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輪部型春季カタルの臨床所見に関する解析

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1202.1205,2025c輪部型春季カタルの臨床所見に関する解析田野貴実子池田文原田一宏内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofClinicalFindingsofLimbalVernalKeratoconjunctivitisKimikoTano,Ayaikeda,KazuhiroharadaandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:輪部型春季カタル(VKC)の臨床所見の解析.対象および方法:2010年C6月.2023年C4月に,福岡大学病院眼科にてCVKCと診断され,角膜輪部所見を認めたC11例(男性C7例,女性C4例)21眼を対象とし,診療録をもとに解析した.臨床所見は,アレルギー性結膜疾患ガイドラインの臨床評価基準の重症度でC0-3点にスコア化した.結果:輪部型CVKCの女性患者はC36%を占めていた.21眼中C3眼は混合型であった(11例中C2例).11例中C8例は全身性アレルギー疾患を合併していた.初診時平均年齢C12.3±22.7歳.初診時視力(logMAR)は.0.08±0.27.初診時臨床所見のスコアは,輪部腫脹C2.00±0.76点,Trantas斑C0.81±0.91点,治療後は,輪部腫脹C0.21±0.41点,Trantas斑C0.05C±0.22点で改善を認めていた.初回治療はタクロリムス点眼薬単剤がC5例,タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC4例,シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC2例であった.結論:眼瞼型に比べ女性の割合が高かった.全身性アレルギー疾患を有する割合が高かった.全例免疫抑制点眼薬の使用により改善が得られ,輪部型VKCの治療反応性は眼瞼型のCVKCと同様に良好だった.CPurpose:Toanalyzetheclinical.ndingsoflimbalvernalkeratoconjunctivitis(VKC).Patientsandmethods:CWeretrospectiveanalyzedthemedicalrecordsof21eyesof11patients(7males,4females)withVKCandcorne-allimbal.ndingsseenatFukuokaUniversityHospitalbetweenJune2010andApril2023.Clinical.ndingswerescoredfrom0to3accordingtheAllergicConjunctivalDiseaseGuidelines.Results:OfthelimbalVKCcases,36%werefemale.Ofthe21treatedeyes,3(n=2cases)wereofmixed-typeVKC.Ofthe11cases,8(82%)hadsys-temicallergicdiseases.Atbaseline,meanpatientagewas12.3±22.7yearsandmeanvisualacuity(logMAR)was.0.08±0.27.CTheCmeanCpre-andCpost-treatmentCclinicalCscoresCforClimbalCswellingCandCHorner-TrantasCdots,Crespectively,were2.00±0.76CandC0.21±0.41,CandC0.81±0.91CandC0.05±0.22.Initialtreatmentconsistedoftacrolim-useyedropsalonein5cases,acombinationoftacrolimuseyedropsandanti-allergyeyedropsin4cases,andacombinationCofCcyclosporineCeyeCdropsCandCanti-allergyCeyeCdropsCinC2Ccases.CConclusion:TheCproportionCofCfemaleswashigherinlimbal-typeVKCthanintarsal-typeVKC.Thepercentageofpatientswithsystemicallergicdiseaseswashigh.Immunosuppressanteyedropse.ectivelyalleviatedsymptomsinallcases,includingthelimbalVKCcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(9):1202.1205,C2025〕Keywords:春季カタル,輪部型春季カタル,アレルギー性結膜炎,タクロリムス点眼液.vernalCkeratoconjuncti-vitis,limbalvernalkeratoconjunctivitis,allergicconjunctivitis,tacrolimus.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期の男児に多く発症し,しばしば寛解・増悪を繰り返す重症アレルギー性結膜疾患の一つである.病型は眼瞼の巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型,眼瞼型と輪部型の所見の両方の所見を認める混合型に大別される.治療は抗アレルギー薬点眼が主であるが,中等症以上では免疫抑制点眼薬を,重症例に対してはステロイド点眼薬の投与や内服・瞼結膜下注射,外科的治療などが考慮される1).〔別刷請求先〕田野貴実子:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KimikoTano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC1202(122)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(122)C12020910-1810/25/\100/頁/JCOPY輪部型CVKCは熱帯地域では多いが,わが国では少なく,輪部型CVKCに関する報告も少ない.今回,福岡大学病院眼科(以下,当院)で経験した輪部型CVKCの臨床所見,治療内容,反応性について解析したので報告する.CI対象と方法2010年C6月.2023年C4月に,当院を受診してCVKCと診断され,特徴的な角膜輪部所見を認めたC11例C21眼(男性C7例,女性C4例)を対象とし,診療録をもとに後方視的に解析した.初診時臨床所見は,アレルギー性結膜疾患ガイドライン(第3版)1)の臨床評価基準の重症度をもとに,所見なし,軽度,中等度,高度のC4段階に分類しC0.3点にスコア化した(表1).治療後臨床所見はC2023年C7月時点でもっとも直近の診療録をもとに解析した.治療前後のCTrantas斑,輪部腫脹のスコアをCWilcoxson符号順位和検定で解析した.また,VKCの治療内容についても解析を行った.眼圧の平均と臨床スコアの解析は,年少かつ診察困難で初診時眼圧と再診時臨床所見が不明な症例を除外し,10例C19眼で行った.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C7例(64%),女性C4例(36%)であった.病型は輪部型がC18眼(86%)で混合型がC3眼(14%)であり,輪部型単独例が大部分を占めた(図1).初診時平均年齢C12.3±22.7歳と学童期に多かったが,18歳以上の成人もC2例含まれていた.全身アレルギー疾患の合併はアトピー性皮膚炎と喘息両方の合併がC2例,アトピー性皮膚炎単独の合併例がC6例,喘息単独の合併例がC1例であり,全体のC82%が全身性アレルギー疾患を合併する結果となった(図2).初診の月は春(3.5月)がC2例,夏(6.8月)がC4例,秋(9.11月)がC0例,冬(12.2月)がC5例と,冬がもっとも多かった.観察期間はC1週間からC105カ月であり,中央値はC6カ月であった.21眼の初診時平均視力(logMAR)はC.0.08±0.27と視力良好であり,19眼の初診時平均眼圧はC13C±3CmmHgと正常範囲内であった.初診時臨床所見の平均スコアは,輪部腫脹C2.00C±0.76点,Trantas斑C0.81C±0.91点,治療後臨床所見の平均スコアは,輪部腫脹C0.21C±0.41点,Trantas斑C0.05C±0.22点と大幅な改善がみられた(図3).治療前後のCTrantas斑,輪部腫脹のスコアをCWilcoxson符号順位和検定で解析したところ,ともにp<0.05と統計学的に有意差を認めた.当院受診後の初回治療は全例で免疫抑制点眼薬を使用し,前医でステロイド点眼薬を使用していた症例は中止とした.タクロリムス点眼薬単剤での治療例がC5例(46%),タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用例がC4例(36%),シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用例がC2例(18%)であった(図4).再発または増悪をきたした症例はC11例中C4例あり,そのうちC2例は初回治療をシクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬を併用した症例であった.このC2例に関してはシクロスポリン点眼薬をタクロリムス点眼薬に変更し,再発症例C4例中C3例はステロイド点眼薬または軟膏を追加し軽快が得られた.CIII考按本研究の全症例は難治例として当院へ紹介されたが,免疫抑制点眼薬の使用により全例で臨床所見スコアの改善が得られ,軽快した.Stefanらの報告2)では,ルワンダにおけるVKC患者C366例中C91.5%が輪部型のCVKCであり,輪部型VKCに対する免疫抑制点眼薬はステロイド点眼による治療と比較して有意差はなく,ともに臨床所見,視力の改善を認めたと報告した.当院でも輪部型CVKCに対する免疫抑制点眼薬の効果は良好であり,輪部型CVKCの治療反応性は眼瞼型のCVKCと同様にC3.6)良好といえる.VKCの輪部型は男女同数程度であるといった報告7)もある.本報告でも男女比はC7:4であり,当院での眼瞼型CVKCクラスター解析8)の男女比C35:6に比べて女性の割合が高い結果となった.わが国では近年,地球温暖化に伴い亜熱帯化が進んできている.わが国においても今後は輪部型CVKCの症例数,女性のCVKC症例数が増加をきたす可能性が示唆される.また,輪部型病変単独の患者はC21眼中C18眼と多くを占め,混合型は少数だった.混合型も含め,全例で中.高度の角膜障害は認めなかった.患者は初診時から良好な視力を保っていたが,落屑様点状表層角膜炎やシールド潰瘍,角膜瘢痕等の角膜障害を認めなかったことによると考える9).角膜輪部は解剖学的に房水の産生や循環経路の近傍に存在するが,初診時より眼圧は全例で正常範囲内であった.本報告では全身性アレルギー疾患の合併がC82%と高い割合だった.輪部型CVKCの多い熱帯地方ではやはり全身アレルギー疾患の合併例が多数を占めるという報告もあれば,5%程度と関連性は低いといった報告も散見され7,9.11),コンセンサスは得られていない.日本と同じく温帯地方に位置するイタリアの報告では,VKCのうちC53.8%が輪部型であり,全体のC48.7%が全身アレルギー疾患を合併していた12).温帯地方では熱帯地方と異なり,同じ輪部型でも全身性アレルギー疾患とのかかわりが強い可能性があると考えられる.少なくともわが国においては,どの型のCVKCであったとしても全身性アレルギー性疾患の合併は多数であると著者らは考えている.(123)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C1203表1臨床所見重症度スコア点数輪部腫脹Trantas斑C0所見なし所見なしC1範囲がC1/3周未満1.C4個C2範囲がC1/3周以上,2C/3周未満5.C8個C3範囲がC2/3周以上9個以上混合型なし18%14%アトピー性皮膚炎+喘息18%喘息9%アトピー性皮膚炎輪部型55%86%アトピー性皮膚炎+喘息アトピー性皮膚炎喘息なし輪部型混合型図1VKCの病型内訳図2輪部型VKC患者の全身アレルギー疾患内訳輪部型がC18眼(86%),混合型がC3眼(14%)であった.全身アレルギー疾患の合併はアトピー性皮膚炎と喘息両方の合併がC2例,アトピー性皮膚炎単独の合併がC6例,喘息単独の合併がC1例であった.C20181614121086420輪部腫脹治療前輪部腫脹治療後Trantas斑治療前Trantas斑治療後3点2点1点0点図3治療前後の輪部所見スコアグラフの縦軸は症例数(眼)であり,治療前後で輪部腫脹・Trantas斑ともにスコアの改善がみられた.また,ルワンダの報告13)では輪部型CVKCの全例に角膜輪示唆されている.インドの熱帯地方の報告11)では患者の発部濾胞に加えて輪部色素沈着を認めたが,当院では輪部色素生率がもっとも高かったのは乾季のC5月であった.本報告で沈着を認めた症例はなかった.人種的な背景の違いが推測さは,日本の高温多湿な時期にあたるC6.9月を雨季,それ以れる.外のC10.5月を乾季とすると,乾季での当院の初診患者はTuftらの報告7)では熱帯地方のCVKCと乾季との関連性が11人中C7人であることを考えると,わが国においても輪部(124)シクロスポリン点眼薬+抗アレルギー点眼薬18%タクロリムス点眼薬+抗アレルギー点眼薬36%タクロリムス点眼薬単剤タクロリムス点眼薬+抗アレルギー点眼薬図4初回治療内訳タクロリムス点眼薬単剤46%シクロスポリン点眼薬+抗アレルギー点眼薬当院受診後の初回治療は,タクロリムス点眼薬単剤での治療がC5例(46%),タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC4例(36%),シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC2例(18%)であった.型のCVKCは乾季に発生しやすい可能性が示唆される.春季カタルはその名のとおり春に増悪することが多い疾患であることが知られる.春での増悪がもっとも多かったため,上記の結果になったと推論もできるが,本報告では初診がC3.5月であった患者は2人にとどまり,12.2月の冬がC5人と最多であった.クリニックでの治療が奏効せず当院へと紹介となったため,初診の時期がずれ込んだ可能性がある.以上より,輪部型CVKCの免疫抑制点眼薬の治療反応性は良好であったが,男女比率や季節性は眼瞼型と輪部型で異なる病態を示す可能性がある.また,同じ輪部型でも熱帯地方と温帯地方では臨床像が異なることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮崎大,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-778,C20212)DeSmedtS,NkurikiyeJ,FonteyneYetal:Topicalciclo-sporinCinCtheCtreatmentCofCvernalCkeratoconjunctivitisCinCRwanda,CCentralAfrica:aCprospective,Crandomized,Cdou-ble-masked,controlledclinicaltrial.BrJOphthalmolC96:C323-328,C20123)三島彩加,佐伯有祐,内尾英一:春季カタルにおける長期予後の解析.あたらしい眼科36:111-114,C20194)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmic(125)suspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20105)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対するC0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C20136)品川真有子,南場研一,北市伸義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼71:343-348,C20177)TuftCSJ,CCreeCIA,CWoodsCMCetal:LimbalCvernalCkerato-conjunctivitisCinCtheCtropics.COphthalmologyC105:1489-1493,C19988)FujitaCH,CUenoCT,CUchioCECetal:Classi.cationCofCSub-typesCofCVernalCKeratoconjunctivitisCbyCClusterCAnalysisCBasedConCClinicalCFeatures.CClinCOphthalmolC17:3271-3279,C20239)ArifAS,AaqilB,SiddiquiAetal:CornealcomplicationsandCvisualCimpairmentCinCvernalCkeratoconjunctivitisCpatients.JAyubMedCollAbbottabadC29:58-60,C201710)UkponmwanCU:VernalconjunctivitisinNigerians:109consecutivecases.TropDoctC33:242-245,C200311)SabooUS,JainM,ReddyJCetal:Demographicandclini-calCpro.leCofCvernalCkeratoconjunctivitisCatCaCtertiaryCeyeCcareCcenterCinCIndia.CIndianCJCOphthalmolC61:486-489,C201312)LambiaseCA,CMinchiottiCS,CLeonardiCACetal:Prospective,CmulticenterCdemographicCandCepidemiologicalCstudyConCvernalkeratoconjunctivitis:ACglimpseCofCocularCsurfaceCinCItalianCpopulation.COphthalmicCEpidemiolC16:38-41,C200913)DeCSmedtCSK,CNkurikiyeCJ,CFonteyneCYSCetal:VernalkeratoconjunctivitisinschoolchildreninRwanda:clinicalpresentation,CimpactConCschoolCattendance,CandCaccessCtoCmedicalcare.OphthalmologyC119:1766-1772,C2012あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C1205