が取得される.光学的横分解能(CΔx)を規定する式はCRayleighの基準に基づき,水晶体後面のCnodalpointからの眼軸長Cf=16.7Cmm,硝子体屈折率Cn=1.336,光源中心波長をλC0(nm),入射ビーム径をCd(mm)とすると式C1で与えられ,横分解能は光源の中心波長(Cλ0)とビーム径(d)に依存することがわかる.r・λC0.中心波長Δx=1.22・C―≒15.3・C―(式1)n・d.ビーム径ヒトの最大散瞳径はC7.8Cmmであり,ビーム径(d)を約7mmとしたときの回折限界が約3μmであることから,AO-SLOの光学的横分解能は理論上C3Cμmという非常に高い解像度を達成可能である.CIIIAO-SLOの黄斑部イメージング1.共焦点AO-SLOvso.setpinholeAO-SLOこれまで共焦点CAO-SLOを用いた観察対象は視細胞や網膜血管壁,毛細血管瘤,血管内部の血球動態と多岐にわたる.共焦点CAO-SLOはとくに視細胞の観察に優れており,眼底写真やCSD-OCTではみえなかった視細胞の欠損のイメージングが可能である.筆者らは,視力低下を認めず眼底写真・SD-OCTともに異常所見を認めなかったCBehcet病患者において,共焦点CAO-SLOで視細胞Cconemosaicの密度低下および配列異常を認め,SD-OCTで確認できない斑状のCconemosaicの消失を認めることを明らかにした5)(図1).共焦点CAO-SLOの不得意な領域は網膜内層のイメージングである.とくに網膜内層に存在する毛細血管の描出が悪くなり(図2),これは毛細血管の内層側に存在する高反射体である神経線維層や網膜上膜によって光が散乱されてしまうため,毛細血管のコントラストが悪くなるからと考えられている.共焦点CAO-SLOの光学系内部の共焦点Cpinholeをずらす(o.setさせる)ことで,後方散乱光を遮断し血管のコントラストを向上させたCo.setCpinholeAO-SLOが次世代AO-SLOとして開発中である6).C2.O.setpinholeAO-SLOで観察された黄斑部微細構造筆者らは,慢性期網膜静脈分枝閉塞症に形成された毛細血管瘤(microaneurysm:MA)からの血漿漏出とCMAの形態的特徴および血球動態との関連性を検討することを目的として,o.setpinholeAO-SLOを用いた研究を実施した.観察されたC71個のCMAは形態として局所膨隆型(19.7%),.胞型(49.3%),紡錘型(19.7%),混合型(11.3%)にC4分類され,約半数(53.5%)のCMAには瘤の外周に増殖組織が形成されていた(図3).また,MA内部の血球動態を解析した結果,血球動態が緩慢であり,増殖組織を伴うCMAは黄斑浮腫の原因となる血漿漏出を伴いやすいという知見が得られた7).o.setCpinholeAO-SLOは,OCTangiography,蛍光造影検査,そして従来の共焦点CAO-SLOでは直接観察できなかった血球運動そのもの,すなわち毛細血管網,MA内部を移動する血球を直接,非侵襲的に観察することを可能にした.CO.setpinholeAO-SLOは血球といった動的なものだけでなく,静的な対象物の微細構造の評価にも有用である.硬性白斑(図4)や,網膜神経線維層の局所的な微小梗塞に伴う軟性白斑内のCcytoidbody(図5)のような高散乱構造では病変周囲の神経線維もしくは病変自体の後方散乱により共焦点AO-SLOではコントラストが低下してしまうが,o.setpin-holeAO-SLOならばこれら微細構造の可視化が可能であり,両者は名称は似ているが構造はまったく似て非なるものであることがわかるC8,9).CIVAO-OCTの黄斑部イメージングAO-SLOにより,視細胞や血球動態を平面的に直接観察することができるようになった.一方で,AO-SLOはCSLOの原理からCXY軸での観察は可能だが,Z軸方向の断面図(cross-section)としての観察はできない.OCTはCMRIや超音波検査と比較して縦分解能C3.7Cμmとすでに申し分ない分解能を有しており,市販COCTで視細胞層を含めた網膜の層別解析が可能であるが,個々の視細胞レベルでの解像や外顆粒層内の視細胞核の可視化は達成できていない.通常,SD-OCTの光源は中心波長がC840.860nmでビーム径が1Cmm前後となっており,式C1から横分解能は約C15Cμmと各社横並びである.AOをCOCTに応用することで,横分解能はCAO-SLOと同様C3Cμmと従来のCOCTのC5倍細かい横分解能が達成できるようになり,光学的縦,横分解能ともに3Cμmの高精細な網膜の断層像を得ることができるようになった.C1.健常眼SD-OCTでは,黄斑部においてC1本の連続的なバンド状に描出されていた外境界膜,EZ,interdigitationzone(IZ)がCAO-OCTでは個々の視細胞レベルでの細かい集合であることがわかる.さらに筆者らは,AO-OCTを用いることでカラー眼底写真拡大図O.setpinholeAO-SLO局所膨隆型.胞型混合型図3慢性期網膜静脈分枝閉塞症に認められた毛細血管瘤(MA)のo.setpinholeAO-SLO像上段:カラー眼底写真を拡大することでCMAを示唆する赤い点状の病変は判別できるが,形態,周囲の血管との連続性はわからない.CO.setpinholeAO-SLOを用いることでCMA内部の血球の動き,MAの形状(紡錘型),MA周囲の増殖組織が観察可能となった.下段:MAは局所膨隆型,.胞型,紡錘型(上段右),混合型のC4形状に分類でき,局所膨隆型以外の形状でCMA内部の血球動態が緩慢であり,MA周囲に増殖組織が認められるCMAは蛍光色素漏出しやすいことが明らかになった.カラー眼底写真O.setpinholeAO-SLO拡大図図4硬性白斑のo.setpinholeAO-SLO像慢性期網膜静脈分枝閉塞症患者に認められた硬性白斑.カラー眼底写真では一様の黄色病変であるが,o.setpinholeAO-SLOで観察すると約C20Cμmほどの粒子が六方最密充填構造のように規則正しく集簇していることがわかった.カラー眼底写真拡大図O.setpinholeAO-SLO拡大図図5軟性白斑のo.setpinholeAO-SLOの血管描出能の比較上段:全身性エリテマトーデス患者に認められた軟性白斑.カラー眼底写真を拡大しても内部の微細構造は観察できない.下段:o.setpinholeAO-SLOではCcytoidbodyを示唆する粒状の所見()が観察された.既存のSD-OCT開発中のAO-OCTヒト網膜組織EZIZRPE図6健常眼のAO-OCTとヒト網膜組織像既存のCSD-OCTではC1本のラインとして描出されているCEZ,IZも,AO-OCTでは視細胞それぞれが解像されていることがわかる.また,健常眼ではCSD-OCTで解像困難なCBruch膜もCAO-OCTでは解像されている.特筆すべきは中心窩の外顆粒層に存在する視細胞核がCAO-OCTで鮮明に描出されていることであり,黄斑疾患のバイオマーカーになると考える.カラー眼底写真IRFAF共焦点AO-SLOAO-OCT図7Acutemacularneuroretinopathy(AMN)患者のAOイメージング上段:カラー眼底写真および眼底自発蛍光(FAF)では判別できない傍中心窩の病変をCIR画像は明瞭に描出した.下段:共焦点CAO-SLOとCAO-OCTによるCAOイメージングIR画像の低反射領域に一致して共焦点CAO-SLOでCconemosaicの欠損が認められる.同部位のAO-OCTではCconemosaicの欠損はCEZではなくCIZレベルの脱落によるものであることがわかった.視力良好ERM視力不良図8網膜上膜におけるAO-OCT像網膜上膜患者ではCEZの厚みが肥厚しており,肥厚が強いほど術前の視力が不良であり,中心窩外顆粒層内の視細胞核の密度が上昇するほど術前の変視症が強いことがわかった.ヒト黄斑部の外顆粒層に存在する視細胞核を高反射粒子としてCinvivoで観察することに成功した10)(図6).従来のSD-OCTでは網膜色素上皮とCBruch膜の解像は困難であるが,AO-OCTならば両者は分離して解像されていることがわかる.C2.急性黄斑神経網膜症急性黄斑神経網膜症(acuteCmacularneuroretinopathy:AMN)はC1975年に報告された傍中心暗点を特徴とするまれな黄斑疾患である.カラー写真,眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)では異常所見を呈さないことが多いが,赤外線画像(infraredimage:IR)画像では傍中心窩に楔状の低反射領域が明瞭に描出されるため,AMNの診断ではCIR画像が非常に診断的価値が高い.筆者らがCAMN患者の病変領域を共焦点CAO-SLOとCAO-OCTで観察すると,IR画像での低反射領域とCconemosaic欠損領域は一致した.さらに,conemosaicの欠損はCIZの脱落によるものであることがわかった11)(図7).従来,AMNではCIR画像の低反射領域はCEZレベルに生じると考えられてきたが,今回の検討でCIZレベルであることが示唆された.AO-OCTにより病態のさらなる解明が期待できる.C3.網膜上膜筆者らは,AO-OCTで新たに可視化された視細胞核やEZ自体の厚みは,網膜上膜の視機能に影響するバイオマーカーであることを報告した12,13)(図8).Ellipsoidが癒合しEZ厚が増加するほど術前の視力は低下し,Mチャートで定量した変視症は視細胞核密度の上昇と正の相関を示すことがわかった.EZ自体は従来のCSD-OCTの時点で描出できていたが,分解能の問題から患者間での有意な厚みの差を見出せていなかった.AO-OCTを用いることで黄斑部の視細胞層に起きた微細な変化(EZの厚みの変化)を捉えることができたため,既知のCOCT所見であったとしてもCAO技術で徹底的に観察することで新たな発見が得られると考える.AO-OCTはC3Cμmの光学的縦横分解能を達成した画期的なイメージングモダリティではあるが,あくまでCcross-sec-tionでのイメージング機器であるため,血球動態の評価には不向きである.以上より,黄斑部の新たな病態の発見にはXY平面とCZ軸方向両面での細胞レベルの評価が必要となることから,AO-SLO・AO-OCTの両者を組み合わせ,包括的に評価することが重要である.おわりに現在までのところ,非侵襲的に細胞レベルでの網膜微細構造の観察・解析が可能なモダリティはCAO-SLOおよびAO-OCT以外に存在しない.リアルタイムでの血球動態観察や,従来のCSD-OCTでは可視化できなかった網膜構造や視細胞単位の障害を観察できることは他のモダリティにはない大きな魅力があり,疾患の極早期の病変の発見や病態解明に有用である可能性を秘めており,AO技術の臨床的価値はきわめて高いと考える.今後のさらなる研究開発により,AO眼底イメージングは眼疾患の理解と治療戦略に新たな展望をもたらすことが期待される.文献1)BabcockHW:Thepossibilityofcompensatingastronomi-calseeing.PublAstronSocPac65:229-236,C19532)LiangJ,WilliamsDR,MillerDT:Supernormalvisionandhigh-resolutionretinalimagingthroughadaptiveoptics.JOptSocAmAOptImageSciVisC14:2884-2892,C19973)CurcioCCA,CSloanCKR,CKalinaRE:HumanCphotoreceptorCtopography.CJCompNeurolC292:497-523,C19904)RoordaCA,CWilliamsDR:TheCarrangementCofCtheCthreeCconeCclassesCinCtheClivingChumanCeye.CNatureC397:520-522,C19995)KadomotoS,UjiA,ArichikaSetal:Macularconeabnor-malitiesCinCBehcet’sCdiseaseCdetectedCbyCadaptiveCopticsCscanningClightCophthalmoscope.COphthalmicCSurgCLasersCImagingRetinaC52:218-225,C20216)ChuiTY,VannasdaleDA,BurnsSA:Theuseofforwardscattertoimproveretinalvascularimagingwithanadap-tiveCopticsCscanningClaserCophthalmoscope.CBiomedCOptCExpressC3:2537-2549,C20127)KadomotoS,MuraokaY,UjiAetal:UltrastructureandhemodynamicsCofCmicroaneurysmsCinCretinalCveinCocclu-sionCexaminedCbyCanCo.setCpinholeCadaptiveCopticsCscan-ninglightophthalmoscope.BiomedOptExpressC11:6078-6092,C20208)KadomotoCS,CMuraokaCY,CUotoS:UltrastructureCofChardCexudatesCinCretinalCveinCocclusion.COphthalmolCRetinaC5:C796,C20219)KadomotoCS,CMuraokaCY,CSaddaS:Split-detectionCadap-tiveopticsimagingforcytoidbody-likematerialsinacot-tonwoolspot.CanJOphthalmolC58:e201,C202310)KadomotoS,MuraokaY,UjiAetal:HumanfovealconeandCmullerCcellsCexaminedCbyCadaptiveCopticsCopticalCcoherenceCtomography.CTranslCVisCSciCTechnolC10:17,202111)KadomotoS,MuraokaY,OotoSetal:StructuralchangesinacutemacularneuroretinopathyrevealedwithadaptiveopticsCopticalCcoherenceCtomography.CJAMACOphthalmolC141:400-402,C202312)IshikuraM,MuraokaY,KadomotoSetal:EvaluationoffovealconeandmullercellsinepiretinalmembraneusingadaptiveopticsOCT.OphthalmolSciC4:100362,C202413)IshikuraM,MuraokaY,NishigoriNetal:Cellulardeter-minantsCofCvisualCoutcomesCinCeyesCwithCepiretinalCmem-braneinsightsfromadaptiveopticsOCT.OphthalmolSciC4:100536,C2024

全周隅角カメラ画像を用いた新規隅角判定法の確立と隅角自動判定アルゴリズム

2026年7月31日 金曜日

《第14回.日本視野画像学会.シンポジウム》あたらしい眼科43(7):809.813,2026c全周隅角カメラ画像を用いた新規隅角判定法の確立と隅角自動判定アルゴリズム松尾将人岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻感覚運動医学講座眼科学CEstablishmentofNovelGonioscopicTechniquesandAutomatedAngle-AssessmentAlgorithmsUsing360-DegreeGonioscopicImagingMasatoMatsuoCDepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineCはじめに隅角鏡と細隙灯顕微鏡を用いて眼科医の手によって行う隅角鏡検査は隅角検査の基本であり,すべての眼科医にとって必須の検査法である1,2).緑内障にはさまざまな病型が存在し,眼圧上昇機序も病型ごとに異なるため,房水産生・排出の場である前房隅角部の評価は,緑内障病型診断・病態把握,治療方針の決定に不可欠であるC3.9).また,隅角検査は単に開放隅角か閉塞隅角かを識別するだけでなく,虹彩突起,周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS),線維柱帯色素沈着,Sampaolesi線,隅角結節,隅角新生血管,毛様体解離,隅角後退,虹彩離断,前房出血,前房蓄膿,異物,隅角形成異常など,前房隅角にかかわる多様な所見を提供する.これらは,ぶどう膜炎,眼外傷,前眼部発生異常などの診断・評価においても重要な情報源となるC3.9).さらに,近年広く行われるようになった低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)やレーザー虹彩切開術,レーザー線維柱帯形成術,緑内障インプラント手術など,各種緑内障手術の術前・術後評価においても,隅角部の詳細な観察は欠かせないC3,6,8.12).しかし,隅角鏡検査には,習熟を要し評価が主観的であること,半定量.定性的検査であること,医師・患者双方に時間と労力を要すること,記録が困難であること,さらに臨床現場での実施率が必ずしも高くないことなど,従来指摘されてきた限界が存在する13,14).以上を背景として,本稿では,隅角全周の静的隅角鏡検査様画像を眼科医の手を介さず容易に取得できる全周隅角カメラを用いて,筆者らが進めてきた新規隅角判定法の確立および隅角自動判定アルゴリズム開発の取り組みについて概説する1.15).Ⅰ新規隅角判定法の確立先に述べたように,隅角鏡検査にはいくつかの限界が存在するため,より簡便で標準化され,かつ客観的な隅角評価法の確立が求められている.隅角開大度の評価に関しては,超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)や前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)など既存の隅角検査機器でも可能である.しかし,これらの機器では隅角の色素情報を捉えることができず,前房隅角の病態を総合的に評価するうえで限界があった.この点に着目し,筆者らは眼科医による検査手技に依存せず,簡便かつ標準的に全周隅角画像を取得できる隅角検査機器として開発されたゴニオスコープCGS-1(NIDEK)に注目した.そして,2015年より世界に先駆けて実臨床で使用し,取得画像を基に多方面から隅角評価を行い,その有用性を検証してきた1.15).全周隅角カメラによる撮影は暗室で行い,被検者は座位・第一眼位を保持する.点眼麻酔後,粘性の高い専用ゲルを塗布したC16面マルチミラープリズムを角膜に近接配置し,隅角部に白色光を投影して撮影する.反射光は撮像素子で検出される.上下・左右方向の位置調整はオートトラッキング機能により自動で行われ,検者は前後方向の調整のみでよい.アライメント完了後,撮影が自動的に開始され,機器は各方向で焦点深度を変えながらC15枚の画像を取得し,線維柱帯にもっともピントのあったベストフォーカス画像を自動選択する.操作手順は他の一般的な眼科検査機器と同様であり,眼科医以外の視能訓練士でも容易に扱える.片眼C1分以内で隅角全周を撮影でき,検査効率が向上するだけでなく,被検〔別刷請求先〕松尾将人:〒C501-1194岐阜県岐阜市柳戸C1-1岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:MasatoMatsuo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Yanagido,Gifu-Shi,Gifu,501-1194,JAPANC図1全周隅角カメラによって撮像された16セクター画像の自動合成による全周隅角の可視化a:環状スティッチ全周隅角画像.b:線状スティッチ全周隅角画像.者・検者双方の負担軽減が期待される.さらに,従来の隅角鏡と比較して接眼面積が小さく,専用ゲル使用により接触が柔軟で,検査時間も短いため,眼痛・異物感などの苦痛が軽減される可能性がある.取得された倒像のベストフォーカス画像は反転・位置合わせ・画像処理を経て,360°パノラマ隅角画像である環状スティッチ画像および線状スティッチ画像へと自動変換され(図1),隅角全体像と各所見の位置関係を一目で把握できる3).全周隅角カメラは静的隅角鏡検査と同様の方法を用いつつも,簡便かつ自動的に隅角全周のリアルな色素情報を標準化して撮影・記録することが可能である.そのため,従来の静的隅角鏡検査で行える隅角評価は基本的にすべて実施できる.しかし,動的隅角鏡検査や圧迫隅角鏡検査は実施できないため,閉塞隅角眼では機能的閉塞と器質的閉塞の鑑別が困難である.また,狭隅角眼において,動的・圧迫隅角鏡検査でしか確認できない隅角底部の所見は捉えられない1,2,4.6).加えて,得られる画像は二次元の静止画であり,隅角を立体的に評価することはできない.さらに,座位や第一眼位の保持が困難な高齢者や低視力の被検者では高品質な画像取得がむずかしいことを,筆者らは過去に報告した(第C32回日本緑内障学会一般演題).全周隅角カメラは前房隅角にアプローチする各種手術の前後評価にも有用である3.6,8.12).筆者らは線維柱帯切開術眼内法〔マイクロフックトラベクロトミー(microhookCab-internotrabeculotomy:μLOT)〕を施行した患者における術後のCPASの割合・部位・頻度を解析し,術後CPASはC86%に認められ,とくに切開範囲において有意に形成されやすいことを明らかにした(図2)10).さらに,PASの形成動態は部位により異なり,切開範囲内のCPASは術後日数とともに増加する一方で,切開範囲外のCPASはCμLOT単独手術例や術前前房深度が浅い症例で増加する傾向が示された10).以上の結果から,切開範囲内と切開範囲外のCPAS形成には,それぞれ異なる要因が関与している可能性が示唆された10).また,毛様体解離に対する直接毛様体縫合術前後でも有用な評価が可能であった11).先述のように,全周隅角カメラ画像診断は静的隅角鏡検査の評価内容をほぼすべて再現可能である1.15).しかし,評価は従来の隅角鏡検査と同様に主観的判断に依存するため,検者内・検者間一致には一定の限界が生じうる.そこで筆者らは,緑内障外来で日常的に重視されるC4項目:①隅角開大度,②隅角色素沈着度,③周辺虹彩前癒着の有無,④CSam-paolesi線の有無について,全周隅角カメラ画像診断と隅角鏡検査との一致度,ならびに全周隅角カメラ画像診断における検者内・検者間一致をκ係数(Landis.Koch基準)を用いて解析した14).κ係数とは,偶然一致を補正した評価者間一致度の指標であり,0.00以下を「一致なし」,0.01.0.20を「わずか」,0.21.0.40を「まずまず」,0.41.0.60を「中等度」,0.61.0.80を「かなり」,0.81.1.00を「ほぼ完全な一図2線維柱帯切開術眼内法(マイクロフックトラベクロトミー,μLOT)術後眼における周辺虹彩前癒着(PAS)の解析a:μLOT施行眼における全周隅角カメラ画像の代表例.図中の赤線は線維柱帯切開範囲,図中の白矢印はCPASを示す.切開範囲内に複数のCPASを認める.Cb:μLOT後のCPAS頻度をセクター別に示したレーダーチャート.切開範囲外と比較して,切開範囲内でPAS形成が有意に多い(p<0.0001).表13名の緑内障専門家による全周隅角カメラ画像診断の観察者内・観察者間一致度解析隅角評価項目観察者内一致観察者間一致(3者間)κ係数Landis.Koch基準κ係数Landis.Koch基準隅角開大度(Scheie分類)0.32.C0.65まずまず.かなりC0.31まずまず隅角色素沈着度(Scheie分類)0.2.C0.71まずまず.かなりC0.38まずまず周辺虹彩前癒着0.35.C0.70まずまず.かなりC0.31まずまずSampaolesi線0.24.C0.71わずか.かなりC0.17わずか致」と解釈する14).その結果,κ係数はそれぞれC0.22(まずまず),0.40(まずまず),0.32(まずまず),0.58(中等度)であった14).一方で,閉塞隅角診断に関してはκ=0.72(かなり)と高く,1眼単位での閉塞隅角診断能はほぼ完全に一致した14).しかし,全周隅角カメラ画像診断自体の検者内・検者間一致はわずか.まずまずの範囲にとどまり,必ずしも十分に高いとはいえなかった(表1)14).Ⅱ隅角自動判定アルゴリズムより簡便で標準化され,かつ客観的な隅角評価法の確立をめざし,筆者らは全周隅角カメラ画像を用いた隅角自動判定アルゴリズムの開発に取り組んだ.まず,全周隅角カメラの特徴である「隅角色素情報をセクター単位で解析できる」点に着目し,隅角色素沈着度自動判定アルゴリズムの構築を行った13).ランダムフォレスト法による機械学習モデルを作成し,実臨床で検証したところ,隅角色素沈着度の判定(Scheie分類0.Ⅰ度をGrade0,Ⅱ度をGrade1,Ⅲ.Ⅳ度をGrade2と定義)は,緑内障専門家の判定と高率に一致し(図3),Landis.Koch基準で「かなりの一致」を示した(κ=0.70).さらに,開放隅角眼においては,従来報告と同様,下方象限で他象限よりも隅角色素沈着が有意に強いことが,自動判定・手動判定の双方で確認された13).続いて,深層学習を用いた開放隅角自動判定アルゴリズムの開発にも着手したが,現状では十分な精度には到達せず(第C34回日本緑内障学会北澤賞報告),むしろ全周隅角カメラ画像そのものの判定精度向上が今後の課題であることが示唆された.この結果を踏まえ,筆者らは隅角診断の基盤となる「画像自体の質の向上」に焦点を当てた研究を進めた15).全周隅角カメラは通常,自動的にベストフォーカス画像が提示されるが,そのC1枚の画像内にも焦点の合っていない箇所が残存する.そこで,各セクターにつき自動撮影されるC15枚の焦点深度の異なる画像列を用い,自動焦点合成(フォーカススタック)アルゴリズムを構築し,実臨床で検証した15).図4に示すように,客観的指標のラプラシアンエネルギー値(焦点指標として用いられる,エッジ強度を表す二階微分量に基づく画像鮮鋭度指標)および主観的評価(隅角病態評価の際1009790808070605047403020100画像数自動判定Grade0自動判定Grade1自動判定Grade2(Scheie分類0~Ⅰ)(Scheie分類Ⅱ)(Scheie分類Ⅲ~Ⅳ)図3隅角色素沈着度における緑内障専門家の判定結果と自動判定結果の比較図は隅角色素沈着度に関して,緑内障専門家による判定結果を基準として,同一隅角画像に対する自動判定の分布を示したものである.横軸は専門家判定によるCGrade区分を表し,各棒グラフ内の色分けは,それらの対象が自動判定ではどのCGradeに分類されたかを示している.ラプラシアンエネルギー値(焦点指標)隅角病態評価の際の情報量焦点深度の深さフォーカススタック画像優位の割合(%)ベストフォーカス画像優位の割合(%)図4全周隅角カメラにおける自動焦点合成(フォーカススタック)画像とベストフォーカス画像の客観的指標および主観的評価の比較図中の数値は,同一隅角画像のペア比較においてフォーカススタック画像がベストフォーカス画0102030405060708090100像より優れていた割合(%)を示す.の情報量・焦点深度の深さ)いずれにおいても,フォーカススタック画像がベストフォーカス画像に対し有意に優位であった(すべてCp<0.0001,符号検定)15).以上より,フォーカススタックアルゴリズムの導入により,従来よりも焦点深度が深く,情報量の多い高品質な隅角画像が得られることが示され,緑内障診療を含む隅角評価において実用的価値が高いことが明らかとなった15).おわりに筆者らは本研究を通して,全周隅角カメラ画像を用いた新規隅角判定法が一定の有用性を有することを示すとともに,従来の隅角判定法が抱える本質的な限界も明らかにした.また,隅角自動判定アルゴリズムの開発により,より簡便で標準化され,かつ客観的な隅角評価法を確立し得る可能性も示唆された.今後のステップとしては,世界的なコンセンサスに基づき,主観的評価に依存しない新しい隅角評価基準を定義し,その臨床的有用性を検証していく必要がある.その過程では,前房隅角の組織病理学的所見を再検討し,評価基準の妥当性を基礎的側面からも裏づけることが求められるだろう.謝辞:稿を終えるにあたり,講演の機会を与えてくださいました選考委員の先生方,第C14回日本視野画像学会総会長の篠田啓教授に心より感謝申し上げます.また,ご指導を賜りました谷戸正樹教授をはじめ共同研究者の諸先生方に深謝いたします.本研究の一部は文部科学省科学研究費(課題番号:20K18382ならびにC23K15928)の助成を受けて行われました.文献1)松尾将人:advancedtechniques「隅角検査」.新篇眼科プラクティス視能訓練士スキルアップ―これこそ座右の書―(大鹿哲郎,南雲幹編),p54,文光堂C,20222)松尾将人:隅角検査.新篇眼科プラクティス眼科外来ハンドブック(大鹿哲郎編),p139-143,文光堂C,20243)松尾将人,谷戸正樹:隅角全周同時撮影.眼科グラフィックC8:333-343,C20194)松尾将人,谷戸正樹:隅角全周撮影装置の有用性.あたらしい眼科C37:1205-1212,C20205)松尾将人,谷戸正樹:全周隅角カメラ.眼科手術C33:75-81,20206)松尾将人:ゴニオスコープで診る隅角検査所見.OCULIS-TA129:33-41,C20237)合田真美,松尾将人,稲川清香ほか:診断に苦慮した後部強膜炎のC1例.眼科C67:177-184,C20248)松尾将人:片眼の軽度隅角形成異常を伴う若年開放隅角緑内障の症例.臨床眼科C78:274-278,C20249)松尾将人,澤田明:若年開放隅角緑内障.眼科診療ガイド第C2版(石川均,井上俊洋,園田康平ほか編),p555-556,文光堂C,202410)MatsuoCM,CInomataCY,CKozukiCNCetal:CharacterizationCofperipheralanteriorsynechiaeformationaftermicrohookCab-internotrabeculotomyusinga360-degreegonio-cam-era.ClinOphthalmolC15:1629-1638,C202111)MatsuoM,IchiokaS,HaranoAetal:MinimallyinvasivedirectCinternalCcyclopexyCinCtheCmanagementCofCgonioto-my-relatedcyclodialysiscleftwithhypotonymaculopathy.IntMedCaseRepJC17:545-553,C202412)松尾将人:隅角解離に対する眼内法毛様体縫着.眼科手術C38:619-623,C202513)MatsuoM,PajaroS,DeGiustiAetal:Automatedanteri-orCchamberCangleCpigmentationCanalysesCusingC360°Cgonioscopy.BrJOphthalmolC104:636-641,C202014)MatsuoCM,CMizoueCS,CNittaCKCetal:IntraobserverCandCinterobserverCagreementCamongCanteriorCchamberCangleCevaluationsCusingCautomatedC360-degreeCgonio-photos.CPLoSOneC16:1-18,C202114)MatsuoCM,CKozukiCN,CInomataCYCetal:AutomatedCfocalCplaneCmergingCfromCaCstackCofCgonioscopicCphotographsCusingCaCfocus-stackingCalgorithm.CTranslCVisCSciCTechnolC11:1-9,C2022***

人工知能の力を借りて角膜を評価する

2026年7月31日 金曜日

《第14回.日本視野画像学会.シンポジウム》あたらしい眼科43(7):805.808,2026c人工知能の力を借りて角膜を評価する上野勇太筑波大学医学医療系眼科CCornealEvaluationUsingArti.cialIntelligenceYutaUenoCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukubaCはじめに近年では,人工知能(arti.cialintelligence:AI)がわれわれの生活と密接にかかわるようになっており,医療分野においてもCAI解析技術により開発されたプログラムが数多く登場している.本稿では,角膜のCAI研究にフォーカスし,これまでの国内外の動向や近年筆者らが進めている前眼部疾患診断支援システムCCorneAIについて解説する.CI角膜AIについての既報角膜診療においてCAIが使用された代表的なプログラムに,プラチド型トポグラファーに搭載されているCKlyce/MaedaindexがあげられるC1).開発されたC1990年代はコンピューターの性能が低く,深層学習も存在しなかったため,手計算に近い方法でニューラルネットワークを組んで解析されたとのことだが,それでも正常眼と円錐角膜眼を感度C44.100%,特異度C90%以上の高精度に分類することが可能で,laserCinCsitukeratomileusis(LASIK)など角膜屈折矯正手術における術前スクリーニングとして汎用されている.角膜形状解析データは測定点や測定値がある程度限定されており,データ量がそこまで大きくないためCAIを適用しやすく,このプログラム以外にもCAIを使用した多くの研究開発が報告されている.2000年代に入り深層学習が実装され,コンピューターの性能が飛躍的に向上したことを受け,AIを使用した画像診断技術が急速な発展を遂げた.前眼部カラー写真のような膨大なデータ量をもつ画像に対してもCAI解析が可能になり,2020年からは特筆すべき研究成果が報告されるようになった.代表的なものはCGuらによる報告で,5,000枚以上のカラー写真を使用して角膜疾患マルチクラス分類のプログラムが開発された2).そのほかに,LiらによるC3分類(正常・感染性角膜炎・その他の疾患)プログラム開発およびスマートフォンへ適用拡大する報告3)や,同じくCLiらによる適正画像と低品質画像を分類するプログラム開発の報告4),感染性角膜炎に対して病原微生物を同定するプログラム開発の報告5~7)などがある.これらの研究は眼底写真に比べると学習データの数が少ないながらも性能は良好であり,中国を中心にしたアジア圏の研究グループからの報告がほとんどであるという特徴がある.社会実装されると日常診療に有益なプログラムばかりであるが,現時点では臨床応用されているという情報は明らかでなく,いずれも研究段階のプログラムであると思われる.CIICorneAIの開発わが国では筆者らを中心に,角膜CAIプログラム開発および社会実装を目的としたプロジェクトが進行中である.日本眼科学会や日本眼科CAI学会,日本角膜学会が中心となって医療画像を収集し,国立情報学研究所にCAI解析を依頼し,日本眼科医療機器協会が社会実装を進めるというフレームワークである.今回は,日本角膜学会関連のC18施設からC9カテゴリー(正常,感染性角膜浸潤,非感染性角膜浸潤,角膜瘢痕,角膜沈着,水疱性角膜症,腫瘍性病変,水晶体混濁,急性緑内障発作)から構成された細隙灯顕微鏡カラー写真C5,270枚の写真を後ろ向きに収集した.集まった画像をコアメンバーで十分に吟味したのち,国立情報学研究所および名古屋大学の解析グループによって物体検出モデルCYOLOシリーズを用いて深層学習がなされ,入力画像から疾患を自動分類するプログラムが完成した8).プログラムはテストデータC500枚に対して正診率C88.8%で自動分類し,これは眼科医が画像のみから診断を下した際の正診率を上回った.また,前述したように感染性角膜炎の病原微生物の分類プログラムの開発が国内外の複数の研究グループから報告されているが,国内では鳥取大学からの研究報告があるC6).細隙灯〔別刷請求先〕上野勇太:〒C305-8575茨城県つくば市天王台C1-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:YutaUeno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukuba,1-1-1Tennodai,Tsukuba,Ibaraki305-8575,JAPANC図1前眼部カラー写真のAI診断支援プログラム,研究用プロトタイプCorneAIex(G-Data)a:感染性角膜浸潤(病原体:真菌).b:成熟白内障.Cc:翼状片.AIが考える分類に対する尤度(確率)をバーで表示する仕様であり,いずれの症例も正しい分類名の尤度が最大であった.海外展開を見据えて英語表記も可能である.顕微鏡照明やフルオレセイン染色画像を含むさまざまな前眼部写真を対象に,写真の情報のみでC4種の病原微生物(細菌,真菌,アカントアメーバ,単純ヘルペスウイルス)に自動分類するプログラムである.筆者らはC,上記筆者らのC9分類プログラムと鳥取大学の病原体C4分類プログラムを組み合わせた前眼部疾患CAI診断支援システムCCorneAIを開発した(図1).任意の前眼部カラー写真を読み込むことで数秒のうちにC9カテゴリーそれぞれに対して尤度(確率)が表示され,感染性角膜炎の場合にはC4病原体に対して同様に尤度が表示される.すでにプロトタイプソフトは完成し,GPUをもつコンピューター上での動作確認が済んでおり,2022年秋以降の眼科の主要な全国学会にて器械展示が行われている.今後はプログラムを電子カルテ上で動かせるように調整を行うとともに,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(pharmaceuticalsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)による承認手続きを経た社会実装を見据えている.筆者らのC9分類プログラムはディフューザー撮影した写真を学習しており,同等の画像は細隙灯顕微鏡のみならず他の装置を用いて取得可能である.その一つがオートレフラクトメータである.トーメーコーポレーションの多機能オートレフラクトメータCMR-6000は,従来から屈折値や角膜屈折力,眼圧,角膜形状解析など複数項目の検査が可能であり,2023年からは結膜充血の評価目的で前眼部のカラー撮影機能が追加された.本アプリケーションは結膜に自動でピントを合わせ,ハレーションを生じないように明るさを抑えて撮影される.筆者らはこのアプリケーションに注目し,角膜の病的所見を描出できるような改良を加えた.具体的には,眼球結膜面から角膜頂点方向へC0.8Cmmずつピントをずらしながら連続撮影し,結膜撮影時よりも照明を明るくして画像取得した.明所での撮影のため周囲が映り込むという問題点はあり,今後の改良点があげられるものの,開発中のプロトタイプを使用したメディカルスタッフによる撮影で角膜診療に十分使用可能な質の画像が得られる(図2).今後は同画像にAI診断支援プログラムを適用することを予定している.これにより,患者が初診した際,メディカルスタッフが最初に図2MR-6000を用いたカラー撮影,顆粒状角膜変性の症例a:従来の結膜充血評価用の画像.Cb~f:角膜カラー撮影画像(プロトタイプ).角膜撮影用の画像では,結膜面からC0.8Cmm刻みで角膜頂点寄りにピント位置をずらして撮影されており,画像左上に距離が表示される(0.8.4.0Cmm.上図では実際よりも大きな文字で表示).顆粒状の角膜混濁がよく描出されているが,結膜の情報は一部白飛びして評価しづらい.屈折や眼圧を測定するついでに角膜カラー画像を撮影し,AIによる疾患自動分類を行うことが可能になる.医師の診察前にCAIが疾患の可能性を提示することでトリアージが可能で,感染性角膜炎や急性緑内障発作などの急性疾患を優先的に医師の診察に回すことができる.また,疾患によっては診察前に前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)や波面センサーを検査しておくという使い方も考えられる.さらに,電子カルテ上で診察前に角膜カラー画像とCAI解析結果をみることで疾患の予習が可能となるため,若手の医師にとって心強いツールとなるのではないかと思われる.オートレフラクトメータは日本メーカーの製品が世界市場の大部分を占めているといわれており,海外展開についても積極的に進めていきたい.もう一つの検査装置として,スマートフォンを考えている.近年ではスマートフォンに付属しているカメラの性能が大幅に向上しており,スマートフォンで角膜診療を行う報告が散見される9.10).筆者らも国内複数施設において,iPhone-13proのマクロ撮影機能を使用して前向きデータ収集を行っている.とくにアタッチメントなどを使用せず,スマートフォン単体での撮影で細隙灯顕微鏡ディフューザー写真に近い画像が取得できるため,筆者らのプロジェクトに適用可能であると想定している.AIプログラムによる自動分類を併用することでさまざまな用途が考えられ,たとえば他科医師が使用することで眼科医へ相談する根拠になりうる.とくに急性緑内障発作の患者は夜間に来院することも多く,ファーストコンタクトを救急医が行うこともあるため有用と思われる.そのほかにも,患者や患者家族が使用することで受診要否や受診タイミングの提案も可能と思われるが,これについては疾患名を明示することは現実的でなく,非医療従事者向けのアプリケーションとしてはいくぶんかの調整が必要であると考えている.すでにCiOSおよびCAndroid向けのアプリケーションでCCorneAIのC9分類プログラムを動かせることを確認しており,撮影からCAI解析までスマートフォン単体で可能な状況まで開発が進んでいる.どのユーザーを対象にするか,それに応じたインターフェースの設計をどうするのかなどを整備していく必要がある.加えて,スマートフォンでは遠隔診療や僻地医療との相性がよいため,海外での使用も見据えた性能評価やデータ収集なども進め,世界基準となる角膜・前眼部CAI診断支援システムの構築をめざす.CIIICorneAIを用いた性能評価試験筆者らは複数名の眼科医の協力を得て,CorneAIのC9分類プログラムを使用した性能評価試験を行った.つまり,医師が画像のみを読影して診断した場合と,その後にCAIが解析した結果付きの画像を読影して診断した場合とで,医師の正診率がどの程度向上したのかを調査した.最初の実験C11)ではC9分類C50枚の画像を使用し,40名の眼科医が読影試験に参加した.眼科専門医C20名の正診率は画像のみC84.1%からCAI支援付きでC92.0%,専攻医(眼科入局C4年目以内)20名の正診率は画像のみC78.3%からCAI支援付きでC89.1%と,ともに向上した.CorneAI単体の正診率はC86%であり,眼科専門医・専攻医ともにCAI支援下ではCAI単体の成績を上回っており,AIが誤った選択肢を提示している画像でも医師が正解の分類を選んでいることが示された.社会実装された際のプログラムの有用性を示す重要なエビデンスである.続いて,AIが誤答した際の眼科医の反応をみるための実験を行った12).実験のスタイルは上記と同様である.臨床上で鑑別が重要となるC2分類,感染性角膜炎と非感染性角膜炎の画像C30枚ずつ計C60枚を用い,23名の眼科医の協力のもとで試験が行われた.本来であればCAIの正診率はC100%である画像を選んだが,60枚のうちC30%のC18枚(感染性角膜炎C9枚,非感染性角膜炎C9枚)についてはCAI解析結果を加工し,本来とは異なる誤答した画像を作成した.AIが正答を示しているC42枚については前述した実験と同様の結果であり,AIによる診断支援効果が示された.一方で,AIが誤答を示すよう加工済みのC18枚では興味深い結果となった.角膜以外を専門領域とする眼科専門医C7名の正診率は画像のみC58.7%からCAIのミスリードでC30.2%へ,専攻医C9名の正診率は画像のみC53.1%からCAIのミスリードでC32.7%へとともに大幅に下降した.ところが,角膜を専門領域とする眼科専門医C7名の正診率は画像のみC60.3%からCAIのミスリードでもC53.2%と軽微な下降にとどまった.つまり,角膜診療の経験が豊富な医師たちはCAIに依存しきらず,AIを適切に使用することができると示された.今後は角膜診療に限らず医師とCAIが共存する時代が到来すると思われるが,そのような時代であってもCAIの解析結果を適切に解釈するためには医師の経験が必要である.おわりに角膜のCAI研究について既報や国内の動向をまとめた.近年急速に発展している分野であり,興味深いプログラムの研究開発が多い.わが国で日本角膜学会を中心に開発を進めているCCorneAIは,眼科医を上回る診断精度を示しており社会実装も近い.さらに,さまざまな用途への適用拡大や海外展開なども見据えており,世界基準となるシステムの構築をめざしている.一方で,医師とCAIが共存する時代においても医師自身の臨床経験は不可欠であり,AIをツールとして適切に使いこなすためにも,若手の先生方には今後も自己研鑽に励んでいただきたい.文献1)MaedaCN,CKlyceCSD,CSmolekMK:NeuralCnetworkCclassi.cationCofCcornealCtopography.CpreliminaryCdemon-stration.InvestOphthalmolVisSciC36:1327-1335,C19952)GuCH,CGuoCY,CGuCLCetal:DeepClearningCforCidentifyingCcornealCdiseasesCfromCocularCsurfaceCslit-lampCphoto-graphs.SciRepC10:17851,C20203)LiZ,JiangJ,ChenKetal:PreventingcornealblindnesscausedCbyCkeratitisCusingCarti.cialCintelligence.CNatCCom-munC12:3738,C20214)LiZ,JiangJ,ChenKetal:Developmentofadeeplearn-ing-basedCimageCqualityCcontrolCsystemCtoCdetectCandC.lteroutineligibleslit-lampimages:amulticenterstudy.ComputMethodsProgramsBiomed203:106048,C20215)WangL,ChenK,WenHetal:FeasibilityassessmentofinfectiousCkeratitisCdepictedConCslit-lampCandCsmartphoneCphotographsusingdeeplearning.IntJMedInformC155:C104583,C20216)KoyamaCA,CMiyazakiCD,CNakagawaCYCetal:Determina-tionofprobabilityofcausativepathogenininfectiousker-atitisCusingCdeepClearningCalgorithmCofCslit-lampCimages.CSciRepC11:22642,C20217)AssafCJF,CAhujaCAS,CKannanCVCetal:ApplicationsCofCcomputerCvisionCforCinfectiouskeratitis:aCsystematicCreview.OphthalmolSciC5:100861,C20258)UenoY,OdaM,YamaguchiTetal:DeeplearningmodelforCextensiveCsmartphone-basedCdiagnosisCandCtriageCofCcataractsCandCmultipleCcornealCdiseases.CBrCJCOphthalmolC108:1406-1413,C20249)KumarCA,CAliCFS,CStevensCVMCetal:Smartphone-basedCanteriorCsegmentimaging:aCcomparativeCdiagnosticCaccuracystudyofapotentialtoolforblindnessprevalencesurveys.OphthalmicEpidemiolC29:491-498,C202210)GhafarianCS,CMasoumiCA,CTabatabaeiCSACetal:ClinicalCevaluationCofCcornealCulcerCwithCaCportableCandCsmart-phone-attachableslitlampdevice:smarteyecamera.SciRepC15:3099,C202511)MaeharaH,UenoY,YamaguchiTetal:Arti.cialintelli-genceCsupportCimprovesCdiagnosisCaccuracyCinCanteriorCsegmenteyediseases.SciRepC15:5117,C202512)MaeharaH,UenoY,YamaguchiTetal:TheimportanceofCclinicalCexperienceCinCAI-assistedCcornealdiagnosis:Cveri.cationCusingCintentionalCAICmisleading.CSciCRepC15:C1462,C2025C***

チューブ結紮を併用したAhmed緑内障バルブ挿入術の検討

2026年7月31日 金曜日

チューブ結紮を併用したAhmed緑内障バルブ挿入術の検討黒田浩平*1松田彰*1廣田旭亮*1佐伯忠賜朗*1今村和歌子*1佐々木秀憲*4朝岡聖子*2小森翼*2浅田洋輔*3岩本怜*3山上聡*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2順天堂大学医学部附属静岡病院眼科*3順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科*4佐久市立国保浅間総合病院眼科COutcomesofAhmedGlaucomaValveImplantationCombinedwithTubeLigationKoheiKuroda1)C,AkiraMatsuda1)C,AkiraHirota1)C,TadashiroSaeki1)C,WakakoImamura1)C,HidenoriSasaki4)CAsaoka2)C,TsubasaKomori2)C,YosukeAsada3)C,SatoshiIwamoto3)CandSatoruYamagami1)C,Satoko1)CDepartmentofVisualScience,SchoolofMedicine,NihonUniversity,2)CDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityShizuokaHospital,3)CDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityHospital,4)CDepartmentofOphthalmology,AsamaGeneralHospitalC目的:術後低眼圧による合併症のリスクが高いことから,チューブ結紮併用CAhmed緑内障バルブ(AGV)挿入術を施行した症例の術後成績を後ろ向きに解析した.対象と方法:対象はC2018年C12月.C2025年C2月に日大板橋病院,順天堂医院ならびに関連病院でチューブ結紮併用CAGV挿入術を施行されたC63例C63眼.同時期に施行したチューブ結紮を併用しないCAGV挿入群C313例C313眼とCleastCabsoluteCshrinkageCandCselectionoperator(LASSO)回帰解析で比較し,低眼圧・低眼圧合併症のリスク因子について検討した.病型は落屑緑内障C29眼,原発開放隅角緑内障C11眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,続発緑内障C21眼,小児緑内障C1眼であった.結果:8眼で術後低眼圧に伴う合併症を生じ,CaqueousCmisdirection2眼に対してCirido-zonulohyaloidectomy(IZH)を,2眼でチューブ再結紮,1眼でステント挿入を施行した.また,1眼はチューブ開放後に上脈絡膜出血を生じ,強膜開窓術を施行した.非結紮CAGV挿入眼とのLASSO回帰解析による比較検討では,チューブ結紮をしないことが術後低眼圧を引き起こすリスク因子として有意差が認められ,術後低眼圧に伴う合併症の発生については術後低眼圧・術前高眼圧がリスク因子として有意差を認めた.結論:チューブ結紮併用は術後低眼圧の防止に有効であるが術後低眼圧合併症の防止には有効ではなく,結紮眼においても回避しがたい合併症が出現することがあるため,さらなる術式の改善が必要と考えられた.CPurpose:ToCexamineCtheCclinicalCoutcomesCofCAhmedCglaucomavalve(AGV)implantationCcombinedCwithCtubeligation.PatientsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedtheclinicaloutcomesof63eyesof63patientswhounderwentAGVimplantationcombinedwithtubeligationcomparedwith313eyesof313patientswhoCunderwentCAGVCimplantationCaloneCatCNihonCUniversityCItabashiCHospital,CJuntendoCUniversityCHospital,CandCa.liatedhospitalsfromDecember2018toFebruary2025.Theinitial63eyeswereconsideredtobeatahighriskofhypotony-relatedcomplicationsduetofactorssuchasshortaxiallength,intraocularlenssubluxation,blebscar-ring,Ciridocyclitis,CorCaphakia.LASSO(leastCabsoluteCshrinkageCandCselectionoperator)logisticCregressionCanalysisCwasperformedtoidentifyriskfactorsforpostoperativehypotonyandhypotony-relatedcomplications.Thediseas-esinthe63eyeswereexfoliationglaucoma(29eyes)C,primaryopen-angleglaucoma(11eyes)C,primaryangle-clo-sureglaucoma(1eye)C,Csecondaryglaucoma(21eyes)C,CandCanCadultCwithCchildhoodglaucoma(1eye)C.CResults:CPostoperativehypotony-relatedcomplicationsoccurredin8eyes.Twoeyeswithaqueousmisdirectionunderwentirido-zonulo-hyaloidectomy,C2CeyesCrequiredCtubeCre-ligation,C1CeyeCrequiredCtubeCocclusionCwithCanCintraluminalCstent,CandC1CeyeCunderwentCscleralCdrainageCdueCtoCaCsuprachoroidalChemorrhageCdevelopingCafterCtubeCopening.CLASSOClogisticCregressionCanalysisCcomparingCtheCligatedCandCnon-ligatedCAGVCgroupsCrevealedCthatCabsenceCofCtubeligationwasthesigni.cantriskfactorforpostoperativehypotony.Moreover,postoperativehypotonyandpre-operativeChighCintraocularCpressureCwereCidenti.edCasCsigni.cantCriskCfactorsCforChypotony-relatedCcomplications.CConclusions:Althoughtubeligationwasusefulinpreventingpostoperativehypotony,itdidnotappeartoprevent〔別刷請求先〕黒田浩平:〒C173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:KoheiKuroda,M.D.,DepartmentofVisualScience,SchoolofMedicine,NihonUniversity,30-1,oyaguchikamicho,Itabashi-ku,Tokyo,173-8610,JAPANChypotony-relatedCcomplications.CSinceCsomeCcomplicationsCremainCunavoidable,CfurtherCre.nementCofCtheCsurgicalCtechniquemaybewarranted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(7):799.804,2026〕Keywords:チューブ結紮,Ahmed緑内障バルブ,術後低眼圧,悪性緑内障.tubeligation,Ahmedglaucomavalve,postoperativehypotony,aqueousmisdirection,irido-zonulohyaloidectomy(IZH)C.Cはじめに緑内障ドレナージデバイスとしてC1990年に眼圧調節弁(バルブ)のないCBaerveldt緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI),1993年にバルブをもつCAhmed緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が報告され,日本でもCBGIはC2011年,AGVはC2014年に使用可能となった.その結果,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術〔トラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)〕が不成功に終わった患者,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な患者,TLEの奏効が期待できない患者,あるいはCTLEにおいて重篤な合併症が予測される患者,他の濾過手術が技術的に施行困難な患者など,難治性緑内障を中心に緑内障チューブシャント手術が選択される機会が増加してきている1).AGVのバルブ閉塞圧の下限値はC6CmmHgとされているが,チューブ周囲からの房水流出や炎症に伴う房水産生の低下といった要因も加わることで,AGV術後低眼圧による浅前房,前房出血,脈絡膜.離,aqueousmisdirectionなどの合併症を経験することがある.既報では緑内障インプラント挿入術において落屑緑内障(exfoliativeglaucoma:XFG),短眼軸,虹彩炎の既往がある眼では術後低眼圧を起こしやすいことが報告されており2.4),AGV術後低眼圧の予防策として吸収糸を用いたチューブ結紮が有効とされている5).今回筆者らは,短眼軸,虹彩炎の既往・瘢痕化濾過胞の存在などの術後低眼圧による合併症の発症リスクを有する眼に対して,術後低眼圧予防のために手術時に吸収糸でチューブ結紮を併用した症例の術後経過を後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.C2025年C2月に日大板橋病院,順天堂医院,順天堂静岡病院,浅間総合病院で術後低眼圧による合併症のリスクが高いと判断され,チューブ結紮併用CAGV手術を施行し,術後C1カ月以上経過観察できたC63例C63眼である.両眼にチューブ結紮併用CAGV挿入手術を施行した症例でははじめに施行した眼を採用し,過去にロングチューブ手術を施行した既往がある眼は対象から除外した.術翌日以降の連続するC2回以上の診察において眼圧がC6CmmHg以下であった場合を低眼圧,さらに浅前房や脈絡膜.離を呈した場合を低眼圧に伴う合併症と定義し,術前と術後(術後翌日,1週,1カ月,3カ月,6カ月,12カ月,24カ月,36カ月,60カ月)の眼圧,術後低眼圧・低眼圧に伴う合併症の有無,追加手術の有無について診療録より後ろ向きに検討し,また,同時期に施行したチューブ結紮を併用しないAGV手術C313例C313眼と比較した.統計解析では,データ分析のためにCJMPStudentEdition(ver.19.0.1)を使用した.手術手技については,角膜輪部からC9Cmmの位置でプレートをC8-0ナイロン糸で強膜に固定し,前房内挿入では角膜輪部からC1.5Cmm,毛様溝挿入ではC2.5Cmm,硝子体腔挿入では3.5Cmmの位置でチューブを挿入した.チューブをC8-0バイクリル糸で結紮後,保存強膜でチューブを覆うようにC10-0ナイロン糸で強膜に固定.トリアムシノロンアセトニド後部Tenon.下注射し,結膜をC8-0バイクリル糸で縫合し終了とした.なお,本研究は日本大学板橋病院(RK-240709-2),順天堂医院(E22-0429),順天堂大学静岡病院(E22-0429-S01),浅間総合病院(24-08)の研究倫理委員会の承認を得て施行した.CII結果症例(結紮あり群)は,男性C38例C38眼,女性C25例C25眼,平均年齢はC73.4C±11.4歳であった.病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)11眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangle-closureglaucoma:PACG)1眼,落屑緑内障(XFG)29眼,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)21眼,小児緑内障(childhoodglaucoma)1眼であった.術前眼圧はC27.2C±5.8mmHgで,23mm未満の短眼軸眼はC63眼中C12眼,濾過手術の既往はC63眼中,TLE後C21眼,expressミニチューブ後C1眼であった.全症例が白内障手術後であり,そのうち眼内レンズ振盪を認めた症例がC4眼,無水晶体眼がC2眼,眼内レンズ縫着後症例がC1眼あった.同時期に施行したチューブ結紮を併用しないAGV挿入群(結紮なし群)はC313例C313眼で,男性C183眼女性C130眼,平均年齢はC70.9C±12.1歳,病型はCPOAG81眼,PACG8眼,XFG108眼,SG82眼,childhoodCglaucoma2眼,血管新生緑内障(neo-vascularglaucoma:NVG)32眼であった.術前眼圧はC28.6C±7.6CmmHgで,23mm未満の短眼軸の症例はC313眼中C36眼,緑内障手術既往がある症例はC313例中,TLE後C101眼,expressミニチューブ後C7眼だった.全症例が白内障手術後であり,そのうち眼内レンズ震盪を認めた症例がC5眼,眼内レンズ縫着後症例がC4眼,無結紮あり(n=C63)結紮なし(n=C313)年齢(meanC±SD)C73.4±11.4歳C70.9±12.1歳性別(男性:女性)38人:2C5人183人:C130人術前CIOP(meanC±SD)C27.2±5.8CmmHgC28.6±7.6CmmHg病型CPOAGC11C81CPACGC1C8CXFGC29C108CSGC21C82CchildhoodglaucomaC1C2CNVGC0C32眼軸長C24.9±2.3CmmC24.9±2.2Cmm濾過手術既往歴TLE後C21C101expressミニチューブ後C1C7角膜移植後C0C6硝子体術後C4C31中間透光体の状態CIOLdonesisC4C5IOL縫着後C1C4無水晶体眼C2C4チューブ挿入部位前房内C26C75毛様溝C28C180硝子体腔C9C58IOP:眼圧(intraocularpressure),POAG:原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma),PACG:原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclo-sureglaucoma),XFG:落屑緑内障(exfoliativeglaucoma),SG:続発緑内障(secondaryglaucoma),NVG:血管新生緑内障(neovascularglaucoma),TLE:線維柱帯切除術(trabeculectomy),IOL:眼内レンズ(intraocularlens)水晶体眼がC4眼あった(表1).表2術後低眼圧に伴う合併症結紮あり群では術後,8眼で術後低眼圧に伴う合併症を生じ,うちC3眼でCaqueousmisdirectionを,2眼で浅前房と脈絡膜.離を,2眼で脈絡膜.離を発症した.それぞれCaque-ousmisdirection3眼に対してはCirido-zonuloChyaloidectomy(IZH)を施行し,浅前房と脈絡膜.離をきたした症例のうち1眼でチューブ再結紮,1眼で前房側からのC3-0プロリンステント挿入術を施行した.脈絡膜.離C2眼についてはアトロピン点眼による保存的加療で自然消退した.またC1眼で術後6週間後のチューブ開放後に上脈絡膜出血を生じ,強膜開窓術を施行した.また,1眼で術後早期高眼圧を生じ翌日観血的にチューブ開放術を施行した(表2).チューブ結紮なし群ではC313眼中C64眼(20.4%)で6mmHg以下の術後低眼圧を生じたのに対し,チューブ結紮結紮あり結紮なしCaqueousmisdirectionC3C4浅前房C2C7脈絡膜.離C4C32術後早期高眼圧C1C0上脈絡膜下出血C1C0裂孔原性網膜.離C0C1C群で術後低眼圧を生じたのはC63眼中C2眼(3.2%)であり,チューブ結紮なし群と比較して,結紮あり群で術後低眼圧の発症率は低下した(表3).一方で,術後低眼圧に伴う合併症を生じたのは結紮なし群でC37眼,結紮あり群でC8眼であり,結紮あり結紮なしp値Odds比,9C5%CCI術後低眼圧C2C64C0.00040.13,C0.03.C0.54術後低眼圧合併症C8C37C0.831.09,C0.48.C2.46C.sher’sexacttest.表4術後低眼圧を引き起こすリスク因子低眼圧あり低眼圧なしp値Odds比,9C5%CCI結紮(有/無)C2/64C61/249C0.00350.048,C0.0063.C0.37年齢(meanC±SD)C74.4±11.0歳C70.7±12.1歳C0.053性別(男性:女性)41人:2C5人180人:C130人C0.39術前CIOP(meanC±SD)C28.3±7.5CmmHgC28.4±7.3CmmHgC0.73眼軸長C24.3±1.9CmmC25.0±2.3CmmC0.89POAGC13C79CPACGC2C7CXFGC32C105C病型CSGC12C90C0.80CchildhoodglaucomaC1C2CNVGC6C27中間透光体の状態C4C14C0.63濾過手術既往歴C19C116C0.94チューブ挿入部位前房内C24C77C0.18毛様溝C29C179硝子体腔C13C54JMPを用いたCLASSO回帰解析.術後低眼圧に伴う合併症の発症率には結紮の有無による有意差を認めなかった(表3).また,術後低眼圧を引き起こすリスク因子についてCleastCabsoluteCshrinkageCandCselectionoperator(LASSO)回帰解析により比較検討したところ,チューブ結紮をしないことに術後低眼圧発症のリスク因子として有意差を認め,他年齢,眼軸長,病型などでは有意差を認めない結果であった(表4).低眼圧に伴う合併症の発生について,LASSO回帰解析により術後低眼圧,術前眼圧で有意差を認めたものの,結紮の有無による有意差は認めなかった(表5).CIII考按今回,術後低眼圧による合併症のリスクが高いと判断した63例C63眼に対して,チューブ結紮併用CAGV手術を施行した.リスクが高いと判断した理由として,濾過手術既往眼ではチューブ経由以外の房水流出,続発緑内障眼では術後炎症に伴う房水産生の低下,落屑緑内障眼では術後炎症やCZinn小帯の脆弱性,短眼軸眼ではCaqueousmisdirectionを発症しやすいといった要因があげられる.本検討ではチューブ結紮により術後低眼圧をC63眼中C2眼に生じ,術後低眼圧による合併症をC8眼に生じた.合併症を生じた症例の病型は落屑緑内障C6眼,続発緑内障C1眼,原発開放隅角緑内障C1眼だった.チューブ結紮により術後低眼圧の発症率は低下したが,術後低眼圧に伴う合併症の発症率には有意差を認めず,既報と一致する結果だった5).術後低眼圧合併症のリスク因子として術前高眼圧で有意差が得られたが,術前高眼圧の症例ではチューブ挿入により急激な眼圧下降がもたらされることで網膜血管の内圧が眼内圧よりも相対的に高くなった結果,脈絡膜血管拡張や脈絡膜の血管透過性上昇を引き起こし,脈絡膜.離などの術後低眼圧合併症をきたす可能性が考えられ合併症あり合併症なしp値Odds比,9C5%CCI結紮(有/無)C8/37C55/276C0.74年齢(meanC±SD)C77.1±8.8歳C70.6±12.1歳C0.22性別(男性:女性)25人:2C0人196人:C135人C0.57術前CIOP(meanC±SD)C29.3±8.8CmmHgC28.2±7.4CmmHgC0.041.06,C1.00.C1.12眼軸長24.0±1.8CmmC25.0±2.2CmmC0.07POAGC11C81CPACGC3C6CXFGC25C112C病型CSGC5C97C0.50CchildhoodglaucomaC0C3CNVGC1C32中間透光体の状態C3C15C0.84濾過手術既往歴C12C123C0.57チューブ挿入部位前房内C18C83C0.10毛様溝C25C183硝子体腔C2C65JMPを用いたCLASSO回帰解析C.た.なお,術後低眼圧症例に限定して解析を施行したところ,患者背景は結紮あり群と結紮なし群で有意な差を認めなかった.また,LASSO回帰解析の結果からは,術後低眼圧と術前高眼圧が術後低眼圧合併症を引き起こすリスク因子であることが示された.Aqueousmisdirectionのリスク因子としては,術前浅前房,術前の高眼圧,慢性閉塞隅角緑内障,Zinn小帯脆弱による水晶体前方移動などが報告されている6,7).今回,チューブ結紮により早期の房水流出が抑制され低眼圧の予防には一定の効果があったと考えられるものの,本症例の術前眼圧がC27.2C±5.8CmmHgと高値であったことが低眼圧合併症を防止できなかった一因としてあげられる.チューブ開放後の眼圧下降で上脈絡膜出血を生じた症例がC1例あることからも,吸収糸によるチューブ結紮という方法では低眼圧合併症の発症防止には限界があると考えられた.弁なしのインプラントの場合はチューブ内腔にステント(たとえばCBGIの場合にはC3-0ナイロン糸)を挿入してさらにチューブを結紮するといった方法が報告されているが,弁構造をもつCAGVの場合は弁より前房側にしかステントの留置はできないことから,術後眼圧上昇のためステント抜去が必要になった場合,手術室での抜去が必須である.ハイリスクの症例においてはあらかじめ患者に手術室でのステント抜去の可能性を説明のうえ,吸収糸によるチューブ結紮とチューブ内腔へのステント留置を併用した手術も考慮に値すると考えられた.一方で,術前の予想に反してチューブ結紮併用CAGV挿入術後に著明な眼圧上昇を呈した症例もC1例経験した.この症例はCTLE術後で,濾過胞部位からチューブを挿入したことから,チューブ経由の濾過に加えて既存の濾過胞部位からの濾過を予想してチューブ結紮を併用したが,実際には術後高眼圧になってしまった症例であり,術翌日に創を再度開いてチューブを開放した.頻度としては低いものの,術後高眼圧を呈した場合には再手術が必要になる可能性をあらかじめ説明しておく必要があると考えられる.また,今回は後ろ向き研究であったことから,症例の選択バイアスの可能性や,症例数が少なかったことが本研究の限界としてあげられるため,今後は術式の改良を含めてさらなる検討が必要である.CIV結論チューブ結紮併用は術後低眼圧の防止に有効であるが,結紮眼においても回避しがたい合併症が出現することがあり,さらなる術式の改善が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし1)東千晶,浅田洋輔,鈴木貴英ほか:無水晶体眼のアトピー緑内障に対してC4-0プローリンC.ステント併用アーメド緑内障バルブ挿入術を施行したC2例.あたらしい眼科C76:957-963,C20222)ShinCDY,CJungCKI,CParkCHYLCetal:RiskCfactorsCforCcho-roidalCdetachmentCafterCAhmedCvalveCimplantationCinCglaucomapatients.AmJOphthalmol211:105-113,C20203)ValimakiJ:IntraoperativeCcustomizedCreductionCinCBaer-veldtimplantplatesizeinelderlypatientswithglaucomaandshorteyes.ClinOphthalmolC17:2287-2293,C20234)RamdasCWD,CPalsCJ,CRothovaCACetal:E.cacyCofCglauco-madrainagedevicesinuveiticglaucomaandameta-anal-5)KeeC:PreventionCofCearlyCpostoperativeChypotonyCbyCpartialCligationCofCsiliconeCtubeCinCAhmedCglaucomaCvalveCimplantation.JGlaucomaC10:466-469,C20016)KaplowitzK,YungE,FlynnRetal:CurrentconceptsintheCtreatmentCofCvitreousCblock,CalsoCknownCasCaqueousCmisdirection.SurvOphthalmolC60:229-241,C20157)LinCH,CLiCJ,CZhengCXCetal:IncidenceCandCcharacteristicsCofCaqueousCmisdirectionCafterCglaucomaCsurgeryCinCChi-neseCpatientsCwithCprimaryCangle-closureCglaucoma.CEyeVis(Lond)C10:28,C2023***

基礎研究コラム:結膜組織透明化によるGAPの観察

2026年7月31日 金曜日

結膜組織透明化によるGAPの観察組織透明化技術組織透明化技術とは,化学的処理によって生体組織を透明化し,未切断のサンプルや厚い切片を三次元のまま観察可能にする手法です1()図1).生体組織は不透明で光を通さないため,従来は組織を薄く切った切片を二次元的に観察する必要がありました.しかし,切片化自体が組織を損傷させますし,観察断面により結果が変わるバイアスも生じます.透明化により,生体組織元来の三次元構造を保持したまま観察できることは,組織の形態学的理解のためにも重要です.透明化の基本原理は,①光の散乱の抑制と②光吸収物質の除去です.脂質やコラーゲンなどの高屈折率成分を除去したり,溶媒を高屈折率の液体へ置換することで,屈折率差を縮め,光散乱を抑えます.また血液中のヘムなどの色素は光を吸収し観察の妨げとなるため,除去や脱色処理を行います.透明化試薬は,①有機溶媒,②ハイドロゲル,③水溶性化合物に大きく分類できます.目的や対象臓器に応じて最適な方法を選択することが重要です.有機溶媒法は高い透明化能を有しますが,蛍光退色や組織収縮が問題です.ハイドロゲル法は透明度がきわめて高くなりますが,必要な装置も多く,操作が煩雑です.筆者らが実験で使用した水溶性化合物を用いる方法(Scale,SeeDB,CUBICなど)は手技が比較的簡便で,通常の共焦点顕微鏡での観察が可能です.蛍光蛋白質の退色が少なく,脱脂も最小限に抑えられるため,組織内の構造を良好に保持できます.結膜組織の透明化アレルギー性結膜炎における抗原の取り込みを調べるために,ブタクサ花粉の殻と蛍光色素をラベルした蛋白抗原をマウス結膜に点眼し,結膜切片を観察しました(図2a).杯細胞が抗原を取り込んでいる現象(gobletCcell-associatedCanti-genpassages:GAP)を確認できました.しかし結膜での杯細胞の分布はばらつきがあり2),スライスする位置によっては杯細胞が観察できない切片バイアスが生じます.そのため,マウス結膜をCAbScale法で透明化しました(図2b).すると多数の杯細胞が一度に観察でき,また,GAP形成を三次元的に観察できました.その結果,蛋白抗原単独の点眼ではほとんどCGAP形成は認められず,GAP形成は花粉の殻に依存していることがわかりました(図2c).今後の展望筆者らは,花粉の殻が感覚神経を介して結膜の杯細胞を活性化しCGAPを誘導すること,また結膜のCGAPがアレルギー性結膜炎の発症に重要な役割を果たしていることを報告しています3).GAPを制御するメカニズムが解明できれば,GAPがアレルギー性結膜炎の新規治療標的となることが期監修北澤耕司・村上祐介・中川卓木村芽以子順天堂大学医学部附属浦安病院眼科待されます.文献1)HamaCH,CHiokiCH,CNamikiCKCetal:ScaleS:anCopticalCclearingCpaletteCforCbiologicalCimaging.CNatCNeurosciC18:C1518-1529,C20152)WooCJ,CLeeCEY,CLeeCMCetal:ComparativeCanalysesCofCclearingCe.caciesCofCtissueCclearingCprotocolsCbyCusingCaCpunchingassistedclarityanalysis.front.BioengBiotechnol9:784626,C20213)KimuraCM,CAndoCT,CKumeCYCetal:ACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenpassage.JCIInsightC8:e168596,C2023a1h3hLowexp.OVA-AF647DAPIb図2マウスの結膜GAPの観察杯細胞がCGAPを形成していることを確認した.Ca:結膜切片の画像.b,c:結膜透明化の画像(緑CWGA:杯細胞C,赤CAF647:蛋白抗原).(77)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026C7930910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:278.Alport症候群に伴う巨大黄斑円孔(上級編) 

2026年7月31日 金曜日

278Alport症候群に伴う巨大黄斑円孔(上級編)池田恒彦京都中部総合医療センター眼科近畿大学奈良病院眼科●はじめにAlport症候群は,Ⅳ型コラーゲンの異常により基底膜が障害され腎臓・内耳・眼などに種々の病変をきたす.眼所見としては,再発性角膜上皮びらん,前部円錐水晶体,黄斑部周囲の黄白色点状病巣(dot-and-.eckretinopathy)などの頻度が高い1)が,巨大な黄斑円孔(macularhole:MH)をきたすこともある2~7).C●症例提示患者はC51歳,男性.他院にてCAlport症候群による両眼巨大CMH(図1)の診断を受け,右眼に対してC4年前に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体手術が施行された.この時の手術記録によると,網膜硝子体癒着が非常に強固で,人工的後部硝子体.離作製および内境界膜.離が困難であり,術中に網膜.離が生じたため,気圧伸展網膜復位術,シリコーンオイルタンポナーデが施行された.術後網膜は復位したが,MHは非閉鎖(図2)で,その後続発緑内障が発症し,眼圧コントロール不良の状態で紹介された.矯正視力はすでに眼前手動弁となり,点眼以外の積極的な治療は行わず経過観察している.左眼は無治療で,矯正視力はC0.2を保持している.C●Alport症候群に伴う巨大黄斑円孔過去の報告によると,Alport症候群に伴うCMHは巨大化しやすい.その原因として,Ⅳ型コラーゲン異常に起因するCBruch膜異常や網膜色素上皮萎縮により,網膜内に滲出液が流入することで微小.胞が多数形成され,それが融合するためと推測されている1,2).また,内境界膜は非常に薄いか部分的に欠損していることが多く3),これが網膜硝子体界面の構造異常を惹起し,強固な網膜硝子体癒着を形成すると考えられる4,5).このようにCAlport症候群に伴うCMHは通常の特発性CMHとは病態が大きく異なり,手術の難度は高く,術後の円孔閉鎖率も悪い.自然経過で巨大CMHが網膜.離に進行したとする報告はほとんどないことから,経過観察も一つ(75)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1術前の眼底写真(a:右眼,b:左眼)とOCT(c:右眼,d:左眼)右眼は約C1.3乳頭径大,左眼は約C0.9乳頭径大の巨大な黄斑円孔を認める.図2右眼の硝子体手術後の眼底写真シリコーンオイルが注入され,黄斑円孔は非閉鎖である.の選択肢であることを念頭に置き,慎重に手術適応を決定すべきと考える.文献1)SavigeCJ,CLiuCJ,CDeBucCDCCetal:RetinalCbasementCmem-braneCabnormalitiesCandCtheCretinopathyCofCAlportCsyn-drome.InvestOphthalmolVisSci51:1621-1627,C20102)deHoogJ,MarliesGoversB,Burggraa.MCetal:Poste-riorvitreousmembrane.ndingsonOCTrelatedtocolla-gentypeIVabnormalities.RetinCasesBriefRepC18:731-734,C20243)ChaudhryCSG,CLiewCG,CFungAT:MissingCinternalClimit-ingCmembraneCduringCmacularCholeCrepairCinCAlportCsyn-drome.CaseRepOphthalmolC12:320-323,C20214)ZhouB,HeiselCJ,ZhuIetal:VitreoretinalabnormalitiesduringCmacularCholeCrepairCinCAlportCsyndrome.CRetinCCasesBriefRepC19:80-83,C20255)沼賀早紀,得居俊介,篠原洋一郎ほか:Alport症候群に合併した黄斑円孔の硝子体手術に難渋したC1例.臨眼C78:C1003-1009,C2024あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026791

考える手術:Hydrus緑内障マイクロステントによる白内障併用緑内障手術

2026年7月31日 金曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅Hydrus緑内障マイクロステントによる白内障併用緑内障手術庄司拓平小江戸眼科内科/埼玉医科大学眼科HydrusMicrostent(以下,Hydrus)はIvantis社が開発しAlcon社が取り扱うニチノール製のSch-lemm管内留置型デバイスである.全長8mmで約90°にわたりSchlemm管を拡張・支持し,前房側のinletから房水をSchlemm管へ導く.線維柱帯をバイパスするだけでなく,留置範囲のSchlemm管を足場として拡張し,複数の集合管への流出経路を確保する点が特徴である.低侵襲緑内障手術(MIGS)の一つであり,白内障を合併した初期.中期の原発開放隅角緑内障(広義)および落屑緑内障が適応となる.術前には隅角鏡で開放隅角,周辺虹彩前癒着の有無,Schlemm管の視認性を確認する.進行例や正常眼圧緑内障で一桁台.十台前半mmHgの眼圧を目標とする患者には白内障併用緑内障手術(Phaco-Hydrus)単独では目標眼圧達成が困難な場合があるため,慎重に適応を判断する.手技では顕微鏡と頭位を調整し,隅角鏡下にSchlemm管を正確に同定することが最重要である.筆者は連続円形切.(CCC)作製後,水晶体乳化前にHydrusを挿入する.粘弾性物質で前房を安定させ,インジェクター先端で線維柱帯を穿破し,鼻側Schlemm管内へデバイスを進める.抵抗を感じたら押し込まず先端位置を再確認する.留置後はinlet(流入口)が前房側に残り,sca.old部がSchlemm管内に展開されていることを確認する.多施設RCTのHORIZON試験では,Phaco-Hydrusは白内障手術単独に比べ眼圧下降および点眼薬数の減少に優れ,5年成績でも効果持続,二期的緑内障手術への移行リスク低下,視野進行抑制が示された1,2).合併症として前房出血,一過性眼圧上昇,留置位置異常,PAS形成,inlet閉塞などに注意し,術後は眼圧・視野進行に加え隅角鏡でデバイス位置を継続的に確認する.聞き手:どのような患者が対象となりますか?ています.とくに点眼を使用していても眼圧をさらに下庄司:Hydrusは白内障手術と同時に施行でき,結膜をげたい患者,点眼アドヒアランスに課題がある患者,薬切開しないため,将来の濾過手術やチューブシャント手剤数を減らしたい患者がよい適応と考えます.白内障手術に備えて結膜を温存できる点が大きな利点です.わが術単独よりも追加の眼圧下降と点眼薬数の減少が期待で国の使用要件では,白内障を合併した初期.中期の原発き,患者のCQOL改善にもつながります.一方で,隅角開放隅角緑内障(広義)または落屑緑内障が対象とされ視認性が不良な患者,周辺虹彩前癒着が強い患者,角膜(73)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026C7890910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術内皮細胞密度が低い患者では,慎重な判断が必要です.また,正常眼圧緑内障や進行緑内障で一桁台.十台前半の眼圧を目標とする場合は,Hydrusのみでは達成困難なことがあります.そのような患者には点眼追加や他のMIGS,あるいは二期的な濾過手術の可能性も含めて治療計画を立てる必要があります.聞き手:他のCMIGSデバイスとの違い,使い分けを教えてください.庄司:私の病院ではCMIGS術式としてCmicrohook法,CiStentCinjectW,Hydrusを患者ごとに選択します.CiStentCinjectWは操作が比較的シンプルで出血が少ない傾向があります.一方,HydrusはCSchlemm管内に長く留置されるため,より広い範囲の流出路に作用することが期待されます.Microhook法は眼内にデバイスを残さず,白内障非合併例にも単独で施行しやすいなど,柔軟性がありますが,術後一過性の前房出血は比較的多くなります.Hydrusは留置型デバイスで再現性が高い反面,位置異常,周辺虹彩前癒着形成,inlet閉塞,虹彩接触などCHydrus特有の注意点があります.したがって,術式選択では病期,僚眼の状態,目標眼圧,隅角形態,白内障の有無,点眼負担,患者背景,術者の習熟度を総合的に判断することが重要です.聞き手:手術手技のポイントを教えてください.庄司:もっとも重要なのは,隅角鏡下でCSchlemm管を正確に同定することです.患者の頭位,顕微鏡の傾き,隅角鏡の位置を安定させ,線維柱帯とCSchlemm管の走行を明瞭に確認してから操作を開始します.インジェクター先端で線維柱帯を穿破する際は,過度な力をかけないことが肝要です.抵抗を感じた場合には,そのまま押し進めず,いったん先端位置を確認します.無理な挿入はCSchlemm管外への迷入や後壁穿孔につながります.私は白内障手術のCCCC作製後,水晶体乳化前の段階でHydrusを挿入しています.メイン創を大きく開ける前に行うことで,Schlemm管からの逆血や粘弾性物質の漏出による前房不安定化を抑えやすくなります.また,前房深度と隅角視認性が保たれた状態で操作できるため,Schlemm管を確認しやすい利点があります.留置後はCinletが前房側に適切に残り,sca.old部がCSch-lemm管内に展開されていることを確認します.術後は,眼圧だけでなく,隅角鏡でデバイス位置,PAS形成,虹彩接触,inlet閉塞の有無を確認します.適切に留置されていれば,デバイスが角膜内皮に過度に近接することは多くありませんが,角膜内皮細胞密度は定期的に測定することが望ましいです.聞き手:術後の長期管理について教えてください.庄司:術後管理は基本的には白内障手術後の標準的な点眼レジメンに準じます.濾過手術と異なり,濾過胞管理,縫合調整などが不要ですので,外来管理は比較的容易です.ただし,MIGSであっても術後早期の眼圧上昇や前房出血には注意が必要です.術後早期に一過性眼圧上昇を認めた場合は,粘弾性物質の残存,前房出血,炎症,ステロイド反応,inlet閉塞などを鑑別します.必要に応じて緑内障点眼薬を短期的に追加し,炎症所見や眼圧推移をみながらステロイド点眼の減量・変更を検討します.前房出血は多くの場合軽度で,数日以内に自然吸収されますが,眼圧上昇を伴う場合には慎重に経過をみます.HORIZON試験ではCPhaco-Hydrusは白内障手術単独に比べ,眼圧下降および点眼薬数の減少に優れ,5年成績でも効果の持続と二期的緑内障手術への移行リスク低下が示されています1,2).また,5年データを用いた視野解析では,白内障手術単独群と比べて視野進行が有意に抑制されたと報告されており3),長期的な疾患管理の観点からも注目されます.私の病院でもC12カ月以上の観察でおおむね安定した眼圧推移を認めていますが,わが国での長期多施設データは今後さらに蓄積が必要です.症例ごとの目標眼圧とリスクを踏まえて選択することが重要です.文献1)AhmedCIIK,CDeCFrancescoCT,CRheeCDCetal:Long-termCoutcomesfromtheHORIZONrandomizedtrialforaSch-lemm’scanalmicrostentincombinationcataractandglau-comasurgery.OphthalmologyC129:742-751,C20222)MontesanoCG,COmettoCG,CAhmedCIIKCetal:Five-yearCvisualC.eldCoutcomesCofCtheCHORIZONCtrial.CAmCJCOph-thalmol251:143-155,C2023☆☆☆790あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(74)

抗VEGF治療セミナー:パキコロイド疾患と抗VEGF療法

2026年7月31日 金曜日

●連載◯監修=安川力五味文169149パキコロイド疾患と抗VEGF療法三原直久寺崎寛人鹿児島大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野アジア人の新生血管型加齢黄斑変性ではドルーゼンを欠き,脈絡膜大血管の異常を基盤とするパキコロイド病態が重要である.Pachychoroidneovasculopathyは抗CVEGF薬におおむね良好に反応するが,一部に治療反応性が不十分な患者が存在する.その際は病態を考慮し,光線力学的療法併用を含めた治療の最適化を検討することが重要である.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)は,欧米ではドルーゼンを基盤とした網膜色素上皮(retinalCpigmentCepitheli-um:RPE)障害が中心的病態とされてきた.しかし,日本人を含むアジア人ではドルーゼンを伴わないnAMDが半数以上を占めるとも報告されており,欧米とは異なる発症基盤を有していることが明らかになってきた1).実際,ドルーゼンを伴わないCnAMD患者の中には,脈絡膜が厚く,Haller層とよばれる脈絡膜大血管の拡張を伴うなど,従来のCnAMDとは異なる特徴を示す症例が存在することが次第に認識されるようになった(図1).こうした臨床所見の蓄積を背景に,脈絡膜病態に着目したパキコロイド疾患という概念が提唱された1).パキコロイド病態の概念とスペクトラムパキコロイドとは,脈絡膜大血管の拡張(pachyves-sel),脈絡膜血管透過性亢進(choroidalvascularhyper-permeability:CVH),脈絡膜うっ血,脈絡毛細血管板の菲薄化など,脈絡膜血管構造および循環動態の異常を基盤とした病態概念である.単なる脈絡膜肥厚をさすのではなく,これらの脈絡膜側の異常を背景としてCRPE障害や漿液性網膜.離が生じ,最終的に黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)形成へ至る点に特徴がある.このパキコロイドの病態は,中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC)やCpachycho-roidpigmentCepitheliopathy(PPE)といったCRPE異常の段階から,MNVを伴うCpachychoroidCneovasculopa-thy(PNV),さらにCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithpachychoroidへと連続するスペクトラム病として整理される.近年,こうした臨床的区別を支持する所見として,遺伝学的な差異も報告されている.補体系関連(71)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYab図1ドルーゼン依存型nAMDとパキコロイドを背景とするnAMDa:ドルーゼン(.)を伴うnAMD.OCTで脈絡膜は薄く(赤線),従来型(drusen依存型)nAMDの所見を示す.b:ドルーゼンを伴わないCnAMD.OCTで脈絡膜は肥厚し(赤線),大型脈絡膜血管の拡張を伴うCPNVの所見を示す.遺伝子において,ドルーゼン依存型CnAMDとパキコロイドを背景にもつCnAMDとで異なる遺伝学的関連が示され,両者が異なる病態軸を有する可能性が示唆されている2,3).CPNVおける抗VEGF薬療法の反応性と基本戦略パキコロイドの背景をもつCnAMDであるCPNVに対しても,治療の第一選択は抗CVEGF薬療法である1).近年の日本人を対象とした研究において,PNVと従来型(ドルーゼン依存型)nAMDの抗CVEGF療法後の視力改善には有意な差が認められないと報告されている.PNVは導入期以降の網膜下液や浮腫の制御が比較的良好であり,treatandextendで投与間隔が延ばしやあたらしい眼科Vol.43,No.7,2026787すく,再治療回数が少ない傾向が示されている4).これらの知見は,PNVが従来型CnAMDと比較して形態学的制御や治療負担の点で抗CVEGF薬に良好な反応性を示す可能性を支持している.一方で,脈絡膜うっ血やCpachyvesselが高度な患者では,MNVの活動が抑制されても脈絡膜側の異常が残存し,滲出が遷延する,治療間隔が十分に延ばせない,再発が早いといった経過をたどることがある.このような場合,滲出がCMNVの活動のみならず脈絡膜循環異常にも依存している可能性を考慮し,VEGFを標的とした治療の限界を意識して治療方針を検討する必要がある.CPNVに対する抗VEGF薬併用光線力学的療法の位置づけと筆者の治療戦略抗CVEGF療法で十分な制御が得られない患者では,治療抵抗性の背景として脈絡膜側病態の関与が示唆される.そのような患者に対しては,脈絡膜循環に直接作用しうる光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用を考慮している.PDTはpachyvesselの縮小や脈絡膜血管透過性の改善を通じて,抗CVEGF薬では制御しきれない脈絡膜側病態に作用する点が特徴である(図2).PNVに対する抗CVEGF薬併用CPDTの報告では,追加治療を要する割合はおおむねC5~20%とされ,滲出の改善や再発抑制が得られる患者が多い5).脈絡膜が厚く,pachyvesselが顕著で,CVHが残存し,網膜下液が遷延するような患者では,抗CVEGF薬単独では治療間隔が短縮しやすい一方,PDTを追加することで脈絡膜側の異常が安定し,治療間隔を延ばせる場合がある.このような利点から,筆者らは抗CVEGF薬の継続投与が経C788あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026図2抗VEGF薬抵抗性PNVに対しPDT併用が有効であった症例a:54歳,男性.初診時のCOCT所見.厚い脈絡膜を背景にCMNVを認め,網膜下液(subretinalfluid:SRF)およびフィブリン沈着を伴っている.矯正視力はC0.5.Cb:抗VEGF薬をC3回導入後のCOCT所見.SRFの消失は得られず,滲出は遷延している.PDTを実施.Cc:PDT施行C3カ月後のCOCT所見.SRFは完全に消失し,脈絡膜厚の減少を認める.矯正視力(1.0)の改善を認めた.その後C1年間,再発や追加治療は認めなかった.d:初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)後期像.病変部を中心にCVH(C○)を認める.Ce:PDT施行C3カ月後のCIA後期像.CVHの消失(C○),脈絡膜循環異常の改善が示唆された.済的に困難な場合や,離島・僻地在住などの理由で頻回通院がむずかしい患者においても,治療負担軽減の観点からCPDTを選択肢として考慮することがある.一方で,PDT後の合併症には注意が必要である.PNVは一般にCtype1MNVに相当し,PCVと比べて出血リスクは低いとされるが,黄斑下出血が生じた場合には重篤な視機能低下を残す可能性があるため,治療後の経過観察には細心の注意を要する.PDTは施行可能な施設が限られていることから,治療の基本軸はあくまで抗CVEGF療法とし,反応性や脈絡膜所見の経時的変化を踏まえて段階的にCPDTの追加を判断している.パキコロイド背景を適切に評価し,抗VEGF薬とCPDTの役割を整理しながら治療を組み立てることが,実臨床におけるCnAMD管理において合理的であると考えている.文献1)日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌128:680-698,C20242)YanagiY:Pachychoroiddisease:aCnewCperspectiveConCexudativeCmaculopathy.CJpnCJCOphthalmolC64:323-337,C20203)CheungCCMG,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:Pachychoroiddisease.Eye(Lond)C33:14-33,C20194)YoonCJ,CYoonCW,CNaCSKCetal:Long-termCoutcomeCofCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtreat-mentCforCpachychoroidCneovasculopathy.CSciCRepC11:C12052,C20215)寺崎寛人,椎原秀樹,船津諒ほか:Pachychoroidneovas-culopathyに対する光線力学的療法単独療法と抗血管内皮増殖因子薬治療の治療成績.日眼会誌127:1119-1126,C2023(72)

緑内障セミナー:緑内障疫学調査でわかったこと

2026年7月31日 金曜日

●連載◯309監修=福地健郎中野匡309.緑内障疫学調査でわかったこと藤原康太九州大学大学院医学研究院眼科学分野福岡県久山町での地域住民調査では,緑内障有病率はC7.6%であり,13人にC1人が緑内障を有していた.加齢に伴い緑内障有病率は上昇し,とくに高齢者では落屑緑内障の割合が多くなっていた.眼科的因子のほかに全身因子との関連も明らかとなり,新たに角膜ヒステリシスとの関連も認められている.●はじめに視覚障害原因の第C1位である緑内障は,高齢化の進展に伴い今後さらに増加することが懸念され,その実態把握と予防策の構築が求められている.わが国における代表的な地域住民ベースの疫学研究にC2000年に岐阜県多治見市で実施された多治見スタディがある.多治見スタディでは,全緑内障の有病率はC5.0%,広義の原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)の有病率はC3.9%であり,約C20人にC1人が緑内障を有していた.また,おもな関連因子として加齢・眼圧・近視が報告されている.緑内障は多因子疾患であり,眼科的因子のみならず全身因子の関与も指摘されていることから,全身要因との関連性にも注目が集まっている.筆者らは緑内障の実態把握と全身因子との関連を明らかにすることを目的に,福岡県久山町において緑内障疫学調査を実施した.C●緑内障の有病率対象はC2017~2018年に受診したC40歳以上の住民3,405名とし,緑内障スクリーニング検査にはステレオ眼底写真およびスウェプトソース光干渉断層計(swept-soursCopticalCcoherencetomography:SS-OCT)を使用し,国際基準であるCInternationalCSocietyCforCGeo-graphicalCandCEpidemiologicalCOphthalmology(ISGEO)の基準で緑内障診断を行った1).本調査での緑内障を有する者はC259名で,有病率はC7.6%であった.すなわち,40歳以上の約C13人にC1人が緑内障を有していた.年齢階級別にみるとC40代の有病率はC2.7%で,年齢の上昇とともに病率は増加し,70歳以上ではC11.5%に達しC40代の約C4倍となっていた(図1).病型別にみるとPOAGが大部分を占めてるが,落屑緑内障の有病率は(69)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY1.1%であり既報と比較して高かった.落屑緑内障の原因となる落屑症候群の分布には地域差があり,九州地方で多いことが報告されているため,それが高い有病率の要因になった可能性が考えられる.C●緑内障と関連する因子全身因子を含めて緑内障との関連を検討した結果,POAGでは加齢,眼圧上昇,眼軸の伸長,角膜厚の菲薄化が有意な関連因子となった.全身因子では腎機能低下がオッズ比C1.15と有意な上昇を示した.原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)では,加齢および女性でオッズ比が高く,全身因子では糖尿病でオッズ比が高くなった.落屑緑内障で加齢と角膜厚の菲薄化が関連し,糖尿病でのオッズ比も上昇した.このように緑内障の病型により関連因子は異なり,病型ごとに全身因子の関与が示唆される結果となっている.有病率(%)15.012.09.06.03.00.040~4950~5960~69≧70年齢階級(歳)図1年齢階級別の緑内障有病率(文献C1より改変引用)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026785オッズ比2.01.00.0(n)(571)(640)(572)(555)≦8.78.8~9.59.6~10.2≧10.3CHレベル(mmHg)図2角膜ヒステリシスと緑内障との関連調整因子:年齢,性別,高血圧,糖尿病,血清総コレステロール,BMI,eGFR,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,眼圧,眼軸,角膜厚,緑内障点眼治療.C●角膜ヒステリシスとの関連角膜の生体力学的特性は,空気刺激に対する角膜反応を検出した角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)として定量化される.CHは緑内障患者で低値を示し,CHが低いと緑内障進行リスクが上昇することが病院ベースの研究で報告されている.しかし,地域住民を対象としてCCHと緑内障の関連を検討した疫学研究は限られていたため調査を行った.久山町の地域住民C2,338名を対象にした解析では,平均CCHはC9.5mmHgとなり,緑内障群ではC9.1CmmHgと正常群に比べ有意に低値を示した.緑内障との関連では,高CCH群(≧10.3mmHg)に対して,低CCH群(≦8.7CmmHg)における緑内障のオッズ比はC1.9と有意に上昇し,多変量調整後もこの関連は維持された(図2).病型別にみても,CHが低下するほどCPOAGおよび落屑緑内障を有するオッズ比は上昇し,とくに落屑緑内障では関連が強くなった2).これらの結果から,CHの低下は緑内障の独立した関連因子であることが推察された.機序として,CHは視神経篩状板の脆弱性を反映するマーカーとなっている可能性が考えられる.落屑緑内障の発症には篩状板の脆弱性が関与することが指摘されており3),本研究で落屑緑内障においても関連がみられたことは,この機序を示唆する結果と考えられた.C●おわりにわが国では地域住民を対象とした追跡研究が少ないため,緑内障に関する疫学的エビデンスの蓄積が重要である.追跡研究によって関連因子との因果関係を検証できるため,緑内障の発症予防を実現するには継続的な調査が不可欠であり,あわせて緑内障の病態解明にも寄与するものと考える.文献1)FujiwaraCK,CYasudaCM,CHataCJCetal:PrevalenceCofCglau-comaCandCitsCsystemicCriskCfactorsCinCaCgeneralCJapanesepopulation:CTheHisayamastudy.TranslVisSciTechnol11:11,C20222)FujiwaraCK,CUedaCE,CHataCJCetal:AssociationCbetweenCcornealChysteresisCandCglaucomaCinCaCJapaneseCpopula-tion:CtheCHisayamaCStudy.CBrCJCOphthalmolC108:1204-1209,C20243)BraunsmannC,HammerCM,RheinlaenderJetal:Evalu-ationCofClaminaCcribrosaCandCperipapillaryCscleraCsti.nessCinCpseudoexfoliationCandCnormalCeyesCbyCatomicCforceCmicroscopy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:2960-2967,C2012C786あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(70)

屈折矯正手術セミナー:Light adjustable lensの老視治療への使用

2026年7月31日 金曜日

●連載◯314監修=稗田牧神谷和孝314.Lightadjustablelensの老視市川慶総合青山病院/中京眼科/治療への使用グランドセントラルタワーCTokyoアイクリニックLightAdjustableLens(LAL)(RxSight社)は白内障術後に実際の見え方を患者に体験してもらいながら度数調整が行える眼内レンズである.今回,老視治療も考慮し焦点深度を少し拡張したCLAL+を使用し,良好な成績であった症例を経験したので紹介する.●LALとはLightAdjustableLens(LAL)(RxSight社)はその原理がCSchwartzによってC2003年に報告されていた術後度数調整眼内レンズである1).実際に米国でCLALが普及しはじめたのはC2017年に米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)で承認されて以降である.LALはヒトの眼球内に挿入した状態でCLightCDeliveryDevice(LDD)という専用の機械を用いて紫外線照射を行うことで,LAL内のCphotosensitiveCsiliconemacromerを刺激して形状変化を誘発し,眼球内で屈折を変化させる2).日本人での有効性については筆者らがLALを挿入したC21名C34眼の術後短期成績について2024年に報告している3).安全性については,SchojaiらがC2008~2012年にドイツでCLALを挿入したC61名の患者を対象に,約C7年目の患者データを確認して,とくに問題がなかったことをC2020年に報告している4).LALの度数は+4.0~+30.0Dで,そのうち+16.0~+24.0DはC0.5D刻み,その他の範囲ではC1.0D刻みのラインナップとなっている.LALは全長C13Cmm,光学径C6Cmmのシリコーン製の眼内レンズで,3Cmm以上の切開創からの挿入を推奨されている.LALを眼内に挿入後の流れは,紫外線防止用の眼鏡を使用し約C3~4週間経過し屈折度数がおおむね安定したのち,LDDを用いて紫外線をCLALに照射することとなっている.LDDで変更可能な範囲は球面度数で±2.0Dで,乱視はC2.0Dまで矯正可能となっている.度数変更はCphoto-sensitiveCsiliconemacromerの量から通常C2回程度で,最大C4回まで可能となっており,度数変更が終了したあとにClock-in(度数固定)照射をC2回行ってCLAL内のCphotosensitiveCsiliconemacromerを完全に消費するこ(67)とで度数の固定を行う.これら一連の治療の終了後C24時間経過してから,紫外線防止用の眼鏡をはずしての生活が可能となる.2024年からはこのCLALだけでなく,LALよりも少し焦点深度を拡張したCLAL+も使用されている.LALとCLAL+の詳細な違いなどについてはメーカーからの情報はないが,LAL+は約C0.5D程度の焦点深度が拡張されているといわれており,わが国で保険収載されているプレミアム単焦点眼内レンズのCTec-niseyhance(AMO社),Vivineximpress(HOYA)と同様な加工がされていると思われる.しかしC2026年C1月時点で当該眼内レンズは国内未承認であり,医師の裁量で行う手術となっている.C●症例提示今回筆者らは中京眼科で白内障治療を希望しCLAL+を挿入し良好な成績を得た症例を紹介する.<症例>白内障視力低下に対してCLAL+を両眼に挿入した症例.47歳,女性.特記すべき既往歴なし.Emery-Little分類Ⅲ.術前視力は右眼C0.05(0.2×sph-8.50DCcyl-2.50DCAx25°),左眼C0.08(0.5×sph-5.50DCcyl-2.50DAx5°).両眼の視力低下治療目的で来院.白内障手術であれば多焦点眼内レンズ挿入の希望があったが,ハロー・グレアなどの術後合併症を心配し,相談のうえCLAL+を-0.5D狙いで挿入することとした.術後C1カ月時点での視力は右眼C1.0(2.0p×sph+0.25DCcyl-2.50DCAx180°),左眼-1.0(2.0×sph+0.25DCcyl-2.50DAx180°)と角膜乱視による乱視の残存が大きかった.術前と同様に-0.5D狙いを希望しあたらしい眼科Vol.43,No.7,20267830910-1810/26/\100/頁/JCOPY両眼右眼左眼1.51.00.630.55m1m70cm50cm40cm30cm両眼1.21.51.51.21.21.0右眼0.91.51.51.00.90.8左眼1.01.51.51.21.00.9図1Lock-in後の症例2の全距離視力たため,両眼にC1回目のCLDDによる度数調整を施行.1回目の度数調整後の視力は,右眼C1.0(2.0C×sph-0.25DCcyl-1.25DCAxC5°),左眼C1.0(2.0C×sph-0.25DCcyl-1.00DCAx10°)と乱視量が半分程度となった.1回目と同様に-0.5Dを狙い両眼のC2回目のLDDによる度数調整を施行.2回目の度数調整後の視力は右眼C1.0p(2.0C×sph-0.50D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.50D)と予定通りの度数となった.70cm視力は両眼ともC1.2,40Ccm視力は両眼ともC0.8であったがC30Ccm視力は両眼ともC0.4で文字を書く際に不便なため,もう少し近視を強くすることを希望した.コンタクトレンズを使用してシミュレーションし,-0.75Dの見え方を希望したためC3回目のCLDDを施行した.3回目の度数調整後の視力は右眼C1.0(2.0C×sph-0.75D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.75D)と予定通りの度数となった.40cm視力は両眼ともC1.5,40Ccm視力は両眼ともC1.0となり患者の満足を得たためCLDDを用いて両眼のCLock-in照射を2回行った.Lock-in後の全距離視力とコントラスト感度を測定したが遠方視力は右眼C0.9(2.0C×sph-0.75D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.75D)と裸眼視力の若干の変化があった.しかし遠方から近方C50Ccmまでは両眼とも裸眼視力でC1.0以上見えており,40cm近方視力では右眼0.9,左眼C1.0,30Ccm近方視力でも右眼C0.8,左眼C0.9とおおむね良好であった.また両眼視では遠方からC30Ccm近方視力まですべての測定距離で裸眼視力C1.0以上であった.明所コントラスト感度も正常範囲内で患者満足度も非常に高かった(図1,2).C●おわりにLALは.内固定をした後に,患者本人の自覚を確認しながらモノビジョンを含めた度数調整を行えるため老視治療を希望の患者に挿入しても高い満足度が得られるC784あたらしい眼科Vol.43,No.7,202687654321Ages56-75SpatialFrequency(CyclesperDegree)361218図2Lock-in後の症例2のコントラスト感度可能性がある眼内レンズである.海外では強膜固定にも利用され良好な成績であったことが報告されておりLALを利用する場面は増えている5).また現在米国ではLALよりも焦点深度を拡張したCLAL+の使用例も増加しており,2026年C1月時点で論文は見つけられなかったが,2025年のCAmericanCsocietyCofCcataractCandCrefractivesurgery(ASCRS)でも術後成績の報告が散見された.今後もこの新しいテクノロジーに引き続き注目していきたいと考えている.文献1)SchwartzDM:Light-adjustablelens.TransAmOphthal-molSocC101:417-436.C20032)KatoCY,CIchikawaCK,CTanakaCYCetal:LensCshapeCcon.rmedinlightadjustablelens:Areportoftwocases.AmJOphthalmolCaseRep40:102465,C20253)IchikawaK,SakaiY,TodaHetal:VisualoutcomesaftercataractsurgerywiththelightadjustablelensinJapaneseCpatientswithandwithoutpriorcornealrefractivesurgery.CJRefractSurgC40:e854-e862,C20244)SchojaiM,SchultzT,SchulzeKet.al:Long-termfollow-upandclinicalevaluationofthelight-adjustableintraocu-larlensimplantedaftercataractremoval:7-yearresults.JCataractRefractSurgC46:8-13,C20205)MaCC-J,CSchallhornCCC,CStewartCJMet.al:Modi.edCintra-scleralhaptic.xationofthelightadjustablelensinacaseofCspontaneousCadult-onsetCbilateralClensCsubluxation.CAmJOphthalmolCaseRepC31:101864,C2023(68)