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プロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1 日薬剤費の比較

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(119)1179《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1179?1181,2011cはじめに近年,緑内障治療の主流となっているプロスタグランジン関連点眼薬に関し,新たな薬剤の登場,イソプロピルウノプロストン点眼薬の後発医薬品(後発品)の発売など,治療の選択肢が広がってきている.筆者らは,これまでに点眼薬の1滴量の品目間の違いを指摘し,薬剤費を評価するにあたっては,1瓶当たりの薬価のみを比較するのではなく,1瓶の点眼薬を実際に使用できる期間を含めて評価する必要があることを報告してきた1,2).後発品は先発医薬品(先発品)に比べ薬価が安いが,実際に1滴量や充?量を加味して比較すると,先発品と実際の費用がほとんど変わらない品目も存在している2).今回,プロスタグランジン関連点眼薬の先発品と後発品について,1瓶当たりの滴下可能期間および1日薬剤費の算出と比較を行った.I対象および方法2010年3月までに入手できたプロスタグランジン関連薬の先発品および後発品を対象とし,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発品を含む5品目,0.005%ラタノプ〔別刷請求先〕冨田隆志:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学病院薬剤部Reprintrequests:TakashiTomita,DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima734-8551,JAPANプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較冨田隆志*1櫻下弘志*1池田博昭*1塚本秀利*2木平健治*1*1広島大学病院薬剤部*2高山眼科UsablePeriodandDailyCostofProstaglandin-likeAgentOphthalmicSolutionsTakashiTomita1),HiroshiSakurashita1),HiroakiIkeda1),HidetoshiTsukamoto2)andKenjiKihira1)1)DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,2)TakayamaEyeClinicプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較検討のため,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発医薬品を含む6品目(5mL),0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発医薬品(2.5mL)の点眼薬の総滴数と滴下総容量を計測し,1日使用回数と薬価から両眼使用時の滴下可能期間,1日薬剤費を算出した.滴下可能期間,1日薬剤費はイソプロピルウノプロストン先発医薬品がそれぞれ33.3日,30.0円,同後発医薬品がそれぞれ35.7~53.9日,13.4~20.3円,その他の品目がそれぞれ38.8~49.5日,47.4~61.7円で,品目間の実際の費用の差は薬価差以上であった.滴下可能期間はいずれも4週間を超えており,特に長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが重要と考えられる.Weexaminedtheusableperiodanddailycostofophthalmicsolutionsofprostaglandin-likeagents.Sixproductformulationsofisopropylunoprostoneandinnovatorproductformulationsoflatanoprost,travoprost,tafluprostandbimatoprostweremeasuredastototalvolumeanddropcountperbottle.Dailycostwascalculatedonthebasisofstandarddailydosageandofficialpriceofeachproduct.Theusableperiodanddailycostoftheunoprostoneinnovatorproductwere33.3daysand30.0yen,respectively;fortheunoprostonegenericformulationsthefiguresrangedfrom35.7to53.9daysand13.4to20.3yen;otherproductformulationsrangedfrom38.8to49.5daysand47.4to61.7yen.Differenceinactualpharmaceuticalcostwasgreaterthaninofficialprice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1179?1181,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,後発医薬品,滴下可能期間,薬剤費.prostaglandin-analogue,genericproducts,usableperiod,medicationcost.1180あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(120)ロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発品を用いた.各品目の容量などを表1に示した.前報2)と同様に,点眼薬は室温(23℃)で10mLメスシリンダー(スーパーグレード,許容誤差0.05mL,柴田科学器械工業,東京)に,専任者1名による滴下により,1瓶から滴下できた総滴数および総容量を計測し,総容量を総滴数で除して1滴量を求めた.滴下は手指による加圧により,1滴ずつ点眼瓶内に空気を戻しながら行った.点眼1回の滴下量を1滴とし,添付文書記載の用法で両眼に使用した場合の1日使用滴数で1瓶当たりの総滴数を除して1瓶の点眼薬の滴下可能期間を求め,2010年4月改訂の薬価基準価格(薬価)に基づく1瓶当たりの価格を滴下可能期間で除して1日薬剤費を算出した.各品目について3瓶の計測を行い,いずれも平均値をデータとした.なお,タフルプロスト製剤は添加物のベンザルコニウム塩化物濃度の変更があったため,変更前後の製剤の検討を行い,その差についてはWelch’sttestで評価した.II結果11品目の検討の結果を表1に示す.1滴量は25.0~38.2μLで,最大で約1.5倍の差が認められた.また,1瓶からの滴下総容量は表示容量の100~116%であった.イソプロピルウノプロストン製剤の滴下総容量,1滴量,滴下可能期間,1日薬剤費については,先発品がそれぞれ5.1mL,38.2μL,33日,68.2円,同後発品5品目がそれぞれ5.0~5.4mL,25.0~35.7μL,35~53日,29.5~44.5円であった.イソプロピルウノプロストン後発品の1滴量はいずれも先発品よりも少なかった.その他のプロスタグランジン関連薬各先発品の結果については,それぞれ2.65~2.91mL,27.6~35.6μL,37.8~49.5日,47.4~63.4円であった.また,タフルプロスト製剤の1表2各点眼薬の計測結果製品名総滴数(滴)滴下総容量(mL)1滴量(μL)滴下可能期間(日)1日薬剤費(円)キサラタンR点眼液0.005%91.3±0.92.91±0.0331.9±0.445.7±0.550.8±0.5トラバタンズR点眼液0.004%99.0±0.82.73±0.0327.6±0.149.5±0.449.6±0.4タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)75.7±2.52.65±0.0435.1±1.137.8±1.263.4±2.1タプロスR点眼液0.0015%(新処方)77.7±2.52.77±0.0535.6±0.838.8±1.261.7±2.0ルミガンR点眼液0.03%98.7±0.92.81±0.0128.4±0.349.3±0.547.4±0.4レスキュラR点眼液0.12%133.0±2.95.08±0.0238.2±0.833.3±0.730.0±0.7イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」142.7±4.15.09±0.0135.7±1.035.7±1.020.3±0.6イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」215.7±4.55.39±0.0125.0±0.553.9±1.113.4±0.3イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」142.7±2.65.03±0.0335.3±0.935.7±0.720.3±0.4イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」181.0±2.65.11±0.0428.2±0.445.3±0.516.0±0.2イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」171.7±1.25.02±0.0429.2±0.342.9±0.316.9±0.1点眼瓶から1滴ずつ滴下して滴下可能であった総滴数,総容量から1滴量を求め,1日使用滴数,薬価を基に滴下可能期間,1日薬剤費算出した.結果は各品目3瓶の計測結果の平均値(±SD).表1使用した点眼薬と薬価製品名一般名1瓶の表示容量(mL)薬価(円/mL)1瓶薬価(円)1日用量(滴/両眼)キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト2.5928.52,321.252トラバタンズR点眼液0.004%トラボプロスト2.5981.82,454.502タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502タプロスR点眼液0.0015%(新処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502ルミガンR点眼液0.03%ビマトプロスト2.5935.12,337.752レスキュラR点眼液0.12%イソプロピルウノプロストン5.0398.41,992.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004薬価は2010年4月現在.(121)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111181滴量は旧製品が35.1±1.1μL,新製品が35.6±0.8μLであった(p=0.56).III考察現在の緑内障の薬物治療の中心は点眼による眼圧下降であり,緑内障患者は生涯にわたって点眼薬を使用する必要がある.長期にわたる疾患治療にかかる薬剤費の情報は,患者にとって大きな関心事であり,薬剤に関する説明を行う医療者にとっても重要である.治療に用いる薬剤費がコンプライアンスに影響を及ぼすとの報告もあり3),治療薬の選択のうえでは,点眼薬の種類によって異なる眼圧降下作用,保管条件や点眼使用感を加味したうえで,その経済性も考慮することが望まれる.点眼薬の滴下量は,薬剤の種類,点眼容器の形状,添加物の濃度などの影響を受けるため1,2),点眼薬の経済性比較を行う際には,1瓶当たりの薬価のみでなく,その1滴量を反映させた評価が必要である.本検討では,プロスタグランジン関連薬の1瓶当たりの総滴数と総容量を実際に計測し,滴下可能期間と1日薬剤費を算出し,その比較を行った.今回検討した点眼薬の1滴量は25.0~38.2μLで,結膜?に保持可能な容量が約30μL,眼表面に存在する涙液量が約7μLとされており4),いずれの品目でも1回の点眼で結膜?に保持可能な容量を1滴で確保しており,適正な範囲にあることが確認された.1日薬剤費については,イソプロピルウノプロストン製剤後発品の先発品に対する薬剤費は,1mL当たりの薬価比が0.70であるのに対し,1滴量を加味した1日薬剤費の比は,0.45~0.68と,その差がより大きく,品目間にも差が認められた.イソプロピルウノプロストン先発品から後発品へ変更を検討する場合,最大の薬剤費の差は3割負担で考えても1日5.1円となる.この費用差は患者に提供すべき情報の一つであり,品目を選択する際の判断に有益と思われる.その他の品目についても,品目間で1日薬剤費に1.33倍の差が認められ,その差は薬価の差である1.06倍よりも大きかった.先発品と後発品の比較と異なり,眼圧低下効果などの違いを考慮に入れる必要はあるが,薬価の差はほとんどないにもかかわらず,実際の薬剤費に比較的大きな違いがあることは,薬剤選択の際の重要な情報といえる.なお,添加物濃度の変更は1滴量に変化を生じることがある5,6)が,今回のベンザルコニウム塩化物濃度の変更はタフルプロスト製剤の1滴量に影響を及ぼしていなかった.一方,1瓶の点眼薬がいつまで使用できるのか,という情報も,患者のライフスタイル支援やコンプライアンス確認,処方量の決定を行ううえで重要になる.1滴量の違いにより,1瓶の点眼薬の使用可能期間にも違いが出ているため,滴下可能期間は先発品の33.3日から後発品の最長53.9日と,最大で1.62倍の違いがみられた.品目の切り替えにより,患者の来院頻度の変化や,併用薬剤の組み合わせにおいて,点眼薬の処方量を変更する必要が生じることも考えられる.また,1瓶の容器をくり返し使用する点眼薬では,使用開始から長期間経過すると細菌汚染などを受けやすくなる7).多くの品目の添付文書などでも,明確な根拠は示されていないものの,開封から4週間を使用期限とすることが求められており,長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが特に必要と考えられる.なお,今回の検討結果は1回1滴を確実に滴下した場合の理論的な数値である.理想的条件で消費された場合,滴下可能期間はすべての製品で4週間を上回っているが,1回に2滴以上の滴下や,点眼の失敗によるさし直しなども多く発生しており,現実にはこの期間は短縮すると考えられ,今回検討した薬剤費や滴下可能期間の情報は,品目間の相対的な評価指標として利用すべきと考える.また,いずれの品目も総容量は表示の容量を超えていたが,一部では表示容量を10%以上超えて滴下可能であった.濃度が適正であれば,容量が多くても使用に問題はないが,過剰な充?量は4週間という使用期限を超えて使用を続ける要因となりうると考えられる.なお,今回検討に用いた点眼薬は,すべて各販売企業より提供を受けた.これを除き,筆者らは各販売企業より,研究費その他の提供は受けていない.文献1)IkedaH,SatoE,KitauraTetal:DailycostofophthalmicsolutionsfortreatingglaucomainJapan.JpnJOphthalmol45:99-102,20012)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:b遮断点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,20093)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarriersinglaucoma:asystematicclassification.JGlaucoma12:393-398,20034)MishimaS,GassetA,KlyceDJretal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-276,19665)VanSantvlietL,LudwigA:Determinantsofeyedropsize.SurvOphthalmol49:197-213,20046)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20067)野村征敬,塚本秀利,池田博昭ほか:眼科外来患者が使用中の点眼瓶の汚染率の検討.眼臨99:779-782,2005***