‘生体共焦点顕微鏡’ タグのついている投稿

両眼に渦状混濁を伴ったLisch 角膜ジストロフィが疑われる 1 例

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1459.1463,2025c両眼に渦状混濁を伴ったLisch角膜ジストロフィが疑われる1例竹澤由起*1井上英紀*1鳥山浩二*1坂根由梨*1鎌尾知行*1,2田坂義孝*2溝上志朗*1,2白石敦*1大橋裕一*2*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2南松山病院眼科CACaseofSuspectedLischEpithelialCornealDystrophywithBilateralVortexKeratopathyYukiTakezawa1),HidenoriInoue1),KojiToriyama1),YuriSakane1),TomoyukiKamao1,2)C,YoshitakaTasaka2),ShiroMizoue1,2)C,AtsushiShiraishi1)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospitalC目的:Lisch角膜上皮ジストロフィ(LECD)は羽毛状の角膜混濁を特徴とする常染色体優性遺伝疾患である.ライソゾーム関連蛋白であるCMCOLN1遺伝子変異が原因の一つとされるが,わが国でCLECDの報告はない.今回,片眼のカブトガニ様上皮混濁と両眼の渦状混濁を伴ったCLECDが疑われるC1例を経験した.症例:56歳,女性.緑内障に対し点眼加療中に右眼の霧視を訴えた.右眼角膜中央部にカブトガニ様の上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.全身疾患や特記すべき薬剤の服用歴はなく,生体共焦点顕微鏡(IVCM)では,病変部に高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が観察された.結論:渦状混濁を伴う点は既報とは異なるが,特有の上皮混濁とIVCM所見からCLECDが疑われた.IVCM所見はライソゾーム関連疾患の角膜混濁とも合致しており,本例はCLECDの新たな表現型である可能性が考えられた.今後は確定診断のためCMCOLN1遺伝子変異の検索や混濁病変の病理学的検索を含めた精査を行う必要がある.CPurpose:Lischepithelialcornealdystrophy(LECD)ischaracterizedbyfeatheryopacityarisingfromthelim-buswithautosomaldominantinheritance,andisthoughttobecausedbyageneticmutationofMCOLN1,alyso-some-associatedCprotein,CwhichChasCnotCpreviouslyCbeenCreportedCinCJapan.CHereinCweCreportCaCcaseCofCsuspectedCLECD.CCaseReport:AC56-year-oldCfemaleCcomplainedCofCblurredCvisionCinCherCrightCeye.CSlit-lampCexaminationCrevealedthepresenceofacrab-shapedepithelialopacityatthecenterofthecorneaoftherighteyeandbilateralvortexCkeratopathy.CInCvivoCconfocalmicroscopy(IVCM).ndingsCshowedCthatCtheClesionCconsistedCofCclustersCofCepithelialCcellsCwithChyperre.ectiveCcytoplasmCandChypore.ectiveCnuclei.CConclusions:AlthoughCvortexCkeratopa-thydi.eredfrompreviousreports,thecrab-shapedepithelialopacityandcharacteristicIVCM.ndingssupportedtheCdiagnosisCofCLECD.CSuchCIVCMC.ndingsCareCconsistentCwithCthoseCofClysosomalCstorageCdiseases,CsuggestingCthatvortexkeratopathymaybeanovelphenotypeofLECD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1459.1463,C2025〕Keywords:Lisch角膜上皮ジストロフィ,角膜上皮混濁,渦状混濁,生体共焦点顕微鏡,ライソゾーム.Lischep-ithelialcornealdystrophy,cornealepithelialopacity,vortexkeratopachy,invivoCconfocalmicroscopy,lysosome.CはじめにLisch角膜上皮ジストロフィ(LischCepithelialCcornealdystrophy:LECD)は,1992年にCLischらが最初に報告した常染色体顕性の遺伝性疾患で,両眼性あるいは片眼性の境界明瞭な羽毛状の角膜上皮混濁を臨床的な特徴とする.混濁病変の多くは角膜輪部から連続性を有し,通常は無症状であるが,病変が中央部に達すると霧視や視力低下を訴えることがある.病理学的には翼細胞層を中心に細胞質内に多数の空胞変性像が認められるのが特徴で,近年はライソゾームに関連する蛋白であるムコリピンC1(MCOLN1)の遺伝子変異が〔別刷請求先〕竹澤由起:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiTakezawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANC右眼左眼図1当院初診時の前眼部写真右眼は角膜中央にカブトガニ様の混濁病変を認め,また,両眼とも角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.フルオレセイン染色では明らかな上皮病変は認めなかった.原因の一つであることが明らかにされている.わが国では,類似症例の報告はこれまでに散見されるが,LECDとしての報告はない.今回,片眼の特異なカブトガニ様角膜上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を主徴とし,LECDが疑われるC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:55歳,女性.主訴:右眼霧視既往歴:子宮筋腫,虫垂炎,不妊治療で多胎妊娠の既往はあるが,アミオダロンなどの特記すべき薬剤の服用歴はない.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の正常眼圧緑内障のため南松山病院においてカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼薬C1剤で両眼加療中であったが,前医での定期診察時に約C1カ月前からの右眼霧視の訴えがあり,右眼角膜中央に白色上皮混濁および両眼の角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.1週間後に原因精査のため愛媛大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時所見および経過:視力は右眼1.2Cp(1.2C×cyl.0.50DAx80°),左眼C1.2(1.2×+0.50D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.右眼角膜中央にカブトガニ様の白色上皮混濁,両眼角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めたが,フルオレセイン染色では両眼とも明らかな上皮欠損などの所見は認めなかった(図1).両眼とも正常眼圧緑内障の他は中間透光体および網膜に異常を認めなかった.生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalmicroscopy:IVCM)で角膜混濁病変部を観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁の両方ともに,高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が集簇して観察された(図2,3).初診時よりC6カ月後に観察したところ,右眼のカブトガニ様混濁は消退しており,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁は形状にやや変化がみられた(図4).CII考按今回,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁と片眼にカ図2右眼角膜混濁病変部の生体共焦点顕微鏡(IVCM)画像所見上段:3点ともカブトガニ様混濁部の画像.下段:2点とも渦状混濁病変部のCIVCM画像.どちらも低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ上皮細胞が集簇していた.図3左眼角膜混濁病変部のIVCM画像所見左眼の渦状混濁病変部のCIVCM画像である.右眼と同様,低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ角膜上皮細胞が確認された.ブトガニ様角膜上皮混濁を呈するC1症例を経験し,LECDの可能性を疑った.LECDは,片眼または両眼の羽毛状・渦状の角膜上皮混濁を呈し,病変部の光学顕微鏡所見では細胞質空胞化を特徴とする新たな上皮ジストロフィとして,LischらがC1992年に最初に報告した1).Kurbanyanら2)は,LECDに対しCIVCMによる検討を行い,病変部において角膜上皮全層にわたる高輝度な細胞群を観察したところ,病変部と正常部の境界はきわめて明瞭であり,低輝度な核と高輝度な細胞質は細胞の空胞変性という病理学的特徴によく一致すると報告している.わが国においては,宇野らが輪部から連続するオタマジャクシ様の角膜混濁の症例をC1994年に報告している3)が,LECDとしては報告されていない.しかし,その臨床所見や,病巣掻爬後もすぐに輪部から混濁が再発したといった経図4初診時より6カ月後の前眼部写真a:右眼.b:左眼.右眼にあったカブトガニ様混濁は消退し,両眼の渦状混濁も形状に変化がみられた.過,さらに掻爬後の病変上皮に空胞変性がみられたという病理所見など,既報のCLECDと一致する点が多い.わが国ではこのようにCLECDに類似した症例の報告は散見されるものの,LECDとしての報告は未だない.本症例からCLECDの可能性を考えた理由として,IVCMでの所見があげられる.本症例の病変部をCIVCMで観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁ともに同一であり,Kurbanayanらの報告2)に一致した所見が得られた.鑑別疾患としてはCMeesmann角膜ジストロフィや上皮基底膜ジストロフィが考えられたが,本症例ではCmicrocyst様の角膜上皮所見やフルオレセイン染色での上皮欠損や上皮の乱れは認めず,また角膜上皮基底膜病変も認めなかった.角膜渦状混濁をきたす点ではCFabry病やアミオダロンなどの薬剤起因性の角膜上皮異常4)も考えられるが,本症例では家族歴はなく,アミオダロンなどの薬剤投与歴もなかった.しかし,本症例が既報のCLECDと異なる部分もあげられる.一つは混濁病変が輪部と連続していない点,さらに,アミオダロン角膜症を思わせる渦状混濁を伴う点である.既報におけるCLECDの病変は輪部から連続した角膜混濁で掻爬後も再発が多い5)とされ,病変は輪部の上皮幹細胞より由来していると考えられている5)が,詳細は未だ不明である.また,既報のCLECDにおける混濁病変の形状は羽毛状や棍棒様,車軸様などさまざまあるが,アミオダロン角膜症様の渦状混濁の報告はみられていない.本症例ではカブトガニ様混濁とともに形状の異なる二つの混濁病変が同一眼に認められ,それぞれ別の病態によるものか,もしくは同一の病態による可能性が考えられた.IVCMでは二つの形状の異なる混濁病変はともに高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ同一の所見が得られ,形状は異なるものの混濁病変としては同一の病態の可能性が高いと推測される.また,本症例では半年間の経過中にカブトガニ様混濁が自然消退していた.アミオダロン様渦状混濁も形状変化をきたしており,二つの混濁病変はともに角膜上皮の流れとともに形状変化,自然脱落した可能性が考えられた.これまでにLECDにおける角膜混濁が自然消退した報告はなく,既報ではCLECDの混濁病変に対する治療として,単純掻爬やソフトコンタクトレンズ装用の報告があるが,再発も多い5).また,近年ではC5-フルオラシル(.uorouracil:FU)点眼の使用6)や僚眼からの自己輪部角膜移植などの報告7)もある.本症例の混濁病変は輪部と連続しておらず,病変の由来は不明であるが,今後再発する可能性も十分考えられる.LECDの遺伝子異常についてC2000年のCLischらの報告8)では,LECDの家系についてCMeesmann角膜ジストロフィに関連したケラチンCK3,K12の遺伝子異常の有無を検索し,LECDはCMeesmann角膜ジストロフィとは遺伝子的に異なることが確認された.さらに,2024年のCPattersonらの報告9)では,LECDのC13家系を包含した多施設スタディにおいて,第C19染色体上にあCMCOLN1の遺伝子変異が判明した.発症は基本的にヘテロ接合体のハプロ不全により生じるとされているが,疾患頻度から考えるとこの遺伝子変異に加えて,プラスCaの因子が必要なのではないかと推論されている.これらの報告より,以前CLECDの遺伝形式はCX連鎖性とされていた8)が,2024年の国際角膜ジストロフィ分類委員会(InternationalCCommitteeCforCClassi.cationCofCCor-nealDystrophies:IC3D)の報告10)では常染色体顕性に改められた.本症例では,患者の親に特記すべき眼科疾患の既往はなく,患者の子には現時点で明らかな角膜上皮混濁は認めていない.IC3Dの報告10)では,LECDの家族性の症例はすべて両眼性であり,孤発例では片眼性または両眼性であるとされている.本症例も孤発例の可能性はあるが,今後患者本人および家族のCMCOLN1遺伝子変異の検索を検討していく方向である.LECDにおいて変異が報告されたCMCOLN1遺伝子は,ムコリピンC1というライソゾームの膜状にあるイオンチャネル蛋白をコードしている.そのため,LECDの発症にはライソゾームが関与していると考えられている9).ライソゾームはほかの疾患における角膜混濁にも関連しており,ライソゾーム内への薬剤の蓄積がかかわるアミオダロン角膜症や,ライソゾーム病であるCFabry病での角膜混濁がよく知られている.それらの疾患におけるCIVCMの所見でも,角膜混濁部と正常部の境界は明瞭であり,混濁部では高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ上皮細胞群が共通してみられることが報告されている11).この「高輝度な細胞質」の本態は,病理学的には異常物質を含んだ多数のライソゾームの集積像であり,アミオダロン角膜症やCFabry病などのライソゾーム関連疾患の角膜混濁に特有の所見と考えられる11).LECDにおいても,病変部の電子顕微鏡的検索では空胞変性の本態はCautophagosomeやCautolysosomeと考えられており12),IVCMの所見含めライソゾーム関連疾患の角膜混濁と共通している.本症例の所見もCLECDやライソゾーム関連疾患の所見と合致しており,ほかに渦状角膜を生ずる原因がないことを踏まえれば,LECDの新たな表現型,もしくはライソゾーム機能異常に伴う角膜混濁の可能性が示唆された.しかし,本症例ではCIVCMの所見以外での病理学的検索や遺伝子的検索が行われておらず,確定診断には至っていない.よって今後,家族の遺伝的スクリーニングや責任遺伝子とされCMCOLN1遺伝子変異の検索,また,可能であれば混濁病変部の病理学的検査を含めたさらなる精査を行う必要がある.本論文は第C78回臨床眼科学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LischCW,CSteuhlCKP,CLischCCCetal:ACnew,Cband-shapedCandwhorledmicrocysticdystrophyofthecornealepithe-lium.AmJOphthalmolC114:35-44,C19922)KurbanyanK,SejpalKD,AldaveAJetal:Invivoconfo-calCmicroscopicC.ndingsCinCLischCcornealCdystrophy.CCor-neaC31:437-441,C20123)宇野敏彦,大橋裕一,井上幸次ほか:輪部から発生した再発性角膜上皮混濁のC1例.臨眼C48:709-713,C19944)RaizmanCMB,CHamrahCP,CHollandCEJCetal:Majorreview:Drug-inducedCcornealCepithelialCchanges.CSurvCOphthalmolC62:286-301,C20175)LischCW,CWasielica-PoslednikCJ,CLischCCCetal:ContactClens-inducedregressionofLischepithelialcornealdystro-phy.CorneaC29:342-345,C20106)MonaM,ArzeK,GalorAetal:RecurrentLischepitheli-alCcornealCdystrophyCtreatedCwith5-.uorouracil:ACcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC42:645-647,C20237)Cano-OrtizA,VentosaAS,CrucesTGetal:Lischcorne-aldystrophy:AutologousClimbalCtransplantationCasCde.nitivetreatment.JFrOphtalmolC46:e91-e92,C20238)LischW,TinerAB,Oe.nerFetal:LischcornealdystroC-phyisgeneticallydistinctfromMeesmanncornealdystro-phyCandCmapsCtoCXp22.3.CAmCJCOphthalmolC130:461-468,C20009)PattersonCK,CChongCJX,CChungCDDCetal:LischCepithelialCcornealCdystrophyCisCcausedCbyCheterozygousCloss-of-functionCvariantsCinCMCOLN1.CAmCJCOphthalmolC258:C183-195,C202410)JayneCSCW,CChristopherCJCR,CBertholdCSCetal:IC3DCClassi.cationCofCCornealCDystrophies-EditionC3.CConreaC43:466-527,C202411)IkegawaCY,CShiraishiCA,CHayashiCYCetal:InCVivoCConfo-calCMicroscopicCObservationsCofCVortexCKeratopathyCinCPatientsCwithCAmiodarone-InducedCKeratopathyCandCFabryDisease.JOphthalmolC2018:5315137,C201812)GrauCAE,CGonzalesCS,CZoroquiainCPCetal:EvidenceCforCautophagicvesiclesinapatientwithLischcornealdystro-phy.ArqBrasOfthalmolC83:146-148,C2020***

僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群の1 例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1332.1336,2025c僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群の 1例高橋秀児クリニック高橋眼科CA Case of Early-Stage Iridocorneal Endothelial Syndrome with Abnormal Endothelia in the Fellow Eye Shuji TakahashiCTakahashi Eye ClinicC目的:僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群(ICE症候群)のC1例をスペキュラーマイクロスコピー(SM)と生体共焦点顕微鏡(IVCM)の所見を中心に報告する.症例:65歳,男性.両眼の視力低下で受診.矯正視力は両眼ともC1.5.眼圧は両眼ともC17CmmHg.両眼の軽度の白内障と左眼では角膜後面に少数の虹彩色素の沈着を認めた.隅角は両眼に幅の狭い低い周辺虹彩前癒着(PAS)があった.SMでは右眼は各内皮細胞の中央にCdarkspotがあり,左眼ではCdark/light reversalがみられた.内皮細胞の平均面積(密度)は右眼C398±183Cμm2(2,515Ccells/mm2)左眼C480±379μm2(2,085cells/mm2).IVCMで右眼角膜内皮には細胞核と思われるC2.9.11.4μmzの輝度の異なる円形.類円形の構造物がみられた.両眼の実質深層では細胞突起を延ばした実質細胞同士が一部でつながっていた.本症例は両眼性のCChandler症候群になる可能性が考えられた.結論:片眼にCICE症候群を認めた場合には,僚眼もCSMやIVCMで精査しておくことが重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCearly-stageCiridocornealCendothelialsyndrome(ICEsyndrome)withCabnormalendothelia in the fellow eye, chie.y using specular microscopy(SM)and in vivoCconfocal microscopy(IVCM). Case report:AC65-year-oldCmanCpresentedCwithCbilateralCvisualCdisturbance.CBestCcorrectedCvisualCacuityCwasC20/13Cand intraocular pressure was 17CmmHg in both eyes(OU). Slit-lamp biomicroscopy showed bilateral mild cataract and some keratic precipitates(iris pigments)in the left eye(OS). Gonioscopy disclosed narrow and low peripheral anteriorCsynechiaeCOU.CSMCrevealedCcentralCdarkCspotCinCeachCendotheliumCinCtheCrighteye(OD)andCdark/lightCreversalCappearanceCOS.CMeanCendothelialCcellarea(density)wasC398±183Cμm2(2,515Ccells/mm2)ODCandC480± 379Cμm2(2,085Ccells/mm2)OS.CIVCMCrevealedCovalCheterochromicCstructuresCrangingC2.9-11.4Cμmz inCeachCendo-thelium OD, probably representing endothelial nucleus. The keratocyte processes were partially interconnected in the deep stroma creating a cell network OU. This case could potentially develop into bilateral Chandler syndrome. Conclusion:In cases of unilateral ICE syndrome, it is important to meticulously examine the fellow eyes using SM and/or IVCM.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)42(10):1332.1336,C2025〕 Key words:虹彩角膜内皮症候群,Chandler症候群,生体共焦点顕微鏡,スペキュラーマイクロスコピー,ICEcells.CIridocornealCendothelialCsyndrome,CChandlerCsyndrome,CinCvivoCconfocalCmicroscopy,CspecularCmicroscopy,CICECcells.Cはじめに虹彩角膜内皮症候群(iridocornealCendothelialsyndrome:ICE症候群)は片眼の角膜内皮が上皮様に変化して,その病変が隅角や虹彩に伸展すれば続発性緑内障をきたすことのある疾患である1,2).虹彩の形態異常や眼圧上昇による角膜浮腫に起因する霧視で眼科を受診することが多い.そのC1型であるCChandlersyndrome(CS)は他のC2型CessentialCirisatrophy(EIA),Cogan-Reesesyndrome(CRS)に比べて虹彩には異常をみつけにくく,初期に診断はつきにくい.細隙灯顕微鏡で角膜内皮側にCbeatenCmetalappearanceやスペキュラーマイクロスコピー(specularCmicroscopy:SM)で内皮のCdark/lightCreversal3)やCICECcells4,5)といわれる特徴〔別刷請求先〕 高橋秀児:〒743-0021 山口県光市浅江C3-17-1-101 クリニック高橋眼科Reprint requests:Shuji Takahashi, Takahashi Eye Clinic, 3-17-1-101 Asae, Hikari, Yamaguchi 743-0021, JAPANC1332(114)的な所見が診断の手がかりとなる.今回,初発白内障で角膜内皮を観察したところ,片眼にCSの所見,僚眼の角膜内皮にも異常所見を認めた症例を経験したので生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalCmicrosco-py:IVCM)の所見も含めて報告する.C
I 症   例患者:65歳,男性.主訴:両眼の視力低下.眼科的所見:視力は右眼C0.8(1.5C×.1.0D),左眼C1.0(1.5C× .1.0D),眼圧は両眼ともC17mmHg.両眼水晶体に軽度の皮質混濁(Emery-Little分類CGrade2).視神経乳頭CC/D比は両眼ともC0.7.網膜に異常なし.角膜厚は右眼C534μm,左眼C507Cμm.細隙灯顕微鏡で角膜に浮腫や混濁はなく(図 1),左眼角膜後面には軽度の虹彩色素の沈着を認めた.鏡面反射法でCbeaten metal appearanceはみられなかった.前房内炎症(C.).隅角は開放(Sha.er分類CGradeC3.4).両眼とも鼻側に虹彩突起の高位付着と,幅が狭く低い周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechiae:PAS)がみられた(図 2).SMでは右眼は細胞境界部が明瞭,個々の細胞の中央部に黒い類円形構造Cdark spotがみられるものが多かった.左眼は内皮細胞と境界部の輝度が逆転する典型的なCdark/light reversalがみられた.平均細胞面積,平均細胞密度は右眼C398±183Cμm2,2,515Ccells/mmC2,左眼C480C±379Cμm2,2,085Ccells/mm2(図 3).Heidelberg retina tomograph II/Rostock corneamoduleによるCIVCMでは,右眼は個々の内皮細胞中央部にC2.9.11.4CμmCzの円形.類円形の輝度の異なる構造物がみられた.細胞境界部は不明瞭だった.左眼ではCdark/Clightreversalの細胞群がみられた(図 4).細胞の大きさ,輪郭は異なるものの,上皮細胞と類似の輝度を呈していた(図 5a).両眼の実質深層には細胞突起を延ばし,隣接細胞とつながっている箇所がみられた(図 5b, c).両眼とも上皮,上皮下神経叢,実質内神経,Descemet膜には異常を認めなかった.Humphrey視野(30-2)ではCmeandeviation値が右眼+0.08dB,左眼C.0.24CdBと正常範囲であった.既往歴:過去に眼疾患(C.).コンタクトレンズ装用歴(C.).60歳時に経尿道的膀胱腫瘍切除術,現時点では経過観察のみ.家族歴:3歳上の姉は正常眼圧緑内障で加療中.角膜内皮に異常なし.C
II 考   察本症例はCSMを実施しなければ角膜内皮の異常は判明しなかった.細隙灯顕微鏡の鏡面反射法で左眼にCbeatenCmetalCappearance がみられなかったのは,上皮様変化をきたした内皮前房面がほぼ一様の変化をきたし,とくに突出したような箇所がなかったためと考えられる.SMでのCdark/light reversalは内皮前房面の鏡面反射が不整になることが原因とされ,内皮前房面の上皮様の多数の微繊毛5)が乱反射を起こすためとされている.SMで内皮の正常な六角形細胞の形態が失われ,多形性(六角形細胞の出現頻度低下pleomorphism)や大小不同(polymegathism)となり,dark/lightreversalを呈した内皮の細胞群がCICECcellsといわれるが,他疾患でも類似の所見がみられる.重症の虹彩毛様体炎で多数の角膜後面沈着物がみられる際,SMでCpseudoguttata6)が全面を覆った場合にもCdark/lightCrever-salがみられるが,本症例のような均一の内皮像ではなく,細胞も境界部も不均一である.CFuchsCcornealCendothelialdystrophy(FCED)でも内皮機能不全になるまで進行すると同様の所見を呈する.ICE症候群では,初期は比較的均一で,進行して眼圧上昇や内皮機能不全を起こすにしたがって内皮像は不均一となる.後部多形性角膜ジストロフィやposterior corneal vesiclesでも一部にCdark/light reversalがみられるが,細隙灯顕微鏡で角膜後面に特徴的なCbandやvesiclesの病変がみられる.CNationalCglaucomaresearchのCexpertinformationには,ICE症候群の特徴として①CswellingCofCtheCcornea,CorCtheclear front part of the eye,②Cabnormalities of the iris, the coloredCpartCofCtheCeyeCthatCcontainsCthepupil,③CaChighCriskCofdevelopingCglaucomaと記載されており,緑内障の発症には慎重である.ICE症候群の眼圧上昇の機序は上皮化した内皮細胞が進展して隅角部を閉塞したり,PASを形成することによる7,8).初期では病変は隅角に及んでおらず,眼圧上昇はきたさない.虹彩変化の少ないCCSの初期診断はSMやCIVCMに依存することになる.SMやCIVCMでみられたCICEcellsがCpathognomoniCc9),あるいは確定診断の根拠となる10,11)としている報告もある.本症例の左眼はCdark/lightreversalの範囲が広範でCPASもみられ,虹彩には明確な病変がみられないことよりCICE症候群のC1型であるCCSの眼圧上昇を伴わない初期と考えられる.可能な限り周辺部までCIVCMで観察したものの,正常角膜内皮は確認できなかったので,subtotal(+).totalICE症候群4,12)に該当する.同症候群では実質浅層の角膜神経が太くなる13),実質細胞の合胞体化(syncytia)13),高輝度の実質細胞の集簇14),Descemet膜内の曲線あるいは直線の線条構造13,14)などの報告がある.本症例でみられた実質深層の変化は実質細胞の活性化を意味しており,ICE症候群に炎症や創傷治癒などの関与を示唆する所見かもしれない.本例の角膜厚は両眼とも正常範囲内(517.5C±29.8Cμm)だが,左眼が薄くなっている.Alvaradoら15)は角膜移植で得られたC8例のCICE症候群ではCDescemet膜は肥厚していたものの,実質は正常眼より薄くなっていたと報告した.
図 1 前眼部写真 a:右眼.b:左眼.明らかな瞳孔偏位や虹彩異常は認めない.

図 2 隅角写真 a:右眼.Cb:左眼.虹彩突起の高位付着と幅の狭い低いCPASがみられた.
図 3 スペキュラーマイクロスコピーによる角膜内皮像( 1 scale: 100 μm) a:右眼.多くの内皮細胞の中央に類円形のCdarkspotがみられた.b:左眼.内皮細胞は暗く,細胞境界が明るいCdark/lightreversalがみられた.
図 4 生体共焦点角膜顕微鏡による角膜内皮像(画角 400×400 μm) a:右眼.細胞境界はやや不鮮明だが,各細胞の中央に大きさ・輝度の異なる円形.類円形の構造物がみられた.Cb:左眼.細胞境界は明るく鮮明,細胞は暗いCdark/light reversalを呈していた.
図 5 生体共焦点顕微鏡による角膜上皮,実質,内皮像(画角 400×400 μm) a:左眼.上C1/2が内皮,左下C1/4が上皮表層,右下C1/4が上皮基底細胞層(5,627C±43Ccells/mm2).b, c:右眼(b),左眼(Cc)とも実質深層で細胞突起を延ばした実質細胞がつながっていた.Harveyら16)はCICE症候群で角膜厚が僚眼に比して菲薄化していたと報告した.角膜内皮の溶質の透過性の低下17)に起因しており,菲薄化が眼圧上昇前のCICE症候群の特徴ではないかと仮説している.今後,多症例での検討が待たれる.一方で,右眼のCIVCMでは明るい個々の内皮細胞の中央に不均一な大きさと輝度の円形から類円形の構造物がみられた.細胞境界はまたがず,内皮細胞とはおおむねC1対C1対応であった.ICE症候群を走査型電子顕微鏡で検討したCAlvaradoraら18)はCCS5例,EIA3例で内皮細胞にC1対C1対応で中央部に前房側に突出したCblebを証明した.またCLeeら19)は内皮細胞核の前房への突出部Cbulgeを電子顕微鏡で示した.この所見は本症例の右眼のCIVCM像に酷似していた.Shimazakiら20)はCSMで可逆性のCdark/lightCreversalCのC2症例がCIVCMでは本症例と同様な内皮細胞にC1対C1対応するChypore.ectiveCstructureがみられたと報告した.前房内に細胞成分のない浮遊物質が発現するものの,明確な炎症所見はなかった.虹彩・隅角に異常は認めなかったものの,ICE症候群の初期の可能性を示唆した.ICE症候群で細胞核は中央部で輝度が高くなるという異なった報告もある13,14,21).本症例の右眼内皮のCSMとCIVCMの所見の違いは,前者が光学的に一平面,後者はC4Cμmと厚さのある断面を捉えていることによると考えられる.ICE症候群の僚眼に関して,Chandranら22)のインドにおけるCICE症候群C203例のコホート研究では,20例(10%)が両眼性だった.内訳は両眼がCCS(6例),両眼がCEIA(5例),CSの僚眼がCEIA(7例),EIAの僚眼がCCRS(1例),EIAの僚眼にCICEcells(1例).Hemadyら23)は両眼のCICE症候群をC1例,自施設の過去C6例の僚眼にはCSMでも異常は認めなかったと報告した.また,両眼性の症例をC12文献で調べ,経時的観察の必要性も示唆した.以上により,片眼にCICE症候群を認めた場合は僚眼もくまなく検査するだけでなく,経時的に観察を続ける必要があると考える.今後,本症例では眼圧上昇・内皮機能不全など視機能を低下させる事象に留意しながら右眼内皮細胞のCICE cellsへの変化も含めてCSM,IVCMで経過観察していく予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献1)Yano.M:IridocornealCendothelialsyndrome:uni.cationCof a disease spectrum. Surv OphthalmolC24:1-2,C1979
2)SilvaCL,CNaja.CA,CSuwanCYCetal:TheCiridocornealCsyn-drome. Surv OphthalmolC63:665-676,C2018
3)HirstCLW,CQuigleyCHA,CStarkCWJCetal:SpecularCmicros-copy of irido-corneal endothelial syndrome. Am J Ophthal-molC89:11-21,C1980
4)SherrardCES,CFrangoulisCMA,CKerrCMuirCMGCetal:TheCposteriorCsurfaceCofCtheCcorneaCinCtheCiridocornealCendo-thelialsyndrome:aCspecularCmicroscopicCstudy.CTransCOphthalmol Soc UKC104:766-781,C1985
5)HirstCLW,CGreenCWR,CKuesHA:ClinicalCspecularCmicro-scopic/pathologic correlation. CorneaC2:159-184,C1983
6)Krachmer JH, Schnitzer JI, Fratkin J:Cornea pseudogut-tata. Arch OphthalmolC99:1377-1381,C1981
7)Laganowski HC, Kerr Muir MG, Hitchings RA:Glaucoma andCtheCiridocornealCendothelialCsyndrome.CArchCOphthal-molC110:346-350,C1992
8)SilvaCL,CNaja.CA,CSuwanCYCetal:TheCiridocornealCendo-thelial syndrome. Surv OphthalmolC63:665-676,C2018
9)MatthewCDL,CAngeloPT:IridocornealCendothelialCsyn-drome:KeysCtoCdiagnosisCandCmanagement.CGlaucomaTodaySeptember/October:53-56, 2012

10)Sacchetti M, Mantelli F, Marenco M et al:Diagnosis and management of iridocorneal endothelial syndrome. BioMed Res IntC2015:763093,C201511)Sheppard Jr, JD, Lattanzio FA, Williams PB et al:Confo-calCmicroscopyCusedCasCtheCde.nitive,CearlyCdiagnosticCmethod in Chandler syndrome. CorneaC24:227-229,C200512)LaganowskiCHC,CSherrardCES,CKernCMuirCMGCetal:Dis-tinguishingCfeaturesCofCtheCiridocornealCendothelialCsyn-dromeCandCposteriorCpolymorphousdystrophy:valueCofCendothelialCspecularCmicroscopy.CBrCJCOphthalmolC75:C212-216,C199113)Grupcheva CN, McGhee C NJ, Dean S et al:In vivoCcon-focal microscopic characteristics of iridocorneal endothelial syndrome. Clin Exp OphthalmolC32:275-283,C200414)PezziCPP,CMarencoCM,CCosimiCPCetal:ProgressionCofCessentialCirisCatrophyCstudiedCwithCconfocalCmicroscopyCandCultrasoundbiomicroscopy:AC5-yearCcaseCreport.CCorneaC28:99-102,C200915)AlvaradoCJA,CMurphyCCG,CJusterCRPCetal:PathogenesisCofCChandler’sCsyndrome,CessentialCirisCatrophyCandCtheCCogan-ReeseCsyndrome.CII.CEstimatedCageCatCdiseaseConset. Invest Ophthalmol Vis SciC27:873-882,C198616)HarveyCMM,CSchmitzJW:CorneaCthinningCinCtwoCcasesCof ICE syndrome. BMJ Case RepC13:e236354,C202017)Bourne WM, Brubaker RF:Decreased endothelial perme-abilityCinCtheCiridocornealCendothelialCsyndrome.COphthal-mologyC89:591-595,C198218)AlvaradoCJA,CMurphyCCG,CMaglioCMCetal:PathogenesisCofCChandler’sCsyndrome,CessentialCirisCatrophyCandCtheCCogan-Reese syndrome. I. Alterations of the corneal endo-thelium. Invest Ophthalmol Vis SciC27:853-872,C198619)LeeCWR,CMarshallCGE,CKirknessCM:CornealCendothelialCcellCabnormalitiesCinCanCearlyCstageCofCiridocornealCendo-thelial syndrome. Br J OphthalmolC78:624-631,C199420)ShimazakiCJ,CDenCS,CSatakeCYCetal:ContinuousCacellularCmaterialCaccumulationCinCtheCanteriorCchamberCassociatedCwithCcornealCendothelialCchanges.CBMJCCaseCRepC13:Ce237417,C202021)Garibaldi DC, Schein OD, Jun A:Features of the iridocor-neal endothelial syndrome on confocal microscopy. CorneaC24:349-351,C200522)Chandran P, Rao HL, Mandal AK et al:Glaucoma associ-ated with iridocorneal endothelial syndrome in 203 indian subjects. PLoS OneC12:e0171884,C201723)Hemady RK, Patel A, Blum S et al:Bilateral iridocorneal endothelialsyndrome:caseCreportCandCreviewCofCtheClit-erature. CorneaC13:368-372,C1994*     *     *

真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(5):737.741,2014c真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例友岡真美*1鈴木崇*1鳥山浩二*1井上智之*1原祐子*1山口昌彦*1林康人*1鄭暁東*1白石敦*1宇野敏彦*2宮本仁志*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2明世社白井病院*3愛媛大学医学部附属病院診療支援部ACaseofMicrosporidialKeratitisAccompaniedwithFungalKeratitisMamiTomooka1),TakashiSuzuki1),KojiToriyama1),TomoyukiInoue1),YukoHara1),MasahikoYamaguchi1),YasuhitoHayashi1),ZhengXiaodong1),AtsushiShiraishi1),ToshihikoUno2),HitoshiMiyamoto3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)ShiraiHospital,3)DepartmentofClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospitalMicrosporidia(微胞子虫)による角膜炎は,インドやシンガポールなどに認められるが,わが国では報告例はない.今回,microsporidiaによる角膜炎と思われる1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の既往があり,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より,角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認めていたが,抗菌薬点眼とステロイド点眼にて軽快と増悪を繰り返していた.さらに,顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜中央部に強い細胞浸潤が出現してきたため,病巣部を擦過した.直接鏡検を行ったところ,酵母様真菌を認め,培養においてもCandidaalbicansが分離されたため,ミカファンギン・ボリコナゾール点眼を開始した.治療開始後,強い細胞浸潤は消失するも,角膜全体に存在する淡い顆粒状の細胞浸潤は軽快せず,再度角膜擦過を行い,鏡検をしたところ,ファンギフローラ染色で直径2.3μmの卵形に染色される像を認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色においても,赤色に染色される卵形の像を多数認めた.染色所見よりmicrosporidiaによる角膜炎を考慮し,ガチフロキサシン点眼,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼を開始したところ,徐々にではあるが,細胞浸潤は軽快している.筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎を経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性が考えられた.AlthoughcasesofmicrosporidialkeratitishavebeenreportedinIndiaorSingapore,therehavebeennoreportsoftheconditioninJapan.Weexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitis.Thepatient,a71-year-oldmalewhohaddevelopedperipheralulcerativekeratitisinassociationwithrheumatoidarthritis,hadbeengiventopicalantimicrobialagentsandsteroidsoveralongterm.For2years,hehadshowngranularinfiltrationoveralargeareaofthecornealstroma,oftenrelapsingafterinstillationofantimicrobialagentsandsteroid.Alongwithgranularinfiltration,stronginfiltrationappearedinthecentralcornea.Directmicroscopyofscrapedspecimensdisclosedthepresenceofyeast-likefungus;theculturereportsconfirmedthepresenceofCandidaalbicans.Weconsideredfungalkeratitis,andbegantreatmentwithtopicalmicafunginandvoriconazol.Althoughthestronginfiltrationdisappearedaftertherapyinitiation,thegranularinfiltrationremained;microbialexaminationofscrapedspecimenswasthereforeperformedagain.Directmicroscopyrevealednumerous2-3μmsporesstainedbyfungifloraYandmodifiedKinyoun’sacid-faststain.Sincemicrosporidialkeratitiswasdiagnosedbydirectmicroscopyfindings,weinitiatedinstillationoftopicalgatifloxacinandpolyhexamethylenebiguanide.Thegranularcellinfiltrationgraduallydecreased.WeexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitisaccompaniedbyC.albicanskeratitis.Microsporidialkeratitiscouldbecausedinpatientswhohavelocalimmunesuppressionduetotopicalsteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):737.741,2014〕Keywords:角膜炎,真菌,微胞子虫,鏡検,生体共焦点顕微鏡.keratitis,fungi,microspordia,smear,invivoconfocalmicroscopy.〔別刷請求先〕友岡真美:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:MamiTomooka,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)737 はじめにMicrosporidia(微胞子虫)はさまざまな動物やヒトの細胞内に寄生する単細胞真核生物の寄生原虫の一群で,胞子は1.40μm程度の卵形をしている.これまでに1,200種以上が知られており,昆虫,甲殻類,魚類,ヒトを含む哺乳類などに感染する病原体が多く含まれている.おもに免疫不全患者に多臓器疾患を引き起こす日和見病原体であるが,免疫正常者への感染報告もある1).一方,microsporidiaによる角膜炎は,健常者においても認められ,インド,シンガポール,台湾において報告されている2).Microsporidiaは水・家畜・昆虫などを介してヒトに感染するため,土壌汚染の可能性のある農業従事者や温泉利用者での報告例が多い3,4).また季節性の影響もあり,夏に発症頻度が高いといわれている5).リスクファクターとして,角膜外傷の既往や免疫抑制薬の使用歴,屈折矯正手術が挙げられる5).臨床所見では軽度.中等度の充血が認められ,角膜像は多発性で斑状の上皮障害から角膜膿瘍までさまざまである.診断には塗抹標本鏡検の像が用いられ,なかでも胞子が赤く染色される抗酸性染色が特に有用といわれている2).培養では増殖せず,PCR(polymerasechainreaction)検査や生体共焦点顕微鏡検査は補助診断として利用されている3,5).今回筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が疑われた1例を経験したので,その臨床経過について報告する.なお本投稿は,本人の自由意思による同意を得ているものである.I症例患者:71歳,男性.主訴:右眼視力低下.職業:農業従事者.現病歴:昭和52年より,右眼の関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍に対して,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より右眼の角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認め,種々の抗菌点眼薬や,ステロイド点眼の治療により寛解と増悪を繰り返していた.しかし,平成24年12月に顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜下方に比較的強い細胞浸潤が出現してきたため,12月18日加療目的にて愛媛大学病院眼科へ紹介受診となり,同日入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.02.眼圧は右眼5mmHg,左眼17mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査において右眼角膜は周辺部潰瘍を繰り返しているため混濁しており,鼻側からの結膜侵入を伴っていた.混濁のない角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤を認め,下方に上皮欠損を伴う比較的強い浸潤病巣を認めた(図1).生体共焦点顕微鏡検査では,角膜実質表層に分節状の菌糸様の像が観察された(図2).眼底検査では,右眼において視神経乳頭陥凹の拡大を認め,左眼においては視神経乳頭の蒼白を認めた.経過:前眼部検査および生体共焦点顕微鏡検査において,真菌による角膜炎を疑い,病巣擦過物の塗抹検査を行ったところ,発芽した酵母様真菌を認め(図3),培養検査ではCandidaalbicans(C.albicans)が多数検出された.酵母真菌薬剤感受性キット(ASTY)を用いて,分離真菌に対する薬剤感受性検査では抗真菌薬に対する感受性が良好であった(表1).これらよりC.albicansによる角膜炎と診断し,0.1%ボリコナゾール・0.25%ミカファンギン点眼,イトラコナゾール(150mg/day)内服を開始した.しかし治療開始1カ月後,下方の浸潤病巣は軽快するも顆粒状の細胞浸潤は改善AB図1入院時細隙灯顕微鏡検査A:角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤(黒矢印)と,下方には比較的強い浸潤病巣を認める(白矢印).B:角膜下方に上皮欠損を認める.738あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(112) 5μmAB5μmAB図2生体共焦点顕微鏡検査A:入院時.角膜表層に分節状の菌糸様の像(黒矢印)と円形の高輝度像(白矢印)を認める.B:治療後.菌糸様の像が消失してもなお,円形の高輝度像(白矢印)は残存している.5μm図3病巣擦過物の塗抹検査発芽した酵母様真菌像(黒矢印)と直径2.3μm卵形のグラム陰性.陽性の像(白矢印)を認める.表1分離真菌に対する薬剤感受性検査薬剤ミカファンギンアムホテリシンBフルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾールミコナゾールピマリシンMICμg/ml(判定)0.03(S)0.5(S)0.5(S)0.06(S)0.03(S)0.12(S)8しておらず(図4),診断再考の必要性があった.治療に使用したボリコナゾールやミカファンギンに対する感受性が良好であること,角膜下方の細胞浸潤は瘢痕化していること,長期ステロイド点眼投与による局所的免疫不全があることより,真菌以外の病原体による角膜炎または非感染性の角膜炎の可能性が考えられた.そこで再度入院時に施行した塗抹検査を見直してみると,酵母様真菌以外に直径2.3μm大の卵形の像を認めた(図3).また生体共焦点顕微鏡検査においても,入院時,菌糸様の像以外に円形の高輝度像を認め,真菌治療後には菌糸様の像が消失してもなお円形の高輝度像が残存していた(図2).そこで再度角膜全体の擦過を行い,擦過物に対して塗抹検査を行ったところ,ファンギフローラ染色において直径2.3μm大の卵形の像を多数認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色では陽性に染色される卵形の像を認めた(図5).塗抹検査所見から角膜擦過物内野にmicrosporidiaが存在している可能性が高いことから,microsporidiaによる角膜炎の合併が考えられたため,0.02%PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼,0.3%ガチフロキサシン点眼を追加し,ゆっくりではあるが角膜中央部の顆粒状の細胞浸潤は改善した.しかし遷延性上皮欠損が出現したため,薬剤毒性を考慮しボリコナゾールを中止,低濃度ステロイド点眼とレバミピド点眼を追加して上皮は修復さ(113)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014739 れた.残存した浸潤病巣に対しては,現在1%ボリコナゾールを点眼し外来で経過観察している.II考察Microsporidiaによる角膜炎は,非常にまれな角膜炎で筆者らが調べた限り,わが国では報告例がない.しかしながら,海外での報告例が増加していることやmicrosporidiaが環境中に存在していることより,わが国においても今後の発生には注意が必要と思われる.Microsporidiaによる角膜炎の臨床病型は,結膜炎を伴い角膜上皮に病変があるタイプと角膜実質に炎症を引き起こすタイプに分けられる.Dasらは,インドにおいて277症例のmicrosporidiaによる角膜炎を報告しているが,その誘因として外傷が21.2%,ステロ図4治療開始1カ月後の細隙灯顕微鏡検査淡い顆粒状の細胞浸潤は改善していない.5μm5μmAB図5再度施行した病巣擦過物の塗抹検査A:ファンギフローラ染色.丸.卵形の直径2.3μmの像を認める.B:Kinyoun染色.赤く染まる卵形の像を認める.イド点眼の使用が11.9%であった5).さらに,多くの症例で初期診断が困難で,41.4%で局所抗菌薬治療,23%で局所抗ウイルス薬治療が行われていた5).同報告ではすべての症例が結膜炎とともに角膜上皮に斑状の上皮欠損を伴う上皮病変であり,診断にはcalcofluorwhitestainとグラム染色によって行われていた5).一方,角膜実質炎の病型として発症する症例も存在しているが,円板状の角膜実質炎の病型を示している症例が多かった3).本症例は真菌性角膜炎との合併に加えて,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の罹患歴が長いことから,臨床所見を読み取ることが困難であった.しかし抗真菌薬治療後にも残存していた角膜実質内の点状もしくは顆粒状の細胞浸潤がmicrosporidiaによる角膜炎の臨床所見と一致することから筆者らは鑑別診断として考慮した.本病原体が培養検査では検出不能であるために塗抹検査が必要であり,本症例においてはmicrosporidiaと真菌の塗抹像の違いを見きわめることが重要であった.グラム染色において真菌は陽性に染色されるが,microsporidiaは陽性だけでなく陰性の像も認められることがあり,また,抗酸性染色では真菌は染色されないのにmicrosporidiaは陽性に赤く染まることが特徴である.本症例の塗抹標本でも前述したmicrosporidiaに一致する像が認められており,本症例はC.albicans感染症だけでなくmicrosporidiaによる角膜炎の合併が最も疑わしいと考えた.Microsporidiaによる角膜炎の報告数は近年増加しているが,治療法はいまだに確立されていないのが現状である.対処療法としては,アカントアメーバ角膜炎同様に擦過除去が最も有効といわれている5).薬物治療では,駆虫薬であるアルベンダゾールやイトラコナゾールの全身投与,フルオロキノロン,ボリコナゾール,PHMB,クロルヘキシジンの局所投与が有効という報告がある4).本症例では薬物治療に加え740あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(114) て角膜擦過も頻回に行ったが,遷延性上皮欠損となったため,積極的治療を継続できなくなった.過去には薬物治療抵抗例に全層角膜移植(PKP)や深層層状角膜移植(DALK)を行い奏効した例が報告されている6).しかし本症例は残された唯一の眼であり,外科的治療の適応を慎重に検討しなければならない.今回真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が強く疑われた症例をわが国では初めて経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性があると考えられた.さらに抗酸性染色などの塗抹標本検査が診断に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DidierES,WeissLM:Microsporidiosis:notjustinAIDSpatients.CurrOpinInfectDis24:490-495,20112)SharmaS,DasS,JosephJetal:Microsporidialkeratitis:needforincreasedawareness.SurvOphthalmol56:1-22,20113)FanNW,WuCC,ChenTLetal:Microsporidialkeratitisinpatientswithhotspringsexposure.JClinMicrobiol50:414-418,20124)Tung-LienQuekD,PanJC,KrishnanPUetal:Microsporidialkeratoconjunctivitisinthetropics:acaseseries.OpenOphthalmolJ5:42-47,20115)DasS,SharmaS,SahuSKetal:Diagnosis,clinicalfeaturesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol96:793-795,20126)MurthySI,SangitVA,RathiVMetal:MicrosporidialsporescancrosstheintactDescemetmembraneindeepstromalinfection.MiddleEastAfrJOphthalmol20:80-82,2013***(115)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014741