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トラベクレクトミー術後3 日目に眼内炎を生じた1 例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):529.532,2022cトラベクレクトミー術後3日目に眼内炎を生じた1例飯川龍栂野哲哉坂上悠太末武亜紀福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野CACaseofEndophthalmitisthatOccurredontheThirdDayafterTrabeculectomyRyuIikawa,TetsuyaTogano,YutaSakaue,AkiSuetakeandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:トラベクレクトミー術後C3日目に発症した眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例:77歳,男性.慢性眼瞼炎の既往があった左眼の原発開放隅角緑内障に対してトラベクレクトミーを行った.術中,強角膜ブロック作製後の虹彩切除をした際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体を切除した.術翌日からC2日目の所見はとくに異常なかったが,術後C3日目に結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた.細菌性の眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を行ったが所見が急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.術中に採取した前房水からCStaphylococcusaureusが検出され起因菌と考えられた.硝子体手術と抗菌薬投与によって感染は鎮静化したが,濾過胞は瘢痕化し,最終的にはチューブシャント手術を要した.結論:比較的まれとされるトラベクレクトミー術後早期の眼内炎を報告した.本症例では慢性眼瞼炎,硝子体脱出が眼内炎の発症にかかわっていた可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCendophthalmitisCthatCoccurredConCtheCthirdCdayCafterCtrabeculectomy.CCaseReport:AC77-year-oldCmaleCunderwentCtrabeculectomyCinChisCleftCeyeCforCprimaryCopenCangleCglaucoma.CTheCoperatedeyehadahistoryofchronicblepharitis.Duringsurgery,vitreouslossoccurredwheniridectomywasper-formed,andwecuttheprolapsedvitreous.Noabnormal.ndingswereobservedupthrough2dayspostoperative.However,ConCtheCthirdCdayCpostCsurgery,CconjunctivalChyperemia,Chypopyon,CandCvitreousCopacityCwereCobserved.CBacterialCendophthalmitisCwasCsuspected,CandCwasCtreatedCwithCfrequentCadministrationCofCantibioticsCeyeCdrops.CHowever,CtheCconditionCrapidlyCdeteriorated,CsoCvitrectomyCwasCurgentlyCperformed.CStaphylococcusCaureusCwasCdetectedintheaqueoushumor.Althoughvitrectomyandantibioticadministrationsubsidedtheinfection,theblebbecameCscarredCandCeventuallyCrequiredCtubeCshuntCsurgery.CConclusion:ThisCstudyCpresentsCaCrelativelyCrareCcaseofendophthalmitisthatoccurredearlyaftertrabeculectomy.Inthiscase,chronicblepharitisandvitreouspro-lapsemayhavebeenriskfactorsforendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):529.532,C2022〕Keywords:緑内障,トラベクレクトミー,眼内炎,硝子体脱出,眼瞼炎.glaucoma,trabeculectomy,endophthal-mitis,vitreousloss,blepharitis.Cはじめにトラベクレクトミーはもっとも眼圧下降の期待できる緑内障手術の一つとして,国内外で広く施行されている術式である.高い眼圧下降効果の反面,早期の合併症として前房出血,低眼圧,濾過胞漏出,脈絡膜.離,脈絡膜出血,悪性緑内障などがあり,中期から晩期の合併症としては低眼圧の遷延による黄斑症,白内障の進行,濾過胞炎やそれに伴う眼内炎が知られている1).とくに濾過胞炎や眼内炎といった濾過胞関連感染症は,患者の視力予後を大きく左右する合併症の一つで,臨床上大きな問題となる.その頻度をCYamamotoらはC5年の経過で累積発生率はC2.2C±0.5%で,濾過胞漏出の存在と若年であることが濾過胞関連感染症のリスクファクターであると報告している2).濾過胞炎に続発する眼内炎は晩期の合併症として知られているが,トラベクレクトミー術後早期眼内炎の報告は少なく,まれであると考えられる.今回,筆者らはトラベクレクトミー術後C3日目に発症した術後〔別刷請求先〕飯川龍:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野Reprintrequests:RyuIikawa,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-city,Niigata951-8510,JAPANC図1トラベクレクトミー後3日目の前眼部写真前房内に著明な炎症性細胞を認める.図3図1の数時間後の前眼部写真前房蓄膿を認める.早期眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.家族歴:特記事項なし.既往歴:(眼)2005年に左眼,2007年に右眼水晶体再建術,左眼レーザー後.切開術後.(全身)高血圧,前立腺肥大症で内服加療中.現病歴:2007年,Goldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)で右眼眼圧がC20CmmHg,左眼眼圧がC27CmmHgと高値で,左眼にCBjerrum暗点認め,原発開放隅角緑内障の診断で前医にて左眼にラタノプロスト(キサラタン)点眼を開始された.その後,両眼ともC20mmHg以上の眼圧で推移してチモロールマレイン酸塩(チモプトール)を追加された.左眼は適宜点眼を追加するも眼圧はC20CmmHg台前半で推移していた.2018年C1月頃より左眼に眼瞼炎が出現し,ステロイド軟膏を処方されていた.図2トラベクレクトミー後3日目の超音波Bモード画像びまん性の硝子体混濁を認める.2018年C4月頃よりラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤(ザラカム),ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン),リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)点眼下でも左眼眼圧がC30CmmHg台前半まで上昇し,眼圧コントロール不良にてC2018年C6月,当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼がC0.06(1.0C×sph.3.50D(cyl.3.75DAx55°),左眼が0.03(0.4C×sph.3.75D(cylC.2.0DAx105°),眼圧は右眼18mmHg,左眼28mmHg(GAT)であった.前房は深く,清明,両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,左眼はレーザー後.切開術後であった.眼軸長は右眼C26.0Cmm,左眼C25.9Cmmであった.視野はCHum-phrey24-2で右眼の平均偏差(meandeviation:MD)がC.9.47dB,左眼のCMDがC.22.95dB,Humphrey10-2で左眼のMDがC.24.82CdBであった.左眼には慢性眼瞼炎を認めた.CII経過ステロイド緑内障の可能性も考慮し,当科初診時に軟膏を中止した.しかし,その後も眼圧下降が得られず,2018年7月,左眼にトラベクレクレクトミーを施行した.術前,クロルヘキシジン(ステリクロンW液C0.02)で皮膚洗浄を行い,6倍希釈したCPAヨードで結膜.洗浄を行った.手術は輪部基底結膜切開で施行した.強角膜ブロック作製後の虹彩切除の際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体をスプリングハンドル剪刀と吸水性スポンジ(O.S.A;はんだや)で可能な限り切除した.結膜は端々縫合(3針)したあとに連続縫合で閉創し,漏出がないことを確認して手術を終了した.なお,当科では術前や術中の抗菌薬点眼,内服,点滴,術中のヨード製剤などによる術野洗浄はこの当時施行していなかった.術翌日,前房は深く,軽度の炎症細胞を認めた.左眼眼圧はC21CmmHg(GAT)であり,眼球マッサージでC11CmmHgまで下降した.左眼視力は(0.6CpC×sph.4.75D(cyl.2.0DAx110°)であり,眼底透見は良好で,術翌日の所見としてとくに問題はなかった.術翌日より,レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン),トラニラストC0.5%(リザベン)をC1日に各C4回,術後点眼として使用した.術後C2日目も前房炎症は軽度,左眼眼圧はC18CmmHgであり,低眼圧や濾過胞漏出は認めなかった.術後C3日目の午前に,結膜充血,前房内炎症細胞の著明な増加,眼底が透見できないほどの硝子体混濁を認めた(図1,2).濾過胞内には混濁なく,疼痛の自覚はなかった.細菌性の眼内炎を疑い,レボフロキサシン水和物(レボフロキサシン)とセフメノキシム塩酸塩(ベストロン)のC2時間ごと頻回点眼を開始した.しかし,数時間後には前房蓄膿が出現(図3),急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシン,10Cmg)とセフタジジム水和物(モダシン,20mg)を混注したC500Cmlの灌流液を用いて,前房洗浄を行い,続いて硝子体混濁と硝子体腔のフィブリンを除去した.術中の網膜所見としては,全体的に血管が白線化し,少量の網膜出血を認めた.菌塊は認められなかった.術中に採取した前房水と硝子体液の培養を行い,前房水からCStaphylococcusaureusが検出された.硝子体液は培養陰性であった.硝子体手術後は,抗菌薬点眼併用で感染の鎮静化が得られ,術翌日の左眼視力は(0.04C×sph.3.0D)であったが,術後C3カ月の時点で,左眼視力は(0.6C×sph.3.50D(cyl.2.25DAx90°)と改善を認めた.しかし,眼底後極部の血管の白線化は残存,濾過胞は瘢痕化し左眼眼圧C26CmmHg(GAT)まで上昇し,Humphrey10-2のCMDはC.30.22dBに悪化した.最終的に術後C5カ月の時点でCAhmed-FP7(NewWorldMedical)によるチューブシャント手術を要した.CIII考察トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであると考えられる.トラベクレクトミー術後の早期の眼内炎に関しては,症例報告が散見され,Papaconstantinouら3)は術後C10日目の眼内炎,Katzら4)は術翌日の眼内炎,Kuangら5)は術後C2日目の眼内炎を報告している.頻度としてはC0.1.0.2%5,6)程度とされる.一般的に晩期合併症としての眼内炎は菲薄化した濾過胞からの房水漏出濾過胞関連であり,術後早期の眼内炎の原因は術中の汚染と考えられる4).トラベクレクトミー術後早期の眼内炎の起因菌としてはCLactobacil-lus3),b-hemolyticStreptococcus4),Morganellamorganii5),coagulase-negativeStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Streptococcus,Gram-negativeCspecies6)などの報告がある.白内障術後の早期眼内炎に関しては多くがグラム陽性菌で70%がCcoagulase-negativeCStaphylococcus,10%がCStaphy-lococcusaureus,9%がCStreptococcus属,2.2%がCEnterococ-cus属とされ,トラベクレクトミー術後早期においても同様と考えられる7).本症例では慢性の眼瞼炎の存在が,眼内炎のリスクファクターになった可能性がある.白内障術後の眼内炎に関しては,急性または慢性眼瞼炎があると,眼瞼や睫毛が細菌の温床になりリスクが高まるとされる7).早期眼内炎とは異なるが,慢性眼瞼炎はトラベクレクトミー後の濾過胞炎のリスクファクターとされ8),眼瞼炎が感染に関与している可能性は高いと考えられる.眼瞼炎のC47.6%からCStaphylococcusaureusが分離されたとの報告もあり9),本症例では前房水からCStaphylococcusaureusが検出されていることから,起因菌と考えられた.検出菌の薬剤感受性は術後に使用していたレボフロキサシン(LVFX)に対してCS(Susceptible:感受性)であった.術中の硝子体脱出も,眼内炎のリスクになったと考えられる.白内障術後眼内炎に関しては,術中に硝子体脱出があるとC7倍リスクが高くなるという報告がある7).術中に硝子体脱出があった白内障術後眼内炎の起因菌は,症例で検出されたようなグラム陽性菌が多いとされ10),術中の硝子体の汚染が眼内炎の発生率を上げる要因となっている.また,嘉村は白内障手術からの眼内炎発症時期として,CStaphylococcusaureusなどのグラム陽性菌では術後4.7日が多いと報告している11).白内障術後では前房から硝子体,網膜へと感染が進展するのに対して,硝子体術後は細菌が直接硝子体に侵入するため眼内炎の発症期間の平均はC2.3日で白内障手術後の眼内炎よりも早いとされる12).本症例でもこの機序で術後C3日目という比較的早期に眼内炎が生じたと考えられる.Atanassovらはトラベクレクトミー術中の硝子体脱出の頻度はC0.9%と報告している13).トラベクレクトミーでは強度近視,落屑緑内障,トラブルのあった白内障術後などで,術中の硝子体脱出のリスクがある.このような場合は,強角膜ブロックを作製しないCExPRESSなどの術式も検討すべきであるが,本症例はこれらに該当はしなかったため硝子体脱出の原因は不明である.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用についても再考する必要がある.トラベクレクトミー周術期における抗菌薬の使用に関しては決まったガイドラインがないため,各施設・術者によって大きな差がある.荒木らはC34施設C48名にアンケート調査を行い,術前の抗菌薬点眼はC84%,術中の抗菌薬点滴はC70%,術後抗菌薬内服はC68%の医師が施行していると報告している14).当科にてC2018年にC38施設C38名を対象に施行したアンケート調査では,抗菌薬の使用率は術前点眼がC84%(3日前からが最多でC63%),周術期点滴がC58%,周術期内服がC45%であった.術前点眼に関しては同様の結果であったが,抗菌薬の点滴や内服に関してはその有効性や副作用の問題から,昨今は減少傾向にあると考えられる.術中の術野洗浄に関してはC68%の施設でCPA・ヨードまたはイソジンによる洗浄が行われていた.井上らは,白内障術前の患者を対象にしたレボフロキサシン0.5%の術前点眼の期間別の培養陽性率に関して,術前C3日間点眼群は,術前C1日間点眼群やC1時間C1回点眼群に比べて,眼洗浄終了時や,手術終了時の結膜.培養陽性率が有意に低いことを報告しており15),このことからトラベクレクトミーに関しても術前C3日前から点眼している施設・術者が多いものと思われる.また,井上らは術前のイソジン(適応外使用)やCPA・ヨードによる結膜.洗浄で培養陽率が有意に低下することも報告している.内服や点滴と比べて,術前点眼や術中洗浄は副作用や患者の負担も少なく,エビデンスもある減菌方法であると考えられる.CIV結論トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであるが,本症例は慢性眼瞼炎の存在と術中の硝子体脱出が発症にかかわっていた可能性がある.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用に関して定められたガイドラインはなく,施設ごとの差が大きいことから,周術期の抗菌薬の使用方法について再考する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OlayanjuJA,HassanMB,HodgeDOetal:Trabeculecto-my-relatedCcomplicationsCinCOlmstedCCounty,CMinnesota,C1985CthroughC2010.CJAMACOphthalmolC133:574-580,C20152)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20143)PapaconstantinouD,GeorgalasI,KarmirisTetal:Acuteonsetlactobacillusendophthalmitisaftertrabeculectomy:Cacasereport.JMedCaseRepC4:203,C20104)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:ComplicationsofsurgeryinCglaucoma.CEarlyCandClateCbacterialCendophthalmitisCfol-lowingCglaucomaC.lteringCsurgery.COphthalmologyC92:C959-963,C19855)EifrigCCW,CFlynnCHWCJr,CScottCIUCetal:Acute-onsetpostoperativeCendophthalmitis:reviewCofCincidenceCandCvisualoutcomes(1995-2001)C.COphthalmicCSurgCLasersC33:373-378,C20026)WallinCO,CAl-ahramyCAM,CLundstromCMCetal:Endo-phthalmitisCandCsevereCblebitisCfollowingCtrabeculectomy.CEpidemiologyandriskfactors;asingle-centreretrospec-tivestudy.ActaOphthalmolC92:426-431,C20147)RahmaniCS,CEliottD:PostoperativeCendophthalmitis:ACreviewCofCriskCfactors,Cprophylaxis,Cincidence,Cmicrobiolo-gy,Ctreatment,CandCoutcomes.CSeminCOphthalmolC33:C95-101,C20188)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20159)TeweldemedhinCM,CGebreyesusCH,CAtsbahaCAHCetal:CBacterialpro.leofocularinfections:asystematicreview.BMCOphthalmolC17:212,C201710)LundstromCM,CFrilingCE,CMontanP:RiskCfactorsCforCendophthalmitisCafterCcataractsurgery:PredictorsCforCcausativeCorganismsCandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC41:2410-2416,C201511)嘉村由美:術後眼内炎.眼科C43:1329-1340,C200112)島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント.p14-21,日本医事新報社,201613)AtanassovMA:SurgicalCtreatmentCofCglaucomasCbyCtrabeculectomy-indicationsCandCearlyCresults.CFoliaCMed(Plovdiv)51:24-28,C200914)荒木裕加,本庄恵,石田恭子ほか:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討.臨眼72:809-815,C201815)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C2008***

抗VEGF 抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)727《原著》あたらしい眼科28(5):727.729,2011cはじめに硝子体注射は眼科治療法の一つであり,近年特に抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射の有効性が認知され,今後ますます盛んに行われると考えられる.硝子体注射に伴う重篤な合併症の一つに感染性眼内炎がある.過去の報告によると,硝子体注射症例の0.019~0.052%の頻度で眼内炎が生じたとしている1~4).眼内炎の危険因子の一つとしては,硝子体注射に伴う硝子体脱出を指摘する報告がある5)が,わが国において硝子体脱出の頻度を詳細に調査した報告はない.今回筆者らは,硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)をプロスペクティブに調査し,さらに患者背景因子との関連について検討したので報告する.I対象および方法対象は当院にて2009年3月から12月の間に加齢黄斑変性に対してranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った症例である.複数回投与を行っている症例は,症例ごとの何らかの因子が硝子体脱出率に影響する可能性があるため,初回投与のみを対象とした.硝子体手術の既往がある症〔別刷請求先〕大塚斎史:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:YoshifumiOhtsuka,M.D.,MachidaHospital,104-1Asahimachi,Kochicity,Kochi780-0935,JAPAN抗VEGF抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度大塚斎史橋田正継山本恭三星最智卜部公章町田病院FrequencyofVitreousRefluxinIntravitrealInjectionofAnti-VEGFAntibodyYoshifumiOhtsuka,MasatsuguHashida,TakamiYamamoto,SaichiHoshiandKimiakiUrabeMachidaHospital目的:抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)を検討した.対象および方法:2009年3月から12月の間にranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った52症例のうち初回投与のみを対象とした.30ゲージ針で硝子体注射を行い,吸収スポンジを用いて硝子体脱出の有無を確認し硝子体脱出率を検討した.また,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.結果:全症例での硝子体脱出率は23.1%であった.有水晶体眼(29眼)の硝子体脱出率は34.5%であり,偽水晶体眼(23眼)の8.7%よりも有意に高かった(p=0.03).結論:硝子体注射後の硝子体脱出率は特に有水晶体眼で高かった.Objectives:Toinvestigatethefrequencyofvitreousrefluxfollowingtheintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactor(anti-VEGF).SubjectsandMethods:Fifty-twocasesofpatientswhoreceivedafirstintravitrealinjectionofanti-VEGF(ranibizumab,0.5mg/0.05ml)betweenMarchandDecember2009wereenrolledinthisstudy.Anintravitrealinjectionusinga30-gaugeneedlewasperformedineachpatientandthevitreousrefluxwastheninvestigatedusinganabsorbingsponge.Therelationbetweeneachpatient’sfactorssuchasgender,age,eitherphakicorpseudophakiceye,intraocularpressure,refractiveindex,andthevitreousrefluxratewasthendetermined.Results:Thevitreousrefluxratewasobservedin23.1%ofthetotaleyes.Therewasasignificantdifference(p=0.03)inthevitreousrefluxratebetweenthephakiceyes(29eyes,34.5%)andthepseudophakiceyes(23eyes,8.7%).Conclusion:Thevitreousrefluxrateinphakiceyeswassignificantlyhigherthanthatinpseudophakiceyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):727.729,2011〕Keywords:硝子体注射,硝子体脱出,眼内炎,抗VEGF抗体.intravitrealinjection,vitreousreflux,endophthalmitis,anti-VEGFantibody.728あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(126)例は除外した.硝子体注射は手術顕微鏡下に30ゲージ針を用いて経結膜的に毛様体扁平部から行った.30ゲージ針の刺入方法は,強膜に対して垂直に刺入するだけであり,その他の特別な手技は用いていなかった.抜針後は速やかに綿棒または鑷子で強膜創を圧迫した後,吸収スポンジを用いて刺入部位からの硝子体脱出の有無を確認した.硝子体脱出を認めた場合は,吸収スポンジにて脱出した硝子体を持ち上げながらスプリング剪刀で切除した(図1).術前および術後3日間は0.5%モキシフロキサシン点眼液(ベガモックスR点眼液0.5%)の点眼を行った.検討項目として,全症例における硝子体脱出率を検討した.さらに,硝子体脱出率に影響を与えている因子を検討するため,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.水晶体の状態は有水晶体眼と偽水晶体眼とに分類し,眼圧は硝子体注射前にノンコンタクト眼圧計を用いて測定した.屈折値は有水晶体眼では硝子体注射前の値を,偽水晶体眼では白内障手術前の屈折値を使用し,等価球面度数として検討した.偽水晶体眼の症例でカルテ上,以前の屈折値がわからないものは,屈折値に関する検討から省いた.統計学的処理は,性別,水晶体の状態についてはMann-WhitneyUtestを,年齢,眼圧,屈折値についてはFisher’sexacttestを用い,p<0.05を有意と判定した.II結果症例は52例52眼(男性35例35眼,女性17例17眼)で,平均年齢は74.5±9.6歳(47~93歳),眼圧の平均値は12.2±2.9mmHg(9~19mmHg)であった.症例全体の硝子体脱出率は23.1%(52眼中12眼)であった.患者背景因子として屈折値を含めて検討を行ったのは52眼中35眼で,平均の等価球面度数は.0.4±2.0D(+3~.7.75D)であった.硝子体脱出率と患者背景因子との関連を検討したところ,性別(p=0.60),年齢(p=0.92),眼圧(p=1.00),屈折値(p=0.38)であり,いずれも有意な関連は認めなかった.しかしながら,水晶体の状態ごとの硝子体脱出率に関しては,偽水晶体眼では8.7%(23眼中2眼)であるのに対し,有水晶体眼で34.5%(29眼中10眼)と有意に高かった(p=0.03)(図2).加えて,有水晶体群と偽水晶体群で,性別,年齢,眼圧,屈折値を比較すると,表1のような結果となった.2群間の比較で有意差があったのは平均年齢のみで,偽水晶体群では平均年齢が高かった.年齢が交絡因子となっている可能性も否定できないため,年齢と水晶体の状態を説明変数,硝子体脱出の有無を目的変数として多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,年齢〔オッズ比1.1,95%信頼区間(95%CI):0.98~1.23,p=0.09〕,水晶体の状態(オッズ比18.3,95%CI:1.97~169.5,p=0.01)であり,年齢の影響を除いても,有水晶体眼で有意に硝子体脱出率が高かった.なお,今回の調査中に眼内炎や網膜.離などの眼合併症は認めなかった.II考按抗VEGF抗体の硝子体注射に伴う重大な合併症の一つに感染性眼内炎がある.硝子体注射の直後に吸収スポンジなどを用いて刺入部を詳細に観察すると,創口に嵌頓した硝子体を認めることがある.Chenらはこれをvitreouswicksyn表1有水晶体群と偽水晶体群の比較有水晶体群(n=29)偽水晶体群(n=23)p値性別(男:女)18:1117:60.27年齢(歳)69.2±8.481.1±6.4<0.0001眼圧(mmHg)12.2±3.112.2±2.80.96屈折値(D)0.12±2.2.0.79±1.00.10図1硝子体注射直後の硝子体脱出吸収スポンジにて硝子体脱出の有無を確認した(矢印).4035302520151050有水晶体眼偽水晶体眼硝子体脱出率(%)**p=0.03図2水晶体の状態ごとの硝子体脱出率有水晶体眼では,偽水晶体眼と比べ有意に硝子体脱出率が高かった.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011729dromeとよび,硝子体注射後の感染性眼内炎の一因となっている可能性があると指摘している5).これまでの硝子体脱出の頻度に関する報告として,Benzらは38眼に対し0.1mlのトリアムシノロンを27ゲージ針にて硝子体注射したところ,硝子体脱出率が21.1%であったと報告している6).今回の筆者らの検討では硝子体脱出率は23.1%であり,Benzらの報告と比べて硝子体注射をした薬剤の体積が少ないという違いはあるものの,硝子体脱出率は近似した結果となった.このことは,抗VEGF抗体とトリアムシノロンという使用薬剤の相違以外に硝子体脱出のリスク因子が存在し,さらに,筆者らの結果が注射手技の熟練度などの技術的な問題のみで生じた結果ではないことを示唆している.そこで,硝子体脱出率と患者背景との関連を検討したところ,性別,年齢,眼圧,屈折値では有意な相違があるとはいえなかった.しかしながら,水晶体の状態に関しては,有水晶体眼と偽水晶体眼の硝子体脱出率はそれぞれ34.5%,8.7%となり,有水晶体眼で有意に高い結果となった.偽水晶体眼で硝子体脱出率が低下した原因として,白内障手術を契機に眼内の環境が変化したことが推察される.一つの仮説として,水晶体の占めていた容積が眼内レンズとなったことで硝子体腔の体積が相対的に増加し,硝子体注射による圧変動が減少する可能性が考えられるが,詳細は不明である.硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度について,わが国では今回の筆者らの報告以外に調査した報告はなく,発生すること自体に認識が十分でない可能性がある.今後は硝子体注射を行う際,注射直後に吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要と考えられた.硝子体注射の際に硝子体脱出を生じにくくするための試みは過去に報告がある.Rodriguesらは,強膜に対して30°の角度で針の先端を1.5mm程度強膜半層まで進めて,その後硝子体腔の中心に向かって針を垂直に立てて穿刺するというtunneledscleralincisionによって,硝子体脱出の量が減少したと報告している7).小切開硝子体手術の際に結膜をずらしてカニューラの設置を行うことがある8)が,硝子体注射においても同様の手技で行うことにより,結膜からの硝子体の露出を防ぐことができるかもしれない.今後は,硝子体脱出が起こりにくくするための標準的な硝子体注射手技について検証していく必要がある.筆者らの検討における問題点として,まず,硝子体注射後の眼圧が硝子体脱出率に与える影響を調査していないことがあげられる.硝子体注射の直後に眼圧が上昇することがあり,Benzらの報告ではトリアムシノロン0.1mlの硝子体注射直後の平均眼圧が,硝子体脱出がなかった群では45.9mmHg,硝子体脱出があった群では12.6mmHgであったとしている.抗VEGF抗体の投与量は0.05mlであり,Benzらの報告よりも少量ではあるが,今後は硝子体注射後の眼圧上昇の頻度や硝子体脱出との関連を検討する必要がある.つぎに,今回の検討項目で屈折率では有意な関連がなかったものの,眼軸長を患者背景因子に加えた検討が望ましいと考えられる.また,硝子体脱出の確認方法について,吸収スポンジにて硝子体の検出を行っているが,その手技によるバイアスも考えられ今後の検討を要する.以上,まとめとして,検討では硝子体脱出率は23.1%と比較的高く,有水晶体眼では偽水晶体眼より硝子体脱出率が高かった.硝子体注射を行った直後には,吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要であり,硝子体脱出を認めた場合は脱出硝子体を適切に処理すべきであると考えられた.文献1)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevacizmab.JOculPharmacolTher23:240-242,20072)MasonJO3rd,WhiteMF,FeistRMetal:Incidenceofacuteonsetendophthalmitisfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Retina28:564-567,20083)PilliS,KotsolisA,SpaideRFetal:Endophthalmitisassociatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyinjectionsinanofficesetting.AmJOphthalmol145:879-882,20084)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20085)ChenSD,MohammedQ,BowlingBetal:Vitreouswicksyndrome─apotentialcauseofendophthalmitisafterintravitrealinjectionoftriamcinolonethroughtheparsplana.AmJOphthalmol137:1159-1160,20046)BenzMS,AlbiniTA,HolzERetal:Short-termcourseofintraocularpressureafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.Ophthalmology113:1174-1178,20067)RodriguesEB,MeyerCH,GrumannAetal:Tunneledscleralincisiontopreventvitrealrefluxafterintravitrealinjection.AmJOphthalmol143:1035-1037,20078)野田徹,寺内直毅:硝子体手術の道具立て.眼科プラクティス17巻,みんなの硝子体手術(田野保雄編),p53-61,文光堂,2007***