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多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─

2025年7月31日 木曜日

《第35回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科42(7):881.886,2025c多施設による緑内障患者の実態調査2024年版─薬物治療─小林大航*1,2井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*3富田剛司*1,2石田恭子*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院*3西葛西・井上眼科病院CMulti-institutionalsurveyforglaucomain2024─drugtherapy─TaikoKobayashi1,2)C,KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),GojiTomita1,2)CandKyokoIshida2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,3)NishikasaiInouyeEyeHospitalC目的:現状の緑内障患者の実態をアンケート調査して,さらに経時的変化を検討する.対象と方法:本調査に賛同したC82施設に外来受診した緑内障および高眼圧症患者C6,323例C6,323眼を対象とした.病型と,レーザーおよび手術既往歴,使用薬剤を調査した.2020年に行った前回調査とも比較した.結果:病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%,続発緑内障C7.8%などであった.使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬C61.9%,2剤はCFP/Cb配合剤C56.4%が各々最多だった.配合剤使用はC3剤C91.3%,4剤C94.2%で前回調査より増加した.単剤はEP2作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が前回調査より増加した.レーザーと手術既往は前回調査より増加した.結論:単剤はCFP作動薬,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多だった.3剤以上での配合剤使用,レーザー既往,手術既往は調査ごとに増加している.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCglaucomaCtherapyCthroughCaCsurvey,CandCfurtherCexamineCchangesovertime.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved6,323glaucomaandocularhypertensionpatientsseenat82participatingfacilities.Diseasetype,historyofsurgery/laser-surgery,andmedicationsusedwereinves-tigatedandcomparedwiththeprevious2020survey.Results:Subtypesincludednormal-tensionglaucoma(45.6%)C,primaryCopen-angleCglaucoma(33.1%)C,CandsecondaryCglaucoma(7.8%)C.CFPCagonistsCandCFP/bcombinationCdrugsweremostcommonlyusedinsingle-medication(61.9%)anddual-medication(56.4%)therapies,respective-ly,andofthecombinationdrugsused,91.3%involved3medicationsand94.2%involved4medications,anincreaseCcomparedtothe2020survey.Comparedtotheprevioussurvey,EP2agonists(monotherapy)andFP/bcombina-tiondrugs(dual-medication)wereusedmorefrequentlyandthenumberofsurgicalandlaser-surgeryproceduresperformedChadCincreased.CConclusions:ComparedCtoCtheCpreviousCsurvey,CFPagonists(monotherapy)andCFP/bcombinationdrugs(dual-medicationtherapy)remainedCtheCdrugsCmostCcommonlyCused,CwithC3CorCmoreCmedica-tionsCusedCmoreCfrequentlyCinCtheCcombinationCdrugs,CandCtheCnumberCofCsurgicalCandClaser-surgeryCproceduresCperformedhadincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(7):881.886,C2025〕Keywords:眼科医療施設,多施設,緑内障治療薬,緑内障実態調査,配合剤.ophthalmologymedicalfacility,drugforglaucoma,surveyforglaucoma,combinationeyedrops.Cはじめに日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第C5版が2022年に改訂された1).緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,わが国において現在の開放隅角緑内障治療の第一選択は薬物治療である.新たな作用機序を有する眼圧下降薬,新規配合剤が使用可能となり,薬物治療を行ううえでの選択肢は増えている.緑内障診療ガイドライン第C4版がC2018年に改訂されて以降,EP2作動薬(オミデネパグイソプロピル)と新規配合剤(ブリモニジン/ブリンゾラミド,リパスジル/ブリモニジン)が使用可能になった.そこで,眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した2).〔別刷請求先〕小林大航:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TaikoKobayashi,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3KandaSurugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(97)C881表1研究協力施設(82施設)1ふじた眼科クリニックC22あいりす眼科クリニックC43おがわ眼科C64たじま眼科・形成外科C2苫小牧しみず眼科C23かさい眼科C44綱島駅前眼科C65やなせ眼科C3有楽町駅前眼科C24みやざき眼科C45眼科中井医院C66母心堂平形眼科C4アイ・ローズクリニックC25はしだ眼科クリニックC46市ヶ尾眼科C67ヒルサイド眼科クリニックC5飯田橋藤原眼科C26にしかまた眼科C47さいとう眼科C68さいはく眼科クリニックC6中山眼科医院C27久が原眼科C48あおやぎ眼科C69藤原眼科C7白金眼科クリニックC28田宮眼科C49本郷眼科C70ふじもと眼科クリニックC8高輪台眼科クリニックC29そが眼科クリニックC50吉田眼科C71大原ちか眼科C9小川眼科診療所C30明大前西アイクリニックC51のだ眼科麻酔科医院C72かわぞえ眼科クリニックC10もりちか眼科クリニックC31ほりかわ眼科久我山井の頭通りC52みやけ眼科C73いまこが眼科医院C11鈴木眼科C32広沢眼科C53高根台眼科C74槇眼科医院C12良田眼科C33小滝橋西野眼科クリニックC54大島眼科医院C75むらかみ眼科クリニックC13駒込みつい眼科C34いなげ眼科C55おおあみ眼科C76川島眼科C14赤羽すずらん眼科C35眼科松原クリニックC56いずみ眼科クリニックC77鬼怒川眼科医院C15菅原眼科クリニックC36しらやま眼科クリニックC57サンアイ眼科C78お茶の水井上眼科クリニックC16うえだ眼科クリニックC37赤塚眼科はやし医院C58さいき眼科C79井上眼科病院C17江本眼科C38氷川台かたくら眼科C59林眼科医院C80西葛西・井上眼科病院C18えづれ眼科C39えぎ眼科仙川クリニックC60のいり眼科クリニックC81大宮・井上眼科クリニックC19的場眼科クリニックC40西府ひかり眼科C61石井眼科クリニックC82札幌・井上眼科クリニックC20錦糸町おおかわ眼科クリニックC41東小金井駅前眼科C62やながわ眼科C21江戸川のざき内科眼科C42後藤眼科C63ふかさく眼科そののち,2009年に第C2回3),2012年に第C3回4),2016年に第C4回5),2020年に第C5回の緑内障患者実態調査6)を実施した.そこで今回は,緑内障診療ガイドライン第C5版に合わせて新たに第C6回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した.加えて前回調査の結果6)と比較し,経年変化を解析した.CI対象と方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C82施設においてC2024年C3月C10.16日に施行した.調査目的は緑内障患者への薬物治療の実態把握である.協力施設を表1に示す.調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.今回の調査から緑内障病型として初めて前視野緑内障(preperimetricCglaucoma:PPG)を入れた.総症例数はC6,323例,男性C2,765例,女性C3,558例,平均年齢C69.2C±13.3歳(5.100歳)であった.緑内障の診断と治療は緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.調査は調査票(図1)を用いて行った.調査票に年齢,性別,病型,使用薬剤,レーザー治療と緑内障手術の既往を記載し回収した.片眼症例は患眼,両眼症例は右眼を調査した.患者背景,使用薬剤数,単.5剤の使用薬剤を調査した.前回の調査と同様に薬剤は一般名での収集とした.配合剤はC2剤として解析した.さらに,2020年に行った前回調査の結果6)と比較した.今回調査の各薬剤分布の比較にはC|2検定,Fisherの直接法,今回調査と前回調査の患者背景の年齢比較には対応のないCt検定,使用薬剤数の比較にはCMann-Whit-neyのCU検定,男女比,レーザー治療既往症例,手術既往症例の比較にはC|2検定,Fisherの直接法を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果今回の調査での病型は正常眼圧緑内障C2,882例(45.6%),原発開放隅角緑内障C2,090例(33.1%),続発緑内障C492例(7.8%),前視野緑内障C344例(5.4%)などであった(図2).レーザー治療既往症例はC312例(4.9%),緑内障手術既往症例はC571例(9.0%)であった(表2).レーザー治療の内訳は,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-図1調査票正常眼圧緑内障45.651.0**原発開放隅角33.1**緑内障31.07.8続発緑内障8.25.40.1**4.4前視野緑内障高眼圧症5.4原発閉塞隅角今回調査3.54.2**緑内障前回調査0.2小児緑内障0.10102030405060図2前回調査との比較(手術既往症例,レーザー治療既往症例比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2plasty:SLT)174例(55.8%),レーザー虹彩切開術(Laseriridotomy:LI)はC120例(38.5%),その他C18例(5.8%)であった.緑内障手術の内訳は,線維柱帯切除術C300例(52.6%),線維柱帯切開術C111例(19.5%),iStent手術C87例(15.3%),チューブシャント手術C14例(2.5%),隅角癒着解離術(GSL)6例(1.1%)などであった.使用薬剤数は平均C1.8C±1.4剤で,その内訳は無投薬C739検定,Fisherの直接法比較)例(11.7%),単剤C2,473例(39.1%),2剤C1,435例(22.7%),3剤C838例(13.3%),4剤C513例(8.1%),5剤C266例(4.2%),6剤C53例(0.8%),7剤C6例(0.1%)であった.使用薬剤の内訳を以下に示す.単剤はCFP作動薬C1,532例(61.9%),b遮断薬C476例(19.2%),EP2作動薬C255例(10.3剤2).3図,ROCK阻害薬62例(2.5%)などであった(%)はCFP/Cb配合剤C810例(56.4%),FP作動薬+b遮断薬C116表2前回調査との比較(|2検定)例(8.1%),CAI/Cb配合剤C115例(8.0%),FP作動薬+点眼CAI112例(7.8%)などであった(図4).2剤で最多となったCFP/b配合剤の内訳は,ラタノプロスト/カルテオロール配合剤C451例(55.7%),ラタノプロスト/チモロール配合剤C199例(24.6%),トラボプロスト/チモロール配合剤C61例(7.5%),タフルプロスト/チモロール配合剤C99例(12.2%)であった.3剤,4剤,5剤の薬剤内訳を表3に示す.配合剤使用例はC3剤C765例(91.3%),4剤C483例(94.2%),5剤C264今回調査前回調査p値症例数6,323例5,303例男女比2,765:C3,5582,347:C2,956C0.58平均年齢C69.2±13.3歳(5.C100歳)C68.7±13.1歳(1C1.C101歳)C0.09手術歴レーザー歴571例(C9.0%)312例(C4.9%)366例(C6.9%)220例(C4.1%)<C0.05<C0.01FP作動薬1,4131,532*476b遮断薬473107255*EP2作動薬962*ROCK阻害薬58イオン開口5747点眼CAI391578*a2作動薬14ab遮断薬136今回調査a1遮断薬67前回調査経口CAI41その他402004006008001,0001,2001,4001,600図3前回調査との比較(単剤使用比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP作動薬:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.CFP/b配合剤521810**FP+b116149**CAI/b配合剤115146*FP+点眼CAI112143**82FP+a2851041**CAI/a2配合剤032**27a2/b配合剤FP+ROCK2517a2+EP2916b+EP213今回調査9b+a235前回調査a2/ROCK配合剤08*50その他420100200300400500600700800900図4前回調査との比較(2剤比較)*p<0.05,**p<0.001(C|2検定)FP:FP受容体作動薬,EP2:EP2受容体作動薬,Cb:b遮断薬,Cab:ab遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬,ROCK:ROCK阻害薬.表33,4,5剤の処方内訳使用薬剤数処方薬剤組み合わせ患者数(例)割合(%)FP作動薬+CAI/b配合剤C21325.4%C3剤FP/b配合剤+点眼CCAIC14317.1%CFP/b配合剤+a2作動薬C11914.2%その他C36343.3%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤C18536.1%4剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬C7514.6%CFP/b配合剤+ROCK/a2配合剤C346.6%その他C21942.7%FP/b配合剤+CAI/a2配合剤+ROCK阻害薬C11844.4%5剤CFP作動薬+CAI/b配合剤+ROCK/a2配合剤C3814.3%FP作動薬+CAI/b配合剤+a2作動薬+ROCK阻害薬C3011.3%その他C8030.0%※配合剤はC2剤としてカウントし,使用ボトル数での試算はしていない.また,6剤以上の使用報告もあるが,件数は統計に必要なサンプル数を満たさなかった.例(99.2%)であった.配合剤C2本(4剤)使用はC4剤C229例(44.6%),5剤C186例(69.9%)であった.今回の調査結果をC2020年の前回調査10)の結果と比較した(表2).平均年齢は今回と前回で同等であった.病型は今回が前回に比べて原発開放隅角緑内障,前視野緑内障が有意に多く,原発閉塞隅角緑内障,正常眼圧緑内障が有意に少なかった(p<0.001).レーザー治療既往症例は今回のC312例(4.9%)が前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった(p<C0.01).緑内障手術既往症例は今回のC571例(9.0%)が前回のC366例(6.9%)に比べて有意に多かった(p<0.05).平均使用薬剤数は,今回調査で前回に比べて有意に増加した(p=0.05).使用薬剤数の分布では,単剤およびC2剤の使用が有意に減少し(p<0.05),5剤以上の使用が有意に増加した(p<0.001).単剤使用において,FP作動薬の使用率は前回調査と同等だったが,EP2作動薬(p<0.0001)およびROCK阻害薬(p<0.0001)の使用が有意に増加した.2剤使用では,FP/Cb配合剤の使用が有意に増加(p<0.0001),CCAI/b配合剤の使用が有意に減少(p<0.001)し,CAI/Ca2配合剤の使用が有意に増加した(p<0.001).3剤以上の使用に関して,配合剤の使用率はC3剤(p<C0.001),4剤(p<0.001),5剤(p<0.001)でいずれも有意に増加した.とくに,4剤では配合剤C2本の使用での処方が可能となり,今回調査でC44.6%にみられた.5剤では,配合剤C2本の使用が前回調査に比べて有意に増加した(p<C0.001).6剤以上の使用例もあったが,統計解析に必要なサンプル数を満たさなかった.III考按今回調査では,緑内障病型は正常眼圧緑内障C45.6%,原発開放隅角緑内障C33.1%と広義の原発開放隅角緑内障がC8割近くを占めた.多治見スタディ7)や過去の緑内障患者実態調査2.6)とも同様であった.また今回調査では,前回に比べて原発開放隅角緑内障が有意に増加し,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した.日本国民の屈折が近視化していることが一因と考えられる.緑内障診療ガイドライン第C4版にて,今までなかった緑内障の概念として前視野緑内障が定義された.前回調査は第C4版の発表後であったために前視野緑内障はC0.1%であったが,今回調査では前視野緑内障はC5.4%と有意に増加した.前視野緑内障の診断増加により,正常眼圧緑内障は今回調査C45.6%で前回調査C51.1%に比べて有意に減少した.レーザー治療既往症例は今回調査のC312例(4.9%)のほうが前回のC220例(4.1%)に比べて有意に多かった.レーザー種別では,レーザー虹彩切開術が今回C120例(38.5%)と前回のC151例(68.6%)に比べて有意に減少した.一方で,選択的レーザー線維柱帯形成術は今回調査でC174例(55.8%)と,前回のC68例(30.9%)に比べて有意に増加した.狭隅角,閉塞隅角症例の第一選択は白内障手術が選択されているためと考えられ,選択的レーザー線維柱帯形成術が増加しているのは,その効果や安全性が報告されている8)ためと考えられる.手術既往症例は今回調査でC9.0%と,前回のC6.9%に比べて有意に増加した.高齢化に伴う緑内障症例の増加と前回調査からの経年による進行例の増加によるものと考えた.術式にも変化があった.線維柱帯切除術は今回調査でC300例(52.6%)と前回のC263例(71.9%)から有意に減少した.一方で,低侵襲手術として負担が少なく,合併症も少ないCMinimallyInvasiveGlaucomaSurgeryの増加が今回調査に反映され,たとえば,iStent手術は今回調査C87例(15.3%)は前回調査C5例(1.4%)に比べて有意に増加した.使用薬剤数は今回調査で前回に比べて有意に多かった.配合剤が多数使われるようになったことなどが原因と考えられる.今回調査では単剤,2剤が有意に減少し,5剤が有意に増加した.配合剤の使用が増加したことが要因と考えられる.3剤以上の使用例では配合剤を使用する割合はC9割を超えた.また,配合剤の種類が増えたことによりC4剤以上の使用例で配合剤C2本を使用することも可能となった.今回調査の単剤の使用薬剤はCFP作動薬C61.9%,Cb遮断薬19.2%,EP2作動薬C10.3%の順であった.FP作用薬,Cb遮断薬が多いのは過去の緑内障患者実態調査C2.6)と同様であった.EP2作動薬は前回調査に比べて有意に増加したが,プロスタグランジン関連眼窩周囲症の副作用が少ない点8)が影響したと考えられた.2剤ではCFP/Cb配合剤がもっとも多く,ついでCFP作動薬+b遮断薬,CAI/Cb配合剤の順で,前回調査と同様だった.FP/Cb配合剤は有意に増加した.FP作動薬を単剤使用した後の治療強化として,FP/Cb配合剤が選択されていると考えられる.今回調査ではCCAI/Cb配合剤は有意に減少した.CAI/Ca2配合剤は有意に増加した.Cb遮断作用のないCa2作動薬を選択する傾向があると考えられる.また,前回調査から今回調査の間にCROCK/Ca2配合剤が使用可能となり,2剤目以降の選択も多様化したと考えた.今回調査ではC3剤以上についても検討した.3剤での配合剤使用例は今回調査ではC9割を超えており,前回調査9)と比べて有意に増加した.4剤での配合剤使用例も今回調査ではC9割を超えた.新規配合剤の登場により,前回調査では少なかったC4剤,5剤での配合剤C2本使用例の増加がめだった.従来の点眼本数を減らすことができて点眼アドヒアランス向上も見込めることから,配合剤は積極的に使用される傾向にあると考えられる.全体のまとめとしては,眼科医療施設における緑内障患者は原発開放隅角緑内障(広義)が多い.平均使用薬剤数はC1.8C±1.4剤であった.単剤はCFP作動薬が,2剤はCFP/Cb配合剤が依然として最多である.3剤は配合剤を使用する割合が9割以上を占め,4剤使用以上ではC2種類の配合剤使用が著明に増加した.本論文は第C35回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力頂いた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査.薬物治療..あたらしい眼科C25:1581-1585,C20083)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版C.薬物治療..あたらしい眼科28:874-878,C20114)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設による緑内障実態調査C2012年版C.薬物治療..あたらしい眼科C30:851-856,C20135)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20176)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年度版─薬物治療─.臨床眼科C75:C377-385,C20217)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheprevalenceofpriC-maryopen-angleglaucomainJapanese.theTajimistudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20048)GazzardG,EvgeniaK,DavidGetal:LaseringlaucomaandCocularhypertension(LiGHT)trial:six-yearCresultsCofCprimaryCselectiveClaserCtrabeculoplastyCversusCeyeCdropsforthetreatmentofglaucomaandocularhyperten-sion.OphthalmologyC130,C139-151,C20239)InoueCK,CShiokawaCM,CKatakuraCSCetal:PeriocularCadverseCreactionsCtoCOmidenepagCIsopropyl.CAmCJCOph-thalmolC237:114-121,C2022***

眼科IC支援システム「iCeyeアイシーアイ」を用いた 緑内障理解度調査

2018年8月31日 金曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(8):1127.1132,2018c眼科IC支援システム「iCeyeアイシーアイ」を用いた緑内障理解度調査猪口宗太郎*1井上賢治*1高橋篤史*2川添賢志*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2大宮・井上眼科クリニック*3東邦大学医療センター大橋病院眼科GlaucomaIntelligibilityInvestigationUsinganOphthalmologySupportSystem(iCeye)SoutarouInoguchi1),KenjiInoue1),AtsushiTakahashi2),KenjiKawazoe2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)OmiyaInouyeEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:眼科医療施設に勤務する職員に眼科知識の習得は不可欠である.緑内障に関しては緑内障ハンドブック(以下,テキスト)を用いて講義を行っていたが,それ以外に眼科知識の習得に有効なツールを検討した.対象および方法:2017年C3.4月に井上眼科病院グループの有志事務職員C39名(男性C23名,女性C16名)を対象としてアイシーアイ(以下,動画)とテキストを閲覧後,緑内障の理解度を0.4点のC5段階で評価し,比較した.緑内障概要,眼圧,視野欠損,自覚症状,緑内障の見え方のC5項目を用いた.結果:理解度の評価の平均点数は,緑内障概要は動画C3.4C±0.5点,テキストC3.0C±0.7点,眼圧は動画C3.3C±0.6点,テキストC3.0C±0.8点,視野欠損は動画C3.4C±0.6点,テキストC2.8C±0.8点,自覚症状は動画C3.3C±0.6点,テキストC3.2C±0.5点,緑内障の見え方は動画C3.5C±0.6点,テキストC3.0C±0.7点であった.緑内障概要,視野欠損,緑内障の見え方のC3項目で動画がテキストに比べ点数が有意に高かった(p<0.05).結論:緑内障に対しての理解を得るためのツールとして動画がより有用であることが示唆された.CPurpose:WeCinvestigatedCglaucomaCcomprehensionCusingCiCeye(videoCtutorial)andChandbook.CMethods:AtotalCofC39ChealthyCvolunteers(23Cmales,C16Cfemales)wereCincluded.CACquestionnaireCsurveyCwasCconductedCandCscoredaftervideotutorialandhandbookcompletion,toinvestigatethecomprehensionofglaucomade.nition,intra-ocularCpressure(IOP)C,CvisualC.eldCdefects,CsubjectiveCsymptomsCandCvisionCloss.CResults:TheCrespectiveCcompre-hensionscoresaftervideotutorialandhandbookcompletionwere3.4±0.5and3.0±0.7forglaucomade.nition,3.3C±0.6and3.0±0.8forIOP,3.4±0.6and2.8±0.8forvisual.elddefects,3.3±0.6and3.2±0.5forsubjectivesymp-toms,3.5±0.6and3.0±0.7forvisionloss.Comprehensionofglaucomade.nition,visual.elddefectsandvisionlossafterCvideoCcompletionCwasCsigni.cantlyChigherCthanCafterChandbookCcompletion(p<0.05)C.CConclusions:VideoCtutorialandhandbookwereequallye.ectiveinimprovingglaucomacomprehension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(8):1127.1132,C2018〕Keywords:眼科医療施設,緑内障教育,動画,テキスト.eyehospital,glaucomacomprehension,videotutorial,handbook.Cはじめに眼科向けインフォームド・コンセント支援ソフトウェア「iCeye(アイシーアイ)」(ミミル山房製作,以下,動画)は東京都眼科医会監修の眼科患者へのインフォームド・コンセントの支援用に作られた疾患解説動画コンテンツである.さまざまな眼科疾患について具体的にイメージできることを目的として製作された.病状の動画ではシミュレーション映像やコンピュータグラフィックを効果的に用いて疾患の部位や症状,治療方法などを詳しくわかりやすい言葉で説明している.『緑内障ハンドブック』(参天製薬発行.以下,テキスト)は「緑内障について」「治療について」「日常生活について」のC3項目に分けて,最新の情報をCQ&CA形式でわかりやすく説明している.日本眼科医会と日本緑内障学会の監修のも〔別刷請求先〕猪口宗太郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SoutarouInoguchi,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C1127とに製作された.患者がこのテキストを読むことで緑内障に対する理解を深めることができる.また,別冊の緑内障手帳を医師とのコミュニケーション手段の一つとして活用することで,患者に安心して治療を受けてもらうことを目的としている.井上眼科病院グループでは従来から職員の眼科疾患に対する教育にテキストを用いた講義を行っていたが,職員が眼科疾患について正しく理解できているか不明であった.そこで新たにテキスト以外に有効なツールはないか模索していた.そのころ動画の存在を知り,動画を使用することで眼科疾患についての理解度が向上すると考えた.今回,職員の眼科疾患に対する教育に動画を導入する前にテキストと比較し,動画の効果を緑内障を題材として検討した.CI対象および方法2017年C3.4月に井上眼科病院グループに勤務している事務職員C39名(男性23名,女性C16名,平均年齢C39C±9歳)で,緑内障の病歴がなく,緑内障の予備知識のない有志職員を対象とした.「緑内障の概要」「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「自覚症状がないのはなぜか」「緑内障患者の見え方」の動画テキスト図1「眼圧とは」動画とテキスト同様の図動画テキスト図2「視野欠損の仕組み」動画とテキスト同様の図動画テキスト図3「緑内障患者の見え方」動画とテキスト同様の図動画テキスト図4「緑内障の概要」動画とテキスト同様の文5項目についての最初に動画による視聴と,次にテキストの閲覧を行った.動画とテキストを比較して,「眼圧とは」「視野欠損の仕組み」「緑内障患者の見え方」のC3項目については同様の図があり(図1~3),「緑内障の概要」「自覚症状がないのはなぜか」のC2項目については,テキストに図が表示されておらず,文章のイメージに近い動画を選び比較した(図4,5).具体的にはまず全員でモニター画面により,前述したC5項目についての約C10分間の動画視聴を行い,その後,同様にC5項目のテキストを配布し,時間制限なしで閲覧した.そのうえで各々の理解度を動画,テキストともにC5段階に分け評価し,点数化した.「とても理解できた」4点,「理解できた」3点,「どちらともいえない」2点,「わかりにくかった」1点,「まったくわからない」0点とした.動画とテキストの点数を比較した.統計学的解析にはCc2検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.また,各項目についての感想を動画,テキストともに記載した.有志職員へのインフォームド・コンセントと井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得た.動画テキスト図5「自覚症状はないのはなぜか」動画とテキスト同様の文どちらともどちらともまったくわからない,いえない,いえない,1名,3%動画テキスト図6「緑内障の概要」の理解度II結果1.「緑内障の概要」(図6,表1)動画の点数はC3.4C±0.5点で,内訳は「とても理解できた」17名(44%)「理解できた」21名(54%)「どちらともいえない」1名(2,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.0±0.7点で,内訳は「とても理解できた」6名(15%),「理解できた」30名(77%),「どちらともいえない」2名(5%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.4C±0.,5点)のほうがテキスト(3.0C±0.7点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感想として動画では,「音声と動画で解説するため理解しやすい」,テキストでは,「自分のペースで何度でも読み返すことができて理解しやすい」などがあげられた.C2.「眼圧とは」(図7)動画の点数はC3.3C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」1130あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018表1動画とテキストの理解度の比較動画(点)テキスト(点)p値緑内障の概要C3.4±0.5C3.0±0.7p<C0.05眼圧についてC3.3±0.6C3.0±0.8Cp=0.5684視野欠損の仕組みC3.4±0.6C2.8±0.8p<C0.05自覚症状がないのはなぜかC3.3±0.6C3.2±0.5Cp=0.4478緑内障患者の見え方C3.5±0.6C3.0±0.7p<C0.0513名(33%)「理解できた」24名(61%)「どちらともいえない」1名(3,%)「わかりにくかった」1名,(3%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.0±0.8点で,内訳は「とても理解できた」8名(20%),「理解できた」26名(67%),「どちらともいえない」2名(5%)「わかりにくかった」2名(5%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.3C±0.6,点)とテキスト(3.0C±0.8点)の間に点数に有意差はなかった(p=0.5684).感想として動画では,「動く映像でみるとわかりやすい」,テキストでは,「図とイラストがあるためわかりやすい」などがあげられた.C3.「視野欠損の仕組み」(図8)動画の点数はC3.4C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」17名(44%)「理解できた」20名(51%)「どちらともいえない」2名(5,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC2.8±0.8点で,内訳は「とても理解できた」5名(13%),「理解できた」25名(64%),「どちらともいえない」6名(15%)「わかりにくかった」2名(5%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.4C±0.,6点)のほうがテキスト(2.8C±0.8点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感どちらともわかりにくかった,わかりにくかった,2名,5%どちらともまったくわからない,いえない,1名,3%まったくわからない,いえない,わかりにくかった,1名,3%1名,3%どちらとも1名,3%2名,5%2名,5%いえない,2名,5%動画テキスト図7「眼圧とは」の理解度動画テキスト図9「自覚症状がないのはなぜか」の理解度想として動画では,「視野欠損の経過がわかった」,テキストでは,「実際の映像でないので想像し難い」などがあげられた.C4.「自覚症状がないのはなぜか」(図9)動画の点数はC3.3C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」14名(36%)「理解できた」23名(59%)「どちらともいえない」2名(5,%)「わかりにくかった」0名,(0%)「まったくわからない」0名,(0%)であった.テキストの点,数はC3.2±0.5点で,内訳は「とても理解できた」9名(23%),「理解できた」27名(69%),「どちらともいえない」3名(8%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」0,名(0%)であった.動画(3.3C±0.6,点)とテキスト(3.2C±0.5点)の間に点数に有意差はなかった(p=0.4478).感想として動画では,「見え方の動画だと緑内障の怖さが伝わりやすい」,テキストでは,「文章の説明だと恐怖心が伝わりにくい」などがあげられた.C5.「緑内障患者の見え方」(図10)動画の点数はC3.5C±0.6点で,内訳は「とても理解できた」22名(56%)「理解できた」16名(41%)「どちらともいえない」1名(3,%),「わかりにくかった」0名,(0%),「まっ動画テキスト図8「視野欠損の仕組み」の理解度どちらともいえない,まったくわからない,1名,3%どちらともいえない,1名,3%4名,10%動画テキスト図10「緑内障患者の見え方」の理解度たくわからない」0名(0%)であった.テキストの点数は,C3.0±0.7点で,内訳は「とても理解できた」6名(15%),「理解できた」28名(72%),「どちらともいえない」4名(10%)「わかりにくかった」0名(0%)「まったくわからない」1,名(3%)であった.動画(3.5C±0.,6点)のほうがテキスト(3.0C±0.7点)より点数が有意に高かった(p<0.05).感想として動画では,「実際の見え方を映像でみられてわかりやすかった」,テキストでは,「文字だけでも理解できるが映像のほうが理解しやすい」などがあげられた.CIII考按医師は緑内障の病態を説明する際に眼球の断面図や模型を用いて説明し,さらにパンフレットなどを渡すことが一般的である.しかし,徐々に変化する病態や症状については,動画を用いたほうがわかりやすいと考えた.緑内障患者に対して医師や看護師が疾患を説明する際に,動画を用いることで患者の理解度が向上することが理想である.そこで緑内障患者に動画の視聴を試行する前に,今回は当院有志職員を対象に疾患への理解を促進する教育を行うことを想定して,動画の効果判定をテキストと比較することで検討した.今回動画表2動画とテキストのメリット,デメリットテキスト動画メリット・家に持ち帰り何回も見なおすことができる.・どこでも好きなときに好きな場所で見られる.・自分のペースで進められる.・どこをどうするといったことが一々説明する必要はない.・一目でわかりやすく,短い時間で説明することができる.・豊富な情報量を一気に見ることができる.デメリット・情報更新時に印刷をしなければならないため,時間がかかる.・保管しなければならないため,かさばる.・視機能が著しく低下している患者には理解が困難・パソコンなどの環境が整っていないと見ることができない.・パソコンやモバイルの故障時には使用できない.・視機能が著しく低下している患者には理解が困難として用いたCiCeyeによる眼科疾患の理解の検証は過去にない.さらに一般的な動画の有用性については緑内障の疾患説明に関しては過去に報告はないが,白内障手術や婦人科での化学療法オリエンテーションの説明では報告されている1,2).川上ら1)は,白内障手術の説明に際して,5分程度のCDVD(内容は「眼の構造」「白内障の病状説明」「白内障手術について」「白内障手術に伴うリスクについて」「手術後の見え方」「手術後の生活について」)を患者に視聴してもらったあと,医師が手術説明を行うこととした.その結果,医師の手術説明時間は短縮し,患者の理解度も向上した.しかし,高齢者,難聴を有する者,あるいは理解力が乏しい患者には理解がむずかしいと指摘している.また,横田ら2)は婦人科における化学療法オリエンテーションにおいて,DVDによる説明は視覚・聴覚ともに働きかけることができるため,言葉や文字だけでは伝わりにくい内容も映像を見ることでイメージしやすいと述べている.動画のもつ情報の伝達力は「3Vの法則」からも明らかである3).3Vとは「Verbal(言語)」「Vocal(聴覚)」「Visual(視覚)」のことで,3Vは人間の記憶に影響をもたらすものである.それぞれの「V」の与える影響の割合はCVerbalがC7%,VocalがC38%,VisualがC55%で,動画には「文字」「音声」「映像」のすべての情報が入っていることからその情報量は単純にテキストや写真と比較してC5,000倍ともいわれている.今回の調査でも視野欠損の過程や緑内障患者の見え方などは,動画のほうが症状の進行による変化をよりイメージしやすいと推測された.しかし,動画にもデメリットがあり,パソコンやスマートフォンなどの環境が整っていないと見ることができないことや,機械の故障時は使用できないことである(表2).テキストに関しては今回の調査ではテキストを配布して各自で閲覧した.しかし,緑内障患者へ疾患の説明を行う際には,医師や看護師が補足することで,より理解度が深まると考えられる.また,「緑内障の概要」については,テキストでは医学用語が多用されているため理解が困難で評価が低かったと考えられる.今回はテキスト,動画ともに内容の理解度を調査したので視聴や閲覧の順番は関係ないと考えて動画の視聴後にテキスト閲覧を行うことに統一した.テキストのメリットは持ち帰ることができ,どんなときでも好きな場所で自分のペースで読み返すことができることである.デメリットは情報更新時に毎回印刷をしなければならないこと,保管をしなければならないため場所を必要とすることである.動画とテキストに共通するデメリットは視機能が著しく低下した患者にはいずれも不向きなことである.緑内障に対して理解を得るためのツールとして動画の視聴はテキストの閲覧と同様に有効であると考えられる.今後は緑内障患者へ緑内障の病態や治療の重要性を説明する際にも動画が有効であるかの検討を行う必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川上礼子,櫻田菊代,村上ルミ子ほか:白内障手術患者に対する術前説明CDVD導入の効果.日本視機能看護学会誌C1:134-135,C20162)横田恵美子,濱崎正子,岡島真理子:DVDを使用した婦人科初回化学療法オリエンテーションを実施して.第C44回日本看護学会論文集(看護総合).p102-105,20143)竹内一郎:人は見た目がC9割.p18-20,新潮社,2005***

多施設による緑内障患者の実態調査2016年版─薬物治療─

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1035.1041,2017c多施設による緑内障患者の実態調査2016年版─薬物治療─永井瑞希*1比嘉利沙子*1塩川美菜子*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CurrentStatusofTherapyforGlaucomaatMultipleOphthalmicInstitutionsin2016MizukiNagai1),RisakoHiga1),MinakoShiokawa1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTimita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter緑内障患者の治療に関する実態を2012年に引き続き行い,前回調査と結果を比較した.本調査の趣旨に賛同した57施設を2016年3月7.13日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者4,288例4,288眼を対象として,緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.病型は,正常眼圧緑内障51.2%,原発開放隅角緑内障28.7%,続発緑内障8.8%などであった.使用薬剤数は平均1.7±1.2剤で,無投薬10.4%,1剤44.6%,2剤21.7%,3剤13.9%などであった.1剤使用例はプロスタグランジン(PG)関連薬73.9%,b(ab)遮断薬20.8%などであった.2剤使用例はPG/b配合剤28.7%,PG関連薬+b(ab)遮断薬28.4%,PG関連薬+a2刺激薬10.9%などであった.前回調査と比較し,1剤使用例はPG関連薬が有意に増加し,2剤使用例はPG/b配合剤が有意に増加し,PG関連薬とb遮断薬の併用が有意に減少した.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyat57ophthalmicinstitutions.Atotalof4,288patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisitedduringtheweekofMarch7,2016wereincluded.Theresultswerecomparedwiththoseofastudyperformedin2012.Patientswithnormal-tensionglaucomacomprised(51.2%),primaryopen-angleglaucoma(28.7%)andsecondaryglaucoma(8.8%).Monotherapywasindicatedin44.6%,2drugsin21.7%and3drugsin13.9%.Monotherapycomprisedprostaglandin(PG)analogin73.9%,b-blockersin20.8%.Inpatientsreceiving2drugs,acombinationofPGandb-blockers.xedwasusedin28.7%,combinationsofPGandb-blockersin28.4%andcombinationsofPGandalpha-2-stimulantin10.9%.PGinmonotherapywasunchangedthemostfrequentlyused.CombinationofPGandb-blockers.xedwasincreasedandcombinationsofPGandb-blockersweredecreasedin2-drugtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1035.1041,2017〕Keywords:眼科医療施設,緑内障治療薬,実態調査,配合点眼薬.ophthalmicinstitutions,glaucomamedication,investigation,.xedcombinationeyedrops.はじめに2003年に日本緑内障学会より緑内障診療ガイドラインが制定され,2006年に第2版,2012年に第3版が発表された1).われわれ眼科医は,緑内障診療ガイドラインを参考にして緑内障の診断,病型分類,治療を行っている.緑内障において唯一根拠が明確に示されている治療は依然として眼圧下降であり,その第一選択は薬物治療である2.5).新たな眼圧下降の作用機序を有する点眼薬や配合点眼薬,さらに後発医薬品の発売などで,緑内障薬物治療の選択肢は近年,大幅に広がっている.このため,緑内障診療を行ううえで,緑内障病型の発症頻度や薬物治療の実態を把握することは重要である.緑内障薬物治療の実態調査は過去にも報告されているが,いずれも大学病院を中心に行われており6.8),眼科専門病院やクリニックで行われたものはなかった.このため井上眼科病院では眼科専門病院やクリニックにおける緑内障患者実態調査を2007年に開始した9).その後,プロスタグランジン関連薬の種類が増加した後の2009年に第2回緑内障患者実態調査10),配合点眼薬発売後の2012年に第3回緑内障患者実態調査11)を施行した.〔別刷請求先〕永井瑞希:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MizukiNagai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(119)1035表1研究協力施設(57施設)北海道札幌市ふじた眼科クリニック板橋区江戸川区世田谷区荒川区世田谷区八王子市さわだ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科社本眼科菅原眼科クリニックそが眼科クリニック多摩眼科クリニック宮城県仙台市鬼怒川眼科医院茨城県ひたちなか市日立市いずみ眼科クリニックサンアイ眼科さいたま市石井眼科クリニックさいたま市さいき眼科葛飾区とやま眼科埼玉県吉川市たじま眼科・形成外科文京区中沢眼科医院幸手市さいたま市ふかさく眼科やながわ眼科東京都中央区品川区小金井市荒川区江東区台東区新宿区千代田区江戸川区中山眼科医院はしだ眼科クリニック東小金井駅前眼科町屋駅前眼科みやざき眼科もりちか眼科クリニック早稲田眼科診療所お茶の水・井上眼科クリニック西葛西・井上眼科病院千葉県千葉市山武郡船橋市松戸市千葉市船橋市習志野市あおやぎ眼科おおあみ眼科高根台眼科のだ眼科麻酔科医院本郷眼科みやけ眼科谷津駅前あじさい眼科千葉市吉田眼科横浜市鎌倉市眼科中井医院清川病院板橋区赤塚眼科はやし医院杉並区新宿区井荻菊池眼科いなげ眼科神奈川県横浜市大和市さいとう眼科セントルカ眼科・歯科クリニック荒川区うえだ眼科クリニック川崎市だんのうえ眼科クリニック調布市えぎ眼科仙川クリニック横浜市綱島駅前眼科東京都足立区足立区葛飾区国分寺市清瀬市えづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科清瀬えのき眼科静岡県伊東市ヒルサイド眼科クリニック福岡県遠賀郡福岡市いまこが眼科医院図師眼科医院熊本県宇土市むらかみ眼科クリニック国分寺市文京区後藤眼科駒込みつい眼科沖縄県沖縄市ガキヤ眼科医院そして今回,a2刺激薬やROCK阻害薬,2種類の配合点眼薬増加後の2016年に第4回緑内障患者実態調査を施行し,緑内障治療の実態を解明した.さらに,前回調査の結果11)と比較し経年変化を解析した.I対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した57施設において,2016年3月7日から同13日に施行した.調査の趣旨は緑内障診療を行ううえで,緑内障病型の発症頻度や薬物治療の実態を把握することが重要であるためとした.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数4,288例,男性1,839例,女性2,449例.年齢は7.102歳,68.1±13.0歳(平均±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合には右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあら(順不同・敬称略)かじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往について解析を行った.さらに前回の調査結果11)と比較した(c2検定).配合点眼薬は2剤として解析した.なお,前回調査11)では配合点眼薬を1剤として解析したので,今回調査と比較するにあたり,配合点眼薬を2剤として再解析を行い使用した.今回調査の各薬剤分布の比較にはc2検定,今回調査と前回調査の患者背景の年齢比較には対応のないt検定,使用薬剤数の比較にはMann-Whitney検定,男女比,手術既往症例の比較にはc2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果病型は,正常眼圧緑内障2,197例(51.2%),原発開放隅角緑内障1,232例(28.7%),続発緑内障378例(8.8%),高眼圧症242例(5.6%),原発閉塞隅角緑内障234例(5.5%)な表2調査票緑内障処方薬剤の一般名:<b遮断薬>1:水溶性チモロール,2:イオン応答ゲル化チモロール,3:熱応答ゲル化チモロール,4:カルテオロール,5:持続性カルテオロール,6:ベタキソロール,7:レボブノロール.<ab遮断薬>9:ニプラジロール.<PG(プロスタグランジン)製剤>11:イソプロピルウノプロストン,12:ラタノプロスト,13:トラボプロスト,14:タフルプロスト,15:ビマトプロスト.<配合剤>17:ラタノプロスト/チモロール配合薬,18:トラボプロスト/チモロール配合薬,19:ドルゾラミド/チモロール配合薬,20:ブリンゾラミド/チモロール配合薬,21:タフルプロスト/チモロール配合薬.<点眼CAI(炭酸脱水酵素阻害剤)>22:ドルゾラミド,23:ブリンゾラミド.<経口CAI>24:アセタゾラミド.<a1遮断薬>25:ブナゾシン.<a2刺激薬>26:ブリモニジン.<ROCK阻害薬>27:リパスジル.<その他>28:ピロカルピン,29:ジピベフリン原発閉塞隅角緑内障その他234例5.5%5例0.1%高眼圧症242例5.6%続発緑内障378例8.8%図1病型の内訳表31剤使用薬剤内訳分類一般名例%ラタノプロスト54528.5タフルプロスト30515.9PG関連薬トラボプロストPG関連薬後発品23417412.29.1イソプロピルウノプロストン844.4ビマトプロスト723.8持続性カルテオロール1236.4イオン応答ゲル化チモロール904.7b遮断薬後発品402.1b遮断薬水溶性チモロールカルテオロール39392.02.0レボブノロール180.9熱応答ゲル化チモロール150.8ベタキソロール40.2ab遮断薬ニプラジロールab遮断薬後発品2551.30.3点眼CAIブリンゾラミドドルゾラミド2281.104経口CAIアセタゾラミド10.1a1遮断薬ブナゾシン180.9a2刺激薬ブリモニジン402.1ROCK阻害薬リパスジル90.5その他その他40.2PG:プロスタグランジン,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.どであった(図1).緑内障手術既往症例は270例(6.3%)であった.その内訳は線維柱帯切除術が230例(85.2%),線維柱帯切開術が12例(4.4%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両術式が6例(2.2%)などであった.使用薬剤数は,平均1.7±1.2剤で,その内訳は無投薬が445例(10.4%),1剤が1,914例(44.6%),2剤が929例(21.7%),3剤が598例(13.9%),4剤が277例(6.5%),5剤が99例(2.3%),6剤が24例(0.6%),7剤が2例(0.051038あたらしい眼科Vol.34,No.7,20175剤,99例,2.3%6剤,24例,0.6%7剤,2例,0.05%4剤,277例,6.5%図2使用薬剤数%)であった(図2).使用薬剤の内訳は,1剤使用例はプロスタグランジン関連薬が1,414例(73.9%),bおよびab遮断薬が398例(20.8%),a2刺激薬が40例(2.1%)などであった.使用薬剤の詳細を表3に示す.プロスタグランジン関連薬では,ラタノプロスト545例(28.5%)が最多で,タフルプロスト305例(15.9%),トラボプロスト234例(12.2%)などであった.プロスタグランジン関連薬の後発医薬品は174例(9.1%)で使用されていた.b遮断薬では持続型カルテオロール123例(6.4%),イオン応答ゲル化チモロール90例(4.7%),チモロール39例(2.0%)などであった.b遮断薬の後発医薬品は40例(2.1%)で使用されていた.2剤使用例の内訳は,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が267例(28.7%),プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用が264例(28.4%),プロスタグランジン関連薬とa2刺激薬の併用が101例(10.9%),炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤が93例(10.0%)などであった(図3).プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤の内訳は,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬が146例(54.7%),トラボプロスト/チモロール配合点眼薬82例(30.7%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬が39例(14.6%)であった.炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤の内訳は,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬が64例(68.8%),ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬29例(31.2%)であった.3剤使用例の内訳は,炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤とプロスタグランジン関連薬の併用が236例(39.5%),プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用が62例(10.4%),プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用が58例(9.7%),プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤とa2刺激薬の併用が51例(8.5%)などであった.今回の調査結果を2012年の前回調査11)と比較すると,年齢は前回調査67.4±13.2歳と今回調査68.1±13.0歳で今回(122)その他,89例,9.6%PG+ROCK,23例,2.5%PG+点眼CAI,267例,28.7%CAI/b配合剤,93例,10.0%PG+a2,101例,10.9%図32剤使用薬剤内訳PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,ab:ab遮断薬,a2:a2刺激薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,ROCK:ROCK阻害薬.12.00剤10.447.5*1剤44.622.12剤21.713.53剤13.94.3**■前回調査(n=3,569)4剤6.5■今回調査(n=4,288)0.7**5剤以上2.901020304050%図5前回調査との比較(使用薬剤数)**p<0.0001,*p<0.05(c2検定).調査のほうが有意に高かった(p<0.05).男女比は前回調査男性1,503例,女性2,066例と今回調査男性1,839例,女性2,449例で同等だった.病型は今回調査,前回調査ともに正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障の順に多かった(図4).緑内障手術既往症例は今回調査6.3%,前回調査7.9%で今回調査のほうが有意に少なかった(p<0.05).平均使用薬剤数は前回調査1.5±1.3剤,今回調査1.7±1.2剤で有意に増加した(p<0.0001).使用薬剤数は今回調査は1剤が44.6%,2剤が21.7%,3剤が13.9%,4剤が6.5%,5剤以上が2.9%で,前回調査11)と比較すると1剤は有意に減少し(p<0.05),4剤と5剤以上は有意に増加した(p<0.0001)(図5).1剤使用例の使用薬剤は前回同様プロスタグランジン関連薬がもっとも多く,ついでb(ab)遮断薬であった.プロスタグランジン関連薬の使用は,前回調査70.4%に比べて今回調査73.9%では有意に増加し,一方b(ab)遮断薬の使用は前回調査26.5%に比べて今回調査20.8%では有意に減少した(p<0.05)(図6).2剤使用例の使用薬剤は,前回調査ではプロスタグランジ47.6%NS正常眼圧緑内障51.2%原発27.4%開放隅角緑内障28.7%原発7.6%閉塞隅角緑内障5.5%10.3%続発緑内障8.8%7.0%高眼圧症5.6%■前回調査(n=3569)■今回調査(n=4288)0.1%その他0.1%0102030405060%図4前回調査との比較(病型)70.4*PG関連薬73.926.5*b・ab遮断薬20.8■前回調査(n=3,569)1.5点眼CAI1.6■今回調査(n=4,288)01020304050607080%図6前回調査との比較(1剤使用例の薬剤)*p<0.05(c2検定).PG:プロスタグランジン,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.ン関連薬とb(ab)遮断薬の併用がもっとも多く,ついでプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤と続いたが,今回調査では,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤がもっとも多く,ついでプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用の順だった.順位の変動同様にプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤は前回調査16.9%に比べて今回調査28.7%では有意に増加,プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用は前回調査49.3%に比べて今回調査28.4%では有意に減少した(p<0.0001).また,炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤は前回調査6.7%に比べて今回調査10.0%では有意に増加,プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵阻害薬の併用は前回調査15.6%に比べて今回調査9.9%では有意に減少した(p<0.05)(図7).プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤と炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤の合計の比率は前回調査23.6%に比べて今回調査38.8%で有意に増加した(p<0.0001).16.9**PG/b配合剤28.7PG+b(ab)28.449.3**6.7*10.0■前回調査(n=3,569)15.6CAI/b配合剤*■今回調査(n=4,288)PG+点眼CAI9.90.010.020.030.040.050.0%図7前回調査との比較(2剤使用例の薬剤)**p<0.0001,*p<0.05(c2検定).PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,ab:ab遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.III考按今回調査の緑内障病型は,原発開放隅角緑内障(広義)が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は51.2%,原発開放隅角緑内障は28.7%であった.2000.2001年に行われた多治見スタディ12)においても原発開放隅角緑内障(広義)が約80%を占めており,今回調査と同様であった.さらに,現在までに施行した緑内障患者実態調査9.11)とも同様で,その頻度が変わっていないことが判明した.今回調査で前回調査に比べて多剤併用や平均使用薬剤数が増加したのは,a2刺激薬やROCK阻害薬など新しい眼圧下降の作用機序を有する薬剤が登場し,現行の処方に追加使用する症例が増加したためと考えられる.また,対象の年齢が今回調査のほうが前回調査に比べて有意に高かった.これは社会の高齢化や前回調査と同一の患者の経年変化などが考えられる.緑内障手術既往症例は今回調査のほうが前回調査に比べて有意に少なかった.これは新しい眼圧下降作用機序を有する点眼薬や配合点眼薬の開発により,手術ではなく多剤併用薬物治療を受ける患者が増えた結果と考える.1剤使用例の内訳はプロスタグランジン関連薬が73.9%,bおよびab遮断薬が20.8%,a2刺激薬が2.1%であった.現在までに施行した実態調査9.11)ともプロスタグランジン関連薬がもっとも多く,ついでb(ab)遮断薬の順であった.前回調査11)と比べてプロスタグランジン関連薬は有意に増加し,b(ab)遮断薬は有意に減少した.緑内障薬物治療の第一選択がますますプロスタグランジン関連薬となっていることが推測される.プロスタグランジン関連薬では,ラタノプロストが前回同様最多であった.発売から10年以上経過しており,その間に蓄積された使用経験により眼圧下降効果と安全性が多くの眼科医の信頼を得ているためと推察された.今回の調査では後発医薬品使用は11.4%と少なかった.わが国の後発医薬品は添加物の種類や濃度が先発医薬品と異なり13,14),後発医薬品の使用について慎重に考えている眼科医が多いと考えられた.また,今回調査ではa2刺激薬が3位となり,発売から時間が経過して新しく使用可能になったa2刺激薬やROCK阻害薬の使用が,今後増加する可能性がある.2剤使用例ではプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が最多,ついでプロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用の順だった.順位の変動同様にプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤は前回調査よりも有意に増加,プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬の併用は前回調査よりも有意に減少した.また,炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬配合剤は前回調査より有意に増加,プロスタグランジン関連薬と点眼炭酸脱水酵素阻害薬の併用は有意に減少した.前回調査よりも配合点眼薬使用が増加したのは,配合点眼薬の種類の増加,利便性・アドヒアランスの良さや併用と同等の眼圧下降効果が報告されている影響15)が示唆された.このため今後さらに配合点眼薬使用が増加すると考えられる.プロスタグランジン関連薬とa2刺激薬の併用が3位だった.a2刺激薬は全身性副作用が少なく高齢者にも使いやすい薬剤である.今後,プロスタグランジン関連薬への追加投与として,さらにa2刺激薬が使用される可能性も考えられる.また,眼圧下降の新しい作用機序を有するROCK阻害薬も全身性副作用が少なく高齢者にも使いやすい薬剤である.今後,プロスタグランジン関連薬への追加投与としてROCK阻害薬が使用される可能性も考えられる.3剤使用例では,配合点眼薬と単剤を併用している症例が多かった.このことからも配合点眼薬の利便性が使用増加に繋がっていると考えられる.今回調査は57施設4,288例,前回調査11)は39施設3,569例で行った.前回調査,今回調査ともに参加した施設は36施設であった.施設数や症例数も異なるため,両調査を直接的に比較することは妥当性がない可能性も考えられる.しかしなるべく多くの施設,多くの症例からデータを集めることで緑内障患者の実態がより判明すると考えて施設や症例を増加させて検討を行った.今回の緑内障患者実態調査をまとめると,眼科医療施設における緑内障患者は原発開放隅角緑内障(広義)が多い.使用薬剤数は1.7±1.2剤で,1剤使用例ではプロスタグランジン関連薬が依然として多く,前回調査と比較してプロスタグランジン関連薬が有意に増加し,b遮断薬が有意に減少した.2剤使用例ではプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が多く,前回調査と比較してプロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が有意に増加し,プロスタグランジン関連薬とb(ab)遮断薬併用が有意に減少した.配合点眼薬の使用割合は,2剤使用の約39%で,前回調査と比べて有意に増加し,今後も増加する可能性がある.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20122)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisual.elddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal;CIGTSStudyGroup:InternclinicaloutcomesintheCollaborativeIni-tialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreat-mentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmolo-gy108:1943-1953,20014)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOph-thalmol126:487-497,19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20026)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20067)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20068)柏木賢治,慢性疾患診療支援システム研究会:抗緑内障点眼薬に関する最近9年間の新規処方の変遷.眼薬理23:79-81,20099)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科25:1581-1585,200810)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,201111)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設による緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,201312)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.Ophthalmology111:1641-1648,200413)吉川啓司:後発医薬品点眼薬:臨床使用上の問題点.日本の眼科78:1331-1334,200714)山崎芳夫:配合剤と後発品の功罪.眼科53:673-683,201115)内田英哉,鵜木一彦,山林茂樹ほか:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較.あたらしい眼科32:425-428,2015***