特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1591.1597,2014特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1591.1597,2014カラーコンタクトレンズの色素PigmentsUsedforCosmeticContactLenses松澤亜紀子*はじめにカラーコンタクトレンズ(カラーSCL)と透明なレンズ(クリアSCL)の一番大きな違いは,着色部分が存在することである.この着色部分には,瞳の色や大きさを変えるためにさまざまな金属や色素が使用されている.日本に流通しているカラーSCLの多くは,「色素がレンズ内にサンドウィッチされているため,直接色素が目に触れない」と謳われている.しかし,韓国に流通していたカラーSCLの一部では色素湧出や細胞毒性が認められたため,2012年韓国の食品医薬品安全庁は該当製品の販売中止と回収・廃棄の指示を出した1).わが国で多く流通しているカラーSCLは,絶対安全であると言い切れるのであろうか?本稿では,さまざまな方法でカラーSCLの色素について観察を行った結果をもとに,カラーSCLの安全性について検証を行った.I色素の存在部位1.着色パターンによる分類カラーSCLには,着色パターンとしてOpaquetypeとEnhancetypeの2種類がある.OpaquetypeのカラーSCLは,瞳の色を変えることを目的としているため比較的着色内径が小さい傾向にある(図1a).一方Enhancetypeは,瞳を大きく見せることを目的としているため着色内径も着色外径も大きい傾向にある(図1b).2.レンズ切片による色素の観察カラーSCLを薄く切ったレンズ切片を作製し,光学顕微鏡を用いて観察を行った.着色部分は,製造工程の問題であると推測されるが,レンズの眼瞼側または角膜側に偏在していた(図2a,b).そのなかでも,色素がレンズの眼瞼側に偏在しているものの,色素とレンズ表面との間に透明帯が存在し,色素がレンズ素材でサンドウィッチされた構造となっている製品(図3a),色素がレンズ角膜側の最表面に近い所に偏在し,レンズ表面もやや不整であるためサンドウィッチ構造となっているのか確認することが困難な製品が存在した(図3b).3.前眼部光干渉断層計(AS.OCT)による観察レンズ切片の作製は手技的にむずかしく,すべてのカラーSCLのレンズ切片を作製することはむずかしい.しかし,AS-OCTではカラーSCLを装用したまま非侵襲的に撮影を行うことができるため,カラーSCLを装用している人に気軽に撮影することが可能である.カラーSCLを装用したままAS-OCTの撮影を行った画像では,着色部分は高反射に描出され後方にシャドーが観察できる.レンズ切片同様に着色部位は眼瞼側と角膜側に偏在していることが確認できる(図4a,b).しかし,レンズ角膜側に色素が偏在したレンズでは,色素と角結膜の境界が不明瞭となることや,レンズ最表面に近い部分に色素が存在した場合には,解像度の問題からレンズ切片より色素の存在部位の判定はむずかしく,色素がサン*AkikoMatsuzawa:聖マリアンナ医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松澤亜紀子:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(25)15911592あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(26)であるため,含水性の素材からできているソフトコンタクトレンズを観察するためには乾燥または凍結処理を行わなくてはならず,通常の含水した状態のレンズを観察することは困難である2,3).そのため,不揮発性・不燃性・イオン導電性をもつイオン液体を用いてレンズの固定を行い,レンズの変形を最小限に抑えて電子顕微鏡での観察を行った.1.色素の露出電子顕微鏡を用いて色素が偏在する側のレンズ表面を1万倍に拡大した像とレンズ切断面を5,000倍に拡大した像の観察を行い,図5に示したとおり色素の露出を3ドウィッチ構造であるかの判断はむずかしい.II色素の露出とレンズの凹凸レンズ切片やAS-OCTを用いたカラーSCLの観察において,色素がレンズ表面近くに偏在している場合,色素がレンズ表面に露出しているかの判断は困難である.そこで,電子顕微鏡(SEM)を用いてレンズ表面への色素の露出度判定を試みた.しかし,電子顕微鏡内は真空ab図1着色パターンによる分類a:瞳の色を変えるOpaquetype,b:瞳の大きさを変えるEnhancetype.:色素部分ab図2レンズ切片による色素の観察:色素の偏在a:眼瞼側に色素が偏在しているレンズ,b:角膜側に色素が偏在しているレンズ.:色素部分:透明帯ab図3レンズ切片による色素の観察:色素の局在a:眼瞼側に色素が偏在しているが,色素がサンドイッチ構造となっている.b:角膜側のレンズ表面近くに色素が存在しレンズ表面は凹凸を認める.:色素部分(高反射):後方シャドーab図4AS.OCTによる色素の観察a:眼瞼側に色素が偏在しているレンズ,b:角膜側に色素が偏在しているレンズ.ab図1着色パターンによる分類a:瞳の色を変えるOpaquetype,b:瞳の大きさを変えるEnhancetype.:色素部分ab図2レンズ切片による色素の観察:色素の偏在a:眼瞼側に色素が偏在しているレンズ,b:角膜側に色素が偏在しているレンズ.:色素部分:透明帯ab図3レンズ切片による色素の観察:色素の局在a:眼瞼側に色素が偏在しているが,色素がサンドイッチ構造となっている.b:角膜側のレンズ表面近くに色素が存在しレンズ表面は凹凸を認める.:色素部分(高反射):後方シャドーab図4AS.OCTによる色素の観察a:眼瞼側に色素が偏在しているレンズ,b:角膜側に色素が偏在しているレンズ.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141593(27)a:表面平滑レンズ表面(500倍)b:表面平滑レンズ表面(10,000倍)c:軽度凹凸レンズ表面(500倍)e:表面凹凸レンズ表面(500倍)d:表面平滑レンズ表面(10,000倍)f:表面平滑レンズ表面(10,000倍)図6表面平滑度の分類表面切断面表面切断面表面切断面a:露出なしレンズ表面(10,000倍)b:露出なしレンズ切断面(5,000倍)c:色素露出±レンズ表面(10,000倍)e:色素露出レンズ表面(10,000倍)d:色素露出±レンズ切断面(5,000倍)f:色素露出レンズ切断面(5,000倍):色素部分図5色素露出度の分類a:表面平滑レンズ表面(500倍)b:表面平滑レンズ表面(10,000倍)c:軽度凹凸レンズ表面(500倍)e:表面凹凸レンズ表面(500倍)d:表面平滑レンズ表面(10,000倍)f:表面平滑レンズ表面(10,000倍)図6表面平滑度の分類表面切断面表面切断面表面切断面a:露出なしレンズ表面(10,000倍)b:露出なしレンズ切断面(5,000倍)c:色素露出±レンズ表面(10,000倍)e:色素露出レンズ表面(10,000倍)d:色素露出±レンズ切断面(5,000倍)f:色素露出レンズ切断面(5,000倍):色素部分図5色素露出度の分類1594あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(28)の上に直接色素がプリントされていると推測される.そのため,レンズ素材に色素が十分に内包されにくく,レンズ表面に色素が露出しやすくなっている可能性がある.2.レンズ表面の凹凸電子顕微鏡を用いてレンズ表面の凹凸を500倍,1万倍に拡大した像の観察を行い,図6に示したとおり表面の凹凸を3段階に分類した.1つ目は,500倍の拡大でも1万倍の拡大でもレンズ表面に凹凸がない「表面平滑」である(図6a,b).2つ目は,500倍の拡大ではレンズ表面に凹凸を確認できないが,1万倍の拡大ではレンズ表面に凹凸が確認できる「軽度凹凸」である(図6c,d).3つ目は500倍の拡大でも1万倍の拡大でもレンズ表面に凹凸が確認できる「表面凹凸」である(図6e,f).表1に現在国内で市販されている22製品のカラーSCLに対して,電子顕微鏡を用いた色素露出と表面凹凸に関する結果を示す.色素がサンドウィッチ構造となっており「露出なし」の製品は9製品,「色素露出±」が8製品,「色素露出」が5製品に認められた.また,表面平滑度では,「表面平滑」は2製品しかなく,「軽度凹凸」は6製品,「表面凹凸」が14製品に認められた.コンタクトレンズの形状,外観に対する承認基準では「対象を10倍率以上に拡大して観察できる装置を用いて観察するとき,表面に角膜などに対して有害な傷または凹凸があってはならない」と記されている.どの程度の色素露出や凹凸が角結膜などに有害であるのかは議論の余地はあるが,実際にカラーSCLを装用し色素部分に一致した角膜上皮障害を呈する症例を経験することもパターンに分類した.1パターン目は,色素がレンズ表面に観察できず,切断面の観察において色素の存在部位とレンズ表面の間に透明帯が存在し,色素がサンドウィッチ構造となっている「露出なし」パターンである(図5a,b).2パターン目は,レンズ表面に色素と思われる軽度の凹凸が確認でき(図5c),切断面の観察においてレンズ表面と色素部分にはっきりした境界が認められない(図5d)「色素の露出±」である.このパターンの着色方法は,色素をレンズと同じ素材で混ぜ合わせ,それを透明なレンズ上に展着させているのではないかと推測される.そのため,完全に色素がレンズ素材に内包されていない場合には,レンズ表面に色素が露出してしまう可能性がある.3パターン目は,レンズ表面においても切断面においても色素と色素のない透明部分の境界がはっきりとした色素層が確認できる(図5e,f)「色素露出」である.このパターンの着色方法は,レンズ素材表1色素露出度と表面平滑度着色が角膜側(13製品)着色が眼瞼側(9製品)表面平滑度分類表面平滑度分類平滑軽度凹凸表面凹凸平滑軽度凹凸表面凹凸色素露出度分類サンドウィッチ─3製品4製品2製品──色素露出±─2製品──1製品5製品色素露出──4製品──1製品図7カラーSCL装用に伴う角膜上皮障害色素部分に一致した輪状の角膜上皮障害を認める.表1色素露出度と表面平滑度着色が角膜側(13製品)着色が眼瞼側(9製品)表面平滑度分類表面平滑度分類平滑軽度凹凸表面凹凸平滑軽度凹凸表面凹凸色素露出度分類サンドウィッチ─3製品4製品2製品──色素露出±─2製品──1製品5製品色素露出──4製品──1製品図7カラーSCL装用に伴う角膜上皮障害色素部分に一致した輪状の角膜上皮障害を認める.a:顕微鏡像c:チタン成分(青)d:塩素成分(黄緑)1mm1mm1mmb:光学顕微鏡像e:酸素成分(緑)f:鉄成分(茶)1mm1mm図8EDSによる成分分析レンズのdot部分に一致してチタン,塩素,酸素,鉄の成分が検出された.a:こすり洗い前b:こすり洗い(10回)後図9ケアによる色素の色落ち黄色dot部分の色が消褪している.(平成26年5月22日独立行政法人国民生活センターの発表より)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141597(31)sen.go.jp/pdf/n-20140522_1.pdf平成26年5月6)入江亮介,石田雅彦,大谷津崇ほか:MRI検査におけるカラーコンタクトレンズの研究─画像評価と温度変化について─.日本放射線技術学会東京部会雑誌107:73-78,20087)平岡孝浩:カラーCLが視機能に与える影響.日コレ誌56:57-60,2014