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両眼に渦状混濁を伴ったLisch 角膜ジストロフィが疑われる 1 例

2025年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科42(11):1459.1463,2025c両眼に渦状混濁を伴ったLisch角膜ジストロフィが疑われる1例竹澤由起*1井上英紀*1鳥山浩二*1坂根由梨*1鎌尾知行*1,2田坂義孝*2溝上志朗*1,2白石敦*1大橋裕一*2*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2南松山病院眼科CACaseofSuspectedLischEpithelialCornealDystrophywithBilateralVortexKeratopathyYukiTakezawa1),HidenoriInoue1),KojiToriyama1),YuriSakane1),TomoyukiKamao1,2)C,YoshitakaTasaka2),ShiroMizoue1,2)C,AtsushiShiraishi1)andYuichiOhashi2)1)DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospitalC目的:Lisch角膜上皮ジストロフィ(LECD)は羽毛状の角膜混濁を特徴とする常染色体優性遺伝疾患である.ライソゾーム関連蛋白であるCMCOLN1遺伝子変異が原因の一つとされるが,わが国でCLECDの報告はない.今回,片眼のカブトガニ様上皮混濁と両眼の渦状混濁を伴ったCLECDが疑われるC1例を経験した.症例:56歳,女性.緑内障に対し点眼加療中に右眼の霧視を訴えた.右眼角膜中央部にカブトガニ様の上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.全身疾患や特記すべき薬剤の服用歴はなく,生体共焦点顕微鏡(IVCM)では,病変部に高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が観察された.結論:渦状混濁を伴う点は既報とは異なるが,特有の上皮混濁とIVCM所見からCLECDが疑われた.IVCM所見はライソゾーム関連疾患の角膜混濁とも合致しており,本例はCLECDの新たな表現型である可能性が考えられた.今後は確定診断のためCMCOLN1遺伝子変異の検索や混濁病変の病理学的検索を含めた精査を行う必要がある.CPurpose:Lischepithelialcornealdystrophy(LECD)ischaracterizedbyfeatheryopacityarisingfromthelim-buswithautosomaldominantinheritance,andisthoughttobecausedbyageneticmutationofMCOLN1,alyso-some-associatedCprotein,CwhichChasCnotCpreviouslyCbeenCreportedCinCJapan.CHereinCweCreportCaCcaseCofCsuspectedCLECD.CCaseReport:AC56-year-oldCfemaleCcomplainedCofCblurredCvisionCinCherCrightCeye.CSlit-lampCexaminationCrevealedthepresenceofacrab-shapedepithelialopacityatthecenterofthecorneaoftherighteyeandbilateralvortexCkeratopathy.CInCvivoCconfocalmicroscopy(IVCM).ndingsCshowedCthatCtheClesionCconsistedCofCclustersCofCepithelialCcellsCwithChyperre.ectiveCcytoplasmCandChypore.ectiveCnuclei.CConclusions:AlthoughCvortexCkeratopa-thydi.eredfrompreviousreports,thecrab-shapedepithelialopacityandcharacteristicIVCM.ndingssupportedtheCdiagnosisCofCLECD.CSuchCIVCMC.ndingsCareCconsistentCwithCthoseCofClysosomalCstorageCdiseases,CsuggestingCthatvortexkeratopathymaybeanovelphenotypeofLECD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(11):1459.1463,C2025〕Keywords:Lisch角膜上皮ジストロフィ,角膜上皮混濁,渦状混濁,生体共焦点顕微鏡,ライソゾーム.Lischep-ithelialcornealdystrophy,cornealepithelialopacity,vortexkeratopachy,invivoCconfocalmicroscopy,lysosome.CはじめにLisch角膜上皮ジストロフィ(LischCepithelialCcornealdystrophy:LECD)は,1992年にCLischらが最初に報告した常染色体顕性の遺伝性疾患で,両眼性あるいは片眼性の境界明瞭な羽毛状の角膜上皮混濁を臨床的な特徴とする.混濁病変の多くは角膜輪部から連続性を有し,通常は無症状であるが,病変が中央部に達すると霧視や視力低下を訴えることがある.病理学的には翼細胞層を中心に細胞質内に多数の空胞変性像が認められるのが特徴で,近年はライソゾームに関連する蛋白であるムコリピンC1(MCOLN1)の遺伝子変異が〔別刷請求先〕竹澤由起:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiTakezawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANC右眼左眼図1当院初診時の前眼部写真右眼は角膜中央にカブトガニ様の混濁病変を認め,また,両眼とも角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.フルオレセイン染色では明らかな上皮病変は認めなかった.原因の一つであることが明らかにされている.わが国では,類似症例の報告はこれまでに散見されるが,LECDとしての報告はない.今回,片眼の特異なカブトガニ様角膜上皮混濁と両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁を主徴とし,LECDが疑われるC1症例を経験したので報告する.CI症例患者:55歳,女性.主訴:右眼霧視既往歴:子宮筋腫,虫垂炎,不妊治療で多胎妊娠の既往はあるが,アミオダロンなどの特記すべき薬剤の服用歴はない.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の正常眼圧緑内障のため南松山病院においてカルテオロール・ラタノプロスト配合点眼薬C1剤で両眼加療中であったが,前医での定期診察時に約C1カ月前からの右眼霧視の訴えがあり,右眼角膜中央に白色上皮混濁および両眼の角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めた.1週間後に原因精査のため愛媛大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時所見および経過:視力は右眼1.2Cp(1.2C×cyl.0.50DAx80°),左眼C1.2(1.2×+0.50D(cyl.0.75DAx90°),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.右眼角膜中央にカブトガニ様の白色上皮混濁,両眼角膜中央やや下方にアミオダロン角膜症様の渦状混濁を認めたが,フルオレセイン染色では両眼とも明らかな上皮欠損などの所見は認めなかった(図1).両眼とも正常眼圧緑内障の他は中間透光体および網膜に異常を認めなかった.生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalmicroscopy:IVCM)で角膜混濁病変部を観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁の両方ともに,高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ角膜上皮細胞が集簇して観察された(図2,3).初診時よりC6カ月後に観察したところ,右眼のカブトガニ様混濁は消退しており,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁は形状にやや変化がみられた(図4).CII考按今回,両眼のアミオダロン角膜症様の渦状混濁と片眼にカ図2右眼角膜混濁病変部の生体共焦点顕微鏡(IVCM)画像所見上段:3点ともカブトガニ様混濁部の画像.下段:2点とも渦状混濁病変部のCIVCM画像.どちらも低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ上皮細胞が集簇していた.図3左眼角膜混濁病変部のIVCM画像所見左眼の渦状混濁病変部のCIVCM画像である.右眼と同様,低輝度な核と高輝度な細胞質をもつ角膜上皮細胞が確認された.ブトガニ様角膜上皮混濁を呈するC1症例を経験し,LECDの可能性を疑った.LECDは,片眼または両眼の羽毛状・渦状の角膜上皮混濁を呈し,病変部の光学顕微鏡所見では細胞質空胞化を特徴とする新たな上皮ジストロフィとして,LischらがC1992年に最初に報告した1).Kurbanyanら2)は,LECDに対しCIVCMによる検討を行い,病変部において角膜上皮全層にわたる高輝度な細胞群を観察したところ,病変部と正常部の境界はきわめて明瞭であり,低輝度な核と高輝度な細胞質は細胞の空胞変性という病理学的特徴によく一致すると報告している.わが国においては,宇野らが輪部から連続するオタマジャクシ様の角膜混濁の症例をC1994年に報告している3)が,LECDとしては報告されていない.しかし,その臨床所見や,病巣掻爬後もすぐに輪部から混濁が再発したといった経図4初診時より6カ月後の前眼部写真a:右眼.b:左眼.右眼にあったカブトガニ様混濁は消退し,両眼の渦状混濁も形状に変化がみられた.過,さらに掻爬後の病変上皮に空胞変性がみられたという病理所見など,既報のCLECDと一致する点が多い.わが国ではこのようにCLECDに類似した症例の報告は散見されるものの,LECDとしての報告は未だない.本症例からCLECDの可能性を考えた理由として,IVCMでの所見があげられる.本症例の病変部をCIVCMで観察すると,カブトガニ様混濁および渦状混濁ともに同一であり,Kurbanayanらの報告2)に一致した所見が得られた.鑑別疾患としてはCMeesmann角膜ジストロフィや上皮基底膜ジストロフィが考えられたが,本症例ではCmicrocyst様の角膜上皮所見やフルオレセイン染色での上皮欠損や上皮の乱れは認めず,また角膜上皮基底膜病変も認めなかった.角膜渦状混濁をきたす点ではCFabry病やアミオダロンなどの薬剤起因性の角膜上皮異常4)も考えられるが,本症例では家族歴はなく,アミオダロンなどの薬剤投与歴もなかった.しかし,本症例が既報のCLECDと異なる部分もあげられる.一つは混濁病変が輪部と連続していない点,さらに,アミオダロン角膜症を思わせる渦状混濁を伴う点である.既報におけるCLECDの病変は輪部から連続した角膜混濁で掻爬後も再発が多い5)とされ,病変は輪部の上皮幹細胞より由来していると考えられている5)が,詳細は未だ不明である.また,既報のCLECDにおける混濁病変の形状は羽毛状や棍棒様,車軸様などさまざまあるが,アミオダロン角膜症様の渦状混濁の報告はみられていない.本症例ではカブトガニ様混濁とともに形状の異なる二つの混濁病変が同一眼に認められ,それぞれ別の病態によるものか,もしくは同一の病態による可能性が考えられた.IVCMでは二つの形状の異なる混濁病変はともに高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ同一の所見が得られ,形状は異なるものの混濁病変としては同一の病態の可能性が高いと推測される.また,本症例では半年間の経過中にカブトガニ様混濁が自然消退していた.アミオダロン様渦状混濁も形状変化をきたしており,二つの混濁病変はともに角膜上皮の流れとともに形状変化,自然脱落した可能性が考えられた.これまでにLECDにおける角膜混濁が自然消退した報告はなく,既報ではCLECDの混濁病変に対する治療として,単純掻爬やソフトコンタクトレンズ装用の報告があるが,再発も多い5).また,近年ではC5-フルオラシル(.uorouracil:FU)点眼の使用6)や僚眼からの自己輪部角膜移植などの報告7)もある.本症例の混濁病変は輪部と連続しておらず,病変の由来は不明であるが,今後再発する可能性も十分考えられる.LECDの遺伝子異常についてC2000年のCLischらの報告8)では,LECDの家系についてCMeesmann角膜ジストロフィに関連したケラチンCK3,K12の遺伝子異常の有無を検索し,LECDはCMeesmann角膜ジストロフィとは遺伝子的に異なることが確認された.さらに,2024年のCPattersonらの報告9)では,LECDのC13家系を包含した多施設スタディにおいて,第C19染色体上にあCMCOLN1の遺伝子変異が判明した.発症は基本的にヘテロ接合体のハプロ不全により生じるとされているが,疾患頻度から考えるとこの遺伝子変異に加えて,プラスCaの因子が必要なのではないかと推論されている.これらの報告より,以前CLECDの遺伝形式はCX連鎖性とされていた8)が,2024年の国際角膜ジストロフィ分類委員会(InternationalCCommitteeCforCClassi.cationCofCCor-nealDystrophies:IC3D)の報告10)では常染色体顕性に改められた.本症例では,患者の親に特記すべき眼科疾患の既往はなく,患者の子には現時点で明らかな角膜上皮混濁は認めていない.IC3Dの報告10)では,LECDの家族性の症例はすべて両眼性であり,孤発例では片眼性または両眼性であるとされている.本症例も孤発例の可能性はあるが,今後患者本人および家族のCMCOLN1遺伝子変異の検索を検討していく方向である.LECDにおいて変異が報告されたCMCOLN1遺伝子は,ムコリピンC1というライソゾームの膜状にあるイオンチャネル蛋白をコードしている.そのため,LECDの発症にはライソゾームが関与していると考えられている9).ライソゾームはほかの疾患における角膜混濁にも関連しており,ライソゾーム内への薬剤の蓄積がかかわるアミオダロン角膜症や,ライソゾーム病であるCFabry病での角膜混濁がよく知られている.それらの疾患におけるCIVCMの所見でも,角膜混濁部と正常部の境界は明瞭であり,混濁部では高輝度な細胞質と低輝度な核をもつ上皮細胞群が共通してみられることが報告されている11).この「高輝度な細胞質」の本態は,病理学的には異常物質を含んだ多数のライソゾームの集積像であり,アミオダロン角膜症やCFabry病などのライソゾーム関連疾患の角膜混濁に特有の所見と考えられる11).LECDにおいても,病変部の電子顕微鏡的検索では空胞変性の本態はCautophagosomeやCautolysosomeと考えられており12),IVCMの所見含めライソゾーム関連疾患の角膜混濁と共通している.本症例の所見もCLECDやライソゾーム関連疾患の所見と合致しており,ほかに渦状角膜を生ずる原因がないことを踏まえれば,LECDの新たな表現型,もしくはライソゾーム機能異常に伴う角膜混濁の可能性が示唆された.しかし,本症例ではCIVCMの所見以外での病理学的検索や遺伝子的検索が行われておらず,確定診断には至っていない.よって今後,家族の遺伝的スクリーニングや責任遺伝子とされCMCOLN1遺伝子変異の検索,また,可能であれば混濁病変部の病理学的検査を含めたさらなる精査を行う必要がある.本論文は第C78回臨床眼科学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LischCW,CSteuhlCKP,CLischCCCetal:ACnew,Cband-shapedCandwhorledmicrocysticdystrophyofthecornealepithe-lium.AmJOphthalmolC114:35-44,C19922)KurbanyanK,SejpalKD,AldaveAJetal:Invivoconfo-calCmicroscopicC.ndingsCinCLischCcornealCdystrophy.CCor-neaC31:437-441,C20123)宇野敏彦,大橋裕一,井上幸次ほか:輪部から発生した再発性角膜上皮混濁のC1例.臨眼C48:709-713,C19944)RaizmanCMB,CHamrahCP,CHollandCEJCetal:Majorreview:Drug-inducedCcornealCepithelialCchanges.CSurvCOphthalmolC62:286-301,C20175)LischCW,CWasielica-PoslednikCJ,CLischCCCetal:ContactClens-inducedregressionofLischepithelialcornealdystro-phy.CorneaC29:342-345,C20106)MonaM,ArzeK,GalorAetal:RecurrentLischepitheli-alCcornealCdystrophyCtreatedCwith5-.uorouracil:ACcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CCorneaC42:645-647,C20237)Cano-OrtizA,VentosaAS,CrucesTGetal:Lischcorne-aldystrophy:AutologousClimbalCtransplantationCasCde.nitivetreatment.JFrOphtalmolC46:e91-e92,C20238)LischW,TinerAB,Oe.nerFetal:LischcornealdystroC-phyisgeneticallydistinctfromMeesmanncornealdystro-phyCandCmapsCtoCXp22.3.CAmCJCOphthalmolC130:461-468,C20009)PattersonCK,CChongCJX,CChungCDDCetal:LischCepithelialCcornealCdystrophyCisCcausedCbyCheterozygousCloss-of-functionCvariantsCinCMCOLN1.CAmCJCOphthalmolC258:C183-195,C202410)JayneCSCW,CChristopherCJCR,CBertholdCSCetal:IC3DCClassi.cationCofCCornealCDystrophies-EditionC3.CConreaC43:466-527,C202411)IkegawaCY,CShiraishiCA,CHayashiCYCetal:InCVivoCConfo-calCMicroscopicCObservationsCofCVortexCKeratopathyCinCPatientsCwithCAmiodarone-InducedCKeratopathyCandCFabryDisease.JOphthalmolC2018:5315137,C201812)GrauCAE,CGonzalesCS,CZoroquiainCPCetal:EvidenceCforCautophagicvesiclesinapatientwithLischcornealdystro-phy.ArqBrasOfthalmolC83:146-148,C2020***