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光干渉式と超音波眼軸長測定装置による眼球生体計測値の比較検討

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1758.1764,2011c光干渉式と超音波眼軸長測定装置による眼球生体計測値の比較検討山下力*1,2前田史篤*1,2岡真由美*1,2田淵昭雄*1*1川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*2川崎医科大学眼科学教室ComparisonofOcularBiometryMeasurementsusingPartialCoherenceInterferometryandUltrasonographyTsutomuYamashita1,2),FumiatsuMaeda1,2),MayumiOka1,2)andAkioTabuchi1)1)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool目的:光干渉式および超音波眼軸長測定装置を用い,眼球生体計測値を比較検討した.対象および方法:対象は,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者101名101眼(平均年齢20±1歳)であり,屈折値は.3.1±3.2Dであった.眼軸長および前房深度,角膜厚の測定にはLENSTARLS900(以下,LS)およびOA-1000(以下,OA)とAL-3000(以下,AL)を用いた.水晶体厚の測定にはLSとALを用いた.結果:眼軸長の平均(mm)はLS24.86,OA(Immersion値)24.78,OA(Contact値)24.61,AL24.65であった.角膜厚(μm)はLS532.90,OA516.38,AL538.58で有意に相関し,OAは低値であった(p=0.0001).前房深度(mm)はLS3.67,OA3.79,AL3.71で有意に相関し,LSは低値であった(p=0.0070).水晶体厚(mm)はLS3.56,AL3.61で相関係数は0.56であり,有意な差を示した(p=0.0007).結論:機器により眼球生体計測値が異なることを認識する必要がある.Purpose:Tocompareocularbiometrymeasurementsusingpartialcoherenceinterferometryandultrasonography.SubjectsandMethods:Wemeasured101eyesof101normalvolunteers(meanage:20±1years)withnooculardiseases.Meanrefractiveerrorwas.3.1±3.2diopters.Axiallength,anteriorchamberdepthandcornealthicknessweremeasuredusingLENSTARLS900,OA-1000andAL-3000.LensthicknesswasmeasuredusingLENSTARLS900andAL-3000.Results:Axislengthaveraged24.86±1.37mmbyLS900,24.78±1.36mmbyOA-1000(Immersionvalue),24.61±1.36mmbyOA-1000(Contactvalue)and24.65±1.36mmbyAL-3000.Cornealthicknessaveraged532.90±28.92μmbyLS900,516.38±28.96μmbyOA-1000and538.58±28.96μmbyAL-3000.Thesethreevaluesweresignificantlycorrelatedwitheachother,buttheOA-1000cornealthicknessvaluesweresignificantlysmallerthanthoseoftheothertwodevices.Anteriorchamberdepthaveraged3.67±0.25mmbyLS900,3.79±0.24mmbyOA-1000and3.71±0.28mmbyAL-3000.Thesethreevaluesweresignificantlycorrelated,buttheLS900anteriorchamberdepthvaluesweresignificantlysmaller.Thecorrelationcoefficientwas0.56,andaveragelensthicknessshowedasignificantdifferencebetweenLS900(3.56±0.18mm)andAL-3000(3.61±0.18mm).Conclusion:Ocularbiometrymeasurementsdifferedamongtheinstruments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1758.1764,2011〕Keywords:生体計測,眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚.biometry,axiallength,cornealthickness,anteriorchamberdepth,lensthickness.はじめにに大きく影響を及ぼす.近年,光干渉式を原理とした眼球生白内障手術は,水晶体の混濁を取り除くためだけではな体計測器が続々と開発されており,計測値の評価を行ううえく,屈折矯正手術としての意味をもち,よりよい視機能を獲で各機器の特性を正しく把握する必要がある.得することが要求される.特に,術後屈折度は,患者満足度超音波眼軸長測定機器では眼内レンズ(IOL)度数計算の〔別刷請求先〕山下力:〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科Reprintrequests:TsutomuYamashita,DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,KurashikiCity701-0193,JAPAN175817581758あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(96)(00)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY 誤差要因に関して,眼軸長の測定誤差54%,術後前房深度予測の誤り38%,角膜屈折力の測定誤差8%とされている1,2).一方,光干渉式眼軸長測定装置では,非接触であること,測定時間が短いこと,検者間の測定誤差がなく再現性に優れること,および測定精度が高いことが知られている3.5).また光干渉式眼軸長測定値では,ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiometry)に掲載されているA定数を用いることや,超音波Aモードで計測される値に変換することにより,良好な術後屈折度が得られるようになった6).術後屈折度の誤差を最小限にするため,前房深度をパラメータに加えた新たな計算式を開発してIOL度数計算の精度向上が取り組まれている.超音波式と光干渉式の眼軸長測定装置を比較した論文では眼軸長や測定率,術後屈折値を検討した報告が多く,角膜厚,前房深度などの測定値を比較検討した報告は少ない.眼軸長のみならず眼球生体計測を正確に行ううえで,機器による測定値の違いや各機器との相関性,測定精度を把握しておくことは非常に重要である.そこで今回,光干渉式眼軸長測定装置としてLENSTARLS900RとOA-1000および超音波眼軸長測定装置としてAL-3000の3機種を同一症例に対して用い,正常眼の眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚の測定値とその精度を比較検討した.I対象および方法対象は屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者101名101眼(右眼)である.本研究は川崎医療福祉大学倫理委員会の承認を得て,十分にインフォームド・コンセントを得たうえで行った.年齢は20±1(平均±標準偏差)歳(19.23歳)で,屈折値は.3.1±3.2D(.11.0.+7.5D)であった.眼軸長,角膜厚,前房深度の計測にはLENSTARLS900R(以下,LS900,HAAG-STREIT),OA-1000(TOMEY),AL-3000(TOMEY)を用いた.水晶体厚の計測にはLS900とAL-3000を用いた.LS900は1回の計測で眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚の値が算出され,6回計測した平均値を採用した.OA-1000およびAL-3000での眼軸長,角膜厚,前房深度,水晶体厚は,1回の計測で得られる10データの平均値を採用した.OA-1000では,涙液表面から網膜色素上皮までの実測値を計測する「Optical値」,網膜の厚さを補正した「Immersion値」,超音波Aモードと同じ角膜表面から内境界膜までを計測した値に補正する「Contact値」の3種類の異なった計測値が算出される.本研究においてはOA-1000での眼軸長値は,Contact値およびImmersion値を求めた.測定は無散瞳下で行い,1名の検者がすべての測定を行った.各装置の測定時間帯を同一とした.各機器における眼球生体計測値の比較および相関関係は,統計学的に検討した.3機種における眼軸長,角膜厚および前房深度は,Friedman検定を用い比較検討を行った.そこで有意差が得られた場合,Scheffe多重比較法を行った.各機種の水晶体厚は,Wilcoxon符号順位和検定を用いた.相関関係の検討はSpearman順位相関係数を用い,危険率5%未満を統計学的に有意とした.各機種の精度比較はBland-Altmanplotを用い,測定値間の一致の程度を分析した.許容範囲内かどうかの評価や系統誤差は,2機種の測定値の差の平均値±標準偏差の1.96倍を95%LimitsofAgreement(以下,95%LoA)として算出した.II結果1.眼軸長各機種による眼軸長の平均値±標準偏差(括弧内は範囲)はLS90024.86±1.37mm(21.19.28.04),OA-1000(Immersion値)24.78±1.36mm(21.14.27.78),OA-1000(Contact値)24.61±1.36mm(20.98.27.61),AL-300024.65±1.36mm(21.08.27.73)であり,各機種間で有意差はなかった(表1).LS900はAL-3000よりも210μm長く,OA-1000(Immersion値)よりも130μm程度長く測定された.LS900とOA-1000(Immersion値),AL-3000とOA1000(Contact値)の相関係数はそれぞれ0.9991,0.9987であり,有意に高い相関を示した(すべてp=0.0001).Bland-Altmanplotによる分析では,LS900とOA-1000(Immersion値)との差は平均0.08mmであり,95%LoAが0.0.16mm表1各測定装置における眼球生体計測値眼軸長(mm)角膜厚(μm)前房深度(mm)水晶体厚(mm)LS90024.86±1.37(21.19.28.04)532.90±28.92(464.0.597.0)*3.67±0.25(3.17.4.26)**3.56±0.18(3.17.4.01)OA-100024.78±1.36(Immersion値)(21.14.27.78)516.38±28.963.79±0.24***OA-1000(Contact値)24.61±1.36(20.98.27.61)(449.2.581.1)*(3.28.4.43)AL-300024.65±1.36(21.08.27.73)538.58±28.96(467.0.612.0)3.71±0.28(3.04.4.43)3.61±0.18(3.20.4.04)Scheffe多重比較法(*:p=0.0001,**:p=0.0070),Wilcoxon符号順位和検定(***:p=0.0007).(97)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111759 (mm)(mm)LS-OA(Immersion)0.40.30.20.10-0.1-0.2-0.3-0.4mean0.08mean-1.96SDmean+1.96SDAL-OA(Contact)-0.4-0.3-0.2-0.100.10.20.30.4mean0.04mean-1.96SDmean+1.96SD202224262830(mm)202224262830(mm)〔LS+OA(Immersion)〕/2〔AL+OA(Contact)〕/2図1LSとOA(Immersion値),ALとOA(Contact値)の眼軸長のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOA(Immersion値)の差:0.08±0.04mm,95%LoA:0.0.16mm.ALとOA(Contact値)の差:0.04±0.05mm,95%LoA:.0.06.0.14mm.(μm)(μm)(μm)650650650600600600550550550OAOALS500500500450450450400400450LS500550600(μm)650400400450500AL(μm)55060065040040045AL0500550600(μm)650図2LSとOA,ALとLS,ALとOAとの角膜厚の相関LS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの相関では,y=0.9854x.8.7286,R2=0.9680,r=0.9705,p=0.0001.LSとALの相関では,y=0.8779x+59.979,R2=0.9284,r=0.9564,p=0.0001.OAとALの相関では,y=0.8685x+48.529,R2=0.9058,r=0.9405,p=0.0001.と,ばらつきが少なかった.AL-3000とOA-1000(Contact値)との差は平均0.04mmで,95%LoAが.0.06.0.14mmであり,AL-3000とOA-1000(Contact値)との一致の程度が高かった(図1).2.角膜厚各機種による角膜厚の平均値±標準偏差はLS900532.90±28.92μm(464.0.597.0),OA-1000516.38±28.96μm(449.2.581.1),AL-3000538.58±28.96μm(467.0.612.0)であった(表1).OA-1000は,LS900およびAL-3000に比べ有意に薄かった(p=0.0001).AL-3000とLS900の差は5.78μmであり,有意差はなかった.LS900とOA1000,LS900とAL-3000,OA-1000とAL-3000は有意に強く相関していた(相関係数はそれぞれ0.9705,0.9564,0.9405,すべてp=0.0001)(図2).Bland-Altmanplotによる分析では,LS900とOA-1000との測定値差は平均16.52μmで,95%LoAが6.33.26.70μmで,ばらつきが小さかった(図3).LS900とAL-3000およびOA-1000とAL1760あたらしい眼科Vol.28,No.12,20113000の比較検討では,2つの測定値の乖離が増加し比例誤差を生じた.これは,角膜が厚くなるとAL-3000はより角膜が厚く測定される傾向があることを示唆している.3.前房深度各機種による前房深度の平均値±標準偏差はLS9003.14±0.25mm(2.66.3.74),OA-10003.79±0.24mm(3.28.4.43),AL-30003.71±0.28mm(3.04.4.43)であった.LS900とOA-1000,LS900とAL-3000に有意な差を示した(すべてp=0.0001).LS900による前房深度は,角膜後面から水晶体前面までを計測しているため,LS900で計測した角膜厚を加算し求めた.角膜厚を含むLS900の前房深度は3.67±0.25mm(3.17.4.26)であり,OA-1000とは有意な差があった(p=0.0007)(表1).AL-3000とLS900の差は0.03mmであり,有意差はなかった.LS900とOA1000,LS900とAL-3000,OA-1000とAL-3000は有意に強く相関を示した(相関係数はそれぞれ0.9218,0.8118,0.8432,すべてp=0.0001)(図4).Bland-Altmanplotによ(98) (μm)(μm)(μm)60mean16.52mean-1.96SDmean+1.96SD40mean5.68mean-1.96SDmean+1.96SD60503050mean22.19mean-1.96SDmean+1.96SD20403020AL-OALS-OAAL-LS100-1010-200400450500550600650(μm)400450500550600650(μm)400450500550600650(μm)(LS+OA)/2(AL+LS)/2(AL+OA)/2図3LSとOA,ALとLS,ALとOAの角膜厚のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの差:16.52±5.20μm,95%LoA:6.33.26.70μm.ALとLSの差:5.68±8.67μm,95%LoA:.11.32.22.68μm,y=0.0934x.44.377,R2=0.1046,r=0.2819,p=0.0017.ALとOAの差:22.19±10.00μm,95%LoA:2.60.41.79μm,y=0.0946x.27.612,R2=0.0833,r=0.2474,p=0.0126.(mm)(mm)(mm)4.54.54.544.04OAOA3.5LS3.53.533.032.52.53.0LS3.54.0(mm)4.52.52.53AL3.54(mm)4.52.52.533.5AL44.5(mm)図4LSとOA,ALとLS,ALとOAの前房深度の相関LS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの相関では,y=0.8514x+0.6605,R2=0.8372,r=0.9218,p=0.0001.LSとALの相関では,y=0.7867x+0.7592,R2=0.6988,r=0.8118,p=0.0001.OAとALの相関では,y=0.7513x+1.005,R2=0.7684,r=0.8432,p=0.0001.(mm)(mm)(mm)0.60.60.6mean-0.12mean-1.96SDmean+1.96SDmean0.03mean-1.96SDmean+1.96SDmean-1.96SDmean+1.96SDmean-0.080.40.40.20.20.2AL-LSAL-OA-0.2-0.2-0.4-0.4LS-OA-0.2-0.400-0.6(mm)(mm)-0.6(mm)図5LSとOA,ALとLS,ALとOAの前房深度のBland.AltmanplotLS:LS900,OA:OA-1000,AL:AL-3000.LSとOAの差:.0.12±0.10mm,95%LoA:.0.31.0.08mm.ALとLSの差:0.03±0.15μm,95%LoA:.0.26.0.31mm.ALとOAの差:.0.08±0.13mm,95%LoA:.0.34.0.18mm,y=0.164x.0.6975,R2=0.0939,r=0.3086,p=0.0017.33.544.55(LS+OA)/233.544.55(AL+LS)/233.544.55(AL+OA)/2(99)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111761 (mm)(mm)4.50.60.44mean-1.96SDmean+1.96SDmean0.06AL-LS9000.20LS3.5-0.23-0.4-0.62.52.533.544.5(mm)2.533.544.5(mm)AL(AL+LS)/2図6ALとLSの水晶体厚の相関およびBland.AltmanplotLS:LS900,AL:AL-3000.ALとLSの相関では,y=0.5633x+1.5229,R2=0.3188,r=0.5578,p=0.0001.ALとLSの差:0.06±0.17mm,95%LoA:.0.27.0.38mm.る分析では,LS900とOA-1000の差は平均.0.12mmで,95%LoAが.0.31.0.08mmでばらつきが小さかった(図5).OA-1000とAL-3000の比較検討では,2つの測定値の乖離が増加し比例誤差が生じた.これは,前房深度が深くなるとAL-3000はより前房深度が深く測定される傾向があることを示唆している.4.水晶体厚各機種による水晶体厚の平均値±標準偏差はLS9003.56±0.18mm(3.17.4.01),AL-30003.61±0.18mm(3.20.4.04)で中程度の相関を示した(相関係数は0.5578,p=0.0001)(図6).AL-3000とLS900の測定値には有意差はあった(p=0.0007).III考按正確な眼球生体計測は,視機能評価,病態把握,白内障に対する術前検査として重要なことである.IOL度数計算の誤差原因としては,眼軸長測定,術後予想前房深度,角膜曲率半径の計測があげられ,眼球生体計測機種の測定精度および他との比較分析をすることが重要である.本研究では,光干渉式眼軸長測定装置としてLS900とOA-1000を対象とし,IOLMasterTMは採用しなかった.その理由は,IOLMasterTMでは角膜厚測定ができないこと,眼軸長測定が光干渉方式であるのに,前房深度に関してはスリット方式であり,眼測定部位により原理が異なることがあげられる.また,IOLMasterTMの測定光源が半導体レーザーであるのに対し,LS900およびOA-1000の測定光源はスーパールミネッセントダイオードレーザーという違いもあり,IOLMasterTMは除外した.光干渉式眼軸長測定は,非接触で圧迫や感染の心配がなく,短時間で測定でき測定精度や再現性が高いことが利点であるが,症例によっては測定限界がある.視軸上に強い混濁のある症例や固視不良例では測定困難となり,測定不能率が1762あたらしい眼科Vol.28,No.12,20118.15%程度認められる7.9).一方,超音波式測定は測定原理や測定部位が光干渉方式と異なり,検者の測定技術習熟度の差に左右されることが報告されている10).したがって,それぞれの測定原理や特徴を理解し,症例に応じた使い分けや測定技術の習得が重要である.本研究の眼軸長測定の結果は,LS900とOA-1000(Immersion値)および,AL-3000とOA-1000(Contact値)の相関が非常に高く,ばらつきも少なかった.OA-1000では,涙液表面から網膜色素上皮までの実測値を計測するOpticalモードでのOptical値,IOLMasterTMと同様に網膜厚を考慮したImmersion値,超音波Aモードと同じ角膜表面から内境界膜まで計測した値に補正するContact値である3種類の測定値を得ることができる.すなわち,実測値はOptical値,Immersion値,Contact値の順で長く,それぞれ150.300μmの差があると報告されている1).白内障眼に対しOA-1000の測定を行い,IOL計算の精度を検討した報告では,超音波式への眼軸長変換式を作成し用いることにより,従来のメーカー推奨A定数を使用し良好な成績を得ることができたとしている6).本研究においても,OA-1000の変換値は光干渉式であるLS900の値および超音波式であるAL-3000の値と相関し一致しており,Optical値からの変換は適切であり臨床上有用であると考えられる.角膜厚の目的は,角膜内皮細胞層の機能評価,角膜屈折矯正手術の適応評価,眼圧測定の誤差評価などである.高眼圧症では角膜厚が厚く,正常眼圧緑内障では角膜厚が薄いと報告されている11).角膜厚の測定は,原理が異なると測定結果に差異があることは知られている12).超音波式では局所麻酔点眼薬の角膜厚への影響13)があることや,超音波の反射面が角膜前面からDescemet膜の近傍となるため,角膜全層を測定していない可能性がある14).光干渉式では涙液層を含むことがその要因として考えられる.山村ら15)はOA-1000で健常者17例34眼の角膜厚を測定(100) し,超音波式やスリットスキャン式など原理の違う機器と比較検討した結果,約20.30μm有意に小さい値であったとしている.本研究でもOA-1000は低値であったことから,OA-1000で測定した角膜厚は補正が必要であると考えられる.Bland-Altmanplotによる精度比較において,超音波式のAL-3000と光干渉式のLS900とOA-1000との間に比例誤差を生じた.このことは,超音波式は角膜厚が厚く(薄く)なると,光干渉式よりも厚く(薄く)測定される傾向が示唆された.前房深度測定は,前房深度をパラメータとして用いるIOL度数計算式において,狭隅角のスクリーニング法や緑内障病態把握,治療方針決定に用いられている.本研究の前房深度測定の結果,各機種の相関は有意に強かったが,LS900とOA-1000の前房深度には0.12mmの有意な差があり,AL-3000とOA-1000には比例誤差を生じた.石塚ら16)は,白内障症例の42例78眼においてLS900とOA-1000の前房深度測定値には相関はなかったと報告している.OA-1000では,固視誘導を行い水晶体前面のピークを検出する方法であり,視軸や光軸での計測ではないことが要因だと考えられる.今回,水晶体混濁のない若年成人では両機器の相関があったが,白内障眼では相関を示さなかった原因としてつぎのことがあげられる.OA-1000の光干渉波は干渉領域が狭いため,水晶体の膨化や水晶体前面に凹凸などがあると,水晶体前面を垂直に捉えて干渉波ピークを得ることができない.そのため,固視方向や注視方向を2.9°.5.7°ずらすことでピークを捉えやすくなるという特徴があり,その固視誘導に伴う波形の検出にばらつきがあると考えられた.これらのことから,ピークを捉えるために症例によって固視方向や注視方向をずらす程度や方向が違うために,ばらつきが生じると考えられた.水晶体は加齢および調節に伴い厚くなり17,18),白内障の有無で水晶体の厚さに差があることが指摘されている19).眼軸長や前房深度を加味したIOL計算式では,加齢に伴い前房が浅くなり水晶体は厚くなることに対応できないことが予想され,水晶体厚も計算要素に加える必要がある.本研究において,LS900とAL-3000で測定された水晶体厚の差は0.06mmであり,原理や測定軸の違いがあり中程度の相関が得られ,ばらつきがあった.水晶体厚の測定には十分な調節麻痺が望ましいが,本研究では調節麻痺薬の点眼が角膜厚や前房深度に影響を及ぼすことを考慮して無散瞳で行った.眼軸長測定において,調節が水晶体厚および眼軸長に影響20.22)を及ぼした可能性が考えられた.本研究で用いた各眼球生体計測器の表示分解能に違いがある.LS900およびOA-1000の眼軸長,前房深度計測の分解能は0.01mmで,AL-3000では0.1mmである.また,角膜厚計測の分解能において,LS900は1μm,OA-1000は(101)10μm,AL-3000は5μmである.水晶体厚計測の分解能において,LS900は0.01mm,AL-3000は0.1mmである.機器の測定精度の違いが,本研究の結果に影響を及ぼしたことも考えられた.本研究では,LS900とOA-1000の角膜厚および前房深度には有意差があり,AL-3000とOA-1000の角膜厚,LS900とAL-3000の水晶体厚には有意差があった.しかし,角膜厚においてはLS900とAL-3000は5.68μmの差が生じ,前房深度においてはAL-3000とLS900およびOA-1000はそれぞれ0.03mm,0.08mmの差が生じたが有意差はなかった.表示分解能の統一が可能であれば,統計学的結果は異なったかもしれない.測定値の精度や誤差の観点から,その差異が臨床的に重要な意味を有するかは,今後において検討すべき点である.測定にあたっては,眼球生体計測法の原理や特徴を理解し,測定値を比較および評価する必要があり,複数の機器による測定が望ましいと考えられる.各施設において使用機器の傾向の把握をしておく必要がある.文献1)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg34:368-376,20082)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg18:125-129,19923)嶺井利沙子,清水公也,魚里博:IOLMasterTM.眼科手術15:49-51,20024)佐藤彩,須藤史子,島村恵美子ほか:眼内レンズ度数算出における非接触式眼軸長測定装置(IOLマスターTM)の有用性.あたらしい眼科22:505-509,20055)須藤史子:光干渉眼軸長測定装置.眼科手術22:197-202,20096)水島由紀子,川名啓介,須藤史子ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置による眼軸長測定の検討.眼科手術23:453457,20107)佐藤千秋,須藤史子,島村恵美子ほか:IOLMasterTMにおける信頼性係数(SNR)別術後成績.日視会誌34:107113,20058)SutoC,SatoC,ShimamuraEetal:Influenceofthesignal-to-noiseratioontheaccuracyofIOLMastermeasurements.JCataractRefractSurg33:2062-2066,20079)NarvaezJ,CherwekDH,StultingRDetal:Comparingimmersionultrasoundwithpartialcoherenceinterferometryforintraocularlenspowercalculation.OphthalmicSurgLasersImaging39:30-34,200810)島村恵美子,須藤史子,菊池理香ほか:眼内レンズ度数予測のための生体計測の検者別精度.日視会誌32:163-168,200311)CoptRP,ThomasR,MermoudA:Cornealthicknessinocularhypertension,primaryopen-angleglaucoma,andnormaltensionglaucoma.ArchOphthalmol117:14-16,199912)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Cornealthicknessmeasurements:scanning-slitcornealtopographyandnonconあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111763 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