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問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1 症例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):230.234,2022c問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1症例白木夕起子*1,2庄司純*2樋町美華*3廣田旭亮*2稲田紀子*2山上聡*2*1相模原協同病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3東海学園大学心理学部CACaseofVernalKeratoconjunctivitisthatUnderwentChildren’sManifestAnxietyScalePsychologicalTestingYukikoShiraki1,2),JunSyoji2),MikaHimachi3),AkiraHirota2),NorikoInada2)andSatoruYamagami2)1)SagamiharaKyodoHospital,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofPsychology,TokaigakuenUniversityC目的:治療経過中に,日本版児童用顕在性不安尺度(Children’sManifestAnxietyScale:CMAS)による心理検査が施行できた春季カタルの症例報告.症例:症例は春季カタルのC9歳,男児である.既往歴としてチック症がある.2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.1年間近医で治療を受けたが症状が改善せず,当科紹介受診した.初診時所見は,両眼上眼瞼結膜に活動性の巨大乳頭を認めたが,角膜上皮障害はなかった.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼治療開始後C1カ月目には自覚症状が軽減し,巨大乳頭は扁平化した.初診時とタクロリムス点眼治療開始後C1カ月目のC2回,CMASによる心理テストを施行した.初診時の結果は,合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」,検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で,強い不安が検出された.点眼治療開始後C1カ月目の結果は,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」,L尺度項目はC1と軽快していた.結論:免疫抑制点眼薬による春季カタルの軽症化により,不定の程度も改善したことが心理テストで確認できたC1例を経験した.CPurpose:Toreportacaseofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)thatunderwentpsychologicaltestingviatheJapaneseversionoftheChildren’sManifestAnxietyScale(CMAS)duringthetreatmentcourse.Casereport:A9-year-oldboypresentedwithvernalkeratoconjunctivitis.Hehadahistoryofticdisorder,andinthesummerof2018,inadditiontohisticdisorder,hyperemia,ocularpain,anddischargeinhisrighteyeoccurred.Althoughhehadbeentreatedfor1yearataneyeclinicnearhishome,hissymptomsdidnotimproveandhewasreferredtoourdepartment.Clinical.ndingsattheinitialvisitshowedactivegiantpapillaeintheupperpalpebraconjunctivaofbotheyes,yetnocornealepithelialdamage.HewasdiagnosedwithVKC,andatwice-dailytreatmentwithtopi-calCtacrolimusCophthalmicCsuspensionCwasCinitiated.CAtC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CsubjectiveCsymptomsCimprovedCandCtheCgiantCpapillaCwasC.attened.CAtCinitialCpresentationCandCatC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CCMASpsychologicaltestingwasperformed.TheCMAStestresultsatinitialpresentationrevealedstronganxietyby28pointsintotal,andthedegreeofanxietywasIVoutofVclasses.TheLscaleitemindicatingthevalidityofthetestwas0.TheCMAStestresultsat1-monthposttreatmentinitiationshowed16pointsintotal,adegreeofanxietyCofCIII,CandCthatCtheCLCscaleCitemCwasC1.CConclusion:WeCexperiencedCaCpatientCwithCVKCCwhoseCCMASCpsychologicaltestingimprovedduetotreatmentwithimmunosuppressiveeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):230.234,C2022〕Keywords:春季カタル,ストレスチェック,他覚的評価,CMAS.vernalkeratoconjunctivitis,stresscheck,ob-jectiveevaluation,CMAS.C〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANC230(98)表1乳頭・輪部・角膜スコア(PLCスコア)点数乳頭巨大乳頭輪部腫脹トランタス斑角膜所見0点1点2点3点なし直径C0.1.0C.2Cmm以上直径C0.3.0C.5Cmm以上直径C0.6Cmm以上なし平坦化局所全体なし1/3周未満1/3.C2/3周2/3周以上なし1.4個5.8個9個以上なし点状表層角膜炎落屑状点状表層角膜炎シールド潰瘍はじめに春季カタルは結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患であるとされ,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版1)では,春季カタルで発症する結膜の増殖性変化を眼瞼結膜の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起と定義している.臨床的には,5.10歳の男児に好発し,春季に増悪する季節性があり,重症化すると角膜上皮障害やシールド潰瘍を併発して視力障害を生じるなどの臨床的特徴を有するが,アトピー性皮膚炎を伴う患者が多いことも特徴としてあげられている1).アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎については,日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018年版2)に,心身医学的側面にも留意した包括的な治療を心がけるべきと記載されている.これまでに,アトピー性皮膚炎と心身医学的側面との関係として,ランダム化比較試験による効果が実証された心身医学的介入は,行動療法や認知行動療法などの行動科学的アプローチであるという報告3)や,適切な薬物療法,リラクセーション訓練や認知行動療法などのストレス免疫訓練,習慣性掻破行動をやめる行動療法,アドヒアランスを向上させるコーチングや動機づけ面接など,行動科学的アプローチを用いて総合的な患者教育を行うことが大切であるという報告4)がなされている.春季カタルも重症型アレルギー性結膜疾患であると同時にアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患の合併率が高いことから,アトピー性皮膚炎における治療的アプローチと同様に,春季カタルについても病状と心身医学的側面との関係について検討していく必要があると考えられる.児童の不安を検査する方法の一つに,児童用顕在性不安尺度がある.CMAS(ChildrenC’sCManifestCAnxietyScale:CMAS)は身体各部の異常や疾患に基づいて生じるさまざまな身体的不安の程度を測定する質問紙検査で,身体的不安や精神的不安などを含む各種不安の総合的な程度を評価するために開発されたCManifestCAnxietyScale(MAS)の小児版である.CMASにより,不安の程度が高いと評価された場合には,さらにその不安の種類や不安が生じる誘因や原因を考察することで不安をなくすために必要な具体的対策を講ずることが可能となる.これまでに眼科領域では,心因性視覚障害の小児に使用した報告5)がみられるが,春季カタルの経過観察に使用した報告はみられない.今回,筆者らはCCMSの日本版である『CMS児童用顕在性不安尺度』(以下,日本版CAMS)(三京房,京都)を用いて春季カタル症例の治療奏効の過程で,不安の程度が軽減したことが確認できたC1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.CI方法および症例1.顕在性不安尺度顕在性不安尺度の測定には,CMASを用いた.日本版CMASの質問用紙に記載されている不安尺度C42項目および妥当性を示すCL(lie)尺度C11項目に関する質問の計C53項目について「はい」と「いいえ」で自己回答させた.検者は,回答後に診断基準に従って不安傾向をC5段階で評価した.0.5点はC5段階評価のC1「非常に低い」,6.12点はC2で「低い」,13.20点はC3で「正常」,21.28点はC4で「高い」,29点以上はC5で「非常に高い」となる.また,妥当性尺度を使用して回答の信頼性について評価した.C2.臨床スコア他覚所見は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版2)に記載されている臨床評価基準をもとに,春季カタル患者用に主要項目を抜粋した乳頭・輪部・角膜(papillae-lim-bus-cornea:PLC)スコアを作成し,数値化した(表1).C3.症例患者:9歳,男児.主訴:右眼充血・疼痛.既往歴:チック症.アレルギー歴:ダニ・ハウスダスト.家族歴:特記事項なし.現病歴:2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.近医でエピナスチン点眼薬による治療が開始され,症状の改善があるたびに点眼薬の使用を自己中断していた.2019年C8月になり,点眼薬を使用しても右眼の充血および疼痛が改善しなくなったため当院初診となった.初診時所見:視力は,右眼=0.3(0.6),左眼=1.2(n.c.)であった.眼圧は眼刺激症状により十分な開瞼が行えず測定不能であった.細隙灯顕微鏡所見では,両眼の上眼瞼結膜に巨大乳頭と眼脂の貯留とがみられた.巨大乳頭所見は,左眼に比較して右眼のほうが重症であった.球結膜には高度の充血を認めたが,角膜・輪部には特記すべき所見はみられなかった(図1a,b).これらの所見から,PLCスコアは,右眼C6図1治療前後の前眼部写真治療開始前の右眼(Ca)および左眼(Cb).活動性の巨大乳頭と巨大乳頭の間隙に貯留した眼脂,および球結膜充血がみられる.治療開始C4週間目の右眼(Cc)および左眼(Cd).巨大乳頭は扁平化し,球結膜の充血は消退傾向である.タクロリムス点眼CMAS:ChildrenManifestAnxietyScale図2PLCスコアおよび日本版CMASの治療前後の比較治療開始前のCPLCスコアは両眼ともC6点,日本版CCMASはC28点と高い不安を示した.タクロリムス点眼C1日C2回両眼点眼による治療開始後よりCPLCスコアは減少し,4週後の日本版CCMASもC16点と,不安の程度は正常となった.20週目よりタクロリムス点眼C1日C1回両眼点眼に変更した.点,左眼C6点と判定した.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼薬による治療開始前に,日本版CCMASを本人に回答させた.合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」で,診断としては高い不安を示した.検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で妥当性はあった.治療経過:治療開始からC1週後,右眼裸眼視力はC1.2に向上した.両眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は縮小傾向を示し,眼脂や充血も軽快していた.この時点で,PLCスコアは右眼C5点,左眼C5点に減少した.自覚症状は,時折掻痒感を自覚する程度にまで改善した.自覚所見および他覚所見は軽快傾向を示したものの,結膜の炎症所見と結膜増殖性変化である巨大乳頭が残存していたため,タクロリムス点眼液C1日C2回点眼は継続した.その後,自覚症状および他覚所見は徐々に軽症化し,初診からC1カ月後には巨大乳頭は扁平化した(図1c,d).治療開始後C1カ月目のCPLCスコアは,右眼C3点,左眼C4点であった.再度,日本版CCMASを施行したところ,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」で,診断としては正常となった(図2).検査の妥当性を示すCL尺度項目はC1で妥当性はあった.初診からC5カ月後には巨大乳頭がほぼ消失し,現在は経過観察中である.CII考按今回筆者らは,急性増悪期と鎮静期に日本版CCMASを施行して,両病期間で不安傾向に差があった春季カタル症例を経験した.春季カタルを含めたアレルギー性結膜疾患では,患者がもっとも高頻度に自覚する症状として眼.痒感があげられている7).また,眼掻痒感は患者の生活の質(qualityCoflife)を低下させることが報告されている8).春季カタルでは,病状の増悪に伴って,眼掻痒感,流涙,羞明感,眼脂,眼痛などの自覚症状が悪化する.重症化すると登校が困難になることもあり,患児が眼掻痒感ばかりでなく眼痛や羞明感などにより強いストレスを感じていることが予想されていた.しかし,現在の春季カタル診療では,ストレスの程度を把握する臨床検査法が確立していないため,医師側が患児のストレスを把握しきれないのが現状である.一方,病状とストレスとの関連が検討されてきたアレルギー性疾患の代表的疾患は気管支喘息とアトピー性皮膚炎である.大矢は,心身症的側面を有する気管支喘息では,vocalCcodedysfunctionなどの心因性上気道閉塞性疾患との鑑別診断が重要であるとともに,心理社会的ストレッサーをチェックし,適切な対応を行うことが重要であることを指摘している9).また,アトピー性皮膚炎では,病状にストレスの関与があることが指摘されており,心身医学的側面からの検討が行われている.羽白は,アトピー性皮膚炎が心身症としては,「狭義の心身症タイプ」「アトピー性皮膚炎による適応障害タイプ」「アトピー性皮膚炎による管理障害(治療遵守不良)タイプ」のC3種類に分類されるとしている10).また,アトピー性皮膚炎における心理的側面を診断する方法として,樋町らは,ItchAnxietyScaleforAtopicDermatitis(IAS-AD)11)を,安藤らはアトピー性皮膚炎心身症尺度(Psycho-somaticCScaleCforCAtopicDermatitis:PSS-AD)12)を発表している.したがって,ストレスを含めた心理的影響が疑われる春季カタルなどのアレルギー性結膜疾患でも,検査法を確立して心身症的側面を把握し,病態の理解に努めることが重要であると考えられる.今回の症例では,日本版CCMASを使用することで,春季カタルの重症度の変化に伴う患児のストレスが検出可能であることが示唆された.MASは,1951年CTaylorら13)が発表した質問紙法による不安傾向の測定法で,TaylorCPersonalityCInventory(TPI)ともよばれている.顕在性不安とは,自分自身で身体的,精神的な不安の症候が意識化できたものをさし,行動観察などにより主観的に捉えられることが多かった不安が,MASにより患者報告アウトカムとして臨床現場で使用できるようになっている.MASの適応年齢はC16歳以上とされているが,16歳未満の児童用CCMASがある.今回の症例には,簡単な日本語で質問表が書かれた日本版CCMASを用いた.不安は,状態不安と特性不安との二つに大別されている.状態不安は,ある特定の時点や場面で感じる不安のことをさし,ストレスが強いほど状態不安が高くなるとされている.また,特性不安は,性格などに由来する不安になりやすい傾向を示すとされ,ストレスにより不安になりやすい人を意味している.CMASは,顕在性不安の検出を目的とするための検査法であるが,おもに特性不安を検出する質問項目を中心に作成されており,状態不安を測定する項目に乏しいことが指摘されている.今回の症例では日本版CCMASにより検出された不安傾向が,春季カタルの治療により改善したことが特徴的な変化であると考えられた.顕在性不安と特性不安の両者を測定する目的で作成された検査法として,state-traitanxietyCinventory(STAI)がある.今後は,春季カタルにおける不安検査として,CMASとCSTAIとの比較を行い,春季カタル患者における不安検査としての妥当性について検討していく必要があると考えられた.本症例報告の概要は,第C3回日本眼科アレルギー学会学術集会で発表した.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20102)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2018年版.日皮会誌C128:C2431-2502,C20183)EhlersA,StangierU,GielerU:Treatmentofatopicder-matitis:acomparisonofpsychologicalanddermatologicalapproachesCtoCrelapseCprevention.CJCConsultCClinCPsycholC63:624-635,C19954)StevenCJ,CFionaCC,CSueCLCetal:PsychologicalCandCeduca-tionalCinterventionsCforCatopicCeczemaCinCchildren.CCochraneDatabaseSystRevC2014:CD004054,C20145)原涼子,和田直子,並木美夏ほか:他科との連携が必要であった心因性視覚障害.日本視能訓練士協会誌C37:123-128,C20086)ShojiJ,OhashiY,FukushimaAetal:TopicaltacrolimusforchronicallergicconjunctivitisdiseasewithandwithoutCatopicdermatitis.CurrEyeResC44:796-805,C20197)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20128)深川和己,岸本弘嗣,庄司純ほか:季節性アレルギー性結膜炎患者におけるCWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるCQOLへの影響.アレルギーの臨床C39:825-837,C20199)大矢幸弘:心因性喘息と鑑別が必要なCVocalcorddysfunc-tion─.Q&Aでわかるアレルギー疾患C4:193-196,C200810)羽白誠:アトピー性皮膚炎への心身医学的対応.医学のあゆみ228:109-114,C200911)樋町美華,岡島義,大澤香織ほか:成人型アトピー性皮膚炎患者の痒みに対する不安尺度の開発信頼性・妥当性の検討.心身医学47:793-802,C200712)AndoT,HashiroM,NodaKetal:Developmentandvali-dationCofCtheCpsychosomaticCscaleCforCatopicCdermatitisCinCadults.JDermatolC33:439-450,C200613)TaylorJA:Therelationshipofanxietytotheconditionedeyelidresponse.JExpPsycholC41:81-89,C1951***

春季カタルにおける長期予後の解析

2019年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(1):111.114,2019c春季カタルにおける長期予後の解析三島彩加佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofLong-termPrognosisofVernalKeratoconjunctivitisAyakaMishima,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:春季カタル(VKC)の臨床経過と長期予後の解析.対象および方法:2005年C4月から福岡大学病院眼科を初診しC5年以上経過したCVKC症例計C21例(男性C18例,女性C3例,平均年齢C9.0歳)40眼に対して診療録をもとに使用薬剤と再発の有無を後方視的に解析した.結果:初診時に抗アレルギー点眼薬がC40眼(100%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬はC40眼(100%),ステロイド内服薬はC6眼(15.0%)に使用されていた.経過中にトリアムシノロン眼瞼皮下注射がC24眼(60.0%)に行われた.初回治療後,VKCの再発を認めた症例はC34眼(85.0%)であった.再発をきたしたC34眼の予後をCKaplan-Meier法で解析したところ,治療開始C2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至った.22眼(64.7%)の症例がC16歳までに治癒に到達していた.再発症例の最終悪化時の年齢は平均でC13.6歳であった.一方,10眼(29.4%)が現在も治癒せず,治療継続中である.結論:免疫抑制点眼薬を使用することにより,VKCの早期治癒が可能になった.再発を繰り返す症例もその多くは青年前期には治癒することが示された.CPurpose:ThisCstudyCreportedCtheCclinicalCcourseCandClong-termCprognosisCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC).Casesandmethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof21patientswithVKC(18males,3females;averageage:9.0years)whowerefollowedformorethan5yearsattheEyeCenterofFukuokaUniversityHospi-talCafterCApril,C2005,CbasedConCmedicalCrecords.CResults:AtC.rstCadmission,C40eyes(100%)wereCtreatedCwithCanti-allergicCeyeCdropsCandCimmunosuppressiveCeyedrops;33eyes(82.5%)wereCalsoCtreatedCwithCcorticosteroidCeyedrops;6eyes(15.0%)receivedCoralCcorticosteroids.CSubcutaneousCeyelidCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonideCwasCgivenCinC24eyes(60.0%)duringCtheCcourse.CAfterCinitialCtreatment,C34eyes(85.0%)showedCrecurrenceCofCVKC.Amongtheeyeswithrecurrence,thecumulativecureratewas23.5%after2years,reaching52.9%after5years’Ctreatment.CCompleteCremissionCwasCachievedCinC22eyes(64.7%)by16yearsCofCage.CAverageCageCatClastCrecurrenceinthesecaseswas13.6yearsold.Incontrast,10eyes(29.4%)showedcontinuousrecurrencewithoutremission.CConclusion:VKCCcouldCbeCtreatedCearlierCbyCusingCimmunosuppressiveCeyeCdrops.CItCwasCshownCthatCmostcasesofVKCwithrecurrencecouldbecuredinpre-adolescence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):111.114,C2019〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,タクロリムス,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,immu-nosuppressiveeyedrops,tacrolimus,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期に発症し,寛解・増悪を繰り返す結膜増殖性アレルギー疾患である.病型ではおもに眼瞼に巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型と,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型とに大別される.治療は抗アレルギー点眼薬単独では管理が困難なことが多く,副腎皮質ステロイドの全身もしくは局所投与,近年では免疫抑制点眼薬の有用性が報告されている1).免疫抑制点眼薬はステロイド投与に伴うステロイド白内障2)やステロイド緑内障に関する報告はない.ステロイド緑内障は,とくに幼少期においては合併する可能性が高いと報告され3),VKCの罹患期間と重なることが多く,ステロイド点眼薬の長期使用に付随する重要な問題である.これまでわが国でCVKCの長期予後についての報告はほとんどみられず,海外でも治療〔別刷請求先〕三島彩加:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakaMishima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC薬の長期使用成績4,5)以外ではこれまでほとんど報告されていない6).そこで今回筆者らは免疫抑制点眼薬を主たる治療として長期間経過観察を行ったCVKC症例の臨床経過ならびに予後を解析したので報告する.CI対象および方法2005年C4月から福岡大学病院眼科外来を初診し,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)の定義にもとづいてVKCと診断され加療された症例のうち,診療録においてC5年以上経過観察を行ったC21例C40眼(男性C18例,女性C3例)を対象とした.そのうち,両眼例は男性C16例,女性C3例で,片眼例は男性C2例,女性C0例であった.初診時平均年齢はC8.0±2.7歳(平均C±標準偏差,5.17歳)であった.検討項目としては,各症例の性別,初診時年齢,初診時の病型(眼瞼型,輪部型,混合型),初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,初診時の角膜上皮障害所見,初診時の治療内容,そして再発の有無と再発までの期間,最終悪化時の年齢を後方視的に解析した.臨床所見の重症度はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)をもとに,所見がないもの,軽度なもの,中等度なもの,高度なものとC4段階に分類した.治療の経過中に初診時と同等の結膜所見や新たな角膜病変の出現が認められた時点で再発あり,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,治癒に至るまでの期間と治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C18例(85.7%),女性C3例(14.3%)でC6:1と男性が多かった.全C40眼の初診時の所見について,病型では眼瞼型がC37眼(92.5%)ともっとも多く,混合型はC3眼(7.5%),輪部型はC0眼(0.0%)であった.眼瞼結膜巨大乳頭所見では軽度がC26眼(65.0%),中等度がC10眼(25.0%),高度がC4眼(10.0%)と半数以上が軽度であった.角膜上皮障害所見はなしがC11眼(27.5%),軽度がC12眼(30.0%),中等度がC9眼(22.5%),高度がC8眼(20.0%)と軽度の症例がもっとも多かったが,各重症度の割合には大きな差はみられなかった.初診時の年齢はC7.9歳がC20眼(50.0%)ともっとも多かった(図1).全症例の初診時治療については,抗アレルギー点眼薬が40眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬がC40眼(100%),ステロイド内服薬がC6眼(15.0%)に投与され,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC24眼(60.0%)であった.再発を認めた症例(再発群)はC34眼(85.0%),再発を認めず初回治療のみで治癒した症例(非再発群)はC6眼(15.0%)であった.非再発群においては,眼瞼結膜巨大乳頭所見は軽度がC2眼(33.3%),中等度がC2眼(33.3%),高度がC2眼(33.3%)であり,角膜上皮障害所見はなしがC2眼(33.3%),軽度がC0眼(0.0%),中等度がC1眼(16.7%),高度がC3眼(50.0%)であった.年齢分布はどの年代においても大きな差はみられなかった(図2).治療薬は,抗アレルギー点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC6眼(100.0%),免疫抑制点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド内服薬がC0眼(0.0%),そして,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC2眼(33.3%)であった(表1).再発群については,眼瞼結膜巨大乳頭所見は,軽度の症例がC24眼(70.6%)と多く,中等度はC8眼(23.5%),高度がC2眼(5.9%)であった.角膜上皮障害所見はなしがC9眼(26.4%),軽度がC12眼(35.3%),中等度がC8眼(23.5%),高度がC5眼(14.7%)とすべての病型に差はみられなかった.年齢の分布はC34眼中C18眼とC7.9歳にもっとも多かった(図3).治療は抗アレルギー点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC27眼(79.4%),免疫抑制点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド内服薬がC6眼(17.6%)で,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射はC22眼(64.7%)に行われた(表1).再発群において,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,経過期間と累積治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した(図4).2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至っていた.しかし,29.4%が現在も治癒に至らず寛解・増悪を繰り返していた.16歳までC22眼(64.7%)が最終増悪を終えて,以後再発を認めずに治癒に至っていた.最終悪化時の年齢分布を図5に示した.平均はC13.6歳であった.CIII考按重症アレルギー性結膜疾患やCVKCに対するタクロリムス点眼液の治療効果については,これまで高い治療効果が報告されている4,8.10).今回の検討でも初回治療でC15.0%の症例が再燃せずに治癒しており,タクロリムス点眼液による効果と考える.一方それらを除く約C9割の症例は再発を繰り返した.今回の検討では初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,角膜上皮障害所見とCVKCの再発の関与に有意な結果が認められなかった.初診時の臨床所見の重症度だけではCVKCの再発傾向についての予測は困難であるといえる.今回の検討には含まれなかったが,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の全身既往歴や点眼コンプライアンスなどの要因について,今後はさらに検討を行う必要があると考えられる.重症CVKC症例に対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の有用性については,小沢ら11)が報告しており,いわゆるリリーバーとして重症例に行われた.202016161212症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)8844006歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上6歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)年齢(歳)図1初診時全症例の年齢分布図2非再発群の初診時年齢分布7.9歳にもっとも多くみられた.各年齢群の差は少なかった.表1非再発群・再発群の初診時治療20初診時治療非再発群再発群C16(n=6眼)(n=34眼)128抗アレルギー点眼6(100%)34(100%)ステロイド点眼6(100%)27(79.4%)免疫抑制薬点眼6(100%)34(100%)ステロイド内服0(0.0%)6(17.6%)C4トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射2(33.3%)22(64.7%)C06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図3再発群の初診時年齢分布7.9歳に多くみられた.C20161284図4再発群における治療期間と累積治癒率の推移Kaplan-Meier法で解析した.70.6%の症例が観察期間中に治癒に至っていた.アレルギー性結膜炎についてはC10歳代にピークがあり加齢とともに減少すると報告されている12).しかし,これまでにCVKCの眼炎症が収束して治癒する明確な年齢は報告されていなかった.今回の検討でC16歳までに約C6割の症例が以後再発を認めずに治癒に至り,16歳以上の多くの症例ではそれ以降に再発がみられないことがわかった.その一方で,約C2割の症例は治癒に至らないことも判明した.今回はアトピー性皮膚炎などの全身疾患についての検討は行っていないが,アトピー性皮膚炎合併例における免疫学的な特殊性などがCVKCの治癒に至るかどうか,あるいは成人型のアトピー性角結膜炎に移行するものなどについて,その病態を今後さ(113)06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図5再発群の最終再発時年齢分布最終再発時年齢の平均はC13.6歳であった.らに詳細に検討する必要性があるといえる.文献1)南場研一:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬治療.あたらしい眼科C30:57-61,C20132)小川月彦,貝田智子,雨宮次生:ステロイド白内障発症要因の検討.臨眼C51:489-492,C19973)OhjiCM,CKinoshitaCS,COhmiCECetal:MarkedCintraocularCpressureCresponseCtoCinstillationCofCcorticosteroidsCinCchil-dren.AmJOphthalmolC112:450-454,C19914)Al-AmriAM:Long-termCfollow-upCofCtacrolimusCoint-mentCforCtreatmentCofCatopicCkeratoconjunctivitis.CAmJOphthalmolC157:280-286,C20145)PucciCN,CCaputoCR,CMoriCFCetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.CIntCJCImmunopatholCPharmacolC23:C865-871,C20106)BoniniCS,CBoniniCS,CLambiaseCACetal:VernalCkeratocon-junctivitisrevisited:aCcaseCseriesCofC195patientsCwithClong-termfollowup.OphthalmologyC107:1157-1163,C20007)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20108)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmicCsuspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20109)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C201310)品川真有子,南場研一,北市信義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼C71:343-348,C201711)小沢昌彦,山口晃生,淵上あきほか:春季カタルに対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の治療成績.臨眼C61:739-743,C200712)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の疫学.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班実績集.p12-20,日本眼科医会,1995***

春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):243.246,2018c春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績森貴之川村朋子佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CTreatmentResultsofProactiveTherapyUsingImmunosuppressiveEyedropsforVernalKeratoconjunctivitisTakayukiMori,TomokoKawamura,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine目的:免疫抑制点眼薬を春季カタル(VKC)症例に,再燃を抑制するために継続投与する治療を行った.これらの症例の治療成績を検討したので報告する.対象および方法:福岡大学病院眼科でC2009.2016年に治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用により経過観察したCVKCC32例を対象とし,臨床経過と再燃の有無について後ろ向きに解析した.結果:平均治療期間はC27.9カ月で,ステロイドを使用せずに再発がみられなかったのはC26例(81.2%)であり,6例(18.8%)では何らかのステロイド治療を必要とした.免疫抑制点眼薬はすべての症例でタクロリムスが使用されたが,6例ではシクロスポリンも使用された.結論:VKCの慢性期において,ステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による経過観察は可能であり,アトピー性皮膚炎と同様に,抗炎症局所治療薬である免疫抑制点眼薬を継続投与して再燃を抑制する,いわゆるCproactive療法と考えられる投与法でCVKCの長期管理が可能であることが示唆された.CPurpose:ToCavoidCseasonalCrecurrenceCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC)C,CproactiveCtherapyCcomprisingCcontinuedtreatmentwithprophylacticdoseincreaseofimmunosuppressiveeyedropsisdeemedtobeofvalue.WereporttheoutcomeofproactivetreatmentofVKC.SubjectsandMethods:Surveyedretrospectivelyinthisstudywere32patientswithVKCwhoweretreatedatFukuokaUniversityHospitalwithcontinueduseofimmunosup-pressiveeyedropswithoutsimultaneoususeoflocalorsystemiccorticosteroidsbetween2009and2016.Results:AverageCtreatmentCdurationCwasC27.9Cmonths;26Ccases(81.2%)showedCnoCrecurrenceCwithoutCtheCuseCofCanycorticosteroids,but6cases(18.8%)requiredcorticosteroidtreatment.Tacrolimuswasusedinallcasesforimmu-nosuppressiveCeyedrops;CcyclosporineCwasCalsoCusedCinC6Ccases.CConclusions:InCtheCchronicCphaseCofCVKC,CitCisCsuggestedthatlong-termmanagementwithproactivetherapyusingimmunosuppressiveeyedropsispossiblewith-outtheuseofcorticosteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):243.246,C2018〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,proactive療法,タクロリムス,シクロスポリン.vernalkeratocon-junctivitis,immunosuppressiveeyedrops,proactivetherapy,tacrolimus,cyclosporine.Cはじめに春季カタル(vernalCkeratoconjunctivitis:VKC)は増殖性病変を特徴とし,罹患期間も長く,季節性などによる再発のために管理が困難なアレルギー疾患である1).現在のアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)では,VKCの治療法を,「抗アレルギー点眼薬だけで効果不十分な中等症以上の症例に対しては,免疫抑制点眼薬を追加投与し,重症例に対しては,さらにステロイド点眼薬を追加投与し,症状に応じてステロイドの内服薬や瞼結膜下注射,外科的治療も試みる」と記載されている2).症状や重症度に応じて,免疫抑〔別刷請求先〕森貴之:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakayukiMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPAN制点眼薬を基礎治療としながら追加するいわゆるCreactive療法というべき方法が推奨されている.これに対して,皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に,ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に塗布し,寛解状態を維持する治療法がCproac-tive療法として行われている3).VKCにおいては,病勢が落ち着いている時期に免疫抑制点眼薬を漸減しながら継続し,再燃を回避する投与法がCVKCにおける免疫抑制点眼薬によるCproactive療法になると考えられる4).VKCのCproactive療法の可能性については述べられているが,proactive療法の実際の症例に対する治療成績に関するまとまった報告はまだない.そこで当科において行った免疫抑制点眼薬の継続投与治療によるCVKCの治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法福岡大学病院眼科でC2009.2016年にCVKCの治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用(点眼回数の増減を含む)により経過観察したC32例を対象とし,VKCにおけるCproactive療法の可能性について,後ろ向きに解析した.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)にもとづいて行った.開始時の平均年齢はC11.3歳(4.17歳),男性28例,女性C4例であった.観察期間中,抗アレルギー点眼薬は併用可とした.両眼例では重症眼を評価対象とした.臨床評価基準のうち,結膜乳頭,結膜巨大乳頭および角膜それぞれの重症度を,なし:0,軽症:1,中等症:2および重症:3とスコア化し,その合計を重症度スコアとした(最大で9).免疫抑制薬点眼薬の終了,中止あるいはステロイド使用時(点眼,内服,もしくは眼瞼注射)を死亡とし,ステロイドを使用せずに,免疫抑制点眼薬を継続して治療中あるいは改善して治療終了までの期間をCproactive療法としての生存期間としてCKaplan-Meier法で求めた.中止例は最終受診時点までの期間を同様に生存期間とした.ステロイド使用の基準はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症以上あるいは角膜中等症以上のいずれかないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.またステロイドの選択はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症あるいは角膜重症のいずれかないし両方が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の場合は点眼薬とした.平均値の比較にはCMann-Whitney検定を,要因の単変量解析にはCFisher直接確率計算法を用いた.CII結果平均治療期間はC27.9カ月(12.64カ月)であった.全C32症例のうち,生命表解析で死亡とみなすステロイドを使用し(%)1008060402000102030405060(月)図1Proactive療法のKaplan.Meier法による生存曲線免疫抑制点眼薬による治療の持続期間を示す.た症例はC6例(18.8%)であった.この症例はすべて男性であった.ステロイド使用時期はC12カ月後,36カ月後が各C2例,16カ月後,24カ月後が各C1例であった.ステロイドの使用時期を死亡と定義するCKaplan-Meier法の生存曲線解析結果を図1に示した.Proactive療法の生存率はC2年でC85.9%,5年でC68.9%であった.ステロイド使用例を除き,pro-active療法が継続できたC26例の開始時および最終受診時の重症度スコアの平均はそれぞれ,3.73とC2.27であった.一方,再発群のC6例の開始時および再燃時の重症度スコアの平均はそれぞれ,4およびC4.5と継続例よりは高かった.なお,経過観察中に重篤な合併症がみられた症例はなかった.ステロイド使用に至った症例を再発群,proactive療法を継続できステロイド使用しなかった症例を無再発群として,両群間で再発に関係する要因について検討した.治療開始時年齢については,平均値を比較したが,有意差はみられなかった.要因としては,性別(男性/女性),シクロスポリンの使用(あり/なし),治療開始年齢(10歳以上/10歳未満)アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)について,いずれの要,因でも統計学的に有意な差は認められなかった(表1).ステロイドを使用したC6症例の詳細は表2に示した.再発後トリアムシノロンアセトニド注射やプレドニゾロン内服を必要として,その後経過観察を行った(表2).免疫抑制点眼薬は全症例においてタクロリムス(タリムスCR点眼液C0.1%)が使用されたが,6例では経過中にシクロスポリンも使用された.シクロスポリン(パピロックCRミニ点眼液C0.1%)は全例でタクロリムスからの切り替えとして使用された.CIII考按アレルギー性結膜疾患の治療におけるCproactive療法はまだ確立されたものではなく,近年アレルギー性結膜炎の再発C表1再発群と無再発群の比較再発なし(2C6例)再発あり(6例)p値性別(男性/女性)C22/4C6/0C0.566シクロスポリンの使用(あり/なし)C6/20C0/6C0.565アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)C6/20C3/3C0.314Fisher直接確率計算法を用いた.表2ステロイド使用6症例の詳細年齢性別再発時病変再発時矯正視力再発時期再発前の点眼(/day)使用したステロイド全身疾患経過最終矯正視力7歳男CShieldulcerSPK巨大乳頭C2+0.0928カ月タクロリムス3回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし再発時,C4カ月後,C14カ月後,C17カ月後の4回注射後症状改善し,pCroactive療法再開.以降再発なし.C1.014歳男CShieldulcer落屑様CSPK巨大乳頭C2+トランタス斑C0.524カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,C9カ月後,C24カ月後に注射.現在落屑様CSPK,上方輪部病変,巨大乳頭あり.加療継続中.C0.515歳男結膜充血増強C0.912カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC15Cmg注射なし再発時,C9カ月後,C12カ月後に注射.輪部型.その後ドロップアウト.最終診察時,輪部増殖とトランタス斑.C0.84歳男落屑様CSPK巨大乳頭C3+1.036カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし2カ月後,C7カ月後,C10カ月後,C17カ月後に注射.その後はCproactive療法再開.現在治療継続.C1.214歳男落屑様CSPK巨大乳頭+0.412カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,1C5カ月後に注射.P+,GCP+,CSPK+.加療継続中.C0.35歳男CShieldulcer巨大乳頭+1.016カ月タクロリムス3回プレドニゾロンC17.5Cmgから漸減アトピー性皮膚炎17カ月後にケナコルトC20Cmg注射.現在加療継続中.C1.2Cを防止するために,抗アレルギー点眼薬の継続使用によるproactive療法が提唱されている5)のがもっとも早い報告と考えられるが,VKCに対する免疫抑制点眼薬を用いたCpro-active療法の報告は筆者らの調べた範囲ではまだみられていない.VKCの治療においては,免疫抑制点眼薬が診療ガイドラインでも第一選択薬となっており,とくにタクロリムス点眼薬C0.1%によって,治療中にステロイドからの離脱率が高率であったと報告されており,ステロイド点眼薬に匹敵する効果のあるステロイド代替治療薬としての重要性が相ついで報告されている6,7).またC0.01%の低濃度点眼薬でも同等の有効性があったという報告もある8).しかし,長期間にわたって,投与回数を増減して継続投与を行った報告はなく,その点で今回の解析は意義があったと考えている.VKCにおける通常のいわゆるCreactive療法では,急性期にはステロイド点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用し,症状の改善に応じて,ステロイド点眼薬を中止し,抗アレルギー点眼薬のみを継続して,免疫抑制点眼薬も終了とするというのが一般的な投与法と考えられるが,VKCは季節性の再発がしばしば生じ,その際には結果的に上記の急性期治療から治療を繰り返していくということになる.今回の経過観察を行った免疫抑制点眼薬によるステロイドを使用しないCVKCの継続治療はCproactive療法として最初から行われたものではなく,retrospectiveに解析を行った結果からいわゆるCproac-tive療法に相当すると考えられる投与法であったものである.当院で免疫抑制点眼薬を用いて継続治療した全C32症例のうち,長期間にわたってステロイド局所および全身治療を必要としなかった症例がC28症例(81.2%)であったという結果は,reactive療法との比較試験は行っていないが,十分に高い持続率であったと考えられる.皮膚科でアトピー性皮膚炎に対して行われているproactive療法とほぼ同様の方法で,VKCの慢性期においてもステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による長期管理が可能であることが示唆された.皮膚科領域と同様にステロイド点眼薬も使用するCproactive療法というものがありうることは否定しないが,今回の治療はステロイドの使用により生じる副作用を防ぐうえでも有意義であると考えられた.再発群と無再発群の比較においては,いずれの項目においても統計学的に有意な差は認められなかったが,この理由として症例数が少ないためであると考えられた.ただし典型的なCVKCの小児例においては,アトピー性皮膚炎の合併率は高くないことが知られており,アトピー性皮膚炎の関与が大きくなかったことは考えられる.再発群と無再発群とを分ける要因は今回の結果からは判明しなかったが,重症型のアレルギー性結膜疾患では涙液中サイトカイン濃度が異なっていること9)や,涙液中炎症マーカーと角膜合併症が関与する報告10)などがあり,何らかの免疫学的な要因が関係する可能性がある.今回の対象となった症例の平均年齢はC11歳とVKCの年齢としては高く,一般的にCVKCのもっとも重症な時期を過ぎている症例が多いことが要因の解析に影響した可能性があるが,proactive療法を継続できるのはこのような症例でもあり,今後の解析を進めたい.シクロスポリン点眼薬を使用したC6症例ではいずれもステロイド局所および全身治療を必要としなかった.これは,VKCの経過が良い症例に対し眼刺激症状などの副作用軽減のため,すでにタクロリムス点眼薬からシクロスポリン点眼薬へ移行した症例であることによるものと考えられる.一方で,シクロスポリンのCVKC再発に対するタクロリムスとは異なる作用の関連も示唆された11).皮膚科領域とは異なり,タクロリムスとシクロスポリンというC2製剤を使用できる春季カタルのCproactive療法が今後確立する場合には,タクロリムスの終了後にも,切り替え投与としてさらに再発を抑制し,安全に治療を終了するうえで,シクロスポリン点眼薬の一定の可能性や意義があることが推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchioCE,CItohCY,CKadonosonoCK:TopicalCbromfenacCsodi-umforlong-termmanagementofvernalkeratoconjuncti-vitis.OphthalmologicaC221:153-158,C20072)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:831-870,C20103)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2016年版.日皮会誌C126:121-155,C20164)海老原伸行:治療の最前線C!点眼剤の使い分けとピットフォールアレルギー性結膜疾患.薬局65:1774-1780,C20145)O’BrienTP:Allergicconjunctivitis:anupdateondiagno-sisCandCmanagement.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC13:543-549,C20136)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetCal:Steroid-spar-ingCe.ectCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C20177)FukushimaCA,COhashiCY,CEbiharaCNCetCal:Therapeutice.ectsCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropsCforCrefractoryCaller-gicCocularCdiseasesCwithCproliferativeClesionCorCcornealCinvolvement.BrJOphthalmolC98:1023-1027,C20148)ShoughySS,JaroudiMO,TabbaraKF:E.cacyandsafeC-tyoflow-dosetopicaltacrolimusinvernalkeratoconjunc-tivitis.ClinOphthalmolC10:643-647,C20169)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-gamma,Cinterleukin(IL)C-2,CIL-4CandCIL-5CinCpatientsCwithCvernalCkeratoconjunctivitis,CatopicCkeratoconjunctivi-tisCandCallergicCconjunctivitis.CClinCExpCAllergyC30:103-109,C200010)TanakaM,DogruM,TakanoYetal:Quantitativeevalu-ationCofCtheCearlyCchangesCinCocularCsurfaceCin.ammationCfollowingMMC-aidedpapillaryresectioninsevereallergicCpatientsCwithCcornealCcomplications.CCorneaC25:281-285,C200611)YucelCOE,CUlusCND:E.cacyCandCsafetyCofCtopicalCcyclo-sporineA0.05%invernalkeratoconjunctivitis.SingaporeMedJC57:507-510,C2016***

炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-Lewis X値の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1599.1603,2015c炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討白木夕起子庄司純石森秋子稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationofSialyl-LewisXLevelsinTearsofPatientswithIn.ammatoryConjunctivalDiseasesYukikoShiraki,JunSyoji,AkikoIshimoriandNorikoInadaDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:非感染性炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討.対象および方法:対象は春季カタル(VKC群)12例,Sjogren症候群(SS群)9例および健常対照(コントロール群)10例である.涙液はSchirmer試験第Ⅰ法に準じた濾紙法で採取し,緩衝液中で溶出して40倍希釈涙液検体とした.涙液検体はenzyme-linkedimmuno-sorbentassay(ELISA)法を用いて,涙液中のSialyl-LewisX値を測定した.結果:涙液中Sialyl-LewisX値は,VKC群:4.0(1.7.10.9)[中央値(レンジ)]kU/ml,SS群:8.8(0.5.32.8),コントロール群:10.4(2.9.28.8)であった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest).コントロール群とSS群との涙液中Sialyl-LewisX値に差はなかった.結論:春季カタルでみられる結膜のアレルギー炎症は,涙液中Sialyl-LewisX値の変動に影響する可能性が考えられた.Purpose:ToevaluateSialyl-LewisXlevelsintearsofpatientswithnon-infectiousin.ammatoryconjunctivaldiseases.SubjectsandMethods:Subjectswerepatientswithvernalkeratoconjunctivitis(VKCgroup)(n=12)orSjogren’ssyndrome(SSgroup)(n=9);healthyvolunteersservedascontrol(controlgroup)(n=10).Tearsam-pleswereobtainedusinga.lterpapermethodbasedontheSchirmerItest,diluted40timeswithbu.eredsolu-tion.Sialyl-LewisXlevelsweredeterminedbyenzyme-linkedimmunosorbentassay.Results:Sialyl-LewisXlev-elsintearswere4.0(1.7-10.9)[median(range)][kU/ml],8.8(0.5-32.8)and10.4(2.9-28.8)inVKC,Sjogrenandcontrolgroups,respectively.Sialyl-LewisXlevelsintheVKCgroupshowedasigni.cantlylowlevelascomparedtothoseinthecontrolgroup(p<0.05,Steel-Dwasstest).Therewasnodi.erenceinSialyl-LewisXlevelsbetweencontrolandSSgroups.Conclusion:Allergyin.ammation,whichispresentinconjunctivaofpatientswithVKC,maya.ectchangesinSialyl-LewisXtearlevelsinpatientswithVKC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1599.1603,2015〕Keywords:シアリルルイスX,春季カタル,シェーグレン症候群,涙液検査.Sialyl-LewisX,vernalkeratocon-junctivitis,Sjogren’ssyndrome,teartest.はじめに結膜の炎症性疾患は,感染性結膜炎と非感染性結膜炎とに大別される.非感染性結膜炎には,I型アレルギー反応を主要病態とするアレルギー性結膜疾患,自己免疫疾患であるSjogren症候群および瘢痕性結膜疾患であるStevens-John-son症候群や眼類天疱瘡などが含まれる.春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は,瞼結膜の石垣状乳頭増殖や輪部堤防状隆起などの結膜増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患である.VKCの患者背景としては,アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアトピー素因を有し,種々の環境因子により増悪と寛解とを繰り返す症例がみられる.また,VKCの病態や重症度を把握するための眼アレルギー検査は現在のところ存在せず,涙液検査を中心に検討が進められている.これまでに,涙液検査項目として有望視されている涙液中バイオマーカーは,eosinophilcationicprotein(ECP)1.3),IL-4などの2型ヘルパーT細〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)1599胞(Th2)関連サイトカイン4,5),eotaxinやthymusandacti-vationregulatedchemokine(TARC)などのTh2ケモカイン6.8)があげられる.Sjogren症候群は,ドライアイ,ドライマウスおよび関節炎がみられる自己免疫疾患である.涙液中のバイオマーカーに関する既報では,カテプシンSやケモカインであるCXCL9/MIG,CXCL10/IP-10,CXCL11/I-TACが涙液中に増加しているとされている9,10).一方,Sialyl-LewisXは,シアリルルイスグループに属する糖鎖抗原であり,癌関連糖鎖抗原(腫瘍マーカー)11),分泌型ムチン(MUC5AC)のO型糖鎖12),血管内皮に発現されるE-,P-セレクチンと結合する白血球の糖鎖リガンド13)などとして知られている.今回,炎症性結膜疾患であるVKCおよびSjogren症候群を対象として,涙液検査におけるSialyl-LewisXのバイオマーカーとしての有用性について検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査委員会の承認を得た.1.対象対象は,2005年5月.2012年1月に日本大学医学部附属板橋病院眼科を受診したVKC12例12眼(VKC群),Sjogren症候群9例9眼(SS群),対照10例10眼(コントロール群)である.各群の詳細を表1に示す.対照は,屈折異常以外の眼疾患および全身疾患の既往のない健常成人とした.対象眼については,SS群および,コントロール群では左眼を選択した.VKC群では,症状に左右差のある症例については重症眼を,左右差のない症例については左眼を選択した.また,VKC群で,経時的に測定を行った症例については,増悪期がある場合はそのときの値を,ない場合は初診時の測定値を選択した.2.方法a.臨床所見・臨床スコア臨床所見は,細隙灯顕微鏡を用いて,巨大乳頭,輪部堤防状隆起および落屑状点状表層角膜炎(super.cialpunctatekeratitis:SPK,落屑状SPK)の発現の有無について検討した.また,臨床スコアは,5-5-5方式重症度観察スケール14)表1対象VKCSSControl症例数(例)12910年齢(平均±標準偏差)(歳)24.0±9.669.8±8.971.4±11.6性差(男性:女性)10:20:91:9VKC:vernalkeratoconjunctivitis,SS:Sjogren’ssyndrome.を用いて,5-5-5方式重症度観察スケールで提示されている他覚所見15項目により臨床スコアを算出した.b.涙液採取法涙液検体の採取方法は,既報に従って行った5).まず,Schirmer試験第I法に準じて,Schirmer試験紙(SchirmerTearProductionMeasuringStripsR,昭和薬品化工)を使用した濾紙法により涙液を採取した.涙液を採取した濾紙は,0.5MNaCl,0.5%Tween20添加0.01Mリン酸緩衝液中で室温,overnightして涙液を溶出し,40倍希釈涙液検体を作製した.涙液採取はSS群とコントロール群の場合には任意の時期に1回,VKC群の場合には初診時を必須とし,経時的な検討を行った症例では,経過中に複数回の涙液採取を行った.c.Enzymeimmunoassay(EIA)法涙液中Sialyl-LewisX値をenzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法で測定した.今回のELISA法は,N-テストEIAプレートCSLEX-Hニットーボー(ニットーボーメディカル,東京)を用いて,キットの使用方法に従って施行した.また,涙液eosinophilcationicprotein(ECP)値は,化学発光酵素免疫測定法を用いた自動化測定装置であるイムライズ(三菱化学メディエンス,東京)で測定した.d.統計学的解析涙液中Sialyl-LewisX値の群間比較は,Steel-Dwasstestを用いて行った.また,VKC群における涙液中Sialyl-Lew-isX値と臨床所見との関係は,2項ロジスティック回帰により行った.危険率5%未満を有意差ありとした.II結果1.涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群10.4(2.9.28.8)kU/ml[中央値(レンジ)],SS群8.8(0.5.32.8)kU/ml,VKC群4.0(1.7.10.9)kU/mlであった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest)(図1).SS群では涙液中Sialyl-LewisX値が低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差はなかった.2.VKC群における涙液中Sialyl-LewisX値と臨床所見コントロール群の測定値を用いて,涙液中Sialyl-LewisX値の健常域を算出した.コントロール群における涙液中Sialyl-LewisX値の5パーセンタイル値は2.95kU/ml,95パーセンタイル値は26.46kU/mLであったため,3.0.26.5kU/mlを健常域に定めた(図2).VKC群のなかで,涙液中Sialyl-LewisX値が3.0kU/ml未満の症例を低値群,3.0kU/ml以上の症例を非低値群とした.VKC群12眼中,低値群は5眼,非低値群は7眼であった.VKCの巨大乳頭および1600あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(88)*35NS303526.46(95パーセンタイル値)涙液中sialyl-LewisX値(kU/ml)302520151050Sialyl-LewisX値(kU/ml)15健常域2520105ControlSSVKC図1Control群,SS群,VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値VKC群はコントロール群と比較して有意に低値を示した(*:p<0.05,Steel-Dwasstest).SS群では低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差がない(NS:notsigni.cant).落屑状SPKと涙液中Sialyl-LewisX値との関係は,表2に示した.巨大乳頭および落屑状SPKの有無を,「所見あり」と「所見なし」との2値変数に変換し2項ロジスティック回帰により検討した.結果は落屑状SPKでオッズ比24.0だったが,統計学的有意差はなかった.3.症例涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存在したVKC群の代表症例を以下に示す.〔症例〕9歳,女児.現病歴:3年前からVKCのため,前医に通院していた.落屑状SPKを伴う角膜上皮障害による視力低下のため,当院へ紹介受診した.既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息.初診時所見:視力はVD=0.15(0.15×+2.00D),VS=0.4(矯正不能),眼圧はTd=16mmHg,Ts=8mmHgであった.初診時の前眼部所見は,両眼眼瞼結膜に粘稠性眼脂を伴う巨大乳頭がみられ,両眼角膜全面に落屑状SPKおよび角膜上方に血管侵入がみられた.右眼角膜にはSchield潰瘍がみられた(図3-a-1,3-a-2).経過:初診時から副腎皮質ステロイド(ステロイド)結膜下注射(ケナコルト-AR筋注用関節腔内用水懸注),ステロイド点眼薬(眼・耳鼻科用リンデロンR液0.1%),シクロスポリン点眼薬(パピロックミニR点眼液0.1%),抗アレルギー点眼薬(インタールRUD点眼液2%)による治療を開始した.治療開始後1週間で粘稠性眼脂と両眼角膜の落屑状SPK,右眼のSchield潰瘍は軽快したが,両眼角膜下方のSPKは残存した.治療開始後2週間目からは,自覚症状および他覚所見が軽快したため,シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬と(89)2.95(5パーセンタイル値)0図2コントロール群の涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX濃度の健常域は,コントロール群の5パーセンタイル値と95パーセンタイル値により算出した.表2VKC群における臨床所見と涙液中Sialyl-LewisX濃度Sialyl-LewisX(kU/ml)年齢(歳)性別落屑状SPK巨大乳頭低値群1.71.71.91.92.72414998MMFMF●●●●●●●●非低値群3.74.25.25.45.610.610.93013169273312MMMMMMM●●●●●●●SPK:super.cialpunctatekeratitis.●:所見あり,M:男性,F:女性.の2者併用療法により治療を継続した.8週後には巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化していた.(図3-b-1,3-b-2).2カ月半後,右眼に再燃がみられた,右眼の再燃時所見は,角膜に落屑状SPKがみられ,扁平化していた巨大乳頭は隆起した活動性巨大乳頭に変化していた.右眼にステロイド点眼薬とステロイド眼軟膏(サンテゾーンR眼軟膏0.05%)の追加投与を開始したが,ステロイド薬の追加投与後3週経過しても他覚所見はあまり改善しなかった.経過中に測定した涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の測定結果を図4に示す.VKCの治療が開始されると徐々に涙液ECP値が減少しており,再燃時に再上昇していあたらしい眼科Vol.32,No.11,20151601右眼左眼a1a2100,00010,00010,0001,000涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)1,00010010010b1b210110.10.1図3春季カタル代表症例の前眼部写真a-1・a-2:治療開始前の前眼部写真.活動性の巨大乳頭と落屑状SPKとがみられる.b-1・b-2:治療開始後8週間目の前眼部写真.巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化している.た.涙液中Sialyl-LewisX値の変化は,涙液ECP値に類似した動向を示した.III考按今回,非感染性炎症性結膜疾患において涙液中Sialyl-LewisX値を測定した.涙液中Sialyl-LewisX値は健常対照と比較して,Sjogren症候群は低値を示したが有意差はなく,VKCでは有意に低値を示した.すなわち,涙液Sialyl-LewisX値は,炎症性結膜疾患のなかでもアレルギー炎症により変化する因子であると考えられたため,VKC症例での検討を進めた.まず,VKC群12例をSialyl-LewisX低値群と非低値群で分け,5-5-5方式重症度観察スケールの他覚所見15項目の有無により,背景因子の検討を行った.低値群は,健常対照の測定値の5.95パーセンタイル値を健常域と設定し,健常域下限値未満の症例を低値群とした.低値群と非低値群との両群間で差がみられた他覚所見は落屑状SPKであった(有意差なし).落屑状SPKは低値群で多くみられ,非低値群では1例のみ陽性であった.落屑状SPKは,角膜所見によるVKCの重症例判定において中等症と判定される所見である.したがって,涙液Sialyl-LewisX値は,重症度が中等症以上のVKC症例で低値を示すと考えることができるが,落屑状SPKは急性増悪時にみられる臨床所見でもあることから,炎症の急性増悪期に涙液中Sialyl-LewisX値が低下する可能性も考えられた.VKCの治療に関して,軽症例では抗アレルギー点眼薬を使用し,重症例では副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制点眼薬を追加する必要があるとされ,重症度に応じて治療が異なる.したがって,涙液Sialyl-LewisX値がVKCの重症化判定因子として臨床応用図4春季カタル代表症例の涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の経時的測定結果涙液ECP値は,治療により徐々に減少し,再燃時に再上昇した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.■:涙液ECP値,□:涙液中Sialyl-LewisX値.できれば,薬剤の適正使用に関連する重要な検査項目になる可能性があると考えられた.ただし,今回の結果はオッズ比24.0であったが症例数が少ないため,統計学的有意差は得られておらず,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.炎症性疾患とSialyl-LewisXとの関係を検討した既報では,血管内皮細胞に発現されたP-セレクチンおよびE-セレクチンに対する好中球やリンパ球に発現しているリガンドとして作用するとされている13).また,アレルギー性疾患においては,好酸球の関与するアレルギー炎症との関連が検討されている.Sagaraらは,気管支喘息モルモットモデルを用いて,Sialyl-LewisXanalogを投与することにより好酸球浸潤と遅発相が抑制されたとし,Sialyl-LewisXがアレルギー炎症における好酸球浸潤に関与することを報告している15).これらの報告では,Sialyl-LewisXを炎症細胞浸潤に関与する接着分子のリガンドとして注目しているが,粘膜組織で分泌されるムチンの糖鎖として生体防禦や炎症に関与することも検討されている.石橋らは,Sialyl-LewisXが分泌型ムチンであるMUC5ACの糖鎖として存在し,炎症性気道疾患では糖鎖の変化が細菌やウイルスに対する生体防禦反応に影響するとしている12).また,Colombらは,気道上皮細胞ではtumornecrosisfactor(TNF)がST3GAL4(ST3b-galactosidea.2,3-sialyltransferase4)を介してSialyl-LewisXの増加に関与すると報告している16).今回の涙液Sialyl-LewisX値はムチン型糖鎖を反映している可能性があると考えられるが,詳細についてはさらなる検討が必要である.涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存1602あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(90)在したVKC群1症例による経過観察では,免疫抑制薬点眼治療により,症状が沈静化した8週後に涙液ECP値は低下し,症状が再燃した2カ月半後には再度上昇した.ECPは好酸球内特異顆粒中に含有される特異顆粒蛋白の一つである.好酸球が活性化すると脱顆粒により特異顆粒蛋白を放出し,アレルギー炎症による組織障害に関与するとされている.涙液ECP値はアレルギー性結膜疾患症例に対する抗原点眼誘発試験により,誘発後6時間以降,すなわち遅発相で有意に増加することが報告されている17).また,VKCに対する免疫抑制点眼薬による治療での治療効果判定として,シクロスポリン点眼薬治療例18)での涙液ECP値の検査結果が示され,重症度判定・薬剤の適正使用が可能となると考えられている.本症例では,アレルギー炎症の指標として用いた涙液ECP値と涙液Sialyl-LewisX値との関係を経時的に示した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.重症VKCでは,経過中にMUC5ACの減少によるドライアイを合併する可能性が示されているため19),涙液Sialyl-LewisX値はムチン分泌の変化とともに再検討する必要があると考えられた.今回の検討ではSialyl-LewisXが涙液中に存在し,高度のアレルギー炎症により涙液中の含有量が変化すると考えられた.涙液Sialyl-LewisX値は,アレルギー炎症を評価するバイオマーカーのひとつとして有望であると考えられた.文献1)ShojiJ,KitazawaM,InadaNetal:E.cacyofteareosin-ophilcationicproteinlevelmeasurementusing.lterpaperfordiagnosingallergicconjunctivaldisorders.JpnJOph-thalmol47:64-68,20032)LonardiA,BorghesanF,FaggianDetal:Tearandserumsolubleleukocyteactivationmarkersinconjuncti-valallergicdiseases.AmJOphthalmol129:151-158,20003)MontanPG,vanHage-HamstenM:Eosinophilcationicproteinintearsinallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol80:556-560,19964)FujishimaH,TakeuchiT,ShinozakiNetal:Measure-mentofIL-4intearsofpatientswithseasonalallergicconjunctivitisandvernalkeratoconjunctivitis.ClinExpImmunol102:395-399,19955)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-g,interleukin(IL)-2,IL-4andIL-5inpatientswithvernalkeratoconjunctivitisandallergicconjunctivitis.ClinExpAllergy30:103-109,20006)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearso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重症型春季カタルに対するタクロリムス軟膏の眼軟膏治療

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(93)5250910-1810/09/\100/頁/JCLS42回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科26(4):525528,2009cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は,結膜の乳頭増殖,増大,輪部結膜の腫脹,堤防状隆起を呈する若年者にみられるアレルギー疾患で,高率に角膜病変を合併し,特に重症例においては盾型潰瘍や角膜プラークを生じる.若年者に発症するため,これらの病状は視力予後に大きく影響し,そのため発作期の速やかで有効な消炎治療が大変重要となる.アレルギー性結膜疾患に対する一般的な治療において,特に難治性の重症例では,外科的な乳頭切除やステロイド薬の眼瞼結膜下注射,あるいはステロイド薬の内服が必要となる1).しかし,外科治療は,即効性は期待できるものの,切除が不十分だと再発の可能性があり,手技が煩雑で幼少児には全身麻酔を要することもあり容易ではない.ステロイドの眼瞼結膜下注射は,過去の報告2)によると,症状の速やかな改善が得られているが,なかには眼圧上昇例がある3).小児期においては,ステロイド薬はステロイド白内障のみならずステロイド緑内障の頻度が高く,視機能に悪影響を及ぼす可能性があると同時に,発育時期であるため,全身投与では骨粗鬆症を代表とする全身的な合併症による発育障害の併発が懸念される4).よって,できればステロイド薬と〔別刷請求先〕小沢昌彦:〒814-0180福岡市城南区七隈7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasahikoKozawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1Nanakuma,Jonan-ku,Fukuoka814-0180,JAPAN重症型春季カタルに対するタクロリムス軟膏の眼軟膏治療小沢昌彦市頭教克梶原淳内尾英一福岡大学医学部眼科学教室SevereVernalKeratoconjunctivitisCasesTreatedwithTacrolimusOintmentasanOphthalmicOintmentMasahikoKozawa,NoriyoshiIchigashira,JunKajiwaraandEiichiUchioDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)の重症例に対し,タクロリムス軟膏を眼軟膏として使用した5例につき報告する.症例は714歳で全例男児の重症春季カタルであり,2例は0.03%,3例は0.1%製剤の皮膚用軟膏をそのまま眼軟膏として投与した.投与回数は最多で1日3回,投与期間は最長で4カ月とした.3例では巨大乳頭切除後に併用したが,全例で臨床所見の改善が得られた.全例で使用直後の眼灼熱感がみられたが,徐々に消失した.その他特記すべき副作用はみられなかった.タクロリムス眼軟膏は全身的な副作用が出にくく,重症型VKCに対し,眼軟膏としてほぼ安全に使用できた.しかし,結膜に対する長期使用経験が少なく安全性については不明であり,今後検討を加える必要がある.タクロリムス軟膏は重症型VKCに対するリリーバとして有用であると考えられ,眼軟膏製剤の臨床応用も望まれる.Wereport5casesofseverevernalkeratoconjunctivitis(VKC)(5males,agerang:7to14years,average12years)treatedwithtacrolimusointmentasanophthalmicointment.FortheirsevereVKC,twocaseswerepre-scribed0.03%tacrolimusointmentand3wereprescribed0.1%,asanophthalmicointmenttobeadministered3timesdailyandcontinuedforupto4months.Althoughgiantpapillaresectionwasperformedinthreecases,theclinicalndingswereimprovedinallcases.Therehasbeennoadverseeectotherthanophthalmicburningsensa-tionduringtheearlyphaseoftreatment.TopicaltacrolimusmayproveeectiveforsevereVKC,thoughduetolackoflong-termuse,itsclinicalsafetyisunknown.ConsideringitsusefulnessinrelievingsevereVKC,however,thedevelopmentoftacrolimusophthalmicointmentisexpected.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):525528,2009〕Keywords:春季カタル,重症型,治療法,タクロリムス(FK506)軟膏.vernalkeratoconjunctivitis,severetype,treatment,tacrolimus(FK506)ointment.———————————————————————-Page2526あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(94)同等の抗炎症作用をもち,かつステロイド薬の副作用がみられず,継続的投与が可能な薬剤の使用が望ましい.タクロリムスは強力な免疫抑制作用をもつカルシニューリン阻害薬の一つで,その軟膏製剤は,アトピー性皮膚炎の顔部・頸部の治療に多く使用されており有効性が認められている5).その0.1%製剤は,ステロイド外用薬のstrongクラスと同等の抗炎症効果をもつ一方で,ステロイドに比べ分子量が大きく炎症部位からのみ吸収されるため,消炎後は吸収率が低下し,皮膚使用時にはステロイド外用薬の連用でみられる皮膚萎縮などの副作用がないといった特徴がある.眼科領域においては,最近タクロリムス点眼製剤が発売されたが,それ以前に眼科製剤はなく,過去の報告では,VKCに対しタクロリムス内服薬から眼軟膏製剤を自家調剤のうえ角結膜に投与し,有効であったとされている6).そこで今回筆者らは,タクロリムス点眼製剤発売以前の重症型VKCの5例に対し,タクロリムス軟膏を眼軟膏として使用し,その効果を検討したので報告する.I対象および方法対象は714歳(平均11.8歳)で,性別は全例男性であった.既往歴にはアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,気管支喘息がいずれも5例中3例にみられた.まずタクロリムス軟膏の角結膜への使用に関しては,規定の臨床研究申請を行ったうえ,本人および両親に対し,①病状の改善のためには免疫抑制薬(タクロリムス)の局所投与が望ましいが,現在眼科用製剤がないため,皮膚用軟膏製剤であるタクロリムス軟膏の使用が適当であると考えざるをえないこと,②皮膚用製剤であるため眼球に対する安全性は不明であるが,現在の病状を考えた場合,投与した際の利益のほうが上回ると思われること,③結膜は皮膚に近接した粘膜であり,現在皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎の症例に対し眼瞼皮膚に多く使用されているが,眼球に関する目立った重篤な副作用の報告がみられないことを十分説明し,インフォームド・コンセントを得たうえ使用を開始した.タクロリムスの薬物濃度や点入回数は,個々の臨床症状の程度に応じ適宜決定し,投与開始後の臨床所見の改善度により点入回数を適宜漸減した.長期投与時の合併症については不明な点もあることから,投与期間を最長4カ月とした.投与方法は,まずタクロリムス軟膏をチューブの先端から約5mmほど出し,清潔な綿棒などで取ったのち,下眼瞼を翻転し直接眼瞼結膜上に塗布して行った.臨床効果の評価方法としては,アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインにより提唱されている臨床評価基準7)の10項目(表1)を用い,それぞれの項目において,高度なものを3点,中等度を2点,軽度を1点,所見がないものを0点としてスコア化し,その合計値を臨床スコアとして投与開始前および投与開始1カ月後に算出した.そして,臨床スコア値の変動にて臨床所見の改善度を検討した.II結果(表2)まず治療開始前の既投薬についてであるが,全例でステロ表1アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準眼瞼結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()個々の血管の識別不能多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()びまん性の混濁を伴う腫脹びまん性の薄い腫脹わずかな腫脹所見なし濾胞高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()20個以上1019個19個所見なし乳頭*高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()直径0.6mm以上直径0.30.5mm直径0.10.2mm所見なし巨大乳頭高度(+++)上眼瞼結膜の1/2以上の範囲で乳頭が隆起中等度(++)上眼瞼結膜の1/2未満の範囲で乳頭が隆起軽度(+)乳頭は平坦化なし()所見なし眼球結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()全体の血管拡張多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし浮腫高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()胞状腫脹びまん性の薄い腫脹部分的腫脹所見なし輪部Trantas斑高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()9個以上58個14個所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()範囲が2/3周以上範囲が1/3周以上2/3周未満1/3周未満所見なし角膜上皮障害高度(+++)シールド(盾型)潰瘍または上皮びらん中等度(++)軽度(+)なし()落屑様点状表層角膜炎点状表層角膜炎所見なし*:直径1mm以上の乳頭は巨大乳頭も併せて評価する.(文献7より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009527(95)イド点眼薬が投与されており,5例中4例でシクロスポリン点眼が施行されていた.5例中3例で,タクロリムス投与の前後に外科的巨大乳頭切除術を施行していた.タクロリムス軟膏には,皮膚使用時,通常小児に使用する0.03%製剤と,通常成人に使用する0.1%製剤があるが,症例1と症例3では0.03%製剤を使用した.症例1,3のタクロリムス投与前の臨床スコアをみると両症例とも13であり,点入回数は1日1回より開始され,投与期間は12カ月であった.症例2,4,5では0.1%製剤を使用し,それらの臨床スコアはいずれも0.03%製剤を使用していた症例よりも高く1519であった.症例2,4,5では点入回数も23回より開始しており,投与期間も24カ月と0.03%製剤使用群と比べ長かった.つぎに臨床所見の改善は,タクロリムス投与前の臨床スコアの平均値は15.2であったが,投与開始1カ月後の臨床スコアの平均値は5.8と減少していた.各症例においても臨床スコアは低下しており,全例で臨床所見が改善していた(図1).図2に症例2の初診時およびタクロリムス軟膏投与後の結膜所見の写真を示す.一方,タクロリムスの副作用は,まず皮膚使用時に小児では約半数でみられるとされる投与開始直後の灼熱感があげられるが,全症例において投与開始直後に著明な眼灼熱感・眼刺激感の訴えがみられた.しかし連用し炎症が改善するにつれ,灼熱感・刺激感は減少する傾向があり8),全症例で12週間内にこれらの眼症状は消失した.その他の副作用としては,免疫抑制作用に伴う感染症の併発・遷延化の可能性があ表2各症例の背景とタクロリムス軟膏投与前後の臨床スコア症例年齢(歳)タクロリムス濃度(%)回数タクロリムス使用期間シクロスポリン使用ステロイド使用乳頭切除臨床スコア投与前臨床スコア投与後170.0311カ月++1372130.134カ月+++1653140.0312カ月+++1344130.122カ月++1555110.124カ月++198図1各症例における臨床スコアの経時変化臨床スコア投与前投与後症例症例症例症例症例図2症例2の初診時結膜所見(a)とタクロリムス投与後の結膜所見(b)aの巨大乳頭に対し乳頭切除施行を行ったが再燃がみられたため,タクロリムス軟膏の点入を開始した.軟膏開始後9週目(b)には巨大乳頭の平坦化と病巣の瘢痕化が得られた.ab———————————————————————-Page4528あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(96)げられる.皮膚使用時においては,小児では約2割でみられるとの報告8)もあるが,全症例に感染症の合併はみられなかった.眼圧上昇もみられなかった.III考按タクロリムスはT細胞分化・増殖抑制効果により,サイトカイン産生を抑制することにより,抗炎症作用を有する薬剤で,invitroにおいては同じカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンの約100倍の効果を有するとの報告がある9).分子量を比較するとシクロスポリンに比べ小さいため,効果的に組織に浸潤することが可能であると思われ,高いT細胞選択抑制効果をもつことから,重症例に対しても効果があるとされている.一方で,眼圧上昇がみられず,ステロイドと比較し同等以上の消炎効果をもち,全身的および局所的副作用が少ないことから,長期連用が必要な再発例,重症例あるいは副作用のためステロイドの継続が困難となった症例においても使用可能であると思われる.しかし,長期連用時の安全性は未確立であり,皮膚使用時に比較的多くみられる感染症を併発する可能性もある.5症例中3例では巨大乳頭切除を併用しており,それらの症例ではタクロリムス投与のみでどれくらい有効性があるかは不明である.よってタクロリムスの適応については,①ステロイド抵抗性の高度な巨大乳頭増殖を有する重症化したもの,②すでに乳頭切除やステロイド注射を施行した症例の再増殖例,③ステロイドによる眼圧上昇などの副作用のため,離脱を必要とする症例などに対しリリーバとしての使用が好ましいと考える.いずれにしても,重症型VKCに対してタクロリムスは有用であると思われるが,漫然と使用せず適応および期間を定めて使用することが重要と思われる.全症例ともタクロリムス点眼の発売前であったため,既存の軟膏製剤を使用したが,その軟膏製剤の特性に伴う利点としは,その滞留性により局所における薬物濃度を維持しうる可能性があり,点眼回数を少なくすることができうることがあげられる10).この点眼回数を少なくできることは,タクロリムス特有の投与時の刺激感に伴うコンプライアンスの低下を防ぐ利点もあると考えられた.また,刺激の強い薬剤では,それに伴う流涙による薬剤の希釈を防ぐ意味でも有用と思われた.タクロリムスの皮膚使用時の注意点として,長期間の外用による局所免疫の低下による皮膚癌発症のリスクは完全に否定できないため,誘発を予防するために紫外線曝露を避けるよう明記してあるが,春季カタルは対象が幼少児に多いことから,日中の紫外線曝露を考慮した場合,就寝前の単回投与の可能性などからも,軟膏製剤の有用性が期待されると思われる.より安全に眼科領域にて使用するためにも今後の眼軟膏製剤の開発が望まれる.文献1)加藤直子:アトピー性結膜炎(含む眼瞼炎)と春季カタルの治療指針.あたらしい眼科22:733-738,20052)HolsclawDS,WitcherJP,WongIGetal:Supratarsalinjectionofcorticosteroidinthetreatmentofrefractoryvernalkeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol121:243-249,19963)八田史郎,永田正夫,金田周三ほか:ケナコルトAで長期眼圧上昇を来たした春季カタルの1例.眼臨95:682,20014)池住洋平,鈴木俊明,内山聖:日常診療に役立つ最新の薬物治療と副作用対策.小児科47:795-802,20065)FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏0.1%および0.03%の使用ガイダンス.臨皮57:1217-1234,20036)VichyanondP,TantimongkolsukC,DumrongkigchaipornPetal:Vernalkeratoconjunctivitis:Resultofanoveltherapywith0.1%topicalophthalmicFK-506ointment.JAllergyClinImmunol113:355-358,20047)大野重昭,内尾英一,石崎道治ほか:アレルギー性結膜疾患の新しい臨床評価基準と重傷度分類.医薬ジャーナル37:1341-1349,20018)本田まりこ:小児用タクロリムス軟膏の使い方.小児科47:1125-1129,20069)AndersonJ,NagyS,GrothCGetal:EectofFK506andcyclosporineAoncytokineproductionstudiedinvitroatasingle-celllevel.Immunology75:136-142,199210)横井則彦,木下茂:眼軟膏とその特性.眼科NewInsight2:点眼薬─常識と非常識─,p66-75,メジカルビュー社,1994***

春季カタルの増悪と黄砂の観測時期との関連

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(93)12810910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12811284,2008cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は若年者に発症する重症アレルギー性疾患で,春から夏にかけて増悪することが多い疾患である.眼瞼結膜の巨大乳頭増殖や角膜輪部増殖,また特に重症例では角膜病変を生じ,若年者で角膜病変合併症例では弱視の発症が危惧されるため,速やかな治療およびその原因抗原からの隔離が必要となる.その原因抗原については,単独ではハウスダストやダニが知られている1)が,多種類の抗原に反応することも少なくなく,その詳細については不明である.黄砂は,低気圧などの発生により中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠や黄土地帯,モンゴルのゴビ砂漠など乾燥・半乾燥地域で数千メートルの上空にまで巻き上げられた土壌あるいは鉱物粒子が,偏西風によって運ばれながら沈降する現象で,日本では,「主として,大陸の黄土地帯で吹き上げられた多量の砂の粒子が空中に飛揚し天空一面を覆い,徐々に降下する現象」と定義されている.わが国では,各地の気象台および観測所にて目視により判断され,視程が10km未満となる現象を観測した場合に黄砂現象として記録され,気象庁より,各観測地点での観測記録が発表されている.黄砂は〔別刷請求先〕小沢昌彦:〒814-0180福岡市城南区七隈7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasahikoKozawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jounan-ku,Fukuoka814-0180,JAPAN春季カタルの増悪と黄砂の観測時期との関連小沢昌彦市頭教克内尾英一福岡大学医学部眼科学教室RelationbetweenVernalKeratoconjunctivitisExacerbationandPeriodofDustandSandstormsMasahikoKozawa,NoriyoshiIchigashiraandEiichiUchioDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine目的:春季カタル(VKC)の増悪と黄砂との関連についての報告.対象および方法:対象は2006年1月2007年9月に福岡大学病院を受診したVKC症例20例(平均年齢12.2±6.0歳,男性18名,女性2名)である.福岡地区の2006年と2007年の黄砂観測期間(気象庁発表)と診療録に基づいたVKCの増悪日を比較し検討した.複数回増悪例は,それぞれにつき検討した.結果:黄砂観測期間は2006年が3月11日4月30日,2007年が2月23日5月30日と2007年が長く,VKC増悪症例は2006年が7例,2007年は17例と2007年が多かった.そのうち黄砂観測期間に増悪した症例は,2006年が3例,2007年が6例で,両年とも約40%の症例が黄砂観測時期に増悪していた.またその全症例が,黄砂の観測日か,その後2日以内に増悪していた.結語:VKC増悪のトリガーの一つとして,黄砂との関連が示唆された.Toassesstherelationbetweenvernalkeratoconjunctivitis(VKC)exacerbationandperiodofdustandsand-storms(kosa),weconductedaretrospectivestudyof20patientswithVKCwhoconsultedusbetweenJanuary,2006andSeptember,2007.WecomparedthekosaperiodintheFukuokadistrictandthetimeofVKCexacerba-tion.Themultipleexacerbationcaseswereexaminedoneachsuchoccasion.KosawasobservedbetweenMarch11andApril30in2006,andbetweenFebruary23andMay30in2007,theperiodbeinglongerin2007.VKCexacerbationcasesnumbered7in2006and17in2007.Ofthem,about40%wereexacerbatedduringthekosaperiod.Furthermore,allthesecaseswereexacerbatedonakosaobservationdayorforaslongastwodaysthere-after.TheseresultsindicatethatkosamaybeatriggerofVKCexacerbation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12811284,2008〕Keywords:春季カタル,アレルゲン,黄砂.vernalkeratoconjunctivitis,allergen,dustandsandstorms(kosa).———————————————————————-Page21282あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(94)年間を通して日本列島に降下しているが,なかでも春から夏にかけて多く飛来し,例年,特に2月から増加し始め,4月にピークを迎える.一方,その飛来するダスト中には,鉱物や真菌・細菌由来の成分,あるいは大気汚染物質との反応生成物などが含まれているため,種々のアレルギー疾患の原因抗原の一つである可能性が示唆されている.今回筆者らは,春季カタルの原因抗原の一つとして,黄砂との関連を評価することを目的とし検討を行った.I対象および方法2006年1月から2007年9月の間に福岡大学病院を受診したVKCの症例中,診療録にて詳細を確認しえた20例(平均年齢12.2±6.0歳,男性18名,女性2名)を対象とし,レトロスペクティブに検討した.方法は,まず気象庁が発表している2006年および2007年の黄砂観測日と観測地点のデータをもとに,福岡地区の黄砂の観測期間(観測期間)およ表1アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインにおける臨床評価基準眼瞼結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()個々の血管の識別不能多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()びまん性の混濁を伴う腫脹びまん性の薄い腫脹わずかな腫脹所見なし濾胞高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()20個以上1019個19個所見なし乳頭*高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()直径0.6mm以上直径0.30.5mm直径0.10.2mm所見なし巨大乳頭高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()上眼瞼結膜の1/2以上の範囲で乳頭が隆起上眼瞼結膜の1/2未満の範囲で乳頭が隆起乳頭は平坦化所見なし眼球結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()全体の血管拡張多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし浮腫高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()胞状腫脹びまん性の薄い腫脹部分的腫脹所見なし輪部トランタス斑高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()9個以上58個14個所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()範囲が2/3周以上範囲が1/3周以上2/3周未満1/3周未満所見なし角膜上皮障害高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()シールド(盾型)潰瘍または上皮びらん落屑様点状表層角膜炎点状表層角膜炎所見なし*:直径1mm以上の乳頭は巨大乳頭も併せて評価する.(文献2より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081283(95)び実際に観測された日(観測日)を検索し,つぎに対象となった各症例のVKCの増悪した日(増悪日)と比較検討した.VKC増悪の評価方法は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインにおける臨床評価基準2)の10項目(表1)を用い,高度を3点,中等度を2点,軽度を1点,認められないものを0点としてスコア化し,その合計値を臨床スコアとして算出した.その臨床スコアが経過中5点以上増加した場合,増悪と定義した.なお,複数回増悪を生じていた症例では,それぞれの増悪日について検討した.II結果観測期間は,2006年が3月11日から4月30日(51日)であった.2007年は2月23日から5月30日(97日)で,2006年に比べ2007年のほうが長かった.また観測日も,2006年が12日,2007年が15日で,2007年が多かった.一方,VKCの増悪した症例数であるが,2006年は1年間で延べ7例であった.そのうち観測期間に増悪した症例は3例(42.8%)であった.2007年に増悪した症例数は17例で,そのうち観測期間に増悪した症例は6例(35.3%)であり,VKCの増悪症例数および観測期間に増悪した症例数ともに2007年のほうが多かった.つぎに福岡地区の黄砂の飛散状態について,各々の年で詳細にみてみると,2006年の観測日は疎らであり(図1),2007年は2006年と比べ黄砂の観測日が短期間に集中していた(図2).また2006年の黄砂観察期間は,前述のとおり51日間で,そのうち実際の黄砂観測日は12日(黄砂観察期間の23.5%)であったが,黄砂観察期間中VKCの増悪を認めた3例すべて(100%)が観測日に一致して増悪していた(図1).一方,2007年の黄砂観察期間は97日間であったが,うち実際の観測日は15日(黄砂観察期間の15.4%)であり,黄砂観察期間中VKCの増悪を認めた6例中4例が観測日に一致して増悪していた(図2).両年を通じると,黄砂観測期間中にVKCの増悪した症例9例中7例(78%)が黄砂観測日に一致しており,残り2例も黄砂観測日の2日以内に一致して増悪していた.III考按近年黄砂による健康被害が懸念されており,気管支喘息などの呼吸器疾患やアレルギー性鼻炎など,アレルギー疾患との関連を示唆する報告が散見される35).そのダスト中には,石英・長石などの鉱物に由来するSiO2(シリカ)や真菌・細菌に由来するb-グルカン・リポポリサッカライド,あるいは大気汚染物質との反応生成物に由来する硝酸イオン・硫酸イオンなどが含まれており,これらが種々のアレルギー疾患の原因抗原となっている可能性が指摘されている.黄砂の飛散状況を2006年と2007年で比較してみると,全国的な黄砂観測地点数では,2006年は487カ所,2007年は544カ所と,2007年に広範囲で黄砂が観測されていた.このことから,黄砂の飛散量および範囲とも2006年に比べ2007年が多かったことが推測された.それと一致するように,今回の結果では,VKC増悪の症例数はまだ9月までの統計にかかわらず,2007年のほうが2倍以上も多く,また約40%の症例が観測期間に増悪し,さらにその詳細をみると,増悪日が観測日とほぼ一致していた.これらのことから,黄砂はVKC増悪のトリガーの一つとして,何らかの形で関与しているのではないかと推測された.また2006年に比べ観測日が密集していたことも,2007年に増悪症例が多かった一因ではないかと思われた.ただし,黄砂飛散との関連がないと考えられる症例も約60%あることから,VKCの発症増悪の要因は他の因子があることも事実である.今回の図12006年における黄砂観測日およびVKC増悪日黄砂観察期間に増悪したVKC全例が,黄砂観測日に増悪していた.2006/3/42006/3/142006/3/242006/4/32006/4/132006/4/232006/5/30123():黄砂観測日:VKC増悪日図22007年における黄砂観測日およびVKC増悪日2006年と比べ,黄砂観測日が短期間に集中していた.また黄砂観察期間に増悪したVKC全例が,黄砂観測日かその後2日以内に増悪していた.2007/2/72007/2/272007/3/192007/4/82007/4/282007/5/182007/6/70123():黄砂観測日:VKC増悪日———————————————————————-Page41284あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(96)黄砂観測期間以外に増悪した症例については,黄砂観測日に増悪した症例と比較して,臨床像や既往歴に特に差異はみられなかった.過去の報告によると,VKCを増悪させる因子としては受動喫煙や血清総IgG(免疫グロブリンG)値,発症年齢,気管支喘息の合併などの関与があるとされている6).今回の結果からのみでは黄砂観測期間日に一致してVKCが増悪した症例において,黄砂が直接的な誘因であると断定することは困難であり,黄砂がVKCの原因抗原の一つである可能性は類推の域を出ていない.よって今後はVKCの発症・増悪の頻度を,福岡地区のみならず全国的に経年的調査を行い,また過去の全国的な黄砂の飛散時期およびパターンと比較検討することによって,より詳細な評価を行うことが期待される.また今回は気象庁の発表に基づき,黄砂が目視的に観測されたいわゆる黄砂観測日で評価を行ったが,実際は黄砂観察日以外でも黄砂観測期間中に飛散している可能性があり,今後は目視的に観測のみならず各観測地点における実際の飛散量を定量的に解析し,またそのダスト中に含まれる詳細な成分分析や,それらが実際に生体に起こしうる反応について,さらに検討を行うことが必要であると思われた.本論文の要旨は第31回角膜カンファランスにて発表した.文献1)熊谷直樹:アレルギー性結膜疾患の季節変動.臨眼55:1513-1518,20012)大野重昭,内尾英一,石崎道治ほか:アレルギー性結膜疾患の新しい臨床評価基準と重症度分類.医薬ジャーナル37:1341-1349,20013)藤井つかさ,荻野敏:アレルギー性鼻炎の増悪因子.アレルギーの臨床27:594-598,20074)日吉孝子,市瀬孝道,吉田成一ほか:モルモットスギ花粉症モデルに対する黄砂の影響(会議録).アレルギー55:1217,20065)柳澤利枝,市瀬孝道,定金香里ほか:黄砂はアレルギー性気道炎症を増悪する(会議録).日本衛生学雑誌62:430,20076)内尾英一,伊藤由起,佐藤貴之ほか:春季カタルの重症化に関与するアレルギー学的要因の多変量解析.臨眼59187-192,2005***