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網膜動脈閉塞症の全身併存疾患の検討:単一施設後向き研究

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1341.1344,2025c網膜動脈閉塞症の全身併存疾患の検討:単一施設後向き研究竹田純鈴*1,2 佐藤健一*1 長岡泰司*2*1日鋼記念病院眼科 *2旭川医科大学眼科学講座
Systemic Comorbidities of Retinal Artery Occlusion:A Single-Center Retrospective Study Sumire Takeda1,2)C, Ken-ichi Sato1)and Taiji Nagaoka2)
1)Department of Ophthalmology, Nikko Memorial Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Asahikawa Medical UniversityC網膜動脈閉塞症(RAO)と全身併存疾患との関係について,網膜中心動脈閉塞症もしくは網膜動脈分枝閉塞症の49例C49眼を対象に単一施設後向き観察研究を行った.RAO罹患時の全身併存疾患は,高血圧症C65%が最多で,そのほか脂質異常症C31%,糖尿病C29%,脳血管障害(CVD)18%,虚血性心疾患(IHD)10%であった.RAO罹患時に頸動脈精査を施行したC32例のうち,59%で新規の頸動脈病変が発見された.CVDやCIHDといった心血管イベントは,全追跡期間を通してC47%の症例で発症し,そのうちC3割の症例がCRAO罹患後の発症であった.RAO罹患後早期の心血管イベントはC1例のみで,半数以上がCRAO罹患後C5年以降に発症しており,RAO罹患後は心血管イベントの発症リスクが長期的に高いことが示唆された.CHerein we report a single-center retrospective observational study conducted on 49 eyes of 49 patients with central retinal artery occlusion(RAO)or branch RAO to investigate the relationship between RAO and systemic comorbidities.CTheCmostCcommonCsystemicCcomorbidityCwashypertension(65%)C,CfollowedbyCdyslipidemia(31%)C,diabetes(29%)C,Ccerebrovasculardisease(CVD)(18%)C,CandCischemicCheartdisease(IHD)(10%)C.CIn59%CofCtheCcases, new carotid artery lesions were detected on carotid artery examination performed at the time of RAO. Car-diovascular diseases, such as CVD and IHD, were identi.ed in 47% of the cases throughout the follow-up period and in 33% of the cases after RAO. A cardiovascular event occurred in only 1 case in the early period post-RAO, whereas it occurred in more than 50% of the cases at 5 years or later after RAO, thus suggesting that the risk of a cardiovascular disease developing over the long-term period after RAO is high.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1341.1344,C2025〕 Key words:網膜動脈閉塞症,心血管イベント,脳血管障害,虚血性心疾患.retinal artery occlusion, cardiovascu-lar disease, cerebrovascular disease, ischemic heart disease.Cはじめに
網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO)は,網膜動脈の急性閉塞に伴う視力低下や視野障害をきたす疾患であり,その治療法は未だ確立していない1).発症機序として塞栓症が多く,頸動脈のアテローム性動脈硬化に伴って形成された塞栓子や,弁膜症や心房細動による左房内血栓が原因となる2).RAO患者の全身併存疾患として高血圧,糖尿病,脂質異常症,脳血管障害(cerebrovasculardisease:CVD),虚血性心疾患(ischemicCheartdisease:IHD)などの有病率が高い3,4).CVDやCIHDはCRAOと強い関連があることが多くの報告で示されており5,6),これらの心血管イベントに対する治療法は近年発展していることからも1,7),疾患を発見する意義はより大きいといえる.しかし,RAO罹患後の心血管イベントの発症頻度について,わが国における報告は少ない.今回,日鋼記念病院眼科を受診したCRAO患者の全身併存疾患とCRAO罹患後における心血管イベント発症の現状について検討した.C
I 対象および方法
対象はC2008年C4月.2023年C12月に日鋼記念病院眼科を受診した網膜中心動脈閉塞症(centralCretinalCarteryCocclu-sion:CRAO)もしくは網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal arteryocclusion:BRAO)のC49例C49眼である.診断は,嶺崎らの報告を参考にして,眼底所見で灌流領域の網膜浮腫〔別刷請求先〕 竹田純鈴:〒078-8510 北海道旭川市緑が丘東C2条C1-1-1 旭川医科大学救急医学講座Reprint requests:Sumire Takeda, M.D., Department of Emergency Medicine, Asahikawa Medical Univercity Midorigaoka Higashi 2-1-1-1, Asahikawa, 078-8510, JAPANCなどを認める場合や,蛍光眼底造影で網膜動脈循環の遅延や途絶がある場合,前医でCRAOの診断がついている場合のいずれかに該当したものとした8).性別,発症年齢,病型,患側,全身併存疾患の有無,
RAO発症時の頸動脈精査の結果について診療録を基に後向きに検討した.全身併存疾患のCIHDには急性心筋梗塞,不安定狭心症,労作性狭心症,冠攣縮性狭心症を含めた.CVDには脳梗塞,脳出血,くも膜下出血を含めた.頸動脈精査は,RAO罹患時に初めて施行した症例について検討し,超音波検査もしくは磁気共鳴画像(magneticCresonanceimaging:MRI)でプラーク病変と狭窄病変の有無を同定した.プラークは内膜中膜複合体厚(intimaCmediaCthick-ness:IMT)がC1.5Cmmを超える限局性隆起性病変とし,狭窄病変は狭窄度がC60%を超えるものと定義した.この研究は,日鋼記念病院倫理委員会により,2025年C2
月C17日に承認された(受理番号C141号).C
II 結   果RAO全C49例の患者背景を表 1に示す.50歳以下の若年
発症例はC5例で,妊娠,不整脈,僧帽弁逸脱症をC1例ずつ認めた.RAO発症後,49例中C32例(65%)で,発症当日.108日(中央値C2日)の間に頸動脈精査が行われ,うちC29例は発症14日以内であった.19例(59%)でCRAO罹患以前に指摘されていない新規の頸動脈病変を発見した(表 2).CVDやCIHDといった心血管イベントは,RAO罹患前後
の全追跡期間を通してC49例中C23例(47%)で発症が確認された.発症時期は,RAO罹患以前がC7例,RAO罹患前後のいずれの時期においても発症したのがC4例,RAO罹患後の新規発症がC12例であった.RAO罹患後に心血管イベントを生じたC16例中,約半数はCRAO罹患後C5年以上経過してからの発症であった.1年未満での心血管イベント発症はC1例のみであった(1カ月後).また,1例ではCRAO罹患後の追跡期間中にC2度の心血管イベントを生じた(図 1).C
III 考   按本研究では,RAO罹患時に頸動脈精査を施行した症例の
59%で新規の頸動脈病変が発見された.心血管イベントは全追跡期間を通して全体のC47%の症例で発症し,33%がRAO罹患後の発症であった.RAO罹患後早期の心血管イベントはC19例のみで,半数以上はCRAO罹患後C5年以降の発症であった.RAO罹患時における全身疾患の併存頻度に関して,小暮
らはC36例C37眼を対象としたC1990年の研究で,高血圧症58%,脂質異常症8%,糖尿病C17%,CVD 25%,心疾患C50%(うちCIHD33%,心房細動C8%)と報告しており3),筆者らの結果は類似していた.日本人のCRAO患者における脂質異常症の割合は,既報ではC8.20%C3.5),本研究ではC31%と低くない.脂質異常症に関しては,スタチン投与によるLDLコレステロール低下がCCVDやCIHDといった心血管イベントを抑制することが近年証明されており,積極的な治療介入の意義がある10,11).RAOの発症を契機に脂質異常症の精査を行い,治療の必要性を検討すべきである.頸動脈病変の併存頻度についてCHayrehらは,狭窄病変(狭窄度C50%以上)およびプラーク病変がそれぞれ,CRAOでC34%とC71%,BRAOでC30%とC66%と報告しており2),今回の結果も同等だった.頸動脈病変はアテローム性動脈硬化に起因する.アテローム性動脈硬化では,慢性炎症や血流変動によって血管内皮細胞が障害されることで,血管内膜にプラークが形成される.プラークが破綻する際に内部の脂質成分や石灰化断片が流出して塞栓子となったり,プラークの修復過程で血栓が形成される12,13).これら塞栓子や血栓が,RAOの原因となる2).また,頸動脈病変の存在や新規出現はCCVDやCIHDの発症リスクでもあり14),治療適応となりうる.このように,RAO罹患後の頸動脈病変の検索は重要である.本研究では,全追跡期間を通してC47%の症例で心血管イ
ベントを発症し,そのうちの約C3割がCRAO罹患後の発症であった.さらにCRAO罹患後の期間に着目すると,RAO罹患C1年以内の早期発症はC1例のみで,半数以上がCRAO罹患後C5年以降と長期間経過後に発症していた.一般人口と比較してCRAO罹患後早期には心血管イベントの発生が多いことが知られており15),米国眼科学会の診療ガイドラインはRAO発症直後の脳卒中センターへの緊急搬送と全身評価の施行を推奨している1).今回の研究では,RAO罹患後早期の心血管イベントが少なかったことが既報と相違していたが,症例数が少なく,一般人口との比較も行えなかったためと思われる.また,WaiらはCRAO群を一般人口と比較し,CVDとCIHD発症の相対危険度はそれぞれ,RAO罹患後C5年時点ではC2.24とC1.21,10年時点ではC1.59とC1.12であったと近年報告している15).このようにCCVDとCIHDの発症リスクは長期的にも高く,今回の結果はそれを裏付けた.以上より,RAO罹患後早期のみならず,長期間にわたって全身的な介入を継続することで患者の生命予後の改善が期待されると思われた.本研究の限界としては,症例数が少ないことや,症例対照
研究ではないため非CRAO患者との比較ができなかったことがある.また,後向き観察研究のため,頸動脈の精査が実施されていない症例が含まれることや,検査の方法や施行時期が統一されていないこと,さらには他院に精査を依頼した症例については詳細な検査結果が得られなかったこともあげられる.表 1 患者背景
年齢(歳)C 67±13(平均C±標準偏差),範囲C24.C91 性別(男:女) 32:1C7 患側(右:左) 25:2C4 
病型(CRAO:BRAO)16:33追跡期間(カ月)中央値C79,範囲C1.196おもな併存疾患(例)* 高血圧症32(65%) 脂質異常症15(31%) 糖尿病14(29%) 脳血管障害9(18%) 虚血性心疾患5(10%) 心房細動4(8%)表 2 RAO罹患時の頸動脈精査症例数方法 超音波検査C15 磁気共鳴画像C10 両方C7C結果 プラーク病変13(41%) 狭窄病変4(12%) 両方2(6%) 病変なし13(41%)

心血管イベントの発症(例)
RAOを発症してからの経過期間(年)図 1 RAO発症後の心血管イベントの発症時期*同一症例
まとめると,本研究ではCRAO罹患時にC59%の症例で新規の頸動脈病変が発見された.心血管イベントのC33%はRAO罹患後の発症であった.そのうちCRAO罹患後C1年以内の心血管イベントはC1例のみで,半数以上はCRAOに罹患してからC5年以降での発症だった.RAO罹患後早期のみならず,長期的にも心血管イベント発症のリスクが高いことを眼科医も認識し,他科と連携して全身的な介入を継続していくことが重要である.本論文の内容は,第C171回北海道眼科集談会(旭川,2024年)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献1)Mac Grory B, Schrag M, Biousse V et al:Management of centralCretinalCarteryocclusion:aCscienti.cCstatementCfromCtheCAmericanCHeartCAssociation.CStrokeC52:Ce282-e294,C2021
2)HayrehCSS,CPodhajskyCPA,CZimmermanMB:RetinalCarteryocclusion:associatedCsystemicCandCophthalmicCabnormalities. OphthalmologyC116:1928-1936,C2009

3)小暮 諭,飯島裕幸:網膜動脈閉塞と全身性疾患.日眼会誌C95:67-72,C19914)忍足直子,平形明人,堀江大介ほか:網膜中心動脈閉塞症における全身合併症の検討.眼科C50:847-853,C20085)HwangCDD,CLeeCKE,CKimCYCetal:IncidenceCofCretinalCarteryCocclusionCandCrelatedCmortalityCinCKorea,C2005CtoC2018.CJAMA Netw OpenC6:e233068,C2023
6)Park SJ, Choi NK, Yang BR et al:Risk and Risk periods forCstrokesCandCacuteCmyocardialCinfarctionCinCpatientsCwith central retinal artery occlusion. OphthalmologyC122:C2336-2343,C2015
7)横井宏佳:虚血性心疾患診療のいま II. 虚血を治す・予防する(薬物・非薬物治療の進歩)5)今後の虚血性心疾患診療の展望.日内会誌C110:247-255,C2021

8)嶺崎輝海,村松大弐,川上摂子ほか:網膜中心動脈閉塞症35例の臨床的検討.臨眼C67:1283-1288,C20139)中谷雄介:網膜動脈閉塞症の予後因子の検討.臨眼 69:C1809-1814,C201510)BaigentCC,CBlackwellCL,CEmbersonCJCetal;CholesterolTreatmentTrialists:E.cacyCandCsafetyCofCmoreCinten-sive lowering of LDL cholesterol:a meta-analysis of data fromC170,000CparticipantsCinC26CrandomisedCtrials.CLancetC376:1670-1681,C201011)Miyamoto S, Ogasawara K, Kuroda S et al:Japan stroke societyCguidelineC2021CforCtheCtreatmentCofCstroke.CInt J StrokeC17:1039-1049,C202212)山下 篤:血栓形成のメカニズム.日本臨牀C82:126-132,C202413)浅田祐士郎:心血管イベントの発生における血栓形成機序の病理形態.顕微鏡C47:115-126,C201214)Kokubo Y, Watanabe M, Higashiyama A et al:Impact of intima-media thickness progression in the common carot-idCarteriesConCtheCriskCofCincidentCcardiovascularCdiseaseCin the Suita Study. J Am Heart AssocC7:e007720,C201815)WaiCKM,CKnappCA,CLudwigCCACetal:RiskCofCstroke,Cmyocardial infarction, and death after retinal artery occlu-sion. JAMA OphthalmolC141:1110-1116,C2023
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原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentral Acute Middle Maculopathyを呈した2例 

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):618.624,2025c原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentralAcuteMiddleMaculopathyを呈した2例円谷康佑柳田智彦庄司信行北里大学病院眼科CTwoCasesofParacentralAcuteMiddleMaculopathyAssociatedwithPrimaryAldosteronismandIschemicHeartDiseaseKosukeTsumuraya,TomohikoYanagitaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発した傍中心窩急性中間層黄斑症(PAMM)のC2例を報告する.症例:症例C1はC55歳,女性.3日前から左眼の見づらさを自覚して近医を受診し,北里大学病院へ紹介された.矯正視力は両眼ともC1.2であった.左眼黄斑鼻側に網膜の淡い白濁を認め,光干渉断層計(OCT)で病巣部の網膜中間層に高輝度な変化があり,PAMMと診断した.筆者の施設(以下,当院)での初診時血圧C230/111CmmHgであり,原発性アルドステロン症Coおよび脂質異常症の診断となった.症例C2はC57歳,男性.1カ月に左心室内血栓を指摘され,ヘパリンとワーファリンで加療された.7日前から左眼の中心左上に霧視を自覚したため当院を受診.矯正視力は両眼ともC1.5であった.左眼視神経乳頭から黄斑にかけて帯状の白濁を認めた.OCTで視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化を呈しており,前者は網膜動脈分枝閉塞症(BRAO),後者はBRAOに伴うCPAMMと診断した.結論:症例C1は原発性アルドステロン症をCPAMMの原因として直接関連付けて報告した初の症例であり,PAMMが原発性アルドステロン症を含む未診断の高血圧症の発見につながる可能性を示唆した.症例C2はCPAMMが虚血性心疾患に続発したことを示唆した.CPurpose:Toreporttwocasesofparacentralacutemiddlemaculopathy(PAMM)secondarytoprimaryaldo-steronismandischemicheartdisease,respectively.Cases:Case1involveda55-year-oldfemalewhowasreferredtoCKitasatoCUniversityCHospitalCbyCherClocalCdoctorCafterCdecreasedCvisionCoccurredCinCherCleftCeye.CHerCbest-cor-rectedCvisualacuity(BCVA)wasC1.2CinCbothCeyes,CyetCaCfaintCretinalCopaci.cationCwasCobservedConCtheCleft-eyemaculaandopticalcoherencetomography(OCT)revealedhigh-intensitychangesintheretinalintermediatelayer,thusleadingtoadiagnosisofPAMM.Herbloodpressurewas230/111CmmHg,andshewasdiagnosedwithprima-ryaldosteronismanddyslipidemia.Case2involveda57-year-oldmalewhowastreatedwithheparinandwarfarinforCaCleftCventricularCthrombusC1CmonthCpriorCtoCinitialCpresentationCatCourChospitalCdueCtoCpartialCblurredCvisionCoccurringinhislefteye.HisBCVAwas1.5inbotheyes.Aband-likeopaci.cationwasobservedinthelefteye.OCTrevealedthickeningoftheretinalinnerlayerbelowtheopticdisc,andhigh-intensitychangesintheretinalintermediateClayerCnearCtheCmacula,CthusCleadingCtoCaCdiagnosisCofCbranchCretinalCarteryocclusion(BRAO)andCPAMM,respectively.Conclusion:InCase1,weencountered,tothebestofourknowledge,the.rstknowncasedirectlylinkingprimaryaldosteronismasacauseofPAMM,suggestingthatPAMMmayleadtothediscoveryofundiagnosedChypertension,CincludingCprimaryCaldosteronism,CandCtheC.ndingsCofCCaseC2CshowCthatCPAMMCcanCoccursecondarytoischemicheartdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(5):618.624,C2025〕Keywords:傍中心窩急性中間層黄斑症,光干渉断層計,高血圧,原発性アルドステロン症,虚血性心疾患.paracen-tralCacuteCmiddleCmaculopathy,CopticalCcoherenceCtomography,Chypertension,CprimaryCaldosteronism,CischemicCheartCdisease.C〔別刷請求先〕円谷康佑:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:KosukeTsumuraya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC618(118)はじめに傍中心窩急性中間層黄斑症(paracentralCacuteCmiddlemaculopathy:PAMM)とは,2013年にCSarrafら1)が報告した急性の視力・視野障害をきたす病態であり,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で急性期の傍中心窩における網膜中間層(内顆粒層,外網状層)の高輝度病変が特徴的である.検眼鏡で網膜の浮腫状の色調変化を認めることもあるが,異常所見がないこともある1,2).PAMMは一つの疾患というより病態であり,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)や網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO),糖尿病網膜症,さらには高血圧や貧血など,網膜の虚血をきたすさまざまな病因によって生じる2).当院でC2019年C11月.2022年C11月に経験した,原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発したと考えられるCPAMMのC2例を報告する.CI症例[症例1]患者:55歳,女性.主訴:左眼の中心近傍の視力低下.現病歴:3日前から左眼の中心近くの視力低下を自覚して,2日前に近医を受診し,網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)を疑われ,北里大学病院へ紹介受診となった.眼科既往歴:なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph.1.50D),左眼1.0(1.2C×sph.0.50D),眼圧は右眼C16mmHg,左眼C16mmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼底に異常はなかったが,左眼黄斑の鼻側に網膜の淡い白濁(図1a)を認めた.黄斑部COCT(TOPCONDRIOCTTriton,トプコン製)で,白濁部位に一致して内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度な変化(図1b)を生じていた.OCTA(同上)では高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下(図1c)しており,PAMMと診断した.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)検査を施行したが,造影遅延や造影不良を認めなかった.淡い白濁病変は,網膜中間層の虚血によるものと考えられた.Humphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下(図2a)を認めた.図1症例1の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼眼底写真黄斑鼻側に淡い白濁を認める.Cb:OCT画像.内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度変化を認める.Cc:OCTA画像.高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を認める(C→).d:発症C2週間後.網膜中間層の高輝度領域は減少したが残存している(上が初診時,下がC2週間後).ab図2症例1のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)a:初診時.網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下を認める.Cb:発症C9カ月後.中心やや耳側の感度低下はわずかに残存している.経過:患者は既往歴なしとの認識であったが,健診を受けておらず,当院初診時血圧がC230/111CmmHgと著明な高血圧を呈していた.内科を受診したところ原発性アルドステロン症,高コレステロール血症と診断された.発症C2週間後,網膜中間層の高輝度領域は減少し残存(図1d)した一方,自覚症状は軽快した.発症C9カ月後に施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心やや耳側の感度低下(図2b)はわずかに残存した.[症例2]患者:57歳,男性.主訴:左眼霧視.現病歴:上記眼症状発症C3週間前に心筋梗塞で他院循環器内科に入院,心エコーで左室にC2個の血栓が指摘されてヘパリンとワーファリンにて加療された.入院治療開始C2週間後に左眼でまぶしい物を見ると残像や白い雲のような物が見える症状を自覚したが,入院中に眼科受診の機会はなく,眼症状自覚C4日後に退院となった.退院C3日後,すなわち眼症状図3症例2の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼視神経乳頭近傍に軟性白斑(→)を,黄斑下鼻側にCPAMM(C▲)を認める.Cb:視神経乳頭下耳側(上)は網膜内層肥厚を,黄斑近傍(下)は網膜中間層の高輝度変化(b)を呈している.Cc:視神経乳頭下耳側は深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下している(C→)が,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでない.Cd:発症C3週間後に網膜中間層の高輝度領域は減少し,自覚症状は軽快した(上が初診時,下がそのC2週間後).発症C7日後に当院を予約外受診した.当院でC12年前に両眼レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratecto-my:PRK)の既往があり,フォローのため年C1回通院している.眼科既往歴:両眼CPRK(12年前).初診時眼所見:視力は右眼C1.5(矯正不能),左眼C0.7(1.5C×sph.0.50D(cyl.0.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼C12CmmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼眼底に異常はなかったが,左眼視神経乳頭と黄斑の間に網膜の淡い白濁(図3a)を認めた.黄斑部COCTで,視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化(図3b)を呈しており,前者はCBRAO,後者はCBRAOに伴うPAMMと診断した.OCTAでは視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚の血流シグナルが低下(図3c)していたが,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでなかった.経過:網膜中間層の高輝度病変と自覚症状は発症C2週間後図4症例2のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)発症C3カ月後に初めて施行した視野検査では中心耳側上方の視野欠損が認められた.には軽快傾向となった(図3d)が,多少の靄の自覚が残存している.その後CPAMM発症C2カ月後に撮影した冠動脈血管造影(coronaryangiography:CAG)で多枝病変を指摘され,冠動脈バイパス手術を施行された.PAMM発症C3カ月後に初めて施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心耳側上方の視野欠損(図4)が認められた.CII考按PAMMの病変部位である網膜中間層(内顆粒層,外網状層)は網膜内循環,脈絡毛細血管板のいずれからも遠く,虚血の影響を受けやすい層であるため,主要血管の閉塞がなくても血流低下だけで虚血状態に陥る.発症機序からも臨床で遭遇する可能性が高く,11カ月の間でC5例経験したという報告もある3).PAMMは,網膜浅層を主座とする軟性白斑やCBRAOと比較するとより深い層に生じるため,網膜の色調はより淡く,辺縁もより不明瞭となる2).症例C2では左眼視神経乳頭近傍のCBRAOより,黄斑周辺のCPAMMのほうが淡く,辺縁不明瞭である(図3a).それに対応してCOCTでは,前者は網膜内層,後者は網膜中間層に高輝度変化(図3b)を呈する.症例C1のCOCTAではCOCTでの高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルの低下(図1c)が認められた一方で,FAでは深層毛細血管網の虚血を検出できないため,灌流不全の所見は得られなかった.症例C2のCOCTAでは視神経乳頭下耳側のCBRAOの領域は深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を示しているが,PAMMの領域においては血流シグナルの低下(図3c)は明らかでなかった.症例C2ではCFAを施行しなかった.PAMMにおけるCOCTA所見の経過報告としては,深層網膜毛細血管網の血流シグナルは発症後数日から数週間で回復することが報告されており4),症例C2においてCPAMMの領域に血流シグナル低下が認められなかったのは,発症後C7日経過して血流が回復したものと推定される.PAMMの視力予後は良好から高度の低下までさまざまであるが2),今回の症例では矯正視力自体は良好なものの,軽度視野欠損の自覚および静的視野検査での所見は残存した.Rahimyらによると,PAMMは特発性と続発性に分類される2).続発性CPAMMがCRVOやCRAO,糖尿病網膜症といった網膜血管疾患に伴う場合は,その網膜血管疾患の部分所見と位置づけられ,他の網膜所見を伴うため診断はつきやすいが,原因が特定されていない場合には高血圧や糖尿病,貧血といった全身疾患の検索が求められる.他方,続発性PAMMが外因性であり,かつ他の網膜所見を伴わない場合には,病歴聴取や全身疾患の検索によって初めてその原因が特定される.偏頭痛やアンフェタミン,カフェインや経口避妊薬といった薬剤,急性上気道炎やインフルエンザワクチン接種に加え2,5),最近ではCCOVID-19に伴うCPAMMも報告されている6).また,27人の心血管リスクの低い高血圧症患者とC24人の健常者を対象とした研究では,内顆粒層の菲薄化と外網状層の破壊として定義されるCPAMM後の変化が高血圧症患者のC88.9%で認められたと報告されており7),PAMMの病態が高血圧患者において非常に多くみられ,高血圧網膜症を含む高血圧患者における網膜微小循環の初期変化を示している可能性がある.PubMedと医中誌で「原発性アルドステロン症」と「PAMM」のC2単語を検索語句として検索したところ,該当論文がC0件であったことから,本症例C1はCPAMM診断を契機に原発性アルドステロン症が診断された初の症例である可能性がある.症例C1は著明な高血圧に患者本人が気づかずに生活しており,PAMMによる見えづらさを自覚して眼科を受診した結果,高血圧が判明し,内科を受診して原発性アルドステロン症,高コレステロール血症が発見されたことからも,PAMMを診断した際の全身的な原因検索の重要性が示唆される.血圧C230/111CmmHgは高血圧症の中でも最重度のCIII度高血圧(収縮期血圧C.180CmmHgまたは拡張期血圧C.110CmmHg)であり,慢性的に全身の血管に過大な負荷をかけ続け,高コレステロール血症とも相まって動脈硬化を促進し,脳卒中や虚血性心疾患といった生命予後に直結する疾患に罹患するリスクを高める.その一方で,高血圧緊急症を引き起こさない限り高血圧のみでは自覚症状が乏しく,健診や医療機関受診がないと長期間発見されない8).眼科ですべての網膜疾患患者に血液検査を行うのはあまり現実的ではないが,血圧測定は侵襲なく簡便に行うことができるため,未治療の高血圧症の早期発見に資することができると考えられる.本症例C2は心筋梗塞発症からC3週間で視覚症状が自覚されている.PAMMは網膜毛細血管の虚血であり,脳動脈瘤に対するコイル塞栓術やステント留置術後に発症したとの報告もある9).本症例C2は虚血性心疾患が先行しており,左室の血栓の一部がヘパリンやワーファリン投与後に遊離して微小血栓として網膜の毛細血管を塞栓した可能性と,ヘパリンやワーファリン投与によって他の動脈のプラークに付着した微小血栓が網膜まで至った可能性が疑われる.いずれにしても動脈硬化/虚血性心疾患がCPAMMの原因として矛盾ないといえ,PAMMが虚血性心疾患の発症ないし増悪を示唆している.ただし,脳血管疾患や虚血性心疾患それ自体ではなく,それらに対する血管内治療や抗血栓療法が副作用としてPAMMを誘発した可能性も否定できない.OCTの進歩によりCPAMMという病態が検出可能になったことによって,より病態が進行しCBRAOや網膜出血といった状態に至る前の軽度な段階で全身疾患を発見する契機が拡大した.PAMMが高血圧や虚血性心疾患と関連して発症することは発症機序の点からもまれではないと考えられるが,全身既往歴を聴取しないとそれら疾患を眼科医は把握できない場合も多い.PAMMなどの網膜虚血性病変を認めた際には,まず全身既往歴を聴取し,それでも当該病変を説明しうる既往歴がない場合には,血圧測定や状況によっては血液検査を含む対応を検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:aCnewCvariantCofCacuteCmacularCneuroretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCisch-emia.JAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20132)RahimyCE,CKuehleweinCL,CSaddaCSRCetal:ParacentralCacutemiddlemaculopathy:whatweknewthenandwhatweknownow.RetinaC35:1921-1930,C20153)小笠原千尋,建林美佐子,外山裕志ほか:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathyを呈したC5例.臨眼72:529-536,C20184)伊藤潤,原千佳子,若林卓ほか:光干渉断層血管撮影にて血流改善が観察できた網膜中心動脈閉塞症による一過性網膜虚血に伴うCparacentralacutemiddlemaculopathyCの1例.日眼会誌125:732-737,C20215)ChenX,RahimyE,SergottRCetal:SpectrumofretinalvasculardiseasesassociatedwithparacentralacutemiddleCmaculopathy.AmJOphthalmolC160:26-34,C20156)TeoKY,InvernizziA,StaurenghiGetal:COVID-19-re-latedCretinalCmicro-vasculopathy-aCreviewCofCcurrentCevi-dence.AmJOphthalmolC235:98-110,C20227)BurnashevaMA,MaltsevDS,KulikovANetal:Associa-tionCofCchronicCparacentralCacuteCmiddleCmaculopathyClesionswithhypertension.OphthalmolRetinaC4:504-509,C20208)GauerR:SevereasymptomaticChypertension:evaluationCandtreatment.AmFamPhysicianC95:492-500,C20179)林孝彰,飯田由佳:未破裂内頸動脈瘤に対するフローダイバーターステント留置術後に網膜内層虚血に伴うCpara-centralacutemiddlemaculopathyを発症したC1例.あたらしい眼科C39:1281-1287,C2022***