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活動性甲状腺眼症に対する新しい治療─完全ヒト型阻害型抗IGF-1 受容体モノクローナル抗体テプロツムマブの有効性・安全性─

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1345.1356,2025c活動性甲状腺眼症に対する新しい治療─完全ヒト型阻害型抗 IGF-1受容体モノクローナル抗体テプロツムマブの有効性・安全性─長谷部美紀*1 林田朋子*2*1アムジェン株式会社メディカルアフェアーズ本部希少疾患領域 *2CRare Disease Therapeutic Area, Global Clinical Development, Amgen Inc.A New Treatment for Active Thyroid Eye Disease:E.cacy and Safety of Teprotumumab, a Fully Human Monoclonal Antibody Inhibitor of IGF-1 Receptor Miki Hasebe1)and Tomoko Hayashida2)1)Rare Disease Therapeutic Area, Medical A.airs, Amgen K.K, 2)Rare Disease Therapeutic Area, Global Clinical Development, Amgen Inc.C甲状腺眼症(TED)は,Basedow病やまれに橋本病に伴う自己免疫疾患の一つであり,眼球突出や複視,眼瞼浮腫などを呈する.本症は,甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が,眼窩線維芽細胞に発現するインスリン様成長因子C1受容体(IGF-1R)を介したシグナル複合体を活性化することで起きると考えられている.完全ヒト型阻害型抗IGF-1Rモノクローナル抗体であるテプロツムマブは,欧米で行われた二つの海外試験〔第CII相試験,第CIII相試験(OPTIC試験)〕,ならびにわが国で行われた第CIII相試験(OPTIC-J試験)において,活動性CTED患者の臨床症状を有意に改善した.本稿では,TEDの概要,テプロツムマブの作用機序と日本人活動性CTED患者に対する有効性・安全性を中心に概説し,TED治療の新しい展望について考察する.CThyroid eye disease(TED)is an autoimmune disorder associated with Graves’ disease and rarely, with Hashi-moto’s disease, and it causes symptoms such as proptosis, diplopia, and eyelid edema. TED is thought to be caused by autoantibodies to thyroid-stimulating hormone receptor that activate a signaling complex mediated by the insu-lin-like growth factor 1 receptor(IGF-1R)C, which is overexpressed on orbital .broblasts in TED. Teprotumumab, aCfullyChumanCinhibitoryCmonoclonalCantibodyCagainstCIGF-1R,Csigni.cantlyCimprovedCtheCclinicalCsymptomsCinCpatients with active TED in two overseas studies(Phase II and Phase III[OPTIC study])in the United States and Europe,CandCinCaCPhaseCIIIstudy(OPTIC-Jstudy)inCJapan.CInCthisCarticle,CweCreviewCtheCoverviewCofCTED,CtheCmechanismCofCactionCofCteprotumumabCandCitsCe.cacyCandCsafetyCinCJapaneseCpatientsCwithCactiveCTED,CandCdis-cusses new prospects for TED treatment.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1345.1356,C2025〕 Key words:テプロツムマブ,甲状腺眼症,インスリン様成長因子C1受容体,眼窩線維芽細胞,眼球突出.teprotu-mumab, thyroid eye disease, insulin-like growth factor-1 receptor(IGF-1R)C, orbit .broblast, proptosis.Cはじめに甲状腺眼症(thyroid eye disease:TED)は,眼や眼周囲の痛み,流涙,眼瞼後退,結膜の充血や浮腫,涙丘の発赤や腫脹,眼球突出,複視などの多彩な眼症状を呈する眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患であり,顔貌の変化や視機能の低下などにより,患者の生活の質(quality of life:QOL)および社会心理面にも影響を及ぼす1,2).また,重症例では失明の危険性がある甲状腺視神経症(dysthyroidCopticCneuropa-thy:DON)を引き起こすことがある2).多くはCBasedow病やまれに橋本病に伴ってみられるが,自己免疫性甲状腺疾患が明らかでない眼症の症例もみられる3).日本甲状腺学会および日本内分泌学会による「Basedow病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針C2023(第C3次案)」では,中等症から重症の活動性CTEDに対する〔別刷請求先〕 湯本真代:〒107-6239 東京都港区赤坂C9-7-1ミッドタウンタワー アムジェン株式会社Reprint requests:Masayo Yumoto, Ph.D., Amgen K.K., 9-7-1 Akasaka Minato-ku, Tokyo 107-6239, JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(127)C1345 長谷部治療として,免疫抑制療法(ステロイドパルス療法)や放射線照射療法があげられている2).これら従来の治療は,軟部組織の炎症にはある程度の効果が報告されているが,眼球突出や複視に対するステロイドの効果は限定的である4).テプロツムマブは,インスリン様成長因子C1受容体(insu-lin-likeCgrowthCfactor-1receptor:IGF-1R)を標的とした完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であり,欧米で実施された無作為化プラセボ対照試験において,活動性CTED患者における眼球突出や臨床的活動性スコア(clinicalCactivityscore:CAS),複視,Basedow病眼症のCQOLに関する質問票(GravesC’CorbitopathyCQOLquestionnaire:GO-QOL)な.これらの試験に基づき,テプロツ])a6[,5どを有意に改善したムマブはC2020年C1月C21日にCTEDに対する初めての特異的な治療薬として米国で製造販売承認を取得し,2024年C12月時点で約C23,000名に投与され,良好な経過が得られている.わが国においては,日本人の活動性CTED患者を対象として行われた無作為化プラセボ対照試験(OPTIC-J試験)においても同等の効果と安全性が確認されたことを受け,2024年9月C24日に「活動性甲状腺眼症」を適応症として製造販売承認を取得した.欧州甲状腺協会(EuropeanCThyroidAssociation:ETA)および米国甲状腺協会(AmericanCThyroidAssociation:ATA)は,2022年のコンセンサス・ステートメントで,中等症から重症の活動性CTEDに対し,グルココルチコイド静注(intravenous glucocorticoid:IVGC)と並ぶ第一選択薬として,著明な眼球突出や複視を伴う場合にテプロツムマブを推奨した7).わが国でのテプロツムマブの製造販売承認を受け,本稿では,TEDの疫学と病態生理を概論し,国内外の臨床試験の結果を解説したうえで,新しいCTEDの治療方針の展望について考察する.C
I 甲状腺眼症( TED)とは 
1. 疫   学TED患者の大部分(90%)はCBasedow病/甲状腺機能亢進症であるが,まれに橋本病や甲状腺機能正常例もみられる3,8).TEDの有病率は世界各地でほぼ同じである9).発症率は男性に比べて女性でC2.5.6倍高いが,男性のほうが重症化しやすい10).平均的な発症年齢はC30.50歳とされている10).わが国におけるCTEDの発症率は,人口C10万人あたりC7.3人(男性C3.6人,女性13.0人)であり,患者数は約35,000人と推定されている11[b]).C
2. 病態生理TEDの病態には,CD4+T細胞やCB細胞,CD34+眼窩線維芽細胞,CD34C.眼窩線維芽細胞などを介した免疫反応が関与している12.14).TED患者の眼窩線維芽細胞では,IGF-1Rが過剰発現し,Cb-アレスチンC1を介して甲状腺刺激ホルモン受容体(thyroidCstimulatingChormonereceptor:TSHR)と機能的複合体を形成しているC15.17).TED患者で産生されるCTSHRに対する自己抗体がCIGF-1R/TSHR複合体に結合すると,これら受容体のクロストークによる下流シグナル伝達が活性化され,炎症性細胞の遊走や眼窩線維芽細胞の脂肪細胞および筋線維芽細胞への分化,サイトカインの発現,グリコサミノグリカンの合成,眼窩脂肪の膨張などを引き起こすと考えられている12.14).C
3. 臨床症状
TEDは,活動期(炎症期)に続いて慢性期(線維期)に入ることが知られている.活動期は一般的にC1.3年続くとされ,眼窩痛や発赤,腫脹などの症状が発現するが1,18),これらの炎症と症状がその後もより長く持続する症例もみられる7,19).眼瞼後退はCTED患者のC80%に認められるもっとも一般的な症状である12).眼球突出は,2番目に多い所見であり12),眼窩内の軟部組織の容積が増加(脂肪組織の増生および外眼筋の肥大化)することで発症する1).眼瞼後退と眼球突出の両方がある場合には,ドライアイによる刺激感や異物感,流涙に悩まされる患者が多い12).外眼筋病変は,TED患者の約C3分のC1に認められる12).初期症状として眼球運動時の疼痛やしびれが現れたのち,間欠的な複視や運動制限,斜視などが出現することがある12,18).TEDの重症例では,外眼筋および眼窩軟部組織膨張により視神経が圧迫されることで圧迫性視神経症(compressiveCoptic neuropathy:CON)を呈することがあり,その頻度はTED患者のC5.7%とされる12,18).C
4. 従来の治療,治療効果の判定基準2)
喫煙はCTEDの重大なリスク因子であるため20,21),全例に禁煙が勧められる.そのうえで,重症度や活動性,QOLを評価し,病態に応じた治療法が選択される.MRIは眼窩内炎症や眼球突出度,外眼筋腫大度などを評価でき,わが国においては日常診療に組み込まれ,病態の把握や治療の選択,効果予測に活用することがガイドラインで推奨されている.中等症.重症例は活動性があれば免疫抑制療法(ステロイドパルス療法)や放射線照射療法,慢性期であれば眼科的な機能回復手術の適応となる.最重症例は視機能の温存を目的とした眼症の治療が優先され,軽症例では経過観察,ステロイドの局所注射などが行われる.治療効果の判定には,主観的評価としてCGO-QOL,客観的評価としてCCASや眼球突出,複視,MRI所見などが用いられる.
図 1 テプロツムマブの作用機序(文献C12 より改変引用)
II テプロツムマブの作用機序
テプロツムマブはCIGF-1Rに対する完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であり,IGF-1に対して競合的にCIGF-1Rに結合することで,IGF-1RとCTSHRのクロストークにより引き起こされる下流のシグナル伝達を抑制し,眼窩線維芽細胞の活性化や増殖,炎症性サイトカイン〔インターロイキン(interleukin:IL)-6,IL-8〕の産生誘導を抑制したり22),CCD34+線維芽細胞における主要組織適合遺伝子複合体(majorChistocompatibilityCcomplex:MHC)IIやCB7蛋白質(CD80,CD86,PD-L1),CD4+T細胞におけるCIL-17Aやインターフェロン(interferon:IFN)-cの発現を低下させたりすることで23[b]),TEDにおける炎症反応を抑制すると考えられている(図 1).C
III テプロツムマブの臨床試験 
1. 海外第 II相試験,海外第 III相試験(OPTIC試験)欧米においては,中等症から重症の活動性CTED患者を対象とした臨床試験として,海外第CII相試験(無作為化二重遮蔽プラセボ対照並行群間比較試験)5)および海外第CIII相試験であるCOPTIC試験(無作為化二重遮蔽プラセボ対照並行群間比較試験)6)が相次いで行われた.対象患者は,プラセボまたはテプロツムマブをC3週間にC1回,計C8回の静脈内投与(初回はC10Cmg/kg,その後C7回はC20Cmg/kg)され,眼球突出やCAS,複視,QOLなどに対する臨床効果が検討された.2試験の対象患者の概要を表 1に示す.表 2に示すように,
テプロツムマブは,眼球突出やCCAS,複視,ならびにCQOLをプラセボに比べて有意に改善した.海外第CII相試験および海外第CIII相試験(OPTIC試験)の
統合解析25[a])におけるおもな有害事象を表 3に示した.重篤な有害事象は,テプロツムマブ群でC7例〔下痢,infusionreaction,橋本脳症疑い(錯乱を併発),大腸菌敗血症,尿閉,気胸,炎症性腸疾患〕,プラセボ群でC1例(眼窩減圧術を要する視野欠損)に認められた.テプロツムマブに「関連あり」または「関連する可能性あり」と判定された重篤な有害事象を発現した患者C3例〔下痢,infusion reaction,橋本脳症疑い(錯乱を併発)〕は投与を中止した.これらのC2試験で死亡の報告はなかった.C2. 国内第 III相試験(OPTIC-J試験) a. 試験概要
OPTIC-J試験26[a])は,海外第CIII相試験(OPTIC試験)6)の試験方法に基づいて行われた国内第CIII相試験である(図 2).選択基準(表 4)を満たした中等症から重症の活動性TED患者C54例をテプロツムマブ群(n=27)またはプラセボ群(n=27)にC1:1の割合で無作為に割り付け,プラセボ表 1 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)の対象患者の概要海外第CII相試験5) 6)海外第CIII相試験(OPTIC試験) テプロツムマブ群(N=43) プラセボ群(N=44) テプロツムマブ群(N=41) プラセボ群(N=42) 
性別
女性 28(65%) 36(82%) 29(71%) 31(74%) 年齢(歳) 51.6(C10.6) 54.2(C13.0) 51.6(C12.6) 48.9(C13.0) 人種   白人  黒人  アジア人  その他C 38(C86.4%)4(9C.1%)2(4C.5%).  37(C86.0%)4(9C.3%)1(2C.3%).  35(85%)4(10%)2(5%)0 37(88%)2(5%)1(2%)2(5%) 
喫煙状況
喫煙者  非喫煙者 11(26%)32(74%) 18(41%)26(59%) 9(22%)32(78%) 8(19%)34(81%) 試験眼の眼球突出(mm) 23.4(C3.2) 23.1(C2.9) 22.62(C3.32) 23.20(C3.21) 試験眼のCCAS 5.1(C0.97) 5.2(C0.74) 5.1(C0.9) 5.3(C1.0) 遊離トリヨードサイロニン(pmol/Cl) 4.8(C1.4) 4.9(C1.7) 5.1(C1.8) 5.3(C1.7) 遊離サイロキシン(pmol/Cl) 16.3(C4.8) 16.3(C3.6) 16.5(C5.3) 16.2(C4.8) 
連続データは平均値(C±標準偏差),カテゴリカルデータは患者数(%)で示した.CAS:臨床的活動性スコアに対するテプロツムマブの有効性,忍容性,安全性が検討された.各群とも,試験薬をC3週間にC1回,計C8回投与(初回はC10mg/kg,その後C7回はC20mg/kg)した.主要評価項目(検証的解析項目)および副次評価項目は,表 5に示したとおりであり,第C1種過誤を制御するため,副次評価項目について,①.⑦の階層的検定法を用いた.有効性評価はCITT集団(無作為に割り付けられたすべての患者),安全性評価は安全性解析集団(治験薬をC1回以上投与されたすべての患者)を対象に解析した.主要評価項目およびカテゴリカルデータの副次評価項目の群間比較は,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)で調整したCCochran-Mantel-Haenszel(CMH)検定を用いて行った.連続データの副次評価項目の群間比較は,ベースライン値,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者),投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用,評価時点とベースライン値の相互作用を含む,構造化されていない分散共分散行列による反復測定混合モデル(mixedCmodelCforCrepeatedmeasures:MMRM)を用いて解析した.Cb. ベースライン時の人口統計学的および臨床的特徴ベースライン時の患者特性は両群間でおおむね類似していた(表 6).無作為化されたすべての患者は投与C24週時の評価を完了した.c. 有 効 性
テプロツムマブ群における眼球突出奏効率は図 3aに示したとおりに推移し,投与C24週時の眼球突出奏効率(主要評価項目:検証的解析結果)は,テプロツムマブ群でC89%(24/27例),プラセボ群でC11%(3/27例)であり,テプロツムマブ群の眼球突出奏効率はプラセボ群に比べて有意に高かった〔群間差:78%(95%信頼区間:61.95),p<0.0001,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕.投与C24週時の眼球突出のベースラインからの平均変化量(最小二乗平均値)(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC.2.36Cmm(95%信頼区間:C.2.96.C.1.75),プラセボ群で.0.37Cmm(95%信頼区間:C.0.97.0.24)であった〔群間差:C.1.99Cmm(95%信頼区間:C.2.75.C.1.22),p<0.0001,ベースライン値,喫煙状況,投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用,評価時点とベースライン値の交互作用を含め,構造化されていない分散共分散行列を用いたCMMRM解析〕(図 3d).日本甲状腺学会および日本内分泌学会による「Base-dow病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第C3次案)」,およびCEuropeanCGroupConCGraves’Orbitopathy(EUGOGO)は,眼球突出のC2Cmm以上の変化を臨床的に意味のあるものとしている2,27).投与C24週時の全般的奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC78%(21/27例),プラセボ群でC4%(1/27例)表 2 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)におけるおもな有効性の結果海外第CII相試験5,24) 6,24)海外第CIII相試験(OPTIC試験) テプロツムマブ群(n=42) プラセボ群(n=45) テプロツムマブ群(n=41) プラセボ群(n=42) 
主要評価項目,ITT集団
投与C24週時の眼球突出a奏効率(%)C 奏効率C .  .  83C 10 両群の比較C . 群間差 73(95%CI:59.88)p<C0.001Cl 奏効率C 69C 20C .  . 投与C24週時の奏効率b(%)C 両群の比較 オッズ比8.86(C95%CCI:C3.29.C23.8)p<C0.001CiC . 
副次評価項目,ITT集団
投与C24週時の全般的c奏効率(%)C 奏効率C .  .  78C 7 両群の比較C . 群間差71(95%CI:56.86)p<C0.001Cl 投与C24週時の眼球突出のベースラインからの変化量(mm) 平均値C g.2.95(C0.26)C g.0.29(C0.25)C g.3.32(C0.23)C g.0.53(C0.23)C 両群の比較 群間差C.2.66 (95%CI:C.3.37.C.1.95)p<C0.0001Cj 群間差C.2.79(95%CI:C.3.40.C.2.17)p<C0.0001Cm 奏効率C 69C 21C 59C 21 投与C24週時のCCASd奏効率(%)C 両群の比較 オッズ比C8.97p<C0.001Ck 群間差36(95%CI:17.55)p<C0.001Cl 奏効率C 68C 26C 68C 29 投与C24週時の複視e奏効率(%)C 両群の比較 p<C0.001Ck 群間差39(95%CI:16.63)Cp=0.001l 投与C24週時のfGO-QOL(総合スコア)Cのベースラインからの変化量 平均値 h20.40(C3.2)C h9.71(C3.1)C g17.28(C2.3)C g1.80(C2.70)C 両群の比較 群間差10.69(C95%CCI:C2.07.C19.31) 群間差15.48(C95%CCI:C8.43.C22.53) 
CI:con.dence interval(信頼区間).a:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2Cmm以上の増加)が認められなかった患者の割合.b:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつCCASがC2点以上減少した患者の割合Cc:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつCCASがC2点以上減少し,僚眼で眼球突出またはCCASの悪化(眼球突出のC2Cmm以上の増加またはCCASのC2点以上の増加)が認められなかった患者の割合.d:試験眼のCCASがC0点またはC1点であった患者の割合.眼症の活動性をC7項目(各C1点)で評価し,3点以上で活動性眼症とされる.e:試験眼の複視がベースラインからC1グレード以上減少した患者の割合.複視グレードはC4段階(グレード0:なし.グレードC3:絶えず続く)で評価された.f:二つのサブスケール(視機能,社会心理面)から構成される.0.100点で点数が高いほどCQOLは高い.g:最小二乗平均値(C±標準誤差).h:最小二乗平均値(C±標準偏差).i:喫煙を共変量として用いたロジスティック回帰モデルによる解析.j:喫煙を共変量として用いたCMMRMによる解析.k:C|2検定.l:喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)で層別化したCCMH検定.m:ベースライン値,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者),投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用および評価時点とベースライン値の交互作用を含め,構造化されていない分散共分散行列を用いたCMMRMによる解析.眼球突出変化値:オリジナル論文であるCSmithらの報告5)およびCDouglasらの報告6)では,治験統計計画書に基づきベースラインから投与C24週時までの変化量を継続的に評価した値を副次評価項目データとして表に記載し,24週を含む各データポイントにおけるベースラインとの定点比較データを折れ線グラフとして記載している.OPTIC-J試験では,24週におけるベースラインと定点比較した眼球突出値の変化を副次評価項目として採用したため,この表においても,24週におけるベースラインと定点比較した眼球突出値の変化を記した.表 3 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)の統合解析25):二重遮蔽期間中に認められたおもな有害事象患者数(%) テプロツムマブ群(n=84) プラセボ群(n=86) 筋痙縮 21(25%) 6(7%) 悪心 14(17%) 8(9%) 脱毛症 11(13%) 7(8%) 下痢 10(12%) 7(8%) 疲労 10(12%) 6(7%) 高血糖 8(10%) 1(1%) 聴力低下 8(10%)C 0 味覚異常 7(8%)C 0 頭痛 7(8%) 6(7%) 皮膚乾燥 7(8%)C 0 発疹 5(6%) 5(6%) 
おもな選択基準・20~80歳の日本人 Basedow病患者無作為・TED期間<9カ月,前治療なし割付・CAS≧31:1・眼球突出:TED発症後の増加≧3mmおよび/またはベースライン時≧18mm
層別因子:喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)CAS:臨床的活動性スコア二重遮蔽期間オープンラベル継続投与期間24週間24週間投与 24週時 ※2投与 48週時 ※2

投与 24週時の眼球突出に改善が認められなかった患者(ノンレスポンダー)は,希望すればテプロツムマブ投与(8回)を受けることができた※1初回は 10mg/kg,その後 7回は 20mg/kgを投与 ※2投与 24週時(レスポンダー,テプロツムマブのオープンラベル継続投与を選択しなかったノンレスポンダー)または投与 48週時(テプロツムマブのオープンラベル継続投与を選択したノンレスポンダー)以降は,それぞれ 30日間フォローアップ図 2 OPTIC-J試験デザインであった〔群間差:74%(95%信頼区間:57.91),p<0.0001,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕(図 3b).投与C24週時のCCAS奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC59%(16/27例),プラセボ群でC22%(6/27例)であった〔群間差:37%(95%信頼区間:13.62),p=0.0031,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCMH検定〕(図 3c).両眼複視奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC64%(14/22例),プラセボ群でC45%(9/20例)であった〔群間差C17%(95%信頼区間:C.11.45),p=0.24,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCMH検定〕(図 3e).両眼複視奏効率が統計学的有意ではなかったため,以降の評価項目の解析では統計学的有意性を主張できないことから名目上のCp値を示す.両眼複視完全奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC50%(11/22例),プラセボ群でC20%(4/20例)であった〔群間差:29.1%(95%信頼区間:1.57),名目上のCp=0.043,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕(図 3f).テプロツムマブ群およびプラセボ群における投与C24週時のGO-QOLのベースラインからの平均変化量(最小二乗平均値)(副次評価項目)は,総合スコアでそれぞれC17.39(95%信頼区間:10.67.24.11),6.39(95%信頼区間:C.0.33.C13.10)〔群間差:11.01(95%信頼区間:2.65.19.36),名目上のCp=0.011〕,視機能に関するスコアでそれぞれC16.22(95%信頼区間:8.29.24.14),4.39(95%信頼区間:C.3.55.C12.33)〔群間差:11.83(95%信頼区間:1.82.21.83),名目上のCp=0.022],社会心理面に関するスコアでそれぞれ表 4 OPTIC-J試験のおもな選択基準.中等症または重症の活動甲状腺眼症を伴うCBasedow病と診断されたC20.80歳の日本人患者で,重症度が高い側の眼のCAS(7点尺度)がC3点以上であり,医師の推定に基づきC3mm以上の眼球突出の増加(甲状腺眼症診断前との比較)またはC18Cmm以上の眼球突出を呈する,活動性甲状腺眼症の発症後C9カ月未満の患者..甲状腺機能が正常な患者,または軽度の甲状腺機能低下症もしくは甲状腺機能亢進症を有する患者.甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症を速やかに改善するためにあらゆる処置を施した..過去に甲状腺眼症の治療を目的とした眼窩への放射線療法または外科的療法を受けた患者は除外した.副腎皮質ステロイド(最大累積用量がメチルプレドニゾロンまたはその同等薬でC1Cg未満)による治療歴を有する患者は,スクリーニングの4週間以上前に副腎皮質ステロイド投与を中止していれば組入れ可能とした.表 5 OPTIC-J試験における主要評価項目,副次評価項目主要評価項目(検証的解析項目)投与C24週時の眼球突出奏効率[試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2Cmm以上の増加)が認められない患者の割合]副次評価項目
① 投与C24週時の全般的奏効率[試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少かつCCASがC2点以上減少し,僚眼で眼球突出またはCCASの悪化(眼球突出のC2Cmm以上の増加またはCCASのC2点以上の増加)が認められない患者の割合]② 投与C24週時のCCAS奏効率[試験眼のCCASがC0点またはC1点(炎症所見なしまたは軽微な炎症所見)の患者の割合]③ 投与C24週時の試験眼での眼球突出のベースラインからの平均変化量④ 投与C24週時の両眼複視奏効率
(ベースライン時に両眼複視がグレードC1以上であった患者のうち,1グレード以上減少した患者の割合)⑤ 投与C24週時の両眼複視完全奏効率(ベースライン時に両眼複視がグレードC1以上であった患者のうち,グレードC0に減少した患者の割合)
⑥ 投与C24週時のCGO-QOL(総合スコア)のベースラインからの平均変化量⑦ 投与C24週時のCGO-QOLサブスケールスコア(視機能に関するスコアおよび社会心理面に関するスコア)のベースラインからの平均変化量19.35(95%信頼区間:11.48.27.23),8.69(95%信頼区間:0.83.16.56)〔群間差:10.66(95%信頼区間:1.04.20.28),名目上のCp=0.031〕であった.GO-QOLスコアのC6点の変化は臨床的に意味があると考えられている28).Cd. 安 全 性二重遮蔽期間中の有害事象は,テプロツムマブ群ではC25件,プラセボ群ではC21件認められた.テプロツムマブ群で発現した有害事象C25件中C23件がグレードC1またはC2であった.試験薬との関連が認められた有害事象は,テプロツムマブ群でC14件,プラセボ群でC2件であった.2例以上の患者で報告され,プラセボ群よりもテプロツムマブ群で頻度が高かった有害事象を表 7に示す.テプロツムマブ群では,脱毛症がもっとも多く発現した有害事象であり〔5件(19%)〕,ついで季節性アレルギー,COVID-19が各C4件(15%),筋痙縮,耳鳴,下痢,高血糖が各C3件(11%)であった.なお,筋痙縮はおもに大筋肉(四肢など)で,しびれ感や小さな攣縮が認められた.注目すべき有害事象として,テプロツムマブ群において,CinfusionreactionがC1例(軽度で投与中止の必要はなかった),高血糖に関連する事象がC6例(血糖値上昇C3例,糖尿表 6 OPTIC-J試験におけるベースライン時の人口統計学的および臨床的特徴( ITT集団)
性別
女性 18(67%) 20(74%)   男性 9(33%) 7(26%) 年齢(歳) 46.6(C14.2) 50.0(C13.4) 人種   日本人 27(1C00%) 27(1C00%) 
喫煙状況
過去に喫煙歴あり 13(48%) 12(44%)   現在喫煙している 4(15%) 4(15%)   喫煙歴なし 10(37%) 11(41%) TED診断からスクリーニングまでの期間(月)遊離トリヨードサイロニン(pmol/Cl) 4.24(C1.94.C6.83)4.60(C4.00.C5.20) 5.22(C3.02.C6.80)4.90(C3.80.C5.50) 遊離サイロキシン(pmol/Cl) 15.40(C12.90.C16.70) 14.20(C12.90.C16.70) サイロトロピン(mIU/Cl) 0.43(C0.01.C2.81) 0.77(C0.04.C2.82) 試験眼の眼球突出(mm) 21.07(C2.46) 20.39(C2.42) 試験眼のCCAS 4.5(C1.3) 4.0(C0.8) 
複視-Gormanスコア
0-なし 5(19%) 7(26%)   1-間欠性 5(19%) 1(4%)   2-不定 11(41%) 9(33%)   3-絶えず続く 6(22%) 10(37%) 
GO-QOLスコア
総合スコア 68.3(C23.6) 74.9(C20.0)   視機能に関するサブスケールスコア 70.5(C27.9) 80.1(C20.9)   社会心理面に関するサブスケールスコア 66.4(C24.8) 69.9(C25.9) 
連続データは平均値(標準偏差),TED診断からの期間,遊離トリヨードサイロニン,遊離サイロキシン,サイロトロピンは中央値(四分位範囲),カテゴリカルデータは患者数(%)で示した.トリヨードサイロニン,サイロキシン,サイロトロピンの値は,安全性解析対象集団で評価した.病C2例,耐糖能障害C1例,いずれも軽度または中等度で投与中止の必要はなかった.3例は糖尿病の既往があり服薬治療中であり,他C3例も治験登録時のCHbA1cは基準範囲内であったが,高値であった),聴力障害がC4例(1例は既存の聴力低下,1例で突発性難聴の既往があり,3例が同一施設で中等度の既存の聴力低下がある症例を除き聴力低下の自覚症状はなし)に発現した.テプロツムマブは,インスリン受容体には結合しないが,IGF-1とインスリンは細胞内シグナルを一部共有しているため,インスリン抵抗性を生じる可能性が示唆されている29).また,IGF-1R阻害と聴力低下の因果関係を示す明確なデータはない30)が,IGF-1が内耳の発生に加え,聴覚の維持や保護にも重要であることが示されてい(文献C26より改変引用)
る31,32[b])ことから,IGF-1シグナルの阻害が聴覚機能に影響を与える可能性が考えられる.テプロツムマブ群では,抗甲状腺薬の影響により減少していた白血球数がCCOVID-19罹患時にさらに減少して予防的入院したC1例が重篤な有害事象として報告されたが,治験責任医師により試験薬との因果関係は否定された.全例が二重遮蔽期間の観察を完了したが,テプロツムマブ群のC1例(4%),プラセボ群のC2例(7%)は試験薬をC2回以上投与できなかった(テプロツムマブ群とプラセボ群の各C1例は感音性聴力低下によるものであったが,両者とも加齢に伴う難聴が治験参加以前より存在した).本試験において,死亡は認められなかった.ab 

眼球突出奏効率(%)両眼複視完全奏効率(%)ベースラインからの平均変化量(mm)全般的奏効率(%)
投与期間(週)投与期間(週)
cd 100 投与期間(週) 1 36 1218 24 0 -0.1-1-0.22-0.26-0.47-0.3780p=0.0031
CAS奏効率(%)試験眼での眼球突出のp=0.043 59 60 p=0.13 52 p=0.34 41 -0.7240 20 -1.2930 -2p=0.02826 -1.7422 22 -2.1419 p=0.0050-2.36p<0.0001-3p=0.0005p=0.00020 -46 12 18 24 n2727 27 27 27 2727 27 27 27投与期間(週)

ef 100 100 両眼複視奏効率(%)80p=0.2480p=0.24p=0.21 64 p=0.0077p=0.04364 60 60p=0.73 55 p=0.020 5045 4645 41 40p=0.29 41 4035 35 p=0.3023 p=0.65 23 20 20 9 10 10 10 510 0 0 
3 6 121824 3 6 121824投与期間(週)投与期間(週)a:眼球突出が改善した患者の割合.b:全般的奏効が得られた患者の割合.c:CASが改善した患者の割合.d:眼球突出のベースラインからの平均変化量.ベースライン時に両眼複視が認められた患者(テプロツムマブ群:n=22,プラセボ群:n=20).e:両眼複視が奏効した患者の割合,f:両眼複視が完全に奏効した患者の割合.エラーバー:95%信頼区間<奏効率に関する有効性評価項目の定義>有効性評価項目 定義 眼球突出奏効率 試験眼の眼球突出がベースラインから 2.mm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2.mm以上の増加)が認められない患者の割合 全般的奏効率 試験眼の眼球突出がベースラインから 2.mm以上減少かつ CASが 2点以上減少し,僚眼で眼球突出または CASの悪化(眼球突出の 2.mm以上の増加または CASの 2点以上の増加)が認められない患者の割合 CAS奏効率 試験眼の CASが 0点または 1点(炎症所見なしまたは軽微な炎症所見)の患者の割合 両眼複視奏効率 ベースライン時に両眼複視がグレード 1以上であった患者のうち,1グレード以上減少した患者の割合 両眼複視完全奏効率 ベースライン時に両眼複視がグレード 1以上であった患者のうち,グレード 0に減少した患者の割合 複視奏効率 ベースライン時に試験眼で複視がグレード 1以上であった患者のうち,試験眼で 1グレード以上減少し,かつ僚眼で悪化( 1グレード以上の増加)が認められなかった患者の割合 
図 3 OPTIC-J試験におけるテプロツムマブの有効性( ITT集団)CAS:臨床的活動性スコア(文献C26より改変引用)表 7 OPTIC-J試験における二重遮蔽期間中の有害事象の概要(安全性解析対象集団)患者数(%) テプロツムマブ群(n=27) プラセボ群(n=27) 有害事象 25(93%) 21(78%) 季節性アレルギー 4(15%)C 0C COVID-19 a4(15%)C 3(11%) 筋痙縮 3(11%)C 0 耳鳴 3(11%)C 0 耳不快感 2(7%)C 0 聴力低下 2(7%)C 0 感音性聴力低下 2(7%) 1(4%) ドライアイ 2(7%)C 0 下痢 3(11%) 1(4%) 上腹部痛 2(7%)C 0 口内炎 2(7%)C 0C c-GTP増加 a2(7%)C 0 糖尿病 2(7%)C 0 高血糖 b3(11%)C 0 脱毛症 5(19%)C 0 接触性皮膚炎 2(7%)C 0 皮膚乾燥 2(7%)C 0 湿疹 2(7%)C 0 
複数の有害事象を発現した患者も含む.Ca1件の事象はグレードC3の有害事象と判定された.グレードC4の有害事象または死亡の報告はなかった.Cb報告者が使用した用語「血糖値の上昇」の患者C1例を含む.(文献C26より改変引用)CIV 考   察
IGF-1Rに対する完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であるテプロツムマブは,TED患者の眼窩線維芽細胞で過剰に発現するCIGF-1Rへの結合を介して,IGF-1RとCTSHRのクロストークにより引き起こされる下流のシグナル伝達を阻害し,眼窩内の炎症性サイトカインや細胞外基質の産生を抑制することにより,TEDの症状である眼球突出や炎症症状を改善すると考えられる.国内外の臨床試験5,6,26)において,テプロツムマブは,活動期のCTEDに伴う眼球突出や複視,QOL低下などを有意に改善した.とくに,日本人患者では欧米人患者に比べて治験参加時の眼球突出が低めであったにもかかわらず,欧米人と同程度の奏効率が確認された点は興味深い.アジア人のCTED患者では,眼窩の解剖学的構造の人種的な違いにより,眼球突出が欧米人に比べて顕著でない傾向がある33,34)一方で,顔貌の変化など臨床症状で確認できない眼窩の圧上昇が進み,初診時に重篤なCTEDであるDONとして発見される症例もみられる.OPTIC-J試験で示された結果は,日本人の生物学的特性や治療反応性に関する新たな知見を提供するものであり,治療戦略を考えるうえで重要な示唆となる.また,これまで中等症から重症のCTEDに対してはステロイドがおもな治療選択肢であったが,その効果,とくに眼球突出に対する効果は限定的である4)ことから,より有用な治療法に対するアンメット・ニーズ(未だ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)が存在する.臨床試験5,6,26)においてテプロツムマブが眼球突出に対して効果を示したことは,治療選択を増やし,今後の治療指針に大きな影響を与えると考えられる.実際,テプロツムマブがすでに承認・販売されている米国では,TED患者に対するテプロツムマブが第一選択薬として定着し,これに伴い眼球突出に対する減圧手術の件数が減少している35[b]).国内外の臨床試験5,6,26)で認められたテプロツムマブ群における有害事象の多くは軽度(グレードC1または2)であった.患者の疾病負担軽減やCQOL向上の観点からもテプロツムマブは大きなメリットを提供できると考えられる.ただし,海外第CII相試験および海外第CIII相試験(OPTIC試験)の統合解析25)では,テプロツムマブ投与による眼球突出奏効率は,最終投与後C7週でC87%(62/71例)であったのに対して,最終投与後C51週ではC67%(38/57例)であり,投与終了後の長期評価で一部再燃する例がみられた.さらに,米国で行われたテプロツムマブの臨床試験C36[a])では,慢性/低疾患活動性CTED患者(CAS≦1点,病歴C2.10年)であっても,テプロツムマブ投与によりプラセボ投与に比べて眼球突出が有意に改善したことが示されている.日本国内においても慢性期CTED患者を対象としたテプロツムマブの第CIII相試験が進行中であり,臨床的エビデンスがさらに蓄積される予定である.CV ま と め
中等症.重症の日本人活動性CTED患者を対象とした国内第CIII相試験(OPTIC-J試験)においても,欧米で行われた海外試験と同様に,テプロツムマブの有効性,忍容性および安全性が検証された.身体的・精神的な疾病負担の大きいTEDに対して,テプロツムマブはCTED患者の治療アウトカム向上に寄与する有用な治療選択肢になると期待される.謝辞:国内第CIII相試験(OPTIC-J試験)にご協力いただいた被験者の皆様,治験参加医師ならびにご施設の皆様に,心より感謝申し上げます.また,本論文の執筆にあたりサポートいただいた株式会社CCMCエクスメディカおよび株式会社リテラメッドに謝意を表します.利益相反:[a]該当論文に対しCAMGEN(旧CHorizonTherapeutics)の治験に参加して謝金を受けた者が含まれる.[b]該当論文に対しCAMGEN(旧CHorizonTherapeutics)とのコンサルタント契約で謝金を受けた者が含まれる.文   献
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