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春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):243.246,2018c春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績森貴之川村朋子佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CTreatmentResultsofProactiveTherapyUsingImmunosuppressiveEyedropsforVernalKeratoconjunctivitisTakayukiMori,TomokoKawamura,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine目的:免疫抑制点眼薬を春季カタル(VKC)症例に,再燃を抑制するために継続投与する治療を行った.これらの症例の治療成績を検討したので報告する.対象および方法:福岡大学病院眼科でC2009.2016年に治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用により経過観察したCVKCC32例を対象とし,臨床経過と再燃の有無について後ろ向きに解析した.結果:平均治療期間はC27.9カ月で,ステロイドを使用せずに再発がみられなかったのはC26例(81.2%)であり,6例(18.8%)では何らかのステロイド治療を必要とした.免疫抑制点眼薬はすべての症例でタクロリムスが使用されたが,6例ではシクロスポリンも使用された.結論:VKCの慢性期において,ステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による経過観察は可能であり,アトピー性皮膚炎と同様に,抗炎症局所治療薬である免疫抑制点眼薬を継続投与して再燃を抑制する,いわゆるCproactive療法と考えられる投与法でCVKCの長期管理が可能であることが示唆された.CPurpose:ToCavoidCseasonalCrecurrenceCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC)C,CproactiveCtherapyCcomprisingCcontinuedtreatmentwithprophylacticdoseincreaseofimmunosuppressiveeyedropsisdeemedtobeofvalue.WereporttheoutcomeofproactivetreatmentofVKC.SubjectsandMethods:Surveyedretrospectivelyinthisstudywere32patientswithVKCwhoweretreatedatFukuokaUniversityHospitalwithcontinueduseofimmunosup-pressiveeyedropswithoutsimultaneoususeoflocalorsystemiccorticosteroidsbetween2009and2016.Results:AverageCtreatmentCdurationCwasC27.9Cmonths;26Ccases(81.2%)showedCnoCrecurrenceCwithoutCtheCuseCofCanycorticosteroids,but6cases(18.8%)requiredcorticosteroidtreatment.Tacrolimuswasusedinallcasesforimmu-nosuppressiveCeyedrops;CcyclosporineCwasCalsoCusedCinC6Ccases.CConclusions:InCtheCchronicCphaseCofCVKC,CitCisCsuggestedthatlong-termmanagementwithproactivetherapyusingimmunosuppressiveeyedropsispossiblewith-outtheuseofcorticosteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):243.246,C2018〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,proactive療法,タクロリムス,シクロスポリン.vernalkeratocon-junctivitis,immunosuppressiveeyedrops,proactivetherapy,tacrolimus,cyclosporine.Cはじめに春季カタル(vernalCkeratoconjunctivitis:VKC)は増殖性病変を特徴とし,罹患期間も長く,季節性などによる再発のために管理が困難なアレルギー疾患である1).現在のアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)では,VKCの治療法を,「抗アレルギー点眼薬だけで効果不十分な中等症以上の症例に対しては,免疫抑制点眼薬を追加投与し,重症例に対しては,さらにステロイド点眼薬を追加投与し,症状に応じてステロイドの内服薬や瞼結膜下注射,外科的治療も試みる」と記載されている2).症状や重症度に応じて,免疫抑〔別刷請求先〕森貴之:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakayukiMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPAN制点眼薬を基礎治療としながら追加するいわゆるCreactive療法というべき方法が推奨されている.これに対して,皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に,ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に塗布し,寛解状態を維持する治療法がCproac-tive療法として行われている3).VKCにおいては,病勢が落ち着いている時期に免疫抑制点眼薬を漸減しながら継続し,再燃を回避する投与法がCVKCにおける免疫抑制点眼薬によるCproactive療法になると考えられる4).VKCのCproactive療法の可能性については述べられているが,proactive療法の実際の症例に対する治療成績に関するまとまった報告はまだない.そこで当科において行った免疫抑制点眼薬の継続投与治療によるCVKCの治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法福岡大学病院眼科でC2009.2016年にCVKCの治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用(点眼回数の増減を含む)により経過観察したC32例を対象とし,VKCにおけるCproactive療法の可能性について,後ろ向きに解析した.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)にもとづいて行った.開始時の平均年齢はC11.3歳(4.17歳),男性28例,女性C4例であった.観察期間中,抗アレルギー点眼薬は併用可とした.両眼例では重症眼を評価対象とした.臨床評価基準のうち,結膜乳頭,結膜巨大乳頭および角膜それぞれの重症度を,なし:0,軽症:1,中等症:2および重症:3とスコア化し,その合計を重症度スコアとした(最大で9).免疫抑制薬点眼薬の終了,中止あるいはステロイド使用時(点眼,内服,もしくは眼瞼注射)を死亡とし,ステロイドを使用せずに,免疫抑制点眼薬を継続して治療中あるいは改善して治療終了までの期間をCproactive療法としての生存期間としてCKaplan-Meier法で求めた.中止例は最終受診時点までの期間を同様に生存期間とした.ステロイド使用の基準はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症以上あるいは角膜中等症以上のいずれかないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.またステロイドの選択はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症あるいは角膜重症のいずれかないし両方が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の場合は点眼薬とした.平均値の比較にはCMann-Whitney検定を,要因の単変量解析にはCFisher直接確率計算法を用いた.CII結果平均治療期間はC27.9カ月(12.64カ月)であった.全C32症例のうち,生命表解析で死亡とみなすステロイドを使用し(%)1008060402000102030405060(月)図1Proactive療法のKaplan.Meier法による生存曲線免疫抑制点眼薬による治療の持続期間を示す.た症例はC6例(18.8%)であった.この症例はすべて男性であった.ステロイド使用時期はC12カ月後,36カ月後が各C2例,16カ月後,24カ月後が各C1例であった.ステロイドの使用時期を死亡と定義するCKaplan-Meier法の生存曲線解析結果を図1に示した.Proactive療法の生存率はC2年でC85.9%,5年でC68.9%であった.ステロイド使用例を除き,pro-active療法が継続できたC26例の開始時および最終受診時の重症度スコアの平均はそれぞれ,3.73とC2.27であった.一方,再発群のC6例の開始時および再燃時の重症度スコアの平均はそれぞれ,4およびC4.5と継続例よりは高かった.なお,経過観察中に重篤な合併症がみられた症例はなかった.ステロイド使用に至った症例を再発群,proactive療法を継続できステロイド使用しなかった症例を無再発群として,両群間で再発に関係する要因について検討した.治療開始時年齢については,平均値を比較したが,有意差はみられなかった.要因としては,性別(男性/女性),シクロスポリンの使用(あり/なし),治療開始年齢(10歳以上/10歳未満)アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)について,いずれの要,因でも統計学的に有意な差は認められなかった(表1).ステロイドを使用したC6症例の詳細は表2に示した.再発後トリアムシノロンアセトニド注射やプレドニゾロン内服を必要として,その後経過観察を行った(表2).免疫抑制点眼薬は全症例においてタクロリムス(タリムスCR点眼液C0.1%)が使用されたが,6例では経過中にシクロスポリンも使用された.シクロスポリン(パピロックCRミニ点眼液C0.1%)は全例でタクロリムスからの切り替えとして使用された.CIII考按アレルギー性結膜疾患の治療におけるCproactive療法はまだ確立されたものではなく,近年アレルギー性結膜炎の再発C表1再発群と無再発群の比較再発なし(2C6例)再発あり(6例)p値性別(男性/女性)C22/4C6/0C0.566シクロスポリンの使用(あり/なし)C6/20C0/6C0.565アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)C6/20C3/3C0.314Fisher直接確率計算法を用いた.表2ステロイド使用6症例の詳細年齢性別再発時病変再発時矯正視力再発時期再発前の点眼(/day)使用したステロイド全身疾患経過最終矯正視力7歳男CShieldulcerSPK巨大乳頭C2+0.0928カ月タクロリムス3回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし再発時,C4カ月後,C14カ月後,C17カ月後の4回注射後症状改善し,pCroactive療法再開.以降再発なし.C1.014歳男CShieldulcer落屑様CSPK巨大乳頭C2+トランタス斑C0.524カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,C9カ月後,C24カ月後に注射.現在落屑様CSPK,上方輪部病変,巨大乳頭あり.加療継続中.C0.515歳男結膜充血増強C0.912カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC15Cmg注射なし再発時,C9カ月後,C12カ月後に注射.輪部型.その後ドロップアウト.最終診察時,輪部増殖とトランタス斑.C0.84歳男落屑様CSPK巨大乳頭C3+1.036カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし2カ月後,C7カ月後,C10カ月後,C17カ月後に注射.その後はCproactive療法再開.現在治療継続.C1.214歳男落屑様CSPK巨大乳頭+0.412カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,1C5カ月後に注射.P+,GCP+,CSPK+.加療継続中.C0.35歳男CShieldulcer巨大乳頭+1.016カ月タクロリムス3回プレドニゾロンC17.5Cmgから漸減アトピー性皮膚炎17カ月後にケナコルトC20Cmg注射.現在加療継続中.C1.2Cを防止するために,抗アレルギー点眼薬の継続使用によるproactive療法が提唱されている5)のがもっとも早い報告と考えられるが,VKCに対する免疫抑制点眼薬を用いたCpro-active療法の報告は筆者らの調べた範囲ではまだみられていない.VKCの治療においては,免疫抑制点眼薬が診療ガイドラインでも第一選択薬となっており,とくにタクロリムス点眼薬C0.1%によって,治療中にステロイドからの離脱率が高率であったと報告されており,ステロイド点眼薬に匹敵する効果のあるステロイド代替治療薬としての重要性が相ついで報告されている6,7).またC0.01%の低濃度点眼薬でも同等の有効性があったという報告もある8).しかし,長期間にわたって,投与回数を増減して継続投与を行った報告はなく,その点で今回の解析は意義があったと考えている.VKCにおける通常のいわゆるCreactive療法では,急性期にはステロイド点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用し,症状の改善に応じて,ステロイド点眼薬を中止し,抗アレルギー点眼薬のみを継続して,免疫抑制点眼薬も終了とするというのが一般的な投与法と考えられるが,VKCは季節性の再発がしばしば生じ,その際には結果的に上記の急性期治療から治療を繰り返していくということになる.今回の経過観察を行った免疫抑制点眼薬によるステロイドを使用しないCVKCの継続治療はCproactive療法として最初から行われたものではなく,retrospectiveに解析を行った結果からいわゆるCproac-tive療法に相当すると考えられる投与法であったものである.当院で免疫抑制点眼薬を用いて継続治療した全C32症例のうち,長期間にわたってステロイド局所および全身治療を必要としなかった症例がC28症例(81.2%)であったという結果は,reactive療法との比較試験は行っていないが,十分に高い持続率であったと考えられる.皮膚科でアトピー性皮膚炎に対して行われているproactive療法とほぼ同様の方法で,VKCの慢性期においてもステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による長期管理が可能であることが示唆された.皮膚科領域と同様にステロイド点眼薬も使用するCproactive療法というものがありうることは否定しないが,今回の治療はステロイドの使用により生じる副作用を防ぐうえでも有意義であると考えられた.再発群と無再発群の比較においては,いずれの項目においても統計学的に有意な差は認められなかったが,この理由として症例数が少ないためであると考えられた.ただし典型的なCVKCの小児例においては,アトピー性皮膚炎の合併率は高くないことが知られており,アトピー性皮膚炎の関与が大きくなかったことは考えられる.再発群と無再発群とを分ける要因は今回の結果からは判明しなかったが,重症型のアレルギー性結膜疾患では涙液中サイトカイン濃度が異なっていること9)や,涙液中炎症マーカーと角膜合併症が関与する報告10)などがあり,何らかの免疫学的な要因が関係する可能性がある.今回の対象となった症例の平均年齢はC11歳とVKCの年齢としては高く,一般的にCVKCのもっとも重症な時期を過ぎている症例が多いことが要因の解析に影響した可能性があるが,proactive療法を継続できるのはこのような症例でもあり,今後の解析を進めたい.シクロスポリン点眼薬を使用したC6症例ではいずれもステロイド局所および全身治療を必要としなかった.これは,VKCの経過が良い症例に対し眼刺激症状などの副作用軽減のため,すでにタクロリムス点眼薬からシクロスポリン点眼薬へ移行した症例であることによるものと考えられる.一方で,シクロスポリンのCVKC再発に対するタクロリムスとは異なる作用の関連も示唆された11).皮膚科領域とは異なり,タクロリムスとシクロスポリンというC2製剤を使用できる春季カタルのCproactive療法が今後確立する場合には,タクロリムスの終了後にも,切り替え投与としてさらに再発を抑制し,安全に治療を終了するうえで,シクロスポリン点眼薬の一定の可能性や意義があることが推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchioCE,CItohCY,CKadonosonoCK:TopicalCbromfenacCsodi-umforlong-termmanagementofvernalkeratoconjuncti-vitis.OphthalmologicaC221:153-158,C20072)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:831-870,C20103)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2016年版.日皮会誌C126:121-155,C20164)海老原伸行:治療の最前線C!点眼剤の使い分けとピットフォールアレルギー性結膜疾患.薬局65:1774-1780,C20145)O’BrienTP:Allergicconjunctivitis:anupdateondiagno-sisCandCmanagement.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC13:543-549,C20136)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetCal:Steroid-spar-ingCe.ectCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C20177)FukushimaCA,COhashiCY,CEbiharaCNCetCal:Therapeutice.ectsCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropsCforCrefractoryCaller-gicCocularCdiseasesCwithCproliferativeClesionCorCcornealCinvolvement.BrJOphthalmolC98:1023-1027,C20148)ShoughySS,JaroudiMO,TabbaraKF:E.cacyandsafeC-tyoflow-dosetopicaltacrolimusinvernalkeratoconjunc-tivitis.ClinOphthalmolC10:643-647,C20169)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-gamma,Cinterleukin(IL)C-2,CIL-4CandCIL-5CinCpatientsCwithCvernalCkeratoconjunctivitis,CatopicCkeratoconjunctivi-tisCandCallergicCconjunctivitis.CClinCExpCAllergyC30:103-109,C200010)TanakaM,DogruM,TakanoYetal:Quantitativeevalu-ationCofCtheCearlyCchangesCinCocularCsurfaceCin.ammationCfollowingMMC-aidedpapillaryresectioninsevereallergicCpatientsCwithCcornealCcomplications.CCorneaC25:281-285,C200611)YucelCOE,CUlusCND:E.cacyCandCsafetyCofCtopicalCcyclo-sporineA0.05%invernalkeratoconjunctivitis.SingaporeMedJC57:507-510,C2016***