《原著》あたらしい眼科42(7):915.918,2025c春季カタルの未治癒例の臨床的特徴に関する解析髙橋理恵原田一宏池田文川村朋子尾崎弘明内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofClinicalFeaturesofUnhealedCasesofVernalKeratoconjunctivitisRieTakahashi,KazuhiroHarada,AyaIkeda,TomokoKawamura-Tsukahara,HiroakiOzakiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversityC目的:思春期を超えるまで治療したが治癒に至らなかった春季カタル(VKC)の臨床的特徴の解析.対象および方法:2005年C9月.2014年C10月に福岡大学病院眼科でC2年以上Cproactive療法を行ったCVKCのうちC16歳を過ぎても治癒しなかったC11例(男性C9例,女性C2例.平均初発年齢C9.5歳)が対象.最終再発・診察時年齢,観察期間,臨床スコア,再発回数,アトピー性皮膚炎(AD)の有無を後方視的に検討.臨床スコアは重症眼を用い,再発回数は両眼の合計とした.結果:観察期間はC103カ月,最終再発時年齢はC18.5歳,最終観察年齢はC19.9歳,臨床スコアは開始時3.6最終時C1.0,再発回数はC1.37回/年だった.91%にCADを合併した.結論:VKCの中に思春期を超えても治癒しない症例があった.その臨床的背景は今後検討の余地がある.CPurpose:Toreporttheclinicalcharacteristicsofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)casestreateduntilpuber-tyCthatCremainedCuncured.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCsurveyedC11CVKCCcases(9Cmales,C2females;meanageatonset:9.5years)whounderwentproactivetreatmentformorethan2yearsbetweenSep-tember2005andOctober2014,yetfailedtocureuntilafterapatientageof16years.Results:Themeanobser-vationperiodwas103months,andthemeanpatientageat.nalrecurrencewas18.5years.ThemeanpatientageatC.nalCobservationCwasC19.9Cyears,CandCtheCmeanCclinicalCscoreCatCbaselineCandCatC.nalCvisitCwasC3.1CandC1.0,Crespectively.Annually,themeannumberofrecurrenceswas1.37,and91%ofthepatientswerecomplicatedwithatopicdermatitis.Conclusion:AlthoughcasesofVKCthatremainedunhealedbeyondpubertywereobservedinthisstudy,furtherinvestigationoftheclinicalbackgroundinthesecasesisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):915.918,C2025〕Keywords:春季カタル,proactive療法,思春期,ステロイド,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,proactivetreatment,puberty,corticosteroid,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は重症の増殖性アレルギー性結膜疾患であり,幼少期に発症し増悪・寛解を繰り返したあと,思春期に自然治癒することが多い.抗アレルギー点眼薬だけでは不十分な中等症以上のCVKCに対しては免疫抑制点眼薬を追加投与し,これらの点眼でも改善がみられない重症例は,ステロイドの点眼や内服,局所注射が選択される.それでも改善が得られない場合は,結膜乳頭の外科的切除も検討される1).症状の改善が得られたら,ステロイドの低力価への変更や点眼回数を漸減し,寛解状態になれば増悪しないよう,免疫抑制点眼薬や抗アレルギー点眼薬のみでコントロールしていき,再燃を避けるため免疫抑制点眼薬の投与量を調整し,最終的に少量の維持量を続けるproactive療法に関しては,福岡大学病院眼科(以下,当院)ではC2009年より行っている.森らの報告では,ステロイドを使用せずにCproactive療法のみで治療を継続できた症例の割合はC81.2%であり,VKCに対してCproactive療法は有効な治療法であるとしている2).Shimokawaらは,2年以上経過観察ができたCVKC症例の検討で,累積治癒率がC10年間でC84.9%であったと報告している一方,16歳以上でCproac-tive療法を継続している症例がC15.1%あったと報告している3).〔別刷請求先〕髙橋理恵:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieTakahashi,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,FukuokaUniversity,7-45-1NanakumaJohnan-ku,Fukuoka814-0180,JAPANC表116歳で治癒しなかったVKC11症例の詳細症例性別初発時初診時観察期間最終再発最終診察再発回数臨床スコア治療CAD合併最終転帰免疫抗アレルギーステロイド年齢年齢(月)時年齢時年齢開始時16歳時終了時抑制点眼点眼点眼内服眼瞼注射C1男C8C8C117C17C17C4C3C2C0C○C○C○C××○治療中断C2女C8C10C144C21C23C14C5C0C0C○C○C×〇C6C○治療継続C3女C12C15C105C17C23C3C1C1C0C○C○C×××○治癒C4男C12C14C30C16C16C6C4C0C0C○C○C××5C○治療中断C5男C12C14C48C16C19C1C3C1C0C○C○C××××治癒C6男C6C7C182C19C22C9C5C1C1C○C○C○C×1C○転院C7男C10C12C81C18C18C14C2C1C1C○C○C○C○C11C○治療中断C8男C8C11C117C21C21C26C4C1C2C○C○C○C○C16C○転院C9男C10C11C72C16C17C3C4C1C2C○C○C○C××○治療中断C10男C11C13C90C20C20C10C4C2C2C○C×××7C○転院C11男C7C8C157C22C22C44C5C5C3C○C○C○C○C26C○治療継続今回は,小児期にCVKCを発症し,16歳を超えるまでの長期観察中に治癒に至らなかった未治癒症例の臨床的特徴について解析したので報告する.CI対象および方法2005年9月.2014年10月の10年間に当院でVKCと診断されたC45例のうち,経過中C2年以上Cproactive療法を行ったがC16歳を過ぎても再発し,治癒に至らなかったC11例(男性C9例,女性C2例)を対象とした.VKCの診断はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版,以下,ガイドライン)にもとづいて行った1).治癒の定義は,免疫抑制点眼薬でC1年間再発しなかったのち免疫抑制点眼薬を中止してさらにC1年間再発がなかったものとした.本研究は,この治癒の定義を満たさなかった症例が対象である.また,再発の定義はCVKC所見が悪化し,治療を強化したときとした.検討項目は初発時年齢,当院初診時年齢,最終再発時年齢,最終診察時年齢,再発回数,再発の季節との関連,初診診察時臨床スコア,16歳時点での臨床スコア,最終診察時臨床スコア,治療内容,アトピー性皮膚炎(atopicdermati-tis:AD)の有無とした.臨床スコアは,ガイドラインの臨床評価基準のうち,結膜巨大乳頭,輪部腫脹,角膜上皮障害のそれぞれの重症度を,「なし:0」「軽度:1」「中等症:2」「重症:3」とスコア化し,その合計を臨床スコアとした1).両眼例は,より重症な眼のスコアを使用した.ステロイド使用の基準は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭中等症(スコア2)以上,あるいは角膜中等症(スコア2)以上のいずれか,ないし両方が出現する臨床所見の悪化がみられた場合とした.また,ステロイドの選択は,ガイドラインの臨床評価基準で結膜巨大乳頭重症(スコア3)あるいは角膜重症(スコア3)のいずれか,ないし療法が出現する場合には内服か眼瞼注射のいずれかを行い,それ以外の悪化に対しては点眼を行った.本研究で外科的切除を行った症例はなかった.再発回数は両眼の合計回数とした.診療録をもとに,それぞれの項目について後ろ向きに解析した.再発回数の季節性の比較は,それぞれの季節で再発回数に差がないと仮定したものと比較して有意差があるかCPearsonC|2検定を用い,診察初診時と最終診察時のスコア変化,最終再発時年齢を年齢別にC2群に分けた比較検討はCWil-coxonsinged-rank検定を用いた.本研究は,福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果11症例の結果を表1に示した.VKCが発症した初発時年齢は平均C9.5C±2.2歳(6.12歳)であり,当院初診時年齢は平均C11.2C±2.7歳(7.15歳)であった.観察期間は平均C103C±46カ月(30.180カ月)であり,最終再発時年齢は平均C18.5±2.3歳(16.22歳),最終診察時年齢は平均C19.9C±2.6歳(16.23歳)であった.再発の回数は両眼で平均C12.2C±12.7回(1.44回)であり,1年間あたりの再発回数は平均C1.37C±1.09回/年であった.再発回数と観察期間には相関はなかった(RC2=0.2514)(図1).また,3.5月を春,6.8月を夏,9.11月を秋,12.2月を冬として季節を分け,季節別でみた全症例の累積再発回数は春C49回,夏C31回,秋C18回,冬C36回であり,有意差はなかったが,春と冬に多い結果であった(p=0.051)(図2).臨床スコアは,治療開始時スコア平均C3.6C±1.3(1.5)に再発合計回数(回)50454035302520151050050100150200観察期間(月)図1VKCの再発合計回数と観察期間との相関関係観察期間と再発回数には相関はなかった.対して,16歳時点でのスコアは平均C1.4C±1.4(0.5)と低下していた.最終診察時スコアは平均C1.0C±1.1(0.3)であり,全症例の初診時スコアと比較して最終診察時のスコアは有意に低下しており,11症例中C5症例は最終診察時の臨床スコアがC0となっていた(p<0.001)(図3).最終診察時点での転帰は治癒がC2例,治療継続がC2例,転院がC3例,治療中断がC4例であった.さらに,11症例を最終再発時年齢がC16.19歳の早い群とC20.22歳の遅い群に分けてそれぞれ比較したところ,初発時・初診時年齢や臨床スコア,観察期間に差はみられなかったが,再発回数は最終再発が遅い群のほうが有意に多かった(p=0.023).また,治療内容に関してはステロイドの点眼と内服には差はみられなかったが,眼瞼注射の回数に関しては有意に最終再発が遅い群のほうが多かった(p=0.026).治療内容は,proactive療法を行っているため,免疫抑制点眼は全例使用しており(100%),そのほか,抗アレルギー点眼はC93.3%で使用し,ステロイド点眼はC54.5%,ステロイド内服はC36.4%,ステロイド眼瞼皮下注射はC63.6%で使用していた.全体のC81.8%でステロイドを使用していた.ステロイドを使用しなかった症例はC2例あり,評価したC16歳時点ではCVKCは寛解に至っていなかったが,その後C16歳以上でCVKCの寛解が得られ,治療が終了していた症例だった.ADを合併していたのは全体のC90.9%であった.CIII考按今回,思春期までに寛解しなかったCVKCの特徴について検討した.VKCは通常C10歳頃までに発症する疾患とされ,わが国ではC7.8歳が多いという報告がある4).また,思春期前または直後に自然寛解するともされており,その治療期間はC4.8年と長期間にわたる5).本研究では初発年齢は平均C9.5歳とやや遅く,10歳以上で発症した症例がC6例(54.5%)あった.三島らが報告したC5年以上経過をみたCVKC再6050403020100春夏秋冬(3~5月)(6~8月)(9~11月)(12~2月)図2季節別でみたVKCの再発回数累積再発回数である.季節ごとの差は少なかった.C6543210開始時スコア最終時スコア図3治療前後の臨床スコア治療前と比較して最終診察時点の臨床スコアは有意に低下した.発群の初診時年齢はC7.9歳に多かったが6),本研究では平均C11.2歳であり,10.15歳が半数以上を占めていた.治療期間は,発症が高年齢時だった症例は短かったが,10歳未満で発症した症例はC8年以上と長期にわたっていた.VKCは春の終わりから夏にかけて多く発症すると報告されている.VKCが春先に多い理由は花粉症との関係が示唆されているが,温暖な地域は通年性に出現することもある7).本研究では再発の回数と観察期間には相関関係なく,長期間治療をされていても再発が少ない症例もあれば,来院するたびにステロイド治療を増強している症例もあった.また,有意差は認めなかったものの春と冬に再発がやや多い傾向があった.今回冬にも再発が多かった理由として,ADの合併が関係している可能性が考えられた.VKCはC20.50%にCADを合併していると報告されているが8),本研究におけるCAD合併率はC90.9%と高率であった.ADは冬に乾燥が契機となって悪化することが知られているため,冬にCADが悪化した影響でCVKCも再発した可能性が考えられた.しかし,今回の検討ではCADの増悪の時期についての検討はしていないため,今後の課題としたい.なお,今回の結果は未治癒例のCVKCについてのものであり,VKC全体としての季節性を検討したものでないことに注意が必要である.ADを伴うCVKCの一部は,思春期までに治癒することなく,そのままアトピー性角結膜炎(atopicCkeratoconjunctivi-tis:AKC)に移行することがあるという報告がある9,10).AKCは顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜炎であり,結膜の線維化,角膜の新生血管・混濁を伴うことが多い.AKCには結膜の増殖性変化がみられるものもあるが,それらのない非増殖性のものも含まれる1).また,AKCは思春期前に診断されることは一般的でなく,成人に発症すると考えられているが10),Fujitaらが報告したCVKC41症例のクラスター分析では,ADの存在がVKCの臨床経過に影響を与えることが示唆されており,「思春期発症型CAKC」として分類された.このCVKCは発症がC9歳頃であり,ADの合併率もC71%と高く,治癒傾向が低い傾向にあり,このグループが成人のCAKCへ移行すると考えられた11).本研究も発症年齢が高く,長期間治療を行っており,臨床スコアは改善したものの,9例は免疫抑制点眼を中止する治癒にまで至らずCAKCに移行したと考えられた.一方,年少者であってもCAKCを罹患するという報告もある12).年少者でCVKCと診断された症例の中にはCAKCの患者も含まれる可能性があり,とくにCADを合併している症例には注意が必要である.本研究では治療として,免疫抑制点眼薬のほかに抗アレルギー点眼の併用がC93.3%と多かった.結膜巨大乳頭や角膜所見が増悪する際はステロイドの使用も追加しており,ステロイド眼瞼皮下注射がC11症例中C7症例と多く,症例によっては複数回注射を施行していた.ステロイド内服による全身投与よりもステロイド眼瞼皮下注射の方が多かった理由としては,注射のほうが全身的な副作用を軽減できることに加え,高年齢になると外来で注射が可能となることがあげられる.最終再発時年齢を早い群と遅い群に分けて比較した際に,遅い群の再発回数が多かった理由ははっきりしなかったが,眼瞼皮下注射の回数が多かった理由は,再発時に注射をメインで施行する傾向にあったことが大きな要因であると考えられた.ステロイドを使用しなかったC2例はC16歳時点では治癒に至らなかったが,その後Cproactive療法を継続することでC19歳とC23歳時点で免疫抑制点眼を中止し治癒に至った症例であった.思春期の時点で治癒しなかったCVKCでも,proactive療法によって症状の改善が得られることがわかったが,長期化する要因にCADの合併が関与している可能性が示唆された.今後さらに症例を積み重ね,VKC再発とCAD活動性の時期との相関やほかの要因がないか検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-785,C20212)森貴之,川村朋子,佐伯有祐ほか:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬を用いたCproactive療法の治療成績.あたらしい眼科35:243-246,C20183)ShimokawaCA,CIkedaCA,CHaradaCKCetal:Long-termCobservationCofCprognosticCfactorsCandCclinicalCoutcomeCofCvernalCkeratoconjunctivitisCinCchildhood.CClinCOphthalmolC18:2339-2347,C20244)海老原伸行:我が国における免疫抑制薬点眼液による重症アレルギー性結膜疾患の治療.アレルギーC70:942-947,C20215)LeonardiA,LazzariniD,MotterleLetal:Vernalkerato-conjunctivitis-likeCdiseaseCinCadults.CAmCJCOphthalmolC155:796-803,C20136)三島彩加,佐伯有祐,内尾英一:春季カタルにおける長期予後の解析.あたらしい眼科C36:111-114,C20197)VillegasBV,Benitez-Del-CastilloJM:CurrentknowledgeinCallergicCconjunctivitis.CTurkCJCOphthalmolC51:45-54,C20218)ZazzoCAD,CBoniniCS,CFernandesM:AdultCvernalCkerato-conjunctivitis.CurrOpinAllergyClinImmunolC20:501-506,C20209)JongvanitpakCR,CVichyanondCP,CJirapongsananurukCOCetal:ClinicalcharacteristicsandoutcomesofocularallergyinCThaiCchildren.CAsianCPacCJCAllergyCImmunolC40:407-413,C202210)Bremond-GignacD,DonadieuJ,LeonardiAetal:Preva-lenceCofCvernalkeratoconjunctivitis:aCrareCdisease?CBrJOphthalmolC92:1097-1102,C200811)FujitaCH,CUenoCT,CSuzukiCSCetal:Classi.cationCofCsub-typesCofCvernalCkeratoconjunctivitisCbyCclusterCanalysisCbasedConCclinicalCfeatures.CClinCOphthalmolC17:3271-3279,C202312)EbiharaN,OhashiY,UchioEetal:AlargeprospectiveobservationalCstudyCofCnovelCcyclosporine0.1%CaqueousCophthalmicCsolutionCinCtheCtreatmentCofCsevereCallergicCconjunctivitis.JOculPharmacolTherC25:365-372,C2009***