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多施設による緑内障患者の治療実態調査2020 年版 ─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):945.950,2021c多施設による緑内障患者の治療実態調査2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─朴華*1井上賢治*2井上順治*1國松志保*1石田恭子*3富田剛司*2,3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科MulticenterSurveyStudyofGlaucomain2020:Normal-TensionGlaucomaandPrimaryOpenAngleGlaucomaHuaPiao1),KenjiInoue2),JunjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),KyokoIshida3)andGojiTomita2,3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障患者の実態調査から正常眼圧緑内障(NTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)患者の患者背景と使用薬剤を調査する.対象および方法:2020年C3月C8日.14日に本研究の趣旨に賛同したC78施設に受診したC5,303例5,303眼を対象とした.患者背景と使用薬剤を調査し,NTGとCPOAG患者を比較した.結果:NTGC2,710例(51.1%),CPOAG1,638例(30.9%)だった.使用薬剤数はCPOAG(2.2C±1.4剤)がCNTG(1.6C±1.0剤)より有意に多かった(p<0.0001).単剤使用例では両病型ともプロスタグランジン(PG)関連薬がもっとも多かった.2剤使用例では両病型ともCPG/b配合剤がもっとも多かった.結論:NTGがCPOAGより多く,PG関連薬は単剤使用例,PG/Cb配合剤はC2剤使用例で第一選択となっていた.NTGとCPOAGでは使用薬剤数に差はあるが,使用薬剤はほぼ同様だった.CPurpose:Toinvestigatethecharacteristicsandappliedmedicationsinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)orprimaryopen-angleglaucoma(POAG)C.PatientsandMethods:Thismulticentersurveystudyinvolved5,303NTG/POAGpatientsseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14,2020.Patientchar-acteristicsandthemedicationsusedwereinvestigatedandcomparedbetweenNTG/POAG.Results:Ofthe5,303patients,2,710(51.1%)werediagnosedasNTGand1,638(30.9%)werediagnosedasPOAG.ThemeannumberofCmedicationsCadministeredCforPOAG(2.2C±1.4)wasCsigni.cantlyCgreaterCthanCthatCforNTG(1.6C±1.0)(p<0.0001)C.CAsCforCtheCmonotherapyCandC.xed-combinationCtreatments,prostaglandin(PG)analogsCandCPG/b-block-ers,Crespectively,CwereCtheCmedicationsCmostCfrequentlyCadministered.CConclusion:OurC.ndingsCrevealedCmoreCNTGpatientsthanPOAGpatients.PGanalogswereusedinthemonotherapyand.xed-combinationPG/b-block-erswereusedinthecombinedtherapyas‘.rst-choice’medications,andnosigni.cantdi.erencewasfoundinthemedicationsusedbetweenNTGandPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):945.950,C2021〕Keywords:正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,薬物治療,多施設,配合点眼薬.normaltensionglaucoma,primaryopenangleglaucoma,medication,multipleinstitutions,.xedcombinationeyedrops.Cはじめに緑内障にはさまざまな病型があり,病型により治療方針は異なる1).緑内障診療ガイドライン1)には緑内障の病型別治療が記載されている.日本での緑内障の疫学調査として多治見スタディがあげられるが,多治見スタディでの緑内障有病率は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)3.6%,原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)0.3%であった2).緑内障診療ガイドラインではNTG,POAGの診断は「原発開放隅角緑内障(広義)は慢性進行性の視神経症であり,視神経乳頭と網膜視神経線維層に形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,他の疾患や先天異常を欠く病型,隅角鏡検査で〔別刷請求先〕朴華:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:HuaPiao,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-kuTokyo134-0088,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(97)C945正常開放隅角(隅角の機能的異常の存在を否定するものではない.)とした.NTGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が常に統計学的に規定された正常値(20CmmHg)にとどまるもの,POAGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が統計学的に規定された正常値(20CmmHg)を超えるもの」と定義している.筆者らはベースライン眼圧の違いにより患者背景や治療薬の使い方が異なるか疑問を抱いた.そこで臨床現場で通院中の緑内障患者の実態を知る目的で多施設での調査をC2007年に初めて行った3).続いてC2009年4),2012年5),2016年6)に再調査を行った.そのなかでCNTGとPOAGの患者背景や薬物治療の相違を検討した3.6).前回調査6)からC4年が経過し,その間に眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬(オミネデパグイソプロピル点眼薬)や配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能となった.そこで今回,再び緑内障患者の実態調査を実施した.そのなかでCNTG患者とCPOAG患者に対する患者背景と薬物治療の相違を検討した.また,経時的変化を合わせて検討した.CI対象および方法2020年C3月C8.14日のC7日間に本試験の趣旨に賛同した78施設に外来受診したすべての緑内障および高眼圧症の患者を対象とした(表1).総症例数はC5,303例C5,303眼(男性2,347例,女性C2,956例),平均年齢はC68.7C±13.1歳(平均値C±標準偏差,11.101歳)であった.調査は各施設にアンケート用紙を郵送し,記入してもらう方法で行った.アンケート項目は,年齢,性別,病型,緑内障使用薬剤(投薬数,使用薬剤),レーザー既往歴,手術既往歴である.回収したアンケート用紙からCNTGとCPOAG患者の年齢(対応のないCt検定),性別,レーザー既往歴,手術既往歴を比較した(Cc2検定).同様に使用薬剤数,単剤・2剤使用例の内訳を比較した(Mann-WhitneyU検定,Cc2検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,前回調査6)までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.さらに,2016年に同様の方法で行った前回調査6)の結果と比較した(Cc2検定).本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果1.病型全症例ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%),続発緑内障C435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%)などであった.性別はCNTGでは男性C1,116例,女性C1,594例,POAGでは男性C798例,女性C840例で,NTGで女性が有意に多かった(p<0.0001).平均年齢はCNTGC67.5±13.4歳,CPOAGC69.5±12.6歳で,POAGが有意に高かった(p<0.0001).レーザー既往ありはCNTG28例(1.0%),POAG46例(2.8%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).手術既往ありはCNTG30例(1.1%),POAG185例(11.3%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).C2.使用薬剤数平均薬剤数はNTGC1.6±1.0剤,POAGC2.2±1.4剤で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).NTGでは使用薬剤なしC160例(5.9%),1剤C1,452例(53.6%),2剤C657例(24.2%),3剤C302例(11.1%),4剤C109例(4.0%),5剤C27例(1.0%),6剤C3例(0.1%)であった.POAGでは使用薬剤なしC130例(7.9%),1剤C490例(29.9%),2剤C373例(22.8%),3剤C317例(19.4%),4剤C207例(12.6%),5剤C103例(6.3%),6剤C18例(1.1%)であった.1剤使用症例はCNTGが有意に多く(p<0.0001),3.6剤使用症例はそれぞれCPOAGが有意に多かった(p<0.0001).C3.単剤使用症例の薬剤(図1)NTG(1,452例),POAG(490例)ともにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が圧倒的に多く,NTGではC961例(66.2%),POAGではC363例(74.1%)であった.PG関連薬はCPOAGが有意に多かった(p<0.05).Cb(ab)遮断薬はCNTG,POAGともにCPG関連薬のつぎに多く,NTGではC328例(22.6%),POAGではC86例(17.5%)であった.Cb(ab)遮断薬はCNTGが有意に多かった(p<0.05).Ca2刺激薬はNTGでは59例(4.1%),POAGでは8例(1.6%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C4.2剤使用症例の薬剤(図2)NTG,POAGともに,PG/Cb配合点眼薬がもっとも多く(NTG303例C46.1%,POAG166例C44.5%),ついでCPG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用が多かった(NTG86例C13.1%,POAG53例C14.2%).Cb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用はCNTGではC31例(4.8%),POAGではC3例(0.8%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C5.前回調査と病型の比較今回調査ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%)で,開放隅角緑内障が約C82%を占めており,前回調査のCNTG2,197例(51.2%),POAG1,232例(28.7%)と同等だった.C6.前回調査と使用薬剤数の比較(図3)平均薬剤数はCNTGでは前回調査C1.5C±1.0剤,今回調査C1.6C±1.0剤で,POAGでは前回調査C2.1C±1.3剤,今回調査C2.2C±1.4剤であった.POAGが前回調査よりも平均薬剤数が有表1協力施設および協力医師名協力施設協力医師都道府県協力施設協力医師都道府県ふじた眼科クリニック藤田南都也北海道眼科中井医院中井倫子神奈川県中山眼科医院余敏子東京都さいとう眼科斎藤孝司神奈川県白金眼科クリニック西野由美子東京都あおやぎ眼科青柳睦美千葉県高輪台眼科クリニック社本真紀東京都本郷眼科吉川みゆき千葉県小川眼科診療所加藤美名子東京都吉田眼科吉田元千葉県もりちか眼科クリニック森近千都東京都のだ眼科麻酔科医院野田久代千葉県中沢眼科医院中澤正博東京都みやけ眼科野崎康嗣千葉県良田眼科良田夕里子東京都高根台眼科奈良俊作千葉県駒込みつい眼科三井義久東京都谷津駅前あじさい眼科田中まり千葉県菅原眼科クリニック菅原道孝東京都おおあみ眼科今井尚人千葉県うえだ眼科クリニック上田裕子東京都いずみ眼科クリニック泉雅子茨城県江本眼科江本有子東京都サンアイ眼科伏屋陽子茨城県えづれ眼科江連司東京都さいき眼科齋木裕埼玉県とやま眼科外山茂東京都林眼科医院林優埼玉県おおはら眼科大原重輝東京都石井眼科クリニック石井靖宏埼玉県的場眼科クリニック伊藤景子東京都やながわ眼科柳川隆志埼玉県篠崎駅前髙橋眼科髙橋千秋東京都ふかさく眼科深作貞文埼玉県かさい眼科笠井直子東京都たじま眼科・形成外科田島康弘埼玉県みやざき眼科宮崎明子東京都鬼怒川眼科医院鬼怒川雄一宮城県はしだ眼科クリニック橋田節子東京都さくら眼科・内科岡本寧一埼玉県にしかまた眼科簗島謙次東京都やなせ眼科矢那瀬淳一埼玉県久が原眼科芹沢聡志東京都博愛こばやし眼科小林一博長野県あつみ整形外科・眼科クリニック渥美清子東京都ヒルサイド眼科クリニック土田覚静岡県そが眼科クリニック蘇我孟志東京都あつみクリニック渥美清子静岡県早稲田眼科診療所尾崎良太東京都さいはく眼科クリニック瀬戸川章鳥取県井荻菊池眼科菊池亨東京都藤原眼科村木剛広島県ほりかわ眼科久我山井の頭通り堀川良高東京都大原ちか眼科大原千佳福岡県小滝橋西野眼科クリニック西野由美子東京都かわぞえ眼科クリニック川添賢志福岡県いなげ眼科稲毛佐知子東京都図師眼科医院図師郁子福岡県赤塚眼科はやし医院林殿宣東京都いまこが眼科医院藤川王哉福岡県えぎ眼科仙川クリニック江木東昇東京都槇眼科医院槇千里福岡県なかむら眼科・形成外科中村敏東京都むらかみ眼科クリニック村上茂樹熊本県西府ひかり眼科野口圭東京都川島眼科川島拓宮崎県東小金井駅前眼科三田覚東京都ガキヤ眼科医院我喜屋重光沖縄県後藤眼科後藤克博東京都札幌・井上眼科クリニック清水恒輔北海道おがわ眼科小川智美東京都大宮・井上眼科クリニック野崎令恵埼玉県立川しんどう眼科真藤辰幸東京都西葛西・井上眼科病院井上順治東京都だんのうえ眼科クリニック壇之上和彦神奈川県お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子東京都綱島駅前眼科芝龍寛神奈川県井上眼科病院井上賢治東京都NTG(1,452例)POAG(490例)a2刺激薬**点眼CAIa2刺激薬**点眼CAI*p<0.05,**p<0.001,c2検定図1単剤使用症例の薬剤(c2検定,*p<0.05,**p<0.001)CNTG(657例)POAG(373例)b(ab)**b(ab)4.8%PG+a26.7%CAI/b配合点眼薬7.3%PG+b(ab)*p<0.05,**p<0.001,c2検定13.1%図22剤使用症例の薬剤(c2検定,**p<0.001)CPOAG2020年2.2±1.4剤*2016年2.1±1.3剤(*p<0.05)0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤■2016年■2020年*p<0.05,Mann-Whitney-U検定,c2検定■2016年■2020年図3前回調査と使用薬剤数の比較(Mann-WhitneyU検定,c2検定,*p<0.05)意に増加し(p<0.05),NTGでは前回調査と同等だった(pC7.前回調査と単剤使用症例の比較(図4)=0.0749).NTG,POAGともに前回調査よりもCPG関連薬の使用割合が有意に減少した(p<0.0001,p<0.05).****NTGPOAG■2016年■2020年■2016年■2020年*p<0.05,**p<0.001,***p<0.0001,c2検定図5前回調査と2剤使用症例の比較(c2検定,*p<0.05,***p<0.0001)NTGではCPG関連薬がC74.0%からC66.2%(p<0.0001)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,a2刺激薬,ROCK阻害薬が増加したが,有意な増加はなかった.POAGではCPG関連薬がC80.2%からC74.1%(p<0.05)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(car-bonicCanhydraseinhibitor:CAI)が増加したが,有意な増加はなかった.またCNTG,POAGともに前回調査5)では未発売であったEP2受容体作動薬が今回調査では各々C5.5%,3.3%だった.C8.前回調査と2剤使用症例の比較(図5)NTGではCPG/b配合点眼薬はC31.4%からC46.1%と有意に増加した(p<0.0001).PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.5%からC13.1%と有意に減少し(p<0.0001),PG関連薬とCa2刺激薬の併用はC11.7%からC6.7%と有意に減少(p<0.001)した.CAI/b配合点眼薬,およびCPG関連薬とCCAIの併用はそれぞれ前回調査と同等だった.POAGではCPG/b配合点眼薬はC29.2%からC44.5%と有意に増加し(p<0.0001),PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.9%からC14.2%と有意に減少した(p<0.0001).CIII考按今回調査での緑内障病型は多治見スタディ2)や前回調査6)と同様で,NTG,POAG合わせて全緑内障患者のC80%近くを占めていた.病型ではCNTGで女性が男性より有意に多かった.若い女性のほうがコンタクトレンズ診療などでCNTGが発見されるケースなどが多いためと考えられる.平均年齢はCPOAGがCNTGに比べて有意に高かった.POAGは眼圧が高く,治療継続が良好な高齢者が多い可能性が考えられる.レーザー既往,手術既往はCPOAGがCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤数はCPOAGがCNTGと比べて有意に多かった.眼圧が高いCPOAGでは眼圧を下げるために薬物治療,レーザー,手術がより多く行われている可能性がある.前回調査との比較では病型は変化なかった.使用薬剤数はCPOAGで有意に増加,NTGでは同等だった.使用薬剤数は今回調査ではCNTGはC1剤がC53.6%で,前回調査(56.0%)と同様にC1剤使用例が過半数を占めていた.POAGではC1剤が今回調査C29.9%で,前回調査6)34.9%に比べて有意に減少し,4剤以上は今回調査C4剤C12.6%,5剤C6.3%と前回調査6)4剤C8.9%,5剤C4.5%よりも有意に増加した(p<0.05).配合点眼薬の使用促進により,点眼回数を増やすことなく薬剤の追加が可能になった.点眼ボトル数や点眼回数を減らすことにより,良好なアドヒアランスを保つことができると考えられる.単剤使用症例では,POAGがCNTGに比べてCPG関連薬が有意に多かった.POAGではCNTGよりも強い眼圧下降を期待するためと予想される.NTGではCPOAGと比べてCa2刺激薬が有意に多かった.NTG患者へのCa2刺激薬投与による視野障害進行速度が抑制されたという報告7)より神経保護効果を期待したことが原因と考えられる.一方,Cb(ab)遮断薬がCPOAGで有意に少ないのは,Cb(ab)遮断薬は全身性副作用出現の心配があり,循環器系,呼吸器系疾患を有する患者や高齢者では使用しづらい点が考えられる.実際にPOAG患者ではCNTG患者より有意に年齢が高かった.PG関連薬が今回調査ではCNTG66.2%,POAG74.1%で,前回調査(NTG74.0%,POAG80.2%)に比べて有意に減少した.新しい作用機序をもつCa2刺激薬,ROCK阻害薬やC2019年11月より使用可能になったCEP2受容体作動薬などの出現により点眼薬の選択肢が増えたことが原因と考えられる.2剤使用症例ではCb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用がNTGがCPOAGに比べて有意に多かった.PG関連薬を使用できないケースでは,Ca2刺激薬の神経保護作用7)を期待してとくにCNTGで使用されたと考える.NTG,POAGともに前回調査と比べてCPG/Cb配合点眼薬が有意に増加し,PG関連薬とCb遮断薬の併用が有意に減少した.アドヒアランス向上を目的として,配合点眼薬の使用が増加した影響と考えられる.NTGではCPG関連薬とCa2刺激薬の併用例は前回調査と比べて有意に減少した.PG関連薬への追加投与としてCROCK阻害薬など新しい作用機序の薬剤との組み合わせが増加したためと考えられる.今回調査から薬剤は一般名でデータを収集した.もっとも多くの症例を集めた井上眼科病院とお茶の水・井上眼科クリニックC1,474例(27.8%)ではC2018年C10月より配合点眼薬を除くほとんどの薬剤を一般名として処方することにした.そのため患者が先発医薬品あるいは後発医薬品のどちらを使用しているかは診療録からは判別できなくなった.そこで収集方法を変更した.このため前回調査との比較では正確な解析が行えていない可能性もある.今回調査をまとめると使用薬剤数がCPOAGでCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤の内訳はほぼ同様であったが,POAGでCPG関連薬,NTGでCb(ab)遮断薬,Ca2刺激薬の使用がやや多い傾向がみられた.今後も新しい配合点眼薬や眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬が使用可能になると予想される.薬物療法はさらに複雑化するので,今後も定期的に多施設で緑内障患者実態調査を行い,緑内障薬治療の実態把握に努めたい.謝辞:今回の実態調査の協力施設およびご協力いただいた先生を表C1へ記載する.この調査に参加していただき,診療録の調査,集計という,とても面倒な作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C20043)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C62:1699-1704,C20084)添田尚一,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2009年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C65:1251-1257,C20115)新井ゆりあ,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障患者の実態調査C2012年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C67:673-679,C20136)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2016年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C71:1541-1547,C20177)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOpthalmolC151:671-681,C2011***