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オルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じた1例

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):555.559,2017cオルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じた1例三田村浩人市橋慶之内野裕一川北哲也榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室ACaseofBilateralAcanthamoebaKeratitisRelatedtoOrthokeratologyLensesHirotoMitamura,YoshiyukiIchihashi,YuichiUchino,TetsuyaKawakita,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineオルソケラトロジーレンズを使用中に両眼のアカントアメーバ角膜炎を生じた1例を経験したので報告する.アカントアメーバ角膜炎は治療抵抗性であり失明に至ることもある重篤な感染症である.症例は13歳,女性.近医Aでオルソケラトロジーレンズ(オサート)を使用,日中は追加矯正のため1日交換型ソフトコンタクトレンズを使用していた.両眼の充血・羞明を自覚,近医Bを受診し両眼ヘルペス角膜炎の診断で治療受けるも改善せず,近医Cを受診し両眼アカントアメーバ角膜炎の疑いで当科紹介となった.放射状角膜神経炎を認め,矯正視力右眼(1.0),左眼(0.9p).角膜上皮.爬物とレンズケースから培養にてアカントアメーバ陽性であった.治療開始後一時的に,矯正視力右眼(0.5),左眼(0.01)まで低下したが,10カ月経過した時点で両眼ともに矯正視力(1.2)まで回復した.レンズ処方にはガイドラインの遵守,適切なケアの周知が必要である.両眼発症の可能性を減らすにはポビドンヨードの使用,左右分離型のケースなどが考えられる.Wedescribeapatientwhosu.eredbilateralAcanthamoebakeratitiswhileusingorthokeratologylenses.The13-year-oldfemalehadbeenprescribedwithorthokeratologylenses(OSEIRT)atanearbyclinic(A).Shealsouseddailydisposablesoftcontactlensesduringtheday,foradditionalvisualacuitycorrection.Shedevelopedhyperemiaandphotophobiainbotheyesandvisitedanotherclinic(B).Shewasdiagnosedwithbilateralherpeskeratitisandreceivedtreatment,buttherewasnoimprovement.ShethenvisitedhospitalCandwasreferredtoourdepartmentforsuspectedbilateralAcanthamoebakeratitis.CulturesfromcornealcurettageandhercontactlenscasewerepositiveforAcanthamoeba.Sincethelenscasewasaone-unitcasewithoutleftandrightsepara-tion,Acanthamoebakeratitismayhavedevelopedinbotheyesmediatedbythecaseandthestoragesolution.Theuseofpovidone-iodineandalenscasewithseparateleftandrightcompartmentsmayreducethepossibilityofbilateralinvolvement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):555.559,2017〕Keywords:アカントアメーバ,角膜炎,オルソケラトロジー,コンタクトレンズ.Acanthamoeba,keratitis,or-thokeratology,contactlens.はじめにオルソケラトロジーレンズとは,就寝中のみに装用して角膜形状を変化させることで,日中の裸眼視力の向上を目的にしたリバースジオメトリーとよばれる,特殊なデザインをもつハードコンタクトレンズである1).とくにリバースカーブとよばれる部分は,1mm程度の狭い溝構造となっており,通常のこすり洗いでも汚れが落ちにくいといわれている.睡眠時装用による涙液交換の低下,角膜酸素不足による上皮細胞のバリア機能の障害なども感染症のリスクになりうると考えられている2.4).現在の日本でおもに流通しているのは,医薬品医療機器総合機構(PMDA)の認可を受けたaオルソK,マイエメラルド,ブレスオーコレクトなどがあるが,本症例で使用されていたオサートのようにPDMA未認可のものもある.〔別刷請求先〕三田村浩人:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirotoMitamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアカントアメーバ角膜炎は,われわれの周辺環境の至る所に生息する原虫であるアカントアメーバが原因で発症する.アカントアメーバ角膜炎は進行するときわめて難治であり,高度の視力障害をきたす例も少なくない5).アカントアメーバは栄養体とシストの2つの形態があり,生育条件が悪化するとシスト化し,さまざまな薬物治療に抵抗する6).アカントアメーバ角膜炎は1974年に英国で初めて報告され7),日本では1988年に石橋らが初めて報告した8).米国では2004年以降急激な増加が指摘され9),わが国でも同様に今世紀に入ってから増加傾向にあり10),近年ではオルソケラトロジーレンズ装用者で報告され始めている11,12).今回筆者らは,オルソケラトロジーレンズ使用中に両眼アカントアメーバ角膜炎を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:13歳,女性.主訴:両眼)視力低下,充血,眼痛.現病歴:近医Aでオルソケラトロジーレンズ(オサート)を8カ月ほど前から使用開始し,日中は追加矯正のため1日交換型のソフトコンタクトレンズを使用していた.2015年11月,両眼の充血と羞明を自覚し,近医Aが休日であったaため症状出現2日後に近医Bを受診,両眼のヘルペス角膜炎の診断を受けた.アシクロビル眼軟膏,モキシフロキサシン点眼液,プラノプロフェン点眼液,フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム点眼液による治療が開始され通院するも症状が改善せず,近医Aでもヘルペスの治療を継続するよう指示されたため,症状出現8日後に近医Cを受診したところ放射状角膜神経炎を認め,アカントアメーバ角膜炎の疑いで同日当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.2(1.0×sph.3.75D(cyl.2.50DAx25°),左眼0.5(0.9p×sph.1.75D(cyl.3.00DAx20°).細隙灯顕微鏡では両眼ともに充血と輪部結膜の腫脹,特徴的な放射状角膜神経炎,点状表層角膜症,角膜上皮欠損,角膜混濁を認めた(図1,2).前眼部OCT(CASIA)では,両眼ともに角膜全体に軽度の浮腫を認め,上皮下を中心に,軽度の角膜混濁が出現していた.生体共焦点顕微鏡(HRT-II)では,両眼ともに角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる,白血球(10.15μm)よりも少し大きな直径15.25μmの高輝度な円形構造物を多数認めた(図3,4).塗抹検査ではグラム染色とファンギフローラY染色を施行するもアメーバのシストは陰性であったが,培養では右眼の角膜擦過物から3日後に栄養体が検出され,アメーバ陽bc図1初診時右眼前眼部写真a:充血と輪部結膜の腫脹.b:特徴的な放射状角膜神経炎(強膜散乱法).c:点状表層角膜症,偽樹枝状の角膜上皮欠損(フルオレセイン染色).ab図2初診時左眼前眼部写真a:充血と輪部結膜の腫脹.b:特徴的な放射状角膜神経炎,左眼と比べて瞳孔領にも角膜混濁が強い(強膜散乱法).c:点状表層角膜症,偽樹枝状の角膜上皮欠損(フルオレセイン染色).図3初診時右眼画像検査写真a:角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる直径15.25μmの高輝度な円形構造物を認める(.,生体共焦点顕微鏡HRT-II).Scalebar:50μm.b:角膜全体に軽度の浮腫を認め,不正乱視を認める(CASIA).c:上皮下を中心とした軽度の角膜混濁を認める(CASIA).図4初診時左眼画像検査写真a:右眼と同様に角膜上皮内にアカントアメーバのシストと思われる直径15.25μmの高輝度な円形構造物を認める(.,生体共焦点顕微鏡HRT-II).Scalebar:50μm.b:右眼よりやや強い角膜全体に軽度の浮腫を認め,不正乱視を認める(CASIA).c:右眼より明確な上皮下を中心とした軽度の角膜混濁を認める(CASIA).図5レンズケースa:別のメーカの一体型レンズケース(完全貫通型とクロスタイプ).b:分離型ケース.図6両眼の前眼部写真と画像検査写真(治療開始後7カ月)a:角膜混濁は4時に軽度認めるのみとなっている(右眼).b:不正乱視が大幅に改善した(右眼CASIA).c:角膜厚は正常にまで改善した(右眼CASIA).d:瞳孔領に角膜混濁がまだ残存している(左眼).e:不正乱視が大幅に改善したものの軽度残存している(左眼CASIA).f:角膜厚は改善してきたが不均一な部分を認める(左眼CASIA).性が確認された.また,左眼の培養は陰性であったものの,レンズケースの保存液からもアメーバが培養で陽性であった.レンズケースからは他にChryseobacteriummeningos-peticum,Stenotrophomonasmaltophilia,Acinetobacterlwo.i,nonfermentativeG-neg.rodsが陽性であったが,いずれもニューキノロン系抗菌薬に感受性を認めた.使用していたケア用品はオフテクス社のバイオクレンエルI(液体酵素洗浄剤)とバイオクレンエルII(陰イオン界面活性剤),週1回のアクティバタブレットMini(蛋白分解酵素,脂肪分解酵素,非イオン界面活性剤,陰イオン界面活性剤)であった.本症例のレンズケースは培養に提出したため破棄されてしまい,また同メーカのものも,その後入手できなかったため図5aのケースは本症例のものではないが,写真のように左右のレンズが一体型でセットされ,保存液が両側にいきわたる構造であった.経過:通院治療にて週2回の病巣.爬と,レボフロキサシン点眼液1日6回,自家調剤した0.02%クロルヘキシジン点眼液1時間毎,ボリコナゾール点眼液1時間毎,ピマリシン眼軟膏1日1回就寝前,イトリコナゾール内服を開始,治療開始4週後,角膜混濁の増悪と上皮不整などにより,矯正視力右眼0.5,左眼0.01まで低下したが,その後は徐々に改善を認めた.初診時から10カ月経過し両眼ともに軽度の角膜混濁を認めるものの,右眼は0.09(1.2×sph.5.75D(cyl.0.75DAx70°),左眼は0.15(1.2×sph.4.50D)まで改善した(図6).II考按本症例では当院初診の時点で患者本人も家族も適切にレンズケアをしていると認識していたが,後日詳細に尋ねると充血などの症状が出現する約1週間前に,保存液がなくレンズケースを水道水で保存したことが判明した.レンズケースの保存液からはアカントアメーバが培養検査にて陽性と判定とされ,ケースは左右一体型であったことから,水道水からアメーバが混入し,ケース・保存液・レンズを介して,両眼に発症した可能性も考えられた.その他の発症の要因としては日中も追加矯正のため1日交換型のソフトコンタクトレンズを使用していたため,涙液交換の低下・酸素不足により上皮バリア機能の低下がより促進された可能性がある.また,オサートRが強度近視への矯正も可能にするステップアップ形式とよばれる装用方法を採用しており,複数のレンズについて時期をずらして使い分ける必要があり,長期間保存液に入れたままのレンズを再度使用していたことなども原因となった可能性がある.Wattらによれば,オルソケラトロジーレンズによる感染性角膜潰瘍を発症した123例のうち緑膿菌が46例(38%),アカントアメーバが41例(33%)と2大原因とされている13).筆者らが文献を渉猟した限りでは,日本でのオルソケラトロジーレンズによるアカントアメーバ角膜炎の報告は片眼発症のみで11,12),両眼発症の報告は本症例が初めてであり,海外でも数例しか報告がない14,15).日本におけるオルソケラトロジーレンズによるアカントアメーバ角膜炎片眼発症の報告は,加藤らが11歳女児の症例を報告しており,初診時矯正視力(0.03)であったが,治療開始後8カ月で(1.0)まで改善している11).また,加治らは2例報告しており,17歳と18歳のいずれも女性であり初診時矯正視力は(0.1)と(0.2)であったが,治療後の矯正視力は2例ともに(1.2)まで改善している12).日本におけるオルソケラトロジーにおける感染発症率の報告としては,日本眼科医会が行った全国規模のアンケート調査があり,具体的な菌種などは不明であるが感染性角膜潰瘍を7.7%の施設が経験している16).一方で平岡らのaオルソKR3年間のオルソケラトロジー使用成績調査69例136眼(8施設)では感染症の発症はないことから,レンズの種類や指導を行う施設によって発症率に差があると思われる17).オルソケラトロジーレンズ使用を起因とする眼感染症を未然に防ぐためには,適応度数を超えた無理な矯正はレンズのベースカーブ部を過度にフラットなフィッティングにさせることとなり角膜中央部へのびらんを生じやすいことからも18),2009年に日本コンタクトレンズ学会が作成したオルソケラトロジー・ガイドライン(以下,ガイドライン)1)に提示されている基準以上の近視にはレンズを処方しないなどのガイドラインの遵守が重要である.一方で,日本のガイドラインでは20歳以上の処方を原則としているが,本症例を含めて日本眼科医会のアンケート調査では20歳未満への処方が66.8%行われているのが実情である15).ガイドラインを逸脱して処方する場合は,より慎重なインフォームド・コンセントが求められる.さらにCopeら19)が報告しているコンタクトレンズ装用時の感染に関するリスクファクターを参考にして,レンズを水道水では保管しない,ケースを完全に乾燥させるなどの適切なレンズケアを患者へ周知させる必要がある.一方で医療者側もオルソケラトロジーレンズによって両眼にアカントアメーバ角膜炎が発症する可能性を認識する必要がある.具体的な感染コントロールの方法としては,眼科医による定期検査,適切なレンズ装用の指導,レンズ上における汚れが付着しやすい部位への綿棒によるこすり洗い,消毒効果がより高いポビドンヨードによるレンズ洗浄の推奨などがあげられる.さらに本症例のような両眼発症という事態を予防するために,同環境・同条件で管理されることから完全な対策ではないものの,左右が分離されたレンズケース(図5b)を使用することで,ケース・保存液・コンタクトレンズを介する両眼感染のリスクを減らすことができると考えられる.本論文の要旨は第59回コンタクトレンズ学会(2016)にて発表した.文献1)日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,20092)SunX,ZhaoH,DengSetal:lnfectiouskeratitisrelatedtoorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt26:133-136,20063)HsiaoCH,LinHC,ChenYFetal:Infectiouskeratitisrelatedtoovernightorthokeratology.Cornea24:783-788,20054)Araki-SasakiK,NishiI,YonemuraNetal:Characteris-ticsofPseudomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.Cornea24:861-863,20055)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一ほか:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,20146)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜診療ガイドライン(第2版).日眼会誌117:484-490,20137)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.Lancet2(7896):1537-1540,19748)石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoebakeratitisの1例─臨床像病原体検査法および治療についての検討─.日眼会誌92:963-972,19889)ThebpatiphatN,HammersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:aparasiteontherise.Cornea26:701-706,200710)石橋康久:最近増加するアカントアメーバ角膜炎─報告例の推移と自験例の分析─.眼臨紀3:22-29,201011)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,200812)加治優一,大鹿哲郎:オルソケラトロジーレンズ装用者に生じたアカントアメーバ角膜炎の2例.眼臨紀7:728,201413)WattKG,SwarbrickHA:Trendsinmicrobialkeratitisassociatedwithorthokeratology.EyeContactLens33:373-373,200714)KimEC,KimMS:Bilateralacanthamoebakeratitisafterorthokeratology.Cornea29:680-682,201015)TsengCH,FongCF,ChenWLetal:Overnightorthoker-atologyassociatedmicrobialkeratitis.Cornea24:778-782,200516)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソケラトロジーに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科87:527-534,201617)平岡孝浩,伊藤孝雄,掛江裕之ほか:オルソケラトロジー使用成績調査3年間の解析結果.日コレ誌56:276-284,201418)吉野健一:オルソケラトロジーによる合併症(2)角膜感染症.あたらしい眼科24:1191-1192,200719)CopeJR,CollierSA,ScheinODetal:Acanthamoebaker-atitisamongrigidgaspermeablecontactlenswearersintheUnitedStates,2005through2011.Ophthalmology123:1435-1441,2016***

小児におけるオルソケラトロジーの有効性および安全性の検討

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1727.1730,2014c小児におけるオルソケラトロジーの有効性および安全性の検討箱﨑理花*1稗田牧*2中村葉*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命医科学部医工学科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学EfficacyandSafetyofOrthokeratologyinChildrenRikaHakozaki1),OsamuHieda2),YouNakamura2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)TheDepartmentofBiomedicalEngineering,FacultyofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.対象および方法:対象はオルソケラトロジーレンズを6カ月間装用した小児9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.初診時に眼科的異常のないことを確認のうえ,オルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズの就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.結果:裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前後で有意差を認めた(p<0.01).角膜内皮細胞密度は治療開始前後で有意差は認めなかった.中央部角膜厚は治療開始前と開始後6カ月で有意差を認めた(p<0.05).角膜前面のbestfitsphere(BFS),中央部elevationともに治療開始前後で有意差を認めた.角膜後面のBFS,中央部elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.結論:6カ月間におけるオルソケラトロジーは小児に適応しても,角膜内皮細胞への影響は認められず,その変化は成人と同等に角膜前面の変化のみであり,安全で効果的であることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofovernightorthokeratologyinchildren.Methods:Recruitedfor6monthsoforthokeratologywere13eyesof9children(5male,4female);age(mean±standarddeviation):10.0±1.8years;range:8.12years;subjectivesphericalequivalentrefractiveerror:-2.31±0.57D;datefromalleyeswereanalyzed.Thechildrenexhibitednormalocularfindings;overnightlenswearwasinitiated.Lensfitting,cornealepithelialfindings,uncorrectedvisualacuity,subjectivesphericalequivalentrefractiveerror,cornealendothelialcelldensity,cornealthicknessandcornealshapewereinvestigated.Results:Uncorrectedvisualacuityandsubjectivesphericalequivalentrefractiveerrorexhibitedsignificantdifferenceinthetreatmentperiod(p<0.01).Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreaseduringthetreatmentperiod.Cornealthicknessatthecenterexhibitedsignificantdifferencebetweenstartoftreatmentandafter6months(p<0.05).Best-fitsphere(BFS)andcentralelevationoftheanteriorsurfaceofthecorneachangedsignificantlyduringthetreatmentperiod.BFSandcentralelevationoftheposteriorsurfaceofthecorneadidnotchangeduringthetreatmentperiod.Conclusions:Cornealendothelialcelldensitydidnotdecreasewithin6months.Changeincornealshapewasseenonlyattheanteriorsurface,asinadults.Ourdatesuggestthat6monthsoforthokeratologyinchildreniseffectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1727.1730,2014〕Keywords:オルソケラトロジー,角膜内皮細胞,角膜厚,角膜形状.orthokeratology,cornealendothelialcell,cornealthickness,cornealshape.〔別刷請求先〕箱﨑理花:〒630-0101奈良県生駒市高山町8916-5学生宿舎1405Reprintrequests:RikaHakozaki,GakuseiShukusha1405,8916-5Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(161)1727 はじめにオルソケラトロジーとは,特殊に設計されたコンタクトレンズ(オルソケラトロジーレンズ)を装用することで,角膜形状を変化させ,屈折異常を矯正することを目的とする角膜屈折矯正療法である.継続的な装用で良好な裸眼視力の維持が見込まれるが,角膜形状の変化は可逆的であり,装用を中止すると角膜形状が戻り,裸眼視力も治療前の状態に戻る1).近年は酸素透過性の高いレンズ素材の開発により,就寝時にレンズを装用し,起床時に裸眼視力の改善をめざす治療が主流である.オルソケラトロジーレンズは角膜中央部をフラット,中間周辺部をスティープに角膜矯正をする.ウサギにオルソケラトロジーを行った報告2)によると,中央部角膜上皮層のみが菲薄化する.レンズによる角膜矯正は角膜実質層に影響を与えないと考えられ,成人に対するオルソケラトロジーの報告3,4)によると,レンズによる角膜形状変化は角膜全体ではなく角膜前面で起こる.オルソケラトロジーは近視矯正法として,世界各国に普及している.特に開発,研究をした米国ではFoodandDrugAdministrationがその安全性を承認している.また,近視進行が抑制されるというmyopiacontrolの報告5,6)があるが,症例数の少なさや個人差があることも報告されている.角膜感染症の問題から,未成年に対するオルソケラトロジーの適応は慎重にするべきと考えられているが,近視進行抑制の効果を期待しアジア各国では小児に対する治療を積極的に行っている.本研究は,報告が少ない小児のオルソケラトロジーについて,6カ月間のオルソケラトロジーレンズ装用が角膜に与える効果とその安全性を評価する.I対象および方法対象は,京都府立医科大学付属病院眼科を受診し,本研究の趣旨,また京都府立医科大学倫理委員会の承認を受けたことを説明したうえで同意を得た9例13眼(男性5例,女性4例)である.治療開始年齢は8.12歳であり,平均年齢10.0±1.8歳,開始時自覚等価球面度数.2.31±0.57Dであった.毛様体筋の調節麻痺下でオートレフケラトメータARK-730A(NIDEK社)による他覚的屈折検査および自覚的屈折検査を行い,自覚的屈折検査値が等価球面度数.1.5D..4.50Dの症例のみを適応とした.他に不同視差が1.5D未満,乱視が1.5D未満,斜視でない,狭隅角でない,眼科の手術歴や眼外傷歴がない,緑内障,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,弱視,円錐角膜,ヘルペス角膜炎,乳頭増殖などの眼疾患がない,Marfan症候群,糖尿病などの全身疾患がない,過去にバイフォーカルや累進屈折力の眼鏡またオルソケラトロジーレンズを装用したことがないことを確認した.初診にオルソケラトロジーレンズの規格を決定し,レンズ1728あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014の就寝時装用を開始した.定期検診で細隙灯顕微鏡を用いたレンズのフィッティング,角膜上皮障害の有無の確認,また裸眼視力,自覚屈折度数,角膜内皮細胞数,角膜厚,角膜形状を検査した.裸眼視力が0.6以下の場合,レンズを再度調整した.スペキュラーマイクロスコープEM-3000(Tomey社)で角膜内皮細胞密度を検査した.ペンタカムHR(オクレル社)で中央部角膜厚,角膜前面,後面形状を検査した.角膜厚はオルソケラトロジーレンズが作用している箇所が最も菲薄化するはずであるから,thinnestの値を比較検討した.角膜前面,後面形状は角膜の曲率半径を示すbestfitsphere(BFS)とBFSを基準球面とした高さの差分を示す中央部elevationを比較検討した.対象はペンタカムHRに搭載されている信頼指数の範囲にないデータは除外し,n=13とした.統計学的検討は対応のあるt検定を用いた.II結果治療開始前後の平均裸眼視力,等価球面度数の経過を図1,2に示す.開始前の裸眼視力は0.14,開始後は1日0.35,1週間0.85,1カ月1.06,3カ月1.02,6カ月1.23であった.開始前の裸眼視力の分布は,0.1未満1眼,0.1以上0.3未満12眼であるが,開始後1週間で0.7未満4眼,0.7以上1.0未満4眼,1.0以上5眼であり,開始後1カ月で0.7未満1眼,0.7以上1.0未満3眼,1.0以上9眼であった.開始前の等価球面度数は.2.31±0.57D,開始後は1日.1.51±1.05D,1週間.0.48±0.44D,1カ月.0.29±.0.32D,3カ月.0.40±0.45D,6カ月.0.22±0.29Dであった.裸眼視力,等価球面度数ともに治療開始前と開始後1日以降すべてで有意差を認め(p<0.01),視力の改善がみられた.治療開始前後の角膜内皮細胞密度の経過を図3に示す.開始前の角膜内皮細胞密度は3,057±180.9cells/mm2,開始後は1カ月2,996±184.7cells/mm2,6カ月3,045±195.5cells/mm2であった.治療開始前後で有意差は認めなかった.治療開始前後の中央部角膜厚の経過を図4に示す.開始前の中央部角膜厚は545±21.9μm,開始後は1カ月542±15.3μm,3カ月538±14.6μm,6カ月538±16.9μmであった.治療開始前と開始後6カ月で有意差を認め(p<0.05),中央部角膜の菲薄化がみられた.角膜前面のBFSとelevationを図5,6に示す.開始前の角膜前面のBFSは7.92±0.19mm,開始後は1カ月7.96±0.20mm,3カ月7.94±0.19mm,6カ月7.96±0.20mmであった.開始前の中央部角膜前面のelevationは1.77±1.24μm,開始後は1カ月.3.62±1.50μm,3カ月.4.23±1.54μm,6カ月.4.54±1.90μmであった.BFS,elevationともに治療開始前と開始後1カ月以降すべてで有意差を認めた(p<0.05).角膜後面のBFSとelevationを図7,8に示す.開始前の(162) レンズ装用日数レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月レンズ装用日数治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月治療前1日1週間1カ月3カ月6カ月0.11裸眼視力************p<0.01,n=13-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.500.5等価球面度数(D)************p<0.01,n=13図1裸眼視力経過図2等価球面度数経過3,500570560n=13**p<0.05,n=13BFS(mm)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,000Elevation(μm)角膜厚(μm)5502,5005402,000治療前1カ月6カ月530レンズ装用日数520図3角膜内皮細胞数経過レンズ装用日数*p<0.05,**p<0.01,n=13図4中央部角膜厚経過治療前1カ月3カ月6カ月8.28.18.0*****24治療前1カ月3カ月6カ月**p<0.01,n=13******レンズ装用日数7.907.8-27.7治療前1カ月3カ月6カ月-4レンズ装用日数図5角膜前面BFS経過-6-8角膜後面のBFSは6.39±0.13mm,開始後は1カ月6.38±0.14mm,3カ月6.39±0.13mm,6カ月6.38±0.12mmであった.開始前の中央部角膜後面のelevationは1.08±2.22μm,開始後は1カ月1.31±2.63μm,3カ月1.62±2.47μm,6カ月1.62±2.29μmであった.BFS,elevationともに治療開始前後で有意差は認めなかった.感染症,治療を中止するような重度な角膜障害は生じなかった.また,経過観察中,裸眼視力が0.6以下でありレンズの規格を変更した症例が3例あったが,レンズ変更後良好な裸眼視力を得た.図6角膜前面elevation経過III考察本研究は,オルソケラトロジーが小児に対しても効果的,また安全であるかどうかを検討した.対象の9割が治療開始後1カ月で良好な裸眼視力を得られるとともに,最終的に全員に有効な屈折矯正ができた.また,角膜形状は角膜の前面のみ変化しており,成人と同等の結果となった.(163)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141729 6.6n=135n=1346.53BFS(mm)0治療前1カ月3カ月6カ月6.2治療前1カ月3カ月6カ月-1レンズ装用日数-2Elevation(μm)6.4216.3レンズ装用日数図7角膜後面BFS経過コンタクトレンズ装用の安全性を検討するうえで,角膜障害は重要な要因となる.コンタクトレンズは長時間眼表面を覆うため,酸素供給不足による角膜障害が考えられ,また角膜上皮欠損,レンズの長期装用による角膜内皮細胞密度の減少が起こりうる.本研究では,角膜内皮細胞密度の著しい減少はなく,安全に治療できたと思われる.しかし,スペキュラーマイクロスコープは角膜全体を検査しているわけではなく,中央部の一定の箇所の角膜内皮細胞しか記録してない.経過観察中,角膜内皮細胞密度の値には多少の増減が認められたが,これは撮影条件が違うことによる撮影箇所の違いが原因と考えられる.角膜内皮細胞の著しい減少を判断するには長期的なデータが必要かと考えられた.角膜前面形状はオルソケラトロジー開始後,BFSが大きくなり,角膜がフラットになることがわかった.また,角膜中央部の角膜厚,elevationからも角膜中央部が菲薄化し,BFSの基準面球面より凹面に変化した.このことはオルソケラトロジーレンズにより角膜中央部が圧迫,矯正されたことを顕著に示している.従来の報告と同様に角膜後面形状は変化せず,レンズの矯正は角膜上皮層のみであり,角膜実質層に影響を与えないことが示唆された.オルソケラトロジーは小児に対して,成人と同様な効果を期待できるが,レンズの使用に関してはむずかしい点がみられた.本研究に用いたオルソケラトロジーレンズはハードコンタクトレンズであり,破損しやすい.また,レンズケア方法も個人差があり,現時点では角膜感染症がなかったが,今後長期的な治療を続ける場合,注意すべきである.小児にハードコンタクトレンズ装用,ケアを任せるのは不十分である図8角膜後面elevation経過ため,本研究でも基本的に親の管理下で治療を行ったが,経過観察中の小児の成長とともに自身で行うこともある.小児に対するオルソケラトロジーはレンズ管理が課題ともいえる.今回の検討により,小児に対するオルソケラトロジーは短期的には安全かつ有効であり,その変化は成人と同様であることが示唆された.今後,さらに長期的な有効性と安全性の検討をすることが必要と考えられた.文献1)ChenD,LamAK,ChoP:Posteriorcornealcurvaturechangeandrecoveryafter6monthsofovernightorthokeratologytreatment.OphthalmicPhysiolOpt30:274280,20102)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratoligylens.EyeContactLens30:198-204,20043)TsukiyamaJ,MiyamotoY,FukudaMetal:Changesinanteriorandposteriorradiiofthecornealcurvatureandanteriorchamberdepthbyorthoketatology.EyeContactLens34:17-20,20084)YoonJH,SwarbrickHA:Posteriorcornealshapechangesinmyopicovernightorthokeratology.OptomVisSci90:196-204,20135)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy,InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20126)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013***1730あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(164)

学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(101)17090910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17091711,2008cはじめにコンタクトレンズによる近視治療であるオルソケラトロジーは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)の適応にない未成年の若年者にも行える治療としてわが国でも行われている.なかには小学生に対して行われている例もある.オルソケラトロジーでは夜間にコンタクトレンズを装用するため角膜が低酸素状態となり,またレンズの構造上,汚れが蓄積しやすいため,ハードコンタクトレンズであるにもかかわらず感染性角膜炎の発生が少なくない.緑膿菌による細菌性角膜潰瘍の報告が最も多いが,アカントアメーバ角膜炎の報告もある13).海外では現在までに28例の報告があり4),中国13例1),〔別刷請求先〕加藤陽子:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YokoKato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi236-0004,JAPAN学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例加藤陽子*1中川尚*2秦野寛*3大野智子*1林孝彦*1佐々木爽*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2徳島診療所*3ルミネはたの眼科ACaseofAcanthamoebaKeratitisThatDevelopedduringtheCourseofOrthokeratologyYokoKato1),HisashiNakagawa2),HiroshiHatano3),TomokoOhno1),TakahikoHayashi1),SayakaSasaki1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)TokushimaEyeClinic,3)HatanoEyeClinicオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の症例を経験した.症例は11歳,女児.9歳よりオルソケラトロジーを行っていた.右眼の充血を自覚し,近医にてアレルギー性結膜炎と診断された.その後眼痛,霧視が出現し,副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬点眼を行ったが改善せず横浜市立大学付属病院眼科を紹介受診した.初診時視力は,右眼(0.03),左眼(1.2)であった.毛様充血と角膜中央部の類円形の浸潤病巣,および放射状角膜神経炎があり,病巣擦過物の塗抹標本でアカントアメーバのシストが認められ,アカントアメーバ角膜炎と診断した.0.02%クロルヘキシジン,フルコナゾールの頻回点眼,ピマリシン眼軟膏の点入を行い,角膜浸潤は徐々に軽減し約8カ月で上皮下混濁を残すのみとなった.矯正視力は(1.0)まで改善した.オルソケラトロジーにおいて,細菌性角膜潰瘍と並び,アカントアメーバ角膜炎も注意すべき感染症の一つと考えられた.AcaseofAcanthamoebakeratitisduetoorthokeratologyisreported.Thepatient,an11-year-oldfemalewhohadbeenundergoingorthokeratologysincetheageof9,developedhyperemiaandwasdiagnosedwithallergicconjunctivitis.Shesubsequentlysueredocularpainandblurredvision;topicalsteroidandantibioticswereinitiat-ed,butherconditiondidnotimprove.Atinitialvisit,hercorrectedvisualacuitywas0.03fortherighteye.Hyper-emia,circularinltrativelesionatthecenterofthecornea,radialneurokeratitisandciliaryhyperemiawereobserved.WefoundanAcanthamoebacystinherscrapedsmear,stainedwithGiemsaandfungiora,anddiag-nosedAcanthamoebakeratisis.Thepatientwastreatedwithinstillationof0.02%chlorhexidine,uconazoleandophthalmicpimaricinointment,afterwhichonlyasubepitheliallesionremained.At8months,hervisualacuityhadimprovedto1.0.Inorthokeratology,itisimportanttobeawareofpotentialinfections,includingAcanthamoebaker-atitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17091711,2008〕Keywords:オルソケラトロジー,アカントアメーバ角膜炎.orthokeratology,Acanthamoebakeratitis.———————————————————————-Page21710あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(102)台湾4例2,3),韓国4例5),オーストラリア3例6,7),アメリカ2例8,9),カナダ2例10)と,アジア諸国で多くみられる傾向にある.わが国では海外で処方され国内で発症した1例11)が報告されているのみである.今回筆者らは,小学生のオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例を経験したので報告する.I症例患者:11歳,女児.主訴:右眼充血.現病歴:平成18年1月上旬に右眼の充血が出現したためオルソケラトロジーレンズ処方医を受診した.アレルギー性結膜炎と診断され,抗アレルギー点眼薬を処方された.しかしながら症状は軽快せず,2月上旬には右眼眼痛,および右眼霧視も自覚したため他院を受診,オルソケラトロジーを中止した.副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬点眼を使用したが増悪したため,2月25日,さらに別の眼科を受診した.角膜潰瘍がみられ3月3日に横浜市立大学付属病院眼科を紹介受診となった.なお,角膜潰瘍を発症した経過については,オルソケラトロジーレンズ処方医は把握していない.オルソケラトロジーの背景としては,平成14年に視力低下を自覚,近視性乱視を指摘されたが,本人が眼鏡を嫌がり,水泳をしていたこともあり,親がテレビの報道で知ったオルソケラトロジーを希望し,平成15年(9歳)より開始した.オルソケラトロジーレンズは,夜間睡眠時に約10時間装用していた.コンタクトレンズの洗浄法は,ハードコンタクトレンズ用洗浄保存液でこすり洗いを行い水道水ですすぎ,洗浄保存液を入れたレンズケースで保存するという通常の方法を行っていた.蛋白除去は週1回行っていた.コンタクトレンズの溝に対しての洗浄については特別に指導はされなかった.装着前とはずす前には人工涙液点眼を行っていた.定期検診は3カ月ごとに行っていた.初診時所見:視力は右眼0.02(0.03×3.5D(cyl-2.0DAx180°),左眼0.07(1.2×3.75D(cyl2.75DAx180°),右眼に毛様充血を認め,角膜中央部に類円形の実質浸潤病巣を認め(図1),角膜耳側には放射状角膜神経炎がみられた.オルソケラトロジーレンズ装用の既往,角膜所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われたため,病巣を擦過し,ギムザ染色にて鏡検を行ったところ,二重壁をもつ円形物質が認められた(図2).ファンギフローラYR染色を行い円形の特異蛍光を示すアカントアメーバシストを確認,アカントアメーバ角膜炎と診断した.即日入院となり,0.2%フルコナゾール点眼,0.02%クロルヘキシジン点眼を1時間ごと,ピマリシン眼軟膏3回/日点入,ガチフロキサシン点眼6回/日を開始,週2回角膜掻爬を行った.1カ月後,角膜浸潤は軽減し,瞳孔領の透見が可能になった.入院7週間後より残存した角膜混濁に対し,プレドニゾロン5mg内服を開始,3カ月後より0.02%フルオロメトロン点眼に変更した.角膜混濁は経過とともに軽減した.治療開始5カ月後,フルコナゾール点眼,クロルヘキシジン点眼を中止,8カ月後にはすべての点眼薬を中止した.上皮下混濁と血管侵入は残存したが,角膜混濁はさらに軽減し,矯正視力1.0まで改善した.II考按オルソケラトロジーは,睡眠時に特殊デザインのハードコンタクトレンズを装用することにより角膜の形状を一時的に変化させ,日中の裸眼視力を向上させる屈折矯正法である.アジア地域では,近視進行遅延効果を期待し,小児へのオルソケラトロジーが多く行われている12).しかしながら,中国,台湾では,トポグラフを用いずにコンタクトレンズを処方する,経過中の定期検診を行わない,など問題も指摘されており,アカントアメーバを含む角膜感染症が多発した一因と考えられている.コンタクトレンズ関連のアカントアメーバ角膜炎患者のう図1初診時角膜浸潤所見図2アカントアメーバシスト(ギムザ染色)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081711(103)ち,ハードコンタクトレンズ使用者は8.8%と少ない13).しかも,ほとんど例外なく,レンズケアを怠ったり,定期検査を受けない,などの不適切な使い方をして発症したものがほとんどである.しかし,本症例では,指示通りの使用方法とケア方法を行っており,定期検診を受けていたが,アカントアメーバ角膜炎を発症した.感染の原因として,コンタクトレンズが固着気味でセンタリングが不良であったため,夜間装用時の涙液交換の低下により,角膜の低酸素状態をひき起こし,角膜上皮障害を生じた可能性がある.また,レンズの構造上,内面の溝部分に汚れが蓄積しやすく14),コンタクトレンズケースの洗浄や交換を行っていなかったことが汚染につながったものと考えられる.平成18年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査によると,小学生のコンタクトレンズ使用者は0.1%で,そのなかでオルソケラトロジーレンズ使用者の割合は11.1%と高率であった15).日本において行われている治験では,オルソケラトロジーの対象は18歳以上とされているが,近視進行遅延効果を期待し,学童期にオルソケラトロジーを希望する保護者が多くみられるためと考えられる.オルソケラトロジーは,2002年に米国FDA(食品・医薬品局)で認可され,日本でも開業医を中心に行われている.しかし,現在日本では未認可であり,オルソケラトロジーに精通していない医師によるレンズ処方が行われている場合もあると考えられる.また,オルソケラトロジーによって近視が治ると誤解させたり,年齢が低いほど効果があると謳った広告を行い,幼児への処方を推奨する施設もみられる.オルソケラトロジーの長期的な経過はまだ不明なことが多い.睡眠中のコンタクトレンズ装用に伴うリスク,コンタクトレンズの管理が困難な低年齢の学童に施行することのリスク,さらに,それらに伴う角膜感染症発症のリスクを,事前に十分説明する必要があると考えられる.アカントアメーバ角膜炎は,細菌性角膜潰瘍と並んで,オルソケラトロジーにおいて注意すべき重篤な合併症であり,今後,治験の評価をふまえ,より安全に行われるような適応基準が定められる必要があると考えられる.本稿の要旨は第44回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)SunX,ZhaoH,DengSetal:Infectiouskeratitisrelatedtoorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt26:133-136,20062)TsengCH,FongCF,ChenWLetal:Overnightorthoker-atology-associatedmicrobialkeratitis.Cornea24:778-782,20053)HsiaoCH,LinHC,ChenYFetal:Infectiouskeratitisrelatedtoovernightorthokeratology.Cornea24:783-788,20054)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:Reviewoftherst50cases.EyeCon-tactLens31:201-208,20055)LeeJE,HahnTW,OumBSetal:Acanthamoebakeratitisrelatedtoorthokeratology.IntOphthalmol27:45-49,20076)WattKG,SwarbrickHA:Trendsinmicrobialkeratitisassociatedwithorthokeratology.EyeContactLens33:373-377,20077)WattKG,BonehamGC,SwarbrickHA:Microbialkerati-tisinorthokeratology:theAustralianexperience.ClinExpOptom90:182-187,20078)WilhelmusKR:Acanthamoebakeratitisduringorthokera-tology.Cornea24:864-866,20059)RobertsonDM,McCulleyJP,CavanaghHD:Severeacan-thamoebakeratitisafterovernightorthokeratology.EyeContactLens33:121-123,200710)YepesN,LeeSB,HillV:Infectiouskeratitisafterover-nightorthokeratologyinCanada.Cornea24:857-860,200511)福地祐子,前田直之,相馬剛至ほか:オルソケラトロジーレンズ装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀58:503-506,200712)吉野健一:オルソケラトロジーの適応と合併症対策.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版,p90-92,文光堂,200613)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎37自験例の分析.眼科44:1233-1239,200214)Araki-SasakiK,NishiI,YonemuraNetal:Characteris-ticsofPsedomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.Cornea24:861-863,200515)日本眼科医会学校保健部:平成18年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況.日本の眼科78:1187-1200,2007***