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パッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の1例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1321.1326,2025cパッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の 1例栁 翔涼*1 小幡博人*1 山﨑厚志*1 高村さおり*2 福田知雄*2*1埼玉医科大学総合医療センター眼科 *2埼玉医科大学総合医療センター皮膚科CA Rare Case of Eyelid Contact Dermatitis Caused by Ophthalmic Eye Drops for Glaucoma Treatment in which Patch Testing was Useful Shosuke Yanagi1), Hiroto Obata1), Atsushi Yamasaki1), Saori Takamura2)and Tomoo Fukuda2)CDepartment of Ophthalmology1)and Dermatology2), Saitama Medical Center, Saitama Medical UniversityC目的:上眼瞼縁の腫脹と黄色滲出物がめだつ緑内障治療点眼薬による眼瞼接触皮膚炎を経験したので報告する.症例:72歳,女性.8年前から近医で緑内障治療点眼薬が処方されていた.9カ月前に眼瞼炎が発症し,フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロン軟膏,ベタメタゾン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏,抗菌薬の点眼や内服などによる治療が行われたが,軽快しないため当科へ紹介となった.初診時に両眼の上眼瞼縁が発赤腫脹し,黄色の滲出物を伴っていた.眼瞼皮膚の紅斑や結膜の充血はみられなかった.フラジオマイシンを含まないプレドニゾロンやベタメタゾンの軟膏を処方したが改善せず,皮膚科へコンサルトした.タクロリムス軟膏が処方されたが所見は軽快せず,パッチテストが施行された.7種類の薬剤を背部に貼付した結果,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬のみが陽性となり,この点眼薬を中止したところ,眼瞼炎は速やかに改善した.結論:上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そしてパッチテストを施行することが大切である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCeyelidCcontactCdermatitisCcausedCbyCglaucomaCophthalmicCeyeCdropsCwithCswellingCandCyellowCexudateCatCtheCeyelidCmargin.CCase:AC72-year-oldCwomanCwithCglaucomaChadCbeenCusingCeye-drop medication prescribed by her primary care physician over the past 8 years. Nine months prior to being referred to our department, she developed blepharitis, and various eye drops and oral medications failed to relieve theCsymptoms.CAtCtheCinitialCexamination,CtheCupperCeyelidCmarginsCofCbothCeyesCwereCerythematousCandCswollenCwith yellow exudates. Prednisolone and betamethasone ointments without fradiomycin were prescribed, yet there was no improvement and the patient was referred to a dermatologist. Tacrolimus ointment was prescribed, but the .ndings did not improve, so a patch test was performed. Seven di.erent drugs were applied to the back, but only dorzolamide hydrochloride/timolol maleate ophthalmic solution tested positive, and the blepharitis resolved quickly after it was discontinued. Conclusion:Blepharitis that does not respond to antibacterial or corticosteroid therapy should be suspected as contact dermatitis, and all eye drops should be temporarily discontinued and a patch test performed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1321.1326,C2025〕 Key words:眼瞼炎,接触皮膚炎,パッチテスト,緑内障治療点眼薬.Blepharitis, contact dermatitis, patch test, glaucoma treatment eye drops.Cはじめに皮膚に接触することによって発症する湿疹性の炎症反応をい接触皮膚炎とは,外来性の刺激物質や抗原(ハプテン)がう1,2).病態として大きく分けると,刺激性接触皮膚炎とア〔別刷請求先〕 栁 翔涼:〒350-8550 埼玉県川越市鴨田C1981 埼玉医科大学総合医療センター眼科Reprint requests:Shosuke Yanagi, M.D., Department of Ophthalmology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University 1981 Kamoda, Kawagoe-shi, Saitama-ken 350-8550, JAPANCレルギー性接触皮膚炎がある1,2).前者は皮膚に接触する物質の化学的特徴によって角層バリアを傷つけて起こるものである.後者は個体が抗原であると認識に至る過程である感作層とその後の惹起層を経て炎症反応が起こるもので,眼瞼の接触皮膚炎は後者であることが多い1.3).眼瞼の接触皮膚炎の原因として,点眼薬,眼軟膏,外用薬,化粧品,香水,洗顔剤,眼鏡,ゴーグル,ビューラー,植物,食物などが知られているC2.4).点眼薬のなかでは,散瞳薬として用いられるフェニレフリン塩酸塩やアミノグリコシド系抗菌薬であるフラジオマイシン硫酸塩などの頻度が高い4.12).また,長期間点眼されることが多い緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎も報告されている13,14).これらの臨床所見は眼瞼皮膚の浮腫性紅斑がおもなものである.今回,上眼瞼縁の腫脹と滲出物がめだつ特異な眼瞼炎で,診断と治療に難渋し,パッチテストの結果,緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎と判明した症例を経験したので報告する.CI 症   例
患者:72歳,女性.主訴:両上眼瞼腫脹.現病歴:近医からの紹介状および本人の記録によると次のような病歴である.8年前から近医で緑内障として加療を受けていた.当初は,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)が処方され,3年前から同点眼薬がドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプト配合点眼液)に変更,1年前から同点眼薬がブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)に変更となった.9カ月前から両眼瞼炎を発症した.当初,メチルプレドニゾロン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(ネオメドロールCEE軟膏)を処方されたが改善しなかった.細菌感染が疑われアジスロマイシン水和物点眼液(アジマイシン点眼液),モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液),ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)の内服が開始されたが,若干の改善がみられたが再燃した.点眼薬アレルギーを考え,アゾルガ点眼液から防腐剤フリーのドルゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトミニ配合点眼液)に変更したが改善しなかった.ガチフロキサシン水和物点眼液(ガチフロ点眼液),オフロキサシン眼軟膏(タリビット眼軟膏)が追加されたが再燃した.そこで,ガチフロ点眼液とタリビット眼軟膏を中止し,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(眼・耳科用リンデロンCA軟膏),オロパタジン塩酸塩内服(アレロック),プランルカスト水和物内服(オノンカプセル)に変更したが,眼瞼炎は改善しなかったため筆者の施設(埼玉医科大学総合医療センター眼科)を紹介され受診となった.前医での点眼薬・眼軟膏の投与歴を表 1にまとめた.既往歴:高血圧,脂質異常症,両眼白内障手術.初診時眼所見:視力は右C1.2(n.c.),左C0.9(1.2C×sph.0.50CD(cyl.0.50DAx80°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両上眼瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物を認めた(図 1).中間透光体は両眼に眼内レンズ挿入されており,眼底は両眼とも特記すべき所見はみられなかった.経過:前医での病歴が長く写真の記録もないことから,まずフラジオマイシン硫酸塩のアレルギーを疑い,眼・耳科用リンデロンCA軟膏,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%を中止し,プレドニゾロン酢酸エステル眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を開始した.1週間後にプレドニン眼軟膏をつけたところ眼瞼皮膚が赤くなったとのことで,使用開始C2日目に自己中断した.ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(リンデロンCVG軟膏0.12%)とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(サンベタゾン点眼液)を開始した.コソプトミニ配合点眼液の代わりにコソプト配合点眼液を処方した.2日後に上眼瞼の発赤は軽度減少した.サンベタゾン点眼液を中止し,フルオロメトロン点眼液C0.1%を開始した.しかし,初診から1カ月後に上眼瞼の腫脹,滲出物は改善しなかったため,皮膚科にコンサルトした(図 2).皮膚科ではタクロリムス軟膏0.1%(プロトピック軟膏C0.1%)が処方された.1週間後にプロトピック軟膏C0.1%で悪化したと訴えがあり,ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏(ロコイド軟膏)に変更された.1週間後にロコイド軟膏で滲出が悪化したため中止した.1週間後にプレドニン眼軟膏が再開され,ビラスチン(ビラノア)OD錠の内服が開始された.改善がみられないため点眼薬によるアレルギーを考え,2週間後に皮膚科でパッチテストを施行した.パッチテストは次のC7種類の薬剤を用いて上背部に施行した.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏である.これ以外の薬剤に関してはパッチテスト施行時に患者が持参せず,施行できなかった.48時間後,72時間後,1週間後でぞれぞれ陽性度判定を行った.72時間後に,コソプト配合点眼液のみ陽性となった(図 3).そこで,コソプト配合点眼液を中止したところ,1週間後,両眼瞼炎は速やかに改善した.副腎皮質ステロイドや抗菌薬の外用薬の併用はなかった.1カ月後,左眼圧がC24CmmHgに上昇したため,チモロールマレイン酸塩点眼液C0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)を開始した.2週間後,リズモンCTG点眼液C0.5%で掻痒感が出現したと訴えが表 1 前医での点眼薬・眼軟膏処方歴リズモンTG点眼液C0.5% コソプト配合点眼液 アゾルガ配合懸濁性点眼液 ネオメドロールEE軟膏 アジマイシン点眼液 ベガモックス点眼液C0.5% コソプトミニ配合点眼液C0.4Cml ガチフロ点眼液0.3% タリビッド眼軟膏 ベタメタゾンリン酸エステルNa・PF点眼液C0.1% 眼・耳科用リンデロンCA軟膏 8年前C ○ 3年前C ○ 9カ月前C ○C ○ 4カ月前C ○C ○C ○C ○ 2カ月前C ○C ○C ○C ○ 1カ月前C ○C ○C ○ 当科受診直前C ○C ○C ○ 

図 1 初診時外眼部所見 a, c:右眼.b, d:左眼.両上眼瞼の瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物がみられた.あったが,特記すべき所見はなかった.リズモンCTG点眼液常値C173.0CIU/ml以下)と高値であったが,好酸球はC3.3%0.5%をカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(正常値C0.4.8.6%)と正常であった.また,MAST36とい(ミケルナ配合点眼液)に変更した.以降,眼瞼炎の再燃はC1うC36種類のアレルゲンの特異的CIgEを調べる血液検査はす年間みられず,近医で経過観察することとなった.なお,皮べて陰性であった.膚科で施行された血液検査の結果,IgEがC1,580.0CIU/ml(正
図 2 初診から 1カ月後の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼の腫脹や滲出物は改善しなかった.
図 3 パッチテスト 72時間後
7種類の薬剤の背部へのパッチテストを行った結果を示す.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏.このうち②のコソプト配合点眼液のみ陽性となった.C
II 考   按
眼瞼皮膚は人体のなかでもっとも薄く,バリア機能が弱いため,点眼薬の主成分または防腐剤や緩衝剤などにより感作されやすいとされる2,4,7).接触皮膚炎はすべての点眼薬で発症する可能性はあるが,とくに発症しやすい点眼薬の成分として,フェニレフリン塩酸塩とフラジオマイシン硫酸塩が知られている3.14).そのほかに,ゲンタマイシン硫酸塩,クロラムフェニコール,チモロールマレイン酸塩,ラタノプロストなどがある3.14).近年では,緑内障治療点眼薬であるブリC1324  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025モニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物による眼瞼炎の発症も知られている.また,主成分だけではなく防腐剤の塩化ベンザルコニウムや添加物のCf-アミノカプロン酸によっても発症することがある3.7).注意すべきは抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウムなどや副腎皮質ステロイドでも接触皮膚炎が起こることである2,6,7).接触皮膚炎の臨床所見は,紅斑,丘疹,小水疱であるが,眼瞼皮膚はきわめて薄いため,小水疱ではなく紅斑や浮腫が険になることが多い1,2).慢性化した場合には苔癬化を伴う痂皮が亀裂などを呈することがあるという.本症例は,上眼瞼縁に限局して発赤,腫脹,黄色滲出物がみられ,眼科医がときに遭遇するフェニレフリンやフラジオマイシンによる接触皮膚炎でみられる上下眼瞼全体の浮腫性紅斑と所見が異なっていた.そのため,当初は眼瞼炎の原因として細菌感染やなんらかのアレルギーを考えて治療を行ったが改善しなかった.治療に難渋したため,皮膚科へコンサルトした.皮膚科でも当初は点眼薬による接触皮膚炎としては非典型的な所見と考えられ,タクロリムス軟膏が処方された.しかし,改善しないため点眼薬による接触皮膚炎の可能性を考え,パッチテストが施行された.パッチテスト陽性となったコソプト配合点眼薬を中止すると眼瞼炎は速やかに改善したが,眼瞼皮膚の浮腫性紅斑ではなく眼瞼縁を中心に発赤,腫脹,黄色滲出物を呈した理由は不明である.毛.炎の所見に類似しており,二次的な細菌感染やCDemodex関連の炎症も可能性として考えられるが,本症例では原因薬剤の中止のみで速やかに皮疹が消失しており,追加の抗菌治療や抗寄生虫治療を行わずに改善がみられたことから,接触性皮膚炎が主たる病態であった可能性が高い.なお,初診時に病巣部の培養検査を行うべきであったが,今回は未施行であった.点眼薬による接触皮膚炎の発症時期については,一般に感作までの期間は長く,数年間使用後に発症することも多いと(106)

図 4 コソプト配合点眼液中止後 1週間の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼炎は速やかに改善した.されている2,7).点眼薬の使用開始から発症までの期間が長いことが,点眼薬による接触皮膚炎の診断をむずかしくしていると考えられている2).その理由として,点眼薬はごく少量が短時間目のまわりに付着するのにとどまるため,簡単には感作が成立せず,眼瞼皮膚が乾燥する,こすって皮膚に傷がつくなどの特定の条件がそろったタイミングで抗原として認識されるからと考えられている2).本症例はC8年前から緑内障の点眼治療が開始され,9カ月前から両眼瞼炎が出現していたということから,感作までの期間はかなり長いものであった.一般に,眼瞼炎の原因として,黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの細菌,真菌,Demodexなどの感染以外に,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,接触皮膚炎などがある15).しかし,死菌を抗原とするアレルギー反応もあり,眼瞼炎の真の病態を理解するのはむずかしい15).現実には抗菌薬の眼軟膏,副腎皮質ステロイドの眼軟膏,両者の配合剤の眼軟膏のいずれかでCempiric therapyを行っていることが多い.本症例で明らかなように,接触皮膚炎の場合はアレルゲンが除去されない限り,副腎皮質ステロイドを投与しても改善がない.接触皮膚炎の原因を特定するためにはパッチテストを行う2.8).現在,ジャパニーズスタンダードアレルゲンという日本人の接触皮膚炎の原因となることが多いC25種類のアレルゲンが知られており,パッチテストパネル(佐藤製薬)という検査薬も市販されている.25種類のアレルゲンのなかに,眼瞼接触皮膚炎の原因となることが多いフラジオマイシン硫酸塩が含まれている.パッチテストには偽陽性,偽陰性があることも知っておくべきである.本症例では陽性結果が得られており,原因薬剤の中止のみで速やかに皮膚症状が消失したことから,偽陰性の影響はなかったと考えられる.原因アレルゲンを調べる検査としてスクラッチテストもあるが,スクラッチテストは即時型アレルギー反応の評価に適しており,パッチテストは遅延型アレルギー反応の評価に適している.本症例では,点眼薬に対する接触皮膚炎が疑われ,遅延型アレルギー反応の評価を目的としてパッチテストを施行した.接触皮膚炎の治療は原因物質の除去と副腎皮質ステロイドの外用薬が基本である2,5,6).本症例はパッチテストが陽性となった点眼薬を中止するのみで改善がみられた.薬剤アレルギーを疑った場合は,薬剤をすべて中止して改善がみられるかどうかを診ることである.本症例の反省点は,緑内障点眼薬を原因として疑い中止しなかったことである.皮膚科にコンサルトする前にすべての点眼薬を中止することで眼瞼炎の改善がみられたはずである.緑内障の治療薬は疾患の性質上,中止することがためらわれるが,進行した緑内障や落屑緑内障でなければ一次的な中止は可能であると考える.今回の原因となったコソプト配合点眼液は,前医では防腐剤フリーのユニットドース製剤が処方されていた.よって,原因は防腐剤ではないものの,配合剤であるため原因がドルゾラミドなのか,チモロールマレイン酸塩なのかは特定できなかった.緑内障治療点眼薬のなかでチモロールマレイン酸塩点眼薬は眼瞼の接触皮膚炎の原因物質として報告されている13,14).本症例も長年チモロールマレイン酸塩を含む点眼液(リズモンCTG点眼液C0.5%,コソプト配合点眼液,コソプトミニ配合点眼液,アゾルガ点眼液)が処方されていたことを考えるとチモロールマレイン酸塩が原因の可能性が高い.近年では,緑内障治療点眼薬で多くの配合剤が流通しており,接触皮膚炎の原因物質の同定をむずかしくしている7).本症例ではフラジオマイシン硫酸塩も接触皮膚炎の被疑薬として考えられるが,パッチテストの当日,フラジオマイシン硫酸塩を含む眼軟膏は持参されなかったため施行できなかった.C
III 結   論
上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そして原因検索のためパッチテストを施行することが大切であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献
1)高山かおる,横関博雄,松永佳世子ほか:接触皮膚炎ガイドラインC2020.日皮会誌 130:523-567,C20202)高山かおる:眼瞼・結膜に起こる接触皮膚炎.OCULISTAC79:33-40,C20193)西 純平,杉田和成:痒みの強い目の周りの皮疹を上手に治療する.MB DermaC339:9-16,C20234)椛島健治:接触皮膚炎.VisualCDermatolC18:1219-1220,C20195)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日本の眼科 87:855-858,C20166)佐々木香る:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎.あたらしい眼科 34:1423-1424,C20177)海老原伸行:点眼薬による接触皮膚炎.アレルギーC71:C258,C20228)伊佐見真実子,矢上晶子,亀山梨奈,ほか:3年間の当科での眼瞼の接触皮膚炎を疑いパッチテストを行った症例のまとめ.皮膚病診療 33:753-757,C20119)峠岡理沙,和田 誠,加藤則人:硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎.Visual DermatolC12:162-163,C2013
10)西岡和恵,小泉明子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnvironCDer-matol Cutan AllergolC9:25-33,C201511)鈴木加余子:アレルギー性接触皮膚炎.現代医学C70:120-123,C202312)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療 37:475-478,C201513)廣門未知子,川口とし子,金井 光:緑内障治療点眼剤による接触皮膚炎のC5例.皮膚科の臨床 48:773-776,C200614)尾崎弘明,ファン・ジェーン,内尾英一,ほか:緑内障点眼薬による接触性皮膚炎のC1例.臨眼C64:1395-1399,C201015)EliasonJA:Blepharitis:OverviewCandCClassi.cation.In:KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ(Eds):CorneaC3rd edition, p403-406, Mosby, 2011C*     *     *

トラベクレクトミー術後3 日目に眼内炎を生じた1 例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):529.532,2022cトラベクレクトミー術後3日目に眼内炎を生じた1例飯川龍栂野哲哉坂上悠太末武亜紀福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野CACaseofEndophthalmitisthatOccurredontheThirdDayafterTrabeculectomyRyuIikawa,TetsuyaTogano,YutaSakaue,AkiSuetakeandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:トラベクレクトミー術後C3日目に発症した眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例:77歳,男性.慢性眼瞼炎の既往があった左眼の原発開放隅角緑内障に対してトラベクレクトミーを行った.術中,強角膜ブロック作製後の虹彩切除をした際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体を切除した.術翌日からC2日目の所見はとくに異常なかったが,術後C3日目に結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた.細菌性の眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を行ったが所見が急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.術中に採取した前房水からCStaphylococcusaureusが検出され起因菌と考えられた.硝子体手術と抗菌薬投与によって感染は鎮静化したが,濾過胞は瘢痕化し,最終的にはチューブシャント手術を要した.結論:比較的まれとされるトラベクレクトミー術後早期の眼内炎を報告した.本症例では慢性眼瞼炎,硝子体脱出が眼内炎の発症にかかわっていた可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCendophthalmitisCthatCoccurredConCtheCthirdCdayCafterCtrabeculectomy.CCaseReport:AC77-year-oldCmaleCunderwentCtrabeculectomyCinChisCleftCeyeCforCprimaryCopenCangleCglaucoma.CTheCoperatedeyehadahistoryofchronicblepharitis.Duringsurgery,vitreouslossoccurredwheniridectomywasper-formed,andwecuttheprolapsedvitreous.Noabnormal.ndingswereobservedupthrough2dayspostoperative.However,ConCtheCthirdCdayCpostCsurgery,CconjunctivalChyperemia,Chypopyon,CandCvitreousCopacityCwereCobserved.CBacterialCendophthalmitisCwasCsuspected,CandCwasCtreatedCwithCfrequentCadministrationCofCantibioticsCeyeCdrops.CHowever,CtheCconditionCrapidlyCdeteriorated,CsoCvitrectomyCwasCurgentlyCperformed.CStaphylococcusCaureusCwasCdetectedintheaqueoushumor.Althoughvitrectomyandantibioticadministrationsubsidedtheinfection,theblebbecameCscarredCandCeventuallyCrequiredCtubeCshuntCsurgery.CConclusion:ThisCstudyCpresentsCaCrelativelyCrareCcaseofendophthalmitisthatoccurredearlyaftertrabeculectomy.Inthiscase,chronicblepharitisandvitreouspro-lapsemayhavebeenriskfactorsforendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):529.532,C2022〕Keywords:緑内障,トラベクレクトミー,眼内炎,硝子体脱出,眼瞼炎.glaucoma,trabeculectomy,endophthal-mitis,vitreousloss,blepharitis.Cはじめにトラベクレクトミーはもっとも眼圧下降の期待できる緑内障手術の一つとして,国内外で広く施行されている術式である.高い眼圧下降効果の反面,早期の合併症として前房出血,低眼圧,濾過胞漏出,脈絡膜.離,脈絡膜出血,悪性緑内障などがあり,中期から晩期の合併症としては低眼圧の遷延による黄斑症,白内障の進行,濾過胞炎やそれに伴う眼内炎が知られている1).とくに濾過胞炎や眼内炎といった濾過胞関連感染症は,患者の視力予後を大きく左右する合併症の一つで,臨床上大きな問題となる.その頻度をCYamamotoらはC5年の経過で累積発生率はC2.2C±0.5%で,濾過胞漏出の存在と若年であることが濾過胞関連感染症のリスクファクターであると報告している2).濾過胞炎に続発する眼内炎は晩期の合併症として知られているが,トラベクレクトミー術後早期眼内炎の報告は少なく,まれであると考えられる.今回,筆者らはトラベクレクトミー術後C3日目に発症した術後〔別刷請求先〕飯川龍:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野Reprintrequests:RyuIikawa,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-city,Niigata951-8510,JAPANC図1トラベクレクトミー後3日目の前眼部写真前房内に著明な炎症性細胞を認める.図3図1の数時間後の前眼部写真前房蓄膿を認める.早期眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.家族歴:特記事項なし.既往歴:(眼)2005年に左眼,2007年に右眼水晶体再建術,左眼レーザー後.切開術後.(全身)高血圧,前立腺肥大症で内服加療中.現病歴:2007年,Goldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)で右眼眼圧がC20CmmHg,左眼眼圧がC27CmmHgと高値で,左眼にCBjerrum暗点認め,原発開放隅角緑内障の診断で前医にて左眼にラタノプロスト(キサラタン)点眼を開始された.その後,両眼ともC20mmHg以上の眼圧で推移してチモロールマレイン酸塩(チモプトール)を追加された.左眼は適宜点眼を追加するも眼圧はC20CmmHg台前半で推移していた.2018年C1月頃より左眼に眼瞼炎が出現し,ステロイド軟膏を処方されていた.図2トラベクレクトミー後3日目の超音波Bモード画像びまん性の硝子体混濁を認める.2018年C4月頃よりラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤(ザラカム),ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン),リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)点眼下でも左眼眼圧がC30CmmHg台前半まで上昇し,眼圧コントロール不良にてC2018年C6月,当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼がC0.06(1.0C×sph.3.50D(cyl.3.75DAx55°),左眼が0.03(0.4C×sph.3.75D(cylC.2.0DAx105°),眼圧は右眼18mmHg,左眼28mmHg(GAT)であった.前房は深く,清明,両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,左眼はレーザー後.切開術後であった.眼軸長は右眼C26.0Cmm,左眼C25.9Cmmであった.視野はCHum-phrey24-2で右眼の平均偏差(meandeviation:MD)がC.9.47dB,左眼のCMDがC.22.95dB,Humphrey10-2で左眼のMDがC.24.82CdBであった.左眼には慢性眼瞼炎を認めた.CII経過ステロイド緑内障の可能性も考慮し,当科初診時に軟膏を中止した.しかし,その後も眼圧下降が得られず,2018年7月,左眼にトラベクレクレクトミーを施行した.術前,クロルヘキシジン(ステリクロンW液C0.02)で皮膚洗浄を行い,6倍希釈したCPAヨードで結膜.洗浄を行った.手術は輪部基底結膜切開で施行した.強角膜ブロック作製後の虹彩切除の際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体をスプリングハンドル剪刀と吸水性スポンジ(O.S.A;はんだや)で可能な限り切除した.結膜は端々縫合(3針)したあとに連続縫合で閉創し,漏出がないことを確認して手術を終了した.なお,当科では術前や術中の抗菌薬点眼,内服,点滴,術中のヨード製剤などによる術野洗浄はこの当時施行していなかった.術翌日,前房は深く,軽度の炎症細胞を認めた.左眼眼圧はC21CmmHg(GAT)であり,眼球マッサージでC11CmmHgまで下降した.左眼視力は(0.6CpC×sph.4.75D(cyl.2.0DAx110°)であり,眼底透見は良好で,術翌日の所見としてとくに問題はなかった.術翌日より,レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン),トラニラストC0.5%(リザベン)をC1日に各C4回,術後点眼として使用した.術後C2日目も前房炎症は軽度,左眼眼圧はC18CmmHgであり,低眼圧や濾過胞漏出は認めなかった.術後C3日目の午前に,結膜充血,前房内炎症細胞の著明な増加,眼底が透見できないほどの硝子体混濁を認めた(図1,2).濾過胞内には混濁なく,疼痛の自覚はなかった.細菌性の眼内炎を疑い,レボフロキサシン水和物(レボフロキサシン)とセフメノキシム塩酸塩(ベストロン)のC2時間ごと頻回点眼を開始した.しかし,数時間後には前房蓄膿が出現(図3),急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシン,10Cmg)とセフタジジム水和物(モダシン,20mg)を混注したC500Cmlの灌流液を用いて,前房洗浄を行い,続いて硝子体混濁と硝子体腔のフィブリンを除去した.術中の網膜所見としては,全体的に血管が白線化し,少量の網膜出血を認めた.菌塊は認められなかった.術中に採取した前房水と硝子体液の培養を行い,前房水からCStaphylococcusaureusが検出された.硝子体液は培養陰性であった.硝子体手術後は,抗菌薬点眼併用で感染の鎮静化が得られ,術翌日の左眼視力は(0.04C×sph.3.0D)であったが,術後C3カ月の時点で,左眼視力は(0.6C×sph.3.50D(cyl.2.25DAx90°)と改善を認めた.しかし,眼底後極部の血管の白線化は残存,濾過胞は瘢痕化し左眼眼圧C26CmmHg(GAT)まで上昇し,Humphrey10-2のCMDはC.30.22dBに悪化した.最終的に術後C5カ月の時点でCAhmed-FP7(NewWorldMedical)によるチューブシャント手術を要した.CIII考察トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであると考えられる.トラベクレクトミー術後の早期の眼内炎に関しては,症例報告が散見され,Papaconstantinouら3)は術後C10日目の眼内炎,Katzら4)は術翌日の眼内炎,Kuangら5)は術後C2日目の眼内炎を報告している.頻度としてはC0.1.0.2%5,6)程度とされる.一般的に晩期合併症としての眼内炎は菲薄化した濾過胞からの房水漏出濾過胞関連であり,術後早期の眼内炎の原因は術中の汚染と考えられる4).トラベクレクトミー術後早期の眼内炎の起因菌としてはCLactobacil-lus3),b-hemolyticStreptococcus4),Morganellamorganii5),coagulase-negativeStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Streptococcus,Gram-negativeCspecies6)などの報告がある.白内障術後の早期眼内炎に関しては多くがグラム陽性菌で70%がCcoagulase-negativeCStaphylococcus,10%がCStaphy-lococcusaureus,9%がCStreptococcus属,2.2%がCEnterococ-cus属とされ,トラベクレクトミー術後早期においても同様と考えられる7).本症例では慢性の眼瞼炎の存在が,眼内炎のリスクファクターになった可能性がある.白内障術後の眼内炎に関しては,急性または慢性眼瞼炎があると,眼瞼や睫毛が細菌の温床になりリスクが高まるとされる7).早期眼内炎とは異なるが,慢性眼瞼炎はトラベクレクトミー後の濾過胞炎のリスクファクターとされ8),眼瞼炎が感染に関与している可能性は高いと考えられる.眼瞼炎のC47.6%からCStaphylococcusaureusが分離されたとの報告もあり9),本症例では前房水からCStaphylococcusaureusが検出されていることから,起因菌と考えられた.検出菌の薬剤感受性は術後に使用していたレボフロキサシン(LVFX)に対してCS(Susceptible:感受性)であった.術中の硝子体脱出も,眼内炎のリスクになったと考えられる.白内障術後眼内炎に関しては,術中に硝子体脱出があるとC7倍リスクが高くなるという報告がある7).術中に硝子体脱出があった白内障術後眼内炎の起因菌は,症例で検出されたようなグラム陽性菌が多いとされ10),術中の硝子体の汚染が眼内炎の発生率を上げる要因となっている.また,嘉村は白内障手術からの眼内炎発症時期として,CStaphylococcusaureusなどのグラム陽性菌では術後4.7日が多いと報告している11).白内障術後では前房から硝子体,網膜へと感染が進展するのに対して,硝子体術後は細菌が直接硝子体に侵入するため眼内炎の発症期間の平均はC2.3日で白内障手術後の眼内炎よりも早いとされる12).本症例でもこの機序で術後C3日目という比較的早期に眼内炎が生じたと考えられる.Atanassovらはトラベクレクトミー術中の硝子体脱出の頻度はC0.9%と報告している13).トラベクレクトミーでは強度近視,落屑緑内障,トラブルのあった白内障術後などで,術中の硝子体脱出のリスクがある.このような場合は,強角膜ブロックを作製しないCExPRESSなどの術式も検討すべきであるが,本症例はこれらに該当はしなかったため硝子体脱出の原因は不明である.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用についても再考する必要がある.トラベクレクトミー周術期における抗菌薬の使用に関しては決まったガイドラインがないため,各施設・術者によって大きな差がある.荒木らはC34施設C48名にアンケート調査を行い,術前の抗菌薬点眼はC84%,術中の抗菌薬点滴はC70%,術後抗菌薬内服はC68%の医師が施行していると報告している14).当科にてC2018年にC38施設C38名を対象に施行したアンケート調査では,抗菌薬の使用率は術前点眼がC84%(3日前からが最多でC63%),周術期点滴がC58%,周術期内服がC45%であった.術前点眼に関しては同様の結果であったが,抗菌薬の点滴や内服に関してはその有効性や副作用の問題から,昨今は減少傾向にあると考えられる.術中の術野洗浄に関してはC68%の施設でCPA・ヨードまたはイソジンによる洗浄が行われていた.井上らは,白内障術前の患者を対象にしたレボフロキサシン0.5%の術前点眼の期間別の培養陽性率に関して,術前C3日間点眼群は,術前C1日間点眼群やC1時間C1回点眼群に比べて,眼洗浄終了時や,手術終了時の結膜.培養陽性率が有意に低いことを報告しており15),このことからトラベクレクトミーに関しても術前C3日前から点眼している施設・術者が多いものと思われる.また,井上らは術前のイソジン(適応外使用)やCPA・ヨードによる結膜.洗浄で培養陽率が有意に低下することも報告している.内服や点滴と比べて,術前点眼や術中洗浄は副作用や患者の負担も少なく,エビデンスもある減菌方法であると考えられる.CIV結論トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであるが,本症例は慢性眼瞼炎の存在と術中の硝子体脱出が発症にかかわっていた可能性がある.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用に関して定められたガイドラインはなく,施設ごとの差が大きいことから,周術期の抗菌薬の使用方法について再考する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OlayanjuJA,HassanMB,HodgeDOetal:Trabeculecto-my-relatedCcomplicationsCinCOlmstedCCounty,CMinnesota,C1985CthroughC2010.CJAMACOphthalmolC133:574-580,C20152)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20143)PapaconstantinouD,GeorgalasI,KarmirisTetal:Acuteonsetlactobacillusendophthalmitisaftertrabeculectomy:Cacasereport.JMedCaseRepC4:203,C20104)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:ComplicationsofsurgeryinCglaucoma.CEarlyCandClateCbacterialCendophthalmitisCfol-lowingCglaucomaC.lteringCsurgery.COphthalmologyC92:C959-963,C19855)EifrigCCW,CFlynnCHWCJr,CScottCIUCetal:Acute-onsetpostoperativeCendophthalmitis:reviewCofCincidenceCandCvisualoutcomes(1995-2001)C.COphthalmicCSurgCLasersC33:373-378,C20026)WallinCO,CAl-ahramyCAM,CLundstromCMCetal:Endo-phthalmitisCandCsevereCblebitisCfollowingCtrabeculectomy.CEpidemiologyandriskfactors;asingle-centreretrospec-tivestudy.ActaOphthalmolC92:426-431,C20147)RahmaniCS,CEliottD:PostoperativeCendophthalmitis:ACreviewCofCriskCfactors,Cprophylaxis,Cincidence,Cmicrobiolo-gy,Ctreatment,CandCoutcomes.CSeminCOphthalmolC33:C95-101,C20188)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20159)TeweldemedhinCM,CGebreyesusCH,CAtsbahaCAHCetal:CBacterialpro.leofocularinfections:asystematicreview.BMCOphthalmolC17:212,C201710)LundstromCM,CFrilingCE,CMontanP:RiskCfactorsCforCendophthalmitisCafterCcataractsurgery:PredictorsCforCcausativeCorganismsCandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC41:2410-2416,C201511)嘉村由美:術後眼内炎.眼科C43:1329-1340,C200112)島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント.p14-21,日本医事新報社,201613)AtanassovMA:SurgicalCtreatmentCofCglaucomasCbyCtrabeculectomy-indicationsCandCearlyCresults.CFoliaCMed(Plovdiv)51:24-28,C200914)荒木裕加,本庄恵,石田恭子ほか:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討.臨眼72:809-815,C201815)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C2008***