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原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentral Acute Middle Maculopathyを呈した2例 

2025年5月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科42(5):618.624,2025c原発性アルドステロン症および虚血性心疾患に伴いParacentralAcuteMiddleMaculopathyを呈した2例円谷康佑柳田智彦庄司信行北里大学病院眼科CTwoCasesofParacentralAcuteMiddleMaculopathyAssociatedwithPrimaryAldosteronismandIschemicHeartDiseaseKosukeTsumuraya,TomohikoYanagitaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発した傍中心窩急性中間層黄斑症(PAMM)のC2例を報告する.症例:症例C1はC55歳,女性.3日前から左眼の見づらさを自覚して近医を受診し,北里大学病院へ紹介された.矯正視力は両眼ともC1.2であった.左眼黄斑鼻側に網膜の淡い白濁を認め,光干渉断層計(OCT)で病巣部の網膜中間層に高輝度な変化があり,PAMMと診断した.筆者の施設(以下,当院)での初診時血圧C230/111CmmHgであり,原発性アルドステロン症Coおよび脂質異常症の診断となった.症例C2はC57歳,男性.1カ月に左心室内血栓を指摘され,ヘパリンとワーファリンで加療された.7日前から左眼の中心左上に霧視を自覚したため当院を受診.矯正視力は両眼ともC1.5であった.左眼視神経乳頭から黄斑にかけて帯状の白濁を認めた.OCTで視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化を呈しており,前者は網膜動脈分枝閉塞症(BRAO),後者はBRAOに伴うCPAMMと診断した.結論:症例C1は原発性アルドステロン症をCPAMMの原因として直接関連付けて報告した初の症例であり,PAMMが原発性アルドステロン症を含む未診断の高血圧症の発見につながる可能性を示唆した.症例C2はCPAMMが虚血性心疾患に続発したことを示唆した.CPurpose:Toreporttwocasesofparacentralacutemiddlemaculopathy(PAMM)secondarytoprimaryaldo-steronismandischemicheartdisease,respectively.Cases:Case1involveda55-year-oldfemalewhowasreferredtoCKitasatoCUniversityCHospitalCbyCherClocalCdoctorCafterCdecreasedCvisionCoccurredCinCherCleftCeye.CHerCbest-cor-rectedCvisualacuity(BCVA)wasC1.2CinCbothCeyes,CyetCaCfaintCretinalCopaci.cationCwasCobservedConCtheCleft-eyemaculaandopticalcoherencetomography(OCT)revealedhigh-intensitychangesintheretinalintermediatelayer,thusleadingtoadiagnosisofPAMM.Herbloodpressurewas230/111CmmHg,andshewasdiagnosedwithprima-ryaldosteronismanddyslipidemia.Case2involveda57-year-oldmalewhowastreatedwithheparinandwarfarinforCaCleftCventricularCthrombusC1CmonthCpriorCtoCinitialCpresentationCatCourChospitalCdueCtoCpartialCblurredCvisionCoccurringinhislefteye.HisBCVAwas1.5inbotheyes.Aband-likeopaci.cationwasobservedinthelefteye.OCTrevealedthickeningoftheretinalinnerlayerbelowtheopticdisc,andhigh-intensitychangesintheretinalintermediateClayerCnearCtheCmacula,CthusCleadingCtoCaCdiagnosisCofCbranchCretinalCarteryocclusion(BRAO)andCPAMM,respectively.Conclusion:InCase1,weencountered,tothebestofourknowledge,the.rstknowncasedirectlylinkingprimaryaldosteronismasacauseofPAMM,suggestingthatPAMMmayleadtothediscoveryofundiagnosedChypertension,CincludingCprimaryCaldosteronism,CandCtheC.ndingsCofCCaseC2CshowCthatCPAMMCcanCoccursecondarytoischemicheartdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(5):618.624,C2025〕Keywords:傍中心窩急性中間層黄斑症,光干渉断層計,高血圧,原発性アルドステロン症,虚血性心疾患.paracen-tralCacuteCmiddleCmaculopathy,CopticalCcoherenceCtomography,Chypertension,CprimaryCaldosteronism,CischemicCheartCdisease.C〔別刷請求先〕円谷康佑:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:KosukeTsumuraya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC618(118)はじめに傍中心窩急性中間層黄斑症(paracentralCacuteCmiddlemaculopathy:PAMM)とは,2013年にCSarrafら1)が報告した急性の視力・視野障害をきたす病態であり,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で急性期の傍中心窩における網膜中間層(内顆粒層,外網状層)の高輝度病変が特徴的である.検眼鏡で網膜の浮腫状の色調変化を認めることもあるが,異常所見がないこともある1,2).PAMMは一つの疾患というより病態であり,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)や網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO),糖尿病網膜症,さらには高血圧や貧血など,網膜の虚血をきたすさまざまな病因によって生じる2).当院でC2019年C11月.2022年C11月に経験した,原発性アルドステロン症および虚血性心疾患にそれぞれ続発したと考えられるCPAMMのC2例を報告する.CI症例[症例1]患者:55歳,女性.主訴:左眼の中心近傍の視力低下.現病歴:3日前から左眼の中心近くの視力低下を自覚して,2日前に近医を受診し,網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)を疑われ,北里大学病院へ紹介受診となった.眼科既往歴:なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph.1.50D),左眼1.0(1.2C×sph.0.50D),眼圧は右眼C16mmHg,左眼C16mmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼底に異常はなかったが,左眼黄斑の鼻側に網膜の淡い白濁(図1a)を認めた.黄斑部COCT(TOPCONDRIOCTTriton,トプコン製)で,白濁部位に一致して内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度な変化(図1b)を生じていた.OCTA(同上)では高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下(図1c)しており,PAMMと診断した.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)検査を施行したが,造影遅延や造影不良を認めなかった.淡い白濁病変は,網膜中間層の虚血によるものと考えられた.Humphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下(図2a)を認めた.図1症例1の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼眼底写真黄斑鼻側に淡い白濁を認める.Cb:OCT画像.内顆粒層を中心とした網膜中間層の高輝度変化を認める.Cc:OCTA画像.高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を認める(C→).d:発症C2週間後.網膜中間層の高輝度領域は減少したが残存している(上が初診時,下がC2週間後).ab図2症例1のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)a:初診時.網膜病変と対応する中心やや耳側に感度低下を認める.Cb:発症C9カ月後.中心やや耳側の感度低下はわずかに残存している.経過:患者は既往歴なしとの認識であったが,健診を受けておらず,当院初診時血圧がC230/111CmmHgと著明な高血圧を呈していた.内科を受診したところ原発性アルドステロン症,高コレステロール血症と診断された.発症C2週間後,網膜中間層の高輝度領域は減少し残存(図1d)した一方,自覚症状は軽快した.発症C9カ月後に施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心やや耳側の感度低下(図2b)はわずかに残存した.[症例2]患者:57歳,男性.主訴:左眼霧視.現病歴:上記眼症状発症C3週間前に心筋梗塞で他院循環器内科に入院,心エコーで左室にC2個の血栓が指摘されてヘパリンとワーファリンにて加療された.入院治療開始C2週間後に左眼でまぶしい物を見ると残像や白い雲のような物が見える症状を自覚したが,入院中に眼科受診の機会はなく,眼症状自覚C4日後に退院となった.退院C3日後,すなわち眼症状図3症例2の左眼眼底写真とOCTおよびOCTA画像a:左眼視神経乳頭近傍に軟性白斑(→)を,黄斑下鼻側にCPAMM(C▲)を認める.Cb:視神経乳頭下耳側(上)は網膜内層肥厚を,黄斑近傍(下)は網膜中間層の高輝度変化(b)を呈している.Cc:視神経乳頭下耳側は深層網膜毛細血管網の血流シグナルが低下している(C→)が,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでない.Cd:発症C3週間後に網膜中間層の高輝度領域は減少し,自覚症状は軽快した(上が初診時,下がそのC2週間後).発症C7日後に当院を予約外受診した.当院でC12年前に両眼レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratecto-my:PRK)の既往があり,フォローのため年C1回通院している.眼科既往歴:両眼CPRK(12年前).初診時眼所見:視力は右眼C1.5(矯正不能),左眼C0.7(1.5C×sph.0.50D(cyl.0.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼C12CmmHgであった,両眼ともに前眼部および中間透光体に異常所見はなかった.眼底所見として,右眼眼底に異常はなかったが,左眼視神経乳頭と黄斑の間に網膜の淡い白濁(図3a)を認めた.黄斑部COCTで,視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚を,黄斑近傍は網膜中間層の高輝度変化(図3b)を呈しており,前者はCBRAO,後者はCBRAOに伴うPAMMと診断した.OCTAでは視神経乳頭下耳側は網膜内層肥厚の血流シグナルが低下(図3c)していたが,黄斑近傍の血流シグナルの変化は明らかでなかった.経過:網膜中間層の高輝度病変と自覚症状は発症C2週間後図4症例2のHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心10-2)発症C3カ月後に初めて施行した視野検査では中心耳側上方の視野欠損が認められた.には軽快傾向となった(図3d)が,多少の靄の自覚が残存している.その後CPAMM発症C2カ月後に撮影した冠動脈血管造影(coronaryangiography:CAG)で多枝病変を指摘され,冠動脈バイパス手術を施行された.PAMM発症C3カ月後に初めて施行したCHumphrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)では中心耳側上方の視野欠損(図4)が認められた.CII考按PAMMの病変部位である網膜中間層(内顆粒層,外網状層)は網膜内循環,脈絡毛細血管板のいずれからも遠く,虚血の影響を受けやすい層であるため,主要血管の閉塞がなくても血流低下だけで虚血状態に陥る.発症機序からも臨床で遭遇する可能性が高く,11カ月の間でC5例経験したという報告もある3).PAMMは,網膜浅層を主座とする軟性白斑やCBRAOと比較するとより深い層に生じるため,網膜の色調はより淡く,辺縁もより不明瞭となる2).症例C2では左眼視神経乳頭近傍のCBRAOより,黄斑周辺のCPAMMのほうが淡く,辺縁不明瞭である(図3a).それに対応してCOCTでは,前者は網膜内層,後者は網膜中間層に高輝度変化(図3b)を呈する.症例C1のCOCTAではCOCTでの高輝度部に一致して深層網膜毛細血管網の血流シグナルの低下(図1c)が認められた一方で,FAでは深層毛細血管網の虚血を検出できないため,灌流不全の所見は得られなかった.症例C2のCOCTAでは視神経乳頭下耳側のCBRAOの領域は深層網膜毛細血管網の血流シグナル低下を示しているが,PAMMの領域においては血流シグナルの低下(図3c)は明らかでなかった.症例C2ではCFAを施行しなかった.PAMMにおけるCOCTA所見の経過報告としては,深層網膜毛細血管網の血流シグナルは発症後数日から数週間で回復することが報告されており4),症例C2においてCPAMMの領域に血流シグナル低下が認められなかったのは,発症後C7日経過して血流が回復したものと推定される.PAMMの視力予後は良好から高度の低下までさまざまであるが2),今回の症例では矯正視力自体は良好なものの,軽度視野欠損の自覚および静的視野検査での所見は残存した.Rahimyらによると,PAMMは特発性と続発性に分類される2).続発性CPAMMがCRVOやCRAO,糖尿病網膜症といった網膜血管疾患に伴う場合は,その網膜血管疾患の部分所見と位置づけられ,他の網膜所見を伴うため診断はつきやすいが,原因が特定されていない場合には高血圧や糖尿病,貧血といった全身疾患の検索が求められる.他方,続発性PAMMが外因性であり,かつ他の網膜所見を伴わない場合には,病歴聴取や全身疾患の検索によって初めてその原因が特定される.偏頭痛やアンフェタミン,カフェインや経口避妊薬といった薬剤,急性上気道炎やインフルエンザワクチン接種に加え2,5),最近ではCCOVID-19に伴うCPAMMも報告されている6).また,27人の心血管リスクの低い高血圧症患者とC24人の健常者を対象とした研究では,内顆粒層の菲薄化と外網状層の破壊として定義されるCPAMM後の変化が高血圧症患者のC88.9%で認められたと報告されており7),PAMMの病態が高血圧患者において非常に多くみられ,高血圧網膜症を含む高血圧患者における網膜微小循環の初期変化を示している可能性がある.PubMedと医中誌で「原発性アルドステロン症」と「PAMM」のC2単語を検索語句として検索したところ,該当論文がC0件であったことから,本症例C1はCPAMM診断を契機に原発性アルドステロン症が診断された初の症例である可能性がある.症例C1は著明な高血圧に患者本人が気づかずに生活しており,PAMMによる見えづらさを自覚して眼科を受診した結果,高血圧が判明し,内科を受診して原発性アルドステロン症,高コレステロール血症が発見されたことからも,PAMMを診断した際の全身的な原因検索の重要性が示唆される.血圧C230/111CmmHgは高血圧症の中でも最重度のCIII度高血圧(収縮期血圧C.180CmmHgまたは拡張期血圧C.110CmmHg)であり,慢性的に全身の血管に過大な負荷をかけ続け,高コレステロール血症とも相まって動脈硬化を促進し,脳卒中や虚血性心疾患といった生命予後に直結する疾患に罹患するリスクを高める.その一方で,高血圧緊急症を引き起こさない限り高血圧のみでは自覚症状が乏しく,健診や医療機関受診がないと長期間発見されない8).眼科ですべての網膜疾患患者に血液検査を行うのはあまり現実的ではないが,血圧測定は侵襲なく簡便に行うことができるため,未治療の高血圧症の早期発見に資することができると考えられる.本症例C2は心筋梗塞発症からC3週間で視覚症状が自覚されている.PAMMは網膜毛細血管の虚血であり,脳動脈瘤に対するコイル塞栓術やステント留置術後に発症したとの報告もある9).本症例C2は虚血性心疾患が先行しており,左室の血栓の一部がヘパリンやワーファリン投与後に遊離して微小血栓として網膜の毛細血管を塞栓した可能性と,ヘパリンやワーファリン投与によって他の動脈のプラークに付着した微小血栓が網膜まで至った可能性が疑われる.いずれにしても動脈硬化/虚血性心疾患がCPAMMの原因として矛盾ないといえ,PAMMが虚血性心疾患の発症ないし増悪を示唆している.ただし,脳血管疾患や虚血性心疾患それ自体ではなく,それらに対する血管内治療や抗血栓療法が副作用としてPAMMを誘発した可能性も否定できない.OCTの進歩によりCPAMMという病態が検出可能になったことによって,より病態が進行しCBRAOや網膜出血といった状態に至る前の軽度な段階で全身疾患を発見する契機が拡大した.PAMMが高血圧や虚血性心疾患と関連して発症することは発症機序の点からもまれではないと考えられるが,全身既往歴を聴取しないとそれら疾患を眼科医は把握できない場合も多い.PAMMなどの網膜虚血性病変を認めた際には,まず全身既往歴を聴取し,それでも当該病変を説明しうる既往歴がない場合には,血圧測定や状況によっては血液検査を含む対応を検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:aCnewCvariantCofCacuteCmacularCneuroretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCisch-emia.JAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20132)RahimyCE,CKuehleweinCL,CSaddaCSRCetal:ParacentralCacutemiddlemaculopathy:whatweknewthenandwhatweknownow.RetinaC35:1921-1930,C20153)小笠原千尋,建林美佐子,外山裕志ほか:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathyを呈したC5例.臨眼72:529-536,C20184)伊藤潤,原千佳子,若林卓ほか:光干渉断層血管撮影にて血流改善が観察できた網膜中心動脈閉塞症による一過性網膜虚血に伴うCparacentralacutemiddlemaculopathyCの1例.日眼会誌125:732-737,C20215)ChenX,RahimyE,SergottRCetal:SpectrumofretinalvasculardiseasesassociatedwithparacentralacutemiddleCmaculopathy.AmJOphthalmolC160:26-34,C20156)TeoKY,InvernizziA,StaurenghiGetal:COVID-19-re-latedCretinalCmicro-vasculopathy-aCreviewCofCcurrentCevi-dence.AmJOphthalmolC235:98-110,C20227)BurnashevaMA,MaltsevDS,KulikovANetal:Associa-tionCofCchronicCparacentralCacuteCmiddleCmaculopathyClesionswithhypertension.OphthalmolRetinaC4:504-509,C20208)GauerR:SevereasymptomaticChypertension:evaluationCandtreatment.AmFamPhysicianC95:492-500,C20179)林孝彰,飯田由佳:未破裂内頸動脈瘤に対するフローダイバーターステント留置術後に網膜内層虚血に伴うCpara-centralacutemiddlemaculopathyを発症したC1例.あたらしい眼科C39:1281-1287,C2022***

子宮筋腫を由来とした貧血網膜症にみられたParacentral Acute Middle Maculopathyの1例

2025年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科42(3):373.377,2025c子宮筋腫を由来とした貧血網膜症にみられたParacentralAcuteMiddleMaculopathyの1例今村聡志福山尚五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofParacentralAcuteMiddleMaculopathyAssociatedwithAnemicRetinopathyDuetoUterineLeiomyomaSatoshiImamura,HisashiFukuyamaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversityC目的:子宮筋腫から過多月経をきたし,paracentralCacuteCmiddlemaculopathy(PAMM)を伴った貧血網膜症に至った症例の報告.症例:45歳,女性,起床時より徐々に悪化した左眼の視野異常を主訴に当院を受診.左眼に網膜出血,Roth斑,黄斑部の網膜白濁がみられた.光干渉断層計(OCT)で網膜内顆粒層レベルの高反射バンドを認め,PAMMと考えられた.翌日,受診時は矯正視力C1.2であったが,微小視野計CMP-3で感度低下を認めた.全身疾患精査のための採血でCHb5.5Cg/dlの貧血が発見され,貧血網膜症と考えられた.内科に紹介し,貧血の原因として,巨大子宮筋腫による過多月経が判明した.貧血治療に伴い眼底所見は徐々に改善し,MP-3の網膜感度も改善した.初診C4カ月後には他覚・自覚症状ともに消失し,終診となった.結論:経過中の病状評価にCMP-3が非常に有用であった.CPurpose:Toreportacaseofparacentralacutemiddlemaculopathy(PAMM)associatedwithanemicretinop-athyCdueCtoCuterineCleiomyoma.CCase:AC45-year-oldCfemaleCpresentedCatCourChospitalCwithCtheCcomplaintCofCblurredCvisionCinCherCleftCeye,CwhichChadCworsenedCsinceCthatCmorning.CCorrectedCvisualCacuityCinCthatCeyeCwasC20/16,CandCmeasurementCwithCanCMP-3Microperimeter(NIDEKCCo.,Ltd.)showedCdecreasedCretinalCsensitivity.CFundusCexaminationCofCthatCeyeCrevealedCretinalChemorrhages,CRothCspots,CandCretinalCopacitiesCinCtheCmacularCregion.Opticalcoherencetomographyrevealedhigh-re.ectancebandsattheinnernuclearlayer,andPAMMwassuspected.Abloodtestrevealedthatherhemoglobinlevelwas5.5Cg/dl,attributabletoexcessivemenstrualbleed-ingCdueCtoCaCmassiveCuterineC.broid.CThus,CaCdiagnosisCofCPAMMCassociatedCwithCanemicCretinopathyCwasCmade.CFollowingtreatmentforanemia,theretinalopacitiesgraduallyresolved,andMP-3.ndingsrevealedimprovedreti-nalsensitivity.At4-monthspostinitialpresentation(.nalfollow-up)C,thepatientwassymptom-free,bothsubjec-tivelyCandCobjectively.CConclusion:MP-3CexaminationCwasChighlyCe.ectiveCinChelpingCtoCassessCtheCtreatmentCprogressinthiscase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(3):373.377,C2025〕Keywords:傍中心窩急性中間層黄斑症,微小視野計,貧血網膜症.paracentralacutemiddlemaculopathy,Mi-croperimetry,Anemicretinopathy.CはじめにParacentralCacuteCmiddlemaculopathy(PAMM)は,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて網膜内顆粒層レベルに高反射領域を認める病態である1).網膜中間層の低灌流により生じた虚血性変化と考えられており2),傍中心暗点を自覚することが多い.循環障害をきたす原因として網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)や網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO)があり3,4),手術5)や全身疾患6.8)などが報告されている.今回筆者らは,子宮筋腫のためCPAMMを伴う貧血網膜症をきたし,貧血治療に伴い所見・症状が改善するまで経過を追うことが可能であったC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕今村聡志:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:SatoshiImamura,DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversity,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANCI症例患者:45歳,女性.主訴:左眼視野異常.既往歴:虫垂炎術後(35年前).その他特記既往なし,内科通院歴なし.飲酒:350Cml缶(アルコール度数9%)をC3.5本程度/日.喫煙:27年間C×10.20本/日.アレルギー:甲殻類.現病歴:2020年C7月CX日,起床時より徐々に進行する左眼視力低下・視野障害を自覚し,同日に近医眼科を受診.左眼矯正視力は(0.03)と低下しており,同眼の対光反応減弱がみられたため,視神経炎として兵庫医科大学病院眼科を時間外紹介受診した.同日,頭部造影CMRIを施行したが,異常所見は認められなかった.細隙灯顕微鏡による診察では,前眼部・中間透光体には異常なかったが,左眼の眼底検査では網膜静脈が蛇行しており,網膜しみ状出血およびCRoth斑が散在していた.黄斑部に淡く白濁所見を呈しており,OCTでは白濁所見の部位に一致して網膜内顆粒層レベルに高反射域を認め,PAMMと考えられた.右眼眼底には特記すべき所見はなかった.翌日の検査では,視力は右眼C0.4(1.2C×sph.0.75D(cyl.0.75DAx30°),左眼C0.3(1.2C×sph.1.00D(cyl.0.50CDAx25°)と改善しており,眼圧は右眼19mmHg,左眼19mmHgであった(図1).フルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA)では黄斑部の毛細血管から微少な蛍光漏出・低蛍光領域がみられたが,ごく局所に留まり,左眼の腕網膜時間はC14.6秒,網膜内循環時間もC11.1秒と双方明らかな充盈遅延はなかった.一方,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)では黄斑部の白濁病変に一致して低蛍光が認められた(図2).視機能評価のため,微小視野計(マイクロペリメータ)MP-3(ニデック)を用い,背景輝度C31.4Casb,指標サイズCGoldmannIII,指標提示時間C0.2秒,指標ダイナミックレンジC34dBの条件にて,黄斑部直径C16°内のC45点で網膜感度を測定した.その結果,耳側を中心に黄斑部の感度はC0.21CdBと著明に低下していた.病歴聴取にて,初診C2日前に立ちくらみ・一過性の眼前暗黒感をきたしていたとの発言があり,眼所見とも合わせて採血検査を実施したところ,赤血球C315万/μl,ヘモグロビン5.5Cg/dl,Ht21.1%,MCV67.0,血小板C48.7万/μlと,低球性貧血,血小板異常高値を認めた.内科に紹介し,12Ccm大の巨大子宮筋腫および月経過多による鉄欠乏性貧血と診断された.初診C4日後より鉄剤補充による貧血治療を開始し,貧血および鉄動態は改善し,徐々に眼底の白濁所見も改善し,最終的に消失した(図3).MP-3による網膜感度測定でも,21CdB以下を示す測定点が初診時はC5カ所あったのに対し,5日後はC3カ所,19日後はC1カ所,54日後以降は該当する測定点を認めず(図4),網膜感度の平均値はそれぞれ初診時C26.2C±5.00CdB,5日後C26.7C±3.39CdB,19日後C27.2C±2.48CdB,54日後C28.4C±1.48CdBと眼底所見に追従して視機能も改善していった.ひび割れ状の視野障害自覚はしばらく残存していたが,初診C4カ月後(X+124日)には自覚症状も改善しており,終診となった.CII考按本症例は巨大子宮筋腫による過多月経,高度の鉄欠乏性貧血を生じており,眼底はCPAMMを伴う貧血網膜症を呈していた.PAMMによる症状と考えられる視野障害があり,網膜感度の低下も認めていたが,貧血治療の経過とともに眼底所見および自覚所見,他覚所見の改善を認めた.PAMMの発生機序は網膜中層の低灌流によるとされ,その程度により所見の現れ方に違いがあるとされる.本症例はそのうち,血管に沿ってシダ状にCPAMMの所見が現れるCfern-likepatternと称される様相を呈しており,虚血が比較的軽度であったことが推察される2).4,6).蛍光眼底造影検査では,IAでは病変部に一致して低蛍光を認めたが,FAでは明らかな低灌流所見などは認めなかった.PAMMの誘因としては網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症3,4),高血圧網膜症,糖尿病網膜症6),Purtscher網膜症9,10),片頭痛や上気道炎の発症後6),内眼手術後5),ほかに近年ではCCOVID-19後11,12),インフルエンザワクチン6)やCCOVID-19ワクチンの接種後13),鎌状赤血球症7)など,さまざまな誘因があると報告されている.鉄欠乏性貧血でもCPAMMをきたすとの報告があり8),本例も子宮筋腫に伴う過多月経による鉄欠乏性貧血がCPAMMを引き起こしたと考えられた.本症例は原疾患の治療に伴い,所見の改善を認めた.視力障害は遷延せず最後まで保たれていた一方,視野障害の自覚がしばらくの間残存していたが,こちらも最終的には改善がみられた.微小視野計CMP-3を用いることで,局所的な網膜感度低下を,眼底上の位置と対応させ定量的に検出することが可能である.本症例では,発症翌日には矯正視力はC1.2まで回復し以降も不変であったため,矯正視力では視機能障害の程度およびその改善を評価することは不可能であった.一方でMP-3の測定結果では,網膜白濁部位で感度が低下していることが検出でき,検眼鏡的所見およびCOCT所見が改善するにつれ,感度が回復していることも確認できた.視機能低下をきたす病変が網膜の局所的に発生・消失する疾患においては,微小視野計は病状経過の評価に非常に有用である.糖尿病網膜症に生じたCPAMMに関して微小視野計で評価したところ,矯正視力良好であっても局所の虚血が生じていた部位R)L)a図1初診翌日(X+1日)の眼底画像所見a:左眼眼底に網膜出血,黄斑部の網膜白濁病変を認める.白濁は軟性白斑より淡く,境界不明瞭である.Cb:自発蛍光写真では,黄斑部にシダ状低蛍光斑がみられ,病変部がより明瞭に判別できる.c:OCTでは,左眼の白濁病変と一致した領域で,内網状層.外網状層の高反射帯を認める(C▼).d:網膜中間層(内境界層(膜)下15.6.70.2Cμm)のCenCfaceOCT.Ca,bの病変部と一致して,高反射帯が広がる.図2初診翌日(X+1日)の蛍光造影画像FA:有意な過蛍光および低蛍光領域は認められない.CIA:黄斑部に網膜白濁所見とおおむね同範囲の低蛍光領域を認める(C←).で網膜感度の低下がみられた報告14)や,網膜感度がC25CdBいることで病状に伴う視機能変化を鋭敏かつ詳細に評価でき以下であった部位では毛細血管脱落がみられたという報告15)ると考える.もあり,CPAMMにおいても本症例のように微小視野計を用本例の原疾患である婦人科疾患に伴う貧血は希少なもので(1C11)あたらしい眼科Vol.42,No.3,2C025C375図3眼底およびOCT所見の経過X+4日後の時点から,内科にて鉄剤補充による貧血治療が開始された.それに伴い,網膜白濁所見(.),網膜出血(.),OCTでの網膜中層高反射バンド(▼)はいずれも消退していった.図4微小視野計(MP-3)における経過黄斑部の白濁所見を認めていた範囲内に網膜感度低下を認めている.治療経過に伴い,網膜感度も改善傾向を認め,X+54日後には明らかな感度低下は認められなくなった.はないため,PAMMを認めた場合に,貧血網膜症も鑑別にあげ原因精査を行うことも考えなければならない.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:aCnewCvariantCofCacuteCmacularCneuroretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCisch-emia.JAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20132)ScharfCJ,CFreundCKB,CSaddaCSCetal:ParacentralCacuteCmiddleCmaculopathyCandCtheCorganizationCofCtheCretinalCcapillaryplexuses.ProgRetinEyeResC81:100884,C20213)SridharJ,ShahlaeeA,RahimyEetal:OpticalcoherencetomographyCangiographyCandCenCfaceCopticalCcoherenceCtomographyCfeaturesCofCparacentralCacuteCmiddleCmacu-lopathy.AmJOphthalmolC160:1259-1268,Ce2,C20154)FalavarjaniKG,PhasukkijwatanaN,FreundKBetal:EnfaceCopticalCcoherenceCtomographyCanalysisCtoCassessCtheCspectrumCofCperivenularCischemiaCandCparacentralCacuteCmiddleCmaculopathyCinCretinalCveinCocclusion.CAmCJCOph-thalmolC177:131-138,C20175)PhamC,BooA,ChewSKHetal:Paracentralacutemid-dleCmaculopathyCinCaCyoungCpatientCfollowingCroutineCphacoemulsi.cationCsurgery.CClinCExpCOphthalmolC47:C1206-1209,C20196)ChenX,RahimyE,SergottRCetal:SpectrumofretinalvasculardiseasesassociatedwithparacentralacutemiddleCmaculopathy.AmJOphthalmolC160:26-34,Ce1,C20157)HussnainSA,CoadyPA,StoesselKM:Paracentralacutemiddlemaculopathy:precursorCtoCmacularCthinningCinCsickleCcellCretinopathy.CBMJCCaseCRep,Cbcr2016216124,C20178)SengilloCJD,CZhangCL,CSridharCJCetal:TransientCvisionClossCassociatedCwithCparacentralCacuteCmiddleCmaculopa-thyCdetectedConCmulti-modalCimaging.CAmCJCOphthalmolCCaseRepC24:101195,C20219)Rivera-DeCLaCParraCD,CFromow-GuerraJ:ParacentralCacutemiddlemaculopathyinPurtscherretinopathy.RetinCasesBriefRepC14:275-277,C202010)WooCCM,CVienLQ:Casereport:paracentralCacuteCmid-dleCmaculopathyCassociatedCwithCPurtscher’sCretinopathyCinCaCpolytraumaCpatient.CCROCJournal,CPublishedConlineCApril21,202311)CastroCS,FerreiraAS,SilvaNPetal:ParacentralacutemiddlemaculopathyafterCOVID-19:multimodalevalua-tion.RetinCasesBriefRepC17:791-796,C202312)GameiroCFilhoCAR,CGodoyCR,CReesCACetal:ParacentralCacutemiddlemaculopathyfollowingCOVID-19.ArqBrasOftalmolC86:397-399,C202313)DehghaniCA,CGhanbariCH,CHoushang-JahromiCMHCetal:CParacentralCacuteCmiddleCmaculopathyCandCCOVID-19vaccination:CausationCversusCcoincidenceC.nding.CClinCCaseRepC10:e05578,C202214)ScarinciCF,CVaranoCM,CParravanoM:RetinalCsensitivityClossCcorrelatesCwithCdeepCcapillaryCplexusCimpairmentCinCdiabeticCmacularCischemia.CJCOphthalmolC2019:7589841,C201915)MokraneCA,CZureikCA,CBonninCSCetal:RetinalCsensitivityCcorrelatesCwithCtheCsuper.cialCvesselCdensityCandCinnerClayerthicknessindiabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSciC62:28,C2021***