《第60回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科42(5):609.612,2025cオルソケラトロジーレンズ使用中に発症した両眼アカントアメーバ角膜炎森山理佐*1柿栖康二*1松村沙衣子*1鈴木崇*1,2松本直*1堀裕一*1*1東邦大学医学部眼科学講座*2いしづち眼科CACaseofBilateralAcanthamoebaKeratitisAssociatedwithOrthokeratologyLensUseRisaMoriyama1),KojiKakisu1),SaikoMatsumura1),TakashiSuzuki1,2)C,TadashiMatsumoto1)andYuichiHori1)1)DepartmentofOpthalmology,TohoUniversityFacultyofMedicine,2)IshizuchiEyeClinicC目的:オルソケラトロジー(オルソCK)治療経過中に両眼に発症したアカントアメーバ角膜炎を経験したので報告する.症例:19歳,女性.使用レンズは矯正度数が右眼C.4.25D,左眼C.5.00Dであり,13歳時から使用していた.左眼痛を自覚し,近医を受診,オルソCKの中止の指示とC1.5%レボフロキサシン点眼液が処方された.翌日受診時,ヘルペス角膜炎が疑われアシクロビル眼軟膏C3%が開始されたが,発症後C8日後に両眼の眼痛が悪化し,当科紹介となった.初診時矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.5Cp)であった.両眼とも放射状角膜神経炎,角膜中央のレンズ圧迫部に沿った浸潤を認め,アカントアメーバ角膜炎を疑い治療を変更した.後日,両眼の角膜擦過物およびレンズケース保存液の培養検査にてアカントアメーバが検出された.治療開始C12週間後には矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.0)まで改善した.結論:オルソCK使用には,ガイドラインを遵守したレンズ処方や適切なレンズケアが必要である.CPurpose:ToreportacaseofbilateralAcanthamoebakeratitis(AK)associatedwithorthokeratology(ortho-K)lenstreatment.Case:Thisstudyinvolveda19-year-oldfemalepatientwhohadbeenwearingortho-KlensessinceCtheCageCofC13,CwithCcorrectiveCpowersCofC.4.25DODand.5.00DCOS.CSheCinitiallyCvisitedCaCnearbyCclinicCdueCtoCexperiencingCpainCinCherCleftCeye,CandCwasCinstructedCtoCdiscontinueCorthoCKCuseCandCprescribed1.5%Clevo.oxacineyedrops.Thefollowingday,shewasdiagnosedwithsuspectedherpeskeratitis,andtreatmentwith3%acyclovirophthalmicointmentwasstarted.However,8daysaftertheonsetofsymptoms,theeyepaininbotheyesworsened,promptingherreferraltoourdepartment.Atinitialpresentation,hercorrectedvisualacuity(VA)Cwas1.0CODand0.5COS,andradialcornealneuritisandin.ltrateswereobservedalongthecentralcornealpressurezonesinbotheyes,leadingtoadiagnosisofAK.Later,culturetestsofcornealabrasionsandlens-casepreserva-tionC.uidCinCbothCeyesCcon.rmedCtheCpresenceCofCAcanthamoeba.CAtC12-weeksCpostCtreatment,CtheCpatient’sCcor-rectedVAimprovedto1.2CODand1.0COS.Conclusion:Thiscasehighlightstheimportanceofadheringtoproperlensprescriptionsinaccordancewithestablishedguidelinesandprovidingeducationonappropriatelenscare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(5):609.612,C2025〕Keywords:オルソケラトロジー,アカントアメーバ角膜炎.orthokeratology,Acanthamoebakeratitis.はじめにオルソケラトロジー(以下,オルソCK)は,高酸素透過性素材を材料に作製されたリバースジオメトリーとよばれる特殊なデザインをもつハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)であり,就寝時に装用し,角膜中央部を平坦化させることにより近視矯正を行う.近年の小児における近視治療の需要の増加に伴い,世界中で低年齢層への処方が増加している1).オルソCKの重症合併症として感染性角膜炎があげられ,Wattらの報告によると,オルソCKによる感染性角膜炎のC123症例のうちC46例(38%)が緑膿菌,41例(33%)がアカントアメーバであり,2大起因菌とされている2).日本のガイドラインでは,感染性角膜炎対策として界面活性剤によるこすり洗いとポピドンヨード剤による消毒,そして,水道水によるレンズケースの洗浄・すすぎ,その後の乾燥と〔別刷請求先〕柿栖康二:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KojiKakisu,M.D.,DepartmentofOpthalmology,TohoUniversityFacultyofMedicine,6-11-1,Omorinishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPANC定期的な交換を推奨している3).オルソCKの酸素透過性CHCLを使用している患者では,通常の酸素透過性CHCL装用者より,アカントアメーバ感染の発生率が高くなると報告されている4).その要因としてレンズデザインと装用方法があげられる.レンズと角膜間のタイトな装着により,角膜中央部に上皮びらんが生じて感染リスクを高める可能性があるほか,通常の酸素透過性CHCLよりも涙液の分布が不均等になることから,リバースカーブの下に涙液が溜まることでコロニー形成率が高くなるとされている5).また,オルソCKを夜間に装着することにより酸素欠乏状態が進行し,角膜上皮障害のリスクが高くなる.オルソCK関連のアカントアメーバ角膜炎は片眼性が多く,システマティックレビューによるC20症例中に両眼発症はC3例である6).日本での両眼発症の症例報告は,筆者らが文献を渉猟した限りでは過去にC1例のみである.今回筆者らは,オルソK装用中に両眼に発症したアカントアメーバ角膜炎を経験したので報告する.CI症例患者:19歳,女性.主訴:両眼)充血,眼痛.現病歴:2017年(13歳時)より前医にてオルソCKを開始していた.2023年C6月に左眼痛を自覚し,近医CAを受診,両眼オルソCKの中止が指示され,1.5%レボフロキサシン点眼液を処方されたが症状の悪化を認めた.翌日に前医を受診,左眼ヘルペス角膜炎が疑われアシクロビル眼軟膏C3%が処方されたが,症状出現C8日後に両眼の眼痛が悪化し,両眼に偽樹枝状病変を認めたため,同日当科紹介となった.本症例で使用されていたオルソCKは,矯正度数が右眼C.4.25D,左眼C.4.50Dで開始し,約C1年半ごとに交換していた.使用開始後C2年のレンズ交換で左眼はC.5.00Dに変更されていた.症状出現時に使用していたレンズの使用期間は約C3カ月であった.使用していたケア用品は界面活性剤であるハードクレンジングによるこすり洗いと,ポピドンヨード製剤であるクリアデューCO2セプトによる消毒であり,蛋白除去洗浄液は使用していなかった.レンズケースは左右一体型のものであり,1カ月ごとに交換していた.定期受診はC3カ月ごとに行っていた.C2.50.cyl(00DC.3.sph×初診時所見:視力は右眼0.15(1.0CDAx150°),左眼0.3(0.5pC×sph.2.50D(cyl.2.50DCAx110°).細隙灯顕微鏡では両眼ともに結膜毛様充血と角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤,放射状角膜神経炎,偽樹枝状病変を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層計で左眼優位の角膜浮腫と角膜混濁を認めた.オルソCK装用の既往,前眼部所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われ,病巣を擦過し入院による治療が開始となった.後日,両眼の角膜擦過物およびレンズケース保存液の培養検査にてアカントアメーバ陽性が検出された.また,角膜擦過物の培養検査では左眼がニューキノロン系抗菌薬に感受性があるCPropionibac-teriumacnes陽性だった.経過:入院治療にて週にC2回の病巣掻爬と自家調剤した0.05%クロルヘキシジグルコン酸塩点眼をC30分ごと,1.5%レボフロキサシン点眼液C6回,イトラコナゾール内服を開始.治療開始C6日目にC1%ピマリシン眼軟膏の眠前点入を開始.9日目には大学の試験のため退院となった.13日目に右眼上皮下浸潤の悪化を認め,矯正視力右眼C0.5に低下したため自家調剤したC1%ボリコナゾール点眼C6回を開始.両眼とも計C3回の病巣掻爬を施行し,徐々に角膜炎は改善傾向を認めた.治療開始C12週間後には両眼とも瘢痕混濁を残して治癒し(図3),視力は右眼C0.3(1.2C×sph.2.50D(cyl.0.50CDAx10°),左眼0.1p(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.75DCAx180°)まで改善した.CII考按本症例の臨床的特徴として,両眼発症とレンズ部位に沿った角膜中央部の浸潤があげられる.日本におけるオルソCKによるアカントアメーバ角膜炎両眼発症の報告は三田村らが報告したC13歳,女性の症例のみであり,発症C1週間前にレンズケースを水道水のみで保存しており,左右一体型レンズケースであったことから両眼に発症した可能性が示唆された7).本症例でも同様に左右一体型のレンズケースを使用しており,それが両眼発症に至った要因と考えられる.また,加藤らが報告したC11歳,女児のアカントアメーバ角膜炎片眼発症の症例では,角膜中央部に類円形の実質浸潤病巣を認め,感染の原因としてオルソCKが固着気味でセンタリングが不良であったことがあげられる8).本症例で使用されていたオルソCKの矯正度数は右眼C.4.25D,左眼C.5.00Dであり,先に発症した左眼は,C.4.00Dまでというガイドラインの推奨値よりやや高い矯正度数だったことから,過度な角膜圧迫が角膜炎の発生原因であった可能性も考えられる.オルソCKによる角膜感染症の推定発症率はC1年間C10,000人あたりC7.7症例と報告されている9).発症時の平均年齢は19.4歳C±8.2歳で,女性優位であった.危険因子としては,レンズまたはレンズケースを水道水で洗い流すことや不適切なレンズケアなどがあげられる.オルソCKはリバースカーブに脂質や蛋白質が付着しやすく,それにより細菌や微生物の付着性も高まる6).本症例では界面活性剤による擦り洗いおよびポビドンヨード製剤による消毒は施行されていたが,2週間に一度推奨されている強力蛋白除去剤のつけ置きは施行されていなかった.次亜塩素酸ナトリウムが主成分の洗浄液は,多目的洗浄剤や過酸化水素剤のこすり洗いと比較して洗浄力が高いため,ガイドライン推奨のレンズケアに加えて図1初診時右眼前眼部写真a:放射状角膜神経炎.角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤.b:偽樹枝状病変.図2初診時左眼前眼部写真a:放射状角膜神経炎.角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤.b:偽樹枝状病変.図3治療開始12週間後の両眼前眼部写真a:右眼.b:左眼.両眼とも瘢痕混濁を認めるものの,角膜浮腫は改善した.蛋白除去洗浄液使用の徹底が望ましいと考えられる.2017年に改訂された「オルソケラトロジーガイドライン」(第C2版)では,オルソCKの処方が“20歳未満は慎重処方”という変更がなされ,2016年度の調査ではC25%であったC7.12歳への処方が,ガイドライン改訂後のC2019年度には34%と約C1.4倍の増加を認めている10).昨今の近視治療の需要から,オルソCKの低年齢への処方率はより上昇していると予想される.小児における角膜感染症のリスクを極力減らすためにも,ガイドライン推奨の矯正値を遵守することと,適切なレンズケアの指導が重要である.また,両眼への感染は左右一体型のレンズケース使用がリスクになる可能性もある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MorganPB,EfronN,WoodsCAetal:Internationalcon-tactlensprescribingsurveyconsortium.internationalsur-veyCofCorthokeratologyCcontactClensC.tting.CContCLensCAnteriorEyeC42:450-454,C20192)WattCKG,CSwarbrickHA:TrendsCinCmicrobialCkeratitisCassociatedCwithCorthokeratology.CEyeCContactCLensC33:C373-377,C20073)村上晶,吉野健一,上田喜一ほか;日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン(第C2版).日眼会誌C121:936-938,C20174)RobertsonDM,McCulleyJP,CavanaghHD:Severeacan-thamoebaCkeratitisCafterCovernightCorthokeratology.CEyeCContactLensC33:121-123,C20075)Araki-SasakiCK,CNishiCI,CYonemuraCNCetal:Characteris-ticsofPseudomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.CorneaC24:861-863,C20056)WuCJ,CXieH:OrthokeratologyClens-relatedCAcanthamoe-bakeratitis:casereportandanalyticalreview.JIntMedResC49:3000605211000985,C20217)三田村浩人,市橋慶之,内野裕一ほか:オルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じたC1例.あたらしい眼科34:555-559,C20178)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,C20089)LiuYM,XieP:TheSafetyoforthokeratology-asystem-aticreview.EyeContactLensC42:35-42,C201610)柿田哲彦,高橋和博,山下秀明ほか:オルソケラトロジーに関するアンケート調査集計結果報告.日本の眼科C87:C527-534,C2016C***