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トラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(101)1010910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):101104,2009cはじめに緑内障の治療は薬物療法が基本であり,最近では,プロスタグランジン(PG)製剤点眼が主流である.しかし,PGは水に溶けにくいという性質をもっている.そのため,溶解補助剤を使用しなければならない.塩化ベンザルコニウム(BAC)は防腐剤としての作用があるが,溶解補助剤としての作用ももっている.そのため,ラタノプロスト点眼液には0.02%のBACが使用されており,BACの有効濃度0.0020.01%の倍以上の濃度である.しかし,BACには角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性があり,長期連用により,障害がまれに遷延化されることがある1,2).そこで,BACのかわりに,防腐剤として塩化亜鉛を用いたPG製剤点眼液,トラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)が開発された.このトラボプロスト点眼液の臨床使用成績,特に眼表面への影響を検討したので報告する.〔別刷請求先〕湖淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Abeno-ku,Osaka-city,Osaka545-0021,JAPANトラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響1大谷伸一郎*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*2*1湖崎眼科*2宮田眼科病院*3うのき眼科*4竹内眼科医院ClinicalEcacyofTravoprostOphthalmicSolution:EectOnOcularSurfaceJunKozaki1),SinichiroOhtani2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4)andKazunoriMiyata2)1)KozakiEyeClinic,2)MiyataEyeHospital,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic目的:緑内障点眼液は多剤を長期にわたり使用する可能性が高く,眼表面への安全性が望まれる.今回筆者らは,塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)の眼表面への影響を調査した.対象および方法:ラタノプロスト点眼液を3カ月以上単剤使用している緑内障患者114名を対象とし,BAC非含有トラボプロスト点眼液に変更して1カ月後の,眼圧,結膜,角膜への影響を調査した.結果:眼圧は変更前が15.4±3.5mmHgで,変更後が14.8±3.6mmHgとほぼ同等であった.約30%の症例では2mmHg以上の眼圧下降がみられた.結膜充血は変更前は23.7%にみられたが,変更後は21.1%であり,悪化した症例はなかった.点状表層角膜症(SPK)は変更前には114眼中67眼にみられたが,変更後は20眼となった.AD分類(Area-Densityclassication)によるSPKスコアの評価では,変更後有意に改善した(p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).結論:短期成績ではあるが,BAC非含有トラボプロスト点眼液の眼表面への安全性が確認できた.Glaucomaophthalmicsolutionsaregenerallyusedinlong-termmulti-drugtherapy,andareexpectedtocauselittleharmtotheocularsurface.Weinvestigatedtheocularsurfaceeectoftravoprostwithoutbenzalkoniumchlo-ride(BAC)(TravatanzR0.004%).In114glaucomapatientswhoreceivedlatanoprostmonotherapyover3months,weinvestigatedtheeectonintraocularpressure(IOP),conjunctivaandcorneaatonemonthafterswitchingtotravoprostwithoutBAC.IOPwerealmostequivalent,at15.4±3.5mmHgbeforeswitchingand14.8±3.6mmHgafterswitching.Conjunctivalhyperemiawasobservedin23.7%beforeswitchingand21.1%afterswitching.Supercalpunctatekeratopathy(SPK)wasobservedin67eyesbeforeswitchingandin20eyesafterswitching.TheevaluationofSPKscorebyArea-Densityclassicationwasimprovedsignicantly(p<0.0001,Wilcoxonsignedrank-test).Regardingeectontheocularsurface,theshort-termsafetyoftravoprostwithoutBACwasconrmed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):101104,2009〕Keywords:塩化ベンザルコニウム(BAC),プロスタグランジン製剤,ラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液.benzalkoniumchloride(BAC),prostaglandinanalogous,latanoprostophthalmicsolution,travoprostophthalmicsolution.———————————————————————-Page2102あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(102)I対象および方法1.対象参加4施設で通院中の,眼圧の安定している緑内障および高眼圧症患者で,3カ月以上ラタノプロスト点眼液を単剤で投与されている114名を対象とした.男性は36名,女性は78名であった.評価対象眼は眼圧の高いほうの眼とし,同じ眼圧であれば右眼を対象とした.内訳は原発開放隅角緑内障44眼,正常眼圧緑内障58眼,高眼圧症12眼であった.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,共同にて設置した倫理委員会の承認の後,患者より参加の同意を得て実施した.2.方法現在使用しているラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に変更し,変更前および変更1カ月後に視力を測定し,結膜を観察した.その後,フルオレセインで角膜を染色し,コバルトブルーフィルターまたは,ブルーフリーフィルターを用いて角膜を観察し,眼圧を測定した.結膜の充血は正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階で評価し,角膜所見は点状表層角膜症(SPK)をAD分類3,4)を用いて評価した.II結果変更前の矯正視力の平均は0.96で変更後も0.96と変更前後で有意差はなかった.眼圧は,変更前が15.4±3.5mmHg,変更後が14.8±3.6mmHgで有意差がみられた(p<0.01,pairedt-test).眼圧が2mmHg以上上昇した症例は17眼14.9%,2mmHg以上低下した症例は36眼31.6%であった.結膜充血は変更前が,軽度が24眼,中等度が3眼,重度は0眼で,23.7%に充血がみられた.変更後は軽度が21眼,中等度が3眼,重度が0眼と変化はなかった.SPKは114眼中,A0D0が47眼,A1D1が50眼,A1D2が2眼,A1D3が1眼,A2D1が7眼,A2D2が5眼,A3D2が2眼にみられ,67眼(58.8%)でSPKが認められた.変更後1カ月にはA0D0が94眼に増加,A1D1が15眼に,A1D2が1眼に,A1D3が0眼に,A2D1が2眼に,A2D2が2眼に,A3D2が0眼に減少し,20眼(17.5%)にSPKが認められた.ADスコア(A+D)の評価では変更後有意に改善した(p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest)(表1).全体では67眼中52眼(77.6%)で角膜所見は改善し,47眼(70.1%)でSPKは消失した.個々の変化は図1のごとくであった.悪化はA1D1からA1D2へ1眼,A1D1からA2D2へ1眼の計2眼であった.III代表症例〔症例1〕73歳,女性.両眼高眼圧症の左眼.図1切り替え前後のSPKスコア比較(p<0.01,chi-squaretest)023451切り替え前1月後153250962(点)47SPKスコア(A+D)表1変更前後のAD分類の変化(眼数)A0A1A2A3D047→94D150→157→2D22→15→22→0D31→0図2症例1:両眼高眼圧症(73歳,女性,左眼)a:角膜全域に軽度のSPK(A3D1)を認める.b:下方にわずかにSPKを認める.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009103(103)5年前から,ラタノプロスト点眼液を使用.自覚症状はないが,慢性的にSPK(A3D1)を両眼に認める(図2a).ラタノプロスト点眼液を中止し,トラボプロスト点眼液に変更した.変更後約1カ月で下方にSPKをわずかに残すのみとなった(図2b).眼圧は左眼=17mmHgから19mmHgへと上昇したが,視神経乳頭と視野に異常がないため,トラボプロスト点眼液は続行した.〔症例2〕81歳,男性.両眼原発開放隅角緑内障の左眼.2年前から,ラタノプロスト点眼液を使用.最近,両眼にかすみを自覚するようになる.両眼の中央部付近に帯状のSPK(A2D2)がみられた(図3a).ラタノプロスト点眼液を中止し,トラボプロスト点眼液に変更した.変更後12日でSPKは消失した(図3b).眼圧は変更の前後とも16mmHgで不変であった.IV考按ラタノプロスト点眼液からトラボプロスト(BAC含有)点眼液への切り替えによる臨床研究では,眼圧は下降もしくは同等との報告が多い57).BACは界面活性剤であるため,薬物の眼内移行を促進させる作用がある.そのため,BAC非含有のトラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)は眼圧下降効果への影響が懸念された.しかし,今回の調査で眼圧はほぼ同等であり,BAC非含有の影響はないものと思われた.また,Lewisら9)もBAC含有と非含有のトラボプロスト点眼液を比較して,眼圧は同等と報告している.今回,約30%の症例で2mmHg以上の眼圧下降がみられ,b遮断薬点眼液と同様にPG製剤内でもラタノプロスト点眼液との相互切り替えに使用できる可能性があると考える.充血については,無作為に抽出した症例での比較ではトラボプロスト点眼液のほうがラタノプロスト点眼液より強いとの報告がある5,6).しかし,切り替え試験では充血の程度は同等とも報告されており8),今回の筆者らの調査でも切り替え試験であり充血に差はみられなかった.同じプロスタグランジン誘導体であるラタノプロスト点眼液からの切り替えの場合,充血の増悪は少ないものと思われた.BAC非含有トラボプロスト点眼液は,BACが含有されていないため,ヒト培養角膜細胞10),ヒト培養結膜細胞11),動物実験12)において安全性が報告されている.しかし,臨床上の安全性の報告はみられない.今回の筆者らの切り替え試験ではSPKスコアは変更後有意に改善されており,変更前にSPKを認めた67眼中52眼(77.6%)の症例で角膜上皮の障害は改善された.緑内障は複数の点眼を長期にわたって使用する可能性が高い疾患である.また,高齢者は角膜上皮の再生予備能が低く涙液の基礎分泌も低下している.そのため,緑内障点眼液には他の点眼液以上に安全性が求められる.日常診療では,臨床上問題がないと思われていた緑内障患者の角膜に軽度(A1D1程度)ではあるが,多数のSPKがみられた.そして,BAC非含有トラボプロスト点眼液に切り替えることで,高率にSPKが改善,消失した.今回の研究は短期成績ではあるが,BAC非含有トラボプロスト点眼液の臨床使用上,眼表面への安全性が確認できたと思われる.今後も長期的な経過観察が必要である.文献1)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19992)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,20003)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19944)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsupercialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,2003図3症例2:両眼原発開放隅角緑内障(81歳,男性,左眼)a:角膜中央に帯状のSPK(A2D2)を認める.b:SPKはみられない.ab———————————————————————-Page4104あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(104)5)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:472-484,20016)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20037)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveecacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin21:1341-1345,20048)KumarRS,IstiantoroVW,HohSTetal:Ecacyandsafetyofasystematicswitchfromlatanoprosttotravo-prostinpatientswithglaucoma.JGlaucoma16:606-609,20079)LewisRA,KatsGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,200710)YeeRW,NereomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherela-tivetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvanceinTherapy23:511-518,200611)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,200712)KahookMY,NoeckerRJ:Comparisonofcornealandcon-junctivalchangeafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latonoprostwith0.02%benzalkonoumchlo-ride,andpreservative-freearticialtears.Cornea27:339-343,2008***