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春季カタルにおける長期予後の解析

2019年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(1):111.114,2019c春季カタルにおける長期予後の解析三島彩加佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofLong-termPrognosisofVernalKeratoconjunctivitisAyakaMishima,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:春季カタル(VKC)の臨床経過と長期予後の解析.対象および方法:2005年C4月から福岡大学病院眼科を初診しC5年以上経過したCVKC症例計C21例(男性C18例,女性C3例,平均年齢C9.0歳)40眼に対して診療録をもとに使用薬剤と再発の有無を後方視的に解析した.結果:初診時に抗アレルギー点眼薬がC40眼(100%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬はC40眼(100%),ステロイド内服薬はC6眼(15.0%)に使用されていた.経過中にトリアムシノロン眼瞼皮下注射がC24眼(60.0%)に行われた.初回治療後,VKCの再発を認めた症例はC34眼(85.0%)であった.再発をきたしたC34眼の予後をCKaplan-Meier法で解析したところ,治療開始C2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至った.22眼(64.7%)の症例がC16歳までに治癒に到達していた.再発症例の最終悪化時の年齢は平均でC13.6歳であった.一方,10眼(29.4%)が現在も治癒せず,治療継続中である.結論:免疫抑制点眼薬を使用することにより,VKCの早期治癒が可能になった.再発を繰り返す症例もその多くは青年前期には治癒することが示された.CPurpose:ThisCstudyCreportedCtheCclinicalCcourseCandClong-termCprognosisCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC).Casesandmethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof21patientswithVKC(18males,3females;averageage:9.0years)whowerefollowedformorethan5yearsattheEyeCenterofFukuokaUniversityHospi-talCafterCApril,C2005,CbasedConCmedicalCrecords.CResults:AtC.rstCadmission,C40eyes(100%)wereCtreatedCwithCanti-allergicCeyeCdropsCandCimmunosuppressiveCeyedrops;33eyes(82.5%)wereCalsoCtreatedCwithCcorticosteroidCeyedrops;6eyes(15.0%)receivedCoralCcorticosteroids.CSubcutaneousCeyelidCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonideCwasCgivenCinC24eyes(60.0%)duringCtheCcourse.CAfterCinitialCtreatment,C34eyes(85.0%)showedCrecurrenceCofCVKC.Amongtheeyeswithrecurrence,thecumulativecureratewas23.5%after2years,reaching52.9%after5years’Ctreatment.CCompleteCremissionCwasCachievedCinC22eyes(64.7%)by16yearsCofCage.CAverageCageCatClastCrecurrenceinthesecaseswas13.6yearsold.Incontrast,10eyes(29.4%)showedcontinuousrecurrencewithoutremission.CConclusion:VKCCcouldCbeCtreatedCearlierCbyCusingCimmunosuppressiveCeyeCdrops.CItCwasCshownCthatCmostcasesofVKCwithrecurrencecouldbecuredinpre-adolescence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):111.114,C2019〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,タクロリムス,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,immu-nosuppressiveeyedrops,tacrolimus,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期に発症し,寛解・増悪を繰り返す結膜増殖性アレルギー疾患である.病型ではおもに眼瞼に巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型と,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型とに大別される.治療は抗アレルギー点眼薬単独では管理が困難なことが多く,副腎皮質ステロイドの全身もしくは局所投与,近年では免疫抑制点眼薬の有用性が報告されている1).免疫抑制点眼薬はステロイド投与に伴うステロイド白内障2)やステロイド緑内障に関する報告はない.ステロイド緑内障は,とくに幼少期においては合併する可能性が高いと報告され3),VKCの罹患期間と重なることが多く,ステロイド点眼薬の長期使用に付随する重要な問題である.これまでわが国でCVKCの長期予後についての報告はほとんどみられず,海外でも治療〔別刷請求先〕三島彩加:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakaMishima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC薬の長期使用成績4,5)以外ではこれまでほとんど報告されていない6).そこで今回筆者らは免疫抑制点眼薬を主たる治療として長期間経過観察を行ったCVKC症例の臨床経過ならびに予後を解析したので報告する.CI対象および方法2005年C4月から福岡大学病院眼科外来を初診し,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)の定義にもとづいてVKCと診断され加療された症例のうち,診療録においてC5年以上経過観察を行ったC21例C40眼(男性C18例,女性C3例)を対象とした.そのうち,両眼例は男性C16例,女性C3例で,片眼例は男性C2例,女性C0例であった.初診時平均年齢はC8.0±2.7歳(平均C±標準偏差,5.17歳)であった.検討項目としては,各症例の性別,初診時年齢,初診時の病型(眼瞼型,輪部型,混合型),初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,初診時の角膜上皮障害所見,初診時の治療内容,そして再発の有無と再発までの期間,最終悪化時の年齢を後方視的に解析した.臨床所見の重症度はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)をもとに,所見がないもの,軽度なもの,中等度なもの,高度なものとC4段階に分類した.治療の経過中に初診時と同等の結膜所見や新たな角膜病変の出現が認められた時点で再発あり,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,治癒に至るまでの期間と治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C18例(85.7%),女性C3例(14.3%)でC6:1と男性が多かった.全C40眼の初診時の所見について,病型では眼瞼型がC37眼(92.5%)ともっとも多く,混合型はC3眼(7.5%),輪部型はC0眼(0.0%)であった.眼瞼結膜巨大乳頭所見では軽度がC26眼(65.0%),中等度がC10眼(25.0%),高度がC4眼(10.0%)と半数以上が軽度であった.角膜上皮障害所見はなしがC11眼(27.5%),軽度がC12眼(30.0%),中等度がC9眼(22.5%),高度がC8眼(20.0%)と軽度の症例がもっとも多かったが,各重症度の割合には大きな差はみられなかった.初診時の年齢はC7.9歳がC20眼(50.0%)ともっとも多かった(図1).全症例の初診時治療については,抗アレルギー点眼薬が40眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬がC40眼(100%),ステロイド内服薬がC6眼(15.0%)に投与され,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC24眼(60.0%)であった.再発を認めた症例(再発群)はC34眼(85.0%),再発を認めず初回治療のみで治癒した症例(非再発群)はC6眼(15.0%)であった.非再発群においては,眼瞼結膜巨大乳頭所見は軽度がC2眼(33.3%),中等度がC2眼(33.3%),高度がC2眼(33.3%)であり,角膜上皮障害所見はなしがC2眼(33.3%),軽度がC0眼(0.0%),中等度がC1眼(16.7%),高度がC3眼(50.0%)であった.年齢分布はどの年代においても大きな差はみられなかった(図2).治療薬は,抗アレルギー点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC6眼(100.0%),免疫抑制点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド内服薬がC0眼(0.0%),そして,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC2眼(33.3%)であった(表1).再発群については,眼瞼結膜巨大乳頭所見は,軽度の症例がC24眼(70.6%)と多く,中等度はC8眼(23.5%),高度がC2眼(5.9%)であった.角膜上皮障害所見はなしがC9眼(26.4%),軽度がC12眼(35.3%),中等度がC8眼(23.5%),高度がC5眼(14.7%)とすべての病型に差はみられなかった.年齢の分布はC34眼中C18眼とC7.9歳にもっとも多かった(図3).治療は抗アレルギー点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC27眼(79.4%),免疫抑制点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド内服薬がC6眼(17.6%)で,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射はC22眼(64.7%)に行われた(表1).再発群において,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,経過期間と累積治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した(図4).2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至っていた.しかし,29.4%が現在も治癒に至らず寛解・増悪を繰り返していた.16歳までC22眼(64.7%)が最終増悪を終えて,以後再発を認めずに治癒に至っていた.最終悪化時の年齢分布を図5に示した.平均はC13.6歳であった.CIII考按重症アレルギー性結膜疾患やCVKCに対するタクロリムス点眼液の治療効果については,これまで高い治療効果が報告されている4,8.10).今回の検討でも初回治療でC15.0%の症例が再燃せずに治癒しており,タクロリムス点眼液による効果と考える.一方それらを除く約C9割の症例は再発を繰り返した.今回の検討では初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,角膜上皮障害所見とCVKCの再発の関与に有意な結果が認められなかった.初診時の臨床所見の重症度だけではCVKCの再発傾向についての予測は困難であるといえる.今回の検討には含まれなかったが,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の全身既往歴や点眼コンプライアンスなどの要因について,今後はさらに検討を行う必要があると考えられる.重症CVKC症例に対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の有用性については,小沢ら11)が報告しており,いわゆるリリーバーとして重症例に行われた.202016161212症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)8844006歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上6歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)年齢(歳)図1初診時全症例の年齢分布図2非再発群の初診時年齢分布7.9歳にもっとも多くみられた.各年齢群の差は少なかった.表1非再発群・再発群の初診時治療20初診時治療非再発群再発群C16(n=6眼)(n=34眼)128抗アレルギー点眼6(100%)34(100%)ステロイド点眼6(100%)27(79.4%)免疫抑制薬点眼6(100%)34(100%)ステロイド内服0(0.0%)6(17.6%)C4トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射2(33.3%)22(64.7%)C06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図3再発群の初診時年齢分布7.9歳に多くみられた.C20161284図4再発群における治療期間と累積治癒率の推移Kaplan-Meier法で解析した.70.6%の症例が観察期間中に治癒に至っていた.アレルギー性結膜炎についてはC10歳代にピークがあり加齢とともに減少すると報告されている12).しかし,これまでにCVKCの眼炎症が収束して治癒する明確な年齢は報告されていなかった.今回の検討でC16歳までに約C6割の症例が以後再発を認めずに治癒に至り,16歳以上の多くの症例ではそれ以降に再発がみられないことがわかった.その一方で,約C2割の症例は治癒に至らないことも判明した.今回はアトピー性皮膚炎などの全身疾患についての検討は行っていないが,アトピー性皮膚炎合併例における免疫学的な特殊性などがCVKCの治癒に至るかどうか,あるいは成人型のアトピー性角結膜炎に移行するものなどについて,その病態を今後さ(113)06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図5再発群の最終再発時年齢分布最終再発時年齢の平均はC13.6歳であった.らに詳細に検討する必要性があるといえる.文献1)南場研一:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬治療.あたらしい眼科C30:57-61,C20132)小川月彦,貝田智子,雨宮次生:ステロイド白内障発症要因の検討.臨眼C51:489-492,C19973)OhjiCM,CKinoshitaCS,COhmiCECetal:MarkedCintraocularCpressureCresponseCtoCinstillationCofCcorticosteroidsCinCchil-dren.AmJOphthalmolC112:450-454,C19914)Al-AmriAM:Long-termCfollow-upCofCtacrolimusCoint-mentCforCtreatmentCofCatopicCkeratoconjunctivitis.CAmJOphthalmolC157:280-286,C20145)PucciCN,CCaputoCR,CMoriCFCetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.CIntCJCImmunopatholCPharmacolC23:C865-871,C20106)BoniniCS,CBoniniCS,CLambiaseCACetal:VernalCkeratocon-junctivitisrevisited:aCcaseCseriesCofC195patientsCwithClong-termfollowup.OphthalmologyC107:1157-1163,C20007)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20108)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmicCsuspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20109)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C201310)品川真有子,南場研一,北市信義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼C71:343-348,C201711)小沢昌彦,山口晃生,淵上あきほか:春季カタルに対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の治療成績.臨眼C61:739-743,C200712)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の疫学.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班実績集.p12-20,日本眼科医会,1995***

春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):243.246,2018c春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたProactive療法の治療成績森貴之川村朋子佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CTreatmentResultsofProactiveTherapyUsingImmunosuppressiveEyedropsforVernalKeratoconjunctivitisTakayukiMori,TomokoKawamura,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine目的:免疫抑制点眼薬を春季カタル(VKC)症例に,再燃を抑制するために継続投与する治療を行った.これらの症例の治療成績を検討したので報告する.対象および方法:福岡大学病院眼科でC2009.2016年に治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用により経過観察したCVKCC32例を対象とし,臨床経過と再燃の有無について後ろ向きに解析した.結果:平均治療期間はC27.9カ月で,ステロイドを使用せずに再発がみられなかったのはC26例(81.2%)であり,6例(18.8%)では何らかのステロイド治療を必要とした.免疫抑制点眼薬はすべての症例でタクロリムスが使用されたが,6例ではシクロスポリンも使用された.結論:VKCの慢性期において,ステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による経過観察は可能であり,アトピー性皮膚炎と同様に,抗炎症局所治療薬である免疫抑制点眼薬を継続投与して再燃を抑制する,いわゆるCproactive療法と考えられる投与法でCVKCの長期管理が可能であることが示唆された.CPurpose:ToCavoidCseasonalCrecurrenceCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC)C,CproactiveCtherapyCcomprisingCcontinuedtreatmentwithprophylacticdoseincreaseofimmunosuppressiveeyedropsisdeemedtobeofvalue.WereporttheoutcomeofproactivetreatmentofVKC.SubjectsandMethods:Surveyedretrospectivelyinthisstudywere32patientswithVKCwhoweretreatedatFukuokaUniversityHospitalwithcontinueduseofimmunosup-pressiveeyedropswithoutsimultaneoususeoflocalorsystemiccorticosteroidsbetween2009and2016.Results:AverageCtreatmentCdurationCwasC27.9Cmonths;26Ccases(81.2%)showedCnoCrecurrenceCwithoutCtheCuseCofCanycorticosteroids,but6cases(18.8%)requiredcorticosteroidtreatment.Tacrolimuswasusedinallcasesforimmu-nosuppressiveCeyedrops;CcyclosporineCwasCalsoCusedCinC6Ccases.CConclusions:InCtheCchronicCphaseCofCVKC,CitCisCsuggestedthatlong-termmanagementwithproactivetherapyusingimmunosuppressiveeyedropsispossiblewith-outtheuseofcorticosteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):243.246,C2018〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,proactive療法,タクロリムス,シクロスポリン.vernalkeratocon-junctivitis,immunosuppressiveeyedrops,proactivetherapy,tacrolimus,cyclosporine.Cはじめに春季カタル(vernalCkeratoconjunctivitis:VKC)は増殖性病変を特徴とし,罹患期間も長く,季節性などによる再発のために管理が困難なアレルギー疾患である1).現在のアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)では,VKCの治療法を,「抗アレルギー点眼薬だけで効果不十分な中等症以上の症例に対しては,免疫抑制点眼薬を追加投与し,重症例に対しては,さらにステロイド点眼薬を追加投与し,症状に応じてステロイドの内服薬や瞼結膜下注射,外科的治療も試みる」と記載されている2).症状や重症度に応じて,免疫抑〔別刷請求先〕森貴之:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakayukiMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPAN制点眼薬を基礎治療としながら追加するいわゆるCreactive療法というべき方法が推奨されている.これに対して,皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎に対して,急性期の治療によって寛解導入した後に,ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を定期的に塗布し,寛解状態を維持する治療法がCproac-tive療法として行われている3).VKCにおいては,病勢が落ち着いている時期に免疫抑制点眼薬を漸減しながら継続し,再燃を回避する投与法がCVKCにおける免疫抑制点眼薬によるCproactive療法になると考えられる4).VKCのCproactive療法の可能性については述べられているが,proactive療法の実際の症例に対する治療成績に関するまとまった報告はまだない.そこで当科において行った免疫抑制点眼薬の継続投与治療によるCVKCの治療成績を検討したので報告する.CI対象および方法福岡大学病院眼科でC2009.2016年にCVKCの治療を行い,その慢性期にステロイド局所および全身治療を併用しないで免疫抑制薬点眼の継続使用(点眼回数の増減を含む)により経過観察したC32例を対象とし,VKCにおけるCproactive療法の可能性について,後ろ向きに解析した.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)にもとづいて行った.開始時の平均年齢はC11.3歳(4.17歳),男性28例,女性C4例であった.観察期間中,抗アレルギー点眼薬は併用可とした.両眼例では重症眼を評価対象とした.臨床評価基準のうち,結膜乳頭,結膜巨大乳頭および角膜それぞれの重症度を,なし:0,軽症:1,中等症:2および重症:3とスコア化し,その合計を重症度スコアとした(最大で9).免疫抑制薬点眼薬の終了,中止あるいはステロイド使用時(点眼,内服,もしくは眼瞼注射)を死亡とし,ステロイドを使用せずに,免疫抑制点眼薬を継続して治療中あるいは改善して治療終了までの期間をCproactive療法としての生存期間としてCKaplan-Meier法で求めた.中止例は最終受診時点までの期間を同様に生存期間とした.ステロイド使用の基準はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症以上あるいは角膜中等症以上のいずれかないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.またステロイドの選択はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)2)の臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症あるいは角膜重症のいずれかないし両方が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の場合は点眼薬とした.平均値の比較にはCMann-Whitney検定を,要因の単変量解析にはCFisher直接確率計算法を用いた.CII結果平均治療期間はC27.9カ月(12.64カ月)であった.全C32症例のうち,生命表解析で死亡とみなすステロイドを使用し(%)1008060402000102030405060(月)図1Proactive療法のKaplan.Meier法による生存曲線免疫抑制点眼薬による治療の持続期間を示す.た症例はC6例(18.8%)であった.この症例はすべて男性であった.ステロイド使用時期はC12カ月後,36カ月後が各C2例,16カ月後,24カ月後が各C1例であった.ステロイドの使用時期を死亡と定義するCKaplan-Meier法の生存曲線解析結果を図1に示した.Proactive療法の生存率はC2年でC85.9%,5年でC68.9%であった.ステロイド使用例を除き,pro-active療法が継続できたC26例の開始時および最終受診時の重症度スコアの平均はそれぞれ,3.73とC2.27であった.一方,再発群のC6例の開始時および再燃時の重症度スコアの平均はそれぞれ,4およびC4.5と継続例よりは高かった.なお,経過観察中に重篤な合併症がみられた症例はなかった.ステロイド使用に至った症例を再発群,proactive療法を継続できステロイド使用しなかった症例を無再発群として,両群間で再発に関係する要因について検討した.治療開始時年齢については,平均値を比較したが,有意差はみられなかった.要因としては,性別(男性/女性),シクロスポリンの使用(あり/なし),治療開始年齢(10歳以上/10歳未満)アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)について,いずれの要,因でも統計学的に有意な差は認められなかった(表1).ステロイドを使用したC6症例の詳細は表2に示した.再発後トリアムシノロンアセトニド注射やプレドニゾロン内服を必要として,その後経過観察を行った(表2).免疫抑制点眼薬は全症例においてタクロリムス(タリムスCR点眼液C0.1%)が使用されたが,6例では経過中にシクロスポリンも使用された.シクロスポリン(パピロックCRミニ点眼液C0.1%)は全例でタクロリムスからの切り替えとして使用された.CIII考按アレルギー性結膜疾患の治療におけるCproactive療法はまだ確立されたものではなく,近年アレルギー性結膜炎の再発C表1再発群と無再発群の比較再発なし(2C6例)再発あり(6例)p値性別(男性/女性)C22/4C6/0C0.566シクロスポリンの使用(あり/なし)C6/20C0/6C0.565アトピー性皮膚炎の既往(あり/なし)C6/20C3/3C0.314Fisher直接確率計算法を用いた.表2ステロイド使用6症例の詳細年齢性別再発時病変再発時矯正視力再発時期再発前の点眼(/day)使用したステロイド全身疾患経過最終矯正視力7歳男CShieldulcerSPK巨大乳頭C2+0.0928カ月タクロリムス3回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし再発時,C4カ月後,C14カ月後,C17カ月後の4回注射後症状改善し,pCroactive療法再開.以降再発なし.C1.014歳男CShieldulcer落屑様CSPK巨大乳頭C2+トランタス斑C0.524カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,C9カ月後,C24カ月後に注射.現在落屑様CSPK,上方輪部病変,巨大乳頭あり.加療継続中.C0.515歳男結膜充血増強C0.912カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC15Cmg注射なし再発時,C9カ月後,C12カ月後に注射.輪部型.その後ドロップアウト.最終診察時,輪部増殖とトランタス斑.C0.84歳男落屑様CSPK巨大乳頭C3+1.036カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射なし2カ月後,C7カ月後,C10カ月後,C17カ月後に注射.その後はCproactive療法再開.現在治療継続.C1.214歳男落屑様CSPK巨大乳頭+0.412カ月タクロリムス2回トリアムシノロンアセトニドC20Cmg注射アトピー性皮膚炎再発時,1C5カ月後に注射.P+,GCP+,CSPK+.加療継続中.C0.35歳男CShieldulcer巨大乳頭+1.016カ月タクロリムス3回プレドニゾロンC17.5Cmgから漸減アトピー性皮膚炎17カ月後にケナコルトC20Cmg注射.現在加療継続中.C1.2Cを防止するために,抗アレルギー点眼薬の継続使用によるproactive療法が提唱されている5)のがもっとも早い報告と考えられるが,VKCに対する免疫抑制点眼薬を用いたCpro-active療法の報告は筆者らの調べた範囲ではまだみられていない.VKCの治療においては,免疫抑制点眼薬が診療ガイドラインでも第一選択薬となっており,とくにタクロリムス点眼薬C0.1%によって,治療中にステロイドからの離脱率が高率であったと報告されており,ステロイド点眼薬に匹敵する効果のあるステロイド代替治療薬としての重要性が相ついで報告されている6,7).またC0.01%の低濃度点眼薬でも同等の有効性があったという報告もある8).しかし,長期間にわたって,投与回数を増減して継続投与を行った報告はなく,その点で今回の解析は意義があったと考えている.VKCにおける通常のいわゆるCreactive療法では,急性期にはステロイド点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用し,症状の改善に応じて,ステロイド点眼薬を中止し,抗アレルギー点眼薬のみを継続して,免疫抑制点眼薬も終了とするというのが一般的な投与法と考えられるが,VKCは季節性の再発がしばしば生じ,その際には結果的に上記の急性期治療から治療を繰り返していくということになる.今回の経過観察を行った免疫抑制点眼薬によるステロイドを使用しないCVKCの継続治療はCproactive療法として最初から行われたものではなく,retrospectiveに解析を行った結果からいわゆるCproac-tive療法に相当すると考えられる投与法であったものである.当院で免疫抑制点眼薬を用いて継続治療した全C32症例のうち,長期間にわたってステロイド局所および全身治療を必要としなかった症例がC28症例(81.2%)であったという結果は,reactive療法との比較試験は行っていないが,十分に高い持続率であったと考えられる.皮膚科でアトピー性皮膚炎に対して行われているproactive療法とほぼ同様の方法で,VKCの慢性期においてもステロイドを使用せずに免疫抑制点眼薬による長期管理が可能であることが示唆された.皮膚科領域と同様にステロイド点眼薬も使用するCproactive療法というものがありうることは否定しないが,今回の治療はステロイドの使用により生じる副作用を防ぐうえでも有意義であると考えられた.再発群と無再発群の比較においては,いずれの項目においても統計学的に有意な差は認められなかったが,この理由として症例数が少ないためであると考えられた.ただし典型的なCVKCの小児例においては,アトピー性皮膚炎の合併率は高くないことが知られており,アトピー性皮膚炎の関与が大きくなかったことは考えられる.再発群と無再発群とを分ける要因は今回の結果からは判明しなかったが,重症型のアレルギー性結膜疾患では涙液中サイトカイン濃度が異なっていること9)や,涙液中炎症マーカーと角膜合併症が関与する報告10)などがあり,何らかの免疫学的な要因が関係する可能性がある.今回の対象となった症例の平均年齢はC11歳とVKCの年齢としては高く,一般的にCVKCのもっとも重症な時期を過ぎている症例が多いことが要因の解析に影響した可能性があるが,proactive療法を継続できるのはこのような症例でもあり,今後の解析を進めたい.シクロスポリン点眼薬を使用したC6症例ではいずれもステロイド局所および全身治療を必要としなかった.これは,VKCの経過が良い症例に対し眼刺激症状などの副作用軽減のため,すでにタクロリムス点眼薬からシクロスポリン点眼薬へ移行した症例であることによるものと考えられる.一方で,シクロスポリンのCVKC再発に対するタクロリムスとは異なる作用の関連も示唆された11).皮膚科領域とは異なり,タクロリムスとシクロスポリンというC2製剤を使用できる春季カタルのCproactive療法が今後確立する場合には,タクロリムスの終了後にも,切り替え投与としてさらに再発を抑制し,安全に治療を終了するうえで,シクロスポリン点眼薬の一定の可能性や意義があることが推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)UchioCE,CItohCY,CKadonosonoCK:TopicalCbromfenacCsodi-umforlong-termmanagementofvernalkeratoconjuncti-vitis.OphthalmologicaC221:153-158,C20072)高村悦子,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:831-870,C20103)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2016年版.日皮会誌C126:121-155,C20164)海老原伸行:治療の最前線C!点眼剤の使い分けとピットフォールアレルギー性結膜疾患.薬局65:1774-1780,C20145)O’BrienTP:Allergicconjunctivitis:anupdateondiagno-sisCandCmanagement.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC13:543-549,C20136)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetCal:Steroid-spar-ingCe.ectCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C20177)FukushimaCA,COhashiCY,CEbiharaCNCetCal:Therapeutice.ectsCofC0.1%CtacrolimusCeyeCdropsCforCrefractoryCaller-gicCocularCdiseasesCwithCproliferativeClesionCorCcornealCinvolvement.BrJOphthalmolC98:1023-1027,C20148)ShoughySS,JaroudiMO,TabbaraKF:E.cacyandsafeC-tyoflow-dosetopicaltacrolimusinvernalkeratoconjunc-tivitis.ClinOphthalmolC10:643-647,C20169)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-gamma,Cinterleukin(IL)C-2,CIL-4CandCIL-5CinCpatientsCwithCvernalCkeratoconjunctivitis,CatopicCkeratoconjunctivi-tisCandCallergicCconjunctivitis.CClinCExpCAllergyC30:103-109,C200010)TanakaM,DogruM,TakanoYetal:Quantitativeevalu-ationCofCtheCearlyCchangesCinCocularCsurfaceCin.ammationCfollowingMMC-aidedpapillaryresectioninsevereallergicCpatientsCwithCcornealCcomplications.CCorneaC25:281-285,C200611)YucelCOE,CUlusCND:E.cacyCandCsafetyCofCtopicalCcyclo-sporineA0.05%invernalkeratoconjunctivitis.SingaporeMedJC57:507-510,C2016***