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関節リウマチ治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎の1例

2019年5月31日 金曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(5):677.679,2019c関節リウマチ治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎の1例阿部駿廣瀬尊郎後藤浩東京医科大学眼科学分野CACaseofFungalScleritisandEndophthalmitisinaPatientReceivingRheumatoidArthritisTreatmentShunAbe,TakaoHiroseandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversitySchoolofMedicineC目的:関節リウマチに対する治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎のC1例を報告する.症例:症例はC73歳の女性で,近医で右眼のぶどう膜強膜炎と診断され,ステロイドの局所投与と内服による治療が行われたが改善なく,硝子体混濁が出現,さらに前部強膜の炎症を伴った腫瘤の形成がみられたため当院へ紹介となった.結節性強膜炎の診断のもとシクロスポリン内服を追加したが改善が得られず,診断目的に強膜生検を施行した.球結膜下膿瘍の塗抹検鏡では病原微生物は検出されなかったが,カンジダ寒天培地で酵母が分離され,術中に採取した前房水CPCRではCCandidaalbicansが検出された.真菌性眼内炎および強膜炎と診断し,抗真菌薬による治療を行ったところ,炎症所見は改善していった.結語:ステロイド治療に抵抗する強膜炎では,真菌感染を念頭に置く必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCfungalCscleritisCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritis.CCase:AC73-year-oldCfemalewasdiagnosedwithuveoscleritisinherrighteye.Despitesystemicandtopicalcorticosteroidtherapy,therewasCnoCimprovement.CSheCwasCreferredCtoCourChospitalCforCvitreousCopacityCandCfocalCmassCwithCin.ammationCobservedintheanteriorsclera.Oraladministrationofcyclosporinewasnote.ective.Scleralbiopsywasthenper-formedandpuswasobtainedunderneaththebulbarconjunctiva.Althoughsmeartestingofthepuswasnegative,fungusCwasCpositiveCinCculture.CAtCtheCsameCtime,CCandidaCalbicansCwasCdetectedCfromCaqueousChumorCbyCPCR.CAfterCsystemicCandCtopicalCantifungalCtreatment,CtheCscleritisCandCintraocularCin.ammationCresolved.CConclusion:CInfectiousscleritisincludingfungalinfectionshouldbeconsideredwhenevercorticosteroidtherapyisine.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(5):677.679,C2019〕Keywords:真菌性強膜炎,関節リウマチ,ステロイド.fungalscleritis,rheumatoidarthritis,corticosteroid.はじめに一般的に感染性強膜炎の診断は容易でなく,しばしば診断の確定に時間を要する1).なかでも真菌性強膜炎は比較的まれな疾患であり,治療にも難渋することが多いとされている2,3).今回筆者らは,関節リウマチに対して治療中の免疫不全状態にあったと思われる症例に生じた真菌性強膜炎および眼内炎のC1例を経験したので報告する.I症例患者:73歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:関節リウマチに対してメトトレキサートを内服中である.6年前に両眼の白内障手術が施行されている.現病歴:右眼の霧視を主訴に近医眼科を受診し,右眼のぶどう膜強膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼および結膜下注射,プレドニゾロンの内服治療が行われたが改善なく,その後は徐々に硝子体混濁が出現し,さらに強膜に限局性の炎〔別刷請求先〕阿部駿:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学眼科学講座Reprintrequests:ShunAbe,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C677図1当院初診時の右眼前眼部所見上耳側に腫瘤形成を伴う強膜炎がみられる.図2初診から2週後の右眼前眼部所見強膜の炎症とともに腫瘤はやや増大し,やや黄褐色の色調を呈している.図3抗真菌療法に変更した後の右眼前眼部所見(初診から2カ月後)強膜炎は軽快し,初診時からみられた隆起性病変も平坦化した.症を伴った腫瘤の形成もみられるようになり,眼内腫瘍の可能性も疑われたため東京医科大学病院眼科(以下,当院)へ紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼C0.01(矯正不能),左眼C0.15(0.8C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx85°),眼圧は右眼13mmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部は前房内に中等度の炎症細胞浮遊,ごくわずかな前房蓄膿のほか,上耳側に限局性の強膜充血を伴った隆起性病変を認めた(図1).眼底は硝子体混濁のため透見不能であった.左眼の前眼部および眼底に異常はなかった.経過:白内障手術からすでにC6年が経過していること,もともと関節リウマチに罹患し,治療中であったことから,リウマチに関連した結節性強膜炎の可能性を考慮し,前医からのステロイド内服(プレドニゾロンC30Cmg/日)およびステロイド薬点眼治療(ベタメタゾン点眼)に加え,免疫抑制薬であるシクロスポリンの内服をC3Cmg/kgの容量で追加した.しかし,強膜炎症状は軽快せず,腫瘤もわずかに増大傾向を示したため(図2),初診からC1カ月後に診断の確定を目的と678あたらしい眼科Vol.36,No.5,2019(108)して経結膜的生検を計画した.生検時,球結膜に切開を加えたところ黄白色の膿が現れたため,これを吸引および綿棒で回収して検体として諸検査を行った.その結果,グラム染色では多数の好中球やマクロファージが確認されたが,グロコット染色,PAS染色,さらに抗酸菌染色では病原微生物は検出されなかった.一方,菌種の同定はできなかったが,カンジダ寒天培地で酵母が分離された.また,生検施行時に採取した前房水でCPCRを行ったところ,CandidaCalbicansのCDNAが検出された.なお,これらの検査結果をもとに検索した血清Cb-Dグルカンは陰性であった.以上の検査結果から真菌性強膜炎および眼内炎と診断し,シクロスポリンの内服をただちに中止,また通院中のリウマチ膠原病内科と相談のうえ,メトトレキサートの内服も中止とした.眼病変に対して新たにピマリシン点眼(8回/日),ボリコナゾール点滴静注〔160CmgC×2/日(初日のみC200CmgC×2/日)〕,アムホテリシンCB硝子体内注射(5Cμg)を計2回施行したところ,強膜炎と硝子体混濁は徐々に改善し,強膜にみられた腫瘤も平坦化していった(図3).最終的には強膜に限局性の菲薄化をきたしたが,矯正視力はC0.4まで回復した.その後,強膜炎の再燃はないものの,眼内炎は遷延し,抗真菌薬の減量のたびに硝子体混濁の再燃がみられた.残存した硝子体混濁に対して,初診からC4カ月後に硝子体手術を施行した.術中採取した硝子体液の培養は陰性だった.術後はしばらく炎症の再燃を繰り返したが,当院初診からC13カ月経過した現在はすべての薬物療法を中止しているが,炎症の再燃はみられていない.CII考按真菌性強膜炎はまれな疾患であるが,免疫不全状態にある症例では,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者におけるCCandidaalbicansによる感染例4)や,糖尿病患者におけるFusariumによる強膜炎の報告1)がみられる.白内障術後の真菌性強角膜炎患者C7名中C6名が糖尿病に罹患していたとの報告5)もある.免疫健常者における真菌性強膜炎はさらにまれであるが,白内障術後のCAspergillusによる感染例などが複数報告されている6,7).今回の症例では,関節リウマチに対して長期にわたってメトトレキサートによる治療が行われていた.前医あるいは当院でも全身の免疫状態に関する検査は行っていないため詳細は不明であるが,感染症を生じやすい免疫抑制状態にあった可能性は十分に考えられる.本症例における真菌感染の成立機序であるが,発症初期の眼所見が不明のため断定はできないが,全身状態は良好で血清Cb-Dグルカンは陰性も陰性であったことから,内因性の真菌性眼内炎が先行し,その後に強膜炎が発症した可能性は低いと思われた.前医では当初,眼内の透見は良好であったことからも,本症例ではまず強膜に真菌感染が生じ,その後(109)に眼内へと炎症が波及したものと推察される.真菌が強膜や角膜に感染した場合,その局在は組織の深層にあることが多く,抗真菌薬は病巣へ到達しづらいため治療に難渋することが知られている2).白内障術後に生じた強膜炎の既報においても,擦過培養検査では何ら検出されなかったものの,強膜生検ではじめて真菌が検出された症例や,白内障術後の角膜炎発症例では角膜生検や前房水検査によってはじめて真菌が検出された報告がある5).本症例では結膜下の膿瘍を用いた培養で菌種の同定はできなかったが,酵母が分離された.また,眼内炎を併発していたことから,強膜生検施行時に前房水を用いたCPCRを行い,検査施行後まもなくCCandidaalbicansのCDNAが検出され,その後の治療の変更につなげることができた.前房蓄膿は非感染性の眼内炎症でもみられることはあるが,原因としてはやはり感染を第一に疑う必要があり8),本症例の場合も,もう少し早い段階で感染症の可能性を考慮すべきであったと思われる.今回経験した症例から,関節リウマチなどの背景があったとしても,安易に非感染性,自己免疫性の強膜炎と診断するのではなく,ステロイドによる治療が奏効しない場合,さらには免疫抑制状態にあると考えられる症例では,原因として真菌を含めた感染性強膜炎の可能性を考慮する必要があることを改めて認識させられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JeangLJ,DavisA,MadowBetal:Occultfungalscleritis.OculOncolPatholC3:41-44,C20172)Rodriguez-AresMT,DeRojasSilvaMV,PereiroMetal:CAspergillusCfumigatusCscleritis.CActaCOphthalmolCScandC73:467-469,C19953)加治優一:真菌性強膜炎.眼科60:693-697,C20184)SharmaCH,CSudharshanCS,CThereseCLCetal:CandidaCalbi-cansscleralabscessinaHIV-positivepatientanditssuc-cessfulCresolutionCwithCantifungalCtherapy─aC.rstCcaseCreport.JOphthalmicIn.ammInfectC6:24,C20165)GargCP,CMaheshCS,CBansalCAKCetal:FungalCinfectionCofCsuturelessCself-sealingCincisionCforCcataractCsurgery.COph-thalmologyC110:2173-2177,C20036)CarlsonAN,FoulksGN,PerfectJRetal:Fungalscleritisaftercataractsurgery.CorneaC11:151-154,C19927)BernauerW,AllanBD,DartJKetal:Successfulmanage-mentofAspergillusscleritisbymedicalandsurgicaltreat-ment.CEyeC12:311-316,C19988)DoshiRR,HarocoposGJ,SchwabIRetal:ThespectrumofCpostoperativeCscleralCnecrosis.CSurvCOphthalmolC58:C620-623,C2013あたらしい眼科Vol.36,No.5,2019C679