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パッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の1例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1321.1326,2025cパッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の 1例栁 翔涼*1 小幡博人*1 山﨑厚志*1 高村さおり*2 福田知雄*2*1埼玉医科大学総合医療センター眼科 *2埼玉医科大学総合医療センター皮膚科CA Rare Case of Eyelid Contact Dermatitis Caused by Ophthalmic Eye Drops for Glaucoma Treatment in which Patch Testing was Useful Shosuke Yanagi1), Hiroto Obata1), Atsushi Yamasaki1), Saori Takamura2)and Tomoo Fukuda2)CDepartment of Ophthalmology1)and Dermatology2), Saitama Medical Center, Saitama Medical UniversityC目的:上眼瞼縁の腫脹と黄色滲出物がめだつ緑内障治療点眼薬による眼瞼接触皮膚炎を経験したので報告する.症例:72歳,女性.8年前から近医で緑内障治療点眼薬が処方されていた.9カ月前に眼瞼炎が発症し,フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロン軟膏,ベタメタゾン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏,抗菌薬の点眼や内服などによる治療が行われたが,軽快しないため当科へ紹介となった.初診時に両眼の上眼瞼縁が発赤腫脹し,黄色の滲出物を伴っていた.眼瞼皮膚の紅斑や結膜の充血はみられなかった.フラジオマイシンを含まないプレドニゾロンやベタメタゾンの軟膏を処方したが改善せず,皮膚科へコンサルトした.タクロリムス軟膏が処方されたが所見は軽快せず,パッチテストが施行された.7種類の薬剤を背部に貼付した結果,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬のみが陽性となり,この点眼薬を中止したところ,眼瞼炎は速やかに改善した.結論:上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そしてパッチテストを施行することが大切である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCeyelidCcontactCdermatitisCcausedCbyCglaucomaCophthalmicCeyeCdropsCwithCswellingCandCyellowCexudateCatCtheCeyelidCmargin.CCase:AC72-year-oldCwomanCwithCglaucomaChadCbeenCusingCeye-drop medication prescribed by her primary care physician over the past 8 years. Nine months prior to being referred to our department, she developed blepharitis, and various eye drops and oral medications failed to relieve theCsymptoms.CAtCtheCinitialCexamination,CtheCupperCeyelidCmarginsCofCbothCeyesCwereCerythematousCandCswollenCwith yellow exudates. Prednisolone and betamethasone ointments without fradiomycin were prescribed, yet there was no improvement and the patient was referred to a dermatologist. Tacrolimus ointment was prescribed, but the .ndings did not improve, so a patch test was performed. Seven di.erent drugs were applied to the back, but only dorzolamide hydrochloride/timolol maleate ophthalmic solution tested positive, and the blepharitis resolved quickly after it was discontinued. Conclusion:Blepharitis that does not respond to antibacterial or corticosteroid therapy should be suspected as contact dermatitis, and all eye drops should be temporarily discontinued and a patch test performed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1321.1326,C2025〕 Key words:眼瞼炎,接触皮膚炎,パッチテスト,緑内障治療点眼薬.Blepharitis, contact dermatitis, patch test, glaucoma treatment eye drops.Cはじめに皮膚に接触することによって発症する湿疹性の炎症反応をい接触皮膚炎とは,外来性の刺激物質や抗原(ハプテン)がう1,2).病態として大きく分けると,刺激性接触皮膚炎とア〔別刷請求先〕 栁 翔涼:〒350-8550 埼玉県川越市鴨田C1981 埼玉医科大学総合医療センター眼科Reprint requests:Shosuke Yanagi, M.D., Department of Ophthalmology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University 1981 Kamoda, Kawagoe-shi, Saitama-ken 350-8550, JAPANCレルギー性接触皮膚炎がある1,2).前者は皮膚に接触する物質の化学的特徴によって角層バリアを傷つけて起こるものである.後者は個体が抗原であると認識に至る過程である感作層とその後の惹起層を経て炎症反応が起こるもので,眼瞼の接触皮膚炎は後者であることが多い1.3).眼瞼の接触皮膚炎の原因として,点眼薬,眼軟膏,外用薬,化粧品,香水,洗顔剤,眼鏡,ゴーグル,ビューラー,植物,食物などが知られているC2.4).点眼薬のなかでは,散瞳薬として用いられるフェニレフリン塩酸塩やアミノグリコシド系抗菌薬であるフラジオマイシン硫酸塩などの頻度が高い4.12).また,長期間点眼されることが多い緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎も報告されている13,14).これらの臨床所見は眼瞼皮膚の浮腫性紅斑がおもなものである.今回,上眼瞼縁の腫脹と滲出物がめだつ特異な眼瞼炎で,診断と治療に難渋し,パッチテストの結果,緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎と判明した症例を経験したので報告する.CI 症   例
患者:72歳,女性.主訴:両上眼瞼腫脹.現病歴:近医からの紹介状および本人の記録によると次のような病歴である.8年前から近医で緑内障として加療を受けていた.当初は,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)が処方され,3年前から同点眼薬がドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプト配合点眼液)に変更,1年前から同点眼薬がブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)に変更となった.9カ月前から両眼瞼炎を発症した.当初,メチルプレドニゾロン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(ネオメドロールCEE軟膏)を処方されたが改善しなかった.細菌感染が疑われアジスロマイシン水和物点眼液(アジマイシン点眼液),モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液),ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)の内服が開始されたが,若干の改善がみられたが再燃した.点眼薬アレルギーを考え,アゾルガ点眼液から防腐剤フリーのドルゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトミニ配合点眼液)に変更したが改善しなかった.ガチフロキサシン水和物点眼液(ガチフロ点眼液),オフロキサシン眼軟膏(タリビット眼軟膏)が追加されたが再燃した.そこで,ガチフロ点眼液とタリビット眼軟膏を中止し,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(眼・耳科用リンデロンCA軟膏),オロパタジン塩酸塩内服(アレロック),プランルカスト水和物内服(オノンカプセル)に変更したが,眼瞼炎は改善しなかったため筆者の施設(埼玉医科大学総合医療センター眼科)を紹介され受診となった.前医での点眼薬・眼軟膏の投与歴を表 1にまとめた.既往歴:高血圧,脂質異常症,両眼白内障手術.初診時眼所見:視力は右C1.2(n.c.),左C0.9(1.2C×sph.0.50CD(cyl.0.50DAx80°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両上眼瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物を認めた(図 1).中間透光体は両眼に眼内レンズ挿入されており,眼底は両眼とも特記すべき所見はみられなかった.経過:前医での病歴が長く写真の記録もないことから,まずフラジオマイシン硫酸塩のアレルギーを疑い,眼・耳科用リンデロンCA軟膏,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%を中止し,プレドニゾロン酢酸エステル眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を開始した.1週間後にプレドニン眼軟膏をつけたところ眼瞼皮膚が赤くなったとのことで,使用開始C2日目に自己中断した.ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(リンデロンCVG軟膏0.12%)とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(サンベタゾン点眼液)を開始した.コソプトミニ配合点眼液の代わりにコソプト配合点眼液を処方した.2日後に上眼瞼の発赤は軽度減少した.サンベタゾン点眼液を中止し,フルオロメトロン点眼液C0.1%を開始した.しかし,初診から1カ月後に上眼瞼の腫脹,滲出物は改善しなかったため,皮膚科にコンサルトした(図 2).皮膚科ではタクロリムス軟膏0.1%(プロトピック軟膏C0.1%)が処方された.1週間後にプロトピック軟膏C0.1%で悪化したと訴えがあり,ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏(ロコイド軟膏)に変更された.1週間後にロコイド軟膏で滲出が悪化したため中止した.1週間後にプレドニン眼軟膏が再開され,ビラスチン(ビラノア)OD錠の内服が開始された.改善がみられないため点眼薬によるアレルギーを考え,2週間後に皮膚科でパッチテストを施行した.パッチテストは次のC7種類の薬剤を用いて上背部に施行した.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏である.これ以外の薬剤に関してはパッチテスト施行時に患者が持参せず,施行できなかった.48時間後,72時間後,1週間後でぞれぞれ陽性度判定を行った.72時間後に,コソプト配合点眼液のみ陽性となった(図 3).そこで,コソプト配合点眼液を中止したところ,1週間後,両眼瞼炎は速やかに改善した.副腎皮質ステロイドや抗菌薬の外用薬の併用はなかった.1カ月後,左眼圧がC24CmmHgに上昇したため,チモロールマレイン酸塩点眼液C0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)を開始した.2週間後,リズモンCTG点眼液C0.5%で掻痒感が出現したと訴えが表 1 前医での点眼薬・眼軟膏処方歴リズモンTG点眼液C0.5% コソプト配合点眼液 アゾルガ配合懸濁性点眼液 ネオメドロールEE軟膏 アジマイシン点眼液 ベガモックス点眼液C0.5% コソプトミニ配合点眼液C0.4Cml ガチフロ点眼液0.3% タリビッド眼軟膏 ベタメタゾンリン酸エステルNa・PF点眼液C0.1% 眼・耳科用リンデロンCA軟膏 8年前C ○ 3年前C ○ 9カ月前C ○C ○ 4カ月前C ○C ○C ○C ○ 2カ月前C ○C ○C ○C ○ 1カ月前C ○C ○C ○ 当科受診直前C ○C ○C ○ 

図 1 初診時外眼部所見 a, c:右眼.b, d:左眼.両上眼瞼の瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物がみられた.あったが,特記すべき所見はなかった.リズモンCTG点眼液常値C173.0CIU/ml以下)と高値であったが,好酸球はC3.3%0.5%をカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(正常値C0.4.8.6%)と正常であった.また,MAST36とい(ミケルナ配合点眼液)に変更した.以降,眼瞼炎の再燃はC1うC36種類のアレルゲンの特異的CIgEを調べる血液検査はす年間みられず,近医で経過観察することとなった.なお,皮べて陰性であった.膚科で施行された血液検査の結果,IgEがC1,580.0CIU/ml(正
図 2 初診から 1カ月後の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼の腫脹や滲出物は改善しなかった.
図 3 パッチテスト 72時間後
7種類の薬剤の背部へのパッチテストを行った結果を示す.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏.このうち②のコソプト配合点眼液のみ陽性となった.C
II 考   按
眼瞼皮膚は人体のなかでもっとも薄く,バリア機能が弱いため,点眼薬の主成分または防腐剤や緩衝剤などにより感作されやすいとされる2,4,7).接触皮膚炎はすべての点眼薬で発症する可能性はあるが,とくに発症しやすい点眼薬の成分として,フェニレフリン塩酸塩とフラジオマイシン硫酸塩が知られている3.14).そのほかに,ゲンタマイシン硫酸塩,クロラムフェニコール,チモロールマレイン酸塩,ラタノプロストなどがある3.14).近年では,緑内障治療点眼薬であるブリC1324  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025モニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物による眼瞼炎の発症も知られている.また,主成分だけではなく防腐剤の塩化ベンザルコニウムや添加物のCf-アミノカプロン酸によっても発症することがある3.7).注意すべきは抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウムなどや副腎皮質ステロイドでも接触皮膚炎が起こることである2,6,7).接触皮膚炎の臨床所見は,紅斑,丘疹,小水疱であるが,眼瞼皮膚はきわめて薄いため,小水疱ではなく紅斑や浮腫が険になることが多い1,2).慢性化した場合には苔癬化を伴う痂皮が亀裂などを呈することがあるという.本症例は,上眼瞼縁に限局して発赤,腫脹,黄色滲出物がみられ,眼科医がときに遭遇するフェニレフリンやフラジオマイシンによる接触皮膚炎でみられる上下眼瞼全体の浮腫性紅斑と所見が異なっていた.そのため,当初は眼瞼炎の原因として細菌感染やなんらかのアレルギーを考えて治療を行ったが改善しなかった.治療に難渋したため,皮膚科へコンサルトした.皮膚科でも当初は点眼薬による接触皮膚炎としては非典型的な所見と考えられ,タクロリムス軟膏が処方された.しかし,改善しないため点眼薬による接触皮膚炎の可能性を考え,パッチテストが施行された.パッチテスト陽性となったコソプト配合点眼薬を中止すると眼瞼炎は速やかに改善したが,眼瞼皮膚の浮腫性紅斑ではなく眼瞼縁を中心に発赤,腫脹,黄色滲出物を呈した理由は不明である.毛.炎の所見に類似しており,二次的な細菌感染やCDemodex関連の炎症も可能性として考えられるが,本症例では原因薬剤の中止のみで速やかに皮疹が消失しており,追加の抗菌治療や抗寄生虫治療を行わずに改善がみられたことから,接触性皮膚炎が主たる病態であった可能性が高い.なお,初診時に病巣部の培養検査を行うべきであったが,今回は未施行であった.点眼薬による接触皮膚炎の発症時期については,一般に感作までの期間は長く,数年間使用後に発症することも多いと(106)

図 4 コソプト配合点眼液中止後 1週間の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼炎は速やかに改善した.されている2,7).点眼薬の使用開始から発症までの期間が長いことが,点眼薬による接触皮膚炎の診断をむずかしくしていると考えられている2).その理由として,点眼薬はごく少量が短時間目のまわりに付着するのにとどまるため,簡単には感作が成立せず,眼瞼皮膚が乾燥する,こすって皮膚に傷がつくなどの特定の条件がそろったタイミングで抗原として認識されるからと考えられている2).本症例はC8年前から緑内障の点眼治療が開始され,9カ月前から両眼瞼炎が出現していたということから,感作までの期間はかなり長いものであった.一般に,眼瞼炎の原因として,黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの細菌,真菌,Demodexなどの感染以外に,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,接触皮膚炎などがある15).しかし,死菌を抗原とするアレルギー反応もあり,眼瞼炎の真の病態を理解するのはむずかしい15).現実には抗菌薬の眼軟膏,副腎皮質ステロイドの眼軟膏,両者の配合剤の眼軟膏のいずれかでCempiric therapyを行っていることが多い.本症例で明らかなように,接触皮膚炎の場合はアレルゲンが除去されない限り,副腎皮質ステロイドを投与しても改善がない.接触皮膚炎の原因を特定するためにはパッチテストを行う2.8).現在,ジャパニーズスタンダードアレルゲンという日本人の接触皮膚炎の原因となることが多いC25種類のアレルゲンが知られており,パッチテストパネル(佐藤製薬)という検査薬も市販されている.25種類のアレルゲンのなかに,眼瞼接触皮膚炎の原因となることが多いフラジオマイシン硫酸塩が含まれている.パッチテストには偽陽性,偽陰性があることも知っておくべきである.本症例では陽性結果が得られており,原因薬剤の中止のみで速やかに皮膚症状が消失したことから,偽陰性の影響はなかったと考えられる.原因アレルゲンを調べる検査としてスクラッチテストもあるが,スクラッチテストは即時型アレルギー反応の評価に適しており,パッチテストは遅延型アレルギー反応の評価に適している.本症例では,点眼薬に対する接触皮膚炎が疑われ,遅延型アレルギー反応の評価を目的としてパッチテストを施行した.接触皮膚炎の治療は原因物質の除去と副腎皮質ステロイドの外用薬が基本である2,5,6).本症例はパッチテストが陽性となった点眼薬を中止するのみで改善がみられた.薬剤アレルギーを疑った場合は,薬剤をすべて中止して改善がみられるかどうかを診ることである.本症例の反省点は,緑内障点眼薬を原因として疑い中止しなかったことである.皮膚科にコンサルトする前にすべての点眼薬を中止することで眼瞼炎の改善がみられたはずである.緑内障の治療薬は疾患の性質上,中止することがためらわれるが,進行した緑内障や落屑緑内障でなければ一次的な中止は可能であると考える.今回の原因となったコソプト配合点眼液は,前医では防腐剤フリーのユニットドース製剤が処方されていた.よって,原因は防腐剤ではないものの,配合剤であるため原因がドルゾラミドなのか,チモロールマレイン酸塩なのかは特定できなかった.緑内障治療点眼薬のなかでチモロールマレイン酸塩点眼薬は眼瞼の接触皮膚炎の原因物質として報告されている13,14).本症例も長年チモロールマレイン酸塩を含む点眼液(リズモンCTG点眼液C0.5%,コソプト配合点眼液,コソプトミニ配合点眼液,アゾルガ点眼液)が処方されていたことを考えるとチモロールマレイン酸塩が原因の可能性が高い.近年では,緑内障治療点眼薬で多くの配合剤が流通しており,接触皮膚炎の原因物質の同定をむずかしくしている7).本症例ではフラジオマイシン硫酸塩も接触皮膚炎の被疑薬として考えられるが,パッチテストの当日,フラジオマイシン硫酸塩を含む眼軟膏は持参されなかったため施行できなかった.C
III 結   論
上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そして原因検索のためパッチテストを施行することが大切であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献
1)高山かおる,横関博雄,松永佳世子ほか:接触皮膚炎ガイドラインC2020.日皮会誌 130:523-567,C20202)高山かおる:眼瞼・結膜に起こる接触皮膚炎.OCULISTAC79:33-40,C20193)西 純平,杉田和成:痒みの強い目の周りの皮疹を上手に治療する.MB DermaC339:9-16,C20234)椛島健治:接触皮膚炎.VisualCDermatolC18:1219-1220,C20195)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日本の眼科 87:855-858,C20166)佐々木香る:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎.あたらしい眼科 34:1423-1424,C20177)海老原伸行:点眼薬による接触皮膚炎.アレルギーC71:C258,C20228)伊佐見真実子,矢上晶子,亀山梨奈,ほか:3年間の当科での眼瞼の接触皮膚炎を疑いパッチテストを行った症例のまとめ.皮膚病診療 33:753-757,C20119)峠岡理沙,和田 誠,加藤則人:硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎.Visual DermatolC12:162-163,C2013
10)西岡和恵,小泉明子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnvironCDer-matol Cutan AllergolC9:25-33,C201511)鈴木加余子:アレルギー性接触皮膚炎.現代医学C70:120-123,C202312)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療 37:475-478,C201513)廣門未知子,川口とし子,金井 光:緑内障治療点眼剤による接触皮膚炎のC5例.皮膚科の臨床 48:773-776,C200614)尾崎弘明,ファン・ジェーン,内尾英一,ほか:緑内障点眼薬による接触性皮膚炎のC1例.臨眼C64:1395-1399,C201015)EliasonJA:Blepharitis:OverviewCandCClassi.cation.In:KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ(Eds):CorneaC3rd edition, p403-406, Mosby, 2011C*     *     *