‘視細胞内節外節境界部’ タグのついている投稿

2 種類の光干渉断層計を用いて観察した外傷性低眼圧黄斑症の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)1170910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):117120,2009cはじめに鈍的外傷や濾過手術後などに低眼圧が持続すると,網脈絡膜皺襞や低眼圧黄斑症をはじめとするさまざまな病態が生じ,続発して視力の低下や歪視が出現し,低眼圧黄斑症とよばれる1).低眼圧黄斑症に関する報告は,これまでに数多くみられるものの27),光干渉断層計(opticalcoherencetomo-graphy:OCT)を用いて黄斑形態を検討した報告は比較的少なく2,3),また網膜外層のOCT所見に着目した報告は,調べた限りでは存在しない.今回筆者らは,Time-DomainOCT(TD-OCT),Spectral-DomainOCT(SD-OCT)の2種類の光干渉断層計を用いて,黄斑形態,特に網膜外層所見を観察した低眼圧黄斑症の1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕大井城一郎:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座眼科学Reprintrequests:JouichirouOoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalScience,8-35-1Sakuragaoka,Kagoshima890-8520,JAPAN2種類の光干渉断層計を用いて観察した外傷性低眼圧黄斑症の1例大井城一郎山切啓太園田恭志坂本泰二鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座眼科学ACaseofTraumaticHypotonyMaculopathyEvaluatedbyTwoKindsofOpticalCoherenceTomographyJouichirouOoi,KeitaYamakiri,YasushiSonodaandTaijiSakamotoDepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalScience目的:Time-Domain(TD),Spectral-Domain(SD)形式の2種類の光干渉断層計(OCT)を用いて評価した外傷性低眼圧黄斑症の1例を報告する.症例:49歳,女性.右眼を殴られ受傷し視力低下を主訴に受診した.右眼矯正視力は(0.2),眼圧は6mmHgであり,浅前房で白内障があった.乳頭は浮腫状で網膜血管の蛇行と黄斑周囲に放射状の皺襞がみられ,外傷性白内障,低眼圧黄斑症と診断した.TD-OCTでは網脈絡膜の皺襞による蛇行所見があり,中心窩の視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)は低反射であった.経過:白内障手術後眼圧は回復し,SD-OCTでIS/OSラインも描出されたが,再び低眼圧となり視力も低下した.硝子体手術を施行したが眼圧,視力は回復していない.結論:再手術後のOCTでIS/OSラインが不連続であったことから,低眼圧黄斑症では網膜外層が障害され視力が低下している可能性が示唆された.Wereportacaseoftraumatichypotonymaculopathythatwasevaluatedusingtwokindsofopticalcoherencetomography(OCT):Time-DomainOCT(TD-OCT)andSpectral-DomainOCT(SD-OCT).Therighteyeofa49-year-oldfemalewashitbyaccident,thevisualacuityoftheeyesubsequentlydecreasing.Visualacuityatrstpresentationwas(0.2);intraocularpressure(IOP)was6mmHgintherighteye,withnarrowanteriorchamberangleandcataract.Therewasopticdiscswelling,vesseltortuosityandstellatefoldingoftheretinaaroundthefovea,compatiblewithhypotonymaculopathy.TD-OCTdisclosedirregularsurfaceofretinaandchoroid,andinnerandoutersegmentjunction(IS/OS)wasfoundtobeobscureatthefovea.IOPtemporarilyreturnedtothenormalrangeandIS/OSreappearedclearly,buthypotonyandvisualacuitydecreasehadrecurredintherighteye.IS/OSdetectedbybothTD-OCTandSD-OCTmightbethecauseofvisualacuitydecreaseinhypotonymaculopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):117120,2009〕Keywords:低眼圧黄斑症,光干渉断層計,視細胞内節外節境界部.hypotonymaculopathy,Time-Domainopticalchoerencetomography(OCT),Spectral-DomainOCT,innerandoutersegmentjunction(IS/OS)line.———————————————————————-Page2118あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(118)I症例患者:49歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2006年7月に右眼を殴られ受傷し,同年10月に近医を受診した.右眼の浅前房,軽度の白内障の診断を受けたが,その後放置していた.2007年4月に視力低下を強く自覚し,同院を再診した.右眼視力が(0.2)で,外傷性白内障の診断で同年6月5日に鹿児島大学病院眼科を紹介受診した.初診時視力は右眼(0.3),左眼(1.2),眼圧は右眼8mmHg,左眼13mmHgであった.右眼は浅前房であり,水晶体の亜脱臼が考えられたため,手術が必要であったが,家庭の事情のため8月20日に当科に入院した.入院時所見:視力は右眼(0.4),眼圧は6mmHgと低下していた.眼底所見を示す(図1).視神経乳頭は浮腫状で,網膜血管の蛇行ならびに黄斑周囲の網膜に放射状の皺襞がみられたことから,外傷性白内障による低眼圧黄斑症と診断した.また,右眼は中心フリッカー値が2630Hzとやや低下していて,Goldmann視野検査では,Mariotte盲点が拡大し,中心感度が低下していた.TD-OCTでは(図2)網膜内層の構造はよく保たれていたが,網脈絡膜皺襞のために,全体が波打っていた.中心窩では,視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)とされる高反射帯が波打った部分では低反射となり追えなくなるのに対して,網膜色素上皮-Bruch膜とされる高反射帯は明瞭であった.経過:外傷性白内障に対して,8月28日に右眼水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術を施行した.術後1日目には,視力図2入院時TDOCT所見低眼圧による網脈絡膜皺襞のために,全体が波打っている.中心窩下では,視細胞内節外節境界部(IS/OSライン)とされる高反射帯が波打った部分では低反射となり追えなくなる(*)のに対して,網膜色素上皮-Bruch膜とされる高反射帯(↑)は明瞭である.図3白内障手術後SDOCTIS/OSラインはきれいに描出されている.図1入院時眼底所見視神経乳頭は浮腫状で,網脈絡膜皺襞に伴う網膜血管の蛇行ならびに黄斑周囲の網膜に放射状の皺襞がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009119(119)が矯正(0.9)まで改善し,眼圧も12mmHgに回復した.術後1日目のSD-OCT(図3)では,網膜皺襞の影響のためか,正常眼であればIS/OSライン,網膜色素上皮-Bruch膜,両者の間にみられるまだ同定されていない層の通常3層に描出される8)中心窩の高反射帯は,IS/OSラインはきれいに描出されるものの,残りの2層は判別できず,全体で2層となっていた.術後経過観察中に,徐々に眼圧,視力が再び低下してきた.超音波生体顕微鏡(UBM)で,全周の毛様体解離が確認されたため,2008年1月8日に前房内粘弾性物質注入,同年1月15日には硝子体手術を行い,ガスタンポナーデを施行した.術後の眼底写真(図4),TD-OCT(図5)ならびにSD-OCT(図6)を示す.初回手術後にはみられなかった網膜皺襞が中心窩に出現してきたために,いずれもOCTでは網膜内層にも高反射がみられる.TD-OCTでは,中心窩下で網膜色素上皮-Bruch膜ラインに比べIS/OSラインの描出が劣るのに比べ,SD-OCTでは,網膜外層の描出が改善されている.そのため,IS/OSラインが不連続であることが,より明瞭に描出されている.術後3カ月が経過し,視力,眼圧とも回復傾向ではあるが不十分である.しかし,患者本人が追加加療を希望しないため,経過を観察中である.II考察低眼圧によって視力が低下する理由として,眼圧の低下によって二次的に生じる黄斑症,角膜症,白内障の進行,脈絡膜滲出,視神経乳頭浮腫,不整乱視などがあげられてい図4硝子体手術後の眼底写真網脈絡膜皺襞があり,網膜血管の蛇行が目立つ.中心窩には網膜皺襞(↑)もみられる.図5硝子体手術後TDOCT上図:TD-OCTの黄斑の拡大像.網膜皺襞に一致する内層の高反射帯(*)がみられる.IS/OSラインは判別しづらい(↓).下図:TD-OCTの全体像.網脈絡膜皺襞がみられる.図6硝子体手術後SDOCT上図:SD-OCTの黄斑の拡大像.網膜皺襞のために,本来網膜内層が描出されないはずの中心窩であたかも描出されているようにみえる(*).IS/OSラインは破線状に描出されている(↓).下図:SD-OCTの全体像.網脈絡膜皺襞がみられる.———————————————————————-Page4120あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(120)る14).本症例では,中心フリッカー値の低下は軽度であり,視神経障害が視力低下の主因とは考えにくく,黄斑症が視力低下の主因と考えられた.低眼圧黄斑症については,SD-OCTを用いた評価を行った報告は,調べる限り存在しなかったが,TD-OCTを用いた報告では,網脈絡膜皺襞を描出しえたものや,網膜浮腫が改善されたというもので,網膜外層の異常がみられなかったとする報告と,網膜外層の所見については特に言及していない報告もある2,3).低眼圧黄斑症では,強膜壁の虚脱によって網脈絡膜に皺襞が生じ,この変化に続発する変化が黄斑部網膜に生じる.すなわち,視細胞のレセプターの蛇行による機能低下や血管透過性の亢進による胞様黄斑浮腫などである1,3).本症例では,明らかな黄斑浮腫をいずれのOCTでも捉えることができなかった.しかし,術後1日目のSD-OCTでは,中心窩の高反射帯は2層であったものの,IS/OSラインはきれいに描出されていて,視力の改善とも一致している.それに対して,再手術後視力が回復していない状態では,中心窩で網膜内層の皺襞による高反射がみられている.網膜のひずみによる変形が視力の低下をひき起こした可能性も考えられるものの,皺襞は中心窩から少し外れている.中心窩では,むしろIS/OSラインの不連続所見を比較的明瞭に捉えることができた.これは,視細胞の蛇行による障害の結果生じたと思われ,視力低下の原因の一つとして,網膜外層の異常が関与している可能性を示すものである.ただし,OCT所見でIS/OSラインが描出されなくなる理由について,Hoangら9)は,視細胞層が網膜色素上皮の接線方向から大きく偏位する病変では,光学的反射率の急峻な変化が後方反射の低下の原因である可能性があると報告している.板谷ら8)は,黄斑疾患でIS/OSの信号が低下する場合は,視細胞障害の有無にかかわらず光学的な理由によるものであり,視細胞障害そのものを必ずしも描出できるわけではないと述べている.すなわち,IS/OSラインが描出されないことは,必ずしも視細胞の器質的異常を意味しないことになる.ただし,層の同定は,あくまでも組織標本に対比させたものにすぎない10).すなわち,IS/OSラインとよばれる高反射帯は,内節,外節の接合部のみではなく,おそらくどちらかもしくは両方の一部を含んでいる可能性がある.したがって,今回のSD-OCTの所見は必ずしも障害の存在を特定できないが,網膜外層の異常が関与している可能性はある.以上から,網脈絡膜皺襞によってOCT像が修飾された可能性は否定できないものの,IS/OSラインの描出が低下していることから,本症例でみられた低眼圧黄斑症における視力低下の機序に網膜外層の異常が関与している可能性がある.今後,低眼圧黄斑症のSD-OCT所見が蓄積されていけば,その真偽が明らかになるであろう.文献1)CostaVP,ArcieriES:Hypotonymaculopathy.ActaOph-thalmolScand85:586-597,20072)BudensDL,SchwartzK,GeddeSJ:Occulthypotonymaculopathydiagnosedwithopticalcoherencetomogra-phy.ArchOphthalmol23:113-114,20053)KokameGT,deLeonMD,TanjiT:Serousretinaldetachmentandcystoidmacularedemainhypotonymac-ulopathy.AmJOphthalmol131:384-386,20014)FanninLA,SchimanMS,BudenzDL:Riskfactorsforhypotonymaculopathy.Ophthalmology110:1185-1191,20035)OyakhireJO,MoroiSE:Clinicalandanatomicalreversaloflong-termhypotonymaculopathy.AmJOphthalmol137:953-955,20046)TakayaT,SuzukiY,NakazawaM:Fourcasesofhypoto-nymaculopathycausedbytraumaticcyclodialysisandtreatedbyvitrectomy,cryotherapy,andgastamponade.GraefesArchClinExpOphthalmol244:855-858,20067)松永裕史,西村哲哉,松村美代:前房内粘弾性物質注入が有効であった硝子体手術後の低眼圧黄斑症の1例.臨眼55:1203-1206,20018)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエ光干渉断層計による中心窩病変描出力の検討.日眼会誌111:509-517,20079)HoangQV,LinsenmeierRA,ChungCKetal:Photore-ceptorinnersegmentsinmonkeyandhumanretina:Mitochondrialdensity,optics,andresionalvariation.VisNeurosci19:395-407,200210)ZawadzkiRJ,JonesSM,OlivierSSetal:Adaptive-opticsopticalcoherencetomographyforhigh-resolutionandhigh-speed3Dretinalinvivoimaging.OptExpress13:8532-8546,2005***